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2023年11月4日土曜日

量子認知

シンギュラリティサロン・オンラインでセーラー服おじさんが,量子認知を取り上げていた。

どうやら,トンデモ科学ではなさそうである。さっそく原論文を調べてみた。英国のサリー大学の数学物理学科の教授,D. C. Brody の Quantum formalism for cognitive psychology (2023) だ。そこで,Claudeにファイルをアップロードし,要約させていろいろ尋ねてみた。
Q:次の論文を詳しく要約してください。

A:はい、論文の要約を試みます。
この論文は、量子力学の形式主義を認知心理学に応用し、精神状態をヒルベルト空間のベクトルで表現することを提案しています。

・選択肢の集合は観測量演算子として表現でき、確率は量子力学の振幅に対応する。
・情報取得による精神状態の変化は、フォン・ノイマン=リューダースの投影公式によって記述できることを示し、これがベイズ的更新に一致することを説明している。
・投影公式は不確実性を最小化する過程を導くため、適応的な情報処理の原理と整合的である。
・状態空間上のダイナミクスでは、不確実性ゼロの状態が引力点となる。これが偏見の強固さの起源となる。
・非可換な選択肢を導入することで、偏見からの脱出経路を提供できる。これは古典的推論では不可能。
・量子力学的形式主義は認知心理学に新しい洞察を提供し、実験結果の説明に有用である。

このように、本論文は認知プロセスを記述・予測するために、量子力学の数学的枠組みが非常に効果的であることを説得力を持って主張している、と要約できると思います。

Q:精神状態をヒルベルト空間のベクトルで表現する場合,その時間発展を支配するハミルトニアンはどんな構造をしているのですか?

A:この論文では、精神状態の時間発展を支配するハミルトニアンについては具体的に触れられていないようです。
一般に、量子力学的な形式主義を認知プロセスに適用する場合、ハミルトニアンよりもむしろ観測プロセス(情報の取得)に注目が置かれることが多いと思われます。
この論文でも、情報取得による状態変化をフォン・ノイマン=リューダースの投影公式によって表現しています。
投影過程はハミルトニアンによる自発的な時間発展ではなく、外部からの作用による状態変化を記述していると見ることができます。
したがって、この枠組みでは明示的なハミルトニアンよりも、むしろ投影演算子に注目が置かれているように思われます。ハミルトニアンの存在は仮定されていないと考えられます。
精神状態の時間発展を記述する上で、具体的なハミルトニアンを特定することは今後の課題かもしれません。この論文ではそこまで踏み込んでいないように思われます。

Q:それでは,このヒルベルト空間を具体的な関数空間として表現したときの関数の引数となる変数群は,精神状態におけるどの観測量と対応することになるのでしょうか。

A:はい、精神状態のヒルベルト空間を具体的な関数空間として表した場合についてですが、この論文からは直接その点を読み取ることは難しいと思います。
一般的に、量子力学的な認知モデルでは、以下のような対応付けがなされることが多いと考えられます。
・ヒルベルト空間の基底は、選択肢や判断の対象となる事象などを表現する。
・関数の引数となる変数は、それらの選択肢や事象を区別するのに必要な特徴量や属性値と対応する。
例えば、2つの選択肢AとBがある場合、関数空間は2次元となり、その引数はAとBを識別できる何らかの変数になると考えられます。
具体的には、判断対象の視覚画像であれば画素値、意思決定なら結果の価値や確率、概念であれば特徴的な属性等が変数となるのではないでしょうか。
ただし、この論文から直接そうした対応関係を特定することは難しく、仮説の域を出ないと思われます。重要なのは選択肢などをベクトルで表現し得ること自体だと考えられます。

Q:精神状態をヒルベルト空間のベクトルで表現することを正当化する具体的な実験的事実はなんでしょうか。

精神状態をヒルベルト空間のベクトルで表現することを正当化する実験的事実について、この論文からは具体的に特定できるものはないと思われます。
ただし、一般的には以下のような心理学実験の結果が、精神状態のベクトル表現の妥当性を支持する証拠として論じられることが多いと思います。
・確率の法則が成立しない判断パターンの存在
・順序効果の存在(判断の順序によって結論が変わる)
・意思決定の非可換性(選択肢の順番に依存する)
・確率の更新に関する非ベイズ的なパターン
これらの結果は、古典的確率では説明が困難である一方、量子確率の枠組みで説明可能とされています。
しかし、この論文中にそうした具体的な実験事実への言及は見当たりませんでした。むしろ一般的な提案の域を出ない印象です。
正当性の具体的な実証は今後の課題として残されているのかもしれません。

2023年1月12日木曜日

量子の冬 

いつものことだけれど,日経は美味しいトピックが見つかると,正月からぶっ込んでくる。今回のそれは,量子コンピュータだ。

1月3日のルイ・ビトン=草間彌生につつまれた日経朝刊の第一面トップ記事が,量子計算機と「富岳」連携 理研実用化25年に前倒し だった。スーパーコンピュータ富岳と理研の量子コンピュータのハイブリッドシステムを和光市の理化学研究所キャンパスに設置するらしい。「ハイブリッド型量子計算機」は世界の潮流になっていると煽っている。

arxivで調べても,hybrid quantum computing をタイトルに持つ論文は16編(全フィールドでも42編)しか見つからないんですけど・・・。富士通の2022年11月のプレスリリースを読んでみた。単に量子化学計算の所与の問題からHPC向けアルゴリズムと量子アルゴリズムのプログラムを生成して,適当に振り分けて使うだけのシステムに過ぎないように見える。8086に8087を付加して数値計算の高速化を図るというようなイメージでまったくない。

量子コンピュータの研究が中国や米国や欧州などで,日本を大きくしのぐ水準で進められているのは確かだとしても,追いつけ追い越せのためにありもしない幻想を振りまいて煽るのは道かと思う。もちろん,これは日経新聞などメディアだけの責任ではなく,怪しげな旗を振っている経済産業省や文部科学省にも問題があると思う。

こうなると,逆張りする人々も現れる。2022年12月に,CNET Japannでは,量子コンピューティングの今--「量子の冬」への警戒と実用化に向けた着実な進化という記事が出ていた。最もここで取り上げていたのは,YouTubeでお馴染の物理学者,あのSabine Hossenfelder なので,これはこれで適当に割り引いて見ておく必要がある。どっちもどっちでなんだかなぁ案件。


図:Image of Quantum Winter by DiffusionBee

[1]The Quantum Hype Bubble is About to Burst(Sabine Hossenfelder)

2022年12月24日土曜日

第二次量子革命

arxiv.orgに1000ページを超えるレポートがあった。タイトルは,Understanding Quantum Technologiesで,著者は,Olivier Ezrattyというソフトウェアエンジニアで,量子技術関連のコンサルタントらしい。怪しさ満点。

量子力学的粒子の多体系集団を扱えるようになったのが,1947年からの第一次量子革命であり,トランジスター,レーザー,太陽電池,発光ダイオードなどの技術を指している。2018年からの第二次量子革命は,単一量子のレベルまで含んで重ね合わせとエンタングルメントを扱えるようになったものであり,量子計算,量子通信,量子暗号,量子測定などの技術を指している。

まあ,だいたいそんなものかもしれない。2025年はハイゼンベルクがヘルゴランドで量子力学の基本的関係式を思いついてから100年目にあたるので,大阪万博ではなくてこちらの方で盛り上がることになるのではないかと予想していたけれど。日本は米国に忖度しすぎて武器購入大盤振る舞いと科学技術放擲大作戦の真っ最中となってしまった。

