ラベル 数学 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 数学 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2025年5月15日木曜日

ヒルベルトの第6問題

ヒルベルト(1862-1943)の23の問題というのはよく耳にしたけれど,具体的にどんな問題があって,どう解決されているのはあまり理解できていなかった。その第6問題は,物理学(力学,統計論)の法則を数学的に基礎づけるというものであり,最近これが解けたかもしれないという論文(Hilbert's sixth problem: derivation of fluid equations via Boltzmann's kinetic theory)が話題になっていた。

ニュートンの運動方程式からボルツマン方程式さらにナビエ−ストークス方程式が導かれるということだ。時間反転対称性がちゃんと消えるということだ。ほんまかいな。

とりあえず,NotebookLMを使うと,論文テキストから音声対話型ポッドキャストが生成できるというのでそれを試してみたができが良すぎる(googleアカウントのログインが必要)。7分11秒の男女のパーソナリティによる非常に自然な対話はほとんどラジオ番組ではないか(漢字の読みがおかしいところが1,2ヶ所あるだけ)。ただ,ポッドキャストとは独立である説明テキストのほうはあまり良くないので,Grokに査読してもらいながら要約を理解することに。

Q(koshix):
(Hilbert's Sixth Problemの論文を添付)
この論文を査読してください。できますか?

A(Grok 3):
はい、提供された論文「Hilbert's Sixth Problem: Derivation of Fluid Equations via Boltzmann's Kinetic Theory」(Yu Deng, Zaher Hani, Xiao Ma、arXiv:2503.01800v1)を査読することができます。ただし、査読は通常、論文の科学的厳密さ、独創性、明瞭さ、関連性、そして方法論の妥当性を評価する詳細なプロセスです。この回答では、論文の概要、強み、潜在的な問題点、改善の提案を簡潔にまとめ、査読の形式に沿った評価を提供します。必要に応じて、特定のセクションや技術的詳細についてさらに深く掘り下げることも可能です。

論文査読:Hilbert's Sixth Problem: Derivation of Fluid Equations via Boltzmann's Kinetic Theory,著者: Yu Deng, Zaher Hani, Xiao Ma,arXiv ID: 2503.01800v1,投稿日: 2025年3月

1.概要と目的

この論文は、ヒルベルトの第六問題、特にニュートンの法則からボルツマン運動論を経由して流体力学の基本方程式(圧縮性オイラー方程式や非圧縮性ナビエ・ストークス・フーリエ方程式など)を厳密に導出するという課題に取り組んでいます。著者らは、2次元および3次元のトーラス上で硬球粒子系からボルツマン方程式を導出し、それを流体力学方程式に接続することで、ヒルベルトのプログラムを完成させたと主張しています。この研究は、以前の研究 [26] を拡張し、周期的設定(トーラス)での長時間ボルツマン方程式の導出と、流体力学極限への接続を扱っています。

主な成果は以下の3つの定理です:

定理1:2次元および3次元トーラス上で、ボルツマン・グラード極限($N \to \infty, \varepsilon \to 0, N \varepsilon^{d-1} = \alpha$)において、硬球粒子系の1粒子密度関数がボルツマン方程式に従うことを証明。
定理2:ニュートンの法則から非圧縮性ナビエ・ストークス・フーリエ方程式を、ボルツマン方程式を経由して導出。
定理3:同様に、圧縮性オイラー方程式を導出。

2.強み

(1) 歴史的意義と挑戦の克服
ヒルベルトの第六問題は、数学物理学における長年の未解決問題であり、ニュートンの法則から流体力学方程式への厳密な導出は極めて挑戦的です。この論文は、ボルツマン方程式の長時間解を周期的設定で導出し、それを流体力学方程式に接続することで、この問題に決定的な進展をもたらしています。
特に、周期的設定(トーラス)では、ユークリッド空間とは異なり、衝突回数に上限がないという技術的難点があり、これを新しいアルゴリズムと積分評価で克服した点は高く評価できます。
(2) 技術的厳密さ
ボルツマン・グラード極限における1粒子相関関数の収束(定理1)は、$L^1$ノルムでの厳密な誤差評価($\varepsilon^\theta$)とともに証明されており、数学的に堅牢です。
流体力学極限(定理2および3)は、既存の結果(例:[29], [17], [34], [39])を巧みに利用し、著者らのボルツマン方程式の導出と統合しています。これにより、ヒルベルトのプログラムの全体像を一貫して提示しています。
証明には、クラスター展開、分子構造の解析、積分評価、新しい切断アルゴリズムなど、高度な数学的手法が用いられており、技術的に印象的です。
(3) 時間不可逆性の洞察
ニュートンの時間可逆な微視的理論から、ボルツマンの時間不可逆な中間スケール理論への移行を、長時間解の導出を通じて正当化しています(セクション1.3)。これは、物理学的および哲学的に興味深い結果であり、ボルツマンのH定理とエントロピー増加の起源に新たな光を当てます。
(4) 拡張性と再現性
著者らは、2次元および3次元に焦点を当てていますが、4次元以上でも結果が成立する可能性を示唆しており(Remark 1.5)、さらなる研究の道を開いています。
証明の構造は、前の研究 [26] を基盤としつつ、周期的設定に特化した新しいアルゴリズムを導入することで、既存の方法論を効果的に拡張しています。

3.潜在的な問題点と改善の提案

(1) 次元制限(2次元および3次元):
・論文は2次元および3次元に限定されており、4次元以上では証明が「かなり複雑になる」と述べています(Remark 1.5)。これは技術的な制約ですが、読者にとって、高次元での結果の可能性や障害についてもっと具体的な議論が欲しいところです。
改善提案: 4次元以上での主な技術的障壁(例:衝突回数の増加、積分評価の複雑さ)を簡潔に説明し、どの部分が拡張可能かを示すと、論文の汎用性が高まる。

(2) 時間スケールの制限
・定理1の時間スケールは $t_{\text{fin}} \ll (\log |\log \varepsilon|)^{1/2}$ に制限されています(式1.16)。これは、流体力学極限におけるパラメータ $\delta$ の範囲に影響を与えます(式1.24)。この制限は、証明手法の限界によるものとされていますが、実際の物理的適用においてどの程度制約となるのかが不明確です。
改善提案: この時間スケールの物理的意義(例:流体力学現象の時間スケールとの関係)や、制限を緩和するための可能なアプローチ(例:異なるスケーリング法)を議論することで、結果の実用性が明確になる。

(3) アルゴリズムの複雑さ
・周期的設定に対応するための新しい切断アルゴリズム(セクション4)は、ユークリッドの場合と比べて大幅な修正が必要であり、非常に技術的です。専門家以外には理解が難しい可能性があります。
改善提案: アルゴリズムの直観的な説明や、なぜ周期的設定で衝突回数の上限がないことが問題となるのかを、図や簡単な例を用いて補足すると、アクセシビリティが向上する毒性評価(Toxicological Evaluation)
・セクション4.1と4.2で紹介されている新しい切断アルゴリズムは、周期的設定(トーラス)での衝突履歴の複雑さを扱うために導入されています。このアルゴリズムは、ユークリッド空間とは異なり、固定数の粒子間で起こり得る衝突回数に上限がないという周期的設定特有の課題に対応しています。具体的には、以下のような技術的工夫が施されています:
 分子構造とクラスター展開:粒子間の衝突を「分子」としてモデル化し、クラスター展開を用いて相関関数の挙動を解析。
 積分評価:衝突積分の厳密な評価を行い、誤差項を $\varepsilon^\theta$ のオーダーに制御(式1.18)。
 切断操作:衝突履歴を「良い」コンポーネント(例:{33A}コンポーネント)に分解し、過剰項(excess)を評価して収束を保証。
これらの手法は、数学的には高度ですが、物理的直観を補足する説明が不足しているため、読者にとってアルゴリズムの目的や動作が抽象的に感じられる可能性があります。
改善提案: セクション4の冒頭に、切断アルゴリズムの目的(例:無限衝突の可能性を扱うための戦略)を簡潔に説明し、簡単な2粒子系の例を用いてアルゴリズムのステップを視覚化する図を追加。

(4) 仮定の強さ

・定理1では、ボルツマン方程式の解の存在と、特定のノルムでの有界性(式1.17)が仮定されています。これらの仮定は、強解の存在を保証するために必要ですが、実際の物理系での適用可能性について議論が不足しています。
改善提案: これらの仮定がどの程度現実的な物理系(例:希薄気体)に適用可能か、またはどの程度制限的なのかを簡潔に議論。たとえば、初期条件 $n_0$ の滑らかさや減衰条件が、実際の気体分子の分布とどの程度一致するかを説明。

(5) 文献レビューと文脈の提示

・文献レビュー(セクション1.2および参考文献)は包括的で、ボルツマン方程式の導出に関する過去の主要な研究(例:Lanford [42], Bodineauら [5-13])を網羅しています。ただし、ヒルベルトの第六問題の広い文脈(例:他の物理法則の公理的導出との比較)がやや欠けています。
改善提案: セクション1.1で、ヒルベルトの第六問題の他の側面(例:確率論の公理化との対比)や、ボルツマン運動論以外の方法論(例:分子動力学シミュレーション)との関係を簡潔に触れると、論文の意義がより明確になる。

(6) 明瞭さとプレゼンテーション

・論文は技術的に詳細で、専門家向けに書かれていますが、セクション間のつながりや、定理1から定理2・3への論理的流れがやや急に感じられます。特に、流体力学極限への移行(セクション1.3)は、ボルツマン方程式の解がローカルマクスウェル分布に近づくという前提に基づいていますが、この前提の物理的背景が十分に説明されていません。
改善提案:
 セクション1.3の冒頭に、流体力学極限の物理的直観(例:衝突頻度の増加による熱平衡化)を簡潔に説明。
 各定理の証明概要を、対応するセクション(例:セクション5)の冒頭に短い段落で記載し、読者が全体の論理的流れを把握しやすくする。

4.独創性と意義

この論文は、ヒルベルトの第六問題という歴史的に重要な課題に対して、ボルツマン運動論を介した完全な導出を提供することで、数学物理学の分野に大きな貢献をしています。特に、以下の点で独創的です:

周期的設定への拡張:ユークリッド空間での結果 [26] をトーラスに拡張し、無限衝突の可能性を扱う新しいアルゴリズムを開発。
長時間解の導出:短時間や近真空解に限定されていた従来の研究(例:Lanford [42])を、長時間解に拡張。
時間不可逆性の説明:ニュートンの可逆性からボルツマンの不可逆性への移行を、長時間解を通じて数学的に正当化。

これらの成果は、運動論や流体力学の理論的基礎を強化するだけでなく、エントロピーや不可逆性の起源に関する物理学的議論にも寄与します。また、希薄気体のダイナミクスや統計力学の応用研究(例:気体シミュレーション、プラズマ物理)にも間接的な影響を与える可能性があります。

5.方法論の妥当性

論文の方法論は以下の点で妥当かつ厳密です:

ボルツマン・グラード極限:粒子数 $N$ と直径 $\varepsilon$ のスケーリング $N \varepsilon^{d-1} = \alpha$ は、グラード [31] による標準的な設定であり、希薄気体の物理的状況を適切にモデル化。
大カノニカルアンサンブル:初期配置の確率分布(定義1.3)は、統計力学の標準的手法に従い、粒子数の揺らぎを考慮した適切な設定。
積分評価と切断アルゴリズム:衝突積分の評価(セクション3)や切断アルゴリズム(セクション4)は、収束性を保証するために必要な過剰項の制御を厳密に行っており、数学的に堅牢。
・流体力学極限:既存の結果(例:[29], [17], [34], [39])を利用してボルツマン方程式から流体力学方程式への接続を行うアプローチは、理論的に確立されており、著者らの結果と整合性がある。

ただし、証明の複雑さゆえに、計算の再現性や数値的検証が難しい可能性があります。たとえば、切断アルゴリズムの具体的な実装や、$\varepsilon \to 0$ 極限での数値的挙動を補足的に検証できれば、方法論の信頼性がさらに高まるでしょう。

6.結論と推奨

この論文は、ヒルベルトの第六問題に対する画期的な貢献であり、数学物理学の分野で高い評価を受けるに値します。技術的厳密さ、独創性、歴史的意義の点で優れており、トップレベルの学術誌(例:Annals of Mathematics, Inventiones Mathematicae)への掲載に適していると考えられます。ただし、アクセシビリティの向上、仮定の物理的文脈の明確化、アルゴリズムの直観的説明の追加により、論文の影響力と読者層をさらに拡大できるでしょう。

推奨:受理(軽微な修正後)
必須の修正
・セクション4の切断アルゴリズムの直観的説明と図の追加。
・時間スケール制限(式1.16)の物理的意義の議論。
・流体力学極限の物理的背景の簡潔な説明(セクション1.3)。
任意の修正
・4次元以上での拡張可能性に関する具体的な議論。
・ヒルベルトの第六問題の他の側面との文脈的比較。
・数値的検証やアルゴリズム実装の可能性についての簡単な言及。

