2024年8月29日木曜日

一億総特攻

8月17日のNHKスペシャル「“一億特攻”への道 〜隊員4000人 生と死の記録」は,途中から見てしまったので,再放送を録画してもう一度見直した。 折りから,オリンピック選手が知覧特攻平和会館を訪れたいと発言した話題が議論を呼んでいた。NHKスペシャルの15年にわたる取材チームの調査の成果は貴重だった。改めて自分が特攻について十分知らなかったことに気づかされる。

番組では,海軍の神風特別攻撃隊について取上げられている。4000人に上る特攻による死者の記録が,詳細に調べられてデータベース化され,日本地図上にまんべんなく拡がる4000点として表現されていた。そのピンクの記号の波が,先日のスーパーシミュレーターの夢に現われた鳥(朱鷺)のイメージの原型だったのかもしれない。

太平洋戦争で日本軍が米軍に敗北を続け,1944年7月にサイパンが陥落して日本本土への空爆基地化した後,戦争の前線は,日本人戦没者数が最多の50万人を越えた地域であるフィリピンレイテ島へ移る。神風特別攻撃作戦は1944年10月,このレイテ沖海戦で米空母を攻撃するための苦肉の策として,大西瀧治郎によって実施された。

戦況はあきらかに日本に不利であり,米軍の物量に勝つことは困難であるため,一撃講和を目指した精神戦として,その後もこの特攻作戦が継続されていく。特攻を肯定する空気は映画やラジオを通じ,あるいは,地方事務所を媒介として日本全国民の間に浸透していく。

最終的には神風特別攻撃作戦によって4000人余りが犠牲となる。翌1945年に入り,4月の沖縄戦において特攻の死者数はピークを迎える。その内訳は十分に訓練されていない少年飛行兵(海軍飛行予科練習生?)と動員された学徒が中心で,エリート士官が僅かに加わる。


写真:NHKスペシャルの画面から引用(立体グラフはやめてね)

最近新しく発見されたものとして,海軍における特攻隊員の選抜資料が取上げられていた。海軍所属後の成績順に並べられた名簿には,意向を聴取された結果の「熱望」と「望」をトップに,氏名,本人の性向,家族関係などが詳しく記されている。驚いたのは,成績最上位層は選抜されず,その次にくる者たちが選ばれたようだという識者の解説だった。成績下位者は選抜されていない。また,「熱望」と「望」は選抜とは全く関係がなかった。意向には「否」もあったらしいが,そう記したものはほとんどなかったようだ。


[1]「特攻」はこうして生まれた…(一ノ瀬俊也)
[4]空気は行動を決定するか(田中國夫・井上和子)

2024年8月28日水曜日

スーパーシミュレーター

今朝,起床の直前に見た夢の話。夢言語から日本語へ翻訳すると概ね次のようなことだった。もちろん,下記のテキストには生成AIは一切関与していない。

登場人物:自分,良く知らない学生さん
場所:学校の教室らしきところ

学生さんに,最近のAIのトレンドを聞いていたら,新しいアプリを紹介してくれた。今年の8月に入ってから登場したアプリらしい。そのデモ画面では,机上の大きなスクリーンに展開した,子ども向けの図鑑のようなアイコンやシンボルが配列されたものだ。それは世界のスーパーシミュレーターになっている。我々の世界の経済生産活動や政治社会活動や文化芸術活動の様々なデータが地図上の操作によって簡単に取り出すことができる。さらに,その場所における社会のパラメタを少し変化させると,これまでくっきりしていたアイコンがぼやけて全体のフォーカスが崩れるのだが,しばらくすると世界は新しい条件の下に実現する状態に遷移して世界全体のシミュレーションが続いていく。試してみたのは中国の東北部なのか日本の東北地方なのかははっきりしないが,あっという間に結果を得ることができた。自然現象のシミュレーションも可能であり,日本列島を西から東へと鳥の様々な種類が変化しながら覆っていく様子がみえた。石川県の辺りからは,ピンクの朱鷺だとおもわれる鳥のアイコンが拡がっていった(夢から覚めた後で日経朝刊をみると,26面に「能登でトキ放鳥へ 26年度にも 復興支援で本州初」という記事がみつかったけれど・・・)。この新しいアプリは一体なんというものなのか,生成AI(LLM)を背景で使っているのだろうと学生さんに尋ねたけれど,どうやらそうではないらしい。さらに,URLを教えてよとお願いすると,教えてくれたので,チョークで黒板に,ボールペンでノートに書き留めようとするが,自分の電卓が見当たらないのでうまくいかない。あちらこちら探し回るが電卓がみつからないのだ。それはとても困る。別の部屋に行くと関数電卓が何台か置いてあったが,どれも自分のものではない。仕方がないので,それらをまとめて持って元の部屋に帰ると,学生さんが,書類を持っていた。彼はどうやら自分の研究室に所属する予定の学生だったようだ。改めてこのスーパーシミュレーターアプリのURLを教えてもらおうとするが。自分の学生だから,まあ安心だ。いつかは必ず聞き出すことができるだろう。それにしても,AIの進化のスピードははやい。あっという間に,かなり精度が高くて有用な世界のシミュレータが皆の手元に存在する時代になってしまった。これからいったいどうなるのだろう。

