2020年2月21日金曜日

特集−量子コンピュータ(3)

特集−量子コンピュータ(2)からの続き

9.田中成典(計算生物学)
  量子と生命(11p ☆☆☆☆)
量子生物学というキーワードは1969年に大木幸介さんのブルーバックスを買って以来だ。最近注目を浴びているのは2007年の光合成系の量子コヒーレンスを契機としている。以前取り上げた鳥の磁気コンパスの話題もそれで,生物の感覚センサー機能における量子現象が注目されているとのこと。著者は量子多体系の第一原理計算についての素養があるので,生命現象の本質と量子計算の関りについて,生命量子計算や量子知性というキーワードで照射しようとしている。予想以上に興味深い内容だった。

10.郡司ペギオ幸夫(生命基礎論)
   「わたし」に向って一般化される量子コンピューティング(14p ☆☆)
元神戸大学の原俊雄先生にいわせると,郡司ペギオ幸夫さんは天才だが(なので?),普通の人の理解の枠を越えている。目次や表題をみると非常におもしろそうなのだが,読み出すとほとんどついていけなくなるのが常である。今回のキーワードは認知的非局所性だったが,そのスタートのロジック「XであってXでない」につまずいてしまった。

11.全卓樹(理論物理学)
   量子力学と現代の思潮(10p ☆☆☆☆)
全さんは東大の有馬研の出身だ。昔,森田研でポスドクをされていた。兵庫県の中山間部であった深山良徳君の葬儀の帰りに車で送っていただいたことなども思い出す。全さんの論説を読むためにこの雑誌を買ったのだ。期待を裏切らず,自分の知りたいと思っていた量子力学の「観測問題」をすっきりと整理してくれていた。東北大学の堀田昌寛さんは,コペンハーゲン解釈は量子力学の認識論的解釈であると言い放って,多世界解釈を簡単に斬って捨て,量子力学に観測問題などないと断定している。なんか違うのよね。哲学を含む人文科学一般について深い知識を持っている全さんは,スタンフォード哲学百科のミルヴォルトの整理に準拠して問題を解きほぐしてくれるところから始め,時代思潮と結びつけて着地する。この雑誌の特集の趣旨を十分に理解した論説だ。

12.内井惣七(科学哲学)
   無時間,無空間からの出発(8p ☆☆)
内井さんの本も何冊か挑戦しているのだけれど,まったくピンと来ないことが多い。なぜだろう。量子重力のロヴェリを最初に持ってくるところで引っかかるのかしら。いや,ライプニッツのモナドとの関連は確かにいいところをついていると思うのだ。でも確率のコード解釈がどうのこうのという結論へ向って,まったく筋が追えなくなってしまう。科学哲学の人の書いたもの,読める場合と読めない場合がある。認知の抗体反応を起してしまうのかもしれない。


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