2019年10月5日土曜日

地球温暖化(1)

京大総長の山極壽一は,京大の吉田寮問題,立看問題や折田先生像的問題でなかなかの対応をしていて頭がいたい。山極は日本学術会議会長の職にあるが,この度「地球温暖化問題に対する緊急メッセージ」というのを会長談話として出していた。9月の国連総会における「国連気候行動サミット」の直前に連帯のメッセージとして出したもののようだ。

温暖化の原因は人間の活動にあると断定したところから議論が始まり,2040年度に産業化以前から比べて地球平均気温が1.5度上昇するというシミュレーション結果から,「1.5度目標」というキーワードを強調している。1.5度の意味については,甲斐沼美紀子による「IPCC 1.5°C特別報告書 を読み解く」がある。

環境省のIPCC第5次評価報告書の概要−第1作業部会(自然科学的根拠)−のような政策的プレゼンテーション資料をみていると,グレタ・トゥーンベリがもうこれは絶対だ思うのも無理はない。

なお,典型的な2つの議論は次にみられる。
地球温暖化懐疑論批判(明日香壽川他 2009・・・住明正は表に出ないってことか)
地球温暖化懐疑論批判の誤謬(近藤邦明 2010)

地球温暖化(2)に続く



2019年10月4日金曜日

ノーベル賞飴

今年もノーベル賞の季節が巡ってきた。日本の学術論文数や引用数の国際順位の低下から,今後は日本からノーベル賞受賞者がでなくなるのではないかとささやかれている。これについての議論は,元三重大大学学長の豊田長康先生の分析から出発する必要がある。

それはそうとして,小学校6年生の頃(だと思う),アルフレッド・ノーベルの伝記を読んで読書感想文を書いたことがあった。偕成社の児童伝記全集か何かにノーベルの巻があったのだ。ではなぜ,あまたある偉人の伝記の中からノーベルを選んだのかというと,ノーベル賞が鍵だった。

「世界にはノーベル賞をもらうようなすごい科学者がたくさんいるが,その中から一人をえらぶのは難しい。しかし,それらの科学者はノーベル賞という基準で評価されている。とすれば,その共通の基準をつくりだしたノーベルについて知ることで,その他の科学者の全体をカバーできるのではないか」というイメージに近いことを子どもなりに考えて,ノーベルの伝記を読んだのだった。

いいのやらわるいのやら。

追伸:大阪教育大学の物理学教室の卒論発表会では,とてもよかった発表をえらんでノーベル賞飴をあげていたそうなのだが,自分が着任した年にはその習慣がなくなってしまっていた。ノーベル賞飴が製造中止になったためかもしれないが,その年代はよくわからない。ただ,しばらくは卒論要旨集の表紙の模様がノーベル賞のメダルのデザインとして残っていた。

2019年10月3日木曜日

phyphox

2010年に市川忠樹君といっしょに「携帯端末の加速度センサーによる実感をともなった運動の理解」という論文を書いた。iPhoneが日本に上陸したのが2008年であり,翌2009年の彼の修士論文にもとづくものである。2000年ごろのインターネットの教育利用運動のピーク時にも,モバイル学習端末をテーマにしてはどうかと芳賀さんに水を向けたこともあったけれど・・・,まあ,その時はそれどころではなかった。

その当時から様々なアプリが登場していたが,今日見つけた,ドイツのアーヘン工科大学で開発されたphyphoxはその決定版のような印象だ。日本語化されていて次のようなメニューがみられる。阪大の橋本幸士さんがTwitterで宣伝していたのだった。

写真:phyphoxのメニュースクリーンショットから(引用)

2019年10月2日水曜日

非常勤講師後期授業開始

夏休み50連休が終わって,後期の授業がはじまった。週2回の量子物理学(水2)と物理学Ⅲ(木3)だ。前期は,古典物理学(水2)と科学のための数学(木2)と
電磁気学(金3)だった。これに,小専理科A・Bや小学校教科内容(理科)などのオムニバスものが加わる。

たまにいくといろいろと環境が変化している。やや疲れた。

2019年10月1日火曜日

せとちとせ(1)

大学時代のマンドリンクラブの2学年上の先輩で,ベースを担当していたのが瀬戸俊昭さんである。基礎工学部の情報科学科でヒルベルト空間を羽ばたく蝶々だかなんだかよくわからないシャレを多発していた。部長ではなかったが,クラブの運営の中心的な存在であり,指揮の津江月義男さん(理学部化学科)と丁々発止の漫才を繰り広げていた。ビートルズが大好きでそれをめぐる論争だったようだ。

1回生が何人か,石橋にある炉端焼きの西本に連れていってもらったことがあったが,そのときも瀬戸さんがいただろうか。頭の回転が早くて洒脱な人だったが,卒業してから1度,江坂の東急ハンズがオープンしたてのころにちらっとお見かけしたことがあったくらいで,あまり接点はなかった。

この度,瀬戸さんを検索してみると,博報堂でなかなかの仕事をされた偉才人で,広告に関る多数の賞を獲得され,現在は個人事務所を開設されているようだ。その瀬戸さんが,せとちとせという回文のペンネームで,「たのしい回文」と「笑う回文教室」という本を出版されているようだ。本文カットもご本人。さもあらん。

[1]大手エンジニアも研修,「回文」の効用は

2019年9月30日月曜日

日本軍性奴隷制

神戸女学院大学の上野輝将先生の講演記録(2006年)がリポジトリで公開されていた。そのタイトルは,「日本軍性奴隷制(「従軍慰安婦」)問題と最近の動向 」である。大変わかりやすく問題の全体像を語っている。

2000年の「日本軍性奴隷制を裁く2000年女性国際戦犯法廷」がNHKのドキュメンタリーとなったのが2001年で,これに対して中川昭一と安倍晋三が圧力をかけてNHK番組を改変させた問題が明らかになったのが,朝日新聞の2005年の報道である。これをめぐる議論が起こった頃の講演記録である。

この日本軍性奴隷制否定は安倍晋三のデビュー戦であり,戦前の大日本帝国の制度や思想を肯定し,日本国憲法を改変して軍の存在を正当化し,女性差別と民族差別を強化するという問題の中核をなしている。それが,小林よしのりや橋下徹によって増幅され,大衆的に浸透した。この状況を基盤として政権を担当するのが安倍晋三であり,公然と反韓・嫌韓の空気(慰安婦否定+徴用工否定)を醸成している。現在の愛知トリエンナーレに対するテロ+検閲問題の病根は深い。


2019年9月29日日曜日

道徳教育を学校で行うべきでない理由

苫野一徳上記表題のインタビュー記事が集英社のサイトにある。表題に比べるとたいへん穏当で実践的な結論が導かれている。「問題解決的な道徳」の枠組みを使って,子どもたちが「自由の相互承認」の感度を高められるように,教科道徳から教科市民教育への転換を図れるように,学習指導要領に規定されてしまった特別教科の道徳を,探究を中心とした学校教育における学び方の変革の核としていこうというものだ。

日本会議国会議員懇談会の事務局長である荻生田光一は,文部科学大臣としてまさに日本会議的な「道徳」を貫徹しようとしているのだろう。それは,愛知トリエンナーレの文化庁補助金撤回で端的に示された。その「道徳」の強化は,日本社会の生産基盤を補完するための「移民」の増加=国際化・文化的多様化とは真っ向から対立する成分を含んでいる。また,経済界が大学に突付けた英語教育の重視=国際化のための入試改善とも矛盾するはずだが,そちらの方は利権眼鏡の対象として扱われる事項となるので道徳マターではないとされるのだろう。あるいは外国人の人権や市民権は無視した差別構造の強化としての道徳なので問題にはならないということかもしれない。

NHKでは愛国心を煽るために連日の朝から晩までラグビーの勝利をトップニュースに掲げている。嫌韓ニュースとスポーツニュースをサンドイッチのようにして,政権批判や社会の矛盾から目をそらすことにやっきになっている。一方で,消費税の問題は微細なお得生活情報に還元されてしまっている。開き直って釈明するのが作法となってしまった政権や大企業幹部の不正やモラルハザードに焦点を当てることもない。これらがりっぱな道徳教育の目指す完成形態なのだろう。

2019年9月28日土曜日

なつぞら

今日はNHKの朝のテレビドラマ「なつぞら」の最終回。100作目ということで,これまでの朝ドラヒロインがオールスターで登場していた。日本アニメの黎明期がテーマなのでおもしろかった。そこで,自分のアニメ視聴史(〜中学生まで)を振り返ってみた。

映画館にて
1960 白蛇伝(寺町終点の映画館パレスに小学校2年生の映画鑑賞)
1961 西遊記(同上,小学校3年生の映画鑑賞)
1961 101匹わんちゃん大行進(喜代子おばあちゃんと)
1963 わんぱく王子の大蛇退治(喜代子おばあちゃんと金劇にて)
1964 わんわん忠臣蔵(喜代子おばあちゃんと金劇にて)
1965 ガリバーの宇宙旅行(喜代子おばあちゃんと金劇にて)
1965 ファンタジア(小学校6年生?の映画鑑賞@金劇)

テレビアニメ
1960 フィリックス君(いつからはじまったのだろうか)
1962 鉄腕ポパイ(これもいつからはじまったのだろうか)
1963 鉄腕アトム(床屋の少年でおなじみ,ムックでも読んだ,金属おもちゃも買った)
1963 鉄人28号(同上,単行本でも読んだ,プラモデルも作った)
1963 エイトマン(小学校のバス旅行で熱唱した)
1963 狼少年ケン(おばあちゃんの家でみることが多かった?)
1964 トムとジェリー(これもおばあちゃんの家でみることが多かった)
1964 ビックX(購読中の少年ブックでもおなじみ,プラモデルも作った)
1965 宇宙エース(タツノコプロ,同上)
1965 おばけのQ太郎(以下藤子不二雄シリーズが続く)
1965 JQ(ジョニークエスト,主人公JQが好きだった)
1965 スーパージェッター(流星号のプラモデルも作った)
1965 遊星少年パピィ(ピーーーパピィ)
1965 宇宙少年ソラン(小学校卒業式午後のお楽しみ会の出し物だった)
1965 ジャングル大帝(カラー作品のスタート)
1966 ハリスの風(ちばてつやシリーズの始まり)
1966 魔法使いサリー(妹のりぼんでおなじみ)
1966 おそ松くん(赤塚不二夫シリーズの始まり)
1966 遊星仮面(ピネロン星人ですよ)
1967 黄金バット(これを見ているときに踵を切ったイメージが想起)
1967 悟空の大冒険(この三蔵法師に似ていると米島君に指摘された)
1968 ゲゲゲの鬼太郎(畦地君の家で少年マガジンを読みふける)
1968 巨人の星(同上,スポーツ漫画の始まり)

2019年9月27日金曜日

ニュースソースとしてのSNS

関西電力役員の背任に相当する原発マネー還流事件が発生している。それは,それとして,NHKの7時のニュースでは,SNSにおけるユーザの意見をいつものように取り上げていた。ある意味,街頭インタビューに相当するものと考えているのかもしれないが,顔も名前も見えない匿名のコメントを平気で使う神経が気味悪い。いや,いまの報道に関る若手記者にとっては,SNSを含むネット空間の情報は空気のようなものであり,むしろそれに依拠しないほうがおかしいと思っているのかもしれない。

インターネット空間には,政治的なPA(パブリックアクセプタンス)が満ちあふれていることや,エコーチェンバー効果が指摘されていることから,よほどの注意が必要だと思う。また,短いセンテンスに切り詰められた定型詞の使い回しや,統計科学への過度の依存が,情報の真偽が多数決で決定されるものであるかのような幻想を振りまいている。新聞やテレビや週刊誌などの既存メディアの行く末を考えたときに,SNSを何らかの形で取り込むことによって生き残りを図るという作戦なのだろうか。

監視カメラの横溢と同様に,すべての国民が持つ携帯カメラのネットワークは,これまで見逃してきたような様々な事件の瞬間を地引き網で掬うように漁っている。あるいは,多くの情報番組やバラエティ番組のネタ元は,YouTubeであったり,Twitterで拡散された情報あったりする。それが,マスメディアのシャワーを通じて全国にいや全世界を循環している。


