2020年6月30日火曜日

「役に立たない科学」が役に立つ

エイブラハム・フレクスナーロベルト・ダイクラーフによる『「役に立たない科学」が役に立つ』が,初田哲男さんの監訳によって近々東京大学出版会から登場する。著者は,プリンストン高等研究所の初代および現在の所長である。この本は,この二人のエッセイ,明日の世界(ロベルト・ダイクラーフ),役に立たない知識の有用性(エイブラハム・フレクスナー)を中心に構成されている。後者は1939年にHerpars Magazine に掲載されたものでありすでに著作権が切れており,2013年の3月にあの山形浩生によって「役立たずな知識の有益性」として訳出されている。このタイトル比べただけでも,山形大丈夫かと思ってしまいそうだ。本は読んでいないけれど,2017年12月のダイクラーフの講演資料をみるとその趣旨がとてもよく理解できた。

図 The Usefulness of Useless Knowledge 原著の表紙(引用)


2020年6月29日月曜日

iPhone SE(1)

なにかおかしいように思い,iPhone 6Sをバッテリケースからはずしてみると,おなかが割れていた。たぶん,内蔵バッテリが膨らんだのだと思う。1,2年前にも同様の症状があったような気がしたけれど,記憶の霧のかなたである。

そんなわけで,次の機種として iPhone SE (第二世代)をいろいろと調べてみた。CPUはA13 Bionicの6コア3GBでフロントカメラが7Mピクセルになっている。外側のカメラは12Mピクセルなので変わらないのか。画面サイズは4.7インチで1334×750のまま。サイズも0.1〜0.2mm程度大きくて,138.4×67.3×7.3mm,重量は5gふえて148g。TouchIDのボタンは残っているので,ほとんど現状と違和感ないのではと思われるがどうだろう。イアホンミニジャックはなくなったのだけれど,lightning端子のEarPodsはついてくる。

問題はアプリや環境の移行だけれど,クイックスタートが使えるとある。いままで,使えなかったApple Payに対応している。また,NFCにも対応している。このあたり,何かおもしろいことができそうな気もするけれど,どうかな。iPhone 6Sはかなり使ってきたような気がしたけれど,2016年の正月に何故か香里園のソフトバンクショップで買っているので,まだ4年半だった。MacBook Pro は2012年のモデルなので,こちらはもう8年経っている。新しいOSが走らないので,むしろこちらを何とかしたかったのだけれど,むむむ。


追伸写真:バッテリケース上のおなかが割れた iPhone 6s (2020.7.4撮影)

2020年6月28日日曜日

THE MATH(S) FIX

THE MATH(S) FIX スティーヴン・ウルフラムの弟のコンラッド・ウルフラムによる数学教育革新のための青写真についての本である。

ウェブサイトのはしがきを訳すると,こんな感じだった。

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AI時代の教育の青写真

なぜ私たちは皆,生涯のうち何年にもわたって数学を教えられているのか?それは本当に役に立っているのだろうか,あるいは,ほとんどが失敗であり多くの人に学びの力を与えられていないのか?それはAI時代に不可欠なものか,それとも時代遅れの通過儀礼なのだろうか?

"The Math(s) Fix: An Education Blueprint for th AI Age" は,なぜ数学教育が世界的に危機的状況にあるのか,また,どうして根本的に新しい主流科目を創るのことが唯一の解決策なのか,を明らかにする画期的な本だ。

この本は,今日の数学教育が,現代的な計算・データ科学・人工知能(AI)が必要とされる現代社会を発展させるための機能を十分果たしていないということを主張する。その代わりに,学生はコンピュータが得意とするものと競争することを強いられて負けてしまっている。

本書は,「数学が苦手」であることが,学習者のせいというより,科目の失敗が原因であること,すなわち,教育のエコシステムが行き詰まり,学生・親・教師・学校・雇用者・政策立案者が,現実世界の要求に追いつこうと間違った方向に走っていることを説明する唯一の本である。

しかし,この本はさらに先を行くものである。問題を解決して,AI時代の教育の普遍的な改革の種を蒔くために,学校における中核的な計算思考科目としての完全に代替的なビジョンを初めて提示しているものだから。
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これがたぶんコンピューテーショナル・シンキング(計算論的思考)の王道なのだと思われる。でも,GIGAスクール構想にみんな出払ってしまっており,プログラミング教育とその周辺の話題はすっかり霞んでしまっていた。


図:THE MATH(S) FIX の表紙(Wolfram Media から引用)



2020年6月27日土曜日

磁場のエネルギー

点電荷からなる系の場合に,クーロン力の位置エネルギーの総和を時間に依存しない電場に対するマクスウェル方程式をつかって変形すると電場のエネルギー密度の体積積分になって,遠隔相互作用から近接相互作用への論理的な切り替えを納得させるトピックとなっている。

同様に,環状電流からなる系の場合に,電流間の力を導く位置エネルギーの総和を時間に依存しない磁場に対するマクスウェル方程式をつかって変形すると磁場のエネルギー密度の体積積分になる。このときの中間過程に電流密度とベクトルポテンシャルの内積の体積積分の1/2が出てくる。これは電場の場合に電荷密度とスカラーポテンシャルの積の体積積分の1/2が出てくることと対応していて,電荷と電流の並行な式がとてもきれいにみえるのだけれども,符号問題がなかなかすっきりしない。

単純に考えると,平行電流間には引力が働き,電流がつくるベクトルポテンシャルは電流と平行であることから,電流密度とベクトルポテンシャルの内積にマイナスをつけたものをエネルギー密度だとするのが物理的な直感と一致する。一方で,上の環状電流の場合では,マイナスをつけないものをエネルギー密度として計算をすすめている。

この符号問題については,砂川さん,前野さん,太田さんの教科書ではいちおう説明がされている。例えば,前野さんの教科書では,あらかじめ定まっている電流の配置(外部磁場への電流の配置)などの場合にはマイナスがつき,その状態にへもってくるように電流を流すのに必要なエネルギーを考える場合にはマイナスがつかないということなのだが,どうも十分に腑に落ちてこない。

おまけにダブルカウントをさけるために1/2がついたりつかなかったりするものだから,授業でどうやって説明したものか思案のしどころである。あるいは太田さんの教科書にあるように磁束変化に対する説明が不可欠なのかもしれず,静磁場の範囲でまかなえるかどうかも微妙だ。

2020年6月26日金曜日

平沢進(2)

平沢進(1)からの続き

セグウェイの話題と平沢進の話題がなにやらからまっていた。youtubeをちょっと見たところセグウェイは見当たらないのだけれど,どうなっているのかな。

平沢進のアルバムをざっとながめてみて,アマゾンでの評価数を()に,平沢進の人気おすすめランキング15選の順位を[]にいれて,アルバムタイトル以外の気になった曲名を付加したものが次の表だ。「救済の技法」とか「賢者のプロペラ」とか「白虎野」の評判がよさそうかな。ほとんどどれも同じにきこえる瞬間があって困ったものだけれど,なんだかはまってしまいそう。youtubeでかなりの楽曲が聴けるのがありがたい。

1 1989  時空の水(31)[7] ハルディンホテル
2 1990 サイエンスの幽霊(21) 世界タービン
3 1991 Vierual Rabbit(23)[8] バンディリア旅行団
4 1994 AURORA(17)[14] トビラ島
5 1995 Sim City(40)[15]
6 1996 SIREN(26)[5]
7 1998 救済の技法(86)[2] TOWN-0 PHASE-5 庭師キング
8 2000 賢者のプロペラ(39)[3] ロタティオン
9 2003 BLUE LIMBO(24)[12] 高貴な城
10 2006 白虎野(68)[4] パレード
11 2009 点呼する惑星(51)[11]
12 2012 現象の花の秘密(70)[*]
13 2015 ホログラムを登る男(86)[5]

2006 Paprika(31)[9]
2010 突弦変異(31)[*]
2010 変弦自在(39)[13]
2014 Arch Type(43)[1]
2016 Ash Crow(64)[10]

核P-MODEL
2004 ピストロン(52)
2013 Giponza(73)
2018 回=回(83)

2020年6月25日木曜日

セグウェイ

セグウェイが7月15日をもって生産中止されることになった。2001年に鳴り物入りで発表され注目を集めていたけれど,日本では公道を走れないし,あの価格だったのでまあ仕方がないのかもしれない。

最初にセグウェイに乗ったのは,2010年の夏休み,アラスカ州アンカレッジ市内のセグウェイツアーだった。次の日に日本に帰るということで,アンカレッジのホテル(ヒストリック・アンカレッジ)の近くを散策していたらセグウェイの市内ツアーを見かけた。はじめはスルーしたのが,やっぱり試してみようかということになってお店に戻ると,もう定員を締め切ったという。あす日本に帰るので,そこをなんとかとねばると,やさしいおじさんは2人を追加してくれた。

