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2024年8月23日金曜日

異世界転生

ホリエモンのYouTubeは見ないようにしているのだけれど,たまたま目に付いた千葉工業大のロボットの話題はとても良かった。

ロボット本体は,ボストンダイナミックスのコピー製品のように見えるUnitreeのGo2である。千葉工業大学法人直轄のfuRo(未来ロボット技術研究センター)古田貴之(1968-)所長は,そのロボットのソフトウェア部分の学習過程を新しく開発した方法で改変した。

ロボットの運動機能の学習訓練には,時間がかかるため,これを仮想空間内の4096体のロボットに移植して,2万世代の改良を加えた。そのために必要な時間は実時間に比べて圧倒的に少なくて済む。学習の結果得られた深層学習データを再び実空間のロボットに移植するが,環境条件が仮想空間とは異なるため,異世界転生とよぶゲートウェイをかませて変換している。

その結果,この4本足走行ロボットは,視覚センサーやLiDARセンサーや聴覚センサーなしで(ロボットのハードウェアにはLiDARが付いているが使わない),脚の触覚に対する応答のみをインプットとして,段差などがある環境で運動することが可能になった。ただし,完全自律走行ではなく,外部から与えた一定の指示の元での運動になる。

四本足走行なので,屋外の非平坦環境でも自由に移動することが可能になっている。デモ動画を見ている限り,運動機能は非常に高い。シンギュラリティサロンの松田先生によれば,これは,人間でいえば小脳を鍛えたことに相当するということだ。明らかに軍事転用の危機が迫っている。


写真:古田先生のデモンストレーション([2]から引用)

[3]千葉工大のロボット犬について〜運動知能が急発展している(シンギュラリティサロンオンライン)


2024年8月17日土曜日

経度問題

EarPodsをはめたまま昼寝をしていた。いつの間にか,山田五郎面白い話が聞こえてきて目が覚めた。彼の趣味の一番は時計だったのか。どうりで話が詳しいのだ。

大航海時代後の大英帝国では,船がどうやって自分の位置(経度)を正しく測定するかというのが重要な問題となった。それが1714年の経度法につながった。

Q(koshix):
経度問題の歴史的経緯に関する蘊蓄をお願いします。

A(Claude 3.5 Sonnet):
経度問題の歴史的経緯について説明いたします。これは航海と地図作成の歴史において非常に重要な課題でした。

1.問題の背景:
経度を正確に測定することは、船舶の位置を特定し、安全な航海を行うために不可欠でした。緯度の測定は比較的簡単でしたが、経度の測定は長年にわたり困難な課題でした。
2.初期の試み:
16世紀から17世紀にかけて、様々な方法が提案されました。例えば、木星の衛星の動きを観測する方法などがありましたが、海上での実用性に乏しいものでした。
3.経度法の制定:
1714年、イギリス議会は経度法を制定し、実用的な経度測定方法を開発した者に多額の賞金を提供することを決定しました。
4.ジョン・ハリソンの貢献:
時計職人のジョン・ハリソンは、精密な航海用時計(クロノメーター)の開発に取り組みました。彼は約30年の歳月をかけて、H1からH5までの5つの時計を製作しました。
5.クロノメーターの成功:
ハリソンのH4は1761年と1764年の航海試験で優れた性能を示し、経度問題の実用的な解決策となりました。
6.影響と普及:
ハリソンの技術は徐々に改良され、19世紀には多くの船舶でクロノメーターが標準装備となりました。これにより、航海の安全性と効率が大幅に向上しました。

この歴史的経緯は、科学技術の進歩が実際の問題解決にどのように貢献するかを示す興味深い事例です。経度問題の解決は、航海技術の発展だけでなく、精密機械工学の進歩にも大きな影響を与えました。

Q(koshix):
ハリソンの物語にはもっと紆余曲折があったのではないでしょうか

A(Claude 3.5 Sonnet):
ご指摘の通りです。ジョン・ハリソンの物語には多くの紆余曲折がありました。より詳細に説明いたします。

1.困難な始まり:
ハリソンは田舎の大工の息子として生まれ、正式な教育を受けていませんでした。彼の時計製作の技術は独学で身につけたものでした。
2.最初の挑戦:
1730年代、ハリソンは最初の海洋時計H1を製作しましたが、これは重すぎて実用的ではありませんでした。その後、H2、H3と改良を重ねましたが、いずれも満足のいく結果を得られませんでした。
3.H4の breakthrough:
1759年、ハリソンは画期的なH4を完成させました。これは従来の時計とは全く異なる、ポケット時計サイズの革新的な設計でした。
4.試験航海と論争:
1761年と1764年の試験航海でH4は素晴らしい性能を示しましたが、経度委員会は更なる試験を要求しました。これはハリソンにとって大きな失望でした。
5.政治的な障害:
経度委員会の一部のメンバー、特に王立天文台長のネヴィル・マスケリンは、天文学的方法を推奨しており、ハリソンの機械式解決策に反対していました。
6.賞金獲得の遅延:
ハリソンは何度も賞金の支払いを要求しましたが、委員会は新たな条件を付け加え続けました。これにより、ハリソンは完全な賞金を受け取るのに数十年を要しました。
7.王室の介入:
最終的に、ハリソンはジョージ3世に直接訴えかけました。王の支持を得て、1773年に議会は特別法を制定し、ハリソンに残りの賞金を支払うことを決定しました。
8.晩年の苦闘:
ハリソンは80歳を過ぎてようやく正当な評価を得ましたが、その時には既に健康を害していました。彼は1776年に83歳で亡くなりました。
9.遺産と再評価:
ハリソンの業績は、当時は十分に認められませんでしたが、後世になってその重要性が再評価されました。現在では、彼は航海技術と時計製作の革新者として高く評価されています。

ハリソンの物語は、革新的なアイデアが既存の権威や制度と衝突する際の困難さを示しています。同時に、粘り強さと信念の力を表す感動的な物語でもあります。



写真:ジョン・ハリソンのH1(SEIKOから引用)

[1]経度の歴史(Wikipedia)
[2]ジョン・ハリソン(Wikipedia)
[3]クロノメーター(Wikipedia)


