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2024年11月28日木曜日

ロバート・オッペンハイマー:藤永茂


1984年に朝日選書から出版されたもの(1996)があったはずだと書棚を探したが見つからなかった。オッペンハイマーの映画をきっかけに,ちくま学芸文庫版(2024)を買い直したものを半年がかりでようやく読了した。

量子化学の藤永茂(1926-)さんは,岩波現代選書のおいぼれ犬と新しい芸(1984)というエッセイがかなり本音を書いていておもしろかった。九州大学からカナダのアルバータ大学に移り,ロスアラモス研究所の研究集会への参加をきっかけに,オッペンハイマーへの関心を深めた。

藤永さんは,量子力学や物理にも造詣が深く,オッペンハイマーの書簡集や多くの原文にあたって,この本を書いている。オッペンハイマーに添った観点から,悪魔に魂を売った科学者という単純な見方を退けている。彼はあくまでもひとりの愚者にしかすぎなかった。そして,それを戦争のために生産して配備したのは政治家や資本家 ≒ 愚者としての我々だった。

それにしても,ルイス・ストロース(1896-1974),レオ・シラード(1898-1964)やエドワード・テラー(1908-2003)は邪悪なのだった。


写真:ロバート・オッペンハイマーの書影(ちくま学芸文庫から引用)

[1]ベートーベン弦楽四重奏曲嬰ハ短調作品131(Jasper String Quartet,2013.11.24)

2024年11月20日水曜日

谷川俊太郎


11月13日,谷川俊太郎(1931-2024)が92歳で亡くなった。

最初に谷川俊太郎を意識したのは,世界SF全集の第35巻「日本のSF現代編」が配本された1969年4月なので高校1年になったばかりだった。と思う。この巻に採録されているのは「21世紀の教養」というものだ。内容はまったく覚えていない。そのとき,彼の最初の詩集のタイトルが「20億光年の孤独」であることを知ったのだろう。いつか読んでみたいと思っていた。

手元には,角川文庫の谷川俊太郎詩集(大岡信解説,1972年4月30日初版第七刷)と谷川俊太郎詩集Ⅱ(北川透解説,1985年10月30日再版)がある。前者は大学に入学してまもなく手に入れたもの。後者は古本の値段があるので,子どもが二人産まれた後に買ったのかもしれない。谷川の処女詩集,「20億光年の孤独」は20編の詩集として文庫の谷川俊太郎詩集のほうに採録されている。タイトルにもなっている本編自身はちょっと拍子抜けするような軽いものなのだ。

阪大のマンドリンクラブに入部して間もない合宿で,緑地公園かどこかのユースホステルに泊まったとき,二段ベッド寝そべって谷川俊太郎詩集を読んでいた。セロの先輩の近藤さんが顔をのぞかせ「何読んでるの」といって手に取りパラパラと頁をめくって「ソネットか,14行詩だね」と。ソネットが14行の定型詩だということもわからずにありがたがって谷川俊太郎を読んでいた一回生なのだった。

谷川俊太郎は「にほんご」で子育て時代に大変お世話になった。いまや孫のすーちゃんが,きっときってかってきて,きっときってかってはってきて,を小学校1年の国語の教科書で勉強する時代になった。


写真:本棚にあった谷川俊太郎詩集とそのⅡの書影を引用

P. S. 
2013年に,岩波書店から自選 谷川俊太郎詩集がでていた。全2千数百編から173編を厳選したというものだ。その目次には採録した詩集のリストがある。これを年代順に並べ替えて,手持ちの角川文庫に収録されている詩集を◎でチェックしたリストはつぎのとおり。

◎『二十億光年の孤独』 (創元社 1952)
◎『六十二のソネット』 (創元社 1953)
◎『愛について』 (東京創元社 1955)
◎『絵本』 (的場書房 1956)
◎『あなたに』 (東京創元社 1960)
◎『21』 (思潮社 1962)
◎『落首九十九』 (朝日新聞社 1964)
 『谷川俊太郎詩集』 (思潮社 1965)
 『谷川俊太郎詩集』 (河出書房 1968)
◎『旅』 (求龍堂 1968)
◎『谷川俊太郎詩集』 (角川文庫 1968)
 『谷川俊太郎詩集』 (現代詩文庫 1969)
◎『うつむく青年』 (山梨シルクセンター出版部 1971)
 『谷川俊太郎詩集』 (角川書店 1972)
 『ことばあそびうた』 (福音館書店 1973)
◎『空に小鳥がいなくなった日』 (サンリオ出版 1974)
◎『定義』 (思潮社 1975)
◎『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』 (青土社 1975)
 『タラマイカ偽書残闕』 (書肆山田 1978)
 『谷川俊太郎詩集 続』 (思潮社 1979)
◎『そのほかに』 (集英社 1979)
◎『コカコーラ・レッスン』 (思潮社 1980)
◎『ことばあそびうた また』 (福音館書店 1981)
◎『わらべうた』 (集英社 1981)
◎『わらべうた 続』 (集英社 1982)
◎『みみをすます』 (福音館書店 1982)
◎『日々の地図』 (集英社 1982)
◎『どきん』 (理論社 1983)
◎『対詩 1981.12.24~1983.3.7』 (書肆山田 1983)
 『手紙』 (集英社 1984)
 『日本語のカタログ』 (思潮社 1984)
 『詩めくり』 (マドラ出版 1984)
 『よしなしうた』 (青土社 1985)
 『いちねんせい』 (小学館 1988)
 『はだか』 (筑摩書房 1988)
 『メランコリーの川下り』 (思潮社 1988)
 『魂のいちばんおいしいところ』 (サンリオ 1990)
 『女に』 (マガジンハウス 1991)
 『詩を贈ろうとすることは』 (集英社 1991)
 『十八歳』 (東京書籍 1993)
 『子どもの肖像』 (紀伊國屋書店 1993)
 『世間知ラズ』 (思潮社 1993)
 『ふじさんとおひさま』 (童話屋 1994)
 『モーツァルトを聴く人』 (小学館 1995)
 『真っ白でいるよりも』 (集英社 1995)
 『クレーの絵本』 (講談社 1995)
 『谷川俊太郎詩集』 (ハルキ文庫 1998)
 『みんなやわらかい』 (大日本図書 1999)
 『クレーの天使』 (講談社 2000)
 『minimal』 (思潮社 2002)
 『夜のミッキーマウス』 (新潮社 2003)
 『シャガールと木の葉』 (集英社 2005)
 『すき』 (理論社 2006)
 『私』 (思潮社 2007)
 『62のソネット+36』 (集英社文庫 2009)
 『子どもたちの遺言』 (佼成出版社 2009)
 『トロムソコラージュ』 (新潮社 2009)
 『詩の本』 (集英社 2009)

2024年11月12日火曜日

八犬伝


12月まで有効の映画券をもらったのだけれど,なかなか面白そうな映画がみあたらない。消去法で残ったのが,八犬伝だ。テレビでも宣伝していたのでちょっと観たいと思った。原作は山田風太郎の「八犬傳」であり,なんのことはない自宅の本棚に収まっていた。

