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2024年4月6日土曜日

言壺:神林長平

海外SF作家からの続き

自分が読んでいる海外SF作家について並べてみると,ほとんどが自分より年上の作家である。まあ,最近はあまり新しい本を買っていないからでもある。日本の作家でもほぼ同じことがいえるかもしれない。

神林長平(1953-)は,自分と同じ歳の作家だけれどもこれまで全く読んだことがなかった。というかあまり読む気もしなかった。たまたま,ハヤカワ文庫JAの「言壺」という短編集を手に取ってみると,はじめて面白そうだと思った。

1988年から1994年に出版されたものなので,まだインターネットが商用化される前の作品だ。ところが,そのごのネットメディアの特徴をうまく予言している。ワーカムというのは,ほとんどテキスト生成AIのことを表わしている。おもしろかったのは,「栽培文」だ。言葉が文字を失って植物という実体によって蓄積,伝達される世界を表わしている。


写真:ハヤカワ文庫「言壺」の書影

2022年12月15日木曜日

本は消えるか?

本屋が消えるからの続き

日本の書店数が減少を続け,2045年にはなくなりそうだという話だったが,それは本の購買ルートが書店からアマゾンなどのオンラインサービスに変わっているだけで,本自体はこれまでのように売れていると考えてよいのだろうか。

そこで,日本の出版物の販売額を調べてみた。出版科学研究所は,出版物の取り次ぎ商社大手のトーハン(旧名:東京出版販売株式会社)が1956年に設立し,その後,公共性を担保するために,社団法人全国出版協会に委譲されたものだ。日本の出版業界の売り上げは1996年まで上り調子できたが,消費税の5%への増税を契機に減少の一途をたどっている。それが,次の図の日本の出版販売額の推移でわかる。


図:日本の出版販売額の推移(出版科学研究所から引用)

この25年の雑誌と書籍の販売額の減少傾向を外挿すると(−580億円/年),シンギュラリティの2045年にゼロになる。もっとも,書籍だけをみればあと40年の猶予があるし,電子書籍が急に立ち上がっているので,心配することはないのかもしれない。このデータからも,従来のような書店が消えゆくことは間違いない。

では,図書館はどうなるのだろうか。あの忌まわしいCCC(ツタヤ)に侵食されない公共施設としての矜持を保つことができれば,これまでに蓄積された書籍のアーカイブとして,あるいは電子書籍に対応することで,さらには最新の仮想空間へのアクセスポイントとして生き延びてほしい。

2022年12月14日水曜日

本屋が消える

日経の夕刊の社会面に,「書店のない市町村26%に 店舗10年で3割減 文化発信の場,消失に懸念」という記事があった。出版文化産業振興財団の調査なのだが,そのもとになっているのは,日本出版インフラセンターのデータらしい。

書店ゼロの市町村の割合のワースト3は,沖縄県(56.1%),長野県(51.9%),奈良県(51.3%)だ。確かにまわりの書店がどんどん減っているという実感と一致している。近くに残された書店の一つ,近鉄八木店6階の丸善ジュンク堂が最近改装されてかなり広くなったという話だった。しかし実際には,従来の書店の主要部が拡張された文房具コーナーに置き換わってしまい,児童書部分が少し広くなっただけ。なお,人口1万人当たりの書店数ベスト3は,石川県(1.34),福井県(1.30),香川県(1.16)だ(全国平均は,0.78)。

その日本出版インフラセンターのデータによれば,日本の書店の総店舗数は,2011年に17,000あったものが,2021年に12,000と10年で5000軒減った。このペースが続けば,2045年に日本の書店数は0になる。なお,新聞の発行部数は1997年に5770万部でピークアウトし,つるべ落としの勢いで減少中である。こちらも2045年には0になりそうだ。自分の娘達も紙の新聞は購読していない。そんなわけで,2045年のシンギュラリティは,活字文化の消滅を包含することになる。


図1:書店数と総坪数(ガベージニュースから引用)
店舗当たりの坪数は増加し新設店舗の大型化が進む


図2:新聞発行部数(ガーベージニュースから引用)

2022年11月5日土曜日

戦争と人間(3)

戦争と人間(2)からの続き

山本薩夫監督(1910-1983,両親は小松市出身,山本三兄弟は甥)の「戦争と人間」三部作は,なんとなく消化不良のノモンハン事件までで終ってしまった。なお,ノモンハン事件は,中公文庫「失敗の本質−日本軍の組織的研究」の「一章 失敗の事例研究」の6件のうち,真っ先に取り上げられてた。

よく考えると,原作は五味川純平(1916-1995)の小説なので続きがあるかもしれないと調べてみた。三一新書,後に光文社文庫から出版されていた。Kindle版は今もあるのだけれど,文庫版のほうは古書で1冊数万円の値がついているものもある。

