2020年1月27日月曜日

フラッグシップ大学(2)


文部科学省の中央教育審議会のワーキンググループが,「Society5.0時代に対応した教員養成を先導する教員養成フラッグシップ大学の在り方について(最終報告)」を公表した。

教育再生実行会議は,安倍内閣の閣議決定による私的諮問機関であり,このような装置を用いて教育政策が恣意的に進められてきた。その第十一次提言が「技術の進展に応じた教育の革新、新時代に対応した高等学校改革について(第十一次提言)(令和元年5月17日)」である(参考資料)。

これを受けて,中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会教員養成のフラッグシップ大学検討ワーキンググループが最終報告をまとめた。その概要は,冒頭で次のように紹介されている。
☆Society5.0時代に対応した,教員養成を先導するフラッグシップ大学(例えば教員養成の指定大学制度等)を創設する。
☆ STEAM教育や,児童生徒がICTを道具として活用することを前提とした問題発見・解決的な学習活動等についての高い指導力を 有する教員の育成を促進する。
つまり,フラッグシップ大学が具体的に何をすることが求められているのかというと,「Society5.0時代にふさわしい教員養成カリキュラムの研究開発(教科横断的なSTEAM教育・プログラミング 教育,AIやビッグデータ等に対応した特別の授業内容、指導方法等)」であり,普通だと概算要求プロジェクトとして公募をかけるような案件だ。

それが,新しいカテゴリーの大学をつくる(期限付きのようだが)ような話に持ち込んでいるのは,これをテコとして教員養成系大学の再編統合やコントロールにさらに手を突っ込みたいという文部科学省の意志の表現だと思う。もっとも,これまでもずっとそのための誘導政策は進めてきているが,肝腎のところで文科省の根性が足りないため,10年以上もずるずるとひっぱってきたわけだ。

あいかわらずのナンダカナー案件だが,いちおう行方は気になっている。


2020年1月26日日曜日

徳勝龍

奈良県奈良市出身の大相撲力士,西前頭17枚目の徳勝龍が令和2年の1月場所で優勝した。20年ぶりの幕尻優勝,98年ぶりの奈良県出身力士の優勝で話題になった。ちなみに東前頭筆頭の遠藤9勝6敗で殊勲賞,西前頭5枚目の炎鵬は8勝7敗で残念ながら技能賞を逃した。西前頭11枚目の輝は10勝5敗でらくらくと炎鵬に勝っていた。千秋楽のテレビにはしがみついて見ていたけれど,正大と御嶽海からはじまって,貴景勝と徳勝龍の対戦,優勝インタビューまで目を離せなかったし,久々の感動ものだった。

自分がテレビで観戦するスポーツで最も時間の多いのは大相撲だ。夫婦でよくみる。石川県からは相撲に強い力士が多く輩出されるからだ。富山県は前乃山くらいだけど。高校野球やプロ野球でもときどき松井秀喜のような選手が出てくるので目を離せない。スポーツは自分の中ではローカル・パトリオティズムと直結しているのであった。だからオリンピックはいやなのである。

奈良県出身の力士というのは誰かと思ってしらべると,鶴ヶ濱という名前がでてきたが,3名のうちで優勝したのは,1922年の東前頭4枚目鶴ヶ濱増太郎のようだった。相撲の起源は古代の奈良にあるのだけれど,相撲発祥の地として桜井市の相撲神社と葛城市(當麻町)のけはや座が争っている。これを機会にキャンペーンを繰り広げると良いかもしれません。

NHKの夕方の番組,ニュースホット関西や奈良ナビのスポーツコーナあたりで奈良県出身力士の勝敗情報が流れている。徳勝龍は十両あたりでいまひとつの成績だけど,とりあえずしょっちゅう目にしていたのだが,こんな日を迎えることになるとは,世の中何が起こるか分からない。



2020年1月25日土曜日

電子イオンコライダー(2)


そもそも,電子イオンコライダーの物理とは何だろうと思っていくつか資料を調べてみた。標語は結局こういうことだった。"The Next QCD Frontier − Understanding the glue that binds us all" なわけで,まあ,自分があまりよく分かっていないので,あまりおもしろいと感じてこなかった深部非弾性散乱だ。後藤さんによると,(1) パートン分布関数測定の精密化,(2)  核子・原子核のトモグラフィー,(3) グルーオン飽和,(4) 原子核内部でのハドロン化,なのでなんだかわくわくしない。

[1]The Electron-Ion Collider (BNL)
[2]The Electron-Ion Collider(JLab)
[3]A Large Hadron electron Collider at CERN(CERN)
[4]Electron‐Ion Collider (EIC) 計画と その物理(後藤雄二)
[5]An Assessment of U.S.-Based Electron-Ion Collider Science(2018)
[6]Electron Ion Collider: The Next QCD Frontier - Understanding the glue that binds us all (2014)
[7]eRHIC Design Study: An Electron-Ion Collider at BNL(2014)
[8]A Large Hadron Electron Collider at CERN: Report on the Physics and Design Concepts for Machine and Detector(2012)
[9]Electron Ion Collider User Group

2020年1月24日金曜日

湯川秀樹(2)

湯川さんといえば,大学院時代のゼミや博士論文審査会などは,理学部南の原子核実験施設の2F(1Fの高さにある)の入口を入ってすぐ右の雑誌室の隣にある湯川記念室で行っていた。この部屋の黒板の上には湯川さんの写真(下記参照)がかかっていた。大阪大学総合学術博物館湯川記念室のサイトのフォトギャラリーのA1ですね。あ,これは阪大提供の写真なので京大基研のようなうるさい条件はなくて,クレジットだけで使えるのか。湯川記念室はその後,阪大附属図書館に新たに部屋を設けられ,秘書(重永さん)もつくことになり,現在に至っている。

湯川さんを見たことが1度だけある。理学部物理の4回生のときに,毎回ゲストをよんで1時間くらいその専門分野の話を聞く授業があった。理学部5階のD501という階段教室で行われるが,誰でも参加して話を聞くことができるため,ノーベル賞2回受賞者のジェームス・バーディーン(1908-1901)のときなどは満席だった。湯川さんのときもそうだった。ただ,自分が湯川さんの話を聞いたのが,4回生のときだったのか大学院生のときだったのははっきり憶えていない。湯川さんはすでに京都大学を定年退職していて,病み上がりだったのかなんだかで,長いあごひげをはやしていた。で,なんの話をしたのかはまったく記憶にない。たぶん,あまりおもしろくなかったのです。

自分の所属していた森田研究室は,伏見研を引き継いだ内山研から派生しているので,湯川さんの流れを引いていることになる。また,研究内容も原子核における弱い相互作用と中間エネルギー物理であり,中間子交換流の話などまさにテーマのつながっているわけだった。したがって,いつも湯川ポテンシャルと戯れている人もいるのだった。

写真提供:大阪大学湯川記念室




2020年1月23日木曜日

湯川秀樹(1)

阪大の橋本幸士さんがツイートしていた。
「今日は湯川さんの誕生日とのこと。113年前の今日、湯川秀樹は生まれた。1世紀前の物理に想いを馳せるのに良い日である」
ということで,1月23日は湯川秀樹の誕生日である。

橋本さんが阪大の総合学術博物館の湯川記念室へのリンクを張っていた。なかなか良い仕上がりのページになっている。湯川秀樹の論文や資料,写真などが紹介されている。阪大の湯川記念室で所蔵しているものに加えて,小沼先生らが京大の基礎物理学研究所を基点に資料収集整理されたものの一部が阪大で公開されているようだ。論文や資料などはダウンロードすることもできるが,メールアドレスを登録してパスワードを請求する必要がある。早速試してみたが,登録の目的をきかれるのがちょっと面倒である。また,京大基礎物理学研究所のクレジットが入ったものを使う場合は,事前の許諾が必要である。

この他にも,北沢さん,橋本さんや細谷さんの話とか,湯川さんが内山さんに出したはがきの筆跡鑑定から読み解く人物像などの記事もあってとてもおもしろいのだ。

[1]阪大理学部の創設と湯川秀樹(斉藤吉彦)
[2]理学部を語る(大阪大学理学友倶楽部)


2020年1月22日水曜日

電子イオンコライダー(1)

アメリカ合衆国のエネルギー省(DOE)が,次期加速器計画である電子イオンコライダー(EIC)の建設候補地を,ブルックヘブン国立研究所(BNL)に決定し,今後10年間に2000億円程度かけて建設する模様である。この計画は,80%偏極した5-18 GeVの電子と70%偏極した275GeVの陽子または100 GeV/uのイオンのコライダーである。

そうか,アメリカ合衆国の加速器施設を持った国立研究所はすべて,DOEの管轄だったのか。そういえば,2013-2017年のオバマ時代のDOE長官がMITで電子散乱の研究をしていたアーネスト・モニツ(1944-)だった。物理学者がDOE長官なのかと思ったけれど,DOEの歴史をみればむしろ自然だったのかもしれない。

ブルックヘブンのeRHIC計画は,対抗馬だったトマス・ジェファーソン国立加速器施設(JLAB)のJLEICを退けて,新施設の建設を勝ち取った。電子散乱といえば,CEBAFが有名だったのだが,これがJLABとして引き継がれていた。こちらのほうは,75-80 %偏極した3-12 GeVの電子(CEBAFを使う)と80%偏極した40-100 GeVの陽子または16-40 GeV/uのイオンのコライダーである。

一方,欧州原子核機構(CERN)のほうも負けていない。Large Hadron electron Collider (LHeC)を考えていた。こちらは60 GeV電子と7 TeV陽子または2.7 TeV鉛イオンのコライダーであり,将来的には10 TeV陽子とのコライダーになることも想定されている。


2020年1月21日火曜日

AI美空ひばり

NHKがお金をかけて,美空ひばりをAIで蘇らせる企画番組を製作し,2019年の9月に「NHKスペシャル AIでよみがえる美空ひばり」として放映された。その時点では見逃していたが,年末の紅白で使うためのプロモーションとして再放送されたほうを見た。いやー,映像のほうは全然ダメだったが,歌声についてはなかなか感動した。秋元康はそのビジネスモデルも含めてまったく好きじゃないのだけれど,1989年の「川の流れのように」はそこそこ良かったで,2019年の「あれから」も同程度によいと思った。さっそくiTunes Storeでダウンロードする始末だ。

ところが,ネット上では,有識者による批判の声が後を絶たない。うーん,なんでそこまで否定するのかしら。その場合,2018年の映画「ボヘミアン・ラプソディ」はどうするというのだろうか。これまでも多くの伝記映画がつくられており,あるいは故人についての様々な歴史を掘り起こして再現する物語が書かれていると思うのだが,その辺はどうでしょうか。

もちろん,機械学習とその周辺技術の進化によって,実在の人物とまごうかたなき存在を表現することが可能になりつつあるので,それについての倫理的な問題群はてんこ盛りでやってくるのだろう。あるいはそれを敏感に察知したカナリアたちが根源的で感情的な反発を様々な理論で武装して表現しているのかもしれない。それにしても「美空ひばりを冒涜するな」だとかそのエクストリームで「ファンを冒涜するな」とまでいいだすのにはちょっと首を捻らざるを得ない。

大学に入ったころは,美空ひばりを一番嫌いな歌手として得意げにあげていた。たぶん,演歌の持つ土着で非合理で自民党のような雰囲気を代表するものとしての「美空ひばり的な何か」に対する反発だったのではないか。その後,マンドリンクラブのK君による都はるみの涙の連絡船に感動するという話や,キダ・タローさんによる美空ひばりの絶賛やら,後年の岡林信康との逸話などによって,自分の美空ひばりに対する考え方はまったく変わってしまい,リスペクトするようになっていた。

2020年1月20日月曜日

1987,ある闘いの真実

韓国の全斗煥(チャン・ドゥファン)政権末期,1987年の6月10日デモから6.29宣言が出るまでの,大統領の直接選挙制改憲要求を中心とした運動が六月民主化抗争である。これによって第六共和制憲法が成立し,大統領の直接選挙が実現して1988年2月には盧泰愚(ノ・テウ)が大統領になる。

この背景には,1月15日のソウル大学校学生の朴鍾哲(パク・ジョンチョル)が警察による拷問で死亡した事件とそれに係わる隠蔽工作の発覚,4月13日の「今年度中の憲法改正論議の中止」と「現行憲法に基づく次期大統領の選出と政権移譲」を主旨とする「4・13護憲措置」の発表,5月27日の野党も含む広範な反政府勢力を結集した「民主憲法争取国民運動本部」の結成,6月9日の延世大学校学生の李韓烈(イ・ハニョル)が警察の催涙弾直撃を受けて重体(7月5日に死亡),などの事件が起こっている。