原作の八犬傳は,南総里見八犬伝の著者の曲亭馬琴葛飾北斎の対話が中心となる実の世界と,八犬伝の物語のダイジェストに相当する虚の世界が14章にわたって交互に描かれている。実の世界は,物語の中心部分をなす鶴屋南北との問答を含めてほぼ映画で再現されている。一方,虚の世界はそもそももとの八犬伝が長編なので,映画の時間では全く収まらず,ごく少数のエピソードとSFXだけで最後まで突っ走っていった。

江戸時代に二日がかりで,歌舞伎の東海道四谷怪談が上演されていたという場面があり,これは,仮名手本忠臣蔵の中に,東海道四谷怪談が埋め込まれるという構成になっていた。四谷怪談が忠臣蔵の外伝だということは知っていたけれど,上演方法がこんなことになっているとはビックリだ。

高校時代の教科書に載っていた,芥川龍之介戯作三昧はまさにこの滝沢馬琴だった。最後に八犬伝の口述筆記を行った滝沢家の嫁の土岐村路のくだりも,馬琴の誇張だったという説があったけれど,どうなのだろうか。路女日記を読んだらわかるのかもしれない。



写真:映画「八犬伝」のポスターを引用


2024年10月30日水曜日

安部公房伝:安部ねり

高校時代,先生がお休みで時間割が変更され早く終了することがあった(ような気もする)。それができない場合は,まれに図書館での自習となる。そんなとき本棚を漁って目についたのが,サルバドール・ダリの画集と安部公房(1924-1993)の短編集だった。

ダリは,中学校の美術の教科書に燃えるキリンが載っていた。山田雄治君と一緒に教科書に掲載されていた世界の名画を眺めながら作者当てをするのが楽しかった。

安部公房はどこから?世界SF全集の第32回配本(1971年5月)が,安部公房の第四間氷期他であり,それ以前から日本初の本格SF小説だとは耳にしていた。あるいは,現代国語の教科書に「赤い繭」か何かが掲載されていたのか?第四間氷期は残念ながら高校生の自分にはピンと来なかった。大学に入ってから読んだ砂の女他人の顔の方が圧倒的によかった。燃えつきた地図箱男密会方舟さくら丸では残念ながらそこまでのものは得られなかった。


その安部公房の伝記が,2011年3月に一人娘の安部ねり(1954-2018)によって出版された。安部公房全集全30巻をだしている新潮社によるこの本は,作家誕生,作家安部公房と人間科学,作家活動の周辺,インタビュー(安部ねりによる25名)の四部で構成されている。断片的な著者の思い出のコラージュという感じで,期待はずれだった。本人は,伝記部分と理論展開の部分から成り立っていると書いているが,ちょっと違う。肉親が故人の伝記を書くというのは難しいことだ。

この少し前に,Kindle版で山口果林(1947-)の「安部公房と私」を読んでいた。安部ねりの伝記では山口果林については一言も触れられていない。まあそんなものだ。山口果林の本も記憶のパッチワークかもしれないが,著者の自分史でもあって,より密度が高くて具体的だ(自分には,山口果林とミニスカートで巨泉・前武ゲバゲバ90分!に出ていた宮本信子のイメージが分離しにくくて困る)。

神奈川近代文学館が,安部公房の生誕100年を記念して「安部公房展−21世紀文学の基軸」を開催している(2024年10月12日〜12月8日)。この展示会公式図録本の方が安部公房の伝記としてふさわしいように思える。末尾には美術家として安部公房の舞台美術や本の装丁を担当した妻の安部真知(1926-1993)も少しだけ登場していて,安部ねりによる真知の略年譜もある。展示物の中にあった山口果林の大量の赤い大入袋はこの本には登場しない。


安部公房は,小説の著述にワードプロセッサを利用した最初期の1人だが,インターネットが商業化する前の1993年に亡くなっている。星新一(1926-1997)もそうだ。もちろんAIも。それにもかかわらず,彼らの小説の中にはほとんどそのイメージが予言されている。



写真:安部公房伝の書影(新潮社から引用,やたら上質の紙を使っている)

P. S.  1958年「世界」の座談会,荒正人,埴谷雄高,武田泰淳,安部公房でのイメージ
〈人工衛星・人工太陽・人工頭脳・人工生命〉 =〈宇宙開発・核融合・AI・バイオテク〉 そのままだ [7]。

[2]科学とフィクションそしてポストモダン(クリストファー・ボルトン)
[8]安部公房論(和田勉)

2024年10月13日日曜日

ピュア:小野美由紀

小野美由紀(1985-)のピュア。SFマガジン掲載時にnoteで公開され歴代一位20万PVをゲットした。という評判だったので早速トライして見た。ピュア,バースデー,To The Moon,幻胎,エイジ,身体を売ることの性科学SF 6編からなる短編集だ。

表題作のピュアは,恐竜のような身体を獲得して軌道上に生活するメスの人間が,蟷螂のように性交後のオスを食べてしまい,そのことによってのみ受胎が可能になった未来を描いている。オスは汚染された地球上で細々と生活している。捕食される側からみた物語がエイジであり,これらが対になっている。

どの作品も,ある種のディスとピアを表現しているのだけれど,そのディスとピアというのはいまだに夫婦別姓制度や同性婚制度に踏み切れない日本そのものに重なる。

巻末の水上文の解説から引用すると,その背景にあるのはこんなものである。
たとえば政治的意思決定の場,社会的に地位の高い職業の多くを占めるのは男性である。性暴力の被害者の大多数を占めるのは女性である。直接的な暴力がなくとも,社会に蔓延る性的対象化はその中で育つ人々の安全を損ない,尊厳を損ない,人生を狭め,また加害を正当化する。賃金格差と貧困,もちろん生殖を巡る問題もある。生殖は国家による管理の対象であり,2023年現在の日本では,明治時代につくられた刑法堕胎罪がいまだに存在し,人工中絶の配偶者同意要件は今も撤廃されないままである。



図:小野美由紀ピュアの書影(早川書房から引用)


2024年10月8日火曜日

AIとSF(2)


AIとSF(1)からの続き

1年4ヶ月ほどかかって,ようやくハヤカワ文庫JA 1551の「AIとSF」を読了した。頭も眼も霞む中,トリッキーなストーリのSF短編を読解するのは,なかなかに骨の折れる技である。この間,生成AIもかなり進歩しているが,この本の内容が時代遅れになっているほどではない。

最近は,テレビドラマをみても短編小説をよんでも,片っ端から記憶領域の外側に溢れ出てしまうので,印象に残ることが無くて困る。いや,困らないかもしれない。何度でも読み返せるのだから。前回の感想は,一編目の大阪・関西万博を扱った「準備がいつまで経っても終らない件」を読んだところまでだった。万博の方はそれらしく形が整ってきたので,始まってしまえば,マスコミの格好のオモチャになるだろう。行かないけど。

目次を見直しても,何が書いてあったかはあまりはっきりしない。津久井五月のナノマシンが東京の一部を汚染する様子とか,野崎まどの智慧錬糸がAI画像つきで笑えたとか,野尻抱介のサイドストーリーの核融合実現のインパクトは納得できるとか,麦原遼の感情を認識するAIの描写がよさげだとか,面白かった部分も。