ヘルメットを借りて,近所の空き地まで行って,操作に慣れるためにしばらく練習したが,そんなに難しくはなかった。ツアー参加者は我々を含めて6〜8人くらいか。市内の普通の歩道や車道をゾロゾロと進むのである。アラスカ鉄道のアンカレッジ駅の向こう側を回るコースは小一時間くらいだったか。途中に公園,展望台,坂道などもある楽しいコースだったが,なんとか無事に出発点に帰り着いた。アンカレッジは人口30万弱で,そんなに混雑した街ではないとはいえ,面倒な規制でがちがちの日本と違って普通に市内を走れるのがすごいと思う。

その後,日本に帰ってしばらくした秋の日,明日香の高松塚記念公園辺りでセグウェイツアーがあるというのをどこかで見つけて,早速家族で申し込んだ。こちらの方も最初に少し練習をした後で,晴れた日の公園内をスルスルと列をなして進むのであった。最後の最後にバランスをくずしてしまって,全コースをクリアできなかったのが残念。

 

写真:アンカレッジ市内のセグウェイツアー(2010.8.30)


2020年6月24日水曜日

WWDC2020

アップルの開発者カンファレンスWWDC2020は新型コロナウイルス感染症蔓延のために,無観客で放映された。ティム・クックの挨拶のはじめには,ジョージ・フロイドの死にともなう人種差別撤廃についてのアップルの方針が示された。

ソフトウェアの開発状況や今後の展開が話題の中心であり,iOS,iPadOS,watchOS,tvOS,macOSの順に上級副社長のクレイグ・フェデリギ(もともとはNeXTのひとなのか)が中心となって説明が進んでいった。例によって細かなつくりこみやデザイン変更を凄い(incredible)凄い(gorgeous)と連呼して進める部分にはあいかわらず辟易するのだった。どうやらAndroidoの後追いらしのだが,ほとんどどうでもいい機能ばかりが複雑に追加されていく・・・orz。

Think Simple(Ken Segall)の精神はいったいどこにいったのだろう。地図関係は日本では期待できないし,翻訳機能だけは少したのしみだけれど,Siriもあまり信頼していないので微妙。後は,iPadOSとmacOSがどこまで接近融合していくのかが個人的な関心のポイント。翻訳機能と並ぶもうひとつの期待の柱はARなのだけれど,これはスルーされていた。

今回のポイントはやはり,Apple Siliconへの移行だ。日経朝刊が一番すっきりまとめていたけれど,マックのCPUは,1984 Motolora −(10年)→ 1994 Power PC −(12年)→ 2006 Intel −(14年)→ 2020 Apple Silicon(ARM)という変遷をたどっている約10〜15年でCPU交代が行われるわけか。なお,MacOSX は2001年に導入されており,次のとおりである。
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2001 Mac OS X 10.0 (Cheetah) → iPod
2001 Mac OS X 10.1 (Puma)
2002 Mac OS X 10.2 (Jaguar)
2003 Mac OS X 10.3 (Panther)
2005 Mac OS X 10.4 (Tiger)
2007 Mac OS X 10.5 (Leopard) → iPhone
2009 Mac OS X 10.6 (Snow Leopard)
2010 Mac OS X 10.7 Lion → iPad
2012 OS X 10.8 Mountain Lion
2013 OS X 10.9 Mavericks
2014 OS X 10.10 Yosemite
2015 OS X 10.11 El Capitan
2016 macOS 10.12 Sierra
2017 macOS 10.13 High Sierra
2018 macOS 10.14 Mojave
2019 macOS 10.15 Catalina
2020 macOS Big Sur(いよいよここから11.xシリーズになるようだ)
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やはり,インテルチップへの移行が完了して落ち着いたSnow Leopardのころが一番よかったような気がする。

前回のPowerPCからインテルへの移行もわりとスムーズだったので,今回もそれほど心配ではないけれど,悲しいかな,手元にあるMacBook Pro mid 2012 はもうmacOS Big Surに対応しないのである(iPhone 6sは iOS14に対応するようだけれど)。そろそろ機種交換が必要か。次の候補はあの変なTouch Barがついていない MacBook Air にしたいものだけれど・・・もうApple のサイトでアクセサリをみても CDドライブは出てこないのであった。むむむ。あと,iPhone SE2用のバッテリケースもありません。むむむ。

富岳もARMベースのようだし,ARMアーキテクチャの天下がやってきたということか。

追伸:グーグルでWWDC20XXの画像検索をいくつか試してみて下さい。今回のWWDC2020のデザインがもっともダサイと感じる私の感覚はおかしいのだろうか?

[1]OSXの終焉

2020年6月23日火曜日

富岳100京

神戸の理化学研究所計算科学研究センターに設置されている富士通製のスーパーコンピュータ富岳が,ISC High Perfomance 2020 Digital で発表されたスーパーコンピュータのTOP500で首位を獲得した。ほぼ半年ごとに欧州と米国でスーパーコンピュータのランキングが発表されるが,次は米国アトランタで開かれる国際スーパーコンピュータ会議(SC20)の予定だ。

理研のプレスリリースによれば,6部門中4部門で首位を占めたということで,それはいったいなんだということになった。(1) TOP500:これはLINPACKのベンチマークである。密行列の線形演算の能力を競うもので最も古典的なベンチマーク。(2) HPCG:疎行列を係数とする連立1次方程式を共役勾配法で解くためのものであり,これがスーパーコンピュータの実用的な計算の実態に即したものだと思われる。(3) HPL-AI:ディープラーニングでは低精度計算が多用されることから,そのような状況での演算性能の評価が必要となってきた。(4) Graph500:ビッグデータ解析に使われる,超大規模グラフの探索能力を試すものであり,演算性能に加えてメモリやネットワークへのアクセス性能も重要である。ここまでの首位を占めたということだ。
この他に,(5) IO-500:データの入出力性能らしいが,詳細はこのあたりをみるとよいかもしれないし,そうでないかもしれない。 (6) Green500:省エネ性能を評価するための,消費電力当りの計算性能を比較したもの。この分野は日本勢が強い。前回は富岳のプロトタイプがトップだったが,今回は,日本のプリファードネットワークスのMN-3が首位で,PESYコンピューティングのNA-1が3位につけている。

京の後継機の名前が富岳になると聞いたときに,なんだかなあ,とおもったのだけれど,これは富岳100京(京の100倍の計算性能を持つ)ということで,富嶽百景のもじりだったとか。それなら許します。

P. S. 京コンピュータは,2011.11のTOP500 で10^16 Flops(1京Flops)をたたき出して首位になっている。富岳は2020.6 のTOP500で 40京Flops なので,富岳40京。まだ100京には達していない。


写真:富岳はブルーなのか(理研のページより引用)


2020年6月22日月曜日

Griffithsのr

デヴィッド・J・グリフィスはポートランドにあるリード大学の物理の名誉教授。1964年にハーバードの物理の B. A. をとっている(修士も博士もハーバード)のでそろそろ80歳くらいだろうか。電磁気学や量子力学や素粒子物理学の教科書で有名だ。電磁気学の教科書といえば,J.D.ジャクソンが定番だとおもっていたが,ちょっとやさしめのグリフィスの教科書がよく使われているようだ。グリフィスの教科書では,電磁気学で多用される' をスクリプトの r を使って表している。確かにこれによって,式の見通しがだいぶよくなる。教科書をみると,MS WordユーザはKaufmann フォントを使え,TeXユーザは自分のホームページを参照せよとあった。見本をちょっと直して使えるようになった。
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\documentclass{report}


\usepackage[dvipdfmx]{graphicx}


\def\rcurs{{\mbox{\$\resizebox{.16in}{.08in}{\includegraphics{ScriptR}}\$}}}

\def\brcurs{{\mbox{\$\resizebox{.16in}{.08in}{\includegraphics{BoldR}}\$}}}

\def\hrcurs{{\mbox{\$\hat \brcurs\$}}}


\begin{document}


Here's a sample:


\$\resizebox{.16in}{.08in}{\includegraphics{BoldR}}\$


\begin{equation}

{\bf E} = {1\over 4\pi\epsilon_0}\int {\rho\over \rcurs^2}{\hrcurs}\,d\tau.

