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2024年11月1日金曜日

年収の壁

年収の壁をめぐる議論が活発にされているが,あの玉木のいうことだからどうせ怪しいに決まっている!という予断と偏見を持ってニュースをみているので,あまり健全な態度とはいえない。少しくらいは勉強する必要がある。Gさんそれすら面倒なので,Perplexityに聞いてみるわ(ChatGPT-4oはイマイチだったので)。

Q(koshix):
年収の壁という言葉があります。パートで働く主婦などが,働きすぎると社会保険料や税金が課されることで,一定の収入以上の労働を抑制してしまう現象です。これについて,住民税,所得税,社会保険料,配偶者特別控除などの様々な壁の存在が指摘されています。また,一律に制度を変更すると,低所得者だけではなく高所得者の減税につながることで,国家財政への負担が恒久的に増大することも懸念されます。このような状況を踏まえて,その全体像を,できるだけ具体的,詳細,かつ客観的な視点で解説し,可能な改革案とその問題点を整理して説明してください。

A(Perplexity Pro):
年収の壁は、主にパートタイムで働く配偶者(多くの場合は主婦)の労働意欲に影響を与える現象です。この問題は、税制や社会保険制度の複雑な相互作用によって生じており、以下にその全体像を詳細に解説します。

年収の壁の種類と影響
年収の壁には主に以下の種類があり、それぞれが異なる影響を及ぼします。

100万円の壁
この壁は住民税に関するものです。年収が100万円を超えると、住民税が課税されます。これにより、100万円を少し超える収入を得ても、手取りが減少する可能性があります。

103万円の壁
この壁は所得税配偶者控除に関連しています。年収が103万円を超えると、以下の変化が生じます:
・所得税が課税されます。
・配偶者控除が適用されなくなり、配偶者特別控除に切り替わります。
これにより、世帯全体の税負担が増加する可能性があります。

106万円の壁
この壁は社会保険に関するものです。年収が106万円を超えると、条件(注:勤務先従業員数51名以上)次第で社会保険への加入が必要になります。社会保険料の負担が発生するため、手取り収入が減少する可能性があります。

130万円の壁
この壁は扶養(注:社会保険)に関するものです。年収が130万円を超えると、配偶者の扶養から外れ、自身で健康保険や年金保険に加入する必要が生じます。これにより、保険料負担が増加します。

150万円の壁
この壁は配偶者特別控除に関するものです。年収が150万円を超えると、配偶者特別控除が段階的に減額されます。これにより、世帯全体の税負担が増加します。

年収の壁がもたらす問題
1.労働意欲の抑制:これらの壁により、パートタイム労働者が収入を一定以下に抑えようとする傾向が生じ、潜在的な労働力が活用されない。
2.経済的非効率:能力や意欲があっても、制度上の理由で労働時間を制限せざるを得ない状況が発生。
3.ジェンダー不平等:主に女性がパートタイム労働に従事する傾向があるため、この問題は女性の経済的自立を阻害する要因となっている。
4.企業の人材活用の制限:企業側も、従業員の年収が壁を超えないよう調整する必要があり、人材の有効活用が難しくなる。

改革案とその問題点
1.配偶者控除の廃止(略)
2.壁の段階的な緩和(略)
3.社会保険料の負担軽減(略)
4.給付付き税額控除の導入(略)

結論
年収の壁の問題は、税制、社会保険制度、労働政策が複雑に絡み合った結果生じています。一律の制度変更は高所得者の減税につながる可能性があり、国家財政への負担増大も懸念されます。
したがって、改革にあたっては以下の点を考慮する必要があります:

1.段階的な制度改革:急激な変更を避け、影響を見極めながら段階的に改革を進める。
2.多角的なアプローチ:税制、社会保険、労働政策を総合的に見直し、整合性のある改革を行う。
3.所得再分配機能の維持:低所得者への配慮を忘れず、公平性を保つ。
4.労働市場の活性化:女性や高齢者の労働参加を促進する政策と連動させる。
5.財政への影響考慮:改革による税収への影響を慎重に検討し、持続可能な制度設計を行う。