PCR検査を否定するような非合理的政策がまかりとおり,新しいパラダイムでベンチャーによって開発が促進される新薬の承認スケジュールからどんどん取り残される中,選択と集中の旗をかかげ続けたまま学者集団をディスり続けるこの国の将来っていったい何なのだろうか。


図:第一次&第二次量子革命(Understanding Quantum Technologiesから引用)

2022年9月11日日曜日

Modern Quantum Mechanics

東北大学の堀田昌寛さんと玉川大学の中平健治さんの論争が迷走していた。 

堀田さんの教科書「入門 現代の量子力学」は最近人気の1冊だ。その第2章は二準位系の量子力学,第3章は多準位系の量子力学となっていて,最小限の物理的な実験事実から,量子力学の基礎的な原理を導いて,量子情報・量子測定まで至るというものだ。

これまでの量子力学のような特殊関数にがんじがらめになっているところはばっさり削っていて,情報科学の学生等をも視野に入れた非常にモダンで野心的な内容だ。まあ,自分にとっては,岩波書店の砂川重信先生(1925-1998)の量子力学の展開のほうが正典的でカッコよくみえるのだけれど。

中平さんは,堀田さんが説明している前提だけを使った場合,二準位系の量子力学の原理から多準位系の原理を導くことは数学的にはできていないということを主張した。一方,堀田さんは,教科書の補足文書を公開して前提を説明しており,物理的に検証な可能な前提条件の組み合わせで,二準位系の量子力学の原理が三準位系の量子力学でも成立することを証明できているのだとした。

たぶん,数学者と物理学者の証明という言葉の使い方と(公理からの演繹なのか,実験的に検証できる推論ならば証明とするのか,あたり),前提条件の理解に齟齬があるような気がするけれど,まあ相変わらずのよくあるやぎさん郵便コミュニケーションの一例かもしれない。

さて,それはどちらの言い分が正しいのかよくわからないが,堀田さんの教科書ではシュテルン=ゲルラッハの実験が二準位系の量子力学構築の出発点とされている。これは,桜井純(J. J. Sakurai)(1933-1982)が残した,Modern Quantum Mechanics(Adison-Wesley 1985)で展開された方法を踏襲したものだ。

大学院生のころ,桜井の Advanced Quantum Mechanics は,西島和彦(1926-2008)のFields and Particles と並んで精読した1冊だった。一方,大坪先生がすごくいいと褒めていたModern Quantum Mechanicsの方はとうとう読まずじまいに終った。ちゃんと勉強しておけば良かった。

堀田さんの教科書を眺めていると,桜井にはどう書いてあったのか気になって本棚から引っ張り出してきた。第1章の12行目でいきなりつまづいた。Davisson-Germer-Thompson experiment とあるのだ。あれ?電子線回折ならば,J. J. Thomsonの息子の G. P. Thomson (1892-1975)がここにくるのではないか。あちこち調べたけれど,Typoのような気がする。ところが,Modern Quantum Mechanicsの第三版でも直っていないのだ。うーん・・・。

2022年3月1日火曜日

丸山レクチャー

 統計力学の準備でエントロピーを検索していたら,Maruyama Lecturesの情報とエントロピー入門Part 1というコンテンツが網にかかってきた。内容は確かに面白そうで大部の講演資料もついていたけれど,ちょっと詰めが甘いというか,話題網羅主義でストーリーができていないような感じだった。

ただし,タイトルには自分の中2ごごろをくすぐる興味深いものが並んでいるではないか。ジャンル一覧は,エンタングルメント,エントロピー,量子論と量子コンピュータ,計算科学と複雑性,認識の理論,プログラムと論理,人工知能,言語理論というもので,最新のレクチャーは,「Bob Coeckeの “Picturing Quantum Processes”に依拠して、量子過程を図解する手法としてのString Diagramを学びます」なのだから。

いったいどこのおじさんがこれを作っているのかと調べてみると,丸山不二夫(1948-)さんだった。どこかで見たことがある名前だと思ったら,稚内北星学園大学の初代学長であり,たぶん黎明期のパソコン雑誌で連載を持っていたので知っていたのだと思う。それがちょっと見当たらない。

丸山さんの経歴によれば,東京大学教育学部の出身で,一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了,指導教官は岩崎允胤となっている。岩崎さんはマルクス主義哲学の御大であり,「現代自然科学と唯物弁証法」は大学生のときの必読書(ホント?)だった。それがMaruLaboのマルレクにつながっていると考えればなんと納得が行く話だ。


写真:圏論的量子力学の書影(Amazonから引用)


2022年2月26日土曜日

関係量子力学(2)

Relational Quantum Mechanicsを関係量子力学と訳したけれどこれでよかったのか気になる。Relationalは形容詞なので ,関係的とかではないのかと思った。考えてみれば,リレーショナル・データベースの場合もカタカナでなければ関係データベースなわけで,英和辞典の例をみれば,ほとんどの場合,関係+名詞でよかった。

Relational Quantum Mechanics(RQM)の日本での評判を調べてみた。CiNiiではゼロでした。つまりは,ほとんど問題にもされていないということか。

Twitterでは2件ある。1つは東北大学の堀田昌寛さんで,RQMは標準コペンハーゲン解釈(フォン・ノイマン=ウィグナー流,量子力学=情報理論)とほとんど同じだが,意識を表わす直交基底系の選択ができない不良設定問題に陥っていると断じている(2021年11月)。堀田流解釈では意識が公理として定義(設定)できているということなのか。

もう1つは高知工科大学の全卓樹さんと阿蘇の史(Jimmy Ames)さんのTwitter上での議論だ(Carlo Rovelliの関係的量子力学をめぐって)。全さんの否定的評価を中心とした対話が続いていた(2017年)。まあ,最終的な落とし所はそこまででもなかったのかもしれない。

堀田さんは(あるいは皆さんは),簡単に人間の意識状態や宇宙の状態を1つのケットベクトルで表現している。フォン・ノイマンやウィグナーはそういう議論をしていたのかもしれない。抵抗はないものの,普通の教科書には書いていないのでちょっと気持ち悪い。

量子力学の解釈問題の歴史に関するオックスフォードのハンドブックが来月にも出版されそうだ。ちょっと高いので購入はためらわれるが,目次だけ整理してみた。

The Oxford Handbook of the History of Quantum Interpretations
Full Professor of Physics and History of Physics Olival Freire Jr
Oxford University Press, 2022/03/07 - 1312p
Introduction 1 

Part I Quantum Physics - Scienftific and Philosophical Issues Under Debate
1. Quantum Mechanics is Routinely Used in Laboratories with Great Success, but No Consensus on its Interpretation has Emerged 7
2. Philosophical Issues Raised by Quantum Theory and its Interpretations 53