\end{equation}


\end{document}

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図 スクリプトのTeXサンプル


2020年6月21日日曜日

部分日食

今日(6月21日,夏至)の夕方,日本全国で部分日食がみられるはずだった。奈良では残念ながら曇り空で観測できなかった。19時前の今ごろになって太陽が顔を出したが遅かりし由良之助。372年ぶりの夏至の日食であり,次の夏至の日食は2802年の予定らしいのだった。日食の一覧によれば,日本で見られる次は,2023年4月に部分日食,2030年6月に金環食らしい。がんばって2035年の皆既日食まで生き延びたいものだけれど・・・どうかしら。

太陽と月の半径はそれぞれ696,300kmと1,738kmなので,その比は400.6である。一方,地球から太陽までの距離と地球から月までの距離は,14,960±250 万kmと38.44±2.11万kmなので,その比率は,418.7〜389.2〜362.8の範囲で変化する。距離の組み合わせが均等な割合で一様分布するという(誤った)単純な考えのもとでは,距離比が半径比より大きな場合と小さな場合は2:1になるので,皆既日食の頻度:金環食の頻度は2:1くらいかとおもいきや,実際には,2:3くらいのようだ。黄道面と白道面は傾いているし。白道面も歳差運動しているのでまじめに計算しないと答えが出ないということだろう。


写真:石垣島で観測された部分日食(引用:朝日新聞より恵原弘太郎氏撮影





2020年6月20日土曜日

平沢進(1)

犬も歩けば棒にあたる。今日は平沢進(1954.4.1-)にあたった。Twitterでみた「賢者のプロペラ」が頭痛に効くというのがきっかけ。JASRACと喧嘩しているところもよろしい。オフィシャルウェブサイトには無料ダウンロードページもあった。4月1日生まれだと同学年になるのかな。さっそくyoutubeのhirasawasusumuもチャンネル登録してみる。

2020年6月19日金曜日

核電気共鳴(NER)

オーストラリアのニューサウスウェールズ大学のグループが,実験の失敗から量子コンピュータへの道のブレークスルーを開いたかもしれないという3ヶ月前の記事(2020.3.20)にぶつかったので,調べてみた。arxivの "Coherent electrical control of a single high-spin nucleus in silicon" だ。

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原子核スピンは高度にコヒーレントな量子オブジェクトである。大規模なアンサンブルにおいて,核磁気共鳴によってその制御と測定が行われ,化学,医学,材料科学,鉱業などで広く利用されている。また,原子核スピンは、量子情報処理の初期のアイデア[1]や実証[2]にも登場している。これらのアイデアをスケールアップするには,個々の原子核を制御する必要がある,つまり,原子核が一つの電子と結合したことを検出できるということだ[3, 4, 5]。

しかし,原子核との相互作用は振動する磁場によってもたらされる必要があるが,磁場を局所化したり遮断したりできないことから,多スピンナノスケール素子への組み込みは複雑になる。電場を用いた制御はこの問題を解決するだろうが,これまでの方法[6,7,8]では,電子と原子核の超微細相互作用をとおして電気信号を磁場に変換することに依存していたため,原子核スピンのコヒーレンスに重大な影響を与えていた。

ここでは,シリコンナノ電子素子内で生成された局所的な電場を用いて,単一アンチモン(スピン7/2)原子核のコヒーレント量子制御を実証した。この方法は、1961年に最初に提案されたアイデア[9]を利用したものであるが、これまで単一の原子核では実験的に実現されていなかった。我々の結果は,微視的な理論モデルによって支持されている。それは,原子核四重極相互作用の純粋な電気的変調が,格子歪みのもとで,コヒーレントな核スピン遷移をもたらすことを説明している。

その結果得られたスピン脱フェージング時間0.1秒は,電気的に駆動するために結合した電子スピンを必要とする方法で得られた結果を1桁以上回っている。これらの結果は,高スピンで四重極能率を持つ原子核が,完全に電気的な制御を用いて,カオスモデル,歪みセンサー,ハイブリッドスピン機械量子システムとして展開できることを示している。電気的に制御可能な原子核を量子ドット[10, 11]と統合することで,振動磁場を必要とせずに動作する,シリコン上でのスケーラブルな核・電子スピンベースの量子計算機への道が開けるかもしれない。
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arxivで見つかる Nuclear Electric Resonance には,日本のNTT−東北大−ERATOグループによる,"Electric-Field-Induced Nuclear Spin Resonance Mediated by Oscillating Electron Spin Domains in GaAs-Based Semiconductors" とか,"Spatial distribution of dynamically polarized nuclear spins in electron spin domains in the ν = 2/3 fractional quantum Hall state studied by nuclear electric resonance"とかが出てくる。ううむ,NERは自然言語処理分野では,Named Entity Recognitionのアクロニムなのか。

たんに,核四重極能率をつかったスピン制御というのであれば,ベータ崩壊の核整列における杉本−南園グループの手法とかわらないような気がするけれど,どこが本質的な違いなのだろうか。

2020年6月18日木曜日

XENON1T暗黒物質実験

イタリアの山中1400mの深さに世界最大級の地下素粒子研究施設グラン・サッソ国立研究所がある。そこに設置された超高純度低バックグラウンド液体キセノン測定器XENON1Tによる実験結果がarxivに報告(Observation of Excess Electronic Recoil Events in XENON1T)されており,IPMUからもプレスリリースが出ている。

本来は宇宙にある暗黒物質の測定を目的としているが,この報告では標準理論からずれた新しい物理学の探索に興味がある。つまり,暗黒物質の候補としてのアクシオンを考えた場合,宇宙論的な制約から暗黒物質候補としてのアクシオンはKeVオーダー以下でなければならない。一方この装置では,1〜100KeVのオーダーのアクシオン(太陽アクシオン)を観測することができるというわけだ。さっそくアブストラクトを訳してみた

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XENON1T検出器で測定された低エネルギー電子反跳データを用いて,新しい物理学の探索を行った結果を報告する。0.65トン年の被ばくと1-30keVの間の76±2(stat)イベント/(トン×年×keV)という前代未聞の低バックグラウンド率により,太陽アクシオン,太陽ニュートリノの磁気モーメント,ボソニック暗黒物質の競合的探索が可能となった。

7 keV以下で観測される既知のバックグラウンドを超える過剰は,低エネルギーに向かって上昇し,2-3 keVの間で顕著になる。太陽アクシオンモデルは3.5σの有意性を持ち,電子・光子・原子核へのアクシオン結合については3次元の90%信頼度曲面が報告されている。この曲面はg_ae<3.7×10^-12, g_ae g_an^eff<4.6×10^-18, g_ae g_aγ<7.6×10^-22 GeV-1で定義された立方体に内接しており,g_ae=0またはg_ae g_aγ=g_ae ge_an^eff=0のいずれかを除く。

ニュートリノ磁気モーメント信号は3.2σでバックグラウンドよりも同様に有利であり,μ_ν∈(1.4,2.9)×10^-11 μ_B (90% C.L.) の信頼区間が報告されている。どちらの結果も恒星からくる制約とは緊張関係にある。

また、当初は考慮されていなかったトリチウムのβ崩壊も,キセノン中のトリチウム濃度が(6.2±2.0)×10^-25 mol/molに対応する3.2σの有意性で説明できる。このような微量な量は、現在の生産・還元メカニズムの知見では確認も排除もできない。制約のないトリチウム成分をフィッティングに含めると,太陽アキシオン仮説とニュートリノ磁気モーメント仮説の有意性はそれぞれ2.1σと0.9σに減少する。この解析によれば,疑スカラーとベクトル型のボソニック暗黒物質について,1〜210keV/c^2の間のほとんどの質量について,これまでで最も制限的な直接の制約を与える。
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論文のアペンディックスにはβ線スペクトルのモデリングとして2ページを越えて懐かしい式が並んでいた。鉛やクリプトンからのバックグラウンドの計算で必要らしい。べーレンズ・ビューリングのβ線スペクトルの式や,スペクトル補正関数,クーロン補正の係数,スクリーニング補正の効果などおなじみの表式のオンパレードである。低エネルギーにおける反跳電子の測定が肝なので,このあたりを丁寧に押さえておく必要があるのだと思われる。






2020年6月17日水曜日

稗田環濠集落

稗田阿礼の出身地ということで,稗田環濠集落にある賣太神社の祭神は稗田阿礼命(ひえだのあれのみこと)だった。天宇受賣命(あめのうずめのみこと)と猿田彦神(さるたひこのかみ)も祭神に名を連ねている。

神道の神の命名規則によると,「(1)○○ノ(2)○○ノ(3)○○」では,(1)が神の属性,(2)が神の名前,(3)が神号(尊称)である。むむむ,(3)には神−命−大神−権現−明神などがあるようだがいまひとつ区別がかわからない。そもそもサルタヒコも古事記では猿田毘古神・猿田毘古大神・猿田毘古之男神であり,日本書紀では猿田彦命となっているということなのでいったいなんなのか。

えーっ,猿田彦と天宇受賣は夫婦だったのか。猿田彦が手塚治虫の火の鳥にでてきたところまではなんとなく知っていたけれど。また「アメノウズメ」は古事記では天宇受賣命,日本書紀では天細女命となっている。賣太神社は稗田阿礼なので古事記方式でよいのだろう。

P. S. 稗田環濠集落の水路には亀がたくさん泳いでいた。猿沢池を越えるインパクトである。


写真:大和郡山市の稗田環濠集落にある賣太神社(2020.6.16撮影)

2020年6月16日火曜日

銀河系の知的文明

36の知的文明が銀河系内で交信?、英研究チームが算出」などのセンセーショナルなタイトルのニュースが飛んでいたので,またぞろドレイク方程式か何かかと思えば,「宇宙生物学コペルニクス原理」というものを編み出したらしいので,arxivで探してみた。


