2025年9月1日月曜日

素粒子物理学の10年

ファイル倉庫の掃除をしていたら,萩原薫さんの2015年の「2015 年度原子核三者若手夏の学校,素粒子パート現象論講義録,素粒子物理学の現状と将来」という127pのpdf資料がでてきた。

10年間でどうなったかを,自分で読んで調べるのが面倒なので,このpdfを読み込ませた上でGemini 2.5 Pro に尋ねてみた。すると何となくそれらしい答えが返ってきた。どの程度ハルシネーションが混じっているのかはわからないけれど,自分の現在の物理に対する知識や理解の解像度では十分だと思われる。もう20年以上も物理から遠ざかっているからなあ。


この調子で自分で調べて考える力はどんどん衰えていく加齢とAIの相乗効果だ。良いのか悪いのか。宇宙の眼ディックが描いていた「加速器事故がもたらすグロテスクな個人の精神世界に飲み込まれる現象」というのがまさに今のトランプの世界である。そのチンケな先取りをしていたのは安倍晋三だ。そしてそれらを唯々諾々と受け入れてきた我々は,N国も再生の道も兵庫県も参政党も違和感なく支持している多数の人々(アホ)の隣人(アホ)であって,知力が衰えて全員で下降の道を辿っていたとしてもしょうがない。

Q(koshix):
10年前の講義録ですが,最新の素粒子物理学の現状で,この講義録の時点の内容と大きく変わったことはなんですか。具体的エビデンスを踏まえて解説してください。

A(Gemini 2.5 Pro):
2015年の萩原薫氏による講義録は、当時の素粒子物理学の現状と将来への期待、特に標準模型を超える新しい物理への強い確信を見事に捉えています。しかし、その後の約10年、特にLHC(大型ハドロン衝突型加速器)での実験やその他の精密測定実験によって、状況は大きく変化しました。

講義録で語られた期待と、2025年現在の現実との間で最も大きく変わった点は、LHCで期待されていたTeVスケールの新しい物理(特にミニマル超対称性標準模型(MSSM)のような理論)の兆候が発見されず、多くの理論モデルが厳しい制限を受けたことです。一方で、標準模型の予言と実験結果の間のいくつかの「ほころび」は、より鮮明になり、新たな謎として重要性を増しています

以下に、具体的なエビデンスを踏まえ、主要な変化を解説します。

1.ミューオン g-2異常:謎はより深く、確固たるものに

【2015年の講義録では】
萩原氏は、ブルックヘブン国立研究所(BNL)の実験結果に基づき、ミューオンの異常磁気能率(g-2)が理論予言から約3.3σ(標準偏差)ずれていることを「新しい物理が最も見つかる可能性が高い」ヒントとして挙げています 。彼は理論計算に強い自信を示し、これが新しい物理の存在を強く示唆していると論じていました 。

【その後の進展】
この異常は、その後の実験でさらに確固たるものになりました。米国のフェルミ国立加速器研究所(フェルミラボ)で行われた新しい「Muon g-2」実験が、2021年と2023年に相次いで結果を発表しました。これらの結果はBNLの測定値と一致し、精度も向上しました。

【エビデンス】 2023年に発表されたフェルミラボの最新結果とBNLの結果を統合すると、実験値と理論予測(SM理論イニシアチブによるコンセンサス値)との乖離は5σを超えました。これは統計的に「発見」を意味するレベルであり、このずれが単なる統計的な揺らぎである可能性は極めて低くなりました。この結果、ミューオンg-2の異常は、標準模型を超える物理の存在を示す最も強力な証拠の一つと見なされています。

2.LHCでの超対称性(SUSY)探索:深まる沈黙

【2015年の講義録では】
萩原氏はミニマル超対称性標準模型(MSSM)が非常に有力な候補であると強く信じていると述べています 。その理由として、①ゲージ結合定数の美しい統一 、②重いトップクォークの予言 、③電弱対称性の自発的破れの自然な説明 、などを挙げています。特に、銀河中心からのガンマ線異常とミューオンg-2を同時に説明できる「軽いスタウ(スカラータウ粒子、約100GeV)とビーノ(約10GeV)が存在するシナリオ」に注目し、LHCで検証できるはずだと期待を寄せていました 。

