2023年9月17日日曜日

樹氷の世界

霧の彫刻からの続き

自然を見る眼が親愛の情を失えば,相手も決してその本性を明かさないものである。

これは中谷宇吉郎(1900-1962)の随筆集「樹氷の世界(甲鳥書店,1943)」に掲載されていて,NHKの日曜美術館天にささげる霧 霧の彫刻家・中谷芙二子」のテーマとして紹介されたフレーズだった。

最初は,この出典がわからず,Googleで検索しても全く見つからない。一方,青空文庫には中谷宇吉郎の随筆などが240編ほど収録されている。これを順番に調べるのは大変だ。wgetで自動ダウンロードしようとしたら,ファイル構造が単純でないため挫折した。

そこで,ChatGPTのAdvanced Data Analysis(旧 Code Interpreter)の助けを借りることにした。ところがこの子は,ファイルは受け付けるが,ウェブにはアクセスできない。尋ねてみると,中谷宇吉郎のそのデータは持っているというので,20編ずつ探してもらった。3ブロック目でヒットして,その答えは「自然の法則」というタイトルだという。しかしこれは実在しない。

そこで,GoogleのBardのほうに問い合わせた。こちらは手早く自信満々で「はい、わかります。随筆集「雪の結晶」の中の該当する随筆のタイトルは「雪の結晶と私」です」との回答があった。が,これも実在しない。どいつもこいつも役に立たない。

神田敏晶さんが,$20/月もかかる ChatGPT-Plusの解約をすすめていたので,早速これに従うことにする。


その後,人力でようやくさきほどの情報「樹氷の世界」までたどりついた。この本の著作権は切れていて,国立国会図書館のデジタルアーカイブに存在していることが分かった。この随筆集には,17編の記事があって,順番に読んでみたが見つからない。なんのことはない,403pにある後書きの部分にあるのだった。

P. S. 終戦の2年半前に出版されたもので,著者の様々な葛藤があらわれている随筆集だった。





[1]中谷宇吉郎 近代日本人の肖像(国立国会図書館)
[2]中谷宇吉郎教授の逝去を悼む(北海道大学理学部物理学教室)
[3]中谷宇吉郎先生のご業績とお人柄(若濱五郎 1927-2021)
[4]北大における雪氷学(北大百年史,黒岩大介)
[5]低温科学研究所(北大百年史,部局史)
[6]岩波映画製作所(1949年の中谷プロダクションがその前身)
[8]中谷宇吉郎記念財団(代表理事 中谷芙二子)
[9]氷雪物理学(対馬勝年)




2023年9月16日土曜日

霧の彫刻

NHKの日曜美術館で,中谷芙二子(1933-)の霧の彫刻が取り上げられていた。

90歳の中谷芙二子は,雪の結晶,人工雪の研究で有名な中谷宇吉郎(1900-1962)の二女として札幌に生まれた。当時北海道大学教授になったばかりの中谷宇吉郎は,石川県加賀市片山津町の出身で,小松中学,第四高等学校から東京大学理学部物理学科に進み,寺田寅彦(1878-1935)に師事した。三姉妹の母の静子(1910-1986)も金沢出身だった。長女の咲子(1932-)が地質学者,番組の最後にも登場した三女の三代子がピアニスト(1944-)でともにアメリカ在住だ。甥の中谷健太郎(1934-)が由布院温泉の亀の井別荘を経営している。


芙二子は,高校卒業後に父の仕事の関係で渡米し,ノースウェスタン大学美術科を1957年に卒業している。1966年には,Experiments in Arts and Technology (E. A. T. ) のメンバーとなった。E. A. T. の活動の最高峰として,大阪万博1970のペプシ館がある。ここで芙二子は霧の彫刻によってパビリオンを覆うことに成功した。これは,16ミクロンのノズルの前に針をおいて,70気圧で噴射される水を砕き,20〜30ミクロンの霧粒として噴射するものであった。

1970年7月に訪れた大阪万博では,最初の夜に赤く照らされて工事中のデザインだった横尾忠則のせんい館の夜の外観は見たが,エキスポランド側にあった霧に包まれたペプシ館には行かなかった。


中谷芙二子の考えを要約すると次のようなものであった。
霧の彫刻は,純水で作られた大量の霧を発生させて,環境と人間のインタラクションを楽しむ芸術だ。霧の中に入ることで,人は視覚だけでなく,全感覚を通して環境を知覚することになる。それは,不可視である大気が呼吸する様子を人が知覚することを助ける。またこれにより人の行動自身も影響されることになる。自然を美の対象と考えてはいけない。それは,人それぞれが自分の方法で発見する自然との関係の中に生まれてくるものだ。
番組は,日本各地での取り組み,とくに田中泯とコラボレートした舞踊と霧のパフォーマンスを中心に話が展開した。加賀市にある中谷宇吉郎雪の科学館にも常設の霧の彫刻「グリーンランド氷河の原」があり,グリーンランド(中谷宇吉郎が調査でよく通っていた)から氷河の堆積石を60トン(環境大臣と交渉してゲットした)を日本に運んで厚さ15cmに敷き詰めた空間に霧を流していた。


写真:中谷宇吉郎雪の科学館にある霧の彫刻(グリーンランド氷河の原)


[1]霧の抵抗 中谷芙二子(水戸芸術館)
[3]アーティスト・中谷芙二子のふたつの顔飯田豊評「霧の抵抗 中谷芙二子」(美術手帖)

2023年9月15日金曜日

成層圏飛行

NHKのコズミックフロント関係の話題が続く。

9月7日に放映されたのが「天空の果てへ 有人気球・成層圏飛行への挑戦」だった。ヘリウム気球を使った有人成層圏飛行の実現を目的とする岩谷技研の1年半の取り組みが丁寧に紹介されていた。ほとんど会社の宣伝番組になっていたけど。なお,有人ではなく成層圏や中間圏での高高度気球での撮影をするスポーツは,スペースバルーンとよばれている。

図:地球大気の鉛直構造(高卒資格.comから引用)

北海道の株式会社岩谷技研は,2012年に個人として初めて33kmの高度からの撮影に成功した岩谷圭介(北海道大学工学部知能工学科卒)が,2016年に設立した旅客技術開発会社である。その目的は,高高度ガス気球並びに旅行用気密キャビンを設計/開発/製造し,気球による宇宙遊覧フライトを実現する,となっている。現在の資本金は3500万円で,従業員が48人だ。

ヘリウムを惜しげもなくふんだんに使って(いるように見えた)気球にかかわる様々な実験を堅実に繰り返しているところに驚いた。社長はじめ若い社員達が多くのの特許を取得しながら一歩づつ着実に目標に向かっていた。48名の人件費を賄うだけの収益があるのか,他人事ながら心配になった。

同様のベンチャー企業に,茨城県のスペース・バルーン株式会社がある。こちらの方は2020年に設立され,資本金500万円で従業員7名だ。ホームページはとても綺麗にデザインされていて,会社の目標も宇宙旅行に限定されず様々な応用分野を想定している。


うまくいけば,数百万円程度で2時間上昇+1時間滞在+1時間下降のNear Space(宇宙空間への入口)の旅=成層圏飛行が実現できるかもしれないがどうだろう。なんとなく,アーサー・C・クラーク楽園の泉(こちらは軌道エレベータの話だが)を思い出す。


2023年9月14日木曜日

大学ポートレート

国際卓越研究大学からの続き

生成系AIによる調べものが挫折すると,原点のインターネット検索に戻ることになる。もちろん,各大学にアクセスして調べればいいのだが,各大学の情報構造がまちまちなので,これがとてつもなく面倒な話だ。

そんなとき,大学ポートレートというサイトに行き当たった。独立行政法人大学改革支援・学位授与機構が運営している。が,運営先を微妙に隠そうとしている。面倒なやつだ。

これを見ると,各大学の基本情報が同じ形式で整理されているので,目的が達成できそうだった。残念ながら,職員数と財務情報=大学予算規模が欠けている。そう,教員数は懇切丁寧に示しながら,職員数がいまひとつ分かりにくい大学が多かった。

不良老人の常で,こういう場合は早速クレ—ムを入れるのだった。

大学ポートレートの情報,大変参考になります。

現在,基本情報として,大学名,本部所在地,設立年(設置認可年),大学の連絡先(代表番号、メールアドレスなど)大学の種類,総学生数(学部),総学生数(大学院),総教員数(本務者)の8項目があげられています。

要望:
(1)総職員数,(2)大学の予算規模(≒損益計算書の経常収益または経常支出に対応するもの)の2項目を基本情報として追加していただけないでしょうか。

理由;
(1)大学の教育や運営には教員だけでなく,職員や支援スタッフがどれだけ充実しているかというのがますます重要な情報になっています。

(2)大学ファンドの運用規模が,各大学の予算規模と比べてどの程度のオーダーであり,日本の高等教育がどうなるかの全体像を理解するには,各大学の予算規模を基本情報として把握する必要があります。大学ポートレートの目的は必ずしも受験生だけのものでなく,広く国民が高等教育の在り方を理解するためのものだと思いますので,こうした情報は基本情報になると考えられます。

会社規模のイメージをつかむには,資本金,従業員数,売上高,純利益などを見ますね。どうぞよろしくお願いします。

追伸:対話型の生成AIの能力がもう少し向上すれば,このような手間は不要になるのですが,試してみたところ,あまりうまくいきませんでした。


要望への返事は返さないそうなので,暖簾に腕押し以外の何ものでもない。


と思っていたら,早速ていねいな御返事をいただいた。結論を要約すると以下のようになる。こちらの要望とは若干ズレているが,お忙しいところどうもありがとうございました。
(1)総職員数について
 大学改革支援・学位授与機構でまとめております「大学基本情報」にデータがございます。https://portal.niad.ac.jp/ptrt/table.html
(2)大学の予算規模について
 大学ポートレートの「基本情報」ページの一番下に、「財務諸表等」の項目があり、各大学法人ウェブサイトでの該当ページへのリンクを掲載しております。

2023年9月13日水曜日

国際卓越研究大学

どうする大学からの続き

9月1日,東北大学がはじめての国際卓越研究大学の認定候補に選ばれた。

平成に入って(1989)バブルが崩壊(1992)し,阪神・淡路大震災(1995)があり,有馬さんがその道を開いた(1999)国立大学の法人化(2004)がスタートした。バブル崩壊後の30年で大学は疲弊し,日本の研究力は地に落ちつつあるとの認識が広がりつつある[1][2]。

そこで登場したのが,日本学術会議ではなく内閣府の総合科学技術・イノベーション会議だ。政府が大学予算を絞ってきたのが問題ではあるが,日本にも米国のトップ大学のような基金があれば大学は活性化できるというロジックで,2020年12月に閣議決定されたのが次の方向性である。
10 兆円規模の大学ファンドを創設し、その運用益を活用することにより、世界に比肩するレベルの研究開発を行う大学の共用施設やデータ連携基盤の整備、博士課程学生などの若手人材育成等を推進することで、我が国のイノベーション・エコシステムを構築する。
その基本的な考え方が定められ[3],具体化策は,法改正により科学技術振興機構の新しい役割として追加された[4]。ますます大学の選択と集中が加速され,金融資本だけが繁栄するというスバラシイ施策だ。

10兆円基金の年間運用益を3000億円と見込み,最終的にはこれで4-6大学を支援することになりそうなので,1大学平均500-700億円というところか。科研費の年間予算規模が2500億円なので,運用が成功すれば科研費総額を5大学だけに配るというような凄まじい話だ。


これに10大学(早稲田,東京科学,名古屋,京都,東京,東京理科,筑波,九州,東北,大阪)が応募した。大手の大学で申請しなかったのは,慶応義塾大学と北海道大学だった。その中から,東北大学,東京大学,京都大学が現地調査の対象として絞り込まれたというニュースを聞いたとき,てっきりこの三大学で決まったものだと思っていた。

