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2024年1月18日木曜日

コンストラクタ理論

コンストラクタ理論というものがあることを知った。知るには段階があるのだけれど,これは名前とボンヤリした意味がわかるという第1段階。自分の頭の中で「知っている」というのはだいたいこれにあたる。

対象が,具体的な事物なのか,抽象的な事柄なのかによっても話が違ってくる。例えば,有馬温泉知ってますかという問いに対して,(1) 名前を聞いたこともない,(2) 名前は聞いたことがある,(3) その属性(場所・由来)なども知っている,(4) 写真や動画での紹介を見た,(5) 現地を訪問したことがある,(6) 宿泊して観光したことがある,(7) ある程度の期間滞在して暮らしていた,(8) 長い間にわたって現地で生活していた。などなど。

今では,(1)-(4) は簡単に実現できる。仮想空間技術が進歩すれば,(5) や場合によっては(6) あたりまでは手が届くようになるのかもしれない。視聴覚以外の体験はまだ難しい。食べ物について同様に自分が知っているかどうかという問題を考えると,あるものを食べるという体験と結びついた記憶の話や,文化的な多様性のなかで様々な派生物の範囲をどこまで理解してそのなかで位置づけることができているかなど,さらに話が複雑になってくる。

ある事柄に関するプロフェッショナルというのは,結局どれだけの具体的な体験を積み重ねてきてそれらをネットワークする知恵を発達させているのかということに帰着するような気がする。

そんなわけで,このブログのように浅く(広くもない,人間の興味はかなり限定される)知った気分になっているというのに,どれほどの意味があるのかということを改めて反省する。

話が,全然進まない。コンストラクタ理論の件である。受け売りの要約では次のようになる。生成AIや翻訳ツールがあるので,十分な読解を経なくてもわかったようなまとめができてしまう。それはそれで問題なのだ。抽象的な事柄の意味を知っているかどうかというのは,多次元空間の連続的なスペクトルのどこに位置するかみたいな面倒な話にはなりそうだ。
コンストラクター理論とは、物理学における基本法則を定式化する新しいアプローチである。世界を軌道、初期条件、力学的法則で記述する代わりに、構成理論では、どのような物理的変換が可能で、どのような変換が不可能か、そしてその理由についての法則を記述する。この強力な転換は、現在は本質的に近似的とみなされているあらゆる興味深い分野を基礎物理学に取り込む可能性を秘めている。例えば、情報、知識、熱力学、生命の理論などである。

量子計算理論の創始者の一人であるデイヴィッド・ドイッチュ(1953-)が2012年に提案し,キアラ・マレットとともにオックスフォード大学で展開している理論である。

[1]Constructor Theory (D. Deutsch, 2012)
[2]Constructor Theory of Information (D. Deutsch, C. Marletto, 2014)
[3]Constructor Theory of Life (C. Marletto, 2014)
[4]Constructor Theory of Probability (C. Marletto, 2015)

2023年12月17日日曜日

情報伝達活動の構造(2)

情報伝達活動の構造(1)からの続き

そもそも,年齢によって,職種によって,個人の生活スタイルによって,まったく異なるものを平均しようというのに無理がある。


図:一日の時間と情報伝達活動のモデル

会話行動に関する調査からは,平均会話時間が6時間と出てくる。ただ,会話密度が変われば,発話・受話量はまったく変わってしまうことになるが,図ではその値を書き込んだ。

TVとネットの視聴時間がそれぞれ3時間で計6時間という「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」の結果も反映しているが,ネットでのアウトプットを2時間分加えてみた。これも他の作業と並行・重複していたりで,集中度によってその内容は大きく影響される。

身体活動を中心とした労働の場面では,会話やネットでやりとりされる情報密度はずっと少ないかもしれないし,オフィスワークや対人活動が主となる仕事ならば,逆にさらに情報密度が高まるかもしれない。

これを解決するには,典型的なモデルを複数設定して,そこでの平均を提示することだ。実証的な研究に繋げるためには,GoProのようなアクションカムを24-8時間装着して,その活動を記録して分析すればよいことになる。ありそうだけれで適当な論文は探しきれていない。

総務省の情報通信政策研究所の情報流通インデックス研究会の報告書では,流通するメディア情報については客観的な指標が設定されている。問題は,これを各個人レベルに落とし込んだときの,有効な吸収率や反射率がどうなるかということ。




2023年12月16日土曜日

情報伝達活動の構造(1)

からの続き

りんちゃんの「棒」は「—」や「|」の問題だった。そうすると答えが変わってくる。
頻度の高い漢字の平均画数が7画程度で,これを棒の数とします。児童・生徒・学生の間は1日100字書いたとして(PCなど除く)10年間≒3000日では,〜30万字程度漢字をかくことになるので,〜200万画くらいかな。
1画5mmだとすれば,200万画は1000kmである。鉛筆1本で 50kmかけるらしいので,鉛筆20本あれば十分だ。ホントか,削りながらの場合は1000本くらいになりそうだ。ジェットストリームのSXR-07では替え芯1本で700mということだから,1400本なのか。


で,あらためて自分が行う情報活動の入出力量について,どの程度になるのか気になった。
のシリーズで半年前に少し考えていたことだけれど,再度見直してみる。

まず,定量的なデータについて考察する前に,個人の情報伝達活動を整理してみた。

図:情報伝達活動の構造

一番下の意識主体が,一人の人だとする。一般化できるように意識主体としている。これが,情報をやり取りするのだけれど,その情報伝達の様態を,(A)入力,(B)出力,(C)対話に分類する。(A)と(B)だけでも十分かもしれないが,あえて独立に(C)という連続的な入出力モード=対話を考えてみる。

また,その情報伝達の対象は,(イ)個体(これも個人=一人の人でもよいが,少し一般化した),(ロ)集団(組織でも社会でもよい),これまたあえて独立に(ハ)AI,を設定した。やりとりされる伝達情報の形態は,(1)静的データ(テキストや図画像),(2)動的データ(音声・音楽,動画),(3)実世界(対面による物理的化学的な接触を含む)とする。(1)と(2)ではメディアを媒介する視聴覚情報だけにフィルタされている。

都合,3×3×3=27通りのパターンに分類できる。技術的な問題を考える場合には,情報伝達の形態を図の右囲みのようにさらに7項目に細分化して考えることもできる。

(例)会話=(イ・ロ,C,3),手紙=(イ,A・B,1),電話=(イ,C,2),
ラジオ・テレビ・映画=(ロ,A,2),SNS=(ロ,A・B,1),VLOG=(ロ,B,2),演劇・音楽=(ロ,A,3),演説・講演=(ロ,B,3),生成AIチャット=(ハ,C,1)

