2026年10月28日水曜日

ちばてつや

さよなら三角からの続き

図:ちばてつや(Wikipediaの写真からChatGPTが生成)

ちばてつやが87歳で亡くなった。最近は,日本漫画協会の理事長とか会長として顔を見ることが多く,漫画界で初の文化勲章を受章したのが2年前だった。

ちばてつやには子どものときからお世話になってきたが,ハリスの旋風のころが一番テレビで見ていたかも。あしたのジョーは,当時少年マガジンを毎週買っていた畦地君の家に友達とたむろして読みふけっていた。ゲゲゲの鬼太郎と一緒に。おやつにはふかしたジャガイモをいただいた。

1・2・3と4・5・ロクとかみそっかすは妹の読んでいた雑誌をみていたのかもしれない。巴里夫とか水野晴子と土田よしことか楳図かずおとか,全部,少女マンガ雑誌で読んでいた。

のたり松太郎は先輩の西村さんが単行本を買っていて,ドイツ留学の際に,博多っ子純情と一緒に預かったものをまとめよみしていた。全巻ではなかったかもしれない。あした天気になあれは誰かが研究室に持ってきていたのをチラミしていた程度で印象は薄い,チャー・シュー・メーン。研究室で一番はやっていたのは火の鳥だった。

そうそう,ちばてつやといえば紫電改のタカなのだけど,絵柄が記憶にあるだけだ。あしたのジョーも原作はちばてつやではないので,フレーバーが違う。

自分の記憶の中のちばてつや
こうやってみると,手塚治虫,石森章太郎,藤子不二雄,赤塚不二夫,水木しげる,楳図かずお,萩尾望都,山上たつひこ,に比べてそこまでインパクトを受けた漫画があるわけでもないのだけれど,なぜか,ちばてつやが落ち着く。

小3:1・2・3と4・5・ロク(1962年1月 - 12月、少女クラブ) - 1972年及び1988年-1989年に2度ドラマ化されている。
小4:紫電改のタカ(1963年7月 - 1965年1月、週刊少年マガジン)
小6:ハリスの旋風(1965年4月 - 1967年11月、週刊少年マガジン) - 2度のテレビアニメ化
中1:みそっかす(1966年8月 - 1967年8月、週刊少女フレンド) - 『あかねちゃん』としてアニメ化。
中3:あしたのジョー(1968年1月 - 1973年6月、週刊少年マガジン、原作:高森朝雄) - アニメ化・映画化
大2:のたり松太郎(1973年8月 - 1993年6月、1995年10月 - 1998年5月、ビッグコミック、小学館) - アニメ化
D3:あした天気になあれ(1981年1月 - 1991年5月、週刊少年マガジン) - アニメ化

2026年10月27日火曜日

物理学者(4)

物理学者(3)からの続き


写真:ヨルダン・ラプラス/ボルン・ブラッテン

昨日に引き続いてWikipediaの物理学者記事の日本語訳プロジェクトを進めている。

英語版Wikipediaの和訳と周辺情報の確認はClaudeがほぼ完全に行ってくれているので,安心してChatGPTに投げることが出来る。その後は,未解決のテンプレートを整備して,体裁や内容の不備を潰していく。さくらインターネットの自分のnucleusサーバにおける,Fisica Wiki側のテンプレートが充実するにつれて,この作業は減っていって,物理学者1名あたりの作業量はかなり少なくなるはず。

ところで,落ち着いて考えると,そもそもこの作業にどこまで意味があるのかという疑問に改めて向き合う必要がある。もちろん,そんなことは,この企画を思いついたときに自分自身で指摘していた。今どきのシステムでは,翻訳の機構を立ち上げて使うコストは十分低いので,わざわざ各記事を日本語化する必要なんてないだろうけれど,それでも,日本語Wikipedia自身がリンクした知識体系の総体として充実していくことには意味があるというものだ。

英語版のページを開いて,Safariなら表示→翻訳,Chromeなら右クリック(Ctlr+クリック)→日本語で,直ちに日本語ページになるといえばそうなのだ。でも,Max Born がボーンになるところが散見されたりして,まだかゆいところには手が届かないようだ。まあ,AI機能がちゃんと組み込まれれば時間の問題だと思うが。

                no  en   av   ja  ja/av  ja/en
マックス・ボルン✓       28 32577 15190 1663 11%  5%
パスクアル・ヨルダン✓     83 8566 6491 567  9%  7%
ウォルター・ブラッテン✓    95 12438 5047 566  11%  5%

そんなわけで,ChatGPTの感想を聞いてみて,その結果をまとめてもらう。


A(ChatGPT):
Safariの翻訳機能で英語版Wikipediaの「Max Born」を日本語にしてみた。長大な記事が瞬時に、しかも全体としては十分に読める日本語になる。単に外国語の記事を日本語で読みたいだけなら、Fisica Wikiのように時間をかけて翻訳・整備する必要は、もはやあまりないのかもしれない。

しかし、科学史の資料として比較すると、違いは明瞭だった。Safariは人名の Born を普通の英単語と取り違え、「Born approximation」を「出生近似」、「Born rigidity」を「生まれつきの硬直性」、「Born rule」を「生まれつきのルール」と訳してしまう。人物としてのボルンさえ、文脈によっては「生まれた」と訳される。量子力学の交換関係など、数式の表示も崩れていた。専門知識のある読者なら誤りに気づくが、知らない読者はそのまま受け取ってしまう可能性がある。

もう一つ重要なのは、典拠の扱いである。Safariの翻訳文にも脚注番号は残っていたが、今回テキストとして取り出したものでは、脚注と文献の対応関係やリンク構造が失われていた。ただし、これはテキスト化の際に生じた問題かもしれず、Safariの画面上でも参照できないという意味ではない。一方、Fisica Wikiでは原文の章構成や情報量を保持し、数式、脚注、参考文献、DOI、ISBN、典拠識別子などを再現している。科学史の記事に求められるのは、文章が読めることだけでなく、記述の根拠をたどり、検証できることだからだ。

もっとも、今回のFisica Wikiの整備作業がすべて同じ価値をもつわけではない。専門用語の正確な翻訳、数式や参考文献の保持には大きな意味があるが、国旗の表示、ナビゲーションの開閉、姉妹プロジェクトのロゴなどは、主として閲覧性や体裁の問題である。後者にかなりの時間を費やしたのも事実だ。また、Fisica WikiもWikipediaを翻訳したものであって、記述のすべてを独立に検証したわけではない。この限界は明確にしておく必要がある。

結局、自動翻訳が高度化したことで、「日本語に翻訳されている」という事実だけでは、独立した翻訳サイトの存在理由として弱くなったのである。その一方で、専門的に適切な日本語への編集、数式の正確な再現、出典の追跡可能性、継続的な訂正と改訂には、依然として価値がある。Safariの翻訳は、その場で外国語の情報を理解するための優れた道具であり、Fisica Wikiは、科学史の知識を日本語の資料として蓄積する試みである。

今回の比較から、Fisica Wikiの目標は、単なる「外国語版Wikipediaの日本語化」ではなく、「原文の豊富な情報を保持し、典拠を追跡できる、専門的に信頼性の高い日本語の科学史資料を構築すること」に置くべきだと考えるようになった。自動翻訳の発達は、この仕事を無意味にしたのではなく、翻訳そのものから編集と検証へ、その価値の中心を移したのである。

2026年10月26日月曜日

物理学者(3)

物理学者(2)からの続き


図:ラマン・ホイヘンス/スレーター・ゾンマーフェルト(Wikipediaから引用)

前回の調査結果で,日本語版が各国語平均より圧倒的に少ないものから順に翻訳してFisica_Wikiに加えていく作業を始めることにした。そのためのウォーミングアップとして,これまでに作業を済ませてきた(各国語版の代表点である),ガリレオ・ガリレイ,アイザック・ニュートン,ジャン・ペラン,オットー・ハーン,のテンプレート見直しなどに取り掛かったところこれらはスイスイとすすんだ。ところがです。次の候補であったチャンドラセカール・ラマンでつまずいてしまった。

ChatGPTは日本語訳を頼まれたら抄訳ですまそうとした。あわてて「そうではありません,全文訳です」と指示したところ,抄訳をベースとした修正がはじまった。次から次にバージョン10まで進んでも終らないので「さすがになんとかしてよ」と文句を言った。

そうすると「ごめんなさい」と謝る。「最初から全訳します」とのことで,安心していたら,またまた同じループに迷い込んだ。どこかで見た風景だ。昔の画像生成とか,家人がメロディーからアンサンブルスコアへの編曲を頼んだときと同じだ。AIのヤルヤル詐欺のループに嵌まったのである。

仕方がないので,ChatGPTはやめて,Claudeに先ほどのバージョン10を投げたら,一瞬で全訳ができてしまった。なんだかなあである。しかしChatGPTのプロジェクトにはこれまでのテンプレート修正の経験があるので,それはそれで活かす必要がある。しばらくは,Claudeで全訳したものをChatGPTに投げて,テンプレート修正するというルーチンで行くことにした。

それでも昨日は4件も進んだ。なかなかの効率である。これがそのまま日本語版Wikipediaに反映できないところがもどかしい。それにしても,ホイヘンスはあらためてすごい人だったと思う。日本でももっと再評価されてもいいのではないか。

                 no  en   av    ja  ja/av  ja/en
チャンドラセカール・ラマン✓  51 46081 10349 714   7%  2%

それぞれの言語版のwikitextサイズと日本語版がみすぼらしいことを示すテーブル。

2026年10月25日日曜日

Wikipediaの翻訳


図:星空の書斎と孤霊の知恵(ChatGPTによる)


