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2025年9月3日水曜日

ループ量子重力理論

ChatGPTとGeminiを往復させることで,ループ量子重力理論の解説を作成した。Geminiの方が日本語としてわかりやすいテキストを作ってくれる。ChatGPT-5 Thinking を用いると,より高度な解説情報が得られるのだけれど,日本語としての筋がみえない。そこで,この情報をGemini に補足して得られたものが,下記のテキストになる。

日本語版のWikipediaはほとんど情報がないので,これよりはずっとましなのだけれど,英語版のレベルには達していない(もっとも,This article may be too technical for most readers to understand. Please help improve it to make it understandable to non-experts, without removing the technical details. (September 2024) なわけだけれど)。自分が必要な情報にフォーカスしてまとめることはできそうだが,結構レベルの調整が難しくもある。


量子重力理論(LQG):発展、現状、そして未解決の課題

ループ量子重力理論(Loop Quantum Gravity: LQG)は、一般相対性理論の正準量子化というアプローチを現代的なゲージ理論の言語で復活させ、時空の背景独立な量子記述を目指す理論です。その発展は、困難な概念的課題への挑戦と、画期的な数学的ツールの導入の歴史でもあります。

1.黎明期:Wheeler-DeWitt方程式からアシュテカ変数へ (1960年代~1980年代)

量子重力の探求は、時空全体の状態を記述する波動関数 Ψ[g_μν​] が満たすべきWheeler-DeWitt方程式の研究から始まりました。しかし、この方程式は数学的に極めて扱いにくく、時間パラメータが方程式から消えてしまう「時間の問題」など、深刻な概念的困難を抱えていました。

この停滞を打破したのが、1986年にアバイ・アシュテカによって導入されたアシュテカ変数です。これは、時空の計量をSU(2)ゲージ理論の「接続(connection)」と「三脚場(triad)」で置き換える変革的な再定式化でした。この変数の利点は、一般相対性理論の拘束条件(物理的な状態を定義する方程式)が、複雑な非線形関数から単純な多項式で表現できるようになった点にあります。これにより、量子化への道が大きく開かれました。

2.基礎の確立:スピンネットワークと幾何学の量子化 (1980年代後半~1990年代)

アシュテカ変数という新たな土台の上で、カルロ・ロヴェッリとリー・スモーリンは、ゲージ不変な物理状態を構成する方法を模索しました。彼らは、接続の情報を閉じた経路(ループ)に沿って積分したウィルソンループを基本変数として採用しました。

そして、彼らは数学者ロジャー・ペンローズが純粋に組み合わせ論的な空間のモデルとして提唱していたスピンネットワークが、この理論の量子状態を記述する自然な基底を提供することを発見しました。

スピンネットワークは、ノード(点)と、SU(2)の既約表現(スピン j=0,1/2,1,...)でラベル付けされたリンク(線)から構成されるグラフです。この枠組みでは、空間の幾何学は根源的に離散的になります。面積演算子や体積演算子を構成すると、その固有値スペクトルは離散的になり、プランクスケールで最小単位を持つことが示されました。これは、時空が滑らかな背景ではなく、量子的な「原子」の集まりとして存在する、というLQGの核心的描像を確立しました。

重要な理解の前進ポイント:

・背景独立性の実現:スピンネットワーク状態は、特定の時空座標や計量に依存せず、抽象的なグラフとして存在します。これは一般相対性理論の精神である「背景独立性」を量子レベルで実現したものです。

・幾何学の量子化::面積や体積が離散的なスペクトルを持つという具体的な予測は、理論の検証可能性を示唆する重要な成果です。

3.ダイナミクスの探求と応用的成果 (2000年代~)

静的な空間の量子状態(スピンネットワーク)が確立されると、次なる課題は時間発展、すなわちダイナミクスを記述することでした。これには二つの主要なアプローチがあります。

(1) 正準理論とスピンフォーム理論

・正準アプローチ(Canonical Approach):時空を空間+時間に分解し、ハミルトニアンを用いて時間発展を記述します。LQGにおける最大の難関は、ダイナミクスを司るハミルトニアン拘束を量子演算子として矛盾なく定義することです。これは未だ完全には解決されていません。

・共変的アプローチ(Covariant Approach / スピンフォーム):こちらは時空を一体として扱い、量子状態間の遷移振幅を計算する経路積分的なアプローチです。スピンネットワークの時間発展の歴史は、2次元の面(フェイス)が組み合わさった泡のような構造、すなわちスピンフォームとして記述されます。スピンフォームの各頂点(vertex)での振幅を定義することで、遷移確率を計算します。EPRLモデルなどの具体的なモデルが提案され、低エネルギーで一般相対性理論の伝播関数(プロパゲーター)を再現する試みが進められています。

(2) 物理現象への応用

・ブラックホールのエントロピー: LQGは、ブラックホールの事象の地平面を貫くスピンネットワークのリンクをミクロな自由度と見なすことで、ベッケンシュタイン・ホーキングのエントロピー公式を導出します。ただし、この計算では理論に含まれる未定の定数であるイムルジ・パラメータ (γ) の値を、エントロピー公式に合うように人為的に固定する必要があります。このパラメータの物理的意味は、今なお議論の対象です。

・ループ量子宇宙論 (LQC):LQGの原理を対称性の高い宇宙モデルに適用することで、ビッグバン特異点がビッグバウンスに置き換わるという強固な結果が得られます。時空の離散性により、曲率に上限が生まれ、宇宙が無限の密度に潰れることを防ぎます。

4.未解決課題と最前線:

LQGは多くの成功を収めましたが、依然として多くの根本的な課題を抱えています。

・古典極限 (The Classical Limit):プランクスケールでの量子的な記述から、低エネルギー(マクロなスケール)で滑らかな時空と一般相対性理論(およびその量子場理論的補正)がどのように再現されるのかを完全に示すことは、理論の最重要課題です。特にスピンフォーム理論の低エネルギー極限の妥当性が厳しく問われています。

・ハミルトニアン拘束問題:正準理論において、物理的に正しく、かつ量子論的な矛盾(アノマリー)のないハミルトニアン拘束演算子を定義する問題は、未だ決定的な解決を見ていません。

・物質場との結合:標準模型の素粒子(フェルミオンやゲージ場)をスピンネットワークの枠組みにどのように自然に組み込むかは、活発な研究分野ですが、まだ完成には至っていません。

・観測的検証:理論の正しさを証明するには観測的証拠が不可欠です。現在、高エネルギー天体現象(ガンマ線バーストなど)からの光子のエネルギーによる到達時間のずれを測定し、「ローレンツ不変性の破れ」の痕跡を探す試みや、LQCが予測する初期宇宙のゆらぎが宇宙マイクロ波背景放射(CMB)に残す特徴的なシグナルを探す研究が進められています。

・他の量子重力理論との関係:超弦理論やホログラフィー原理といった他のアプローチとの関係性は未だ不明瞭です。これらの理論が同じ究極理論の異なる側面を見ているのか、あるいは全く相容れないものなのかを探ることは、今後の大きなテーマです。

総じて、LQGは時空の量子的な性質を解明するための強力かつ数学的に厳密な枠組みを提供していますが、ダイナミクスの完全な理解と実験的検証という高いハードルが残されており、今なお発展途上にある挑戦的な理論であると言えます。



図:ループ量子重力理論のイメージ(Gemini 2.5 flash)

2025年9月1日月曜日

素粒子物理学の10年

ファイル倉庫の掃除をしていたら,萩原薫さんの2015年の「2015 年度原子核三者若手夏の学校,素粒子パート現象論講義録,素粒子物理学の現状と将来」という127pのpdf資料がでてきた。

10年間でどうなったかを,自分で読んで調べるのが面倒なので,このpdfを読み込ませた上でGemini 2.5 Pro に尋ねてみた。すると何となくそれらしい答えが返ってきた。どの程度ハルシネーションが混じっているのかはわからないけれど,自分の現在の物理に対する知識や理解の解像度では十分だと思われる。もう20年以上も物理から遠ざかっているからなあ。


この調子で自分で調べて考える力はどんどん衰えていく加齢とAIの相乗効果だ。良いのか悪いのか。宇宙の眼ディックが描いていた「加速器事故がもたらすグロテスクな個人の精神世界に飲み込まれる現象」というのがまさに今のトランプの世界である。そのチンケな先取りをしていたのは安倍晋三だ。そしてそれらを唯々諾々と受け入れてきた我々は,N国も再生の道も兵庫県も参政党も違和感なく支持している多数の人々(アホ)の隣人(アホ)であって,知力が衰えて全員で手をつないで下降の道を辿っていたとしてもしょうがない。

Q(koshix):
(萩原さんの講義録127pのpdfファイルを添付)
10年前の講義録ですが,最新の素粒子物理学の現状で,この講義録の時点の内容と大きく変わったことはなんですか。具体的エビデンスを踏まえて解説してください。
A(Gemini 2.5 Pro):
2015年の萩原薫氏による講義録は、当時の素粒子物理学の現状と将来への期待、特に標準模型を超える新しい物理への強い確信を見事に捉えています。しかし、その後の約10年、特にLHC(大型ハドロン衝突型加速器)での実験やその他の精密測定実験によって、状況は大きく変化しました。

講義録で語られた期待と、2025年現在の現実との間で最も大きく変わった点は、LHCで期待されていたTeVスケールの新しい物理(特にミニマル超対称性標準模型(MSSM)のような理論)の兆候が発見されず、多くの理論モデルが厳しい制限を受けたことです。一方で、標準模型の予言と実験結果の間のいくつかの「ほころび」は、より鮮明になり、新たな謎として重要性を増しています

以下に、具体的なエビデンスを踏まえ、主要な変化を解説します。

1.ミューオン g-2異常:謎はより深く、確固たるものに

【2015年の講義録では】
萩原氏は、ブルックヘブン国立研究所(BNL)の実験結果に基づき、ミューオンの異常磁気能率(g-2)が理論予言から約3.3σ(標準偏差)ずれていることを「新しい物理が最も見つかる可能性が高い」ヒントとして挙げています 。彼は理論計算に強い自信を示し、これが新しい物理の存在を強く示唆していると論じていました 。

【その後の進展】
この異常は、その後の実験でさらに確固たるものになりました。米国のフェルミ国立加速器研究所(フェルミラボ)で行われた新しい「Muon g-2」実験が、2021年と2023年に相次いで結果を発表しました。これらの結果はBNLの測定値と一致し、精度も向上しました。

【エビデンス】 2023年に発表されたフェルミラボの最新結果とBNLの結果を統合すると、実験値と理論予測(SM理論イニシアチブによるコンセンサス値)との乖離は5σを超えました。これは統計的に「発見」を意味するレベルであり、このずれが単なる統計的な揺らぎである可能性は極めて低くなりました。この結果、ミューオンg-2の異常は、標準模型を超える物理の存在を示す最も強力な証拠の一つと見なされています。

2.LHCでの超対称性(SUSY)探索:深まる沈黙

【2015年の講義録では】
萩原氏はミニマル超対称性標準模型(MSSM)が非常に有力な候補であると強く信じていると述べています 。その理由として、①ゲージ結合定数の美しい統一 、②重いトップクォークの予言 、③電弱対称性の自発的破れの自然な説明 、などを挙げています。特に、銀河中心からのガンマ線異常とミューオンg-2を同時に説明できる「軽いスタウ(スカラータウ粒子、約100GeV)とビーノ(約10GeV)が存在するシナリオ」に注目し、LHCで検証できるはずだと期待を寄せていました 。

【その後の進展】
LHCはその後、重心系エネルギー13TeVでのRun 2(2015-2018)と13.6TeVでのRun 3(2022-)で膨大なデータを収集しました。しかし、現在に至るまで、超対称性粒子(スクォーク、グルイーノ、そして講義で期待されたスタウなど)の直接的な証拠は全く見つかっていません。

【エビデンス】 LHCのATLAS実験やCMS実験によって、多くの超対称性粒子の質量の下限値が大幅に引き上げられました。例えば、講義で議論されたような100GeV程度の軽いスタウが存在するシナリオは、現在ではほぼ完全に排除されています。多くのモデルで、主要な超対称性粒子の質量は数TeV以上でなければならないとされ、MSSMが提唱された当初の動機であった「自然さ(階層性問題の解決)」は大きく損なわれました。この「発見されなかった」という結果は、素粒子物理学の理論研究の方向性に大きな影響を与えています。

