(「安富歩さん」からの続き)
この本を買ったのはいつのことだったろうか。長いこと積ん読状態だったけれど,安富さんのれいわ新選組の参議院選比例区候補としての演説を聞いているうちに再読しようという気になった。
典型的な東大話法者として,池田信夫があげられている。彼は,福島第一原発災害の後,一瞬だけ正気になったブログ記事を書いたことがあったが,その後は安定の新自由主義反動路線の人で,安富をボロクソにけなしている。「京都生まれで東大卒で新左翼崩れでNHKで青木昌彦の下でドクターをとるとこんな結末を迎えるのか」という差別的な言辞を吐きたくさせる方である。
話がそれた。ブログ記事を再編集したものが中心になっているので,とりたてて新鮮な感想は持たなかったが,第4章の「役」と「立場」の日本社会というのは,自分もその考え方にどっぷりと染まっていたので,よくわかった。また,第5章の槌田敦のエントロピー論に立脚した議論も素直に納得できるものだ。
安富歩は,既存の学の枠組みに束縛されず自由に考えることができる希有の人だと思う。2011年の3月に発行された(たぶん東日本大震災以前の対談)京都大学大学院人間・環境科学研究科の雑誌人環フォーラムNo.28に,「<対談>生きるための経済学:安冨歩,間宮陽介, 司会 阪上雅昭」という記事が掲載されている。阪上君は阪大理学研究科で,森田研のとなりの内山研で3〜4学年下の院生だったが,その後,福井大学教育学部を経て京大人間・環境科学研究科の教授となっている。安富さんとは親しいようだった。
この対談では,間宮陽介が典型的な東大話法型の人間であることが透けてみえる。間宮は岩波文庫でケインズの「雇用・利子および貨幣の一般理論」を翻訳しているが,山形浩生の経済のトリセツでボロクソに叩かれていた(まあ,山形のことなので,どこまで真剣に受け止めるべきかは留保したほうがよいのかもしれない)。間宮は物知りで引出をたくさん持っている人であり,安富の考えを正面から受け止めず,既存の知識で斜めにバンバン打ち返していた。その点,阪上君は安富さんを理解した上で対応している。
この続編が,「幻影からの脱出−原発危機と東大話法を越えて(明石書店,2012)」であり,上西充子さんの「呪いの言葉の解き方(晶文社,2019)」にも続いている。
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