Part II Historical Landmarks of the Interpretations and Foundations of Quantum Physics
3. Quantization Conditions, 1900-1927 77
4. Of Weighting and Counting: Statistics and Ontology in the Old Quantum Theory 95
5. Dead as a Doornail? Zero-Point Energy and Low-Temperature Physics in Early Quantum Theory 117
6. The Early Debates about the Interpretation of Quantum Mechanics 135
7. Foundations and Applications: The Creative Tension in the Early Development of Quantum Mechanics 173
8. The Statistical Interpretation: Born, Heisenberg, and von Neumann 1926-27 203
9. A Perennially Grinning Cheshire Cat? Over A Century of Experiments on Light Quanta and Their Perplexing Interpretations 233
10. The Evolving Understanding of Quantum Statistics 255
11. The Measurement Problem 281
12. Einstein's Criticism of Quantum Mechanics 303
13. Tackling Loopholes in Experimental Tests of Bell's Inequality 339
14. The Measuring Process in Quantum Field Theory 371
15. The Interpretation Debate and Quantum Gravity 393
16. Quantum Information and the Quest for Reconstruction of Quantum Theory 417
17. Natural Reconstructions of Quantum Mechanics 437
18. The Axiomatization of Quantum Theory through Functional Analysis: Hilbert, von Neumann, and Beyond 473
19. Tony Leggett's Challenge to Quantum Mechanics and its Path to Decoherence 495

Part III Places and Contexts Relevant for the Interpretations of Quantum Theory
20. The Copenhagen Interpretation 521
21. Copenhagen and Niels Bohr 543
22. Grete Hermann's Interpretation of Quantum Mechanics 567
23. Instrumentation and the Foundations of Quantum Mechanics 587
24. Early Solvay Councils: Rhetorical Lenses for Quantum Convergence and Divergence 615
25. The Foundations of Quantum Mechanics in Post-War Italy's Cultural Context 641
26. Foundations of Quantum Physics in the Soviet Union 667
27. Early Japanese Reactions to the Interpretation of Quantum Mechanics 1927-1943 687
28. Form and Meaning: Textbooks, Pedagogy, and the Canonical Genres of Quantum Mechanics 709
29. Chien-Shiung Wu's Contributions to Experimental Philosophy 735
30. On How Epistemological Letters Changed the Foundations of Quantum Mechanics 755
31. Quantum Interpretations and 20th Century Philosophy of Science 777

Part IV Historical and Philosophical Theses
32. Bohr and the Epistemological Lesson of Quantum Mechanics 797
33. Making Sense of the Century-Old Scientific Controversy over the Quanta 825
34. Orthodoxy and Heterodoxy in the Post-war Era 847
35. The Reception of the Forman Thesis in Modernity and Postmodernity 871
36. Quantum Historiography and Cultural History: Revisiting the Forman Thesis 887
37. The Co-creation of Classical and Modern Physics and the Foundations of Quantum Mechanics 909
38. Interpretation in Electrodynamics, Atomic Theory, and Quantum Mechanics 937

Part V The Proliferation of Interpretations
39. Hidden Variables 957
40. Pure Wave Mechanics, Relative States, and Many Worlds 987
41. Is QBism a Possible Solution to the Conceptual Problems of Quantum Mechanics? 1007
42. Agential Realism -- A Relation Ontology Interpretation of Quantum Physics 1031
43. The Relational Interpretation 1055
44. The Philosophy of Wholeness and the General and New Concept of Order: Bohm's and Penrose's Points of View 1073
45. Spontaneous Localization Theories Quantum Philosophy between History and Physics 1103
46. The Non-Individuals Interpretation of Quantum Mechanics 1135
47. Modal Interpretations of Quantum Mechanics 1155
48. A Brief Historical Perspective on the Consistent Histories Interpretation of Quantum Mechanics 1175
49. Einstein, Bohm, and Bell: A Comedy of Errors 1197
50. The Statistical Ensemble Interpretation of Quantum Mechanics 1223
51. Stochastic Interpretations of Quantum Mechanics 1247
Index 1265


写真:The History of Quantum Interpretationの書影(amazonより引用)

2022年2月25日金曜日

関係量子力学(1)

 関係量子力学について,Stanford Encyclopedia of Philosophy で勉強してみる。Copyright © 2019 by Federico Laudisa, Carlo Rovelli で本人が書いているので安全なやつだ。

関係量子力学(Relational Quantum Mechanics)

関係量子力学(RQM)は,現在まで議論されている量子力学の解釈の中で,最も新しいものである。RQMは,1996年に量子重力を研究していたロベリによって導入されたが(Rovelli 1996),この十年の間にしだいに,しかし着実に関心が高まってきた。RQMは,本質的に教科書的な「コペンハーゲン」解釈の改良版であり,観測者の役割を担えるのは古典的な系に限定されず,あらゆる物理系が担うことができるとされている。RQMは,波動関数(より一般的には量子状態)の存在論解釈を否定している。波動関数や量子状態は,古典力学のハミルトン=ヤコビ関数と同様の意味で,補助的な役割しか果たしていない。これは,存在論的な言及の否定を意味するわけではない。RQMは,古典力学と同様に,物理変数によって記述される物理系によって与えられる存在論に基づいている。古典力学との違いは,(a)変数は相互作用のときだけ値をとること,(b)変数のとる値は相互作用の影響を受ける(他の)システムに対して相対的にのみ決まることである。ここでいう「相対的」とは,古典力学において速度が他の系に対する系の性質であるのと同じ意味である。したがって,RQMでは,世界は,物理変数の時間的な相対値によって記述される,疎な相対的事象の発展的なネットワークとして記述される。

RQMの基礎となる物理的仮定は次のようなものである。S'に対する相対的変数の(未来の)値に対する確率分布は,S′に対する相対的な変数の(過去の)値に依存するが,別のシステムS″に対する相対的な変数の(過去の)値には依存しない。

この解釈では,定式化されるべき古典的世界の存在や,特別な観測者系を想定する必要はなく,測定に特別な役割を与えることもない。そのかわり,任意の物理システムがコペンハーゲン解釈における観測者の役割を果たすことができ,任意の相互作用が測定と見なされることを仮定している。これは,上記の物理的仮定により,量子論の予言を変えることなく可能である。なぜならば,S′によって観測される干渉効果は,別のシステムS″と相対的な変数の実現によって消去されることがないからだ(もちろんデコヒーレンスによって抑制されることはある)。このように,RQMは,隠れた変数,多世界,波束の収縮機構,あるいは,心・意識・主観性・エージェントなどの特別な役割を必要とせずに,完全に量子力学的な世界を理解することができる。

このような簡略化の代償として,物理変数が非相関的な値を持ち,すべての時間に存在するとされる古典力学の強い実在論が否定される。変数が相互作用時にのみ値をとるという事実は,疎な事象(または閃光する)の存在論を与える。変数が参照する系によってラベル付けされるという事実は,世界の表現に指標性の段階概念を追加することになる。

RQMは形而上学的に中立であるが,以下に詳述する意味で,強い実在論(Laudisa 2019)に疑問を示す強い関係性の立場にある。このように実在論に障るため,RQMは,構成的経験主義(van Fraassen 2010),新カント主義(Bitbol 2007, Bitbol 2010),最近では反一元論(Dorato 2016),構造実在論(Candiotto 2017)など様々な哲学的観点の文脈で順々に嵌められてきた(Brown 2009, Wood 2010)。この解釈は,量子ベイズ主義(Fuchs 2001, 2002),ヒーリーのプラグマティズム的アプローチ(Healey 1989),特にザイリンガーとブルックナーによって論じられた量子論の見解と共通する面がある(Zeilinger 1999, Brukner & Zeilinger 2003)。

たぶん,弱測定や弱値,圏論,ベイズ推定などとも相性が良さそうな 雰囲気がただよう。そういえば,圏論的量子力学という本も出版されていたが,これは正確には,Categories for Quantum Theory: An Introductionなので少し違うかもしれない。いやいや,Categorical Quantum Mechanicsもあった。