これらの一連の事件を史実に基づいて構成し,2017年に公開された映画が張俊煥(チャン・ジュナン)監督「1987,ある闘いの真実」である。30年前の出来事であるが,韓国の民主化運動の熱気が伝わってくる。それは北朝鮮との緊張関係を背景とした反共政策の苛烈さと対応している。そして,それが韓国ジャーナリズムと現在の日本のジャーナリズムの違いを際立たせてもいる。通常国会が始まったが,NHKの岩田の解説に反吐が出そうになる。映画はとてもうまく作られていておもしろかった。日本アカデミー賞を6部門も受賞した「新聞記者」と比べると良いかもしれないが,軍配はチャン・ジュナンにあげたい。

ある意味,日本はぬるま湯であり,かつ茹でガエルであり,そのなかで肥大化した社会の慣性が世襲化の進行=既得権益の確保を温存している。これに対抗するグローバリズムに支えられた新自由主義は右翼的セクターを巻き込んで,基本的人権や民主的な組織を破壊し続けている(既得権益を持つ勢力と直交しているわけではない)。

2020年1月19日日曜日

科学者の墓

京都の八坂神社円山公園の南に,親鸞聖人の墓所(東本願寺)がある大谷祖廟とそれに隣接する東大谷墓地が続いている。朝永振一郎の墓もその一角にある。湯川秀樹の墓は知恩院の裏山らしい仁科芳雄の墓は東京都府中市の多摩霊園だが,その横にも朝永振一郎の墓碑があるようだ。

[1]科学者の墓(世界恩人巡礼大写真館)
[2]物理学者の墓を訪ねる(山口栄一)
[3]科学者の魂を探して(日経xTECH)
   自由な研究風土が開いた物理学大国への道
   日本の物理学と技術イノベーションのルーツ
[4]ウエストミンスター寺院(ロンドン)
[5]パンテオン(パリ)
[6]ヴァルハラ神殿
[7]ガリレオの墓(全優石)
[8]ドイツの切手に現れた技術者科学者たち(関東化学)
   (2)グーテンベルグ
   (3)コペルニクス
   (5)ケプラー
   (6)ゲーリケ
   (8)ライプニッツ
   (9)オイラー
  (10)カント
  (14)ガウス
  (21)フラウンホーへル
  (22)キルヒホッフ
  (24)ヘルムホルツ
  (25)レントゲン
  (26)ツァイス・アッベ・ショット
  (29)ハーン
  (31)プランク
  (34)アインシュタイン



(写真:東大谷墓地にて 2020.1.18撮影)

2020年1月18日土曜日

芳泉湯

小学校4年生から5年生にかけて,寺町の自宅を新築することになった。その数ヶ月の間笠舞の借家に一家で退避したのだが,使えるのは二階だけで部屋が狭い。そこで,自分だけは自宅のすぐそばにあるおばあちゃんの家に疎開することになった。応接間を勉強部屋として与えられ,寝るのは仏壇の前でおばあちゃんと一緒だった。土曜日曜には借家の父母のもとに通った。

寺町から長良坂を下って川沿いに上がり,上菊橋を渡ってそのまま進むと猿丸神社にぶつかる。ここを右に迂回して,やや登り勾配の道をさらに行くと右手に古い家があった。当時子どもは10円だった北鉄バスに乗ったこともあるが,寺町から歩いても20-30分で着く。

先ほどの道をさらに進むと左に大きく曲がって小立野台地を登る坂道になり,次の右に曲がる角の左手に銭湯があった。芳泉湯という名前で坂上からの眺望もよく,ゆったりした湯船の明るい風呂だった。父に連れられ,妹といっしょに何度か通った記憶がある。銭湯の前の道をさらに進むと金沢大学医学部附属病院前の石引の交差点に達する。

NHKの日曜美術館皆川明ミナ・ペルホネンが紹介されていて,店がどこにあるのかと調べていたら,金沢の石引2丁目にある大正時代の町屋を利用した渋い店が見つかった。グーグルマップで確認すると,先ほどの芳泉湯からすぐのところにある。だが,芳泉湯はもうなかった。かろうじて,痕跡の物置が確認できる程度だ。近くには石引温泉亀の湯という銭湯が新しい道沿いにできていた。

2020年1月17日金曜日

三角関数と双曲線関数

mathtodonで@Sun_Pillar@mathtod.online(サンピラー)さんが出していた問題をちょっと改変するとこんな感じだった。

$f(x) = \sin x + \csc x + \cos x + \sec x + \tan x + \cot x$ と
$fh(x) = \sinh x + \csch x + \cosh x + \sech x + \tanh x + \coth x$の
極小値は一致することを示せ。ただし,$ 0 < x < \pi/2$とする。

えー,ホントかなと思ったが,数値計算してみると確かにそうだ。その極小値は一瞬 $2\pi = 6.28319$ に見えたが,落ち着いて考えると,ともに,$2+3\sqrt{2}=6.24264$となった(ただし,これを与える$x$の値は,$f(x)$と$fh(x)$では異なる)。

さらに,$f(x)$ では $y = \tan x$とおき,$fh(x)$ では $y=\sinh x$とおくと,

$f(x(y))= \dfrac{y}{\sqrt{1+y^2}} +  \dfrac{\sqrt{1+y^2}}{y} +   \dfrac{1}{\sqrt{1+y^2}} +  \sqrt{1+y^2} + y + \dfrac{1}{y}$

$fh(x(y))= y + \dfrac{1}{y} +   \sqrt{1+y^2} + \dfrac{1}{\sqrt{1+y^2}} +  \dfrac{y}{\sqrt{1+y^2}} +  \dfrac{\sqrt{1+y^2}}{y} $

となって,両者は一致する。さらにこの関数を$y$で微分して因数分解したものが以下の$h(y)$であり,$h(y)=0$となる$y=1$が極小値を与える。

$h(y) = \dfrac{y-1}{y^2(1+y^2)^{3/2}} \Bigl\{(1+y+y^2+y^3)\bigl(\,1+\sqrt{1+y^2}\,\bigr)+y^4 \Bigr\}$

つまり,関数の極小値を与える条件とその値は,$f(x)$では,

$\tan x = 1 \quad \therefore x = \pi /4 = 0.785398,\quad  f(x) = 2 + 3 \sqrt{2} $

であり,$fh(x)$では,

$\sinh x = 1 \quad \therefore x = \log(\sqrt{2} + 1) = 0.881374, \quad fh(x) = 2+3 \sqrt{2}$

となる。というわけで与えられた三角関数と双曲線関数の極小値は一致した。

三角関数と双曲線関数の間には次の対応があるというのが鍵だった。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\sinh x  & \longleftrightarrow \tan x \\
\dfrac{1}{\cosh x} & \longleftrightarrow \cos x \\
\tanh x & \longleftrightarrow \sin x
\end{aligned}
\end{equation}
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
In[1]:= f[x_] := Sin[x] + Cos[x] + Tan[x] + Csc[x] + Sec[x] + Cot[x]
In[2]:= g[x_] = D[f[x], x]
Out[2]= Cos[x] - Cot[x] Csc[x] - Csc[x]^2 + Sec[x]^2 - Sin[x] + 
 Sec[x] Tan[x]

In[3]:= Factor[c - c/s^3 - 1/s^2 + 1/c^2 - s + s/c^3]
Out[3]= ((c - s) (-c^3 - 2 c^2 s - 2 c s^2 - s^3 + c^3 s^3))/(c^3 s^3)

In[4]:= a = x /. Solve[Cos[x] == Sin[x] && x > 0 && x < 1, x, Reals][[1]]
Out[4]= -2 ArcTan[1 - Sqrt[2]]
In[5]:= fa = f[a] // FullSimplify
Out[5]= 2 + 3 Sqrt[2]

In[6]:= fh[x_] := 
 Sinh[x] + Cosh[x] + Tanh[x] + Csch[x] + Sech[x] + Coth[x]
In[7]:= gh[x_] = D[fh[x], x]
Out[7]= Cosh[x] - Coth[x] Csch[x] - Csch[x]^2 + Sech[x]^2 + Sinh[x] - Sech[x] Tanh[x]

In[8]:= cc = Sqrt[1 + ss^2]
Out[8]= Sqrt[1 + ss^2]
In[9]:= Factor[cc - cc/ss^2 - 1/ss^2 + 1/cc^2 + ss - ss/cc^2]
Out[9]= (1/(ss^2 (1 + ss^2)))(-1 + ss) (1 + ss + ss^2 + ss^3 + ss^4 + Sqrt[1 + ss^2] + ss Sqrt[1 + ss^2] + ss^2 Sqrt[1 + ss^2] + ss^3 Sqrt[1 + ss^2])

In[10]:= b = x /. Solve[Sinh[x] == 1 && 0 < x && x < 1, x, Reals][[1]]
Out[10]= ArcSinh[1]
In[11]:= fb = fh[b] // Simplify
Out[11]= 2 + 3 Sqrt[2]

In[12]:= N[{a, b, f[a], fh[b]}]
Out[12]= {0.785398, 0.881374, 6.24264, 6.24264}
In[13]:= Plot[{f[x], g[x], fh[x], gh[x]}, {x, 0, Pi/2}]
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
図 三角関数f(x) 双曲線関数fh(x)とそれらの微分 g(x) gh(x) のグラフ








2020年1月16日木曜日

コンビーフ

大学時代の実家からの仕送りにコンビーフが入っていることがあった。大学に入るまではあまり食べたことがなくて(野菜炒めに入っていたのかな)要領がよくわからなかったが,枕型の缶をねじ切って,フォークで生のままたべると,非常食としてあるいはビールのつまみとしてたいへん美味であることがわかった。たまに送られてきた食品の中に発見するとたいへん貴重でありがたいものである。

そのコンビーフの缶が廃止されるらしい。コンビーフの野崎産業は,合併後に川商フーズになっていて,その歴史がここにある。特殊な缶の製造設備なので更新するのが難しかったらしい。最近ほとんど食べていないけど,あの缶を空けるのはいやじゃなかった(むしろ楽しいよ)というのは家人の説である。


写真:最近入手したノザキのコンビーフ(2020.1.17撮影 追加)


2020年1月15日水曜日

基礎自治体 教育ICT指数サーチ

岐阜聖徳学園大学芳賀高洋さんが河合琢也さんのデータをもとにして,基礎自治体 教育ICT指数サーチというサイトを作った。久しぶりの大ヒットになりそうだ。芳賀さんらしいきめ細かい作り込みがうれしいし,実用的な価値も高い。さっそく奈良県教育研究所奈良県域GIGAスクール構想の実現のページからリンクされている。

学校での大量のコンピュータ管理は負荷が高すぎるので,一人一台の方向性はよいとしても,なんとか個人所有の端末へスライドさせながら軟着陸する方法を考えるのがよいと思う。発展途上国化しつつある日本ではなかなかそううまくはいかないのだろう。電子教科書談義が燃えていた10年前ならば,民主党政権のこども手当て利用案だとどうかとか夢想していたのだけれど。

P. S. 芳賀さんといえば,先日,NHKに千葉大学の三宅健次先生が映っていた。また,大学評価・学位授与機構の土屋俊先生は放送大学の記号論理学の最終回の4名対談にて例の調子で暴れており,思わず爆笑してしまった。

P. P. S. その記号論理学の授業の最終回では,対話的タブローチェッカーのタブ朗が宣伝されていた。

2020年1月14日火曜日

宇宙の加速膨張

韓国の延世大学校のチームによる宇宙の加速膨張についての見直しを迫る論文が出てちょっと話題になっている

ハッブル=ルメートルの法則によると,観測者から遠方の天体までの距離$D$と,観測者から見た宇宙の膨張によるその天体の後退速度$v$は比例する。この比例定数がハッブル定数$H_0$である。その後退速度が時間とともに増加しているというのが,宇宙の加速膨張である。

加速膨張は1998年に2つのチームによって発見された。いずれも,Ⅰa型超新星が固有の明るさを持つことを利用して,観測者からこれらの超新星まで距離を求めて赤方偏移による後退速度との関係を詳しく調べることで得られた結論である。これにより,パールマッターシュミットリースが2011年度のノーベル物理学賞を受賞した。

Ⅰa型超新星は,質量が太陽質量の1.38倍をチャンドラセカール限界とする白色矮星の超新星爆発によるものである。主に連星系の一方に連続的に物質が供給される過程でチャンドラセカール限界を越えて炭素燃焼過程により超新星爆発が起こる。この場合の超新星の質量がほぼ均一であるため,ピークの明るさが一定となるので標準光源として用いることができる。

延世大学校チームの論文は,このⅠa型超新星の明るさが一定であるという仮定が正しいかどうかを調べることで,従来の結果についての再検討を促したものである。Ⅰa型超新星の標準化された明るさは,星の種族,質量および局所星形成率と相関している可能性を示唆している。

しかし,これ以外のバリオン音響振動宇宙マイクロ波背景放射なども,宇宙の加速膨張から得られるダークエネルギーについての結論を支持しているので,まだ議論は続くようだ。