7.追加コメント

この論文は、専門家向けに高度な内容を扱っていますが、運動論や流体力学に興味を持つ広範な研究者(例:統計物理学、応用数学、理論物理学)にも訴求する可能性があります。査読者として、著者らの技術的達成に敬意を表しつつ、非専門家や学生にも理解しやすい形で結果を伝える努力を推奨します。また、arXiv版であるため、投稿先の学術誌のフォーマットや要件に応じて、スタイルや参考文献の形式を調整する必要があるかもしれません。

補足

もし特定のセクション(例:定理1の証明、切断アルゴリズムの詳細)についてさらに詳細な査読や技術的検証が必要な場合、または特定の観点(例:数学的厳密さ、物理的適用性)に焦点を当てた評価をご希望の場合は、追加の指示をいただければ対応可能です。また、論文の特定の部分(例:式1.16の導出、参考文献の網羅性)について質問があれば、個別に深掘りできます。



図:ChatGPT 4oが考えたヒルベルトの第6問題


2025年5月13日火曜日

スイッチインタビュー


NHKのスイッチインタビューは,異なった分野の二人のスペシャリストが2回に分けて攻守を交替して互いをインタビューする番組だ。5月2日と9日に放映された「角野隼斗×山下真由子」では,東大工学部計数工学科の同級生だったピアニストの角野隼斗 と 代数トポロジーの山下真由子 の対話で,なかなか見ごたえがあった。

第二回で,この宇宙に別の知性体が存在したときに人類と同じ数学をつくりだすかどうかという話になった。角野はそうなると考えて質問していたのに対し,山下は違うものになるのが当然だと強く考えているところがちょっと驚いた。自分は,この宇宙に共通する自然法則に内在されている数学性がなんらかの形で表現されるのだから,たぶん理解可能な対応関係はあるに違いないと思っている。

黒板で山下の仕事を説明する部分のノーカット版が,30分ほどのスペシャルコンテンツとして番組のホームページに上がっている。これにおおむね対応するプレゼンテーションがあったので,Gemini 2.5 Proに与えて日本語の解説文を作ってみた。

Q(koshix):
(Topological Modular Forms and heterotic string theory の29pのプレゼンファイルを添付)
このプレゼンテーションの内容を,文脈を補完しながら,日本語でできるだけわかりやすく,ていねいに,説明してください。読者対象は,理工系の大学院修士課程の学生です。

A(Gemini 2.5 Pro):
(回答略)


Q(koshix):
ありがとうございました。対象を理工系の学部学生レベルにして,高度な専門用語については,簡単な解説をしながら,雑誌の丁寧な解説のような形でもう一度まとめてください。(以下,要約の真正性は保証されていないことに注意

A(Gemini 2.5 Pro):
数学と物理学の架け橋:位相的モジュラー形式と弦理論の不思議な関係

私たちの宇宙は、どのような法則で成り立っているのでしょうか?この根源的な問いに、物理学者は「弦理論」という革新的な理論で迫ろうとしています。弦理論は、物質の最小単位を点ではなく振動する「弦」と考えることで、自然界の基本的な力を統一的に記述しようとする壮大な試みです。

一方、数学の世界には「ホモトピー論」という分野があります。これは、図形を連続的に変形させたときに保たれる性質を研究する、いわば「やわらかい幾何学」です。一見すると、弦理論とホモトピー論は全く異なる世界の探求のように思えるかもしれません。

しかし、京都大学の山下真由子氏らの研究は、これら二つの分野が驚くほど深く結びついている可能性を示唆しています。本稿では、山下氏のプレゼンテーションに基づき、そのエキサイティングな研究の一端を、理工系の学部生の皆さんにも分かりやすく解説します。

発端は「シーガル・シュトルツ・タイヒナー(SST)予想」
今回の物語の中心となるのは、「シーガル・シュトルツ・タイヒナー(SST)予想」と呼ばれる、数学と物理学の接点に関する大胆なアイデアです。この予想は、大まかに言うと、ある種の物理学の理論(専門的には「2次元N=(0,1)超対称性を持つユニタリ場の量子論(SQFT)」と呼ばれます)が、数学の特殊な対象である「位相的モジュラー形式(TMF)」というものと、本質的に同じものであると主張しています。

少し言葉を補足しましょう。

場の量子論 (Quantum Field Theory, QFT):素粒子や力を「場」(空間の各点に物理的な量が対応するもの)の言葉で記述し、量子力学のルールを適用する理論です。私たちの世界の基本的な法則を記述する上で非常に成功しています。
超対称性 (Supersymmetry, SUSY):自然界に存在する粒子(フェルミ粒子とボーズ粒子)の間になりたつかもしれない対称性です。この対称性があると、理論が扱いやすくなったり、未発見の粒子を予言したりします。N=(0,1)というのは、超対称性の「量」を表す添え字です。
位相的モジュラー形式 (Topological Modular Forms, TMF):これは高度な数学の対象で、「モジュラー形式」という数学の重要な関数の「位相的」なバージョン、つまり図形の変形に強い性質を持つように一般化したものです。モジュラー形式自体、数論や幾何学、そして弦理論にも現れる重要な対象です。

SST予想がもし正しければ、物理学の問題をTMFという数学の言葉で考えたり、逆にTMFから物理学の新しいアイデアを得たりすることができるようになります。まさに、数学と物理学の間に新しい橋を架けるようなものです。

SST予想の使い道:物理の問題を数学で解く
山下氏らの研究は、このSST予想を実際に使って、物理学の難問に取り組んでいます。その一つが、「ヘテロティック弦理論のアノマリーの消失」という問題です。

ヘテロティック弦理論:弦理論にはいくつかのバージョンがありますが、その中でも特に現実世界を記述する候補として注目されているものの一つです。
アノマリー (Anomaly):物理学の理論を構築する際、古典的な理論では保たれているはずの対称性が、量子効果(ミクロな世界で重要になる効果)を考慮すると破れてしまうことがあります。これをアノマリーと呼びます。アノマリーがあると、理論が自己矛盾を起こしてしまうため、物理学的に意味のある理論であるためには、アノマリーがうまく打ち消されている(「消失する」と言います)必要があります。

山下氏らは、SST予想と、それに関連する「Freed-Hopkinsの予想」という数学と物理学を結びつける別の予想を駆使しました。これらを用いることで、ヘテロティック弦理論のアノマリーの問題を、TMFという数学の対象に関する問題に「翻訳」し、数学的な手法で見事に解決できることを示したのです。つまり、「ヘテロティック弦理論はアノマリーを持たず、矛盾のない理論である」ということを、数学の力で裏付けたことになります。

SST予想から物理へ:TMFが持つ不思議な周期性
SST予想は、物理から数学への視点だけでなく、数学から物理への新たな洞察ももたらします。TMFは、そのホモトピー群(TMFの「穴」の構造を調べる数学的な道具)に「576周期性」という顕著な性質を持つことが知られています。これは、ある種の計算結果が576番ごとに同じパターンを繰り返す、という不思議な性質です。

山下氏らは、このTMFの周期性が、超対称場の量子論(SQFT)にも対応する現象として現れることを、TMFを使わずに(つまり、より直接的な物理的考察から)証明することにも取り組んでいます。  これは、数学の世界で見つかった抽象的な性質が、実は物理現象の背後に隠された法則を示唆している可能性を示しており、非常に興味深いアプローチと言えるでしょう。

副次的アノマリーとTMFの自己双対性
さらに進んで、[TY '23]の研究では、「副次的アノマリー」という、より精密なアノマリーの概念と、TMFの「アンダーソン自己双対性」という数学的な性質との間に深いつながりがあることを見出しました。  これは、TMFが弦理論のアノマリー構造を驚くほど詳細に捉えていることを示唆しています。また、この研究は「頂点作用素代数(VOA)」という、2次元の場の量子論や弦理論で中心的な役割を果たす代数構造とTMFとの間の具体的な関係性にも光を当てています。

まとめ:数学と物理学の対話が拓く新しい地平
山下氏らの研究は、位相的モジュラー形式(TMF)という、一見すると非常に抽象的な数学の対象が、ヘテロティック弦理論のアノマリーという物理学の具体的な問題を解く鍵となったり、さらには場の量子論の新たな性質を予見したりすることを示しています。

SST予想という大胆なアイデアを羅針盤として、数学と物理学という二つの広大な知の海を探求することで、これまで見えなかった新しい景色が広がりつつあります。理工系の学部生の皆さんも、専門分野の垣根を越えたこのような研究に触れることで、科学の奥深さと、異なる分野が協力することで生まれる新しい発見の可能性を感じていただければ幸いです。


Q(koshix):
読者対象を理論物理学を専攻する学部学生のレベルまであげて,その知的好奇心を刺激するようなレベルの丁寧で詳しくわかりやすい解説にしてください。必要な専門用語は省略せず,さらに進んだ学ぶためには,なにをどのように学ぶかのヒントもあるとよいです。
A(Gemini 2.5 Pro):



写真:スイッチインタビューのおまけ画像(NHKから引用)


2025年5月12日月曜日

ホッジ予想への道

テレビで数学がテーマとして取上げられることは多くない。NHKの教育テレビを除いて,昔,一番ワクワクしたのは,ディズニーのテレビシリーズにあったドナルドダックの算数教室(1962年=小学校3年)だった。火星だとか宇宙や未来社会などのテーマもよかったが,数学は珍しかったので印象深い。円周率や黄金分割が取り扱われていた。

自然科学ならば,宇宙,物質,生命,人体,脳などそれなりの絵になるトピックが豊富にあるのだけれど,抽象的なテーマは番組の構成,製作段階で知恵が必要だ。まあ,リーマン予想とかABC予想など,たまにNHK特集がないわけでもない。

それを真正面からシリーズ番組としたのがNHK総合の「笑わない数学」だ。パンサー尾形の進行で,難解なテーマにも意欲的に取り組んできた。その割には自分はあまり視ていない。連休中のスペシャルが,番組史上最難解のホッジ予想ミレニアム検証問題の一つ)という,耳にはするけどなんのことは全くわからないテーマだったので,思わず録画してしまった。なかなかおもしろかった。Gemini 2.5 ProでNHKのストーリーに添って復習してみよう。


写真:「笑わない数学」の一場面(NHKから引用)

Q(koshix):
ホッジ予想を,理系の学部生がわかるように,かみ砕いて説明してほしいのです。多様体の分類をするために,オイラー数,ベッチ数,コホモロジーと進化してきたというストーリーの元で,個々の定義をあまりぼやかさず,具体的なイメージがもしっかりつかめるように,物語を組み立ててください。

A(Gemini 2.5 Pro):

ホッジ予想への道:多様体の形を探る冒険

「形」を数学的に捉え、分類したい──これは数学の大きなテーマの一つです。風船とドーナツは明らかに形が違いますが、粘土でできたドーナツをぐにゃぐにゃ変形させても、穴の数は変わりませんよね?このように、連続的な変形で変わらない性質(トポロジー的性質)を手がかりに、多様体と呼ばれる図形を分類しようというのがここでの目標です。この壮大な物語のクライマックスの一つが「ホッジ予想」です。さあ、その道のりを一緒に辿ってみましょう。

1.最初のヒント:オイラー数

まず、身近な多面体を考えてみましょう。

頂点の数 ($V$)
辺の数 ($E$)
面の数 ($F$)
これらの間には、驚くべき関係があります。例えば、

立方体:$V=8, E=12, F=6 → V - E + F = 8 - 12 + 6 = 2$
正四面体:$V=4, E=6, F=4 → V - E + F = 4 - 6 + 4 = 2$
正八面体:$V=6, E=12, F=8 → V - E + F = 6 - 12 + 8 = 2$
この $V−E+F$ という値は、同じトポロジー的な形(例えば、どれも連続的に変形すれば球になる)を持つ多面体では常に同じ値を取ります。これをオイラー数 (Euler characteristic) といい、$\chi$ で表します。これは、図形を分類するための最初の強力な「ものさし」です。

球面(風船のような形)のオイラー標数は2です。では、ドーナツの形(トーラス)はどうでしょうか?トーラスの表面を三角形で分割してオイラー数を計算すると、0になります。

ポイント:オイラー数は、連続的な変形で変わらない「トポロジー不変量」である

しかし、オイラー数だけでは不十分です。例えば、『ドーナツと、真ん中に穴が二つ空いたプレッツェルのような図形は、どちらもオイラー標数が0になる場合がありますが、』明らかに形が異なります。もっと精密な「ものさし」が必要です。

2.より鋭い視点:ベッチ数と「穴」の概念

オイラー数は、実は図形の「穴」の数と関係しています。ここで登場するのがベッチ数 (Betti number) です。

$b_0$​:図形がいくつの連結な部分に分かれているか(連結成分の数)
・球やトーラスなら1つなので、$b_0 = 1$
・2つの離れた球なら、$b_0 = 2$
$b_1$:1次元的な「穴」の数。輪っかのような穴です
・球面には輪っかの穴はないので、$b_1 = 0$
・トーラスには、縦方向と横方向にそれぞれ独立な輪っかが1つずつあると考えられ、$b_1 = 2$
$b_2$:2次元的な「穴」の数。内部が空洞になっているような穴です
・球面は内部が空洞なので、$b_2 = 1$
・トーラスも内部が空洞なので、$b_2 = 1$(トーラスの表面だけを考えている場合は、$b_2 = 1$ ですが、中身が詰まっているトーラスの「表面」の穴は $b_1$ で数えられます。ここでは、多様体そのものの次元に応じた「最高次元の穴」を考えています。)
$b_k$:一般に、k次元的な「穴」の数
オイラー数とベッチ数の間には、次のような美しい関係があります(オイラー=ポアンカレの公式):
$\chi = b_0 − b_1 + b_2 − b_3 + \cdots + (−1)^n b_n$