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我々は,生命の探索に関する宇宙的な視点を提示し,最新の天体物理学的情報を用いて,我々の銀河系に交信している地球外知的文明(CETI)が存在する可能性を調べている。我々の計算には,銀河系の星形成史,金属元素分布,ハビタブルゾーンに地球型惑星が存在する可能性を,我々が宇宙生物学的・コペルニクス的弱・強条件と呼ぶ特定の仮定の下で計算している。これらの仮定は,知的で交信能力のある生命が存在することが知られている唯一の状況,つまり我々自身の惑星に基づいている。このタイプの生命は,金属元素が豊富な環境で発達し,そのために約50億年の時間を要した。我々は,いくつかの異なったシナリオに基づいて可能なCETIの数を研究している。一つは「弱い宇宙生物学的コペルニクスの原理」であり,惑星が知的生命体を形成するのは50億年後のことだが,それ以前ではない。もう一つは強い条件であり,地球のように45~55億年の間に生命が形成されなければならないというものだ。強い条件(厳密な仮定)の下では,銀河系内には少なくとも36+175-32の文明が存在するはずだ。これは下限値であり,交信可能な文明の平均寿命は100年であるという(現在の我々の状況に基づく)仮定を置いている。もしCETIが銀河系全体に一様に広がっているとすれば,最も近いものはせいぜい17000+33600-10000光年の距離にあり、低質量の赤色矮星を周回している可能性が高く,我々が予測可能な将来の検出能力をはるかに超えていることを意味する。さらに,この生命をホストしている星が太陽型星である可能性は非常に低く,ほとんどが赤色矮星でなければならないことから,長い時間スケールで生命をホストするには十分に安定ではないと考えられる。我々はさらに他のシナリオを検討し,我々の仮定条件を変えることで,銀河系内に存在可能性なCETIの数を調べた。
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むむむ,銀河系内の交信可能な文明は結構存在するにしてもほとんどがあまり長くに渡って安定でない赤色矮星(M-Dwarf)の回りの惑星にあり,ほとんど観測困難で,どうなんでしょうということだ。あ,いろいろ書いているけれど,かなり精密化された新しいドレイク方程式なのでした。うーむ,うまくいけば,700年ぐらいがんばると1つ交信可能な文明が見つかるし,7000光年以内に知的生命体が見つからないようならば,交信可能な文明の持続時間は2000年以下であり,我々もまたそうである可能性が高いらしい。むむむ。

2020年6月15日月曜日

ジーン・シモンズ

ロックグルーブKISSジーン・シモンズの番組が放映されていた。もう70歳なのに,20kgの衣裳をつけて口から火を噴いていた。舌が長いのだ。たいへんだ。KISSのイメージの特徴的な顔の隈取りデザインはジーン・シモンズの顔のものだった。

KISSは1973-74にブレイクしているが,そのころはもう洋楽ポップスはあまり聴かなくなっていた。そもそもあの手のハードロックはちょっと苦手だったし。ジーン・シモンズはユダヤ人であり,後にニューヨークに移住した母親がナチスの強制収容所の生き残りであった。

2020年6月14日日曜日

残された人々

アレグザンダー・ケイの児童文学「The Incredible Tide」が「残された人々」として邦訳されているが,これが宮崎駿の「未来少年コナン」の原作となった。NHKでまとめて放送しているのをたまたまみたが,なんと,ほとんど天空の城ラピュタのイメージやモチーフでちりばめられていた。そうだったのね。おもしろそうなのでとりあえず録画予約しておいた。

なお,インターネット上には The Incredible Tideのテキストもころがっているような雰囲気であった。この原作のほうもちょっと気になるところではある。

2020年6月13日土曜日

これでわかった! 世界のいま

NHKの日曜夕方の番組「これでわかった!世界のいま」は結構たのしみでみていたけれど,6月7日の放送で大きくつまづいた。以前から韓国や中国を取り上げる際に顕著だった(これらにも見るに堪えないものがしばしば登場していた)。NHKの国際部や政治部の偏向がとても気になる番組だったが,ここにいたって,人権センスがゼロであったことを露呈してしまった。国際部といい政治部といいひどいことになっているものだ。

番組の構成は,例の池上彰の週間子どもニュースのフレーバーを引き継いでおり,レギュラー出演者に坂下千里子を配置しつつ,上から目線で国際部や政治部のスタッフが「子ども」に教えを垂れるという構造になっていた。そこに陥穽があったわけだ。パックンやサヘル・ローズなども準レギュラーになっておりうまく構成すればとてもよい番組になりうる。いかんせん,今のNHKのニュース系番組全体が(社会部発信の一部を除いて),政府よりにねじ曲がっているために,こんなことになってしまったのだろうと思う。

「なにも知らない人々を啓蒙するためにわかりやすくデフォルメする」だとか「対立する双方に対等な言い分があるので是々非々とするのが中立性である」だとかのジャーナリズムに対する誤った観念に囚われすぎているのだろう。

2020年6月12日金曜日

岡山更生館事件

岡山更生館事件が話題になっていたので,Wikipediaをみたらテレビの2時間ドラマのプロットのようにドラマチックな記述だった。毎日新聞の大森実さんは著名なジャーナリストだが,Wikipediaのこの記事の主著者の方もちょっとなかなかな方であった。ひどい事件には違いないと思うが,どこまでどうなのかはよくわからない

例の小池百合子の件で,清水有高と安富歩が語っていたように,「嘘」というキーワードより「ハッタリ」の方がふさわしいのかもしれず,安倍政権のもとで電通が暗躍し,大阪維新のもとに吉本が妄動しているのも,「利益誘導」という経済原理に加えて,「ハッタリ」という情報原理(広告原理)が貫徹しているような気がする。そんなことは,半世紀も前に筒井康隆をはじめとする日本SF作家陣が擬似イベントSFとしてそのエッセンスを取り出していたような気がするけれど。

岡山更生館事件は悲劇で不正義ではあるけれど,ちょっとだけひっかかるところもある。小池百合子問題も同様。ただ,法的なシステムをぐずぐずにしてしまいかねない不誠実や不正義の横行は,到底「ハッタリ」で済ませることができないのだけれど。


2020年6月11日木曜日

ミューオンの異常磁気モーメント(1)

arXiv:2006.04822v1で,KEKやFermilabなどのグループが,ミューオンの異常磁気能率の最近の理論的計算のレビューを行っている。標準模型のテストとして注目されているのだ。そのアブストラクトを訳してみた。

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ミュオンの異常磁気モーメントの標準模型計算の現状をレビューする。
これは微細構造定数αの摂動展開で行われ,純粋なQEDと電弱相互作用とハドロン相互作用の寄与に分解できる。

純粋なQEDの寄与が最も大きくO(α^5)まで計算された。その数値的不確かさは無視できるほど小さい。電弱相互作用の寄与は,(m_μ/M_W)2の因子分だけ抑えられ,有効数字7桁目のレベルでしか現れない。計算は2ループまで評価されておりその誤差は1%以下である。

ハドロン相互作用の寄与は最も計算が難しく,理論的な不確実性のほとんどはここからくる。主なハドロン寄与はハドロンの真空偏極によるO(α^2)の項から始まる。また,O(α^3)では光-光散乱におけるハドロンの寄与が現れる。

この観測値に特徴的な低いエネルギースケールでは、ハドロン相互作用の寄与は非摂動的な方法,すなわち分散関係と格子QCDのアプローチで計算されなければならない。

このレビューのほとんどの部分は,理論計算精度改善のためのこれら2つの方法,すなわちデータ駆動型の分散的アプローチと第一原理的な格子QCDアプローチの詳細な説明に費やされている。

最終的な理論計算結果は,a_SM = 116 591 810(43) × 10^-11 μ である。この値はブルックヘブンの実験での測定値よりも3.7σ小さい。この実験的不確かさは,現在フェルミ加速器研究所で行われている新しい実験と,将来のJ-PARC実験によって,間もなく1/4にまで低減される予定である。

このことと,近い将来に理論的な不確かさがさらに低減される見込みがある(この論文で言及)ことから,この量は新しい物理学の証拠を探すための最も有望な場所の一つとなっている。
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2020年6月10日水曜日

カイロ大学同窓会

昨日は,在日エジプト大使館の Facebook (ページの作成日は2018年1月9日)で,小池百合子が卒業生であることを証明するというカイロ大学からの文書が公開されていた。なお,こちらは,在日エジプト大使館文化・教育・科学局のページ

一昨日あたりから,Wikipediaのカイロ大学同窓会(英語版)のページが編集されている。発端の3件のIPアドレスによる編集が日本人が発信源であろうと思われるのは,当初,カイロ大学が Kairo とスペリングされていたからである。カイロ・アメリカン大学の同窓会には小池の記述があるのに,カイロ大学にないのはどうしてだという声があったので,それに対応してあわてて繕おうとしたようだ。
なお,amazonで検索すれば,カイロ大学の同窓会名簿的なもので小池百合子が載っていそうな情報がある。

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清水有高と安富歩は,さらに次の段階に議論を進めていた。アリス・ミラーによる幼児虐待とその社会への影響という文脈である。小池を支持する我々の側が問題とされている。