2020年1月13日月曜日

ab+bc+cd=n

Mathtodonに@antimonさんがこんな問題を出していた。

【問題1】S(n) を「 ab+bc+cd=n (a,b,c,d≥1) の整数解の個数」とする(例: S(5)=5 )。 S(k)=S(k+1) となる最小の整数 k(≥3)を求めよ。

【問題2】kを 問題1 の解とする時、S(S(S(S(S(k))))) を求めよ。

で,@栄造さんにならって,juliaで解いてみた。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
function s(n)
  m=0
  for b in 1:ceil(Int,(n-1)/2)
    for c in 1:ceil(Int,min((n-1)/2,n/b))
      for a in 1:ceil(Int,(n-c)/b-c)
        for d in 1 :ceil(Int,(n-a*b)/c-b)
          if n == a*b + b*c + c*d
#           println(a," ",b," ",c," ",d)
            m = m+1
          end
        end
      end
    end
  end
  return m
end

for k in 3:20
  println(k,":",s(k))
end

@time println(s(14))
@time println(s(s(14)))
@time println(s(s(s(14))))
@time println(s(s(s(s(14)))))
@time println(s(s(s(s(s(14))))))
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3:1
4:2
5:5
6:6
7:11
8:13
9:17
10:22
11:27
12:29
13:37
14:44
15:44
16:55
17:59
18:68
19:71
20:81
44
  0.000135 seconds (38 allocations: 1.047 KiB)
319
  0.000084 seconds (36 allocations: 1.156 KiB)
4256
  0.001191 seconds (37 allocations: 880 bytes)
178474
  0.270975 seconds (187 allocations: 11.359 KiB)
13153386
788.437834 seconds (186 allocations: 10.188 KiB)

juliaをたまに使うと,割り算の整数化やかけ算記号が省略できないことなどでつまずく。工夫のないプログラムなので時間はやたらにかかってしまう。

2020年1月12日日曜日

パラサイト

1月10日の日本経済新聞の夕刊のシネマ万華鏡で「パラサイト 半地下の家族」が★5つで紹介されていた。これは「グエムル−漢江の怪物−」のポン・ジュノ監督による2019年の作品で第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画として初めてパルムドールを受賞したものだ。

早速,夫婦で見に行きました。前年のパルムドールは,是枝裕和監督の「万引き家族」だったが,これも映画館で見て面白かった。最初はこれに似た雰囲気なのかと思っていたら,そうではなかった。いずれも東アジアの貧困を焦点化した面と家族の深い関係を示唆している部分があるのだけれども,ポン・ジュノはさらにそれを進める。

コメディタッチで前半が進むが,やがてカオスが到来する。半地下の家でWiFiの電波を求めなければ生活が成り立たない様子,周到な計画で近代化された韓国を象徴するようなモダンな豪邸に入り込んでゆく過程,激しい雨の中を帰る家族を待っていた水害と避難所のシーン,高級住宅地の豪邸の庭でのパーティーを2階から俯瞰している場面など,必要最小限の説明で分かりやすい物語が進むと同時に,予想できない展開が待っている。

韓国の社会や文化については,それなりに学習してきているのと,同じ東アジア文化圏のメンタリティーがあることで,感情移入はしやすい。自分としてのこの映画のポイントをまとめると,「人生は計画通りに進まない」「差別はにおいから始まる」の2点ということにしておく。

P. S. 今朝のNHKの7時のニュースでは,パラサイトが紹介され,ポン・ジュノと是枝裕和の対談が放映されていた。


2020年1月11日土曜日

関空第2ターミナル

家族が長い正月休みを終えてピーチ・アヴィエーションで帰るというので関西国際空港まで送ってきた。ピーチの飛行機は第2ターミナルから出発するので,第1ターミナルからの連絡バスで,初めて第2ターミナルに足を踏み入れた。連絡バスの中から,ターミナルビルを探していたが見当たらない。どこにあるのと思っているとやがて1階建てのプレハブのような第2ターミナルに到着した。国内線側はがらんとしていた。国際線側も同じ造りだったが,乗降客はやや多くてにぎわっていた。店もほとんどない。

それにしてもみすぼらしい建物だという印象。家族はみな,こんなもんでしょう,配管もオープンなのが最近のデザインだし,メンテナンスも楽でよい。機能的には問題ないという肯定的な意見。でも,自分が外国から訪れた観光客だったら,発展途上国の空港についたという印象を持ちそうで・・・つらい。仁川国際空港北京大興国際空港もこんなことはないのではと思うがどうなんだろう。

日本が本当に貧しくなったという印象を持ってしまった令和2年の正月。これで,東京オリンピック2020と大阪万博2025に莫大な税金を投入というのか・・・orz。日本は政治的にも経済的にも発展途上国への道を確実に進んでいる。



写真:関西国際空港第2ターミナルの国際線(撮影 2020.1.10)

2020年1月10日金曜日

カニカマ

NHKの「所さん!大変ですよ」でカニカマ特集をやっていた。カニカマ製造機がうつるというので,カニカマを1972年に始めて開発した石川県七尾市のスギヨかなと思っていたら,山口県宇部市のカニ風味蒲鉾製造機で世界70%のシェアを持つヤナギヤが映った。ヤナギヤは,フィッシュスティック型のカニカマを最初に作った広島県広島市の大崎水産からカニカマの機械製造の許可をもらって,カニカマ製造機を開発したようだ。

いまではカニカマ=スリミ(surimi)の最大の消費国はフランス(ついでスペイン)で,最大の生産国はリトアニアだ

スギヨといえば,小学校5年生のときの修学旅行で,海水浴場で有名な柴垣の海岸から羽咋市の気多大社能登金剛(巌門)やまわって(このへんの記憶は曖昧),七尾にあるスギヨの工場を見学した。おみやげに出来立てのビタミンちくわをもらった。昼食は小丸山城趾公園で,おばあちゃんが作ってくれたタケノコご飯といっしょにちくわを食べた。これが生涯で一番おいしかった竹輪である。当時は実家の新築工事中だったので,実家から500mのところにある寺町のおばあちゃんのうちに疎開していたのだった。おばあちゃんはちくわがおみやげにならなくて残念そうだった。


写真:スギヨのビタミンちくわのページから引用

2020年1月9日木曜日

方舟さくら丸:安部公房

元旦の夜,テレビ番組をだらだらと見ていたら,NHKのEテレの「100分de名著」シリーズの特番「100分deナショナリズム」が飛び込んできた。ヤマザキマリ安部公房の「方舟さくら丸」の話をしていて,最初はこれが方舟さくら丸の話とは気付かずにいた。とてもおもしろい切り口でぐいぐいと引き込まれた。4人のゲストが稲垣吾郎の司会の元で,このテーマにも関らず冷静に議論できているのがとてもありがたかった(ふだんの司会の伊集院光もなかなかよい仕事をしていると思う)。

さっそく,自分の本棚を確認すると,新潮文庫の方舟さくら丸を持っていた。しかし,そのイメージは全く記憶に残っていなかった。「箱男」と「密会」も単行本で持っていたはずだが,こちらのストーリーも思い出せない。これにくらべると,「第四間氷期」,「けものたちは故郷をめざす」,「砂の女」,「他人の顔」,「燃えつきた地図」の方はくっきりとした印象が残っている。初期の短編も高校時代の自習時間に図書館でよく読んでいた記憶がある。SFから入門した安部公房だが,「砂の女」と「他人の顔」は大学時代に読んだ文芸作品のベストテンに入る。

番組の方はまとめると次のようなことだった。
大澤真幸 想像の共同体 国民国家・情報技術
島田雅彦 君主論 マキャベリズム・パトリオティズム
中島岳志 昭和維新試論 超国家主義・セカイ系
ヤマザキマリ 方舟さくら丸 棄民・選民
1月5日の再放送を録画して最初からみたが,おもしろかった。

2020年1月8日水曜日

デザインあ

1月5日の午後から滋賀県守山市の琵琶湖大橋東岸のそばにある佐川美術館に家族で訪れた。曇った冬空でときどき雨がぱらつく寒い日だったが,子どもも楽しめる「デザインあ」展は親子連れでたいへん盛況だった。その趣旨はつぎのとおり。
こどもたちのデザインマインドを育む番組 NHK Eテレ「デザインあ」。本展は「デザインあ」のコンセプトを、体験の場に発展させた展覧会です。身のまわりに意識を向け(みる)、どのような問題があるかを探り出し(考える)、よりよい状況をうみだす(つくる)という一連の思考力と感性を「デザインマインド」ととらえ、多彩な映像表現をもちいて伝えてきました。デザインあ展は、この「デザインマインド」を、見て、体験できる展覧会です。 

 写真:佐川美術館のエントランス(2020.1.5撮影)

2020年1月7日火曜日

修羅

修羅(1971)」は「薔薇の葬列(1969)」に続く松本俊夫(1932-2017)の監督・脚本の映画作品であり,大学時代に劇場でみた。彼の作品では桂枝雀(1939-1999)主演の「ドグラ・マグラ(1988)」もおもしろそうだったが,残念ながらこちらはまだみていない。

「修羅」の原作は,鶴屋南北(1755-1829)の「盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」であり,中村嘉葎雄(1938-)が薩摩源吾兵衛,三条泰子(1940-)が小万の役だった。その三条泰子がとてもきれいに思えたので,帰省したとき母にいうと,なんか怪しい映画に出ている人じゃないのと切り替えされた。今,調べてもほとんどそういうことはないのだけど。

その薩摩源吾兵衛は,「盟三五大切」の元になった並木五瓶の「五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)」にも登場し,「国言詢音頭」の初右衛門に対応している。これらのもとになったのは,元文2年(1737)夏,曽根崎新地で薩摩藩の早田八右衛門という人物が,曽根崎桜風呂の菊野ら五人を切り殺したという事件だ。

ということで,大学時代に見ていた「修羅」が,文楽入門のきっかけとなった40年後の「国言詢音頭」につながっていた。

2020年1月6日月曜日

おいど出して

令和2年初春文楽公演(開場三十五周年記念シリーズ)が1月3日から始まった。第1部の「傾城反魂香」が,竹本津駒太夫改め六代目竹本錣太夫襲名披露狂言であった。

津駒太夫は,2008年(平成20年)7月の私の初めての文楽体験(夏休み文楽公演第3部)で最初に出会った太夫だったので印象深い。演目は,国言詢音頭(くにことばくどきおんど)。大川の段が津駒太夫と鶴澤寛治,五人伐の段の中が文字久太夫・清友,切が住太夫・錦糸・豊澤龍爾(胡弓)という顔ぶれだった。津駒大夫が汗びっしょりでよだれをたらしながら熱演しているのにびっくりしてハマってしまい(最後のシーンが本水だったのもよかった),それ以来文楽劇場に通うようになった。

その津駒太夫=錣太夫の襲名披露は,傾城反魂香の冒頭に,床に竹本錣太夫,竹澤宗助,豊竹呂太夫(六代目 1947-)が並んで行われた。呂太夫が落ち着いて口上を述べた。文楽の襲名披露は歌舞伎のそれに比べて,相対的に形式張っておらず,また襲名する本人自身は自らは挨拶しないのが通例だ。

竹本錣太夫は,1949年広島生まれ,1969年に津太夫に入門して津駒太夫を名乗り,1970年に朝日座で初舞台,1988年に呂太夫(五代目 1945-2000)門下になり,ここで六代目の呂太夫=英太夫と接点を持つ。呂太夫の口上では,とてもきまじめな錣太夫のエピソードを1つ紹介していた。

当時の津駒太夫は,鶴澤寛治(六代目 1887-1974)に指導を受けていた。ある日,寛治がおいどを出してというので,津駒太夫はあわてて立ち上がってゆかたをめくろうとしたらしい。この場合のおいどは床本の終わりのほうを意味していたのを勘違いしたのだ。同席していた女義太夫の鶴澤寛八(1917-1993)にあわてて止められたとのことだ。文楽界を代表するおもしろい出来事だったとのこと。


写真:国立文楽劇場初日,鏡割り前の錣太夫の挨拶(2020.1.3撮影)

2020年1月5日日曜日

(冬休み 7)

「冬の水にごりても空うつすかな」 (松崎鉄之介 1919-2014)

2020年1月4日土曜日

2020年1月3日金曜日

2020年1月2日木曜日

2020年1月1日水曜日

2019年12月31日火曜日

2019年12月30日月曜日

2019年12月29日日曜日

鳥の地磁気コンパス

渡り鳥は正しい方角を知って長距離を渡ることができる。この鳥の能力には,地磁気を感知する感覚器が関与しているのではないかと考えられてきた。しかし,その具体的なメカニズムは不明だった。NHKのコズミックフロントをみていたら,量子力学の特集で,この話題について触れられていた。

