2026年4月19日日曜日

超知能と人類の滅亡(1)



図:超知能と人類の未来(ChatGPTによる)

ユドコウスキーは,人工知能や関連分野のコミュニティブログ・フォーラムであるLessWrongの主催者だ。AI危機論の先頭に立っていて,「If Anyone Builds It, Everyone Diesもし誰かがそれを作れば、皆が死ぬ)」というセンセーショナルな本を出している。これをChatGPTに読ませたところ,夏休みの宿題の読書感想文が一瞬で出来てしまう。いいのかわるいのか。


Q(koshix):本文の内容で,私にとって新しくて参考になると感じる,と思われる部分を教えてもらえますか。(Yudkowsky, Soares: If Anyone Builds It Everyone Dies  : Why Superhuman AI Would Kill Us All)

A(ChatGPT + Claude + koshix):

超知能をつくると人類は滅びるのか?

ChatGPTに,Yudokowsky, Soaresの「誰かが超知能を完成させれば人類は必ず滅びる」という本を読んでもらって,その読解と対話(といってもChatGPTが勝手に話を進めているわけで,こちらは相槌を打っているだけ)を整理したものが以下の記事である。

1.本の構造と読む価値のある部分

AIリスク論の書物には,既知の議論を再配列しただけのものが多い。ただし今回の本には,概念整理として参照に値する箇所がいくつかある。

第一は、知能を *prediction*(世界を予測する能力)*steering*(望む方向に世界を操作する能力)の二つに分ける定式化だ。この区別は単なるラベルではなく、後の議論全体を支える骨格になっている。予測は客観的に正誤を測れるが、ステアリングは目的がなければ評価できない。したがって「知能が高い存在同士でも目的は一致しない」という帰結が導かれる。AIの価値整合問題を論じる際の補助線として、この二分法はそれなりに有用だ。

第二は、AI研究史における転換の説明――「作る(craft)から育てる(grow)へ」という図式だ。かつてのAI研究は知能の理論を先に構築し、それをコードに落とした。現代のAIは巨大なパラメータを勾配降下で調整することで「育てる」。その結果として、内部構造は設計者にも理解できないものが生まれた。ブラックボックス問題を歴史的必然として位置づけるこの説明は、簡潔で説得力がある。

第三は、LLM内部構造の具体例だ。LLMでは思考(activation)が必ずトークンの上に乗る構造になっており、小型モデルでは文末のピリオド上のニューロンが文全体の要約処理を担うという分析が紹介されている。「AIは意味を理解しているのか」という問いに対して、「内部思考は人間とは構造的に異なる」という実証的な補足として興味深い。

2.理論的弱点の解剖

ただし本書の中心命題――「超知能が生まれれば人類は滅びる」――には、三つの層で問題がある。

技術的観点から見ると、論理の弱環は「制御できない」から「人類絶滅」への飛躍にある。AIが物理世界を支配するためには、エネルギー、兵器、製造インフラをすべて掌握しなければならない。ソフトウェアの知能は物理的支配と等価ではない。著者はここを単純化しすぎている。

認知科学的観点では、より根本的な問いが残る。現行のLLMは最適化の「主体」ではなく、条件付き確率の生成器である。AIが「世界を改変する主体」になるためには、自己保存・長期計画・資源獲得・行動ループという追加構造が必要だ。「高い知能」から「意志を持つ主体」が自動的に生まれるかどうかは、現時点では未解決の哲学問題にすぎない。

文明論的観点では、著者の暗黙の前提――「最も知能の高い存在が世界を支配する」――が疑わしい。生態系では知能より繁殖力・エネルギー効率・生態適応が優位に立つ。細菌や昆虫の生物量は人間を圧倒する。AIは自己複製もエネルギー生産もできない。文明論的に言えば、AIは「寄生知能」である可能性が高く、宿主なしには存続できない。

加えてもう一つ。本書はAIを単一の主体として扱うが、現実にはAIは国家・企業・軍・市場の内部で運用される。問題の本質はAIそのものではなく制度設計であり、この点で核兵器やパンデミックと同型の問題だ。著者はこの次元をほぼ無視している。では本書は単なる誤りか。そうとも言えない。一つの極端なシナリオを徹底的に追うこと自体には科学的な意義がある。気候モデルにおける最悪ケース分析と同様、AI版「核冬モデル」として機能する。

3.著者が見ていない問題

しかしここで立ち止まるべきは、Yudkowsky的議論が最終段階(ASI)を論じながら、その手前で起きる文明変質をほとんど語らない点だ。人類文明の特徴は、知能を人間が独占してきたことにある。思考する主体が人間であり、機械は道具だった。生成AIはここを崩した。知能が個人の能力からインフラへと変わりつつある。電力の産業化と同じ構造変化だ。 