2024年8月9日金曜日

ABF

YouTubeで見かけた情報を調べてみるとWikipedia記事がなかった。そこで,Claude 3.5 Sonnet → Perplexity PRO → ChatGPT-4o と3段階でフィルタをかけて調整して生成した結果が以下の記事。自動化できるのだけれど,あえて人力で,ですます調からである調に変換する。もちろんこの記事の正確性は担保できていないが,正しい参照URLが示されており,これを人力で確認し追加している。

ABF(Ajinomoto Build-up Film)

**ABF(Ajinomoto Build-up Film)**は、味の素ファインテクノ株式会社が開発した半導体パッケージ用の層間絶縁材料である。主に、半導体チップと基板を接続する際の絶縁層として使用される。

概要
ABFは、エポキシ樹脂をベースとした熱硬化性の絶縁フィルムである。半導体パッケージの小型化、高性能化、高信頼性化に貢献する重要な材料として広く利用されている。

特徴
・高い絶縁性能:優れた電気絶縁性を持ち、半導体デバイスの信頼性向上に寄与する。
・低熱膨張係数:温度変化による寸法変化が小さく、熱応力の低減に効果的である。
・優れた平坦性:均一な厚みと表面平坦性を実現し、微細な配線パターンの形成を可能にする。
・高い耐熱性:半導体製造プロセスにおける高温工程に耐えうる耐熱性を有している。
・低吸湿性:湿気による特性変化を最小限に抑え、長期信頼性の向上に寄与する。

応用分野
ABFは主に以下の分野で使用されている:
・CPUやGPUなどの高性能プロセッサパッケージ
・スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイス
・5G通信機器
・自動車用電子制御ユニット(ECU)

製造プロセス
ABFの製造プロセスは以下の主要なステップから構成されている:
・樹脂組成物の調製
・フィルム成形
・熱処理
・検査・品質管理

市場動向
半導体産業の成長に伴い、ABFの需要も拡大している。特に、5G通信やAI、IoTなどの先端技術分野における半導体の高性能化・小型化のニーズが、ABF市場の成長を牽引している。具体的な市場シェアや出荷金額は公表されていないが、90%程度の高い市場占有率を誇っている。

生産拠点と輸出
ABFの主な生産拠点は日本国内にある。以下は主要な生産拠点の一例:

・味の素株式会社の川崎工場(神奈川県川崎市)
・味の素ファインテクノ株式会社の群馬工場など各工場
製品の多くは日本から世界各地に輸出されており、特にアジア、北米、ヨーロッパの半導体メーカー向けに出荷されている。

技術動向
今後の技術動向として、ABFのさらなる高性能化と環境負荷低減が進められると予想される。具体的には以下のような技術開発が期待される:

・微細配線対応:さらなる微細化に対応した新材料の開発
・高信頼性:長寿命化と高信頼性を実現するための改良
・環境対応:環境負荷を低減するためのエコフレンドリーな製造プロセスの採用
・コスト削減:製造コストの低減と効率化
これらの技術開発は、5G通信、AI、IoTなどの先端技術分野での需要に応えるために行われます。

環境への配慮
味の素株式会社は、ABFの製造過程における環境負荷の低減に取り組んでおり、省エネルギー生産や有害物質の使用削減などを推進している。

参考文献  
[2]層間絶縁材料 - 味の素ビルドアップフィルム ABF"(味の素ファインテクノ株式会社)

2024年6月11日火曜日

マイナンバーカード

マイナンバーカードは,だいぶ前に大学から取得を促す連絡がきたので,2020年の2月に市役所で手続きした。そもそも,デザインも設計も最悪だった。顔写真はまともに識別できないし,ペラペラのフィルムケースで番号を隠すという分けのわからない仕様になっていた。そのうえ,たった4桁のPINコードを含み,4種類?も暗証番号が意味不明に設定されている。アホなの?

さらに,このマイナンバーカードに,健康保険証や運転免許証を統合しようという悪らつな企みが現在進行中である。そういいながらも,コロナ期間中のエサにつられて,健康保険証としての利用OKモードに申請したのは私です。いや,必要性は認めているのだけれど,設計がおかしいだけだ。

情報システム学会では,2023年10月に,「マイナンバーカードの問題点と解決策」に関する提言を出している。2013年にはマイナンバーカードの導入に賛成していたが,その後の運びがあまりにもグダグダだったので,こういうことになる。どうして政府にはまともな専門家の意見を聞く能力がないのだろうか。まあ,日本学術会議を壊したがっているような人々に期待するのは無理な話かもしれない。

最近,GoogleのGemini Pro 1.5 をベースにした,NotebookLMが登場した。研究論文や取材記録,仕事でのドキュメントなどの参照文献(ソース)をアップロードすると,NotebookLM がそれらの重要な資料を理解し,必要なサポートを提供してくれるという優れものだ。GPT-4oでもある程度はできるのだが,より使いやすくなっている。早速,マイナンバーカードの提言を読み込ませてみた。

最初に,テキストの概要が出てきて,よくありそうな質問項目もあらかじめ用意されている。もちろん,対話的に必要な質問をすることができ,その答えがオリジナル文書のどこにかかれているかを示すリンクも含まれている。
概要

情報システム学会マイナンバー制度研究会は、「マイナンバー制度の問題点と解決策」に関する提言を2023年10月10日に発表しました。本提言は、マイナンバー制度の目的やデジタル化推進そのものを否定するものではなく、制度設計の根本的な問題点とその解決策を提示しています。 具体的には、制度導入初期に発生した誤った名寄せやコンビニでの証明書誤発行問題、3つの本人確認機能を1枚のカードに集約した設計の矛盾、保険証・運転免許証との一体化に伴うリスクなどを指摘しています。 その上で、名寄せ基準の明確化、ITガバナンスの強化、用語定義の見直し、3つの本人確認機能の分離、番号とカードの再設計、記載内容の精査などを提言し、国民目線に立った、より安全で効率的な制度への再構築を訴えています。

Q:マイナンバー制度の根本的な設計不良とは何か?

