2023年9月4日月曜日

トリチウム(1)

話題のトリチウムだ。

放射性崩壊のベクレルという単位は,1秒間に1崩壊を表わしている。放射性物質の半減期をT [s] とすると,t秒における放射性粒子数は,N(t) = N(0) exp( - 0.693 t /T ) にしたがって減少する。そこで,1秒間の崩壊で減少する粒子数 x は, N(0)-N(1) ≒ N(0) × 0.693 1/T = x [Bq] となる。

トリチウムの半減期,12.3年は 12.3 [y] × 3.16 10^7 [s/y] = 3.88 10^8 [s] である。したがって,1モル = 6.02 10^23個のトリチウムは,1.08 10^15 Bq(1080兆ベクレルに相当する。福島第一原発のタンクにあるトリチウム水( HTO = 分子量20)が,830兆ベクレルだとすれば,0.77モルにあたるので,134万トンのトリチウム汚染水には約15gのトリチウム水が含まれている。

放射性物質の量を表すとき,ベクレル単位にすると非常に大きな量として印象づけられるが,g単位であれば影響が小さいように見せることもできる。面倒な話である。

トリチウム原子は1PBq = 10^15 Bqで1モルなので,これを使うと次の数値が得られる。
地球上存在する全トリチウム〜140kg,宇宙線で自然に生成されるトリチウム 200 g/年,原子力発電所などで生成されるトリチウム 300 g/年(うち1/4が放出カナダがCANDU炉で人工的に生成しているトリチウム 2 kg/年( 300万円/g),韓国のCANDU炉でも数百g/年 とある。


さて話はかわり,最近リバイバルしている核融合だ。国際熱核融合実験炉(ITER)のトカマクでは,DT反応が用いられる。すなわち重陽子とトリチウムが主な燃料となる。100万kWの核融合炉を1年運転させる(3×10^16J)ためには,効率100%としても14MeV(2×10^-12J)のエネルギーを持つ中性子が放出されるDT反応を10^28回 生起する必要があり,10^4mol = 30kgのトリチウムが必要になる。どこからかき集めてくるのだ

Wikipediaの「トリチウム」によれば,トカマクの場合点火時に3kg 用意すればよいとある。あとはブランケットのLiに中性子を吸わせて,6Li+n → T + 4He + 4.8MeV,7Li+n → T + 4He + n -2.5MeV で,トリチウム(T)を再生産するらしい。それでも消費燃料(D+T)が500g/日という記述になっている,どういうこと。レーザー核融合だったらベレットを作る手間が発生するが,どのみちリチウムブランケットからのトリチウム取り出しサイクルは必要になってくる。

核融合では高レベル廃棄物が出ないといえども,134万トンに薄まった15gのトリチウム水でばたついている人類が,数kgのトリチウムを自由に扱える日がくるのだろうか。


[2]よくわかる核融合炉の仕組み(日本原子力学会核融合工学部会)
[4]環境トリチウム—その挙動と利用(高島良正,1991)

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