ところがフタを開けてびっくり,東北大学1校だけが選ばれて,2024年度から支援を受ける候補になった。東北大学の計画書(の中のKPI)をみて,こんな絵空事で通るのかと奥村先生が憤っていた。25年間続けて,論文数が年率5.2%で増加し,そのうちTOP10%論文数が9.2%で増加するというのだから。

各大学の予算と今回の大学ファンドのオーダーを比較しようとして,大学名,予算規模,教職員数,学生院生数のリストをつくるようにChatGPTに頼んだところ,大学ファンドの話を持ち出しただけで全く役に立たなかった。むしろBardがのぞみの形を出力してくれたのだが,チェックすると数値は出鱈目だった。しかたがないので,人力で対応した。

順位 大学名 予算(億)  科研費(億)    教職員数 院生・学生数
1 東京大学    2,538  211        11,547  27,368
2 慶應義塾大学   2,791  36            4,247  33,052
3 京都大学    1,839  141         5,553  22,295
4 大阪大学    1,602  101         5,058  20,969
5 東北大学       1,532  101         6,398  17,591
6 早稲田大学      1,022  27            3,209  47,127
7 九州大学    1,358  69            4,572  18,560
8 筑波大学    1,123  43            4,627  16,507
9 東京科学大学  1,176  117           4,824  13,429
10 名古屋大学   1,289  78            3,207  15,902
11 北海道大学   1,077  60            3,920  17,541
12 東京理科大学  535   11            1,501  19,768
極めて局所に投入される大学ファンドの運用益は,各大学の予算規模の20%とか25%に相当するので,なんだかむちゃくちゃなことになりそうだ。どうして,こんなに荒っぽい政策しか考えつかないのだろうか。文部科学省のNISTEPは遅ればせながらややまともな分析をしているのだけど[1] ,時既に遅しということか。

*科研費は12大学・機関(-東京理科大+理化学研究所)で936億円(全体の40%程度)を占める。

[1]我が国の研究力の動向(文部科学省科学技術・学術政策研究所,2023.4)
[2]大学の研究力強化に向けて(文部科学省大学研究力強化室)
[3]世界と伍する研究大学の実現に向けた大学ファンドの資金運用の基本的な考え方(総合科学技術・イノベーション会議,2021.8)
[4]大学ファンドについて(科学技術振興機構)

2023年9月12日火曜日

どうする大学

NHK大河ドラマ「どうする家康」は,評判もずっとイマイチで,最初のうちはあまり見る気もしなかった。ところが,武田信玄が出てきて瀬名と信康が自害するあたりから,次第に面白くなってきた。本能寺の変の直前の信長への接待から,秀吉の台頭,石川数正の出奔や朝日姫の輿入れなど,最近は毎週目が離せない。


9/10のNHK日曜討論が「どうする"研究力低下"これからの日本の大学」だった。法事で外出していたため,録画したものをみた。放送直後から,Twitterで番組の感想を検索していたが,ほとんどその論調は同じだった。政府審議会の証券アナリストはわかっていない,選択と集中がこの危機を招いた,出席の大学関係者はがんばっていた,というものだった。

Twitterでおなじみ病理医の榎木英介科学・政策と社会研究室 代表理事),K2Kニュートリノ実験出身の横山広美(東京大学IPMU副機構長),KEK理事でリサーチアドミニストレーション協会副会長の高橋真木子(金沢工業大学教授),経済財政諮問会議初の民間女性有識者中空麻奈(BNPパリパ証券,アナリスト)というなかなか良いメンバーだった。野依良治が出てこなくてよかった。

さすがNHKなので,朝まで生テレビや維新の記者会見とは違って落ち着いて話が進む。中空麻奈もそこまでヒールに徹していたわけではないし,横山さんや榎木さんも控えめだ。高橋さんは,榎木さんらの主張に共感しながらも,研究機関としてのマネジメントをどうするかという立場で話していた。

まあ,バブル崩壊後の国家予算の逼迫に対応しようとした日本政府の政策の方向(国立大学の法人化と資源の選択と集中)が間違っていたわけだ。2000年のインターネット革命後の社会の変化スピードのために被害は拡大してしまい(研究人材の雇用不安定化,基盤的な大学運営費の縮減による機能喪失),焦れば焦るほど大学が危機的な状況に追い込まれている。これに少子化の波が加わる(以前は2018年問題といわれていたがまだズルズルと続いている)。


2023年9月11日月曜日

放出総量

告示濃度比総和からの続き

第一は、処理水放出しなくても海に流出している放射性物質がおそらく事故以前の福島第一の年間放出管理目標値である2200億ベクレル/年くらいあって、これを減らすことが絶対的に重要だけど、そもそもこういう放出があること自体に国も東電も一切触れないのが問題、ということ。
トリチウムの事故以前の福島第一の年間放出管理目標値は22兆ベクレル/年(実績2.2兆ベクレル/年)だというのは,どこにでも書いてあるが,2200億ベクレル/年は探してもなかなか見当たらない。

ようやく,10年前のページ3.11東日本大震災後の日本に手がかりがあった。しかし原文のリンクを辿った経済産業省からは消されており,waybackmachineでかろうじて過去の記録がわかった。平成23年度原子力施設における放射性廃棄物の管理状況及び放射線業務従事者の線量管理状況について(経済産業省・原子力保安院)。なんとかしてほしい。

これによれば,事故前の福島第一原子力発電所の放射性液体廃棄物(3Hを除く)の年間放出管理値が,2.2E+11Bqとなっている(気体では希ガス 8.8E+15 Bq,ヨウ素131 4.8E+11 Bq)。原子炉7基の柏崎刈羽原子力発電所についで全国2番目に大きなレベルに設定されていた。

その上で,きちんとした計算がされていたのは【資料】ALPS処理水の海洋放出 「放出総量」(伊賀治)だ。それによると,トリチウムの22兆ベクレル/年を排出基準 1500Bq/Lでわった,希釈後アルプス処理水の年間放出可能量は,1467万t/年となる。

これにタンクJ1-C群の2次処理後の確認試験結果,C-14: 13Bq/L,Co60: 0.31Bq/L,Sr90: 0.35Bq/L,Y90: 0.35Bq/L,Tc99: 0.73Bq/L,Sb125: 0.11Bq/L,I129: 2.1Bq/L,Cs137: 0.45Bq/L をかけて,2倍して(希釈用の海水も同じ濃度で汚染されていると仮定)加えると,トリチウム以外の8核種の放射能の合計は,5100億Bq/年となっている。

告示濃度比総和は1に抑えられていて,現在の基準は満たしているとはいえるが,過去の自分たち自身の設定目標管理値は越えている。トリチウム排出についてはそれに従っているにも係わらず。だめだこりゃ。


2023年9月10日日曜日

ヨウ素129

告示濃度比総和からの続き

ネット上で原発関係のまともな情報を得られるのは,神戸大学の牧野淳一郎さんくらいしかいない。おしどりマコにトラウマがありそうなキクマコや水野さんはじめ,あとは疑似科学的な体制翼賛会になっている。と感じるのは自分の座標系が偏っているからかもしれない。


安定ヨウ素127は海水中に60ppb含まれる。その放射性同位体であるヨウ素129は,1570万年という長い半減期を持つので注意が喚起されている。

ヨウ素129は,ウラン238の自発核分裂,Xeと宇宙線の反応などで自然界に生成される。その結果,地殻圏に320TBq (50t),大気水圏に1.7Tbq (260kg) 存在している。一方,核実験により0.3TBq (43kg)が ,再処理施設からは11TBq (1.7t) が 放出拡散している。安定同位体のヨウ素127との存在比は,核実験以前の天然存在比は,I129/I127 = 10^-12 だったが,現在の太平洋の表面海水では10^-10程度である(北海では10^-6)[4]。

原子力発電所では,ウラン235の1核分裂当たり,ヨウ素129が072%,半減期8日で最も注意が必要なヨウ素131が2.9%生成される。半減期が10^-9倍短いヨウ素131は,ヨウ素129より放射能が10^9倍強いことになる。ところが,同量のヨウ素同位体があった場合,1年も経たずに,ヨウ素129の放射能がヨウ素131を上回る( (1/2)^30=10^-9,30×8 = 240日)。

ALPS処理水において,セシウム137とヨウ素129のベクレル濃度はほぼ等しいのであるが,半減期が50万倍違うので,長期的な影響はヨウ素129がセシウム137より50万倍(まではいかないか)大きいことになる。これを牧野さんが指摘しているわけだ。

まあ,人間の体を構成しているカリウム40炭素14などの自然放射能は100 Bq/Lなので,1 Bq/L程度は気にならないかもしれないが,ヨウ素は生物濃縮して(海藻により数千から数万倍に)なおかつ甲状腺に集まるので,あまり油断してもいけない。


(注1)海水中の安定ヨウ素127の濃度は,60ppb = 0.06mg/1kg であり, 5×10^-7 mol/L = 3×10^17 個/L 存在する。一方,ヨウ素129の半減期が1570万年 = 5×10^14 s なので,1個のヨウ素129は,0.693/(5×10^14) = 1.4 ×10^-15 Bq にあたる。つまり,1 Bq/Lのヨウ素129は,7×10^14個/Lに相当し,1Bq/Lの海水におけるヨウ素129のヨウ素127に対する同位体存在比は 2×10^-3 となる。予定通りの放出により,近海では太平洋の表面海水の平均ヨウ素127比の数千万倍になる(もし核実験以前の10^-12Bq/Lと比較すれば一億倍)。

(注2)バナナ1本100gには10Bqのカリウム40が含まれるが,安心して食べて良い。上記の環境で生育した乾燥コンブ100gには200mgのヨウ素が含まれる。注1の環境ではこの0.2%(0.4mg)がヨウ素129である。つまり,この100gの乾燥コンブには,0.4 mg/129 g × 6×10^23 = 2×10^18 個 = 3000 Bq のヨウ素129が含まれる(ただし,コンブ生産量の95%は北海道であり,福島近海ではない)。


[2]環境中のヨウ素129とその分析法(九州環境管理協会)

2023年9月9日土曜日

年縞博物館

ほぼ一日中テレビをつけっぱなしにしていると,よく叱られる。テレビも時々自動的・自主的に消灯して休むことがある。

NHK等の朝昼夕夜のニュース,NHKの朝ドラ,あさイチ,韓国ドラマ,VIVANT,BSドラマ,映画とコズミックフロントの録画くらいしかみていない。見るものがなくなると,放送大学にチャンネルを替えて,これをバックグラウンドTVにしながら,パソコンのYouTubeを聞き流している。たいへん健康に良くない生活だ。

その放送大学の「情報デザイン」の「〔各論〕空間とコミュニティの情報デザイン」の回で,福井県立年縞博物館が紹介されていた。GPT-4に要約させると次のようになった。
福井県年縞博物館は、年縞(ねんこう)を通じて人類の歴史や時代の変遷を探求する世界初の博物館です。年縞とは、湖の底などに長い時間をかけて積もった泥の層を指し、福井県若狭町の三方五湖の一つ、水月湖の底からは7万年分の年縞が採取されました。この年縞は、歴史の年代決定のための国際標準の「ものさし」(IntCal)に採用され、水月湖は「Lake Suigetsu」として世界的に知られるようになりました。年縞博物館では、この7万年分の年縞を体感するための「年縞ギャラリー」が設けられており、訪問者は年縞の魅力や歴史の深さを実感することができます。

番組では,立命館大学古気候学研究センター中川毅センター長がていねいにその趣旨や特徴を説明されていた。


写真:年縞博物館の7万年分45mの年縞を横向きに展示

2023年9月8日金曜日

大ちゃん

8月31日が終わり,あと1年半 (≒580日) しかない大阪・関西万博がどうなるかの瀬戸際だ。

153カ国・地域と8国際機関が参加表明していて,そのうち敷地渡し方式のタイプAで60カ国56館が建設される予定だ。が,大阪市への建築許可申請がまだ一つも出されていない。その前段階である基本計画が提出されたのでさえ,韓国,チェコ,モナコ,サウジアラビア,ルクセンブルクの5カ国だ。また,タイプAの失速を防ぐ窮余の策であるプレハブ建設代行のタイプXに興味を示したのは5カ国に留まる。