マイナンバー制度の根本的な設計不良は、制度で実現したいことが多すぎて議論が混乱し、目標が曖昧なままシステム設計をしてしまったことである。 その結果、システム設計が多岐にわたり、矛盾や齟齬が発生している。 さらに、すべての機能を1枚のマイナンバーカードに搭載したため、カード実装が複雑化した。
具体的には、以下の2つの問題点が挙げられる。
・1枚のマイナンバーカードに3つの本人確認機能(身元確認機能、当人確認機能、真正性確認機能と属性情報確認機能)を入れたこと。
・1枚のマイナンバーカードに保険証機能と運転免許証機能を入れ込み、保険証と運転免許証を廃止する構想であること。
これらの問題点により、国民はマイナンバーとマイナンバーカードの取り扱い方を理解できず、制度設計自体に不安を抱いている。 また、カードの紛失や盗難、なりすまし犯罪のリスク増加、高齢者施設でのカード管理の問題など、多くの社会問題を引き起こす可能性がある。

Q:マイナンバーカードの取り扱いに関する矛盾点を具体的に説明しなさい。

マイナンバーカードの取り扱いについては、国民にとって非常に分かりにくいという問題点があります。 具体的には、マイナンバー(番号)は「特定個人情報」であるため、他人に見せてはいけないとされています。 しかし、マイナンバーカードは身分証明書として使用するため、他人に見せる機会が多いという矛盾があります。 さらに、マイナンバーカードにはマイナンバーが記載されており、QRコードを読み取ることで他人が簡単にマイナンバーを読み取ることができてしまいます。
このため、国民はマイナンバーとマイナンバーカードのどちらをどのように取り扱うべきか混乱しています。 政府はマイナンバーカードを大切に扱うように促していますが、マイナンバー自体をどのように取り扱うべきかについては明確な指示を出していません。
このように、マイナンバーカードの取り扱いに関する矛盾は、国民の混乱を招き、マイナンバー制度への不信感を増大させる要因となっています。

 


写真:デザイン最悪のマイナンバーカード

P. S. マイナンバーカードのデザインは改善されるらしい。さらに,iPhoneにもマイナンバーカード機能が実装されるとのこと。ただ,健康保険証問題は未解決のまま突っ張るらしい・・・orz。

2024年5月12日日曜日

決済トラブル

オンラインの詐欺事件が横行する今日この頃,クレジットカード会社も対策のために怪しい決済の検知にいとまがない。このためしばしば,利用者がトラブルに巻き込まれる。通常は,不正利用検知による一時制限措置のお知らせをクリアすればいいのだけれど・・・。

1.注文Aと問題の発生
(1) 昨日W 13:30 アップル心斎橋店にて,オンラインで商品Aを購入。
(2) 昨日M 13:31 アップルストアからAのご注文内容確認のお知らせ。
(3) 昨日M 13:34 〈重要〉三井住友カード不正利用可能性+利用確認。→→ 本人利用確認✓
(4) 昨日M 14:27 〈同上〉 三井住友カード利用確認OK+利用制限解除+決済不成立。
(5) 昨日T 14:33 上記の件をアップル心斎橋店に電話確認(10分) → 再注文必要とのこと
(6) 昨日S 16:00 アップルから支払い処理に問題ありとのSMS連絡。

店頭にはないオンラインのみの製品だったので,スタッフの丁寧な説明と店頭サポートで問題なくオンライン購入プロセスが完了した。ところがあとで気がつくと,三井住友カードから異常発見通知がきて決済過程は停止していた。(W:ウェブ,M:メール,T:電話,S:SMS)

2.再注文A'とキャンセルと
(7) 昨日W 17:10 自宅に帰り,オンラインのアップルストアで商品A'を購入しなおす。
(8) 昨日 M 17:12 アップルストアからA'のご注文内容確認のお知らせ。
(9) 昨日 M 17:19 アップルストアから支払い問題発生の連絡(実は最初のAの件)
(10) 昨日 W 17:20 あわててアップル商品Aのキャンセル実行
(11) 昨日 W 17:21 〈重要〉三井住友カード不正利用可能性+利用確認。→ 本人利用確認✓
(12) 昨日 M 17:30 アップル商品A'キャンセルのお知らせ
(13) 昨日 M 17:33 〈重要〉三井住友カード不正利用可能性+利用確認。→ 本人利用確認✓
(14) 昨日 M 17:34 〈同上〉 三井住友カード利用確認OK+利用制限解除+決済不成立。
(15) 昨日 M 17:43 〈同上〉 三井住友カード利用確認OK+利用制限解除+決済不成立。

注文Aの件はクリアされたと思ったまま,新たに再注文A'を実行したら,Aの件は片づいていなかった(アップルでは待ち状態)。重複注文になったので,あわてて再注文A'をキャンセルした。これはOK。

3.問題の継続と解消へ
(16) 本日 M 1:31 〈重要〉三井住友カード不正利用可能性+利用確認。→→ 本人利用確認✓
(17) 本日 M 4:59 〈同上〉 三井住友カード利用確認OK+利用制限解除+決済不成立。
(18) 本日 T 9:14 アップル相談窓口に電話連絡(16分)
(19) 本日 M 9:15 アップルID確認リクエスト通知。上記プロセスで必要なID確認の結果。
(20) 本日 S 9:17 〈重要〉三井住友カード不正利用可能性+利用確認。→ 本人利用確認 ×
(21) 本日 T 9:47 三井住友カード相談窓口に電話連絡(9分)→人力で解除

アップルは,決済不成立の場合待ち状態で数時間後に自動でリトライするようだ。これが夜中の(17)の現象。しかし再度,三井住友カード側にはねられてしまう。まあ,確かに怪しい動きではあるよね。朝起きるとこれに気づいたので,本人利用確認✓をして制限解除した。

このままだと永遠の不成立ループになるので,とりあえずアップルの窓口に電話連絡。三井住友側でクリアできれば,自動的に決済に進むとの説明。この途中で,三井住友カード側は,本人利用確認もエラー×ではねられるようになってしまう。これではどうしようもない。三井住友カードの窓口に電話して,事情を説明し,手動で解除してもらう。あとは待つのみ。

4.問題の解決
(22) 本日 M 15:33 アップルご注文ありがとうございます。 
(23) 本日 M 16:57 アップル商品出荷連絡。
(24) 本日 M 18:15  アップル請求金額のお知らせ。

