図:束縛運動をするバネで結ばれた2質点系とその重心
上図のように,2つの質点がバネで結ばれ互いに内力を及ぼしている系を考える。それぞれの質点は原点を通る2本の直線上を運動するように束縛されている。2つの質点の質量が等しく,初期位置として原点から等距離に静止していたとする。このときのバネの長さが自然長より短ければ,x軸方向に弾性力(斥力)が働く。この斥力(内力)の直線方向の成分によって,質点はy軸正方向の運動成分を持つことになる。
一方,束縛された質点が直線方向に運動するのは,各質点に働く束縛力(外力)とバネの弾性力(内力)の合力が直線方向を向くからである(摩擦力はないとする)。ところで,この外力(束縛力)は,質点の移動において仕事をすることはない。仕事をするのは,内力(バネの弾性力)である。
この系における質点の重心の運動を考えてみる。重心の運動には系の内力(弾性力)は寄与せず,外力の和だけが運動を決定する。ところで,先ほど見たように外力(束縛力)は仕事をしないはずだ。それにもかかわらず重心はy軸方向に運動し,運動エネルギーを持つことになる。これはなぜかというのが,よく問われる定番の問題だ。
外力と内力が働く質点系の運動方程式は次のようになる。
mid2ridt2=Fexi+N∑j=1Finji(i=1⋯N)
すべての粒子に対して加えると,内力が作用反作用の法則から打ち消しあうので,重心座標(rG=(1/M)∑Ni=1ri,M=∑Ni=1mi)と相対座標(˜ri=ri−rG)に対する運動方程式が得られる。
Md2rGdt2=N∑i=1Fexi=Fex,mid2˜ridt2=Fexi+N∑j=1(−miMFexj+Finji) (i=1⋯N)
それぞれの式の両辺に,重心の速度や相対速度をかけて積分することによって,運動エネルギー(全体はT,重心運動はTG,相対運動は˜T)の変化と仕事Wの関係を表わす式(エネルギー保存則につながるもの)が得られる。
T(t2)−T(t1)=N∑i=1∫t2t1Fexi⋅dridtdt+N∑i=1N∑j=1∫t2t1Finij⋅dridtdt
=N∑i=1Wexi(t1→t2)+N∑i=1N∑j=1Winij(t1→t2)
=Wex(t1→t2)+Win(t1→t2)
TG(t2)−TG(t1)=∫t2t1Fex⋅drGdtdt=¯WG(t1→t2)
˜T(t2)−˜T(t1)=Wex(t1→t2)−¯WG(t1→t2)+Win(t1→t2)
ここで,¯WexG=∑Ni=1∑Nj=1miMFexj⋅dridtdt は外力に由来しているが,各要素に分解してみると仕事の形はしておらず(作用する外力と座標の番号は等しくない i≠j の Fexj⋅dri が含まれる),このため擬仕事(pseudo work)とよばれることがある。
これらの式を今の問題に当てはめるとどうなるか。束縛力(外力)の和は,重心に対して仕事¯WexGをする。しかし,束縛力(外力)によって各粒子がなされる仕事の和Wexは0である。重心の運動エネルギーの増加に寄与するのは,Wexではなく,¯WexGであり,これは必ずしもゼロにならないのだ。¯WexG=12(∫Fex1⋅dr2+∫Fex2⋅dr1)
問題の設定では,束縛条件から,外力(束縛力)と内力(弾性力)の間に条件式が課されるため,外力を内力によって表すことができる。これによって,擬仕事を内力の仕事の形で表せるのだが,一般的には重心の運動エネルギーの増加を各粒子に対する内力による仕事だけで表すことはできない。
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