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2024年11月5日火曜日

リュカ数列

フィボナッチ数列と1/89からの続き

ときどきネット上のフリーの教科書で掘り出し物があって楽しい。昨日散歩していた犬棒は,Sheldon Axler の Linear Algebra Done Right という線形代数のpdf教科書に当たった。Springerからも紙版が出版されている。その pdf ファイルの,クリエイティブコモンズ  表示-非営利 4.0 国際ライセンスのトップページには,次の式がでかでかと護符のように貼り付けられていた。
$\displaystyle F_n = \dfrac{1}{\sqrt{5}} \Bigl\{ \Bigl( \dfrac{1+\sqrt{5}}{2} \Bigr)^n - \Bigl( \dfrac{1-\sqrt{5}}{2} \Bigr)^n \Bigr\}$

この式がフィボナッチ数列を表しているというのを知ったのは,ずいぶん遅くて大学4年生のころだ。自宅で塾を開いて,中学生や高校生に数学を教えていたきのこと。大学進学のためのマイナーで難しそうな問題集を解かせていた北野高校の生徒が,フィボナッチ数列の問題を上記の式を使って一発で解いてきた。田舎の高校生時代に,近所に住んでいた数学乙の西野先生にしこまれた数列の漸化式の標準解法しか知らなかった物理学科の学生は見たこともない式にどぎまぎしてしまったのだった。確かに答えはあっていた。

その思い出の式を眺めていたら,$\sqrt{5}$の中を変えたらどうなるのかが初めて気になってきた。早速試してみよう。ということで,Mathematicaで答えを当たってみると,ルートの中身が4の倍数+1の場合に整数の数列が得られることがわかった。

そこで,軟弱なGさんは,久々にOpenAI o1-previewを取り出してその理由を聞いてみた。
Q(koshix):
数列 a_n = f[n_, m_] :=  1/Sqrt[m] (((1 + Sqrt[m])/2)^n - ((1 - Sqrt[m])/2)^n) // Expand がすべて整数の項からなる数列になるのは,n がどのような値をとる場合かを説明してください。

A(o1-preview):
(日本語による不十分で誤った説明→略)
Answer: Because all terms a_n  are integers if and only if n is the square of an odd integer—that is, when m =k^2 with odd k.

Q(koshix):
あなたのおっしゃる条件からはずれる場合,例えばn=5を確かめてみてください。この場合も全て整数の項からなる数列になりますよね。

A(o1-preview):
(日本語によるやや不十分でも正しい結果→略)
Answer: Because all terms a_n are integers if and only if n leaves a remainder of 1 when divided by 4 —that is, when m≡1 mod 4.

すっきりしないので,しぶしぶ人間の脳で考えることにしてみた。
$\alpha_m = \dfrac{1+\sqrt{m}}{2}, \ \beta_m = \dfrac{1-\sqrt{m}}{2}$と置いて,$\displaystyle F(m)_{n}=\dfrac{1}{\sqrt{m}}\Bigl( {\alpha_m}^n - {\beta_m}^n \Bigr)$である。
そこで,$F(m)_{0} = 0, \quad F(m)_{1} = \dfrac{1}{\sqrt{m}}\Bigl( {\alpha_m} - {\beta_m} \Bigr) = 1$
さて,${\alpha_m}^n - {\beta_m}^n = (\alpha_m + \beta_m) \Bigl( {\alpha_m}^{n-1} - {\beta_m}^{n-1} \Bigr)  - \alpha_m \cdot \beta_m \Bigl({\alpha_m}^{n-2} - {\beta_m}^{n-2} \Bigr)$ 
いいかえれば,$F(m)_n = F(m)_{n-1} - \dfrac{1-m}{4} F(m)_{n-2} $
したがって,$m=4k+1$であれば,$F(m)_n = F(m)_{n-1} + k F(m)_{n-2} $が成り立つので,初期値からすべての$F(m)_n$は整数となる。

これはどうやら,リュカ数列という,整係数の2次方程式の2つの解から定義される漸化式による二階線形回帰数列の一種だということだ。フィボナッチ数リュカ数ペル数フェルマー数メルセンヌ数など数論に現れる重要な数列がこれに属するとWikipediaには書いてあった。

2024年9月21日土曜日

OpenAI o1(3)

OpenAI o1(2)からの続き

前回の真鍋さんのMIPOの次の問題にチャレンジしたところ,OpenAI o1から正解は出てこなかった。とりあえず,自力で考えてみようとしたら,なかなか頭が働かない。次のような整数問題だ。
Q(koshix):
最大公約数が1である正の整数の組(a1,a2,a3,a4,a5,a6)であって, k1=a1/a2, k2=2*a2/a3, k3=3*a3/a4, k4=4*a4/a5, k5=5*a5/a6, k6=6*a6/a1 として,(k1, k2, k3, k4, k5, k6) がすべて 整数であるようなものはいくつあるか。
答えは6と出たが,正解は,15876 (=126^2) なのだった。実は,自分もAIと同じ間違いをしていて,すべてのa_i の組が互いに素であると思い込んでいた。そうではなくて,(a1, a2, a3, a4, a5, a6)の6つの数の最大公約数が1という条件なのだ。

つまり,k1*k2*k3*k4*k5*k6=6!=720を6つの正の整数(k1,k2,k3,k4,k5,k6)の積に分解する場合の数を求めればよい。つまり,720を素因数分解した 2^4*3^2*5 の各指数のべきを6つの箱に分配する場合の数(重複組み合わせ)の積になり,6H4*6H2*6H1=126*21*6=15876 である。

計算方法はわかったが,これが正しいためには,(a1,a2,a3,a4,a5,a6)と(k1,k2,k3,k4,k5,k6)が一対一対応する必要がある。その証明を OpenAI o1にきいて見よう。

Q(koshix):
a_i (i=1 ... n) が正の整数であり,(a_1, a_2 ..., a_n) の組の最大公約数は1であるとする。
a_1/a_2=k_1, 2*a_2/a_3=k_2, 3*a_3/a_4=k_3, ... (n-1)*a_{n-1}/a_n=k_{n-1}, n*a_n/a_1 = k_n 
において,(k_1, k_2, ... k_n) は整数となって,k_1*k_2*k_3*...*k_{n-1}*k_n = n! が成り立つ。
このとき,一つの(k_1, k_2, ... k_n) に対して必ず一つの(a_1, a_2 ..., a_n) が対応することを証明してください。

A(OpenAI o1)
証明:
まず、与えられた条件から $ a_i $ を $ k_i $ を用いて表現します。

ステップ1:$ a_i $ を $ k_i $ と $ a_1 $ で表す
最初の方程式から始めます。
1. $\dfrac{a_1}{a_2} = k_1$  ⇒  $ a_1 = k_1 a_2 $
2. $\dfrac{2a_2}{a_3} = k_2$  ⇒  $ a_3 = \dfrac{2a_2}{k_2} $
3. $\dfrac{3a_3}{a_4} = k_3$  ⇒  $ a_4 = \dfrac{3a_3}{k_3} $
   ⋮
このパターンを一般化すると、
$ a_i = \dfrac{(i-1)! \, a_1}{\prod_{j=1}^{i-1} k_j} $
となります。

ステップ2:最後の方程式を利用して $ k_n $ を表す
最後の方程式は
$\dfrac{n a_n}{a_1} = k_n$
これに $ a_n $ の表現を代入すると、
$ \dfrac{n \cdot \dfrac{(n-1)! \, a_1}{\prod_{j=1}^{n-1} k_j}}{a_1} = k_n \Rightarrow \dfrac{n!}{\prod_{j=1}^{n-1} k_j} = k_n $
したがって、$ k_1 k_2 \cdots k_n = n! $ が成り立ちます。