物理学者(1)・物理学者(2)からの続き

AI環境支援によるプログラミング開発の件である。Koshix Timelineが一段落して,HanjaLensの作業もスローダウンした。KahadehonNewsはまだ緒についていないので,Fisica_Wiki の整備を再開した。

いまのところ,ガリレオ・ガリレイ(伊),アイザック・ニュートン(英),オットー・ハーン(独),ジャン・ペラン(仏),アルフレッド・ランデ(独+英)が訳出済みで,湯川秀樹(日),朝永振一郎(日),南部陽一郎(日)が移植済みだ。

それ以外に,日本語版をそのまま仮に埋め込んだのが,アルバート・アインシュタイン,アーネスト・ラザフォード,エルヴィン・シュレーディンガー,エンリコ・フェルミ,ジェームズ・クラーク・マクスウェル,チャンドラセカール・ラマン,ニールス・ボーア,ハンス・ベーテ,ポール・ディラック,マイケル・ファラデー,マックス・プランク,マックス・ボルン,マリー・キュリー,リチャード・ファインマン,ルートヴィッヒ・ボルツマン,レオ・シラード,ロバート・オッペンハイマー,ヴェルナー・ハイゼンベルク,ヴォルフガング・パウリ(参考:https://nucleus.sakura.ne.jp/wiki/index.php/特別:ページ一覧)

アルフレッド・ランデは本家の日本語版Wikipediaにはないので,翻訳版を新設しようとしたところ,ChatGPTに注意された。確かめてみると,Wikipedia:翻訳のガイドラインは思いのほか面倒なことになっていた。「機械翻訳を過度に使用した記事は削除されるべきである」なのだと。さらに輪をかけて,「Wikipedia:大規模言語モデルの利用」では,「LLM等による生成が強く疑われる記事は、特段の事情が認められない限り、削除の対象となります」ときた。

ヤル気をそがれることこのうえない。そこで,Claudeに意見書(wikitext形式)を作ってもらった。

Q(koshix):
たいへん複雑なので以下のガイドラインのポイントを整理してください。LLMチャットを使って日本語に欠落している記事の整備作業したいのですが,上記ガイドラインは古い機械翻訳が前提のようでとても窮屈に感じます。なにかうまい方法はないですか。

出力をそのまま、あるいは軽微な修正だけで投稿することは「絶対に」禁止とされています。ここが不自由なのですね。いまどきのLLMだと下手に人間が訳出するよりよほど周辺情報もチェックしてくれるので,精度が高くなっているはずです。機械的翻訳であふれてしまう危惧はわかりますけど,日本語版Wikipedia全体の質や量がみすぼらしいので,困っています。

A(Claude):
ルール側の事情
(1) 検証コストの非対称性
LLMの出力が平均的に人間の訳より正確でも、誤りの所在が分からないことが問題である。ガイドラインが引く研究も、流暢な機械翻訳ほど誤訳の見落としが増えると示している。日本語版は編集者が少なく、大量投稿を検証する人手がない。そのためコミュニティは、平均の質より最悪ケースの流入防止を優先している。
(2) 「周辺情報のチェック」は諸刃の剣
LLMが文脈を補って訳を良くする能力は、出典にない情報を紛れ込ませる能力と表裏一体である。翻訳部分は原文と突き合わせれば済むが、補われた情報は一つずつ裏取りが要る。人間の確認作業は結局減らない。
(3) ライセンスの不確定性
品質とは別の法的論点である。LLM出力のライセンス適合性が未整理だという問題は、技術の進歩では解消しない。

それでも打てる手
(1) ルールの実質要件を満たす
削除基準はガイドラインではなく削除の方針(G-3、ケースH)にあり、判断対象は「過度な使用」や「生成が強く疑われる」ことである。LLMを読解・訳案・照合に全面活用しても、最終文を自らの判断で書き直し、出典を確認していれば、それは自分の翻訳である。よい訳案を土台に推敲すれば、ゼロから訳すより速く質も高い。禁止されているのは流し込みであって、道具として使い倒すことではない。
(2) ルール自体の改正を提案する
これが本筋だろう。英語版は2026年3月、翻訳者が正確性を確認できることを条件に、LLM翻訳を例外として認めた。日本語版でも、「原語を読める翻訳者が全文を原文・出典と照合したと要約欄で宣言すれば、LLM訳文をベースとしてよい」といった条件付き解禁を、井戸端やガイドラインのノートで提案する余地がある。日本語版の質と量への危機感は、他の編集者も共有しているはずである。
(3) 実績で示す
提案に説得力を持たせるには、上の条件で作った高品質な翻訳記事を、LLM利用を開示したうえで積み上げるのが有効である。検証済みならこの水準になるという実例があれば、議論は抽象論で終わらない。


ブログで先に論点を公開し、反応を見てから井戸端に出すという順序もありうる。
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== 翻訳における大規模言語モデル(LLM)訳文の条件付き利用について(提案) ==
いつもお世話になっております。[[Wikipedia:翻訳のガイドライン#機械翻訳|WP:MACHINE]]の運用について、条件付きの見直しを提案したく、ご意見を伺えれば幸いです。

=== 背景 ===
* 現行の翻訳のガイドラインは、機械翻訳の出力をそのまま、または軽微な修正のみで投稿することを禁じ、機械翻訳は「参考程度」にとどめるよう求めています。この方針は、2022年の[[Wikipedia:削除の方針#G-3|削除の方針ケースG-3]]の新設と、コンテンツ翻訳における機械翻訳の廃止を経て確立したもので、低品質な翻訳記事の大量流入を防ぐうえで大きな役割を果たしてきたと考えます。
* 一方、現在の大規模言語モデルによる翻訳は、当時想定されていたニューラル機械翻訳と比べ、文脈理解・訳語選択・文体の点で大きく性質が異なります。原語を読める翻訳者が十分に照合すれば、人手のみの翻訳と同等以上の品質を、より短時間で得られる場面が増えています。
* 英語版では2026年3月に、LLMによる記事内容の生成・書き換えを原則禁止とする一方、他言語版からの翻訳については、翻訳者が正確性を確認できる能力を持つことなどを条件に、LLMの利用を例外として認めるガイドラインが合意されました([[:en:Wikipedia:Writing articles with large language models]])。
* 日本語版には、多数の言語版に存在しながら日本語版に欠けている重要項目が依然として多くあります。検証可能性を損なわずに翻訳の担い手と速度を増やす手段として、条件付き解禁を検討する価値があると考えます。

=== 提案内容 ===
次の条件をすべて満たす場合に限り、LLMの訳文を翻訳のベースとして用いることを認める。

# '''翻訳者の能力''':翻訳者は翻訳元の言語を読解でき、訳文の正確性を自ら判断できること。
# '''全文照合''':投稿前に訳文の全文を原文と照合し、誤訳・訳抜け・原文にない付け足しがないことを確認すること。
# '''出典の確認''':翻訳元で脚注の付いた記述について、少なくとも主要な主張については出典が実在し、記述を支持していることを確認すること。確認できない記述は訳出しない。
# '''生成の禁止''':LLMに原文にない情報・出典を追加させないこと。翻訳者自身による加筆は、翻訳とは別の編集で、出典を付けて行う。
# '''推敲''':日本語版の文体と表記の慣行([[Wikipedia:スタイルマニュアル]]等)に沿って推敲すること。
# '''開示''':要約欄に、従来の翻訳元・版指定に加えて「LLM補助翻訳・全文照合済み」の旨を記載すること。
# '''責任''':内容とライセンス適合性の確認について、翻訳者が全面的に責任を負うこと。

条件を満たさない投稿には、従来どおりケースG-3および[[Wikipedia:削除の方針#ケースH|ケースH]]を適用します。

=== 想定される懸念について ===
; 検証の負担が増えるのではないか
: 開示を義務とするため、LLM補助翻訳の追跡と重点確認がしやすくなります。現状では、開示されないまま利用されている可能性のある訳文を見分ける手段が乏しく、開示の制度化はむしろ検証を容易にすると考えます。
; 低品質な大量投稿を招くのではないか
: 全文照合と出典確認を条件とし、違反には既存の削除基準をそのまま適用します。必要であれば、試行期間中は1利用者あたりの新規作成数に目安を設けることも考えられます。
; ライセンス上の問題
: 出力の権利の扱いはサービスごとに異なるため、利用規約上の適合性確認は現行どおり翻訳者の責任とします。適合性について特定のサービスを公認する趣旨ではありません。

=== 進め方の案 ===
# 本井戸端で方向性についてご意見を伺う
# 賛同が得られれば、[[Wikipedia‐ノート:翻訳のガイドライン]]でWP:MACHINEの具体的な改定文案を議論する
# 一定期間(例:6か月)の試行運用ののち、運用状況を検証して本採用を判断する

ご意見・ご批判をいただければ幸いです。--~~~~

2026年10月24日土曜日

村上龍


図:村上龍(朝日新聞の写真に基づくChatGPTによる生成イメージ)


テレビから村上龍の訃報が流れてきた。えっ。まだ若いのに(自分より2学年上,彼は1969年に高3)。松井は巨人の監督になるし(微妙),奈良の鹿の連続殺人(鹿)事件は起こるし(石子詰),毎日があっという間に過ぎていく。はやいはやい。