古書店など探していると,メルカリに「戦争と人間(三一新書全18冊揃い)」が3000円で出品されていたので,早速注文してみた。12巻の劫火の狩人第四部までが映画の三部作に対応しているようで,その後の話は13巻から18巻まで続くことになる。

五味川純平といえば「人間の條件」なのだが,こちらの方はテレビの昼のメロドラマ帯で断片的にみたような気がするけれど,軍隊の横暴さ残酷さは同じように描かれていたとしても,違う作品だったのかもしれない。

P. S. 仲代達矢ではなく加藤剛のイメージだったが,「テレビドラマ版の人間の條件」確かにありました。昼帯ではなかったけれど,1962年10月から1963年4月までの放映だ(小学校3年生のころか)。

2022年8月20日土曜日

玉川児童百科大辞典

 個人送信(2)からの続き

国立国会図書館デジタルコレクションの「個人向けデジタル資料送信サービス」の対象に,玉川大学出版部玉川児童百科大辞典があげられていた。そういえば,1冊持っていたと確認してみたら,玉川新百科1の数学の巻だった。

これは,昭和45年(1970年)9月10日に発行された学習百科シリーズの1冊だ。玉川児童百科大辞典の系列のシリーズで,対象読者は中学生や高校生だ。数学でいえばほぼ高等学校までの内容がカバーされていて,最後の現代数学の章で,記号論理学やカントールの集合論,抽象代数学などがほんの少しだけ含まれている。

この本を買ってもらったのは,高校生の時だった。本屋で見かけてどうしようと迷っていたのを憶えていたのか,ある日父親が買ってきた。小学校の時は,父には毎日のように本屋に連れていってもらって,沢山の本や図鑑を買ってもらった。やがて中学校になると,自分一人で本屋に行くようになり,主にSFやブルーバックスなどをあさっていた。

高校に入ってからは,父に本を買ってもらう機会はほとんどなくなっていたが若干の例外があった。この本とハヤカワSFシリーズ銀背のアイザック・アシモフの「銀河帝国衰亡史(記憶の中では金背になっていた)」,そして,ヴァージニア・ウルフの「灯台へ(To The Lighthouse)」(英語本)を買ってきたのが印象的だった。アシモフの方はわかるのだけれど,何故ヴァージニア・ウルフだったのかはいまでも謎だ。



写真:ハヤカワSFシリーズ「銀河帝国衰亡史」の書影
付録:玉川新百科(玉川大学出版部・誠文堂新光社)全10巻の内容
 1 数学
 2 物理1
 3 物理2
 4 化学1
 5 化学2
 6 天文・気象
 7 地球・海洋・地質・鉱物
 8 生物学
 9 動物
10 植物

2022年7月6日水曜日

まひるの月を追いかけて:恩田陸

昔,最も多いときは,年に100冊近く本や雑誌を買っていたかもしれない。ところが,最近,ほとんど本を買わなくなってしまった。通勤帰りに毎日本屋に立ち寄る習慣がなくなったせいだが,そもそも行動範囲内から書店がどんどん消えていることも原因だ。

諸般の事情で少し空き時間があったので,久しぶりに近鉄八木店のジュンク堂書店に立ち寄ると,宮部みゆき(1960-)の文庫新刊「まひるの月をおいかけて」が平積みされていた。手に取って中をパラパラみると,奈良県のあちこちを回る話で,天理という字が目に入ったので思わず買ってしまい,並み居る未読書を差し置いてさっそく読了した。

主人公らは,東京−橿原神宮前駅−橿原神宮−藤原京−今井町−明日香−亀石−橘寺−石舞台−天理駅−山辺の道−長岳寺−大神神社−近鉄奈良駅−奈良公園−新薬師寺−白毫寺−東大寺−法隆寺−中宮寺−飛鳥駅−橘寺と巡り,それにつれて物語が転回していく。

実体験にもとづくような文章だったので,たぶん,宮部みゆきもこのルートを辿ったのだな。天理駅前のビジネスホテルと焼き肉屋はどこだろう。とあらためて本をよく見ると,著者は宮部みゆきではなく,恩田陸(1964-)だった。しかも新刊ではなく,2007年が文庫1刷(単行本は2003年)だ。写真で見る二人の顔形はなんとなく似ているような気がするし,文春文庫の黄色い背表紙をみて条件反射的に宮部みゆきにアサインされていたようだ。奈良のご当地ものということで,書店で平積みされていただけだった。

宮部みゆきは何冊も読んだが,恩田陸は映画化された「夜のピクニック」を始めほとんど読んでいない。ハヤカワSFシリーズということもあって「ロミオとロミオは永遠に」はたぶん買ったような気がするが,期待外れだったので処分してしまった。