2019年9月26日木曜日

ミキモト真珠島

三重県鳥羽のミキモト真珠島に行った。真珠博物館→海女スタンドでの実演御木本幸吉記念館→パールプラザと見て回る。白い磯着の海女さん2人による実演では,磯笛という浮上後の呼吸法からくる口笛が印象的だった。海女さんをのせてきた船はいそぶえだし,昔,物理学教室の旅行で宿泊したKKRの保養所はいそぶえ荘だったと思うがどうだろう。

養殖アコヤガイによる真円真珠の製法は,御木本幸吉が商業化に成功したが,見瀬立平と西川藤吉が技術を確立し実用化(特許取得)したとされている。これに対して,英国人のウィリアム・サヴィル・ケント発明したものであることを強調した論説がある。真珠博物館を見ていて,真珠の選別にはロボットとディープラーニングの組み合わせが使えそうだと思ったが,まだ実用化されていないのだろうか。

ミキモト真珠島と関連するのが,三重県出身の江戸川乱歩パノラマ島奇譚だ。鳥羽には江戸川乱歩館があるが,平日は予約制のようだった。

2019年9月25日水曜日

宇治拾遺物語

池澤夏樹個人編集の日本文学全集第8巻を読みながら昼寝した。日本霊異記=伊藤比呂美,今昔物語=福永武彦!,宇治拾遺物語=町田康,発心集=伊藤比呂美というラインナップである。

宇治拾遺物語は,今から800年前の説話文学であり,雀の恩返し,わらしべ長者,こぶとりじいさんなどの話が収められている。上記の翻訳では町田康のフィルターがかかって,とても強力な物語となった。無料で現代語訳を読むには,日本古典文学摘集宇治拾遺物語が美しい。

2019年9月24日火曜日

和具臨海学舎

三重県志摩町和具の座賀島に阪大の和具臨海学舎(海の家)があった。調べてみると昭和24年に開設し,平成20年に閉舎となっている。理学部3回生の夏(1974年)に,楠本・藤原・真鍋・柳田諸氏とともに,その海の家で夏の合宿を行った。物理の演習の授業になかなかついていけなくて,皆で学び合いをしたのであった。朝から勉強しながら海に入って昼寝,夕食後また夜に勉強するという大変健康的な生活を送った。管理人さん夫婦に小さな娘さんがいて遊んだりしていた。もしかしてマンドリンクラブでも和具で合宿をしたことがあったのだろうか。座賀島の周りを浮輪につかまって一周したのは誰とだったろうか思い出せない。

画像:google mapより引用(2019.9.24)

2019年9月23日月曜日

ケンプナー級数(2)

(ケンプナー級数(1)からの続き)

Wolfram MathworldのKempner Sereisの項には,ケンプナー級数の具体的な数値が与えられている。というわけで,さっそくJuliaを使って計算してみよう。そうそう,いつの間にか,Juliaは1.2にバージョンアップしている。再帰を使ったコードは次のとおり。

上述のMathworldでは,9を除去した場合のケンプナー級数の収束値が22.92になっているので,10^10個までの範囲でも7割程度の値しか得られていない。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
function core(is,m,x,sum)
#  local e,y::BigFloat
  e=1
  is=is-1
  for k in 1:9
    y=10*x+m[k]
    if(y!=0 && is==0)
      sum=sum+e/y
#      println(y)
    end
    if(is>0)
      sum=core(is,m,y,sum)
    end
  end
  is=is+1
  return sum
end

function kempner(is,id)
#is : depth of recursive call core
#id : figure # to remove from sum
#  local e,a,sum::BigFloat
  e=1
  m=[0,1,2,3,4,5,6,7,8,9]
  m=deleteat!(m,id+1)
  sum=0   
  for i in 1:9
    a=m[i]
    sum=core(is,m,a,sum)
  end
  println(sum)
end

for is in 1:10
    println(is)
    @time kempner(is,9)
end
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1
4.77184876508206
  0.000109 seconds (60 allocations: 1.344 KiB)
2
6.589720190283038
  0.000105 seconds (61 allocations: 1.813 KiB)
3
8.223084402866208
  0.000134 seconds (60 allocations: 1.641 KiB)
4
9.692867792106203
  0.000408 seconds (60 allocations: 1.641 KiB)
5
11.015650849872554
  0.002865 seconds (59 allocations: 1.313 KiB)
6
12.206153622565859
  0.024687 seconds (60 allocations: 1.641 KiB)
7
13.277605939858102
  0.216985 seconds (212 allocations: 12.234 KiB)
8
14.2419130093833
  1.947383 seconds (210 allocations: 10.734 KiB)
9
15.109789370852864
 17.840434 seconds (211 allocations: 11.078 KiB)
10
15.890878115347133
160.770402 seconds (210 allocations: 10.750 KiB)


比較のため,単純な調和級数の計算コードと所要時間をあげておく。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
function test(n)
    e=1
    m=10^n
      sum=0
    for i in 1:m
      sum=sum+e/i
    end
    println(sum)
end

for i in 1:10
    println(i)
    @time test(i)
end
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1
2.9289682539682538
  0.000078 seconds (60 allocations: 1.531 KiB)
2
5.187377517639621
  0.000071 seconds (59 allocations: 1.344 KiB)
3
7.485470860550343
  0.000075 seconds (58 allocations: 1.156 KiB)
4
9.787606036044348
  0.000158 seconds (58 allocations: 1.156 KiB)
5
12.090146129863335
  0.000668 seconds (58 allocations: 1.156 KiB)
6
14.392726722864989
  0.005231 seconds (58 allocations: 1.156 KiB)
7
16.695311365857272
  0.050618 seconds (58 allocations: 1.156 KiB)
8
18.997896413852555
  0.520200 seconds (212 allocations: 13.266 KiB)
9
21.30048150234855
  5.296834 seconds (210 allocations: 10.906 KiB)
10
23.6030665949975
 53.307042 seconds (209 allocations: 10.578 KiB)

2019年9月22日日曜日

ケンプナー級数(1)

次の調和級数は発散することが知られている。
$\displaystyle \sum_{k=1}^{\infty} \dfrac{1}{k} = 1 + \dfrac{1}{2} + \dfrac{1}{3}
+ \dfrac{1}{4} + \dfrac{1}{5} + \dfrac{1}{6} + \dfrac{1}{7} + \dfrac{1}{8} + \dfrac{1}{9} +\cdots $
ところが,この級数のうちある数字が含まれる項をすべて取り除いた級数は収束する。この級数をケンプナー級数(kempner series)とよんでいる。

例えば,9を含むをすべて取り除いたケンプナー級数を考える。$n$桁の整数は$9\times 10^{n-1}$個あるが,そのうち9を含むものの総数は次式で与えられる。
$\displaystyle 10^{n-1}+ 8\times 10^{n-2} \times \dfrac{1-\bigl(\dfrac{9}{10}\bigr)^{n-1}}{1-\dfrac{9}{10}} = 9\cdot 10^{n-1} - 8\cdot 9^{n-1}$
$n$が増加するとともに,$n$桁の整数で9を含むものの割合は1に近づくため,ケンプナー級数が発散しないことが期待される。

なお,上記の式は9以外の1〜8についても成立するが,0の場合は,次式に修正される。
$\displaystyle 9 \times 10^{n-2} \times \dfrac{1-\bigl(\dfrac{9}{10}\bigr)^{n-1}}{1-\dfrac{9}{10}} = 9\cdot 10^{n-1} -  9^n$

実際,9を含まない$n$桁の数の逆数の和は,その最小値 $\displaystyle \frac{1}{10^{n-1}}$とその個数$8 \times 9^{n-1}$の積で押さえられるので,その総和は$\displaystyle 8\times \frac{1}{1-\frac{9}{10}} = 80$以下になり級数は収束する(0を含まない数の逆数の和は90以下となる)。

[1]Kempner : A Curious Convergence Series (1914)
[2]倪 永茂:無限級数およびその数値計算について(2014)






2019年9月21日土曜日

ハイパーソニック・エフェクト

BSで放送大学大学院の授業をやっていた。2017年の音楽・情報・脳で,国際科学振興財団上級研究員の河合徳枝先生が,インドネシアバリ島のケチャを題材に話を進めた。ハイパーソニック・エフェクトは非常に興味深いテーマであり,脳の報酬系やトランスの話も含め,SFの材料がごろごろところがっていた。

8 共同体を支える音楽
   音楽・共同体・インターメディア性・全員参加可能性
9 人類の遺伝子に約束された快感の情報
   脳の階層性・報酬系・快感誘起性情報要素・威嚇のシグナル
10 音楽による共同体の自己組織化
   自己組織化・報酬系・ガムラン・ケチャ
11 トランスの脳科学~感性情報は人類をどこまで飛翔させるか
   祝祭・トランスフィールド計測・脳波

大橋力(芸能山城組の山城祥二)が芸能山城組のサイトにハイパーソニック・エフェクトの解説文を載せている。大橋力,仁科エミ,河合徳枝らは,1994年に放送大学学園の紀要に「可聴域上限をこえる高周波の生理的・心理的効果(ハイパーソニック・エフェクト)について」という論文を書いており,このころから研究が進んでおり,バリ島のケチャもその格好の材料となっていた。

2019年9月20日金曜日

920

googleのアイコンが怪しかったので,調べてみたら(自分の)お誕生日マークだった。googleアカウントでログインした状態で使っており,誕生日を登録しているとこうなるようだ。

國雄の命名(祖父の越桐弥太郎による)についての諸説
(1)國(=国家)の英雄になるようにとの希望を込めて。
(2)9月20日生まれだったので語呂合わせで。
(3)実家の郵便番号が920になることを予言した。
(1968年7月に3桁の郵便番号が導入された)

スクリーンショット:googleホームページ(2019.9.20 撮影)


2019年9月19日木曜日

平方ピラミッド問題

京都の烏丸御池にあるNHK京都支局の1Fには8Kビジョンが設置されていて,パブリックビューイングができるが,その横には世界一大きな(?)ドーモ君が鎮座している。ちょうどお月見の季節なので,1+4+9個の月見団子が設置されていた。

このようにピラミッド状にお団子を$\ m \ $段積んでいくとその総数$\ \sum_{k=1}^m k^2\  $が平方数$\ n ^2 \ $になることがある。それは,$\ m=24,n=70 \ $に限られることが証明されている。

石井夕紀子さんによる初等的な証明の解説がある。

2019年9月18日水曜日

三者センターと夏の学校

微分形式の夏からの続き)

当時は(1970年代後半),原子核三者若手夏の学校を運営するために,各大学が分担して三者センター,素粒子準備校,原子核準備校,高エネルギー準備校の4つの役割を割り当てられていた。特に三者センターは会場関係の手配と各パートの調整など最も仕事が多くて大変なため,どの大学もできれば避けたいといった雰囲気が濃厚なのであった。1976年の野沢温泉村の次の夏の学校は,阪大の原子核理論・実験関係のグループが協力してこれを担うことになった。たぶん,野沢温泉村の夏の学校か,あるいは秋の学会でこれを決めたのだと思うが,紆余曲折の末,森田研究室の先輩の西村道明さん(1976年当時D1,後に京セラ)がえいやっと引き受けることを決断したようだ。

1977年の夏の学校は長野県の戸隠中社の民宿群で開かれた。三者センターは民宿きのしたにおかれて,運営に当たる阪大のメンバーはきのしたに集結して宿泊したのだが,下っ端のわれわれM2以下は,何人かずつまとまって周辺の民宿に分散させられた。北大原子核理論の大久保政俊さんと同宿になり,昨年の緊張とはうってかわって,わいわい騒いで楽しんだのだった。

講義や研究会にはちょっと顔を出しただけで,三者センター本部の雑用をして遊んでいたが,買物でおつりを間違えるなど,ろくな役にも立たない学生だった。原子核三者若手の運営でも活躍されていた名大の西岡英寿さん(後に甲南大学,1994年に夭逝)が,奥さんとランニングしていた姿を覚えている。夜,阪大の若手たちで花火だか盆踊りだかを見に行った帰りに,田中万博君(後にKEK)がスターウォーズのこてこての勧善懲悪がおもしろいのであると熱弁を振るっていたのが印象深い。最終日には,原子核実験の先輩の中山信太郎さん(後に徳島大学)と村岡研で同級の佐藤秀明君が民宿きのしたの前庭で,なにやら祭りの後でといった雰囲気でたそがれた会話を交わしていたのだった。