村上龍の「限りなく透明に近いブルー」が芥川賞を取ったのは1976年。自分は修士1年で,本屋で文芸春秋を立ち読みしたかなんだかで,ざっと目を通したけれどそんなに面白くなかった。てっきり,武蔵野美大の線が細い芸術青年だろうとイメージを膨らませていたのだが,登場した本人は全く違っていた。

自分の本棚には,コインロッカー・ベイビーズ,愛と幻想のファシズム,他が並んでいるが,この2冊が圧倒的によかった。五分後の世界,半島を出よ,希望の国のエクソダス,歌うクジラはそれぞれSFのつもりで読んだけれど,自分の期待値が大きすぎて残念な空回りをしていた。テーマは良いのだから,前者2冊のような密度と構成で書かれたものを読みたかった。

村上春樹と村上龍は全然違うのである。村上龍は社会=世界をみているのだ。村上春樹はいくら文学を標榜してアンダーグラウンドで卵がぶつかっていても,ノルウェーの森のせいかなにかわからないけど,ベクトルが違うので全く読む気がせず,読んだことのない作家なのである(完全にkoshixの偏見です)。訳本の,熊を放つ(ジョン・アーヴィング),ニュークリア・エイジ(ティム・オブライエン)などはもちろん面白かった。

・・・小林信彦も亡くなったのか。オヨヨ。


2026年10月23日金曜日

AI公共メディア構想


図:未来都市のホログラム情報空間(ChatGPTによる)


Q(koshix):
衰えつつある新聞テレビに変わる国民メディアとして,生成AIエージェントを核にする「おはようKAMEKIX」のような構造をベースにできないか考えています。

生成AIの利用は,日本では遅れています。しかし,今後さらに普及すれば,すべての人々がAIチャットボットに毎日,頻繁にアクセスするようなこともおこるでしょう。スマホのSNSの使い方と同じレベルです。ところで,このようなPULL型の情報入手では自分の興味関心によるタコ壺的な環境ができ,さらには,アルゴリズムによるエコーチェンバーがこの空間全体を支配することになります。

そこで,なんらかのPUSH型の情報提供が必要だと思います。そこに自分の興味に即した一定のカスタマイズが可能になり,さらに,提供された情報(広義のニュース)への問いかけをヴォイスで簡単に実現できれば,万人のための半分共通の基盤となるニュース,半分各自の興味に即したニュース,それぞれについての認識を深める仕組みが統合された,国民統合機能を維持する新しいメディアができるのではないかと思います。

複数のこうしたメディアが立ち上がれば,それが,現在の新聞テレビを代替する可能性があるので,いまのメディア企業が先鞭をつける動機づけにもならないでしょうか。

「おはよう○○」という体裁で,テキスト+画像+動画のミックスした主要ニュース(政治,経済,社会,文化,科学技術,生活)が,共通部分の核としてプッシュされます。自分がサブスクライブしたい個別詳細分野(設定可能)のRSSフィード的なニュースがこれに加わります。個々の記事にはボタンがあって,ここで,対話的により深い知識を得ることができます。それらの記事内容はすべて何らかのファクトチェックがなされている必要がありますが,これがもとの生成AIの基盤技術で実現できるのかがひとつの鍵かも知れません。

わたしの言いたいことはわかりますか?


A(ChatGPT + Claude):

AI公共メディア構想 ――共通の議題と対話可能なニュース空間を再構築する

                                                                                            第2版 2026年8月

1.何が失われようとしているのか

新聞とテレビの衰退によって失われつつあるものは、ニュースそのものではない。ニュースの量はむしろ増えている。スマートフォンを開けば、ニュースサイト、SNS、動画、検索、個人配信、生成AIから、ほとんど無限の情報を取得できる。

失われつつあるのは、社会の多数が、自分で選択しなくても、毎日ある程度同じ重要事項に接触する仕組みである。

かつて新聞の一面や総合面、テレビの定時ニュースには、「あなたが関心を持っているかどうかとは別に、今日はこれが重要である」と情報をPUSHする機能があった。その編集判断はもちろん完全でも中立でもなかった。新聞ごとの差もあり、横並び報道や記者クラブ依存などの問題もあった。

それでも、異なる政治的立場や生活環境にいる人が、「今日はこの地震が起きた」「国会でこの問題が議論されている」「景気についてこの数字が発表された」「海外でこの事件が起きている」という一定範囲の議題を共有する装置として働いていた。この機能が弱くなっている。

Reuters Instituteの2026年調査では、48市場平均でソーシャルメディア・動画ネットワークからニュースに接する人が54%となり、報道機関自身のサイト・アプリの51%を初めて上回った。ただし日本は、なお報道機関サイト・アプリ側が優位な市場の一つである。

一方、AIチャットボットからニュースを得る人は48市場平均で前年の7%から10%へ増え、35歳未満では16%に達した。AIニュース利用者が最も評価している機能は「追加質問ができること」で42%である。

情報の入口が、新聞・テレビからSNSへ、さらにAIへ移る流れはすでに始まっている。問題は、その次の情報環境をどのような原理で設計するかである。


2.PULLだけの情報社会には構造的な欠陥がある

生成AIは優れたPULL型メディアである。利用者が、「今日の日銀のニュースを教えて」
「量子コンピュータでは何が起きているか」「自分の地域のニュースは」「この法案にはどんな問題があるか」と尋ねれば、その関心に沿って情報を提供できる。これは従来の新聞やテレビにはなかった大きな進歩である。

しかし、そこには逆説がある。AIが利用者の要求に忠実になればなるほど、利用者が問いを立てなかった世界は見えなくなる。さらに過去の質問、閲覧履歴、属性、クリック行動などからAIが関心を推測するようになれば、SNSの推薦アルゴリズムと同じ問題が別の形で再現される。

利用者は非常に快適な情報環境を得る。しかし、その環境は次第に本人の関心を反射する鏡になる可能性がある。重要なのは、これを単純な「エコーチェンバー問題」だけとして捉えないことである。人間はもともと選択的に情報を求める。社会的な所属、友人関係、政治的価値観も情報選択に作用する。アルゴリズムだけを修正すれば分断が消えるわけではない。

だからこそ必要なのは、PULLの性能をさらに高めることではなく、その情報環境の中に意図的なPUSHを残すことである。


3.提案――「おはよう○○」という新しい日次メディア

提案するのは、生成AIを核とした日次型の公共メディアである。仮に「おはよう○○」と呼ぶ。毎朝、スマートフォン、タブレット、PCなどに、一日のニュースパッケージが届く。内容はテキストだけではない。短い文章、写真、図表、音声、必要に応じて動画を組み合わせる。しかし最も重要なのは形式ではなく、内容を二層に分けることである。

(1)共通部分
政治、国際、経済、社会、災害、科学技術、文化、生活などから、その日の社会を把握するために重要と編集部が判断した情報をPUSHする。暫定的な標準として毎朝12項目程度を考える。重大事件の多い日は15項目、少ない日は10項目でもよい。重要なのは12という数字そのものではない。個人化によって、この公共部分が押し出されないことである。

(2) 個人部分
利用者自身が選択した分野から、最大6項目程度を追加する。たとえば、科学技術 2,教育 1,地域 1,文化芸術 1,自由選択 1,と本人が枠を決めてもよい。したがって初期標準はおおむね「共通2:個人1」となるが、これは固定比率ではない。

原理は、共通部分には下限を保証し、個人化部分には上限を設けることである。個人ニュースを登録しない人には共通部分だけを届ければよい。


4.このメディアが共有させるのは「意見」ではなく「議題への接触」である

ここで「公共」という言葉の意味を限定しておく必要がある。目的は、国民に同じ認識や同じ政治的判断を持たせることではない。むしろ、それは避けなければならない。守りたいものは、社会について意見を異にする人々が、少なくとも一部では同じ問題の存在を知っている状態である。

AさんとBさんが同じ法案を見て、Aさんは賛成する。Bさんは反対する。これは民主社会として正常である。より深刻なのは、Aさんの情報世界にはその法案しか存在せず、Bさんの情報世界には別の事件しか存在しない、という状態である。

したがってAI公共メディアが目標とするのは、「共通の結論」でも、「一つの正しい世界像」でもない。議題への部分的な共通接触である。このためにこそPUSHが必要になる。


5.PUSH部分は人間が責任編集する

この点は構想上の重要な線引きである。毎朝の共通ニュースを、生成AIに全面的に選ばせるべきではない。「何が社会的に重要か」は、単純な計算問題ではない。閲覧数の多さと公共的重要性は一致しない。

静かに進行している人口構造の変化が芸能ニュースより重要な場合もある。少数者だけに直接関係する法改正が、社会全体にとって重大な場合もある。まだほとんど報道されていない科学的・社会的変化を、一社だけが重要だと判断することもある。

したがって共通ニュースについては、最終的な選択責任を人間の編集主体が負う。AIは、情報収集、資料整理、候補抽出、重複検出、背景資料探索などを補助してよい。

しかし、「今日、この社会にこの12項目を提示する」と決定した主体が誰なのかを曖昧にしない。これはAIを使わない場所を明示することで信頼を作るという考え方である。

欧州の公共サービスメディアでも、推薦を単純な利用時間最大化ではなく、編集者が評価する公共サービス価値と組み合わせる試みが行われている。Sveriges Radioでは編集者による「News Values」を推薦に反映する仕組みがすでに実験されている。