それにしても,AIが自律的にネットワークにアクセスしてSNSに投稿するようになると,大変ややこしいことが起きるのは間違いない。ただでさえフェイクニュースが蔓延して困っている。そこに持ってきて,フェイクか否か,人間か否か,様々な意図に操られているか否か,がはっきり区別できない大量のテキストとイメージが満ちている情報空間というのはいったい・・・。

P. S. やっぱり円城塔は何度読んでもよくわからない。自分の読解力不足かなぁ。でもブッダ・コード 機械仏教史縁起 はちょっとトライして見たい。



図:AIとSF(ハヤカワ文庫JAから引用)

2024年10月2日水曜日

シュレーディンガーの少女:松崎有理

山手線が転生して加速器になりました。:松崎有理からの続き

先月発表された,文化庁による令和5年度「国語に関する世論調査」の結果は,読書離れの加速というニュースになってメディアを駆け回った。月に1冊も本を読まない人が6割を越えた,読書量が以前より減っているも7割だ,わぉう,というものだ。

この場合,電子書籍は読書した方にカウントされている。自分も正にその6割と7割に該当しているのであった。読書量が減っている理由は,1位:情報機器で時間がとられる(そのとおり),2位:仕事や勉強が忙しくて読む暇がない(これはあてはまらない),3位:視力などの健康上の理由(まあまあ,筋力かもしれない),4位:テレビの方が魅力的である(これも少しあてはまる)。

ただ,1位を選んでいるのはほとんど若者であって,70歳以上では,健康上の理由が1位でテレビの方が魅力的であるが2位なのだ。このあたりは自分と少し違うかもしれないが,確かにYouTubeやBlogと録画した韓国ドラマや映画で閑居老人の暇な時間が完全に溶けてしまう。

しかしながら,まだまだ読みたい本は沢山あって,かといって内容的にあるいは物理的に重い本を読み通すのは難しいので,軽い電子書籍からリハビリを始めることにした。

松崎有理の創元SF文庫の短編集,シュレーディンガーの少女は,6編のうちの2編(六十五歳デス,ペンローズの乙女)が無料でネット上に公開されていたので,ついでにKindle版を購入してしまった。

相変わらず,食へのこだわり(太っていたらだめですか?,秋刀魚,苦いかしょっぱいか)がみられたり,著者の出身の水戸第一高校のモデルが登場していたり(異世界数学),理系蘊蓄が適当に含まれている軽い読み物としては適当かもしれない。

シュレーディンガーの少女はいまひとつぴんとこなかったが,ペンローズの乙女の冒頭部分に,エミル・コノピンスキーの名前が出てきて,あれれと思って調べて見たら,昔,研究室の書棚にあったかもしれない The Theory of Beta Radioactivity の著者のEmil Konopinski だった。テラーと一緒に初期の水爆開発における検討をしていたのか。


図:読書離れの理由(上から16-19,20代,30代,40代,50代,60代,70- 文化庁から引用)

2024年9月10日火曜日

山手線が転生して加速器になりました。:松崎有理

松崎有理(1972-)の名前は,書店の本棚のシュレーディンガーの少女で見かけている。東北大学理学部(生命科学がバックグラウンドという話なのでたぶん生物学科?)の出身のエンタメ(SF)作家である。

タイトルが面白かったので,Kindleで入手してみた。短編集であり,6つの作品が収録されている。そのうち,山手線が加速器に転生する話は2編あるが,それぞれの話は独立だが,一つの仮想歴史世界線上(経済学者の目から見た人類史:行方ユクエ)に位置づけられている。

パンデミックによって,東京から人間が退避してしまった世界で,山手線が,周長34kmの自律運転ミューオンコライダーに,立川−三鷹−新宿の中央線が,全長13km+14kmの自律運転電子陽電子リニアコライダーに転用されたという話だ。これに,高度2000kmの地球周回軌道上の基線長100mのレーザー干渉計宇宙アンテナ自律型観測施設(宇宙重力波望遠鏡)が加わる。

この2編はちょっと状況設定の説明だけで話が空振りに終ってしまい消化不良だった。それ以外の話は軽いけれど,サイエンスの背景があればそこそこ楽しく読める。食べ物の描写と子どもへの視線が印象的だ。あとは,フェルミのパラドックスへの強い思い入れかな。仮想歴史中には,ChatGPTに相当するAIアシスタントが2025年に登場していて,その名称がモラベックである。ハンス・モラヴェックは実在の人物であり,モラヴェックのパラドックスで有名らしい。知らんかったわ。



写真:山手線が転生して加速器になりました。(光文社文庫の書影から引用)

[2]ハンス・モラヴェック(Wikipedia)

2024年8月26日月曜日

金星の蟲:酉島伝法

皆勤の徒からの続き

酉島伝法の短編集の2つ目をKindleで読了。

金星の蟲,環刑錮,痕の祀り,橡,ブロッコリー神殿,堕天の塔,彗星狩り,クリプトプラズムの8作品に,抄録 幻視百景と自作解題,大森望の解題と続いている。

金星の蟲は,著者の印刷工としての経験が膨らんだもの,環刑錮が,蚯蚓状の意識の葛藤が表現されたもので,この2作がメインディッシュかもしれない。なかなかに読みにくいのが楽しいが,皆勤の徒のような言語的なチャレンジは多くない。それでも,これだけの多様なイメージを紡ぎ出している。

痕の祀りは,バラードの溺れた巨人の話かとおもいきや,斉一顕現体と万状顕現体というウルトラマンと怪獣の戦いの後始末をする,加賀特掃会=科学特捜隊の話だった。



写真:金星の蟲(早川書房)の書影を引用


2024年8月24日土曜日

松岡正剛

松岡正剛(1944-2024)の訃報が流れた。アラン・ドロン(1935-2024),高石ともや(1941-2024),石川好(1947-2024)とこのところ続いている。

松岡正剛が設立した工作舎(1971-)は,雑誌「遊(1971-1982)」の編集チームとして発足している。ちょうど大学に入った頃,本屋の店頭で雑誌「遊」を見かけた。値段も張るし,自分で買う気にはならなかったが,なんとなく物理学科の学生の心を引きつける妖しい雑誌だった。亡くなった藤井常幸君(原研那珂研究所)が話題にしていたぼんやりした記憶がある。あの杉浦康平(1932-)デザインの赤っぽい表紙の雑誌を教室でひろげていたのだろうか。

松岡正剛が編集した本というと,自分で買ったのは「情報の歴史(1997)」なのだ。もう処分したかと思って本棚を探してみると残っていた。おまけに「情報の歴史を読む(1997)」という解説本まで買っていた。今度廃棄処分しよう。

いろいろと評判の別れる松岡正剛だが,千夜千冊はその守備範囲や知識の網目の精緻さに驚かされた。自然科学にも十分目配りされていて,読んでみたくなる本が多かった。その千夜千冊は結局1850夜まで達していた。