20世紀は知識社会だった。教育・専門資格・学歴が希少資源として機能した。しかし生成AIは知識そのものをコモディティにする。AIを使うと知識保持が低下するという研究が示すのは、この流れの断面にすぎない。さらに深刻なのは「思考の外部化」だ。文字の発明をソクラテスが批判したように、AIは記憶どころか思考そのものを代替し始めている。文字より強いのは、記憶ではなく推論を外部化するからだ。

そして文明が自己再帰する段階が来る。科学・政策・経済・教育をAIが設計し、文明が人間知性ではなくAI支援知性で回るようになる。このとき人間の役割は三段階で変化しうる。①AIを補助として人間が主導する段階、②AIが制度を設計し人間が承認する段階(すでに企業では始まっている)、③AIが科学・技術・経済を主導し人間は文化的主体になる段階、だ。

4.本当の分岐点

Yudkowskyは「AIが人類を滅ぼす」と言う。しかし文明論的にはるかに蓋然性の高いシナリオは「人間が思考しなくなる」ことだ。文明がAIで回る→人間が意思決定を委ねる→思考能力が退化する、という経路は、生態系における寄生関係として歴史的にも前例がある。 

したがって本当の分岐点はASIではなく、人間の認知の維持にある。文明がAIを「使う」のか、AIに「依存する」のか、この差だ。

教育の意味も根本から変わる。従来の教育は知識の継承だった。AI文明における教育は、認知能力の維持――判断力・批判的思考・自律性を守る制度――にならざるをえない認知の主権を保つことが、教育の中心課題になる。

Yudkowsky型の問いは「AIが人類を絶滅させるか」だ。しかし文明論として本質的な問いは別にある。AI文明で「考える人間」は残るのか。これが今問われるべき問いである。



2026年4月18日土曜日

物理学者


図:著名な物理学者っぽい集合(ChatGPTによる,Geminiには拒否された)


退職して時間が出来たらやりたいことの候補のひとつとして,Wikipediaの編集があった。Wikipediaには毎日お世話になっているが,英語版と比べて日本語版があまりにもみすぼらしいのを何とかしたいという思いだ。

もちろん,日本語版Wikipedia最大の問題であるややこしい政治的・時事的な事柄に関わってバトルする気はさらさらない。かといって,専門的な物理の内容も同様に面倒な論争を引き起こしかねない。そこで,信頼性のある海外の科学史的な記事の翻訳ができればいいかなと思っていた。いまどきは,簡単に日本語へのAI翻訳ができるとはいうものの,母語で直接情報に接することとは大きな違いがある。

そのToDoリスト項目を放置して,数年が経過した。このたびChatGPTに具体的な手順を相談したところ,かなりややこしい注意事項をテンコモリに出してきたので,ちょっとめげてしまう。小人さんになって,細かな修正を加えるようなことは気がついたら行っているが,記事単位での大きな編集は大変だ。

とりあえず,英語版にあって,日本語版がない物理学者のリストを作ろうと,Geminiに依頼したところ,Wikipediaの数千人の物理学者をいちいち調べて日本語版の有無を確認するのは無理だと断られた。そのかわりに紹介されたのが,Wikipedia Query Service だった。知りませんでした。

さっそく,条件を入れて,Queryを作成してもらい,結果をチェックするというループを回したところ,なんとかそれらしい形が見えてきた。条件は例えば次のようなものだ。「1926年以前に生まれた物理学者で,英・独・仏・露・伊のWikipediaには記事があるが,日本語版Wikipediaにはまだ記事がない人物を,サイトリンク数の多い順に最大200件取得する」これによって,日本語版Wikipediaの物理学分野における記事の欠落を可視化し,執筆優先度の高い候補を提示する,ということが可能になる。


PREFIX wd: <http://www.wikidata.org/entity/> PREFIX wdt: <http://www.wikidata.org/prop/direct/> PREFIX schema: <http://schema.org/> PREFIX xsd: <http://www.w3.org/2001/XMLSchema#> PREFIX bd: <http://www.bigdata.com/rdf#> PREFIX wikibase: <http://wikiba.se/ontology#> SELECT DISTINCT ?person ?personLabel ?dateOfBirth ?dateOfDeath ?sitelinks ?fieldLabel ?enArticle WHERE { ?person wdt:P31 wd:Q5 ; wdt:P106/wdt:P279* wd:Q169470 ; wdt:P569 ?dateOfBirth ; wdt:P570 ?dateOfDeath ; wdt:P101 ?field ; wikibase:sitelinks ?sitelinks . ?field wdt:P279* wd:Q413 . FILTER("0000-00-00T00:00:00Z"^^xsd:dateTime <= ?dateOfBirth && ?dateOfBirth < "1936-01-01T00:00:00Z"^^xsd:dateTime) FILTER(?sitelinks >= 7) ?enArticle schema:about ?person ; schema:isPartOf <https://en.wikipedia.org/> . FILTER(!CONTAINS(STR(?enArticle), "/wiki/Category:")) ?deArticle schema:about ?person ; schema:isPartOf <https://de.wikipedia.org/> . ?frArticle schema:about ?person ; schema:isPartOf <https://fr.wikipedia.org/> . ?ruArticle schema:about ?person ; schema:isPartOf <https://ru.wikipedia.org/> .