P. S. そうそう,たぶん自分の大好きなダイアスパーがモデルですよね。



図:DALL-E3のこのイメージは自分のPOVとは異なっている


[2]都市と星(Manuke Station SF Review)

2024年8月27日火曜日

充電トラブル

最近,iPhoneを落とすことが多いなあと思っていたら,どうやら深刻なトラブルに遭遇している。

バッテリー及び周辺ハードウェアが壊れ充電がスムーズに進まなくなった,もしくは,ソフトウェアが壊れバッテリーでの充電表示が正常に進まなくなった,のいずれかもしくは両方である。

図:iPhone SE2 バッテリのキャプチャ画像

図のように充電しているはずなのに,バッテリ残量のパーセント表示が進まないのだ。充電アダプターやケーブルを変えても同じである。黄色の部分は節電モードであり,これが原因で充電を抑制しているのかとも思ったが,節電モードを解除しても同様の平坦部がみられる。何度か強制再起動をかけると元に戻ったが,戻らない場合もあるのでやっかいだ。


もし,急に充電ができなくなってしまうと,とてもとても困る。Apple Pay や PayPayや,三井住友銀行やICOCAなどがiPhone端末に依存しているし,googleなどの2段階認証とか,あれやこれやで端末が急に使用不可になったときのリスクはかなり大きい。どうしましょう。

iPhone16シリーズの発売予定は,9月20日らしいけれど,iPhone SE4は1925年春以降ということだ。ついでにソフトバンク販売店に騙された高いプランから,LINEMOに変更しようと思うので,分けワカメ状態の年寄りにはなかなかに敷居が高い話なのだ。どうしましょう。


[4]ソフトバンクからLINEMOへの乗り換え(ソフトバンク)


2024年8月26日月曜日

金星の蟲:酉島伝法

皆勤の徒からの続き

酉島伝法の短編集の2つ目をKindleで読了。

金星の蟲,環刑錮,痕の祀り,橡,ブロッコリー神殿,堕天の塔,彗星狩り,クリプトプラズムの8作品に,抄録 幻視百景と自作解題,大森望の解題と続いている。

金星の蟲は,著者の印刷工としての経験が膨らんだもの,環刑錮が,蚯蚓状の意識の葛藤が表現されたもので,この2作がメインディッシュかもしれない。なかなかに読みにくいのが楽しいが,皆勤の徒のような言語的なチャレンジは多くない。それでも,これだけの多様なイメージを紡ぎ出している。

痕の祀りは,バラードの溺れた巨人の話かとおもいきや,斉一顕現体と万状顕現体というウルトラマンと怪獣の戦いの後始末をする,加賀特掃会=科学特捜隊の話だった。



写真:金星の蟲(早川書房)の書影を引用


2024年8月25日日曜日

夫婦別氏

学士院からの続き

津田大介がtwitter(X)で(差別の温床のXを持続させる方向はなるべくやめてほしいが・・・),日本評論社法律編集部の以下のツイートを引用していた。
今週の #虎に翼 小ネタ🐯
寅子のモデル・三淵嘉子が、航一のモデル・乾太郎と再婚したのは1956(昭和31)年のことでした。当時、夫婦同氏はどう捉えられていたのでしょうか。
戦後民法改正で臨時法制調査会委員も務めた民法学者・中川善之助の著書『法学』に、婚姻に伴う改姓に関する記述がありました。
中川善之助先生は,金沢一中の先輩である。金沢大学の学長をされていたときに,金沢泉丘高校で生徒向けの講話をされたことがある。そこで述べられた普遍的な真理「私がこれからする話は,将来きっと忘れてしまうと思うけれど」の部分だけは憶えている。もちろん本論はきれいに消去されている。これに匹敵する自分の人生の真理は,子供のときに読んだマンガの一休さんが,茶わんを壊して池の鯉を食べてしまい,「形あるものは必ず壊れる,命あるものは必ず死ぬ」だけだ。