これらの点を踏まえ、慎重かつ包括的な議論と検討が必要です。単純な制度変更ではなく、社会全体の利益を考慮した総合的なアプローチが求められます。


Q(koshix):
給与所得の課税対象についてのみ,基礎控除の合計を103万円から178万円に増やせばよいと主張している政党がありますが,その案の意味と問題点を具体的かつ詳細に指摘してください。なお,178万円という数字の根拠も理論的に解説してください。

A(Perplexity):
この政策提案は、給与所得者の基礎控除を現行の103万円から178万円に引き上げるというものです。この提案の意味と問題点、そして178万円という数字の根拠について詳細に解説します。

提案の意味 
基礎控除引き上げの目的
1.手取り収入の増加:基礎控除額を引き上げることで、より多くの収入が非課税となり、給与所得者の手取り収入が増加します。
2.「年収の壁」の緩和:現行の103万円の壁を大幅に引き上げることで、パートタイム労働者などの就労意欲を高める効果が期待されます。
3.消費喚起:手取り収入の増加により、消費拡大を促す狙いがあります。

178万円の根拠
この数字は、1995年からの最低賃金の上昇率1.73倍に基づいているとされています。つまり、 103万円 × 1.73 ≈ 178万円 という計算によって導き出されています。これは、基礎控除額を最低賃金の上昇に合わせて調整する考え方に基づいています(注:なんだよそれは,嘘かと思ったよ)。

提案の問題点 
1.財政への影響
基礎控除額の大幅な引き上げは、税収の大幅な減少をもたらす可能性があります。これは国家財政に重大な影響を与える可能性があります。
2.公平性の問題
給与所得者のみを対象とした控除額の引き上げは、他の所得形態(事業所得、不動産所得など)との間に不公平を生じさせる可能性があります。
3.社会保険制度との不整合
税制の変更だけでは、社会保険料の「壁」は解消されません。106万円の社会保険加入の壁や130万円の扶養からの離脱の壁は依然として残ります
4.高所得者への恩恵
基礎控除の一律引き上げは、高所得者にも同様の恩恵を与えることになり、所得再分配機能を弱める可能性があります。
5.労働市場への影響
178万円まで非課税となることで、パートタイム労働者がこの金額を超えないように就労時間を調整する新たな「壁」が生じる可能性があります。
6.最低賃金との連動の妥当性
最低賃金の上昇率を基礎控除額の引き上げに直接適用することの妥当性には疑問が残ります。最低賃金と基礎控除額は異なる経済的・社会的機能を持つため、単純な連動は適切でない可能性があります。
7.制度の複雑化
税制の一部分のみを大幅に変更することは、全体の税制をより複雑にする可能性があります。
8.他の控除との整合性
基礎控除のみを大幅に引き上げることで、他の所得控除(配偶者控除、扶養控除など)との整合性が取れなくなる可能性があります。

結論
この提案は、給与所得者の手取り収入を増やし、「年収の壁」問題に対処しようとする意図は理解できます。しかし、財政への影響、公平性の問題、社会保険制度との不整合、労働市場への影響など、多くの課題が存在します。
また、178万円という数字の根拠は最低賃金の上昇率に基づいていますが、この連動の妥当性には疑問が残ります。税制改革は、より包括的かつ慎重なアプローチが必要であり、社会保険制度や労働政策との整合性を考慮しながら、全体的な制度設計を行う必要があります。




図:年収の壁がわかる(日本経済新聞から引用)


P. S. 図では103万円で段差が発生しているが,1人分の所得税だけならば,控除額との差額に税率がかかって差額の1次関数分だけ減少するのであるから,階段関数にはならない。ただし,同時に生ずる扶養控除分についてはその限りではないため段差を産む。社会保険についてはしきい値を境に有限の負担がでるので,図のようなギャップが現われる。

[1]NHKによるまとめ:社会保障経済政策子ども・子育て



2024年9月12日木曜日

対数正規分布

世帯の金融資産分布は,対数正規分布を考えるのが妥当だと Geminiがいった。Perplexityによれば 零端があるので,パレート分布がいいのかもしれない。

ここでは,対数正規分布を仮定して日本の世帯の金融資産保有額に関するパラメタを探してみる。金融資産の値を変数 xとして,世帯数の確率密度分布を f1[x, μ, σ] ,累積確率密度分布をg1[x, μ, σ] とする。これにともない,金融資産×世帯数の確率密度分布を f2[x, μ, σ] ,累積確率密度分布をg2[x, μ, σ,λ] とする。積分定数の不定性があることからパラメタλを追加した。Mathematicaのコードは次のようになる。
In[1]:= f1[x_, μ_, σ_] := (E^(-((μ - Log[x])^2/(2 σ^2))) Sqrt[2/π])/(2 x σ)
Integrate[f1[x, μ, σ], x]