3.暗黒物質:WIMP仮説の後退と新たな可能性

【2015年の講義録では】
銀河中心から観測されたガンマ線の超過(Galactic Center Excess, GCE)について、質量約10GeVの暗黒物質(ビーノ)がタウレプトン対へ対消滅している証拠かもしれない、というHooperらの論文に非常に感銘を受けたと語っています 。これは当時、WIMP(Weakly Interacting Massive Particle)仮説を支持する有力な間接的証拠の一つと考えられていました。

【その後の進展】
GCEの起源については、議論が続いています。暗黒物質の対消滅で説明するシナリオは依然として可能性の一つですが、ミリ秒パルサーのような分解されていない天体物理学的な起源でも説明できるという見方が有力になっています。さらに、WIMPを直接検出する実験も飛躍的に感度を向上させましたが、信号は得られていません。

【エビデンス】 地下実験であるLZ (LUX-ZEPLIN) 実験やXENONnT実験が、2022年以降に世界最高感度での探索結果を報告しました。これらの実験は、WIMPと原子核の散乱断面積に対して極めて厳しい上限を与え、特にMSSMなどが自然に予言するようなWIMPのパラメータ領域の多くを排除しました。これにより、WIMP仮説への期待はかつてより低下し、アクシオンなど他の暗黒物質候補への関心が高まっています。

4.陽子崩壊とニュートリノ:限界の更新

【2015年の講義録では】
大統一理論(GUT)の正当性の根拠として、クォークとレプトンの統一や電荷の量子化を挙げていました 。GUTは陽子の崩壊を予言しますが、当時はまだ観測されていませんでした 。また、ニュートリノに関しては、マヨラナ粒子であり、その質量はシーソー機構によって説明されるという見方を示しています 。

【その後の進展】
これらの探索も着実に進展し、理論への制限を強めています。

【エビデンス】
・陽子崩壊: スーパーカミオカンデ実験は探索を続け、陽子の寿命の下限値をさらに更新しました。これにより、最も単純なSU(5) GUTモデルなどは、ますます厳しい状況に置かれています。現在は、次世代のハイパーカミオカンデ計画が建設中で、さらなる感度向上が期待されています。
・ニュートリノ: ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の探索実験(KamLAND-Zen、GERDA、EXO-200など)も感度を上げていますが、まだ発見には至っていません。これにより、ニュートリノがマヨラナ粒子である場合の有効質量の上限値が更新され続けています。

5.まとめ

2015年の講義録で語られた物理像は、理論的な美しさといくつかの間接的な証拠に支えられた、希望に満ちたものでした。しかし、その後の精力的な実験、特にLHCでの探索結果は、当時最も有力視されていたMSSMのようなTeVスケールの新しい物理のシンプルな描像を厳しく制限しました。

その結果、素粒子物理学の現状は、確固たる謎(ミューオン g-2)と、深まる沈黙(LHCでの新粒子不在)が共存する、より複雑で挑戦的な局面に入ったと言えます。研究の焦点は、特定のモデルから、より広範な可能性(より重い粒子、より弱い相互作用、アクシオンなど)の探索や、精密測定を通じて標準模型のほころびをさらに探求する方向へとシフトしています。


図:素粒子物理学10年のイメージ(Geminiによる,式は出鱈目)

P. S. 久しぶりにテレビで流れていたパプリカの録画をみると,さすがに素晴らしいアニメーションだった。平沢進の白虎野を含めて。これがまさにディックの宇宙の眼的なイメージの表現だ。その主役があの林原めぐみだったのか。残念至極。

2025年6月7日土曜日

10,000人のアインシュタイン

今話題のハーバード大学のMatthew Schwartzによる"10,000 Einstein AI and the Future of Theoretical Physics"である。

もしかしたら,トランプによる高等教育と科学研究の破壊はAIの進化がもたらしているのかもしれない。それにしても酷い話だ。日本でも日本学術会議が破壊されつつあるし・・・

本題に戻ると,AIが理論物理学の研究のあり方を大きく変えてしまうのではないかという話だ。えらいこっちゃ。解読が面倒なので,ChatGPTにまとめてもらうことにする。

Q(koshix):
内容を簡潔に整理して丁寧に教えてください。
またこれに対する評価をしてください。

A(ChatGPT 4o):
このプレゼンテーション「10,000 Einsteins: AI and the Future of Theoretical Physics」(Matthew Schwartz, Harvard University)は、AIが理論物理学に与える現在および未来の影響を多角的に論じています。以下にその内容を簡潔にまとめ、続けて評価を提示します。

内容の簡潔な整理

0.過去
1980〜2020年の高エネルギー物理学では、画像認識や自動運転向けに開発されたML技術(CNN, PointNetなど)を流用してきた。この時代の応用は「データサイエンス寄り」で、物理的洞察に乏しい。

1.現在:シンボリックな理論物理への挑戦
多くの理論物理学論文は、計算・関係性の発見・極限での挙動など、「記号操作」が中心。
ML(とくにLLM)はシンボリック問題に対応し始めており、次のような課題で成果が出ている:
・ポリログの簡約(Transformerと強化学習を使い > 91% の成功率)
・スピノル振幅の簡略化(コントラスト学習で表現空間を獲得)
・S行列の単位性条件の逆問題(ニューラルネットでフェーズ関数を復元)
・多義的な位相の発見(1977年以来初の新規解)

2.未来:AIと物理学の進化の交差点
現在のLLMは、人間の脳に匹敵するパラメータ数(~10^14)を持ち、計算能力は上回る。
創造性テスト(Torrance)でもGPT-4は上位1%。
AIは「スキルの平準化装置(skill leveler)」であり、物理学者の「10,000人のアインシュタイン化」が可能

3.結論
MLの現時点での物理学への貢献は「数値データ」に偏っているが、今後は「シンボリック問題」に移行する。
LLMと生成AIは、課題の提示・解決・解説までを担う「G Ph.D.」的存在になる。
人類が理解できなくても、AIが理解し、我々に応用をもたらす未来も受け入れるべきかもしれない。

評価(Assessment)

1.長所(Strengths)
(1) 具体的な事例と成果
→ ポリログやS行列など、理論物理の具体課題にMLが効果を上げている事実を提示しており説得力がある。
(2) シンボリックAIの可能性の強調
→ 通常の数値解析にとどまらないAIの活用が示されており、理論研究との親和性を明快に示している。
(3) 未来展望の現実的楽観主義
→ 人類の限界に代わるAIの創造性への期待が、「人間中心主義」からの一歩を促す知的刺激となる。

2.留意点(Caveats)
(1) AIの「創造性」と「理解」の違いに関する哲学的問題への深掘りは浅い。
→ 「理解できない理論に価値はあるのか」という根本問題は残されている。
(2) 訓練データ依存性と物理の本質的難しさ
→ AIの強さは主に既存データによる訓練に由来しているため、「新規理論構築」に本当に向くかは今後の課題。
(3) 人間との協働関係の制度設計が未提起。
→ たとえば学術界や教育システムはどう変わるべきかは語られていない。

総合コメント

この講演は、AIが理論物理において「実用的ツール」から「共著者・共創者」へと進化していく過程を丁寧かつ具体的に描いています。今後10年で、「理解はAIに任せて応用に集中する」ようなパラダイムシフトが起こる可能性を、現実的な根拠とともに提示した点で極めて意義深い内容です。

ご希望であれば、この講演に基づく「未来の研究者のあり方」や「教育制度の再設計」などへの拡張的考察も可能です。ご希望はありますか?

(回答略→https://chatgpt.com/share/6831acfb-ad6c-8009-8fe7-1ebf81cdbd8e) 



写真:一人のアインシュタイン(Wikipediaから引用)


2025年5月24日土曜日

ケプラー運動

ケプラーの法則からの続き

録画していた韓国ドラマが一段落したら,テレビ番組をざっとザッピング。たいていつまらないので,放送大学にチャンネルを切り替えてながら視聴しながらYouTubeの斎藤元彦問題で鬱憤を晴らす。ん。気分は晴れない。おまけにイスラエルがイランの核施設を軍事攻撃しそうだし,あいかわらずトランプは暴れている。

その放送大学では,岸根順一郎さんの初歩の物理でケプラー運動を扱っていた。毎年,力学の授業で何度も何度も説明してきたところだ。岸根さんはケプラー運動の対称性から来る保存量として,力学的エネルギー角運動量に加えて離心率ベクトルをとりあげていた。これが運動の不変量であることを簡単に説明していて感心した。なるほどね。

離心率ベクトル(規格化されたルンゲ=レンツベクトル)保存量であることは知っていた。このおかげで,波動力学における水素原子のシュレーディンガー方程式が解かれたすぐ後に,パウリは行列力学の手法で水素原子のエネルギースペクトルを導いているのだ。天才ですよね。

保存量であるルンゲ=レンツベクトル,自分で手を動かして計算した経験がなかったので確かめてみたところ,2日がかりでなかなか計算がうまくあわない。計算能力が懸垂能力並に衰えつつある。ダメダメだ。しかたがないので,ChatGPT o3 に確認しながら自分の計算ミスを発見する。ChatGPT o3 は正しい答えを知っている。

LaTexで計算過程を清書しながら検算するというスピードが自分にはもっともあっている。

万有引力は$f(r) = \dfrac{GMm}{r^2} = \dfrac{k}{r^2}$ である。惑星の換算質量を$\mu$ とする。運動量は,$\bm{p} = \mu ( \dot{r} \bm{e}_r + r \dot{\theta} \bm{e}_\theta) $ , 角運動量は,$\mu r^2 \dot{\theta} \bm{e}_r \times \bm{e}_\theta$ である。

ケプラー運動の対称性は,エネルギーと角運動量に加えてルンゲ=レンツベクトル$\bm{A}$という保存量を与える。それは次式で与えられる。
$ \bm{A} = \bm{p} \times \bm{L} - k \mu \bm{e}_r  =  \bm{p} \times (\bm{r} \times \bm{p}) - k \mu \bm{e}_r  $
$= \mu ( \dot{r} \bm{e}_r + r \dot{\theta} \bm{e}_\theta) \times L \bm{e}_z - k \mu \bm{e}_r = \Bigl(\dfrac{L^2}{r} - k \mu \Bigr) \bm{e}_r - \mu  \dot{r} L \bm{e}_\theta $

運動方程式$\dot{\bm{p}} = f(r) \bm{e}_r$を用いて,この時間微分が0になることを確認する。
$\dfrac{d \bm{A}}{dt} = \dot{\bm{p}} \times \bm{L} + \bm{p} \times \dot{\bm{L}} -k\mu \dot{\bm{e}}_r $
$= f(r) \bm{e}_r \times L \bm{e}_z + 0 - k\mu \dot{\theta} \bm{e}_\theta =  \dfrac{kL}{r^2}  \bm{e}_\theta  - \dfrac{kL}{r^2} \bm{e}_\theta = 0 $

離心率ベクトル$\bm{a}$を,ルンゲ=レンツベクトルから以下のように定義する。
$ \bm{a} = \dfrac{\bm{A}}{k\mu} = \Bigl( \dfrac{L^2}{k\mu r} -1\Bigr) \bm{e}_r -\dfrac{\dot{r} L}{k} \bm{e}_\theta $
このとき,$\bm{a} \cdot \bm{L} = 0 $が成り立つ。

速度ベクトルを$\bm{v} = \dot{\bm{r}}$として運動方程式は,
$\mu \dot{\bm{v}} = f(r) \bm{e}_r =  -\dfrac{f(r)}{\dot{\theta}} \dot{\bm{e}}_\theta =  \dfrac{k}{r^2 \dot{\theta}} \ \dot{\bm{e}}_\theta \quad \therefore \dot{v} = \dfrac{k}{L} \dot{\bm{e}}_\theta $