日本評論社の法学(中川善之助)から引用された文書をClaude 3.5 Sonnet で文字起ししてみると,精度は50%ほどしかなかったが,自力で補完した。

あるいはまた,氏すなわち苗字についても興味ある変化が認められる。旧法では,妻は婚姻によって夫の家,すなわち戸籍に入るとされ,妻は当然に夫の氏に改称させられた。夫が妻の氏に改める場合は,婿養子か入夫婚姻の場合だけであった。

 しかし,こうした妻が夫の氏に改称するという規範は,むしろ西洋的ないしキリスト教的のものであり,東洋の妻は,決して夫の氏を名乗らず,婚姻しても,生来の氏を称したものである。それは,氏が血統を表す称号である以上,結婚によって血統が改まるはずがないことの当然の結果でもあった。ところが西洋文明の流入につれて,夫婦は一つの氏を称すべきものであり,その一つの氏は,夫の氏でなければならぬという考えが,漫然と浸みこんで来た。同時にまた,氏そのものも,血統を示すというより,家族共同体の屋号のようなものに変わって来たため,人々はいつのまにか,夫婦の氏は,夫の氏一本にならねばならぬと考えるようになった。旧法は正にこの思想の上に規範を立てている。

 新法は,憲法のいう両性平等の原則にしばられて,夫婦の氏は,夫の氏でも妻の氏でもよく,そのどちらかに選択決定して,婚姻の際に届け出ろということにした。

 いかにも,この規定は両性に平等である。しかし,長い父系尊重思想に慣れた人々の常識では,夫婦の氏は当然夫の氏に統一すべきものということになる。したがって実際の結果は,旧法のときと,少しも変わらない。男はもちろん,女自身までもが,結婚後は夫の氏を称するのを当然と思い,また願望さえしているのである。

 私は,夫婦だからといって,氏を一つにしなければならぬ必要は少しもなく,夫は夫の氏を,妻は妻の氏を称すること,アジア古来の慣行通りであっていいと思うむしろそれこそ個人の尊厳の上にたつ婚姻共同生活の呼称上の在り方だとも思う。しかし今日はまだ,日本の男も女も,一方には西洋人が古くからのキリスト教的伝統に従って夫婦同氏の原則を守っているに安心し,他方では,自分たちの胸底に残る家父長制意識に支えられて,夫婦別氏ということを考えないようである。人々に法的確信が浦いて来ない間は,法規範も生れて来ないし,生れても育たないのだから,その意味で,新法の規定を非難する積りは,私にないが,近い将来には問題となるべきことだと思う。(中川善之助,法学から引用)

というわけで,自民党等の親米宗教右派やその取り巻きのネトウヨがSNSにばらまいている「日本古来の」という修飾語で,夫婦別氏制度を否定する言説は,間違っているわけだ。が,そんなことを指摘されてもびくともしないのは,天皇制=象徴的家父長制を錦の御旗として振り回しているということからくるのかもしれない。それが日本社会の女性差別につながっているのだけれど,自分の身体にもその空気は染みついているので困ったものである。

P. S. 正式には「選択的夫婦別氏(べつうじ)制度」である。

[2]氏姓制度(Wikipedia)

2024年8月24日土曜日

松岡正剛

松岡正剛(1944-2024)の訃報が流れた。アラン・ドロン(1935-2024),高石ともや(1941-2024),石川好(1947-2024)とこのところ続いている。

松岡正剛が設立した工作舎(1971-)は,雑誌「遊(1971-1982)」の編集チームとして発足している。ちょうど大学に入った頃,本屋の店頭で雑誌「遊」を見かけた。値段も張るし,自分で買う気にはならなかったが,なんとなく物理学科の学生の心を引きつける妖しい雑誌だった。亡くなった藤井常幸君(原研那珂研究所)が話題にしていたぼんやりした記憶がある。あの杉浦康平(1932-)デザインの赤っぽい表紙の雑誌を教室でひろげていたのだろうか。

松岡正剛が編集した本というと,自分で買ったのは「情報の歴史(1997)」なのだ。もう処分したかと思って本棚を探してみると残っていた。おまけに「情報の歴史を読む(1997)」という解説本まで買っていた。今度廃棄処分しよう。

いろいろと評判の別れる松岡正剛だが,千夜千冊はその守備範囲や知識の網目の精緻さに驚かされた。自然科学にも十分目配りされていて,読んでみたくなる本が多かった。その千夜千冊は結局1850夜まで達していた。