Out[1]= 1/2 Erf[(-μ + Log[x])/(Sqrt[2] σ)]

In[2]:= 
p1 = {{0.3, 0.778}, {0.5, 0.912}, {1.0, 0.972}, {5.0, 0.998}};
q1 = ListPlot[p1, PlotStyle -> {Red, PointSize[Small]}, 
   AxesLabel -> {"x", "y"}, PlotRange -> {0, 1.2}];

In[3]:= 
g1[x_, μ_, σ_] := 1/2*Erf[(-μ + Log[x])/(Sqrt[2] σ)] + 0.5
nlm = NonlinearModelFit[p1, g1[x, μ, σ], {μ, σ}, x];
nlm["BestFitParameters"]

Out[3]= {μ -> -1.92447, σ -> 0.933737}

In[4]:= Show[q1, 
 Plot[g1[x, -1.92447, 0.933737], {x, 0, 5}, PlotRange -> {0, 1}]]


In[5]:= f2[x_, μ_, σ_] := x*f1[x, μ, σ]
Integrate[f2[x, μ, σ], x]

Out[5]= -(1/2) E^(μ + σ^2/2)
  Erf[(μ + σ^2 - Log[x])/(Sqrt[2] σ)]

In[6]:= 
p2 = {{0.02, 0.01}, {0.3, 0.125}, {0.5, 0.187}, {1.0, 0.234},
 {5.0, 0.282}, {20.0, 0.302}};
q2 = ListPlot[p2, PlotStyle -> {Red, PointSize[Small]}, 
   AxesLabel -> {"x", "y"}, PlotRange -> {-0.1, 0.35}];

In[7]:= g2[x_, μ_, σ_, λ_] := -(1/2) E^(μ + σ^2/2) 
Erf[(μ + σ^2 - Log[x])/(    Sqrt[2] σ)] + λ

nlm = NonlinearModelFit[p2, g2[x, μ, σ, λ], {μ, σ, λ}, x];
nlm["BestFitParameters"]

Out[7]= {μ -> -1.72573, σ -> 0.914071, λ -> 0.154702}

In[8]:= Show[q2, 
 Plot[g2[x, -1.72573, 0.914071, 0.154702], {x, 0, 20}, 
 PlotRange -> {0, 0.35}]]

非線形モデルフィットするためのデータは,野村総研の「日本の富裕層は149万世帯、その純金融資産総額は364兆円と推計」というレポートを用いた。前段と後段のパラメタは本来同じでなければならないが,そこまで含めた解析はできていない。対数正規分布だと両方に整合的な結果は得られないかもしれないがよくわからない。




(付)上記の図から得られた分布データ
金融資産 世帯数 世帯割合 資産額 資産割合
1 0.0-0.3  4213.2  0.778   678  0.415
2 0.3-0.5  726.3  0.134   332  0.203
3 0.5-1.0  325.4  0.060  258  0.158
4 1.0-5.0  139.5  0.026  259  0.159
5 5.0→  9    0.002  105  0.064
   5413.4  1.000  1632  1.000

このデータから得られる金融資産の世帯平均値は3010万円であるが,先ほど仮定した分布における最頻値は590万円。 生命保険文化センターの最近のデータとは少しズレがあるかもしれない。


2024年8月22日木曜日

複式簿記

複式簿記を勉強しようかなと思っていたら,それは群論で理解できるとの託宣が空から降ってきた。そういうのが好きだ。

早速,調べてみた。ところで,生成AIに尋ねることを「調べる」といって良いのだろうか。
Q(koshix):
複式簿記が代数学の群であるとはどういう意味ですか。その場合,群をなしている集合は何の集合であり,定義されている演算はどのようなものですか。また,単位元と逆元はどうなりますか。 
A(ChatGPT-4o):
複式簿記が代数学の群(Group)であるということは、複式簿記の操作や構造が群の公理を満たしているということです。群の基本的な定義に基づいて、複式簿記を群として解釈する際のポイントを説明します。