ステップ3: $ a_i $ の一意性の証明
$ a_i $ を $ a_1 $ と $ k_i $ で表すことができましたが、$ a_i $ が整数であるためには、$ a_1 $ が適切な値である必要があります。具体的には、すべての $ a_i $ が整数となる最小の $ a_1 $ を見つけます。
各 $ a_i $ に対して、分母となる $ \dfrac{\prod_{j=1}^{i-1} k_j}{(i-1)!} $ が存在します。すべての $ a_i $ が整数となるためには、$ a_1 $ がこれらの分母の最小公倍数(LCM)の倍数である必要があります。
すなわち、
$ a_1 = \operatorname{lcm}\left(1, k_1, \dfrac{k_1 k_2}{2}, \dfrac{k_1 k_2 k_3}{6}, \dots, \dfrac{k_1 k_2 \cdots k_{n-1}}{(n-1)!}\right) $
この $ a_1 $ を用いると、すべての $ a_i $ は一意に定まります。

ステップ4:最大公約数が1であることの確認
もし他に $ a_i' $ という解があると仮定すると、比 $ \dfrac{a_i}{a_i'} $ はすべて等しくなります。しかし、$ \gcd(a_1, a_2, \dots, a_n) = 1 $ であるため、この比は1でなければなりません。したがって、$ a_i = a_i' $ となり、一意性が証明されます。

結論
以上より、与えられた $ (k_1, k_2, \dots, k_n) $ に対して、一意な $ (a_1, a_2, \dots, a_n) $ が存在することが証明されました。よって、一つの $(k_1, k_2, ..., k_n)$ に対して必ず一つの $(a_1, a_2, ..., a_n)$ が対応します。
なるほど,素晴らしい。ちょっと気になったのは,分母である$ \dfrac{\prod_{j=1}^{i-1} k_j}{(i-1)!} $ が必ず整数なのかどうかである。具体的に試して見ると,必ずしも整数にならない場合がある。そんなときは,分母を形成する有理数の分子だけに着目して最小公倍数を考えれば良い。分母の有理数の分母は元の数の分子に回るだけだからである。そんなわけで,多少詰めが甘いような気がするけれど,ここまで推論できれば大したものである。


2024年9月13日金曜日

OpenAI o1(1)

GPT-4oからの続き

今年の5月にOpenAIがGTP-4oをリリースした。試してみるとなかなか良かったので,早速ChatGPT を再サブスクリプションしてから4ヶ月が経過した。ところが,この業界は流れが速いので,いつの間にかChatGPT-4oは取り残されつつあった。Claude 3.5 Sonnet がいいとか,Gemini 1.5 Proも使えるようになったとか,Perplexity やGenspark が最高だ!とか,他にも NapkinAI やらGammasやら話題が目白押し。ChatGPT一強から,これらの組み合わせによる群雄割拠の世界になってきた。

GPT-4oはわりと大きなファイルを読み込め,イメージも生成できるので,まだ,若干のアドバンテージはあったのだけれど,ネット上ではそろそろ解約するかという話題が湧き出して液状化現象を呈していた。さあ,そこに登場したのが,OpenAI o1 だ。OpenAIからのリリース文をGeminiに要約させると次のようなものだった。
OpenAIは、複雑な問題を解く能力に特化した新しいAIモデルシリーズ「OpenAI o1-preview」を発表しました。 このモデルは、問題解決に時間をかけ、より深く思考することで、従来のモデルよりも複雑なタスクをこなせるようになっています。特に、科学、コーディング、数学といった分野で高い能力を発揮し、国際数学オリンピックの予選問題を83%の正解率で解くなど、驚異的な成果を上げています。

o1-previewは、人間のように思考する過程を模倣するように訓練されており、様々な戦略を試したり、自身の誤りを認識したりすることができます。 ただし、現時点ではChatGPTのような一般的な機能は備わっていません。

安全性についても、OpenAIは新たな対策を講じています。 例えば、ユーザーが安全な範囲を超えた質問をしても、o1-previewがそれに従わないようにする仕組みが強化されています。また、外部の研究機関と協力し、モデルの安全性評価を行っています。

OpenAIは、o1-previewが科学やエンジニアリング分野における複雑な問題解決に貢献すると期待しています。 例えば、医療研究者が遺伝子データを解析したり、物理学者が複雑な方程式を解いたりする際に、このモデルが役立つ可能性があります。
o1-previwと簡易版でより高速な o1-mini が有料ユーザ向けに公開されていたので,すぐに使うことができた。ただし,o1-previewは 30回/週,o1-miniは 50回/週の上限が定められていた。o1は必ずしもChatGPT-4o の延長線上に位置するわけではないようだ。これらの試みがどこかで次のプレAGIモデルに統合されるのかもしれない。


早速試してみるべく,OpenAIにあった見本をそのまま実行してみた。問題は次の通りである。
$\mathcal{B}$ を表面積が 54,体積が 23 の直方体の集合とします。
$r$ を、集合 $\mathcal{B}$ の各直方体を内包できる最小の球の半径とします。
$r^2$ の値は、互いに素な正の整数 $p$ と $q$ を用いて $\frac{p}{q}$ と表すことができます。$ p + q$ を求めなさい。
推論プロセスが順次進行し,思考時間TT=105秒で正しい答えがでてきた。うーん,どうやら自分よりは賢そうである。ちょっと太刀打ちできないかもしれない。ただ,OpenAIのプレスリリースについて要約を求めると次のような答えであり,ChatGPT-4oほど融通がきかなかった。
申し訳ありませんが、2023年10月までの知識では指定されたURLや「OpenAI O1プレビュー」に関する情報を持っておりません。しかし、OpenAIのサービスや製品についてご質問があれば、できる限りお手伝いいたします。

真鍋さんのMIPOのページで,朝日新聞の数学体験教室の問題を解いていたので,こちらを与えてみることにする。
Q(koshix): a<b<c をみたす正の整数の組(a,b,c)であって, a^2-2005a > b^2-2005b > c^2-2005c が成り立つものはいくつあるか。

A(OpenAI o1 TT=24秒): 問題を解くために,a > b > c,a^2−2005a < b^2−2005b < c^2−2005c を満たす正の整数の組 (a,b,c) を求めます。 
 まず,関数 f(x)=x2−2005x を考えます。この関数の挙動を理解することが重要です。極値を求めるために,導関数を計算してゼロと等しくします: f'(x)=2x−2005=0⟹x=1002.5 
これは,f(x) が x≤1002.5 のとき減少し,x≥1002.5 のとき増加することを意味します。 
したがって: 
整数 x≤1002 の範囲では,f(x) は減少関数です。 
整数 x≥1003 の範囲では,f(x) は増加関数です。
 a > b > c であり, f(a) < f(b) < f(c) を満たすためには,a,b,c ≥ 1002 でなければなりません。これは, f(x) がこの範囲で減少するためです。
もし a,b,c ≤ 1003 であれば,f(x) は増加するので、不等式 f(a) < f(b) < f(c) は成立しません。
したがって、求める組の数は,1から1002までの整数から異なる3つの整数を選ぶ組み合わせの数になります。これは組み合わせの公式で計算できます: 
 組の数=1002_C_3=1002×1001×1000 / 3×2×1 これを計算すると:
答え:167,167,000 
 この計算は正しいです。
おしい。 ほとんど正しいのだけれど,c' = 2005-c の点も条件を満たすので,この答えの2倍が正解となっている。それでも,ここまでの推論ができるのはすごいわ。どうやら,推論時間に関するスケーリングの発見がキモらしいので,これからますます,GPUパワーが必要になるのか・・・