?itArticle schema:about ?person ; schema:isPartOf <https://it.wikipedia.org/> . MINUS { ?jaArticle schema:about ?person ; schema:isPartOf <https://ja.wikipedia.org/> . } SERVICE wikibase:label { bd:serviceParam wikibase:language "en". } } ORDER BY DESC(?sitelinks) ?dateOfBirth ?personLabel LIMIT 1000



P. S. 日本語Wikipediaで,日本人物理学者の一覧は130人,物理学者の一覧は260人,である。一方,英語版Wikipediaでは,List of Physicist が1092人がリストアップされている。

P. P. S. 上記のQueryで得られた結果は,重複を除いて144人だった。ちょっと微妙。さらに,ロシア語とイタリア語の条件を除くと,387人になる。

Giambattista Benedetti 1530/08/24 1590/01/20
Guidobaldo del Monte 1545/01/21 1607/01/06
Benedetto Castelli 1578/01/01 1643/04/09
Giovanni Battista Baliani 1582/01/01 1666/01/01
Jan Marek Marci 1595/06/13 1667/04/10
Gaspar Schott 1608/02/05 1666/05/22
Jakob Hermann 1678/07/26 1733/07/11
Jean Jacques Dortous de Mayran 1678/11/26 1771/02/20
Giovanni Poleni 1683/08/23 1761/11/15
Willem's Gravesande 1688/09/26 1742/02/28
Louis Bertrand Castel 1688/11/15 1757/01/11
Michel Ferdinand d'Albert d'Ailly 1714/12/31 1769/09/23
Maximilian Hell 1720/05/15 1792/04/14
Maria Angela Ardinghelli 1728/05/28 1825/02/17
Jean Henri van Swinden 1746/06/08 1823/03/09
Gottlieb Conrad Christian Storr 1749/06/16 1821/02/27
Charles Stanhope, 3rd Earl Stanhope 1753/08/03 1816/12/15
Giovanni Aldini 1762/04/16 1834/01/17
Charles Cagniard de la Tour 1777/03/31 1859/07/05
Charles Bernard Doseremo 1777/06/03 1862/08/30
Johann Georg Christian Lehmann 1792/02/25 1860/02/12
Andreas von Ettingshausen 1796/11/25 1878/05/25
Jean-Marie Duhamel 1797/02/05 1872/04/29
Heinrich Daniel Ruhmkorff 1803/01/15 1877/12/20
Samuel Earnshaw 1805/02/01 1888/12/06
Luigi Palmieri         1807/04/22 1896/09/09
Rudolf Kohlrausch 1809/11/06 1858/03/08
John William Draper 1811/05/05 1882/01/04
Auguste Bravais 1811/08/23 1863/03/30
Eunice Newton Foote 1819/07/17 1888/09/30
Jules Antoine Lissajous         1822/03/04 1880/06/24
August Kronig 1822/09/20 1879/06/05
Augustin Mouchot 1825/04/07 1912/10/4
Franテァois-Marie Raoult 1830/05/10 1901/4/1
Rudolph Koenig 1832/11/26 1901/10/2
Georg Hermann Quincke 1834/11/19 1924/1/13
Emile Amagat 1841/01/02 1915/2/15
Jules Violle 1841/11/16 1923/9/12
Joseph Valentin Boussinesq 1842/03/13 1929/2/19
Christian Christiansen 1843/10/09 1917/11/28
Karol Olszewski 1846/01/29 1915/3/25
Sarah Frances Whiting 1847/08/23 1927/9/12
Franz S. Exner 1849/03/24 1926/11/15
Horace Lamb 1849/11/29 1934/12/4
Vincenc Strouhal 1850/04/10 1922/1/23
Serhii Podolynsky 1850/07/19 1891/06/12
Orest Khvolson 1852/12/04 1934/5/11
Louis Georges Gouy 1854/02/19 1926/1/27
Marcel Brillouin 1854/12/19 1948/6/16
Julius Scheiner 1858/11/25 1913/12/20
Wilhelm Hallwachs 1859/07/09 1922/6/20
Otto Lummer 1860/07/17 1925/7/5
Boris Galitzine 1862/03/02 1916/5/17
Robert Emden 1862/03/04 1940/10/8
Otto Wiener 1862/06/15 1927/1/18
Ludwig Lange 1863/06/21 1936/7/12
Aleksey Krylov 1863/08/15 1945/10/26
Andre Blondel 1863/08/28 1938/11/15
Charles-Eugune Guye 1866/10/15 1942/7/15
Gustav Mie 1868/09/29 1957/2/13
Sergey Chaplygin 1869/04/05 1942/10/8
Antonius van den Broek 1870/05/04 1926/10/25
