2020年に経済産業省の多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会は,ALPS処理水の5つの処分方法から,実績があり技術的に可能である現実的な選択肢として,水蒸気放出と海洋放出をあげている。
はっきりした結論は文面にはないが,まとめには海洋放出のほうがよいというニュアンスがにじみ出ていた。海洋放出は91ヶ月,34億円,400㎡,水蒸気放出は120ヶ月,349億円,2000㎡という比較がなされた。
なお,実際にスタートした海洋放出では放水トンネル関連設備に350億円必要となり,さらに漁業被害対応基金が800億円ほど追加になった。また海洋放出の期間も30-40年が見込まれることになる。ほとんど話が違うの世界ではないか。
2021年には,海洋放出が原案として確定していた[3]。水蒸気放出を排除したのは,影響が広範囲に及び,検証も難しいというような理由付けだった。なお,スリーマイルアイランド原子力発電所事故の水蒸気放出の実績は,8700トンのトリチウム水(24兆ベクレル)を2年間でボイラーで蒸発させたというものだ。検討のため参考にされたのはこの方式だが,自分にはボイラーで過熱して蒸気にするというのはかなり抵抗がある。
中国とロシアが海洋放出実施前の7月,日本政府に水蒸気放出を提案していたというニュースも流れた。大気中の放射性物質のモニタリングが海洋よりも難しいという理由で提案を拒否し,海洋放出に至った。向こうが容認する水蒸気放出ならば,水産物禁輸には至らなかったのかもしれない。
(付)フランスのラ・アーグ再処理工場からの年間トリチウム放出は,液体で1.6京ベクレル,気体で70兆ベクレルである。トリチウム水蒸気では,スルーマイルアイランドの6倍に達する。これは勝手に漏れてくるものかもしれない。
[1]多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 報告書(経済産業省,2020.2.10)
[2]アルプス処理水の処分(経済産業省)
[3]東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における 多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針(案)(廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議,2021.4.13)
[2]大気中トリチウム濃度の変遷と化学形態別測定(宇田達彦,田中将裕)
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