2023年8月16日水曜日

空間ID

空間IDとは,経済産業省が整備を進めているデータ規格で特定の場所や地物情報を一意に識別するための識別子だ。

現実の空間を「ボクセル」と呼ばれる3次元空間を直方格子状に分割した直方体で区切り,その一つ一つに,地理的な座標や静的な情報(建物や設備データなど),動的な情報(気象情報や人流データなど)を紐付けた固定のIDを付与することで,特定の空間の情報を一意に識別する。

ボクセルのサイズを1辺50cmの立方体とする。日本の面積が37万㎢で,海まで含めてその3倍の面積100万㎢を考え,高さ9km深さ1kmの体積を考えると,10^7立方キロメートル= 10^16㎥なので,ボクセルでいうと,10^17ボクセルになり56ビットで表現できる。

でも実際はそんな単純なスキームではなくて,もう少しややこしいことになっているようだ。一方,総務省はG空間というものを提起していたけれどどうなのか。

2023年6月21日水曜日

メディアリテラシー教育の原理

法政大学の坂本旬さんが,アメリカの National Association for Media Literacy Education (NAMLE)が出している,Core Principles of Media Literacy (2023) 和訳して紹介していた。

そこで,自分でも試してみる。もちろん下請け(DeepLとかChatGPTとか)に任せるわけだけれど。結局,両者をミックスして人間の手を入れないとだめだった。
1. メディアリテラシーの概念を拡大する。それは全てのメディア形態を含み,意識的なメディアの消費者と創作者を育成するために複数のリテラシーを統合するものである。

2. すべての人が,自分の背景,知識,スキル,信念を用いてメディア体験から意味を創り出すことができる学習者であると想定する。

3. 好奇心,柔軟な思考,自己反省的な探求を優先する教育方法を推進する。ただし,理性,論理,証拠を重視することを踏まえながら。

4. 学習者が,絶えず変化するメディアの風景を通じて体験,創造,共有するメッセージについて,積極的な問い掛け,反省,批判的思考を行うことを奨励する。

5. 学習者に対して,統合的で,学際的で,対話的で,年齢と発達段階に適したスキル向上の機会が継続的に必要であるようにする。

6. 個々の人々がメディアを作成し共有する際に多くの倫理的責任を果たす,参加型のメディア文化の発展を支援する。

7. メディア機関は社会化,商業,変化の担い手として機能する文化的および商業的な存在であると認識する。

8. 公共の福祉のための健全なメディア環境は,メディアおよび技術関連企業,政府,市民間での共有の責任であると主張する。

9. メディア産業の社会における役割についての批判的な探求を重視する。メディア産業が,権力の仕組みにどのように影響を与え,また影響を受けているかを含め,公平性,包括性,社会正義,持続可能性に影響を与えるものだから。

10. 個人が,民主主義社会の中で,情報を得,反省し,関与し,社会的責任を負う参加者となるよう支援する。




2023年6月11日日曜日

インターネットと教育フォーラム(2)

インターネットと教育フォーラム(1)からの続き

6/9-10に,OMMで開催されたNew Education Expo 2023(第28回)の最終セッションに参加してきた。

120人の会場は満員というわけではなかったが,懐かしい顔ぶれが集まった。大教大関係では卒業生の井野君,松本君,片桐先生(仲矢さん?),大阪では,重松先生,野村先生,十河先生,全国から,高橋校長,その息子さん,渡辺さん,中島さん,大倉さん,前田さん,足立さん,幸地さん,竹中さん,宮澤さん,デジタルシティズンシップ関係では,坂本さん,豊福さん,今度さん,林さん,登壇者は,芳賀さん,石原さん(オンライン),影戸さん,三輪さん,大久保さん(NEE副委員長)などなど。

芳賀さんの趣旨説明で始まって,→越桐→石原→影戸→三輪→大久保と続いて70分経過,後半のポイントは,歴史は繰り返えすのか?GIGAスクールはどうなるのか?だった。インターネットと教育の場合,1993年に始まり(千葉大学附属中),1997年がターニングポイント(環境整備から活用方法の追求)で,その後数年の高揚期のあとリバウンドで低迷期に入ったという歴史観にあてはめるとどうなるかという問題意識だった。

残り20分くらいで,あまり掘り下げることはできなかったが,大久保さんのGIGAやそれを取り巻く状況についての認識からくる力強い発言に圧倒された。まさに,選挙に行ってください,民主主義が重要ですということかもしれない。

大阪教育大もそうだが,多くの大学ではBYODになっているので,これをいかに下に拡大していくかという戦略が必要だと自分は思う。まあ,それより先に生成AIの波がやってくるのかもしれないが。


写真:O38セッション終了後の関係者記念写真(2023.6.10)

終了後,バスで内田洋行大阪支店の懇親会会場に移動した。懇親会終了後は皆さんと別れて,卒業生で,神戸親和大学教授の松本宗久先生と居酒屋で久しぶりにお話する。

2023年6月2日金曜日

インターネットと教育フォーラム(1)

岐阜聖徳学園大学DX推進センター長で,最近はデジタルシティズンシップで有名になってしまった芳賀高洋先生基礎自治体教育ICT指数サーチ)から,しばらく前に召喚呪文がきた。6月10日(土)に大阪で開かれるNEE2023 OSAKAの最後のセッション「インターネットの教育利用30年,その黎明からネクストGIGAを展望する」に出てねということだった。

記憶が薄れつつあるので,参考資料で復習している。そのひとつ。1999年に大阪で開催された「99インターネットと教育フォーラム」実践報告集にあった資料から,自分のメモの部分を抜粋してみると次のようなものだった。1995年までのことしか書いていなかった。

'99『インターネットと教育』フォーラム

エピソードのつながりとしての歴史,人のつながりとしてのプロジェクト
1969年から1999年までのインターネットと教育

野島久雄 NTTコミュニケーション科学基礎研究所 nojima@tantra.brl.ntt.co.jp
芳賀高洋 千葉大学附属中学校 jtaka@ir.chiba-u.ac.jp

