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2020年11月10日火曜日

デジタル庁創設の課題

 日本経済新聞に掲載されていた記事。前回掲載された(上)は東大の越塚登の論で毒にも薬にもならない話に見えたので読まなかった(ネットで読み直してもやはりスカだった)。本日の(下)は,明治大学の田中秀明廉宗淳の「問題解決の実行計画を」というもので,楠正憲も指摘していたように,日本が参考にすべきは同様の社会規模や制度を持つ韓国であるという線に沿った議論になっていた。韓国の電子政府関係組織なども丁寧に紹介されており,久しぶりに納得できて読みがいのある論説だった。

正確な状況分析ができていないにもかかわらず政権浮揚の手段としてデジタル庁を持ち出した菅義偉と利権にまみれたミーハーの平井卓也が進める政策がろくなものになるはずがないような気がする。科学的・合理的な思考から程遠いところで局所的な利権を組み込むために汲々として全てが進められている日本の状態では,とてもではないが韓国に太刀打ちできそうにない。コロナ対策もしかりである。安倍内閣ではこれにネトウヨフレーバーがトッピングされており,それは今も色濃く残ったままである。

日本の行政のオンライン利用率が先進国最低で国民が便利さを感じていない理由として3点があげられている。(1)戦略や施策の評価,問題と原因の分析がないこと,(2)システムに合わせて業務や法手続きを見直さず,現在の業務のまま進めようとすること(行政の無謬化),(3)組織が縦割り打破をできていないこと,出向2年しばりで職員の専門性が軽視されキャリア形成を阻害していること(博士号を持ったスタッフがどれだけいるのか)。

この本質的な問題や課題に立ち向かわないデジタル庁は,いまのガラクタの組織の上に覆いかぶさり,新たな利権の繋ぎ変えによってさらなるスパゲッティシステムを生み出すだけかもしれない。エストニアをモデルとして語っている限り話は始まらない。

2020年2月11日火曜日

ポン・ジュノ

パラサイトからの続き)

第92回アカデミー賞で,ポン・ジュノ監督(1969-)の「パラサイト」が,作品賞,監督賞,脚本賞,国際長編映画賞の4冠に輝いた。BSの中継を,主演男優賞(ジョーカーの補ホアキン・フェニックス),主演女優賞(ジュディのレネー・ゼルウィガー)のあたりから見ていた。途中で監督賞にはポン・ジュノが選ばれているのを知って,これは有力かもと思っていたら,外国語映画としてアカデミー賞史上初めての作品賞となった。感動的でしたね。

ポン・ジュノの主な監督作品で比較的簡単にアクセスできるのは次のようなものだ。
2000 ほえる犬は噛まない(フランダースの犬)
2003 殺人の追憶
2006 グエムル(怪物
2009 母なる証明
2013 スノー・ピアサー
2017 オクジャ
2019 パラサイト
いずれも,ソン・ガンホ(1967-)がしぶくて良い役を担っている。

ポン・ジュノは監督賞の受賞挨拶で,マーティン・スコセッシ(1942-)に最大級の賛辞を贈っているが,そのスコセッシもまた,今村昌平(1926-2006)などから影響を受けている。それにしても,最近の韓国映画や韓国テレビドラマの質は高い。パク・ウネ時代にはポン・ジュノは韓国政府からは冷たくあしらわれていたようだけれど,韓国としては映画産業の振興にてこ入れしてきたのだろう。

2020年1月20日月曜日

1987,ある闘いの真実

韓国の全斗煥(チャン・ドゥファン)政権末期,1987年の6月10日デモから6.29宣言が出るまでの,大統領の直接選挙制改憲要求を中心とした運動が六月民主化抗争である。これによって第六共和制憲法が成立し,大統領の直接選挙が実現して1988年2月には盧泰愚(ノ・テウ)が大統領になる。

この背景には,1月15日のソウル大学校学生の朴鍾哲(パク・ジョンチョル)が警察による拷問で死亡した事件とそれに係わる隠蔽工作の発覚,4月13日の「今年度中の憲法改正論議の中止」と「現行憲法に基づく次期大統領の選出と政権移譲」を主旨とする「4・13護憲措置」の発表,5月27日の野党も含む広範な反政府勢力を結集した「民主憲法争取国民運動本部」の結成,6月9日の延世大学校学生の李韓烈(イ・ハニョル)が警察の催涙弾直撃を受けて重体(7月5日に死亡),などの事件が起こっている。

これらの一連の事件を史実に基づいて構成し,2017年に公開された映画が張俊煥(チャン・ジュナン)監督「1987,ある闘いの真実」である。30年前の出来事であるが,韓国の民主化運動の熱気が伝わってくる。それは北朝鮮との緊張関係を背景とした反共政策の苛烈さと対応している。そして,それが韓国ジャーナリズムと現在の日本のジャーナリズムの違いを際立たせてもいる。通常国会が始まったが,NHKの岩田の解説に反吐が出そうになる。映画はとてもうまく作られていておもしろかった。日本アカデミー賞を6部門も受賞した「新聞記者」と比べると良いかもしれないが,軍配はチャン・ジュナンにあげたい。

ある意味,日本はぬるま湯であり,かつ茹でガエルであり,そのなかで肥大化した社会の慣性が世襲化の進行=既得権益の確保を温存している。これに対抗するグローバリズムに支えられた新自由主義は右翼的セクターを巻き込んで,基本的人権や民主的な組織を破壊し続けている(既得権益を持つ勢力と直交しているわけではない)。

2020年1月12日日曜日

パラサイト

1月10日の日本経済新聞の夕刊のシネマ万華鏡で「パラサイト 半地下の家族」が★5つで紹介されていた。これは「グエムル−漢江の怪物−」のポン・ジュノ監督による2019年の作品で第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画として初めてパルムドールを受賞したものだ。

早速,夫婦で見に行きました。前年のパルムドールは,是枝裕和監督の「万引き家族」だったが,これも映画館で見て面白かった。最初はこれに似た雰囲気なのかと思っていたら,そうではなかった。いずれも東アジアの貧困を焦点化した面と家族の深い関係を示唆している部分があるのだけれども,ポン・ジュノはさらにそれを進める。

コメディタッチで前半が進むが,やがてカオスが到来する。半地下の家でWiFiの電波を求めなければ生活が成り立たない様子,周到な計画で近代化された韓国を象徴するようなモダンな豪邸に入り込んでゆく過程,激しい雨の中を帰る家族を待っていた水害と避難所のシーン,高級住宅地の豪邸の庭でのパーティーを2階から俯瞰している場面など,必要最小限の説明で分かりやすい物語が進むと同時に,予想できない展開が待っている。

韓国の社会や文化については,それなりに学習してきているのと,同じ東アジア文化圏のメンタリティーがあることで,感情移入はしやすい。自分としてのこの映画のポイントをまとめると,「人生は計画通りに進まない」「差別はにおいから始まる」の2点ということにしておく。

P. S. 今朝のNHKの7時のニュースでは,パラサイトが紹介され,ポン・ジュノと是枝裕和の対談が放映されていた。