2019年9月17日火曜日

微分形式の夏

わけあって,しばらく微分形式の勉強をしている。

今から43年前の夏。M1だったころ,その年の原子核三者若手夏の学校が,野沢温泉村で開かれた。先輩につれられて夏の学校が何かもわからないまま,草津白根山を観光した後,暗くなってから現地に到着した。各大学の院生たちはばらばらに民宿に割り当てられているので,先輩たちとも離れてポツンと取り残された。原子核実験の先輩の前田和茂さん(東北大学)と同宿で,前田さんは友達の沖花彰さん(京都大学)と良く話していた。その関係で,沖花さんに夜の外湯めぐりにつれていってもらった。後に京都教育大学に勤めるようになった沖花さんはそのことは全く覚えていないとのことだった。

その野沢温泉村のある日の午後,研究会がおわって宿の2階でごろごろしていたら,森田研の同級生の小林正博君が鹿児島大学の素粒子をやっているM1のヒゲのお兄さんと何やら話している。ヒゲのお兄さんは,フランダースの微分形式の理論を読んでいて,これはすごいというようなことをさかんにアピールしていた。当時からあまり勉強していなかった自分は,別にベクトル解析で十分だろうと聞き流していた。しかし,中島慧さんの共変解析力学の定式化の話を目にするにつれ,これはちょっと重要かもしれないと思い,死ぬまでには少しだけ理解したいと考えている。

この夏の学校には,東大有馬研の助手だった久保寺国晴さんが原子核パートの講師として招かれていた。自分たちの研究と関係があったCVCの話や,SCCの現状などを興味深く聞いた。ある日の午後は,講義のない休養日だった。野沢温泉村のプールには原子核素粒子高エネルギーの院生たちが涼を求めて集まっていた。飛び込みプールには10mの飛び込み台もあった。地元の高飛び込みの選手の指導の下,度胸試しで院生の何人かが低いほうから順にチャレンジしていたが,久保寺さんはみごとに10mの高さから足をそろえてきれいに鉛直方向に入水した。

2019年9月16日月曜日

天河大辨財天社

敬老の日の休日なので(実は連日休日なのだ),道の駅吉野路黒滝でおいしい蕎麦(深山そば)を売っているというので,ドライブに出かけたところ,道の駅は入場待ちの行列ができており,10分さきの天川村まで足を伸ばした。

まずは,大峰本宮の天河神社に向った。天河伝説殺人事件は読んだことも映画を見たこともないのだけれど,当時のCMのせいか印象に残っていたので,天河神社の存在はよく認識していた。ところが,妻はそれ何知らないという。そうではなくて,途中に案内があった,丹生川上神社のほうが圧倒的に有名だと主張する。自分はそれ何知らない状態である。調べてみると天河神社は郷社であり,丹生川上神社は旧官幣大社であった。あらら。しかも丹生川上神社の上社はダムに水没させたという。いいのか水神を守る神社にそんなことして。罰があたるぞ。

その後,天川村に1つしかない信号機の横のかどや食堂に入ってアマゴ塩焼き定食とアマゴ甘露煮定食(両方とも安くておいしい)を食べて,これまたすぐ向いの土産物屋の小路の駅「てん」でアマゴの甘露煮をお土産に買った。かどや食堂の亭主夫妻のイラスト入りである。なお,帰りによった道の駅黒滝の深山そばは,人気のため売り切れてしまっていた。



写真:天河神社(撮影 2019.9.16)


2019年9月15日日曜日

iPhone11によせて

石川県立小松高等学校出身の田端信太郎さんが,インターネット個人番組のタバラジで,iPhone11の話をしていた。そう,スマートフォンは完全にコモディティ化したということが再確認された2019年9月10日のApple Special Eventだったね,ということである。要点は,カメラ3つつけて何がうれしいの?2007年のあの感動はどこにいった。しかしそれがすべての製品の必然的運命。次のわくわくさんはなんだろう。以上が内容のまとめであり,1Tweetで表現できそうであるが,ほとんど同意なのだった。

2019年9月14日土曜日

関東大震災とジェノサイド

法被婆酢泥が迫る今日この頃。

東京オリンピック2020は,旭日旗を振り回すだけでなく,無意味なかき氷ばらまきまで行うことになりそうな始末。目も当てられない。毎年9月1日に東京で開かれている関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典に3年連続で追悼文を送らずして虐殺否定論者を支援している小池百合子東京都知事は,橋本聖子五輪担当相と口をそろえてオリンピックへの旭日旗の持ち込みを推奨している。

千葉の台風15号停電断水被害を見聞きするにつけ,あらためて関東大震災のときのことを学ばなければと痛感する。加藤直樹(鹿島拾市)の「九月,東京の路上で―1923年関東大震災 ジェノサイドの残響」は,外山恒一がどこかで書いていたからだろうか,買って読んだのだけれど,もうひとつピンと来なかった。

内閣府の防災情報のページには,「災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 平成18年7月1923 関東大震災」があるので,とりあえず,第4章 混乱による被害の拡大の「第1節 流言蜚語と都市」と「第2節 殺傷事件の発生」を読めとどこかにあったような気もしたが,これでは全く不十分なのだと思われる。2003年の日弁連の勧告書「資料 関東大震災人権救済申立事件調査報告書」なども。

[1]関東大震災時の朝鮮人虐殺について参考となる資料・書籍やサイト一覧

2019年9月13日金曜日

奈良公園バスターミナル

奈良公園バスターミナルは,奈良県庁前での観光バスの乗降にともなう交通渋滞を解消するために,奈良県が45億円をかけて県庁横の空き地を整備し,2019年4月13日にオープンした。パーク&ライドの仕組みとあわせて,奈良公園ゾーンへの観光バスやマイカー流入の抑制を図るという趣旨だったが,バスターミナルの利用が当初の予想の半分程度にとどまっている。

ということで,妻と早速現地調査に赴いた。確かにターミナルは混雑しておらず,市の中心部にたいへんここち良い空間が創出されていた。お店の数もかなり限定されていて,どちらかというとイベントや屋上から奈良の緑に触れるための公共施設といった趣ののんびりした奈良的雰囲気でいっぱいだった。あっ,平城宮跡歴史公園鍵・唐古遺跡史跡公園飛鳥歴史公園などもそうだが,この手のパターンの空間が奈良には多いわ。維新に牛耳られた大阪が公共空間である公園を潰しながら商業化を図っているベクトルとはあきらかに違う。

 

写真:奈良公園バスターミナル(2019.9.12撮影)

2019年9月12日木曜日

五劫院

五劫院は奈良市北御門町にある華厳宗の寺院。東大寺復興の勧進で有名な重源(1121-1206)が開山した。重要文化財の五劫思惟阿弥陀仏坐像が本尊となっている。今日は特別に拝観させていただいた。

この五劫思惟阿弥陀仏は螺髪が伸びるままにまかせ,アフロヘアーのようになっているのが特徴である。昔の笑福亭鶴瓶というか最近のチコちゃんというか。毎年夏に特別開帳されているが,それ以外のときは予約すれば見ることができる場合もある。

なお,形は東大寺傘下の華厳宗であるが,実質は阿弥陀仏をお祭りしている浄土宗だそうだ。法然の名前が行事予定にあった。


 

写真:五劫院(2019.9.12)

2019年9月11日水曜日

千葉県台風15号被害

首都圏でこれだけ大きな被害が発生しているが,官邸もマスコミも無視しているかのよう。情報はTwitterだけか。と思ったが,いちおう発信される情報がゼロというわけではなかった。

[1]内閣府:防災情報のページ
[2]国土交通省:災害・防災情報
[3]経済産業省:安全・安心カテゴリー
[4]総務省消防庁:災害情報
[5]千葉市:台風15号の影響による各種情報
[6]千葉県:防災ポータルサイト
[7]NHK:気象・災害ニュース千葉県災害関連情報(NHK少しがんばった)
追伸
[8]防災科学技術研究所:令和元年梅雨期・台風期クライシスレスポンス



2019年9月10日火曜日

盗まれた街

内閣改造のあまりのひどさと,お友達で何が悪いと堂々と開き直るNHKの岩田の話をきいていて,頭がくらくらしてきた。アベちゃんお気に入り極右日本会議統一教会オールスター悪夢内閣。萩生田・衛藤・江藤・高市・西村・小泉・菅原・武田・・・。

昨日のWOWOWの秋のサスペンス月間でやっていた「インべージョン」の原作はジャック・フィニィの「盗まれた街(The Body Snacher 2007)」だ。ハヤカワ・SF・シリーズ(銀背)のトップなので,名前は十分頭にしみ込んでいるが,未読だった。ニコール・キッドマンが主演で母と息子の物語に翻案され,なにやらスプラッター成分もみられる仕上がりだったので,原作の持っている静な恐怖(らしい)とはややかけ離れていたのかもしれない。なお,2007年公開なので,iPhoneはまだ登場していなかった。

この国ももう盗まれてしまっているのだろうか。

2019年9月9日月曜日

徴用工の定義をめぐって

今回の日韓問題の発端となる徴用工という用語の定義について。昨年11月の安倍首相の国会答弁それ自身が不正確な理解(事実誤認)に基づいている可能性があることを,東京大学総合文化研究科地域文化専攻研究の外村大教授が指摘している。他にも論点整理のための貴重な研究ノートがpdfで公開されている。

2018年11月13日 軍需会社法等で「徴用とみなす」ことについて
2018年11月10日 11月1日首相答弁への疑問―日本政府の戦時労務動員政策理解をめぐって
2018年11月10日 「徴用工」の用語は間違いか? 適切か?




2019年9月8日日曜日

OECD国際成人力調査

早川タダノリさんの『「日本スゴイ」のディストピア―戦時下自画自賛の系譜』ではないけれど,このところ,日本すごい番組が巷にあふれている。あるネトウヨの方が,大人の学力は日本が世界一だとおっしゃってて,本当かと思い調べてみた。

確かに,OECD国際成人力調査PIACC:ピアック)の結果が2013年に報告されていた。OECD加盟国等24か国・地域が参加し,16歳~65歳までの男女個人の「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」及び調査対象者の背景(年齢,性別,学歴,職歴など)を調査したものである。調査目的は,成人のスキルの社会経済への影響や,スキルの向上に対する教育訓練制度の効果などを検証し,各国における学校教育や職業訓練など人材育成政策の参考となる知見を得ることのようだ。

その結果,日本の順位は,読解力1位,数的思考力1位,ITを活用した問題解決能力10位であった。2021-2022年には第2サイクルの調査が始まる予定である。

一方,2004年度の科学技術白書では,科学技術基礎概念の理解度の国際比較調査の結果が示されていた。日本,米国やEUなど西欧の17カ国が対象であり,日本は13位であった。

2019年9月7日土曜日

日韓関係の悪化を招いた責任

外務省に25年勤め,東大教養学部に出向した後,日本大学法学部教授,明治学院大学国際学部教授,広島市立大学広島平和研究所所長などを歴任した浅井基文さんのブログ「21世紀の日本と国際社会」は貴重な論考の集まりだ。

2019年8月25日の記事「引きこもり国家」へと進む日本(ハンギョレ文章)が「世に倦む日々」で紹介され一部で話題になった。「今日の日韓関係の悪化を招いた責任は全的に安倍政権にあることについての私の理解をお話しします」ということで,明解に今の状況を分析している。一読の価値がある。

P. S.  田中宏和の「世に倦む日々」は毀誉褒貶も激しいのだけれど,ときどきは新鮮な切り口を見せてくれる。9月4日の「開戦と戦時」にはドキッとした。



2019年9月6日金曜日

徴用工判決をめぐって

2018年の11月5日に「元徴用工の韓国大法院判決に対する弁護士有志声明」が出されている。

その内容は,いたってシンプルであり納得できるものだ。
1 元徴用工問題の本質は人権問題である
2 日韓請求権協定により個人請求権は消滅していない
3 被害者個人の救済を重視する国際人権法の進展に沿った判決である
4 日韓両国が相互に非難しあうのではなく,本判決を機に根本的な解決を行うべきである