群の定義
群とは、集合 $G$ とその上の二項演算 ∗ に対して、以下の4つの公理を満たす代数構造のことです。
1.結合律(Associativity):任意の $a, b, c \in G$について,$(a*b)*c = a*(b*c)$ が成立する。
2.単位元(Identity element): $G$ の中に単位元 $e$ が存在して、任意の$ a \in G $について,$e*a = a*e = a$ が成立する。
3.逆元(Inverse element):任意の $a \in G$について,$a * b = b * a = e$を満たす元 $b \in G$ が存在する($b = a^{-1}$)。
4.閉性(Closure):任意の $a, b \in G$について,$a*b \in G$ である。

複式簿記における群の解釈
1.集合 $\ G$
・複式簿記では、資産、負債、収益、費用、純資産といった「勘定科目」の集合が存在します。この勘定科目が群を構成する集合 $G$ に相当します。
2.演算 $\ *$
・演算としては「仕訳」が相当します。仕訳とは、ある勘定科目から他の勘定科目への「移動」を意味します。したがって、群の演算 $*$ は「ある仕訳と別の仕訳を組み合わせて新しい仕訳を作る操作」と解釈できます。
3.単位元 $\ e$
・単位元は群の要素と何らかの操作を行ってもその要素を変化させない要素です。複式簿記の文脈では「無操作」、すなわち資産や負債に何も影響を与えない操作が単位元に相当します。これは「仕訳を行わない」という状態を表します。
4.逆元 $\  a^{-1}$
・逆元は、仕訳による操作を元に戻す操作に相当します。例えば、「ある勘定科目に借方として100円を記入する」という仕訳の逆元は「同じ勘定科目に貸方として100円を記入する」仕訳です。これによって、仕訳の効果が打ち消され、元の状態に戻ることになります。

群の公理の適用
1.結合律:仕訳は連続して適用されても、その順序が変わっても同じ結果を得られるため、結合律が成り立ちます。
2.単位元の存在:「無操作」の仕訳は、どの仕訳とも組み合わせても仕訳内容を変えないため、単位元が存在します。
3.逆元の存在:各仕訳に対して、その効果を打ち消す逆の仕訳が存在するため、逆元が存在します。
4.閉性:すべての仕訳は、勘定科目の集合内での操作であるため、仕訳を適用した結果もまた勘定科目の集合内に留まります。

結論
複式簿記を群と見なす場合、勘定科目の集合が群をなす集合に対応し、仕訳の操作が群の演算に相当します。単位元は「無操作」、逆元は「仕訳の逆操作」として解釈できます。この解釈によって、複式簿記の構造が代数学の群の性質を持つことが理解できます。

2024年2月25日日曜日

博士人材と女性理工系人材

2024年2月20日に経団連が,「博士人材と女性理工系人材の育成・活躍に向けた提言」を公表した。

ネット上では,いまさら,おまゆう,どのくちが,とブーイングであふれていた。まあそうなるわね。Claudeに概要版を要約させると次の通りである。つまらない。味も素っ気も反省もない。
この文書は、経団連が2024年2月に公表した「博士人材と女性理工系人材の育成・活躍に向けた提言」の概要版です。主な内容は以下の通りです。 
・博士人材の育成・活躍について、日本の現状は諸外国に比べて遅れていることが指摘されている。産学官が連携・協働して取り組む必要がある。
・企業が博士人材に求めるのは、高度な専門性に加え、課題解決能力や主体性などの高度な汎用的能力である。しかし企業の博士人材への採用意欲は必ずしも高くない。
・女性理工系人材の裾野拡大も重要課題である。今後5年での採用拡大する企業が6割を超える。
博士人材、女性理工系人材の育成・活躍には、産学官それぞれの取組が不可欠である。経団連として今後も教育改革の議論を深めていく。

 ただその提言の元になった経団連による調査はそれなりに面白い情報が含まれている。「博士人材と女性理工系人材の育成・活躍に関するアンケート結果」の調査対象は経団連の関係委員会所属企業441社であり,123社が回答している。バイアス高目かもしれない。従業員規模5000人以上が6割弱,1000〜5000人が3割で,製造業と非製造業が半々だ。

