統計物理学の授業がはじまった。専門科目にしては受講者が多かったので,講義室は共通講義棟の1Fに割り当てられていた。授業の第1法則:受講者数は時間とともに指数関数的に減少する。授業の第2法則:受講者数の空間密度分布は教卓からの距離の逆数に比例して減少する。
最後にファン・デル・ワールスの状態方程式を紹介して授業を終えたところ,早速質問があった。理想気体では,pV=n R T だった状態方程式が,実在気体の場合(p+aV2)(V−b)=R T と書いてあるけれど,右辺にモル数の n が抜けているのかというものだ。
「あ,ごめんごめん,忘れてたわ」と返事して終ったものの,帰り道に380段の階段を下りながら考えてみると何だかおかしい。圧力の補正項 aV2 は分子間力によるものであり,気体密度の二乗に比例する項だと説明した。ところが,圧力は示強変数なのに,補正項の分母は示量変数の二乗になっている。つまり,a は定数ではなく示量変数の二乗に比例しなければならない。
演習課題の参考にしていた「熱学入門」(藤原邦男・兵頭俊夫)の式も同様の問題点を含んだままだった。そこで,いくつかの本などでファン・デル・ワールス方程式を調べてみると,気体のモル数を1モルに限定していたり,体積として V ではなく,モル当たり体積 Vm を用いている。
ということで,正しくは,nモルの実在気体に対しては,(p+an2V2)(V−nb)=n R T としなければならない。a,b の値もこれまで考えたこともなかったが,お茶の水女子大学の理学部編入試験問題にも採用されているくらいであり,水(H2O)の場合,a=5.54×10−1[Pa⋅m6⋅mol−2],b=3.05×10−5[m3⋅mol−1] だった。
これを使ってMathematicaで状態図をプロットしてみる。