写真:まひるの月を追いかけての書影(amazonから引用)

2022年4月21日木曜日

渦 妹背山婦女庭訓 魂結び:大島真寿美

 最近,読書のスピードが極めて遅くなっている。本日,ようやく大島真寿美の「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」を読了した。2019年の第161回直木賞受賞作品だ。

もうすこし,重くて硬い作品かと予想して読みはじめると,意外に軽い文章だったので,始めのうちは少し慣れなかった。やがて,近松半二の物語についていくことができるようになった。この作品は操り浄瑠璃の竹本座の座付作者である近松半二(1725-1783)をテーマに選んだところが鍵だったと思う。

物語としては,やや物足りなかった。250年前に近松半二は,日高川入相花王(1759),奥州安達原(1762),本朝廿四孝(1766),傾城阿波の鳴門(1768),近江源氏先陣館(1769),妹背山婦女庭訓(1771),新版歌祭文(1780),伊賀越道中双六(1783)と,現在でも頻繁に上演されている,三大名作と近松の世話物以外の主要な浄瑠璃を次々と産み出した。それにも関わらず,操り浄瑠璃が歌舞伎に破れていくところが最も印象に残ったところだ。

もう一つは,妹背山婦女庭訓の主要登場人物のお三輪をふくめて,登場する女性陣がしなやかな強さをもっているところか。半二の妻はお佐久で,娘はおきみなのだが,これがどのようにして伊賀越道中双六の作者として名を連ねた近松加作につながっていくのかいかないのかは,次作の「結 妹背山婦女庭訓 波模様」を待たなければならないのか。

岡本綺堂の戯曲「近松半二の死」は青空文庫でも読める小編だが,そこでは祇園町の娘お作が加作につながることが暗示されている。


写真:大島真寿美の渦の書影(amazonnより引用)


2021年11月27日土曜日

21世紀への旅行

1960年代前半,自分が子供のころは日本の高度経済成長の時代と重なっていて,未来への夢や希望が色濃く感じられたものだ。やがて,万博が終わりオイルショックや不況を迎える1970年代にはその反動からか「モーレツからビューティフルへ」というCMが流れ,地球の寒冷化が話題になる短調の時代だった。

1962年(小学校3年のころ)に刊行された読売新聞科学報道本部と手塚治虫による「21世紀への旅行」は,鉄腕アトムのノンフィクション版のような趣があって,むさぼるように読んだものだ。

リアルな社会予想に基づく未来の世界のイメージは,小学館の科学図説シリーズの「未来の世界」でも読むことができた。まあ,台風の進路をコントロールするとか,原爆で運河を掘るとか,ベーリング海峡をつないでダムにするというたいそうな話も満載。

その科学図説シリーズは,ちょっと大人びたデザインで文字による情報量の多い図鑑であり,これも何冊か買ってもらって愛読した。たぶん太字のものは持っていたはずだがこの記憶にも若干微妙なところがある。

1) 動物の世界 (科学図説シリーズ ; 1) / 高島春雄, 今泉吉典 著[他] (小学館, 1960)
2) 昆虫と植物 (科学図説シリーズ ; 2) / 古川晴男, 矢島稔 著[] (小学館, 1962)
3) 生命のふしぎ (科学図説シリーズ ; 3) / 八杉竜一, 大滝哲也, 日高敏隆 著[他] (小学館, 1961)
4) 人類の誕生 (科学図説シリーズ ; 4) / 石田英一郎, 寺田和夫 著[他] (小学館, 1960)
5) 人体のすべて (科学図説シリーズ ; 5) / 岡本彰祐, 岡本歌子 著[他] (小学館, 1964)
6) 宇宙のすがた (科学図説シリーズ ; 6) / 畑中武夫 等著[他] (小学館, 1960)
7) 地球の科学 (科学図説シリーズ ; 7) / 畠山久尚 等著[他] (小学館, 1962)
8) 宇宙旅行 (科学図説シリーズ ; 8) / 原田三夫 著[他] (小学館, 1961)
9) 数の世界 (科学図説シリーズ ; 9) / 矢野健太郎 著[他] (小学館, 1963)
10) エネルギーと原子力 (科学図説シリーズ ; 10) / 崎川範行, 遠藤一夫, 島田豊治 著[他] (小学館, 1962)
11) 科学の歴史 (科学図説シリーズ ; 11) / 菅井準一 等著[他] (小学館, 1961)
12) 未来の世界 (科学図説シリーズ ; 12) / 高木純一, 岸田純之助 著[他] (小学館, 1963)


写真:21世紀への旅行の書影(復刻版しかみつからなかった)

