ネット上で原発関係のまともな情報を得られるのは,神戸大学の牧野淳一郎さんくらいしかいない。おしどりマコにトラウマがありそうなキクマコや水野さんはじめ,あとは疑似科学的な体制翼賛会になっている。と感じるのは自分の座標系が偏っているからかもしれない。
安定ヨウ素127は海水中に60ppb含まれる。その放射性同位体であるヨウ素129は,1570万年という長い半減期を持つので注意が喚起されている。
ヨウ素129は,ウラン238の自発核分裂,Xeと宇宙線の反応などで自然界に生成される。その結果,地殻圏に320TBq (50t),大気水圏に1.7Tbq (260kg) 存在している。一方,核実験により0.3TBq (43kg)が ,再処理施設からは11TBq (1.7t) が 放出拡散している。安定同位体のヨウ素127との存在比は,核実験以前の天然存在比は,I129/I127 = 10^-12 だったが,現在の太平洋の表面海水では10^-10程度である(北海では10^-6)[4]。
原子力発電所では,ウラン235の1核分裂当たり,ヨウ素129が072%,半減期8日で最も注意が必要なヨウ素131が2.9%生成される。半減期が10^-9倍短いヨウ素131は,ヨウ素129より放射能が10^9倍強いことになる。ところが,同量のヨウ素同位体があった場合,1年も経たずに,ヨウ素129の放射能がヨウ素131を上回る( (1/2)^30=10^-9,30×8 = 240日)。
ALPS処理水において,セシウム137とヨウ素129のベクレル濃度はほぼ等しいのであるが,半減期が50万倍違うので,長期的な影響はヨウ素129がセシウム137より50万倍(まではいかないか)大きいことになる。これを牧野さんが指摘しているわけだ。
まあ,人間の体を構成しているカリウム40や炭素14などの自然放射能は100 Bq/Lなので,1 Bq/L程度は気にならないかもしれないが,ヨウ素は生物濃縮して(海藻により数千から数万倍に)なおかつ甲状腺に集まるので,あまり油断してもいけない。
(注1)海水中の安定ヨウ素127の濃度は,60ppb = 0.06mg/1kg であり, 5×10^-7 mol/L = 3×10^17 個/L 存在する。一方,ヨウ素129の半減期が1570万年 = 5×10^14 s なので,1個のヨウ素129は,0.693/(5×10^14) = 1.4 ×10^-15 Bq にあたる。つまり,1 Bq/Lのヨウ素129は,7×10^14個/Lに相当し,1Bq/Lの海水におけるヨウ素129のヨウ素127に対する同位体存在比は 2×10^-3 となる。予定通りの放出により,近海では太平洋の表面海水の平均ヨウ素127比の数千万倍になる(もし核実験以前の10^-12Bq/Lと比較すれば一億倍)。
(注2)バナナ1本100gには10Bqのカリウム40が含まれるが,安心して食べて良い。上記の環境で生育した乾燥コンブ100gには200mgのヨウ素が含まれる。注1の環境ではこの0.2%(0.4mg)がヨウ素129である。つまり,この100gの乾燥コンブには,0.4 mg/129 g × 6×10^23 = 2×10^18 個 = 3000 Bq のヨウ素129が含まれる(ただし,コンブ生産量の95%は北海道であり,福島近海ではない)。
[1]多核種除去設備等処理水の取扱いに関する検討状況【概要】(東京電力,2021.8)
[2]環境中のヨウ素129とその分析法(九州環境管理協会)
[3]ヨウ素を通してみた地球・環境・生物(村松康行)
[4]ヨウ素129を利用した地球環境中のヨウ素の研究(松崎浩之)
[5]放射能汚染処理水放出と今後の影響(Dr. Taira)
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