1.その時何があったか
2.マリオン以前,以後

[1969-1978 前史]
1969
(1) 高校生の時はじめてコンピュータにさわる。カシオの卓上電子計算機4メモリ26ステップ、30万円。 階乗のプログラムをつくるが、ステップ数で友達に負ける。
1970
(2) アナログコンピュータで、滅表・強制振動をプロット。数学の試験でFORTRANのプログラミングの問題がでる。
1971
(3) 日常的には計算尺を使っていた(受験問題を解くときなど)。
1972
(4) 教養の物理学実験は、タイガー計算機でデータ整理。最小自乗法の計算には複雑な技があるようだった。
1973
1974
(5) 学部の物理学実験では、みな電卓を使い始めていた。四則演算で3万円くらいかな。しかし自分では買わない。新聞で、シャープの関数電卓が10数万円との記事をみる。
1974
(6) 電子計算機実習ではじめて大型計算機 (ACOS)を使う。IBMではなく、JUKIのキーパンチャーで、バッチ処理。課題は行列の対角化と5次方程式を解くが、成績はいまいち。
1975
1976
1977
(7) 修士論文のための計算をようやくはじめる。センターまでカード2000枚の箱をかかえて、毎日通う。使ったのはTOSBAC。カードのジャムとプリントアウトのジャムに泣く。
1978
(8) はじめて自分の関数電卓を買う、もらったのかな?

[1979-1988 まだはじまらない]
1979
(9) はじめてマイコンの雑誌を買う。これからはこんな時代だ。このころパソコン関係の雑誌は 立ち読みですべて読めた。
1980
(10) 研究室からTSSで大型計算機を 使えるようになる。タイプライター端末はじめは300bpsその後1200bps。
1981
(11) PC-8001を使ったスクリーン型端末が登場。研究室の先生がアセンブラで端末ソフトを作成(流行)
1982
(12) PC-8801用のターミナルプログラムをBASICで自作。
1983
(13) PC-9801を研究室で購入。CP/M-86をもらってきて遊ぶ。ベクトル計算機登場前夜でHFPなどにも凝る。
1984
(14) 8087が手に入ったのでアセンブラで連立方程式のプログラムをつくる。11万円で中古9801を買う。256kBの37500円のメモリボード2枚かっ て、RAMディスク快適。
1985
(15) 理科教育講座の学生のための情報処理実習の授業がスタート。 内容は、コンピュータの基礎とBASICプログラミング入門。
1986
1987
(16) 本屋でMacの雑誌を買う。これからはこんな時代だ。Mathematicaも登場。やっぱりこれからはこんな時代だ。
1988
(17) MacIIを使って情報の授業を 行うが、ウイルスとバグと GUIが結構大変。研究室で は、PC-9801とMacを併用。

[1989-1994 まだちゃんとはつながらない,が・]
1989
(18) 大学の情報処理センタ創設の為の準備で忙殺。SUN4/330を導入。
1990
(19) 情報科学講座の先生のおかげでUUCPでSRA に接続される。まいにち、Netnewsを読んで いるので仕事にならない。firec.pachinkoで齋藤明紀さんが最初のダメ出したころ。
1991
(20) f読み続けて1年、はじめてfi.booksに投稿。
・・・
[1994.8 有楽町マリオン]
[1994-1997 100校プロジェクト]
1992
1993
1994
1995
(21) 3月、教育情報リンク集「インターネットと教育」スタート。

[1996.12 そして世田谷]
[1998-1999 とても書ききれない・・・]
[2000- そして新たなつながり]
野島久雄さんは2011年に若くしてなくなってしまった。自分の記憶というのも本当に夢幻泡影なのだけれど,当時,宮澤賀津雄さんによびだされて横浜までいって,3人であって話をしたのは野島さんだったような気がする。違うかもしれない。


[1]インターネットと教育 No.393 2002.12.14(WaybackMachine)

2023年4月24日月曜日

情報要約の時代

タイパからの続き

情報検索の時代
が到来したのは,1990年代半ばにインターネット上のワールドワイドウェブが登場してからかもしれない。それを予感していたかのように,「情報選択の時代(Information Anxiety)」を買ったけれど,読む前に処分リストに入ってしまったのか見当たらない。

次に来るのは,情報廃棄の時代かとも思ったが,これは終活を控えた老人の場合だけの話。これはこれでで重要な話題だが,その前に必要なのは,大量の情報の海から漁った情報をどうやってできるだけ効率的に消化するかということだ。情報要約の時代が到来している。

タイパの記事では,YouTubeなど動画における倍速視聴を話題にした。それ以外にも,映画や書籍など,全内容を得るのに時間がかかる情報メディアの吸収時間をできるだけ短縮しようとする動きがみられる。著作権侵害で摘発されたファスト映画は,長時間の映画を10-15分にまとめてあらすじを理解しようというものだ。ビジネス書など本の要約サイトもいくつかある。これらは有料なので,そこまで話題になっているわけではない。また,YouTubeにもいりいろなタイプの本の紹介サイトがある。

ここに至って,大規模言語モデルをベースとした対話型AIシステムが登場し,単一のモデルで自然言語処理の様々なパターンを普遍的にこなすことができるようになった。その一つが文章の要約である。よく吟味してみると微妙な場合もあるが,ちょっと目にはそこらの学生と変わらないレベルで要約ができている。業務利用にはもっとも有用な機能の一つである。

しかしながら,素の状態のGPT-4だけでは,事実ベースの要約などはまだ苦手である。例えば,都道府県の人口ランキングだとか,著名な作家リストだとか,人間が複数のリソースからGoogle検索しながら,データを整理するようなタイプの仕事は難しい。まだ,呪文工学(Prompt Engineerring)を駆使せずに簡単に答えを出す段階には達していないようだ。

マイクロソフトのOffice製品にChatGPT機能のCopilotが組み込まれるように,すべてのPCアプロケーションのユーザインターフェイスが自然言語AIになって,情報のアウトプットの要約化が進むと,長文読解力はますます衰えるのかもしれない。TwitterやTikTokが流行したのと同じ原理だ。

2023年3月25日土曜日

教育データの利活用

3月22日に,文部科学省の教育データの利活用に関する有識者会議(2020.7-)が「教育データの利活用に係わる留意事項(第1版)」を公表した。

日経新聞では,「学習端末データ授業改善に活用/教師の経験頼み脱却」というタイトルの記事になっていた。BingChatに無理矢理要約させると次のようになった。
文部科学省が公表した指針によると、小中高校の児童生徒が学校で使うデジタル端末に蓄積された情報の活用について、初めての指針を公表したそうです。この指針により、教師が経験に頼ることなく、学習端末に蓄積されたデータを活用し、授業改善につなげることができるようになるそうです。また、ビッグデータの分析力を備えた外部機関との連携が求められるそうです。
日経の記事はかなりバイアスがかかったまとめ方をしていた。「留意事項」はもっと抽象的なものになっていて,(1) 個人情報の適切な取り扱い,(2) プライバシーの保護,(3) セキュリティ対策,について言及しながらシステムを外注する際のチェックポイントを整理したようなものだ。