しかし,日本中の多くの人々は政府の説明(国どうしの約束は守らなければならない)のほうを支持しているようだ。

2019年9月5日木曜日

旭日旗舞う東京五輪

オリンピックや万博に血道をあげるよりも,東日本大震災・原発被害からの復興や急速に劣化しつつある生活・国土インフラ補修のほうがよほど重要だと思っていた。そのオリンピックの方は,招致汚職と猛暑の危険とボランティア搾取と大腸菌まみれの海と次々とケチがついてきたが,日本オリンピック委員会(JOC)の非公開を経由してとうとう旭日旗での応援を認めるというところにまで到達したようだ。

日韓関係の悪化のエピソードとしての旭日旗自衛艦の拒否問題は,今年の5月に外務省と防衛省によるプロパガンダ強化へとつながった。官僚たちはみごとに東アジアの歴史問題を「旭日旗の歴史」問題と,どうでもよい「旭日旗のデザイン」問題と,関係ない「満艦飾の定義」問題にすりかえた(防衛官僚の方がやや賢くない印象がある)。これらを背景として,どうしようもないJOCは新しい結論を導いたようだ。

FIFAのこれまでの経緯などからしても,オリンピック競技場への旭日旗の導入にこれっぽっちも賛成する根拠は出てこない。しかし,まじめな青少年諸君とその延長線上にあるマスコミの皆さんは外務省の説明をみて納得するものと想像される。

[1]2019.5.13,外務省 旭日旗
[2]2019.5.24,防衛省 自衛隊の旗と満艦飾について (自衛艦旗について
[3]2018.7.1,セネガル戦でまたも「旭日旗」。日本代表を応援するのに旭日旗を出すべきではないこれだけの理由
[4]2017.4.27,旭日旗はなぜサッカースタジアムで禁止なのか? 関係ない日本側の主張、知るべき国際ルール
[5]2013.7.30,なぜ韓国サポーターは政治的な横断幕を掲げ、旭日旗に反発するのか?
[6]FIFA Stadium Safety and Security Regulations 

2019年9月4日水曜日

ネイピア数と素数

天才数学少女?からの続き)

ネイピア数を10進法で表現し,小数点以下650桁までとったものから2.7を減じたものを整数とみなした数が素数になるという話について。なぜ,最初の2桁を除いたものなのだろうか。その他ではどうなるのだろうか。そこで,上の桁から順に取り除いて整数化したもののうちはじめて素数が現れる小数点以下桁数を探してみた。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
N[E, 20]
2.7182818284590452354

g1[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 2*10^(k + 1))]]
g2[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 27*10^k)]]
g3[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 271*10^(k - 1))]]
g4[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 2718*10^(k - 2))]]
g5[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 27182*10^(k - 3))]]
g6[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 271828*10^(k - 4))]]
g7[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 2718281*10^(k - 5))]]
g8[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 27182818*10^(k - 6))]]
g9[k_] :=
 PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 271828182*10^(k - 7))]]
g10[k_] :=
 PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 2718281828*10^(k - 8))]]
g11[k_] :=
 PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 27182818284*10^(k - 9))]]
g12[k_] :=
 PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 271828182845*10^(k - 10))]]
g13[k_] :=
 PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 2718281828459*10^(k - 11))]]

 {g1[1], g2[649], g3[26], g4[3], g5[25], g6[34], g7[18],  g8[7], g9[273], g10[44], g11[10], g12[16], g13[16]}

 {True, True, True, True, True, True, True, True, True, True, True, True, True}
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

最後の数字はgi[k]のテーブルを目の子で作って探した結果だけを書いたものであり,2桁の2.7を差し引いた場合が,他の場合に比べて際立っていることがわかる。が,それほど意味はない。

【付録】なお,素数定理とネイピア数には関係があるらしい。
f[n_] := Apply[LCM, Range[n]]^(1.0/n)
a = Table[f[i], {i, 1, 10000}]; b=Table[f[i],{i,1,100000}];
ListPlot[a]
ListPlot[b]



図 nまでの数の最小公倍数のn乗根の収束性


2019年9月3日火曜日

様々な反応

天才数学少女?からの続き)

SNSはすごいいきおいで情報を消費していく。それによって,様々なことがらが大きく拡大されたり変形されたりしていく。情報空間の幾何学が実感として必要になるゆえんだ。例えば,仙台の高校生が,いきなりアメリカ在住の日本人高校生になっていた。

昨日の記事についてはいくつかの反応に分かれる。
(1) フェイク説,(2) 懐疑説,(3) 倫理説,(4) 静観説,(5) 支援説,

すのうさんのブログの開始時期と記事日時の不整合にかみついた人もいた。本人は,2019年2月にbloggerからの移転ではじめますと書いてある。ただ,ブログビジネスと書いているところに引っかかるかもしれない。フェイク説のはっきりした根拠はまだ寄せられていない。

懐疑説の代表的なものは,数学デー運営の鯵坂もっちょさん。彼のブログであるアジマティックスはたいへん面白い話題でいっぱいだ。そこには2019年1月の記事「連分数展開について考えてたらやばい式が出てきてやばい」で例の√3や√45の連分数平方根の導出に到った経緯などが詳しく書かれている。これをパクられたのではないかと彼が想像してもおかしくはない。また,素数大富豪の記事があり,5桁程度の素数には熟達しているひとがいても違和感を感じないのかもしれない。

有力なブロガー(いや物理学者だ),野尻さん,田崎さんなどは,未成年に対するパトロネージの話を公開のSNSで行っていることに強く警告をうながしている。それはそのとおりなのだが。でも,すのうさんの衝撃はそれほど大きかったのだということかもしれない(また,1月からはMichigan State University へ移るので)。一方,仙台在住の小波さんや大隅さんは注意しながらも支援説に傾いているようにみえる。ここは千葉逸人さんのコメントをもらいたいところだ。

P. S.(09/05/2019)小波さんがきっかけとなって拡散したこの話題は,結局,9/5にすのうさんの休筆で幕を閉じることになった。フェイク説や懐疑説をみるに,本邦のデルクイを打つエネルギーの大きさと,貴重な情報の取り扱いの難しさをあらためて感じてしまう。


2019年9月2日月曜日

天才数学少女?

小波さんのフェイスブック経由で,東北の天才数学少女の話題が飛び込んできた。詳しくは,東北大学の材料科学高等研究所の数学連携グループ(ビールの千葉逸人さんが教授で在席)に所属している助教の高橋悠樹さんのブログ「すのうの部屋」の2019年7月のところにある。

ラマヌジャン(1887-1920)のように数が見える16歳の高校生だ。数学は得意でないが,数の不思議な関係を直感的に幻視する能力があるらしい。すのうさんが,週1回数学の勉強を指導しているときに,その能力に気付いたそうだ。例えば,5桁の素数で特定のパターンを持つものを指定したところ,5分くらい考えて10個の素数を示したが,後で確認するとそれは正しかったことが確認されたとのこと。

具体的には5桁で,上から2桁目が1,4桁目が3となるもののうち1桁目が1となるものを10個選び出したということである。Mathematicaで確認すると確かに正しいことがわかる。
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In[1]:=  a = Table[Prime[k], {k, 1335, 1439}]

Out[1]=  {10993, 11003, 11027, 11047, 11057, 11059, 11069, 11071, 11083, \
11087, 11093, 11113, 11117, 11119, 11131, 11149, 11159, 11161, 11171, \
11173, 11177, 11197, 11213, 11239, 11243, 11251, 11257, 11261, 11273, \
11279, 11287, 11299, 11311, 11317, 11321, 11329, 11351, 11353, 11369, \
11383, 11393, 11399, 11411, 11423, 11437, 11443, 11447, 11467, 11471, \
11483, 11489, 11491, 11497, 11503, 11519, 11527, 11549, 11551, 11579, \
11587, 11593, 11597, 11617, 11621, 11633, 11657, 11677, 11681, 11689, \
11699, 11701, 11717, 11719, 11731, 11743, 11777, 11779, 11783, 11789, \
11801, 11807, 11813, 11821, 11827, 11831, 11833, 11839, 11863, 11867, \
11887, 11897, 11903, 11909, 11923, 11927, 11933, 11939, 11941, 11953, \
11959, 11969, 11971, 11981, 11987, 12007}

In[2]:=  Select[a, Mod[Floor[#/10], 10] == 3 &]

Out[2]=  {11131, 11239, 11437, 11633, 11731, 11831, 11833, 11839, 11933, 11939}
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

さらに,ネイピア数から2.7を引いた数字の小数点以下650桁分を整数と見なしたときにこれが素数であることが,下記のFacebookの記事にみられた。なお,650桁未満のカットオフに対して素数はあらわれない。また次に素数となるのは小数点以下2650桁分である。
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In[3]:=  f[k_] := Do[m = Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 27*10^k)];Print[m]; Print[PrimeQ[m]], 1]

In[4]:= f[649]

 1828182845904523536028747135266249775724709369995957496696762772407663035354759457138217852516642742746639193200305992181741359662904357290033429526059563073813232862794349076323382988075319525101901157383418793070215408914993488416750924476146066808226480016847741185374234544243710753907774499206955170276183860626133138458300075204493382656029760673711320070932870912744374704723069697720931014169283681902551510865746377211125238978442505695369677078544996996794686445490598793163688923009879312773617821542499922957635148220826989519366803318252886939849646510582093923982948879332036250944311730123819706841614039701983767932068328237646480429

True
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

当該のブログではfakeでないかとのコメントもついているが,すのうさんの話が本当ならば,上記の素数列などはネットには上がってこない種類のものなので,彼女がそれらをネットから探し出して再現しているだけだという主張には根拠がないと思う。

素数を生成する式,それはそれこそ紀元前から現代に至るまで誰1人見つけることの出来ていないもので,だから,そんなものは存在するはずがないとずっと思っていましたが。
正真正銘の天才だと僕が信じる人が「あると確信している」と言っているので,恐らくあるのだろうと今は思っています。
「nのフィールド上にあると仮定した軸を持った螺旋にそれと正反対の回転と角度を持った螺旋を任意の(適当な?)CBRにそって回転させていって,それがハマれば当たり」
彼女がこれを我々凡人が理解できるように説明できるだけの数学の知識を得たとき,世界が震撼するかも知れません。

2019年9月1日日曜日

若槻先生と内山先生

原子核物理(実験)が専門の若槻哲雄先生が,阪大の学長になられたのは,自分が4回生のときだった。原子核物理に関係する授業というと,1回生の原子物理学は杉本健三先生で,3回生の原子核物理学は江尻宏康先生だった。若槻先生の授業があったのかどうかあまりはっきりしない。ただ,学長になられる前にクラスの数名と研究室に押し掛けて,当時の学内問題について意見をしにいったというのか聞きに行ったことがあり,たいへん丁寧に対応していただいた。

学長になられてからだったかどうか。理学部5階の大講義室で全学の学生が要求した集会が開かれて,そこで矢面に立たれたことがある。当時の阪大の諸問題のうちで何をめぐるものだったのかははっきり憶えていない。授業料値上反対闘争は,自分たちが入学した時点で収束しており,筑波大学設置をめぐる反「大学管理法案」闘争やそれに連動した言語文化部設置反対運動も2回生のときに収束している。あるいは,宮山寮廃止やその入退寮権をめぐる問題だったのだろうか。こちらの方はかなり長引いていた。

1960年代後半の大学闘争の大波は引いていたが,まだ学内には崩壊熱が残っている時代だった。その理学部での集会はヘルメット学生やゲバ棒は見られない,いたって穏健なものだったが,会場いっぱいに学生や教職員が集まり,学生からはきつい言葉が飛びかっていたと思う。内山先生を見たのはそのときが最初だった。体格のよい先生が若槻先生の演壇の脇に仁王のように立って学生を睥睨し,なにかあったら容赦しないぞという緊張感がただよっていたが,それでも会場の笑いをとっていたのが内山先生らしかった。