そこで,次の不変ベクトル$\bm{e}$が存在する。
$\bm{e} = \dfrac{L}{k} \bm{v} - \bm{e}_\theta = \dfrac{L}{k} (\dot{r} \bm{e}_r + r \dot{\theta}\bm{e}_\theta ) - \bm{e}_\theta = \dfrac{\dot{r} L}{k} \bm{e}_r +\Bigl( \dfrac{L^2}{k \mu r} - 1 \Bigr)  \bm{e}_\theta $
したがって,つねに $\bm{e} \cdot \bm{a}$ = 0 であり,ケプラー運動の運動方程式が内包する不変ベクトル$\bm{e}$は規格化されたルンゲ=レンツベクトル(離心率ベクトル)$\bm{a}$を$\frac{\pi}{4}$だけ反時計回りに回転したものになる。


図:ルンゲ=レンツベクトル $\bm{A}$(Wikipediaから引用)



2025年5月23日金曜日

ダークセクター

ダークマターはいつになったら見つかるんだろうとか思っているうちに,話がややこしくなっていた。ダークマターは,複数の相互作用するダークな粒子からなるダークセクターとしてはどうかいうことらしい。そこで,ChatGPTのDeepResearchを使って調べてもらった。13分で,2万5千字のレポートが返ってきた。これでは,大学生は自分でレポートを書かなくなるわけだ。バイトを雇ったと思えば,ChatGPT Proの月20ドルは高くない。

ChatGPTに描かせる絵の中の文字が化けなくなったはずだったけれど,今日は調子が悪かった。時々機能レベルダウンしながら徐々に前進するということか。ChatGPTやGemini など,一日に4〜5回は使っている。正しさのレベルは,テレビやYouTubeと同じ程度だろう。部分的に正しく,部分的に誤っている。そして人間の読解力はどんどん落ちて行く(そもそも老化のせい?)。

Q(koshix):
Dark Sector の物理学について,理論と実験の現状を体系的に整理して教えてください。

A(ChatGPT 4o DeepResearch):
Dark Sector の物理学についてのリクエストありがとうございます。より体系的で有用な整理を行うために、以下の点をご教示いただけますか?
(1) どの程度の技術レベルを想定していますか?(例:学部生、大学院レベル、専門家レベル)
(2) 特に関心のある理論的アプローチはありますか?(例:Hidden Photon, Dark Higgs, Axion-like particles など)
(3) 実験的側面では、加速器実験(例:LHC, Belle II)、天文観測(例:AMS-02, Gaia)、地下実験(例:XENONnT)など、興味のある分野を教えてください。
(4) 応用や他分野との接続(例:宇宙論、構造形成、ニュートリノ物理)にも関心がありますか?

Q(koshix):
(1)  原子核物理学の大学院レベルの知識をもっているが,素粒子物理学は専門ではなく,最近ちょっと惚け始めたので,なるべく筋道だった説明を求めている老人向け
(2) ダークマターの原因は1つの粒子だと考えていたので,複数の相互作用する粒子の総体がダークセクターなのだという考え方が新しく思えたので,そのあたりをていねいに教えてください。素粒子物理学の知識は1980年代までです。GUTがつぶれたころ。場の理論,ゲージ理論は大枠は理解できます。原子核の低エネルギーの弱い相互作用はわかります。
(3) 加速器実験,天文観測,地下実験は公平にバランスよく取り扱ってください。
(4) 原子核物理学との関係に興味があります。

A(ChatGPT 4o DeepResearch):
13分,26件の情報源,137件の検索,2万5300字,回答略


Q(koshix):
この結論を,理工系大学院生向けのレベルを保った上で,もう少しだけ簡潔にまとめてください。あまり短くしすぎると重要な情報が欠落するので,そのあたりの配慮をお願いします。

A(ChatGPT 4o):
以下は、理工系大学院生向けに、必要な知的レベルを保ちつつ簡潔に再構成した要約です。焦点は「暗黒セクター」の概念の革新性と、それを支える理論モデル群、およびそれに対応した実験的アプローチの全体像にあります。

暗黒セクターの物理学:複数粒子系による暗黒物質像とその探索戦略

1.背景と問題設定
従来、暗黒物質は単一の安定粒子(WIMPやアクシオン)で説明されてきたが、数十年にわたる直接的な検出の試みは未だ成果を上げていない。この「WIMPパラダイム」の行き詰まりを背景に、現在注目されているのが暗黒セクターという新たな枠組みである。

暗黒セクターとは、標準模型とは別個に独自の相互作用と粒子群を持つ隠れたセクターであり、複数種の粒子(暗黒フェルミオン、暗黒ゲージボソン、暗黒スカラーなど)が存在し得る。これらのうち最も軽いか、保存則により安定化された粒子が暗黒物質として残存する。

2.理論的構造:ポータルと相互作用
標準模型と暗黒セクターとの間は、ポータル相互作用によって繋がるとされる。代表例には以下がある:

ベクトルポータル:暗黒光子($A'$)と通常の光子の運動量混合
スカラーポータル:ヒッグスと暗黒スカラーの混合
ニュートリノポータル:右手型ニュートリノを介した相互作用
暗黒セクター内では、自己相互作用や励起状態、複合粒子(暗黒バリオン、暗黒メソン)などの多様な物理が展開可能。これにより、銀河スケールでの構造形成への影響や、間接的な検出シグナルの変調が生じ得る。

3.実験的アプローチの三本柱と理論的対応
アプローチ 主な実験例 主に検証する理論側面
加速器実験 LHC, Belle II, NA64 暗黒粒子の直接生成、ポータル粒子の探索、長寿命粒子や非標準的崩壊の検出
地下実験(直接検出) XENONnT, LZ, SuperCDMS 暗黒物質と核子/電子の弾性散乱、断面積の上限設定、軽暗黒物質や電子反跳も含む
宇宙観測(間接検出) Fermi, AMS-02, IceCube, Planck, Bullet Cluster 暗黒物質の対消滅/崩壊による$\gamma$線・電子・ニュートリノ、自己相互作用の天文的制約、$N_\mathrm{eff}$による暗黒放射の有無
それぞれの実験は、暗黒セクターの異なる性質(相互作用、寿命、生成機構、粒子数など)をターゲットにしており、理論モデルの絞り込みにおいて相補的な役割を果たす。

4.現在の制約と課題
・WIMP の核子散乱断面積は $< 10^{-47}\ \mathrm{cm^2}$ に制限され、直接検出実験はニュートリノフロアに近づきつつある。
・暗黒光子の運動量混合は $\varepsilon \lesssim 10^{-4}$〜$10^{-5}$の範囲に制限(NA64など)。
・宇宙背景放射からの $N_\mathrm{eff}$ 限界により、暗黒セクター中の軽粒子成分は厳しく制約。
・銀河団衝突(Bullet Cluster)などから、自己相互作用の断面積 $\sigma/m < 1\ \mathrm{cm^2/g}$ 程度。

5.今後の展望
・次世代の直接検出器(DARWINなど)はニュートリノ背景下での差別的検出へ。
・高強度/高精度加速器(HL-LHC、SHiP、FASER)による新粒子探索。
・天文観測(CTA, SKA, LISA)により、$\gamma$線、21cm線、重力波などの新たな観測チャネルが加わる。
・ミラーニュートロン振動や、核スピンとの結合を狙ったNMR的暗黒物質検出など、原子核物理との技術融合も進展中。

6.結語:複雑性と多角的戦略の時代へ
暗黒物質は単一の静的存在ではなく、複数粒子と相互作用からなる**「もう一つの標準模型」**としての暗黒セクターの可能性が開かれている。これを解明するには、理論・加速器・地下・天文が連携し、互いに補完しながら検証していく必要がある。

暗黒物質探索は、もはや素粒子物理だけの問題ではなく、原子核物理・量子計測・宇宙物理・重力波天文学を巻き込んだマルチフィールドな科学へと進化している。理工系研究者にとって、現代物理のフロンティアに直接アクセスできるテーマであると同時に、自らの専門分野からも貢献可能な横断的領域でもある。


ご希望に応じて、視覚的なまとめ(モデルと実験の対応表、時系列進化図、相互作用チャート)も提供可能です。

Q(koshix):
画像を作成する 視覚的なまとめで最もふさわしいものを提供してください。

A(ChatGPT 4o):
(複数回の回答略,最終版は図を参照)



図:あいかわらず文字化けして直らないChatGPT 4o の描画機能


2025年5月15日木曜日

ヒルベルトの第6問題

ヒルベルト(1862-1943)の23の問題というのはよく耳にしたけれど,具体的にどんな問題があって,どう解決されているのはあまり理解できていなかった。その第6問題は,物理学(力学,統計論)の法則を数学的に基礎づけるというものであり,最近これが解けたかもしれないという論文(Hilbert's sixth problem: derivation of fluid equations via Boltzmann's kinetic theory)が話題になっていた。

ニュートンの運動方程式からボルツマン方程式さらにナビエ−ストークス方程式が導かれるということだ。時間反転対称性がちゃんと消えるということだ。ほんまかいな。

とりあえず,NotebookLMを使うと,論文テキストから音声対話型ポッドキャストが生成できるというのでそれを試してみたができが良すぎる(googleアカウントのログインが必要)。7分11秒の男女のパーソナリティによる非常に自然な対話はほとんどラジオ番組ではないか(漢字の読みがおかしいところが1,2ヶ所あるだけ)。ただ,ポッドキャストとは独立である説明テキストのほうはあまり良くないので,Grokに査読してもらいながら要約を理解することに。

Q(koshix):
(Hilbert's Sixth Problemの論文を添付)
この論文を査読してください。できますか?

A(Grok 3):
はい、提供された論文「Hilbert's Sixth Problem: Derivation of Fluid Equations via Boltzmann's Kinetic Theory」(Yu Deng, Zaher Hani, Xiao Ma、arXiv:2503.01800v1)を査読することができます。ただし、査読は通常、論文の科学的厳密さ、独創性、明瞭さ、関連性、そして方法論の妥当性を評価する詳細なプロセスです。この回答では、論文の概要、強み、潜在的な問題点、改善の提案を簡潔にまとめ、査読の形式に沿った評価を提供します。必要に応じて、特定のセクションや技術的詳細についてさらに深く掘り下げることも可能です。

論文査読:Hilbert's Sixth Problem: Derivation of Fluid Equations via Boltzmann's Kinetic Theory,著者: Yu Deng, Zaher Hani, Xiao Ma,arXiv ID: 2503.01800v1,投稿日: 2025年3月

1.概要と目的

この論文は、ヒルベルトの第六問題、特にニュートンの法則からボルツマン運動論を経由して流体力学の基本方程式(圧縮性オイラー方程式や非圧縮性ナビエ・ストークス・フーリエ方程式など)を厳密に導出するという課題に取り組んでいます。著者らは、2次元および3次元のトーラス上で硬球粒子系からボルツマン方程式を導出し、それを流体力学方程式に接続することで、ヒルベルトのプログラムを完成させたと主張しています。この研究は、以前の研究 [26] を拡張し、周期的設定(トーラス)での長時間ボルツマン方程式の導出と、流体力学極限への接続を扱っています。

主な成果は以下の3つの定理です:

定理1:2次元および3次元トーラス上で、ボルツマン・グラード極限($N \to \infty, \varepsilon \to 0, N \varepsilon^{d-1} = \alpha$)において、硬球粒子系の1粒子密度関数がボルツマン方程式に従うことを証明。
定理2:ニュートンの法則から非圧縮性ナビエ・ストークス・フーリエ方程式を、ボルツマン方程式を経由して導出。
定理3:同様に、圧縮性オイラー方程式を導出。