図:DALL-E3による千夜千冊+情報の歴史のイメージ


P. S.  「情報の歴史を読む」をパラパラ開いていると,NTTコミュニケーションズのチラシが入っていた。「このたびは,弊社 GOLD CLUB 会員用 WEB サイトでのイベントにご参加・プレゼントへのご応募ありがとうございました。ささやかではございますが,御礼の気持ちを込めてプレゼントをお送りさせていただきます。」本の定価は2,900円だった。

2024年7月15日月曜日

女帝 小池百合子:石井妙子

女帝 小池百合子(2)からの続き

4年前に出版されたときには立ち読みだった,石井妙子の「女帝 小池百合子」,都知事選挙中にkindle割引サービスがあったので,ポチってしまった。

立ち読みの記憶と,この本が様々なSNSに取上げられたときの派生情報から,過去の物語のおさらいのような読み方ができた。実際,石井は次のように考えている。
彼女がキャスターから政治家に転じ、東京都知事に上り詰めた平成という30年間を、小池氏という人物を通じて描けるのではないか。小池氏という政治家をここまで押し上げたのは、小池氏自身の罪なのか、この時代の私たちの罪なのか? そういう視点でなら本にできるという感じはしていました。
日本新党におけるポピュリスト政治家小池百合子の誕生から,前々回の都知事選を経て,希望の党騒動で日本の野党中核勢力を破壊して,2020年の都知事選直前までの歴史を,小池を軸としてなぞるという読書体験だった。その中で,謎のまま終っている水田昌宏の話だけが,微妙に浮いていた。韓国ドラマならば続編ができるやつだ。

また,石井の執筆のきっかけとなった,カイロ時代の同居人の北原百代さんや,小池によって足蹴にされたさまざまな人々への共感が,執筆動機の背景にあることは間違いないと思う。

問題は,斎藤美奈子香山リカ井戸正枝による,ルッキズム+性差別批判をどう受け止めるかだ。もちろん,文庫版=kindle版では,仮名だった早川玲子が北原百代という本名で登場し,彼女自身の語りはYouTubeで聞けるようになったという違いはあるが,彼女らはそれでも主張は変えないだろう。まあ,なんだか言い掛かりのようなコメントもあるのだけれど。

しかし,何をどう考えても,自分は彼女ら批判派の意見に共感することはできなかった。4年前には違和感が残った石井さん側の物語の紡ぎ方に肩入れしてしまう。この本は,小池百合子への悪意というよりむしろ,小池の凄さを浮かびあがらせる結果になっていると思うからだ。だって,ここまで政治的に生き延びている小池は,細川にも小沢にも小泉にも安倍にも勝っているのだから。そんな人いますか。

Q(koshix):
リベラルな論客だと思われていた斎藤美奈子が2020年に石井妙子の著書「女帝小池百合子」を痛烈に批判にした理由がよくわかりません。なにが彼女をそうさせたのでしょうか。また,逆に石井の著書を絶賛していたリベラル派の男性論客のどこに問題があるのでしょうか。小池百合子をどう捉えればよいのでしょうか。

A(Perplexity PRO):
プロサーチ
・リベラルな論客だと思われていた斎藤美奈子の背景を調べる
・石井妙子の著書「女帝小池百合子」の内容を調べる
・斎藤美奈子が石井妙子の著書を批判した理由を調べる
・石井妙子の著書を絶賛していたリベラル派の男性論客の見解を調べる
(回答は略)

Q(koshix):
政策や実績をみても,小池のやってきたことに問題が多いというのは,石井の著書をみるまでもなく,多くの事実が蓄積され,それを我々は目にしていると思います。小池は,カタカナ語を多用し,キャッチフレーズ政治にかまけ,マスコミを誘導し,広報戦略に長けているというのは,ネット上の様々な人物の証言をつなぎあわせてもでてきます。彼女の政策的キャッチフレーズの核をなす,情報公開についても,実際に東京都が行っていることは,その真逆であり,情報を隠蔽しながら,非民主的独断的な振舞いをしているのはあきらかではないでしょうか。あるいは,小池に踏みつけられ,欺かれた多くの市井の人々の声をきけば,どうしても小池を単にフェミニズムの観点だけから擁護する立場が理解できないのです。

A(Perplexity PRO):
プロサーチ
・小池百合子の政策や実績について問題点を検索する
・小池百合子のコミュニケーション手法について情報を検索する
・小池百合子の情報公開や透明性に関する問題点を検索する
・小池百合子に対する一般市民の声を検索する
(回答は略)

Q(koshix):
それらを踏まえて,斎藤美奈子の主張がなぜ発生しているかを分析してください。

A(Perplexity PRO):
プロサーチ
・斎藤美奈子の主張の背景を理解する
・斎藤美奈子の小池百合子に対する批判の内容を分析する
・齋藤の批判と小池の政策・実績との関連性を明らかにする
回答
斎藤美奈子の主張が生まれた背景には、以下のような要因があると分析できます:
ジェンダーバイアスへの敏感な視点
 斎藤は長年フェミニズム批評の第一人者として活動してきました。そのため、『女帝 小池百合子』の内容に潜むジェンダーバイアスや性差別的な表現に対して、特に敏感に反応したと考えられます。
リベラル派知識人の盲点の指摘
 斎藤は、自身もリベラル派として知られていますが、同じリベラル派の男性知識人たちが本書を無批判に絶賛していることに違和感を覚えました。これは、リベラル派内部にも存在するジェンダーバイアスや、政治的党派性による批評眼の曇りを指摘する意図があったと推測されます。
ステレオタイプな女性描写への批判
 斎藤は、本書が小池百合子を描く際に用いている「女を売りにしている」「媚びを売って地位を得た」といった表現が、能力のない男性が口にする典型的な悪口と同じであると指摘しています。これは、女性政治家を評価する際のステレオタイプな見方に対する批判です。
個人的な物語の過度な強調への懸念
 斎藤は、社会で活躍する女性を描く際に、個人的な動機や過去のトラウマなどを過度に強調することで、その人物を矮小化していると指摘しています。これは、女性リーダーの能力や業績よりも個人的な背景に注目してしまう傾向への警鐘です。
政策批判と人格批判の混同への警告
 斎藤の批判は、小池百合子の政策や実績に対する批判と、個人的な属性や背景に基づく批判を明確に区別する必要性を示唆しています。政策や実績に対する批判は正当であっても、それが性差別的な表現や個人攻撃に陥ってはならないという主張です。
メディアリテラシーの重要性の強調
 斎藤の主張は、ベストセラーとなった本書の内容を批判的に読み解く必要性を示しています。これは、メディアリテラシーの重要性を強調するものであり、特に政治的な文脈において重要な視点です。

斎藤美奈子の主張は、単に一冊の本を批判するだけでなく、社会に潜在するジェンダーバイアスや、政治的党派性によって曇らされた批評眼、そしてメディアリテラシーの重要性を広く問いかけるものだと言えます。
P. S. この答えに自分が納得できたかどうかは別にして,Perplexity PRO は何かを調べようとしたときには最適の生成AIだとおもう。事実に基づいたこのような整理は,他者の追随をゆるさない。Claude 3.5 Sonnet は言葉遣いは丁寧で,表現力にも優れているが,大きなテキストを読み込むことができない。それが添付できるのは,ChatGPT-4oであり,プロンプトをさぼるとワンパターンだけれど,DALL-E3のイメージも生成してくれる。