10年前に,今後の大阪教育大学の方向性とからめて教育ビッグデータの重要性(と危険性)を話題にしていたころから進んでいない。スローガンに伴う具体的なイメージがはっきりしないのだ。いや自分が勉強していないだけかもしれない。

(1) 収集される学習データは非常に多様化し,複雑化するとおもわれる。従来型の成績+デジタルポートフォリオイメージでよいのか。
(2) 授業改善のための分析は結局外注することになるのではないか。あるいは分析ツールを買わされるのだろうか。教師が片手間でできる簡単な仕事ではない。
(3) 対話型AIをインターフェースとすれば,上記2つの課題は解決するのかもしれない。ビッグデータといいなわらしていたころとはかなり違うことになるが,問題解決のヒントくらいは見つかるかもしれない。
(4) この対話型AIシステムクラウドを日本国が自前で準備して無料で使わせるくらいのことをしてもバチはあたらないだろう(かなりこわい話だけれど,米国依存だとさらにマズイ)。

最初のコラムで,牽制するかのように「デジタル・シティズンシップ」を取り上げているのも唐突感が否めないがまあいいか。それにしても,この「留意事項」から感じる息苦しさはなんなのだろうか。個人情報保護法や著作権法にがんじがらめになっている上,自由な空気からほど遠い学校教育現場にこのようなシステムを導入すると,結局壮大な抑圧的管理網がかぶさるだけのような気もする。


P. S.  山本一郎いわく「統計量で教育データを扱うはずが,全量悉皆データをそのまま人工知能にぶち込んでしまい,自ら情報漏洩の危険を冒すお調子者教師」が散見されるそうだ。これはこれでピントがズレているような・・・



2023年2月4日土曜日

ChatGPTと教育(2)

ChatGPTと教育(1)からの続き

ChatGPTがどのような役割を果たして教育のシステムを改善していくのか,あるいはAIの教育利用がどんな問題点をはらんでいるのかについて,様々な議論が始まっている。そこで,よくあるパターンの一つとしてChatGPT自身に聞いてみた(下記Q&A参照)。これは,ChatGPTが学習してきた大量の文書総体≒人類の「意識」の平均的なありようの射影になっている。

その結果は,例によって,もっともらしい単語の羅列であって,一瞥すると的を射たコメントのように見えたりもする。しかし,言葉を十分に吟味してみれば,テレビの時事情報番組のコメンテーターの場合と同様に,論理的にかみあわない単語の連鎖にキーワードをまぶして雰囲気だけを醸し出しているに過ぎない。
Q:大規模言語モデルを用いたAIによるシステムを学校教育に利用しようと思います。どのような活用方法が有用なのか5つあげて,その理由を箇条書きで説明してください。

A:(質問者のコメント:論理的推論の欠如と概念の重複
自然言語生成:大規模言語モデルを使って自然言語を生成することができます。これにより学生が作成した文章の構文や文法のチェックなどが行えます。

自動翻訳:大規模言語モデルを使って多言語の翻訳が可能です。これにより外国語の学習をサポートすることができます。

チャットボット:大規模言語モデルを使ってチャットボットを作成することができます。これにより学生がコミュニケーションスキルを磨くことができます。

機械翻訳:大規模言語モデルを使って機械翻訳を行うことができます。これにより学生が英語など外国語を読む力を向上させることができます。

音声認識:大規模言語モデルを使って音声認識を行うことができます。これにより学生がリスニング力を向上させることができます。


Q:外国語や国語の学習が中心ですね。それら以外の教科を念頭にさらに5項目あげて下さい。

A:(質問者のコメント:単調なパターンの繰り返し,論理の飛躍
数学:大規模言語モデルを使って数学の自動生成や問題の自動解答などができます。これにより学生が数学の要点を理解しやすくなります。

科学:大規模言語モデルを使って科学の説明や解説などを自動生成することができます。これにより学生が科学の概念を理解しやすくなります。

哲学:大規模言語モデルを使って哲学的なトピックの説明や解説などを自動生成することができます。これにより学生が哲学的な観点から物事を考える力を養うことができます。

歴史:大規模言語モデルを使って歴史的なトピックの説明や解説などを自動生成することができます。これにより学生が歴史的な観点から物事を考える力を養うことができます。

社会科学:大規模言語モデルを使って社会科学的なトピックの説明や解説などを自動生成することができます。これにより学生が社会科学的な観点から物事を考える力を養うことができます。


Q:これらの例は,従来のインターネットにおける情報検索でも実現できていたのではないですか。本質的な違いがあるような具体的な方法を知りたいのですが。

A:(質問者のコメント:ChatGPTが主観をシミュレートしているということ?
その例示した内容は従来のインターネット上の情報検索でも実現可能ですが、大規模言語モデルを用いた AI によるシステムは以下のような本質的な違いがあります。

自然な文章生成:大規模言語モデルは自然な文章生成能力があり、学生にとって理解しやすい形式で情報を提示できます。

主観性のある情報提示:従来の情報検索はオブジェクト的な情報を提供しますが、大規模言語モデルは主観性のある情報も提示することができます。これにより学生が様々な観点から物事を考える力を養うことができます。

学習内容のカスタマイズ:大規模言語モデルを使った AI システムは学生の学習状況に合わせて学習内容をカスタマイズすることができます。これにより学生が効率的に学習することができます。

自動的な評価:大規模言語モデルを使った AI システムは学生の課題やテストの解答を自動的に評価することができます。これにより教師の負担が軽減されます。

これらが大規模言語モデルを用いた AI によるシステムが従来のインターネット上の情報検索と本質的に異なる点です。
[3]1/26/2023 教育現場でのChatGPTの利用についてChatGPTに直接聞いてみた(サルタック・シクシャ)

2022年9月6日火曜日

学習eポータル

教育データ標準からの続き

教育データの標準化の具体的な活用イメージとして,文部科学省CBTシステム(MEXCBT: Computer Based Testing)を含む学習eポータル があげられている。