9月7日,そんな大阪府が,この度高齢者向けに生成AIを使ったサービスをキックオフした。これまでも高齢者コミュニケーションサービスが存在していた。柴犬のキャラクター大ちゃんとのオンラインコミュニケーションにより,(1) 会話機会の創出(雑談チャット)による老人の孤独感の解消,(2) 外出機会の創出(イベント案内)による健康増進,(3) 個人の属性に合わせたサービス・情報提供などが目的だ。これを今回ChatGPTで強化したというものだ。

奈良県民だけれど,大阪府柏原市に勤務している体で,早速LINEから登録して試してみることにした。

最初に聞いたのは,「万博大丈夫」。答えは返ってこなくて,別の話題に転換されてしまった。次に聞いたのは,「万博はどこであるの」。答えは「万博は大阪府吹田市にありますよ!」違うやろ。さらに,「今度の万博はいつどこであるの」。答えは「ほんまや!興味津々やわ〜。大ちゃん,教えてもらってええ?」

最低やな。たぶん「万博」は禁止語に登録されているのだろう。大ちゃんはユーザの高齢者に合わせて,すでに認知症気味なのであった。



図:本当にAIで強化されたのか疑惑の大ちゃん(大阪府説明資料から引用)


[1]大阪・関西万博の最新の動向(内閣官房,経済産業省,2023年7月)

2023年9月7日木曜日

告示濃度比総和

ALPS処理水(6)からの続き

ALPS処理水のトリチウム以外の放射性物質の量を管理するために,告示濃度比総和という量が用いられている。

ALPSにおける除去対象62核種+放射性炭素14について,原子力規制委員会で定められた排水に対する国の濃度規制基準値[1]と測定濃度比の和が1以下になるようにするというのが国と東京電力の方針だ。この状態になったALPS処理水を,トリチウム単独の規制基準値の1/40(WHOの飲料水基準の1/7)の1500 Bq/L以下になるように薄めて放出することになっている。[1][2][3]のデータを整理すると主な放射性物質の排水の告示濃度と → 実測値のオーダーは以下のようになる。
トリチウム(12.3年,β崩壊) 6万 Bq/L  → 30万Bq/L(5×40 = 200倍希釈
炭素14(5730年,β崩壊) 2千 Bq/L → 100 Bq/L

コバルト60(5.27年,β崩壊) 200 Bq/L → 1 Bq/L
ストロンチウム90(28.8年,β崩壊) 30 Bq/L → 10 Bq/L
イットリウム90(64.6時間,β崩壊,ストロンチウム90から) 300 Bq/L
ルテニウム106(374日,β崩壊) 100 Bq/L → 1 Bq/L
ロジウム106(29.8秒,β崩壊,ルテニウム106から) 30万 Bq/L
アンチモン125(2.67年,β崩壊) 800 Bq/L → 0.5 Bq/L
テルル125m(57.4日,IT) 900 Bq/L
ヨウ素129(1570万年,β崩壊) 9 Bq/L → 1 Bq/L 
セシウム134(2.06年,β崩壊) 60 Bq/L → 0.2 Bq/L
セシウム135(230万年,β崩壊) 600 Bq/L
セシウム137(30.2年,β崩壊) 90 Bq/L → 1 Bq/L
バリウム137m(2.55分,IT,セシウム137から) 80万Bq/L
既設ALPS,増設ALPS,高機能ALPSの処理前と出口の放射性濃度が[2]に与えられている。その上限を測定値として上の告示濃度の右に示している。ALPSにより,セシウム137やストロンチウム90やアンチモン125の放射能は十万分の一に,コバルト60やルテニウム106は百分の一になっているが,ヨウ素129は百分の一から十分の一程度にとどまっている。


[1]放射線を放出する同位元素の数量等を定める件(原子力規制委員会,2020.3)
[2]多核種除去設備出口の放射能濃度(東京電力,2023.6.30)
[3]処理水ポータルサイトQ&A(東京電力)
[4]処理水に関するQ&A(在上海日本国総領事館)

2023年9月6日水曜日

日下周一

クリストファー・ノーラン映画オッペンハイマーは,まだ日本未公開なので,早くみたいものだと調べているうちに,オッペンハイマー(1904-1967)の弟子だった日下周一(1915-1947)に行き当たった。

日下周一は,大阪に生まれ,5歳で移住したカナダで育ち,ブリティッシュ・コロンビア大学からMITの大学院に進んだ。カリフルニア大学バークレー校でオッペンハイマーの指導を受け,1942年に博士号を取得した。中間子や核力の研究を行い,1943年には中間子論でパウリ(1900-1958)との共著論文(On the theory of a mixed pseudoscalar and a vector meson field)がある。1946年にプリンストン大学でウィグナー(1902-1995)の助教授になったが,1947年31歳で海水浴中に溺死した。

1940年に日下が日本を訪れたとき,湯川秀樹(1907-1981)や小林稔(1908-2001)や内山龍雄(1916-1990)に会って議論している。内山先生の一歳上だったのか。

1960年にオッペンハイマー夫妻が来日したとき,バークレー時代の弟子である日下周一の両親に会って弔意を表した。

1992年,大阪市立科学館の加藤賢一のところに吉永剛幸および大山幹男が来訪し,日下周一を顕彰することができないかとの話があった。2005年10月には大阪市立科学館(高橋憲明館長)において,関係者が中心の日下周一シンポジウムが開催されている。



写真:日下周一の御両親を弔問するオッペンハイマー夫妻(Esquire記事から引用)

[1]日下周一伝(加藤賢一データーセンター)
[4]物理学者日下周一の生涯と業績(星学館ブログ)
[5]NECROLOGY Kusaka Shuichi, 1915-1947(David Bohm, Robert R. Bush)
[6]Shuichi Kusaka  Theoretical Physicist ( When An Old House Whispers )
[7]Great Physicist Shuichi Kusaka  (You Tube)
[8]Notes on electrodynamics (J.R. Oppenheimer, University of California, Physics 207B, 1939)
[9]電気力学(オッペンハイマー講義録=日下周一のノート,小林稔訳)
[10]Einstein His Life & Times (Frank Phillipe, George Rosen, Shuichi Kusaka)
[12]Shuichi Kusaka (Find a Grave)


2023年9月5日火曜日

水産物の禁輸

ALPS処理水の放出の後,中国と香港が日本からの水産物の輸入を禁止した。日本の漁業関係者や,中国で日本水産物を扱ってきた人々は大変なことだと思う。日本近海で漁をしている中国漁業関係者にとってはチャンスかもしれない。

令和四年度の水産白書には,日本の水産物輸出の状況が説明されている。そもそも,2016年以降,肉の消費量が魚のそれを上回ってしまい,日本人が魚介類を食べなくなってしまったのが問題だ。こどもが魚を嫌い,値段は高く,調理も面倒だからだというのがその理由だ。

その分は輸出に活路を見いだそうということになる。2022年度の日本の水産物輸出額は3900億円に達しており,その42%の1600億円が中国・香港むけである。ここまでは良く報道されている。その内訳はどうか。輸出品目の一位がホタテ貝(23.5%)で,その半分が中国向けだ。五位のナマコ調製品(4.8%)の89.3%と六位のカツオマグロ類(4.6%)の35.8%が中国・香港向けだ。それ以外は少ないのでこれでほぼ全体像がわかる,と思いきや中国で285億円(33%),香港で405億円分(54%)はその他の水産物だ。なお,三位の真珠の72.7%は香港向けだけれどこれは食べないからなあ。

結局,主にひどい目にあうのは北海道のホタテ業者(ほぼ100%)と北海道・青森・山口のナマコ業者(これで50%)ということなのか。

NHKのクローズアップ現代で,「フクシマ」論の元凶の開沼博が国民一人1600円魚を食べて応援しようという酷い発言をしていた。単純な自分は思わずうなずいて騙されそうになってしまった。食べて応援する場合は,ホタテとナマコを中心としてあと少しのマグロ・カツオを加えることを忘れないようにする。


図:ホタテとナマコ(どこぞからコピペして加工したもの)

2023年9月4日月曜日

トリチウム(1)

話題のトリチウムだ。

放射性崩壊のベクレルという単位は,1秒間に1崩壊を表わしている。放射性物質の半減期をT [s] とすると,t秒における放射性粒子数は,N(t) = N(0) exp( - 0.693 t /T ) にしたがって減少する。そこで,1秒間の崩壊で減少する粒子数 x は, N(0)-N(1) ≒ N(0) × 0.693 1/T = x [Bq] となる。

トリチウムの半減期,12.3年は 12.3 [y] × 3.16 10^7 [s/y] = 3.88 10^8 [s] である。したがって,1モル = 6.02 10^23個のトリチウムは,1.08 10^15 Bq(1080兆ベクレルに相当する。福島第一原発のタンクにあるトリチウム水( HTO = 分子量20)が,830兆ベクレルだとすれば,0.77モルにあたるので,134万トンのトリチウム汚染水には約15gのトリチウム水が含まれている。

放射性物質の量を表すとき,ベクレル単位にすると非常に大きな量として印象づけられるが,g単位であれば影響が小さいように見せることもできる。面倒な話である。

トリチウム原子は1PBq = 10^15 Bqで1モルなので,これを使うと次の数値が得られる。
地球上存在する全トリチウム〜140kg,宇宙線で自然に生成されるトリチウム 200 g/年,原子力発電所などで生成されるトリチウム 300 g/年(うち1/4が放出カナダがCANDU炉で人工的に生成しているトリチウム 2 kg/年( 300万円/g),韓国のCANDU炉でも数百g/年 とある。


さて話はかわり,最近リバイバルしている核融合だ。国際熱核融合実験炉(ITER)のトカマクでは,DT反応が用いられる。すなわち重陽子とトリチウムが主な燃料となる。100万kWの核融合炉を1年運転させる(3×10^16J)ためには,効率100%としても14MeV(2×10^-12J)のエネルギーを持つ中性子が放出されるDT反応を10^28回 生起する必要があり,10^4mol = 30kgのトリチウムが必要になる。どこからかき集めてくるのだ

Wikipediaの「トリチウム」によれば,トカマクの場合点火時に3kg 用意すればよいとある。あとはブランケットのLiに中性子を吸わせて,6Li+n → T + 4He + 4.8MeV,7Li+n → T + 4He + n -2.5MeV で,トリチウム(T)を再生産するらしい。それでも消費燃料(D+T)が500g/日という記述になっている,どういうこと。レーザー核融合だったらベレットを作る手間が発生するが,どのみちリチウムブランケットからのトリチウム取り出しサイクルは必要になってくる。

核融合では高レベル廃棄物が出ないといえども,134万トンに薄まった15gのトリチウム水でばたついている人類が,数kgのトリチウムを自由に扱える日がくるのだろうか。


[2]よくわかる核融合炉の仕組み(日本原子力学会核融合工学部会)
[4]環境トリチウム—その挙動と利用(高島良正,1991)

2023年9月3日日曜日

ALPS処理水(6)

ALPS処理水(5)からの続き

福島第一原子力発電所のALPS処理水放出に係わる問題点は,(1) トリチウムの放出量,(2) それ以外の残留放射性物質の放出量,(3) 廃炉過程の進行に伴って(1)(2)がどう変化しいつまで続くか,の3点に整理できる。水産業その他の経済的被害・事業継続性の問題,国内外の政治的なプロパガンダと危機管理,放射性廃棄物処分の原則と基礎の話などは少し置いておく。