博士人材,文系修士人材などへの採用意欲は依然としてあまり強くないが,女性理工系人材については一定の採用拡大の傾向が見られた。博士人材等が選択可能なキャリアパスの事例や企業が大学と連携して取り組んでいる大学院教育プログラムの事例紹介が紹介されているところは評価できる。

2022年9月10日土曜日

未来人災ビジョン

デジタル社会の実現に向けた重点計画からの続き

経済産業省が今年5月にまとめたのが,未来人材ビジョンだ。ブログのタイトルは,指が勝手に人災に変換してしまったものだけれど,訂正するに忍びない。

このレポートは「DXと脱炭素」の両キーワードを前提に,AIの浸透による労働市場の両極化が進み,外国人労働者にも選ばれない国になっているという認識に立っている。そこで企業ができることは何かという問題設定をしながら,企業ができることというより,社会システム特に教育システムをぶっ壊せというNHK党的なメッセージを送るものだった。

日本の経済が凋落化をはじめたのは1990年代,経済産業省(METI)がまだ通商産業省(MITI)を名乗っていた時代からだ。経済再生政策の決定打に欠ける経済官僚たちは,100校プロジェクトを嚆矢として,硬直的な日本の教育システムに手を突っ込みたくてうずうずしていた。その気持ちはよくわかる。

この未来人材ビジョンでも,あいかわらず企業がまっとうな人材育成システムや多様性を持つ雇用システムを持たないことをこれでもかとデータで示しつつ,その課題を日本の教育システムに責任転嫁しようとしている。いや,世襲が続く日本の社会システムの硬直性が問題であるのはそのとおりなので,だから新自由主義右翼利権移転集団の日本維新の会がこれだけの隆盛を保っていられるわけだ。

その社会の硬直性に穴をあけて,一瞬光が差し込んだのが,20世紀から21世紀にかけてのインターネット革命だった。しかし,社会的な同調圧力が強すぎる日本では,これが逆に作用した。フロムの自由からの逃走というキーワードを情報選択困難症候群と組み合わせて使いたくなる。参議院選挙の結果も推して知るべしだった。

2022年6月17日金曜日

実効為替レート

円安が進んでいる。Apple製品が高くなるだけならよいが(あんまりよくないけど),食糧・エネルギーなどから生活全体への更なる影響が心配だ。その一方で,他の国々とは異なり年金支給額は自公政権のおかげもあって,きっちり0.4%減額された。

NHKニュースでは20年ぶりの円安という表現になっているが,実質実効為替レートを考えると,50年ぶりの円の価値下落ではないかという記事があった。国際決済銀行(BIS)のサイトに1965年から現在までの主要国の実質実効為替レートの月次データがあったので,1970年から2021年までの1年間移動平均のグラフを作って見た。

実質実効為替レートは,貿易量などをもとにさまざまな国の通貨の価値を計算し、物価変動も加味して調整した数値である。高いほど対外的な購買力があり、海外製品を割安に購入できることを示す。


図:実質実効為替レート(1970-2021)

グラフ右端の最近の値は,アメリカ合衆国(青)>韓国>英国>EU>日本(赤)の順になっている。2010年を100としてそろえてあり,y軸の値が大きな方が通貨価値が高い。日本は1990年代中ごろをピークとして今では1970年代の水準にまで下がっている。韓国は2008-2009年の通貨危機で90ポイントまで下がったが,今では合衆国につぐ高い水準で推移している。


2022年5月25日水曜日

三角関数(2)

 三角関数(1)からの続き

前回の復習:金融教育を推奨している藤巻は,三角関数は高校で全員が学ぶ必要がなく,大学に入ってから学べば十分である個別的な専門知識だと主張している。しかし,そもそもの文部科学省の答弁で,三角関数は必履修科目の範囲にはなく(全員が学んでいない),金融教育が必履修科目「公共」の範囲だった(全員が学ぶことになっている)。


表:高等学校学習指導要領から

高等学校の学習指導要領をみると,各学科に共通する部分は表のようになっていた。図の黄色の科目が必履修科目であり,緑の科目は選択的な必履修科目だ。それ以外が選択科目となり,各高等学校がその特性に応じて決めている。

三角関数は,数学Ⅱと数学Ⅲに登場するだけでなく,物理基礎と物理の各分野でも必須の基礎知識なので,日本維新の会が政権に加わって,藤巻のいう方向で文部科学省が動けば,たちどころに日本の理工系教育が崩壊する。