図:DALL-E3による千夜千冊+情報の歴史のイメージ


P. S.  「情報の歴史を読む」をパラパラ開いていると,NTTコミュニケーションズのチラシが入っていた。「このたびは,弊社 GOLD CLUB 会員用 WEB サイトでのイベントにご参加・プレゼントへのご応募ありがとうございました。ささやかではございますが,御礼の気持ちを込めてプレゼントをお送りさせていただきます。」本の定価は2,900円だった。

2024年8月23日金曜日

異世界転生

ホリエモンのYouTubeは見ないようにしているのだけれど,たまたま目に付いた千葉工業大のロボットの話題はとても良かった。

ロボット本体は,ボストンダイナミックスのコピー製品のように見えるUnitreeのGo2である。千葉工業大学法人直轄のfuRo(未来ロボット技術研究センター)古田貴之(1968-)所長は,そのロボットのソフトウェア部分の学習過程を新しく開発した方法で改変した。

ロボットの運動機能の学習訓練には,時間がかかるため,これを仮想空間内の4096体のロボットに移植して,2万世代の改良を加えた。そのために必要な時間は実時間に比べて圧倒的に少なくて済む。学習の結果得られた深層学習データを再び実空間のロボットに移植するが,環境条件が仮想空間とは異なるため,異世界転生とよぶゲートウェイをかませて変換している。

その結果,この4本足走行ロボットは,視覚センサーやLiDARセンサーや聴覚センサーなしで(ロボットのハードウェアにはLiDARが付いているが使わない),脚の触覚に対する応答のみをインプットとして,段差などがある環境で運動することが可能になった。ただし,完全自律走行ではなく,外部から与えた一定の指示の元での運動になる。

四本足走行なので,屋外の非平坦環境でも自由に移動することが可能になっている。デモ動画を見ている限り,運動機能は非常に高い。シンギュラリティサロンの松田先生によれば,これは,人間でいえば小脳を鍛えたことに相当するということだ。明らかに軍事転用の危機が迫っている。


写真:古田先生のデモンストレーション([2]から引用)

[3]千葉工大のロボット犬について〜運動知能が急発展している(シンギュラリティサロンオンライン)


2024年8月22日木曜日

複式簿記

複式簿記を勉強しようかなと思っていたら,それは群論で理解できるとの託宣が空から降ってきた。そういうのが好きだ。

早速,調べてみた。ところで,生成AIに尋ねることを「調べる」といって良いのだろうか。
Q(koshix):
複式簿記が代数学の群であるとはどういう意味ですか。その場合,群をなしている集合は何の集合であり,定義されている演算はどのようなものですか。また,単位元と逆元はどうなりますか。 
A(ChatGPT-4o):
複式簿記が代数学の群(Group)であるということは、複式簿記の操作や構造が群の公理を満たしているということです。群の基本的な定義に基づいて、複式簿記を群として解釈する際のポイントを説明します。

群の定義
群とは、集合 $G$ とその上の二項演算 ∗ に対して、以下の4つの公理を満たす代数構造のことです。
1.結合律(Associativity):任意の $a, b, c \in G$について,$(a*b)*c = a*(b*c)$ が成立する。
2.単位元(Identity element): $G$ の中に単位元 $e$ が存在して、任意の$ a \in G $について,$e*a = a*e = a$ が成立する。
3.逆元(Inverse element):任意の $a \in G$について,$a * b = b * a = e$を満たす元 $b \in G$ が存在する($b = a^{-1}$)。
4.閉性(Closure):任意の $a, b \in G$について,$a*b \in G$ である。

複式簿記における群の解釈
1.集合 $\ G$
・複式簿記では、資産、負債、収益、費用、純資産といった「勘定科目」の集合が存在します。この勘定科目が群を構成する集合 $G$ に相当します。
2.演算 $\ *$
・演算としては「仕訳」が相当します。仕訳とは、ある勘定科目から他の勘定科目への「移動」を意味します。したがって、群の演算 $*$ は「ある仕訳と別の仕訳を組み合わせて新しい仕訳を作る操作」と解釈できます。
3.単位元 $\ e$
・単位元は群の要素と何らかの操作を行ってもその要素を変化させない要素です。複式簿記の文脈では「無操作」、すなわち資産や負債に何も影響を与えない操作が単位元に相当します。これは「仕訳を行わない」という状態を表します。
4.逆元 $\  a^{-1}$
・逆元は、仕訳による操作を元に戻す操作に相当します。例えば、「ある勘定科目に借方として100円を記入する」という仕訳の逆元は「同じ勘定科目に貸方として100円を記入する」仕訳です。これによって、仕訳の効果が打ち消され、元の状態に戻ることになります。