とりあえず問題は解決した。トラブったときの電話が困る。アップル心斎橋や,アップルストアは余裕で10分以上待たされて音楽を聴き続けた。三井住友カードは,AIチャットに誘導されるのだが,これが使いものにならない。ネット上を10分以上たらい回しにされて,ようやく電話番号を発見することができた。電話番号がみつかりにくいだけあって,電話すると窓口にはすぐにつながった。


現金ではなく,カードとオンライン決済とスマホ決済の時代は便利になったかというと,それはそうなのだけれど,問題発生時にとんでもなく面倒なことになる。JRのみどりの窓口も廃止がすすみ,郵便サービスは縮小され,銀行の店舗やATMも減らされ,役に立たないマイナンバーカードでの認証が強制される,とんでもないDX社会が到来しようとしている。災害や戦争には圧倒的に脆弱だし,持続可能性の欠片もみえないDX社会だ。

2024年5月11日土曜日

時計修理

腕時計が壊れた。SEIKOの1967-8年製の21石手巻き式の腕時計だ。

1968年の秋にもらった時計だけれど,毎日使うようになったのは1972年に大学に合格してからだ。この55年の間に3-4回壊れて修理している。ステンレスのベルトも2回ほど替えたかもしれない。最近は,寄る年波には勝てず,ぜんまいを巻き切れなくて遅れたり止まるようになってしまった。

前回は数年前で,尼崎の寺内時計店に郵送でお願いした。今回どうしようかとネットで検索すると,奈良市の時計修理工房CoCoがヒットした。しかも評価5.0である。早速電話して,営業中であることを確認して向かった。お店は,白川ダム北側の山中,東海自然歩道=山の辺の道の途中にある。

2階の工房に上がるとやさしそうな若い店主が,とてもていねいに状況を説明してくれた。さっそく,オーバーホールと必要ならば部品交換の修理をお願いした。国内では珍しいらしく,部品を自作して修理することも出来るので,他道府県からも部品だけの注文が来るそうだ。


写真:セイコーの1697年のカタログにある当該機種(手巻きゼンマイ式)

最近は,普及型用途では,完全な機械式の時計はほとんどなくなってしまい,クォーツ電子化されてしまった。そのかわり寿命は短い。機械式ならば丁寧に保守すれば何十年でも持つのだけれど,クォーツ電子化された時計では電子回路が劣化して在庫がなくなれば終わりだ。さらに,現在の主流であるスマートフォンや時計型デバイスは,たった数年で陳腐化してしまうのだ。

2024年4月24日水曜日

自動物流道路

朝のニュースで,自動物流道路という物騒な名前がでてきた。

頭の中に思い浮かんだのは,高速道路の車線が大きなベルトコンベアー状の動く歩道になっていて,そこにコンテナが並んでいる絵だった。またぞろ,政権人気浮揚のための目くらましだと思うが,どうやら半分本気らしい。

2024年物流問題や脱炭素問題の解決のためだということになっている。水道クライシスや橋梁・隧道インフラの劣化でさえ,対応できていないのに,これ以上維持管理費がかさむインフラを追加してどうしようというのだろうか。

国土交通省の自動物流道路に関する検討会をみても,自動物流道路が何かがもうひとつわからない。例示されているのが,スイスの地下物流システム,総延長500km(2031年70km完成予定)で,トンネルの中をコンテナを積んだ自動輸送カートが走行するものだ。

地下20-100mに直径6mの貨物専用トンネルを掘って,自動輸送カートが3レーンを時速30kmで24時間走るというものだ。地下トンネルまではハブで垂直輸送する。建設費用は5.7兆円。
リニア新幹線をやめて,こちらに転用するならば考える価値はあるかもしれない。しかし,日本はスイスと違って地震国なので,どうなのだろうか。

検討会では,自動物流道路それ自身に関する話はなくて,各運送業者の問題意識が提示されている。中継拠点の整備とか,モーダルシフトとか,パレットに標準化とか,共同輸配送とか,だいぶ温度差がある。ただ,フィジカルインターネットというコンセプトはおもしろそうだった。


写真:スイスの地下物流システム(自動物流道路検討会資料から引用)

2023年9月18日月曜日

開放型イヤフォン


先日のあさイチで,開放型イヤホン(ながら聴きイヤホン)が取り上げられていた。博多大吉先生が感動していた。そういえば,8ヶ月前の昔,NTTの技術でオープンイヤー型イヤホンができそうだという記事をみていたのをすっかり忘れていた。いつの間にか,それらしい何かが製品化されてテレビで紹介されていた。

カナル型やインナーイヤー型のように耳にイヤホンを入れるのではなく,小型スピーカを耳道の外側において,外部への音漏れを防ぎながら,外音を自然に聴きつつ,イヤホンの音も聞こえるというものだ。家人から話を聞いていないと叱られることもなく,宅急便や電話への対応も可能になる。

調べてみると,NTTはだめだったけれど,いくつかの代表的な機種がみつかった。
JVC Kenwood nearphone 11,775
16mmドライバ,本体7時間+ケース10時間,BT5.1

ambie sound earcuffs 15,339
?ドライバ,本体6時間+ケース12時間,BT5.2

OneOdeo OpenRock Pro 16,890
16.2mmドライバ,本体19時間+ケース46時間,BT5.2

SONY RingBuds 18,717
12mmドライバ,本体5.5時間+ケース12時間,BT5.2,マルチポイント

Oladance Wearable Stereo 20,980
16.5mmドライバ,本体10時間 | 16時間,BT5.2

Cleer ARC 22,800
16.2mmドライバ,本体7時間+ケース11時間,BT5.0 
Shokz OpenFit 24,880
?mmドライバ,本体7時間+ケース28時間,BT5.2 
Oladance OWS Pro 34,800
23*10mmドライバ,本体16時間+ケース42時間,BT5.3,マルチポイント

値段的に,JVCがいいかと思ったが,音質はいいが接点不良などの問題がありそうだ。SONYは,マルチポイントでBlueToothが接続できるメリットはあるが,普通のイアホンの真ん中に穴が空いてるだけなのでイマイチ。OpenRockはやや評判が悪い。CleerARCは2がクラウドファンディングしていて,これが製品化されればよいとの説も。