ここでは,まだ定まっていない廃炉プロセスを考慮しない場合のトリチウム総量の推移を考える。

 ALPS処理水の放出にともなうトリチウム排出量は,最大で22兆ベクレル/年とされている。これは,事故前の放出制限基準値であるが,実際の放出実績は2.2兆ベクレル/年だったので,10倍かせいでいる。なお,2011年事故前の平均値でいえば,沸騰水型原子炉:0.02兆〜2兆ベクレル/年,加圧水型原子炉:18兆〜87兆ベクレル/年,日本の原子力発電所合計:380兆ベクレル/年である。

現在の,福島第一原子力発電所のデブリ領域におけるトリチウムの生成量はどこにもちゃんと説明されていない。そこで,82万Bq/Lという最も高い平均タンク濃度と,冷却水や流入地下水によって発生する汚染水の量,90㎥/日を組み合わせる,これにより得られるトリチウム生成量として27兆ベクレル/年を採用する(ALPS処理水(4)参照)。

タンク平均トリチウム濃度62万Bq/Lから得られる,現時点の134万㎥のタンク貯水量に対応するトリチウム量は,830兆ベクレルであった。そこで,微分方程式を解く代わりにExcelで1年ごとのトリチウムの推移を求める。ある年のトリチウム量に対し,毎年の生成トリチウム量と最大排出トリチウム量を加減し,これに半減期12.3年に対応する1年間のトリチウム減少率exp(-0.693/12.3) = 0.945 をかけるという操作を繰り返して次年のトリチウム量を求める。

ただし,地下水流入を現在の半分に抑えるという話もあるので,8年後に90㎥/日が60㎥/日になるという場合も同時に考えた。このときのトリチウム生成量は18兆ベクレル/年である。これだと正味のトリチウム減が実現される。結果をグラフで示すと次のようになった。


図:ALPS処理水放出によるトリチウムタンク総量の推移


現在のままでは,毎年正味のトリチウム量は増加しているので,有限値に収束する。その値は,89兆ベクレルである(年間増加ベクレル×半減期/0.693)。一方,生成トリチウム量を2/3の18兆ベクレル/年に抑えることができたばあいは,約46年後の2070年ごろに貯留タンク分が空になり,その後18兆ベクレル/年の放出が続いていく

これに廃炉プロセスが加わると途端に話が複雑になってしまう。仮にデブリを切り出して取り出すとすればその際に新たに水と触れることによって発生する放射性物質の挙動がどうなるかは全く分からない。普通に考えると,ALPS処理性能がどうなるか,トリチウム濃度がどうなるかなどいろいろ心配になる。

もっとも,絶対安全派の立場ならば,放射性物質の総量は関係なくて,規制基準値を下回るまでとにかく薄めればよいという議論になるのかもしれない。なにしろ,1.4京ベクレル/年というフランスのラ・アーグ再処理施設の水準まではまだまだ余裕があるのだから。

P. S. 東京電力の資料[3]によれば,2050年に放出完了になっている。どうやら,発生トリチウム濃度の評価が異なっているようだ。

[2]トリチウムの物性について (+他の参考資料 2014-2016年ごろ)
[5]牧野淳一郎さんのTwilog(Xだと検索がうまくできないので困っている)

2023年9月2日土曜日

ALPS処理水(5)

ALPS処理水(4)からの続き

原子炉への流入を防ぐ目的で,陸側遮水壁周辺のサブドレンから汲み上げた地下水は,2015年9月からすでに海洋放出が行われている[1]。海洋放出に当たっては,規制基準値の6万ベクレル/Lの1/40という目標値1500ベクレル/Lの濃度内という制限を設けており,実際のトリチウムの排出濃度は,平均660ベクレル/L(最大でも1100ベクレル/L)である。

現在までの詳細データは[2]に公表されている。しかし,この地下水汲み上げ海洋放出における,1年間の放出トリチウム量をまとめた情報は2017年分までで途切れていて[1],処理水ポータルサイトでも定量的な説明はない。ちなみに,2016年は1300億ベクレル/年,2017年は1100億ベクレル/年である。

そこで,詳細データを集計してみると(面倒な話です),2023年6月分は160億ベクレル/月が放出されている。単純に12倍すれば,1900億ベクレル/年のオーダーである。この汲み上げ地下水放出のおかげで,地下水が原子炉デブリ領域に浸入して高濃度のトリチウムが大量に生成するのを防いでいるのだからありがたいとしなければならない。

事故前の冷却水等による年間トリチウム放出量実績は2.2兆ベクレル/年,10倍の水準であり,8月に始まって今後想定されるALPS処理水の放出22兆ベクレル/年,100倍の水準である。

微々たるものだといえばそうなのかもしれないけれど,それも含めてすべての情報は整理しながら公開しないと余分の議論や疑惑を誘発するだけである。


P. S. CNICによれば,そもそも福島第一原発から専用港に漏れている放射性物質は,全βで3.5兆ベクレル(内トリチウムで0.6兆ベクレル)になる。希釈用の汲み上げ海水は北の5号機,6号機取水口なので多少はましなのだろうか。

[4]地味な取材ノート(まさのあつこ)

2023年9月1日金曜日

関東大震災朝鮮人虐殺事件

今年は,1923年9月1日に発生した関東大震災100年にあたる。

8月30日のNHKクローズアップ現代では「集団の狂気なぜ ~関東大震災100年虐殺の教訓~」というタイトルでこれが取り上げられていた。森達也監督の映画「福田村事件」を軸として,集団化した人間の怖さと,歴史的な教訓にどう向き合うかを中心に話が進んだ。

東京都の小池知事が6年前から,朝鮮人犠牲者追悼碑前で開かれる追悼式典への追悼文を送らなくなったことには触れないだろうなと思って見ていたが,非常に控えめではあるが取り上げられていた。全然斬り込めていなかったけれど。小池知事の影響下の東京都人権部は,さらに悪質なことに,東京都人権プラザ(港区)で2022年11月30日まで開催中の飯山由貴さんの個展「あなたの本当の家を探しにいく」の付帯事業で,関東大震災での朝鮮人虐殺に言及した映像作品《In-Mates》の上映を禁止している

日本政府も同様であって,ロイターによれば
政府は9月1日に発生100年となる関東大震災を巡り、当時の朝鮮人虐殺への論評を避ける構えだ。松野博一官房長官は30日の記者会見で「政府内において事実関係を把握する記録が見当たらない」と強調し、コメントしなかった。反省や教訓の言葉もなかった。虐殺を巡っては、事実そのものを疑問視したり否定したりする言説が後を絶たず、歴史の歪曲や風化が懸念される。

日本会議を始めとする,右側の歴史修正主義者の圧力に次々と屈する事態が発生しているのだった。

本当に,政府内において事実関係を把握する記録がみつからないのかどうか,気になって,google で,朝鮮人虐殺 + 関東大震災 + site:go.jp で検索してみると確かに余り見つからない。衆議院や参議院における代表質問関連,国立国会図書館や科学技術振興機構のJ-STAGEの文献類以外はほとんどない。

一次史料ではないが,内閣府の防災情報のページにある「災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 平成21年3月 1923 関東大震災【第2編】」にはかなり詳しい話が載っていた。また,外務省の外交文書デジタルコレクションには,関東大震災関係 2中国人等被害関係 という資料は存在している。当時は韓国併合(1910-1945)の時代だから,朝鮮人は外務省マターにはならなかったのだろう。


追伸:菅野完が,森達也を批判した返す刀で「集団化した人間の怖さ」だけを強調することの問題点を指摘していた。日本では,地震などによる大災害は頻繁に発生している。なぜ,関東大震災のときにこれほどひどい虐殺事件が発生したのか。その特殊性を帝国主義的な社会構造や植民地主義的世界観により以下のように説明している。

その特殊性とはすなわち、正力松太郎が流した官製デマであったり、当時の官憲が震災前から虎視眈々ととりわけ共産主義者を弾圧しようとねらっていた(日本共産党の結成は、1922年つまり震災の前年だ)という時代背景であったり、ロシア革命への介入戦争であったシベリア出兵直後だったという社会背景であったりじゃないのかね?(菅野完,Facebook 2023.9.5)

 

2023年8月31日木曜日

ALPS処理水(4)

ALPS処理水(3)からの続き

東京電力や経済産業省の処理水ポータルサイトをみても,肝腎の情報がわからない。ALPS処理水の希釈放出は科学的に安全ですということだけが,これでもかと繰り返し強調されている。

科学の素養があるインフルエンサーの多数派は,単純化された前提と論理の組み合わせで,科学的には絶対に安全なのだとSNS上で強調している。科学的な問題点を指摘する声があっても議論はかみ合わず堂々巡りになる。それだけではなく,疑問や不安を表明すること自身が,フェイクであり風評加害であるという言説まで飛び出す始末だ。

ニセ科学バッシングもそうであったけれど,科学的にありえないことを否定できるという絶対的な正義の立場にたつとき,人々は安心して敵を追いつめることができる。そこまではよいとしても,その習慣が,コロナ感染症拡大時のPCR検査やワクチンの安全性や今回のALPS処理水放出のような微妙な場合でも科学の名のもとに威力を振るうことになる。そして,それは政治的な権力を持つ側の主張と重なることが多い。


自分が知りたかった情報は何か。トリチウムの発生量と放出量をなるべく正確に理解して,それがどのように推移するかを理解したいということ。

今は漠然と,基準濃度以下で科学的にはまったく安全だから,安心して魚介類を食べなさいという話になっているが,これがいつまで続くかは曖昧だ。廃炉に30-40年かかるとはいうものの,その道筋も完了形態も全く明らかにされていない。確かにデブリの性状が不明だと,再臨界を避けながら冷却する処理方法が簡単には確定しないというのは分かる。


トリチウムの発生量=トリチウム汚染水の発生量 × 発生時点のトリチウム濃度である。
タンクのトリチウム濃度としては,K4群:19万Bq/L,J1-C群:82万Bq/L,J1-G群:27万Bq/Lという数字がみつかった。35基あるK4群タンク以外のタンク数やその意味は探しきれなかった。また,前回示したように,全タンク群平均:62万Bq/Lという数字もある。

ところで,82万Bq/Lはトリチウムの放出における告示濃度(6万Bq/L)に対する比率14であり,生成時点でのトリチウム濃度はこれを越えることは間違いない。とりあえず,この値を採用して計算を進めてみる。福島第一原子力発電所の汚染水環境において,1年間に新たに発生するトリチウムの量は,90㎥/日×365日×8.2億Bq/㎥ = 27兆ベクレル/年,これだと希釈したALPS処理水を22兆ベクレル/年で放出しても一定量は残存することになる。


2023年8月30日水曜日

ALPS処理水(3)

ALPS処理水(2)からの続き

自分がよくわかっていないことなど。

(1) デブリがたまっている1-4号機への地下水の浸入を防ぐため,陸側遮水壁(凍土壁)が設けられ2018年に完成したが,最近どうなっているのかの情報がほとんどない。東電の処理水ポータルで検索してもまったくヒットしない。完成後に,流入する地下水は顕著に減少したようだけれど,地下水流入を完全に防いでいるわけでもない。

(2) 1-4号機の周辺の核汚染水は建屋周辺のサブドレンで汲み上げて,タンクに保管しストロンチウム・セシウム除去やALPS処理を行っている。また2015年に完成した海側遮水壁(30m)で核汚染された地下水の海への流出を防いでいることになっている。が,実際の地下水の動きがどうなっているか,海に流出していないのかは完全に把握されていない。

(3) ALPS処理施設では,トリチウムと放射性炭素が除去できない。また,初期の運用や設備の不具合からタンクに保管されている水のうち全体の7割の処理途上水は,放出の規制基準を満たしていない。東電と政府は放出前には再度ALPSを通して,問題がなくなる水準まで浄化処理するとしている。が,第三者機関による恒常的な監視測定体制が存在しないため,信じる人達は安全性は完全だと主張するが,信じられない人は不安を抱えたままになる。