2020年6月9日火曜日

佐藤オオキ

佐藤オオキデザインオフィス nendo を主催する日本のデザイナー。このあたりでは,天理市駅前広場のコフフンを設計したことで知られている。

問題は,彼が最近デザインしたローソンの食品のパッケージデザインである。それなりにすっきりと統一されてはいるものの,文字の視認性や商品の判別性など,ユニバーサルデザインの観点から批判が相次いでいる。そのあおりを受けてコフフンで事故が多発していた件もちょっとだけ再燃していた。コフフンの一施設の斜面の勾配が急で小児が骨折して危なかったというもの。利用する際には見張りがつくような運用変更があったような気もしたが最近はどうなっているのだろうか。

図:コフフンのイメージ

[1]ローソンPB新パッケージの「わかりにくすぎる」という問題(Wezzy)

2020年6月8日月曜日

田植え

奈良県の農業研究開発センターの出している栽培技術マニュアルによれば,「ヒノヒカリ」と「キヌヒカリ」の田植えは6月9日となっている。朝の散歩で目にする数多の水田には水が張られ,日々田植えが進んでいる。


写真 朝の散歩から(2020.6.8撮影)

2020年6月7日日曜日

タクシー運転手

録画していた2017年公開の韓国映画「タクシー運転手」,最初の方ははほとんど見ていなかったが,光州の虐殺場面からカーチェイスの最後まで引きつけられた。1980年5月18日から27日に韓国全羅南道の光州市で起きた光州事件で,ドイツ人ジャーナリストが事件を報道するに至った実話に基づいている。主演がソン・ガンホだったのでやっぱりおもしろい。

アメリカ合衆国のミネソタ州ミネアポリスでの警察官による黒人(ジョージ・フロイド)殺害事件はついに警察機構の解体再建という話にまで達している。日本では対岸の火事のようなネトウヨの論調もあるが,沖縄や東京でほとんど同レベルの差別が繰り広げられている。そう,香港や天安門もしかり,権力はどこでも人間の憎悪を使って機械的に発動する。日本のマスコミはほとんどとりあげないし,警察や出入国在留管理庁(入国管理センター)はびくともしないのだろう。

2020年6月6日土曜日

4月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウム

4月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウムは,昨日で10回目を迎えた。尾崎君の出演回から,ながら視聴を続けてきた。喜連川先生のやさしいコメントを愉しみにしているが,吉本興業を引っ張り出したのはちょっと微妙だ。大阪における維新と吉本の複合体の悪辣ぶりに辟易しているからである。

昨日のシンポジウム,ハーバード大学医学部教授 の波多伸彦先生の「遠隔授業におけるアクティブラーニング応用事例」は,アメリカの大学の教育事情がわかってよかった。1つのコースは週3時間の授業と9時間の自習からなり,1人の学生は週4コマとるので,50時間ほどの時間を学習に費やすことになる。日本の大学受験生並の勉強時間でありこれがずっと続くということだ。日本の大学教育の密度は理系の専門教育に至るまではその数分の1程度かもしれない。だって週に16コマくらい履修しないといけないので。

さて,もうひとつ引っかかったのが国立政策研究所の白水始(しらうずはじめ)さんの話。聞いているうちにちょっと気持ちが悪くなってきて途中で離脱した。白水さんは,東大法学部から名大文学部心理に移って認知科学を専攻している。博士課程は三宅なほみさんがいた中京大学で修めているようだ。あのあたりのスクールにはちょっと近づきたくない。

彼のトークのタイトルが「ウィズコロナ時代の対話型オンライン授業と授業研究に向けて」ということで,最初からつまずいた。小池百合子的キャッチフレーズへの拒絶反応である。「教育改革の近道は新学習指導要領の実現」から話を始めるのは,まあ国研なので当然なのかもしれない。1. 一人ひとりの子どもの学ぶプロセス を保証しようとするから。2.教員が学びのデザイナー&アナリス トになることを目指すから。などとほとんど無批判にこれらの前提を置くことに,最近はどうしても違和感を感じてしまう自分なのであった。

次に出てくるのが,「教育に「データ」を=「データ」の必要性・有効性 “Data-fueled Education”」なので,そりゃベネッセが幅をきかせるはずである。こうして御用学者の群れが,マジックワードを並べつつ独占企業体によるデータの囲い込みを誘導していくのであった。

さらにひどいのが,21世紀に求められる知性。1.多様な考え・意見を「集めて編集できる」知性 ,2.答えを「作り出す」知性,とくるのである。どおりで,子どもニュース崩れの池上彰やキュレーター気取りの佐々木俊尚がもてはやされるわけだ。自分自身も散々使ってきて,また振り回されてきたマジックワード,「共有」や「交流(コミュニケーション)」が,情緒的なエーテルに充ち満ちた日本の教育空間にもたらしているものを改めて分析し直す必要があるのだろう。

2020年6月5日金曜日

特集|迷走する教育(7)

15.三浦綾希子(教育社会学)
   高等教育で学ぶ移民第二世代の若者たち
   
日本は移民国家であるという認識が必要である。というのが最初の結論であり以下の議論の前提となっている。在留外国人の過半数が「就労制限がなく定住可能性の高い在留資格を持っている」からだ。とすれば,外国人児童生徒の問題は,移民第二世代の教育としてより堅固な制度的裏付けを必要とすることになる。

大阪教育大学でも数年前の教養学科から教育協働学科への改組の過程で,学長の強い意思によってかなり大量の留学生の受け入れを前提とした制度設計が行われた。その現状がどうなっているのか把握していない。ただ,グローバル化とダイバーシティが教員養成理念の柱の一つとなるのであれば,移民第二世代にフォーカスを当てて彼らの高等教育機会の確保とキャリア形成を前提とした教育組織や教育システムについて検討する余地があったと,いまさらながら考える。留学生らとの重層的な交流に加え,彼らの正当なエスニシティ獲得の活動が,学校教員養成課程の学生たちとも相互作用することで,多様性を獲得した学生群の輩出に繋げるという「新しいマーケット」を見通す構想があってもよかった。

16.知念渉(教育社会学)
   〈ヤンチャな子ら〉の「男らしさ」を捉えるために

これはもう一つよくわからなかった。というのか,男性性研究にあまり興味が引かれないのだった。

2020年6月4日木曜日

特集|迷走する教育(6)

13.岡崎勝(小学校非常勤講師/学校ブック『お・は』編集人)
   先生,学校はどこへ行くんでしょうか?
   スティーブン・キングに聞いて下さい!

岡崎さんは,1952年名古屋市生まれ。愛知教育大学保健体育科卒業。小学校の体育の先生だった。小学校教員では一番政治力の大きいのが体育の教員というのが相場で,そういえば,大阪教育大学の体育の先生方にもしっかりした見識を持つ方が多かった。体育やスポーツ専攻の学生さんたちは雑でやんちゃな印象のほうが強かったけどね。それはそうとして,一番印象的だったのは,今どきの保護者や子どもと学校教員の摩擦の実態だった。労働時間問題以前の大きな障壁だった。最後の「しかし,意外とITは空虚なポルターガイストなのかもしれない」という文がスティーブン・キングにもつながっていたのか(未読だ)。著者はもちろん,GIGAスクール構想に否定的であり,教育改革の名のもとに進行している学校からの収奪,すなわち,マジックワードに飾られた職業訓練的労働者・消費者養成現場としての学校・IT消費市場の現場としての学校に違和感を抱いている。

14.内田良(教育社会学)
   新型コロナウイルス感染症のリスク

内田さんは,福井出身で学部は名大の経済なのか。ふーん。で,愛知教育大学を経て,名大の教育発達学研究科。新型コロナウイルス感染症の拡大防止をうたった3月のはじめからの全国一斉休校の要請の話だけれど,感染症についての専門知でつっかかってしまって,話が深まらないうちに終了してしまった。組み体操の時の切れ味はなかった。

2020年6月3日水曜日

特集|迷走する教育(5)

給特法から問う

10.高橋哲(教育法学)
   改正給特法総論
   
11.藤川伸治(NPO法人「教育改革2020 共育の杜」理事長)
   給特法改正は長時間労働解消につながるのか

12.赤田圭亮(元中学校教員)
   教員の「労働」は本当に「特殊」なのか?