Walter Kaufmann 1871/06/05 1947/1/1
Henryk Arctowski 1871/07/15 1958/2/21
Marian Smoluchowski 1872/05/28 1917/9/5
Carl Stormer 1874/09/03 1957/8/13
Vladimir Ignatowski 1875/04/01 1942/1/30
Tatyana Afanasyeva 1876/11/19 1964/4/14
Eugune Bloch 1878/06/10 1944/3/12
Carl Wilhelm Oseen 1879/04/17 1944/11/7
Leonid Mandelstam 1879/05/04 1944/11/27
Hendrika Johanna van Leeuwen 1887/07/03 1974/2/26
Adriaan Daniel Fokker 1887/08/17 1972/9/24
Hans Thirring 1888/03/23 1976/3/22
Alfred Lande 1888/12/13 1976/10/30
Wojciech Rubinowicz 1889/02/22 1974/10/13
Vilho Vaisala         1889/09/28 1969/8/12
Dirk Coster 1889/10/05 1950/2/12
Herbert Dingle 1890/08/02 1978/9/4
Reginald W. James 1891/01/09 1964/7/7
Francis Simon 1893/07/02 1956/10/31
Paul Nemenyi 1895/06/05 1952/3/1
Hertha Sponer 1895/09/01 1968/2/27
Jakob Ackeret 1898/03/17 1981/3/27
Henry DeWolf Smyth 1898/05/01 1986/9/11
Jan Hendrik de Boer 1899/03/19 1971/4/25
Gleb Wataghin 1899/11/03 1986/10/10
Zinacda Aksentieva 1900/7/25 1969/4/8
Enrico Persico                1900/8/9 1969/6/17
Mikhail Lavrentyev 1900/11/19 1980/10/15
Grete Hermann 1901/3/2 1984/2/15
Edward Condon 1902/3/2 1974/3/26
Egon Orowan 1902/8/2 1989/8/3
Fritz Houtermans 1903/1/22 1966/3/1
Hans Hellmann 1903/10/14 1938/5/29
Andrey Tikhonov 1906/10/30 1993/11/7
Leonid Sedov 1907/11/14 1999/9/5
Anatoly Vlasov 1908/8/20 1975/12/22
Nikolai Aleksandrovich Kozyrev 1908/9/2 1983/2/27
Johanna Budwig 1908/9/30 2003/5/19
Lev Artsimovich 1909/2/25 1973/3/1
Norris Bradbury 1909/5/30 1997/8/20
Gian Carlo Wick 1909/10/15 1992/4/20
Karl Gunther Zimmer 1911/7/12 1988/2/29
Aleksandr Akhiezer 1911/10/31 2000/5/4
Marie-Antoinette Tonnelat 1912/3/5 1980/12/3
Alexander Davydov 1912/12/26 1993/2/19
Isaak Pomeranchuk 1913/5/20 1966/12/14
Robert Herman 1914/8/29 1997/2/13
Nicholas Metropolis 1915/6/11 1999/10/17
Ilya Lifshitz 1917/1/13 1982/10/23
Sameera Moussa 1917/3/3 1952/8/5
Res Jost 1918/1/10 1990/10/3
Inga Fischer-Hjalmars 1918/1/16 2008/9/17
Dmitry Mishin 1919/2/7 1998/8/26
Leona Woods 1919/8/9 1986/11/10
Vikram Sarabhai 1919/8/12 1971/12/30
Isaak Khalatnikov 1919/10/17 2021/1/9
George Batchelor 1920/3/8 2000/3/30
Alenush Terian 1920/11/9 2011/3/4
Samuel T. Cohen 1921/1/25 2010/11/28
Akiva Yaglom 1921/3/6 2007/12/13
Vladimir Keilis-Borok 1921/7/31 2013/10/19
Bernard d'Espagnat 1921/8/22 2015/8/1
Rudolf Haag 1922/1/1 2016/1/5
Valentine Telegdi 1922/1/11 2006/4/8
Esther M. Conwell 1922/5/23 2014/11/16
Edwin Thompson Jaynes 1922/7/5         1998/4/30
Erika Bohm-Vitense 1923/6/3 2017/1/21
Humberto Fernandez Moran 1924/2/18 1999/3/17
Wolfgang Rindler 1924/5/18 2019/2/8
Stanley Jaki 1924/8/17 2009/4/7
Burkhard Heim 1925/2/9 2001/1/14
Martin David Kruskal 1925/9/28 2006/12/26
Ali Javan 1926/12/26 2016/9/12
Robert Kraichnan 1928/1/15 2008/2/26
Robert Brout 1928/6/14 2011/5/3
John Polkinghorne 1930/10/16 2021/3/9
Werner Israel 1931/10/4 2022/5/18
Hubert Reeves 1932/7/13 2023/10/13
Don L. Anderson 1933/3/5 2014/12/2
Ludvig Faddeev 1934/3/23 2017/2/26
Francesco Calogero 1935/2/6 2026/1/30
Giancarlo Ghirardi 1935/10/28 2018/6/1