一方,金融教育について必履修科目「公共」の学習指導要領解説編に何が書いてあるかを見れば,森田審議官の答弁で問題が解決したとも言い切れない。
公共
B 自立した主体としてよりよい社会の形成に参画する私たち
(ウ)職業選択,雇用と労働問題,財政及び租税の役割,少子高齢社会における社会保障の充実・安定化,市場経済の機能と限界,金融の働き,経済のグローバル化と相互依存関係の深まり(国際 社会における貧困や格差の問題を含む。)などに関わる現実社会の事柄や課題を基に,公正かつ自由な経済活動を行うことを通して資源の効率的な配分が図られること,市場経済システムを機能させたり国民福祉の向上に寄与したりする役割を政府などが担っていること及びより活発な経済活動と個人の尊重を共に成り立たせることが必要であることについて理解すること。
【解説編】
金融の働きについては,現代の経済社会における金融の意義や役割を理解できるようにするとともに,金融市場の仕組みと金利の働き,銀行,証券会社,保険会社など 各種金融機関の役割,中央銀行の役割や金融政策の目的と手段について理解できるようにする。
なお,「金融とは経済主体間の資金の融通であることの理解を基に,金融を通した経済活動の活性化についても触れること」(内容の取扱い)が必要であり,金融は,家計や企業からの資金を様々な経済主体に投資することで資本を増加させ,生産性を高め,社会を豊かに発展させる役割を担っていることを理解できるようにする。また,近年の金融制度改革の動向や金融政策の変化などを理解できるようにするとともに,フィンテックと呼ばれる IoT,ビッグデータ,人工知能といった技術を使った革新的な金融サービスを提供する動き,クレジットカードや電子マネーなどの利用によるキャッシュレス社会の進行,仮想通貨など多様な支払・決済手段の普及,様々な金融商品を活用した資産運用にともなうリスクとリターンなどについて,身近で具体的な事例を通して理解できるようにすることも大切である。
たぶん,藤巻の主張の中で,すべての生徒にとって必要だという部分はここにはない。実は,同じ必履修科目の家庭総合(ただし家庭基礎と選択の可能性あり)の解説編に該当部分の記載がある。
家庭総合
C 持続可能な消費生活・環境
(1)生活における経済の計画
ア(イ)生涯を見通した生活における経済の管理や計画,リスク管理の考え方について理解 を深め,情報の収集・整理が適切にできること。
【解説編】
生涯を見通した生活における経済の管理や計画,リスク管理の考え方については,人生を通して必要となる費用はライフステージごとに異なることについて理解して生涯収支に関心をもつようにするとともに,将来の予測が困難な時代におけるリスク管理の考え方について理解できるようにする。また,生涯を見通した経済計画を立てるには,教育資金,住宅取得,老後の備えの他にも,事故や病気,失業などのリスクへの対応策も必要であることについて理解し,預貯金,民間保険,株式,債券,投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット,デメリット),資産形成の視点にも触れながら,生涯を見通した経済計画の重要性について理解できるようにする。

結局,藤巻の主張する金融教育というのは,金融リテラシーに相当するものを意味しており,それはすでに日本政府が率先して旗振りをしているのであった。

P. S. 「公共」の学習指導要領をこの度はじめて読んでみたが,その書きっぷりが他の教科とあまりに違いすぎて気になった。もう少し表現を吟味・整理して書くことができなかったのだろうか。

2022年5月24日火曜日

三角関数(1)

 先週,5月17日の衆議院財政金融委員会で,日本維新の会の藤巻健太(1983-)が質問している(藤巻健太の同学年が,今井絵理子,音喜多駿,丸山穂高なのだ・・・orz)。

金融教育がこれからの日本において重要であるという文脈で,自分が高校の時に受験で点を稼ぐために数学とくにサイン・コサインを朝から晩まで勉強したが,受験の翌日から20年使っていないという。また,サイン・コサインは測量,航空機の姿勢制御,星の距離を測るなどの特殊な分野だけに必要な専門知識であるとした。「知識として多くの人にとって三角関数より金融経済に関する知識のほうが重要で優先度が高いのでは」と文部科学省に尋ねた。