(4) 単純計算すると,現在のタンク容量の余剰分が3万㎥なので,日々の追加汚染水発生量 90㎥/日で割れば,1年弱の余裕がある。タンク設置場所についても,5号機6号機周辺などまで含めればありそうに見える。が,貯蔵場所が大熊町から双葉町に拡大するのでそれはそれで話が面倒なのかもしれない。

(5) そもそも,東京電力によればALPS処理水放出によってタンクを空ける理由は以下のようになっている。一応30-40年後が廃炉完成目標らしいのだけれど,その進行状況は非常に難しいものになっている。反対派はチェルノブイリのようにさっさと石棺をつくればとしているが,それはそれで政治的にも技術的にもハードルはかなり高そうである
Q:福島第一原子力発電所の敷地内のタンクに長期保管できないのですか。

A:今後、高濃度の放射性物質である燃料デブリの取り出し等、リスクを低減するための廃炉作業を計画的に進めていくにあたり、発電所内で必要な敷地を確保する必要があります。
(6) 経済産業省の「アルプス処理水について」(2020.7)によれば,「専門家会議が6年余り検討した結果、 5つの方法の中から、前例や実績があることから 「海洋放出」と「水蒸気放出」の 2つが現実的とされました。」とあるにもかかわらず,東京電力の処理水ポータルでは,肝腎の水蒸気放出の情報には全く触れられておらず,代わりに次のQAが掲載されている。
Q:「地層注入」や「地下埋設」によるALPS処理水処分は検討したのですか。

A:国のタスクフォースで検討され、「規制的、技術的、時間的な観点から現実的な選択肢としては課題が多い」とされています。
(7) 国際原子力機関(IAEA)のスタンスは,報告書の7p にあるDirector Forward の末尾にある。
最後に、福島第一原子力発電所に貯蔵されている処理水の放出は、日本政府による国家的決定であり、本報告書はその方針を推奨するものでも支持するものでもない(that this report is neither a recommendation nor an endorsement of that policy)ことを強調しておきたい。しかし、この決定に関心を持つすべての人々が、IAEAの独立した透明性のあるレビューを歓迎することを願っていますし、このプロセスの開始時に申し上げたように、IAEAはALPS処理水の放出前、放出中、放出後に立ち会うことを保証します。 
 


2023年8月29日火曜日

大阪市科学館学芸員

大阪市立科学館の学芸員(物理学)の募集がある。珍しいことだ。どなたかが退職されたのだろうか。早速,応募要項の小論文に挑戦してみた(もちろんChatGPTさまがです)。

Q:User
博物館が社会的機能を果たすための、学芸員の役割を述べなさい。 ( 800 字以上 1,000字以内)


A:ChatGPT
博物館が社会的機能を果たすための学芸員の役割

博物館は、歴史、文化、自然などの多岐にわたる知識を保存し、伝える場所としての役割を果たしています。その中心に位置するのが、学芸員という専門家です。学芸員は博物館の社会的機能を果たすために、以下のような役割を担っています。

1.知識の保存と伝承
学芸員は、博物館に収蔵されているアイテムや情報の専門家として、それらの保存と管理を行います。また、展示を通じて一般の人々に知識を伝える役割も果たします。これにより、文化や歴史が次世代に継承されることを保証します。
2.展示の企画・制作
学芸員は、博物館の展示の企画や制作を行います。これには、テーマの選定、展示物の選択、解説文の作成などが含まれます。学芸員の専門的な知識と視点が、訪問者にとって魅力的で教育的な展示を実現します。
3.教育活動の推進
多くの博物館では、学芸員がワークショップや講演会、学校との連携プログラムなど、教育活動を推進しています。これにより、博物館が学びの場としての機能を強化し、社会に貢献します。
4.研究活動の推進
学芸員は、自らの専門分野に関する研究活動を行うこともあります。この研究は、新しい知識の発見や、博物館のコレクションの価値を高めるために不可欠です。
5.コミュニティとの連携
学芸員は、地域コミュニティや他の機関と連携し、共同プロジェクトやイベントを企画することもあります。これにより、博物館が地域社会との結びつきを強化し、より多くの人々に利益をもたらすことができます。
6.アクセシビリティの確保
学芸員は、博物館ができるだけ多くの人々に利用されるよう、アクセシビリティの確保に努めます。これには、障害を持つ人々や高齢者、外国からの訪問者など、さまざまな背景を持つ人々のニーズに応える取り組みが含まれます。
7.情報のデジタル化
近年、デジタル技術の進化に伴い、学芸員は博物館のコレクションや情報のデジタル化にも取り組んでいます。これにより、博物館の知識がより広く共有され、世界中の人々にアクセス可能となります。

まとめると、学芸員は博物館が社会的機能を果たすためのキーパーソンとして、多岐にわたる役割を担っています。彼らの専門的な知識と情熱が、博物館を学びと発見の場として、そして文化や歴史の宝庫として、多くの人々に愛される存在としています。

素直すぎて面白みに欠けるから,倍率が高い場合はこれでは採用されない。あらかじめ断った上で,科学博物館に限定して話を展開して自分の面白エピソードをぶっ込むとか。 

2023年8月28日月曜日

SLIMプロジェクト

8月28日の9時半に予定されていたH-IIA47号機の打ち上げは上空の強風のため延期された。

このロケットには,X線分光撮像衛星(XRISM,2.3t)と小型月着陸実証機(SLIM,0.7t-0.2t)が搭載されている。SLIMにはそれほど多くの燃料が積めないので,スイングバイを用いながら3-4ヶ月かけて月の周回軌道に到着し,さらに1ヶ月後に月のクレーター斜面に着陸する予定だ。

SLIMは画像照合航法により精度100mオーダーのピンポイント着陸を目指している。軽量な探査機の5つの接地ポイントに3D形成されたアルミ製のショック吸収材が取り付けられていて,斜面ならではの2段階接地着陸をするようだ。下り坂方向に反射しないことを祈る。

一方,先日無事に月の南極への軟着陸に成功したインドのチャンドラヤーン3号(月着陸船部分,3.9t-1.7t)である。こちらは普通に地球周回軌道−遷移軌道−月周回軌道と飛行し,7月14日の打ち上げから1ヶ月後の8月23日に月に軟着陸した。着陸後のRoverによる探索の映像も送られている。

図:SLIMプロジェクトの軌道イメージ(JAXAから引用)

インドのものに比べると日本のはオモチャみたいで残念だけれど,小型で機動的だというメリットはあるのかもしれない。成功すればですが。ただ,北朝鮮の軍事人工衛星実験をあくまでも弾道ミサイルなのだと国内向けに宣伝し続け,H3ロケット試験機1号機はじめ,トラブル続きの日本の先行きが不安ではある。

2023年8月27日日曜日

ALPS処理水(2)

ALPS処理水(1)からの続き(8/31/2023,9/12/2023 数値を一部訂正)

(1) 現在タンクにたまっているのは,1046基 134万㎥ のトリチウム汚染水 = ストロンチウム処理水(1%未満) + 処理途上水(7割) + ALPS処理水(3割) である(タンク総容量は137万㎥)。ここで用いるトリチウム汚染水とは,上の簡易定義からわかるように他の放射性物質を含まないということを含意しない。

(2) タンクのトリチウム汚染水の平均トリチウム濃度は,62万Bq/L = 6.2×10^8 Bq/㎥ である。これらのタンクに存在するトリチウム総量は,8.3×10^14 Bq=830兆ベクレルとなる。(東京電力の2021.4時点の平均濃度を援用し現在のトリチウム汚染水の総量をかけたもの)

(3) 1,2,3号機の約880tのデブリを冷却するための注水(3㎥/時)+流入地下水・雨水等が合わさって,毎日約90tの汚染水が新たに発生している。上の平均トリチウム濃度をかけると(本当は発生時のトリチウム濃度をかけるべき),年間のトリチウム汚染水増加量は,3.28万㎥/年20兆ベクレル/年の増加)となる。

(4) 一方,東京電力は年間トリチウム排出総量は22兆ベクレル以下(事故前の福島第一原発冷却水の放出管理値,放出実績は2.2兆ベクレル/年)という条件を自らに課しているので,最大で3.55万㎥/年 までALPS処理水を放出できることになる。134万㎥ /(3.55万㎥ - 3.28万㎥) = 500年でタンクをほぼ空にすることができる。あれっ?
 →これはおかしいので,トリチウム半減期を考慮した計算をする必要がある(宿題)

(5) なお,トリチウム濃度を1500Bq/L以下にするため海水で400倍に希釈しているならば,最大1400万t/年の海洋放出となるが,希釈の意味があるのかどうなのか・・・

で,初回はALPS処理水7800t(0.58%,1.1兆ベクレル)を17日間かけて流す(460t/日)。放出される希釈前のALPS処理水の平均トリチウム濃度が14万Bq/Lとされる。海水で400倍に希釈すれば,350Bq/Lとなり8000㎥/h (19万㎥/日)の速度で放出されている。今年度中にはALPS処理水3.1万 t (2.3%, 5兆ベクレル) を放出するということらしい( 9/11/2023 7800tの放出完了)。

経済産業省のページには,「(3)水産庁は、明日から、魚のトリチウム濃度を当分の間、毎日サンプリング・分析を行い、明日の取得分は、26日の夕方、結果を公表する予定です。」とあった。一方,東京電力の処理水ポータルサイトには魚の分析には1ヶ月半を要するとまじめに書いてある。いくら簡易速報値とはいえ,こういう情報公開のアンバランスが信頼性を損なっている。


[1]処理水ポータルサイト(東京電力)
[4]アルプス処理水について(経済産業省,2021.3)
   ・・・8/27の新着情報が6/15なのでほとんどやる気が感じられない


2023年8月26日土曜日

確率変数

コーシー=シュワルツの不等式からの続き

あまり意味がわからない確率変数がどのように定義されているかというと,理数系の基礎数学 7確率・統計」柴田文明,岩波書店や「現代数理統計学」竹村彰通,創文社では概ね次のようになっている。
確率変数
根元事象の一つ一つに割り当てられた数値のどれかをとる(確率的に変動する)
変数Xを導入し,この変数Xを確率変数とよび,その数値を確率変数Xの実現値という。

確率関数
各実現値xでの確率を考え,さらにこれをxの関数と見たものを,
確率変数Xの確率関数という,p(x) = P(X=x)
そもそも,変数とは何か。それが確率的に変動するとは何か。確率関数の定義式Pの中のイコールは何か(数学だから代入ではない)。等々,疑問で一杯。

コルモゴロフ流の定義(小山昭夫,渡辺澄夫)だともう少しスッキリする。
(1) 根元事象 ω:試行(測定)で生ずる1つ1つの結果
(2) 標本空間 Ω:すべての根元事象の集合(ω ∈ Ω)(Ω:全事象)
(3) 完全加法属 F( σ集合属):標本空間 Ω の 部分集合の集合で 次の条件をみたすもの。Ω ∈ F,A ∈ FならA^c(補集合) ∈ F,Fに属する部分集合の和集合(無限個まで)が F に属する。
(4) 確率 P(A):すべてのA ∈ Fに対して,P(A) ≧ 0, P(Ω) = 1, Ai ∩ Aj = ∅ ならば,P(∪ An) = Σ P(An) (確率の連続性)を満足する P(A) を事象Aの確率という。
(5) 確率空間:(Ω, F, P)の組のこと
(6) 確率変数 X(ω):確率空間(Ω, F, P)と可測空間(Ω', F')に対して定義された写像 X:Ω→Ω' が確率変数である
(7) ただし,任意のB ∈ Ω' に対してX^{-1}(B) = {ω ∈ Ω | X(ω) ∈ B}∈ F
(8) 確率変数Xの分布関数 F(x):F(x) = P(X≧x)
(9) 確率変数Xの密度関数 f(x):f(x) = dF(x) /dx,  f(x) ≧0, ∫ f(x) dx = 1

確率変数は,試行の結果として現れる「量」を表している。試行前は未知だが,試行を行う(ωが定まる) と X(ω) という量を出力する。こうして,確率を扱う理論には試行(測定) という概念が不可分に導入されることになる。