2.強み

(1) 歴史的意義と挑戦の克服
ヒルベルトの第六問題は、数学物理学における長年の未解決問題であり、ニュートンの法則から流体力学方程式への厳密な導出は極めて挑戦的です。この論文は、ボルツマン方程式の長時間解を周期的設定で導出し、それを流体力学方程式に接続することで、この問題に決定的な進展をもたらしています。
特に、周期的設定(トーラス)では、ユークリッド空間とは異なり、衝突回数に上限がないという技術的難点があり、これを新しいアルゴリズムと積分評価で克服した点は高く評価できます。
(2) 技術的厳密さ
ボルツマン・グラード極限における1粒子相関関数の収束(定理1)は、$L^1$ノルムでの厳密な誤差評価($\varepsilon^\theta$)とともに証明されており、数学的に堅牢です。
流体力学極限(定理2および3)は、既存の結果(例:[29], [17], [34], [39])を巧みに利用し、著者らのボルツマン方程式の導出と統合しています。これにより、ヒルベルトのプログラムの全体像を一貫して提示しています。
証明には、クラスター展開、分子構造の解析、積分評価、新しい切断アルゴリズムなど、高度な数学的手法が用いられており、技術的に印象的です。
(3) 時間不可逆性の洞察
ニュートンの時間可逆な微視的理論から、ボルツマンの時間不可逆な中間スケール理論への移行を、長時間解の導出を通じて正当化しています(セクション1.3)。これは、物理学的および哲学的に興味深い結果であり、ボルツマンのH定理とエントロピー増加の起源に新たな光を当てます。
(4) 拡張性と再現性
著者らは、2次元および3次元に焦点を当てていますが、4次元以上でも結果が成立する可能性を示唆しており(Remark 1.5)、さらなる研究の道を開いています。
証明の構造は、前の研究 [26] を基盤としつつ、周期的設定に特化した新しいアルゴリズムを導入することで、既存の方法論を効果的に拡張しています。

3.潜在的な問題点と改善の提案

(1) 次元制限(2次元および3次元):
・論文は2次元および3次元に限定されており、4次元以上では証明が「かなり複雑になる」と述べています(Remark 1.5)。これは技術的な制約ですが、読者にとって、高次元での結果の可能性や障害についてもっと具体的な議論が欲しいところです。
改善提案: 4次元以上での主な技術的障壁(例:衝突回数の増加、積分評価の複雑さ)を簡潔に説明し、どの部分が拡張可能かを示すと、論文の汎用性が高まる。

(2) 時間スケールの制限
・定理1の時間スケールは $t_{\text{fin}} \ll (\log |\log \varepsilon|)^{1/2}$ に制限されています(式1.16)。これは、流体力学極限におけるパラメータ $\delta$ の範囲に影響を与えます(式1.24)。この制限は、証明手法の限界によるものとされていますが、実際の物理的適用においてどの程度制約となるのかが不明確です。
改善提案: この時間スケールの物理的意義(例:流体力学現象の時間スケールとの関係)や、制限を緩和するための可能なアプローチ(例:異なるスケーリング法)を議論することで、結果の実用性が明確になる。

(3) アルゴリズムの複雑さ
・周期的設定に対応するための新しい切断アルゴリズム(セクション4)は、ユークリッドの場合と比べて大幅な修正が必要であり、非常に技術的です。専門家以外には理解が難しい可能性があります。
改善提案: アルゴリズムの直観的な説明や、なぜ周期的設定で衝突回数の上限がないことが問題となるのかを、図や簡単な例を用いて補足すると、アクセシビリティが向上する毒性評価(Toxicological Evaluation)
・セクション4.1と4.2で紹介されている新しい切断アルゴリズムは、周期的設定(トーラス)での衝突履歴の複雑さを扱うために導入されています。このアルゴリズムは、ユークリッド空間とは異なり、固定数の粒子間で起こり得る衝突回数に上限がないという周期的設定特有の課題に対応しています。具体的には、以下のような技術的工夫が施されています:
 分子構造とクラスター展開:粒子間の衝突を「分子」としてモデル化し、クラスター展開を用いて相関関数の挙動を解析。
 積分評価:衝突積分の厳密な評価を行い、誤差項を $\varepsilon^\theta$ のオーダーに制御(式1.18)。
 切断操作:衝突履歴を「良い」コンポーネント(例:{33A}コンポーネント)に分解し、過剰項(excess)を評価して収束を保証。
これらの手法は、数学的には高度ですが、物理的直観を補足する説明が不足しているため、読者にとってアルゴリズムの目的や動作が抽象的に感じられる可能性があります。
改善提案: セクション4の冒頭に、切断アルゴリズムの目的(例:無限衝突の可能性を扱うための戦略)を簡潔に説明し、簡単な2粒子系の例を用いてアルゴリズムのステップを視覚化する図を追加。

(4) 仮定の強さ

・定理1では、ボルツマン方程式の解の存在と、特定のノルムでの有界性(式1.17)が仮定されています。これらの仮定は、強解の存在を保証するために必要ですが、実際の物理系での適用可能性について議論が不足しています。
改善提案: これらの仮定がどの程度現実的な物理系(例:希薄気体)に適用可能か、またはどの程度制限的なのかを簡潔に議論。たとえば、初期条件 $n_0$ の滑らかさや減衰条件が、実際の気体分子の分布とどの程度一致するかを説明。

(5) 文献レビューと文脈の提示

・文献レビュー(セクション1.2および参考文献)は包括的で、ボルツマン方程式の導出に関する過去の主要な研究(例:Lanford [42], Bodineauら [5-13])を網羅しています。ただし、ヒルベルトの第六問題の広い文脈(例:他の物理法則の公理的導出との比較)がやや欠けています。
改善提案: セクション1.1で、ヒルベルトの第六問題の他の側面(例:確率論の公理化との対比)や、ボルツマン運動論以外の方法論(例:分子動力学シミュレーション)との関係を簡潔に触れると、論文の意義がより明確になる。

(6) 明瞭さとプレゼンテーション

・論文は技術的に詳細で、専門家向けに書かれていますが、セクション間のつながりや、定理1から定理2・3への論理的流れがやや急に感じられます。特に、流体力学極限への移行(セクション1.3)は、ボルツマン方程式の解がローカルマクスウェル分布に近づくという前提に基づいていますが、この前提の物理的背景が十分に説明されていません。
改善提案:
 セクション1.3の冒頭に、流体力学極限の物理的直観(例:衝突頻度の増加による熱平衡化)を簡潔に説明。
 各定理の証明概要を、対応するセクション(例:セクション5)の冒頭に短い段落で記載し、読者が全体の論理的流れを把握しやすくする。

4.独創性と意義

この論文は、ヒルベルトの第六問題という歴史的に重要な課題に対して、ボルツマン運動論を介した完全な導出を提供することで、数学物理学の分野に大きな貢献をしています。特に、以下の点で独創的です:

周期的設定への拡張:ユークリッド空間での結果 [26] をトーラスに拡張し、無限衝突の可能性を扱う新しいアルゴリズムを開発。
長時間解の導出:短時間や近真空解に限定されていた従来の研究(例:Lanford [42])を、長時間解に拡張。
時間不可逆性の説明:ニュートンの可逆性からボルツマンの不可逆性への移行を、長時間解を通じて数学的に正当化。

これらの成果は、運動論や流体力学の理論的基礎を強化するだけでなく、エントロピーや不可逆性の起源に関する物理学的議論にも寄与します。また、希薄気体のダイナミクスや統計力学の応用研究(例:気体シミュレーション、プラズマ物理)にも間接的な影響を与える可能性があります。

5.方法論の妥当性

論文の方法論は以下の点で妥当かつ厳密です:

ボルツマン・グラード極限:粒子数 $N$ と直径 $\varepsilon$ のスケーリング $N \varepsilon^{d-1} = \alpha$ は、グラード [31] による標準的な設定であり、希薄気体の物理的状況を適切にモデル化。
大カノニカルアンサンブル:初期配置の確率分布(定義1.3)は、統計力学の標準的手法に従い、粒子数の揺らぎを考慮した適切な設定。
積分評価と切断アルゴリズム:衝突積分の評価(セクション3)や切断アルゴリズム(セクション4)は、収束性を保証するために必要な過剰項の制御を厳密に行っており、数学的に堅牢。
・流体力学極限:既存の結果(例:[29], [17], [34], [39])を利用してボルツマン方程式から流体力学方程式への接続を行うアプローチは、理論的に確立されており、著者らの結果と整合性がある。

ただし、証明の複雑さゆえに、計算の再現性や数値的検証が難しい可能性があります。たとえば、切断アルゴリズムの具体的な実装や、$\varepsilon \to 0$ 極限での数値的挙動を補足的に検証できれば、方法論の信頼性がさらに高まるでしょう。

6.結論と推奨

この論文は、ヒルベルトの第六問題に対する画期的な貢献であり、数学物理学の分野で高い評価を受けるに値します。技術的厳密さ、独創性、歴史的意義の点で優れており、トップレベルの学術誌(例:Annals of Mathematics, Inventiones Mathematicae)への掲載に適していると考えられます。ただし、アクセシビリティの向上、仮定の物理的文脈の明確化、アルゴリズムの直観的説明の追加により、論文の影響力と読者層をさらに拡大できるでしょう。

推奨:受理(軽微な修正後)
必須の修正
・セクション4の切断アルゴリズムの直観的説明と図の追加。
・時間スケール制限(式1.16)の物理的意義の議論。
・流体力学極限の物理的背景の簡潔な説明(セクション1.3)。
任意の修正
・4次元以上での拡張可能性に関する具体的な議論。
・ヒルベルトの第六問題の他の側面との文脈的比較。
・数値的検証やアルゴリズム実装の可能性についての簡単な言及。

7.追加コメント

この論文は、専門家向けに高度な内容を扱っていますが、運動論や流体力学に興味を持つ広範な研究者(例:統計物理学、応用数学、理論物理学)にも訴求する可能性があります。査読者として、著者らの技術的達成に敬意を表しつつ、非専門家や学生にも理解しやすい形で結果を伝える努力を推奨します。また、arXiv版であるため、投稿先の学術誌のフォーマットや要件に応じて、スタイルや参考文献の形式を調整する必要があるかもしれません。

補足

もし特定のセクション(例:定理1の証明、切断アルゴリズムの詳細)についてさらに詳細な査読や技術的検証が必要な場合、または特定の観点(例:数学的厳密さ、物理的適用性)に焦点を当てた評価をご希望の場合は、追加の指示をいただければ対応可能です。また、論文の特定の部分(例:式1.16の導出、参考文献の網羅性)について質問があれば、個別に深掘りできます。



図:ChatGPT 4oが考えたヒルベルトの第6問題


2025年5月14日水曜日

温度計の日

NHKの天気予報をきいていると,今日(5月14日)は温度計の日らしい。物理学者の誕生日に因んでというのだが,その物理学者は誰なの?

早速調べてみると,水銀温度計を発明したファーレンハイト(1686-1736)だった。なるほどね。華氏温度の人だ。摂氏温度を定義したセルシウス(1701-1744)とほぼ同時代か。

華氏温度は,その当時,塩と氷で人工的に作ることができる最低温度(-20℃)を0度,人間の体温を100度としたと覚えていたのだけれど,約数の多い96度にしていたらしい。これによって,当時のヨーロッパの気温がほぼ0度から100度に収まったということだ。今だと100度超えが続出する。

摂氏温度は,1742年にセルシウスが考案したが,当時は水の氷点が100度,沸点が0度で,今の逆だったらしい。これも気温がすべて正になるようにということで,昔の人はなんでそこにこだわったのだろうか。

そういえば,水銀体温計を使わなくなって久しい。使用後に水銀柱が下がらない工夫がしてあり,温度を下げるには温度計を振って元に戻す必要がある。そのため,ガラスが割れて水銀が散らばることもしばしばであった。

いまでは,水銀の環境規制が厳しくなって,もうすぐ蛍光灯の製造も中止されてしまうし,ゴミ出しの手続きもたいへんだ。大阪教育大の学生物理実験でガラスの毛管に水銀柱を入れる必要があり,ガラス管にゴム管をつけて水銀溜まりから口で吸いあげるという恐ろしい手技をしていたのが,ほんの40年前のことだ。もちろん学生にはさせられないので,助手=自分がやるのだった。それが何の実験だったのかは思い出せない。

P. S. 当時使っていた物理実験の教科書,吉田卯三郎(1887-1948)の六訂物理学実験でそれらしいものを探したところ,毛管の半径測定というのがあったけれど,やっぱり記憶が霞んでいる。



図:水銀体温計(常用小学生新聞から引用)

[1]水銀体温計(水銀通信 Vol. 177野村興産)

2025年4月20日日曜日

ダイヤモンド電池

昨年末に,ブリストル大学で,世界初のC14ダイヤモンド電池の開発に成功したというニュースが流されていた。4ヶ月かかってそれに巡り合った。

C14のベータ崩壊は半減期5730年で,平均のベータ線エネルギーは50eVである。これからC14 1g当たりの出力は,1.3 μW となる(ChatGPTで検算したがOK)。