MEXCBTは,児童生徒がコンピュータからオンラインで問題演習ができるシステムだ。家庭からも学校からも使え,選択問題や短答式問題は自動採点される。システムの開発は文部科学省が事業者連合コンソーシアムに委託していてすでにプロトタイプが稼働している。

MEXCBT用の問題は,国や地方自治体などの公的機関が作成したものを使う。教師が指定した問題を児童生徒が解いて,その結果は自分と教師が確認できて,フィードバックする。子どもが自分で勝手に問題を選んで自由に学びを進めていくようにはできていないのかもしれない。

さて,その学習eポータルだ。日本の初等中等教育に適した共通の学習管理機能を備えたソフトウェアシステムであり,(1) 学習(学習リソース)の窓口機能,(2) 連携のハブ機能(シングルサインオン),(3) MEXCBTへのアクセス機能,の3つの機能を果たすことになる。

いまは亡きインターネットと教育(1996-2002)や教育情報ナショナルセンター(NICER: 2001-2011)の考え方をリニューアルして再現したものだ。前者は自分の個人的な取り組みを越えられなかったので仕方がないが,文部科学省が国立教育政策研究所を使って鳴り物入りで立ち上げた教育情報ナショナルセンターがあっという間につぶれてしまったのは残念だった(再立ち上げも失敗)。

そのデータは,GENES 全国学習情報データベース(学習ソフトウェア情報研究センター)と教育の情報化支援サイトNICER-DB(パナソニック教育財団検索システム研究会)に引き継がれることになっていたが,前者は廃虚と化し,後者に至ってはドメインがマイナー業者に乗っ取られてしまった。

さて,この度の学習eポータルはその轍を踏まずに離陸することができるのだろうか。昔,芳賀さんといっしょに活動していた内田洋行の伊藤博康さんがリーダーとなって,一般社団法人ICT CONNECT 21の学習eポータルSWGが取り組んでいるので,まあ前回よりはましなのかもしれない。

学習 e ポータルの仕様は、検討と実 証を繰り返しながら、学習 e ポータル標準モデルとしてまとめられる。MEXCBT は国が開発、 運営を担うのに対し、学習 e ポータルは複数の民間企業が標準モデルに基づいて開発、提供し、小中高校などの教育機関がその中から選択して利用することを想定している

なるほど,そういうことか。さらに,MEXCBTとの連携は必須要件だが,デジタル教科書やデジタル教材との連携は推奨となっている。しかしながら,LRS(Learning Record Store)学習履歴は必須とされているのだった。各社が開発して提供する学習eポータルはなんらかの形で認証されることになるのだろうか?

中央集権的なデータセンターモデルから,複数のポータルが統一規格のもとに連携するモデルに進化しているが,それでも話は面倒にみえる。やはり,パーソナルAIアシスタントを子ども・保護者・教師一人一人が所有して,必要な情報や協働はこのAIアシスタントが探し出して持ってくれるというシステムを目指したほうがいいのかもしれない。GIGAの次のステージだ。

[1]学習eポータル標準モデル(2022.2.22,Ver. 2.00,ICT CONNECT 21 学習 e ポータル サブワーキンググループ)
[2]文部科学省CBTシステム運用支援サイト(文部科学省)
[3]子どもの学び応援サイト−学習支援コンテンツポータルサイト(文部科学省)
[4]STEAM ライブラリー(経済産業省・未来の教室プロジェクト
[5]EdTEchライブラリー(経済産業省・未来の教室プロジェクト
[6]学習eポータルまとめサイト(ICT CONNECT 21)

2022年9月5日月曜日

教育データ標準

GIGAスクール構想からの続き 

まず復習。GIGAスクール構想とは,2019年から文部科学省が取り組んでいる施策である。GIGAはGlobal and Innovation Gateway for All の略であり,全国の児童・生徒に一人一台のコンピュータと高速ネットワークを整備しようというものである。2021年3月には,全自治体の96%以上で整備が終っており,いちおう小中学生一人一台という目的が完了したということらしい。

高等学校については,2022年度中に1学年は100%,2024年度までに高校生一人一台を実現する目標となっていて,すでに半数の府県では100%が達成されている。まあ,小中学校も含めてそれらがうまく機能しているかどうかはまた別の話。

これは25年前の100校プロジェクトを嚆矢とした学校へのインターネット導入の動きに匹敵する大きな変化には違いない。ようやくあのころの理想が具体化できる条件が整いつつあるということか。

ところで,この構想を支えるために,教育データの標準化が取り上げられている。教育データを,(1) 主体情報(児童生徒・教職員・学校の各属性等の基本情報),(2) 内容情報(学習内容の情報),(3) 活動情報(生活活動,学習活動,指導活動などの情報)に区分する。これらをすべて網羅的に扱うわけでなく,データの相互運用性を図るという観点で全国的に統一が必要なものに限り,その使用を強制せず,政策的に誘導するというものだ。

教育データ標準として,すでに次のようなものが定められている。学校コード,教育委員会コード,学習指導要領コード。学校は,位置情報(緯度・経度・標高)や時間情報(開設年月,統合年月,廃止年月)がほしいところだ。教育委員会には事務局の住所・連絡先すらない。学習指導要領コードは,NDCとの対応があれば・・・というか,知識を網羅的にコード化することはそもそも可能なのだろうか。普遍性に欠ける学習指導要領の文章を切り出してコード化するというのはどうにも気持ちが悪い話である。

[1]StuDX Style(文部科学省)GIGAスクール構想の実践事例

2022年9月2日金曜日

プログラミング教育(3)

プログラミング教育(2)からの続き

高等学校に情報という教科が新設されたのは,平成10年(1998年)告示の学習指導要領からだった。これを受けて2003年度から高等学校での必履修科目の情報の授業が始まった。

そのころ,まだ大阪教育大学に在籍していた田中博之さんに誘われて,日本文教出版の教科情報の教科書編集に参画することになった。関西大学総合情報学部の水越敏行先生をトップに,新潟大学の生田孝至先生,水越先生の弟子の黒上晴夫さん(阪大オケでチェロをやっていた)などにひきいられた20名ほどのチームだった。慶応義塾幼稚舎の田邊則彦さんの引きで,看板には村井純さんも据えられた。

田中博之さんは,その後いろいろあって編集チームをやめ,大阪教育大学から早稲田大学の教職大学院に移った。1998年指導要領では,情報A(入門),情報B(理系),情報C(文系)の3つの選択科目が設定されており,関西大学の江澤義典先生,富山大学の黒田卓さんら数名による情報Bチームに配属された。情報Bチームは次の学習指導要領改訂で情報の科学チームに再編され,辰己丈夫さんなども加わって Javascript 路線を進むことになる。なお,自分も本業が忙しくなったので,2012年ごろには水越先生にお願いして抜けさせてもらった。