群の公理の適用
1.結合律:仕訳は連続して適用されても、その順序が変わっても同じ結果を得られるため、結合律が成り立ちます。
2.単位元の存在:「無操作」の仕訳は、どの仕訳とも組み合わせても仕訳内容を変えないため、単位元が存在します。
3.逆元の存在:各仕訳に対して、その効果を打ち消す逆の仕訳が存在するため、逆元が存在します。
4.閉性:すべての仕訳は、勘定科目の集合内での操作であるため、仕訳を適用した結果もまた勘定科目の集合内に留まります。

結論
複式簿記を群と見なす場合、勘定科目の集合が群をなす集合に対応し、仕訳の操作が群の演算に相当します。単位元は「無操作」、逆元は「仕訳の逆操作」として解釈できます。この解釈によって、複式簿記の構造が代数学の群の性質を持つことが理解できます。

2024年8月21日水曜日

好適環境水

A谷君から電話で,好適環境水を聞いたことがあるかとのお尋ね。岡山理科大学工学部の山本研究室で開発された,海水魚を淡水で養殖するための技術らしい。
Q(koshix):
好適環境水と海水魚の淡水養殖の関係についてできるだけ新しい知見を教えてください。

A(Claude 3.5 Sonnet):
最新の知見について説明いたします。好適環境水と海水魚の淡水養殖には興味深い関係があります。

好適環境水は、海水魚を淡水で飼育するために開発された人工の水です。主な特徴として:
1.ミネラルバランス:海水に近いイオンバランスを持ちながら、塩分濃度は淡水レベルに抑えられています。
2.pH調整:海水魚に適したpHレベルに維持されています。
3.浸透圧管理:魚の体内環境に近い浸透圧を実現しています。

最近の研究や実践から得られた新しい知見には以下のようなものがあります。
1.種の多様化: 従来は困難だったマダイやヒラメなどの高級魚種の淡水養殖が可能になってきています。
2.成長速度の向上:好適環境水を用いることで、一部の魚種では海水養殖よりも成長が早くなる例が報告されています。
3.病気耐性の向上:適切に管理された好適環境水では、魚の免疫システムが強化され、一部の疾病に対する耐性が向上する可能性が示唆されています。
4.環境負荷の軽減:内陸部での養殖が可能になり、沿岸環境への負荷を減らせる可能性があります。
5.省スペース化:閉鎖循環システムとの組み合わせにより、より効率的な養殖が可能になっています。
6.味質の変化:一部の魚種では、好適環境水で育てた魚の味や食感が海水養殖のものと微妙に異なるという報告があります。これは新たな付加価値となる可能性があります。
7.遺伝子発現の変化:好適環境水で飼育された魚の一部で、海水中とは異なる遺伝子発現パターンが観察されています。これは長期的な適応メカニズムの解明につながる可能性があります。

これらの知見は、水産業の持続可能性向上や食糧安全保障の強化に貢献する可能性があります。ただし、まだ研究段階のものも多く、実用化にはさらなる検証が必要です。

図:DALL-E3による好適環境水のイメージ

まだ現役ドクターとして毎日働いているA谷君から電話があるといつも「毎日何してるん」
と尋ねられる。自分は,暇で困っているということはなくて,どこへも出かけなくても情報のインプットとアウトプットで精いっぱいである。毎日ご飯を食べてトイレに行くのと同じ状況であって,特に困っていることはない。もちろん,身体を動かさないことでフレイルになるという心配はあるのだけれど。

自分の回りの親戚や友人などの多くは,仕事や趣味がなくて暇そうにしている老人のことを心配してくれる。もしかすると,人間は毎日一定の目的を持って行動しなければならいのだと考えているのかもしれない。このあたりはもう少し検討の余地がある。人間にとっての好適環境とはなんだろうか。続く。

[1]好適環境水とは(千葉科学大学)
[2]アクア東条(Wikipedia)


2024年8月20日火曜日

橿原市昆虫館

夏休みのイベントです。橿原市昆虫館を30年ぶりに訪れた。

ゴキブリの飼育と放蝶温室で有名だった。今もその部分は申し分なかった。しかし,いかんせん設置後35年も経つと,施設や展示の旧さが目に付くようになってしまう。いまどきの博物館はより洗練された展示方法をとっている。

それでも,新館の特別生態展示コーナーで,学芸員の方が蝶の飼育方法やマダガスカルゴキブリを手に乗せて説明してくれるところは,非常に興味深かった。まあ,隣に展示されていたカメとスッポンと金魚の関連性については若干問題があったかもしれない。