わかったこと:
○1948年ごろ,学校の教職員の給与については,測定不能性のため一律48時間労働として一般の公務員より10%の上積みがされていた
○労働基準法において1年単位変形労働時間制は,厚生労働省令で定めるとされていたところを,給特法改正案では文部科学省令の管轄にすりかえられた。
○長時間労働解消が今回の議論の出発点であったものが,まったくその解消に寄与しない方法に帰結してしまった。
○田中角栄が教員給与の改善を図るのに尽力したという説は半分は正しいにせよ,文教族の様々な思惑の元での動きと教職員組合の動向の関係の下に行われている。
○全日教連は右翼でその半分が栃木県に集結している。

[1]公立の義務教育諸学校等の教職員の給与等に関する特別措置法(1971)
[2]学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法(1972)
[3]公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン(2019)
[4]「人材確保法」の成立過程 −政治主導による専門職化の視点から−(丸山和昭)
[5]教員給与は適切に運用されているのか(上林陽治)
[6]学校における働き方改革について(文部科学省)
[7]学校教員の働き方を考える教育学者の会
[8]日本教職員組合(1947:23.6万人)・全日本教職員組合(1991:7.1万人)・全日本教職員連盟(1984:1.9万人)

2020年6月2日火曜日

女帝 小池百合子(1)

久しぶりに近鉄百貨店八木店の6Fにあるジュンク堂書店にいった。ここは品揃えも配列もいまいちだけれど,奈良県で近くの書店といえばこのあたりしかないという残念なことになっている。で,「女帝 小池百合子」があったので,手にとってカイロ大学のあたりだけさらっと読んでみた。著者は石井妙子であり,なぜか1冊も読んだことがないにもかかわらず,「おそめ−伝説の銀座マダムの数奇にして華麗な半生」の書評と評判だけで自分が信頼をおいているノンフィクション作家だ。

ほんの一部の断片からも,小池百合子を特徴づけるキーワードが「嘘」であることが明確に伝わってきた。そして,これは今の日本の政治の中枢を特徴づけるキーワードでもあった。安倍晋三チームの「嘘」は,憲法解釈をねじ曲げ,法律を無視し,公文書を改ざんし,統計を捏造し,電通やマスコミを使った情報戦に長け,ネットを通じた攻撃の手をやめることがない。そう,大阪維新のキーワードも「嘘」なのであった。橋下−松井−吉村がこの間進めてきた政策の根幹には「嘘」がある。

「嘘」がまかりとおっているのは,半分は我々自身が望んだからなのだと思う。1990年代以降の大災害の連続と政権のかじ取りの失敗による日本(大阪)の凋落や,中国・韓国の成長を見たくなかった我々の心性がその「嘘」を容認して育て上げてついにここまで至ってしまったのだ。コロナ禍はその嘘を暴く効果を持っていると同時に,さらにその「嘘」の毒を拡散する働きをするのかもしれない。

[1]1155夜「おそめ」石井妙子 (松岡正剛)
[2]女帝 小池百合子」“学歴詐称疑惑”を斬る! 郷原信郎の「日本の権力を斬る!(2020.6.2)
[3]東大教授と語る【小池知事のカイロ大学首席卒業】問題について(2020.6.4)
[4]地上波が一切無視する本『女帝小池百合子』の作者が語る衝撃の事実(2020.6.5)
[5]「学歴詐称疑惑」再燃の小池百合子…その「虚飾の物語」を検証する(近藤大介・石井妙子,2020.6.5)

2020年6月1日月曜日

紀州加太

新型コロナウイルス感染症の拡大がなければ,いまごろは友人達との例年の家族旅行で和歌山県の休暇村紀州加太でのんびりしているはずだった。残念ながら今年は無理でした。

日本の緊急事態宣言が終わって,6月からは学校なども徐々に再開されている。しかし,問題が解決しているわけではないので,一進一退が続く。一方,世界の感染の中心は南半球に移ったのかもしれない。ロシアやインドでの増加も目を離せないが,ブラジル・ペルー・チリ・メキシコと中南米での感染者の急増が顕著になってきた。

政権支持率は下がったとはいうものの,まだまだ一定の数を維持するとともに,吉村人気から日本維新の会の政党支持率が上昇して自由民主党の減少分を補填している。官邸=経済産業省の暗躍により,アベノマスク(まだ到着していません)だけでなく,持続化給付金事業をダミーの一般社団法人サービスデザイン推進協議会が受注した後に,事業の再委託を受けた広告大手の電通がさらに人材派遣のパソナやIT業のトランスコスモスに業務を外注していたという二重三重の税金の中抜きがあらゆる場面で進行中。

決定プロセスの不透明なブルーインパルスは,自衛隊中央病院の美しいカメラアングルの報道では,都立駒込病院の玄関から病院名を含めた上空写真とのモンタージュによって,NHKの印象操作映像が作られていた。教科情報のメディアリテラシーなんてものはくその役にも立たない。学ぶべきは,自然科学であり社会科学であり歴史と人文学である。

アメリカでは黒人反差別暴動とトランプによるSNS抑圧,日本のTwitter Japanでは大量のリベラル派ブロックが進行している今日この頃。


2020年5月31日日曜日

特集|迷走する教育(4)

8.吉田弘幸(予備校教師)
  共通テストは如何に在るべきか
吉田さんは数年前の阪大や京大の物理の入試問題ミスの件で積極的に発言した人である。ここでは,大学入学共通テストの試行調査について分析から説き起こしている。設問の前置きや場面設定にページ数がさかれ,数学や理科の内容自身が薄くなっているということだ。あらためて,問題をみたがそれなりによくできているように思った。これまでの入試センター試験は,定型的な基本問題であり,無味乾燥に感じていたので,これはこれでありうるような気はする。国語や数学における記述式問題の導入が不必要,不可能であるという部分は完全に同意である。

9.大澤裕一(予備校教師/数学)
  高校数学カリキュラムの過去・現在・未来
大澤さんは数学の入試問題それ自身ではなく,数学のカリキュラム(学習指導要領)の問題点を指摘している。問題だらけだった。10年の周期で無理に変えようとして,専門家の意見ではなく外野の意見を重視することで,より望ましくない道が選択されるという不合理な結果が続いている。ベクトルしかり,行列と一次変換しかりである。統計の重要さはわからなくはないが,これはむしろ応用数学として教科「情報」に組込んだほうがよいのではないか。なお,箱ヒゲ図・四分位偏差(なんのことかわかっていない)不要論には全く同意である。

2020年5月30日土曜日

特集|迷走する教育(3)

6.羽藤由美(応用言語学)
  英語入試改革の挫折から迷走を抜け出す道を探る
羽藤(はとう)先生は,2021年度入試における英語民間試験の導入阻止のために最も力を注いだ方々の1人である。おかげで当面はなんとか凌げたが,旗振り役の下村博文やスポークスマンの鈴木寛の息の根は止まっていないので,今後の展開は予断を許さない。「英語の四技能」というマジックワードと大学入試で高校教育を変えるという短絡の二重の誤謬をベースに利権誘導を図ってきたチームのよりどころとなるCFER基準持ち込みの欺瞞性が明らかにされる。そして,本当の「対案」がインプットの確保にあることがはっきりと示されている。十分な経験を踏まえた信頼できる専門家の知が生かされない日本の政策決定についての最後の結論が光る。「失敗しているのは英語学習者や英語教師ではなく,粗悪な英語教育政策しか繰り出すことのできない政府・文科省である。入試改革より,教育政策の決定プロセスの見直しと空回りする一連の改革の中核をになってきた研究者・教育者の刷新の方が喫緊の課題である」

7.阿部公彦(英米文学/評論)
  「すばらしい英語学習」の落とし穴
まずはじめに,公共性の高い入試を民間業者に丸投げするという仕組みが諸悪の根源であることがはっきりと示されている。また,「四技能主義」の虚妄がていねいに解き明かされる。これに対抗するものが,英語の運動感覚であるというところは,そうだとしてもどうやってそれを実現させていくのかという戦略を詳しく聞きたかった。

2020年5月29日金曜日

特集|迷走する教育(2)

4.木村小夜(日本近現代文学)
  「読む」力と「国語」入試の明日
木村さんの主張はYouTubeにある「参議院 2019年11月19日 文教科学委員会木村小夜(参考人 福井県立大学学術教養センター教授)」という7分あまりの動画をみるのがよい。国語の記述式入試問題の欠陥を明解に指摘していて切れ味が良い。また,彼女が高大接続という言葉で思い出した高校時代のエピソードがよかった。「あなた達が学校で習う日本語の文法は橋本文法というものを元にしているが,実は文法はそれだけではなく,色々な理論がある」と断ってから古典の最初の授業が始まったという一節である。自分は国語は苦手だったしましてや文法は現代文も古典もからっきしダメだったので,そんな話は聞いたことがなかった。現代日本語文法では,山田文法,松下文法,橋本文法,時枝文法の四大文法が重要な位置を占めるとある。そんなことになっていたのか。

5.五味渕典嗣(近現代日本語文学/文化研究)
  文学の貧困
あらめて「文学」とは何か,論理国語と文学国語の分裂を招いた思い込みはなんだったのか(新井紀子が一役買っているのだ)を考えたくなる。高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説では,例によって科目の目標を「知識及び技能」「思考力,判断力, 表現力等」「学びに向かう力,人間性等」の三つの柱で整理した,とある。人間性なのか・・・orz。高等学校の国語は必履修科目の「現代の国語(41)」+「言語文化(35)」に加えて,選択科目の「論理国語(35)」+「文学国語(31)」+「国語表現(37)」+「古典探究(28)」からなる(カッコ内は解説における記載ページ数)。その文学国語は,「主として「思考力,判断力,表現力等」の感性・情緒の側面の力を育成する科目として,深く共感 したり豊かに想像したりして,書いたり読んだりする資質・能力の育成を重視している」ということで,文学=感性と情緒というレッテルが貼られていたのだった。