結局,Oldanceが良さそうなのだけれど,2万円もする。Oladance OWS Pro はさらにすごそうだが3万円を越える。ならば思い切って整備済品のAirPods Pro(第2世代)USB-Cを選びたい。ノイズキャンセリングも外部音取り込みも可能なのだ。問題は耳の負担感だけ。

なんだかんだいって,多少不便だとしても有線のEarPods(2,780円)が一番コストパフォーマンスが高い。外音取り込みが必要ならば片耳外せば良いし。マルチポイント接続が必要なら,2つあるEarPodsを片耳づつ別のソースにつないで聴けば良いという,たいへん貧乏性の結論に落ち着きそうだ。


写真:Oladance のOWS Proの機能(アマゾンから引用)

2023年4月7日金曜日

フリクション

フリクションは,パイロットが出している消せる筆記具である。フリクソンではない。日本では2007年にフリクションボールが発売されたが,たぶん,そのころに買ってしばらく使っていた。まあまあ楽しいのだけれど,ある日,大学事務局の梶山さんが,ジェットストリームが書きやすいといってるのを聞いて,早速試してみたところ確かに書き心地がよかった。それ以来,三菱鉛筆のジェットストリーム3色ボールペン(0.7mm黒赤青)をずっと使い続けている。

フリクションボールの原理は,ボールペンの後ろにあるゴムでこすると摩擦熱でインクが変性して消えるというものだ。ウィキペディアによると「摩擦熱による消色温度が65 °Cに設計されていいて,これを上回る高温の環境では書いた内容が全部消える。逆に復色温度(-20 °C)を下回る環境では消した内容まで復活する」とのことだが先日まで知らなかった。

冷やすと消えたのが復活するといわれ,「本当かよ?」といって冷凍庫から保冷剤を出してきて挟んでみた。渦巻きを書いて消したのだがそれが復活する気配もない。違うんじゃないというと,-20°Cが必要だという。仕方がないので,メモ用紙を冷凍庫に突っ込んでそのまま忘れていた。

次の日,なんで冷凍庫にメモ用紙があるのというので,あわてて回収したところ,確かに消えたはずの渦巻きが復活していた。昔の日本の技術はすごかった。


写真:冷凍庫で一晩過ごして復活した渦巻き


2023年1月18日水曜日

ボイス キャンセリング マイク

ノイズキャンセリングイヤフォンというものがある。

環境音の中で音楽や会話を聞くとき,そのノイズを減らす機能を持つイヤフォンだ。このイヤフォンに内蔵されたマイクがひろう環境音が逆位相に変換され,干渉によってノイズを消す仕組みだ。

在宅ワークやオンライン授業で,イヤフォンをはめ続けるのもつらい。最近では,骨伝導イヤフォンオープンイヤースピーカーなど,耳に負担をかけない製品も使われている。その進化系として,オープンイヤースピーカーの音漏れを防ぐために逆位相の音を外向けに放出する仕組みをNTTの子会社nwmが開発しクラウドファンディングを募っている


時代は,GUI(Graphical User Interface)からVUI(Voice User Interface)に変わり始めているようなそうでもないような微妙なところで揺れている。XRヘッドセットを使って作業するのが当たり前になれば,キーボードもスマートフォンのタッチパネルも邪魔になる。そこで必要なユーザインターフェースは,音声や手話・身振りになるはずだ。

AlexaやSiriなどが登場したときは,声で機器を操作して音楽や動画を視聴する時代が到来したかと思ったものだ。ところが,一人暮らしでない家ではそうは問屋が卸さなかった。お互いに干渉せずにスマホやPCを使うにはいまでも,静かな指にたよらざるを得ない。

そこで思いついたのが,ボイス キャンセリング マイクだ。情報入力のためにマイクに届けたい声と逆位相の音をマイクの外側に発生して,他人からは自分の声がほとんど聞こえなくなる仕組みだ。誰か同じことを考えていないかと調べてみたら・・・ありました。Voice Canceller というコンセプトが2015年に提案されていた。残念。


XRヘッドセットを持っていない自分の場合,音声入力のニーズは入力の高速化からきている。最近は,macOSの音声入力の精度も上がっているので,かなりの速度で文字に変換することができるのだ。その観点からすれば,音声入力でなくともキーボードやフリック入力より速ければなんでもよいのだけれど。

ボイスキャンセリングマイクの実現が技術的に難しい場合は,筋電入力マイクかと思ったが,顔や首まわりにセンサーを装着するのは余計面倒だ。XRヘッドセットがデフォルトでないならば脳波でも同様にややこしそうだ。


図:nwmのオープンイヤー ノイズキャンセリング技術

[3]音の技術(ムーンショット・エフェクト − NTT 研究所の技術レガシー)

2022年12月13日火曜日

未来をあきらめない(3)

未来をあきらめない(2)からの続き

登大遊さんのこの一年ほどの講演リストがある。未来をあきらめない(1)で紹介した「テクノロジーマップ、技術カタログの在り方について」を除くと,そのほとんどのテーマは共通だった。そのテーマというのは,次の問い,日本にはOS・クラウド・通信・セキュリティ等のプラットフォーム技術や産業を自ら生み出せる ICT 人材がいない。どうすれば育成できるのか?というものだ。

結論は,登さん自身の特筆すべき技術的能力とそれに基づく体験からくる洞察によるものだ。それは,自律的なコンピュータ・ネットワークの実験環境を自力で勝手に構築しようと
することを黙認し,その環境の上で彼らが自由に技術開発できるようにすれば,自然に人材が育ち,技術が生まれる,とまとめられる。

講演では,(1) 自律的なコンピュータ・プログラミング環境の重要性,(2)  自律的なネットワーク環境の重要性,について彼が切り開いてきた道をたっぷりの写真とともに紹介している。そのスローガンは,超正統派「おもしろ・いんちき開発手法」が重要,というものだ。

人の作ったクラウドやセキュリティソリューションやインターネットシステムを使うICT技術者ではなく,それらを新しく創り出そうと開発する人材の育成が必要だと呼びかけている。実際に彼は,筑波大学の客員教授として,医学課程の学生として,ソフトイーサ株式会社の代表取締役として,IPAのサイバー技術研究室長として,NTT東日本の特殊局員として,けしからんものに対して日夜戦い続けている。