2009年のGaugerらの論文によれば,ヨーロッパコマドリの渡りのメカニズムが調べられ,鳥の視覚における光のスペクトルが方向検知の能力と関係していることがわかった。そこで,単純な生体磁石も持つ感覚器のモデルではなくて,化学反応速度に対する磁場の影響のモデルが考えられた。鳥の目の光子吸収におけるラジカル対の生成で生ずる一重項と三重項からの生成物質が磁場の向きに依存して異なるため,地球磁場が化学信号をもたらすというものらしいが,肝腎の生成物質とその効果は特定されていないようだ。

光合成やその他の生態系における量子過程についてもまだまだおもしろい問題がたくさんありそうで,エンタングルメントがどう関るのか,興味津々というところ。

[1]Sustained quantum coherence and entanglement in the avian compass(Gauger et al. 2009)
[2]Quantum effects in biology: Bird navigation(Ritz 2011)
[3]Quantum Dynamics of the Avian Compass(Walters 2012)
[4]The Radical Pair Mechanism and the Avian Chemical Compass: Quantum Coherence and Entanglement(Zhang et al. 2015)
[5]The quantum needle of the avian magnetic compass(Hiscock et al. 2016)
[6]Quantum Mechanical Navigation: The Avian Compass(Herbert 2016)

2019年12月28日土曜日

ベテルギウス

冬の代表的な星座であるオリオン座のα星が,左上にある赤いベテルギウス(Betelgeuse,640±150光年)だ。星座のα星,β星,γ星は一般には明るさの順に名付けられている。ただ,諸般の事情で例外もあって,オリオン座で最も明るいのは右下の青白いリゲル(Rigel,860±80光年)らしい。いずれも1等星だが,全天には1等星(視等級が1.5等級より明るいもの)が21個しかないので,たいへん貴重な存在だ。

ところが,そのベテルギウスが最近2等星にランクダウンしそうとの話が伝わってきた。ベテルギウスは太陽質量の12倍(Wikipedia:en)の赤色超巨星である。約6.4年周期の変光星で明るさは0.0−1.3等級の範囲で変化するようだが,最近は1.5等級前後で低迷している。また明るくなればよいが,そうでないと楽しいことが起こるらしい。

太陽の20倍くらいの星の恒星内元素合成反応では,水素→ヘリウムの元素変換が終わりヘリウム→炭素になるあたりで赤色巨星になる。炭素→ネオンが1000年かかるが,ネオン→シリコンが1年,シリコン→鉄が2日で終了して超新星爆発する。このときネオン→シリコン反応で急激に収縮して暗くなるというので,もし現在の減光がネオン→シリコンであれば1年続いて我々が生きている間に超新星が見られるということになる,という説がtwitterで流布していた。本当かな?元素合成のシークェンスはおおむねあっているようだ。

オリオン座といえば,昔,忘年会の帰りに,オリオン座が冬空に映えるなあとおもいながら自転車をふらつかせていたら,頭から田んぼにつっこんだことを思い出す。まだ若かったので怪我もなく無事に帰宅できた。

(注)この現象は数年から10年に一度くらいの割合で発生しているようなので,心配する必要はないというか,残念であったというか・・・

[1]Stellar Evolution (Zucker,2010)
[2]CESAR Booklet ver. 2 (CESAR,2018)
[3]Plot a light curveAAVSO米国変光星観測家協会
[4]オリオン座のベテルギウスに異変,超新星爆発の前兆か(CNN.co.jp 2019)
[5]ベテルギウスの最期:超新星の徴候とその威力(ActiveGalactic 2010)

図 ベテルギウスの光度曲線(AAVSOより引用)





2019年12月27日金曜日

数値計算のリスク

精度保証付き数値計算についてのQiitaのAdvent Calendarの記事が話題になっていた。数値計算はなかなか奥が深いので困る。

[Rumpの例題]
$f(a,b) = 333.75 b^6 + a^2 (11 a^2 b^2 − b^6−121 b^4−2) + 5.5 b^8 +\dfrac{a}{2b}$
に $(a,b)=(77617.0, 33096.0)$ を代入した値は?

Mathematicaの場合

In[1]:= f[a_, b_] :=  333.75 b^6 + a^2 (11 a^2 b^2 - b^6 - 121 b^4 - 2) + 5.5 b^8 + a/(2 b)
In[2]:= f[77617.0, 33096.0]
Out[2]= -1.18059*10^21

In[3]:= g[a_, b_] :=  1335/4 b^6 + a^2 (11 a^2 b^2 - b^6 - 121 b^4 - 2) + 11/2 b^8 + a/(2 b)
In[4]:= N[g[77617, 33096], 20]
Out[4]= -0.82739605994682136814

Juliaの場合

[1] function g(a::BigInt,b::BigInt)
    x = 1335/4*b^6 + a^2*(11*a^2*b^2 - b^6 - 121*b^4 - 2) + 11/2*b^8 + a/(2*b)
end
[2] g(BigInt(77617), BigInt(33096))
[2] -0.8273960599468213681411650954798162919990331157843848199178148416727096930142628

[3] function g128(a::Int128,b::Int128)
   x = 1335/4*b^6 + a^2*(11*a^2*b^2 - b^6 - 121*b^4 - 2) + 11/2*b^8 + a/(2*b)
end
[4] g128(Int128(77617), Int128(33096))
[4] 1.1805916207174113e21

[5] function f(a::BigFloat,b::BigFloat)
    x = 1335/4*b^6 + a^2*(11*a^2*b^2 - b^6 - 121*b^4 - 2) + 11/2*b^8 + a/(2*b)
end
[6] f(BigFloat(77617), BigFloat(33096))
[6] -0.8273960599468213681411650954798162919990331157843848199178148416727096930142628

[7] function f64(a::Float64,b::Float64)
    x = 1335/4*b^6 + a^2*(11*a^2*b^2 - b^6 - 121*b^4 - 2) + 11/2*b^8 + a/(2*b)
end
[8] f(Float64(77617), Float64(33096))
[8] -1.1805916207174113e21

2019年12月26日木曜日

ならの大仏さま:かこさとし

かこさとし絵本にはとてもお世話になった。子どもたちが小さいとき,1960年代から1980年代にかけて出版されたかこさとしの絵本のいくつかは寝る前の読み聞かせの定番だった。「だるまちゃんとてんぐちゃん 」「だるまちゃんとかみなりちゃん」「どろぼうがっこう」「からすのパンやさん」「だるまちゃんとうさぎちゃん」「だるまちゃんととらのこちゃん」などで,親子共々たいへんたのしく読むことができた。

福井県生まれ,東大工学部応用化学科出身で工学博士号を持つ加古里子には,「かわ」「海」「地球」「人間」「宇宙」などのすぐれた科学絵本もあった。しかし,これらについては図書館で借りるか本屋で立ち読みしたくらいで,買うことはなかった(なぜだろう)。ただ,「ならの大仏さま」だけは,1990年ごろに奈良県に引っ越した後に買ったのでいまも手元にある。

久しぶりに奥から引っ張り出してきて読んでみると,これはなかなかの名著であった。小学校高学年のときに読んだ日本の歴史シリーズの最初の巻で奈良の大仏の建立にいたる具体的な物語が書かれていてとてもおもしろく読んだ記憶があったが,それを思い出させるものであった。金の水銀アマルガムからくる毒性の話ものっていたのではないかと思う。非常に具体的であり,科学者の目がすみずみまでとどいているのだ。板倉聖宣のセンスと同じものがある。

2019年12月25日水曜日

浮力の問題(7)

浮力の問題(6)に続いて,もうひとつ別のモデルを考えてみる。

板倉さんや夏目さんの実験などでは乾いた容器に密度が水より小さな物体を押し付けた状態でまわりに流体をそそぎ,その後,手を離しても浮上しない状態が維持される。これに松川さんが噛みついた訳だった。単純な表面張力で説明できるかというと,浮力の問題(4)で示したように効果が小さすぎるように思える。そこで薄い空気層があるために浮上を妨げるということがありうるか考えてみる。

場面設定
場面設定1の環境において,質量$m$,底面積$A$,高さ$d$の直方体Cを用意する。$H$は大気圧$P_{\rm A}$と等価な水柱の高さである。水を入れない状態の水底Bに物体Cを押さえつけ,ここから水を$h$まで満たすと物体の底面と水底Bの間に厚さ$b$の空気層が残ったとする。

初期状態では空気層の厚さは$b=b_i \ll d$であり,その面積は物体の底面積$A$と一致している。このときの張力は$T_i=0$である。空気層の気圧の初期値$P_i$は水底の水圧$P_{\rm B}$と等しいとする。

次に張力$T$で物体を持ち上げると空気層の部分に徐々に水が浸入すると同時に空気層の
厚みは増加し,$T=T_f$で最終的に離床するときの厚さは$b=b_0 \ll d$となったとする。


図 水中の物体に働く圧力と力(その2)

①:薄い空気層が存在するモデル

水の浸入する割合 $f(P)$ が,水中の空気層の圧力$P$に比例するというモデルを考える。初期状態では,$f(P_i)=f_i=0$であり水は浸入しない。圧力が減るとともに浸入の割合は線型に増加し,離床時は $f(P_f)=f_0$となるとして,次式を仮定する。
\begin{equation}
f(P) = \dfrac{P-P_i}{P_f-P_i}f_0
\end{equation}
空気層の厚さは物体の高さにくらべて十分に小さいと近似する。すなわち物体が空気層をはさんで着底してから張力$T$を加えて持ち上げる過程で,物体の上面の水圧$P_C$や物体の下面の水圧$P_B$はそれぞれ,有効水深$H+h-d$や$H+h$の水圧のままであるとする。このとき水圧の式は次のようになる。
\begin{equation}
\begin{aligned}
P_{\rm A} &= \rho g H\\
P_{\rm C} &= \rho g (H+h-d)\\
P_{\rm B} &= \rho g (H+d)\\
P_i &= P_C + m g /A\\
P_f &= \dfrac{b_i}{b_0 (1-f_0)}\ P_i = \beta / \bar{f} \cdot P_i
\end{aligned}
\end{equation}
ただし,$b_i/b_0=\beta,\ \bar{f}=1-f_0$とした。

初期状態では次の力の釣り合いの式が成り立っている。
\begin{equation}
T_i = m g + P_{\rm C} A - P_i A = 0
\end{equation}
離床状態では次の力の釣り合いの式が成り立っている。
\begin{equation}
\begin{aligned}
T_f &= m g + P_{\rm C} A - P_B A f_0 - P_f A (1-f_0)\\
 &= m g + \rho g (H+h-d) A - \rho g (H+h) A f_0 \\
 &- \Bigl\{ m g + \rho g (H+h-d) A \Bigr\}\beta
\end{aligned}
\end{equation}

両辺を$\rho g d A = m_0 g$で割り,$t_f = T_f/ m_0 g$と置くと,
\begin{equation}
\begin{aligned}
t_f &= \dfrac{\rho_m}{\rho} -1 + \dfrac{H+h}{d}\bar{f}
-\Bigl( \dfrac{\rho_m}{\rho} -1 + \dfrac{H+h}{d} \Bigr) \beta \\
&=  \Bigl(\dfrac{\rho_m}{\rho} -1 \Bigr) (1-\beta)+
\dfrac{H+h}{d}(\bar{f} - \beta)
\end{aligned}
\end{equation}

②:数値的な評価の例
物体Cを密度$\rho_m = 0.5$で一辺が10cm の立方体とする。立方体の質量は 500 g である。
大気圧に等価な水の深さは$H$=1000cmであり,水深を$d$=100cmとする。$m_0 g$ = 1 kgwなので,次の式の単位はkgwである。離床時張力$t_f$は,空気層の体積拡大率の逆数$\beta$と浸水していない部分の比率$\bar{f}$の関数$t_f(\bar{f},\beta)$として表される。
ただし,$0 < \bar{f},\ \beta < 1$ である。

(1) $f_0=0\ (\bar{f}=1)$,離床時の浸水がない場合
\begin{equation}
\begin{aligned}
t_f(1, \beta) = -0.5 ( 1 - \beta) + 110 (1-\beta)\\
0 < \beta < 1 \quad \to \quad 109.5 > t_f > 0
\end{aligned}
\end{equation}
(2) $f_0=0.5\ (\bar{f}=0.5)$,離床時に50%は浸水している場合
\begin{equation}
\begin{aligned}
t_f(0.5, \beta) = -0.5 ( 1 - \beta) + 110 (0.5-\beta)\\
0 < \beta < 0.4977 \quad \to \quad 54.5 > t_f > 0
\end{aligned}
\end{equation}
(3) $f_0=0.9\ (\bar{f}=0.1)$,離床時に90%は浸水している場合
\begin{equation}
\begin{aligned}
t_f(0.1, \beta) = -0.5 ( 1 - \beta) + 110 (0.1-\beta)\\
0 < \beta < 0.0959 \quad \to \quad 10.5 > t_f > 0
\end{aligned}
\end{equation}