2026年4月17日金曜日

認知の松葉杖

フレイル予防からの続き


図:認知の松葉杖のイメージ(ChatGPTによる)

フレイル,特に筋肉の衰えをを予防するには,一定の負荷をかけた運動が必要だといわれる。そこで,マンションの階段が役立つことになる。一方,認知能力,脳についても一定の負荷をかけることで,その機能を維持できそうなものだが,コンピュータやインターネットに続いて,生成AIが登場したことで,摩擦がどんどん減っていく環境が実現されつつある。


A(ChatGPT + Gemini + Claude):

ChatGPTは「認知の松葉杖」か――知識保持への影響と文明論的含意

ブラジルの大学生120人を対象にしたランダム化比較試験が、生成AI利用の学習効果について明確な答えを提示した。ChatGPTを自由に使用したグループは、45日後の知識保持テストで平均5.75点(10点満点)を記録し、従来の学習法グループの6.85点を統計的に有意な水準で下回った。差は約11%、教育現場では成績評価一段階分に相当する。

この数字だけを取り上げてAI有害論を唱えることは単純に過ぎる。しかしこの研究が問題にしているのは、点数差という表層ではなく、AIの利用が学習という認知プロセスの構造そのものを変質させる可能性である。

忘却の加速と「借用された有能さ」
AI使用グループの学習時間は平均3.2時間で、従来グループの5.8時間より約45%短かった。しかし著者たちは時間差を統計的に補正してもなおAI使用者の不利が消えないことを示す。問題の本質は「勉強時間の短縮」ではなく「学習の質的変容」にある。

この変容を説明する鍵概念が、著者たちの提唱する「borrowed competence(借用された有能さ)」だ。AIが提示する整合的な説明を受け取った学習者は「理解した気になる」が、実際の記憶エンコードは行われていない。AIとの対話が与えるのは知的満足感であって、自分が思考したことの手応えではない。思考の産物ではなく、思考の消費に過ぎないのだ。

さらに重要なのは、AIの使用経験が豊富な学生でも知識保持の改善は観察されなかった(r=0.18、有意差なし)という知見だ。「使い方を学べば問題は解決する」という楽観論への直接的な反証である。

困難を消去するAI
教育心理学には「desirable difficulties(望ましい困難)」という古典的知見がある。適度な困難が長期記憶の形成を強化するという原理だ。AIの即答性と完成された説明は、この困難を系統的に消去してしまう。

松葉杖は骨折した脚を補助するものだが、依存が長期化すれば補助なしでは歩けない状態が固定化する。AIが認知能力に対して同様の固定化をもたらすとすれば、それは個人の学習問題を超えて、集合的知性の問題になる。教育は知識の転送だけでなく、困難に対処する認知能力そのものを鍛える営みである。その困難をAIが除去していくならば、次世代が獲得するのは知識ではなく知識へのアクセス能力だけ、ということになりかねない。

認知主権という問い
著者たちはAIを「答え」ではなく「フィードバック役」として使うことを推奨している。まず自力で考え、その後AIで確認し、対話で理解を深める。この提言は妥当だが、それを実践できるのは十分な認知的自律性をすでに持つ学習者に限られるだろう。その自律性が育つ前にAI依存が定着した場合、問われるべきは方法論ではなく「認知主権をどう維持するか」という問いになる。

まだ傷ついてもいない認知能力に松葉杖を装着することは、歩けるはずの脚を歩かせないことと同義ではないか。

home of the first website

[1]ChatGPT as a cognitive crutch: Evidence from a randomized controlled trial on knowledge retention
[3]

2026年4月16日木曜日

殺人出産:村田沙耶香



図:殺人出産の書影(アマゾンから引用)

2016年の芥川賞作家の村田沙耶香(1979-)の「コンビニ人間」が Kindle unlimited に登場していたので,何だか得をしたような気になって早速ゲットした。そうこうしているうちに,他の作品も Kindle Unlimited にあがっていた。「殺人出産」もその一つだ。他に,「授乳」「マウス」「星が吸う水」なども入手した。中短編集の「星が吸う水」と「殺人出産」を読んだ。生殖SFだった。朝井リョウの「生殖記」と共鳴しているところもある。