2021年11月19日金曜日

少年少女ものがたり百科

偕成社の「少年少女ものがたり百科」のシリーズは,子供の頃に何冊か買ってもらった。調べてみると次のリストのようなタイトルが並んでいる。出版されたのが,1961年から1963年ということは,自分が小学校2年から4年のころにかけてだ。

当時は,夕方になると毎日のように父親に本屋(十一屋のヨコノ書店)に連れて行ってもらったので,本を買ってもらう機会も多かった。太字の本は家にあって読んだ記憶がある。下線の本は,もしかしたらあったかもしれないし,なかったかもしれない,というわけで60年前の記憶のほぼ50%くらいは不確かで怪しいのだった。

三石巌さんの「発明とくふうの光」はアマゾンの中古書で 12,990円もする。


写真:発明とくふうの光の書影(amazonから引用)

1) 日本のふしぎ (少年少女ものがたり百科 ; 1) / 宮下正美 著[他] (偕成社, 1961)
2) 世界のふしぎ (少年少女ものがたり百科 ; 2) / 中山光義 著[他] (偕成社, 1961)
3) 発明とくふうの光 (少年少女ものがたり百科 ; 3) / 三石巌 著[他] (偕成社, 1961)
4) 十二人の探検家 (少年少女ものがたり百科 ; 4) / 野田開作 著[他] (偕成社, 1961)
5) 星と伝説 (少年少女ものがたり百科 ; 5) / 野尻抱影 著[他] (偕成社, 1961)
6) 日本の英雄 (少年少女ものがたり百科 ; 6) / 中沢巠夫 著[他] (偕成社, 1961)
7) 世界の英雄 (少年少女ものがたり百科 ; 7) / 浅野晃 著[他] (偕成社, 1961)
8) 偉人の光 (少年少女ものがたり百科 ; 8) / 久保喬 著[他] (偕成社, 1961)
9) 宇宙のふしぎ (少年少女ものがたり百科 ; 9) / 日下実男 著[他] (偕成社, 1962)
10) 数のふしぎ・形のなぞ (少年少女ものがたり百科 ; 10) / 宮下正美 著[他] (偕成社, 1962)
11) 日本の伝説 (少年少女ものがたり百科 ; 11) / 山本和夫 著[他] (偕成社, 1962)
12) 世界の伝説 (少年少女ものがたり百科 ; 12) / 小出正吾 著[他] (偕成社, 1962)
13) 偉人の少年時代 (少年少女ものがたり百科 ; 13) / 二反長半 著[他] (偕成社, 1962)
14) 日本一・世界一 (少年少女ものがたり百科 ; 14) / 中山光義 著[他] (偕成社, 1962)
15) 動物のふしぎ (少年少女ものがたり百科 ; 15) / 小林清之介 著[他] (偕成社, 1962)
16) 植物のふしぎ (少年少女ものがたり百科 ; 16) / 真船和夫 著[他] (偕成社, 1962)
17) 日本歴史のひかり (少年少女ものがたり百科 ; 17) / 中沢巠夫 著[他] (偕成社, 1962)
18) 世界歴史のひかり (少年少女ものがたり百科 ; 18) / 浅野晃 著[他] (偕成社, 1962)
19) 理科のふしぎ (少年少女ものがたり百科 ; 19) / 三石巌 著[他] (偕成社, 1963)
20) 世界のオリンピック (少年少女ものがたり百科 ; 20) / 大島鎌吉 著[他] (偕成社, 1963)
21) 日本をめぐる (少年少女ものがたり百科 ; 21) / 本木修次 著[他] (偕成社, 1963)
22) 世界をめぐる (少年少女ものがたり百科 ; 22) / 飛田正夫 著[他] (偕成社, 1963)

2021年11月18日木曜日

お化け煙突

 NHKの映像の世紀プレミアムの再放送,第15回の「東京 夢と幻想の1964年」では,オリンピック前後の東京の様子が映し出されていた。もちろんオリンピックの話題が中心なのが,その前後には意外な都市の表情があった。

1つは,当時の東京が非常に汚かったということだ。家庭のゴミはその辺の道路や川に無造作に捨てられて,街中に腐臭が漂っているようだ。また,血液銀行という名の売血制度があった時代でもあり,日銭を稼ぐための建設労働者が行列していた。その中で,首都高速道路が建設され,東海道新幹線が開業している。

エピソードの一つにお化け煙突の解体というのがあった。隅田川沿いの足立区にあった東京電力の千住火力発電所の4本の煙突のことだ。もちろん現物を見たことはないが,子供のころから知っていた。

それは,偕成社の少年少女ものがたり百科(10)「数のふしぎ・形のなぞ」で取り上げられていたからだ。お化け煙突は,4本の煙突が2本づつ平行に配置されていて,見る方向によって,1本,2本,3本,4本に見えるというものだ。