2020年5月28日木曜日

特集|迷走する教育(1)

現代思想の2020年4月号vol.48-4の特集が「迷走する教育−大学入学共通テスト・新学習指導要領・変形労働時間制」だった。これは読んでおきたいと思い,2月号の量子コンピュータに続いて早速アマゾンで注文したが積ん読状態になっていた。16本の記事が207ページに渡っている。平均13ページ弱。

以下簡単に感想を述べる。

1.大内裕和(教育社会学)・紅野謙介(日本近現代文学)
  逃走の教育から闘争の教育へ 
紅野(こうの)さんは麻布で中高の教員を勤めていた経験を持ち現在は日大文理学部の教授である。そこで国語教育と関連した話になるのだが,これがむしろ本件の本質をついているように思った。「言葉」の問題なのだ。「資質」「生きる力」「ゆとり」「主体性」「内容学」。これらの気味悪い言葉に違和感と異論を唱えられるのも最初の内だけで,あっという間にそれらに搦め捕られてしまい,議論はそのマジックワードを前提として進めざるを得なくなる。ニュートンの運動方程式が成立しない非慣性系のわけのわからない慣性力の支配のもとに屈服させられてしまった自分がそこにあった。

2.荒井克弘(高等教育論)
  大学入学共通テストの現在
「高大接続」というマジックワードを考えるときに,日本の中等教育及び高等教育のシステムを他国のそれとていねいに比較して議論する必要性を感じた。例の下村・稲田一派が巻き返しを図っている9月入学にしてもそうだ。どこがグローバルスタンダードなのか。それもこれもジャーナリズムの検証機能の劣化がなせる技。

3.南風原朝和(心理統計学/テスト理論)
  大学入試改革を「私的に」振り返る
ここで我々がひっかけられたマジックワードが「一点刻みの知識・技能偏重」だ。テスト理論の専門家の立場からこれにたいする明確で分かりやすい反論を加えているところが一番印象的であった(下図参照)。


図 なぜ5段階評価がまずいのか(上記3より引用)

2020年5月27日水曜日

ほとんど正三角形

Twitterでほとんど正三角形にみえる二等辺三角形が話題になっていた。数学パズル作家のポテト一郎さんが,簡単で精度の高いものを考案したのでそれをtikzで描いてみた。話題の発端となったその1は各辺が,$\sqrt{64},\sqrt{65},\sqrt{65}$である。その2が新しく考案されたもので,各辺が$\sqrt{241}/2,\sqrt{241}/2,\sqrt{242}/2$である。

図1 ほとんど正三角形その1

図2 ほとんど正三角形その2


2020年5月26日火曜日

緊急事態宣言解除(3)

緊急事態宣言解除(2)からの続き

昨日,残っていた北海道,東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県の緊急事態宣言が解除された。記念に東京都のモデル計算を行ってみた。なんだかグダグダな対応のうちに,よく理由はわからないが,欧米とは異なり,他の東アジアやオセアニア地域なみの水準で第1波はおよそ終息したように思われる。

モデル計算で使用したパラメタは,$\alpha_1=5/0.8,\ \alpha_2=5/0.2,\ \beta=0.505,\ \gamma_1=15/0.94,\ \gamma_2=15/0.06,\ \lambda=35,\ \tau=14,\ \nu=0.1$である。時刻の基準は,新規感染数累計と東京の人口比が10ppmになる時点の3月23日としており,日本の場合とちがって,新規感染数の初期値は正しい値となっている。


図1 東京の新規感染数累計(u6),死亡数累計(u4),回復数累計(u5)

図2 モデル計算に用いた東京(オレンジ)と日本(水色)の実効再生産数

NHKなどで毎日報道されているデータを東京の人口で割って1万人あたりの数に換算したものが上記グラフのサークルであり,下記の値を用いた。なお日時の原点は3/22としている(無駄に有効数字が多くて気持ち悪いのだが面倒なのでそのままにした結果)。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
xt=[0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,
14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,
28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40,41,
42,43,44,45,46,47,48,49,50,51,52,53,54,55,
56,57,58,59,60,61,62]
yt=[0.1100,0.1221,0.1514,0.1850,0.2136,0.2571,0.3057,
0.3164,0.3721,0.4193,0.4886,0.5521,0.6364,0.7386,
0.7964,0.8529,0.9557,1.0850,1.2179,1.3586,1.4771,
1.5414,1.6564,1.7471,1.8536,1.9957,2.1250,2.2014,
2.2743,2.3621,2.4564,2.5521,2.6664,2.7400,2.7914,
2.8193,2.8993,2.9329,2.9657,3.0836,3.1979,3.2629,
3.3250,3.3657,3.3914,3.4079,3.4357,3.4614,3.4771,
3.5421,3.5621,3.5693,3.5907,3.5971,3.6071,3.6107,
3.6179,3.6214,3.6250,3.6664,3.6686,3.6700,3.6800]
zt=[0.286,0.357,0.357,0.357,0.357,0.357,0.357,
0.857,0.857,0.857,1.000,1.357,1.643,2.143,
2.214,2.500,2.571,2.857,2.857,3.000,3.000,
3.357,3.786,4.000,4.500,4.857,5.071,5.500,
5.786,5.786,6.214,6.643,7.143,7.143,7.571,
7.714,8.357,8.571,9.000,10.071,10.357,10.714,
10.714,11.071,11.429,12.214,12.857,12.857,13.500,
14.000,14.500,15.143,15.643,16.429,16.929,17.214,
17.429,17.643,18.286,18.786,18.786,18.786,18.800]/100
plot(xt,yt,st=:scatter,label="Confirmed-tokyo")
plot!(xt,zt,st=:scatter,label="Deaths-tokyo")
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -


2020年5月25日月曜日

中ツ道

買物の帰り,旧24号線を南に下る途中で道がやや右に曲がるところの細い道を直進するとどんどん細い道に迷い込んでいった。google map 上では県道の51号線となっていて,それなりに太い線が引かれていた。残念ながらいつものようにグーグルマップの地図はあてにならず,現実の道路は隘路なのであった。途中に橘街道という看板があったので,これが中ツ道なのかと思った。朝の散歩の北東の転換点にあるセブンイレブン喜殿町店の前の道につながっており,そのまま南下すると前栽幼稚園から前栽駅に到達する道路だった。

2020年5月24日日曜日

LaTeX.css

LaTeX.cssというのは,MathJaxみたいなものかと思っていたが,よく考えるとそんなわけはないのであって,LaTeXの出力風のデザインをするスタイルシートなのであった。

図 LaTeX.cssによるスタイルの例

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
<!DOCTYPE html>
<html lang="ja">
<head>
<meta charset="UTF-8">
<link rel="stylesheet" href="https://latex.now.sh/style.css" />
<script id="MathJax-script" async src="https://cdn.jsdelivr.net/npm/mathjax@3/es5/tex-mml-chtml.js"></script>
</head>
<body>
<header>
<h1>LaTeX.css</h1>
<p class="author">コシギリ クニオ <br> 2020年 5月 25日</p>
</header>

<div class="abstract">
<h5>概要</h5>
<p>そうなんです。これは,mathjax の類縁ではありませんでした。</p>
</div>

<nav role="navigation" class="toc">
<h3>目次</h3>
<ol>
  <li><a href="#getting-started">はじめに</a> </li>
  <li><a href="#conclusions">おしまい</a>
</ol>
</nav>

<main>
  <article>
    <h3 id="getting-started">はじめに</h2>

<br/>

<div>
$$(x+y)^{n}=\sum_{k=0}^{n}\left(\begin{array}{l}n \\ k\end{array}\right) x^{n-k}
y^{k}=\sum_{k=0}^{n}\left(\begin{array}{l}n \\ k\end{array}\right) x^{k} y^{n-k}$$
</div>
  </article>
</main>

</body>
</html>

2020年5月23日土曜日

日和聡子

パンク侍がきっかけで町田康の最近の著作を調べていたらおすすめの5冊というYouTube動画が見つかったので何か面白いのあるかなと思ったら(注:平野啓一郎は自作の宣伝ばかりしていたぞ・・・どうなのか)日和聡子の「御命授天纏佐左目谷行(ごめいさずかりてんてんささめがやつゆき)」を紹介していて思わずピンと来て引き込まれたので調べてみると島根県出身の1974年生まれの詩人・小説家だったがこれは読んでみたいなあ。

追伸:町田康はえらく痩せてしまったようだった,病気だったのかもしれないが,数年前の動画も同じようなものだったのでどうなのだろうか。死ぬまでにギケイキなんとかしてね。

2020年5月22日金曜日

パンデミック侍

町田康の「パンク侍,斬られて候」の映画をテレビで見た。原作はとてもおもしろかったのだが,ストーリーはほぼ忘却の彼方にあった。まあ,「宿屋めぐり」や「告白」など他の物語と混線しているものもあるからか。映画のほうは,原作に忠実にパンクになっている部分と,制御がきななくでグダグダになっている部分が混在していた。ストーリはほぼ再現していたのでまあまあかしら。