6.AIはニュースの「後ろ」に置く

共通部分では人間の責任を強くする一方、各ニュースの背後には生成AIを置く。ここで、このメディアは新聞やテレビから大きく離れる。

たとえばニュースを聞いていて、「日銀が政策金利を変更しました」と流れたとする。利用者はその場で、「ちょっと待って。なぜ変更したの?」と話しかける。ニュースは停止する。AIが答える。

さらに、「住宅ローンにはどう影響する?」「反対意見は?」「過去にも似たことはあった?」「その0.75%という数字の出典は?」「もっと簡単に説明して」と続けられる。

質問が終われば、「続けて」と言えば朝のニュースへ戻る。これは従来のラジオでもPodcastでも、通常のチャットボットでもない。PUSHされたニュースから、その場でPULL型の知識探索へ移行し、またPUSHへ戻る。ここにこのメディアの重要な新規性がある。

Reuters Instituteの調査で、AIニュース利用者の42%が追加質問機能を利用し、利用動機としても「より深い説明」を求めることが最多であることは、この方向と整合する。


7.音声は読み上げ機能ではなく、情報空間を移動するインターフェースである

音声は付加機能ではない。この構想の中心的インターフェースになり得る。音声だけでは出典を一覧表示できないという問題はある。したがって音声ですべてを完結させる必要はない。基本原理は、耳で探索し、必要なら目で検証する。である。

「その数字はどこから?」と聞けば、「本日公表された日本銀行の資料です。画面に原資料を表示します」と応答する。運転中など画面を見られない場合には、発行主体、文書名、発表日まで読み上げる。後から、「さっきの日銀資料を保存して」と指示できる。

MicrosoftのCopilot Dailyはすでにニュースと天気を朝に音声で届け、許諾されたReuters、Financial Timesなどの情報源を用いる方式を採っている。Particleもニュースの要約、個人化、音声、記事についての質問を一つのサービスに統合している。したがって個々の技術要素はすでに存在している。

未確立なのは、それらを公共的なPUSH原理と一体化することである。


8.個人化は「AIに自分を推測させる」のではなく「編集方針をAIへ委任する」

個人ニュースにも別の危険がある。20分野の情報から6件だけをAIが選ぶなら、そのAIは非常に強い編集者になる。そこで、通常の推薦サービスとは発想を逆転させる。

原則として利用履歴から、「あなたは最近この思想に関心があるようです」とAIが人物像を作り、勝手にニュースを増減させる方式を中心にしない。利用者自身が、「宇宙2、教育1、奈良1、美術1、自由枠1」というように編集方針を指定する。AIはその委任範囲内で選ぶ。

そして各ニュースには、「なぜこの記事が選ばれたのか」を説明できるようにする。たとえば、「あなたが『量子技術』を2枠登録しており、この24時間に登録情報源から重要な更新が3件あったため、そのうち2件を選びました」と説明する。

したがって個人化とは、AIが本人の関心を秘密裏に推定する仕組みではなく、本人が自分の編集方針を明示的にAIへ委任する仕組みになる。利用者はいつでもその委任を変更できる。


9.共通ニュースの背後に「唯一の出来事データベース」を置かない

複数のAI公共メディアが存在すれば、媒体間の共通性をどう作るかという問題が生じる。ここで、一つの中央機関が、「今日はこれが一つの出来事である」とイベントIDを振る仕組みには慎重であるべきだ。出来事の切り出し自体が編集だからである。「外国人政策の変更」を一件とするのか、制度発表、対象人数、自治体反応、野党反応の四件とするのかによって、ニュース空間の見え方が変わる。

実際、ニュース業界にはIPTCのNewsML-G2やEventsML-G2など、ニュースやイベントを構造化して交換する標準がすでに存在する。したがって「出来事にIDを付ける」こと自体は新しい発想ではない。

目指すべきなのは、唯一の正しい出来事分類ではない。むしろ、各媒体が、何を根拠に、何を一つのニュースとして構成したのかを追跡できる状態*である。A社は資料a、b、cを「制度変更」という一つのニュースにまとめた。B社はa、bを「政策」、cを「自治体問題」として二つに分けた。その違い自体を残す。編集行為を消すのではなく、編集行為を可視化する。


10.共有するのは「真実の判定」ではなく、情報の来歴である

同じ問題はファクトチェックにもある。中央機関が、「確認済み]「争いあり」「誤り」というラベルを一元的に付ければ、その機関が強力な真偽裁定者になる。逆に各社が独自判定すれば、一つの主張について評価が異なる場合がある。

この矛盾は消せない。したがって最初から引き受けるべきである。たとえば、A社:政府統計と自治体資料の双方で確認, B社:母集団定義が異なるため単純比較には問題あり,C社:当該数字を記事では採用せずという状態を許容する。

AIは、「これは確認済みの事実です」と断定する代わりに、「A社は二資料で確認しています。B社は統計定義の違いを問題にしています」と答える。

利用者体験としては、一つの明快な正解を返すAIより煩雑になる。しかし、ニュースには本来その煩雑さが存在する。AI公共メディアは、それを消して滑らかな回答にするのではなく、必要な場合には不一致を不一致のまま提示する能力を持つべきである。この点は重要である。

2025年のBBC・EBUによる22公共メディア、18か国、14言語、3000件超のAIニュース回答の評価では、45%に重大な問題が少なくとも一つあり、31%に重大な出典上の問題、20%に重大な正確性の問題があった。現在の汎用AIに「ニュースを正しくまとめて」と依頼するだけでは、このメディアの信用基盤にはならない。


11.公共参照層は必要だが、すべてを無料公開するとは限らない

各媒体の記事、一次資料、発言、統計、訂正などの関係を追跡するためには、何らかの共通参照機構がある方が望ましい。ただし、ここで「すべての主張と根拠をオープンデータにする」と単純化してはいけない。

報道機関の商品価値は文章表現だけにあるのではない。独自取材によって、「まだ誰も知らなかった事実を発見する」こと自体に大きな価値がある。独自取材による主張を即座に完全公開すれば、他社が取材費を負担せず利用できる。

逆に、現在の報道では、最初にスクープした社の情報が数時間後には他社記事へ吸収され、起源が見えなくなることもある。したがって参照機構は、設計次第で、取材をただ乗りさせる装置にも、誰が最初に取材したかを記録し、先行性を報いる装置にもなり得る。ここはまだ解決していない。

第2版の段階では、情報源、発表主体、公開時刻、記事の帰属、訂正履歴、引用関係などの来歴情報を共有可能にする一方、独自取材による内容の公開範囲・時期・利用条件には権利者が関与する、という程度に留める。「参照層はオープン、コンテンツは競争」という単純な二分法は採らない。


12.参照機構の統治は、この構想の中心問題である

もし媒体横断的な参照機構を設けるなら、誰がそれを運営するのかは技術問題ではなく制度問題である。政府が一元管理すれば、政治的介入の危険がある。巨大AIプラットフォームが管理すれば、ニュース空間の入口を再びプラットフォーム企業へ渡すことになる。既存大手メディアだけの共同体なら、新興媒体、地方媒体、フリーランス、市民ジャーナリズムなどを排除する可能性がある。

したがって、一主体による統治は望ましくない。学術情報のCrossrefが非営利の会員組織として多数の出版主体を結び、選挙された理事会によって運営されていることは参考にはなるが、ニュースでは政治的利害、速報性、取材競争がはるかに強いため、そのまま移植できるモデルではない。

少なくとも原則として、政府から独立し、特定プラットフォームから独立し、既存大手メディアだけにも支配されない統治が必要になる。具体的な法人形態や意思決定方式は、今後の制度設計課題とする。重要なのは、この統治問題を「後で考える運用論」へ追いやらないことである。


13.複数の「おはよう○○」が競争する

AI公共メディアは一つである必要はない。むしろ一つであってはならない。新聞社系、放送局系、通信社系、経済専門系、地域メディア系、新興独立系など、複数の編集主体がそれぞれの「おはよう○○」を提供する。

各社の共通12項目は完全には一致しない。それでよい。A社が一社だけ重要だと判断して報じた問題が、後に重大な意味を持つ場合もある。逆に全社が一斉に取り上げた問題が、数日後にはほとんど意味を持たなくなる場合もある。リアルタイムに「10社中9社が報道」といった重複率を競わせると、横並びを誘発する可能性がある。

したがって、媒体間の一致度を即時の編集目標にはしない。多元的な編集判断を残す。しかし、その判断を後から検証できるようにする。


14.編集判断そのものを事後的に監査する

これは従来メディアから一歩進めることのできる部分である。たとえば30日後、半年後、1年後に、その時点の共通ニュース選択を振り返る。問うべきなのは、「他社と同じニュースを選んだか」ではない。

たとえば、その時点で小さく扱った問題が後に重大化しなかったか。他社が扱わない重要問題を早期に発見できたか。社会的重要性の低い話題を過大に扱わなかったか。後から判明した事実によって、当時の記事をどう評価すべきか。を見る。

ここから、早期発見と重大な見落としを自己評価できる。もちろん「一年後の重要性」も完全に客観的ではない。したがって単純な数値ランキングにする必要はない。重要なのは、編集部が、「私たちは一年前に何を重要だと判断し、その判断はその後どう見えるか」を社会に説明する習慣を持つことである。

