2020年2月26日水曜日

特集−量子コンピュータ(5)

特集−量子コンピュータ(4)からの続き

17.河西棟馬(技術史)
   情報概念の形成(15p ☆☆☆)
   1920年代における物理学と工学の接近
科学的な情報概念の誕生の契機として,統計学,通信工学,物理学(統計力学)をあげている。大阪教育大学に教養学科を設置したとき,情報科学専攻が設けられ,そのカリキュラム試案が提示されたことがある。木立先生が,なんでこんなところに統計力学が入っているんだとディスっていて削除されたのだが,たぶん,どこかの大学をモデルにしていたのだろう。まあ,入っていると物理の誰かが担当しなければならないので,正解だったかもしれないが,後に物理出身の藤田修先生が着任されたので,入っていても良かったかな。河西さんはハートリーやナイキストに通信工学における定量的情報概念の形成の出発点を見出し,シラードエンジンからシャノンまでの歴史を辿っている。

18.鈴木真奈(論理学/科学史)
   ホームオートメーション再考(12p ☆☆)
   1980年代の日本が描いた21世紀の情報化社会
たぶん,本書のテーマから最も距離のある論考だ。確かに,2010年代のIoTと1980年代のホームオートメーションは同じなのだ。奈良県の東生駒でCATVが始まったのはよくおぼえているし,それがゆえに,自宅のネットワーク回線はいまだにKCNだったりする。ISDNも使っていたが,一瞬でなくなってしまった。CDの誕生から消滅も一瞬といえるのだろうか。1990年代に大学のネットワークを含んだ将来構想を考えていたときは,この1980年代の古いマルチメディア社会をベースにしながら,それを越えるものとしてイメージしていたはずだ。

19.加藤夢三(日本近代文学)
   偶然性・平行世界・この私(11p ☆☆☆)
   量子力学と文学をめぐる諸問題
東浩紀のクオンタム・ファミリーズはおもしろくなかった。東浩紀が嫌いだからではない(津田大介の件では最低でしたね)。文学的な量子飛躍は,文学の標準機能として備わっているものだから,クオンタムと称して物語を展開すること自身がなんだかなあになってしまう。さて,偶然文学論の中河輿一は古い人なのかと思ったが,まだ著作権は切れていない天の夕顔の人だった。まったく議論は深まっていかないのだけれど,量子情報が本質的な役割を果たすサイエンスフィクションを読んでみたい。なお,最初にSFの多世界解釈を見たのは,旺文社の学年別学習雑誌の付録のSF読み物だ。ヒューゴー・ガーンズバックのラルフ124C41+もエドモンド・ハミルトンのフェッセンデンの宇宙もエドワード・スミスの宇宙のスカイラークもこの短い小冊子で読んだ。そこに,著者もタイトルも忘れたけれど,自動車事故で夫が死ぬ世界と妻が死ぬ世界が交錯する物語を読んだのをはっきり憶えている。

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