【その後の進展】
LHCはその後、重心系エネルギー13TeVでのRun 2(2015-2018)と13.6TeVでのRun 3(2022-)で膨大なデータを収集しました。しかし、現在に至るまで、超対称性粒子(スクォーク、グルイーノ、そして講義で期待されたスタウなど)の直接的な証拠は全く見つかっていません。

【エビデンス】 LHCのATLAS実験やCMS実験によって、多くの超対称性粒子の質量の下限値が大幅に引き上げられました。例えば、講義で議論されたような100GeV程度の軽いスタウが存在するシナリオは、現在ではほぼ完全に排除されています。多くのモデルで、主要な超対称性粒子の質量は数TeV以上でなければならないとされ、MSSMが提唱された当初の動機であった「自然さ(階層性問題の解決)」は大きく損なわれました。この「発見されなかった」という結果は、素粒子物理学の理論研究の方向性に大きな影響を与えています。

3.暗黒物質:WIMP仮説の後退と新たな可能性

【2015年の講義録では】
銀河中心から観測されたガンマ線の超過(Galactic Center Excess, GCE)について、質量約10GeVの暗黒物質(ビーノ)がタウレプトン対へ対消滅している証拠かもしれない、というHooperらの論文に非常に感銘を受けたと語っています 。これは当時、WIMP(Weakly Interacting Massive Particle)仮説を支持する有力な間接的証拠の一つと考えられていました。

【その後の進展】
GCEの起源については、議論が続いています。暗黒物質の対消滅で説明するシナリオは依然として可能性の一つですが、ミリ秒パルサーのような分解されていない天体物理学的な起源でも説明できるという見方が有力になっています。さらに、WIMPを直接検出する実験も飛躍的に感度を向上させましたが、信号は得られていません。

【エビデンス】 地下実験であるLZ (LUX-ZEPLIN) 実験やXENONnT実験が、2022年以降に世界最高感度での探索結果を報告しました。これらの実験は、WIMPと原子核の散乱断面積に対して極めて厳しい上限を与え、特にMSSMなどが自然に予言するようなWIMPのパラメータ領域の多くを排除しました。これにより、WIMP仮説への期待はかつてより低下し、アクシオンなど他の暗黒物質候補への関心が高まっています。

4.陽子崩壊とニュートリノ:限界の更新

【2015年の講義録では】
大統一理論(GUT)の正当性の根拠として、クォークとレプトンの統一や電荷の量子化を挙げていました 。GUTは陽子の崩壊を予言しますが、当時はまだ観測されていませんでした 。また、ニュートリノに関しては、マヨラナ粒子であり、その質量はシーソー機構によって説明されるという見方を示しています 。

【その後の進展】
これらの探索も着実に進展し、理論への制限を強めています。

【エビデンス】
・陽子崩壊: スーパーカミオカンデ実験は探索を続け、陽子の寿命の下限値をさらに更新しました。これにより、最も単純なSU(5) GUTモデルなどは、ますます厳しい状況に置かれています。現在は、次世代のハイパーカミオカンデ計画が建設中で、さらなる感度向上が期待されています。
・ニュートリノ: ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の探索実験(KamLAND-Zen、GERDA、EXO-200など)も感度を上げていますが、まだ発見には至っていません。これにより、ニュートリノがマヨラナ粒子である場合の有効質量の上限値が更新され続けています。

5.まとめ

2015年の講義録で語られた物理像は、理論的な美しさといくつかの間接的な証拠に支えられた、希望に満ちたものでした。しかし、その後の精力的な実験、特にLHCでの探索結果は、当時最も有力視されていたMSSMのようなTeVスケールの新しい物理のシンプルな描像を厳しく制限しました。

その結果、素粒子物理学の現状は、確固たる謎(ミューオン g-2)と、深まる沈黙(LHCでの新粒子不在)が共存する、より複雑で挑戦的な局面に入ったと言えます。研究の焦点は、特定のモデルから、より広範な可能性(より重い粒子、より弱い相互作用、アクシオンなど)の探索や、精密測定を通じて標準模型のほころびをさらに探求する方向へとシフトしています。


図:素粒子物理学10年のイメージ(Geminiによる,式は出鱈目)

P. S. 久しぶりにテレビで流れていたパプリカの録画をみると,さすがに素晴らしいアニメーションだった。平沢進の白虎野を含めて。これがまさにディックの宇宙の眼的なイメージの表現だ。その主役があの林原めぐみだったのか。残念至極。

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