2024年9月12日木曜日

対数正規分布

世帯の金融資産分布は,対数正規分布を考えるのが妥当だと Geminiがいった。Perplexityによれば 零端があるので,パレート分布がいいのかもしれない。

ここでは,対数正規分布を仮定して日本の世帯の金融資産保有額に関するパラメタを探してみる。金融資産の値を変数 xとして,世帯数の確率密度分布を f1[x, μ, σ] ,累積確率密度分布をg1[x, μ, σ] とする。これにともない,金融資産×世帯数の確率密度分布を f2[x, μ, σ] ,累積確率密度分布をg2[x, μ, σ,λ] とする。積分定数の不定性があることからパラメタλを追加した。Mathematicaのコードは次のようになる。
In[1]:= f1[x_, μ_, σ_] := (E^(-((μ - Log[x])^2/(2 σ^2))) Sqrt[2/π])/(2 x σ)
Integrate[f1[x, μ, σ], x]

Out[1]= 1/2 Erf[(-μ + Log[x])/(Sqrt[2] σ)]

In[2]:= 
p1 = {{0.3, 0.778}, {0.5, 0.912}, {1.0, 0.972}, {5.0, 0.998}};
q1 = ListPlot[p1, PlotStyle -> {Red, PointSize[Small]}, 
   AxesLabel -> {"x", "y"}, PlotRange -> {0, 1.2}];

In[3]:= 
g1[x_, μ_, σ_] := 1/2*Erf[(-μ + Log[x])/(Sqrt[2] σ)] + 0.5
nlm = NonlinearModelFit[p1, g1[x, μ, σ], {μ, σ}, x];
nlm["BestFitParameters"]

Out[3]= {μ -> -1.92447, σ -> 0.933737}

In[4]:= Show[q1, 
 Plot[g1[x, -1.92447, 0.933737], {x, 0, 5}, PlotRange -> {0, 1}]]


In[5]:= f2[x_, μ_, σ_] := x*f1[x, μ, σ]
Integrate[f2[x, μ, σ], x]

Out[5]= -(1/2) E^(μ + σ^2/2)
  Erf[(μ + σ^2 - Log[x])/(Sqrt[2] σ)]

In[6]:= 
p2 = {{0.02, 0.01}, {0.3, 0.125}, {0.5, 0.187}, {1.0, 0.234},
 {5.0, 0.282}, {20.0, 0.302}};
q2 = ListPlot[p2, PlotStyle -> {Red, PointSize[Small]}, 
   AxesLabel -> {"x", "y"}, PlotRange -> {-0.1, 0.35}];

In[7]:= g2[x_, μ_, σ_, λ_] := -(1/2) E^(μ + σ^2/2) 
Erf[(μ + σ^2 - Log[x])/(    Sqrt[2] σ)] + λ

nlm = NonlinearModelFit[p2, g2[x, μ, σ, λ], {μ, σ, λ}, x];
nlm["BestFitParameters"]

Out[7]= {μ -> -1.72573, σ -> 0.914071, λ -> 0.154702}

In[8]:= Show[q2, 
 Plot[g2[x, -1.72573, 0.914071, 0.154702], {x, 0, 20}, 
 PlotRange -> {0, 0.35}]]

非線形モデルフィットするためのデータは,野村総研の「日本の富裕層は149万世帯、その純金融資産総額は364兆円と推計」というレポートを用いた。前段と後段のパラメタは本来同じでなければならないが,そこまで含めた解析はできていない。対数正規分布だと両方に整合的な結果は得られないかもしれないがよくわからない。




(付)上記の図から得られた分布データ
金融資産 世帯数 世帯割合 資産額 資産割合
1 0.0-0.3  4213.2  0.778   678  0.415
2 0.3-0.5  726.3  0.134   332  0.203
3 0.5-1.0  325.4  0.060  258  0.158
4 1.0-5.0  139.5  0.026  259  0.159
5 5.0→  9    0.002  105  0.064
   5413.4  1.000  1632  1.000

このデータから得られる金融資産の世帯平均値は3010万円であるが,先ほど仮定した分布における最頻値は590万円。 生命保険文化センターの最近のデータとは少しズレがあるかもしれない。


2024年8月22日木曜日

複式簿記

複式簿記を勉強しようかなと思っていたら,それは群論で理解できるとの託宣が空から降ってきた。そういうのが好きだ。

早速,調べてみた。ところで,生成AIに尋ねることを「調べる」といって良いのだろうか。
Q(koshix):
複式簿記が代数学の群であるとはどういう意味ですか。その場合,群をなしている集合は何の集合であり,定義されている演算はどのようなものですか。また,単位元と逆元はどうなりますか。 
A(ChatGPT-4o):
複式簿記が代数学の群(Group)であるということは、複式簿記の操作や構造が群の公理を満たしているということです。群の基本的な定義に基づいて、複式簿記を群として解釈する際のポイントを説明します。

群の定義
群とは、集合 $G$ とその上の二項演算 ∗ に対して、以下の4つの公理を満たす代数構造のことです。
1.結合律(Associativity):任意の $a, b, c \in G$について,$(a*b)*c = a*(b*c)$ が成立する。
2.単位元(Identity element): $G$ の中に単位元 $e$ が存在して、任意の$ a \in G $について,$e*a = a*e = a$ が成立する。
3.逆元(Inverse element):任意の $a \in G$について,$a * b = b * a = e$を満たす元 $b \in G$ が存在する($b = a^{-1}$)。
4.閉性(Closure):任意の $a, b \in G$について,$a*b \in G$ である。

複式簿記における群の解釈
1.集合 $\ G$
・複式簿記では、資産、負債、収益、費用、純資産といった「勘定科目」の集合が存在します。この勘定科目が群を構成する集合 $G$ に相当します。
2.演算 $\ *$
・演算としては「仕訳」が相当します。仕訳とは、ある勘定科目から他の勘定科目への「移動」を意味します。したがって、群の演算 $*$ は「ある仕訳と別の仕訳を組み合わせて新しい仕訳を作る操作」と解釈できます。
3.単位元 $\ e$
・単位元は群の要素と何らかの操作を行ってもその要素を変化させない要素です。複式簿記の文脈では「無操作」、すなわち資産や負債に何も影響を与えない操作が単位元に相当します。これは「仕訳を行わない」という状態を表します。
4.逆元 $\  a^{-1}$
・逆元は、仕訳による操作を元に戻す操作に相当します。例えば、「ある勘定科目に借方として100円を記入する」という仕訳の逆元は「同じ勘定科目に貸方として100円を記入する」仕訳です。これによって、仕訳の効果が打ち消され、元の状態に戻ることになります。

群の公理の適用
1.結合律:仕訳は連続して適用されても、その順序が変わっても同じ結果を得られるため、結合律が成り立ちます。
2.単位元の存在:「無操作」の仕訳は、どの仕訳とも組み合わせても仕訳内容を変えないため、単位元が存在します。
3.逆元の存在:各仕訳に対して、その効果を打ち消す逆の仕訳が存在するため、逆元が存在します。
4.閉性:すべての仕訳は、勘定科目の集合内での操作であるため、仕訳を適用した結果もまた勘定科目の集合内に留まります。

結論
複式簿記を群と見なす場合、勘定科目の集合が群をなす集合に対応し、仕訳の操作が群の演算に相当します。単位元は「無操作」、逆元は「仕訳の逆操作」として解釈できます。この解釈によって、複式簿記の構造が代数学の群の性質を持つことが理解できます。

2024年8月6日火曜日

26

$\displaystyle 26 = \Sigma_{n=1}^\infty \dfrac{n^3}{2^n}$ という式が急に現われてちょっとビックリした。自分で考える力が衰えている老人はさっそくPerplexity PROに聞いてみる。
Q(koshix):
Mathematicaで f[k_]:=Sum[n^k/2^n, {n, 1, Infinity}]  と定義したとき f[k]の一般式を与えてください。 
 A(Perplexity PRO): 
Mathematicaで定義された関数  f[k]:=Sum[n^k/2^n, {n, 1, Infinity}] の一般式は以下のように与えられます:f(k)=Li_−k (1/2)。ここで、Li_−k (1/2) はポリログ関数(polylogarithm function)を表しています。この結果は、無限級数  ∑_{n=1}^∞ n^3/2^n の閉形式解を示しています。ポリログ関数は、このような形の無限級数を表現するのに適した特殊関数です。ポリログ関数 Li_−k (1/2)は一般に次のように定義されます: Li_s (z)=∑_{n=1}^∞ n^s/z^n この場合、s=−k および z=1/2 となっています。この一般式は、任意の実数 k に対して成り立ちます。特定の k の値に対しては、より簡単な形に簡略化できる場合もありますが、一般的にはこのポリログ関数の形で表現されます。この結果は、複雑な無限級数を単一の特殊関数で表現できることを示しており、数学的に非常に興味深い結果です。

