どうする大学からの続き
平成に入って(1989)バブルが崩壊(1992)し,阪神・淡路大震災(1995)があり,有馬さんがその道を開いた(1999)国立大学の法人化(2004)がスタートした。バブル崩壊後の30年で大学は疲弊し,日本の研究力は地に落ちつつあるとの認識が広がりつつある[1][2]。
そこで登場したのが,日本学術会議ではなく内閣府の総合科学技術・イノベーション会議だ。政府が大学予算を絞ってきたのが問題ではあるが,日本にも米国のトップ大学のような基金があれば大学は活性化できるというロジックで,2020年12月に閣議決定されたのが次の方向性である。
10 兆円規模の大学ファンドを創設し、その運用益を活用することにより、世界に比肩するレベルの研究開発を行う大学の共用施設やデータ連携基盤の整備、博士課程学生などの若手人材育成等を推進することで、我が国のイノベーション・エコシステムを構築する。
その基本的な考え方が定められ[3],具体化策は,法改正により科学技術振興機構の新しい役割として追加された[4]。ますます大学の選択と集中が加速され,金融資本だけが繁栄するというスバラシイ施策だ。
10兆円基金の年間運用益を3000億円と見込み,最終的にはこれで4-6大学を支援することになりそうなので,1大学平均500-700億円というところか。科研費の年間予算規模が2500億円なので,運用が成功すれば科研費総額を5大学だけに配るというような凄まじい話だ。
これに10大学(早稲田,東京科学,名古屋,京都,東京,東京理科,筑波,九州,東北,大阪)が応募した。大手の大学で申請しなかったのは,慶応義塾大学と北海道大学だった。その中から,東北大学,東京大学,京都大学が現地調査の対象として絞り込まれたというニュースを聞いたとき,てっきりこの三大学で決まったものだと思っていた。
ところがフタを開けてびっくり,東北大学1校だけが選ばれて,2024年度から支援を受ける候補になった。東北大学の計画書(の中のKPI)をみて,こんな絵空事で通るのかと奥村先生が憤っていた。25年間続けて,論文数が年率5.2%で増加し,そのうちTOP10%論文数が9.2%で増加するというのだから。
各大学の予算と今回の大学ファンドのオーダーを比較しようとして,大学名,予算規模,教職員数,学生院生数のリストをつくるようにChatGPTに頼んだところ,大学ファンドの話を持ち出しただけで全く役に立たなかった。むしろBardがのぞみの形を出力してくれたのだが,チェックすると数値は出鱈目だった。しかたがないので,人力で対応した。
順位 大学名 予算(億) 科研費(億) 教職員数 院生・学生数1 東京大学 2,538 211 11,547 27,3682 慶應義塾大学 2,791 36 4,247 33,0523 京都大学 1,839 141 5,553 22,2954 大阪大学 1,602 101 5,058 20,9695 東北大学 1,532 101 6,398 17,5916 早稲田大学 1,022 27 3,209 47,1277 九州大学 1,358 69 4,572 18,5608 筑波大学 1,123 43 4,627 16,5079 東京科学大学 1,176 117 4,824 13,42910 名古屋大学 1,289 78 3,207 15,90211 北海道大学 1,077 60 3,920 17,54112 東京理科大学 535 11 1,501 19,768
極めて局所に投入される大学ファンドの運用益は,各大学の予算規模の20%とか25%に相当するので,なんだかむちゃくちゃなことになりそうだ。どうして,こんなに荒っぽい政策しか考えつかないのだろうか。文部科学省のNISTEPは遅ればせながらややまともな分析をしているのだけど[1] ,時既に遅しということか。
*科研費は12大学・機関(-東京理科大+理化学研究所)で936億円(全体の40%程度)を占める。
[1]我が国の研究力の動向(文部科学省科学技術・学術政策研究所,2023.4)
[2]大学の研究力強化に向けて(文部科学省大学研究力強化室)
[3]世界と伍する研究大学の実現に向けた大学ファンドの資金運用の基本的な考え方(総合科学技術・イノベーション会議,2021.8)
[4]大学ファンドについて(科学技術振興機構)
[5]大学ファンドを通じた 世界最高水準の研究大学の実現に向けて(文部科学省)
[6]国際卓越研究大学の認定等に関する有識者会議による審査の状況(文部科学省)
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