ここで、$n$ は考えている多様体の次元です。

例:
球面 $S^2$ (2次元):$b_0 =1$ (連結), $b_1 = 0$ (輪っか無し), $b_2 =1$ (空洞)。 $\chi = 1 − 0 + 1 = 2$。これは先の計算と一致します。
トーラス $T^2$ (2次元):$b_0 =1$ (連結), $b_1 = 2$ (2つの独立な輪っか), $b_2 = 1$ (空洞)。 $\chi = 1 − 2 + 1 = 0$。これも一致します。
ベッチ数はオイラー数よりも多くの情報を持っており、図形をより細かく分類できます。

3.穴を代数的に捉える:ホモロジー群とコホモロジー群

ベッチ数は「穴の数」という直観的なアイデアですが、これを数学的に厳密に定義し、計算可能にするためにホモロジー群 (Homology group) $H_k (X)$ という代数的な対象が導入されます。

サイクル (Cycle): $k$次元の「閉じた」部分図形。例えば1次元ならループ、2次元なら閉曲面。
バウンダリ (Boundary): $(k+1)$次元の図形の「境界」となっている$k$次元の図形。例えば、円盤の境界は円周です。

直観的には、k次元ホモロジー群 $H_k (X)$ は、「境界にならない$k$次元サイクル」を「$k$次元バウンダリで潰したときに残るもの」として定義されます。つまり、「真の$k$次元の穴」を捉える群です。そして、$k$番目のベッチ数 $b_k$ は、このホモロジー群 $H_k (X)$ の「大きさ」(正確にはランク、あるいはベクトル空間としての次元)として定義されます。

コホモロジー群 (Cohomology group) H^k (X)$ は、ホモロジー群の「双対」として考えられるもので、多くの場面でホモロジー群よりも扱いやすく、豊かな構造を持っています。特に、コホモロジー群の元同士には「カップ積」という積の演算が定義でき、これによりコホモロジー環という代数構造が得られます。これは多様体のトポロジーを調べる上で非常に強力な道具となります。

コホモロジーを定義する方法はいくつかありますが、代表的なものに以下の二つがあります。

特異コホモロジー:多様体への連続写像(特異単体)を使って、組み合わせ的に定義されます。
ド・ラームコホモロジー:多様体上の微分形式(関数やベクトル場を一般化したもの)を使って、解析的に定義されます。

驚くべきことに、滑らかな多様体においては、これらの異なるアプローチで定義されたコホモロジー群は同型になることが知られています(ド・ラームの定理)。これは、トポロジーという幾何学的な性質が、異なる数学的言語で同じように記述できることを示しています。

4.複素数の世界へ:複素多様体とホッジ理論

ここまでは主に実数の範囲で考えてきましたが、数学の世界では複素数を導入することで見通しが良くなることがしばしばあります。複素多様体とは、局所的に複素ユークリッド空間 $\mathbb{C}^n$ と見なせる図形です。例えば、リーマン面(1次元複素多様体)や、複素射影空間などがあります。

複素多様体 $X$ のコホモロジー群 $H^k (X,\mathbb{C})$(係数を複素数としたコホモロジー)を考えると、ホッジ理論という美しい構造が現れます。特に、$X$ がケーラー多様体(良い計量を持つ複素多様体、複素射影多様体は代表例)であるとき、そのコホモロジー群は次のように直和分解されます(ホッジ分解):

$\displaystyle H^k (X,\mathbb{C}) = \bigoplus_{p+q=k} H^{p,q} (X) $

ここで、$H^{p,q} (X)$ は、ある特定のタイプの微分形式($(p,q)$-形式と呼ばれる、複素的な性質を反映した形式)から定まるコホモロジー群の部分空間です。直観的には、$H^{p,q} (X) $ の元は「$p$個の $dz_i$ と $q$個の $d\bar{z}_j$ のようなものから作られるコホモロジー類」と関連しています。($z_j = x_j + i y_j$ は複素座標)

この分解は、複素多様体のコホモロジーが、実数の世界で考えていた時よりもさらに細かい構造を持っていることを示しています。

5.そして、ホッジ予想へ

いよいよホッジ予想の核心に迫ります。

まず、代数的サイクル (Algebraic cycle) というものを考えます。これは、複素多様体 $X$ の中で、多項式の方程式で定義される部分多様体(例えば、代数曲線や代数曲面)のことです。例えば、複素射影平面 $\mathbb{C}P^2$  の中の直線や円錐曲線などが代数的サイクルです。

これらの代数的サイクル $Z$($d$次元複素部分多様体、実次元では$2d$)は、ポアンカレ双対性という対応によって、$2d$次のコホモロジー類 $[Z] \in H^{2d} (X,\mathbb{Q})$ を定めます(係数は有理数とします)。

一方、ホッジ分解で登場した $H^{p,q} (X)$ の中で、特に $p=q=k$ となる部分、つまり $H^{k,k} (X)$ を考えます。この部分空間に含まれるコホモロジー類は、ある種の「対称性」を持つと考えられます。

ホッジサイクル (Hodge cycle) とは、$H^{2k} (X,\mathbb{Q})$ の元(有理数係数のコホモロジー類)で、かつホッジ分解において $H^{k,k} (X)$ 成分のみを持つものです。つまり、
ホッジサイクル$ \in H^{2k} (X,\mathbb{Q}) \cup H^{k,k} (X,\mathbb{C})$
(正確には、$H^{k,k} (X,\mathbb{C})$ に自然に埋め込まれる $H^{2k} (X,\mathbb{Q})$ の部分。)

さて、代数的サイクルから作られるコホモロジー類 $[Z]$ は、実は必ずホッジサイクルになることが証明されています。つまり、
代数的サイクル ⟹ ホッジサイクル
は成り立ちます。

ホッジ予想 (Hodge Conjecture) は、この逆を問うものです:

   滑らかな複素射影多様体 $X$ において、任意のホッジサイクルは、
   代数的サイクルの有理数係数の線形結合として表すことができるか?

言い換えれば、「ホッジ分解で特別な位置 ($H^{k,k}$ 成分) にいる、かつ有理的なコホモロジー類は、必ずや幾何学的な実体である『代数的サイクル』から来ているのだろうか?」という問いです。

イメージで掴む:
コホモロジー群は、多様体の「穴」やトポロジー的な性質を捉える抽象的な代数的対象です。一方、代数的サイクルは、多項式で書ける具体的な幾何学的図形です。ホッジ予想は、この抽象的な代数的情報(ホッジサイクル)が、具体的な幾何学的対象(代数的サイクル)によってどれだけ「説明」できるかを問題にしています。

なぜ重要なのか?
ホッジ予想は、代数幾何学(多項式で定義される図形を研究する分野)と、微分幾何学やトポロジー(多様体の連続的な性質を研究する分野)の間の深いつながりを示唆するものです。もしこの予想が正しければ、コホモロジーという抽象的な対象を通して、代数的な構成要素が多様体の幾何学をどれほど支配しているかについての深い理解が得られます。

例えば、ある種の「良い」コホモロジー類を見つけたら、それはきっと何か美しい幾何学的な形(代数的サイクル)に対応しているはずだ、という期待を与えてくれます。しかし、この対応は一般には非常に複雑で、高次元になるとホッジサイクルであっても、それが本当に代数的サイクルから来ているのかどうかを確かめるのは極めて困難です。

ホッジ予想は、1950年にウィリアム・ホッジ(1903-1975)によって提出されて以来、未解決の難問(ミレニアム懸賞問題の一つ)であり続けています。しかし、この予想を巡る研究は、代数幾何学や数論幾何学に多くの新しい概念や手法をもたらし、数学の発展に大きく貢献してきました。

まとめのストーリー
(1) 多様体を分類したい! → オイラー数 (大雑把な分類)
(2) もっと詳しく! → ベッチ数 (穴の数を数える)
(3) 数学的に厳密に! → ホモロジー群・コホモロジー群 (穴を代数的に捉える)
(4) 複素多様体ならもっとすごい構造が! → ホッジ分解 (コホモロジーが細かく分かれる)
(5) この特別なコホモロジー類 ($H_{k,k}$ の有理的な部分) は、何から来ているの? → ホッジ予想 (きっと「代数的サイクル」という幾何学的な形から来ているはず!)

ホッジ予想は、私たちが多様体の「形」を理解しようとする長い旅路の中で生まれた、深遠で美しい問いかけなのです。この予想が解き明かされたとき、私たちは多様体の世界のさらに奥深い構造を垣間見ることができるでしょう。


Q(koshix):
『ドーナツと、真ん中に穴が二つ空いたプレッツェルのような図形は、どちらもオイラー数が0になる場合がありますが、』とのことでしたが,具体例が思い浮かびません。自分で確かめたら,オイラー数は -2 になりました。

A(Gemini 2.5 Pro):
ご指摘いただき、誠にありがとうございます。そして、大変申し訳ございません。以前の説明で「真ん中に穴が二つ空いたプレッツェルのような図形(種数2の閉曲面)のオイラー数が 0 になる場合がある」と述べたのは、私の誤りでした。

おっしゃる通り、穴が2つあるプレッツェル(種数2の向き付け可能な閉曲面)のオイラー数は $\chi=2−2g$ (ここで $g$ は種数、つまり穴の数)という公式から、$g=2$ を代入して $\chi =2−2 \times 2 = −2$ となります。お客様が計算された通りです。

前回の説明で、オイラー数だけでは図形を完全に分類できない例として、不適切な数値を挙げてしまいました。混乱を招き申し訳ありません。

オイラー数だけでは区別できない図形の例として、より適切なのは以下のようなものです。

トーラス(ドーナツ型、種数1):オイラー標数は $\chi= 2 − 2 \times 1 = 0$ です。
クラインの壺:これは向き付け不可能な閉曲面ですが、そのオイラー数は 0 です。

トーラスとクラインの壺は、オイラー数が同じ 0 ですが、トーラスが向き付け可能(表裏の区別が一貫してできる)であるのに対し、クラインの壺は向き付け不可能(メビウスの輪のように、表を辿っていくといつの間にか裏になっている)という点で、トポロジー的に異なる図形です。

このように、オイラー数は有用な不変量ですが、それだけでは区別できない「形」が存在するため、ベッチ数や(コ)ホモロジー群といった、より精密な「ものさし」が必要になる、というストーリーの流れは維持されます。

ご指摘のおかげで、より正確な説明に近づけることができました。誠にありがとうございました。今後、より一層注意深く情報を提供するよう努めます。

2025年5月10日土曜日

数独(2)

数独(1)からの続き

推論型生成AIの進歩を確認するため,日経土曜版第四週の数独(ナンバープレース・超難問)の pdf ファイルを読んで解かせてみた。

Q(koshix):
数独(https://ja.wikipedia.org/wiki/数独)というパズルの問題です。
添付ファイルの問題があります。数字の部分が与えられています。
このパズルを解いて,赤いアルファベットのA,B,C,D,E,F,G,H,K,L,M,N,P,R,S,T,U
に入る数字を求めてください。

A(ChatGPT o3):
(思考時間24秒)
申し訳ありません。
添付の PDF は画像形式で格子線が読み取れず、現在の抽出テキストだけでは 9 × 9 マスの正確な配置(各行・各列・3 × 3 ブロック内で数字と赤いアルファベットがどう並んでいるか)が判別できません。
数独は初期配置が 1 マスでもずれると解が変わってしまいますので、まずは盤面を確定させる必要があります。

お手数ですが、次のどちらかの方法で初期配置を共有していただけるでしょうか。

1.テキストで盤面を示す
例:
行1: _ 5 _ | 2 _ | _ _ _  
行2: _ 8 _ | 9 _ | _ _ _  
…  
_(または 0)= 空マス、A〜U = 赤いアルファベット、数字 = 固定値。行ごとに 9 個、区切りは空白やカンマなどで結構です。
2.もう一度画像をアップロード
盤面全体がはっきり写る JPEG/PNG を上げていただければ、こちらで画像解析して配置を取り込みます。

盤面がはっきり分かり次第、プログラムで解を一意に導き、A ~ U それぞれに入る数字を丁寧にご説明します。よろしくお願いします。



図:pdfファイルで添付した数独の問題

Q(koshix):
行1: L _ 5 | _ M _ | 2 _ N 
行2: _ A _ | 8 B 9 | _ C _ 
行3: 3 _ _ | _ 7 _ | _ _ 8 
行4: _ 3 _ | _ 4 _ | _ 5 _ 
行5: P D 1 | 7 E 8 | 9 F R 
行6: _ 6 _ | _ 2 _ | _ 3 _ 
行7: 2 _ _ | _ 5 _ | _ _ 4 
行8: _ G _ | 6 H 3 | _ K _ 
行9: S _ 9 | _ T _ | 5 _ U 
これでどうですか。