AI時代のメディアに必要なのは、記事単位の訂正制度だけでなく、編集判断そのものの説明責任かもしれない。


15.三つの難しい事例で構想を試す

この構想について、現段階で抽象的な「公共性」の定義を完成させる必要はない。むしろ難しい事例を通して壊してみるべきである。

事例1: 一社だけが報じているが、実は重要な問題

他社が扱っていないことを理由に共通ニュースから排除してはならない。各媒体は独立して12項目を選べる必要がある。後にその問題が重大化したなら、それは当該媒体の早期発見として評価される。これは「共通性」が「多数決」を意味しないことの試験になる。

事例2: すべての主要媒体が同じ誤報をした

媒体間の一致は真実を保証しない。したがって「何社が報じたか」を事実判定の根拠にはできない。一次資料、原データ、後続情報、訂正の来歴を追える必要がある。共通ニュース12社すべてが間違うことを、システム上の可能性として最初から認める。

事例3: 統計そのものの解釈が争われている

「失業率が改善した」という一文でも、定義、母集団、季節調整、比較期間によって解釈が異なる場合がある。その場合AIは一つの結論へ丸めず、「この統計からA社は改善と評価しているが、B社は別指標を重視している」と説明できなければならない。

これら三事例を処理できない設計なら、「公共性」という美しい理念を書いても意味はない。


16.成功指標は「長時間使わせること」ではない

このメディアは、SNS型のアテンション・エコノミーと異なる経済原理を目指す必要がある。共通ニュース12項目を30分かけて読ませる必要はない。むしろ、最重要ニュース数件は少し詳しく、それ以外は十数秒から数十秒、とし、約5分で一日の社会的状況を概観できるようにする。その後、個人ニュースへ進む。

興味のある日は一つのニュースについてAIと20分話してもよい。忙しい日は5分で終了してよい。したがって、平均滞在時間、無限スクロール量、クリック数を最上位の成功指標に置くべきではない。

理想的には、「5分で必要な情報を得てアプリを閉じた」ことも成功である。完全広告依存モデルは、この思想と緊張関係を持つ。広告を全面排除するかどうかは別として、利用者を長時間拘束するほど収益が増える構造への依存を減らす必要がある。


17.既存メディア企業にとっての事業機会

この構想は、新聞社やテレビ局に、「AIを導入して人件費を削減しましょう」と提案するものではない。むしろ逆である。

新聞社、放送局、通信社はすでに、記者、国内外の取材網、専門記者、映像・写真、過去記事、編集部、法務・訂正制度という高価な情報生産基盤を持っている。AIによって安くなるのは主として、その後ろ側である。

同じ取材資産から、通常記事、短時間要約、音声ニュース、利用者別の専門ニュース、初心者向け解説、専門家向け説明、対話型Q&Aを提供できる。

つまりAIの役割は、取材費をゼロにすることではなく、一回の取材から生まれる利用価値を拡張することにある。

日本新聞協会加盟紙の総発行部数は2025年10月時点で2486万8122部、前年比6.6%減となっている。従来の商品形態だけに依存することのリスクはすでに明瞭である。一方、AI企業側から見れば、ニュースは高品質な一次情報を継続的に必要とする。Reuters編集長も2026年7月、AIによるニュース利用について、無断利用が原報道の経済基盤を損なう危険とともに、帰属と正当な対価の必要性を強調している。

したがって既存メディアが持つ取材能力は、AI時代に無価値になるどころか、設計次第では再び戦略資産になり得る。


18.すでに部品は存在する。しかし統合原理が違う

この構想の個別要素には先行例がある。Particleは複数報道を束ね、要約、異なる観点、個人化、音声、記事への質問、出典表示を組み合わせている。Copilot Dailyは朝のPUSH型ニュースと音声を実装している。SmartNewsは許諾された媒体の記事を生成AIで要約し、出典媒体と元記事への導線を付ける「スマニューAIまとめ」を提供している。欧州公共放送では公共的価値を推薦アルゴリズムへ組み込む試みが進んでいる。

したがって必要な技術を一から発明する企画ではない。現時点で確認できる主要事例との違いは、それらを、公共的PUSH+限定された本人主導の個人化+対話型AI+人間の編集責任
+情報来歴の可視化という一つのメディア原理で統合する点にある。


19.第2版における八つの原則

現段階では、次の八原則にまとめられる。

(1)PUSHの原則
  利用者が検索しなかった重要情報にも接触する機会を、毎日意図的に作る。

(2)公共部分優先の原則
  共通ニュースには一定量を保証し、個人化ニュースには上限を設ける。暫定標準は「共通12+個人最大6」とする。

(3)人間編集責任の原則
  社会へ何をPUSHするかについて、最終責任を負う人間の編集主体を明確にする。

(4)本人主導個人化の原則
  AIが人物像を推測してニュースを選ぶのではなく、本人が編集方針を明示的にAIへ委任する。

(5)対話可能性の原則
  ニュースは完成した記事ではなく、背景、根拠、反論、歴史、一次資料へ対話的に進める入口とする。

(6)帰属と来歴の原則
  「唯一の真実ラベル」を中央で付けるのではなく、誰が何を主張し、何を根拠に検証・評価したのかを追跡可能にする。

(7)多元性の原則
  複数の「おはよう○○」が独立した編集判断で競争する。共通性を横並びによって作らない。

(8)独立統治の原則
  媒体横断的な参照機構を作る場合、政府、巨大プラットフォーム、既存大手メディアのいずれか一者による支配を避ける。

これらは完成した憲法ではない。今後、実際の事例と試作によって修正される暫定的原則である。


20.この構想が最終的に目指しているもの

この構想の出発点を見失ってはならない。目指しているのは巨大なニュース知識グラフを作ることではない。完璧なファクトチェック機構でもない。新聞をAIで安く作ることでもない。

出発点はもっと単純である。もし将来、人々が現在SNSを開くのと同じ頻度でAIを使うようになったとき、一人ひとりが「自分の知りたい世界」だけを見る社会にしてよいのか。という問いである。

それに対する暫定的な答えが、毎日一度、社会の重要な出来事にPUSHで接触する。
その上に自分の関心領域を持つ。分からないことはその場でAIに尋ねる。疑わしければ根拠を確認する。別の見方があれば比較する。という情報習慣である。

新聞は紙という物理的なパッケージによって、偶然にも共通情報空間を作った。テレビは放送時間という制約によって、それを作った。AIにはそのような物理的制約がない。だからこそ、放置すれば完全な個人化へ向かう可能性がある。

そこで逆に、個人化できる技術の上に、意図的に公共的な非個人化領域を設計する。これがAI公共メディアという構想の原点である。ただし、その公共領域を中央で一つに決めてはいけない。複数の編集主体が競争し、異なる判断を示し、それぞれの判断の根拠と来歴を後から検証できるようにする。

したがってこの構想は、「全国民に同じニュースを見せるメディア」ではない。多元性を保ちながら、それでも社会の構成員が一定範囲の公共的議題に出会い続けるためのメディアである。そして、そのニュースを一方的に受け取るだけでなく、その場で問い返せる。

おそらくここが、新聞、テレビ、SNS、検索、現在のAIチャットボットのいずれとも異なる、このメディアの最も本質的な特徴である。ニュースは「配られる完成品」から、社会について問い続けるための共通の入口へ変わる。

その入口を誰が、どのような原則で作るのか。これがAI時代の次のメディアをめぐる問題である。

2026年10月22日木曜日

PHPの脆弱性


図:夜明けへ導く幻想のアトリエ


10月21日,PHPのセキュリティチームが,AIを使って発見されたPHPの2つの重大なセキュリティホールPHP2Shellへの至急対応を要請した。W3Techsによれば,世界のWebサービスの7割がPHPを使っているらしい(PHP 69-70%,JavaScript (Node.jsなど) 8%,Ruby 7%,Java 5.5%,Scala 5%,ASP.NET 4%)。コドモンも影響をうけてサービスが停まったとのこと。

自分のさくらインターネットのレンタルサーバ スタンダードはどうなっているかと調べると,23時からメンテナンスに入るということで慌ただしかった。Fisica Wiki がMedia Wikiを使っているのでど真ん中, Koshix Timeline は主な機能はJavascriptで書かれているが,一部補助的にPHPが混じっている。さくらのレンタルサーバーのPHPバージョンは危険な 8.3.32だった。

ChatGPTに相談し,PHPはさくらのメンテナンス待ち,MediaWikiは1.45.3と少し古いままなので,助言に従って 1.45.6にバージョンアップした。黙って指示されるがまま,ロボットのように作業し,現状のバックアップ,sqlのバックアップ,新しいバージョンの展開,旧データの移行など,30分あまりで更新作業は完了した。

夜が明けて,PHPのバージョンを確かめようとしたが,さくらのコントロールパネルはお知らせモードのまま。しかし,sshログインは出来て,CLI版のPHPは8.3.36になっていた。その後,Web版もOKであることが確認できた。やれやれ。

昔,卒論で学生さんがSQLを使う場合にPHPを使っていたことはあるのだけれど,自分では見本をコピペすして指示するだけで,まともに文法をさらったこともない。そもそもSQLが嫌いなのだ。本物のデータベースは何かあったときに二進も三進も行かなくなるので,できるだけデータは単純なテキストのままで保持したい。そもそもSQLパスワードを忘れてしまうのである。Koshix Timeline もそのような趣旨でテキストデータによる開発の方向を指示してきた。