全く新しい科目が立ち上げられたということで,手探りで教科書づくりがすすんでいくのだが,プログラミングは教科「情報」の中心に据えないというのが共通了解事項であった。当時の大学では,コンピュータ教育=プログラミング教育という暗黙の刷り込みがあったので,なかなか大きな発想の転換であり,メディア教育を専門とする水越先生はこの点を強調していた。

そしていま,再びプログラミング教育に重点が移ってきたのだが,高等学校の学習指導要領では小学校や中学校のようなことはなく,これまでとあまり変わらないようなニュアンスになっている。2020年学習指導要領の必履修科目の情報Iと選択科目の情報IIと解説編では次の程度である。小学生,中学生,高校生に渡るプログラミング教育の積み上げについて検討された雰囲気があまり感じられないのはなぜ。
情報Ⅰ
(3)コンピュータとプログラミング
ア(イ)アルゴリズムを表現する手段,プログラミングによって
コンピュータや情報通信ネットワークを活用する方法について
理解し技能を身に付けること。
イ(イ)目的に応じたアルゴリズムを考え適切な方法で表現し,
プログラミングによりコンピュータや情報通信ネットワークを
活用するとともに,その過程を評価し改善すること。

情報Ⅱ
(4)情報システムとプログラミング
ア(ウ)情報システムを構成するプログラムを制作する方法について
理解し技能を身に付けること。
イ(ウ)情報システムを構成するプログラムを制作し,その過程を
評価し改善すること。

例えば,グループで掲示板システムを構成するプログラムを制作する学習を
取り上げ,サーバ側のプログラムについて適切なプログラミング言語の選択,
設計段階で作成した設計書に基づくプログラムの制作を扱う。その際,
自分が制作したプログラムと他のメンバーが制作したプログラムの統合,
テスト,デバッグ,制作の過程を含めた評価と改善について扱う。なお,
プログラムを制作しやすくするために組み込み関数やあらかじめ用意した
関数などを示し,これらを利用するようにすることも考えられる。

[1]高等学校学習指導要領解説 情報編(平成30年告示,文部科学省)
[2]高等学校情報科に関する特設ページ(文部科学省)
[3]プログラミング教育実践ガイド(文部科学省)
[4]高等学校普通科の教科「情報」の変遷と課題(川瀬綾子,北克一)
[5]高等学校共通教科情報科の知識体系に関する一考察(電気通信大学 赤澤紀子他)

2022年8月31日水曜日

プログラミング教育(1)

これまでも小学校におけるプログラミング教育への違和感を述べてきた。

  コンピューテーショナル・シンキング(4)

特に,小学校学習指導要領の解説編にある下記の「プログラミング的思考」がどうにも気持ち悪いのだ。

また,子供たちが将来どのような職業に就くとしても時代を越えて普遍的に求められる「プログラミング的思考」(自分が意図する一連の活動を実現するために,どのような動きの組合せが必要であり,一つ一つの動きに対応した記号を,どのように組み合わせたらいいのか,記号の組合せをどのように改善していけば,より意図した活動に近づくのか,といったことを論理的に考えていく力)を育むため,小学校においては,児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動を計画的に実施することとしている。その際,小学校段階において学習活動としてプログラミングに取り組むねらいは,プログラミング言語を覚えたり,プログラミングの技能を習得したりといったことではなく,論理的思考力を育むとともに,プログラムの働きやよさ,情報社会がコンピュータをはじめとする情報技術によって支えられていることなどに気付き,身近な問題の解決に主体的に取り組む態度やコンピュータ等を上手に活用してよりよい社会を築いていこうとする態度などを育むこと,さらに,教科等で学ぶ知識及び技能等をより確実に身に付けさせることにある。
いろいろな論点はあるけれど,AI応用アプリケーションがICT環境活用の中心になろうという時代に,(1) 手続き型プログラミングの想定が透けて見える「プログラミング的思考」という怪しい概念を振りかざしていること,(2) たぶんこのプログラミング教育では身につかない「論理的思考力」をゴールとすること,等への拒否反応が先にきてしまうのだ。

そこで,久しぶりに小学校のプログラミング教育でよく用いられているScratchをのぞいて見た。なんだがすごく進化していた。プログラム開発環境画面の左下のボタンを押すと,拡張機能が選択される。その項目は,音楽,ペン,ビデオモーション,音声合成,翻訳,Makey Makey,micro:bit,LEGO MINDSTROMS EV3,KEGO BOOST,LEGO Education WeDo 2.0,Go Direct Force & Accelerationというもので,おもわずワクワクしてくる。

小学校プログラミング教育をバカにしていてごめんなさい。これを学習指導要領のように捉えてはいけなかった。コンピュータを単なる情報受像機定型業務処理機としてではなく,IoTを含む情報創造機として使うための第1歩だった。プログラミング思考なんて実はどうでもよかったのだ。

そして,大規模言語モデル+ディープラーニングを背景とした新しいAIのトレンドは,この情報創造の意味合いそれ自身を大きく変えてしまうことになるかもしれない。


2020年3月3日火曜日

休校中の高校生に贈る「情報」の課題A

[課題A]
新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐためという理由で,3月2日から全国ほぼ一斉に小中高等学校が休校となりました。これが本当に効果があるのかどうかを検討し,より良い対策がないかをグループで相談しながら考えてください。なお,国会中継がある日は必ずそれを見るようにしてください。

①日本における人々全体の平均的な1日における感染機会C(活動)は,(1)その活動をする人数の割合(分母は日本の人口),(2)その活動時間(分母は24時間),(3)その活動中の平均的な人の密集度(単位は人/㎡),の3つの積をすべての人について加えたものに比例すると仮定します。このとき,全国の学校を休校にした効果,すなわちC(平常時)-C(休校時)はいくらになるでしょうか,考えて下さい。
(ヒント)ある人のブログに「全国の小中高等学校の休業の効果」という計算例があるので,どうしてもわからない場合にはこれも参考にして下さい。

②全国の学校を休校にする以外で,社会を大きく混乱させずに感染機会を減らすにはどうすればよいか,それぞれについてC(活動)を計算して,最も効果的な対策を考えなさい。
(ヒント)通勤ラッシュの解消,カラオケ,居酒屋,パチンコ,スポーツジムにいかない,等。ただし,必ず数値的な根拠を引用データによって示してください。