A(ChatGPT o3):
コンテキストと前提条件

・ご提示いただいた 9 × 9 盤面は通常の数独ルール(行・列・3 × 3 ブロックに 1〜9 が一度ずつ)に従うとみなしました。
・空欄と赤いアルファベット(A, B, C … U)は同じ「未確定マス」として扱い、まず数独を一意に解き、最後に各アルファベットが入る数字を読み取りました。
・手計算で追うと長くなるため、バックトラック法で全探索を行い 唯一解 を確認しています。

解の導出(要約ステップ)

1.初期候補設定
・与えられた数字を固定し、各空きマスに 1〜9 の候補集合を置く。
2.基本論理手筋
・行・列・ブロックごとに “唯一候補”・“隠れたシングル” を反復適用。
3.行列スキャンとブロック整合
・ブロックから行/列へ候補を削減し、再び唯一候補を確定。
4.バックトラック(必要最小限)
・まだ二つ以上候補が残るマスで仮置き → 矛盾検出 → ロールバック。
5.完成
・全 81 マスが確定し、矛盾なく盤面が完成。
(途中で “X-Wing” など高度な手筋は不要で、基本的な絞り込み+最小限の分岐だけで一意解に到達しました。)

完成した盤面

行1  8 1 5 | 3 6 4 | 2 7 9
行2  4 2 7 | 8 1 9 | 3 6 5
行3  3 9 6 | 2 7 5 | 1 4 8
     ------+-------+------
行4  7 3 2 | 9 4 6 | 8 5 1
行5  5 4 1 | 7 3 8 | 9 2 6
行6  9 6 8 | 5 2 1 | 4 3 7
     ------+-------+------
行7  2 8 3 | 1 5 7 | 6 9 4
行8  1 5 4 | 6 9 3 | 7 8 2
行9  6 7 9 | 4 8 2 | 5 1 3

アルファベットが示す数字

文字    数字    文字    数字
    A         2     H         9
    B         1     K         8
    C         6     L         8
    D         4     M 6
    E         3     N         9
    F         2     P     5
    G         5     R         6
    S         6     T     8
    U         3
(同じ数字が複数の文字に入っている箇所は、一つの数字が複数マスに出現するだけでルール上問題ありません。)

これで赤いアルファベット A, B, C, D, E, F, G, H, K, L, M, N, P, R, S, T, U に入る数字がすべて確定しました。他にも検算方法や途中の詳細ロジックをご覧になりたい場合はお知らせください。
正解だ。pdfがだめだというので,テキストで入れたのだが,むしろ jpg のような画像ファイルにしたほうがよかったかもしれない。ところで,他の生成AIではどうだろうか。

(1) Gemeni 2.5 Pro (experimental)
自信満々で答えをすぐに出してのだが,間違っている。pdfファイルの問題を勘違いしているのかとtext にして確認したけれど,こんどはこちらの問題が間違っていると主張しだした。

(2) DeepSeekV3
中国語で329秒の長考に入った。結論は(日本語にする余裕を失っている),

由于提供的数独表格结构不清晰,导致无法准确解析各单元格的位置和宫格划分。特别是存在同一列中重复数字(如行3和行4的列1均为3),这违背了数独的基本规则。因此,在现有信息下,无法正确解答红色字母对应的数字。建议核对题目排版或提供更清晰的数独结构。

DeepLによる訳(提供された数独表の構造が不明確なため、マスの位置やパレットの分割を正確に解析することができない。 特に、同じ列に重複した数字があり(例えば、3行目と4行目の列の1が両方とも3)、これは数独の基本ルールに反している。 したがって、赤文字に対応する数字は、入手可能な情報では正解できなかった。 問題レイアウトをチェックするか、より明確な数独の構造を提供することを推奨する。)

pdfファイルを読み誤ったのかもしれない。

(3) Qwen-2.5 Max
短時間でスイスイと解いて,中国語で答えを返してきたが,全く間違っていた。チーン。

2025年4月25日金曜日

量子群

D-加群からの続き

アーベル賞の柏原正樹(1947-)さんから同じ佐藤幹夫(1928-2023)さん門下の神保道夫(1951-)さんが連想された。ヤン・バクスター方程式(これすら日本語Wikipediaの項目になっていないのか…orz)とか量子群とかで目にすることが多い。そこで,量子群についても Gemini 2.5 の実力を試してみる。

Q(koshix):
量子群について理系の学部生にもわかるよう丁寧に説明してください

A(Gemini 2.5 Pro Experimental):

量子群入門:理系学部生のためのやさしい解説

こんにちは!量子群に興味を持ってくれて嬉しいです。量子群は、数学や物理学の様々な分野で登場するとても面白い対象ですが、少し抽象的で難しいと感じるかもしれませんね。ここでは、理系の学部生にもイメージが掴めるように、量子群の基本的な考え方や面白さを丁寧に解説していきます。

1.量子群って、そもそも何?
一言でいうと、量子群は**「群の構造を『変形』あるいは『量子化』したもの」**と考えることができます。

普通の「群」は、対称性を記述するための数学的な道具ですよね。例えば、正三角形を回転させたり裏返したりしても形が変わらない、という「対称性」は、位数6の群(3次対称群S₃と同型)で記述できます。

量子群は、この「対称性」の考え方を拡張したものです。普通の群が持つ構造(特に、元と元の掛け算)を、あるパラメータ(よく q という文字で表されます)を使って**「連続的に変形」**させます。そして、このパラメータ $q$ が特定の値(多くの場合 $q=1$)をとるときに、元の(あるいは関連する)群の構造に一致するように作られています。

ポイント:
・普通の群の「変形バージョン」「q-バージョン」
・パラメータ $q$ を含む
・$q=1$ で古典的な(普通の)構造に戻る

2.なぜ「量子」って名前がつくの?
「量子」という名前がついているので、量子力学と直接関係があるように思うかもしれませんね。実際、量子群は量子力学(特に量子可積分系と呼ばれる分野)の研究から生まれてきました。量子力学では、物理量が「量子化」され、非可換な(順番を入れ替えると結果が変わる)演算子で表されることがありますが、量子群も非可換性が本質的な役割を果たす代数構造を持っています。

しかし、量子群は量子力学だけでなく、
・結び目理論(紐の結び目を数学的に分類する)
・低次元トポロジー(空間の形を研究する)
・統計力学
・表現論(群や代数がベクトル空間にどう作用するかを調べる)
など、数学や物理学の幅広い分野で重要な役割を果たしています。必ずしも量子力学の知識が前提となるわけではありません。

3.量子群の「正体」:ホップ代数
数学的には、量子群は**「ホップ代数(Hopf algebra)」**という代数構造の一種として定義されます。ホップ代数と聞くと難しそうですが、基本的なアイデアは群の構造を一般化したものです。

群には主に3つの操作がありますね。
1. 積(掛け算): 2つの元 $g, h$ から新しい元 $gh$ を作る。
2. 単位元:掛け算しても相手を変えない元 $e$ ($gh = hg = g$)。
3. 逆元: 各元 $g$ に対して、掛け算すると単位元になる元 $g^{-1} (gg^{-1} = g^{-1}g = e)$。

ホップ代数は、これらの操作を「代数」(ベクトル空間に掛け算が定義されたもの)の上で一般化した構造を持っています。特に重要なのが**「余積(co-product)」**と呼ばれる操作です。

積 (Multiplication) $m: A \otimes A \rightarrow A$
 $\circ$ これは普通の代数の掛け算です。2つの元を取ってきて、1つの元を返します。群の積 $(g, h) \mapsto gh$ に対応します。
単位元 (Unit) $\eta: k \rightarrow A$ ($k$は係数体、例えば複素数体$\mathbb{C}$)
 $\circ$ スカラー(数)から特定の元(単位元)を作り出します。群の単位元 $e$ に対応します。
余積 (Comultiplication) $\Delta: A \rightarrow A \otimes A$
 $\circ$ これが量子群(ホップ代数)を特徴づける重要な操作です。1つの元から、元のペア(テンソル積)を作り出します。「元を2つに分裂させる」ようなイメージです。
 $\circ$ 群 $G$ 上の関数環 ${\rm Fun}(G)$ を考えると、関数の積 $(f_1 * f_2)(g) = f_1(g) * f_2(g)$ があります。一方、群の積 $G \times G \rightarrow G$ から誘導される写像 ${\rm Fun}(G) \rightarrow {\rm Fun}(G \times G) \cong {\rm Fun}(G) \otimes {\rm Fun}(G)$ が余積に対応します。具体的には、関数 $f$ に対して $\Delta(f)$ を $(\Delta(f))(g, h) = f(gh)$ と定義します。これは、$g$ での関数の値と $h$ での関数の値から $gh$ での値を求める方法を与えています。量子群では、この関数の世界での構造を、非可換な代数 $A$ 自身に持ち込みます。
余単位元 (Counit) $\varepsilon: A \rightarrow k$
 $\circ$ 代数の元からスカラー(数)を取り出す操作です。群の単位元 $e$ で関数を評価すること $f \mapsto f(e)$ に対応します。
対合射 (Antipode) $S: A \rightarrow A$
 $\circ$ 群の逆元 $g \mapsto g^{-1}$ に対応する操作です。積や余積と組み合わせて、逆元のような役割を果たします。

普通の群(例えばリー群 $G$)の場合、その上の関数全体のなす環 ${\rm Fun}(G)$ や、その普遍包絡代数 $U(g)$ ($g$ は $G$ のリー代数)が、ある種のホップ代数の構造を持ちます。量子群は、これらのホップ代数をパラメータ $q$ で「変形」したものなのです。

ポイント:
・量子群の実体は「ホップ代数」。
・積、単位元に加え、「余積」「余単位元」「対合射」という操作を持つ。
・特に「余積」が、群の構造(特に関数との関係)を反映し、量子群の表現論などで重要になる。

4.量子化のアイデア:「q-変形」
量子群の多くは、元の構造(例えばリー代数)の定義関係式を、パラメータ $q$ を使って変形することで構成されます。これを**「q-変形」や「q-アナログ」**と呼びます。

簡単な例として**「q-整数」**を見てみましょう。普通の整数 $n$ に対して、q-整数 $[n]_q$ は次のように定義されます。

$[n]_q = 1 + q + q^2 + ... + q^{n-1} = (1 - q^n) / (1 - q)$

ここで $q$ が $1$ に近づく極限($q \rightarrow 1$)を考えると、ロピタルの定理を使えば $[n]_q \rightarrow n$ となり、元の整数に戻ることがわかります。

このように、q-変形された対象は、$q=1$ の極限で元の(古典的な)対象に戻るという性質を持っています。量子群も同様で、$q=1$ とすると、多くの場合、対応するリー代数の普遍包絡代数と呼ばれるものになります。

5.具体的な例:$U_q(\mathfrak{sl}_2)$
最も基本的で重要な量子群の例として、$U_q(\mathfrak{sl}_2)$ があります。これは、リー代数 $\mathfrak{sl}_2 $ (2x2 のトレース0の行列全体) の普遍包絡代数 $U(\mathfrak{sl}_2)$ を q-変形したものです。

$sl_2$ は、3つの生成元 $E, F, H$ と以下の関係式で定義されます:
$[H, E] = HE - EH = 2E$
$[H, F] = HF - FH = -2F$
$[E, F] = EF - FE = H$

$U_q(\mathfrak{sl}_2)$ は、4つの生成元 $E, F, K, K^{-1}$ と以下の関係式で定義されます ($q$ は 1 でも -1 でもない複素数)。

$K K^{-1} = K^{-1} K = 1$
$K E K^{-1} = q^2 E$
$K F K^{-1} = q^{-2} F$
$[E, F] = EF - FE = (K - K^{-1}) / (q - q^{-1})$

ここで、$K$ は $q^H$ に対応するものと考えることができます。実際、$q \rightarrow 1$ の極限を適切にとると(例えば $K = q^H$ とおいて $q=e^h$ とし $h \rightarrow 0$ を考える)、$U_q(\mathfrak{sl}_2)$ の関係式が $U(\mathfrak{sl}_2)$ の関係式に近づいていくことがわかります。

特に、$[E, F]$ の関係式に注目してください。右辺に $(K - K^{-1}) / (q - q^{-1})$ という q-整数の類似物(q-数)が現れています。これが $q \rightarrow 1$ の極限で $H$ に対応します。

$U_q(\mathfrak{sl}_2)$ のような量子群の構造を調べることで、元のリー代数 $\mathfrak{sl}_2$ だけを見ていてはわからなかった新しい性質が見えてきます。特に、その表現論(量子群がベクトル空間にどのように作用するか)は非常に豊かで、結び目不変量ジョーンズ多項式など)の構成に応用されます。

6.量子群は何の役に立つのか?
量子群は純粋数学の対象として非常に興味深いだけでなく、様々な応用があります。

量子可積分系: 1次元の量子多体系(スピン鎖など)の厳密解を求める際に、量子群の対称性が重要な役割を果たします(量子逆散乱法、代数的ベーテ仮説)。
結び目理論: 量子群の表現論を用いると、ジョーンズ多項式をはじめとする強力な結び目不変量(結び目が同じかどうかを判定する指標)を系統的に構成できます。
低次元トポロジー: 3次元多様体の不変量なども量子群と関連して構成されています。
共形場理論: 2次元の場の量子論である共形場理論の対称性を記述するのに、量子群(あるいは関連する代数構造)が現れます。
非可換幾何学: 量子群は「非可換な空間」上の対称性を提供するものと見なすことができ、非可換幾何学の文脈でも研究されています。

まとめ
・量子群は、群の構造(対称性)をパラメータ $q$ で変形・量子化したもの。
・数学的にはホップ代数という枠組みで記述される。
・余積という操作が特徴的。
・$q=1$ の極限で、元の群やリー代数に関連する構造(普遍包絡代数など)に戻る。
・$U_q(\mathfrak{sl}_2)$ が代表的な例。
・量子可積分系、結び目理論、トポロジー、場の理論など、幅広い分野で応用されている。

量子群の世界は非常に奥深く、ここで紹介したのはほんの入り口です。もしさらに興味が湧いたら、まずは線形代数、群論、環と代数の基礎を固めた上で、表現論やリー代数について学んでみると、より深く理解できるようになるでしょう。専門書としては、例えば Christian Kassel の "Quantum Groups" などが標準的ですが、まずはより入門的な解説記事や講義ノートを探してみるのが良いかもしれません。
少しでも量子群の面白さや雰囲気が伝わったら嬉しいです!