圏論的量子力学は,圏論を利用した図式的表現にポイントがあって,解釈問題とはあまり近接しない話題のようだ。量子計算への応用があるとかなんとか。arxivで調べてみると,"Categorical Quantum Mechanics"が63件,"Relational Quantum Mechanics"が43件で,どちらも流行っていません。

[1]Fantastic Quantum Theories and Where to Find Them (Stefano Gogioso)・・・怪しい量子力学のオンパレード

2022年2月23日水曜日

ヘルゴラント

 ヘルゴラントは,ドイツの北部,北海に浮かぶとても小さな島である。

ゲッチンゲンハイセンベルクは,1924年9月から1925年4月末までコペンハーゲンのボーアの理論物理学研究所に在籍した。5月に入って,花粉症を避けるためにヘルゴラントに10日ほど滞在し,そこではじめて量子力学の正しい法則にたどり着いた。ゲッチンゲンのボルンのところに戻ったハイゼンベルクは,1925年の9月に "Über quantentheoretische Umdeutung kinematischer und mechanischer Beziehungen" (運動学的・力学的関係の量子論的再解釈) という,今日の量子力学の出発点となる論文を出す。

ループ量子重力理論の研究で有名なカルロ・ロヴェリが,量子力学が誕生したこの島の名前をつけた一般向けの著書 "Helgoland" が2020年に出版された。2021年には冨永星による邦訳,「世界は「関係」でできている:美しくも過激な量子論」が出ている。書名がヘルゴランドのままだったら,誰も買わなかったかもしれない。

この本の内容は,ハイゼンベルクによる量子力学の誕生から出発して,ロヴェリが提唱している関係量子力学(Relational Quantum Mechanics)のエッセンスを説くものらしい。というのもまだ,読んでいないので目次しかわからないからだ。

これを,意識の科学に関わっている,神経科学者の土谷尚嗣と数理物理学者で小嶋泉の学生だった西郷甲矢人が取り上げ,意識ラジオの中でロヴェリの著書を巡る対談をしていた。彼らはさらに,脳科学の大泉匡史などにつながっていた。意識を圏論で定式化できる関係によって理解しようとする流れが,関係量子力学とのつながりを発見したということか。

世界は「関係」でできているー美しくも過激な量子論
カルロ・ロヴェッリ 冨永星

第一章 奇妙に美しい内側を垣間見る
1 若きハイゼンベルクの突拍子もない思いつきー「オブザーバブル」
2 シュレーディンガーの紛らわしいΨー確率
3 この世界の粒状性ー量子
第二章 極端な思いつきを集めた奇妙な動物画集
1 重ね合わせ
2 Ψを真剣に受け止めるー多世界と,隠れた変数と,自発的収縮と
3 不確定性を受け入れる
第三章 みなさんにとっては現実,でもわたしにとっては現実でない事柄とは?
1 かつて,この世界が単純にみえたことがあった
2 関係
3 希薄で曰く言いがたい量子の世界
第四章 現実を織りなす関係の網
1 エンタングルメント
2 三人一組の踊りが織りなすこの世界の関係
3 情報
第五章 立ち現れる相手なくして,明瞭な記述はない
1 ボグダーノフレーニン
2 実体なき自然主義ー状況依存性
3 土台がない? ナーガルージュナ(龍樹
第六章 「自然にとっては,すでに解決済みの問題だ」
1 単純な物質?
2 「意味」は何を意味しているのか
3 内側から見た世界
第七章 でも,それはほんとうに可能なのか


写真:RobvelliのHelgolant(イタリア語原著の書影)

[1]圏論による意識の理解(土谷尚嗣・西郷甲矢人,2019)

2021年5月5日水曜日

量子力学100年 

1925年の7月29日に受理されたハイゼンベルグの量子力学の第一論文,Über Quantentheoretische Umdeutung kinematischer und mechanischer Beziehungen. (運動学的および力学的関係の量子理論的再解釈について)は,Zeitschrift für Physik December 1925, Volume 33, Issue 1, pp. 879–893 に掲載された。

2025年にはちょうど100周年を迎えることになるので,量子力学誕生100周年のお祭りが催されると思われる。1926年の1月27日に受理され,Annalen der Physik, vol. 384, Issue 4, pp. 361-376に掲載された,シュレーディンガー方程式の第一論文 Quantisierung als Eigenwertproblem (固有値問題としての量子化)まで含めれば,2年にわたって様々な企画が登場するのではないか。

今日の日経1面は,「量子技術官民で研究 トヨタや東芝50社と協議会」で,「量子技術は特殊な物理法則である量子力学を高速計算や通信に利用するものだ。コンピュータの処理能力を飛躍的に向上させられる」とある。特殊な物理法則てなんやねん。

3面には「量子力学」という言葉の解説があり,「アインシュタインの相対性理論と双璧をなす現代物理学の土台の理論」まあ,こちらのほうがましか。量子力学の概要が次のようにまとめられている。
歴史:オーストリアのシュレーディンガーらにより20世紀前半に構築→ハイゼンベルクはどこへいった。 
特徴:電子や光子(光の粒)といった「量子」の不思議な振る舞いを説明
応用:20世紀に半導体,レーザーの技術の発展に貢献
   21世紀に入りコンピュータ,通信,暗号,センサーなどに革新をもたら   「第2次量子革命」が進行中
P. S. 昭和は1926年12月25日からはじまるので,昭和元年≒量子元年とアサインできる。昭和28年は量子28年だった。平成元年(1989)≒量子64年,令和元年(2019)≒量子94年となる。ということは,量子力学100年イベントは,昭和100年イベントと干渉してしまうのかもしれない。そのころに改憲国民投票が設定されるのだろうか・・・orz

2020年8月28日金曜日

量子論の整合性

ETHのD. Frauchigerと R. Rennerによるネイチャー・コミュニケションのオープンアクセス論文,"Quantum theory cannot consistently describe the use of itself",は2018年に発表されていたが,今ごろその情報が伝わってきた。アブストラクトをDeepLで翻訳してみる。R. Rennerの論文はいろいろとおもしろそう。

量子論は物理学の基本的な過程を非常に正確に記述しています。そのため,この理論は,これまで実験的に検証されてきたミクロな領域を超えて応用できる可能性が高いと考えられています。ここでは,量子論が原理的に普遍的な有効性を持つことができるかどうかを調べるための実験を提案します。もし,その答えがイエスであれば,量子理論を使っているエージェントを含む複雑なシステムをモデル化することが可能であるはずだという考えです。この仮定の下で実験を分析すると,あるエージェントが特定の測定結果を観察すると,別のエージェントが確実に反対の結果を予測したと結論づけなければならないことがわかります。これらのエージェントの結論は,すべて量子論の中で導き出されたものであるにもかかわらず,矛盾しています。このことは、量子論は複雑なシステムには外挿できないことを示しています。

2020年6月19日金曜日

核電気共鳴(NER)

オーストラリアのニューサウスウェールズ大学のグループが,実験の失敗から量子コンピュータへの道のブレークスルーを開いたかもしれないという3ヶ月前の記事(2020.3.20)にぶつかったので,調べてみた。arxivの "Coherent electrical control of a single high-spin nucleus in silicon" だ。