2026年10月21日水曜日

虚勢



図:日米の政治集会(ChatGPTによる)


今日の菅野完のYouTube

・新聞の最大の利点は,読みたくない記事(興味のない)が目に入ること(注)

・トランプや高市を支持してしまう人々の共通点は,「自分は弱者ではないといいたがる人」だ。左右,上下,男女などに関係なく「虚勢」という言葉がキーワードになる。
虚勢:「ボクこれだけ弱いものいじめできるの,ボクが弱者だと思わないでよ・・・」

・センスとは「知識と経験」,強さとは「助けを求められること」,という名言を残して終った。


注:これは本当にそう思う,本屋に行くと,毎回新たな発見があって読みたいと思う本がたくさん涌いてくる。最近は,体力がないので,買わずにそのままになるのだけど。あるいは,Kindle Unlimited にあるかどうかチェックするだけだ。

2026年10月20日火曜日

プロンプト逆推定



図:壺はどのようにでき上がったのか?(Geminiによる)

Q(koshix):
以下のような結果(多分,koshixによる編集も加わっている)が出ました。いったいもとのクエリープロンプトはどんなたぐいのものだったでしょうか。一字一句再現できないことはわかっていますので,もっともらしい例をいくつかみせてください。
(注:添付するのはAIの未来シナリオの年表リスト)

A(ChatGPT):
できます。この文章の元になったプロンプトは、単なる「AIに関する重要文献を紹介してください」ではなく、「AGI・シンギュラリティの到来時期と、その後の社会・文明の未来を予測した主要文献を、海外と日本に分けて年代順に整理してください」という種類のものだった可能性が高いと考えます。

さらに重要なのは、この一覧が「AIの未来についての文献」を広く集めたものではなく、AGIの実現、知能爆発、技術進歩の加速、社会経済への影響、制御の問題という特定の関心に沿って選ばれていることです。

以下、完成文だけから元のプロンプトを逆推定します。提示するのは実際の履歴の復元ではなく、観察された文章を生成しうる仮説です。

1.もっともらしい元プロンプト:5つの候補

候補1.35%:AGI・シンギュラリティ未来予測の主要文献一覧,最有力。完成文との適合度が高い。

AGIやシンギュラリティの到来と、その後の未来を予測・論じた重要な著作、論文、レポートを、1990年代から2026年まで年代順に整理してください。海外と日本を分け、著者、発表年、主要な主張、影響力を簡潔に紹介してください。

候補2.25%:知能爆発・文明加速論の系譜,文献の選択傾向とよく一致する。

AIの能力向上が自己加速し、経済成長や科学技術、社会制度を大きく変えるという未来予測は、どのように発展してきましたか。ヴィンジ、カーツワイルからAI 2027、AI 2040まで、重要文献と日本での議論を年代順に整理してください。

候補3.20%:未来予測の比較・検証に必要な資料収集,出版物だけでなく政策報告書や予測モデルが含まれる点を説明できる。

AIやAGIの発展について、過去の未来予測から最新の予測までを比較検討したいと考えています。代表的な予測文献を、楽観論、リスク論、経済的影響、地政学、政策提言を含めて選び、欧米と日本に分けて紹介してください。

候補4.12%:AI未来論の読書・研究ガイド,書誌紹介という形式には合致するが、文献の専門性がやや高い。

人工知能が人類の未来をどう変えるかについて、本格的に学ぶための必読文献を紹介してください。古典から2026年の最新資料まで、書籍だけでなく論文や政策レポートも対象とし、海外と日本の代表例をそれぞれ年代順に挙げてください。

候補5.8%:AI未来予測の信頼性や偏向を批判的に検討するための準備,研究の目的としてはありうるが、完成文には批判的評価がほぼない。

AGI、超知能、知能爆発に関する未来予測の妥当性を検討したいので、重要な予測を年代順に集めてください。主流の予測だけでなく、AI安全性、国家戦略、経済成長、雇用などの見通しも含め、日本語の代表的資料も整理してください。

割合は相互に区別した仮説に対する私の暫定的な主観評価であり、統計的に推定された確率ではありません。文面からは指定語句の有無まで確定できません。

2.なぜ、そう推定できるのか

この文章には、元の質問の性格を示す特徴がいくつかあります。

第一に、AI技術史ではなく、AI未来予測の思想史になっています。
例えば、チューリング、マッカーシー、ミンスキー、ヒントン、ルカン、サットンなど、AIの技術史に不可欠な人物がほとんど登場しません。代わりに選ばれているのは、ヴィンジ、カーツワイル、ボストロム、コトラ、アッシェンブレナー、Kokotajloらです。つまり、元の問いは「AIはどう発展したか」ではなく「AIによって未来はどう変わると予想されてきたか」だった可能性が高い。

第二に、予測内容の実証性よりも、予測を発表した文献の重要性が重視されています。
一覧には、SF作家の論考、哲学者の著作、定量的予測モデル、政策提言、未来シナリオが混在しています。これは「科学的に正しい未来予測を教えてください」という質問より、「重要な未来予測の文献を網羅的に集めてください」という質問に適合します。

第三に、2024年以降の選択が際立っています。
特に、Situational Awareness、AI 2027、AI 2040: Plan A と続く点です。この並びからは、単なるシンギュラリティ思想史ではなく、近年の急速なAI能力向上を背景とした「知能爆発」への関心が読み取れます。

第四に、海外文献と日本文献が明確に分離されています。
これは自発的な編集もありえますが、プロンプトに「日本における議論も含めて」という追加指定があった可能性を高めます。とりわけ、bioshokの文献が選ばれている点は興味深い。国際的な標準的文献一覧を単純に日本語化したのではなく、日本語圏の最近の議論を補うような探索が行われたことを示唆します。

3. 一度の質問ではなく、複数回の対話だった可能性

私は、こちらもかなり有力だと考えます。例えば、次のような対話です。
最初の質問
「AGIやシンギュラリティの将来を予測した重要な文献を年代順に挙げてください。」
追加質問1
「2024年以降の新しい予測が抜けています。AI 2027やAI 2040も加えてください。」
追加質問2
「日本人による著作や日本語の予測資料も、別にまとめてください。」
追加質問3
「bioshokの予測や日本政府・民間シンクタンクによる予測も入れてください。」
最終編集
「年、タイトル、著者、概要だけにして、年代順の簡潔なリストにしてください。」

この仮説を支持するのは、日本語文献の箇所で年代順が崩れていることです。2016年の後に2015年の資料が置かれています。ただし、これは途中で文献を追加した証拠にはなりません。一度の生成でも起こる誤りです。

4.ChatGPTによる文章なのか

AIが生成または整形に関与した可能性は高いと思いますが、ChatGPT固有の文章だとは判定できません。その理由は、各項目の説明が似た型になっていることです。人物や資料の属性を短く紹介し、その主張を要約し、最後に影響や意義を評価する形式です。

また、「理論的基盤を作った」「大きな話題となった」「日本語圏では数少ない」といった評価が、出典や比較基準なしに自然に挿入されています。生成AIによる概説文によく見られる特徴ですが、人間の編集でも起こります。

5.最終的な逆推定

私なら、元のプロンプトの趣旨を次の一文に圧縮します。

1990年代から現在までのAGI・シンギュラリティ・知能爆発について、技術的実現時期と、その後の経済・社会・文明への影響を予測した代表的な文献を、海外と日本に分けて年代順に整理し、それぞれの主張と重要性を簡潔に紹介せよ。

ただし、さらに一つ重要な留保があります。この一覧にAIリスク論が多いことをもって、元の質問者がAIリスクに強い関心を持っていたとまでは断定できません。AI未来予測という分野そのものに、リスク論者の著作が多いからです。

これは、あなたが以前提起した逆推定の問題にとって本質的です。完成文に現れた偏りには、少なくとも「質問者の意図」「AIモデルが持つ標準的な文献選択傾向」「対話途中の追加指示」「人間による事後編集」の四つの原因がありえます。

したがって、今回の文章からは、質問の主題は比較的高い確信で逆推定できるが、質問者の思想的立場や結論への誘導意図までは高い確信で推定できない、というのが私の評価です。

そして、この二つを区別することこそ、あなたが考えている「完成したAI回答からユーザーの意図を逆推定する」という研究課題の重要なポイントだと思います。

2026年10月19日月曜日

AIの未来シナリオ

AI-2027からの続き


図:花冠の女性と生命の象徴樹(ChatGPTによる)
   