図:ChatGPTによる印象派風の量子群のイメージ・・・

2025年4月24日木曜日

D-加群

鳩山由紀夫にちょっと似ている柏原正樹(1947-)さんが,賞金約1億円の2025年のアーベル賞を受賞した。賞金約200万円のフィールズ賞は4年に一度で40歳以下という年齢制限があるが,こちらはノーベル賞のように毎年受賞され年齢制限はない。

彼の代表的な仕事としてD-加群がとりあげられていた。ちょうど,GoogleのGemini 2.0 をバージョンアップしたGemini 2.5 Pro がすごいという噂が伝わってきた。普通のGeminiサイトの無料ユーザは使えないが(注:4月半ばからは使えるようになった),開発者向け(だけど誰でも無料で使える)の Google AI Studio では試してみることができる。さっそく,D加群の説明をお願いした。もうヘタな教師はいらないということになりそうだ。

Q(koshix):
D加群について理系の学部生にもわかるよう丁寧に説明してください

A(Gemeni 2.5 Pro Experimental / 14.3 s ):
はい、承知いたしました。D加群について、理系の学部生の方にもイメージが掴めるように、前提となる知識から順を追って丁寧に説明します。

1.D加群とは何か?(一言で)
**D加群(ディーかぐん)**とは、大雑把に言うと、微分方程式を代数的な視点から研究するための道具です。

線形代数ベクトル空間線形写像を使って連立一次方程式を扱うように、D加群という代数的な枠組みを使って、線形微分方程式の構造(解の次元、特異点の性質など)を深く理解しようとします。

「D」は微分作用素 (Differential operator) の頭文字、「加群」はベクトル空間を一般化した代数的な対象です。つまり、D加群とは「微分作用素がたくさん集まったもの(環)が作用する空間(加群)」のことです。

2.準備:いくつかの基本的な概念
D加群を理解するために、いくつか基本的な言葉を確認しましょう。

2.1. 環 (Ring) とは?
・環とは、足し算、引き算、掛け算が(いくつかのルールに従って)自由にできる数の集まりのようなものです。
・例:
 $\circ$ 整数全体の集合 $\mathbb{Z}$
 $\circ$ 実数全体の集合 $\mathbb{R}$,複素数全体の集合 $\mathbb{C}$
 $\circ$ 変数 x の多項式全体の集合 $k[x]$ ( $k$ は実数 $\mathbb{R}$ や複素数$\mathbb{C}$ などを想定してください)

・注意点: 環では、必ずしも掛け算の交換法則 $( a b = b a )$ が成り立つとは限りません。成り立たない環を非可換環といいます。D加群で中心的な役割を果たす「微分作用素の環」は、この非可換環の重要な例です。

2.2. 加群 (Module) とは?
・加群とは、ベクトル空間を一般化した概念です。
・ベクトル空間を思い出してみましょう。
 $\circ$ ベクトル同士の足し算ができる。
 $\circ$ ベクトルをスカラー(実数や複素数など)で定数倍できる。
 $\circ$ これらの演算は、いくつかの自然な法則(分配法則など)を満たす。
・加群では、この「スカラー」の役割を「環の元」が担います。
 $\circ$ 加群の元同士の足し算ができる。
 $\circ$ 加群の元を環の元で「定数倍」(これを作用といいます)できる。
 $\circ$ これらの演算は、ベクトル空間と同様の自然な法則を満たす。

簡単に言えば、

(実数 $\mathbb{R}$ や複素数 $\mathbb{C}$ など、0以外の数で割り算ができる環)上で定義された加群がベクトル空間
・一般の環 $R$ 上で定義された加群が R加群 です。

・関数に作用して、別の関数を作り出す操作のうち、「微分」を含むものです。
・例(1変数 $x$ の場合):
 $\circ$ $\frac{d}{dx} $ ( $x$ で微分する)
 $\circ$ $x \frac{d}{dx} $ ( $x$ で微分して $x$ を掛ける)
 $\circ$ $3\frac{d^2}{dx^2} + x \frac{d}{dx} -5 $ (定数や $x$ の多項式を係数とする微分の組み合わせ)

3.微分作用素の環 D (Weyl代数)
いよいよD加群の「D」の部分です。これは微分作用素たちが作る環のことです。

ここでは簡単のため、1変数 $x$ の場合を考えます。係数は複素数 $\mathbb{C}$ としましょう。(他の体でも同様に考えられます。)

・基本的な要素 :
 $\circ$ 変数 x (関数に $x$ を掛ける操作とみなす)
 $\circ$ 微分 $\partial = \frac{d}{dx}$ 
・微分作用素の環 D:
$x$ と $\partial$ を変数のように扱い、これらと複素数を使って多項式のように書けるもの全体の集まり。ただし、掛け算の順番に意味があります。
 $\circ$ 要素の例: $3\partial^2 + x \partial -5, x^2, \partial x, x \partial$ など。
 $\circ$ 足し算、引き算、掛け算が定義できます。
 $\circ$ 掛け算は「作用素の合成」に対応します。例えば、$P,Q$ を微分作用素とするとき、$PQ$ は「まず $Q$ を作用させ、次に $P$ を作用させる」という意味になります。
・重要なルール(非可換性):
微分作用素の掛け算(合成)は、順番を入れ替えると結果が変わることがあります。特に重要なのが $x$ と $\partial$ の関係です。
関数 $f(x)$ に $\partial$ を作用させると、
$(\partial x)f(x) = \frac{d}{dx}(x f(x)) = 1 \cdot f(x) + x \frac{df}{dx} = (1+x\partial) f(x)$
となります。つまり、作用素として
${\bm \partial} {\bm x} = {\bm x} {\bm \partial} + {\bm 1}$
という関係式が成り立ちます。これは掛け算の順番が交換できないこと $(\partial x \neq x \partial)$ を示しており、この環 $D$ が非可換環であることを意味します。

この微分作用素の環 D は、特にワイル代数 (Weyl algebra) と呼ばれ、$A_1(\mathbb{C})$や$\mathbb{C}[x]\langle \partial \rangle $ などと書かれます。多変数の場合も同様に定義できます。

4.D加群 (D-module) の定義
準備が整いました。

D加群とは、上で定義した微分作用素の環 $D$ が作用する加群 $M$ のことです。

具体的には、以下の条件を満たすものです。

1. $M$ は(複素数 $\mathbb{C}$ 上の)ベクトル空間である(つまり、元同士の足し算や複素数倍ができる)。
2. 環 $D$ の任意の元 $P$ と、$M$ の任意の元 $m$ に対して、「 $P$ を $m$ に作用させた結果」である $P \cdot m $ が $M$ の元として定まっている。
3. この作用は、いくつかの自然な法則を満たす。例えば、
 $\circ$ $ (P + Q)\cdot m = P \cdot m + Q \cdot m $
 $\circ$ $ P \cdot (m + n) = P \cdot m + P \cdot n $
 $\circ$ $(PQ) \cdot m = P \cdot (Q \cdot m)$
 $\circ$ $1 \cdot m = m \quad (1 は $D$ の乗法単位元)$

直感的なイメージ:
D加群 $M$ は、元(ベクトルみたいなもの)がたくさん集まった空間で、その元に対して微分作用素 $P \in D$ を「作用」させることができる。作用させても、また $M$ の中に収まっている。

5.D加群の例
・例1: 多項式環 $\mathbb{C}[x]$
多項式 $f(x)$ に、微分作用素 $P \in D$ を普通に作用させることができます。例えば、
$ P = \partial + x $ なら、$P \cdot f(x) = \frac{df}{dx} + x f(x)$となり、結果も多項式(または0)です。よって、$\mathbb{C}[x]$ は自然にD加群になります。
・例2: ローラン多項式環 $\mathbb{c}[x,x^{-1}]$
$x$ と $x^{-1}$ の多項式(例: $3 x^2 -2 x^{-1} + 5 $) の集まりです。これも微分作用素を作用させることができ、D加群になります。
・例3: 微分方程式から作られるD加群 
これがD加群の重要な考え方です。線形微分方程式 $P u = 0 ( P \in D ) $を考えます。
この方程式自体を表わすD加群として、$M = D/DP $ というものを考えます。
 $\circ$  D は環自身ですが、左からDの元を掛けることでD加群とみなせます。
 $\circ$  $DP$ は、$D$の元$Q$に対して $QP$ という形で書ける元全体の集合で、$D$の「左イデアル」と呼ばれる部分構造です。
 $\circ$  $D/DP$ は、「$D$の元を、$DP$の元を0とみなして割った(同一視した)もの」です。(剰余環商ベクトル空間のアナロジー)
 $\circ$  この $ M = D/DP $ というD加群を調べることで、元の方程式 $ P u = 0 $ の性質(解空間の次元、特異点の位置や性質など)を代数的にかいせきすることができます。
例えば、$P = \partial $の場合、$M = D/D \partial $は$\partial $を作用させると0になるような加群で、これは定数関数 $M = D/D \partial $ は$\partial$ を作用させると0になるような加群で、これは定数関数 $\mathbb{C} $ と同型なD加群になります。
$P = x \partial - \lambda $ ($\lambda$ は定数) の場合、$M = D/D (x \partial - \lambda)$ は$x^\lambda$ という関数(の属する空間)に関連する D加群です。

6.なぜD加群を学ぶのか?(重要性)
D加群は、一見抽象的に見えますが、非常に強力で応用範囲の広い概念です。

微分方程式の深い理解:線形微分方程式の解空間の次元、特異点の構造、解の接続問題などを、加群のホモロジー代数的な手法を用いて統一的に、かつ精密に解析できます。
代数解析学:D加群は、佐藤幹夫(1928-2023)によって創始された代数解析学の中心的な研究対象です。超関数や層の理論と結びつき、解析学の問題を代数的に扱います。
表現論との繋がり:リー代数や量子群などの表現論と深く関わっています。D加群の理論が表現論の問題解決に応用されたり、逆に表現論の視点からD加群が研究されたりします。
数理物理:場の量子論や弦理論など、現代物理学の数理的な側面にも現れます。
代数幾何学との関係: D加群の特性多様体などを通じて、代数幾何学的な対象とも結びついています。

7.まとめ
D加群は、微分作用素の環 $D$ が作用する加群(ベクトル空間の一般化) です。
・特に、微分作用素の環 $D$ (ワイル代数) は非可換 ($\partial x = x \partial + 1$) であることが重要です。
・D加群は、線形微分方程式を代数的に表現し、その構造を調べるための強力な枠組みを提供します。
・$ M = D/DP $ のように、微分方程式 $P u = 0 $ に対応する D加群を考えることが基本的なアイデアです。
・代数解析学、表現論、数理物理など、数学や物理学の様々な分野と深く関わっています。

学部レベルの線形代数や微分積分の知識があれば、D加群の基本的な考え方やモチベーションは理解できると思います。さらに深く学ぶには、環と加群の理論(抽象代数学)、ホモロジー代数、多様体の理論などが必要になってきますが、まずは「微分方程式を代数で扱う面白い道具があるんだな」というイメージを持っていただければ幸いです。

もし興味があれば、「ワイル代数」「代数解析学入門」「D加群」といったキーワードで調べてみると、さらに詳しい情報が見つかるでしょう。

 


図:Imagen3が妄想しているD-Module のイメージ(ハルシネーション)


2025年3月4日火曜日

整数のべき乗の下二桁

オイラーの定理・Grok からの続き

問題がわかったようなわからないような場合は,プログラムに落とし込んでもらうほうがありがたい。

Q(koshix):
f(n,m)=mod(n^m,100) と定義します。(n=2,3,...,m=2,3,...)
この関数は最小の出発点をm_0(n)として,最小周期T(n)を持つことがわかっているとします。つまり,f(n,m_0+T(n))=f(n,m_0) です。このとき,m_0(n)とT(n)をnの式で表わすことができますか。できる範囲で構いませんけど。

A(ChatGPT o3-mini-high):
(57秒推論,たぶん正解,以下出力省略,m=2,3,...というのはこちらの入力ミスで,m=1,2,... でなければならないのだけれど,そのあたりは勝手に斟酌して話を進めてくれている。
出発点:m0(n) = ...
周期:T(n) = ...