2024年6月3日月曜日

心の社会:ミンスキー

ChatGPT-4oを使ってファスト読書ができるかどうか実験してみた。
題材として,人工知能を理解するための古典文献中の第一である,人工知能の父マービン・ミンスキー(1927-2016)の「心の社会」を選んだ。安西祐一郎(1946-)訳の1990年の初版574ページは,自分の本棚で積ん読状態で冬眠されていらっしゃった。

Q(koshix):
マーヴィン・ミンスキーの「心の社会」で主張されていることを詳しく説明してください。

A(GPT-4o)
マーヴィン・ミンスキーの著書「心の社会」(The Society of Mind)は、人工知能と人間の認知科学に関する彼の理論を述べた重要な作品です。この本では、心がどのように機能するのか、特に知能がどのように生じるのかについての革新的な視点が提供されています。ミンスキーは、心を一つの単一のエンティティとして見るのではなく、複数の小さなエージェントの集合体として捉えます。以下に、彼の主張を詳しく説明します。

1.心はエージェントの社会である
ミンスキーは、心は多数の簡単なエージェント(彼はこれを「エージェント」と呼びます)の集まりであると主張します。各エージェントは単純な機能を持っており、それ自体は知能を持たないが、これらが連携して働くことで複雑な知的行動が生まれるとします。この考え方は、心を理解するためにそれを分解し、各部分の相互作用を研究するというアプローチを示唆しています。

2.レイヤード構造と階層的な制御
ミンスキーは、心の構造を複数のレイヤーに分けて説明します。各レイヤーは異なる種類のエージェントで構成されており、それぞれが特定のタスクを担当しています。これにより、単純なタスクから複雑な認知タスクまでを処理する能力が生まれます。例えば、低レベルのエージェントは基本的な感覚処理を行い、高レベルのエージェントは抽象的な思考や計画を担当します。

3.エージェント間の競争と協力
ミンスキーは、エージェント間の関係が重要であると強調します。エージェントは時には競争し、時には協力することで最適な解決策を見つけ出します。この競争と協力のダイナミクスが、柔軟で適応的な知能を生み出す鍵とされています。

4.学習と適応
エージェントは静的な存在ではなく、経験を通じて学習し、適応します。ミンスキーは、知識の獲得と使用がどのようにエージェントの行動に影響を与えるかを詳細に述べています。特に、問題解決や新しい状況に対応するための適応メカニズムが強調されています。

5.心の社会モデルの応用
ミンスキーの理論は、人工知能の設計や人間の知能の理解に幅広く応用されています。このモデルは、知能が単一のアルゴリズムやプロセスではなく、複数の相互作用するプロセスの結果であることを示しています。これにより、より複雑で柔軟なAIシステムの開発が可能になります。

6.批判と影響
「心の社会」モデルは、その独創性と包括性から大きな影響を与えましたが、同時に批判も受けました。一部の批評家は、エージェント間の相互作用の具体的なメカニズムや、どのようにして統一された意識や自己が生じるのかについての説明が不足していると指摘しました。それでも、この理論は人工知能研究における重要な枠組みとなっています。

ミンスキーの「心の社会」は、人間の知能と人工知能の両方を理解するための新しい視点を提供するものであり、現代の認知科学やAI研究においてもなお重要な影響を持ち続けています。 
 
Q(koshix):
心を構成するエージェントにどんなものがあるか,またその相互関係がどうなっているかをできるだけ分かりやすく全て列挙してください。

A(GPT-4o):
マーヴィン・ミンスキーの「心の社会」において、心を構成するエージェントは非常に多様で、各エージェントが特定の機能を果たすために存在しています。以下に、いくつかの主要なエージェントの種類とその相互関係をわかりやすく説明します。

エージェントの種類

感覚エージェント (Sensory Agents)
役割: 外部環境からの情報を収集し、それを処理して内部に伝える。
例: 視覚エージェント、聴覚エージェント、触覚エージェントなど。

運動エージェント (Motor Agents)
役割: 行動を実行し、身体の動きを制御する。
例: 手を動かすエージェント、歩くエージェント、話すエージェントなど。

記憶エージェント (Memory Agents)
役割: 経験や知識を保存し、それを必要に応じて取り出す。
例: 短期記憶エージェント、長期記憶エージェント、エピソード記憶エージェントなど。

感情エージェント (Emotion Agents)
役割: 感情を生成し、他のエージェントの活動に影響を与える。
例: 喜びエージェント、悲しみエージェント、恐怖エージェントなど。

思考エージェント (Thinking Agents)
役割: 問題解決、意思決定、推論を行う。
例: 論理エージェント、計画エージェント、推論エージェントなど。

社会的エージェント (Social Agents)
役割: 他者との相互作用を管理し、社会的な行動を制御する。
例: 共感エージェント、コミュニケーションエージェント、協力エージェントなど。

エージェント間の相互関係

協力 (Cooperation)
例: 感覚エージェントが視覚情報を収集し、それを記憶エージェントに送って過去の経験と照らし合わせ、運動エージェントに適切な行動を指示する。

競争 (Competition)
例: 異なる解決策を提案する思考エージェントが競い合い、最も適切な解決策が選ばれるプロセス。

連携 (Coordination)
例: 感情エージェントが恐怖を感じると、運動エージェントに逃走行動を起こすように指示し、同時に思考エージェントが危険の評価を行う。

抑制と強化 (Inhibition and Facilitation)
例: 感情エージェントが怒りを感じると、抑制エージェントがその感情を制御し、社会的エージェントが適切な反応を見つける。

フィードバックループ (Feedback Loops)
例: 運動エージェントが行動を実行し、その結果が感覚エージェントを通じてフィードバックされ、記憶エージェントと思考エージェントがその情報を使って次の行動を調整する。

具体的な例

コップを持ち上げる動作:
視覚エージェントがコップを見つける。
記憶エージェントが過去の経験を基に最適な持ち上げ方を提供する。
運動エージェントが手を動かし、コップを持ち上げる。
フィードバックループにより、感覚エージェントが持ち上げた後の重さやバランスを確認し、必要なら運動エージェントに調整を指示する。

会話をする:
聴覚エージェントが相手の言葉を聞き取る。
思考エージェントがその意味を解釈し、適切な応答を考える。
記憶エージェントが過去の会話や知識を参考にする。
社会的エージェントが応答のトーンや態度を決定する。
運動エージェントが言葉を発し、顔の表情を制御する。

ミンスキーの理論は、これらのエージェントが相互に作用し合うことで、人間の心の複雑な機能を生み出すというものです。この視点は、AIやロボティクスの設計においても有益であり、複雑なシステムをより効率的に設計するための基盤となっています。

 

Q(koshix):
意識を担うエージェントはありますか

A(GPT-4o):
マーヴィン・ミンスキーの「心の社会」において、意識そのものを単独で担う特定のエージェントが存在するという考え方はされていません。むしろ、意識は複数のエージェントの相互作用と協調から生じる現象であるとされています。以下に、意識に関連するエージェントの役割やその相互関係をわかりやすく説明します。