正しいのだけれど,単に名前がついただけなので理解が深まらない。ChatGPT-4oに別の聞き方をしてみよう。
Q(koshix):
高校数学までの知識で Σn=1,∞ n^3/2^n の値を導出する方法を教えてください

A(ChatGPT-4o):
(もろもろ略)

Q(koshix):
いい線いっているようなのですが,ちょっと違うのではないですか。

A(ChatGPT-4o):
(もろもろ略)

Q(koshix):
惜しいですね,もう一息ではないでしょうか。

A(ChatGPT-4o):
(もろもろ略)
しかし、ここでの正確な計算をすると、最終的には 14 ではなく、 n=1n32n の値は正しくは 26 です。

導出過程の考え方は正しかったのだけれど,肝腎の代数計算が間違っている。何度かやり直してもうまく計算できず,最終的には,答えだけ無理矢理あわせてきた。夏休みの宿題に四苦八苦しているスーちゃん状態である。

ChatGPT-4oに提案された方法は,$|x| < 1 $として,$\displaystyle \Sigma_{n=1}^{\infty} x^n = \dfrac{1}{1-x}$という恒等式から出発し,この両辺を何度か微分して変形した式に $x=\dfrac{1}{2}$を代入するというものだ。

一回微分して両辺に$x$をかけると,$\displaystyle \Sigma_{n=1}^{\infty} n x^n = \dfrac{x}{(1-x)^2}$
この手続きをもう一度繰り返すと,$\displaystyle \Sigma_{n=1}^{\infty} n^2 x^n = \dfrac{x(1+x)}{(1-x)^3}$
さらにこれをもう一度繰り返すと,$\displaystyle \Sigma_{n=1}^{\infty} n^3 x^n = \dfrac{x(1+4x+x^2)}{(1-x)^4}$
これに,$x=\frac{1}{2}$を代入すると,$\displaystyle \Sigma_{n=1}^{\infty} \dfrac{n^3}{2^n} = 26$





2024年4月27日土曜日

清少納言の知恵の板

一辺の長さが4,面積が16の正方形Sを考える。次に,直角を挟む2辺の長さが√2の直角二等辺三角形Tを考えると,その面積は1であるから,先の正方形Sの面積の16分の1に相当する。

この直角二等辺三角形Tを単位として,1枚から4枚組み合わせた図形(直角二等辺三角形,正方形,平行四辺形,等脚台形,直角台形など)の集合Rを考える。もとの正方形SをRの集合から重複を含めて選んだ図形7片に分割する。

面積だけでその分割パターンを考えると,(3-3-2-2-2-2-2),(4-2-2-2-2-2-2),(4-3-2-2-2-2-1),(3-3-3-3-2-1-1),(4-3-3-2-2-1-1),(4-4-2-2-2-1-1),(4-3-3-3-1-1-1),(4-4-3-2-1-1-1),(4-4-4-1-1-1-1)の9パターンになる。

このうちの(4-3-2-2-2-2-1)が清少納言の知恵の板という名前で知られる江戸時代に考案されたパズルであり。(4-4-2-2-2-1-1)がタングラム(七巧図)とよばれる,中国で同じころに考えられて19世紀に欧米に伝わって普及したシルエットパズルだ。これらの起源や関係などははっきりしていない。

図:清少納言の知恵の板(上)とタングラム(下)

[1]江戸のパズルに挑戦

2024年4月18日木曜日

オイラーのφ関数

MIPOの算数・数学コラムで,2024年阪大理系前期数学の問題が取り上げられていた。鈴木貫太郎のYouTubeで大学入試問題をながめていたので,甘く見ていたら,かなり難しくてちょっと手が出なかった。面白そうな整数論の問題は,オイラーのφ関数がストレートに取り上げられていた。以下ではすべて自然数 N = {1,2,...∞}の範囲に限定して考えることにする。


n∈Nに対して,集合A(n)={1,2,…n}を考える。このとき,φ(n)は,この集合A(n)におけるnと互いに素な数の個数を与える。さあ,ここからが苦難の道の始まりだ。最近はアルジャーノンの下り坂を急降下中なので,言葉の定義にいちいち引っかかってころぶのである。

約数:自然数 n を自然数m (≦ n)で割ったときの余りが0であれば,mはnの約数である。
 例:2は6の約数,1はnの約数,nはnの約数
互いに素:2つの自然数 m,n の共通の約数が1だけのとき,mとnは互いに素である。
 例:2と3は互いに素である,nと1は互いに素である,nとnは互いに素でない。

例:n=6のとき,A(6)={1,2,3,4,5,6}を考える。2の倍数の集合Pは{2,4,6}, 3の倍数の集合Qは{3,6}, 
6の倍数の集合はP∩Q={6}は,6と互いに素な数の集合はA-P∪Q={1,5}で, その要素数はφ(6)=2

オイラーのφ関数(トーシエント関数)φ(n)は,A(n)においてnと互いに素な数がなす部分集合B(n)の要素数を表す。A(n)-B(n) は nの約数の集合から{1}を除いた集合PQRである。

阪大の問題は,p,q,r が素数,a,b,c が自然数として n=p^a q^b r^cに対するφ(n)を求めるものである。とりあえず,A(n)における p,q,rの倍数の数をカウントすればよい。


図:φ(n) = n(B(n))=n(A(n)-PQR)   の図

n= p^a q^b r^c の場合,n= p^(a-1) q^(b-1) r^(c-1) p q r として,φ(n) = p^(a-1) q^(b-1) r^(c-1) φ(p q r )となる。また,φ(p q r) = (p-1)(q-1)(r-1) となるので,φ(n) =p^(a-1) q^(b-1) r^(c-1) (p-1)(q-1)(r-1) で与えられる。

2024年4月10日水曜日

鉄の星:テイン

早川書房世界SF全集の第4巻はガーンズバック/テインのラルフ124C41+/鉄の星だ。

ラルフ124C41+は小学校時代に友達に借りた学習雑誌の付録で読んだだけ。世界SF大会で毎年選ばれるヒューゴー賞は,1953年に創設された由緒正しいものだが,アメリカSF界の初期の功労者であり,ラルフ124C41+の著者ヒューゴー・ガーンズバック(1884-1967)にちなんで名付けられている。

問題はそちらではなく併録されている「テイン」の「鉄の星」のほうだ。そのころから今に至るまでテインが誰かもよくわからなかったし,鉄の星にもまったく興味がわかなかったので第4巻は買わずにいた。ところがです。この度調べてみると,鉄の星(Iron Star)の著者ジョン・テイン=John Taine は,数学者 Eric Temple Bell (1883-1960)のペンネームだった。


数学者のE. T. ベルの方はよく知っていた。ハヤカワ文庫の「数学を作った人々」の著者である。その3冊組は自分の本棚に並んでいる。E. T. ベルはジョン・テインのペンネームでいろいろとSFを書いているようだ。物理学者でいえば,フレッド・ホイルに少し似ている。

そのベルが数学者としてどんな仕事をしているのかというと,ベル数ベル多項式を考えた人だった。ベル数$B_n$とは異なった$n$個の対象を分割する方法の数である。異なった$n$個の対象を$r$個のグループに分割するのは第2種スターリング数$_nS_r$であり,その和がベル数になる。