Q(koshix):
n,mを入力したときに,m0(n)とT(n)を求めるプログラムを作ってください。

A(ChatGPT o3-mini-high):
(できた!)

Q(koshix):
(1) n=0を入れるまで繰り返して入力を促すようにしてください。
(2) 2^2=4, ... 2^22=...4 のように,周期に対応する部分の結果もあわせて出力するようにしてください。

A(ChatGPT o3-mini-high):
(できた!)

import math

def ord25(n):
    """
    n と 25 が互いに素な場合に、25 を法とする乗法群における n の位数を返す。
    すなわち、最小の正整数 k で n^k ≡ 1 (mod 25) となる k。
    可能性のある値は 1, 2, 4, 5, 10, 20(φ(25)=20より)です。
    """
    if n % 5 == 0:
        return None  # n が5の倍数の場合、この関数は使いません
    for k in [1, 2, 4, 5, 10, 20]:
        if pow(n, k, 25) == 1:
            return k
    return 20  # 理論上ここには来ないはず

def compute_m0_T(n):
    """
    与えられた n に対して、f(n, m) = n^m mod 100 の
    出発点 m0(n) と周期 T(n) を計算する関数です。
    
    ・モジュロ4について:
      - n ≡ 2 (mod 4) の場合は、m0,4 = 2(m>=2から定常)
      - それ以外は m0,4 = 1
    ・モジュロ25について:
      - 5で割れるが25で割れない場合は m0,25 = 2(m>=2から0になる)
      - それ以外(すなわち 5と互いに素または25で割れる場合)は m0,25 = 1
      
    最終的な出発点は m0(n)=max(m0,4, m0,25) として計算します。
    
    周期は、各合同式での周期の最小公倍数として
      T(n) = lcm(T4(n), T25(n))
    とし、モジュロ4では
      - 奇数かつ n ≡ 3 (mod 4) の場合は T4 = 2、それ以外は T4 = 1
    また、モジュロ25では
      - n と 25 が互いに素なら ord25(n) を、5で割れる場合は T25 = 1 とします。
    """
    # モジュロ4での出発点
    m0_4 = 2 if n % 4 == 2 else 1

    # モジュロ25での出発点
    m0_25 = 2 if (n % 5 == 0 and n % 25 != 0) else 1

    m0 = max(m0_4, m0_25)

    # モジュロ4での周期 T4:
    T4 = 2 if (n % 2 == 1 and n % 4 == 3) else 1

    # モジュロ25での周期 T25:
    if n % 5 == 0:
        T25 = 1
    else:
        T25 = ord25(n)

    T = (T4 * T25) // math.gcd(T4, T25)
    return m0, T

def main():
    while True:
        try:
            n = int(input("整数 n を入力してください (終了するには 0 を入力): "))
        except ValueError:
            print("整数を入力してください。")
            continue
        
        if n == 0:
            break
        
        m0, T = compute_m0_T(n)
        print(f"\nn = {n} のとき:")
        print(f"  出発点 m0({n}) = {m0}")
        print(f"  周期 T({n}) = {T}")
        print("周期に対応する部分の結果:")
        # m0 から m0+T まで(両端を含む)で f(n, m) = n^m mod 100 の値を出力
        for m in range(m0, m0 + T + 1):
            result = pow(n, m, 100)
            print(f"  {n}^{m} = {result}")
        print("-" * 40)
    
    print("終了しました。")

if __name__ == "__main__":
    main()

======================================================
(出力結果)

整数 n を入力してください (終了するには 0 を入力):  16

n = 16 のとき:
  出発点 m0(16) = 1
  周期 T(16) = 5
周期に対応する部分の結果:
  16^1 = 16
  16^2 = 56
  16^3 = 96
  16^4 = 36
  16^5 = 76
  16^6 = 16
----------------------------------------
整数 n を入力してください (終了するには 0 を入力): 

 

Q(koshix):
このプログラムを利用して,T(n)のn=1...100 までのリスト,m0(n)の1...100までのリストを出力してください。

A(ChatGPT 03-mini-high):
(125秒考察の後,コードとその実行結果のリストを出力してくれた。微妙に欠損していたので,もとのコードを自分で改変して修正出力した。)

図:T(n)とm0(n)のリストプロット(n=1...100)




2025年3月3日月曜日

Grok3

オイラーの定理からの続き

イーロン・マスクが支配しているX(旧Twitter)からはなるべく遠ざかりたい。日本語で自分がフォローしている空間はそこまで荒れていないし,情報量も多いので悩ましいところだ。そのマスクが2023年7月に立ち上げたAI開発企業が xAIだ。 

xAIのチャットボットであるGrokは,Xの有料ユーザ向けに提供されているものだと思って無視していたが,いつの間にか Grok3 ベータ版がXの無料ユーザにも公開されていた。テストを誘導するための一時的な措置だろう。というわけで,この推論モデルの実力を試してみる。



図:Grokのアイコン(どこかから引用)

Tsujimotter が提起していた,「2の200乗の下2桁はいくつか?」の解法7選 にちなんだ問いだ。
Q(koshix):
整数m,nに対して,mod(n^m,100) がm=0,1,…に対して,周期的に振る舞うことを証明し,その周期のはじまるmの値が n によってどのように定まるかを求めてください。

A(Grok3):
124行ほど考えて,微妙に誤りが含まれた生ぬるい回答を返してきた。論理的な推論というよりも,具体的な計算の試行錯誤のような印象を受ける)

A(DeepSeek R1):
371秒かけて中国語で考察した後,ある程度妥当だけれど不完全な回答を中国語で返してきた。日本語に直してとお願いしたら,「服务器繁忙,请稍后再试。」だと。)


A(Gemini 2.0 Flash Thinking Experimental):
253行ほど考えて,あまり整理されていない回答を返してきた。頭悪いのかと思ったが,最後の結論はもしかすると良いのかもしれない。自分自身の理解が不十分なのか?)

A(ChatGPT o3-mini-highl):
37秒かけて日本語で考察した後,もっともらしい整理された答えを返してきた。)

ということで,Grok3は巷の一部の評判ほどのものではないようだ。DeepSeek R1も相変わらずイマイチなので,とりあえず様子見ながら,o3-mini-highを中心に使うのがよろし。

2025年3月2日日曜日

オイラーの定理

フェルマーの小定理オイラーの関数からの続き

大人を過ぎてから初めて目にした概念はなかなか覚えられない。フェルマーの小定理がそれだ。鈴木貫太郎の大学入試数学チャンネルもなくなってしまったので,なおさらだ。

フェルマーの小定理は,素数を$p$とし,$p$とたがいに素な整数を $a$(gcd($a, p$)=1)として,$a^{p-1} \equiv 1 \quad ({\rm mod}\ p)$ 。あれれ,gcd($a, p$)=1 をはずせば,$a^p \equiv a \quad ({\rm mod}\ p)$)でもいいのか。

証明は次のとおり。
整数 $a, x$,素数$p$とする。二項定理で$(x+1)^p$を展開すると,
$(x+1)^p = x^p + C_1^p x^{p-1} 1^1 + C_2^p x^{p-2} 1^2 + \cdots + C_{p-1}^p x^1 1^{p-1} + 1^p$
ところで,上式の$C_k^{p-k}=\dfrac{p!}{k! (p-k)!}$であり,分母の$k<p, \ p-k < p\ $には分子の$\ p \ $を割り切る数は含まれていない。したがって,$(x+1)^p \equiv x^p+1 \quad ({\rm mod} \ p) $ である。

これから,$a^p \equiv (1+(a-1))^p \equiv 1 + (a-1)^p \quad ({\rm mod}\ p ) $
$a^p \equiv 1+ (a-1)^p \equiv 1+ 1 + (a-2)^p \equiv \cdots \equiv  a + 0^p  \quad ({\rm mod} \ p ) $
$a$と$p$は互いに素なので,両辺を$a$で割って,$a^{p-1} \equiv 1 \quad ({\rm mod} \ p) $

オイラーの定理は,フェルマーの小定理のべきの素数部分を拡張したものに相当する。
正の整数$m$に対して,集合$\ r(m) = \{a\ |\ 1 \le a \le m, \ {\rm gcd} (a, m) = 1\} $ を考え,その要素数をオイラー数 $\varphi(m)= \#r(m)$  とよんでいる。そこで,$r(m) = \{r_1, r_2, \cdots, r_{\varphi(m)} \}$。なお,$p$に対して,$\varphi(p) = p -1$。

集合 $r(m)$のすべての要素に$a$をかけて,${\rm mod}\  m$ をとれば,その集合 $ar(m) = \{ a r_1, a r_2, \cdots, a r_{\varphi(m)} \}$ は $r(m) = \{r_1, r_2, \cdots, r_{\varphi(m)} \}$と等しくなる。そこで,これらの要素の積を考えると,$ a^{\varphi(m)} \Pi_{i=1}^{\varphi(m)} r_i \equiv \Pi_{i=1}^{\varphi(m)} r_i \quad ({\rm mod }\ m )$ なので,
オイラーの定理,$a^{\varphi(m)} \equiv 1 \quad  ({\rm mod }\ m )\ $ が得られる。

(注)なお,$ar(m) = \{ a r_1, a r_2, \cdots, a r_{\varphi(m)} \} \quad ({\mod \ m }) \equiv \{ r'_1, r'_2, \cdots, r'_{\varphi(m)} \} \ $の要素$\ r'_i \ $はすべて,$a, m$と互いに素であり,同じものは含まれない。

(1) $p, q$を素数として,$m=p q\ $である場合,$\varphi(m) = \varphi(p) \varphi(q)$ となる。
$\varphi(m)\ $は,$\{1,2, \cdots, m \}$から,$p$の倍数と$q$の倍数を除いたものになるので,それぞれ,$q$個,$p$個あるが,$p q$は両方で重なっている。そこで,$p, q$の倍数でないものの個数は,$ \varphi(m) = pq -p - q +1 = (p-1) (q-1) = \varphi(p) \varphi(q) $ となる。3個以上の場合も同様。

(2) $p$ を素数,$k$を正整数として,$m = p^k\ $である場合,$\varphi(m) = p^k - p^{k-1} \ $ となる。これは,$\{ 1, 2, \cdots , p^k \} $ の中で,$ \{ 1 p, 2 p, \cdots , p^{k-1} p\}$ は$m$と互いに素でないので,その個数を引けばよいからだ。

(3) これらを組み合わせると,$m = p_1^{k_1} p_2^{k_2} \cdots p_n^{k_n}\ $ として,$\varphi(m) = m (1-1/p_1) (1-1/p_2) \cdots (1-1/p_n) $ となる。


図:オイラーのファイ関数のグラフ(Wikipediaから引用)

[2]オイラーのファイ関数のイメージ(高校数学の物語)

2025年2月16日日曜日

ChatGPT o3-mini(3)

ChatGPT o3-mini(2)からの続き

東京理科大の数学の入試問題が話題になっていた。出題ミスだとかなんとか。その真偽はわからないのだけれど,この問題の最終段階で必要となる式を眺めると,ちょっと自分には解けなさそうだった。なさけない。以下の左辺から右辺を導くのだ。

$\displaystyle \sum_{n=2}^{\infty} \dfrac{2}{n^2+3n-2} = \dfrac{1}{2} + \dfrac{2\pi}{\sqrt{17}} \tan {\dfrac{\sqrt{17} \ \pi}{2}}$ 

Mathematicaでは,238μsで正解が得られる。ChatGPT o3-mini-highでは,やたら推論時間がかかってしまい途中では誤りもみられる。便利なようだけれど使い方は要注意。 
Q(koshix):
次の級数を求めてください。 Σ_{n=2}^∞ 2/(n^2+3n-2)

A(ChatGPT o3-mini-high):
31秒かけて推論)
(導出過程省略)
【結論】
したがって,この級数の和は,
$\displaystyle \sum_{n=2}^{\infty} \dfrac{2}{n^2+3n-2} = \dfrac{\sqrt{17}}{2}\Bigl[ \psi\Bigl(\dfrac{7+\sqrt{17}}{2}\Bigr) - \psi\Bigl( \dfrac{7-\sqrt{17}}{2}\Bigr) \Bigr] $ 
【補足】
・ここで用いたディガンマ関数$\psi(x)$は,$\psi(x) = \frac{d}{dx} \ln \Gamma(x)$と定義される特殊関数です。
・回答はこれ以上初等関数だけで簡単な形にまとめることは難しく,この形で示すのが一般的です。

このように、部分分数分解とディガンマ関数の性質を用いることで、与えられた級数を閉じた形で表すことができました。


Q(koshix):
ディガンマ関数を用いずに,高等学校数学の範囲に登場する関数で表現してください。

A(ChatGPT o3-mini-high):
117秒かけて推論)
(導出過程省略)
【まとめ・最終回答】
部分分数分解と(望遠的な)和の評価により、特殊関数を使わず初等関数だけで表すと,
$\displaystyle \sum_{n=2}^{\infty} \dfrac{2}{n^2+3n-2} = \dfrac{1}{\sqrt{17}} \ln {\dfrac{5+ \ \sqrt{17} }{5-\sqrt{17}}}  $ 

【補足】
・導出の途中で「拡張調和数」やディガンマ関数を用いる方法もありますが,最終結果は対数と平方根のみで表されています。
・(実際の解析では、各項の和を適切に並べ替え・打ち消すことでこの形が得られることが確認できます。)

