図:軍拡の暗雲のイメージ(ChatGPTによる)
物心ついて大人の新聞を読むようになって60年になる。高度成長時代からついこの間まではGDP(旧GNP)1%が日本の防衛費の天井で,冷戦の頃にもかかわらずそれをわずかでも越えそうだということが大きな争点になっていた。と記憶している。それがこの2-3年であっという間に2%を越え,いやそれ以上に増額されようとしている。どういうこと?
背景には,ウクライナ,中東の問題に加えて,トランプの(あるいは取り巻きの)強力な圧力がある。それにしてもである。日本のGDPは600兆円であり,その1%は6兆円。それは文教予算のオーダーだ。日本の国家予算が120兆円ならば,防衛費の対GDP比を5倍すれば,国家予算に占める割合がでてくる。2%なら1割,5%では国家予算の1/4が防衛費になるわけだ。
財源として何が可能かという問題だけでなく,それを認めさせるためにどうやって国民の口を封じるかが主張なテーマになるのは間違いない。選挙に大勝して,国旗(日の丸)損壊罪だの,スパイ防止法だの,憲法改正で緊急事態条項だのが,馬や鹿から次々と繰り出されるかと思うと眩暈がする。せめて,ChatGPTにでも相談してくれればいいのに・・・。
A(ChatGPT+Gemini+Claude)防衛費5%論の罠 ―― 抑止・民主主義・破綻回避の設計思想トランプ氏による「防衛費GDP比5%」という要求に対し、日本国内の議論はしばしば不毛な二項対立に陥る。「同盟維持のために飲むべきだ」という現実論か、「軍拡は財政破綻を招く」という悲観論か――。しかし、この対立構図そのものが本質を見誤っている。問われているのは「5%」という数字の是非ではない。抑止をどう設計し、それを民主政治の下でどう正当化し、どこでブレーキをかけるのかという「制御系」の設計思想である。小谷哲男氏(注:大教大の教養学科出身なのか…1998年卒)の議論を補助線として、日本が破綻を避けながら抑止を構築するために必要な論理を整理したい。1.前提:対称的軍拡は必ず破綻するまず押さえるべきは、物理的な制約である。中国と日本の間には、産業規模・人口・資源・軍事力において、単独では埋めようのない構造的格差が存在する。この条件下で、敵の戦力に「追いつく」「対等になる」といった対称的抑止モデル(ミラーリング)を採用すれば、軍拡は際限なく続き、財政と社会が先に臨界点に達する。これは歴史的にも理論的にも裏付けられた帰結である。「積み上げ続けければ安全になる」という発想は、設計ミスと言わざるを得ない。2.「5%」の正体:目標値ではなく、交渉のシグナル小谷氏がトランプ氏の5%要求に言及するのは、それが安全保障上の「正解」だからではない。彼の論理において、5%とはトランプ的取引外交におけるシグナルにすぎない。つまり、「日本は自国の防衛と同盟の維持に、どれだけのコストを払う意思(skin in the game)があるのか」を測るための圧力である。重要なのは、この圧力を「無限定な増額」への免罪符にするのではなく、「破綻しない出口」を設計するための入力値として扱うことだ。3.抑止の目的関数:勝利ではなく「不合理化」抑止の目的関数を履き違えてはならない。日本が目指すべきは「中国に勝つこと」でも「中国を屈服させること」でもない。目的は、戦争を「割に合わない選択」に固定し続けることである。具体的には、中国側にとって「短期決着が不可能であり、米国の介入を招き、国内外のコストが体制維持を脅かすほど急増する構造」を作り出すことだ。この構造さえ維持できれば、総量競争に付き合う必要はない。ここに、非対称抑止の論理的基盤がある。4.非対称抑止:限界効用に基づく設計この目的から導かれるのが「非対称抑止」である。その要諦は以下の三点に集約される。・全面対抗しない: 空母や戦略爆撃機の数で張り合わない。・拒否的抑止に特化: 南西諸島やシーレーン等の限定領域で、初動の破綻を防ぐことにリソースを集中する。・冗長性の確保: 指揮通信・兵站を分散化し、日米の統制・補給を深く結合(プラグイン)させる。この設計においては、ある一定の水準を超えると、防衛費をさらに積んでも抑止力の限界効用は急激に低下する。ここに、増額を止める合理的かつ物理的な根拠が生まれる。5.「核の影」による軍拡の天井小谷氏は核武装を積極的に推奨してはいないが、理論的な射程からは外していない。ここで重要なのは、核を「実装すべき選択肢」として扱うのではなく、「通常戦力の無限積み上げを阻むための天井(影)」として位置づけることである。核という「エスカレーション・ラダーの頂点」を意識の端に置くことで、通常戦力の競争が不毛な総量戦に陥るのを防ぎ、議論を「初動の拒否」という具体的機能へと引き戻すことができる。逆に言えば、核を安易に政治的カードとして持ち出せば、この「影」は輪郭を持ち始め、抑止系全体を不安定化させる。核の役割は、あくまで「見えない天井」として機能することにある。6.民主政治という最大の脆弱性防衛問題の真の障壁は、財政よりもむしろ民主政治との構造的摩擦にある。・抑止の成功: 「何も起きない」こと。成果は不可視であり、成功の証明は原理的に不可能(平和のパラドックス)。・民主政治の要求: 可視的な成果、分かりやすい物語、感情的な納得。このギャップがあるため、政治は「強い言葉」や「敵味方の物語」による動員に走りやすい。高市早苗氏的な言説が持つ危うさは、抑止の「冷たい設計」を「熱い感情」で上書きし、本来あるべき停止条件を破壊してしまう点にある。抑止は感情では制御できない。制御には、システムが必要である。7.抑止を「制度」に落とし込むでは、どうすれば抑止を民主制に耐えさせ、暴走を防げるのか。それは、抑止を「物語」ではなく、「監査可能なシステム」として実装することである。(1) 準備度(Readiness)の可視化装備の数ではなく、「特定の攻撃に対し○日間耐えうるか」という性能指標で説明する。これにより、抑止の成果を数値化し、議会や国民に対する説明責任を果たす。(2) 停止条件の明示初動破綻を防ぐ構造が完成し、それ以上の投資が効用を生まない水準(サティスファイシング)に達したら、増額を止める。この「十分性」の基準を事前に定めることで、際限なき軍拡を回避する。(3) 財政ブレーキの埋め込み社会保障や経済指標が一定の閾値を下回った場合、自動的に防衛予算に調整がかかる「生存条件の優先順位」を明文化する。国家の存続は、軍事力だけでなく社会の持続可能性にも依存する。(4) 時限的承認防衛増額を「聖域」とせず、定期的な失効と再承認を義務付ける。これにより、惰性による予算固定化を防ぎ、戦略環境の変化に応じた柔軟な見直しを可能にする。8.結論:冷たい設計こそが国家を守る防衛費5%論の本当の危険は、その数字自体よりも、それが「目的」化した瞬間に抑止の設計思想が消失することにある。我々に必要なのは、勇ましい言葉でも、根拠なき楽観でも、ただの恐怖でもない。中国との対称競争は不可能であるという冷徹な認識に立ち、抑止を壊さず、民主制を壊さず、国家を破綻させないための「冷たい設計」である。感情ではなくシステムで、物語ではなく数値で、無限ではなく停止条件で――。この設計思想こそが、日本の安全保障を持続可能なものにする唯一の道である。