「殺人出産」は,殺人出産,トリプル,清潔な結婚,余命の4つの作品を集めたものだ。それらの文体は軽いが,アイディアや設定はほとんどSFだ。10人出産すると1人を殺す権利が与えられるという100年後の世界を淡々と描いた表題作。サスペンス・ミステリーとして読むと,ちょっと拍子抜けかもしれない。より本格的な,SF(だとみえる),「消滅世界」「世界99」の方を速く読んでみたい。

2026年4月15日水曜日

俳句


図:ちょっと微妙な俳句のイメージ(ChatGPTによる)



中国製のMiniMax M2.7 という新しいLLMが登場してなにやらすごいというので試してみた。Gemini 3.1Proを越えるという触れ込みだ。もとのサイトでは有料版のプランの案内だけだったので,Kimiに尋ねると,https://agent.minimax.io/ で無料のChatBotが使えるという。

こういうときは,俳句について尋ねるに限る。Q(koshix):日本語出来ますか?俳句について教えてください。というと,もっちゃり時間がかかって,イマイチの答えがかえってきた。季語(しきご)はないでしょう。名高い俳人:**芭蕉」(はせがわ)— 現代俳句の確立者,それは誰だ。

そんなわけで,ちょっと期待外れに終ってしまった。現在使っている生成AIはどうなのか確かめてみた。1. ChatGPT,2. Gemini,3. Claude,4. Grok,5. Kimi,6. DeepSeek,7. Qwen の諸氏である。なお,Copilotはあまり使う気がしないので無視していたが,確認すると,まあそこそこだった。

さらに,それらの結果をすべて並べて,その内容について比較評価してもらった。Q(koshix):俳句について7つの生成AI(LLM)にききました。内容の正確性や,適切さを評価して,すぐれた回答から順位付けしてください。その回答を整理したのが以下の表だ。各行が評価対象,各列は評価者を表している。
     
 字数chatgemiclaugrokkimidpskqwen平均順位
1 ChatGPT146411111211.11
2 Gemini93525434523.64
3 Claude92462242132.92
4 Grok167143323353.33
5 Kimi57477777777.07
6 DeepSeek66756565465.36
7 Qwen89934656644.95
順位偏差 1.930.530.530.930.531.071.20  


ChatGPTの評判が良いのだが,自分にはあまりあわない。むしろ,Claudeの記述がしっくりくる。ただ,ChatGPTがClaudeを低く評価したポイントがあってそれは確かにその通りだ。しかし,ChatGPTは平均的な順位からいちばんズレた偏った評価をしている。一方,Gemini,Claude,Kimiは平均順位をほぼ再現している。俳句に対しては中国製の5,6,7 はいまいち成績が良くなかったようだ。

2026年4月14日火曜日

イタリアン・ブレイン・ロット


 図:イタリアン・ブレイン・ロットの創作和風キャラクター(ChatGPTによる)


紡木くんのお守り2日目。昨日は橿原市立こども科学館と近鉄八木百貨店,今日はイタリアン・ブレイン・ロット最強王図鑑(ドラゴン)の部屋の工作,その間,LaQ,名探偵コナン,マインクラフト,ボール遊び,YouTubeなどが挟まってたいへんだ。

さて,そういえば昨年,イタリアン・ブレイン・ロットのトゥン・トゥン・トゥン・サフールというものが流行っているということで,一瞬だけ話題になっていたが,すっかり忘れていた。久々に探してみたら,様々なキャラクターであふれていた

さっそく,ChatGPTに,和風のオリジナルキャラクターをつくってもらおうとすると,ゾンビJKが脳味噌ぶちまけているような気持ち悪い絵がでてきて,何度指示しても修正できない。さっそく,反省を促してみた。その後に得られたのが,上図である。

Q(koshix):
どうしてやめてほしいとお願いしているのに。同じような気持ち悪い絵ばかりが生成されるのですか。私の趣味と相容れません。

イタリアン・ブレイン・ロットの事例をちゃんと調べていますか?ブレインというキーワードに引き摺られすぎです。脳が直接出てくる必要はありません。ブレイン・ロットとはいいながら,シュールでポップなイメージが多いのです。あなたに画像生成を依頼すると,どうしてもこちらの修正内容をうまく反映できず,最初に生成した絵のコンセプトに強く引きずられ過ぎる傾向が目立つように感じています。