2019年12月24日火曜日

浮力の問題(6)

浮力の問題(5)から少しだけ話を進めてみよう。

最も気になっているのが,いわゆる「浮力の消失」現象の実験の説明である。浮力の問題(3)で紹介した,浜名湖観光局のアルキメデスの原理:浮力の正体の一考察では,水底に着底した物体を吊り上げる際の張力を静止摩擦力とのアナロジーで議論していた。そこで,離床の際の張力を与えることができる簡単なモデルを作ってみた。

場面設定
一様重力場における重力加速度を$g$,水の密度を$\rho$とする。大気の密度を$\rho_0$,大気の有効高さを$H_{\rm eff}$として,大気底での空気の圧力は$p_0=\rho_0 g H_{\rm eff}$となる。さらに,これに等価な水柱の高さを$H$とすると,$p_0=\rho H$と表される。底面が水平で滑らかな十分広い容器に水底からの高さ$h$まで密度$\rho$の水を満たす。水表面をA,水底面をBとする。

質量$m$,底面積$A$,高さ$d$の直方体の物体Cを用意する。Cの密度を,$\rho_m= \frac{m}{A d}$と書くことにする。Cの底面は滑らかであるが,水中で水底面と密着させた場合,$f \cdot A$の面積の部分に水がしみ込んで,水底と同じだけの水圧が鉛直上方に働く。水がしみ込む面積の底面積に対する比率$f$は,$0 \le f \le 1$を満足している。なお物体が押しのけた水の重さは$m_0 g = \rho A d g$である。

この物体が水底に接地しているときには,図のような力が働いている。$p_A=p_0=\rho g H$は,水表面Aにおける大気圧,$p_C= \rho g H + \rho g (h-d)$は物体Cの上面における水圧(大気を含む),$p_B = \rho g H + \rho g h$は水底面Bにおける水圧を表している。

物体には,水圧からくる浮力以外に重力 $m g$ と,物体Cの上面には糸からくる張力$T$,物体の底面のうち水がしみ込まない$(1-f)A$の面積の部分に加わる底面からの抗力$R$,これ以外の粘着力や表面張力などの和$X$が働いている。なお,$T,R,X$を$m_0 g$を単位として測った無次元量を$t=T/m_0 g,\ r= R/m_0 g,\ x=X/m_0 g$と表すことにする。

図 水中の物体に働く圧力と力

①:Cの釣り合い
物体Cに働く力の釣り合いの式は次のようになる。
\begin{equation}
mg + P_C A - P_B f A +X -R -T = 0
\end{equation}
物体Cの上下面の圧力から来る力の和は,
\begin{equation}
\begin{aligned}
P_C A - P_B f A &= \rho g (H+h-d) A -\rho g (H+h) f A \\
&= \rho g d A \Bigl(\dfrac{H+h}{d} - 1 - \dfrac{H+h}{d} f \Bigr)\\
&= m_0 g \Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f) - 1 \Bigr\}
\end{aligned}
\end{equation}
両辺を $m_0 g$で割った力の釣り合いの式は,
\begin{equation}
\dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f) - 1 \Bigr\} +x -r -t = 0
\end{equation}
つまり,これは抗力$r$と張力$t$の和に対しての条件式と見なすことができる。
\begin{equation}
r + t = \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f) - 1 \Bigr\} +x
\end{equation}

抗力が$r=0$となるときの張力$t_0$の値は次式で与えられる。
\begin{equation}
t_0 = \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f) - 1 \Bigr\} +x
\end{equation}
さらに張力を加えて抗力が$r=0$のときに隙間がすべて流体で満たされるとする。このときには$f=1$となり,その張力を$t_1$とすると,
\begin{equation}
t_1 = \dfrac{\rho_m}{\rho} - 1 + x
\end{equation}
あるいは,完全に離床してしまえば付加的な力も働かないので,その場合の張力を$t_2$とすると,
\begin{equation}
t_2 = \dfrac{\rho_m}{\rho} - 1
\end{equation}
ただし,これらの式において張力が0または負になるときは,物体が浮き上がる条件が
満たされていることになる。

②:真の接触面積が抗力に比例するモデル
静止摩擦力と垂直抗力の関係において,最大静止摩擦力は物体と運動面の見かけの接触面積には比例せず,垂直抗力に比例していた。これは,物体と運動面の真の接触面積が垂直抗力に比例することを含意する。そこで,これを参考にして次のようなモデルを考える。

水が底面間の隙間にしみ込む面積の比率$f$が抗力$r$の1次関数$f(r)$であると仮定し,$t=0$の場合の初期状態の$r=r_0$で$f(r_0)=f_i$,離床条件である$r=0$の場合$t=t_0$で$f(0)=f_0$($0 \le f_i < f_0 \le 1$)となるように決めることにする。
すなわち,
\begin{equation}
\begin{aligned}
t_0 &= \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f_0) - 1 \Bigr\} +x \\
r_0 &= \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f_i) - 1 \Bigr\} +x
\end{aligned}
\end{equation}
そこで,①の$f$を$f(r)=f_0 + (f_i-f_0)\frac{r}{r_0}$で置き換えればよい。
\begin{equation}
\begin{aligned}
r + t &= \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f(r)) - 1 \Bigr\} +x  \\
r + t &= \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f_0 -(f_i-f_0)\dfrac{r}{r_0})
 - 1 \Bigr\} +x \\
t_0 &= \Bigl\{ r_0 + \dfrac{H+h}{d}(f_i-f_0) \Bigr\} \dfrac{r}{r_0} + t
\end{aligned}
\end{equation}
これを整理すると次のような式にまとめることができる。
\begin{equation}
t = t_0\Bigl(1-\dfrac{r}{r_0}\Bigr) \quad \quad  r = r_0 \Bigl( 1 - \dfrac{t}{t_0}\Bigr)
\end{equation}

③:数値的な評価の例
物体Cを密度$\rho_m = 0.5$で一辺が10cm の立方体とする。立方体の質量は 500 g である。
大気圧に等価な水の深さは$H$=1000cmであり,水深を$d$=100cmとする。$m_0 g$ = 1 kgwなので,次の式の単位はkgwである。
\begin{equation}
t_0 = \dfrac{\rho_m}{\rho} +110\cdot(1-f_0) - 1 + x
=  110\cdot(1-f_0) -0.5 + x
\end{equation}
これが水がしみ込む面積が抗力に比例するモデルにおいて物体を持ち上げるのに必要な力
をkgw単位で表現した例である。$x$として立方体の底面の周囲に働く水の表面張力を当てはめてみると,$x = 73\ {\rm dyne/cm} \cdot 40\ {\rm cm} \cdot 10^2/10^5 \ {\rm gw/dyne}\ /\ 1\ {\rm kgw} = 2.9 \times 10^{-3}$程度の寄与しかない。

2019年12月23日月曜日

浮力の問題(5)

浮力の問題(4)まで進んできたが,浮力についての現段階での自分の考えをまとめてみる。

 (1) 浮力の定義
一様重力場中の流体Fと境界を接する物体に働く力を考える。物体の表面のうち流体と直に接する部分の面Sに作用する流体の圧力をSに渡って積分する。この積分によって得られた力を流体Fによって物体に作用する浮力とよぶ。
(浮力の向きが鉛直上方でない場合も含めて浮力とよぶことに注意)

 (2) 水底に置いた物体の思考実験
底面が平な物体が流体の入れ物の水平な底面(水底面)におかれ,流体がしみ込まずに水底に真に接する部分があれば,浮力の向きが鉛直下方の場合がある。

 (3) 「浮力の消失」の現象の実験
水底面に接地する物体の密度が流体より小さくても水底から浮かび上がらない現象を「浮力の消失」とよぶことがある。ただし,(1)の定義によれば浮力は消失していない。
(水銀中の分銅,水中のパラフィン底面の木片,水中の超撥水材底面の木片,底面の一部をくりぬき接地しない構造を持つ木片,の報告あり)

 (4) 「浮力の消失」現象の説明
実際に観察される「浮力の消失」現象の主な原因には2つの立場がある。自分は(a)の場合もあるのではないかと考えているが明確な証拠がない。

(a) (2)の鉛直下向きの浮力が主に寄与する。
(b) 流体を排除する部分の面積は非常に小さくて(2)は無視でき,表面張力や物体底面と水底面の粘着力などが主に寄与する。

(流体の排除には完全な平面の密着が必要という考えは誤っている→超撥水材)
(表面張力説について定量的に議論している資料は見あたらない)

 (5) 水中の物体の重さ
物体をのせない場合を目盛を0に合わせた水中の秤ではかることで定義する。このとき,水中の物体の重さは空気中の重さに比べて物体が排除した水の体積分だけ軽くなる。これは物体の底面積と,秤との隙間に流体がしみこまない真の接地面積との比によらない。


追伸(12/27/2019)
水中の物体の重さを測るのに,物体を吊るした糸の張力ではかるばね秤法と容器の水底に置いた秤ではかる水底秤法が考えられる。有限サイズの容器に底面積A,高さd,質量mの直方体を水中に入れて測定する。容器に物体をいれると水面の高さがδだけ高くなった。なお,水底秤は物体を入れる前に0に調整してあり,体積Adの水の質量をm_0とする。

それぞれの方法で測った水中の物体の重さをm'gとすると以下の結果が得られる。
    水底秤法では m’g = (m-m_0)g + ρδA g
    ばね秤法では m’g = (m-m_0)g

これを解釈するのに2つの立場がある。
 (a) Graf はδ=0としているがこれはアルキメデスの原理に合わせるための恣意的な操作だ。
 (b) δは容器のサイズに依存する境界効果であり本質的でない。
  (Grafが十分広い容器を考えてδ=0としたのは自然な操作である)
((a)説の人々排除した水にこだわるのがよくわからない。下図ではだめなのかしら。)


図 Graf説の説明図        
P. Mohazzabi: Archimedes’ Principle Revisited
Journal of Applied Mathematics and Physics Vol.05 No.04 836-843 (2017)
https://www.scirp.org/pdf/JAMP_2017042713382000.pdf

2019年12月22日日曜日

浮力の問題(4)

浮力の問題は(3)まで進んだ。山賀さんの理科と教育のメーリングリスト(new_rikakyouiku@s-yamaga.jp)で浮力の議論が続いている。表面張力について少し考えて投稿したのでその趣旨をメモしておく。

松川さんが板倉さんを批判して表面張力説を主張しているがあまりしっくりこない。ただ,まったく関係ないわけでもないのだろう。

例えば 5 cm × 5 cm × 5 cm の物体の周囲は 20 cm であり,この物体を接地させた状態でまわりに水を注ぐと接地面の周囲に表面張力が働く。水の表面張力の大きさは 73 dyne/cm だ。つまり 20 cm ならば 1460 dyne の表面張力が物体にほぼ下向きに(角度はわからないが)働く。つまり,1460 dyne ≒ 0.015 N ≒1.5 gwのオーダーである。効果としては小さいのではないかと思うが,実験してみないわからない。

あるいは,水銀とステンレスの分銅の場合だ。100gのステンレス製の分銅が手元にないので,アマゾンのページをにらんで,直径 2.4 cm,高さ 2.8cm くらいかと想像した。このとき,接地面の円周は 8 cm 弱である。水銀の表面張力は非常に大きく 480 dyne/cm もある。つまり,分銅の接地面の周囲に働く表面張力は,3840 dyne  ≒ 0.038N ≒ 3.8 gw である。これも小さいなあ。分銅の体積は 100g ÷ 7.8 g/cm^3 ≒ 13 cm^3 なので,浮力は 13.6 g/cm^3 × 13 cm^3 = 177 gw だからどうなんだろう。

2019年12月21日土曜日

浮力の問題(3)

浮力の問題(2)では,皿の面に接地していることが皿面までの深さの水底の接地と同等とみなせるとした。和田さんから指摘されたとおりで,ここはやはりギャップがあった。実際の水底(水底でなくて水中の固定台上でもよいが)に置かれた物体についてはこの天秤操作ができないので,これはやはり上から吊るして張力で測定するしかない。

なお,物体の水中での重さの定義について,排除した水の重さを無視しているという指摘があった。有限サイズの容器では確かに問題になるが,物理では普通はそれは境界効果として排除し,広々とした空間で定義したいところである。

また,この定義では水底の秤とその直上の物体の間に未知の力が働いていてもこれを分離できないという説があるような気がしたが,その力が作用反作用の法則を満たす限り,秤には物体と水柱の重さの合計が加わるだけである。大気の重さを考慮しても測定対象と基準で同じとなるのでそれらは打ち消し合う。