図:登大遊さんのフリーイラスト


2022年12月12日月曜日

未来をあきらめない(2)

未来をあきらめない(1)からの続き

USB メモリ / SD カードイメージ書き込みツールのデファクト・スタンダードとなっている Win32 Disk Imagerというソフトの改良版登大遊さんが公開して,しばらく前に話題になった。

自分では使ったことはないが,Raspberry Pi のOSを入れてインストールするときに使うものだ。ご本人は少し改良と謙遜しているが,Google Drive との相性問題を解決し,10MBの 1 EXE+19 DLLファイルを 200kBの1 EXE ファイル1本にまとめ,デジタル署名をつけることで警告画面を無くし,x86版に加えてネイティブで x64, ARM64 版を付け加えたものだ。

話題の焦点は,そこではなくて異例の長文アジテーションとなっている添付のドキュメント Readme.md の方にある。日本の企業やICT技術者の抱える本質的な問題を大きくえぐっている。
最近の企業におけるサイバーセキュリティ問題の多発の原因は、上記のとおり、企業のシステム管理者が、様々な試行錯誤を行なうことをせず、または組織的にそのような正当な試行錯誤行為が禁止され、よって自らの判断を信頼することができない程度に、システム管理業務に必要な専門知識が欠けた状態が、組織的に、また日本全体的に、10 年間程度、誤って維持されてしまったことに起因するのである。なお、先輩玄人システム管理者たちは、10 年以上前にそういった知識を身に付けているから、何ら不自由はない。しかし、後輩の素人システム管理者たちにその秘技を伝授するためには、企業内において、物理的なサーバーやワークステーション、ネットワーク機器、ディスク等を用いて試行錯誤を行なう仕事の場が必要となる。ところが、最近の企業内においては、外注主義や、過度・無意味・または長期的にみると逆にトータルコストが上がってしまうようなクラウド移行などが、一時的に誤って蔓延している状態となっている。このことが、企業のシステム管理部門において最低限必要な IT スキルの維持が困難となった直接的原因である。
また,企業の外注主義を批判し,企業内のおしきせのセキュリティ基本規程に縛られて自分自身の頭による判断ができない素人システム管理者を蔓延させていることへの警鐘を鳴らしている。日本の失われた30年の一つのの典型的な病症である。

これはデジタル庁をつくって旗を振ってもまったくなんともならない大きな問題だ。登さんはその解決のための処方をいろいろな場所で説いている。


2022年11月25日金曜日

タイパ


アインシュタインの特殊相対性理論では,異なった座標系(慣性系)の観測者は,それぞれの時間軸を持っていて,時間の進み方が必ずしも共通とはならない。しかし,我々の日常生活の世界では,相対速度が光の速度に近い観測者はいないから,時間の進み方は共通のはずだった。

NHKの朝のニュースでタイパ(タイム・パフォーマンス)を取り上げていた。具体的には,動画を2倍速でみるような視聴形態が若者には普通に見られるが,年寄りではそうでもないことを結論づける文脈だった。

コスパ(コスト・パフォーマンス)という言葉は,費用対効果という意味で完全に社会に定着し,企業だけでなく行政や公共分野でもあたりまえに使われている。タイパもコスパと結びつけばそうなるだろう。なんといっても時は金なりという,E = m c^2に匹敵するゴールデンルールで結ばれるのだから。

教育系YouTubeでいえば,ヨビノリ(1993-)では,板書を時間短縮する動画編集があたりまえのように導入されていたが,鈴木貫太郎(1966-)の場合は,リアルタイムだけれど,できるだけ高速な論理展開がなされている。コロナ禍で全国的に導入されたオンライン授業の非同期型コンテンツは,学習者が視聴速度を自由にコントロールできる。若者にとっては速度可変視聴があたりまえの光景なのだろう。

ビデオテープの時代だと,早送りはできるとはいってもそれほど便利ではなかった。スマートフォンの中でデジタル動画が自由に操作編集できる時代には,時間の制御はとても簡単になった。その結果,意識や思考における時間の進み方は個人ごとに相対的であるという相対論の世界が実現する。

いや,もともとそうだったのかもしれない。子供の時間と若者の時間と大人の時間と老人の時間は,そもそもズレていたのだ。あるいは,個々人によって理解の速さも表現の速さも異なっている。そのズレをコミュニケーションで同期しながら社会は回ってきた。

新しいテクノロジーは,そのギャップ(=時間の進み方のズレ)を埋める方に作用するのか,あるいは拡大する方向を推し進めるのか。

一例をあげてみる。大学在職時代に,聴覚障害を持った学生のためのノートテイク支援というボランティアによる活動があった。板書の間に教員が話す説明を聞き取ることができないため,補助者がそれをパソコンで文字起しして,当該学生のノートパソコンに伝えるというものだった。今では,補助者なしのAI音声認識がその水準に達している。これによって,時間のズレは解消されそうだ。

もう一例。放送大学の松井哲男さんの授業で,「初歩からの物理学」や「物理の世界」という講義をときどき聞くことがある。彼は昔からそうだったけれど,頭の回転がはやくて早口で適確に圧縮された説明をする。確かに,教科書の内容はカバーできているしエピソードもふんだんに加えられているのだけれど,分かりやすいかというと,なぜか微妙に未消化感が残ってしまう。講師と受講生に流れる時間のズレのせいではないかと想像している。これはテクノロジーとは関係なかった。

物理的な時間と意識の時間を混同しながら議論してきたのであたまはぐるぐる回って話はまとまらない。いずれにせよ気になっている問題なので,忘れないようにしよう。


図:stopwatch time performance fine style of dali , sketch(DiffusionBeeによる)


2022年10月13日木曜日

未来をあきらめない(1)

いや,ほとんどあきらめてるわけだけれど。だいだい,このリノベーションの時代になんで,東京オリンピック(2020)と大阪万博(2025)とカジノIRとリニア新幹線なんだ,と誰かがボヤいていたけれども,全くその通りで時代錯誤で先につながらない利権プロジェクトばかりが蠢いている。統一教会さえ完全に排除できれば,日韓トンネルの方がまだマシと思わず口走ってしまいそうになる。