$n=5$のベル数は,$B_5=52$となるが,これは源氏香の数に等しい。源氏香という香道の遊び方は,本質的に異なった5種の香の分類の問題=ベル数5の問題だった。


図:五種の香をかぎ分ける源氏香の52パターン(Wikipediaから引用)

E. T. ベル=ジョン・テインのSFは,日本では前述の鉄の星を除いて出版されていない。カナダのGutenbergプロジェクトにはかろうじて,The Iron Star が公開されていた

2024年2月9日金曜日

直角

理科クラブと算数クラブからの続き

小学校4年の算数の時間のことだ。折り紙を2回折ると直角をつくることができるという話になった。そこで,先生がみんなに尋ねた。折り方によって直角はいくつくらい作ることができるでしょう。さっそく折り紙をもちながらクラスでわいわいと議論がはじまった。

クラスの中でもよくできて運動も得意で発言力のあった中田君が3000くらいかなあといった。それに賛同する子が多かった。選挙で自民党に票が集まるのと同じ原理だ。強いものが正義であり真理なのである。これに対して,転校生でちょっとみんなからはずれていた眼鏡の松村さんと自分が,それはおかしい,ほんの少しでも折り線をずらせば可能なので,無数にできるはずだと主張した。

教訓1:真理はかならずしも多数決では決まらない
教訓2:力(権威)が大衆の正義になることは多い

自分が苦手だった沢崎先生はどうやってその結果を集約したのだろうか。そのあたりははっきり覚えていない。


写真:おりがみで直角をつくる方法


2024年2月8日木曜日

理科クラブと算数クラブ

中国の小学生の数学からの続き

1964年,泉野小学校では,5年生になるとクラブ活動が始まった。モーターを使って自動車をつくる工作クラブもおもしろそうだったが,理科クラブのほうに入った。初回は担当の先生がこどもの名前を確認していくのだけれど,腰切と板書されて話がなかなか遠かった。上級生の活動発表では,水酸化ナトリウム水溶液で煮出した木の葉から葉脈標本を作るというのが印象的だった。

ともだちと数人のグループで何をテーマにしようかと相談した。その結果,ビーカーに入れた食塩水の濃度をかえたものをいくつか用意して,おたまじゃくしがどこまで大丈夫かを確かめようというとんでもない実験をすることになった。このあたり,先生の指導はほとんどいきとどいていない。結局食塩水の濃度計算だけ上達することになった。おたまじゃくしは結構の濃度まで耐えていたかもしれない。

さて,6年生になると学年のクラス数がこれまでの3組から4組に増えた。そこまで児童の数は増えていなかったはずなのだがどうしてだろう。5年2組の南毅先生(社会)から,6年4組の前多光子先生(理科)に担任は変わった。隣の6年3組には中薮先生(算数)が新しく着任した。どうやらかなり厳しく怖い先生だという噂がすぐに伝わってきた。

ある日,その中薮先生が新しく算数クラブを作ることになったというアナウンスがあった。思わずハイハイハイ,そのクラブに入りますと大きな声で訴えた。算数クラブには10人あまりのこどもたちが集まっただろうか。毎週一回のクラブの時間はとても刺激的で楽しかった。

ただ,覚えているのは,一筆書き三角数と四角数,図形の面積のパラドックスくらいだ。一筆書きでは,奇数点が0個か2個のときだけ可能だということを学んだ。三角数の規則性について説明があった後で,四角数はどうなるだろうかという設問に,わかったと思って挙手して答えたけれど,どうもうまくことばで説明することができなかった。中薮先生は,算数クラブではたいへんやさしく指導してくれた。


図:三角数と四角数(イミダスからの引用)

(注)大杉君は,中薮先生のクラスだったが,6年3組の算数の時間には,台形の対角線を結んでできた左右側の三角形の面積が等しいことを説明させるという授業が展開されていたことを教えてくれた。

2024年2月6日火曜日

中国の小学生の数学

中国の小学生が解いている数学の問題という触れ込みで次の面積を求める問いがあった。

図1:4分円と半円の交わる部分の面積を求める

小学生にも出来るはずだということで,いろいろ考えたけれど,どうしても解けない。いや,$ \tan^{-1} \alpha = 1/2, \tan^{-1}\beta = 2$によって,図の2つの角度さえ求めてよいならば,扇型AOEGの面積が $S_1=\alpha a^2$,扇型DOEGの面積が$S_2=\beta (a/2)^2$,そして四角形OAGDの面積が,$S_3=a^2/2$であることを用いて,求める面積は $S = S_1+S_2-S_3$となる。

あるいは,解析幾何学を使ってよいのならば,2つの円の式の交点からG$=(4a/5, 2a/5)$となり,面積は積分を使って,$S=\displaystyle \int_0^{4a/5} \Bigl( \sqrt{(a/2)^2-(x-a/2)^2}-a+\sqrt{a^2-x^2} \Bigr)\  dx$となる。

いずれにせよ,答えは,正方形OABCの一辺を$a=4$として,$S \approx 3.847$ である。
結局,中国の小学生はどうやってこの問題を解いているのだろうか


小学生のとき,似たような問題で長いこと未解決でクラスのみんなであれこれ議論したものがあった。それは図2右のようなもので,正方形の中の四つの四分円の交わる領域の面積を求めるものだ。図2左は授業でもよく出てくる問題であり,これならみんな解ける。

図2:小学校のときの未解決問題(右図)

あるとき,塾に通っていた友人たちが,塾の先生から答えを聞いてきて披露したことがあった。それはだめでしょう。せっかくみんなで自分たちで答えをだそうとがんばっていたのに。その解法には正三角形の面積を求める過程がふくまれていて平方根が登場する。小学生には無理な問題だったのだ。

いや,じつはそれほど無理でもない。小学校5,6年のときだろうか,学校で一番頭の良いことで有名だった大杉君というのが,平方根の筆算による計算法(開平法をどこかで学んできて,みんなに教えてくれたことがあった。なるほど,そういうことかと計算できるようになった友達は多い。たぶん,ピタゴラスの定理もどこかで聞きかじっていたかもしれないので,実はもう少しで解けるあたりまでの知識は蓄積していたはずなのだ。

2024年1月26日金曜日

正方形の長さ

都道府県の長さからの続き

正方形の領域$\ (x, y), \ 0 \le x \le 1$,$0 \le y \le 1\ $を考えて,この中の2点を$\ (x_1,y_1),\ (x_2, y_2)\ $とする。これらの座標が$\ p_0(z)=1\ (0 \le z \le 1),\  =0\ (z <0,\  1 < z)\ $で一様分布している。

このとき,確率変数の和と差の説明により,$x=x_1-x_2\ $と$\ y=y_1-y_2\ $は,$p(z)=1+z\ (-1 \le z \le 0),\  =1-z\ (0 \le z \le 1)\ $という確率分布になる。また,$X=(x_1+x_2)/2\ $と$Y=(y_1+y_2)/2\ $の確率分布は,$q(z)=z\ (0 \le z \le 1),\  =2-z\ (1 \le z \le 2)\ $となる。

そこで,2点の期待値は,$d=\int \int \int \int \sqrt{(x_1-x_2)^2+(y_1-y_2)^2} \ p_0(x_1) p_0(x_2) p_0(y_1) p_0(y_2) \ dx_1 dx_2 dy_1 dy_2 $
$\quad = \int \int \int \int \sqrt{x^2+y^2}\  p(x) p(y) q(X) q(Y) \ dx dy dX dY$
$\quad = \int \int \sqrt{x^2+y^2} \ p(x) p(y) \ dx dy = 4 \int_0^1 \int_0^1 (1-x)(1-y) \sqrt{x^2+y^2} \ dx dy$