文部科学省の森田正信官房審議官は,大学入試や学習指導要領についての原則を無難に回答したが,藤巻健太が最後に,あなたは三角関数と金融経済のどちらが優先されるべきと考えるかを尋ねた。森田審議官の回答は,金融経済は,高等学校の公民科の必履修科目である「公共」に含まれる内容であるが,三角関数は,高等学校の数学科の必履修科目である「数学Ⅰ」には含まれていない(選択科目の数学Ⅱや数学Ⅲにある),とういものだった。

これで完全に論破されて議論終了のはずなのだが,藤巻がTwitterでこれを蒸し返したものだから,一週間にわたって騒動がつづいている。まあ,日本維新の会のお得意の,支持層受けをねらった学問芸術分野攻撃による炎上商法なのであろう。

炎上を招いた藤巻のTwitterでの主な発言はなかなか含蓄が深いので下記に引用する。

私の言う金融経済とはいわゆる金融リテラシーのことです。株や為替や国債とは?から始まり、保険・年金・投資信託・デリバティブとは?住宅ローンの変動・固定金利どう違うのか?多くの人にとって、人生を生きる上でそういった知識の方が、三角関数よりも必要だと考えます。

小学校の算数、中学数学はその概念・考え方を学ぶ上でとても重要だと思います。しかし高校数学は専門知識の側面が強いのではないでしょうか?三角関数などは、その道に進む人が大学で学べばいいと考えます。 

 車の安全な運転の仕方を知ることは大事だが、車の構造は知らなくていい。電子レンジの操作方法は知る必要があるが、電子レンジの仕組みは知らなくていい。三角関数が多くの技術に応用されているのはわかるが、必ずしも知っている必要はない。

三角関数は例えば木の高さを測るのに使われる。1人が木の高さを測ればいい。残りの99人は、木の高ささえ知っていればいい。99人にとっては、安全のために木を切る必要があるのか、どう切るのか、あるいはどうやって木を紙に変えるのか、その紙をどう流通・管理・販売していくかの方が遥かに大事だ。 

 世の中は分業し、お互いの知識を信用し合い、成り立っている。木の高さを測る人、木を切る人、木の安全を管理する人、木の役割を研究する人、木から紙を作る人、その紙を流通させる人、販売する人、それぞれに専門知識がある。三角関数はその専門知識の一つ。全ての専門知識を学ぶ時間はない。

三角関数が科学や工学のあらゆる分野において果たしている役割とその重要性についての決定的な理解の欠如があることは間違いない。それにしても我々は学校教育で何を学ぶべきかという重要な問いを含んでいることも確かだ。

2021年2月16日火曜日

四半期GDP

 NHKの2月15日のニュースで,2020年度10-12月期のGDP成長率の速報値が報道されていた。前の四半期2020年度7-9月期と比べて,実質年率12.7%の成長ということだった。なんじゃこれ。コロナショックからの立ち直り過程なのでGDPは増えるのが当たり前だから,比較すべきは前四半期ではなくて,前年の同四半期であるべきではないか。あいかわらずNHKの報道はひどい。

と思っていたのだが,ひどいのはNHKだけではなくて,この情報源である内閣府経済社会総合研究所 国民経済計算部の2020 年 10-12 月期GDP速報(1 次速報値) ~ ポイント解説 ~でした。NHKはそれを右から左に垂れ流しているだけ。もっともWeb版では少しアレンジされているので,GDPが伸びているという印象は若干弱めてある。

そもそもGDPには季節要因の周期性もあるはずだ。データは公開されているので自分で確認してみるため,統計表一覧(2020年10-12月期 1次速報値)の実質原系列(CSV形式34kB)のデータを可視化した。


図1 四半期実質GDPの推移(✕10億円)


図2 四半期実質GDPの前年比増減率の推移

リーマンショックの2009-2010年,コロナショックの2020年を除いた時期の前四半期比増減率を平均すると,1-3月期(-2.93%),4-6月期(-2.21%),7-9月期(2.44%),10-12月期(3.62%)というはっきりとした年周期構造がみられた。少なくともこの部分を差し引いて判断する必要がある。

まあ,こんな細かな話はどうでも良くて,中国を含む先進諸国で日本だけがGDPを伸ばしていないことのほうが問題なのかも。