③上記のシミュレーションの前提条件は,どの程度正しいか,どこが間違っている可能性があるのかについて友達と議論してください。
(ヒント)友達がいない場合は家族の方々でも結構です。


2020年2月18日火曜日

昭和のプログラミング教育(1)

Facebookをみていたら(こんなのばっかりだけど),恩師の楠先生のニュースが飛び込んできた。北國新聞の2月18日版「昭和のプログラミング教育、資料収集 元泉丘高教諭・楠さん」冒頭を引用してみよう。
昭和40~50年代、泉丘高理数科で行われた計算機プログラミング教育の資料を、当時の担当教諭が収集している。授業内容の記録、使った機器がほとんど地元に残っていないことから、現在は理工各分野で活躍する教え子から授業の感想文を募ってまとめる。今年4月から小学校でプログラミング教育が必修化されるのを前に、当時の「最先端」教育現場の記憶を次代に伝える考えである。
 資料をまとめているのは、楠(くすのき)禎一郎さん(93)=金沢市金石西1丁目=。旧制四高、東大理学部地球物理学科出身の楠さんは1958~77年に泉丘高で勤務し、68年にできた理数科を受け持った。
 同校は69年、世界初のプログラム機能付き電子計算機「AL1000」3台を導入した。プログラミングのできる計算機が大学、研究機関などでようやく普及し始めた時代、プログラミングによる「ユークリッド互除法」「素因数分解」などを課題として生徒に学ばせていたという。
 自宅を整理していた楠さんが、理数科で出題した課題やコンピューター実習室の配置設計図といった資料を見つけた。2018年に開かれた理数科の同窓会で授業の感想文を募集。東京工大教授や企業の技術者を含む教え子から多数の返事が寄せられた。
はい,この感想文を送ったうちの一人が私です。1969年に石川県立金沢泉丘高等学校の理数科1年(第2期生)でした。CASIOのAL-1000でプログラミングを学んだ。さらに,アナログ計算機で微分方程式を解いてレポートをまとめるなど。楠先生には1年から3年まで数学(甲と乙があってその片方)の授業を受け,理数科の2年のときはクラス担任だった。おととし,先生のリクエストに答えてお送りした返事が次の文章である。

平成30年9月23日
 理数科でのプログラミング教育のこと        大阪教育大学 越桐國雄
 私が,金沢泉丘高等学校の理数科の2期生として入学したのは昭和44年(1969年)のことです。3年間クラス替えのない8組として,40人のクラスメートとともに学びました。もう50年も前のことになるので,記憶もかなり怪しくなっているのですが,とりあえず,自分の中の物語を憶えている範囲で記してみます。
 理数科の二期生ということもあって,2年の担任だった楠先生なども授業を手探りでつくられているようでした。数学や理科?の授業が多く,その分,体育の授業が少ない中で,理数科向けの数学の授業では,同値関係?とεδ論法?とイデアル?とアフィン幾何?という言葉だけが,まったく分からなかった講義の中の微かな残像で残っています(記憶違いかもしれません)。
 コンピュータについてはニキシー管が並んだ,カシオ計算機のプログラミング電卓があって,4メモリ26ステップ?のプログラムが組めるというものだったと思います。こちらの方はとても興味をもって取り組むことができました。最後の課題として「整数の階乗を求める」というのがありました。がんばって考えてできた!と思ったのですが,土田君のプログラムのステップ数が最短だったということで,負けて残念だったという記憶が強く残っています。
 また,これとは別に,アナログコンピュータで微分方程式を解いてグラフを出力するという課題にも取り組みました。一人で残って作業しているときに,配線を間違えて,警告ブザーが鳴り響いて肝を冷やしたことを憶えています。単振動,減衰振動,強制振動のグラフを出力して,かなり丁寧なレポートを提出しました。
 その後,大阪大学理学部の物理学科に進んで,原子核理論を専攻し,大型計算機でFORTRANを走らせ,当時のベクトル型スーパーコンピュータの初期モデルと格闘しました。就職先の大阪教育大学では,情報教育の立ち上げに係わることになります。Macintosh40台でMathematicaの授業をやっていると,高校時代の情報教育の黎明期からたいへん遠くまで来たなと感慨深いものがありました。
P. S. 15年前に大阪教育大学の附属高校でお話しした際の資料(自分史のようなもの)を別添します。


写真 :北國新聞ウェブ版に掲載された楠先生の近影(2020.2.18)


2019年11月18日月曜日

公共財としての教育ビッグデータ(2)

例えば,JAPAN e-Portfolio は関連大学が構成員となる一般社団法人教育情報管理機構が運用主体となっている。その会員についてのページを見ると,正会員は大学である。国立大学が6法人,公立大学が3法人,私立大学が18法人となっている。賛助会員には教育産業の企業が名を連ねている。ベネッセが含まれる特別賛助会員が4社,指定賛助会員が4社,賛助会員が1社である。年会費300万円特別賛助会員の説明は以下の通り。
当該会員が運営する学習支援システム事業,ポートフォリオ事業,SNS事業,データベース事業等これらに類する事業において取得したデータ又は本機構が運営する高大接続ポータルサイト「JAPAN e-Portfolio」(以下、「JeP」という。)が所有するデータ等,JePに連携し,蓄積した情報を活用して事業を行う会員が支払う会費
*『「JAPAN e-Portfolio」(以下、「JeP」という。)が所有するデータ等」』とは「JAPAN e-Portfolio」の入力項目などシステム本体の情報を指します。生徒が「JAPAN e-Portforio」に入力し,蓄積された個人情報は,一切共有されることはありません。
ベネッセの個人情報漏れが起こったときには,これでもうおしまいだなと思ったのだが,あっという間に,復活を果たしただけでなく,ありとあらゆる教育公共事業案件に首を突っ込み,この優位性を背景に各学校への攻勢を強めている。これまでは,全国学力テストだったが,これに加えて,大学入試共通テストや,高校生のポートフォリオなど膨大なデータを手中に収めようとしている。このままでいけば文部科学省は民営化されて,ベネッセに取って代わられる日も近い。


2019年11月17日日曜日

公共財としての教育ビッグデータ(1)

日経朝刊で,公正取引委員会の杉本和行委員長が,「医療や金融分野などのビッグデータは多くの事業者が利用可能な「公共財」になりうるとの考え方を示した」。ここには教育分野が含まれていないが,まさに公共財として位置づけて,広く公開と流通を図ることが必要な部分は含まれているはずだ。もちろん,個人情報の機微に関る部分も多いため,その取り扱いにも注意は必要だが,それは医療や金融でも同じことだ。