問題と複数の解答を整理してみる。

◎超撥水材を貼り付けた軽い木片や水銀中の分銅の着底現象,海中の構築物にかかる力
 などをどう考えればよいだろうか。

◎水中の物体の重さはつねにアルキメデスの原理に従うか?
 ・「物体上部の水柱の重さ+物体の重さ」−「物体がないときの底からの水柱の重さ」
   を水柱の物体の重さとして定義すると,それは浮力と同じ大きさだけ軽くなる。
 ・有限サイズの容器では,排除した水の重さのために上記は成り立たない。
 ・あらかじめアルキメデスの原理にあうように恣意的な設定になっている。

◎水底面に置かれた物体には浮力が働くのか?
 ・アルキメデスの原理の公式があるので常に浮力が働く→多くの物理屋は反対
 ・物体と底面の間は完全には平坦にできず絶対に水がしみ込むので常に浮力が働く
 ・表面張力や分子間力のために浮力の消失にみえる現象が生じているだけである
 ・水がしみ込まない部分があり浮力はアルキメデスの原理のとおり働いていない

問題の整理はまだ不十分であった・・・orz

P. S. Mohazzabi がGrafの説をより簡単に説明していた。Limaの理論と実験がおもしろい。

[1]Archimedes, On the Floating Bodies I and selections from II
[2]アルキメデスの原理:浮力の正体の一考察(浜名湖観光局)
[3]Reconsidering Archimedes' Principle(Bierman, Kincanon 2003)
[4]Just What Did Archimedes Say About Buoyancy? (Graf 2004)
[5]Using Surface Integrals for Checking the Archimedes' Law of Buoyancy (Lima 2011)
[6]A Downward Buoyant Force Experiment (Lima, Venceslau, Brasill 2016)[7]Archimedes' Princile Revisited(Mohazzabi 2017)


2019年12月20日金曜日

浮力の問題(2)

浮力の問題(1)では,水底に接地した物体の重さを,物体がない水底の水圧に対する抗力と物体がある場合の抗力との差によって定義した。これは,我々が大気中で電子天秤を使う状況と同じである。なぜならば,大気圧のみが皿に加わる状態をゼロに設定した上で,空気中で物体をのせて測定しているからだ。ところで,アルキメデスの頃には電子天秤や圧力センサーはなかったので,普通の天秤で水中の物体の重さを定義する方法を考えたい。これは,Graf の論文の末尾で読者への宿題とされた問題でもある。

場面設定
重力加速度を$g$とする。容器に密度$\rho$の水を入れ,表面をA,底面をBとする。簡単のため大気圧は考えない。図のように設置した天秤の皿の片方を空気中,もう一方を水中に置き,両方の皿が空のときに釣り合うように調整する。天秤の皿は非常に薄く,その質量も体積も無視することができる。

質量$m$,底面積$S$,高さ$d$の同じ直方体C,Dを用意して,図のように天秤の皿に静かにのせると同時に,天秤が水平に釣り合うように天秤の左側に質量$\Delta m$の錘を取り付けた。なお,図において,$P_i$はベクトルの始点の深さでの水圧,$R_i$は皿が物体へ及ぼす抗力,$F_i$は物体が皿に及ぼす力を表す。

また,天秤の皿の面積を$\Sigma$,物体Cの底面のうちで皿に触れていない部分の面積を$S'$とする。この部分は物体と皿の非常に狭い隙間にしみ込んだ水による水圧が働く部分に対応しており,図ではこれを片方によせて表現した。逆に,皿と物体Cが隙間なく直かに接する部分の面積は$S-S'$である。


図 物体の水中での重さを測定する天秤

①: 空気中の物体Dについて
物体Dに働く重力$mg$と,皿からの抗力$R_2$が釣り合っている。また,作用反作用の法則からDが皿に及ぼす力$F_2$の大きさは$R_2$に等しい。
\begin{equation}
mg = R_2 = F_2
\end{equation}

②:水中の物体Cについて
物体Cに働く重力$mg$とCの上面への力$P_1 S$の和が,抗力$R_1$とC下面の隙間から上向きに働く力$P_2 S'$の和と釣り合っている。
\begin{equation}
\begin{aligned}
m g + P_1 S &= R_1 + P_2 S' \\
\therefore R_1 &= m g + \rho g \ell S - \rho g (\ell + d) S'\\
&= m g -\rho g d S + \rho g (\ell + d) (S - S')
\end{aligned}
\end{equation}
ここで$P_1= \rho g \ell$は深さ$\ell$における水圧であり,$P_2= \rho g (\ell+d)$は深さ$\ell+d$における水圧である。

次に,Cをのせている皿について考えてみる。皿の上面には,水圧から来る下向きの力$P_2 (\Sigma - S + S')$と抗力$R_1$の反作用の和が加わり,下面には,水圧による上向きの力$P_2 \Sigma$が働く。その差が皿に加わる下向きの力$F_1$となる。
\begin{equation}
\begin{aligned}
F_1 &= R_1 + P_2(\Sigma - S + S') - P_2 \Sigma\\
\therefore F_1 &= R_1 -\rho g (\ell+d) (S - S') \\
&= m g - \rho g d S
\end{aligned}
\end{equation}

③: 天秤の釣り合いの条件
①と②によって$F_1$と$F_2$が得られた。水中においた物体Cが軽くなった分を質量$\Delta m$の錘で補償することで天秤は釣り合っている。そこで 水中の物体の重さを次式で定義する。
\begin{equation}
m'g \equiv m g -\Delta m g
\end{equation}
天秤の釣り合いの式は次のようになって,$\Delta m g$が求まる。
\begin{equation}
\begin{aligned}
 F_1 + \Delta m g &= F_2 \\
m g - \rho g d S + \Delta m g &= m g \\
\therefore \Delta m g &= \rho g d S
\end{aligned}
\end{equation}

結論
水中の物体の重さ$m' g\,$を上図のように天秤で測る操作から定義した。このとき,高さ$d$,底面積$S$の物体の密度$\rho$の水中での重さ$m' g$と空気中での重さ$m g$との間には次式が成り立つ。これはアルキメデスの原理によって物体が浮力の分だけ軽くなる式と同じである。
\begin{equation}
m' g = m g - \rho g d S
\end{equation}
同時にこれは,深さ$\,h\,$の水底(天秤の皿上)に接地している物体の重さを定義しているとみなすこともできる。また,$S' \to S$の極限では,水中で接地していない物体の重さの定義にもつながっている。

つまり,天秤を用いた物体の重さの定義を用いると,物体が水中にある場合と,水底に接地している場合を区別せずに扱うことができ,いずれの場合も通常の浮力の式と同じ分だけ物体が軽いとして測定される。ただし,これらの効果を共に浮力によるとするかどうかは浮力の定義の問題となる。以上の結論は,物体の底面とそれが接する容器や皿との実際の接地面の面積$\,S-S'\,$が,物体のもともとの底面積$\,S\,$とどのような比率になっているかには依存しない。

参考文献
[1]What Did Archimedes Say About Buoyancy?(E. H. Graf)
The Physics Teacher Vol. 42 296-299 (2004)
[2]アルキメデスは浮力の原理をどう説明したか(右近修治)
物理学通信 No.117 (2004)

2019年12月19日木曜日

浮力の問題(1)

流体中あるいは流体に浮かぶ物体には,物体がおしのけた流体の重さに等しい浮力が重力と逆向きに働く。流体が存在する領域の水平な底面に物体が接地した場合にも,流体中に物体がある場合と同じ大きさの浮力が働くかどうかについては議論が続いていた。

場面設定
次のような状況を設定する。表面をA,底面をB(AとBの距離は$h$)とする密度$\rho$の水が重力加速度$g$の一様重力場にある。Aの上方は空気(密度は0に近似できる)であり,Bの下方は硬い地面である。張力$T_i$のヒモでつるした質量$m$,底面積$S$,高さ$d$の直方体のブロックCがあり,徐々に水中に沈めてゆく。なお,図において,$P_i$はベクトルの始点の深さでの水圧,$R_i$は底面Bからの抗力を表す。


図 浮力の問題設定

次に,図のそれぞれの場合について説明する。

①:Cが空気中にある場合
重力$mg$と張力$T_1$が釣合っている。そこで,物体Cの重さ$mg$は張力$T_1$の測定で得られる。

$mg = T_1$

②:Cが水中にある場合
重力$mg$とCの上面への力$P_1 S$の和が,張力$T_2$とCの下面への力$P_2 S$の和と釣合っている。

$T_2 + P_2 S = mg + P_1 S$

ここで$P_2= \rho g (\ell+d)$は深さ$\ell+d$における水圧であり,$P_1= \rho g \ell$は深さ$\ell$における水圧である。そこで,水中での物体Cの重さ$m'g$はこれと釣合う張力$T_2$の測定で得られる。

$m'g = T_2  = mg + (P_1-P_2) S = mg -\rho g d S$

つまり,$mg$と比べて$m'g$は $\rho g d S = M g $だけ小さくなる。ここで,$M=\rho d S$は物体Cが押しのけた水の質量に等しい。こうして張力をはかるバネ秤を用いて操作的に浮力を定義することができる。

なお,図の$R_2$は次の議論で用いるもので,物体Cの底面積Sに等しい大きさの底面Bの領域に加わる水柱の重さ$\rho g h S$に対する底面の抗力であり,$R_2=\rho g h S$である。

③:Cが底面Bに接地している場合
重力$mg$とCの上面への力$P_3 S$の和が,張力$T_3$と抗力$R_3$の和と釣合っている。

$T_3 + R_3 = mg + P_3 S = mg + \rho g (h-d) S$

これは,$T_3$と$R_3$の和についての条件であり,それぞれを独立に決定することはできない。したがって,先ほどのように張力の差から浮力を議論することができない。そこで,張力$T_3=0$とした場合の抗力$R_3$だけを考えてみよう。

水中の底面に物体Cの底面と同じ面積Sの測定面を持つ秤を設置して,そこに物体Cをのせた場合とのせない場合の差をもって,水中の物体の重さを測る操作を定義する。このとき,$R_3-R_2$が水中の物体Cの重さ$m'g$であるとみなせることになる。

$m'g = R_3-R_2 = mg + \rho g (h-d) S - \rho g h S = mg - \rho g d S$

このように考えた場合も,水底に接地した物体の重さは空気中の物体の重さに
対して,浮力の法則と同じ分だけ軽くなることになる。ただし,これを浮力とよぶか
どうかは定義の問題となる。

底面Bに接地したCを持ち上げる場合
次の条件を満たしながら,$T_3$をゼロから徐々に増やすと,その分だけ$R_3$が減少することになる。

$T_3 + R_3 = mg + \rho g (h-d) S$

ここで,$R_3=\rho g h S$に達したときに,$T_3 = mg - \rho g d S$となって,②の状況と等しくなり,隙間に水が入った場合と同じ条件が満たされる。このとき物体Cが離床することができる。

 物体Cが水の密度より小さい場合
この場合,$\rho gdS > mg$となり,何らかの束縛力によって水中で静止させた物体は,束縛力がなくなると重力と逆方向に動き始める(浮かび上がる)。ところが,この物体が完全に底面に設置していて物体と底面の間に流体が入らない場合は,$mg + \rho g (h-d) S > 0$であるため浮かび上がることはない。これを浮力の消失とよぶかどうかも浮力の定義の問題となる。実験的には完全に流体が入らない状態をつくることはできないという説と水銀と鉄の場合や超撥水材を用いる場合には近似的に可能であるという説がある。

 青森県の高校入試問題
平成31年度の青森県立高等学校の入学試験の理科で物体が着底した場合の浮力の問題が
出題された。問題についての疑義が提出されたため4度にわたって解答の修正が行われた。この問題では水深$h$が与えられていないので,解答不能な問題ではないだろうか。
もし$h$が与えられていたとしても,浮力の実験値が2通りに与えられていることや,中学校の学習範囲を越える水底での浮力の考え方が問われているために不適当な問題である。

理化学辞典による浮力の定義
地球上(一様な重力場)では,流体内にある物体はその表面に作用する圧力のため全体として鉛直上向きの力をうける。これを浮力という。浮力の大きさと作用点とは,物体のおしのけた流体の重さと重心に一致する(アルキメデスの原理)。浮力の作用点を浮心とよぶ。


参考文献
[1]What Did Archimedes Say About Buoyancy?(E. H. Graf)
THE PHYSICS TEACHER Vol. 42 296-299 (2004)
[2]アルキメデスは浮力の原理をどう説明したか(右近修治)
物理学通信 No.117  40-44 (2004) (理科と教育MLでの西尾信一先生の報告から 2019.12)
[3]水の底にピタリと着床すれば浮力は無くなるの?(松川利行)
[4]下面にはたらく水圧で浮力が生じることを示す実験(矢野幸夫)
物理教育 第61巻第2号 57-60 (2013)
[5]浮力の原因の話(左巻健男)
[6]超撥水材を使って浮力を無くす(MAX-V・・・夏目雄平さん発案の方法より)
[7]平成31年度青森県立高等学校入学者選抜学力検査問題
[8]平成31年度青森県立高校入試理科大問[5]の疑義について(英進塾)