問題は,C14をどうやって調達するかなのだが,減速材に黒鉛をつかう黒鉛炉の放射性廃棄物から抽出するとのことだ。その一種の黒鉛減速沸騰軽水冷却炉 は,爆発したチェルノブイリ原子力発電所で用いられていた。ChatGPTに尋ねると,C14は天然に1%程度含まれている安定同位体のC13と中性子の反応で生成されるが,C12からC13への中性子反応断面積はかなり小さい。




写真:ダイヤモンド電池の試作品(WIREDから引用)

2025年2月26日水曜日

初歩からの物理


午前9:00を過ぎたNHKでは国会中継が始まったので,BSの放送大学に切り替えたら,岸根順一郎(1967-)さんの「初歩からの物理」をやっていた。そのテロップに,この授業を共に担当している松井哲男(1953-2025)さんが1月5日にご逝去されたとあってビックリした。

松井さんは自分より1学年上だ。学会や研究会の同世代や少し上の学年というと,京大では国広悌二さんや巽敏隆さん,東大では岡真さんや星紀行さん,名大では松井哲男さんや乙藤岳志さんらをよく見かけて話をきいた。京大と名大のグループは当時流行のパイオン凝縮)の話題に集まっており,東大グループは核力とクォーク模型について研究を進めていた。いずれも原子核理論の中間エネルギーという分野の話だ。自分はベータ崩壊なので中間エネルギーにも届かないのだけれど。

京大グループの話はモデルとしてはわかりやすかったが(それでも怪しかった),名大グループのそれはあまりよく理解できなかった(物性物理の知識不足からか)。1980年の国際会議のときに記念写真をとって,その後海外に旅立つことになっていた松井さんから送られてきた。お礼の返事をすればよいものの,こしぎりならずいつものように不義理のため放置したままだった。よくないです。

松井さんは岐阜高だから水野義之(1953-)さんと同窓か。京大理学部から大学院で名大の安野愈さんの研究室に進む。1980年からアメリカに渡り,スタンフォード,LBL,MITを経て1993年に京大の基研,1999年から東大の駒場,2015年から放送大学でそれぞれ教授を勤めていた。

放送大学のチャンネルで拝見する限りはお元気そうだったのだけれど。合掌。


写真:放送大学「初歩からの物理」の松井さん(放送大学から引用)


P. S. 原子核理論では若くて亡くなる人が多かった。いやどの分野でもそんなものかもしれない。有馬研の星紀行さんも1980年代に亡くなっている。大坪先生がハイパー核での研究を期待していたのに残念だったと話していたかもしれない。京大で原子核の有効相互作用を研究していた安藤和彦さんと坂東弘治さん。RCNPの理論部にいた後輩の深山良徳君と名大から甲南大学にいった西岡英寿さんは1990年代半ば。最近だと大西明さんなどなど。


P. S. 池上彰が気持ち悪いのはマンスプレイニングだからだ。と誰かがYouTubeで話していたが,それはブラタモリにもいえる。大橋巨泉もそうだった。放送大学の物理などの時間もキッチリあてはまるのだ。自分のブログだってそうかも。いかんともしがたい・・・。みんな少しずつ気持ち悪い。


[2]Quest for the Quark-Gluon Plasma(2013, T. Matsui)

2025年2月11日火曜日

点変換

量子ホール効果のあらましを少しだけ勉強する必要があった。自宅にある本は岩波書店の新物理学選書「量子ホール効果」吉岡大二郎と岩波講座現代の物理学18「局在・量子ホール効果・密度波」だ。

さっそく,前者をひもとくと電磁場中の荷電粒子における並進演算子の生成演算子がでてきて,K=p-eA+eB×r とあった。わからない。どこからでてきた。普通は,解析力学ラグランジアンを書いてネーターの定理を当てはめるのだけれど,具体的にどうすればいいかわからない。

しかたがないので,岩波講座 現代の物理学1「力学」の第1章Lagrange形式から読み直す。ふむふむ。そして点変換のところでつまづいた。一般座標(q_1,...,q_n)から(q'_1,...,q'_n)の変換が,各点同士に一対一対応がある場合,つまり,q'_i(t)=q'_i(q_1(t),...,q_n(t)) (i=1,...,n) と書けて,A_ij = ∂q'_i(t)/∂q_j(t) という変換行列の行列式がゼロでなく有限になるという条件のあるときだ。

この点変換に対して,ラグランジアンが不変になるという話が必要であった。その導出過程に,∂p_j(t)/∂p'_i(t) = ∂q_j(t)/∂q'_i(t) という式が現われる(ただし,p(t) ≡ d/dt q(t) )。老人の頭はかたく,いろいろ調べても考えてもこれがわからない。四苦八苦したあげくAIにきいてみた。

あららなんと,正しい導出過程を教えてくれるではないか。推論できるChatGPT o1 だけでなく,GeminiやDeepSeek でもそれなりの答えが得られた。うーん,ついにAIは普通の人間の理解力を越えてきたかと感慨深いものがある。いやたんに自分が惚けてきただけか。

Q(koshix):
解析力学の一般論です。
q(t) = (q_1(t), … ,q_n(t)) であり,自由度nの系を扱っている。
以下,\dot{q}(t) = p(t) と表記し,q(t) p(t)などの(t)は省略する。
ラグランジアンLが点変換に対して不変であるとは,変換後のL'が次式を
L'(q',p',t) ≡L(q,p,t) で与えられることを意味する。
点変換であるため,δq'_i=Σ_j ∂q'_i/∂q_j δq_j などが成り立つ。

このとき,以下の関係式が成立することを導いてください。
∂L'(q',p',t)/∂p'_i = Σ_j ∂L(q,p,t)/∂p_j・∂p_j/∂p'_i = Σ_j ∂L(q,p,t)/∂p_j・∂q_j/∂q'_i

A(DeepSeek V3):
解析力学における点変換に対するラグランジアンの不変性から、以下の関係式を導出します。

前提条件
・ラグランジアンL(q,p,t) が点変換に対して不変である。
・点変換後のラグランジアンをL'(q',p',t)とし,L'(q',p',t)≡L(q,p,t)が成り立つ。
・点変換により,q'i=q'i(q,t)およびp'i=p'i(p,t)が定義される。
・点変換の性質から。δq'i=Σj∂q'i/∂q'jδqjが成り立つ。
目標
以下の関係式を導出する:
∂L'(q',p',t)/∂p'i = Σj ∂L(q,p,t)/∂pj・∂pj/∂p'i = Σj ∂L(q,p,t)/∂pj・∂qj/∂q'i
導出過程
1.ラグランジアンの不変性:
点変換に対してラグランジアンが不変であるため,次式が成り立つ:
L'(q',p',t) = L(q,p,t)
ここで,q'とp'はqとpの関数である。

2.偏微分の連鎖律:
L'をp'iで偏微分するために,連鎖律を適用する:
∂L'(q',p',t)/∂p'i = Σj(∂L(q,p,t)/∂qj・∂qj/∂p'i + ∂L(q,p,t)/∂pj・∂pj/∂p'i)
ここで,qjはp'iに依存しないため,∂qj/∂p'i=0となる。したがって,次式が得られる。
∂L'(q',p',t)/∂p'i = Σj ∂L(q,p,t)/∂pj・∂pj/∂p'i

3.点変換の性質を利用:
点変換の性質から,pjとp'iの関係は,qjとq'iの関係と対応する。具体的には,運動量pjは
一般加速度\dot{q}jに関連しており,点変換により\dot{q}'i=Σj∂q'i/∂qj \dot{q}j が成り立つ。
したがって,運動量の変換も同様の関係を持つ:
pj = Σi p'i ∂q'i/∂qj
これを逆に解くと、次式が得られる:
∂pj/∂p'i = ∂qj/∂q'i

4.最終的な関係式
上記の結果を代入すると,次式が得られる:
∂L'(q',p',t)/∂p'i = Σj ∂L(q,p,t)/∂pj・∂qj/∂q'i
5.結論
以上から、以下の関係式が成立する:
∂L'(q',p',t)/∂p'i = Σj∂L(q,p,t)/∂pj・∂pj/∂p'i = Σj ∂L(q,p,t)/∂pj・∂qj/∂q'i
P. S. これはR1ではなく,V3の結果である。問題自身がそんなにややこしいものではなく,常識的な論理の範囲ででてきたものだ。それが思いつかなかった自分がアホだったということ。一方,DeepSeek R1も別の問題で試してみたが,こちらはより時間をかけて推論が行われ,その過程の説明文が明示されている。

2025年2月10日月曜日

電磁場中の荷電粒子

 物理系の運動=状態変化が,時間を変数とする力学変数に対する微分方程式系で表される。適当な初期条件の下で,この微分方程式系を時間で順次積分することにより物理系の運動状態変化が求まる。これとは異なって,初期条件と終期条件が固定されたすべての仮想的に可能な(状態変化)経路の中から変分原理によって物理的に実現される経路が定まると考えることもできる。

この系の力学変数のある関数を,経路にわたって時間で積分した量を構成する。これを作用とよぶ。あらゆる仮想的な経路についての作用の集合の中から,実際に実現される物理系の(状態変化)経路を選び出す条件は,作用が停留値を取ることであると考える。

これが停留作用の原理(最小作用の原理)とよばれるものであり,力学変数の関数をラグランジアンとよんでいる。

力学変数を$\bm{q}(t) \equiv \{ q_i(t)\ (i=1,\ \dots n) \}$とし,経路は$\bm{q}(t) \ (t_0 \le t\le t_1) $である。また,始点と終点は,$\bm{q} (t_0) , \bm{q}(t_1) $で表される。

ラグランジアンを$L=L(\bm{q}(t), \dot{\bm{q}}(t), t)$とすると,作用$S$は,$\displaystyle  S[\bm{q}]= \int_{t_0}^{t_1}  L(\bm{q}(t), \dot{\bm{q}}(t), t) dt$ となる。これが停留値となって物理的に実現される経路を$\bm{q}(t)$として,停留作用の原理が成り立つ条件を表すと,

$\bm{q'}(t)=\bm{q}(t) + \delta\bm{q}(t), \ \dot{\bm{q'}}(t)=\dot{\bm{q}}(t) + \dfrac{d}{dt}\delta\bm{q}(t) \equiv \dot{\bm{q}}(t) + \delta\dot{\bm{q}}(t) $として,$\delta \bm{q}(t_0) = \delta \bm{q}(t_1)=0$ および,\\

$\displaystyle \delta S = S[\bm{q'}]-S[\bm{q}]= \int_{t_0}^{t_1} \Bigl\{ L(\bm{q'}(t), \dot{\bm{q'}}(t), t) - L(\bm{q}(t), \dot{\bm{q}}(t), t) \Bigr\} dt = 0$

これから,$ L(\bm{q}(t), \dot{\bm{q}}(t), t) \rightarrow L(\bm{u},\bm{v},t) = L$として,

$\displaystyle  \int_{t_0}^{t_1} \Bigl\{ \dfrac{\partial L}{\partial \bm{u} } \Bigr|_{\bm{u}=\bm{q}, \bm{v}=\dot{\bm{q}}} \delta \bm{q}(t) \ + \dfrac{\partial L}{\partial \bm{v} } \Bigr|_{\bm{u}=\bm{q}, \bm{v}=\dot{\bm{q}}} \delta\dot{\bm{q}}(t)  \Bigr\} dt $

$\displaystyle = \int_{t_0}^{t_1} \Bigl\{ \dfrac{\partial L}{\partial \bm{u} } \Bigr|_{\bm{u}=\bm{q}, \bm{v}=\dot{\bm{q}}} \delta \bm{q}(t) \ + \dfrac{d}{dt}\Bigl( \dfrac{\partial L}{\partial \bm{v} } \Bigr|_{\bm{u}=\bm{q}, \bm{v}=\dot{\bm{q}}} \delta{\bm{q}}(t) \Bigr)  - \dfrac{d}{dt}\Bigl( \dfrac{\partial L}{\partial \bm{v} } \Bigr|_{\bm{u}=\bm{q}, \bm{v}=\dot{\bm{q}}} \Bigr)\delta \bm{q}(t) \Bigr\} dt $