以上が、特殊関数を用いず高等学校数学レベルの初等関数のみで表現した解答です。


Q(koshix):
その結果は間違ってますね。Tan が出てくるはずですが。

A(ChatGPT o3-mini-high):
74秒かけて推論)
(導出過程省略)
【最終回答】
$\displaystyle \sum_{n=2}^{\infty} \dfrac{2}{n^2+3n-2} = \dfrac{2\pi}{\sqrt{17}} \tan {\dfrac{\pi \ \sqrt{17} }{2}} + \dfrac{1}{2} $ 
(解説省略)

2025年1月22日水曜日

立体と内接球(3)

立体と内接球(2)からの続き

さきほどから,底面を構成する正n角形の一辺の長さを$a$として議論を進めてきた。これだと$n$を無限大にしたときに $a$ を無限小にする必要があって円錐への極限をとる話が面倒になる。正三角錐や正四角錐の場合から話を繋げたのでこんなことになってしまった。

そこで,正n角形の中心Hからその1つの頂点までの距離を$a$とする。正n角錐の頂点Gから底面の頂点までの距離を$b$とする。Hから正n角形の一辺を見込む角度は$\dfrac{2\pi}{n}$であり,Hから辺までの距離は$\cos(\pi/n)$,一辺の長さの半分が$\sin(\pi/n)$となる。また正n角錐の高さGHは $\sqrt{b^2-a^2}$である。

正n角錐の内接球の半径を$r$とすると,前回のように三角形GOKにおけるピタゴラスの定理が$r$を決める条件式を与える。

$\displaystyle \Bigl\{ \sqrt{b^2-a^2 \sin^2(\pi/n) } - a \cos(\pi/n) \Bigr\}^2 + r^2 = \Bigl\{ \sqrt{b^2-a^2} - r \Bigr\}^2$
これを解くと,
$\displaystyle r(b)  = \dfrac{a \cos(\pi/n) \Bigl\{ \sqrt{b^2-a^2 \sin^2(\pi)/n } - a \cos(\pi/n) \Bigr\}}{\sqrt{b^2-a^2}}$
前回のように,球の体積の多角錐の体積に対する比率を最大化する$b$を求めると,
$ \dfrac{d}{db} \Bigl\{ r(b)^3/\sqrt{b^2- a^2} \Bigr\} = 0$
を解いて,
$\displaystyle b = a \sqrt{5+4 \cos(2\pi / n)}$
となる。
$n$が無限大の極限の正円錐の場合は,$b=3a$となり,$r=\dfrac{a}{\sqrt{2}}になる。


図:半径aの円に内接する斜辺bの正n角錐と内接球


2025年1月21日火曜日

立体と内接球(2)

立体と内接球(1)からの続き

具体例として,辺の長さが a の正 n 角形を底面とし,頂点から底面への辺の長さが b である正 n 角錐に内接する半径 r の球の問題を考えてみた。共に正 n 角錐の高さは$\displaystyle \sqrt{b^2-\Bigl( \dfrac{a}{2 \sin(\pi/n)}\Bigr)^2}$となる。図ではN=3の奇数角形とN=4の偶数角形の例で示している。



図:正n角錐と内接する球の側面図と平面図

上図から明らかなように,△DOF あるいは △GOKにおけるピタゴラスの定理から,nが偶数でも奇数でも共通の r に対する条件式が得られる。
すなわち,
$\displaystyle  \Bigl\{\sqrt{b^2-a^2/4}-\dfrac{a}{2\tan(\pi/n)} \Bigr\}^2+r^2 = \Bigl\{ \sqrt{b^2-a^2/4\sin^2(\pi/n)} - r \Bigr\}^2 $
これから,
$\displaystyle r(b) = \dfrac{a/(2 \tan(\pi/n)) \sqrt{b^2-a^2/4} - a^2/(4 \tan^2(\pi/n))}{\sqrt{b^2-a^2/(4\sin^2 \pi/n)}}$
さらに,球の体積の多角錐の体積に対する比率を最大化する$b$を求めると,
$ \dfrac{d}{db} \Bigl\{ r(b)^3/\sqrt{b^2- \frac{a^2}{4 \sin ^2(\pi/n)}} \Bigr\} = 0$
を解いて,
$\displaystyle b = \dfrac{a}{2 \sin(\pi/n)} \sqrt{5+4 \cos(2\pi / n)}$
となる。
そこで,$n=3,4,6$に対して,$b=a, \sqrt{\frac{5}{2}} a, \sqrt{7} a$,$r=\sqrt{\frac{1}{24}}a , \sqrt{\frac{1}{8}}a, \sqrt{\frac{3}{8}}a$ が得られる。

2025年1月20日月曜日

立体と内接球(1)

真鍋さんのブログでは,算額にある幾何学の問題がよくとりあげられる。おもしろそうだけれど,面倒な計算が必要なので(最近のものはChatGPTによる数値計算にまで至っている)ちら見しただけで通り過ぎることが多い。高校の恩師の話(愛媛の算額)はおもしろかった。

ところで,三角錐に内接する球におけるある式が目についた。$\displaystyle V = \dfrac{1}{3} r S$ だ。しかも,これは角柱,円柱,角錐でも成立するとある。えー,そんな式習ってないけど。と思ったが,おちつていよく考えてみるとなるほど案件だった。

$N$個の多角形で囲まれる一般の凸$N$多面体${\rm P}$の内部に一点${\rm O}$を取る。凸$N$多面体${\rm P}$は,その内部の点${\rm O}$と凸$N$多面体の表面を構成する隣接各点${\rm p_k}$を結んでできる三角錐${\rm \tau_i}$に,重ならないようにして分割できる(分割方法は一意的ではない)。

さらに凸$N$多面体の表面を構成する各面${\rm s_k}$(面積は$S_k$とする)に寄与する三角錐${\rm \tau_i}$を集めた一つの多角錐を${\rm t_k}$とし,その体積を$V_k$とする。また${\rm O}$点から,凸$N$多面体の各面${\rm s_k}$への距離(面に下ろした垂線の長さ)を$H_k$とする。

凸$N$多面体${\rm P}$の体積を$V$,表面積を$S$とすると,$\displaystyle V=\sum_{k=1}^N V_k, \quad S=\sum_{k=1}^N S_k$ である。一方,$V_k = \dfrac{1}{3} H_k S_k$ である。もし$H_k$がすべて等しい値$r$であれば,凸$N$多面体${\rm P}$の全ての面と内接する球が存在し,その半径が$r$になったものだと理解できる。このとき,$\displaystyle V = \dfrac{1}{3} r S $となる。

この特別な場合が角柱であり,角柱の一底面を一点に縮めてその点と中心点の関係を外せば角錐になる。また,正多角形を底面として側面をすべて合同な長方形や二等辺三角形にした角柱や角錐の側面を無限に小さく刻めば円柱や円錐になる。

図:真鍋さん(MIPO)の伊佐爾波神社算額No.6から引用


2024年11月22日金曜日

置換可能素数

レピュニットからの続き

プログラミングの例題として次のようなことを考えた。「ある素数があって,その各桁を入れ換えてできる全ての数が素数になるものを考える。その最大の素数はどんなものだろうか。」

で,実際に自分でプログラムを書くかというと,それは面倒なので,いつものようにAIに頼ることにする。軟弱だ。脳細胞のフレイルだ。OpenAI o1とかPerlexity Proに頼ってみたが,正しい答えがでない。PythonをJuliaに書き換えても,さらにドツボにはまるだけ。

一度リセットしてから,再度挑戦した。

Q(koshix):
n桁の素数が与えられたとき,その各桁の数字を入れ替えてできるすべての数が再び素数になるようなもので,できるだけ大きな数を探したい。桁数nを与えたときに,この条件を満たす最大の数を求めるプログラムを作成してください。

A(Perplexity Pro):
この問題を解決するために、以下のようなプログラムを作成しました。このプログラムは、与えられた桁数nに対して、条件を満たす最大の素数を見つけます。

import itertools
from sympy import isprime

def find_large_permutational_prime(n):
    lower_bound = 10**(n-1)
    upper_bound = 10**n
    primes = [p for p in range(lower_bound, upper_bound) if isprime(p)]
    largest_permutational_prime = -1
    for prime in primes:
        permutations = set(int(''.join(p)) for p in itertools.permutations(str(prime)))
        if all(isprime(p) for p in permutations):
            largest_permutational_prime = max(largest_permutational_prime, prime)
    return largest_permutational_prime

そして,ChatGPT-4oでJuliaに変換したものが次の通りである。
using Primes
using Combinatorics

function find_large_permutational_prime(n)
    lower_bound = 10^(n - 1)
    upper_bound = 10^n - 1
    largest_permutational_prime = -1
    
    for prime in primes(lower_bound, upper_bound)
        perms = Set(parse(Int, join(p)) for p in Combinatorics.permutations(string(prime)))
        if all(isprime(p) for p in perms)
            largest_permutational_prime = max(largest_permutational_prime, prime)
        end
    end
    
    return largest_permutational_prime
end
これを実行すると,n=3で991が得られる。n=4,5,6では結果なしということになった。これから,nが4以上では条件を満たす素数が存在しないと証明できないかと考えたけれど,そんな簡単な話ではなかった。もちろん,現在の生成AIでは証明できない。

調べてみるとこのような素数は,置換可能素数として既によく知られているものだった。911の上にある素数はレピュニット素数だった。これは無限個あると推定されているがまだよくわかっていないのだ。もちろん,3,7,9 の1種類だけが並んだ数は素数にはならない。

2024年11月18日月曜日

ピタゴラスの定理(2)

ピタゴラスの定理(1)からの続き

新しいピタゴラスの定理を発見した女子高校生チームが,新論文を出していた。さらに5つの新しい証明方法を見つけたというものだ。さっそく確認してみる。


図:ピタゴラスの定理の証明


図の3つの三角形に正弦定理(この名前がすでに思い出せない)を当てはめると次の六つの関係式が得られる。
$\triangle {\rm ABC : \quad}  \dfrac{a}{\sin \alpha} = \dfrac{b}{\sin \beta} = \dfrac{c}{\sin \pi/2}$
$\triangle {\rm ADC : \quad}  \dfrac{a+d}{\sin 2 \alpha} = \dfrac{b}{\sin (\beta-\alpha)} = \dfrac{x}{\sin \pi/2}$
$\triangle {\rm ADB : \quad}  \dfrac{d}{\sin \alpha} = \dfrac{c}{\sin (\beta-\alpha)} = \dfrac{x}{\sin \beta}$
$x$の項は不要だとすれば四式が残る。これから,$\alpha,\ \beta,\ d\ $を消去すると $\ a,\ b,\ c\ $の関係式が得られる。すなわち,$(a+d)\sin (\beta-\alpha)  = b \sin 2 \alpha, \quad d \sin (\beta-\alpha)  = c \sin \alpha $ から$\ d\ $を消去して,$\sin \alpha = \dfrac{a}{c}, \ \sin \beta = \dfrac{b}{c},\ \cos \alpha = \dfrac{b}{c}, \ \cos \beta = \dfrac{a}{c} \ $を代入する。
$a \dfrac{b^2-a^2}{c^2} + c \dfrac{a}{c} = b \dfrac{2 a b}{c^2} $ となり,$a^2+b^2=c^2$ が導かれる。

2024年11月5日火曜日

リュカ数列

フィボナッチ数列と1/89からの続き

ときどきネット上のフリーの教科書で掘り出し物があって楽しい。昨日散歩していた犬棒は,Sheldon Axler の Linear Algebra Done Right という線形代数のpdf教科書に当たった。Springerからも紙版が出版されている。その pdf ファイルの,クリエイティブコモンズ  表示-非営利 4.0 国際ライセンスのトップページには,次の式がでかでかと護符のように貼り付けられていた。
$\displaystyle F_n = \dfrac{1}{\sqrt{5}} \Bigl\{ \Bigl( \dfrac{1+\sqrt{5}}{2} \Bigr)^n - \Bigl( \dfrac{1-\sqrt{5}}{2} \Bigr)^n \Bigr\}$

この式がフィボナッチ数列を表しているというのを知ったのは,ずいぶん遅くて大学4年生のころだ。自宅で塾を開いて,中学生や高校生に数学を教えていたきのこと。大学進学のためのマイナーで難しそうな問題集を解かせていた北野高校の生徒が,フィボナッチ数列の問題を上記の式を使って一発で解いてきた。田舎の高校生時代に,近所に住んでいた数学乙の西野先生にしこまれた数列の漸化式の標準解法しか知らなかった物理学科の学生は見たこともない式にどぎまぎしてしまったのだった。確かに答えはあっていた。

その思い出の式を眺めていたら,$\sqrt{5}$の中を変えたらどうなるのかが初めて気になってきた。早速試してみよう。ということで,Mathematicaで答えを当たってみると,ルートの中身が4の倍数+1の場合に整数の数列が得られることがわかった。

そこで,軟弱なGさんは,久々にOpenAI o1-previewを取り出してその理由を聞いてみた。
Q(koshix):
数列 a_n = f[n_, m_] :=  1/Sqrt[m] (((1 + Sqrt[m])/2)^n - ((1 - Sqrt[m])/2)^n) // Expand がすべて整数の項からなる数列になるのは,n がどのような値をとる場合かを説明してください。

A(o1-preview):
(日本語による不十分で誤った説明→略)
Answer: Because all terms a_n  are integers if and only if n is the square of an odd integer—that is, when m =k^2 with odd k.