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原子核スピンは高度にコヒーレントな量子オブジェクトである。大規模なアンサンブルにおいて,核磁気共鳴によってその制御と測定が行われ,化学,医学,材料科学,鉱業などで広く利用されている。また,原子核スピンは、量子情報処理の初期のアイデア[1]や実証[2]にも登場している。これらのアイデアをスケールアップするには,個々の原子核を制御する必要がある,つまり,原子核が一つの電子と結合したことを検出できるということだ[3, 4, 5]。

しかし,原子核との相互作用は振動する磁場によってもたらされる必要があるが,磁場を局所化したり遮断したりできないことから,多スピンナノスケール素子への組み込みは複雑になる。電場を用いた制御はこの問題を解決するだろうが,これまでの方法[6,7,8]では,電子と原子核の超微細相互作用をとおして電気信号を磁場に変換することに依存していたため,原子核スピンのコヒーレンスに重大な影響を与えていた。

ここでは,シリコンナノ電子素子内で生成された局所的な電場を用いて,単一アンチモン(スピン7/2)原子核のコヒーレント量子制御を実証した。この方法は、1961年に最初に提案されたアイデア[9]を利用したものであるが、これまで単一の原子核では実験的に実現されていなかった。我々の結果は,微視的な理論モデルによって支持されている。それは,原子核四重極相互作用の純粋な電気的変調が,格子歪みのもとで,コヒーレントな核スピン遷移をもたらすことを説明している。

その結果得られたスピン脱フェージング時間0.1秒は,電気的に駆動するために結合した電子スピンを必要とする方法で得られた結果を1桁以上回っている。これらの結果は,高スピンで四重極能率を持つ原子核が,完全に電気的な制御を用いて,カオスモデル,歪みセンサー,ハイブリッドスピン機械量子システムとして展開できることを示している。電気的に制御可能な原子核を量子ドット[10, 11]と統合することで,振動磁場を必要とせずに動作する,シリコン上でのスケーラブルな核・電子スピンベースの量子計算機への道が開けるかもしれない。
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arxivで見つかる Nuclear Electric Resonance には,日本のNTT−東北大−ERATOグループによる,"Electric-Field-Induced Nuclear Spin Resonance Mediated by Oscillating Electron Spin Domains in GaAs-Based Semiconductors" とか,"Spatial distribution of dynamically polarized nuclear spins in electron spin domains in the ν = 2/3 fractional quantum Hall state studied by nuclear electric resonance"とかが出てくる。ううむ,NERは自然言語処理分野では,Named Entity Recognitionのアクロニムなのか。

たんに,核四重極能率をつかったスピン制御というのであれば,ベータ崩壊の核整列における杉本−南園グループの手法とかわらないような気がするけれど,どこが本質的な違いなのだろうか。

2020年2月26日水曜日

特集−量子コンピュータ(5)

特集−量子コンピュータ(4)からの続き

17.河西棟馬(技術史)
   情報概念の形成(15p ☆☆☆)
   1920年代における物理学と工学の接近
科学的な情報概念の誕生の契機として,統計学,通信工学,物理学(統計力学)をあげている。大阪教育大学に教養学科を設置したとき,情報科学専攻が設けられ,そのカリキュラム試案が提示されたことがある。木立先生が,なんでこんなところに統計力学が入っているんだとディスっていて削除されたのだが,たぶん,どこかの大学をモデルにしていたのだろう。まあ,入っていると物理の誰かが担当しなければならないので,正解だったかもしれないが,後に物理出身の藤田修先生が着任されたので,入っていても良かったかな。河西さんはハートリーやナイキストに通信工学における定量的情報概念の形成の出発点を見出し,シラードエンジンからシャノンまでの歴史を辿っている。

18.鈴木真奈(論理学/科学史)
   ホームオートメーション再考(12p ☆☆)
   1980年代の日本が描いた21世紀の情報化社会
たぶん,本書のテーマから最も距離のある論考だ。確かに,2010年代のIoTと1980年代のホームオートメーションは同じなのだ。奈良県の東生駒でCATVが始まったのはよくおぼえているし,それがゆえに,自宅のネットワーク回線はいまだにKCNだったりする。ISDNも使っていたが,一瞬でなくなってしまった。CDの誕生から消滅も一瞬といえるのだろうか。1990年代に大学のネットワークを含んだ将来構想を考えていたときは,この1980年代の古いマルチメディア社会をベースにしながら,それを越えるものとしてイメージしていたはずだ。

19.加藤夢三(日本近代文学)
   偶然性・平行世界・この私(11p ☆☆☆)
   量子力学と文学をめぐる諸問題
東浩紀のクオンタム・ファミリーズはおもしろくなかった。東浩紀が嫌いだからではない(津田大介の件では最低でしたね)。文学的な量子飛躍は,文学の標準機能として備わっているものだから,クオンタムと称して物語を展開すること自身がなんだかなあになってしまう。さて,偶然文学論の中河輿一は古い人なのかと思ったが,まだ著作権は切れていない天の夕顔の人だった。まったく議論は深まっていかないのだけれど,量子情報が本質的な役割を果たすサイエンスフィクションを読んでみたい。なお,最初にSFの多世界解釈を見たのは,旺文社の学年別学習雑誌の付録のSF読み物だ。ヒューゴー・ガーンズバックのラルフ124C41+もエドモンド・ハミルトンのフェッセンデンの宇宙もエドワード・スミスの宇宙のスカイラークもこの短い小冊子で読んだ。そこに,著者もタイトルも忘れたけれど,自動車事故で夫が死ぬ世界と妻が死ぬ世界が交錯する物語を読んだのをはっきり憶えている。

2020年2月23日日曜日

特集−量子コンピュータ(4)

特集−量子コンピュータ(3)からの続き

13.大黒岳彦(哲学)
   量子力学・情報科学・社会システム論(22p ☆☆☆☆)
   量子情報科学の思想的地平
著者は次のようにいう。量子情報科学(量子計算−量子暗号−量子通信の三位一体)は次世代の情報社会(N. ルーマンの社会システム論=コミュニケーションの連鎖的接続)の要をなす技術であり,パラダイム変革的ではなくパラダイム完成的テクノロジーであると。その後,情報科学の誕生から情報科学と現象学の対比をへて,物的世界像を逆転させた情報的世界観を提示する。さらに,物理学におけるモノと情報の相克が量子力学に現れることから,量子情報科学の誕生からその思想的地平までに及ぶ。哲学者の議論は往々にして深い迷い道に誘い込まれるのだが,大黒さんはとても明解である。ルーマンの社会システム理論への過剰な肩入れが気になるのだが(ここは自分の勉強不足か?),それを除けばとても実り多い論考だった。

14.河島茂生(情報倫理)
   未来技術の倫理(13p ☆)
「倫理(ethics)」とはもともと「慣習(ethos)」を表す言葉である。ここまでは良かったが,オートポイエティック・システム(自分自身で自分をつくるシステム)やアロポイエティック・システム(他のものによってつくられ他のものをつくるシステム)あたりからついていけなくなり,転調してから,社会−技術システムと功利主義的計算が何なのかさっぱり分からず,すっ飛ばしながら終了した。チーン。

15.斉藤賢爾(インターネットと社会)
   デジタル署名,ブロックチェーンと量子アルゴリズム(10p ☆☆☆)
   新たなるサイファーパンクの夜明け
フィンテックが専門の斉藤賢爾さんは以前から独特の発想がおもしろくてときどきウォッチしてきた。「サイファーパンク」とは「強力な暗号技術やプライバシー強化技術を社会的・政治的変化への道として広く利用することを提唱する活動家」のことであり,斉藤さん自身のことかもしれない。暗号技術の本質は記録の真正性を保つことにあるとして,ブロックチェーンの話につなげていく。ただ,量子計算との関係はあまり深まらなかったのが少し残念だった。