この他にも,曽呂利新左衛門の褒美の話(等比数列の和),地球の鉢巻の話(円周と半径の関係),一億まで数えるのにかかる時間の話,ガウスのレンガ積みの話(等差数列の和),アルキメデスの原理の話,パスカルの三角形の内角の和の話などが印象深かった。

1962年の出版で,小学校低学年で買ってもらったお気に入りの本の一つで何度も何度も繰り返して読んでいた。


写真:「数のふしぎ・形のなぞ」の書影(日本の古本屋から引用)

2021年11月17日水曜日

オカジマサエ

 非常勤の授業からの帰り。今日はたまたま家人の用務先が大学の近くだったので,車でピックアップしてもらい,どこかで昼食をとることになった。

選んだのが,広陵町のCafe OMO屋。着いてみれば,田んぼの中にある昔の紡績工場の跡を改装した渋い建物だった。平日にも関わらず駐車場はほぼ満杯であり,店の入口で20分くらい待ってからようやく席につくと周りは若い人ばかりだ。

ランチの牛すじ煮込みカレーを食べながら隣の席の女性グループを見ると,いつの間にかワークショップが始まっていた。そういえば,待ち席の壁に,ひらがな絵本の原画が並んでいたのを思い出した。その作者本人が,絵本のイラストの切り抜きを小さなフレームにコラージュするコツを指導しているのだった。

食後のコーヒーを飲み終わって帰ろうとしたら,出口のあたりでオカジマサエさんが描いた絵本「いいもんみーつけた」を販売している。著者のサインがもらえるとあったので,早速,ワークショップの手を止めてお願いしてみたところ,快く孫のすーちゃん宛のサインをしていただいた。

オカジマサエさんの,声がとびだすひらがな絵本「あいうえお」は,現在た行まできている。帰って,Cafe OMO屋のことを調べていたら,今年の12月26日で閉店になるようだ。残念。


写真:オカジマサエの絵本「いいもんみーつけた」の書影(2021.11.17撮影)

2021年11月16日火曜日

taknal

 NHKの夕方の定番,ニュースほっと関西を見ていたら,大阪ガスの人が開発したスマホ用アプリが紹介されていた。taknalというものだ。「ユーザー同士がすれ違うことで,お互いがオススメする本が交換されるアプリです」ということだが,SNS機能はあえてつけていない。

本屋がまだ健在だったころ,しかもその本屋に通うことができていたころは,新しい本との出会いは毎日のようにあった。今では,インターネットで検索できるとはいうものの,残念ながら,インターネットの検索では思いがけない出会いを得ることが難しい。あくまでも自分の関心空間の近傍でしか探索が進まない。

そこで,スマートフォンの位置情報と,ユーザーのおすすめ情報を掛け合わせて,偶然の出会いを演出したのがこのアプリである。ユーザの情報は100字以内の感想文しか交換されないので(もちろんソーシャルセキュリティホールは色々と作れるだろう),比較的安心して利用できそうだ。

が,残念ながらアプリのバク出しが不十分なのか,iPhone SE2(iOS 14.8)では,自分のおすすめ本を登録できなかった。また,自宅に閉じこもっていると,位置情報による発見の確率も低いままで止まってしまうのも仕方がない。


図:taknalアプリアイコンのイメージ(taknalホームページから引用)

P. S. なお,taknalという名称は「読みたくなる」からきている。やっぱり使えなかった

2021年11月12日金曜日

神戸:西東三鬼

対面授業が始まってくれたおかげで,電車の中で読書する時間が戻ってきた。

西東三鬼(1900-1962)の神戸・続神戸を読了。これは,昔,NHKのドラマ人間模様で見た「冬の桃」(1977,脚本:早坂暁,演出:深町幸男,全7回)の原作である。早坂=深町コンビといえば,夢千代日記(1981)も新婚当時よく見ていたが,それと同じフレーバーの名作だった。

冬の桃は1977年の放送だったが,M2の頃に見ていたのではないかもしれない。とすると総合テレビで夜9:00に再放送された1990年だろうか。小林桂樹の渋い演技や,時々挟まる西東三鬼の俳句が,戦時中の神戸の怪しいホテル人々の様子と相まってとても印象的だった。

小説(著者はフィクションではないと書いている)の方も,小説より奇なりのエピソードが積み重ねられる。歯科医の著者が,弾圧によって俳句から距離を置いた,戦中戦後の生活模様が描かれる。

その後,1948年には山口誓子(1901-1994)を主宰とする雑誌「天狼」の編集にあたる。名前は耳にしたことがある雑誌だが,創刊時は奈良県丹波市町(現天理市)の養徳社から出版されている。西東三鬼が編集に携わっていた頃は先鋭的だったのが,後に微温的な雑誌になってしまったとのこと。