ここで,$y = x \sinh z \ $と変数変換して,$y\ $の積分すなわち$z\ $での積分を先に行う。このとき,$y: 0\rightarrow 1\ $より,$z:0 \rightarrow \sinh^{-1}(1/x) = z_x\ $ $\bigl( \cosh z_x = \sqrt{1 + (1/x)^2} \ \bigr)$ であり,$\sqrt{x^2+y^2}= x \cosh x\ $と$\ dy = x\ \cosh z\ dz\ $が成り立つ。

$f(x) = \int_0^1 (1-y) \sqrt{x^2+y^2} dy = \int_0^{z_x} (1 - x \sinh z ) \cdot x \cosh z \cdot x \cosh z\  dz$
$\displaystyle \quad = \frac{x^2}{2} \int_0^{z_x} (1 + \cosh 2z )\ dz -\frac{x^3}{3} \Bigl[ \cosh^3 z \Bigr]_0^{z_x}$
$\displaystyle \quad =  \frac{x^2}{2}  \Bigl( \sinh^{-1}(1/x) + \sinh z_x \cosh z_x \Bigr) -\frac{x^3}{3} \Bigl( \cosh^3 z _x -1 \Bigr)$
$\displaystyle \quad = \frac{x^2}{2} \sinh^{-1}(1/x) + \frac{1}{2} \sqrt{1+x^2} +\frac{1}{3} x^3 - \frac{1}{3} (1+x^2)^{3/2}$

次に,これに$(1-x)$をかけて,$x$で積分してから4倍すれば$d$が求まる。
$\displaystyle d= 4\int_0^1 (1-x) \Bigl\{ \frac{x^2}{2} \sinh^{-1}(1/x) + \frac{1}{2} \sqrt{1+x^2} +\frac{1}{3} x^3 - \frac{1}{3} (1+x^2)^{3/2} \Bigr\} dx$

$g_1(x)=4 \int (1-x) \frac{x^2}{2} \sinh^{-1}(1/x) \ dx $
$\quad = \frac{1}{6}(2+2x-x^2)\sqrt{1+x^2} +\frac{1}{6}(-2+4x^4-3x^4)\sinh^{-1}x$
$g_2(x)=4 \int (1-x) \frac{1}{2} \sqrt{1+x^2} \ dx = -\frac{1}{3} (2-3x+2x^2) \sqrt{1+x^2} + \sinh^{-1}x$
$g_3(x)=4 \int (1-x) \frac{1}{3} x^3 \ dx = \frac{1}{3} x^4 -\frac{4}{15}x^5$
$g_4(x)=4 \int (1-x) \frac{-1}{3} (1+x^2)\ ^{3/2} \ dx $
$\quad = \frac{1}{30} (8-25x+16x^2-10x^3+8x^4) \sqrt{1+x^2} -\frac{1}{2} \sinh^{-1}x$

$\therefore g(x) = g_1(x)+g_2(x)+g_3(x)+g_4(x) = \frac{1}{15}(5 x^4 -4x^5) +$
$\quad  \frac{1}{30}(8x^4-10x^3-9x^2+15x-2)\sqrt{1+x^2} +\frac{1}{6}(-3x^4+4x^3+1)\sinh^{-1}x$

これから,$d=g(1)-g(0)=\frac{1}{15}\Bigl\{2+\sqrt{2}+5 \log(1+\sqrt{2}) \Bigr\}= 0.521405\ $が得られた。


2024年1月24日水曜日

積分漸化式

積分(3)からの続き

三角関数の積分の漸化式が教科書に載っていたことをいまごろ思い出した。これならば双曲線関数にも簡単にあてはめられるはずだ。

$I_n = \int \sin^n x \ dx =  (-\cos x) \sin^{n-1} x - \int  (-\cos x) (n-1) \sin^{n-2} x \cos x\ dx$
$\quad = (-\cos x) \sin^{n-1} x + (n-1) \int (1-\sin^2 x) \sin^{n-2} x \ dx$
$\quad = (-\cos x) \sin^{n-1} x + (n-1) (I_{n-2} - I_n )$
$\therefore I_n = -\frac{1}{n} \cos x \sin^{n-1} x + \frac{n-1}{n} I_{n-2} \quad (n \ge 2) $

$I_n = \int \cos^n x \ dx =  (\sin x) \cos^{n-1} x - \int  (\sin x) (n-1) \cos^{n-2} x (-\sin x) \ dx$
$\quad = (\sin x) \cos^{n-1} x + (n-1) \int (1-\cos^2 x) \cos^{n-2} x \ dx$
$\quad = (\sin x) \cos^{n-1} x + (n-1) (I_{n-2} - I_n )$
$\therefore I_n = \frac{1}{n} \sin x \cos^{n-1} x + \frac{n-1}{n} I_{n-2} \quad (n \ge 2) $

$I_n = \int \tan^n x \ dx =   \int  (\frac{1}{\cos^2 x} -1) \tan^{n-2} x \ dx$
$\quad = \int (\tan x)' \tan^{n-2} x\ dx -  \int \tan^{n-2} x \ dx$
$\therefore I_n = \frac{1}{n-1}\tan^{n-1} x - I_{n-2}  \quad (n \ge 2) $

$I_n = \int \sinh^n x \ dx =  (\cosh x) \sinh^{n-1} x - \int  (\cosh x) (n-1) \sinh^{n-2} x \cosh x\ dx$
$\quad = \cosh x\ \sinh^{n-1} x - (n-1) \int (1+\sinh^2 x) \sinh^{n-2} x \ dx$
$\quad = \cosh x\ \sinh^{n-1} x - (n-1) (I_{n-2} + I_n )$
$\therefore I_n = \frac{1}{n} \cosh x\ \sinh^{n-1} x - \frac{n-1}{n} I_{n-2} \quad (n \ge 2) $

$I_n = \int \cosh^n x \ dx =  (\sinh x) \cosh^{n-1} x - \int  (\sinh x) (n-1) \cosh^{n-2} x \sinh x \ dx$
$\quad = \sinh x \cosh^{n-1} x - (n-1) \int (\cosh^2 x -1) \cosh^{n-2} x \ dx$
$\quad = \sinh x \cosh^{n-1} x + (n-1) (I_{n-2} - I_n )$
$\therefore I_n = \frac{1}{n} \sinh x \cosh^{n-1} x + \frac{n-1}{n} I_{n-2} \quad (n \ge 2) $

$I_n = \int \tanh^n x \ dx =   \int  (1-\frac{1}{\cosh^2 x} ) \tanh^{n-2} x \ dx$
$\quad = -\int (\tanh x)' \tanh^{n-2} x\ dx + \int \tanh^{n-2} x \ dx$
$\therefore I_n = -\frac{1}{n-1}\tanh^{n-1} x + I_{n-2}  \quad (n \ge 2) $

2024年1月22日月曜日

積分(3)

都道府県の長さからの続き

次の積分 $I_n=\int x^n \sqrt{x^2 + y^2} \ dx $  が必要なのであった。
そこで,$x=y\ \sinh z$と変数変換して,$dx = y \cosh z\ dz $と$\sqrt{x^2+y^2} = y \cosh z$
から,$I_n = y^{n+2} \int \sinh^n z\ \cosh^2 z\ dz$となる。後で必要になるものとして,$J_n = \int \sinh^n z \ dz $を定義しておく。

$I_0 = y^2 \int \cosh^2 z\  dz = \frac{1}{2} y^2  \int (1 + \cosh 2z) \ dz $
$=  \frac{1}{2} y^2 (z + \frac{1}{2} \sinh 2 z) =  \frac{1}{2} y^2  \sinh^{-1}(x/y) + \frac{1}{2}x \sqrt{x^2+y^2} $

$I_1 = y^3 \int  \sinh z\ \cosh^2 z\ dz =  y^3 \int t^2 dt = \frac{1}{3}\bigl( \sqrt{x^2+y^2}\bigr)^3$