放蝶温室のオオゴマダラやツマムラサキアゲハは,温室で回収した卵を別の飼育環境に移動して,一匹ずつ幼虫から蛹に育てて,温室に返すという手間のかかる作業をされているとのことだった。放蝶温室を最初に見学したのは,池田市に住んでいた40年前に訪れた伊丹市昆虫館だった。

せっかくの昆虫館なので,既存展示のリニューアルとか,博物館グッズコーナーの充実などをすればよいのだろうけれど,予算は限られている。維新県政では,県の支援も絶対無理だろう。日本全国何処も貧すれば鈍す状態を着々と進んでいる。



写真:橿原市昆虫館の放蝶温室(2024.8.20撮影)

2024年8月19日月曜日

若者世代のリアリティ

東京都知事選挙(6)からの続き

成蹊大学の伊藤昌亮さんの分析「若者世代のリアリティ 石丸現象とTikTok」がWEB世界(岩波書店)で公開されていた。なかなか興味深い論説だった。

東京都知事選挙における石丸伸二の躍進について,ネット戦略にその原因を求めることについて菅野完は否定的な見方をしていた。確かに,旧勢力のメンバーが選挙運動の実際を担っていたことが大きいのは間違いないが,それでも若年層における支持率の高さや菅野自身が認めていた投票所に行列ができるような朝の風景の分析には不十分なのだった。

伊藤は,TikTokのいいねについての定量的な分析を踏まえて,石丸がどのように若者達の心をつかんだのかを詳細に検討している。これまでの様々な石丸現象の説明よりは格段に精度が上がっているような気がする。

その論説をChatGPT-4oにまとめさせると次のようになった。
Q(koshix):
何が書いてありますか?
(略)
Q(koshix):
事実内容やデータと論理の筋道と考察をもう少し詳しく説明してください。

A(ChatGPT-4o):
このPDFの記事「石丸現象とTikTok――若者世代のリアリティ」は、2024年7月の東京都知事選挙で石丸伸二氏が若者世代から大きな支持を得た背景と、その要因を分析しています。以下に、記事の内容をさらに詳しく解説します。

1.石丸現象の概要と選挙結果
背景:石丸伸二氏は、安芸高田市長としての経験を生かし、従来の既得権益層や古参議員との対立を強調した選挙キャンペーンを展開しました。
選挙結果:石丸氏は、特に若者世代からの支持を集め、蓮舫氏を上回る票数を獲得し、都知事選での大躍進を果たしました。
2.ネット戦略とTikTokの役割
ネット戦略:石丸氏は、YouTubeやTikTokなどのネット動画を積極的に活用し、自身の政治的メッセージを広く発信しました。特に、対立を煽るような「劇場型」演出が、若者の間で共感を呼びました。
TikTok分析:伊藤教授は、YouTubeではなくTikTokに焦点を当て、動画の「いいね」数に着目することで、若者が石丸氏に共感する理由を分析しています。特に、「老害批判」「マスメディア批判」「若者応援」の3つのメッセージがTikTok動画で支持を集めていることが示されています。
3.投票前後の「いいね」率の変化
投票前:投票前の動画では、「老害批判」と「若者応援」のメッセージが多くの「いいね」を獲得していました。これらのメッセージは、石丸氏が既得権益層との対立を強調し、若者の権利を守ろうとする姿勢を示していました。
投票後:投票後には、「マスメディア批判」の動画が特に多くの「いいね」を集めました。石丸氏がマスメディアに対して強硬な姿勢を取ったことが、支持者に強い印象を与えたと考えられます。
4.応援型メッセージと自己啓発的なアプローチ
自己啓発的な内容:石丸氏のTikTok動画には、勉強の仕方や仕事のテクニックなど、日常生活での成功を支援する自己啓発的な内容が多く含まれていました。政治的な議論よりも、若者が日常的に直面する課題に対する実用的なアドバイスが重視されています。
前政治的領域:伊藤教授は、石丸氏のアプローチを「前政治的な領域」と呼び、伝統的な政治的な言説から距離を置き、むしろ日常生活に密着した問題解決を強調するものだと述べています。これは、自己責任や自助努力を重視するネオリベラリズム的な考え方と一致しています。
5.ネオリベラリズムの内面化とリベラリズムの額面化
経済的な右派:石丸氏のアプローチは、ネオリベラリズムに基づくものであり、政治的な調整を回避し、個々人の自己実現を重視する姿勢が見られます。この点で、経済的には右派的な立場にあると考えられます。
文化的な左派:一方で、石丸氏はジェンダーやエスニシティに関する問題ではリベラルな立場を示しています。ただし、これは表面的なものであり、深く内面化されたものではないと分析されています。
6.成長が困難な時代における成長戦略としての自己啓発
若者の成長戦略:石丸氏は、自己啓発を通じた自己実現を成長戦略の一部として掲げています。これは、社会全体の成長が見込めない時代において、若者が個々に成長を目指すための手段として機能していると分析されています。
投資と成長の関係:ただし、投資を通じた自己実現は劣悪なものであり、石丸氏の「応援メッセージ」はより本来的な意味での成長戦略として若者に受け入れられたとされています。
7.社会的弱者への配慮の欠如とその影響
矛盾点:石丸氏のアプローチには、社会的弱者への配慮が欠けている点が批判されています。彼の「老害批判」が、若者を応援するための正当なものとされている一方で、そのメッセージが社会的に弱い立場にいる高齢者や他の社会的弱者への攻撃に転化する危険性が指摘されています。
リベラリズムと福祉政治の欠如:石丸氏のアプローチは、福祉政治を軽視し、自己責任に基づくネオリベラリズムを強調していますが、これは持続可能な社会を構築する上で問題があると論じられています。
8.社会全体への示唆と「若者世代化」の影響
永遠の若者:伊藤教授は、現代社会では中年世代も「若者世代化」しているとし、成長と自己実現の欲求が満たされない状態が続いていると指摘しています。石丸氏を支持した中年世代には、こうした状況に置かれた人々が多かったと考えられます。
結論:最終的に、石丸現象を通じて、現代日本社会が抱える問題がより鮮明に浮き彫りになると結論づけています。リベラル派が成長戦略を軽視し、文化政治に重点を置きすぎている点も、今回の選挙結果に影響を与えたと考えられています。