2019年8月31日土曜日

龍雄先生の冒険

昨日注文した「龍雄先生の冒険 回想の内山龍雄:一般ゲージ場理論の創始者(窮理舎)」が早速到着した。1994年に私家版として発行され,25年後に内山研究室ゆかりのひとたちが加筆してできた新版だ。

前半が「先生と犬印の缶づめ」というタイトルで,1-2ページ以内のエピソード80話から成り立っている。後半は「耳に残る先生の怒鳴り声」というタイトルで,内山先生の書かれたいくつかの文章(未完のものを含む)があり,最後に砂川重信先生の「さようなら内山先生」という追悼文がきている。

内山研の人々が著者なので,だいたいはお顔が浮かぶか,お名前を耳にしている。斉藤武先生には3回生の量子力学を講義していただいたし,その演習は今回,直接登場されていない国正東作さんだった。細谷暁夫先生は助手か講師の時代で,声をかけられたこともある。先輩の重本和泰さんは隣の研究室の先輩として存在感を発揮されていた。

内山先生には4回生の時の相対論と素粒子論の授業を担当していただいた。大学院に進学して,自分がD1からD2(1978-1979年度)のときに理学部長を務められ,1980年の3月に停年退官されている。M1のときの修士論文発表会では,内山研のH先輩に大きな雷が落ちるのを目撃していたので,今年はどうなるのかとびくびくものだった。しかし,ちょうど理学部長になる直前でお忙しかったのか,自分の発表のときにはたまたまいらっしゃらなかった。伊達宗行先生のやさしい進行で無事に発表は終了したが,よかったのかわるかったのか。

内山先生の大音声はときどき聞こえてきたが,直接お話した機会はごくわずかである。1つは,大学院入試の時で,内山先生,村岡先生のチームの部屋だったか。村岡先生の14Nのスピンと統計の話はちゃんと答えられたが,内山先生の質問はゲージ変換についてだった。電磁場中のシュレーディンガー方程式を書かせ,ゲージ変換でこの方程式がどうなるかを述べよというものだった。ゲージ不変だとは思ったけれども,示すことはできなかった。

もう1回は,附属図書館のアルバイトをしていたときの事件と関係がある。D1のときだったろうか。時間外窓口の担当と図書目録カードの整理が仕事で,週2日ほど夕方2Fのデスクにすわっていた。ある日,係長がトイレに落書きがあるので確認してきてほしいといった。差別問題にかかわるようなものだが,あまり強い印象はない。ただ,不思議だったのが,この落書きをあなたが発見したことにしてほしいといわれたことだ。実際には自分は第一発見者ではなかったが,事情がよく飲み込めずハイハイと返事してそのままにしておいた。1週間ほどしてから,森田先生が学生部屋に来て,内山先生がお呼びだという。なんだろうと思って,内山先生の教授室へ行くとその話だった。なんだかよくわからず狐につままれたようなことで,こちらもハイハイと返事して退室した。

いや,当時はこういう差別落書きが大きな学内問題に発展することは多々あったので,関係者が敏感になっていることは分かっていた。自分は学部生のときにいろいろ騒いでいたので,危ないと思われたのかもしれない。

2019年8月30日金曜日

内山先生の相対論

手元にある岩波全書の「相対性理論(内山龍雄)」は,1977年の出版である。自分がM2の年だ。同じ著者で裳華房の物理学選書の「一般相対性理論」は,1978年だからD1の年。理学部物理学科4回生で受講した内山先生の「相対論」は,特殊相対性理論がテーマだった。毎時間,熟練秘書の辻芳子さん(池田市にあった大教大の官舎近くにお住まいで,後に家族でハワイへ行ったときにもお世話になった)が,教卓にお茶を運んでくる。その後,内山先生がやおら登場してお茶を飲みながらノートなしで,黒板にさらさらと流れるようにゆっくり式を書きながら説明される。一点のよどみもない明確な論理で貫かれた名講義で,聞いているだけで相対論が完全に理解できたような錯覚が得られた。

さて,岩波全書の相対性理論であるが,序の最後で内山龍雄先生は次のように語っている。
たびたび述べるように,説明は平易でも,重要事項はほとんどもれなくとりあげてあるから,本書を読破したなら,相対性理論を理解したという自身をもってさしつかえない。本書は力学(変分原理を含む)と電磁気学の基礎知識さえあれば,必ず理解できる。もし本書を読んでも,これが理解できないようなら,もはや相対性理論を学ぶことはあきらめるべきであろう。
このフレーズは度々あちらこちらで取り上げられ話題になるが,内山先生の講義の受講者としては宜なるかなと思っていた。

しかし今回,これまで未読だった岩波全書後半の一般相対論の部分を読み始めて,この意見を撤回する。内山先生,ちょっと,これだけだと難しくないですか。たぶん「君の勉強不足だろう,わはは」で終了する。122pの接続係数 Γ の定義で,計量テンソルの g の微分は誤植された x でなく,u だと気付くのにしばらく悩み,130pの計量テンソルの性質のところでひっかかった。裳華房の一般相対性理論をみると,ちゃんと導出方法が書いてあったので,問題なく理解できたが,全書版だけこれを推理するのは自分には難しかった。

P. S. 本日は内山先生(1916.8.28-1990.8.30)の命日であり,龍雄先生の冒険(窮理舎)の発売日だった。

2019年8月29日木曜日

arXiv

arXivは,コーネル大学図書館が運用する物理科学や数理科学のプレプリントアーカイブである。1991年にLANLロスアラモス国立研究所の物理学分野のプレプリントサーバとして始まった。かつては京都大学基礎物理学研究所にもミラーサーバが置かれており,日本国内のユーザはそちらを利用するように誘導されていたが,2015年には廃止されてしまった。現在の対象分野は,Physics,Mathematics,Computer Science,Quantitative Biology,Quantitative Finence,Statistics,Electrical Engineering and Systems Science,Economics

プレプリントといえば,昔は,IBMの電動タイプライターで打った原稿をもって,大坪先生と一緒に理学部の1階にあるたいへん調子の悪い印刷機と格闘していたことを思い出すが,arXivが普及してきた頃には,もう物理(原子核理論)の研究からからはほどんど足を洗っていた。したがって,arXivとのつき合いは論文などをダウンロードして読むだけだ。

そのarXivに関連した話題が2つ。
(1)arXivとは関係ないが,Center for Open Science が運用する教育学分野のEdArXivができた。arXivに教育分野ができたのかと勘違いしていたが,それは間違いだった。
(2)arXivの行動規範,arXiv Code of Conduct が示された。フィードバックを募集中。
著者に関連するポリシーとして,モデレーションプライバシー投稿条件オーサーシップポリシーなどもある。

2019年8月28日水曜日

ニューヨーク公共図書館

平日に妻と行く映画シリーズその2。制限時間30分で,梅田スカイビルから中津まで走り,阪急宝塚線一駅のって十三の第七芸術劇場に向う。開演5分前に到着し,整理番号は56と57。平日このテーマにもかかわらず,結構お客さんが入っている。12:00から15:35の長丁場なので途中に休憩が入る。

さて,タイトルは「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス(Ex Libris: The NewYork Public Library)」で,フレデリック・ワイズマン監督の2017年米国ドキュメンタリー映画(205分)である。3時間を越えるドキュメンタリーってどんなものかと思ったが,妻の予想だったシックでクラシックな建物を中心とした紹介などではまったくなかった。

ニューヨーク公共図書館(NYPL NewYork Public Library 1895-)は,国,州,市などの行政が設置した図書館ではなく,カーネギーの寄付などをもとにした私立(だがパブリック)の図書館であり,ニューヨーク市からの公的資金と民間からの寄付によって運営される。マンハッタン,ブロンクス,スタテンアイランドに92の分館を設置し,5300万冊の図書・資料を所蔵し,年間350万人が利用している。クイーンズとブルックリンには運営が別組織である公共図書館がそれぞれにある。

映画は,レファレンスサービスでの電話のやりとりから始まったが,1つのエピソードが長い。しかもほとんどが言葉や対話の積み重ねだ。図書館のプログラムで社会的な問題についての話をする講師や,芸術的な対話の数々。黒人文化に関するショーンバーグ研究図書館も大きなテーマとして,黒人差別の問題と関って取り上げられていた。また,NYPLの運営にかかわる委員会での議論がたびたび登場する。全編の3割以上を占めていたのではないか。予算獲得の問題。インターネットアクセスの問題。図書館の教育機能にかかわる問題。ホームレスへの対応の問題。などなど,多様な問題についての議論の様子が克明に記録されている。日本のオリンピック委員会も見習ってほしい。

予想とは異なっていたが,とても楽しく3時間半を過ごすことができた。さまざまな病巣をかかえる国であるにしろ,民主主義の基本となる言葉がしっかりと生きている場所がある安心感。翻って,日本の政治家やマスコミやTV知識人の細切れで歴史を無視した表層的な議論の数々を対比させたとき,なんともいえない虚脱感に襲われる。

あるいは,大阪では,児童図書館や公共的な文化施設が破壊されただけでなく,公共交通,病院,公園,大学が次々とターゲットとなり,公共から営利への流れができている。そして,それを推進する政治勢力がマスコミによって擁護され,さらに多くの市民・住民の支持を得ていくという,公共性の喪失の危機が進行している。

この映画は,民主主義の本質を支える言葉(Speech)の映画だった。

2019年8月27日火曜日

ディリリとパリの時間旅行

平日に妻と行く映画シリーズその1。梅田スカイビルイーストタワー3Fのシネ・リーブルに「ディリリとパリの時間旅行(Dilili a Paris)」を観に行った。日本経済新聞の文化欄か映画欄で紹介されていておもしろそうだったので。フランスアニメーションのミッシェル・オスロ監督による,2018年フランス・ベルギー・ドイツ合作の94分のアニメーション。

紙兎ロペ風の,平面的で対称的な構図を中心としたリアルなデザインと色彩の作品。パリ市街や室内装飾などの一部は実写写真を加工したものが使われている。19世紀末から20世紀初頭までのベル・エポック時代のパリの著名人,マリー・キュリーと娘たち,パスツールエッフェルツェッペリン,印象派の画家達,ルソーピカソロートレック(背が低かったのか),サティドビュッシーサラ・ベルナールエマ・カルヴェなどが登場する。

ストーリーは,ニューカレドニアから密航し,パリ万博の見せ物を演じつつ庇護者の下でしっかりしたフランスの教育を受けている,混血の少女ディリリが主人公だ。物語の発端から突如登場する副主人公の三輪車乗りの青年オレルとともにパリの観光スポットをめぐる冒険が始まる。パリの少女を狙った連続誘拐事件は,男性支配団(非常にストレートな女性差別構造の表現だ)のしわざであり,警視総監などパリ警察のトップもこれにつながっている。権力の腐敗,パリの貧困や差別構造にも目配りされている。

誘拐され,男性支配団によって四つ足椅子(江戸川乱歩を彷彿とさせる)にされていた少女たちを,ディリリと仲間たちがツェッペリンの飛行船で救出し,最後は大団円で終わる。


2019年8月26日月曜日

物理学会支部活動

佐々真一さんからメールが来て,なんだろうと思ったら,日本物理学会の京都支部総会の案内だった。なぜ,京都支部?これまでは,大阪教育大学の所属だったので,大阪支部に所属していたのだろうと思う。この3月に定年退職したので,大学との紐付けが切れて自宅住所との関係から連絡が来たということかもしれないが,支部活動には関与したことがないので,そのあたりの事情はよくわからない。なお,日本物理教育学会の近畿支部としては,日本物理学会の大阪支部とはいろいろ関係があった。

そこで,日本物理学会のホームページで支部活動がどうなっているかみた。やはり奈良県は,京都府や滋賀県と並んで京都支部のテリトリーである。大阪支部のテリトリーは,大阪府,兵庫県,和歌山県。名古屋支部は,愛知県,岐阜県,三重県。北陸支部は,福井県,石川県,富山県。新潟支部は新潟県単独で,これは,日本物理教育学会とおなじ構造になっている。なお,そこでは,京都支部+大阪支部の範囲が,近畿支部と定義されている。東京を中心とする巨大な範囲が支部ではなく本部直轄地の様相を呈していた。これも日本物理教育学会の構造に近いものがある。