物語に登場する「腹ふり党」が猖獗をきわめるというのは,まさにパンデミックにつながるのだった。次は「ギケイキ 千年の流転」を読まなくては。えっ,全四巻・・・

P. S. 本棚を確認すると,河出文庫の「ギケイキ 千年の流転」があった。なんということだ。読んだことすら忘れているのだろうか・・・最近こういうのが多くて・・・



2020年5月21日木曜日

緊急事態宣言解除(2)

東京高等検察庁の黒川弘務検事長が軽い訓告(懲戒処分ではない)を受けつつ辞表を提出した日,大阪府・兵庫県・京都府の緊急事態宣言が解除された(北海道・東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県は未解除)。

無理無理日本のデータにあわせた単純なモデル計算を実行してみると次のようになった。全回復数累計(無症状感染からの回復を含む)は1万人当り6人強にしかならず,例の0.6%とはどうしても1桁違うのであった。なお,使用したパラメタは,$\alpha_1=5/0.8,\ \alpha_2=5/0.2,\ \beta=0.67,\ \gamma_1=15/0.94,\ \gamma_2=15/0.06,\ \lambda=63,\ \tau=14,\ \nu=0.001$である。$\nu$は想定値の0.01より1桁小さく取ってはじめてこの程度の一致をみているので,真の感染数や死亡数は現在報告された値より10倍程度までの範囲で変化することがありうるかもしれない。そのときには,0.6%が再現できるのことになるのだが・・・


図1 日本の新規感染数累計(u6)と死亡数累計(u4)

図2 日本の総回復数累計(u5)

図3 このモデルパラメタでの有効再生産数($R_{\rm eff} = \beta(t) \alpha$)

このモデルの$\beta(t)$では,4月中旬に有効再生産数 $R_{\rm eff}$ が1を切るようなパラメタを選択したことになっている。なお,報告時点ベースの観測値を再現するようにモデルパラメタを設定しているので,実際には4月の初旬ということになるだろう。

WHOに報告されているデータを日本の人口で割って,1万人あたりの数に換算したものが上記グラフのサークルであり,下記の値を用いている。なお日時の原点は3/1としている。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 
#japan-data(start=3/1)
xj=[0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,
14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,
28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40,41,
42,43,44,45,46,47,48,49,50,51,52,53,54,55,
56,57,58,59,60,61,62]
yj=[0.0190,0.0202,0.0213,0.0225,0.0252,0.0277,0.0324,
0.0361,0.0387,0.0408,0.0451,0.0492,0.0536,0.0568,
0.0619,0.0646,0.0658,0.0658,0.0693,0.0754,0.0790,
0.0830,0.0864,0.0895,0.0947,0.103,0.110,0.119,
0.134,0.148,0.155,0.173,0.189,0.208,0.232,
0.260,0.290,0.310,0.338,0.378,0.424,0.477,
0.536,0.576,0.607,0.643,0.681,0.728,0.777,
0.822,0.853,0.882,0.912,0.946,0.983,1.018,
1.046,1.062,1.078,1.099,1.118,1.133,1.154]
zj=[0.040,0.048,0.048,0.048,0.048,0.048,0.048,
0.048,0.056,0.071,0.095,0.119,0.151,0.167,
0.175,0.190,0.222,0.222,0.230,0.262,0.278,
0.286,0.325,0.333,0.341,0.357,0.365,0.389,
0.413,0.429,0.444,0.452,0.452,0.516,0.548,
0.556,0.579,0.635,0.643,0.675,0.698,0.746,
0.778,0.810,0.865,0.944,1.079,1.175,1.222,
1.278,1.357,1.476,2.198,2.278,2.516,2.651,
2.762,2.786,2.984,3.087,3.294,3.429,3.603]/100
plot(xj,yj,st=:scatter,label="Confirmed-japan")
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 



2020年5月20日水曜日

丘シカ地下イカ坂

テレビからとつぜん不思議な歌が聞こえてきて思わず引き込まれてしまった。みんなの歌のアニメーションのフレーバーがかつて愛読したスズキコージ+片山健の「やまのかいしゃ」なのである。たぶん今,全国的にサラリーマンの気分はほげたさんになっている。

曲名と歌手を調べてみると,SAKANAMONの「丘シカ地下イカ坂」だった。歌詞はこんな感じである。

いきなり,上れ上れ上れ・・・上り坂上れ,下れ下れ下れ・・・下り坂下れときて(もうここが衝撃ですね),丘の上の家にすむシカと地下の家にすむイカがサカの途中で遊ぶという物語だ。で,最後は,さよならは寂し坂,会えるのは楽し坂というのが結論。

2020年5月19日火曜日

COVID-19 K値

中野さんのK値の続き

とうとう,日本経済新聞の5月19日朝刊4面に『感染把握に新指標「K値」』としてとりあげられるまでになった。西村康稔経済財政・再生相が取り上げてしまったのが原因である。中野さんはK=0.05が緊急事態宣言解除の目安だとしている。

テルミンの人やネコの実況中継の人は一様に口をそろえてその怪しさを強調している。感染症の専門家でもないのに口を出すなと。「どの口がゆうてるの」という例のフレーズを思い出してしまう今日この頃であるが,その気持ちはわからなくはない。でも西浦さん自身が,1週間単位の新規感染数の比率のような量を指標にする可能性について言及していたので,とんでもではないと思う。単純な四則演算のたぐいであたりまえのことかもしれないが,それでも特徴量を取り出すことはありうると思う。

そんなわけで,各国や地域のK値がどうなっているかを比較してみる。なお,これまで 5日移動平均した r 値 =  (当日の総感染者数)/ (1週間前の総感染者数) を計算してきており,これをK=1-1/rによって換算したものをプロットしたのが次の図である。


図1 アジアの各地域のK値の推移(3/1-5/16)

インドは0.3を越えシンガポールやフィリピンも0.1以上の高い水準を維持している。日本や東京は0.04以下に収束し,韓国,香港,台湾は0.02以下の低い値となっている。

図2 欧米の各地域のK値の推移(3/1-5/16)

欧米はアジア各地域のような多様な振る舞いはしておらず,ここ1ヶ月はおおむね単調減少しているようだ(スペインは統計の修正があったので不自然な窪みがある)。3グループに分かれる。ロシアとスウェーデンが0.3以上のグループを形成し,英国,カナダ,米国が0.1近傍のグループとなっている。これまで感染者が爆発していた,イタリア,スペインやフランスドイツは土は,0.05近傍に収束しつつある。ブラジルは感染爆発が危惧されているが,この指標上はおとなしい第3グループに含まれているがまだ予断は許さない。

2020年5月18日月曜日

CFR(致命率)(2)


人口当り死亡数だけを見ていてもわからないことがあるので,致命率を考える。ただ,ここでは致命率に近いものとして,「致命率」=死亡数累計(t)/新規感染者累計(t-7)」を考える。時間の単位は日である。グラフは各国や地域の新規感染者数累計が10ppmを越えたところを時間の基準として採用した。7日のずれは14日のほうがよいかもしれないが,感染から死亡までの時間のずれをある程度考慮したものである。

図1 アジアにおける「致命率」の推移


図2 欧米における「致命率」の推移

アジアではほぼこの値が収束に向っている,ただしシンガポールだけは特異的に値が小さくその動向も他とは異なっている。安定後に再び感染数が急増したにもかかわらず死亡数が一定で非常に小さいまま推移しているからである。日本や東京が増加傾向をしめしているのがちょっと気になる。

欧米ではアジアより1桁大きい水準で収束に向っている。ここで特異的なのはロシアであり,これも感染数の増加に比べて死亡数は非常に低い水準にとどまっている。カナダ,アメリカは欧州より低い水準になっているが,ブラジルは欧州に次ぐ値になっている。



2020年5月17日日曜日

COVID-19 人口当り死亡数

東京や大阪の新規感染数の報告値がおちてきたので,残る8道府県の緊急事態宣言の解除が視野に入ってきた。迷走する政府の対応にもかかわらず欧米に比べて感染数累計や死亡数累計が小さいことが謎をよんでいる。ただ,日本だけが特別というわけでなく,アジア・オセアニア対欧州・アメリカという構図なのだと思われる。オーストラリアやニュージーランドも低い数字なので人種的影響があるという説はかなり疑問であるし,日本の文化的特異性というのも同様にうなずけない。

図1 アジアの人口1万人当りの死亡数

図2 欧米の人口1万人当りの死亡数

アジアの中での日本は必ずしも低い水準というわけではない。すでに韓国をも越えておりフィリピンと同じ水準である。しかし欧米は軒並み1を越えているので,それに比べれば十分に少ないという印象を持つのもわからなくはない。ただ,死亡数を完全に把握的できているのかどうかは議論の余地があるかもしれないが,オーダーは変えないと思う。

(注:横軸の日付の基準日は各国・地域の新規感染数累計が10ppmに達した時点)