養徳社は,天理時報社の出版部門が1944年に株式会社として独立したもので,現在は,天理教関係の一般雑誌などを出版している(天理時報社=印刷会社には,個人の名刺を印刷してもらったことがある)。天理教の出版物といえば,天理道友社だが,こちらは宗教法人格を持っている。


写真:西東三鬼(津山市西東三鬼賞のページより引用)

[1]第三俳句集 今日(西東三鬼,青空文庫)
[2]西東三鬼賞(津山市)

2021年10月25日月曜日

光の雨:立松和平

 夜の谷を行く:桐野夏生からの続き

一年かかって,ようやく立松和平光の雨を読了。まとまった時間がないと本が読めないのだが,法事で金沢まで往復したサンダーバードの時間を使うことができた。

狂言回しの周辺ストーリーは本質的なものではないと思うので,そこを批判するのはあまり当たらないのではないか。ただ,勾留中の坂口弘死刑囚の著作からの盗作疑惑を指摘されたため,大幅に改訂して文庫本となっているとのこと。

物語の主人公は,玉井潔(坂口弘 1946.11-)である。彼が80歳になっていて,死刑制度が廃止された2026年という時点に時代設定がなされている(Wikipediaには2030年とあるが,玉井が80歳になったばかりで,55年前の事件というキーワードがあることから2026年と推定できる)。その思い出語りの形で,連合赤軍事件(真岡銃砲店襲撃事件印旛沼事件山岳ベース事件)を中心に事件の概要を肉付けしたストーリが描写されている。

前半を印旛沼事件までに費やしていたが,こちらはよく知らなかった。後半の山岳ベース事件は,朝刊に載った写真が生々しくショッキングだったことを憶えている。早岐やす子(21歳) ,向山茂徳(20歳);尾崎充男(22歳) ,進藤隆三郎(21歳) ,小嶋和子(22歳) ,加藤能敬(22歳) ,遠藤美枝子(25歳) ,行方正時(25歳) ,寺岡恒一(24歳) ,山崎順(21歳) ,山本順一(28歳) ,大槻節子(23歳) ,金子みちよ(24歳) ,山田孝(27歳) の14名を概ねカバーした記述がされていた。

立松和平の湿っぽさが内容にマッチしていたのかもしれないが,あらためて山本直樹のレッドをまとめて読んでみたくなる。


写真:光の雨の書影(Amazonから引用)

[1]連合赤軍事件スクラップブック


2021年9月10日金曜日

ホサナ:町田康

2017年に出版され,2020年に講談社文庫として発刊された町田康の「ホサナ」 を読了した。

解説まで含めて文庫で922pというかなりの大部。最初は「スピンク日記(2011)」などのエッセイに登場する犬の話かと思って油断して読んでいたら,突如,光の柱が現れて主要人物が死んでしまった。なんだこれは。

もちろん,これまでに読んだ「パンク侍,切られて候(2004)」,「告白(2005)」,「宿屋めぐり(2008)」でもかなりぶっとんだ状況は出現するのだけれど。ホサナを読むのは苦にはならなかったが,小説の完成度としてはイマイチだったかもしれない。

そういう意味では,最初からSFとして読めればよかったのだけれど,残念ながらそういう建て付けにはなっていない。たぶん,楳図かずおの「漂流教室」や「14歳」のレベルには到達できていない。比較の対象が間違っているのかもしれないけれど。

次は,「ギケイキ2」を読むのが楽しみだ。

2021年7月15日木曜日

カレル大学

石橋や池田に住んでいたころ,あるいは天王寺に通っていたころは,仕事帰りに本屋に寄るのが日課だった。天理に引っ越してからも,大和八木にはかろうじて本屋らしきものがあったので,毎日新刊をチェックすることができた。

でも本屋の消滅が進み始めたころに定年となったたため,本屋にいくのは2,3ヶ月に1度のペースになってしまった。アマゾンやグーグルでは目的の本を探せるかもしれないが,目的としない本に出会うことができない。ネット上でこれを可能にするにはVRが次の段階まで進化して,アーサー・C・クラーク(1917-2008)のダイアスパーの世界が実現するのを待たなければならない。

そんなとき,YouTubeの読書系チャンネルが未知の本を探すための補完になるかもしれない。ヨビノリたくみと斎藤明里のほんタメをみていたら,【全10冊】小説1000冊読んだ私が最近読んだ本というタイトルで,アンナ・ツィマ(1991-)のシブヤで目覚めてを先月末に紹介していた。そうか,深緑野分によればコニー・ウィリス(1945-)なのか。ますます読んでみたくなる。