$\displaystyle = \int_{t_0}^{t_1} \Bigl\{ \dfrac{\partial L}{\partial \bm{u} } \Bigr|_{\bm{u}=\bm{q}, \bm{v}=\dot{\bm{q}}} - \dfrac{d}{dt}\Bigl( \dfrac{\partial L}{\partial \bm{v} } \Bigr|_{\bm{u}=\bm{q}, \bm{v}=\dot{\bm{q}}} \Bigr) \Bigl\} \delta \bm{q}(t) dt + \Bigl[ \dfrac{\partial L}{\partial \bm{v} } \Bigr|_{\bm{u}=\bm{q}, \bm{v}=\dot{\bm{q}}} \delta \bm{q}(t) \Bigr]_{t=t_0}^{t=t_1} = 0$

第3項は0であり,任意の$\delta \bm{q}(t)$ についてこの式が成り立つためには

$\dfrac{\partial L(\bm{u}, \bm{v}, t)}{\partial \bm{u} } \Bigr|_{\bm{u}=\bm{q}, \bm{v}=\dot{\bm{q}}} - \dfrac{d}{dt}\Bigl( \dfrac{\partial L(\bm{u}, \bm{v}, t)}{\partial \bm{v} } \Bigr|_{\bm{u}=\bm{q}, \bm{v}=\dot{\bm{q}}} \Bigr) = 0$ あるいは,$\displaystyle \dfrac{\partial L}{\partial q_i} - \dfrac{d}{dt} \dfrac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} = 0 \ (i=1,\dots n)$

このn本の連立微分方程式を オイラー・ラグランジュの方程式という。

ある物理系に対して同じラグランジアンや作用は一意的に定まらない。例えば,

$ L(\bm{q}, \dot{\bm{q}}),t )  \rightarrow L' (\bm{q}, \dot{\bm{q}}),t )= L (\bm{q}, \dot{\bm{q}}),t ) + \dfrac{d}{dt} W(\bm{q},t)$ とすれば,作用には $\displaystyle \int_{t_0}^{t_1} \dfrac{d}{dt} W(\bm{q},t) dt = W(\bm{q}(t_1), t_1) - W(\bm{q}(t_0),t_0)$の項が付け加わるが,停留値の計算には影響しないので,同じ,オイラー・ラグランジュの方程式を与える。

電磁場中の荷電粒子,$\bm{r}=\{q_i i=1,2,3 \} $,電荷 $q$)が,スカラーポテンシャル$\phi(\bm{r}),t$,ベクトルポテンシャル$\bm{A}(\bm{r},t)$中を運動する場合,ラグランジアンは$L(\bm{r},\dot{\bm{r}},t) = \dfrac{m}{2} \dot{\bm{r}}^2 - q \phi(\bm{r},t) +q \dot{\bm{r}} \cdot  \bm{A}(\bm{r},t)$となる。

オイラー・ラグランジュの方程式は,

$\displaystyle 0 = \dfrac{\partial L}{\partial \bm{r}} -\dfrac{d}{dt} \dfrac{\partial L}{\partial \dot{\bm{r}}} = -q \dfrac{\partial \phi(\bm{r},t)}{\partial \bm{r}} +q \dot{\bm{r}}\cdot \dfrac{\partial \bm{A}(\bm{r},t)}{\partial \bm{r}} -\dfrac{d}{dt}\Bigl( m \dot{\bm{r}} + q \bm{A}(\bm{r},t) \Bigr)$

$\displaystyle 0=-m \ddot{\bm{r}} -q \Bigl( \dfrac{\partial \phi(\bm{r},t)}{\partial \bm{r}} +\dfrac{\partial \bm{A}(\bm{r},t)}{\partial t}  \Bigr) + q \Bigl( \dot{\bm{r}}\cdot \dfrac{\partial \bm{A}(\bm{r},t)}{\partial \bm{r}} - \dfrac{\partial \bm{A}(\bm{r},t)}{\partial \bm{r}} \cdot \dot{\bm{r}} \Bigr)$

つまり,$m \ddot{\bm{r}} = q \bm{E}(\bm{r},t) + q \dot{\bm{r}} \times \bm{B}(\bm{r},t)$

ここで,$\bm{E} (\bm{r},t) =  -\nabla \phi(\bm{r},t) -\dfrac{\partial \bm{A}(\bm{r},t)}{\partial t} $

 および,$\bm{B} (\bm{r},t) = \sum_{ij} \varepsilon_{ijk} \bigl( \nabla_i A_j - \nabla_j A_i \bigr) = \nabla \times \bm{A}(\bm{r},t)$

2025年1月19日日曜日

国際量子科学技術年

2025年は,ユネスコが定めた国際量子科学技術年(IYQ 2025)である。

100年前の1925年7月29日に,ヴェルナー・ハイゼンベルク(1901-1976)が Zeitschrift fur Physik 33 (1) 879-893 に次の量子力学の第一論文を発表した。
Uber quantentheoretische Umdeutung kinematischer und mechaniseher Beziehungen.
Von W. Heisenberg in Gottingen. (Eingegangen am 29. Juli 1925.)

In der Arbeit soll versucht werden, Grundlagen zu gewinnen fur eine quantentheoretische Mechanik, die ausschliellich auf Beziehungen-zwischen prinzipiell beobachtbaren Grossen basiert ist.

運動学的・力学的関係の量子論的再解釈について
W. ハイゼンベルグ   ゲッチンゲンに於て  (1925年7月29日受領)
この著作では、主として観測可能な量間の関係のみに基づく量子論的力学の基礎を得るための試みがなされている。
これが量子力学の全ての始まりだった。そして今年はこれから100年目の記念年になる。数年前から授業で予告していた年がとうとうやってきた。理科年表創刊100年,東京放送局ラジオ放送開始100年,治安維持法公布100年,普通選挙法(25歳以上の男子)公布100年,東大安田講堂竣工100年,山手線環状運転100年,ナチス親衛隊設立100年,大日本相撲協会設立100年などなど。


図:YQT2005のロゴ(ユネスコから引用)

日本物理学会誌によれば,さらにJPS Anniversary Years 2025-2027 の開幕だとのこと,2025年のIQY 2025に加えて,2026年は日本物理学会創立80周年,2027年は東京数学会社(日本数学物理学会)の設立150周年だとのことだ。

[1]Quantum Archive (Physics Today)
[2]Q-Portal(理化学研究所)
[3]量子力学2025(現代化学 2025年1月号)
[4]国際量子科学技術年に寄せて(国立科学博物館)
[5]量子技術イノベーション(内閣府)

2024年12月18日水曜日

交代磁性体

スーパーフレアからの続き

テレビや新聞のニュースの時間に取上げられる科学や技術のトピックスは,よくよく注意する必要がある。素直に聞いていると,ものすごいブレークスルーやイノベーションが到来していて未来はバラ色だという印象を持ってしまうのだ。多くの場合は,プレスリリースする側が話を盛っていて(まあ将来の展望部分はそうならざるを得ないのだけれど)落ち着いて判断する必要がある。

スーパーフレアや破局的噴火や地球温暖化など危機を煽る場合も同様だ。いずれにしても本当の専門家でないとなかなか正当な判断ができない。困ったなあ。これじゃとてもじゃないけどフェイクニュースに対応できない。科学解説の人がフォローしてくれればよいのだが,その成れの果ては池上彰だからなあ。

スーパーフレアの話題があった朝のNHKニュースでは,東大工学部の関真一郎東大物性研究所の高木里奈グループの交代磁性体が取上げられていた。いわく,
交代磁性体は、従来利用されてきた強磁性体と異なり、①ビット間干渉の原因となる漏れ磁場が存在しないため素子の集積化に有利、②応答速度が100倍以上高速、③磁気的な外乱に対する耐性が高い、といった特徴を持ち、次世代の超高密度・超高速な情報媒体としての活用が期待されます。(東大工学部プレスリリースから引用,なお,常温で動作することも重要なポイント)
図:交代磁性体とは(東大工学部プレスリリースから引用)


こういう場合は,Perplexity Pro にたよればよい・・・かな?
Q(koshix):
反平行なスピン配列と、特殊な対称性の原子配列を併せ持つ、交代磁性体(Altermagnet)が,室温で情報の読み書きが高速で可能になると聞きましたが,その原理について,理系の大学生にわかるように説明してください。

A(Perplexity Pro):
(回答略)

Q(koshix):
「交代磁性体の特殊な構造により、↑↓と↓↑のスピン状態の下で運動する電子が、量子力学的な機構を通じてそれぞれ逆符号の大きな仮想磁場を感じます。」の部分を量子力学を学んでいる学生向けに詳しく説明してください。仮想磁場の意味もわかりません。

A(Perplexity Pro):
交代磁性体における仮想磁場の発生は、量子力学的な効果に基づいた興味深い現象です。以下に、この現象をより詳しく説明します。

1.仮想磁場の概念
仮想磁場とは、実際の磁場が存在しないにもかかわらず、電子が感じる磁場のような効果のことを指します。この場合、電子の運動に影響を与える何らかの力が存在し、その効果が磁場と同様の振る舞いを示すことから「仮想的」と呼ばれます。

2.交代磁性体における仮想磁場の発生メカニズム
(1) ベリー位相と幾何学的位相
交代磁性体における仮想磁場の発生は、量子力学的な概念である「ベリー位相」または「幾何学的位相」と密接に関連しています。ベリー位相は、量子系のパラメータが断熱的に変化する際に波動関数が獲得する位相のことです。
(2) スピン-軌道相互作用
交代磁性体の特殊な結晶構造とスピン配列により、電子の運動に伴って強い
スピン-軌道相互作用が生じます。このスピン-軌道相互作用により、電子の運動に依存したベリー位相が発生します。
(3) 運動量空間での曲率
電子の波動関数は、運動量空間において特定の曲率を持つことになります。この曲率は、実空間での磁場と同様の効果をもたらし、電子の運動に影響を与えます。

3.↑↓と↓↑のスピン状態による逆符号の仮想磁場
交代磁性体の↑↓と↓↑のスピン状態では、以下のメカニズムにより逆符号の仮想磁場が生じます:
(1) 時間反転対称性の破れ: ↑↓と↓↑の状態は時間反転操作で互いに移り変わります。この時間反転対称性の破れが、逆符号の効果をもたらします。
(2) 運動量空間での曲率の反転: スピン状態が反転すると、運動量空間での波動関数の曲率も反転します。これにより、仮想磁場の向きが逆転します。
(3) スピン-軌道結合の符号変化: スピン配列の反転に伴い、スピン-軌道相互作用の符号も変化します。これが仮想磁場の符号反転につながります。

4.仮想磁場の観測
この仮想磁場の効果は、ホール効果として観測することができます。↑↓と↓↑のスピン状態で、電流に垂直な方向に逆符号の起電力が生じます。これは、実際の磁場がなくても、強磁性体におけるホール効果と同様の現象が起こることを意味します。

5.量子力学的な解釈
量子力学的には、この現象は以下のように解釈できます:
(1) 電子の波動関数は、スピン状態と結晶構造に依存した位相因子を含みます。
(2) この位相因子が、電子の運動に対して追加的な位相変化をもたらします。
(3) 位相変化は、実効的なベクトルポテンシャルとして作用し、これが仮想磁場を生成します。
この仮想磁場の概念は、トポロジカル絶縁体量子ホール効果などの現代的な凝縮系物理学の理解にも重要な役割を果たしています。

物理としては非常に面白い話だと思う。その技術的応用についての定量的な評価に関する説明がほしかった。 

2024年12月3日火曜日

物理AI基盤モデル

AI Feynman(4)からの続き

世の中のあらゆる“未知の物理現象”を予測できるAI」というおどろおどろしいタイトルの記事がITメディアに掲載されていた。えええっ,これはなんだ。

ということで,原論文「A Phenomenological AI Foundation Model for Physical Signals」を読んでみた・・・というか,NotebookLMに読ませてみた(^_^;;;)。いろいろ質問したところ,こんなことかなというのがわかってきた。と思ったけど,読解力が不足していた。これは,生成AIに頼りすぎて読み解く力が衰えてきたためだ。知能のフレイル現象