意識に関連するエージェント

注意エージェント (Attention Agents)
役割: 特定の情報や出来事に対して注意を集中させる。意識の焦点を決定し、重要な情報を他のエージェントに伝える。
例: 視覚注意エージェント、聴覚注意エージェント。

記憶エージェント (Memory Agents)
役割: 過去の経験や知識を保存し、必要に応じて取り出す。意識に関連する情報の背景知識を提供する。
例: 短期記憶エージェント、長期記憶エージェント。

自己モニタリングエージェント (Self-Monitoring Agents)
役割: 自己の状態や行動を監視し、自己認識を持つ。意識の一部として、自己と他者の区別を行う。
例: 身体感覚モニタリングエージェント、感情モニタリングエージェント。

意思決定エージェント (Decision-Making Agents)
役割: 得られた情報を基に行動を決定する。意識的な選択と行動を支える。
例: 計画エージェント、選択エージェント。

社会的エージェント (Social Agents)
役割: 他者との相互作用を管理し、社会的な意識を形成する。共感やコミュニケーションに関連する。
例: 共感エージェント、コミュニケーションエージェント。 
 
エージェント間の相互関係
意識はこれらのエージェントの複雑な相互作用によって形成されます。以下に、その具体的なプロセスを説明します。

注意の集中と情報の選別
注意エージェントが特定の刺激や情報に集中し、それを他のエージェントに伝達します。これにより、意識の焦点が決まります。

記憶との連携
記憶エージェントが関連する過去の経験や知識を提供し、現在の状況を理解するための背景情報を提供します。

自己モニタリングと自己認識
自己モニタリングエージェントが現在の状態や行動を監視し、自己の一貫性を保つ役割を果たします。これにより、自己と他者の区別がつけられます。

意思決定と行動選択
意思決定エージェントが得られた情報を基に、意識的な選択と行動を行います。このプロセスは、意識的な意思決定の核心部分となります。

社会的相互作用
社会的エージェントが他者との相互作用を管理し、社会的な意識を形成します。これにより、意識は個人的なものだけでなく、社会的な文脈でも機能します。

結論
ミンスキーの理論によれば、意識は単一のエージェントによって生じるものではなく、複数のエージェントが協力し合い、相互に作用することで生まれる現象です。これらのエージェントが連携し、情報を交換し合うことで、複雑で高度な意識が形成されるのです。この視点は、意識を理解するための新しい枠組みを提供し、人工知能の研究にも大きな影響を与えています。

なかなかもっともらしい答えが得られた。ところで,ここで安心してはいけない。この結果を,正確性が売りの生成AIであるPerplexityに与えて,正しいかどうか聞いてみたところ,テキストが大きすぎではねられた。仕方がないので,次に評判が良いGemini 1.5Proに入れてみる。こちらは,入力トークンバッファに十分余裕がある。


Q(koshi):
以下の対話で事実とは異なっている部分や不正確な部分を指摘してください

A(Gemini 1.5Pro):
全体的に、ミンスキーの「心の社会」の要約としては悪くないですが、いくつか事実と異なる部分や不正確な部分があります。

事実と異なる部分・不正確な部分

エージェントの種類と役割
対話では、感覚、運動、記憶、感情、思考、社会など、エージェントの種類を具体的に列挙していますが、ミンスキー自身は著書で、特定の種類のエージェントを定義していません。ミンスキーは、エージェントは多種多様で、その機能は状況や組み合わせによって変化すると述べています。
エージェント間の関係
協力、競争、連携、抑制と強化、フィードバックループといった関係性は、ミンスキーの理論と一致しています。しかし、対話ではこれらの関係が固定的なものとして説明されている印象を受けます。実際には、エージェント間の関係はより流動的で、状況に応じて動的に変化します。
意識に関する説明
ミンスキーは特定のエージェントが意識を担うとは述べていません。意識は、エージェントの相互作用から創発的に生まれるものとして捉えられています。
対話では、注意、自己モニタリング、意思決定といった機能を持つエージェントが意識に関連するとされていますが、ミンスキー自身は、これらの機能を実現するエージェントの具体的な構造については深く言及していません。

ミンスキーは、「心の社会」の中で意識の問題を取り上げていますが、完全な解答を与えているわけではありません。

改善点

・エージェントの種類を具体的に列挙するのではなく、「ミンスキーは特定の種類のエージェントを定義せず、多種多様なエージェントが存在すると述べています」と説明する方が正確です。
・エージェント間の関係は、固定的なものではなく、状況に応じて動的に変化することを強調する必要があります。
・意識については、「ミンスキーは、意識は特定のエージェントが担うのではなく、エージェントの相互作用から創発的に生まれると考えている」と説明し、具体的なエージェントの構造や機能に言及することは避けるべきです。

その他

対話では、ミンスキーの「心の社会」をかなり簡略化して説明しています。より深く理解するためには、実際に著書を読むことをお勧めします。

さらにこれをChatGPT-4oに入れてみたが,まあ,それで喧嘩に発展するようなことはなかった。一方,実際の本を書棚から取り出してきて目次を眺めてみると,GPT-4oの説明とはかなり違った印象を持ったのも事実である。そこで,GPT-4oは目次を知っているのかどうか聞いてみた。

Q(koshix):
マーヴィン・ミンスキーの「心の社会」の目次を列挙することはできますか?日本語に直してください

A(GPT-4o):
マーヴィン・ミンスキーの「心の社会」(The Society of Mind)は270の独立したエッセイで構成されており、それらは30の章に分かれています。以下は、その目次の日本語訳です:

1.心の社会
2.エージェントとエージェンシー
3.K-ライン
4.エージェントの原則
5.心と脳
6.常識
7.思考の言語
8.見ることと想像すること
9.学習と記憶
10.心の構築
11.意識
12.反省的思考
13.問題解決
14.自己認識
15.考えることと説明すること
16.感情
17.動機と目標
18.否定的思考の力
19.自己
20.成長
21.幼児期
22.子供の心
23.学習と理解
24.知識の本質
25.創造的思考
26.高次の思考
27.脳の専門化
28.心の統一
29.心の限界
30.心の未来

この目次は、ミンスキーが心を「エージェント」という単純な部分の相互作用から成り立つ複雑な社会として描いた方法を反映しています。彼のアプローチは、知能の多様性と複雑さを強調し、単一の原理や単純なシステムではなく、多様なプロセスと目的を持つエージェントの集まりが心を形成するという考え方を示しています​​​​。

この目次は完全なハルシネーションである。30章と270のエッセイというのはほぼあっている。なぜ,こうなったかというと,GPT-4oがインターネット上で検索して得られた資料に問題がある。一つは,Internet Archiveの該当部分であり,ここにはオープンな本文テキストはない。もう一つは,Tom Rochetteというひとの読書メモである。そこには原本の目次はない。たぶんこれを用いたので誤った結果が出てきたのだ。