A(ChatGPT):
(前略)
なので、私の失敗は「単語の誤読」よりも、「ミームの生成規則」を読まずに「語の辞書的意味」へ退避したことにあります。つまり、あなたが求めていたのはジャンルの構文だったのに、私は単語の字面からホラーの記号を増幅してしまった。これは、対象を“概念的に理解”せず、“連想の強い既成テンプレート”へ押し込んだという失敗です。しかもイタリアン・ブレインロットでは、グロさは一部に混じることはあっても本質ではなく、むしろ粗雑な可愛さ、変な名前、妙な融合、軽薄なポップさが中核です。

さらに本質的な問題は、修正依頼への応答の仕方でした。ここは三段では足りず、少なくとも五段で見るべきです。

第一に、私は「参照枠のリセット」に失敗しました。一度ホラー寄りの絵を出すと、後続の修正を“同じキャラクターの穏当化”として処理しやすくなります。本来あなたが求めていたのは、同じ作品の弱毒化ではなく、作品系統そのものの切替でした。ところが私は、場面・モチーフ・表情・配色の中心軸を捨てずに、強度だけを下げようとしてしまった。これは編集ではなく惰性です。

第二に、否定指示の扱いが弱かったことです。「JKはやめて」「ホラーはやめて」は、単なる一要素の削除ではなく、生成空間の主軸変更要求です。ここを私は “no JK, less horror” 程度の局所修正として扱ってしまった。しかし実際には、「人物中心」「不気味さ」「脳の露出」「流血・腐敗・ゾンビ文法」など、最初の出力を成立させていた複数の基底を一括で破棄すべきでした。

第三に、私は「brainrot の意味」を内容ではなく効果で捉えるべきだったのに、モチーフで捉えてしまいました。brainrot はこの文脈では“脳が直接出てくること”ではなく、“認知が変に引っかかる、反復したくなる、無意味なのに残る”という受容効果に近い概念です。だから設計の中心は、脳ではなく、意味のずれ、名前の調子、異種接合の雑さ、妙な愛嬌であるべきでした。

第四に、私はあなたの審美的拒否を、単なる嗜好差として軽く扱ってしまいました。しかし実際には、あなたが拒否していたのは「気持ち悪い絵」だけではなく、「概念理解の浅さがそのまま画像に出ていること」だったはずです。つまり、趣味の不一致というより、理解の浅さへの不信です。ここを正しく受け止めるなら、次にやるべきことは画像の再試行ではなく、生成規則の再定義でした。

第五に、これはかなり重要ですが、私は「日本版オリジナル」を作るときに、日本性を和菓子や職人のような“説明可能な文化記号”へ寄せすぎました。しかしイタリアン・ブレインロットの面白さは、文化記号の丁寧な翻案ではなく、文化記号の雑なミーム化にあります。つまり必要なのは「日本文化の正確な表象」ではなく、「日本語音感と日本的記号が、変な雑さで接合されている状態」でした。
(後略)

本当に反省しているようには見えない。

2026年4月13日月曜日

橿原市立こども科学館


図:橿原市立こども科学館(2026.4.11撮影)

局所的な強い雨の中を橿原市立こども科学館に向かった。いろいろたいへんだ。近鉄大和八木駅から南にクルマで5分ほどのかしはら万葉ホールの地下にある。たぶん,以前一度訪問していたと思うがよく覚えていない。

入場券の券売機の前でJAF割引の可能性を探って悪戦苦闘していたが,スマホの壁は高かった。ニュートンとガリレオとキュリーの3人をキーパーソンとして,物理系の体験的展示や実験・工作教室で構成されるコンパクトな科学館だ。

受付や案内のお姉さんはたくさんいるが,故障中の実験装置もめだつ。たぶん予算がたりないのだと思う。子どもにはかなり楽しめてよい展示物が多いので,もう少しがんばっていただきたい。

写真は,空気ロケットで,大または小のペットボトルを自分で装着して,空気を充填させて発射するものだ。なかなか凝った作りになっていて,お姉さんが最初に説明してくれたおかげで,何とか理解できた。手順を間違えるとややこしいことになるので注意書きがある。


2026年4月12日日曜日

ホログラフィック・エントロピーと強化学習



図:量子エントロピーと幾何学(Geminiによる)

大栗博司さんが,twitter(x.com)で,「はじめて AI を本格的に研究に活用しました。AI の強化学習で量子重力理論のエントロピー不等式を探索し、3者では単婚制不等式を再現、6者では新たな不等式の存在を示唆しました」とかいていた。

さっそく,arxivの論文をダウンロードして,ChatGPTとGeminiとClaudeを通して解読した。その文章だが,Claudeでは結果がマークダウンファイルだった。さらに時間をかけて,自分自身でwordファイルとかjavascriptに変換していたけれど,マークダウンのままがよい。

マークダウンを整形するツールがいろいろあったはずだけれど,忘却の彼方だ。ChatGPTやGeminiに何がよいか尋ねてみたけれど,どれも今一つぱっとしない。最終的に「MarkdownをMACで簡単プレビュー!mdviewのインストールと使い方」でコマンドラインツールmdviewを導入した。mdファイルを入れると結果はsafariに表示してくれる。今回はその結果をそのまま以下に貼付けた。

