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2024年4月5日金曜日

ベニコウジカビ

機能性表示食品からの続き

話題の紅麹(紅麹米)は,ベニコウジカビが米を発酵させたものである。麹(コウジ)は,米や麦や豆をニホンコウジカビショウユコウジカビで発酵させたものである。

で,味噌・醤油や日本酒に欠かせないニホンコウジカビやショウユコウジカビとベニコウジカビは,生物分類学的にはかなり遠い親戚なのだと指摘するコメントをネットで見かけた。はいはい,調べてみました。

        動物界|界(kingdom) |菌界
      脊椎動物門|門(division)  |子嚢菌門     |接合菌門
        哺乳綱|綱(class)    |ユーロチウム菌綱 |接合菌綱
   齧歯目/ 霊長目|目(order)   |ユーロチウム目
メガネザル科/ ヒト科|科(family)    |マユハキタケ科  \モナスカス科
  ゴリラ属/ ヒト属|属(geneus)   |コウジカビ属    |モナスカス属
        ・ヒト|種(species)   |・ニホンコウジカビ |・ベニコウジカビ

ということで,「科(family)」レベルで異なる生物だった。ヒトもオランウータンもゴリラもチンパンジーもヒト科なので,そのファミリーよりも遠いファミリー(メガネザル科,テナガザル科,オナガザル科,キツネザル科)に対応する。「目(order)」レベルで異なるネズミやウサギほどは遠くはない。

ただし,クモノスカビやケカビなども中国や朝鮮の発酵食品に使われてきたのだが,これは門レベルでニホンコウジカビとは異なるグループだから,まあそんなものかもしれない。


写真:紅麹(Wikipediaから引用)




2023年12月24日日曜日

6文字のDNA

DNAというと,55年前に高等学校の生物の時間に学んだところで知識が留まっている。4つの塩基が対になって並ぶことで,DNAの複製で情報が保たれるということ。3つの塩基情報が1つのアミノ酸に対応すること。くらいだ。

米島君はこの遺伝情報の伝達のところが一番重要なポイントだといっていたが,自分は,むしろ進化のところに興味があった。結局それもDNAによる遺伝情報の伝達に帰着したのかもしれないが,当時の高校の生物教科書ではそこまで深入りできるわけでもない。

1970年万博の太陽の塔の中を小松左京がデザインした生命の進化の樹ができるというので,すごく期待していたのだけれど,残念ながら,乃村工藝社が作ったような(そうかどうかは知らない)期待外れのモックアップが並んでいた。

DNAの塩基の種類が4でないとどうなるか,これまで考えたこともなかった。「4文字のDNAを6文字に拡張してセントラルドグマを騙す研究」という怪しい記事に出会った(が真面目な論文[1]だった)。そうか,その手があったのか。

論文のアブストラクトをDeepLで訳して,Bardで要約すると前半は次のようなことだった。
人工的に拡張された遺伝情報システム(AEGIS)は、DNAに新たな塩基対を追加したものです。この新たな塩基対は、天然の塩基対と異なる水素結合パターンを持っています。そのため、RNAポリメラーゼによって認識され、処理されるかどうかは不明でした。

 この論文では、大腸菌のRNAポリメラーゼが、6文字に拡張された遺伝システムにおいて、非天然型核酸塩基を選択的に認識することを示しました。高分解能低温電子顕微鏡構造から、AEGISと天然塩基対の認識の背後にある共通の原理が明らかになりました。
このとき,ATGCにBSが追加されることになる。この主の研究は古くからあって,いくつかの可能な塩基ペアが見つかっているらしい。DNAとして機能するためには,複製,転写,翻訳の3つの機能が実現されル必要がある。新しい塩基を含む3塩基組に対応する転写RNAとアミノ酸があって,これまでになかった高機能なタンパク質が生成されるという段階には達していない。

もし,DNAに6塩基対を持って自己増殖できるあらたな生命体系が創造されたらどうなるだろうか。AGIがそのような新しい生命の創造神となるのだろうか。


図:DNAからタンパク質合成へ(KEK物質構造科学研究所から引用)


[1]A unified Watson-Crick geometry drives transcription of six-letter expanded DNA alphabets by E. coli RNA polymerase(Nature)

2023年6月17日土曜日

アミガサハゴロモ?

「ちょっとちょっと」と呼び出されてベランダに出てみると,小さな白い花が落ちている。

この5mm ほどの白い小さなものが動いて跳ねるというのだ。早速指を近づけるともぞもぞ動きはじめ,そのうち20cm以上大きくジャンプした。なんだこれは。ネットで調べてみると,どうやらオオシラホシハゴロモの幼虫らしい。

そんなものかと納得していたのだけれど,今回記事にしようと確認してみたところ,違うかもしれない。幼虫が成虫になるまで追跡調査した人によると,アミガサハゴロモのようなそうでないような。岐阜聖徳学園大学の川上先生のところの進化する昆虫図鑑では,アミガサハゴロモ属の外来種らしい。