そのアンナ・ツィマと訳者の阿部賢一・須藤輝彦を招き,実践女子大学文学部准教授のブルナ・ルカーシュが司会をする特別トーク・イベントがあった。アンナ・ツィマとブルナ・ルカーシュが卒業しているのが,プラハにあるカレル大学だ。1348年創設のドイツ語圏最古の大学である。

カレル大学は知らなかったけれど,ヤン・フス,ニコラ・テスラ,カレル・チャペック,フランツ・カフカ,ミラン・クンデラや,多くのノーベル賞学者を輩出しているヨーロッパの主要大学のひとつだった。アルバート・アインシュタインやエルンスト・マッハもこの大学の教員だった。


写真:歴史地区にある旧校舎=チェコ国立図書館(Wikipediaから引用)

2021年6月19日土曜日

文部科学省:青木栄一

 中公新書2635の「文部科学省 揺らぐ日本の教育と学術」を読了した。著者の青木栄一(1973-)さんは,東北大学教育学部教授で前職は国立政策研究所の研究員(2003-2010)だ。

「文部科学省」の目次は次のようになっている。

序 章 「三流官庁」論を超えて
第1章 組織の解剖−統合は何をもたらしたか
   1 幅広い業務,最小の人員
   2 組織構成から見る文部・科技のバランス
   3 揺らぐ機関哲学
第2章 職員たちの実像
   1 文科官僚−特急券をもつ者たち
   2 キャリアパスは変化したか
   3 融合は進んだか−幹部人事と出向人事から読み解く
第3章 文科省予算はなぜ減り続けるのか
   1 67万人の教員人件費,3万校の学校施設建築費
   2 高校無償化−政治に翻弄される4000億円予算
   3 国立大学の財政−年マイナス1%の削減
第4章 世界トップレベルの学力を維持するために
   1 ゆとり教育から学力向上へ
   2 教員の多忙化−過労死ライン6割超の衝撃
   3 教育委員会は諸悪の根源か?
第5章 失われる大学の人材育成機能
   1 高大接続−誰のための入試改革か
   2 大学改革−なんのためのグローバル化か
   3 先細る日本の学術・科学技術人材
終 章 日本の教育・学術・科学技術のゆくえ
2001年に文部省と科学技術庁が統合されて発足した,定員数が最も小さな文部科学省(定員2150人)の組織,人事,予算を説明した後,その政策について初等中等教育と高等教育にそれぞれ焦点をあてて非常にバランスよく説明している。自分の見聞・体験してきた分野とほぼ重なるので非常に読みやすく,飲み込みやすかった。

青木さんの専門分野は,教育行政学,地方自治論,公共政策論であり,現在の研究テーマは,官僚制のパネルデータ分析,教育と政治の関係,教員の労働時間とワークライフバランスなどであるため,第4章のゆとり教育の失敗や教員の多忙化のあたりが丁寧に分析されていた。

ただ,文部科学行政を牛耳ってきた自民党清和会の最近の極右的な傾向を反映した教科書検定の結果としての現状(従軍慰安婦記述など)や,その観点からの教員免許更新の意味,あるいは道徳教育の復活など,文科省がかかえる復古的な動きについてはほとんどスルーされているような気がした。

一方,第5章の大学の危機について。高等教育は著者の直接の専門分野ではないけれど,実体験に裏打ちされたリアリティのある記述が,直近の様々な事態までを含んで語られており,とても共感できるのであった。例えば,221ページ
まず政治家は危機を煽り改革を叫び,制度改革の機運を醸成する。いつの間にか既存制度の改革自体が目的となり,冷静な政策論議が忘れられる。企業は,こうした醸成された状況にキャッチアップし,受託を見据えた動きをする。ここに有識者が影に日向に関わっていく。
例としては,大学入試改革が,世代交代した新自由主義的傾向の強い文教族によって,民間委託の名のもとに売り払われようとしていることが挙げられている。そう,GIGAスクール構想などのEdTechの動きについてもまったく同様なのだった。そしてその端緒となる「インターネットの教育利用」に自らの手を貸していた私なのだった。

さらに,文科省の背後にいる,官邸,他省庁,政治家,財界の「間接統治」によってこうした政策(ロジスティクス軽視,前線依存)が進められていることが明らかにされていくが,これを防ぐものがいない。例えば,266ページ
不幸なことに,文科省のこうした思考と姿勢に注意を促す外部主体がいない。教職員組合は本来,文科省を叱咤激励するべき存在だが組織率が低下し弱体化してしまった。教育学者は「エビデンスの罠」に囚われてしまい迷走している。多くの教育学者はエビデンスが政治家や各省庁に都合よく使われる危険性に気づかず,エビデンス重視の流れに無批判に乗ってしまい,その結果,文科省の挙証責任ばかりが求められるようになった。教育メディアは改革の紹介記事を特集するが調査報道は不十分で,多くは「提灯記事」の域を超えない。他方,改革に対する批判の多くが感情的で,何らかの学術的知見に裏付けられたものではない。
最後に,これを打開するための著者のアイディアとして,シンクタンクの活動を呼びかけている。詳細は,本を買って読んでください。