2019年12月18日水曜日

聖火リレー

2020オリンピックはやめてほしいと思っているものの一人ではあるが,ニュースがあるとついつい見てしまうのが心の弱い証拠である。聖火リレーのコースが発表されたというので,奈良県はどうなっているのか探してみたら見つかった

えーっ,人間が走る部分はこんなに離散化されているのか。県を跨ぐ部分は車で輸送するのだろうと想像していたが,実は市町村単位で細切れになっていた。1964年もそうだったのだろうか。


2019年12月17日火曜日

記述式問題導入見送り

文部科学省はようやく記述式問題の導入見送りを発表した。ベネッセの関連会社である株式会社学力評価研究機構は,ベネッセとの関係性や会社の概要も十分に説明できない不透明な状態のようだ。安倍や下村らによる官邸主導型の文教政策が,その実現可能性や妥当性についての文部科学官僚の十分な検証を妨げてしまった結果,非常に無理のあった大学入試の民営化路線がついに破綻したということだろう。ベネッセと関係の深い鈴木寛が防衛にでてきたが,総スカンをくらっている始末だった。しかし,まだ生き延びているものも多く,今後の巻き返しによってどうなるかは不透明な状況が続く。

[1]民間背後の教育改革は格差拡大の失敗を繰り返す(大内裕和)
[2]かくして英語民間試験・国数記述式問題導入は自滅した(上)(南風原朝和)
[3]かくして英語民間試験・国数記述式問題導入は自滅した(下)(南風原朝和)

2019年12月16日月曜日

福田美術館

 2019年の10月,京都の嵐山渡月橋近くの桂川沿いに,アイフルの創業者の福田吉孝が設立したのが福田美術館である。福田の娘の川畑美佐が館長を務めている。

江戸時代の京都画壇などを中心に1500点の作品を所蔵しているコンパクトな建物で,2つのギャラリー,1つのオープンギャラリー,カフェなどで構成されている。カフェからは庭園ごしに桂川と渡月橋を見晴らすことができる最高のロケーションである。隣の渡月橋に近い側に星野リゾートの外国人富裕層向け超高級ホテルが建設中なのであった。

10月1日から1月13日まで,開館記念福美コレクション展をⅠ期Ⅱ期に分けて開催している。美術館にしては珍しく月曜日でなく火曜日が休館日となっていたので月曜に妻と訪れた。目玉の若冲の「群鶏図押絵貼屏風」もよかったが,木島桜谷(このしまおうこく)の「駅路之春」もやさしく,北斎の天狗や天文学者もおもしろかった。そういえば,木島桜谷はNHKの日曜美術館で「寒月」が取り上げられていたのを見たことがあった。橋本関雪の「後醍醐帝」は残念ながら第Ⅰ期の展示のみだったので見ることはできなかった。




写真:福田美術館カフェからの眺めと館内(2019.12.16撮影)

2019年12月15日日曜日

GIGAスクール構想

令和元年度の補正予算(第1号)は,Ⅰ 災害からの復旧・復興と安全・安心の確保(2兆3千億円),Ⅱ 経済の下振れリスクを乗り越えようとする者への重点支援(9千億円),Ⅲ 未来への投資と東京オリンピック・パラリンピック後も見据えた経済活力の維持・向上(1兆1千億円)のなかで,Ⅲ 2. Society5.0時代を担う人材投資、子育てしやすい生活環境の整備(3千億円)のなかに,GIGAスクール構想の実現(2,318億円=公立2,173億円+私立119億円+国立26億円)が盛り込まれた。校内LANと電源キャビネットと端末の費用であり,補助率は1/2だ。

小中学校における1人1台のPC導入とそれにかかわる高速大容量通信ネットワーク環境整備のための予算であり,2018年度からの教育ICT環境整備5年計画のなかに位置づけられるようだ。

一方で,令和2年度の概算要求には,GIGAスクールネットワーク構想3年計画の初年度として,375億円が計上されていた。全国3.6万校すべての学校に10Gbpsの無線LANを整備するため,1/2の補助を行うというもの。

うーん,日本の学校のICT活用度は世界最低水準ではあるけれど,この方向性でよいのかどうか。1人1台のPC導入形態は保留するとしても,ネットワーク整備はいずれにせよ必要なのかもしれない。

[1]GIGAスクール構想の実現について(文部科学省)
[2]教育の情報化に関する手引き(令和元年12月)(文部科学省)

2019年12月14日土曜日

円周率プール

円周率の求め方には様々あっておもしろい。最近再び話題になっていたのが,2003年にGalperinが出した論文,"Playing Pool with Pi (The Numer π from a Billiard Point of View)" とその動画。プールはビリヤード台のことかと思っていたら,ポケットビリヤードのことだった。穴に落ちたビリヤードボールがたまるのでプールらしい。

質量の異なる2球と壁の弾性衝突から円周率がみごとに求まる理論の詳しい説明は,京都府立嵯峨野高等学校の橋本雄馬先生の「物体の衝突と円周率」にある。とてもわかりやすく丁寧な説明がされている。

動画の方もいろいろあるようだが,"The Most Unexpected Answer to A Counting Puzzle"がよかった。

この衝突計算機で他の定数が出ないかを考えようとしたけれど,なかなか難しそうだったので3分で挫折した。

2019年12月13日金曜日

メルカリ初登場

メルカリへの出品というかメルカリンになることを勧められ,こども服等を出品してはや2ヶ月。これはだめだろうと忘れかけていたら,突如オファーが来ていることに気付いた。放置して普段チェックしていなかったので,本当に偶然のタイミングだ。で,とんとん拍子に話が進んで購入していただいたので,あわててセブンイレブンに駆け込んだ。なるほど,こういう仕組みになっていたのか。後は評価を待つだけのようだ。なかなか面倒なものでもあるが,慣れたらしまいなのかもしれない。

2019年12月12日木曜日

機械学習と公平性

2019年12月10日に,人工知能学会 倫理委員会・日本ソフトウェア科学会 機械学習工学研究会・
電子情報通信学会 情報論的学習理論と機械学習研究会の三者が連名で「機械学習と公平性に関する声明」を発表した。

声明を出した背景としては,2018年10月にAmazon.comが採用時に利用していた機械学習システムが女性に対して不利益に働くことに気づいてこのシステムの利用を停止したという報道を挙げている。

しかし,それでは時間が開きすぎている。直接書かれてはいないが,東京大学大学院情報学環・学際情報学府特任准教授が11月20日にTwitter上で差別的な発言をして,それが炎上したことがきっかけになっている。

情報学環長・学際情報学府長の越塚登先生は,11月24日に学内向け文書,11月26日に学生向けMLでメッセージを発しており,それを11月28日には公開している。それなりに迅速な対応がなされたと思う。

一方,当該教員の属する寄付講座についても,マネックス証券はただちに見解を発表し,寄付の停止に至るようだ。

機械学習が社会にもたらす影響は非常に大きなものになりそうだ。センサーが張り巡らされた社会を,センサーの塊をつねに携帯しながら活動する個人が,ほとんどの情報を無担保に預けながら,ブラックボックスにつつまれたプロセスで評価される社会だ。機械学習の説明責任(というか説明システムの理論的な研究や開発)についての議論もスタートしている。

P. S. 大澤昇平はネトウヨにアピールしながら寄付を集め始めたようだ(2019.12.12)。


[1]学環・学府特任准教授の不適切な書き込みに関する学生へのメッセージ(2019.11.28)
[2]学環・学府特任准教授の不適切な書き込み等に関する調査委員会の設置について(2019.11.28)
[3]学生留学生委員会から情報学環・学際情報学府の学生の皆さんへ(2019.11.29)
[4]大澤昇平特任准教授による2019.12.12付のSNS書込みに対する見解(2019.12.13)
[5]寄付講座担当特任准教授の不適切な書き込みに関する見解(マネックス 2019.11.24)
[6]寄付講座担当特任准教授の不適切な書き込みに関する当社の見解について(オークファン 2019.11.25)
[7]Japanese academia appears soft on racism(ASIA TIMES 2019.11.25)
[8]Announcement: terminating our business relationship with Daisy AI (Streamer 2019.11.27)

2019年12月11日水曜日

布袋戯(プータイシー)

昨日,十三の第七藝術劇場で「台湾,街かどの人形劇」を観てきた。

布袋戯は台湾の民間芸能である指人形劇の一種だ。精巧に造られた木製の頭部や手足部が,布製の袋部の衣裳をまとい,そこに手を入れて操作する。

その布袋戯の第一人者であった李天禄(リ・チェンルー)は,映画監督侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の作品のいくつかもに出演している。そして今回,李天禄の長男であり台湾の人間国宝でもある陳錫煌(チェン・シーホァン)のドキュメンタリーを侯孝賢が監修し, 楊力州(ヤン・リージョウ)監督のもとで,映画化されたのが本作品である。

原題は「父」であり,父と子の葛藤をベースにしながら,滅びつつある伝統的な布袋戯の活動が10年に渡って記録されている。それにしても,布袋戯の人形の動きは素晴らしかった。日本の文楽の人形に通ずるものがある。アジアに広く浸透している人形劇の背景文化を土壌として,各地で独特の発展をしているかのように見えてしまう。

[1]李天禄布袋戯文物館

2019年12月10日火曜日

ベクトル解析の図形表現

韓国のソウル大学のグループが,arxivの物理教育の分野(physics.ed-ph)におもしろい論文を載せていた。「Boosting Vector Calculus with the Graphical Notation(図形表現によるベクトル解析のすすめ)」というタイトルだ。

ファインマンダイアグラムに限らず,物理屋さんは図形表現された式をみるとわくわくする。角運動量代数の図形表現は,大学院生の時に見つけて勉強しはじめたけれど,時間がなくて挫折してしまった。テンソル代数に関る図形表現にも様々な流儀があるようだ。

上記論文のイントロダクションだけを訳出してみる。
物理を専攻する学生にとってベクトル解析の習得は最も重要な課題の一つである。しかし,初心者には面倒な添字の扱いに困難を感じることが多いようだ。一方,テンソル代数を直観的に扱って効率的に計算する図形的表現があることが知られている。これは代数計算と同等な記憶コードに相当するものだ。
図形的表現法は,教育的な文脈ではベクトル空間の代数的な扱いについて応用されているが,これを3次元ユークリッド空間のベクトル解析におけるベクトル場の微積分に適用している文献はない。
そこで,物理学専攻の学生と教育者を対象として「ベクトル解析の図形表現」を導入し、その教育学的利点を示し,純粋な数学的な等式と物理学の実用計算の両方を含む十分な演習を提供します。図形表現は教育環境で容易に利用でき,ベクトル解析の学習と実践の障壁を下げるだけでなく,学生に興味を持たせ、ベクトル解析の構文を操作してテンソルの言語を発見的に学習して理解するようになる。
 問題は,LaTeXで簡単に書けないことかもしれない。まったくできないわけではないが。
FreeTikZとか。

2019年12月9日月曜日

膨張する個人と社会の均衡

高橋健太郎が,twitterで「膨張する個人と社会の均衡」について話題にしていた。きっかけは自民党細田派の松川るい(奈良市出身,四天王寺)の典型的な反個人主義的右翼的言論であり,米山隆一原口一博菅野完が反論を加えた。しかし,高橋の分析はさらに進んでいる。

SOGI(性的指向=Sexual Orientation・性自認=Gender Identity)や障害者・女性をめぐる問題については,ずいぶん社会的な意識がリベラル側になっている(もちろん日本会議的な反発も強いが)一方で,日本会議的な思想を十全に体現している安倍政権支持率が高い水準を維持していることの矛盾がどうも引っかかって仕方なかった。それを解きほぐす糸口の一つを提示されたような気がする。