生物種の同定というのはなかなか難しいものだ。


写真:たぶんアミガサハゴロモ属の外来種の幼虫

2022年6月9日木曜日

アルゼンチンアリ

 先日のクローズアップ現代で,「静かなる侵略者“史上最強”アルゼンチンアリとの攻防」をやっていて,これは大変だ!と思った。

アルゼンチンアリは,南米原産の特定外来生物であり,日本で大繁殖しているとして,大阪空港や周辺の住宅地での調査や防護の様子が紹介されていた。生態系を破壊し農作物にも被害を与えるのは,複数の女王蟻を擁し,スーパーコロニーという巨大な地下ネットワークを作るからだ。国立環境研究所の五箇公一生態リスク評価・対策研究室がロックなヘアースタイルで説明していた。

ところで,この番組内容をどのくらいの重みで受け止めるべきなのだろうか。一般に放送番組は,その内容を強調して印象を強めるように作られている。放送直後の,これは大変だ!はどこまで尤もな話と考えればよいのか。念のために確認してみる。

環境省の生態系被害防止外来種リストのパンフレットをみると,全体像とアルゼンチンアリの位置づけがわかる。外来種リストには,421種が登録されている。そのうち,外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)で定義される特定外来生物であり,かつ緊急対策外来種であるものは,ほ乳類8種,鳥類1種,爬虫類4種,両生類1種,魚類4種,昆虫類3種(アルゼンチンアリも含む),クモ・サソリ類3種,軟体動物1種,その他の無脊椎動物1種,草本植物(陸生植物)4種,草本植物(水生植物)9種の計38種である。

また,防除に関する手引きが作られているのは,アメリカザリガニ,アカミミガメ,アライグマ,カミツキガメ,オオクチバス,アルゼンチンアリの6種なのでそれなりに重要視されていることは間違いなかった。


図:アルゼンチンアリ(防除の手引きより引用, 実サイズは体長2.5mmで小さい)

[1]我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト

2021年11月8日月曜日

伝書鳩

 日曜日の朝,ベランダにハトがいた。ヒヨドリやその仲間はときどきやってきて手すりに留まっているが,人の気配がするとすぐに逃げてしまう。家の近所はスズメやカラスだけでなく,セキレイやツグミ,池や田んぼにシロサギ,アオサギ,カモなどをたくさん見かける環境だ。

マンションには時々厄介なカワラバト(ドバト)が増える年があって,捕獲駆除サービスをお願いすることもある。ところが,このハトは逃げないのである。よく見ると赤と白の脚輪が左右にあり,何やら文字や数字が書かれている。近寄って写真を撮っても平気で餌になる金木犀の花びらをついばんでいた。

調べてみると,伝書鳩(レース鳩)のようだ。日本伝書鳩協会日本鳩レース協会があって,それぞれ固有の番号をつけている。家に来たハトはどうやら伝書鳩協会山口県周南支部の所属らしい。白い脚輪には連絡先が書いてあるのだけれど,汚れが固着している上にハトが逃げるので読み取れない。

伝書鳩協会のページには,迷い鳩の対処方法が書いてあった。どうしましょうどうしましょうと困っているうちに,夕方にはどこかに行ってしまったので,めでたしめでたしとなった。

月曜日の朝,ベランダにハトが帰ってきた。流石に居付かれると困るので,東京の伝書鳩協会本部に電話してみた。どうやらハトを捕獲してその番号を確認しないことには次の手順に進めないらしい。ハトは賢いし素早いので,カメのような爺さんには簡単に捕まらないのである。

何度も失敗を重ねた末に,ベランダに落ちている草の実などを食べているところを背後から掴むことに成功した。早速,脚輪の番号を確認してもらうと,山口県の飼い主の電話番号が判明したので連絡してみた。滋賀県琵琶湖畔からのレースで迷ったものらしい。調べてみると今年の春にも坂本発の400kmレースがあった。平均分速300mで,20-21時間かけて400km離れた自宅まで帰るものらしく,36羽放って2羽しか帰還していない。おいおい。

どうやら京都の支部(都クラブ)の人が取りに来てくれるらしいが,それまで米粒でもやっといてくださいとのリクエストだった。

P. S. 道に迷ったとかで,夜7時過ぎに取りに来られた。協会の規約ということで,お礼をいただく。やはり長距離のレースでは多くのハトが戻ってこないようで,こういうのはレアケースとのこと。山口県までは郵便局のハト専用パッケージで返送されるらしい。


写真:日曜日のハト(赤が協会脚輪,白が個人脚輪)

2021年4月2日金曜日

生物季節観測

標本木からの続き

 桜の開花は天気予報で知らされる。気象庁はこれまで生物季節観測として,桜だけでなく動物23種目,植物34種目の生物季節現象を記録してきた。ところで,気象庁大気海洋部は,昨年の11月に「生物季節観測の種目・現象の変更について」として,令和3年1月からこれらの観測を植物6種類9現象(あじさいの開花,いちょうの黄葉・落葉 , うめの開花, かえでの紅葉・落葉 , さくらの開花・満開 , すすきの開花)のみに変更すると発表した。まあ,国が貧しくなるとリストラはどんどん進行するのだ。