16.羽根次郎(中国近現代史)
   チャイバースペース(Chyberspace)の出現について(10p ☆☆)
   中国の「サイバー主権」論の背景にあるもの
話は2000年の九州・沖縄サミットの沖縄IT憲章から始まる。結論は,サイバースペースの「国家からの独立性」が存在しないのは,中国のみに限定される話では最初からない,である。もうひとつのキーポイントは,次の部分だ。確率上稀にしか起せないイノベーションを,「ベンチャー支援」という名の「失敗時のコスト最小化作業」を通じてまで支援する所以が・・・(割に合わないイノベーションにかくも期待するのは)・・・イノベーションを起すための不可欠な条件として新自由主義的諸改革への白紙委任を正当化するためだ,というところ。

2020年2月21日金曜日

特集−量子コンピュータ(3)

特集−量子コンピュータ(2)からの続き

9.田中成典(計算生物学)
  量子と生命(11p ☆☆☆☆)
量子生物学というキーワードは1969年に大木幸介さんのブルーバックスを買って以来だ。最近注目を浴びているのは2007年の光合成系の量子コヒーレンスを契機としている。以前取り上げた鳥の磁気コンパスの話題もそれで,生物の感覚センサー機能における量子現象が注目されているとのこと。著者は量子多体系の第一原理計算についての素養があるので,生命現象の本質と量子計算の関りについて,生命量子計算や量子知性というキーワードで照射しようとしている。予想以上に興味深い内容だった。

10.郡司ペギオ幸夫(生命基礎論)
   「わたし」に向って一般化される量子コンピューティング(14p ☆☆)
元神戸大学の原俊雄先生にいわせると,郡司ペギオ幸夫さんは天才だが(なので?),普通の人の理解の枠を越えている。目次や表題をみると非常におもしろそうなのだが,読み出すとほとんどついていけなくなるのが常である。今回のキーワードは認知的非局所性だったが,そのスタートのロジック「XであってXでない」につまずいてしまった。

11.全卓樹(理論物理学)
   量子力学と現代の思潮(10p ☆☆☆☆)
全さんは東大の有馬研の出身だ。昔,森田研でポスドクをされていた。兵庫県の中山間部であった深山良徳君の葬儀の帰りに車で送っていただいたことなども思い出す。全さんの論説を読むためにこの雑誌を買ったのだ。期待を裏切らず,自分の知りたいと思っていた量子力学の「観測問題」をすっきりと整理してくれていた。東北大学の堀田昌寛さんは,コペンハーゲン解釈は量子力学の認識論的解釈であると言い放って,多世界解釈を簡単に斬って捨て,量子力学に観測問題などないと断定している。なんか違うのよね。哲学を含む人文科学一般について深い知識を持っている全さんは,スタンフォード哲学百科のミルヴォルトの整理に準拠して問題を解きほぐしてくれるところから始め,時代思潮と結びつけて着地する。この雑誌の特集の趣旨を十分に理解した論説だ。

12.内井惣七(科学哲学)
   無時間,無空間からの出発(8p ☆☆)
内井さんの本も何冊か挑戦しているのだけれど,まったくピンと来ないことが多い。なぜだろう。量子重力のロヴェリを最初に持ってくるところで引っかかるのかしら。いや,ライプニッツのモナドとの関連は確かにいいところをついていると思うのだ。でも確率のコード解釈がどうのこうのという結論へ向って,まったく筋が追えなくなってしまう。科学哲学の人の書いたもの,読める場合と読めない場合がある。認知の抗体反応を起してしまうのかもしれない。


2020年2月19日水曜日

特集−量子コンピュータ(2)

特集−量子コンピュータ(1)からの続き

5.西村治道(量子計算)
  或る理論計算機科学の研究者から見た量子コンピュータ研究の歴史(11p ☆☆☆)
量子計算のはじまりを詳しく説明している。(1)ファインマン 1982 物理系のシュミレーションと量子力学,(2) ドイッチュ 1985 量子チューリング機械,(3) ドイッチュ・ジョザ  1992 量子アルゴリズム,(4) バジラニ・ベルンシュタイン 1993 量子計算量理論と万能量子チューリング機械,(5) ヤオ 1994 量子回路,(6) サイモン 1994 サイモンの量子アルゴリズム,(7) ショア 1994 ショアの量子アルゴリズム(素因数分解と離散対数),(8) グローバー 1996 グローバーのアルゴリズム(オラクル),このあたりから2000年をピークとする第1次量子計算ブームがくるわけだ。西村さんは名大の情報学研究科,情報文化学部のひと。

6.佐藤文隆(理論物理学)
  hのない量子力学(2p ☆☆)
  機器が作る世界
佐藤さんの量子力学に関する本も最近買ってはみたけれども・・・あまりおもしろくなかった。今回の論説で印象に残ったのは,量子力学の教科書の話だ。従来型のシュレーディンガー方程式と原子構造から解きほぐすものではなく,状態ベクトルから出発しコヒーレント表示の重要性を指摘している現代的な量子力学の教科書がお薦めされていた。例えば,桜井純,ペレス,アイシャム,北野正雄などの教科書など。

7.北島雄一郎(科学哲学)
  情報の観点からみた量子力学(11p ☆☆☆)
Clifton Bub Halvorson によるCBH定理(2003)に焦点を当てている。運動物体の電気力学の議論で,アインシュタインがエーテルの性質に基づく構成的なアプローチから,原理的なアプローチ(すべての慣性系で物理法則は同じ形になる)をとったのと同様に,量子力学を微視的な粒子や波動についての理論から,情報理論的な原理に基づいた理論に転換するという方針で,CBH定理が導入された。そのために導入されるC*代数の枠組みがどこからきたのかが問題になっていると,参考文献をあげながら丁寧に議論していた。結局CBH定理はよくわからなかった。北島さんは科学哲学の人だけれど,京大工学部原子核工学修士出身なので,理系のセンスは十分。

8.丸山善宏(圏論的統一科学/現代の自然哲学)
  圏・量子情報・ビッグデータの哲学(13p ☆☆☆☆☆)
  情報物理学と量子認知科学から圏論的形而上学と量子AIネイティブまで
この現代思想の特集号で一番おもしろかったのが,この論説である。専門分野の表記がぶっとんでますね。丸山さんは京大の白眉センターの助教。京大総人(理)→京大文修士→オックスフォード大計算機科学科量子情報G博士課程という経歴だ。参考文献があがっていないが,思わず調べたくなるような話題が連なっていた。ハーディのパラドックスから量子論の五公理(確率性・単純性・部分空間・合成性・連続性 2001)がひとつ。量子論理と作用素代数が量子論の2つの異なった定式化であり,量子論の情報論的定式化・情報論的再構成は実質的にこの2001年のハーディの研究から始まったという認識だ。さらに著者は,圏論的量子力学が2008年のアブラムスキーとクックの論文から始まり,論理と計算の圏論的意味論の技術が物理に応用されたとしている。このあたり,圏論を勉強していないのでまったくわからないけれど,なんだか面白そうなのだ。さらに,ペンローズの量子脳理論に話が及ぶ。普通の人は簡単にトンデモだとして斬って捨てるところなのだが,丸山は,ペンローズの話を換骨奪胎して量子認知科学の話へと繋げる道を示唆して見せる。最後に日本の現状への警鐘を鳴らしているが,量子ネイティブにもAIネイティブにも圏論ネイテイブにもなりそこねた旧人類はどうしたらいいのだろう。

