原子炉への流入を防ぐ目的で,陸側遮水壁周辺のサブドレンから汲み上げた地下水は,2015年9月からすでに海洋放出が行われている[1]。海洋放出に当たっては,規制基準値の6万ベクレル/Lの1/40という目標値1500ベクレル/Lの濃度内という制限を設けており,実際のトリチウムの排出濃度は,平均660ベクレル/L(最大でも1100ベクレル/L)である。
現在までの詳細データは[2]に公表されている。しかし,この地下水汲み上げ海洋放出における,1年間の放出トリチウム量をまとめた情報は2017年分までで途切れていて[1],処理水ポータルサイトでも定量的な説明はない。ちなみに,2016年は1300億ベクレル/年,2017年は1100億ベクレル/年である。
そこで,詳細データを集計してみると(面倒な話です),2023年6月分は160億ベクレル/月が放出されている。単純に12倍すれば,1900億ベクレル/年のオーダーである。この汲み上げ地下水放出のおかげで,地下水が原子炉デブリ領域に浸入して高濃度のトリチウムが大量に生成するのを防いでいるのだからありがたいとしなければならない。
事故前の冷却水等による年間トリチウム放出量実績は2.2兆ベクレル/年,10倍の水準であり,8月に始まって今後想定されるALPS処理水の放出22兆ベクレル/年,100倍の水準である。
微々たるものだといえばそうなのかもしれないけれど,それも含めてすべての情報は整理しながら公開しないと余分の議論や疑惑を誘発するだけである。
P. S. CNICによれば,そもそも福島第一原発から専用港に漏れている放射性物質は,全βで3.5兆ベクレル(内トリチウムで0.6兆ベクレル)になる。希釈用の汲み上げ海水は北の5号機,6号機取水口なので多少はましなのだろうか。
[1]福島第一原子力発電所における汚染水対策(経済産業省)
[2]建屋近傍井戸(サブドレン)からの地下水汲み上げ(東京電力)
[3]福島第一原発は今も放射性物質を放出している(CNIC)
[4]地味な取材ノート(まさのあつこ)
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