確率変数がその後どのように使われるかを知っておけばもう少しだけ安心するかもしれない。
(1) 期待値:E(X) = Σ x P(X=x) または E(X) = ∫ x f(x) dx
(2) 分散:Var(X)=E((X-E(X))^2)
(3) 標準偏差:σx = √Var(X)
(4) 共分散:Cov(X, Y) = E((X-E(X))(Y-E(Y))
(5) 相関係数:ρxy = Cov(X, Y) /( σx σy )

2023年8月25日金曜日

塩田剛三

合気道の塩田剛三先生(1915-1994)にはまってしまった。

民放の番組をまじめに見ていたら,かつて塩田剛三は良く取り上げられていたので常識として身についていたのかもしれないが,この度YouTubeで動画をみるまではまったく知らなかった。

合気道(1942-)は,植木盛平(1883-1969)が大東流合気柔術柳生新陰流鹿島新當流などから編み出した総合武術である。その植木盛平の初期の高弟が塩田剛三だ。残された動画を見ると,154cm 46kg という小柄な身体で,何人もの巨漢を次々と投げている演武がでてくる。プロレスの演技のようにもみえるが,1962年に来日したロバート・ケネディが道場を訪れた際に,巨漢のボディーガードを実際に簡単に制圧している動画が残されている。

塩田剛三は,1955年に養神会合気道を立ち上げて独立して初代館長となる。三男の泰久が2007年から2012年まで第3代の館長を務めていたが,その後別れて,2014年に塩田国際合気道連盟(SIAF)を設立した。剛三の孫で泰久の三男の塩田将大も所属してYouTuberとしても活動している。

[1]合気道団体(Wikipedia)
[2]合気道・塩田将大【ShiodaGozoWorld】(YouTube)

2023年8月24日木曜日

現代芸術文化センター(仮称)

7月25日,夕方のTVにちょっとセンセーショナルなニュースが流れた。


大阪市は紆余曲折の後に,大阪中之島美術館をスタートさせたが,大阪府はバブル時代の現代芸術文化センター構想を頓挫させてしまった。その過程で大阪府が収集していた7900点の美術作品(大阪府20世紀美術コレクション)が宙に浮いてしまう。その多くは受け皿として設置された大阪府立江之子島芸術文化創造センターで管理されているのだが,105件の大型作品は収容することができなくて,2017年から大阪府の咲洲庁舎地下駐車場の一角に放置されることとなった。

今年の2月には次のような記事が流れている。「10億円近くかけたのに美術館計画が頓挫、大阪府が苦肉の「バーチャル美術館」設置へ」,このニュースでは105件の駐車場物件には言及はないが,大阪・関西万博をからめた,前向きな取り組みとして紹介されている。

ところで,この度の事態の判明を受けて設置されたアート作品活用保全検討チーム(座長:山梨俊夫・前国立国際美術館館長,鷲田めるろ・十和田市現代美術館館長,木ノ下智恵子・大阪大21世紀懐徳堂准教授,上山信一・府特別顧問)の発言が早速毎日新聞の記事「デジタルで見られるなら処分も 地下駐車場美術品で大阪府特別顧問」になって,ネットで炎上している。あと「地下駐車場の美術作品をどう守る? 大阪府に専門の学芸員不在」とか。

記事における売却と処分の使い分けがどこまで正しいのかが微妙だし,そもそも作品の著作権処理がどうなっているかが分からないので,なんともいえないことが多い。しかし発言者があの上山信一で,彼が「デジタル化すれば処分してもいい」と言ったことに対して(本人は後に処分でなく売却のことだと弁明したが・・・)大ブーイングの嵐となったわけだ。

まあ,府市二重行政論者の大阪維新吉村=松井チームが,なぜ,大阪中之島美術館を設置したときにうまく処理しなかったのか,というつっこみはあるよね。

マッキンゼー出身の上山信一も昔は都市における芸術作品の意義というか,大阪の美術館の役割の重要性を吹聴しまわっていたくせに,このたびは,吉村の意向を受けて火消しに走るという節操のなさが重用されるポイントなのだろう。


P. S. 日本維新の会の馬場代表も,政治資金ロンダリング疑惑や福祉法人乗っ取りの話題で忙しいのだけれど,日本維新の会のマッチョイメージを覆すとして,刀を持って新撰組の羽織を着て鼻息荒く猪突猛進しそうなマスコット「いしんのしし」を宣伝して,こちらも大顰蹙となっていた。
1979年 岸昌府知事
1980年 中之島に大阪府立現代美術センター
1983年 (大阪市制100周年記念事業基本構想 近代美術館)
1988年 大阪府新美術館構想
1989年 現代芸術文化センター(仮称)の基本構想に関する報告書
1991年 中川和雄府知事
1995年 横山ノック府知事
1996年 「現代芸術文化センター(仮称)構想」の凍結
2000年 太田房江府知事
2001年 「現代芸術文化センター(仮称)構想」が正式に廃止
2007年12月 (平松市長)
2008年2月 橋下徹府知事
2008年6月 大阪府立現代美術センター廃止へ
2011年11月 松井一郎府知事・(橋下市長)
2012年3月 大阪府立現代美術センター廃館
2012年4月 大阪府立江之子島文化芸術創造センター開館
2013年2月 (大阪新美術館整備決定)
2015年12月 松井府知事・(吉村市長)
2017年 大阪府20世紀美術コレクションの一部105点を咲洲庁舎B3F駐車場に
2019年4月 吉村洋文府知事・(松井市長)
2022年2月 (大阪中之島美術館開館)
2023年2月 大阪府バーチャル美術館新設方針
2023年7月 咲洲庁舎B3F駐車場の美術コレクションが問題に
2023年8月 アート作品活用・保全検討チーム

2023年8月23日水曜日

イェンセン不等式

凸関数からの続き

夢の中で,n変数の相加平均が相乗平均より大きくなることの証明ができそうになった。

起きてから早速その続きを考えたけれど,残念ながらうまくいなかった。これは以前に鈴木貫太郎のチャンネルでも証明されていたが数学的帰納法を使っていたことしか憶えていない。

しかたがないので,インターネットで検索してその方法を調べた。簡単な方法として,イェンセン不等式を利用するものと,帰納法を使うのだけれど関数の極値問題に帰着させるものが見つかった。

イェンセン不等式という名前を聞いたことがなかったのでこちらで考えてみる。これは凸関数の性質を拡張したもので,$f(x)$を凸関数として次式で与えられる。

$\displaystyle \sum_{i=1}^n p_i f(x_i) \ge f(\sum_{i=1}^n p_i x_i )$  (ただし $ 0 \le p_i \le 1 $ かつ $\displaystyle \sum_{i=1}^n p_i = 1 $)

$n=2$の場合は凸関数の定義式を表わしている。$n=k$で成り立つと仮定して,$n=k+1$でも成り立つことを示せば良い。以下で,$q=\sum_{i=1}^k p_i, \quad q_i=p_i/q (i = 1 \dots k), \quad q+p_{k+1}=1$とする。

$\displaystyle \sum_{i=1}^{k+1} p_i f(x_i) = \sum_{i=1}^k p_i f(x_i) + p_{k+1} f(x_{k+1}) = q \sum_{i=1}^k q_i f(x_i) + p_{k+1} f(x_{k+1})$
$\displaystyle \ge q f(\sum_{i=1}^k q_i x_i) + p_{k+1} f(x_{k+1}) \ge f(q \sum_{i=1}^k q_i x_i + p_{k+1} x_{k+1}) = f(\sum_{i=1}^{k+1} p_i x_i ) $

これを使って$n$変数の相加平均と相乗平均の関係を出すために,
$f(x) = -\log x,\quad p_i=1/n$とする。
$\displaystyle \sum_{i=1}^n p_i (-\log x_i)  \ge -\log (\sum_{i=1}^n p_i x_i), \quad \frac{1}{n} \log (\prod_{i=1}^n x_i ) \le \log (\frac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_i)$

したがって,$n$変数の相加平均が相乗平均より大きくなることが示された。
$\displaystyle (\frac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_i) \ge \Bigl( \prod_{i=1}^n x_i \Bigr)^{1/n}$

2023年8月22日火曜日

教育と倫理(6)

教育と倫理(5)からの続き

小学生のころ道徳の時間はもっとも苦手だったのに,高校の倫理は最も真剣に授業をうけていた。そんなわけで,倫理という言葉にはなぜか過剰反応してしまうのかもしれない。

そもそも教育基本法がよくないのである。2006年12月,第一次安倍政権で公布された改正教育基本法だけではなく,戦後まもない1947年3月に公布された教育基本法もである。

教育基本法の第1条が教育の目的であり,改正前後とも「教育は、人格の完成を目指し(めざし)」となっている。改正によって前文を含めてこのあたりも微妙に日本国憲法の精神や歴史を切り離すような改変が加えられたという問題もあるのだが,そもそも人格の完成のところで自分の違和感メータが振り切れるのであった。

人格とは?それは完成するものか。それは目指すべきものか。いきなり疑問符があふれ出す。自分の中で人格という言葉とその周辺に形成されている意味群が標準的ではないからなのかもしれない。人格者=偽善者じゃないんですか。人格が完成した大人を見たことがありますか。人格=心理学のパーソナリティではないですよね。などなど。

それ以上は真面目に調べていなかったのだけれど,教育基本法の成立過程でもかなりの議論があったようだ。そもそも教育基本法における人格は心理学的概念ではなくて哲学的概念である


文部科学省にある,昭和22年教育基本法制定時の経緯等に関する資料によれば,教育刷新委員会による教育基本法案要綱案(1946年11月29日)では,教育の目的として「教育は、人間性の開発をめざし、」となっていた。

これを審議した教育刷新委員会の第一特別部会のメンバーは,芦田均羽渓了諦天野貞祐務台理作関口鯉吉森戸辰男河井道島田孝一であった。当初の8月から9月の文部省案には人格の完成という言葉があったが,教育刷新委員会における議論の末にこれは人間性の開発に変更された。

ところが,1947年3月の文部省最終案では,人格の完成に戻ってしまっている。これには時の文部大臣の田中耕太郎の意志が大きく働いている。田中はカトリックの法哲学者で後に最高裁判所の長官をつとめている。

宮村悠介[1]によれば,
なお,田中はカトリックの自然法論を思想的背景としており,「人格」の理解にも宗教的な色合いが濃い.つまり「人格の概念」は,人間が「自己の中にある動物的なものを克服して,神性に接近する使命を担っていることを内容とする」のであり,「人格の完成」も,人間を超える完全な人格の模範を必要とするから,「超人間的世界すなわち宗教に求めるほかはない」.今日の教育基本法の「人格の完成」という表現の背後には,こうした宗教的な人格理解がある.
また,山口意友[6]によれば,
人格は自由と分離すべからざる関係にある。人間が本能、衝動、情欲等を制御克服し、道徳的に行動する場合において、自由であり、自主的である。・・・以上のべたところによって人格は、教育基本法第一条の前身ともいうべき教育刷新委員会の建議中にいわれている「人間性の開発」の人間性と同じ意義のものではないことがわかる。・・・人間性の開発という表現は現実の人間性を意味するものと誤解される懸念があるから、人格の完成を以て一層適当とするのである。(田中耕太郎『教育基本法の理論』72~78頁参照)
というわけだ。さらに,
このように人格の完成という目的達成のためには、道徳的自由、すなわち意志の自律の存在が必須となるのです。さらにカントは、『単なる理性の限界内における宗教』という著作の中で、人間の素質を、①「生物としての人間の動物性の素質」、②「生物であると同時に理性的な存在者としての人間性の素質」、③「理性的であると同時に引責能力のある存在者としての人格性の素質」の三つに区分します。ここで示された三つの素質は、教育基本法における教育の目的が「人間性の開発」ではなくて「人格の完成」となった理由を理解するには有用です。恐らく田中耕太郎もカントのこの3区分を知っていたのではないかとも考えられます。
このように,ある教育の目的が「人格の完成」だということは,その教育の本質が道徳教育だと表明していることに他ならない。だから,教育基本法改正で細かな外堀が全部埋められたことを問題にする以前に,そもそもの出発点がおかしかったのである。

