ダリは,中学校の美術の教科書に燃えるキリンが載っていた。山田雄治君と一緒に教科書に掲載されていた世界の名画を眺めながら作者当てをするのが楽しかった。
安部公房はどこから?世界SF全集の第32回配本(1971年5月)が,安部公房の第四間氷期他であり,それ以前から日本初の本格SF小説だとは耳にしていた。あるいは,現代国語の教科書に「赤い繭」か何かが掲載されていたのか?第四間氷期は残念ながら高校生の自分にはピンと来なかった。大学に入ってから読んだ砂の女と他人の顔の方が圧倒的によかった。燃えつきた地図,箱男,密会,方舟さくら丸では残念ながらそこまでのものは得られなかった。
その安部公房の伝記が,2011年3月に一人娘の安部ねり(1954-2018)によって出版された。安部公房全集全30巻をだしている新潮社によるこの本は,作家誕生,作家安部公房と人間科学,作家活動の周辺,インタビュー(安部ねりによる25名)の四部で構成されている。断片的な著者の思い出のコラージュという感じで,期待はずれだった。本人は,伝記部分と理論展開の部分から成り立っていると書いているが,ちょっと違う。肉親が故人の伝記を書くというのは難しいことだ。
この少し前に,Kindle版で山口果林(1947-)の「安部公房と私」を読んでいた。安部ねりの伝記では山口果林については一言も触れられていない。まあそんなものだ。山口果林の本も記憶のパッチワークかもしれないが,著者の自分史でもあって,より密度が高くて具体的だ(自分には,山口果林とミニスカートで巨泉・前武ゲバゲバ90分!に出ていた宮本信子のイメージが分離しにくくて困る)。
神奈川近代文学館が,安部公房の生誕100年を記念して「安部公房展−21世紀文学の基軸」を開催している(2024年10月12日〜12月8日)。この展示会公式図録本の方が安部公房の伝記としてふさわしいように思える。末尾には美術家として安部公房の舞台美術や本の装丁を担当した妻の安部真知(1926-1993)も少しだけ登場していて,安部ねりによる真知の略年譜もある。展示物の中にあった山口果林の大量の赤い大入袋はこの本には登場しない。
安部公房は,小説の著述にワードプロセッサを利用した最初期の1人だが,インターネットが商業化する前の1993年に亡くなっている。星新一(1926-1997)もそうだ。もちろんAIも。それにもかかわらず,彼らの小説の中にはほとんどそのイメージが予言されている。
写真:安部公房伝の書影(新潮社から引用,やたら上質の紙を使っている)
P. S. 1958年「世界」の座談会,荒正人,埴谷雄高,武田泰淳,安部公房でのイメージ
〈人工衛星・人工太陽・人工頭脳・人工生命〉 =〈宇宙開発・核融合・AI・バイオテク〉 そのままだ [7]。
[2]科学とフィクションそしてポストモダン(クリストファー・ボルトン)
[3]予言=権力 —安部公房「第四間氷期」論—(中野和典)
[5]安部公房「第四間氷期」論—現実観照及びモダニティの諸面相をめぐって—(許静華・劉暁芳)
[6]安部公房『第四間氷期』論―「記憶」と「満洲」をめぐって―(解放)
[7]「未来」への抵抗 —安部公房「鉛の卵」論—(加藤優)
[8]安部公房論(和田勉)
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