このように、伊藤昌亮教授は石丸現象を若者世代のリアリティとして分析し、その背景にある社会的、経済的な要因について論じています。また、石丸氏の戦略やアプローチが一時的な支持を得ることには成功しているが、長期的には社会的な弱者への配慮が不足しているため、持続的な支持を得るのは困難であるという考察がなされています。

図:「上記にふさわしくて,あまり説明的でない抽象的なイメージを下さい」
の回答 by DALL-E3・・・なんだろうこのSは。


2024年8月18日日曜日

AIサイエンティスト

Sakana AI はGoogleの2人の研究者が2023年8月に,東京で始めたスタートアップである。それが先日,AI サイエンティスト というシステムを開発した。arxivに185ページの論文(The AI Scientist: Towards Fully Automated Open-Ended Scientific Discovery)が出され,十分なリソースさえあれば,Githubで試してみることもできる。

最初に人間が問題となるテーマを与えれば,あとは仮説を設定して数値実験して結果を求め論文を書いて評価するところまで自動化されるのだ。シンギュラリティサロンの松田先生によれば,人間では論文1本200万円かかるところを,AI Scientistならば,$15=2000円でできるということだ。もっとも,清水亮さんが実際に試したところは,生成AIのAPI使用料がかさむので,1本数万円はかかりそうだとのこと。

問題は,お金だけではなく,これによってどこまで科学が人間と独立に進化するかなのだ。実際の自然現象と結ぶには仮想実験でなくて,リアルの実験が必要となるから,それはまた次のステップの課題となるが,それでも非常に大きな一歩には違いない。