高橋健太郎の2019.12.8の一連のツイートを以下に引用する。
「今,RTした三人のツイート,興味深いポイントだ。僕の思うところは,また違うのだが。「膨張する「個人」を抑えられなくなって社会が均衡を失いつつある」ってのは,正しいのではないだろうか。」 
「ただし,それはこれまでフツーにあったはずの「社会規範」が失われ,「社会が均衡を失いつつある」ということだ。法に定めなくても,あったような共同体の規範。あるいは,野間通易がいうところの,「だいたいの正義」でもいい。それが失われてきている。」 
「そうした個人主義の膨張が,価値相対性や新自由主義への道を辿る一方で,社会規範から解放されたいと願い,解放されたかのように感じている個人が,「社会」ならぬ「国家」と添い寝するようになったのが,今の日本の状況ではないだろうか。」 
「「膨張する個人」は,身近にあった社会規範を嫌う一方で,肉屋が好きな豚のように,国家によるコントロールなら喜んで受け入れるし,そこに同化して,他者をコントロールすることに快楽さえ見出している。そんな光景を見ているように思うのだよね,僕は。」 
「モリカケサクラもつまりは,これまでフツーにあったはずの社会規範,法に定めずともあったような共同体の規範,当たり前の正義だったり,人としての道だったりするものが,政府の中枢で完全に失われ,国家がいいように私物化されている図な訳でしょ。」 
「その意味では,安倍晋三は社会規範から解放されたいと願う「膨張する個人」の権化であり,写し鏡なんだよ。自分の力が及ぶスモール・ワールドでは,同じように振る舞いたいと思っている人々の。」 
「だから,彼らはモリカケサクラを前にしても,糾弾するどころか喝采を送り,安倍と同化して,フツーの社会規範,当たり前の正義を求める側こそを叩くわけだ。それこそ,「膨張する「個人」を抑えられなくなって社会が均衡を失いつつある」光景だよ。」
大阪での維新勢力の跋扈も全く同根であるように見える。そこには利権の顔を隠すためのうっすらと反権力的なニセ化粧さえ施されている。そして,共同体を支えてきたのが,主体的な個人間の万有引力ではなく,権威主義的な殻による社会的な斥力だったことも話を複雑化している。維新に攻撃されている学校や行政には確かに大阪人の反発を招く種もなかったとはいえない。

2019年12月8日日曜日

12月8日(Blogger 1周年)

昨年の今日,真珠湾攻撃から77年の日にこのブログを始めた。それからちょうど1年たった。途中で2回ほどお休み期間があったが,ほぼ毎日1本の記事を書いてきた。ときどき2,3日遅れになったこともあるけれど,なんとか脱落せずに続けている。

このブログの目的は,自己顕示欲の発露ということもある。統計をみれば,全期間のページビュー(PV)は4876になっているが,これは自分の分も含んでいる。参照元URL別PVが841(テイルが欠損),参照元サイト別PVが998なので,こちらがアクセス数に対応しているだろう。t.coからのアクセス(563PV)はツイッターに出したものの短縮URLだと思われる。これにm.facebook.com(202PV)やwww.osaka-kyoiku.ac.jp(159PV)が続いている。1日平均2.7PVなので,まったく顕示にはなっていない。

最もアクセスが多かったのが,自分でデータを整理した「児童・生徒の自殺(2019/10/19)」で776PV,これに続くのは「台風の運動エネルギー(2019/10/15)」の47PVでぐっと少なくなる。twitterでアナウンスすると20PV程度にはなる。

もう一つの目的は,記憶の保存や,認知症の予防だ。たぶん自分が何を考えていたのかをどんどん忘れてゆき,憶えられず思い出せない時代がくる。もしかすると自分の書いたものを理解することすらできなくなるかもしれない。それまで続けるということはアルジャーノンの日記ではないか。普通の日記ではなく,本来のブログの意味に近いものではあると思うが。

1995年に自分のホームページを始めたが,2000年初頭のブログブームには乗らなかった。それでも,2010年5月にはこのBloggerのアカウントを作っている。twitterのアカウントを作ったのは,はじめてiPhoneを買った2008年の8月なので,それよりも遅い。Bloggerの方はその後ずっと放置してきたが,年賀状をやめるときにその代替としてアナウンスする必要があったため,12月8日というタイミングで始めたのだった。

2019年12月7日土曜日

3.11のトラウマと現実否認の政治

石田英敬さんは,1953年生まれの東大名誉教授だけれど,自分とは知性のレベルが違うなあ。彼のtwitterで,安倍政権への興味深い見方が示されていた。後学のため引用しておく。

私の答え、その3:「いろいろ考えてきたんだが、私の答えは、いまの日本は、〈2011.3.11〉のトラウマから説明するのが一番分かりやすい、というもの。あの大地震、津波、原発事故のショック下に日本人たちは今もまだいるんだ。」 
「それで、日本人たちの半分ぐらいに、精神分析のいう、le déni de réalité の反応を引き起こした。現実を否認して出来事は全くなかったかのごとく暮らすように決めた。それで、あの出来事はまるで夢のなかで起こった出来事であったかのように、悪夢のように忘れさることに決めたのさ。」 
「そこに入り込んだのが、アベとその一味による今のアベ政権だというわけだ。3.11はとっても好都合なことに、たまたま野党がごくまれに政権についていたときに偶然起こった。災害の準備を怠ったのも原発を始めたのもあらゆる対策をネグッたのも全部自民党政権だったのにね。」 
「それで、あの出来事全体の一切合切をアベたちは全部野党のせいにすることにした。すべての現実を否認して、他者に責任を転嫁することにした。そして、あの出来事の自分たちの責任と影響をすべて否認することにした。」 
「それだけじゃなく、今の日本は世界から落伍していきつつあるし、経済もうまく行っていないし、人口を激減で衰退がせまっているのに、そんなことはいっさいない、というストーリーを組み立てることにした。お金も狸の葉っぱみたいに刷り続けて見せかけだけは株価をつりあげて経済もうまくいってる」 
「ように見せかけることにした。すべてを「現実の否認」の政治で塗り込めるようにした。それが、あのアベという男の長期政権なのさ。ウソを基調にした、ポスト・トゥルースの政治なのさ。」
[1] NULPTYX.COM 石田英敬のブログ

2019年12月6日金曜日

記述式問題見直しへ

大学入学共通テストの記述式問題について,与党公明党から延期・見直しの提言が萩生田文部科学大臣に届けられ,延期の可能性が高まってきた。柴山前文部科学大臣も「(国・数の記述式試験延期の可能性について)これは現場の状況をきちんと確認して、受験生に不利益が起きないようにすることが最優先だ」と言い出す始末である。なんなのだろう。

安倍・菅への向かい風が強くて,下村博文とその仲間たちをかばう余裕がなくなっているということか。

英語民間試験のほうも含め,まだまだ予断を許さない。延期で時間をかけることにより周到でよけいに面倒なシステムが導入されかねない。高大接続改革の御旗のもと,民営化まっしぐらをめざそうという取り巻きはごまんといるのだから。鈴木寛とか。

[1]2019.11.3 民間試験導入としての記述式問題
[2]2019.7.7 記述式問題の問題
[3]2019.7.6 大学入学共通テストの採点

2019年12月5日木曜日

不正・忖度・虚偽・隠蔽

ちっとも回転しないPDCAサイクルの欺瞞性は最近では良く知られるようになった。
一方,不正・忖度・虚偽・隠蔽のCCCCサイクル(Corruption-Conjecture-Chicanery-Concealment)は季節外れの桜吹雪をまき散らしながら高速回転している。


2019年12月4日水曜日

PISA2018

OECD生徒の学習到達度調査(PISA)は3年ごとに本調査が実施されている。このほど,PISA2018の結果が公表された。利害関係者の皆様は,戦々恐々としてこの餌に飛びつこうとしている。長期トレンドは平坦でありあまり変わっていないというのが結論のはずだが,変化分を強調して見たい向きからすれば,読解力が落ちたというのがセールスポイントになるのだろう。

読解力に関しては,6段階のレベルの上位層は前回とあまり変わらないが,中位層が減って,下位層が増えているようだ。「評価し,熟考する」能力については、2009年調査結果と比較すると,平均得点が低下しており,特に,2018 年調査から追加された「質と信ぴょう性を評価する」「矛盾を見つけて対処する」の正答率が低かった。とのことであり,そりゃあ桜を見る会を巡るこの間のグダグダな日本のマスコミと政府を見ていれば宜なるかなだろう。

一部コンピュータ型調査であることと学校におけるコンピュータ使用率の低さと絡めた議論にしたがる勢力もありそうだが,それはそれ,これはこれ。むしろスマートフォンによる断片的コミュニケーションや離散的情報取得に完全に適応しているネイティブICT人類についての分析の方が必要なのではないだろうか。

2019年12月3日火曜日

蛙飛び法

ファインマン物理学の第I巻の第9章蛙跳び法による運動のシミュレーションが取り上げられている。バネの運動の場合,運動方程式は,$m \ddot{x} = -k x$であるが,これを$\dot{x}=v$と$\dot{v}= -k/m x = -\lambda x$としてオイラー法を適用する。$\epsilon=t_{n+1}-t_n, \ f_n=f(t_n)$などとして,
前進差分は,
\begin{equation}
\begin{aligned}
x_{n+1}=x_{n}+\epsilon v_{n}\\
v_{n+1}=v_{n}- \lambda \epsilon x_{n}
\end{aligned}
\end{equation}
後退差分は,
\begin{equation}
\begin{aligned}
x_{n+1}=x_{n}+\epsilon v_{n+1}\\
v_{n+1}=v_{n}- \lambda \epsilon x_{n+1}
\end{aligned}
\end{equation}
中心差分は,
\begin{equation}
\begin{aligned}
x_{n+1}=x_{n-1}+2\epsilon v_{n}\\
v_{n+1}=v_{n-1}- 2\lambda \epsilon x_{n}
\end{aligned}
\end{equation}
中心差分の片方をずらすと蛙跳び法の表式が得られる。
\begin{equation}
\begin{aligned}
x_{n+2}=x_{n}+2\epsilon v_{n+1}\\
v_{n+1}=v_{n-1}- 2\lambda \epsilon x_{n}
\end{aligned}
\end{equation}
一方,前進差分と後退差分は,次のように表せる。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\begin{pmatrix}x_{n+1} \\ v_{n+1}\end{pmatrix} &=
\begin{pmatrix} 1 & \epsilon \\ - \lambda \epsilon & 1 \end{pmatrix}
\begin{pmatrix}x_{n} \\ v_{n}\end{pmatrix} \\
\begin{pmatrix} 1 & -\epsilon \\ \lambda \epsilon & 1 \end{pmatrix}
\begin{pmatrix}x_{n+1} \\ v_{n+1}\end{pmatrix}
&= \begin{pmatrix}x_{n} \\ v_{n}\end{pmatrix}
\end{aligned}
\end{equation}
陰解法となっている後退差分を解いて$ o(\epsilon^2)$まで考えると,
\begin{equation}
\begin{pmatrix}x_{n+1} \\ v_{n+1}\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}\dfrac{1}{1+\lambda \epsilon^2} & \epsilon \\
-\lambda \epsilon &  \dfrac{1}{1+\lambda \epsilon^2}\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}x_{n} \\ v_{n}\end{pmatrix}
\end{equation}
前進差分と後退差分の平均をとると,中心差分に相当するものが得られる。
\begin{equation}
\begin{pmatrix}x_{n+1} \\ v_{n+1}\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}1 - \lambda \epsilon^2 /2 & \epsilon \\
-\lambda \epsilon &  1 -\lambda \epsilon^2 /2 \end{pmatrix}
\begin{pmatrix}x_{n} \\ v_{n}\end{pmatrix}
\end{equation}

2019年12月2日月曜日

大仏迴国

京都みなみ会館典座を見に行く途中の近鉄電車内で検索作業中の妻に,大仏迴国という映画もやっているようだよ,と教えてもらった。典座の方は昨夜みた評判にちょっと不安があったので,私だけあわててそちらに切り替えた。近所のル・ブランで昼食をすませ,新装されたみなみ会館の1Fで開始までの時間待ち。

あとで調べたところ,京都みなみ会館は怪獣映画の聖地とよばれていたそうだ。それならば,日本の怪獣映画の原点としての大仏迴国リメイクが上映されている意味も大きい。ところで,そのリメイクは残念ながらリメイクではなかった。なんといえばいいか。よくわかりませんでした。宝田明,久保明,小林夕岐子,螢雪次朗は日本の怪獣映画のオマージュということらしい。大槻義彦とたま出版の韮澤潤一郎の対談もその派生物か。製作費が300万円なので,立ち上がった聚楽園大仏(じゃないのか,茨城県の大仏だった)のCGもかなり制限されていた。脚本はまあ支離滅裂といったところだろうか。よくわからないがオカルト風味と東京の地震の終末感風味で終わってしまった。

P. S. 典座のほうもちょっと残念だったようだ。

2019年12月1日日曜日

アドベントカレンダー

さあ12月,師走がやってきた。アドベントカレンダーの季節だ。12月1日からはじまり,クリスマスまでの毎日(24日または25日)をカウントダウンする目的のカレンダーのことだが,インターネット上ではプログラミングや様々なテーマについてのブログを毎日書いていくというものだ。Qiita Advent Calendar 209には702テーマがあり,参加者も1万人を越えている。アドベントカレンダーを作れるサイトとしては,Adventar などもある。これはちょっと一覧性に欠けているが,仲間内だけにサーキュレートするためならこれで十分なのか。数理物理 Adventar Calendar 2019 とか。日曜数学 Advent Calendar 2019 とか。数値計算 Advent Calendar 2019とか。