Q(koshix):
論文の内容を以下のようにまとめましたが,不正確な部分を修正してください。

「ある特定の物理現象の解析にAIを用いることはよく行われている。今年のノーベル化学賞のタンパク質構造予測もその一例だろう。太陽系外惑星の探索に深層学習を利用する場合のように,大量のデータから特徴をつかみ出すことができる。あるいは大量のデータの中に潜む法則性=方程式を導くこと,さらには方程式を経由せずにデータから直接別のデータを予測することなどなどがある。

今回の論文では,複数の物理現象にまたがって,背景となる物理法則を与えずに,AIによって新しい予測を可能にするというものだ。その結果,単独の現象だけでAI予測をする場合よりも精度が上がる場合があるというのだ。たぶん,複数の減少をまたぐことで,物理法則による制限がインプリシットに含まれているのではないかと思われる。

5.1億個のデータを分析しているというが,何種類の実験を対象にしているのかが必ずしもはっきりしなかった。論文で例示されていたのは,減衰調和振動子でカオス的な振舞いをするもの,電流エネルギーの熱エネルギーへの転化やその逆過程,都市や国レベルの電力消費や気象データなど,複数種類のセンサーの測定値の時系列の関係を表現するものだ。

測定値の時系列データは適当な時間幅に区切られて数値化し,それらの生成順序を含めたデータにすることで,大規模言語モデルのトークンのように扱うことができる。とNotebookLMは説明してくれた。なるほどもっともらしい話だ。あとは通常のLLMの手法が使えるということか。」

A(NotebookLM):
ご指摘いただいた論文内容のまとめについて、ソースに基づいて修正点を以下に示します。

(1)物理法則を用いないAI予測:論文で提案されているAIモデルは、複数の物理現象にまたがるというよりも、物理法則に関する事前知識や帰納的バイアスを導入せずに、様々な物理現象を扱うことができる点が新しいです。このモデルは、単一の現象に特化したAI予測よりも精度が向上する場合があることが示されています。これは、多様な物理データで学習することで、物理法則による制約が暗黙的にモデルに組み込まれているためと考えられます。

(2)データ分析の対象:論文では、5.1億個のデータを用いてAIモデルを学習させています。このデータは、41種類の公開データセットから収集されており、河川流量、太陽光発電量、降水量、太陽活動など、様々な現象、物理量、センサーが含まれています。論文では、減衰調和振動子、熱電変換、都市や国レベルの電力消費、気象データなどを例として挙げて、モデルの性能を検証しています。

(3)時系列データの扱い:論文では、測定値の時系列データを一定の時間幅で区切り、数値化し、生成順序を含めたデータとして扱っています。これは、大規模言語モデルのトークンと同様に扱うことができるとのことですが、この記述はソースには見当たりません。NotebookLMの説明とのことですが、ソースの情報からは、このモデルが通常のLLMの手法と全く同じであるとは断言できません。

(4)モデルの構造:論文で提案されているモデルは、センサーデータを入力として、それを時系列の1次元パッチに分割し、Transformerベースのエンコーダネットワークを用いて共通の埋め込み空間に射影します。このエンコーダは、多様なセンサーデータで学習することで、特定のセンサーの種類に依存しない、様々な物理現象の根底にある時間的パターンを効果的に学習します。その結果得られるコンパクトな表現は、現象論的デコーダと組み合わせて、軌跡予測や再構成などのタスクに使用されます。

重要なポイント
・論文では、物理法則を明示的に与えることなく、多様な物理データから学習することで、様々な物理現象を予測できるAIモデルを提案しています。
・モデルは、ゼロショット学習が可能であり、学習データに含まれていない現象に対しても予測を行うことができます。
・論文では、このモデルが、大規模言語モデルと類似した能力を持っている可能性を示唆しています。
ご指摘いただいた内容とソースを比較検討することで、論文への理解が深まることを期待します。



図:物理AI基盤モデルの概念(A Phenomenological AI Foundation Model for Physical Signals から引用)

[3]AI for Science とデータ駆動科学(五十嵐康彦・竹中光・永田賢二・岡田真人)
[4]人工知能の弱点を補う物理学(高安秀樹)
[5]物理法則を組み込んだ深層学習(雪島正敏・清水浩之)

2024年11月9日土曜日

シンバル

NHKの探検ファクトリーはとても興味深い番組だ。バラエティー生活小百科の後番組で,定時の土曜日お昼時だけでなく再放送でもよくみかける。今日は大阪市平野区のシンバル工場だった。

小出製作所は,金属のヘラ絞り加工を専業とする10人ほどの小企業だが,従業員からの提案で,20年ほど前からシンバルの製造を行っている(シンバル部門は社長を含めて4名だけ)。日本でただ一つのシンバル製造メーカーで,小出シンバルのブランドで有名なのだった。

番組では,製造工程をていねいに紹介していた。気になったのは,同じ直径のシンバルでは,重いほうが音が高いというところだ。弦の固有振動の場合は,振動数は張力を線密度で割ったものの平方根に比例する。つまり重い弦の方が振動数は低くなるわけだ。円盤の振動では,そうなっていない。これは重いシンバルのほうが,その曲げ剛性が大きくなるからのようだ。たぶん。



写真:小出のクラシックシンバル(Amazonストアから引用,10万5千円)

2024年11月8日金曜日

火星19

弾道ミサイルの軌道(5)からの続き

ロイターが伝えた朝鮮中央通信のニュースによれば,10月31日に発射したのは大陸間弾道ミサイル「火星19」だとのこと。ICBMの最終完結形態で世界最強のミサイルをうたっている。知らんけど。飛行距離は1001.2km,飛行時間は5156秒,最高高度は7687.5km だ。

無意味なアラートを出すよりも,こういった基本的な情報がほしいところだ。しかし,防衛省が韓国軍や米軍からこれらの情報を入手してもことさらにマスコミに流す必要はないと考えているのだろう。日本政府にしてみれば,アラートを出すだけで危機意識の醸成という目的は達成される。

2年前の「火星17」については,同じロフテッド軌道で,飛行距離 999.2 km ,飛行時間 4135 秒,最高高度 6040.9 km だった。これに比べると,今回は飛行時間が1000秒伸びて,最高高度も1600kmほど高くなっている。

そこで,忘れかけていたMathematicaのコードを引っ張り出して再計算してみた。目の子でパラメータサーチをした。単純なモデルなので,そんなにピッタリ再現できるわけではないが,ほぼほぼ雰囲気は得られる。飛行時間を5156秒=86分あたりに固定すると,最高高度は170kmほど高くなって7850km(+2.1%)になってしまう。最高高度を7600km台にするためには,飛行時間を2分ほど減らして84分にする(-2.3%)必要がある。燃焼時加速度a,燃焼時間τ,燃料重量比pなどを変えても,飛行時間で制約がかかる範囲では,飛行高度を再現するには至らなかった。

これらのパラメタのままで,投射角度だけを45度にすれば(飛行時間Tは,地表に到達する点で調整する),大円到達距離は16500kmを越えてくる。

g = 0.0098; R = 6350; τ = 90.8; p = 0.75; a = 0.045; s = 86.7 Degree; T = 5160;
g = 0.0098; R = 6350; τ = 90.8; p = 0.75; a = 0.045; s = 45 Degree; T = 7050; 
(* g=0.0098; R=6350; τ=90.4; p=0.75; a=0.045;s=86.7Degree;T=5160-120; *)
(* g=0.0098; R=6350; τ=90.4; p=0.75; a=0.045;s=45 Degree;T=6850; *)

fr[t_, τ_] := a*Sin[s]*HeavisideTheta[τ - t]
ft[t_, τ_] := a*Cos[s]*r[t]*HeavisideTheta[τ - t]
fm[t_, τ_] := -p/(τ - p*t)*HeavisideTheta[τ - t]
sol = NDSolve[{r''[t] == -fm[t, τ]*r'[t] + h[t]^2/r[t]^3 - g R^2/r[t]^2 + fr[t, τ], 
r[0] == R, r'[0] == 0,  h'[t] == -fm[t, τ]*h[t] + ft[t, τ], h[0] == 0}, {r,  h}, {t, 0, T}]
f[t_] := r[t] /. sol[[1, 1]]
d[t_] := h[t] /. sol[[1, 2]]
Plot[{6350, f[t]}, {t, 0, T}]
Plot[{f[t + 1] - f[t], d[t]*R/f[t]^2, d[t]/f[t]}, {t, 0, T}, 
 PlotRange -> {-8, 8}]

{f[T/2] - 6350, tyx[T], v[T]/0.340}
→ {7851.42, {5160, -46.3658, 1007.58}, 24.5585}
g0 = ParametricPlot[{NIntegrate[R d[t]/f[t]^2 , {t, 0, tt}], f[tt] - R}, {tt, 0, T}]
→ {8231.43, {7050, 121.626, 16657.9}, 25.6423}
g9 = ParametricPlot[{NIntegrate[R d[t]/f[t]^2 , {t, 0, tt}], f[tt] - R}, {tt, 0, T}]



図:北朝鮮のミサイルの軌道(ロイター記事から引用)

2024年10月9日水曜日

ニューラルネットワーク

今年のノーベル物理学賞は,今日のAIブームの基盤となる人工ニューラルネットワークの基礎理論に与えられた。中継を見ていると,最初に委員長からスウェーデン語と英語の両方で発表があって,簡単な業績紹介。その後,ヒントン(バックプロパゲーション!)とのライブでのやりとりや質疑応答などがあった。

ホップフィールドは物理学者だし,ホップフィールドネットワークはイジングモデルとも関係づけられているので,物理らしい。一方,ヒントンは心理学者として出発したコンピュータ科学者なので,これは物理か?というところだ。今のところ物理屋さんたちもほとんど両手で賛成しているようだ。情報が宇宙や物性や素粒子と並ぶ物理学の一分野であるという共通認識が確立する第一歩ということか。

Q(koshix):
ホップフィールドネットワークとボルツマンマシンについて,ニューラルネットワーク全体の中でそれぞれがどのように位置づけられて,その後の発展にどういう影響を与えたかを,なるべく分かりやすく具体的に説明してください

A(Perplexity Pro):
ホップフィールドネットワークとボルツマンマシンは、ニューラルネットワークの発展において重要な役割を果たした2つのモデルです。それぞれの位置づけと影響について説明します。

ホップフィールドネットワーク
ホップフィールドネットワークは、1982年にジョン・ホップフィールド(1933-)によって提案された再帰型ニューラルネットワークの一種です。
特徴と位置づけ
・単一層のニューロンで構成され、各ニューロンが他のすべてのニューロンと双方向に結合しています。
・連想記憶として機能し、不完全または雑音のある入力からパターンを復元できます。
・エネルギー関数の最小化によってパターンを想起します。

影響と発展
1.記憶容量の向上:研究者たちは、ホップフィールドネットワークの記憶容量を向上させる方法を探求しました。例えば、ニューロン間の複雑な接続を導入することで、従来のモデルの2倍以上の記憶容量を実現しました。
2.最適化問題への応用:ホップフィールドネットワークは、組み合わせ最適化問題の解決にも応用されました。
3.深層学習への影響:現代の言語モデル(ChatGPTなど)の基盤となるTransformerネットワークは、ホップフィールドネットワークと類似した構造を持っています。
4.脳機能のモデル化:記憶や認知プロセスの研究に応用され、神経科学の発展に寄与しました。

ボルツマンマシン
ボルツマンマシンは、1985年にジェフリー・ヒントン(1947-)らによって提案された確率的ニューラルネットワークモデルです。

特徴と位置づけ
・対称的に結合されたニューロン様ユニットで構成され、確率的に on/off を決定します。
・二値データセットから興味深い特徴を発見する能力を持ちます。
・学習アルゴリズムは単純ですが、多層構造では非常に遅くなる傾向があります。

影響と発展
1.制限ボルツマンマシン (RBM):ボルツマンマシンを簡略化した RBM は、深層信念ネットワーク (DBN) の基本構成要素となりました。
2.深層学習の前駆:RBM は、深層ニューラルネットワークの事前学習に使用され、深層学習ブームの先駆けとなりました。
3.生成モデルへの貢献:ボルツマンマシンの考え方は、変分オートエンコーダ (VAE) や生成敵対的ネットワーク (GAN) などの現代の生成モデルの発展に影響を与えました。
4.確率的モデリング:機械学習における確率的アプローチの重要性を示し、後の研究に影響を与えました。
5.教師あり学習への応用:教師あり RBM は、分類タスクのための興味深い分布設定を提供しました。