$I_2 = y^4 \int \sinh^2 z\ \cosh^2 z \ dz = y^4 \int (\sinh^2 z + \sinh^4 z )\ dz = y^4 (J_2 + J_4)$

$I_3 = y^5 \int \sinh^3 z\ \cosh^2 z\ dz = y^5 \int (\sinh^3 z + \sinh^5 z )\ dz = y^5 (J_3 + J_5)$

などとなる。

$J_2 = \int \sinh^2 z \ dz = \frac{1}{2} \int (\cosh 2z -1) \ dz =  \frac{1}{4} \sinh 2z - \frac{1}{2} z$

$J_3 = \int \sinh^3 z \ dz = \int (\cosh^2 z -1) \sinh z \ dz = \frac{1}{3} \cosh^3 z - \cosh z$

$J_4 =  \int \sinh^4 z \ dz = \frac{1}{4} \int (\cosh 2z -1)^2 \ dz = \int \bigl( \frac{3}{8}-\frac{1}{2}\cosh 2z + \frac{1}{2} \cosh 4z  \bigr) \ dz$
$\quad = \frac{1}{8} \sinh 4z -\frac{1}{4} \sinh 2 z + \frac{3}{8}z $

結局$J_n$がシステマティックに計算できればよいということか。続く。

2024年1月21日日曜日

双曲線関数

都道府県の長さからの続き

一様分布の確率密度関数で正方形の内部のランダムな2点の平均距離を求める際に,面倒な積分が必要になる。このとき双曲線関数への変数変換を行うのだが,久しぶりに使うと勘が鈍っていてなかなか計算が進まない。ので,復習する。

$\sinh x = \dfrac{e^x - e^{-x}}{2},\ \  \cosh x = \dfrac{e^x + e^{-x}}{2},\ \  \tanh x = \dfrac{\sinh x}{\cosh x} = \dfrac{e^x - e^{-x}}{e^x + e^{-x}}$
$\cosh^2 x - \sinh^2 x = 1, \ \ \tanh^2 x = 1 - \dfrac{1}{\cosh^2 x},\ \ \dfrac{1}{\tanh^2 x} = 1 +  \dfrac{1}{\sinh^2 x}$
$\frac{d}{dx}\sinh x = \cosh x,\ \ \frac{d}{dx}\cosh x = \sinh x, \ \  \frac{d}{dx} \tanh x = \dfrac{1}{\cosh^2 x}$
$\int \sinh x \ dx= \cosh x,\ \ \int \cosh x \ dx = \sinh x, \ \  \int \tanh x\ dx = \log( \cosh x)$


$\sinh ( x \pm y )= \sinh x \cosh y \pm \cosh x \sinh y$
$\cosh ( x \pm y )= \cosh x \cosh y \pm \sinh x \sinh y$
$\tanh ( x \pm y )= \dfrac{\tanh x \pm \tanh y}{1 \pm \tanh x \tanh y}$

$\sinh 2x  = 2 \sinh x \cosh x = 2 \sinh x \sqrt{1 + \sinh^2 x}$
$\cosh 2x = 2 \cosh^2 x - 1 = 2 \sinh^2 x + 1$

$\sinh 3x  = \sinh^3 x + 3 \sinh x \cosh^2 x$
$\cosh 3x = \cosh^3 x + 3 \cosh x \sinh^2 x$

$\sinh 4x  = 4 \sinh^3 x \cosh x + 4 \sinh x \cosh^3 x$
$\cosh 4x =  \sinh^4 x + 6  \sinh^2 x +\cosh^2 x + \cosh^4 x$

$\sinh^{-1}x = \log ( x + \sqrt{x^2+1} ) = -\log(\sqrt{x^2+1} - x)$
$\cosh^{-1} x = \log (x + \sqrt{x^2-1}) = \log(x - \sqrt{x^2-1})$
$\tanh^{-1} x = \dfrac{1}{2} \log{\dfrac{x+1}{x-1}}$

$\frac{d}{dx}\sinh^{-1} x = \dfrac{1}{\sqrt{x^2+1}},\ \ \frac{d}{dx}\cosh^{-1} x = \dfrac{1}{\sqrt{x^2-1}}, \ \  \frac{d}{dx} \tanh^{-1} x = \dfrac{1}{1-x^2}$

$\int \sinh^{-1} x \ dx= x \sinh^{-1} x - \sqrt{x^2+1}$
$\int \cosh^{-1} x \ dx = x \cosh^{-1} x  - \sqrt{x^2-1}$
$\int \tanh^{-1} x\ dx = x \tanh^{-1} x + \frac{1}{2}\log(1-x^2)$



図:双曲線関数の定義

2024年1月13日土曜日

類楕円

真鍋さんのホームページ(MIPO)では神社の算額がよく取り上げらていれる。最近は,ChatGPTでPython プログラミングという新たな進化のステージの突入している。算額で登場する類楕円という4次曲線のグラフを描かせるプログラムを作るという問題がでてきた。

「類楕円」というのは初耳だった。調べてもあまり情報が見つからないのだが,トーラスを軸対称軸に平行な平面で切断してときに出来る4次曲線のようだ。トーラスの大円の半径を$d$,小円の半径を $b$とする。トーラスの中心を原点Oとして,軸対称の軸方向を$y$軸として,大円を含む平面を$x-z$平面とする。切断面の方程式は,$\underline{ z=d}$となる。
なお,下図より$(d+b)^2=a^2+d^2$,したがって$a^2=b^2+2db$である。


図:類楕円の定義

トーラス表面上の点をP:$\bm{r} = (x,y,z)$とする,これは大円上の点を表すベクトル$\bm{d}=(d\cos\varphi, 0, d\sin\varphi)$と,大円上の点からトーラス面上の点への相対ベクトル$\bm{s}=(b \sin \theta \sin \varphi, b \cos\theta, b \sin \theta \cos \varphi)$の和,$\bm{r}=\bm{d}+\bm{s}$になる。すなわち,
$ \bm{r} = (x,y,z) = ( (d+b \sin \theta) \sin \varphi,  b\cos\theta,  (d + b \sin \theta) \cos \varphi) $である。

これらから,$b \sin \theta = \sqrt{b^2-y^2}$,$(d +  \sqrt{b^2-y^2})^2 = x^2 + d^2$となる。
つまり,$b^2-y^2 + 2d \sqrt{b^2-y^2} = x^2$,$4d^2\ (b^2-y^2) = (x^2+y^2-b^2)^2$,

$\therefore (a^2-b^2)(b^2-y^2) = b^2 (x^2+y^2-b^2)^2$ が類楕円の4次式である。



2024年1月11日木曜日

見せ算

M-1グランプリ2023からの続き

漫才コンビさや香の新山が考案した「見せ算」である。これは,一般人と最先端のテクノロジーやシステムが乖離している世の中で,その問題を解消するためには一般人の数学力の強化が必要だとの主張から始まる。加減乗除の四則演算では少ないので新山が作った五則目の演算が見せ算である。

見せ算」は,数字と数字を見合わせてどう思うかという演算だ(訳註:演算記号は指定されていないので,ここでは目に似ている@=みせを採用する)。この演算の答えは,和差積商に並んで「眼(がん)」という。

基本ルールその1:(例)1@1=0
 同じ数字どうしが見合うと恥ずいのでお互い立ち去るからゼロになる。
基本ルールその2:(例)1@2=2
 違う数字が見合うとき,小さい方が大きい方を見ると怖いから立ち去るので大きい方が残る。
応用編その1:(例)6@9=11
 お互いに見合うと俺かとなって近づいていって11になる。
応用編その2:(例)2@5= 1.1
 お互いに俺かとなって近づいたけれど反転していて違うので携帯を落として1.1になる。
応用編その3:(例)1@100=83⇒84
 これは難しいので(訳註:説明略)大学院のルールだ。