2020年2月17日月曜日

特集−量子コンピュータ(1)

現代思想の2020年2月号vol.48-2の特集が量子コンピュータ−情報科学技術の新しいパラダイムだった。全卓樹さんの記事が載るというので,もうなくなりかけている近所の本屋を探してみたが,当然,そのへんの本屋には現代思想は置いてなかった。というわけで,早速アマゾンで注文することにした。19本の記事が227ページに渡っている。平均12ページ弱。

以下,簡単に感想を述べてみよう。

1.江間有沙(科学技術社会論)・藤井啓祐(量子情報)
  量子をめぐるエコシステム(13p ☆)
12月に行われた対談だ。江間さんの書いた量子エコシステムの図がキーポイントなのだが,これが今一つだった。例えば,量子計算+量子通信+量子計測というふうに分野を設定し,そのうえで,基礎と応用についての課題を整理してほしかった。それが,核スピンセンシングと量子暗号とビジネス利用がそれぞれ対等の概念群として表記されているのには参った。そもそもがこれなので,せっかく藤井さんがきているのに話が深まらない。


2.根本香絵(理論物理学)
  量子コンピュータ開発の現在と応用可能性について(9p ☆)
根本さんは,お茶の水の柴田文明さんの研究室の出身なので,専門は理論物理学となっている。1996年の博士論文は「A Quantum Langevin Approach to Open Systems (開放系への量子ランジュバンアプローチ)」であり,その後,量子情報を専門として現在はNIIに所属している。微妙にD-Waveをディスっているような気がしたが,NISQ(noisy intermediate scale quantum)マシンが重要であるというところがポイントだろうか。

3.竹内勇貴(量子情報)
  量子コンピュータの原理と優位性(16p ☆☆)
竹内さんは,阪大基礎工の井元信之さんの研究室でドクターを取り,NTTコミュニケーション科学基礎研究所に入っている。この論説は珍しく式がたくさん書いてあり,参考文献をきっちり上げていてわかりやすかった。グーグルが量子超越(スプレマシー)を実証したと主張しているマシンは,NISQのうちランダムな量子ゲートを用いるランダム量子回路の方法であるというところまで到達した。

4.細谷暁夫(基礎物理学)
  量子計算を哲学してみる(8p ☆☆☆☆)
自分が大学院生の時代に,細谷先生が所属していた阪大の内山研究室は,公式には基礎物理学講座という名前だった。ちなみに森田研究室は量子物理学第1講座で,金森研究室が量子物理学第2講座だったと思う。その後,大講座に再編されている。その細谷先生が東工大に移って,宇宙論を経由して1990年代の半ばごろから量子情報を研究されているのを遠くから眺めていた。この論説では,量子計算とは何かを簡潔に要領良くまとめていて非常にわかりやすい。東工大なので西森秀俊さんの量子アニーリングを正しく位置づけている。量子アルゴリズムを次の2つに分類しているのがよかった。(A) |Ψ〉を問題解決の手段とする。(B) |Ψ〉の実現を目的とする。その上でゲート型とアニーラ型を比較している。

2019年12月29日日曜日

鳥の地磁気コンパス

渡り鳥は正しい方角を知って長距離を渡ることができる。この鳥の能力には,地磁気を感知する感覚器が関与しているのではないかと考えられてきた。しかし,その具体的なメカニズムは不明だった。NHKのコズミックフロントをみていたら,量子力学の特集で,この話題について触れられていた。

2009年のGaugerらの論文によれば,ヨーロッパコマドリの渡りのメカニズムが調べられ,鳥の視覚における光のスペクトルが方向検知の能力と関係していることがわかった。そこで,単純な生体磁石も持つ感覚器のモデルではなくて,化学反応速度に対する磁場の影響のモデルが考えられた。鳥の目の光子吸収におけるラジカル対の生成で生ずる一重項と三重項からの生成物質が磁場の向きに依存して異なるため,地球磁場が化学信号をもたらすというものらしいが,肝腎の生成物質とその効果は特定されていないようだ。

光合成やその他の生態系における量子過程についてもまだまだおもしろい問題がたくさんありそうで,エンタングルメントがどう関るのか,興味津々というところ。

[1]Sustained quantum coherence and entanglement in the avian compass(Gauger et al. 2009)
[2]Quantum effects in biology: Bird navigation(Ritz 2011)
[3]Quantum Dynamics of the Avian Compass(Walters 2012)
[4]The Radical Pair Mechanism and the Avian Chemical Compass: Quantum Coherence and Entanglement(Zhang et al. 2015)
[5]The quantum needle of the avian magnetic compass(Hiscock et al. 2016)
[6]Quantum Mechanical Navigation: The Avian Compass(Herbert 2016)

2019年10月25日金曜日

量子超越性

先日の日本経済新聞の1面トップ記事でも取り上げられたのが,googleによる初の量子超越性の実験的証明にかかわるNature論文。論文の査読には Scott Aaronson や 藤井啓介さんも関わっている。今日(10/25)の日経朝刊も前のめりになっていた。量子計算の専門家のコメントもなく,いきなり応用と暗号化リスクの話に持ち込んでいる。NHKも同様。これが典型的な日本のメディアの反応だ。まあ,マスメディアというのは本質的にそういうものなのかもしれない。

【タイトル】
プログラム可能な超伝導素子を用いた量子超越性
Quantum spremacy using a programmable superconducting processor
【出典】
23 October 2019 Nature 574, 505-519 (2019)
【著者】
Frank Arute, Kunal Arya, Ryan Babbush, Dave Bacon, Joseph C. Bardin, Rami Barends, Rupak Biswas, Sergio Boixo, Fernando G. S. L. Brandao, David A. Buell, Brian Burkett, Yu Chen, Zijun Chen, Ben Chiaro, Roberto Collins, William Courtney, Andrew Dunsworth, Edward Farhi, Brooks Foxen, Austin Fowler, Craig Gidney, Marissa Giustina, Rob Graff, Keith Guerin, Steve Habegger, Matthew P. Harrigan, Michael J. Hartmann, Alan Ho, Markus Hoffmann, Trent Huang, Travis S. Humble, Sergei V. Isakov, Evan Jeffrey, Zhang Jiang, Dvir Kafri, Kostyantyn Kechedzhi, Julian Kelly, Paul V. Klimov, Sergey Knysh, Alexander Korotkov, Fedor Kostritsa, David Landhuis, Mike Lindmark, Erik Lucero, Dmitry Lyakh, Salvatore Mandrà, Jarrod R. McClean, Matthew McEwen, Anthony Megrant, Xiao Mi, Kristel Michielsen, Masoud Mohseni, Josh Mutus, Ofer Naaman, Matthew Neeley, Charles Neill, Murphy Yuezhen Niu, Eric Ostby, Andre Petukhov, John C. Platt, Chris Quintana, Eleanor G. Rieffel, Pedram Roushan, Nicholas C. Rubin, Daniel Sank, Kevin J. Satzinger, Vadim Smelyanskiy, Kevin J. Sung, Matthew D. Trevithick, Amit Vainsencher, Benjamin Villalonga, Theodore White, Z. Jamie Yao, Ping Yeh, Adam Zalcman, Hartmut Neven & John M. Martinis
【概要−拙訳】
 量子コンピュータへの期待は,ある種の計算が従来のコンピュータより指数関数的に速く実行できるかもしれないというところにある。根本的な挑戦は指数関数的に大きな計算空間で量子アルゴリズムを走らせることができる高信頼プロセッサをつくることである。
 この論文で我々は2^53ビット(10^16ビット)の計算空間に対応する53量子ビットの量子状態を作れるプログラム可能な超伝導キュービット素子について報告する。
 反復された実験の測定は確率分布を与え,それは古典的なシミュレーションでも確認された。我々のシカモアプロセッサは1つの量子回路を100万回動かして1つのインスタンスをとり出すのに200秒かかった。これは,従来型のスーパーコンピュータが1万年かけて計算する仕事に匹敵するものである。
 すべての既知のアルゴリズムに対するこの量子コンピュータの劇的な高速化は,特定の計算において量子超越性を実験的に実証したものであり,予想されていた計算パラダイムの転換の先駆けとなるものである。