写真:中公新書2635 文部科学省 青木栄一(amazonより書影引用)


2021年4月6日火曜日

ビビビ・ビ・バップ:奥泉光

奥泉光(1956-)の「ビビビ・ビ・バップ」 を読了。奥泉光は「石の来歴」で1994年の芥川賞を受賞している。受賞後に出版された文春文庫で読み今一つピンとこなかったが,どこか惹かれるものがあって結局あれこれと7冊買ってしまっていた。「葦と百合」,「ノヴァーリスの引用」,「バナールな現象」,「グランド・ミステリー」,「鳥類学者のファンタジア」,「モーダルな事象」,「神器」である。「雪の階」も読みたいけれどまだ買っていない。

彼は,ミステリーやSFの色彩の濃い作品も書いているが,特に「ビビビ・ビ・バップ」はSF+ミステリのど真ん中だった。大森望の解説から引用すれば,

AI,仮想現実,アンドロイド,テレロボティックス,人格のデジタル化,コンピュータ・ウィルスなど,いまどきのSFネタを全部盛りにした上に,古今東西の実在有名人をよりどりみどりにトッピングする,ぜいたくきわまりない近未来冒険SFエンターテインメント小説

というわけだ。また,これは「鳥類学者のファンタジア」 のフォギーの物語の続編にもなっている。

これまでに読んでいた7冊のうちで最も印象深かったのが,「鳥類学者のファンタジア」のおまけの部分である「終曲,ないしはニューヨーク・オプショナル・ツアー」の章だ。主人公達が時間を超えて1945年のニューヨーク,ハーレムでジャズセッションをするというものであり,ジャズでフルートを演奏する奥泉光の趣味が濃厚に反映されていた。そしてこの著者の気分が「ビビビ・ビ・バック」の主題に見事に引き継がれていた。

2020年10月15日木曜日

夜の谷を行く:桐野夏生

 桐野夏生の「夜の谷を行く」を読了。そうか,立松和平の「光の雨」も読んでいなかったのだ。これが高橋伴明により映画化されたものはネットで部分的に見たような気もする。丁寧に読んだパトリシア・スタインホフの「死へのイデオロギー 日本赤軍派(岩波現代文庫)」は手元にある。この他の当事者らの著作群にはちょっと手が出ないが,山本直樹の「レッド(全8巻)」,「レッド 最後の60日 そしてあさま山荘へ(全4巻)」,「レッド 最終章 あさま山荘の10日間(全1巻)」は読んでみたいと思っている。

さて,「夜の谷を行く」に戻る。弁護士の大谷恭子さんの解説を先に読んでしまったので,どうしても推理が先立ってしまい最後の着地が決まらなかった。そうでなくても桐野夏生の小説の終わり方はこんな感じなのだから。素材も展開も悪くはないが,自分が期待するのがもう少しだけ重いものなので,期待感と読後感の間にズレが生ずるのが桐野夏生だ。

これまでにも何冊か買っているが(おもわず読んでみたくなるテーマを取り上げるのがうまい),最初に図書館で借りて読んだ「OUT」が一番良かったかもしれない。

桐野夏生は1951年金沢生まれだが,父親は転勤族であり,3歳で金沢を離れていて仙台,札幌を経由して中学以降は東京で育っているようで,金沢との関係の痕跡がほとんど見えてこない。でも自己紹介には「金沢生まれ」とあるので,なんらかのこだわりがあるのかもしれないけれどよくわからない。

2020年8月18日火曜日

かこさとし ふるさと絵本館

ならの大仏さま:かこさとし とつながる

かこさとし ふるさと絵本館「砳」(らく)は,彼の生地である福井県の越前市にあった。敦賀の気比神宮から雨とトンネルの8号線をくぐり抜けてなんとかたどりついた。来場者はほどんどいないが,検温とアルコール消毒ののち連絡先を記帳した。ここでは,かこさとしの作品が収蔵・展示されている。1階には,絵本や紙芝居を読める絵本の部屋,工作のできる遊びの部屋があり,2階には原画や複製原画が展示されていた。館外にはだるまちゃんの遊具などもあって,こじんまりしているがかこさとしファンにはたまらない場所である。近くの8番ラーメン武生店も繁盛していた。

写真:かこさとし ふるさと絵本館の駐車場辺り(2020.8.13)