これらのモデルは、ニューラルネットワークの理論的基礎を築き、現代の深層学習技術の発展に大きく貢献しました。ホップフィールドネットワークは主に連想記憶と最適化問題に、ボルツマンマシンは特徴学習と生成モデリングに影響を与え、両者ともに現代のAI技術の礎となっています。



図:これがAIの持つニューラルネットのイメージなのか(DALL-E3より)

[1]Hopfield Network(Scholarpedia)
[2]Boltzmann Machine (Scholarpedia)

2024年9月24日火曜日

知性の物理学

茂木健一郎のPIVOTチャンネルが,「生成AIを丸裸にする知性の物理学」というタイトルで,ハーバード大学脳科学センターで知性の物理学プログラムを主催している田中秀宣さんを招いて対談をしていた。とても刺激的で良かったのだけれど,今一つ具体性にかけて空振りが続く試合だった。そういえば,東大理学部物理にも統計力学の樺島祥介さんが主催する「知の物理学研究センター」というのがあったね。
Q(koshix):
知性の物理学 Physics of Intelligence について教えてください。
専門用語を避けずに説明して見てください。多角的な視点はOKです。

A(Gemini 1.5 PRO)
知性の物理学:専門用語を交えた多角的な解説
「知性の物理学」とは、従来、哲学や心理学の領域であった「知性」を、物理学の厳密な枠組みで理解しようとする学際的な研究分野です。近年、人工知能の発展や脳科学の進歩を背景に、急速に注目を集めています。

1.知性の物理学の目的
知性の本質の解明:知性を、単なる情報処理ではなく、物理的な現象として捉え、その本質を明らかにすることを目指します。
人工知能の限界と可能性:人工知能のさらなる発展のために、人間の知性の仕組みを解明し、それを模倣する技術開発を目指します。
脳科学との連携:脳イメージング技術などの進歩を活かし、脳内の情報処理メカニズムと知性の関係を解明します。

2.知性の物理学における主要なアプローチ
神経回路網の物理モデル:脳の神経回路網を、物理学のモデルを用いて記述し、学習や記憶といった高次脳機能をシミュレーションします。
情報熱力学:情報処理とエネルギー消費の関係を、熱力学の法則に基づいて考察し、知性の効率的な実現を目指します。
量子脳理論:量子力学的な現象が、意識や創造性といった高次の認知機能に関わっている可能性を探求します。

3.知性の物理学が扱う概念
複雑系:脳は、多数の要素が複雑に相互作用する複雑系であり、そのダイナミクスを理解することは大きな課題です。
エマージェント現象:個々の要素の性質だけでは説明できない、全体として現れる新たな性質を指します。知性は、脳の複雑系からエマージェントに現れる現象と考えられます。
計算論的神経科学:脳の情報処理を、計算論的な視点から解析し、神経回路網の機能をモデル化します。

4.知性の物理学が抱える課題
意識の問題:意識の起源や本質は、哲学、神経科学、物理学など、様々な分野で議論されている難問です。
測定の問題:脳の活動を直接観測することは困難であり、間接的な方法を用いる必要があります。
モデルの複雑性:脳の機能を完全に再現できるようなモデルを構築することは、非常に困難です。

5.知性の物理学の将来展望
汎用人工知能の実現:人間の知能に匹敵する、あるいはそれを超える人工知能の開発が期待されます。
脳疾患の治療:脳のメカニズムの解明は、アルツハイマー病や統合失調症などの脳疾患の治療法開発につながる可能性があります。
人間理解の深化:知性の物理学は、人間がどのように思考し、学習し、創造性を発揮するのかをより深く理解するための新たな視点を提供します。

6.より専門的な用語
相転移:物質の状態が、ある特定の条件下で急激に変化する現象。脳の学習過程における相転移が注目されています。
自由エネルギー原理:脳が、外界の情報と内部モデルとの間の不一致を最小化するように機能するという仮説。
結合係数:神経回路網において、ニューロン間の接続の強さを表すパラメータ。学習によって変化します。

知性の物理学は、物理学、脳科学、コンピュータサイエンスなど、多岐にわたる分野の研究者が集結し、共同で研究を進めている最先端の学問分野です。
この分野の研究は、人間の知性の謎を解き明かすだけでなく、人類の未来を大きく変える可能性を秘めています。 

図:知性の物理学のイメージ(Imagen3に拒否られ,DALL-E3に描かせたもの)


結局なんだかよくわからないのであった。神経網が生成する人間の知性と,ニューラルネットが生成するAIを同じ土俵の上に上げて,後者は単に設計された機械(もしくはソフトウェア)ではなくて,物理的な現象としての創発過程として理解しようという話だ。というのも,生成AIがこのようにうまく機能している状態がそもそもよく理解できていないからである。とにかく計算リソースをつぎこんで適当にダイヤルを回しているうちに動いてしまったようなこと。

その上で,これを知性の物理学というからには,知性とは何かを定量的に捉えて,測定可能な量を用いて定義する必要があるのだけれども,そのあたりは十分説明されていない。すなわち何らかの主導原理的なストーリーがなくて,あるいは鍵となる仮説や実験事実の背景がないままに,妖しいキーワードとしての,脳科学,量子脳理論,複雑系が多用されるのはちょっとかんべんしてほしいかなあ。

あと,ハーバードやMITが西海岸と違って,より理学部的にアプローチしているという話はわからなくもなかったが,医学・生理学とのつながりを重視する方向に傾きすぎているのではないかという気もした。いや,もちろんそちら側に正解があるのかもしれないけれど,どうなのだろうか。



2024年5月19日日曜日

電子イオンコライダー

放射光施設からの続き

5月15日のニュースで,日本が,米国の次期原子核大型実験計画であるEIC(Electron Ion Collider)に参画すると発表されていた。ブルックヘブン国立研究所の全周3.8km,100GeV/nucleonの重イオンコライダー(RHIC)を改造するもので,2026年に建設開始2032年運転開始予定だ。2600億円〜4300億円の建設費のうち,測定装置の一部をつくるようだ。

電子イオンコライダーは,重心系のエネルギーで20〜141GeVの電子と原子核の衝突型加速器である。電子,陽子,重陽子,ヘリウム3は80%の偏極が可能だ。加速できるイオンは陽子からウラニウムまで。

物理としては,ハドロンのクォークグルーオン構造を明らかにするというものだ。核子の質量やスピンが何に由来するか,クォークグルーオンパートン分布関数を精密に決めるなど。日本側の推進機関は,山形大や理研で,神戸大,日大,KEKが協力機関となる。

核子のスピン構造といえば若松さんが40年前から取り組んでいた。一般受けするトピックにはやや遠いような気もするが,アメリカから強く要求されたので,予算がつくということなのかな。


図:EICの概念図(BNLのEICサイトから引用)

ChatGPT-4oはわかりやすい回答を与えてくれる。
Q(koshix):
 ブルックヘブン国立研究所で計画されているEICは,どんな粒子をどの程度のエネルギーで衝突させる加速器ですか。またその目的はなんですか。

A(ChatGPT):
 ブルックヘブン国立研究所(Brookhaven National Laboratory, BNL)で計画されている電子イオンコライダー(Electron-Ion Collider, EIC)は、電子と重イオンを衝突させる次世代の加速器です。以下はEICの主な特徴と目的です。

粒子とエネルギー
1.衝突する粒子:
・電子
・重イオン(例:金イオン、鉛イオンなど)
2.エネルギー:
・電子ビームのエネルギー:約10〜18 GeV(ギガ電子ボルト)
・重イオンビームのエネルギー:約40〜275 GeV

目的
EICの主な目的は、物質の最も基本的な構成要素であるクォークとグルーオン(これらがハドロンを構成する)の相互作用を理解することです。具体的には以下の点が挙げられます。
1.核子の内部構造の解明
 クォークとグルーオンがどのように核子(陽子や中性子)の内部に配置され、どのように運動しているかを明らかにする。
2.核子の質量とスピンの起源の解明
 核子の質量やスピンがどのようにして生成されるのか、特にクォークやグルーオンの寄与を詳しく調べる。
3.強い相互作用の研究
 強い相互作用(量子色力学, QCD)がクォークとグルーオンの間でどのように作用し、ハドロンを形成するのかを研究する。
4.ハドロン物理学の進展
 ハドロンの性質や相互作用に関する新しい知見を提供し、ハドロン物理学の理解を深める。

EICは、既存の加速器では解明が難しい細部まで明らかにすることを目指しており、素粒子物理学および原子核物理学の分野において重要なブレークスルーをもたらすと期待されています。

[1]Electron Ion Collider の物理(後藤雄二,2021)
[2]The Electron Ion Collider(Brookhaven National Laboratry)

2024年5月17日金曜日

放射光施設

先日の日経新聞朝刊,東北大学の放射光施設 NanoTerasu が4月から運用開始したことに寄せて特集記事にしていた。KEKのフォトンファクトリーとSpring-8しか記憶になかったのに,いつの間にか全国10箇所に放射光施設ができていた。日経では,貧乏な日本ではビッグサイエンスはもう無理だから,乏しい予算で選択と集中をやれという,これまでの反省をまったく活かせない別シリーズ記事も出ていたが,放射光施設程度ならば可能らしい。

日本放射光学会には,国内放射光施設へのリンクがある。これを整理すると次のとおり。なお,X線自由電子レーザ施設 SACLA も加えると11箇所である。

1.SPring-8
場所: 兵庫県佐用郡佐用町
運営機関: 理化学研究所、高輝度光科学研究センター (JASRI)
建造年: 1997年,周長: 1436 m,最大エネルギー: 8 GeV,ビームラインポート: 62

2.SACLA(XFEL:X線自由電子レーザー施設)
場所: 兵庫県佐用郡佐用町
運営機関: 放射光科学研究センター(理化学研究所)
建造年: 2011年,全長: 700 m,最大エネルギー: 800 MeV/8.5GeV,ビームラインポート: 6

3.Photon Factory (PF Ring)
場所: 茨城県つくば市
運営機関: 高エネルギー加速器研究機構 (KEK)
建造年: 1982年,周長: 187 m,最大エネルギー: 2.5 GeV,ビームラインポート: 39

場所: 茨城県つくば市
運営機関: 高エネルギー加速器研究機構 (KEK)
建造年: 1987年,周長: 377 m,最大エネルギー: 6.5 GeV,ビームラインポート:8

場所: 宮城県仙台市
運営機関: 東北大学
建造年: 2024年,周長: 349 m,最大エネルギー: 3 GeV,ビームラインポート: 28

場所: 兵庫県上郡町
運営機関: 兵庫県立大学
建造年: 1999年,周長: 119 m,最大エネルギー: 1.5 GeV,ビームラインポート: 14

場所: 佐賀県鳥栖市
運営機関: 佐賀県産業振興機構
建造年: 2006年,周長: 76 m,最大エネルギー: 1.4 GeV,ビームラインポート: 10

場所: 愛知県瀬戸市
運営機関: 公益財団法人科学技術交流財団
建造年: 2013年,周長: 72 m,最大エネルギー: 1.2 GeV,ビームラインポート: 16

場所: 愛知県岡崎市
運営機関: 分子科学研究所 (IMS)
建造年: 1983年,周長: 53 m,最大エネルギー: 750 MeV,ビームラインポート: 15

場所: 広島県広島市
運営機関: 広島大学
建造年: 1997年,周長: 22 m,最大エネルギー: 700 MeV,ビームラインポート: 15

場所: 滋賀県草津市
運営機関: 立命館大学
建造年: 1996年,周長: 3.14 m,最大エネルギー: 575 MeV,ビームラインポート: 14


写真:東北大学NanoTerasuのイメージ(NanoTerasuから引用)

東北大学といえば核理研があった。1966年に設置された東北大学理学部附属原子核理学研究施設だ。300MeVの電子リニアックがあって,原子核の電子散乱の実験をしていたはず。あの水野義之さんが関係していた。1995年に1.2GeVのブースターリングを作った頃から縁遠くなってしまった。現在は,先端量子ビーム科学研究センター電子光理学研究部門に改組されている。その伝統の上にNanoRerasuがある。