いや,もちろんおかしくないという意見もあるのだろう。AIアシスタントの時代に,教育の本質として要請されるのは,再定義された道徳教育=市民教育以外にはないのかもしれない。とすればなおさら人格の完成という言葉は馴染まないし使いたくないものだ。


追伸:単純にいえば,"Education is the transmission of knowledge, skills, and character traits. " (Wkipedia)なのだ。なお,道徳教育(3)における我流の教育の定義ではキャラクター≒性格のことは全くふれていないかった。それは教育という意識的な伝達過程を経るべきものなのだろうか。

追伸2:そうか,田中耕太郎は,砂川事件の最高裁裁判長だったのか。もう最悪ですね。日本の戦後教育の出発点はこんなところにあるのだった。

[2]教育基本法資料室へようこそ(文部科学省)
[5]「人格の完成」の思想的含意(田中智志)


2023年8月21日月曜日

教育と倫理(5)

教育と倫理(4)からの続き

デジタル技術によって生徒や学生の学習活動情報が容易に取得できるようになった。例えば,LMSへのアクセス情報,資料の参照ページ情報や,教材動画の視聴情報などである。それだけではなく,CBTにおける視線情報などが考えられるが,このような身体的情報についてはさらに可能な範囲がひろがる。

身体的情報として,脈拍や体表面温度,手や身体や頭の動作運動情報などもセンサーで取得できるだろう。さらに下手をすると,尿や血液の化学成分とか脳波情報にまで至るかもしれない。それが学習支援につながるかどうかは仮説と検証の結果次第である。

これまで生徒の発話情報や動作情報は,教員が直接に見聞きして確認できていた。そこまでは問題ないが,それを録音や録画する場合には許諾が必要かもしれない。これらは生徒が意識的に制御できる身体=言語情報だ。ところで上記にあげたような,学習場面において自分が意識で制御できない身体的情報の取得はそもそも倫理的に許されるのだろうか。

個人情報保護法と同じような原則で考えれば良いのかもしれない。「目的明示の原則」「利用範囲の原則」「収集過程の原則」「真正情報の原則」「情報保護の原則」「過程公開の原則」「個人参加の原則」「管理責任の原則」がその基本原則である。
目的明示の原則
 個人情報を収集する際には,その利用目的を明確にし,その目的の範囲内でのみ情報を使用する。不必要な情報を収集しないよう努めることも含まれる。
利用範囲の原則
 収集した個人情報は,事前に明示または公表した利用目的の範囲内でのみ使用し,その目的外での利用や第三者への提供は原則として行わない。
収集過程の原則
 個人情報は,適切な方法で,利用目的を達成するために必要な範囲内で収集する。不正な手段や偽りの手段での収集は禁止される。
真正情報の原則
 収集した個人情報は,利用目的を達成するために必要な正確性と最新性を持つように努める。不正確な情報は適切に訂正や削除を行う。
情報保護の原則
 個人情報は適切に管理し,不正アクセス,紛失,破壊,改ざん,漏洩などのリスクから保護するための措置を講じる。
過程公開の原則
 個人情報の取扱いに関する方針や手続きを公開し,透明性を確保する。また,収集した情報の内容や利用目的などを適切に開示する。
個人参加の原則
 個人が自らの情報にアクセスしたり,訂正や削除を求めることができるような仕組みを提供する。これにより,情報の正確性や適切な利用を保証する。
管理責任の原則
 個人情報の取扱いに関する責任を組織全体で負う。組織のリーダーや管理者は,適切な管理や教育を行い,情報の適切な取扱いを確保する。
やはり個人参加の原則あたりがポイントかもしれないが,テクニカルな問題に帰着する。

そういえば脳波は40年以上前に,理科教育の松本勝信先生がやっていたのだった。一番センシティブなのは脳波かと思っていたら,すでにそれを使ったアプリまであった。例えば,脳波を用いた学習者のモーティべーションの可視化のようなもの。

[2]FocusCalm
[3]Muse2・・・瞑想フィードバック,ちょっと違う?

2023年8月20日日曜日

教育と倫理(4)

教育と倫理(3)からの続き

仲矢さん自身が,「もし居眠りするのであれば,それはその人に居眠りする理由が存在するのだ」として,居眠り検出器であることを否定しているのだが,一般には個人を特定した居眠り検出器のようにみられている。立ち歩きなどの問題行動検出器だとは説明しにくいし,実際それが授業支援に役立つというのは理解しにくいだろう。

そこで「これ国会で使ってください」という皮肉なコメントがつくことになる。


中学校時代の国語の教生の先生で,学期にわたってクラスに入ってくれた方がいた。度のきつい眼鏡をかけた先生だったが,もう名前も忘れてしまった。彼女が,授業を始める前に最初に全員に向かって話したのが,「私は寝ている生徒がいても起して叱ることはありません」ということだった。それぞれの生徒には色々な事情があって,授業中に眠ってしまうことがあるかもしれないけれど,それは認めますということだ。中学3年の東京修学旅行の最後の訪問地が羽田飛行場で,すでにやめていたその先生が久しぶりにみんなに会いに来てくれていた。


一方,豊福さんの原理主義的な主張もなかなかハードルが高い。インフォームドコンセントまではよいけれど,はたしてデータハンドリングを学習者当事者に任せることが可能なのだろうか。

テキストデータとしての学習履歴などは可能だと思うが,センサーから取得した生データのようなものはどうなるのだろうか。一律ONとOFF以外のケースはなかなか面倒なことになりそうだし,データの完備性は損なわれざるを得ない。

教育という営みの非対称性は認めるにしても,完全にイーブンな形は想像しにくい。それは,これまでの古い教育観に完全に染まった自分に学習者視点が欠けているからかもしれないし,あるいは過度なポリティカルコレクトネスのようにも思う。芦田宏直さんならまた別の物語を展開するだろう。

2023年8月19日土曜日

教育と倫理(3)

教育と倫理(2)からの続き

もう一度出発点に立ち戻ってみる。仲矢さんがこのシステム開発を始めたのは,同じ大阪教育大学の庭山和喜さんの研究がきっかけになっている。

その論文は,2020年度の日本教育心理学会の城戸奨励賞を受賞した,「中学校における教師の言語賞賛の増加が生徒指導上の問題発生率に及ぼす効果 ―学年規模のポジティブ行動支援による問題行動予防― 」である。公立中学校2年生を対象として,授業中の教師の言語賞賛回数の増加によって,生徒の授業参加行動が促進されることで, 相対的に問題行動は減少するのかについて検証したものだ。

その問題行動というのが居眠りではなくて,「授業中に複数の生徒が立ち歩いたり,離れた席の生徒間で私語をしたり,物を投げたりといった様子が観察されていた」というレベルのものであり,研究のためにはこれを定量的に記録する必要があったのだ。

ただし,研究遂行上の作業負荷としては,教員の言語称賛回数の記録の方が大きいので,教員の発話を全て記録してこれを分析するシステムを開発するほうが有効だったような気がするが,そのあたりの事情はわからない。

ともかく,このサーマルカメラAIシステムを分かりやすく説明するために居眠りの例を持ち出したため,話が面倒になっている。そもそも,研究段階では立ち歩く生徒数の定量的に把握することは意味があるのだけれど,これを一般に利用される授業支援システムとして考えるというのはどうもしっくり来ない。

(1) 一般論として,隠れたデータの可視化が授業改善に資することはあるだろう。
(2) サーマルカメラAIシステムは研究目的では有効な場合があると思う。
(3) しかしこれを常時使用することで授業改善につながるとは考えにくい。
   検出される問題行動は定量化以前の課題として教員に認識されているからだ。
(4) むしろ教室の常時監視状態を実現することが及ぼす影響のほうが気になる。
(5) これが生徒もしくは教員のパフォーマンスの評価に用いられる危険性は高そうだ。

庭山さんの論文の最後は次のようになっている。
また本研究では,問題行動の指標として,学校現場で日常的に記録されている生徒指導上の問題の記録をデータ化して用いた。これは,問題行動予防のための取り組みの成果を,学校現場内で常にモニタリングするために有効かつ比較的低コストなデータ収集方法である。児童生徒の問題行動予防のための効果的な取り組みが求められる中で,今後は学校内で日常的に運用可能なデータ収集システムを確立し,問題行動を予防するための組織的支援の効果について,実践研究を積み重ねていく必要がある。
これが影響したのかもしれないが,本質は個人ごとのテキスト形式ワークシートの共有化なので,今回の匿名化されたサーマルカメラAIシステム的なデータのことではないはずなのだけれど。

2023年8月18日金曜日

教育と倫理(2)

教育と倫理(1)からの続き

そこで次のような問いを,最近バカになってきているとあまり評判が芳しくないGPT-4(August-3)に投げてみてた。

Q:User
教室全体の様子を赤外線カメラにおさめて,学生や生徒が居眠りしているかどうか(個人までは識別しない)をAIによって(深層学習システムを用いて)画像解析し,これを授業改善に結びつけるシステムの開発に成功したという教員養成系大学の研究グループからの発表がありました。

これに対して,賛否両論があって議論が盛り上がっています。教育工学あるいは教育倫理学の立場から,このシステムの可能性をどのように評価すべきでしょうか。あるいはどのような問題点を抱えているでしょうか。具体的に箇条書きによって解説してください。
 
A:ChatGPT
このようなシステムには確かに多くの可能性がありますが、同時に多くの問題点も考慮する必要があります。教育工学や教育倫理学の視点から考慮すべきポイントを以下に箇条書きでまとめます。

可能性

1. 授業改善:生徒の反応をリアルタイムでキャッチすることで、教師が授業の内容やペースを調整する手助けとなる。

2. データ駆動の教育:長期的なデータ分析により、特定のテーマや時間帯に生徒の興味が低下する傾向などを発見できる。

3. 個人情報保護:個人を識別しないシステムであれば、プライバシーの懸念が少なくなる可能性がある。

問題点

1. プライバシーの侵害:個人を識別しないとしても、生徒の行動を監視することはプライバシーの侵害と見なされる可能性がある。

2. 圧力とストレス:このようなシステムが導入されると、生徒が常に監視されていると感じることでストレスを感じる可能性がある。

3. 評価基準の偏り:居眠りをする生徒が授業に興味がないとは限らない。体調や前夜の睡眠不足など、多くの要因が考慮されるべきである。

4. 技術的誤検知:AIの誤検知や技術的な制約により、正確なデータが得られない場合が考えられる。

5. 教育の本質:授業の質を生徒の居眠りの有無で判断することは、教育の本質から逸脱する恐れがある。

6. 倫理的な問題:教育現場での技術導入は、その目的や手段が明確である必要があり、適切なガイドラインや枠組みのもとで行われるべきである。

以上のように、このシステムの導入には様々な側面が考慮される必要があります。教育現場での技術の利用は、その利点とリスクを十分に評価し、関係者全員の合意のもとで慎重に進めることが求められます。

2023年8月17日木曜日

教育と倫理(1)

ことの発端は,8月3日の大阪教育大学の記者発表である。

その内容は,サーマルカメラのAI画像分析によって,生徒の活動状況(寝ているかどうか等)を判別して授業改善に利用しようというものだ。NHKの関西版ニュースにも「授業中の居眠りをAIで検出,大阪教育大学がシステム開発」として取り上げられていた。このご時世なのでなんであれ,大学がニュースに取り上げられるのは結構なのですが・・・。

