2024年2月14日水曜日

曾根崎心中

 文楽の曾根崎心中は何度か観ているが,歌舞伎では初めてだった。

生玉社前の段。油屋九平次とその取り巻きらにいじめられる手代徳兵衛の場面がある。冷たい視線を送る群衆がフリーズしているのが,妙に現代劇のような演出になっている。いいようなわるいような。尾上右近の徳兵衛も,中村壱太郎のお初もセリフがやや聞き取りにくいのでちょっともやもやする。

天満屋の段。徳兵衛の叔父の醤油屋の平野屋久右衛門が登場する。これは文楽にはなかった。久右衛門は,徳兵衛がお初に騙されていると思い,その徳兵衛を諌めるために来たのだ。その後,天満屋の主人吉兵衛がお初に説教するところも文楽にはなかったものだ。九平次が現れるのはそのままだけれど,吉兵衛とからんで揉める部分が追加されている。

そして,一番大きな違いは,九平次の悪事が久右衛門に露見するという話が追加されていることだ。お初と徳兵衛が暗闇の中,天満屋を脱出した後,油屋九平次の手代の市兵衛が急用でやってきた。九平次が無くしたと嘘の届け出をして隠していた印判を役人に持っていってしまい,嘘がばれそうになっているとあわてて九平次に知らせに来たのだ。その話を久右衛門が聞いて,天満屋主人吉兵衛にも伝わってしまう。

天神森の段。ここは,ほぼ竹本の語りで進んでいくので,違いはないような気がする。
この世の名残り」夜も名残り。
死に行く身を」たとふれば」あだしが原の」道の霜。
一足づつに」消えて行く」夢の夢こそ」哀れなれ。
あれ数ふれば」暁の」七つの時が」六つ鳴りて」残る一つが」今生の」鐘の響きの」聞き納め。
寂滅為楽と」響くなり。
鐘ばかりかは」草も木も」空も名残りと」見上ぐれば」雲心なき」水の面」北斗は冴えて」影うつる」星の妹背の」天の河。
梅田の橋を」鵲の」橋と契りて」いつまでも」われとそなたは」女夫星。
必ず添ふと」すがり寄り」二人がなかに」降る涙」河の水嵩も」勝るべし。

竹本住太夫が,近松は五七調からズレるのがあまり好きじゃないといっていたが, この冒頭の部分だとずれているのは一箇所だけだ。


写真:お初天神(露天神社)のお初徳兵衛の像(Wikipediaから引用)

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