図:見せ算に使う数字の形

数字の形によって結果が変わらないように,(端点の数,曲がり角の数,三差路の数)のセットで分類してみれば,確かに6と9は同じグループ(1-4-1)であり,2と5も同じグループ(2-4-0)だ。前者は回転操作で重なるが,後者を重ねるためには反転操作が必要だ。それ以外には同等の数字はなかった。


2023年12月18日月曜日

モーリーの定理

真鍋さんのウェブサイトMIPOのブログには,算数・数学コラムというのがあって,おもしろい算額の問題などがしばしば取り上げられている。

で,先日モーリーの定理という,三角形の内角の三等分線がつくる図形が正三角形になるという問題を証明していた。なるほど。図形の問題は苦手なので,解析幾何学の手法でできないか考えてみた。

1辺と両端の2角を与えれば三角形は定まる。現れるすべての座標はその辺の長さに比例するので,辺の長さAB=1とする。∠A=$3\alpha$,∠B=$3\beta$,∠C=$3\gamma$とすると,$\gamma = \frac{\pi}{3}-\alpha-\beta$で定まる。結局全ての量が2つの角度$\alpha,\beta$で表される。

これは実は問題の対称性を損ねるので,標準解答と比較しても良策ではないのだけれど,乗り掛った舟なのでやってみる。


図:モーリーの定理の証明

まず三角形ABCの頂点Aを原点(0,0)とし,頂点Bを(1,0)とする。このとき頂点C$(p,q)$は,$y=\tan 3\alpha$と$y=-\tan 3\beta (x-1)$の交点として求まり,$(p,q) =\Bigl( \dfrac{\tan3\beta}{\tan3\alpha+\tan3\beta},\dfrac{\tan3\alpha \tan3\beta}{\tan3\alpha + \tan3\beta} \Bigr)$となる。

同様にして,∠の三等分線の交点として(P,Q,R)の3点求めればよい。

(1) ABからの三等分線の交点P
$y=\tan \alpha\ x \ \&\  y = -\tan \beta\ (x-1)\ $の交点は,
$(p_1,q_1) =\Bigl( \dfrac{\tan\beta}{\tan\alpha+\tan\beta},\dfrac{\tan\alpha \tan\beta}{\tan\alpha + \tan\beta} \Bigr)$

(2) ACからの三等分線の交点Q
$y=\tan 2\alpha\ x \ \&\  y = -\tan (3\beta+2\gamma)(x-p)+q\ $の交点は,
$(p_2,q_2) =\Bigl(\dfrac{p \tan(3\beta+2\gamma) + q}{\tan2\alpha+\tan(3\beta+2\gamma)},\dfrac{\tan2\alpha \{p \tan(3\beta+2\gamma)+q\}}{\tan2\alpha + \tan(3\beta+2\gamma)}\Bigr)$

(3) BCからの三等分線の交点R
$y=-\tan 2\beta\ (x-1) \ \&\  y = -\tan (3\beta+\gamma)(x-p)+q\ $の交点は,
$(p_2,q_2) =\Bigl( \dfrac{p \tan(3\beta+\gamma) -\tan2\beta + q}{\tan(3\beta+\gamma)-\tan2\beta}, -\dfrac{\tan2\beta\{(p-1) \tan(3\beta+\gamma)  +q\}}{ \tan(3\beta+\gamma) -\tan2\beta } \Bigr)$

これから3点の距離を計算すれば良いのだけれど,ちょっと人間の手には負えなかった。
Mathematicaで計算すると,なんとか確認することができた。

In[1]:= c[a_, b_] := Pi/3 - a - b

In[2]:= p[a_, b_] := Tan[3 b]/(Tan[3 a] + Tan[3 b])
q[a_, b_] := Tan[3 a] Tan[3 b]/(Tan[3 a] + Tan[3 b])

In[3]:= p1[a_, b_] := Tan[b]/(Tan[a] + Tan[b])
q1[a_, b_] := Tan[a] Tan[b]/(Tan[a] + Tan[b])

In[4]:= 
p2[a_, b_] := (p[a, b] Tan[3 b + 2 c[a, b]] + q[a, b])/(Tan[2 a] + Tan[3 b + 2 c[a, b]])
q2[a_, b_] := 
 Tan[2 a] (p[a, b] Tan[3 b + 2 c[a, b]] + q[a, b])/(Tan[2 a] + Tan[3 b + 2 c[a, b]])

In[5]:= 
p3[a_, b_] := (p[a, b] Tan[3 b + c[a, b]] - Tan[2 b] + 
    q[a, b])/(Tan[3 b + c[a, b]] - Tan[2 b])
q3[a_, b_] := -Tan[
    2 b] (((p[a, b] - 1) Tan[3 b + c[a, b]] + 
      q[a, b])/(Tan[3 b + c[a, b]] - Tan[2 b]))

In[6]:= (p1[a, b] - p2[a, b])^2 + (q1[a, b] - 
     q2[a, b])^2 - (p2[a, b] - p3[a, b])^2 - (q2[a, b] - 
     q3[a, b])^2 // Simplify

Out[7]= 0

In[8]:= (p2[a, b] - p3[a, b])^2 + (q2[a, b] - 
     q3[a, b])^2 - (p3[a, b] - p1[a, b])^2 - (q3[a, b] - 
     q1[a, b])^2 // Simplify

Out[9]= 0


[1]三角形の外角の三等分線の場合(時岡郁夫さん)

2023年12月12日火曜日

四角形

三角形(3)からの続き

小学生の問題から離れられない。

長方形($a \times b$)があって,その1つの角が小さな長方形($p \times q$)の形に欠けている。この図形の面積を2等分する直線を求めよというものだ。問題では辺の長さの情報が与えられていない。どうするのかと思って解答をみた。それは,与えられたL型の図形を2つの長方形の組み合わせとみなし,それぞれの長方形の中心点を結ぶ直線を引けばよいというものだ。なるほど,小学生でも理解できる。この直線の図形内の中点を中心に,図形の角を越えない範囲で直線を回転させればそれらも解になる。

ところで,その欠けた部分が大きくなると,この方法ではうまくいかない。というのも直線で分割される角の欠けた側の領域が連結領域ではなくなり,バラバラになってしまうからだ。これを避けるためには,欠けた側と反対側の角を通る直線で,面積が等しくなるものを探せば良い。中学生レベルの問題になる。


図:直線APによる四角形の面積の二等分($\frac{a}{b}>\frac{p}{q}$の場合)

直線ACは四角形ABCDの面積をS1(△)とS2(△)に2等分するが,左図形から引き去る部分は台形CEFR,右図形では三角形CGRなので,S1(左) <  S2(右)となる。そこで,分割線をAPにずらせば,S(左)=S(右)となる点が見つかるはずだ。

ずらす距離PC=$x$とおいて立式すると,$2S_1 = b(a-x)-q\bigl\{ 2(p-x)+\dfrac{q(x-a)}{b}\bigr\}$,$2S_2 = (b-q)\bigl\{ a+\dfrac{x(b-q)+aq}{b}\bigr\}$となる。これを等しいとして$x$を求めると,$x=\dfrac{q(a q- b p)}{(b-q)^2}$と求まった。

めでたしめでたしというところだ。ところで,$\frac{a}{b}=\frac{p}{q}$でもとの四角形と切り欠きの四角形が相似となる。このため,最初の対角線が2等分線となって$x=0$になる。ということは,$x<0$の場合が出てくるということか。おかしいのでしばらく悩んだ。

良く考えると,この場合は,欠けた図形の角が対角線より右側になるので,P点はCG上に持ってきてCP=$y$と置く必要がある。すなわち,この場合は,$a$と$b$,$p$と$q$を入れ替えて同じ式を解くことになるので,$y=\dfrac{p(b p- a q)}{(a-p)^2}$とすればよいことになる。