ソフトイーサの開発で有名な,日本トップクラスのIT技術者である登大遊(1984-)さんが,デジタル庁 デジタル臨時行政調査会作業部会 テクノロジーベースの規制改革推進委員会(第1回)で,「テクノロジーマップ、技術カタログの在り方について」という資料を提出していた。外観はお役人が大好きなポンチ絵テクノロジー満載のコテコテ画像だったので,どうかなと思いつつ読んでみると,久々に心が洗われた。

いつの間にかIT(情報技術)という標語が,動詞も含めたパッケージとしてのDX(デジタルトランスフォーメ—ション)という無意味なカタカナ掛け声に変わってしまった。そのまったく進化しない日本型組織の強固な殻をどうやって内側から破るかという戦略が書かれている。

そこにあるのは,組織内の,(A) 技術研究的な人材(同僚制・独立責任・専門性重視・試行錯誤主義と (B) 経営事務的な人材(官僚制・指揮命令・上意下達・計画主義の特徴を捉え,IT技術イノベーションを,(A)に如何に浸透させて,それを(B)の力で展開拡散するかを具体的に検討したものだ。まさに,細胞に浸入して増殖するウイルスのイメージだ。

技術研究的な人材は,試行錯誤・ 業務革新を担い,自分の責任で頭脳を働かせることができる。一方,経営事務的な人材は,組織的な集団思考と決定に頼って仕事をし,大規模化・組織化・運用を担う。この技術研究的な人材(A)をターゲットとして,適切な情報を注入すれば,業務革新的な情報が経営事務的な人材(B)が担う組織に提供され,フィードバックを受けつつ前進できるという作戦だ。

(A) の技術研究的な人材に届く情報の例として,1990年代のコンピュータ雑誌群があげられていた。自分にとっては,1980-1990年代のそれなのだが,本質的に変わらない。登さんが指摘するように,本当に良質で大量の技術情報があふれていた。そのころは,帰宅時の書店通いで,ほとんどの主要雑誌を毎日のように立ち読みすることができた。さらに,日経バイト日経パソコンTheBASICSoftware DesignMacの雑誌を数冊,定期購読して浴びるように情報をインプットしていた時代だ。

登さんのすごいところは,アイディアをすぐに実装できるところだ。Git + GitLab + 静的 HTML 生成器という開発実例を示している。MarkDownを前提としたHTM重視なのはとてもリーズナブルなのだけれど,おじさんとしては,pdf化されたパッケージもないと安心できない。歳を取ってしまったからだろう。

これを読んで,日本の大学改革がなぜ失敗だったかがよくわかった。大学組織の(A)技術研究的な人材や環境を破壊して,(B) 経営事務的な組織論理を貫徹させようとしているからだ。一方,初中等教育のGIGAスクールの分析は難しい。(A)と(B)が縮退した組織だから。教師の二面性をどう捉えるか。

2022年7月25日月曜日

全固体電池

スマートフォンなどのデジタルデバイスはほとんどリチウムイオン電池(二次電池=充電池)を使っている。これは,正極と陰極および有機溶媒を用いた電解質からなっている。

今の電気自動車(EV)にもこのリチウムイオン電池が使われているが,次のような問題がある。(1) 衝突の際に発火の危険性がある。(2) 有機溶媒電解質の性質から高温での安全性の危険,低温での機能不全,温度変化による劣化などがある。 (3) 充電に時間がかかる。 (4) 有機溶媒の漏れを防ぐための密閉構造に余分の重量が生ずる。

これらの課題を解決するものとして,電解質部分が固体のイオン伝導体になっている,全固体電池の開発が進められている。なお,経済産業省がこちらへの政策誘導を急速に進めたため,日本のリチウムイオン電池の世界シェアが,2015年の40%から2020年の20%から急減したというのが,朝日新聞論座の見立てだ。

Wikipediaは仕方ないにしても,全固体電池とか固体電解質の固体→個体というミスプリントがあまりにも多いのはいったいなんなのだろうか?まあ,NHKニュースが毎日のように放送中に訂正を出す時代なので,そんなものかもしれない。

小学生のころに,単一マンガン乾電池の外側の紙を取り除くと亜鉛の負極があらわれた。これをニッパーで切り開いて,正極の炭素棒を取り出したことがある。マンガンの混じった電解質は糊状になっていた。この炭素棒を使って電気分解をするつもりだったような気もするが,そこまで至ったかどうかは記憶にない。


図:マンガン乾電池の構造(NeoMagから引用)


[1]全固体電池とは?科学の目でみる,社会が注目する本当の理由(産総研)

[2]無機固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池の開発(辰巳砂昌弘)


2022年5月31日火曜日

スターリンク

 Twitterに流れきた GIFアニメーションが人工衛星コンステレーション(星座)を表わしているという。何これ,イリジウムではなかったの,と調べてみると自分の知識が古いまま更新されていなかった。

イリジウムは,高度680kmの軌道に77個の衛星を投入して構成する衛星電話のシステムで(その後66個に),原子番号=電子数77個の元素イリジウムにちなんで命名された。1998年にサービスが開始しているが,2000年にはサービスが終っている。短命だったのだ。

2009年には,イリジウム衛星の一つがロシアの軍事通信衛星と衝突してスペースデブリをまき散らした。2015年には66個の衛星をすべて更新する計画であるイリジウムNEXTがスタートして,現在進行中らしい。

問題のGIFアニメーションの方は,イーロン・マスクスペースXが運用している衛星インターネットサービスのスターリンクだった。2020年に運用が開始しているが,高度650kmに1600基,高度1150kmに2800基,高度340kmに7500基を順次打ち上げ,総数12000基の人工衛星を2020年代中期までに展開する。日本でのサービスは2022年から提供される予定だ。

先週,5月24日が最初の打ち上げから3年目に当たり,49回の打ち上げで2651機が投入され246機が落下している。問題はスペースデブリと光害だ。彗星の長時間露光写真にたくさんの衛星の航跡が重なって写った画像があったけれどどうなのだろうか。


