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2019年12月24日火曜日

浮力の問題(6)

浮力の問題(5)から少しだけ話を進めてみよう。

最も気になっているのが,いわゆる「浮力の消失」現象の実験の説明である。浮力の問題(3)で紹介した,浜名湖観光局のアルキメデスの原理:浮力の正体の一考察では,水底に着底した物体を吊り上げる際の張力を静止摩擦力とのアナロジーで議論していた。そこで,離床の際の張力を与えることができる簡単なモデルを作ってみた。

場面設定
一様重力場における重力加速度をg,水の密度をρとする。大気の密度をρ0,大気の有効高さをHeffとして,大気底での空気の圧力はp0=ρ0gHeffとなる。さらに,これに等価な水柱の高さをHとすると,p0=ρHと表される。底面が水平で滑らかな十分広い容器に水底からの高さhまで密度ρの水を満たす。水表面をA,水底面をBとする。

質量m,底面積A,高さdの直方体の物体Cを用意する。Cの密度を,ρm=mAdと書くことにする。Cの底面は滑らかであるが,水中で水底面と密着させた場合,fAの面積の部分に水がしみ込んで,水底と同じだけの水圧が鉛直上方に働く。水がしみ込む面積の底面積に対する比率fは,0f1を満足している。なお物体が押しのけた水の重さはm0g=ρAdgである。

この物体が水底に接地しているときには,図のような力が働いている。pA=p0=ρgHは,水表面Aにおける大気圧,pC=ρgH+ρg(hd)は物体Cの上面における水圧(大気を含む),pB=ρgH+ρghは水底面Bにおける水圧を表している。

物体には,水圧からくる浮力以外に重力 mg と,物体Cの上面には糸からくる張力T,物体の底面のうち水がしみ込まない(1f)Aの面積の部分に加わる底面からの抗力R,これ以外の粘着力や表面張力などの和Xが働いている。なお,T,R,Xm0gを単位として測った無次元量をt=T/m0g, r=R/m0g, x=X/m0gと表すことにする。

図 水中の物体に働く圧力と力

①:Cの釣り合い
物体Cに働く力の釣り合いの式は次のようになる。
mg+PCAPBfA+XRT=0
物体Cの上下面の圧力から来る力の和は,
PCAPBfA=ρg(H+hd)Aρg(H+h)fA=ρgdA(H+hd1H+hdf)=m0g{H+hd(1f)1}
両辺を m0gで割った力の釣り合いの式は,
ρmρ+{H+hd(1f)1}+xrt=0
つまり,これは抗力rと張力tの和に対しての条件式と見なすことができる。
r+t=ρmρ+{H+hd(1f)1}+x

抗力がr=0となるときの張力t0の値は次式で与えられる。
t0=ρmρ+{H+hd(1f)1}+x
さらに張力を加えて抗力がr=0のときに隙間がすべて流体で満たされるとする。このときにはf=1となり,その張力をt1とすると,
t1=ρmρ1+x
あるいは,完全に離床してしまえば付加的な力も働かないので,その場合の張力をt2とすると,
t2=ρmρ1
ただし,これらの式において張力が0または負になるときは,物体が浮き上がる条件が
満たされていることになる。

②:真の接触面積が抗力に比例するモデル
静止摩擦力と垂直抗力の関係において,最大静止摩擦力は物体と運動面の見かけの接触面積には比例せず,垂直抗力に比例していた。これは,物体と運動面の真の接触面積が垂直抗力に比例することを含意する。そこで,これを参考にして次のようなモデルを考える。

水が底面間の隙間にしみ込む面積の比率fが抗力rの1次関数f(r)であると仮定し,t=0の場合の初期状態のr=r0f(r0)=fi,離床条件であるr=0の場合t=t0f(0)=f00fi<f01)となるように決めることにする。
すなわち,
t0=ρmρ+{H+hd(1f0)1}+xr0=ρmρ+{H+hd(1fi)1}+x
そこで,①のff(r)=f0+(fif0)rr0で置き換えればよい。
r+t=ρmρ+{H+hd(1f(r))1}+xr+t=ρmρ+{H+hd(1f0(fif0)rr0)1}+xt0={r0+H+hd(fif0)}rr0+t
これを整理すると次のような式にまとめることができる。
t=t0(1rr0)r=r0(1tt0)

③:数値的な評価の例
物体Cを密度ρm=0.5で一辺が10cm の立方体とする。立方体の質量は 500 g である。
大気圧に等価な水の深さはH=1000cmであり,水深をd=100cmとする。m0g = 1 kgwなので,次の式の単位はkgwである。
t0=ρmρ+110(1f0)1+x=110(1f0)0.5+x
これが水がしみ込む面積が抗力に比例するモデルにおいて物体を持ち上げるのに必要な力
をkgw単位で表現した例である。xとして立方体の底面の周囲に働く水の表面張力を当てはめてみると,x=73 dyne/cm40 cm102/105 gw/dyne / 1 kgw=2.9×103程度の寄与しかない。

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