2020年2月10日月曜日

Japan e-Portfolio

公共財としての教育ビッグデータ(2)からの続き

文部科学省による「大学入学者選抜改革推進依託事業」が,2016年度から2018年度まで実施された。その狙いは次のようなものである。
本事業は,「思考力等」や「主体性等」を評価する大学入学者選抜改革を進める上での具体的な課題・問題点を整理するとともに,多面的・総合的な評価を行うための実践的で具体的な評価手法を構築し,その成果を全国の大学に普及することにより,各大学の入学者選抜の改革を推進することを目的としている。
人文社会分野(国語科),人文社会分野(地理歴史科・公民科),理数分野,情報分野,主体性等分野の5事業が選定され,それぞれの分野で代表大学の元に,複数の国立・私立大学等が参画した。

このうちの,主体性等分野では「「主体性等」をより適切に評価する面接や書類審査等 教科・科目によらない評価手法の調査研究」というテーマで,関西学院大学の代表のもとに,大阪大学,大阪教育大学,神戸大学,佐賀大学,早稲田大学,同志社大学,立命館大学,関西大学の9大学で進められた。その概要は以下の通りである。
学力の3要素の「主体性等」をより適切に評価するため,教育委員会,高等学校等と連携し,調査書・提出書類や面接等を実践的に活用する方法,高校段階でのeポートフォリオとインターネットによる出願のシステムの構築, 「主体性等」の評価尺度・基準の開発等を行う。
昨年(2019年)の3月18日には,文部科学省で委託事業成果報告会も開催されている。各教科分野での取り組みは,この度の大学入学共通テストへの移行になんらかの寄与をしているのだと思うが,主体性分野の方はより現実的な結果をもたらした。それが,2019年4月に立ち上がった一般社団法人教育情報管理機構とここが運営する高大接続ポータルサイトJapan e-Portfolio である。ベネッセのIDをそのまま使って高等学校からのデータ入力に対応していたものが批判され,2021年からは独自のIDシステムに変更するとしている。まあ,いくらあがいてもその背景にはベネッセがしっかりと食い込んでいるのだろう。

教育情報管理機構は元金沢大学学長の山崎光悦(機械工学)会長のもと,正会員として,改革推進事業を進めてきた大学を含む国公立大学法人や私立の学校法人など34法人が参加している。大阪大学だけが抜けたのはなぜだろうか。

そして,すでに令和2年度の大学入学者選抜には複数の大学でこのe-Portfolioが用いられることになった。はい,大阪教育大学も岐阜聖徳学園大学も入っております。

自分自身も,大阪教育大学の在職時に「eポートフォリオはいいんじゃないですか」と気軽に応援しつつ,大学の特徴づけのツールとしての活用に期待して推進する側にいたので,全く大きなことはいえないし,猛省しなければならないのだが,e-Portfolioがすべての高校生を覆うようになってしまうことには非常に大きな不安と危惧の念を持っている。

インターネット上の言説空間でも,まともな考えを持つ人々の大多数はこれに対する異議を申し立てている。まずいですよね。すべての高校生の活動が常に大学入試ポートフォリオという「金銭的」な価値に変換されて,365日24時間監視されているような心理的効果を持つシステムというものは。そして,これは,高校生だけでなく全ての子ども,あるいは場合によっては社会人(労働者)にまで伝染しかねないパンデミック同様の脅威なのだろう。来るべき未来に訪れるかもしれない個人情報システムによる個人資産の完全把握を凌駕する,個人の活動や思惟産物の完全把握は,全国民的DNAデータベースに匹敵する個としての人の危機かもしれない。もしくは,完全に単一化された人類の集合意識への進化への一里塚なのか・・・

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