[1]グーグルが主張する「量子超越性の実証」にIBMが公然と反論した理由(Wired.jp)
[2]Googleが量子超越を達成−新たな時代の幕開けへ(Qmedia)
[3]量子コンピューティングの次のステップ:コンピュータサイエンスの役割(Qmedia)
[4]Quantum supremacy: the gloves are off(The Blog of Scott Aaronson)


2019年10月22日火曜日

1次元井戸型ポテンシャル(2)

1次元井戸型ポテンシャル(1)からの続き)

テレビは朝から即位の礼のニュースで埋めつくされているのでなかなか気持ちが悪い。ラグビーワールドカップが終わった(実はまだ終わっていないの)と思ったらこれだ。オリンピックかIRカジノまでこの調子なのだろうか。

Mathematicaによる1次元井戸型ポテンシャルの解法をjuliaに移植してみた。Mathematicaプログラミングは土地勘があるので,簡単なガイドがあれば大丈夫だ。juliaプログラミングはそこまで熟達していないので,地図とガイドとネットでの評判を駆使して歩き回ることになる。ポイントは2つ。非線形方程式を解くFindRootや代数方程式を解くNSolveをどうするか。グラフをどうするか。それさえクリアすればよいのだが,なかなか難しかった。

非線形方程式を解くパッケージ NLsolve,1次元の数値積分を実行するパッケージQuadGKを導入した。図形描画のためのPlotとGRは既に導入済みである。こういうときに助けになるのが阪大のサイバーメディアセンターの降旗大介さんのページ(Applied Mathematics 9)。NLSolveは生で使うと非常にわかりにくい仕様になっているので,降旗さんがシンタックスシュガーを作ってくれている。おかげで比較的簡単に使うことができるが,MathematicaのFindRootの方がわかりやすいと思うのは気のせいか。規格化条件から波動関数の振幅を求める連立方程式も,MathematicaのNSolveに対応するものが見当たらなかったので,NLsolveを使うことにした。

問題はグラフだ。MathematicaのPlotルーチンにはなじんでいるので,およその様子はわかるが,juliaの方はさっぱりで難渋した。データを離散的なリストの形にするところまでは問題なかったが,そうすると横軸がデータ数でプロットされる。これをもとの変数に変換するためには,Plotの引数にxのリストを与える必要があることに気付くまで半日要した。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
using NLsolve
using QuadGK
gr()

function nls(func, params...; ini = [0.0])
#
#スカラー変数 x スカラー関数 f(x,params)=0
# nls( f, params, ini = xの初期値 )
#ベクトル変数 x ベクトル関数 f(x,params)=0
# nls( f, params, ini = xの初期ベクトル )
#
    if typeof(ini) <: Number
        r = nlsolve((vout,vin)->vout[1]=func(vin[1],params...), [ini])
        v = r.zero[1]
    else
        r = nlsolve((vout,vin)->vout .= func(vin,params...), ini)
        v = r.zero
    end
#    return v, r.f_converged
    return v
end

function heaviside(t)
  0.5 * (sign(t) + 1)
end

function r2(v0,a)
  r=10^6*v0*a^2/(2000)^2
  return r
end

function h1(x, p)
  a,b = x # x[1] とか x[2] と書くのは面倒なので,a,b で代用
  c,d = p # p[1] とか p[2] と書くのは面倒なので,c,d で代用
  return [b+a/tan(a)+c, a^2+b^2-d]
end

function h2(y, q)
  a,b = y # y[1] とか y[2] と書くのは面倒なので,a,b で代用
  c,d = q # q[1] とか q[2] と書くのは面倒なので,c,d で代用      
  (f,hf) =quadgk(x -> sin(c*x)^2, 0, 1)
  (g,hg) =quadgk(x -> exp(-2*d*x),1,10)
  return [a*sin(c)-b*exp(-d), a^2*f+b^2*g-1]
end

function wf(x,s,t)
  (pa,qa)=s
  (a,b)=t
  return [heaviside(1-t)*a*sin(pa*t)+heaviside(t-1)*b*exp(-qa*t) for t in x]
end

r = [0, r2(50, 2)]
ini_v = [2.0, 1.0]
s = nls(h1, r, ini = ini_v)
ini_u = [1.0, 1.0]
t = nls(h2, s, ini = ini_u)
x = 0:0.01:3
plot(x,wf(x,s,t))
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
図 1次元井戸型ポテンシャルの波動関数


2019年10月21日月曜日

1次元井戸型ポテンシャル(1)

明後日の量子物理学の授業は,1次元井戸型ポテンシャル(復習)の続きなので,数値計算で結果を確認するためのコードをMathematicaで書いてみた。

1次元ポテンシャル $V(x)$に質量$m$の電子が束縛されているとする。$x \le 0$ で$V(x)=\infty$ ,$0 \lt x \lt a $で,$V(x)=0$,$a \le x$で$V(x)=V_0$として [eV]単位で与える。ポテンシャルのレンジ $a$は [Å]単位とする。$2mc^2=10^6$[eV],$\hbar c = 2000$ [eV・Å] と近似した。$r2= \frac{2mc^2 V_0 a^2}{(\hbar c)^2} =(\pi/2)^2$以上で束縛状態が存在する。

In[1]:= r2[V0_, a_] := 10^6*V0*a^2/(2000)^2
In[2]:= Clear[pa, qa]
In[3]:= sol1 = FindRoot[{p^2 + q^2 == r2[50, 2], q == -p/Tan[p]}, {p, 5}, {q, 3}]
Out[3]= {p -> 5.41164, q -> 4.55128}
In[4]:= {pa, qa} = {p, q} /. sol1
Out[4]= {5.41164, 4.55128}
In[5]:= Clear[A, B]
In[6]:= sol2 =NSolve[{A Sin[pa] == B Exp[-qa], A^2 Integrate[Sin[pa x]^2 , {x, 0, 1}] +
                                     B^2 Integrate[Exp[-2 qa x], {x, 1, Infinity}] == 1}, {A, B}]
Out[6]= {{A -> -1.28052, B -> 92.8589}, {A -> 1.28052, B -> -92.8589}}
In[7]:= {A, B} = {A, B} /. sol2[[1]]
Out[7]= {-1.28052, 92.8589}
In[8]:= Plot[A Sin[pa x] HeavisideTheta[-x + 1] +  B Exp[-qa x] HeavisideTheta[x - 1],
{x, 0, 3}, PlotRange -> {-2, 2}]

図 1次元井戸型ポテンシャルの波動関数