11月30日にOpenAIが公開した対話型AIシステム(ChatGPT)についての現段階の感想をまとめておくことにする。
(1) ChatGPTに対する見方
・AI専門家の声が見えない。清水亮は対話システムの限界と見る
・IT技術者やプログラマーは限界を理解しつつも比較的高く評価
・理系研究者等は知識が人工知能にはまったく及ばないと否定的
・短期間の 100万人登録から大きなインパクトがあったのは事実
(2) ChatGPTの特徴
・大規模言語システム GPT−3.5による対話システム*
・対話の前提条件や表現等を指定することができる
・対話によって自分の前言を修正することができる
・適切でない質問への回答を拒否することができる
(3) ChatGPTの長所と短所
・学習データに基づく辞書的事実を持つが分野にムラ
・簡単な計算や数理処理や論理判断はできるが不十分
・プログラム言語等については耳学問が発達している
・創作風で自由な文章や名前の羅列などは比較的得意
(4) 今後必要な機能的発展
・個人や集団ごとに対話情報を記憶して連携=LINE&SNS
・入力コーパス分野拡大と正しい知識の獲得=ウィキペディア
・数理計算能力や高度な論理的推論力の獲得=マセマティカ
・対象や場面に依存した表現の一貫性の獲得=パーソナリティ
(5) ChatGPTの未来
・1人1台のネットワーク端末から1人1つのAIアシスタントの時代
・対話出力がリアルタイム説明動画を生成するチューターの時代
・・・・
インターネットが大衆化した1990年代の半ばごろ,インターネットの教育利用について語る自分のPowerPointのファイルには,その本質として,リソース(情報のストック)とコミュニケーション(情報のフロー)の2つの柱があるというポンチ絵を必ず描いていた。今から思えば,知識というのは必ずしもリソース側にあるわけでなはく,コミュニケーションを成立させているネットワークに分かち持たれるものだったかもしれない。
そして,インターネットの利用の2つの柱は,
情報検索(リソースへのアクセス)と
SNS(コミュニケーションへのアクセス)として体現されることになった。対話の形をとったリソースへのアクセスシステムは,
Q&Aサイトとして,
Yahoo知恵袋,
教えてgoo,
hatena人力検索,
OKWAVEとか,最近だと
Quoraがあった。ただ,その回答の精度は必ずしも高くなく現時点のChatGPTなみだった。それが大きく変わることになるかもしれない。
情報検索とSNSがAIを媒介として統合される対話の時代の始まりだ。チューリングテストを受けていないAIアシスタントがキャラクター(パーソナリティー)を持って参加するMastdonインスタンスが林立し,そこへのアクセスによって質問への確かな回答が得られると同時に,懇切丁寧にわかるまでAIアシスタントにも教えてもらえる時代がやってくる。
しかし,その対話の半分は人間側の幻想による補完から成り立っている。そして,知識の本質というのは,この対話における幻想と切り離せないのかもしれない。知識を産み出した人間同士のコミュニケーションだって,やぎさんゆうびんを補完することでかろうじて成り立っているものだから。
図:11/30のChatGPTの出現前後のgoogle trends
* ChatGPTは
InstructGPTの兄弟モデルであり,プロンプトの指示に従って詳細な応答を行うよう,人間のフィードバックを元にした強化学習を施している。