図:スターリンクのイメージ(agenaさんのtwitter記事から引用)

(注)元素イリジウム(iridium)の語源は,イリス(iris)だった。エリジウム(elysium)とは関係なかった。

2022年5月16日月曜日

AI自動音声合成

 夜のNHKニュースで,AI自動音声合成によるというキャプションが出るものが登場した。これは,VOICEPEAKを使っているのかと調べると,NHK放送技術研究所が開発した独自の日本語音声合成システムらしい。

今回の開発では、「漢字仮名交じり文」から「仮名文字と韻律記号」を自動的に生成し、それを「系列変換モデル」の入力データとすることで大量のデータを効率的に学習させ、日本語の合成音声の品質を向上させることに成功しました。

また、仮名文字と韻律記号を簡単に編集できるユーザーインターフェースや、口調をニュース調や会話調などに切り替えられる技術も開発し、さまざまな番組の演出要件への対応も可能にしました。

ということで違和感なく聞くことができるレベルになって,NHKの朝のニュースにも採用されはじめた。VRのアバターによるニュースが始まるまであと一歩だ。アナウンサーは放送局のかかえるタレント的存在になっているが,その傾向に拍車がかかる。

なお,VOICEPEAKは29,800円くらいで購入できて商用利用も可能だが,VOICEVOXという無料の中品質音声合成ソフトウェアも登場していた。

[1]音声合成ソフトの進化がすごい!(PC Watch 2022.4.16)

2022年1月11日火曜日

ドローン操縦士資格

 奈良自動車学校でドローン操縦士資格がとれるという広告が目に飛び込んできた。確かに車の操縦とドローンの操縦には共通点があるかもしれない。

最初は,自分が38歳ごろに免許を取得した奈良交通自動車教習所かと思ったが,スクールバスの経路がなんだか奈良県北部に偏っていてどうもおかしい。もう一度確かめてみると,近鉄奈良線の学園前あたり見える奈良自動車学校だった。自分がもう少し若くてお金と時間に余裕があればドローン教習に通ったかもしれない。

ドローン操縦技能+安全運航管理者コース講習は,3日間の学科9時間,実技11時間で25万円だ。日本でのドローン規制はますます強まるので,こうした講習が成り立つのかもしれない。奈良交通自動車教習所でもやっているかと思ったが,こちらは,大型1種や大型2種などの方を売りにしていた。

もしかして,全国の自動車教習所で同じような動きがあるのではと思って調べてみた。案の定,一般社団法人全国自動車学校ドローンコンソーシアム(ジドコン)という業界団体ができていて,30校ほどが加盟している。自動運転の時代には,自動車教習所の性格も変化するだろうから,こうした対応が必要なのだろう。


写真:ドローンのイメージ(奈良自動車学校から引用)

2021年7月25日日曜日

水素エネルギー

なぜか今ごろになって水素エネルギーがはやっている。 いや,今ごろだからこそなのかも。東京オリンピックの聖火台は,新国立競技場の10km南東にある,東京臨海部の有明とお台場の間にかかる幅60mの歩行者専用橋「夢の大橋」に設置されている。

聖火台のデザインは,天理市駅前のコフフンを手がけた佐藤オオキのnendoだ。この水素は福島県のたぶん浪江町の施設で製造され,電気分解のエネルギーには太陽光発電が用いられている。なお,着色の必要から炭酸ナトリウムが添加されている。オレンジの炎のもとになるナトリウムD線の二重項は明日の前期最終授業で取り上げるところだった。

ENEOSが東京五輪の公式パートナーなので,聖火リレーや聖火台の水素はここが供給しているようだ。水素エネルギーのパイオニアであるIWATANIではない。

1974年に太田時男(1925-2009)の「水素エネルギー」がクリーム色のカバーにモデルチェンジしたばかりの講談社現代新書から出版されすぐに買って,第1刷がいまも手元にある。そろそろ原発問題が社会化しはじめたときであり,物理学科のクラスで原発をめぐる討論の際に読んだばかりの知識を片手に斜め左上から水素エネルギー論を展開して顰蹙を買っていた。いまから50年近く前の話だ。

太田時男先生は金沢生まれで,京都帝国大学の物理を出た後に,金沢の高等師範や金沢大学に勤めていた。その後,米国を経由して横浜国立大学工学部の教授になったころ,この新書を書いている。あとがきの末尾は「一九四九年七月 多忙に紛れたミスのあることを恐れつつ 太田時男」となっていておもいっきりミスっている。

金沢一中/泉丘の出身なのかあるいは金大附属なのか,はたまた四高だったのかはわからなかった(太田時男先生のご逝去を悼む 岡崎健)。

「水素エネルギー(太田時男)」の目次
Ⅰ 水素エネルギーの登場
 1 太陽と水と人間と
 2 石油エネルギー圏からの脱出
 3 水素エネルギー・システム
Ⅱ 作る・使う・運ぶ
 1 水素を作る
 2 水素システムの青写真
 3 水素を使う
 4 水素を運ぶ
Ⅲ 水素エネルギー時代へ
 1 水素は危険か
 2 水素研究の現状
 3 二十一世紀への展望
ちょうどオイルショックに直撃されつつも,まだ未来に希望があった時代のことである。


写真:太田時男「水素エネルギー」の書影

2021年7月2日金曜日

失敗知識データベース

 畑村洋太郎さん(1940-)は,失敗学を提起し2002年には特定非営利活動法人の失敗学会を設立している。また,個人では,畑村創造工学研究所の名前でも活動している。

これに関連して,失敗学会には失敗知識データベースのページがある。明治時代から2008年までの様々な分野での失敗事例が,事例詳細,経過,原因,対処,知識化,背景などにわたって丁寧に記録分析されていて,たいへん有益である。その後の更新が止まっているのが残念だ。

福島原発事故が含まれておらず,医療・健康分野がその他にごくわずかな例しか取り上げられていないことも惜しい。せっかくだから,教育やその他の行政分野にわたっても失敗知識を蓄積してほしいところ。2chあがりのネトウヨ担当大臣がデジタル庁にうつつを抜かすくらいならば,失敗庁をつくるほうが日本の将来にとってよほど有益だろう。