さらに,支部に関する規程をみた。支部を構成する会員の条件は,各支部の支部規約で定義されることになっていた。なるほど。ところが,京都支部も大阪支部も支部規約がウェブでみられないのだった。うーん・・・。

支部には重複して所属することもできるのだろうか?本部から配分される支部の運営費用はどうやって算出しているのだろうか。などなど,謎は尽きない。

2019年8月25日日曜日

河野談話


1993年の宮澤内閣の内閣官房長官,河野洋平の談話の方が村山談話より先であった。

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慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話

平成5年8月4日

     いわゆる従軍慰安婦問題については,政府は,一昨年12月より,調査を進めて来たが,今般その結果がまとまったので発表することとした。
     今次調査の結果,長期に,かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され,数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は,当時の軍当局の要請により設営されたものであり,慰安所の設置,管理及び慰安婦の移送については,旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については,軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったがその場合も,甘言,強圧による等,本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり,更に,官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また,慰安所における生活は,強制的な状況の下での痛ましいものであった。
     なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については,日本を別とすれば,朝鮮半島が大きな比重を占めていたが,当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり,その募集,移送,管理等も,甘言,強圧による等,総じて本人たちの意思に反して行われた。
     いずれにしても,本件は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は,この機会に,改めて,その出身地のいかんを問わず,いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。また,そのような気持ちを我が国としてどのように表すかということについては、有識者のご意見なども徴しつつ,今後とも真剣に検討すべきものと考える。
     われわれはこのような歴史の真実を回避することなく,むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは,歴史研究,歴史教育を通じて,このような問題を永く記憶にとどめ,同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。
     なお,本問題については,本邦において訴訟が提起されており,また,国際的にも関心が寄せられており,政府としても,今後とも,民間の研究を含め,十分に関心を払って参りたい。
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2019年8月24日土曜日

村山談話

日韓関係を考える上での原則的立場の一つ。1995年の村山富市首相の談話。

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村山内閣総理大臣談話

「戦後50周年の終戦記念日にあたって」
平成7年8月15日

 先の大戦が終わりを告げてから,50年の歳月が流れました。今,あらためて,あの戦争によって犠牲となられた内外の多くの人々に思いを馳せるとき,万感胸に迫るものがあります。
 敗戦後,日本は,あの焼け野原から,幾多の困難を乗りこえて,今日の平和と繁栄を築いてまいりました。このことは私たちの誇りであり,そのために注がれた国民の皆様1人1人の英知とたゆみない努力に,私は心から敬意の念を表わすものであります。ここに至るまで,米国をはじめ,世界の国々から寄せられた支援と協力に対し,あらためて深甚な謝意を表明いたします。また,アジア太平洋近隣諸国,米国,さらには欧州諸国との間に今日のような友好関係を築き上げるに至ったことを,心から喜びたいと思います。
 平和で豊かな日本となった今日,私たちはややもすればこの平和の尊さ,有難さを忘れがちになります。私たちは過去のあやまちを2度と繰り返すことのないよう,戦争の悲惨さを若い世代に語り伝えていかなければなりません。とくに近隣諸国の人々と手を携えて,アジア太平洋地域ひいては世界の平和を確かなものとしていくためには,なによりも,これらの諸国との間に深い理解と信頼にもとづいた関係を培っていくことが不可欠と考えます。政府は,この考えにもとづき,特に近現代における日本と近隣アジア諸国との関係にかかわる歴史研究を支援し,各国との交流の飛躍的な拡大をはかるために,この2つを柱とした平和友好交流事業を展開しております。また,現在取り組んでいる戦後処理問題についても,わが国とこれらの国々との信頼関係を一層強化するため,私は,ひき続き誠実に対応してまいります。
 いま,戦後50周年の節目に当たり,われわれが銘記すべきことは,来し方を訪ねて歴史の教訓に学び,未来を望んで,人類社会の平和と繁栄への道を誤らないことであります。
 わが国は,遠くない過去の一時期,国策を誤り,戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ,植民地支配と侵略によって,多くの国々,とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は,未来に誤ち無からしめんとするが故に,疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め,ここにあらためて痛切な反省の意を表し,心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また,この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。
 敗戦の日から50周年を迎えた今日,わが国は,深い反省に立ち,独善的なナショナリズムを排し,責任ある国際社会の一員として国際協調を促進し,それを通じて,平和の理念と民主主義とを押し広めていかなければなりません。同時に,わが国は,唯一の被爆国としての体験を踏まえて,核兵器の究極の廃絶を目指し,核不拡散体制の強化など,国際的な軍縮を積極的に推進していくことが肝要であります。これこそ,過去に対するつぐないとなり,犠牲となられた方々の御霊を鎮めるゆえんとなると,私は信じております。
 「杖るは信に如くは莫し」と申します。この記念すべき時に当たり,信義を施政の根幹とすることを内外に表明し,私の誓いの言葉といたします。
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あれから24年,遥か遠くまで来てしまった。御霊という言葉がここで1回使われている。

2019年8月23日金曜日

星稜高校

星稜高校といえば,中学3年の同級生の筒井君を思い出す。高校受験を控えて不安な気持ちがクラスに充満したとき,2人でギャグ漫画を書き始めた。カエルが主人公のくだらないギャグで満ちたノートだったが,彼が主に絵を描いていた。それを見て自分たちで笑い転げるというなんだかわからない日々が続いたが,受験前にはもう少し落ち着いて勉強に取り組むべきだった。で,かれは公立の普通高校の受験に失敗して星稜高校に進学した。

星稜高校は当時の金沢経済大学と同じ稲置学園の経営だったが,このあたりは複雑なことになっているようだ。金沢の代表的な私立高校だったが,当時はまだ野球部もそれほど有名でなく,大学への進学コースも充実してはいなかったので,今は様変わりしている。

筒井君は中学卒業のころに金沢市内から宇ノ気町に引っ越してしまった。一度だけ手紙をもらったので,自転車でその住所まで尋ねたことがあったが(それは高校時代のことだろうか),家にはたどり着かなかったような気もする。

その星稜高校の野球といえば,次の記憶がある。
1976年 夏の甲子園2回目の出場でベスト4,小松辰雄がすごかった(このときは友達と夏の信州合宿にきており,ラジオでニュースをききながら応援していた)。
1979年 夏の甲子園で和歌山の箕島高校と延長18回の大熱戦,大学から帰ってテレビをつけるとちょうどいいところで,そのまま釘付けになって応援していた。
1995年 夏の甲子園で帝京に2−1で破れて準優勝。このときの印象はない。
2019年 夏の甲子園で履正社に5−3で破れて準優勝。決勝戦はテレビでみていたが,疲れがでていたのか,攻めや守りの精度がやや足りなかった。いくつかの盗走塁失敗で,せっかくのヒットが無駄になっていた。それでも履正社を相手に良く頑張ったと思う。


2019年8月22日木曜日

multiplicative persistence

しばらく前,TwitterでUniversity of WashingtonのKeiko Toriiさんの12歳の娘さん(gifted class)の算数の自由課題が話題になっていた。任意の自然数の各桁の積を計算して新たな自然数を求める。答えの自然数に対してさらにこの計算を反復しする。これを繰り返すと最後には1桁の自然数が得られる。1桁の自然数に到達するまでの反復回数がなるべく大きくなるもとの自然数を探せというのが賞品付きの課題だ。8th grade にも関らず,pythonでプログラムを組んで反復数11の数を見つけたとのこと。

飛び級小学生(=中学生相当)には負けてられませんと,Brute Forceで計算してみた。残念ながら時間ばかりかかって反復数が10にしかとどかなかず老人は小学生に完敗だ。調べてみると,Persistence of a NumberというWikipediaの項目が見つかった。日本語版はない。自然数に一定のアルゴリズムでの操作を行って不変になるものを探すという問題群らしい。OEIS(On Line Encyclopedia of Integer Sequences )A003001 にもある。

さらに調べると,Rubyで効率的な探索をしている人がいたので,この方法を Juliaにあてはめてみた。考え方としては,2と3と7のベキからなる数の集合から,反復数が最も大きいものを探し,その数を構成する因子の2と3と7の数字が並んだ数が,反復数+1の数を与えるというものだ。反復回数11回の数が2つ見つかった。

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function pcount(n::Int128)
  local m::Int128
  println(n)
  c = 0
  while n >= 10
    m = 1
    while n>0 && m>0
      m *= n%10
      n ÷= 10
    end
    n = m
    c += 1
    println(n)
  end
end

function count(n::Int128)
  local m::Int128
  c = 0
  while n >= 10
    m = 1
    while n>0 && m>0
      m *= n%10
      n ÷= 10
    end
    n = m
    c += 1
  end
  return c
end

function search(n2,n3,n7)
  local n,m3,m7::Int128
  d = (0,0,0,0,0)
  max = 0
  for k in 1:n7
    m7 = 7^k
    for j in 1:n3
      m3 = 3^j
      for i in 1:n2
        n = 2^i*m3*m7
        c = count(n)
        if c > max
          d = (i,j,k,c,n)
          max = c
        end
      end
    end
  end
  println(d)
  return d
end

function next(p)
  s="23789"
  m=[0,0,0,0,0]
  m[1]=p[1]%3
  m[2]=p[2]%2
  m[3]=p[3]
  m[4]=p[1]÷3
  m[5]=p[2]÷2
  c=""
  for i in 1:5
    for j in 1:m[i]
      c=c*s[i]
    end
  end
  return parse(Int128,c)
end

a=search(20,10,10)
pcount(next(a))
b=search(10,20,10)
pcount(next(b))
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
(19, 4, 6, 10, 4996238671872)
277777788888899
4996238671872
438939648
4478976
338688
27648
2688
768
336
54
20
0
(4, 20, 5, 10, 937638166841712)
27777789999999999
937638166841712
438939648
4478976
338688
27648
2688
768
336
54
20
0


2019年8月21日水曜日

運転免許証の更新

昨日,66歳の誕生日を前に,豪雨の田原本地区を通過して雨の降っていない奈良県橿原市新ノ口の運転免許センターに免許証の更新に向った。思わず免許状更新講習と書いてしまいそうでこわい。午前中の受付時間は8:30〜9:30だがちょうど8:30に到着。雨模様だったので更新にくる人は少ないかと思っていたがそうでもなく,いつもと同じようだった。

違っていたのは受付と手続きのフローだ。これまでの数回の更新ではなかなかもっちゃりしていたが,今回かなり改善されていた。最初に並ぶ列が,70歳以上(高齢者講習が必要)と69歳以下の2つに分かれている。列の先の端末機に免許証を入れると,暗証番号を発券する。高齢者列は難渋していて,待ちきれない別の人が係の人を呼び出していた。ゲットした暗証番号を窓口に提示するために待っていると,受付順に申請書類が速やかに印刷されており,すぐ名前がよばれた。記入事項はあらかた印刷されており,電話番号を記入するだけだ。申請書と同時に体調チェックアンケートを渡され,記入して1番に向うよう指示される。

1番窓口。証紙発行窓口に1列に並ぶよう誘導される。窓口は6箇所あり,スムーズに列は進む。かつてはこの窓口に手書きの申請書を持って並列で窓口開始前から長時間並んでいたのだったが,かなり改善された。証紙代金の3,000円を払い込むと既に貼り付けも完了しているので,名前と生年月日を書いて2番に進めと指示される。

2番窓口。ここは視力検査だが,列に並ぶ前で書類に不備がないか簡単にチェックされて,やはり1列に並ぶ。なお,証紙をはった紙は色分けされていて,自分は優良講習のピンクだった。次回は70歳以上なのだがどうなるのだろう。検査機は2台だが,列も淡々と進む。視力検査は眼鏡ありでOKだった。眼鏡がないと小さいランドルト環は見えない。

3番窓口。ここでも列に並ぶ前に必要書類があるかを確認する係員が立っている。このように要所要所に人がいて,流れを円滑にしている。大変結構ですね。3番窓口では,免許証の申請書類の内容をデータベースに入力して次の関門に進むための書類と免許証だけが返ってくる。