Q(koshix):
あなたのおっしゃる条件からはずれる場合,例えばn=5を確かめてみてください。この場合も全て整数の項からなる数列になりますよね。

A(o1-preview):
(日本語によるやや不十分でも正しい結果→略)
Answer: Because all terms a_n are integers if and only if n leaves a remainder of 1 when divided by 4 —that is, when m≡1 mod 4.

すっきりしないので,しぶしぶ人間の脳で考えることにしてみた。
$\alpha_m = \dfrac{1+\sqrt{m}}{2}, \ \beta_m = \dfrac{1-\sqrt{m}}{2}$と置いて,$\displaystyle F(m)_{n}=\dfrac{1}{\sqrt{m}}\Bigl( {\alpha_m}^n - {\beta_m}^n \Bigr)$である。
そこで,$F(m)_{0} = 0, \quad F(m)_{1} = \dfrac{1}{\sqrt{m}}\Bigl( {\alpha_m} - {\beta_m} \Bigr) = 1$
さて,${\alpha_m}^n - {\beta_m}^n = (\alpha_m + \beta_m) \Bigl( {\alpha_m}^{n-1} - {\beta_m}^{n-1} \Bigr)  - \alpha_m \cdot \beta_m \Bigl({\alpha_m}^{n-2} - {\beta_m}^{n-2} \Bigr)$ 
いいかえれば,$F(m)_n = F(m)_{n-1} - \dfrac{1-m}{4} F(m)_{n-2} $
したがって,$m=4k+1$であれば,$F(m)_n = F(m)_{n-1} + k F(m)_{n-2} $が成り立つので,初期値からすべての$F(m)_n$は整数となる。

これはどうやら,リュカ数列という,整係数の2次方程式の2つの解から定義される漸化式による二階線形回帰数列の一種だということだ。フィボナッチ数リュカ数ペル数フェルマー数メルセンヌ数など数論に現れる重要な数列がこれに属するとWikipediaには書いてあった。

2024年9月21日土曜日

OpenAI o1(3)

OpenAI o1(2)からの続き

前回の真鍋さんのMIPOの次の問題にチャレンジしたところ,OpenAI o1から正解は出てこなかった。とりあえず,自力で考えてみようとしたら,なかなか頭が働かない。次のような整数問題だ。
Q(koshix):
最大公約数が1である正の整数の組(a1,a2,a3,a4,a5,a6)であって, k1=a1/a2, k2=2*a2/a3, k3=3*a3/a4, k4=4*a4/a5, k5=5*a5/a6, k6=6*a6/a1 として,(k1, k2, k3, k4, k5, k6) がすべて 整数であるようなものはいくつあるか。
答えは6と出たが,正解は,15876 (=126^2) なのだった。実は,自分もAIと同じ間違いをしていて,すべてのa_i の組が互いに素であると思い込んでいた。そうではなくて,(a1, a2, a3, a4, a5, a6)の6つの数の最大公約数が1という条件なのだ。

つまり,k1*k2*k3*k4*k5*k6=6!=720を6つの正の整数(k1,k2,k3,k4,k5,k6)の積に分解する場合の数を求めればよい。つまり,720を素因数分解した 2^4*3^2*5 の各指数のべきを6つの箱に分配する場合の数(重複組み合わせ)の積になり,6H4*6H2*6H1=126*21*6=15876 である。

計算方法はわかったが,これが正しいためには,(a1,a2,a3,a4,a5,a6)と(k1,k2,k3,k4,k5,k6)が一対一対応する必要がある。その証明を OpenAI o1にきいて見よう。

Q(koshix):
a_i (i=1 ... n) が正の整数であり,(a_1, a_2 ..., a_n) の組の最大公約数は1であるとする。
a_1/a_2=k_1, 2*a_2/a_3=k_2, 3*a_3/a_4=k_3, ... (n-1)*a_{n-1}/a_n=k_{n-1}, n*a_n/a_1 = k_n 
において,(k_1, k_2, ... k_n) は整数となって,k_1*k_2*k_3*...*k_{n-1}*k_n = n! が成り立つ。
このとき,一つの(k_1, k_2, ... k_n) に対して必ず一つの(a_1, a_2 ..., a_n) が対応することを証明してください。

A(OpenAI o1)
証明:
まず、与えられた条件から $ a_i $ を $ k_i $ を用いて表現します。

ステップ1:$ a_i $ を $ k_i $ と $ a_1 $ で表す
最初の方程式から始めます。
1. $\dfrac{a_1}{a_2} = k_1$  ⇒  $ a_1 = k_1 a_2 $
2. $\dfrac{2a_2}{a_3} = k_2$  ⇒  $ a_3 = \dfrac{2a_2}{k_2} $
3. $\dfrac{3a_3}{a_4} = k_3$  ⇒  $ a_4 = \dfrac{3a_3}{k_3} $
   ⋮
このパターンを一般化すると、
$ a_i = \dfrac{(i-1)! \, a_1}{\prod_{j=1}^{i-1} k_j} $
となります。

ステップ2:最後の方程式を利用して $ k_n $ を表す
最後の方程式は
$\dfrac{n a_n}{a_1} = k_n$
これに $ a_n $ の表現を代入すると、
$ \dfrac{n \cdot \dfrac{(n-1)! \, a_1}{\prod_{j=1}^{n-1} k_j}}{a_1} = k_n \Rightarrow \dfrac{n!}{\prod_{j=1}^{n-1} k_j} = k_n $
したがって、$ k_1 k_2 \cdots k_n = n! $ が成り立ちます。

ステップ3: $ a_i $ の一意性の証明
$ a_i $ を $ a_1 $ と $ k_i $ で表すことができましたが、$ a_i $ が整数であるためには、$ a_1 $ が適切な値である必要があります。具体的には、すべての $ a_i $ が整数となる最小の $ a_1 $ を見つけます。
各 $ a_i $ に対して、分母となる $ \dfrac{\prod_{j=1}^{i-1} k_j}{(i-1)!} $ が存在します。すべての $ a_i $ が整数となるためには、$ a_1 $ がこれらの分母の最小公倍数(LCM)の倍数である必要があります。
すなわち、
$ a_1 = \operatorname{lcm}\left(1, k_1, \dfrac{k_1 k_2}{2}, \dfrac{k_1 k_2 k_3}{6}, \dots, \dfrac{k_1 k_2 \cdots k_{n-1}}{(n-1)!}\right) $
この $ a_1 $ を用いると、すべての $ a_i $ は一意に定まります。

ステップ4:最大公約数が1であることの確認
もし他に $ a_i' $ という解があると仮定すると、比 $ \dfrac{a_i}{a_i'} $ はすべて等しくなります。しかし、$ \gcd(a_1, a_2, \dots, a_n) = 1 $ であるため、この比は1でなければなりません。したがって、$ a_i = a_i' $ となり、一意性が証明されます。

結論
以上より、与えられた $ (k_1, k_2, \dots, k_n) $ に対して、一意な $ (a_1, a_2, \dots, a_n) $ が存在することが証明されました。よって、一つの $(k_1, k_2, ..., k_n)$ に対して必ず一つの $(a_1, a_2, ..., a_n)$ が対応します。
なるほど,素晴らしい。ちょっと気になったのは,分母である$ \dfrac{\prod_{j=1}^{i-1} k_j}{(i-1)!} $ が必ず整数なのかどうかである。具体的に試して見ると,必ずしも整数にならない場合がある。そんなときは,分母を形成する有理数の分子だけに着目して最小公倍数を考えれば良い。分母の有理数の分母は元の数の分子に回るだけだからである。そんなわけで,多少詰めが甘いような気がするけれど,ここまで推論できれば大したものである。


2024年9月13日金曜日

OpenAI o1(1)

GPT-4oからの続き

今年の5月にOpenAIがGTP-4oをリリースした。試してみるとなかなか良かったので,早速ChatGPT を再サブスクリプションしてから4ヶ月が経過した。ところが,この業界は流れが速いので,いつの間にかChatGPT-4oは取り残されつつあった。Claude 3.5 Sonnet がいいとか,Gemini 1.5 Proも使えるようになったとか,Perplexity やGenspark が最高だ!とか,他にも NapkinAI やらGammasやら話題が目白押し。ChatGPT一強から,これらの組み合わせによる群雄割拠の世界になってきた。

GPT-4oはわりと大きなファイルを読み込め,イメージも生成できるので,まだ,若干のアドバンテージはあったのだけれど,ネット上ではそろそろ解約するかという話題が湧き出して液状化現象を呈していた。さあ,そこに登場したのが,OpenAI o1 だ。OpenAIからのリリース文をGeminiに要約させると次のようなものだった。
OpenAIは、複雑な問題を解く能力に特化した新しいAIモデルシリーズ「OpenAI o1-preview」を発表しました。 このモデルは、問題解決に時間をかけ、より深く思考することで、従来のモデルよりも複雑なタスクをこなせるようになっています。特に、科学、コーディング、数学といった分野で高い能力を発揮し、国際数学オリンピックの予選問題を83%の正解率で解くなど、驚異的な成果を上げています。

o1-previewは、人間のように思考する過程を模倣するように訓練されており、様々な戦略を試したり、自身の誤りを認識したりすることができます。 ただし、現時点ではChatGPTのような一般的な機能は備わっていません。

安全性についても、OpenAIは新たな対策を講じています。 例えば、ユーザーが安全な範囲を超えた質問をしても、o1-previewがそれに従わないようにする仕組みが強化されています。また、外部の研究機関と協力し、モデルの安全性評価を行っています。

OpenAIは、o1-previewが科学やエンジニアリング分野における複雑な問題解決に貢献すると期待しています。 例えば、医療研究者が遺伝子データを解析したり、物理学者が複雑な方程式を解いたりする際に、このモデルが役立つ可能性があります。
o1-previwと簡易版でより高速な o1-mini が有料ユーザ向けに公開されていたので,すぐに使うことができた。ただし,o1-previewは 30回/週,o1-miniは 50回/週の上限が定められていた。o1は必ずしもChatGPT-4o の延長線上に位置するわけではないようだ。これらの試みがどこかで次のプレAGIモデルに統合されるのかもしれない。


早速試してみるべく,OpenAIにあった見本をそのまま実行してみた。問題は次の通りである。
$\mathcal{B}$ を表面積が 54,体積が 23 の直方体の集合とします。
$r$ を、集合 $\mathcal{B}$ の各直方体を内包できる最小の球の半径とします。
$r^2$ の値は、互いに素な正の整数 $p$ と $q$ を用いて $\frac{p}{q}$ と表すことができます。$ p + q$ を求めなさい。
推論プロセスが順次進行し,思考時間TT=105秒で正しい答えがでてきた。うーん,どうやら自分よりは賢そうである。ちょっと太刀打ちできないかもしれない。ただ,OpenAIのプレスリリースについて要約を求めると次のような答えであり,ChatGPT-4oほど融通がきかなかった。
申し訳ありませんが、2023年10月までの知識では指定されたURLや「OpenAI O1プレビュー」に関する情報を持っておりません。しかし、OpenAIのサービスや製品についてご質問があれば、できる限りお手伝いいたします。

真鍋さんのMIPOのページで,朝日新聞の数学体験教室の問題を解いていたので,こちらを与えてみることにする。
Q(koshix): a<b<c をみたす正の整数の組(a,b,c)であって, a^2-2005a > b^2-2005b > c^2-2005c が成り立つものはいくつあるか。

A(OpenAI o1 TT=24秒): 問題を解くために,a > b > c,a^2−2005a < b^2−2005b < c^2−2005c を満たす正の整数の組 (a,b,c) を求めます。 
 まず,関数 f(x)=x2−2005x を考えます。この関数の挙動を理解することが重要です。極値を求めるために,導関数を計算してゼロと等しくします: f'(x)=2x−2005=0⟹x=1002.5 
これは,f(x) が x≤1002.5 のとき減少し,x≥1002.5 のとき増加することを意味します。 
したがって: 
整数 x≤1002 の範囲では,f(x) は減少関数です。 
整数 x≥1003 の範囲では,f(x) は増加関数です。
 a > b > c であり, f(a) < f(b) < f(c) を満たすためには,a,b,c ≥ 1002 でなければなりません。これは, f(x) がこの範囲で減少するためです。
もし a,b,c ≤ 1003 であれば,f(x) は増加するので、不等式 f(a) < f(b) < f(c) は成立しません。
したがって、求める組の数は,1から1002までの整数から異なる3つの整数を選ぶ組み合わせの数になります。これは組み合わせの公式で計算できます: 
 組の数=1002_C_3=1002×1001×1000 / 3×2×1 これを計算すると:
答え:167,167,000 
 この計算は正しいです。
おしい。 ほとんど正しいのだけれど,c' = 2005-c の点も条件を満たすので,この答えの2倍が正解となっている。それでも,ここまでの推論ができるのはすごいわ。どうやら,推論時間に関するスケーリングの発見がキモらしいので,これからますます,GPUパワーが必要になるのか・・・