ケプラーの法則からの続き
その放送大学では,岸根順一郎さんの初歩の物理でケプラー運動を扱っていた。毎年,力学の授業で何度も何度も説明してきたところだ。岸根さんはケプラー運動の対称性から来る保存量として,力学的エネルギー角運動量に加えて離心率ベクトルをとりあげていた。これが運動の不変量であることを簡単に説明していて感心した。なるほどね。
離心率ベクトル(規格化されたルンゲ=レンツベクトル)保存量であることは知っていた。このおかげで,波動力学における水素原子のシュレーディンガー方程式が解かれたすぐ後に,パウリは行列力学の手法で水素原子のエネルギースペクトルを導いているのだ。天才ですよね。
保存量であるルンゲ=レンツベクトル,自分で手を動かして計算した経験がなかったので確かめてみたところ,2日がかりでなかなか計算がうまくあわない。計算能力が懸垂能力並に衰えつつある。ダメダメだ。しかたがないので,ChatGPT o3 に確認しながら自分の計算ミスを発見する。ChatGPT o3 は正しい答えを知っている。
LaTexで計算過程を清書しながら検算するというスピードが自分にはもっともあっている。
万有引力は$f(r) = \dfrac{GMm}{r^2} = \dfrac{k}{r^2}$ である。惑星の換算質量を$\mu$ とする。運動量は,$\bm{p} = \mu ( \dot{r} \bm{e}_r + r \dot{\theta} \bm{e}_\theta) $ , 角運動量は,$\mu r^2 \dot{\theta} \bm{e}_r \times \bm{e}_\theta$ である。
ケプラー運動の対称性は,エネルギーと角運動量に加えてルンゲ=レンツベクトル$\bm{A}$という保存量を与える。それは次式で与えられる。
$ \bm{A} = \bm{p} \times \bm{L} - k \mu \bm{e}_r = \bm{p} \times (\bm{r} \times \bm{p}) - k \mu \bm{e}_r $
$= \mu ( \dot{r} \bm{e}_r + r \dot{\theta} \bm{e}_\theta) \times L \bm{e}_z - k \mu \bm{e}_r = \Bigl(\dfrac{L^2}{r} - k \mu \Bigr) \bm{e}_r - \mu \dot{r} L \bm{e}_\theta $
運動方程式$\dot{\bm{p}} = f(r) \bm{e}_r$を用いて,この時間微分が0になることを確認する。
$\dfrac{d \bm{A}}{dt} = \dot{\bm{p}} \times \bm{L} + \bm{p} \times \dot{\bm{L}} -k\mu \dot{\bm{e}}_r $
$= f(r) \bm{e}_r \times L \bm{e}_z + 0 - k\mu \dot{\theta} \bm{e}_\theta = \dfrac{kL}{r^2} \bm{e}_\theta - \dfrac{kL}{r^2} \bm{e}_\theta = 0 $
離心率ベクトル$\bm{a}$を,ルンゲ=レンツベクトルから以下のように定義する。
$ \bm{a} = \dfrac{\bm{A}}{k\mu} = \Bigl( \dfrac{L^2}{k\mu r} -1\Bigr) \bm{e}_r -\dfrac{\dot{r} L}{k} \bm{e}_\theta $
このとき,$\bm{a} \cdot \bm{L} = 0 $が成り立つ。
速度ベクトルを$\bm{v} = \dot{\bm{r}}$として運動方程式は,
$\mu \dot{\bm{v}} = f(r) \bm{e}_r = -\dfrac{f(r)}{\dot{\theta}} \dot{\bm{e}}_\theta = \dfrac{k}{r^2 \dot{\theta}} \ \dot{\bm{e}}_\theta \quad \therefore \dot{v} = \dfrac{k}{L} \dot{\bm{e}}_\theta $
そこで,次の不変ベクトル$\bm{e}$が存在する。
$\bm{e} = \dfrac{L}{k} \bm{v} - \bm{e}_\theta = \dfrac{L}{k} (\dot{r} \bm{e}_r + r \dot{\theta}\bm{e}_\theta ) - \bm{e}_\theta = \dfrac{\dot{r} L}{k} \bm{e}_r +\Bigl( \dfrac{L^2}{k \mu r} - 1 \Bigr) \bm{e}_\theta $
したがって,つねに $\bm{e} \cdot \bm{a}$ = 0 であり,ケプラー運動の運動方程式が内包する不変ベクトル$\bm{e}$は規格化されたルンゲ=レンツベクトル(離心率ベクトル)$\bm{a}$を$\frac{\pi}{4}$だけ反時計回りに回転したものになる。
図:ルンゲ=レンツベクトル $\bm{A}$(Wikipediaから引用)
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