さっそく反論があった。最も本質的なものの一つが,豊福晋平さんのFacebookのコメントツリーの中にある彼自身の発言だ。
テクノロジーは道徳のない増幅機である
学習者の学びを支えたいのか、それとも、相手の行動を好き勝手にコントロールしたいのか、テクノロジーは人の欲望をグロテスク化させる。 
この事例は開発者のかなりアレな学習観を暴露していて痛快ですらあるのだが、もっと踏み込んで言えば、大学広報として公式に扱う以上、組織の教育・学習観も所詮その程度のものということだ。

・・・途中のレスにもあったように、彼らの価値観は教師主導の授業改善がベースで(朝日新聞にはそう説明したんでしょう)、実はそこにあるデータ所有の非対称性や恣意的な解釈・権威付けが批判されているのに、それに気付けない。問題はそこにあります。

研究だから何でもイノセントでよいわけではなく、その背景や価値の方向付けにはこと自覚的であるべきで、倫理的・社会的にそれが許容されるのか否かについては余計に慎重であらねばならない、ということですね。 

これはぜひ覚えておいて欲しいのですが、学習者視点の欠如はかなり深刻な問題です。

データの取得・分析・フィードバックが学校のような非対称の関係性のなかで行われれば、インフォームドコンセントの欠如、データの強制取得、データの恣意的運用による不利益が生じる可能性があります。これはテストデータや学習履歴についてもまったく同じです。

学習者側の直接的なメリットがあること、データハンドリングを学習者当事者に任せることが条件になると思います。一方的にデータを吸い上げて授業改善は理由になりません。


一方,その他の様々な批判に対してFacebookの仲矢史雄さんは次のように語っている。
教育改革は教師だけの責任にしたり、学生の努力不足と決めつけてはならない。
本当に改善を進めるためには、客観的な観察と記録が必要で、これは細部にわたる長時間の作業を要求する。 
これまでは人間がその役割を担ってきたが、その作業負荷は大きすぎた。
現代の技術を活用して、これらのプロセスをデータ化することが望まれていた。
それは表面的な応用ではないという理解が必要だ。 
だれが特に居眠り検出装置のような短絡的な目的のためにこれを作るのだろうか。もし居眠りするのであれば、それはその人に居眠りする理由が存在するのだ。しかし、今回の取組が報道によって、分かりやすい部分だけ切りとられることは、メディアの性質として避けられない現実。 
もし私たちのプロジェクトがそのような切り取り方で紹介されることを嫌がるのであれば、情報を公開しなければいい。しかし、新たな取り組みが他の人々に利用されるためには、予想外の解釈をされる可能性を理解した上で、腹をくくって情報を公開しなければならない。道のりは遠い。

お二人ともを良く知っているだけになかなか考えさせられる。

仲矢さんは昔から附属で表情分析システムのようなことをやっていて,そのころの自分は深く考える前に「なかなか面白いですね」と応援していた。ただ,今回のシステムがどれほど価値があるのかはよくわからない。日立の研究者によるウェラブルセンサーによる長時間動作解析の可能性については,何年か前に読んだことがあって,たいへん面白いと思ったことがあるのだが。

自分が40-200人規模の大学の授業で「サーマルカメラシステム」を使えるとなったときに,果たして使うだろうか。居眠りしているかどうかは学生をみればわかる。授業のどの場面で集中が切れるかを細かく分析してなくとも,ある程度は直感的に全体像をつかみながら,テーマの選択や話の展開の改善にはぼんやりとつなげていた。いらないかな。

これがウェラブルセンサーであって,普通は見えにくい学生の活動情報を収集できるというのであれば,ちょっと面倒だが試そうと思ったかもしれない。しかしその場合,取得データを評価と結びつけたいという誘惑から逃れる自信はない。さらに,自分が大学管理者の側に立ったときに,これを教員の教育評価と結びつけようと積極的に主張し始めるかもしれない。地獄に続く道への第一歩。

豊福さんの「テクノロジーは人の欲望をグロテスク化させる」というのは自分に当てはめてみるとよくわかる。

2023年8月16日水曜日

空間ID

空間IDとは,経済産業省が整備を進めているデータ規格で特定の場所や地物情報を一意に識別するための識別子だ。

現実の空間を「ボクセル」と呼ばれる3次元空間を直方格子状に分割した直方体で区切り,その一つ一つに,地理的な座標や静的な情報(建物や設備データなど),動的な情報(気象情報や人流データなど)を紐付けた固定のIDを付与することで,特定の空間の情報を一意に識別する。

ボクセルのサイズを1辺50cmの立方体とする。日本の面積が37万㎢で,海まで含めてその3倍の面積100万㎢を考え,高さ9km深さ1kmの体積を考えると,10^7立方キロメートル= 10^16㎥なので,ボクセルでいうと,10^17ボクセルになり56ビットで表現できる。

でも実際はそんな単純なスキームではなくて,もう少しややこしいことになっているようだ。一方,総務省はG空間というものを提起していたけれどどうなのか。

2023年8月15日火曜日

ビジネスと人権

7月24日から8月4日まで,国連連合人権理事会による「ビジネスと人権」ワーキンググループの訪日調査が行われた。

最終日に日本記者クラブで記者会見が行われた。70分の説明の後,30分ほどの質疑応答があったけれど,申し訳程度に1件だけダミーの質問があった以外は,すべてジャニーズ事務所セクシャルハラスメント問題に費やされていた。なんなのだろう。

実際には,訪日調査の速報は下記引用部のような配分になっていた。()内は当該節の文字数である。

つまり,ジャニーズ問題より多くの部分が,技能実習生制度(雇用主による度重なるヘイトスピーチなど,韓国人・中国人労働者に対する外国人差別の事例を含むや,自然環境=東京電力福島原発の廃炉作業に関わる多重下請けと強制労働の問題に費やされていた。さらに,福島原発の処理水の排出と米軍基地周辺におけるPFASも取り上げられている。

リスクのあるグループとして最初に取り上げられているのは,女性とLGBTQI+の話題であって,日本会議や統一教会と強く相互作用している自由民主党宗教右派が頑強に抵抗しているテーマであった。なお,ジャニーズ問題を含むメディアとエンターテインメント産業の項でも女性記者に対するハラスメントや差別が言及されている。

最初に,GPT-4のプラグインを使ってこの英文報告ファイルを読み込んで要約させたが,どうもおかしいので原文を確認したところ,その要約は全く的を外していた。それで,DeepLに和訳させて下記のデータを整理したのだけれど,実は,報告の日本語版もちゃんと存在していたのだった。
国連ビジネスと人権作業部会訪日ミッション(7月24日~8月4日) (14160)

【1】はじめに(1084)

【2】日本におけるビジネスと人権の一般的背景(5140)
2−1 人権を保護する国家の義務(1193)
2−2 人権を尊重する企業の責任(3766)
2−3 救済へのアクセス(2088)
・国家に基づく司法メカニズム(528)
・国家に基づく非司法的苦情処理メカニズム(777)
・国家を基盤としない苦情処理メカニズム(705)

【3】利害関係者グループおよび問題関心分野(6605)
3−1 リスクのあるステークホルダー・グループ(2804)
(1)・女性(565)
(2)・LGBTQI+(467)
(3)・障害者(514)
(4)・先住民族(632)
(5)・部落(457)
(6)・労働組合(117)
3−2 テーマ別分野(3451)
(1)・健康、気候変動、自然環境(1662)
(2)・技能実習生訓練プログラムと移民労働者(927)
(3)・メディアとエンターテインメント産業(804)

【4】結論(825)


図:ビジネスと人権の関係(ヒューマンライツ・ナウから引用)


2023年8月14日月曜日

LK-99

7月22日にarxivで公開された常温常圧超伝導の話題が,8月に入るとすぐ盛り上がっていた。

LK-99 が,常温常圧超伝導を示すといわれる物質名である。話題の論文の筆頭著者(化学者)である,S. Lee (李石培 이석배) と J-H. Kim (金智勳 김지훈) が1999年に発見した。六方晶系の鉛アパタイト(Pb10(PO4)6O) の鉛のいくつかを銅で置換したものであり,論文には登録商標マーク(LK-99®)があって,特許も取得している

中央大学の田口善弘さんが,arxivに上がっているプレプリントのクオリティをディスっていた。もしかするとその一部は著者らの専門が化学であって物理分野とは違う文化であることに起因するのかもしれない。物質名(通称)の命名方法(著者名イニシャルを含める)とか登録商標についてもそのあたりなのだろうか。

追試過程の報告があちこちからでているが,ネガティブなものと気持ちポジティブなものが混在していて,いきなり全否定というわけでもないようだ。例の常温超高圧超伝導の件よりは少しマシかもしれない。なお,このグループは2020年にNatureに同趣旨の論文を投稿しているが不採用だった。さらに,今回の論文を巡っては著者グループ間には微妙な確執があるとかないとかいう話だ。

この実験を受けて,理論サイドでは,密度汎関数理論(DFT)などの第一原理計算によるシミュレーションがなんらかの可能性を示唆するという論文が続出している。LK-99がだめでも新しい物質の可能性があるのではないかという楽しげな雰囲気も漂っている。まあどんなケースでもそれらしい理論は作れてしまうというのが世の常なのだけれど。

1986年の高温超伝導フィーバーのときは,物性実験の人達がこぞって乳鉢で材料を調整し,論文を書いていたが,そのときの熱気に近いものが立ち上がりつつある。YouTubeの浮上実験の動画を見て,単なる反磁性だという説とか反磁性だとしてもすごいのではないかという説が入り交じり,DIY素人が実験に参戦しつつあるらしい

なお,最新の変化しつつある情報は,英語版WikipediaのLK-99に詳しい。



図:高温超伝導の歴史(Wikipediaから引用)

P. S.  8月第2週に入って,400Kにおける抵抗値の減少が不純物のCuSの1次相転移によるものであり,浮上は強磁性由来だということで決着しそうな気配がただよってきた。祭りは終了。


2023年8月13日日曜日

模擬原爆

先週の8月6日は78回目の原爆忌だった。

1945年7月,広島や長崎(予定では小倉,もしくは候補としての新潟)に原爆を投下するための実験や訓練のために模擬原爆(パンプキン爆弾)が日本に多数投下されたというニュースがあった。もしかすると,1973年の夏の旅行で訪れた広島平和記念資料館で展示を見たかもしれないが,全く記憶から消えていた。
パンプキン爆弾は,「原爆投下に備えた爆撃機乗員訓練のためと,今までに例のない特殊な形状をしたファットマン(引用注:長崎に投下されたプルトニウム爆弾)が爆撃機(原爆搭載が可能なように特別に改修したB-29)から投下され爆発するまでの弾道特性・慣性能率等の様々な事前データ採取のために,いわば「模擬原爆」として製作された。」(Wikipediaから引用)
平和祈念資料館によれば,「1945年(昭和20年)7月20日から8月14日までの間に49発が投下され、1,600人以上の死傷者が出ました。」ということであり,8月9日の長崎の後も続いていた。模擬原爆投下の目標とされたのは,当初の原爆投下候補地だった京都市,広島市,新潟市,小倉市の各都市を含む4つのエリアに分けた周辺都市である。例えば,富山市には4発も投下されていた。


図:模擬版段の投下(西日本新聞から引用)

[1] もう一つの「原爆」大阪に落とされた模擬原爆(大阪日日新聞)
[2]模擬原子爆弾投下跡地之碑(大阪市東住吉区)

2023年8月12日土曜日

(夏休み 12)

祖父・祖母・男孫・女孫
 할아버지(halabeoji) 할머니(halmeoni) 손자(sonja) 손녀(sonyeo)

2023年8月11日金曜日

(夏休み 11)

兄・姉・弟・妹
현(hyeong) 누나(nuna) 남동생(namdongsaeng) 여동생(yeodongsaeng)

2023年8月10日木曜日

2023年8月9日水曜日

2023年8月8日火曜日

2023年8月7日月曜日

2023年8月6日日曜日

2023年8月5日土曜日

2023年8月4日金曜日

2023年8月2日水曜日

2023年8月1日火曜日