5番窓口。4番がないのは,縁起担ぎか。いよいよ写真撮影だ。ここもかつてより円滑に流れているような気がする。書類と免許証を渡し,2台のうちの左側で撮影すると受領番号札パウチがもらえた。これも色分けされていて,優良講習は2Fの講習室に進めと指示された。問題が1つ。写真を撮るとき頭が少し右に傾く癖がある。それを指摘されて修正する過程で気が緩んでにやけてしまったのが失敗。今後5年間は,このニヤケタ免許証とつき合わなければならない。いつもの逮捕された犯人顔ではないのでよしとしよう。ここまでで,最初から30分経過している。

2F講習室。20分ほど待って,30分の講習が始まる。いよいよ自動運転時代を前にして,両手でハンドルを持ってしっかり操作してください,他の車とコミュニケーションしてくださいという,非常に本質的な注意を受ける。夜間はハイビームがデフォルトで,対向車があればこまめにロービームに変えて下さいということだった。もちろん,話題のあおり運転の話もあった。

次回は71歳の2024年です。




2019年8月19日月曜日

加藤恭子と田島道治

NHK特集の昭和天皇(1901-1989)に関するテーマは,夜7:00のニュースにまであふれ出して,国民に何らかの変化をもたらせようとしている。8月17日に放映された,NHKスペシャル「昭和天皇は何を語ったのか −初公開・秘録拝謁記」である。初代宮内庁長官を務めた田島道治(1885-1968)の昭和天皇とのやりとりを記録した手帳やノートが発見されたということで,昭和天皇のこれまで伝えられなかった考えを伺い知ることができる。

これに対してさっそく,昭和天皇と田島道治のことは既に知られていたとのコメントがあった。その内容は,フランス文学者で伝記著者である,加藤恭子(1929-)が不思議な因縁で田島家から受け取った資料の一部によって知られ,書籍としても出版されていた内容だということである。具体的には「近現代日本の政策史料収集と情報公開調査を踏まえた政策史研究の再構築」という科研費の報告書にある2003年の講演記録から分かる。

ただ,フランス文学者の加藤恭子は「田島メモ」を直接見てはおらず,それがゆえに,歴史学者である茶園義男(1925-)からその推論(天皇の謝罪詔書の草稿の位置づけ)を強く否定されていた。しかし,今回NHKが報道した田島メモが本当ならば,茶園のほうが誤っていたということなのだろう。

天皇の戦争責任と憲法改定と再軍備をめぐるいくつかの重層的なテーマが含まれており,NHKがこれを報じたのが,どのような意図のもとでなのか,あるいは安倍政権がどうやってこれを改憲スケジュールに編み込んでいくのか,不安で不確実な暗雲がただよっている。

そうこうしているうちにも,れいわ⊗韓国⊗あいちトリエンナーレ⊗N国をめがけて,杉田水脈,橋下徹,東国原英夫らが続々と右からの工作に励んでおり,マスコミは反韓国で一色の報道。それにしても,金正恩があれほど文在寅に対して敵意を表明するのはなぜなのだろうか。板門店でのトランプ+金正恩+文在寅(あるいは最初の段階の会談)からどうしてこんなに遠くに来てしまったのだろうか,どんな理や利があるのかよくわからない。

2019年8月18日日曜日

ひろしま

NHKが深夜に映画「ひろしま」を放送していた。日教組が関川秀雄の監督で製作し,1953年8月に完成しているので,誕生してからちょうど自分の年齢と同じだけの時を経ている。はっきりしたストーリーはなく,岡田英次と広島出身の月丘夢路が主人公かと思っていたら,そうでもなかった。様々なエピソードの積み重ねで原爆投下前後の悲惨な状況をリアルに描写しているが,現実の重みがそれらのエピソードを支えている。また,原爆投下後8年目に,地元広島市民の協力の下に製作されており,監督の視点ではなく市民や被爆者の呻きのような空気も感じられる。

広島大学の教育学者である長田新が原爆を体験した子どもたちの作文を編集した文集「原爆の子」がもととなっている。当初は,日教組が新藤兼人を監督として製作を進めるはずだったが,両者は意見があわなかった。新藤兼人は「ひろしま」とは別に「原爆の子」という映画を乙羽信子主演で製作し,1952年8月6日に公開した。こちらのほうは見たことがない

1953年9月には,国際物理学会が日本(東京・京都)で開催されている。海外からはノーベル賞学者17名を含む55名が参加しているが,そのうち8名がこの映画を見ているらしい。いつ誰が観たのかについての情報はみつからなかった。映画には仁科芳雄博士が原子爆弾であることを確認した話と,原爆であることを秘匿しようとする軍部とのやりとりが出てくる。

2019年8月17日土曜日

(夏休み7)

にんけんハあざないものであるからに
すゑのみちすじさらにわからん
(おふでさき通訳 芹澤茂 より)

2019年8月16日金曜日

(夏休み6)

どろうみのなかよりしゆごふをしへかけ
 それがたん〻さかんなるぞや 
(おふでさき通訳 芹澤茂 より)

2019年8月15日木曜日

(夏休み5)

 ほそみちをだん〻こせばをふみちや
これがたしかなほんみちである
(おふでさき通訳 芹澤茂 より)

大東亜戦争終結の詔書(裕仁)
3.1独立運動100年光復節記念演説(文在寅)

2019年8月14日水曜日

(夏休み4)

一れつにあしきとゆうてないけれど
一寸のほこりがついたゆへなり
(おふでさき通訳 芹澤茂 より)


2019年8月13日火曜日

(夏休み3)

よろずよにせかいのところみハたせど
あしきものハさらにないぞや
(おふでさき通訳 芹澤茂 より)


2019年8月12日月曜日

(夏休み2)

よろずよのせかいぢふうをみハたせバ
みちのしだいもいろ〻にある
(おふでさき通訳 芹澤茂 より)

2019年8月11日日曜日

(夏休み1)

このよふハりいでせめたるせかいなり
(おふでさき通訳 芹澤茂 より)

2019年8月10日土曜日

原発危機と「東大話法」:安富歩

(「安富歩さん」からの続き)

この本を買ったのはいつのことだったろうか。長いこと積ん読状態だったけれど,安富さんのれいわ新選組の参議院選比例区候補としての演説を聞いているうちに再読しようという気になった。

典型的な東大話法者として,池田信夫があげられている。彼は,福島第一原発災害の後,一瞬だけ正気になったブログ記事を書いたことがあったが,その後は安定の新自由主義反動路線の人で,安富をボロクソにけなしている。「京都生まれで東大卒で新左翼崩れでNHKで青木昌彦の下でドクターをとるとこんな結末を迎えるのか」という差別的な言辞を吐きたくさせる方である。

話がそれた。ブログ記事を再編集したものが中心になっているので,とりたてて新鮮な感想は持たなかったが,第4章の「役」と「立場」の日本社会というのは,自分もその考え方にどっぷりと染まっていたので,よくわかった。また,第5章の槌田敦のエントロピー論に立脚した議論も素直に納得できるものだ。

安富歩は,既存の学の枠組みに束縛されず自由に考えることができる希有の人だと思う。2011年の3月に発行された(たぶん東日本大震災以前の対談)京都大学大学院人間・環境科学研究科の雑誌人環フォーラムNo.28に,「<対談>生きるための経済学:安冨歩,間宮陽介, 司会 阪上雅昭」という記事が掲載されている。阪上君は阪大理学研究科で,森田研のとなりの内山研で3〜4学年下の院生だったが,その後,福井大学教育学部を経て京大人間・環境科学研究科の教授となっている。安富さんとは親しいようだった。

この対談では,間宮陽介が典型的な東大話法型の人間であることが透けてみえる。間宮は岩波文庫でケインズの「雇用・利子および貨幣の一般理論」を翻訳しているが,山形浩生経済のトリセツボロクソに叩かれていた(まあ,山形のことなので,どこまで真剣に受け止めるべきかは留保したほうがよいのかもしれない)。間宮は物知りで引出をたくさん持っている人であり,安富の考えを正面から受け止めず,既存の知識で斜めにバンバン打ち返していた。その点,阪上君は安富さんを理解した上で対応している。

この続編が,「幻影からの脱出−原発危機と東大話法を越えて(明石書店,2012)」であり,上西充子さんの「呪いの言葉の解き方(晶文社,2019)」にも続いている。

2019年8月9日金曜日

中田敦彦のYouTube大学

ヨビノリが話題になっていると思っていたら,オリエンタルラジオ中田敦彦YouTube大学の話が飛んできた。チャンネル登録者は65万人を越え(277位),動画再生数は3700万回に達している。2019年4月から青山学院大学経営学部の客員講師に就任して,「エンターテインメントビジネス実践経営学」を担当するともに,教育系YouTuberとして,日本史,世界史,経済,政治,文学,などをテーマとした番組を配信している。タイトルは次のようなものであり,わりといい感じ。
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【政治】なぜ増え続ける?「消費税増税」〜裏に隠された歴史編〜①
25万 回視聴
【政治】消費税増税は本当に必要なのか!?〜不都合な真実編〜②
22万 回視聴
【政治】まだ解決していない「原発問題」〜原発の歴史編〜①
17万 回視聴
【政治】国家や大企業の利権が絡む「原発問題」〜真相追求編〜②
12万 回視聴
【政治】憲法改正問題を中田がわかりやすく解説!〜基礎知識編〜①
20万 回視聴
【政治】憲法改正問題(第9条)の本質に中田が切り込む!〜核心編〜②
19万 回視聴
【政治】投票に行かないと損する!?「選挙〜入門編〜①」
27万 回視聴
【政治】国家予算100兆円の使い道は!?「選挙〜入門編〜②」
17万 回視聴
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中田敦彦は,茂木健一郎の発言をめぐる議論で,松本人志を批判し,吉本興業から圧力が加わったとの話があった。中央や地方の政権との癒着でポストTV時代の延命を目指しているよしもとが差別の温床になっていることを考えると,中田敦彦には頑張ってもらいたい。が,一方でヨビノリや中田敦彦のYouTube大学の隆盛がはらむ危険性も少し感じる。ポピュリズムであるにしても,山本太郎のようなはっきりとした原理が必要なのだろうと思う。

追伸:結局中田敦彦のそれはチャンネル登録から外してしまった。

2019年8月8日木曜日

ヨビノリ(1)

ヨビノリは,予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」というYouTubeのチャンネルである。教育系ユーチューバのヨビノリたくみ(松本拓巳)さんが運営している。予備校講師の経験をもとに,大学院生であった2017年からYouTubeを用いたアウトリーチ活動として始め,2018年に大学院(あの沙川研だ)を中退してYouTuberとして専念しているらしい。

大阪教育大学で担当していた「科学のための数学」は,理科教育専攻の1回生を対象とした専攻専門の選択科目であり,60名程が受講している。大教大理科の個別学力検査では,数Ⅲが必須ではなく,理科の教員を目指すといっても,小学校,中学校,高等学校と幅広いスペクトルの学生が集まっていることから,数学の基礎知識や基本技能には大きな開きがある。

そこで,この授業は,微分積分入門(初等関数,関数の極限,微分法,積分法,偏微分,重積分)ということで,数Ⅲ+αの内容をカバーしている。高校時代の数Ⅲが未習の学生にはハードルが高く,既習の学生には物足りないという絶妙の内容で毎年苦労していた。

一昨年のある日,この授業の受講生が研究室に「先生,ヨビノリって知ってますか」といってきた。ウェブ上の様々な学習コンテンツは,ある程度リサーチしていたので,「知ってるけど」と答えると,「来年度から是非これを授業に取り入れたらどうでしょう」との提案があった。学習進度がまちまちなので,反転学習の教材として使えるかもしれなかったのだが,定年1年前でちょっと元気が足りなくて断念した。

2019年8月7日水曜日

戦時性暴力の問題(1)

サイゾーウーマン というのはウェブ版の女性週刊誌のようなものなのかな?
特集「慰安婦問題」を考える第1回として,「今さら聞けない「慰安婦」問題の基本を研究者に聞く――なぜ何度も「謝罪」しているのに火種となるのか」が取り上げられていた。
関東学院大学教授の林博史先生のたいへんていねいな解説である。いわゆる「慰安婦」問題は,日本における最近のすべての民族・歴史・性差別・表現問題の中心点だと思われる。

