関係量子力学について,Stanford Encyclopedia of Philosophy で勉強してみる。Copyright © 2019 by Federico Laudisa, Carlo Rovelli で本人が書いているので安全なやつだ。
関係量子力学(Relational Quantum Mechanics)
関係量子力学(RQM)は,現在まで議論されている量子力学の解釈の中で,最も新しいものである。RQMは,1996年に量子重力を研究していたロベリによって導入されたが(Rovelli 1996),この十年の間にしだいに,しかし着実に関心が高まってきた。RQMは,本質的に教科書的な「コペンハーゲン」解釈の改良版であり,観測者の役割を担えるのは古典的な系に限定されず,あらゆる物理系が担うことができるとされている。RQMは,波動関数(より一般的には量子状態)の存在論解釈を否定している。波動関数や量子状態は,古典力学のハミルトン=ヤコビ関数と同様の意味で,補助的な役割しか果たしていない。これは,存在論的な言及の否定を意味するわけではない。RQMは,古典力学と同様に,物理変数によって記述される物理系によって与えられる存在論に基づいている。古典力学との違いは,(a)変数は相互作用のときだけ値をとること,(b)変数のとる値は相互作用の影響を受ける(他の)システムに対して相対的にのみ決まることである。ここでいう「相対的」とは,古典力学において速度が他の系に対する系の性質であるのと同じ意味である。したがって,RQMでは,世界は,物理変数の時間的な相対値によって記述される,疎な相対的事象の発展的なネットワークとして記述される。
RQMの基礎となる物理的仮定は次のようなものである。S'に対する相対的変数の(未来の)値に対する確率分布は,S′に対する相対的な変数の(過去の)値に依存するが,別のシステムS″に対する相対的な変数の(過去の)値には依存しない。
この解釈では,定式化されるべき古典的世界の存在や,特別な観測者系を想定する必要はなく,測定に特別な役割を与えることもない。そのかわり,任意の物理システムがコペンハーゲン解釈における観測者の役割を果たすことができ,任意の相互作用が測定と見なされることを仮定している。これは,上記の物理的仮定により,量子論の予言を変えることなく可能である。なぜならば,S′によって観測される干渉効果は,別のシステムS″と相対的な変数の実現によって消去されることがないからだ(もちろんデコヒーレンスによって抑制されることはある)。このように,RQMは,隠れた変数,多世界,波束の収縮機構,あるいは,心・意識・主観性・エージェントなどの特別な役割を必要とせずに,完全に量子力学的な世界を理解することができる。
このような簡略化の代償として,物理変数が非相関的な値を持ち,すべての時間に存在するとされる古典力学の強い実在論が否定される。変数が相互作用時にのみ値をとるという事実は,疎な事象(または閃光する)の存在論を与える。変数が参照する系によってラベル付けされるという事実は,世界の表現に指標性の段階概念を追加することになる。
RQMは形而上学的に中立であるが,以下に詳述する意味で,強い実在論(Laudisa 2019)に疑問を示す強い関係性の立場にある。このように実在論に障るため,RQMは,構成的経験主義(van Fraassen 2010),新カント主義(Bitbol 2007, Bitbol 2010),最近では反一元論(Dorato 2016),構造実在論(Candiotto 2017)など様々な哲学的観点の文脈で順々に嵌められてきた(Brown 2009, Wood 2010)。この解釈は,量子ベイズ主義(Fuchs 2001, 2002),ヒーリーのプラグマティズム的アプローチ(Healey 1989),特にザイリンガーとブルックナーによって論じられた量子論の見解と共通する面がある(Zeilinger 1999, Brukner & Zeilinger 2003)。
たぶん,弱測定や弱値,圏論,ベイズ推定などとも相性が良さそうな 雰囲気がただよう。そういえば,圏論的量子力学という本も出版されていたが,これは正確には,Categories for Quantum Theory: An Introductionなので少し違うかもしれない。いやいや,Categorical Quantum Mechanicsもあった。
圏論的量子力学は,圏論を利用した図式的表現にポイントがあって,解釈問題とはあまり近接しない話題のようだ。量子計算への応用があるとかなんとか。arxivで調べてみると,"Categorical Quantum Mechanics"が63件,"Relational Quantum Mechanics"が43件で,どちらも流行っていません。
[1]Fantastic Quantum Theories and Where to Find Them (Stefano Gogioso)・・・怪しい量子力学のオンパレード
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