数年前から清和会・政府の進めている教育政策の特徴は,一つには右翼的イデオロギー貫徹による教育支配であり,もう一つが,公共財としての教育を売り払う利権支配である。そして,その矛盾が噴出したのが,森友・加計・大学入試問題だ。巷では,モリ・カケ・サクラとして安倍の不正をあげつらっているが,本当にこわいのは,もてあそばれている日本の教育システムの破壊ではないのか。

岡山という地域をベースにしたベネッセ加計学園グループの深い結びつきについては,いろいろとネット上に情報が流れているが,そこに様々な公益法人や文部科学省からの天下りなどが絡み合い,複雑な病巣を構成している。そこに巣食う企業人や大学人や官僚崩れが,トップダウンの準公的な諮問会議や私的なワーキンググループを隠れみのに互いの利権を貪りながら,十分に吟味されておらず,当事者や専門家を排除した政策を立案している。

[1]教育情報管理機構JAPAN e-Portfolioの実施大学の団体+特定賛助会員など)
[2]進学基準機構佐藤禎一が理事長のベネッセ系一般財団法人)
[3]学力評価研究機構(ベネッセグループの株式会社)
[4]福武教育文化振興財団(ベネッセグループの公益財団法人)
[5]高校生のための学びの基礎診断(文部科学省)

2019年10月18日金曜日

プログラミング教育の欠点(2)

以前にプログラミング教育の欠点(1)を書いてそのままだった。

小学校教育現場の状況や教員の負担などを見聞きするとともに,小学校へのプログラミング教育の導入はまずかったという気持ちが強くなってくる。

小学校学習指導要領の「第1章 総則」の「第3 教育課程の実施と学習評価」の「1 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」に次の内容がある。
(3) 第2の2の(1)に示す情報活用能力の育成を図るため,各学校において,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること。また,各種の統計資料や新聞,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。あわせて,各教科等の特質に応じて,次の学習活動を計画的に実施するこ  と。ア 児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要とな   る情報手段の基本的な操作を習得するための学習活動  イ 児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動
これを受けて,「理科」の内容の取り扱いでは,
(2) 観察,実験などの指導に当たっては,指導内容に応じてコンピュータや 情報通信ネットワークなどを適切に活用できるようにすること。また,第 1章総則の第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には,児童の負担に配慮しつつ,例えば第2の各学年の内容の〔第6学年〕の「A物質・エネル ギー」の(4)における電気の性質や働きを利用した道具があることを捉える学習など,与えた条件に応じて動作していることを考察し,更に条件を変えることにより,動作が変化することについて考える場面で取り扱うものとする。
また,「総合的な学習の時間」の内容の取り扱いでは,
(9) 情報に関する学習を行う際には,探究的な学習に取り組むことを通し て,情報を収集・整理・発信したり,情報が日常生活や社会に与える影響 を考えたりするなどの学習活動が行われるようにすること。第1章総則の 第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を 身に付けるための学習活動を行う場合には,プログラミングを体験するこ とが,探究的な学習の過程に適切に位置付くようにすること。
というわけだ。関連業界や学会のみなさんは,プログラミング教育の導入という燃料を投入されて大変活気づいているようだが,どう考えても無理があるような気がする。余裕のある学校や教員が取り組むことには全く異論がないけれど,学習指導要領で規定してしまうことの副作用の方が気になってしまう。結局これも社会階層の分離を推進する方向に働くのだろう。自分にはていねいに分析や批判する気力とエネルギーがないのが残念。

[1] プログラミング教育(文部科学省)
[2]小学校プログラミング教育の手引き(文部科学省)
[3]小学校プログラミング教育に関する研修教材(文部科学省)
[4]教育委員会等における小学校プログラミング教育に関する取り組み状況等(文部科学省)
[5]小学校プログラミング教育に関する指導事案集(文部科学省)
[6]小学校を中心としたプログラミング教育ポータル(未来の学びコンソーシアム)






2019年6月28日金曜日

教育ビッグデータ(3)

教育ビッグデータ(2)からの続き)

新時代の学びを支える先端技術活用推進方策 (最終まとめ)の,2.学校現場における先端技術・教育ビッグデータの効果的な活用をもう少しだけ読んでみた。

前段の「学校現場で先端技術の効果的な活用を促進するために」の方は次の項目からなる。
・遠隔・オンライン教育
・デジタル教科書・教材
・協働学習支援ツール
・AV・VR
・AIを活用したドリル
・センシング
・統合型校務支援システム

このうち遠隔・オンライン教育にかなりの説明を割いていることが目立つ。SINETの開放(といってもVPNの提供くらいしかメリットがなさそうだけど)に加えて,大学や企業を巻き込む「マッチング&アドバイザリープラットフォーム」機能を有するポータルサイトを創設するという提案まで踏み込んでいる。初等中等教育をダシに,SINETの強化を図るということ?よくわかりません。

その他の項目はなんだか手垢のついたものばかりで,目新しいものはないし,センシングも腰が引けている。総じて教育ビッグデータとの関連をきれいに見せきれていない。最近の情報教育の主流派のみなさんが推奨してきた一連のシステムを,総花的に並べている。なぜか,教育工学の伝統につながる学習履歴の収集とその分析というキーワードが強調されていないような気がする。危険・注意だからかもしれないが。

後段の「教育ビッグデータの現状・課題と可能性」では,関連企業団体であるICT CONNECT21 からの海外事例報告のあと,多くのページをデータの標準化の話に割いている。文部科学省による学校調査を自動化・効率化するためのシステムとして「教育ビッグデータ的なもの」を使うという話であればそれでよいのだろうと思う。まさに,英国モデルであり,各ベンダーはその標準を満足する個別システムを自由に設計すればよいのだから。

ところで,教育ビッグデータが目指しているとして,この政策まとめで最初に謳ったものはなんだったのだろうか。非常な危険を伴うが,「公正に個別最適化された学び 誰一人取り残すことなく子供の力を最大限引き出す学び」なのであれば,ちょっとベクトルが違うような気もしないではない。しかしながら,道徳教育でフル回転している現在の文部科学省が,教育ビッグデータといった瞬間,「道徳教育ビッグデータ」で統合される恐ろしい世界が迫ってくるようでなので,そうなれないのであれば逆に良いのかもしれない。