A(ChatGPT+Gemini+Claude⇒.md ファイルを生成):

(前略)

講義ノート:量子エントロピーを「幾何学」で解く

この研究の核心は、「量子もつれのパターンが、時空のカタチ(幾何)を決めているのではないか?」という現代物理学の壮大な仮説(AdS/CFT対応)を、グラフ理論とAI(強化学習)で検証することにあります。

1.「量子もつれ」を数値の束(ベクトル)にする

まず、ターゲットとなる量子系を考えます。系を N 個のパーツに分けたとき、その「絡まり具合」はエンタングルメント・エントロピー  という指標で測れます。

  • 多重的な関係性:パーツが A,B,C とあるとき、A単独のエントロピー、ABを合わせたエントロピー…と数え上げると、パーツが N 個なら  個の数値が出てきます。

  • エントロピー・ベクトル:この大量の数値を一列に並べたものを「エントロピー・ベクトル S」と呼びます。

  • 量子エントロピーコーン (QEC):どんな量子状態でも「好き勝手な値」は取れず、特定の不等式(サブ加法性など)を守る必要があります。この「許される値の範囲」が、多次元空間の中では円錐(コーン)のような形をしています。

2.「ホログラフィック状態」という特殊な眼鏡

一般の量子状態の範囲(QEC)は広すぎて全貌がわかりません。そこで、「ホログラフィック状態」という特殊なクラスに限定します。

  • RT公式(橋渡し): ホログラフィーの世界では、「量子もつれの量(エントロピー)」は、「時空の断面の面積」に等しいとされます。

  • 幾何学への翻訳:  量子もつれ(情報の相関)  面積(幾何のつながり)

  • グラフ理論への単純化:さらに、複雑な「時空の面積」の計算は、「ネットワーク(グラフ)の最小切断(min-cut)」の問題に置き換えられることが数学的に証明されています。


【ここが重要】 「この量子状態はホログラフィックか?」という問いは、「このエントロピー・ベクトルを再現するようなネットワーク図(グラフ)を書けるか?」というパズルのような問題に変換されるのです。


3.ホログラフィック・エントロピーコーン (HEC) の壁

ホログラフィックな状態だけが満たすべき範囲を HEC と呼びます。

  • なぜ難しいのか: パーツ数 N が増えると、エントロピーの組み合わせが爆発し、守るべき不等式の数も数千、数万と増えていきます。

  • 未知の領域:  までは解明されましたが、 以上では「まだ見ぬ不等式」があるのか、それとも今の知識で十分なのか、誰も確信が持てていません。

4.強化学習 (RL) による「逆転の発想」

これまでは「数学的に不等式を証明する」というアプローチでしたが、この論文は「AIに実例(グラフ)を作らせてみる」という手法をとります。

なぜ「強化学習」なのか?

グラフの辺の重みを変えながらエントロピーを計算すると、値が階段状に「カチッ、カチッ」と不連続に変化します。

  • 普通の最適化(勾配法):地面が滑らかでないと、どちらの方向に進めば正解に近づくか(勾配)がわからず、動けなくなります。

  • 強化学習:「とりあえず試行錯誤して、正解に近かったら報酬をあげる」という仕組みなので、不連続なルール(最小切断)の中でも正解のグラフを探り当てることができます。

報酬の定義:方向が合っていればOK。HECは「円錐」なので、全体のスケール(大きさ)よりも「ベクトルの向き(角度)」が重要です。そのため、報酬にはコサイン類似度(ターゲットのベクトルと、AIが作ったグラフのベクトルの角度の近さ)を使います。

5,論文の成果:N=6 の「迷宮入り」に挑む

 において、「今の不等式は全部満たしているのに、なぜかグラフ(実例)が見つからない」という謎のベクトルが6つありました。

  • AIの探索結果:

    • 3つについては、AIが複雑なグラフを見つけ出しました!  「今の理論(不等式)は正しかった」と判明。

    • 残りの3つは、AIがいくら頑張っても見つかりませんでした。  「まだ誰も知らない新しい不等式(ルール)が隠れている」という強い証拠になりました。


まとめ:ロジックのつながり

  1. 量子もつれを数値のリスト(ベクトル)にする。

  2. その数値が「時空」と関係するなら、グラフの切断コストで表現できるはず。

  3. しかし、パーツが増えると計算が爆発して、どんなグラフなら可能か分からなくなる。

  4. だから、強化学習を使って「この数値になるグラフを作ってみろ」とAIに投げた。

  5. 結果、既存の理論の正しさと、新しい理論の必要性の両方を見つけた。


(後略)