なお,元慶応義塾長の安西先生訳の「心の社会」の正しい目次は次のとおりです。
1.心の社会
2.全体と部分
3.争いと妥協
4.自己(以下,自己が太字になっている)
5.個性
6.洞察と内省(ここにB-脳がでてくる)
7.問題と目標
8.記憶の理論(ここにK-ラインがでてくる)
9.要約すること
10.パパートの原理
11.空間の形
12.意味の学習
13.見ることと信じること
14.定式化のし直し
15.意識と記憶
16.感情
17.発達
18.推論
19.言葉と考え
20.文脈とあいまいさ
21.トランスフレーム(以下トランスが太字に)
22.表現
23.比較
24.フレーム
25.フレームアレイ
26.言語フレーム
27.検閲エージェントと冗談
28.心と世界
29.思考の領域
30.心の中のモデル



図:マーヴィン・ミンスキーの「心の社会」を適確に表現するイメージ


2024年5月31日金曜日

無書店自治体

本屋が消えるからの続き

4月から,NHKの午後のニュースの後に,NHKみみより!解説というニュース解説がはじまった。そこで,無書店自治体の話題が取上げられていた。下図は2022年のデータだが,2023年の新しい結果が紹介された。無書店自治体の割合が,全国で27.7%,ワースト3県では,沖縄県56.1%,長野県53.2%,奈良県51.3%というもので,前回とそれほど変わっていない。

全国の書店数(10598)を人口(1億2581万人)で割った1万人当たりの平均書店数は,0.87/万人である。奈良県の平均書店数は0.92/万人なので,それほど悪くない。平均書店数/万人は全国でそれほど大きく変わらないのだけれど,人口の少ない無書店自治体数があることよって,書店格差は強調されて見える。まあ実際にも近くに本屋がないわけだから,それはそれで困るのだ。

天理市の人口は,6.7万人なので,全国平均の書店数水準ならば,5.8店ということになる。実際の書店数がどうなっているかというと,8店舗見つかった。天理教の専門書店があるのでちょっとだけ上積みされている。
・TSUTAYA WAY書店天理店(田井庄町481−5)
・未来屋書店 天理店(東井戸堂町381 イオンタウン)
・ヤマト屋書店(別所町80−6)
・おやさと書店 三島店・Books道友(三島町432−1)
・おみちの書籍 天理書房(川原城町306−1)
・海老山書店(川原城町72)
・西廼書店(柳本町1255)
・大塚書籍文具店(櫟本町2423−1)


図:本屋さんが減っている(週刊学ぼう産経新聞から引用)

[1]増える「無書店自治体」各地の対応は?(NHKみみより!解説)
[3]日本の書店数(出版科学研究所)
[4]出版物の売り場毎の販売額推移をさぐる(2023年版)(Yahoo! ニュース)
[6]書店をめぐる現在(柴野京子)


2024年5月1日水曜日

皆勤の徒:酉島伝法

大森望(1961-)の解説はけっこう信頼している。以前,日経新聞で酉島伝法(Torishima Dempow,1970-)を滅法褒めていた。

早速,短編集の「皆勤の徒」をkindleで購入した。ついでに,皆勤の徒の設定資料集「隔世遺傳」もあわせてゲットする。

いきなり,隷重類(れいちょうるい),香水(ようすい),製臓物(せいぞうぶつ),念菌(ねんきん)と,漢字とよみがなと意味の混濁がはじまって,未来世界の蟹工船的な状況が描写されていく。

なんだこれ。短編集の中の4作品,皆勤の徒,洞の街,泥海の浮き城,百似隊商と,これまでのSFでもお目にかかったことのない世界が新しい言葉で展開される。英語や彿語にも翻訳されている。全滅領域のジェフ・ヴァンダーミアによれば(大森望訳),
わお。酉島伝法の『皆勤の徒』はすごいぞ。画期的な作品だ。おそらく、この十年で初めての、百パーセント独創的なSFだろう」と絶賛し、以下のように評している。「『流刑地』と『変身』のカフカが、フィリップ・K・ディックとスティパン・チャップマンとレオノーラ・キャリントンの霊を呼び出して、不気味な地球生物学と遠未来とブラザーズ・クエイをミックスしたコンテクストに放り込んだら?(中略)アンジェラ・カーターがシュールリアリズムに手綱をつけて、プロットのあるストーリーをぎりぎり語れるようにしたのと同様、酉島は、異形の未来に移植されたこの地球で、人間の奇天烈な生態と有機体の奇天烈なライフサイクルをどうにか物語として成立させている。つまり、おそろしく風変わりで先鋭的ではあっても、本書は実験的ではない。実験的な部分があるとすれば、それは、ライフサイクルや生物組織をプロットに組み込む、そのやりかたにある」
自分の感想は,筒井康隆の幻想の未来+ブライアン・オールディスの地球の長い午後+フランク・ハーバートのDUNE+・・・。主題として「宇宙」「意識」「生命」「進化」「情報」「ナノテク」「AI」がてんこ盛りで近江町市場の2700円海鮮丼状態だった。



写真:創元SF文庫「皆勤の徒」の書影


[2]棺詰工場のシーラカンス(酉島伝法)


2024年4月30日火曜日

四天王寺古本市

NHKの日曜昼のニュースでは,ゴールデンウィーク中に大阪の四天王寺の境内で催されている古本市が取り上げられていた。40万冊ほど出展されているらしい。

そんなわけで,急遽大和路線で大阪に向かうことになった。昔はこのようにたまーに古本市にでかけることがあった。京都ならば,京都古書研究会が,下鴨神社境内や,京みやこメッセや,百万遍知恩寺などで春秋に大規模な古本市を開いている。大阪では,大阪古書研究会が,天神橋の大阪天満宮の境内で開催している。

四天王寺の主催者は関西古書研究会だ。以前,大阪環状線の大正駅だったか芦原橋の前の広場の古本市にも一度行ったがあれは何だったのだろう。他には,神戸の三ノ宮や,東京の神田でも古書祭り的な催しがあった。そもそも大学時代には,頻繁に大阪の梅田や日本橋近辺をうろついていたし,定期的に東京の神田古本街巡りをしていたのだ。

さて,久々の古本市だが,寄る年波には勝てず,小一時間ほどで根をあげてしまった。昔に比べて,それほど本の傾向や量が変わっているわけではない。こちらのアンテナが古くなっているからかもしれない。岩波文庫や講談社学術文庫などがかなりまとまっているのが目に付いた。岩波の古典文学大系も沢山積まれていた。あと,レコードやDVDやCDなども。理系の本は相変わらず見当たらないないが,とくに生物・地学系以外は絶滅状態だった。

値段は,100円均一だとか,1冊200円3冊500円などと定型化している。本はネットで買うようになり,書店も古書店も数は減っている。最近は古本もほとんど新刊と区別せずにアマゾンに頼っている。それでも,見当たらない本は,古本市でと思うこともある。ところが,いかんせんSN比が悪すぎて,情報発見にものすごくエネルギーを使うため,老人には厳しい話になってくる。


写真:四天王寺境内の古本市の白いテント(撮影:2024.4.28)



図:本部で配布される案内図


2024年4月6日土曜日

言壺:神林長平

海外SF作家からの続き

自分が読んでいる海外SF作家について並べてみると,ほとんどが自分より年上の作家である。まあ,最近はあまり新しい本を買っていないからでもある。日本の作家でもほぼ同じことがいえるかもしれない。

神林長平(1953-)は,自分と同じ歳の作家だけれどもこれまで全く読んだことがなかった。というかあまり読む気もしなかった。たまたま,ハヤカワ文庫JAの「言壺」という短編集を手に取ってみると,はじめて面白そうだと思った。

1988年から1994年に出版されたものなので,まだインターネットが商用化される前の作品だ。ところが,そのごのネットメディアの特徴をうまく予言している。ワーカムというのは,ほとんどテキスト生成AIのことを表わしている。おもしろかったのは,「栽培文」だ。言葉が文字を失って植物という実体によって蓄積,伝達される世界を表わしている。


写真:ハヤカワ文庫「言壺」の書影

2022年12月15日木曜日

本は消えるか?