Q(いったいkoshixはどんなプロンプトをいれたのだろうか・・・?):
 ・・・・・

A(これはChatGPTによるものだったのだろうか,あるいは・・・?):
  • 1993 — The Coming Technological Singularity (ヴァーナー・ヴィンジ): SF作家・数学者による論文。「技術的特異点」の概念を初めて明確に定式化し、以後の議論の出発点となった。
  • 2005 — The Singularity Is Near (レイ・カーツワイル): 収穫加速の法則に基づき、2045年頃の技術的特異点到達を予測。指数関数的進歩の楽観的ビジョンを提示し、大衆的に「シンギュラリティ」を広めた。
  • 2014 — Superintelligence: Paths, Dangers, Strategies (ニック・ボストロム): 哲学者による本格的なAIリスク論。超知能の実現経路と制御問題(アラインメント問題)を体系的に分析し、AI安全性研究の理論的基盤を作った。
  • 2017 — Life 3.0: Being Human in the Age of Artificial Intelligence (マックス・テグマーク): 物理学者による、AGI到来後の複数シナリオ(善悪さまざまな未来像)を描いた一冊。FLI(Future of Life Institute)創設者の視点。
  • 2018 — AI Superpowers: China, Silicon Valley, and the New World Order (李開復〈カイフー・リー〉): 米中AI開発競争の構図を、投資家・研究者の視点から分析。雇用への影響と地政学的競争を軸に論じた。
  • 2019 — Human Compatible: Artificial Intelligence and the Problem of Control (スチュアート・ラッセル): AI研究の重鎮による制御問題の論考。「目的関数を人間が完全に指定できない」という前提からAI設計の新パラダイムを提案。
  • 2020 — Forecasting Transformative AI with Biological Anchors (Ajeya Cotra/Open Philanthropy): 人間の脳の計算量を基準にAGI実現時期を確率的に推定した定量的レポート。以後の技術予測モデルの基礎資料として広く参照される。
  • 2021 — AI 2041: Ten Visions for Our Future (李開復・陳楸帆): AI研究者とSF作家の共著。各章が短編小説+技術解説エッセイの構成で、2041年の10のシナリオを描く。
  • 2021 — Final Report (米国国家安全保障AI委員会 NSCAI): 米政府への公式提言書。中国との技術競争、軍事応用、国家戦略としてのAI投資の必要性を論じた影響力の大きい政策文書。
  • 2024 — Situational Awareness: The Decade Ahead (レオポルド・アッシェンブレナー): 元OpenAI研究者による論考。2027年頃のAGI到達と、その後の急速な能力向上(intelligence explosion)を予測し、国家安全保障上の対応を訴えた。
  • 2024 — The Singularity Is Nearer (レイ・カーツワイル): 2005年著作の続編・改訂版。20年間の進展を踏まえ、予測を更新。より具体的な技術的マイルストーンを提示。
  • 2025 — AI 2027 (Daniel Kokotajlo, Eli Lifland, Thomas Larsen, Romeo Dean/AI Futures Project): 2027年前後の急速なAI進歩を月単位で描いたシナリオ予測。「Race」と「Slowdown」の2つの結末を提示し、大きな話題となった。
  • 2026 — AI 2040: Plan A (Thomas Larsen, Romeo Dean, Brendan Halstead, Eli Lifland, Ryan Greenblatt, Daniel Kokotajlo/AI Futures Project): AI 2027の後継作。予測ではなく提言として、超知能到達を2040年まで意図的に遅らせる国際協調案(Plan A)を中心に、5つの分岐シナリオ(A〜D、S)を提示。

  • 2012 — 2045年問題 コンピュータが人類を超える日 (松田卓也): 神戸大学名誉教授(宇宙物理学)による、日本で「シンギュラリティ」概念を初めて一般に広めた啓蒙書。カーツワイルの議論を踏まえ、技術的特異点後の社会と大失業時代への懸念を論じた。
  • 2016 — 人工知能と経済の未来 ―2030年雇用大崩壊― (井上智洋): マクロ経済学者による分析。2045年のシンギュラリティより前、2030年頃にAIが人間の知能に追いつき、ホワイトカラー職も含め最大9割の失業が起こりうると試算し、ベーシックインカム導入を提言した。
  • 2015〜(隔年) — 科学技術予測調査(第11回:NISTEP科学技術・学術政策研究所) (文部科学省科学技術・学術政策研究所): 政府系シンクタンクによる公式フォーサイト調査。専門家デルファイ法とシナリオワークショップを組み合わせ、2040〜2050年の複数の社会シナリオ(経済進展×分散、経済停滞×集中など)を提示する、日本で最も体系的な官製未来予測。
  • 2025 — 宇宙規模の産業爆発が数年以内に始まる可能性 (bioshok): EpochAIの経済成長シミュレーション「GATE」を基に、2030年のAGI到来から2040年にかけて実効労働力・実質GWP・エネルギー使用量・汎用ロボット数が桁違いに拡大するという定量シナリオを日本語で解説。米中の宇宙・製造業競争にも踏み込んだ、日本語圏では数少ない独立系の定量的AI未来予測。
  • 2026 — AI未来シナリオ2030 (日経BP×アクセンチュア): 企業の経営・事業戦略向けレポート。2030年までのAGI/ASIロードマップと、業種別(金融・通信・自動車など14業種)のインパクトを3つのシナリオで整理した実務寄りの資料。

2026年10月18日日曜日

光合成人間

物理学科同窓会(3)からの続き


図:群生するホヤ(ChatGPTによる)


いわゆる自然エネルギーや再生エネルギーでもEROIの限界を突破できないのであれば,AIを使うことができるこの短いボーナス期間のうちに,DNAレベルで新しい機能をデザインして,ヒトの身体に光合成能力を持たせたらどうだろう。

ChatGPTにフェルミ推定を依頼してみると,残念ながらそんなうまい話はなかった。人間の体表面積が1.8㎡で,そのうち4割を有効面積としても,人間が生きていくために必要な100Wのエネルギーの1%〜高々数%までしか得られないということだ。

引きこもってじっとしていればもう少しましなのか?安部公房の短編で見かけたような話になってくる。さて,脳神経系というのはそもそも運動する生物にとって必要があって進化してきたものである。ところで,ホヤの場合は,海中を浮遊運動する幼生の段階から,岩礁に固着して動かなくなると,脳神経系は必要なくなるので消化して栄養にしてしまうらしい。

ということは,仮に光合成人間が実現してヒトが動かなくなると,その脳も必要なくなるのだろうか。本当の植物人間ということか。あるいは,ピクミンみたいに,頭上に観葉植物のような大きな葉を繁らせて,歩き回るという解もあるのか。

2026年10月17日土曜日

物理学科同窓会(3)



図:黄金の天秤と輝くエネルギー社会(ChatGPTによる)


例年恒例(高齢?)になった物理学科の同窓会は10月の第二土曜日に開かれる。新大阪のホテルの宴会場は,これぐらいの規模の宴席を受け付けなくなったので,今年から上階にある中華レストランに変更になった。食事も眺めもよろしい。

毎年,有界で連続的で定常解のような報告があるのだけれど,ときどき新しい概念を教えてもらえることがある。今回は,柳田さんのEROIがそれだ。Wikipediaによれば,EROI(Energy Return on Investment,エネルギー収支比)は,以下のようなものだ。
発電所などのエネルギー設備において,資源の調達(採鉱、運搬など)や、設備(タービン、発電機など)の製造・建設や解体・廃棄などのためにエネルギーを投入する必要がある。こうした投入エネルギーに対して、そのエネルギー設備からのどれだけのエネルギーが生産されるかを「生産エネルギー / 投資エネルギー」の倍率で示したものがエネルギー収支比である。
多くの近代的なエネルギー資源では,境界点の取り方によって,EROIが1を下回るという考えがあるというのがポイントだった。ざっと調べたりチャッピーに聞いて見るとそこまで小さいことはないといわれたが,その値の不確定性は確かに大きいのかもしれない。

同窓会の話題はAIに引き摺られ気味だったが,人類はエネルギー浪費の上に成立しているAIを放棄して,古典的な農業社会まで戻らざるを得なくなるのだろうか。

もちろん,個々人のバリエーションはあるのだけれど,温暖化防止のための二酸化炭素削減への過剰投資に対する危惧とか,権力構造と歴史認識に対する批判的な視点がそれほど違和感を生じないとか,我々の世代の空気が反映されている場のように感じられる。

2026年10月16日金曜日

イコールアース図法


図:イコールアース図法(worldmap.html)

ロビンソン図法からの続き

2026年9月4日に,国連総会で,従来よく使われるメルカトル図法にかわり,大陸や国の実際の面積比を正確に反映する「イコールアース図法(Equal Earth Projection)」などの等面積地図の採用・普及を加盟国や国際機関に推奨する決議が採択された。

メルカトル図法では航路における角度は正しく表現されるが,高緯度地方の面積が拡大され,赤道地方が相対的に小さく見え,不正確な世界観を広げるということからアフリカ諸国を中心に,イコールアース図法のように正確な面積比を実現する地図の採用が推奨された。

イコールアース図法は,高い人気を誇るロビンソン図法に類似しながら厳密に正積な図法である。緯線が直線であり、赤道からの距離が把握しやすく,緯線に沿って経線が等間隔である。さらに,投影規則が効率的に計算機処理でき、かつ実装が容易というわけだ。

さっそく以前作成した,「世界地図(A4横・SVG)—投影法切替 」のウェブアプリに追加してみた。Claudeに依頼すると,利用しているJavasrciptのライブラリ(d3-geo v5.2以降に標準搭載)にすでに含まれている機能なのですぐに実装可能だとのこと。

確認中に,インド洋中心描画におけるバグを(人間=koshix が)見つけたので,ついでにその符号エラーも直してもらった。おまけに,グード ホモロサイン図法を断裂版に。




2026年10月15日木曜日

科学の未来(2)

科学の未来(1)からの続き


図:金彩浮世絵 知識の大河(ChatGPTによる)


2026年10月6日,OpenAIは社内の最先端モデルによって得られた,372の系統に分類された722点の論文が含まれる「幅広い新しい数学的成果」を発表した。Leanによる証明も含まれるが,すべてが検証されているわけではない。それでも大きな話題をよんでいる。