ところが,3月30日には気象庁と環境庁が,「生物季節観測」の発展的な活用に向けた試行調査の開始について,ということで,国立環境研究所も含めて存続の方向で進められるようだ。朝の散歩で,奈良盆地中央部における四季折々の植物や動物を見る機会が増えていたのでちょっとホッとした。スマートフォンのアプリにも生物名を判定するものがあって,これを市民からの情報提供のツールとして役立てるとか,学校教育と連携するなどの手もあるだろう。そもそも日本人の感性は古来,これらの環境によって育まれ,俳句などの文芸に結実しているわけで,この根幹の部分の情報が欠落することの損失は計り知れなかったと思う。

[1]気象庁に問いたい。動物季節観測の完全廃止は、気象業務法の精神に反するのではないだろうか(森田正光)

[2]生物季節観測,廃止・縮小から一転存続へ 気象庁と環境省、国立環境研究所がタッグを組む(森田正光)

2020年8月27日木曜日

帆立貝定理

帆立貝定理(Scallop Theorem)とは次のようなものである。生物が低レイノルズ数のストークス流れでの遊泳しているとき,「時間反転可能な変形(往復運動)では,変形速度に関わらず生物は運動の一周期で流体中を移動できない」というものであり,その例示として帆立貝の1自由度運動がとりあげられたことでこの名前がついている。

なお,レイノルズ数は,慣性力を粘性力で割った無次元量であり,ストークス流れは,レイノルズ数が非常に小さい状況を指している,っていうか流体力学をちゃんと勉強していないのでいまいちピンと来ていないのであった。

京都大学数理解析研究所の,石本健太・山田道夫による「座標に基づいた帆立貝定理の証明」は,2014年の流体力学論文賞をもらった論文であり,微生物の変形と運動をきちんと定義した上で,帆立貝定理を証明している。

2020年5月9日土曜日

ハナノナ

このところCOVID-19の話ばかり書いてきたのでちょっと食傷気味である。

今日は別の話題です。「無料でカメラを向けた花の名前を即座にAIが教えてくれるアプリハナノナを使ってみた」という記事があったのでさっそくiPhoneにインストールしたところ,なかなかすごいのだった。ベランダのムラサキカタバミを早速言い当てた。

千葉工業大学のステアラボ(人工知能・ソフトウェア技術研究センター)で2017年に開発されたものらしい。ウエブサービスハナノナとして始まった。最近,認識できる花の種類のが770種類にまでアップデートされ,iPhoneアプリも登場した。この手のアプリはのどから手が出るほどほしかった。まあ,ないことはなかったのです。これまでに,京都大学発祥?のいきものコレクションアプリBIOMEを使ったこともあるのだけれど,機能を欲張りすぎた割には精度がいまいちで,アプリ画面のこやしになっていた。

その点,ハナノナは単純な機能がよいのである(草木にも拡張してほしい)。この調子でトリノナ(鳥類),ムシノナ(節足動物・両生類・爬虫類),クモノナ(雲です),ホシノナ(☆です),イシノナ(岩石鉱物),トモノナ(ホ乳類),ウオノナ(魚類・水生生物)など作っていただけるとうれしいなあ。これらができた後でモノノナ(万物)に統合されるのはOKです。これで小学校の理科はOKです。


図 本日の朝の散歩におけるハナノナの成果の一部(2020.5.9撮影)

追伸:モノノナのイメージが出てきた。目に映るものの名前をできる限り知りたい(デイリーポータル,2020.05.22)

2019年12月29日日曜日

鳥の地磁気コンパス

渡り鳥は正しい方角を知って長距離を渡ることができる。この鳥の能力には,地磁気を感知する感覚器が関与しているのではないかと考えられてきた。しかし,その具体的なメカニズムは不明だった。NHKのコズミックフロントをみていたら,量子力学の特集で,この話題について触れられていた。

2009年のGaugerらの論文によれば,ヨーロッパコマドリの渡りのメカニズムが調べられ,鳥の視覚における光のスペクトルが方向検知の能力と関係していることがわかった。そこで,単純な生体磁石も持つ感覚器のモデルではなくて,化学反応速度に対する磁場の影響のモデルが考えられた。鳥の目の光子吸収におけるラジカル対の生成で生ずる一重項と三重項からの生成物質が磁場の向きに依存して異なるため,地球磁場が化学信号をもたらすというものらしいが,肝腎の生成物質とその効果は特定されていないようだ。

光合成やその他の生態系における量子過程についてもまだまだおもしろい問題がたくさんありそうで,エンタングルメントがどう関るのか,興味津々というところ。

[1]Sustained quantum coherence and entanglement in the avian compass(Gauger et al. 2009)
[2]Quantum effects in biology: Bird navigation(Ritz 2011)
[3]Quantum Dynamics of the Avian Compass(Walters 2012)
[4]The Radical Pair Mechanism and the Avian Chemical Compass: Quantum Coherence and Entanglement(Zhang et al. 2015)
[5]The quantum needle of the avian magnetic compass(Hiscock et al. 2016)
[6]Quantum Mechanical Navigation: The Avian Compass(Herbert 2016)