本屋が消えるからの続き

日本の書店数が減少を続け,2045年にはなくなりそうだという話だったが,それは本の購買ルートが書店からアマゾンなどのオンラインサービスに変わっているだけで,本自体はこれまでのように売れていると考えてよいのだろうか。

そこで,日本の出版物の販売額を調べてみた。出版科学研究所は,出版物の取り次ぎ商社大手のトーハン(旧名:東京出版販売株式会社)が1956年に設立し,その後,公共性を担保するために,社団法人全国出版協会に委譲されたものだ。日本の出版業界の売り上げは1996年まで上り調子できたが,消費税の5%への増税を契機に減少の一途をたどっている。それが,次の図の日本の出版販売額の推移でわかる。


図:日本の出版販売額の推移(出版科学研究所から引用)

この25年の雑誌と書籍の販売額の減少傾向を外挿すると(−580億円/年),シンギュラリティの2045年にゼロになる。もっとも,書籍だけをみればあと40年の猶予があるし,電子書籍が急に立ち上がっているので,心配することはないのかもしれない。このデータからも,従来のような書店が消えゆくことは間違いない。

では,図書館はどうなるのだろうか。あの忌まわしいCCC(ツタヤ)に侵食されない公共施設としての矜持を保つことができれば,これまでに蓄積された書籍のアーカイブとして,あるいは電子書籍に対応することで,さらには最新の仮想空間へのアクセスポイントとして生き延びてほしい。

2022年12月14日水曜日

本屋が消える

日経の夕刊の社会面に,「書店のない市町村26%に 店舗10年で3割減 文化発信の場,消失に懸念」という記事があった。出版文化産業振興財団の調査なのだが,そのもとになっているのは,日本出版インフラセンターのデータらしい。

書店ゼロの市町村の割合のワースト3は,沖縄県(56.1%),長野県(51.9%),奈良県(51.3%)だ。確かにまわりの書店がどんどん減っているという実感と一致している。近くに残された書店の一つ,近鉄八木店6階の丸善ジュンク堂が最近改装されてかなり広くなったという話だった。しかし実際には,従来の書店の主要部が拡張された文房具コーナーに置き換わってしまい,児童書部分が少し広くなっただけ。なお,人口1万人当たりの書店数ベスト3は,石川県(1.34),福井県(1.30),香川県(1.16)だ(全国平均は,0.78)。

その日本出版インフラセンターのデータによれば,日本の書店の総店舗数は,2011年に17,000あったものが,2021年に12,000と10年で5000軒減った。このペースが続けば,2045年に日本の書店数は0になる。なお,新聞の発行部数は1997年に5770万部でピークアウトし,つるべ落としの勢いで減少中である。こちらも2045年には0になりそうだ。自分の娘達も紙の新聞は購読していない。そんなわけで,2045年のシンギュラリティは,活字文化の消滅を包含することになる。


図1:書店数と総坪数(ガベージニュースから引用)
店舗当たりの坪数は増加し新設店舗の大型化が進む


図2:新聞発行部数(ガーベージニュースから引用)


2022年11月5日土曜日

戦争と人間(3)

戦争と人間(2)からの続き

山本薩夫監督(1910-1983,両親は小松市出身,山本三兄弟は甥)の「戦争と人間」三部作は,なんとなく消化不良のノモンハン事件までで終ってしまった。なお,ノモンハン事件は,中公文庫「失敗の本質−日本軍の組織的研究」の「一章 失敗の事例研究」の6件のうち,真っ先に取り上げられてた。

よく考えると,原作は五味川純平(1916-1995)の小説なので続きがあるかもしれないと調べてみた。三一新書,後に光文社文庫から出版されていた。Kindle版は今もあるのだけれど,文庫版のほうは古書で1冊数万円の値がついているものもある。

古書店など探していると,メルカリに「戦争と人間(三一新書全18冊揃い)」が3000円で出品されていたので,早速注文してみた。12巻の劫火の狩人第四部までが映画の三部作に対応しているようで,その後の話は13巻から18巻まで続くことになる。

五味川純平といえば「人間の條件」なのだが,こちらの方はテレビの昼のメロドラマ帯で断片的にみたような気がするけれど,軍隊の横暴さ残酷さは同じように描かれていたとしても,違う作品だったのかもしれない。

P. S. 仲代達矢ではなく加藤剛のイメージだったが,「テレビドラマ版の人間の條件」確かにありました。昼帯ではなかったけれど,1962年10月から1963年4月までの放映だ(小学校3年生のころか)。

2022年8月20日土曜日

玉川児童百科大辞典

 個人送信(2)からの続き

国立国会図書館デジタルコレクションの「個人向けデジタル資料送信サービス」の対象に,玉川大学出版部玉川児童百科大辞典があげられていた。そういえば,1冊持っていたと確認してみたら,玉川新百科1の数学の巻だった。

これは,昭和45年(1970年)9月10日に発行された学習百科シリーズの1冊だ。玉川児童百科大辞典の系列のシリーズで,対象読者は中学生や高校生だ。数学でいえばほぼ高等学校までの内容がカバーされていて,最後の現代数学の章で,記号論理学やカントールの集合論,抽象代数学などがほんの少しだけ含まれている。

この本を買ってもらったのは,高校生の時だった。本屋で見かけてどうしようと迷っていたのを憶えていたのか,ある日父親が買ってきた。小学校の時は,父には毎日のように本屋に連れていってもらって,沢山の本や図鑑を買ってもらった。やがて中学校になると,自分一人で本屋に行くようになり,主にSFやブルーバックスなどをあさっていた。

高校に入ってからは,父に本を買ってもらう機会はほとんどなくなっていたが若干の例外があった。この本とハヤカワSFシリーズ銀背のアイザック・アシモフの「銀河帝国衰亡史(記憶の中では金背になっていた)」,そして,ヴァージニア・ウルフの「灯台へ(To The Lighthouse)」(英語本)を買ってきたのが印象的だった。アシモフの方はわかるのだけれど,何故ヴァージニア・ウルフだったのかはいまでも謎だ。



写真:ハヤカワSFシリーズ「銀河帝国衰亡史」の書影
付録:玉川新百科(玉川大学出版部・誠文堂新光社)全10巻の内容
 1 数学
 2 物理1
 3 物理2
 4 化学1
 5 化学2
 6 天文・気象
 7 地球・海洋・地質・鉱物
 8 生物学
 9 動物
10 植物