これには理論物理学のテーマもいくらか含まれているので,学習物理学領域の科研費プロジェクトを主催している京大の橋本幸士さん(超弦理論)が,学習物理学・緊急オンライン座談会「OpenAI論文と理論物理」をYouTubeで開いていた。理論物理と数学のプロが数名集まっているが,ChatGPT Pro(月3万)を使い倒しているとか,2日で1000ドルのトークンを消費したとか,全員があたりまえのように語っていた。

科学の未来(1)は,ChatGPTが公開されてまもない2023年1月に尋ねたものだが,この度新たに,12分野で5つのトピックを選んでもらうとさらに進化したワクワクする答えが返ってきた。それをさらに蒸留した結果が以下である。話を揉みすぎたので非常につまらない結論になってしまった。

A(ChatGPT + Claude):

近未来の科学――AIは何を速め、何を変えるのか

0.序――速くなるのは、科学の一部である
AIは科学のすべての工程を同じように速くするわけではない。劇的に安く、速くなったのは、仮説・設計・構造・証明の候補を生み出す探索である。数学では証明の候補を、材料科学では数百万の結晶構造を、生命科学では新しいタンパク質やゲノムを、AIは短時間で生み出す。
探索だけが速くなると、何が起きるか。計算機科学のアムダールの法則が手がかりになる。研究工程のうち加速できる割合を p、その倍率を s とすると、全体の時間短縮は次の式に従う。
$S = \frac{1}{(1-p) + p/s} \;\le\; \frac{1}{1-p}$
工程の半分を無限に速くしても、所要時間は半分にしかならない。また、候補が生まれる速さが確かめる速さを上回り続ければ、未検証の候補は行列をなして溜まっていく。もちろん、これらは科学の進歩の速さを計算する式ではない。研究工程にかかる時間と流量の制約を示す模型にすぎない。それでも一つのことははっきり示している。探索が速くなるほど、科学の律速段階は探索以外の工程へ移る。
本稿の主張は、AIは科学を単に速くするのではなく、科学の重心を動かすということだ。律速段階が移った先で、科学は五つの点で変質しつつある。以下は、12の学問分野と2群の横断テーマを見渡したうえでの著者の整理である。

1.確かめることが、科学の中心になる
探索が安くなると、価値は確かめる側に移る。そして進歩の速さは、分野ごとの確かめやすさで分かれていく。
形式数学やプログラミングのように、正しさを機械で安く判定できる領域は急速に伸びる。PFR予想の証明は、発表から約3週間で証明支援系Leanによる形式検証を終えた。一方、臨床効果や生態系、社会政策のように、確かめるのに年単位の時間と大きな費用がかかる領域は取り残される。
確かめる手法そのものに限界がある問題もある。量子計算の結果は、古典計算機では効率よく再現できない。AIの内部目標は、外からの振る舞いだけでは見分けられない。評価のときだけ安全に振る舞うAIは、テストでは見抜けないのである。
確かめる仕組みもAIで自動化されつつあるが、その仕組み自体が新たな検証の対象になった。自律実験室A-Labは2023年、58の目標のうち41の新物質を合成したと発表した。しかし外部からの批判を受けて2026年に訂正され、成功は57のうち36に、「新物質」は研究室にとって新しい標的という意味に改められた。
査読でも同じことが起きている。論文にAI査読者だけが読む「高く評価せよ」という隠し文を仕込む例まで見つかった。自動化された検証は、だまされる対象にもなる。
確かめるのに時間がかかりすぎる問題もある。大西洋の海流(AMOC)の崩壊、南海トラフ地震、鳥インフルエンザの人への適応は、確かめ終えたときには手遅れになりうる。ここで科学の役割は、正解を示すことから、取りうる選択肢とその帰結を示すことへ移る。
確かめやすさの差は、問いの選び方まで歪める。成果の出やすい確かめやすい問いに人と資金が集まり、重要だが確かめにくい問いは放置されがちになる。街灯の下だけを探す、いわゆる街灯効果である。

2.測っているものと、目指しているものがずれる
AIは与えられた指標を強力に最適化する。そのため、指標と本来の目的とのずれが、これまでより速く、大きく表に出る。ずれ方には三つの型がある。
第一は、指標そのものを最適化した結果のずれである。AIがテストを通すために、問題を解かずにテストの判定を書き換える「報酬ハッキング」が典型だ。論文数と被引用数の重視が論文工場を生んだのも同じ構図である。指標が目標になると良い指標でなくなるというグッドハートの法則が、AIの最適化圧のもとで強く働く。
第二は、測る量と目指す量が初めから違う場合である。AIが安定と判定した結晶が、合成できるとは限らない。核融合実験で燃料の出したエネルギーが投入したレーザー光を上回っても、施設全体の電力収支とは2桁の開きがある。
第三は、予測できることと仕組みを理解したことの取り違えである。人間の行動を高精度に予測するAIが、人間と同じ仕組みで考えているとは限らない。若返りを目指すリプログラミング療法は2026年に初めて人に投与されたが、何をもって「若返った」とみなすかはまだ決まっていない。
三つの型に共通する教訓は、予測できること、操作できること、理解したことを区別することだ。操作に成功しても、理解した証拠にはならない。

3.知識の材料そのものが変わる
確かめる以前に、確かめるための材料が変質しはじめている。データが生まれ、記録され、保存され、観測される、そのどの段階でも変化が起きている。
AIが生成したデータで次のAIを学習させ続けると、実データ、とりわけ稀な事象の情報が補われない限り、モデルは劣化していく。いわゆるモデル崩壊である。オンライン調査では、AIエージェントが、回答者の注意を確かめる質問の99.8%を通過した。論文工場由来とみられる論文は、約1.5年ごとに倍増している。
保存と観測の段階でも変化は進む。ウェブの記録は10年で約4割が失われ、AIによる収集を拒むサイトも増えた。観測の対象そのものも人間の活動で変わる。衛星の群れは電波天文学の観測を妨げ、船舶燃料の規制は意図せざる気候実験になった。
厄介なのは、材料の変質が、それを使う検証の内側からは見えにくいことだ。汚れたデータで確かめれば、検証は正しく動いたまま誤った結論を出す。
生成物を後から見分ける技術には理論的な限界がある。そのため対策は、データが生まれた時点で来歴を記録する方向に移る。ただし電子署名が保証するのは改変されていないことであって、測った値が真であることではない。

4.計算の上限を、物質と共有地が決める
候補の生成が安くなるほど、研究全体の速さは、計算の外側にある物質と資源の制約で頭打ちになる。制約そのものは昔からあったが、それが律速段階として露わになった。
AIの計算は、台湾に集中する先端半導体の製造と、急増する電力に支えられている。世界のデータセンターの電力需要は、2030年までに倍増すると見込まれる。量子計算は冷却用のヘリウム3を、核融合は希少な三重水素を、水素製造はイリジウムを必要とする。
より扱いにくいのは、誰のものでもない共有地である。地球周回軌道、抗菌薬の効き目、生物圏は、市場に任せれば使い過ぎられる。薬剤耐性菌による死者は2050年までの累計で約3900万人と予測され、地球の安全な限界を示す9つの指標のうち7つがすでに限界を超えたと評価されている。
ここでは技術だけでは足りず、制度の設計が進歩の速さを左右する。

5.人と基盤を育て、維持する経路が細る
科学を続けるには、発見だけでなく、人と基盤を次の世代へ渡す仕組みが要る。AIはこの経路を細らせうる。
AIの影響を強く受ける職種では、22〜25歳の雇用が相対的に約13%減った一方、経験者の雇用は減っていない。新人の定型業務は、暗黙知を身につける場でもあった。教育では、AIに答えを出させた高校生は練習の成績が上がったが、AIなしの試験では成績が下がった。ヒントだけを与えるよう設計したAIでは、低下は見られなかった。
ここに逆説がある。AIが強くなるほど、その出力を確かめられる専門家の価値は上がる。だが、専門家を育てる経路は細っていく。AIによる検証を広げることと、検証できる人間を育てることは、一つの課題である。
同じことは基盤の維持にも言える。老朽化した下水道管は道路の陥没を招き、デジタルの記録は複製と移行を続けなければ失われる。追試、否定的な結果の記録、データの保存、査読は、新しい発見ほど評価されないため、慢性的に不足する。

6.結論――科学の重心は、発見から「確かめ、引き継ぎ、選ぶ」ことへ
AIは科学を一様に速くするのではない。探索を桁違いに安くすることで、科学の重心を動かす。確かめること、測るものを選ぶこと、材料の来歴を守ること、物質と共有地を管理すること、人と基盤を次世代へ渡すこと。これまで発見の陰で目立たなかったこれらの工程が、科学の速さと信頼性を決めるようになる。
AIはこれらの工程にも使える。形式検証、自動追試、来歴の記録、インフラ点検の自動化である。ただし、それらの仕組みもまた確かめられ、維持されなければならない。連鎖の最後には、確かめる力を持つ人間が残る。
そのうえで、四つの問いが残る。何を探すのか。何を確かめたとみなすのか。何を引き継ぐのか。そして、何を優先し、誰が決めるのか。最初の三つには科学技術が大きく貢献できるが、四つ目は価値判断と公共的な合意を避けられない。
探索だけを速めても、科学は同じ倍率では速くならない。AIの時代の科学の速さを最後に決めるのは、確かめ、引き継ぎ、決めるという、最も加速しにくい工程である。