一番の戦犯は小林よしのりだろうか。そして,中川昭一と安倍晋三とNHKだ。安倍に重用される極右女性議員たちと安倍を支える日本会議とその周辺の文化人。橋下徹と維新グループや大都市の首長たち。気づかないふりでスルーを決め込むどころか,反韓気分の火に油を注ぐ勢いのマスメディア。それによって燃え上がるネトウヨ工作員。信じ込む高齢者たち小人閑居して不善をなす。

戦時性暴力の問題(2)に続く)

2019年8月6日火曜日

原爆のイメージ

小学校5年か6年のころに,教室にアサヒグラフ(だったのか?)の原爆写真がやってきたことがあった。先生が持ってきたのか,教室の誰かが持ってきたのかははっきり憶えていないが,一面に焼けただれた市街地の白黒のあらいホワイトノイズのようなイメージがぼんやりした恐怖とともに鮮明に印象づけられた。このとき被爆者の写真があったのかはよくわからない。

中学生になったころか,近所の会館で原爆資料映像の公開があって見に行った。たしか,社会党の市会議員か県会議員の方がお世話していたものだったと思う。その後,NHKでも同様の映像がはじめてテレビで放映されることになり,家族でみいった記憶がある。

広島平和記念資料館をはじめて訪れたのは,大学2年の夏休みのちょうど原爆記念日を前後するころだった。友達と巡った山陽・山陰・北陸の旅の途中に広島に立ち寄った。資料館の展示物の印象は強烈で声も出なかった。平和記念公園では中核派などのデモがあり,我々はそれを横目で見ながら,夕方の灯籠流しまで広島にとどまり,それから夜行で島根・鳥取に向った。

[1]原爆映像の経緯(日映映像)



2019年8月5日月曜日

表現の自由

日本国憲法

第二十一条 集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する。
○2 検閲は,これをしてはならない。通信の秘密は,これを侵してはならない。
日本国憲法の下でも,表現行為が他者とのかかわりを前提としたものである以上,表現の自由には他人の利益や権利との関係で一定の内在的な制約が存在する。内在的制約とは,第一には人権の行使は他人の生命や健康を害するような態様や方法によるものでないこと,第二には人権の行使は他人の人間としての尊厳を傷つけるものであってはならないことを意味する。 (Wikipedia 日本語版「表現の自由」より)


2019年8月4日日曜日

あいちトリエンナーレ

あいちトリエンナーレ2019は,愛知県で開催される現代美術の国際芸術祭である。2010年から3年おきに開催されており,今回が4回目になる。芸術監督はツダるでおなじみの津田大介。2015年1月18日〜2月1日に東京練馬のギャラリー古藤で「表現の不自由展」という企画が開催された。これまで,組織的な検閲や忖度によって展示を拒否あるいは撤回された作品を集めたもので,澤地久枝さんのトークなどもあった。

あいちトリエンナーレ2019では,この「表現の不自由展」の続きとして,「表現の不自由展・その後」が企画された。慰安婦問題を契機とする少女像,昭和天皇の肖像を燃やす映像,安倍政権への警鐘を掲げるかまくら等を展示していた。これに対して抗議や脅迫が殺到するとともに,松井大阪市長に教唆された河村名古屋市長や,菅官房長官の企画に対する否定的発言が,抗議・脅迫側を支持して煽っために,企画は8月3日に中止に追い込まれてしまった

日本には,安倍政権の中核に存在する極右的(含むネトウヨ)な見解に反対する表現の自由(特に戦時の性暴力や徴用や虐殺等に関して)の余地が極めて乏しいことが改めてはっきりと可視化されてしまった。また,それを補完するように,脅迫側の存在や警察による不対応を所与の前提として出典企画側の非をとなえる江川紹子のような言論が幅をきかせている。表現の自由をあからさまに攻撃することはまずいと考える手合は,一定の集団に不快を催す企画を公金でまかなうことについて異を唱えるという作戦に出ている。

なお,表現の自由は無制限・無限定に認められるとは考えない。生存に関る人権と抵触する場合は認められるべきではないと思う。つまり,国際人権規約の次の条項が議論の出発点になるということ。その上で今回の抗議・脅迫・弾圧側にはなんの理も認められない。

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自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約 B規約)

第十九条
1 すべての者は,干渉されることなく意見を持つ権利を有する。
2 すべての者は,表現の自由についての権利を有する。この権利には,口頭,手書き若しくは印刷,芸術の形態又は自ら選択する他の方法により,国境とのかかわりなく,あらゆる種類の情報及び考えを求め,受け及び伝える自由を含む。
3 2の権利の行使には、特別の義務及び責任を伴う。したがって,この権利の行使については,一定の制限を課すことができる。ただし,その制限は,法律によって定められ,かつ,次の目的のために必要とされるものに限る。
(a) 他の者の権利又は信用の尊重
(b) 国の安全,公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護

第二十条
1 戦争のためのいかなる宣伝も,法律で禁止する。
2 差別,敵意又は暴力の扇動となる国民的,人種的又は宗教的憎悪の唱道は,法律で禁止する。

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[1]自由権規約委員会 一般的意見34(仮訳)(日本弁護士連合会)
[2]あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」をめぐって起きたこと−事実関係と論点の整理(明戸隆浩)


2019年8月3日土曜日

ローレンツ条件

今年から非常勤で物理を教えることになり,はじめて電磁気学を担当した。45年前の自分が学部のときの電磁気学は伊達宗行先生が担当されており,授業はたんたんと進行していた。電磁気学演習はどなたが担当だったのだろう。はっきり覚えていない。

「理論電磁気学」の教科書で有名な砂川重信先生は当時の教養部の所属であり,大学院に入ってはじめて量子電磁力学の授業を3〜4人で受講するようになるまでは,ご尊顔も拝見したことがないくらいだった。大学院入試の面接で,森田正人先生,小谷恒之先生と砂川先生のチームが,物理以外の内容を質問する部屋があった。どんな物理の本を読みましたかという問に,マンドルの「場の量子論入門」と答えた。いまひとつピンとこなかったのか,他によかった本はありますかということで,砂川さんの「理論電磁気学」がとてもよかったですと,ご本人が目の前にいるとは知らずに答えていた。ただ,後半がちょっとわかりにくかったというと,それはあなたの勉強不足ではと森田先生からコメントがあり,みんな笑っていた。

さて,その電磁気学で,電場や磁場に対するマックスウェル方程式から,スカラーポテンシャルやベクトルポテンシャルの方程式を導出する際に,ローレンツ条件という,電磁ポテンシャル間の条件式を課すことがある。そのローレンツ(Ludvig Valentin Lorenz 1829-1891)は,デンマークの物理学者である。一方,電磁気学のローレンツ力でおなじみのローレンツ(Hendrik Antoon Lorentz 1853-1928)の方は,オランダのノーベル賞物理学者である。後者は,特殊相対性理論のローレンツ変換でも有名である。ところがローレンツ条件は相対論的に不変であり,電磁ポテンシャルの方程式を相対論的不変にするという特徴を持つ。ややこしいことこの上ない。

というわけで,これまでの多くの著名な電磁気学の教科書や事典は両者を混同しており,ローレンツ条件をLorentz条件と誤記している。理化学辞典,培風館の物理学事典,岩波の現代物理学の基礎,電磁気学の教科書では,パノフスキー・フィリップス,平川浩正,牟田泰三,そして砂川重信,ああ,全滅である(いずれも手元の旧版の場合)。

J. D. Jackson の Classical Electrodynamics 3edは大丈夫。Ohta-Wakamatsuの太田浩一さんは,Lorenzをローレンスと表記してLorentzと区別している。物理教育学会の大御所の霜田光一先生も正しく認識されており,注意を喚起していた。


[1]霜田光一:光速の原理と電荷保存則からマクスウェルの方程式を導く(物理教育第53巻第4号319-322,2005)
[2]霜田光一:光速の原理と電荷保存則からLorenz条件を導く(物理教育第54巻第4号286-287,2006)





















写真:Wikipediaより 左:ルードビィヒ・ローレンツ 右:ヘンドリック・ローレンツ


2019年8月2日金曜日

White List

暑い夏がさらに熱くなった日。

日本における安全保障貿易管理の枠組みの中で,大量破壊兵器及び通常兵器の開発等に使われる可能性のある貨物の輸出や技術の提供行為などを行う際,経済産業大臣への届け出およびその許可を受けることを義務付けた制度が「補完的輸出規制キャッチオール規制)」である。

その中の,グループA(輸出管理優遇措置対象国=27カ国)が,いわゆるホワイトリストに載っている国。韓国をこれから外してグループBにするというのが本日の日本政府の閣議決定の内容である。8月7日に公布,8月27日から施行予定。

自分の立場は,文在寅(ムン・ジェイン)支持,安倍内閣不支持である。経済産業省がコアになっている現政権は,どんなメリットを求めてこの措置へと踏み出したのだろうか。普通に考えると経済的なメリットは全くないので,政治的・軍事的な判断であるが,なにか不思議な気がする。

北朝鮮との緊張緩和路線を進める韓国への対抗。建前としても安全保障上の問題から今回の措置を取ったという説明をしている。今回の北朝鮮の短距離ミサイル実験にJアラートも出さずゴルフに勤しんでいた安倍だが,韓国と北朝鮮が主導し米国(トランプ)と中国とロシアが支持する朝鮮半島の緊張緩和は困るので,それを妨害するための一手と考えられる。

朝鮮半島の緊張状態は,拉致被害者を利用した国内世論の喚起や,軍事的脅威をあおって米国の軍事産業への協力の言い訳に使えることなどから,安倍にとってこれを維持することには価値がある。これはトランプに取っては困った日本の行動なのだが,ポンペオ国務長官の取り成しもいまいち迫力がなく,もしあったとしても日本はこれを蹴っている。反トランプの米国内対北朝鮮強硬派との繋がりや両者の力関係がなせる技かもしれない。

ホワイトリストからの削除は,韓国との間に軍事的な信頼関係はないと日本側が宣言したことと同じだから,日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)を韓国側が破棄しても,当然ということになる。この協定は,日本と韓国のどちらにとってよりメリットがあったのだろうか。最近の北朝鮮のミサイル実験については明らかに韓国側の情報が優位なので,今後,日本はそれが米国経由でしか得られないことになる。いずれにせよ,米軍が圧倒的な情報をもっているということであれば,日本にとってのデメリットは相対的に小さいかもしれないが・・・GSOMIA破棄は北朝鮮と韓国を接近させる方向に作用する。

10月の消費税増税を見越し,国民の関心をそらし,きたる衆議院議員選挙のための反韓気分を醸成することが目的なのだろうか。れいわ新選組の効果を無効化し,右寄りで排外主義的な気分を煽ることが,日本会議や維新をはじめとしたコアな安倍支持層を元気づけ,政権の浮揚や安倍4選あるいは憲法改正への道を開くという考えがあるのかもしれない。ハイテク産業やインバウンド需要などへの経済的なダメージがどれだけあろうが政権支持率にはほとんど影響ないという判断なのだろうか。

長期的に見て,日本の高度素材産業への影響がどうなるかは,正確な情報が読み切れない。数ヶ月で韓国は新しいサプライチェーンを構築できるという説と,日本の技術的な蓄積はそんな短期間では乗り越えられないという説がある。結局は時間スケールの問題なのであって,グローバルなハイテクサプライチェーンからの日本の剥落は進むだろう。あるいは,高度素材提供企業が倒産して,韓国企業に買収されるというオチなのかもしれないが。

[1]安全保障貿易管理(大学研究機関向け)…orz なんと生き苦しい世界なのか

2019年8月1日木曜日

暗黒通信団

書店で暗黒通信団の「円周率1000000桁表」や「自然対数の底100万桁表」などを見かけたことがあって名前は知っていた。偶然に,古典不変式論のpdfファイルをみかけたのがきっかけで,そのホームページにたどり着いた。なかなか面白そうなテキストがたくさん並んでいる。天羽優子氏や左巻健男氏がメンバーに入っているのか。教育大改革論もすべての議論を支持するわけではないが興味深い。