4月7日付のScienceに,CERMのCDF実験によるWボソン質量の精密測定の結果が報告された。アブストラクトを訳すと次のようになる。
素粒子間の弱い力の媒介となるWボソンの質量は,素粒子物理学の標準模型の対称性によって厳しい制約を受けている。ヒッグス粒子は,この標準模型の最後の欠落部分であった。ヒッグス粒子が観測された後,Wボソンの質量を測定することで,標準模型を厳密に検証することができる。
私たちは,フェルミ国立研究所のテバトロン加速器のCDFII検出器を用いて,重心エネルギー1.96 TeVの陽子・反陽子衝突で収集した8.8 /fb の積分光度に相当するデータを用いてWボゾンの質量M_Wを測定した。約400万個のWボゾン候補のサンプルを用いて,M_W = 80,433.5 ± 6.4 stat ± 6.9 syst = 80,433.5 ± 9.4 MeV/c^2 を求め,その精度はこれまでのすべての測定値を合わせたものを超える。この測定は、標準模型の予想と大きく異なる(注:標準理論では,M_W = 80,357 ± 6 MeV/c^2,7σの食い違い)。
標準理論の綻びは,ミューオンの異常磁気能率 のところにも現れていたので,いよいよ新しい物理が見えそうな期待感が高まる。ただ,野尻さんは論文のアペンディックスを見て懐疑的な感想を述べているので,まだどうなるかわからない。Wボソンの質量とニューオンの異常磁気能率の組み合わせが,標準理論の矛盾を大きくする方向に働いているようだ。
早速,様々な理論が話題になっているけれど,レプトクォークよりヒッグス粒子のダブレットの方が無難なのかもしれない。