論文の概要を訳してみると次の通りである。
Q(koshix):
次の論文概要を分かりやすく和訳してください。

A(Claude 3.5 Sonnet):
はい、喜んでこの論文概要を分かりやすく和訳します。
人工知能(AI)による自動的な科学的発見に関する画期的な研究についての概要です: 
「人工知能の大きな課題の1つは、科学研究を行い新しい知識を発見できるAIエージェントを開発することです。最新のAIモデルは既に人間の科学者を補助する目的で使用されていますが(アイデア出し、コード作成、予測タスクなど)、それらは科学的プロセスの一部しか担っていません。
本論文では、最先端の大規模言語モデル(LLM)が独立して研究を行い、その成果を発表できるようにする包括的な枠組みを初めて提案しています。我々は「AIサイエンティスト」と呼ばれるシステムを紹介します。このシステムは、新しい研究アイデアを生み出し、コードを書き、実験を実行し、結果を視覚化し、完全な科学論文を執筆してその発見を説明し、さらに評価のための模擬査読プロセスを実行します。
理論的には、このプロセスを繰り返すことで、アイデアを反復的に発展させ、成長する知識のアーカイブに追加していくことができます。これは人間の科学コミュニティのような働きをします。
我々は、この手法の汎用性を示すために、機械学習の3つの異なる分野(拡散モデリング、Transformerベースの言語モデリング、学習動態)に適用しました。各アイデアは実装され、1本あたり15ドル未満という低コストで完全な論文に仕上げられました。これは、我々の枠組みが研究を民主化し、科学の進歩を大幅に加速させる可能性を示しています。
生成された論文を評価するために、我々は自動レビューアを設計・検証しました。このレビューアは論文の評価において人間に近い性能を達成することが示されています。AIサイエンティストは、この自動レビューアの判断によると、トップレベルの機械学習会議での採択基準を超える論文を生成できます。
このアプローチは、機械学習における科学的発見の新時代の幕開けを意味します:AIエージェントの変革的な利点をAI自体の研究プロセス全体にもたらし、世界の最も困難な問題に対して無限の手頃な創造性とイノベーションを解き放つ世界に我々を近づけます。
我々のコードはhttps://github.com/SakanaAI/AI-Scientistでオープンソース化されています。」 
この研究は、AIが科学研究のプロセス全体を自動化し、人間の科学者と同様に新しい発見を行える可能性を示しています。これは科学の進歩を加速させ、研究をより手頃で民主的なものにする可能性があります。




図:AI Scientistの上記論文から引用

2024年8月17日土曜日

経度問題

EarPodsをはめたまま昼寝をしていた。いつの間にか,山田五郎面白い話が聞こえてきて目が覚めた。彼の趣味の一番は時計だったのか。どうりで話が詳しいのだ。

大航海時代後の大英帝国では,船がどうやって自分の位置(経度)を正しく測定するかというのが重要な問題となった。それが1714年の経度法につながった。

Q(koshix):
経度問題の歴史的経緯に関する蘊蓄をお願いします。

A(Claude 3.5 Sonnet):
経度問題の歴史的経緯について説明いたします。これは航海と地図作成の歴史において非常に重要な課題でした。

1.問題の背景:
経度を正確に測定することは、船舶の位置を特定し、安全な航海を行うために不可欠でした。緯度の測定は比較的簡単でしたが、経度の測定は長年にわたり困難な課題でした。
2.初期の試み:
16世紀から17世紀にかけて、様々な方法が提案されました。例えば、木星の衛星の動きを観測する方法などがありましたが、海上での実用性に乏しいものでした。
3.経度法の制定:
1714年、イギリス議会は経度法を制定し、実用的な経度測定方法を開発した者に多額の賞金を提供することを決定しました。
4.ジョン・ハリソンの貢献:
時計職人のジョン・ハリソンは、精密な航海用時計(クロノメーター)の開発に取り組みました。彼は約30年の歳月をかけて、H1からH5までの5つの時計を製作しました。
5.クロノメーターの成功:
ハリソンのH4は1761年と1764年の航海試験で優れた性能を示し、経度問題の実用的な解決策となりました。
6.影響と普及:
ハリソンの技術は徐々に改良され、19世紀には多くの船舶でクロノメーターが標準装備となりました。これにより、航海の安全性と効率が大幅に向上しました。

この歴史的経緯は、科学技術の進歩が実際の問題解決にどのように貢献するかを示す興味深い事例です。経度問題の解決は、航海技術の発展だけでなく、精密機械工学の進歩にも大きな影響を与えました。

Q(koshix):
ハリソンの物語にはもっと紆余曲折があったのではないでしょうか

A(Claude 3.5 Sonnet):
ご指摘の通りです。ジョン・ハリソンの物語には多くの紆余曲折がありました。より詳細に説明いたします。

1.困難な始まり:
ハリソンは田舎の大工の息子として生まれ、正式な教育を受けていませんでした。彼の時計製作の技術は独学で身につけたものでした。
2.最初の挑戦:
1730年代、ハリソンは最初の海洋時計H1を製作しましたが、これは重すぎて実用的ではありませんでした。その後、H2、H3と改良を重ねましたが、いずれも満足のいく結果を得られませんでした。
3.H4の breakthrough:
1759年、ハリソンは画期的なH4を完成させました。これは従来の時計とは全く異なる、ポケット時計サイズの革新的な設計でした。
4.試験航海と論争:
1761年と1764年の試験航海でH4は素晴らしい性能を示しましたが、経度委員会は更なる試験を要求しました。これはハリソンにとって大きな失望でした。
5.政治的な障害:
経度委員会の一部のメンバー、特に王立天文台長のネヴィル・マスケリンは、天文学的方法を推奨しており、ハリソンの機械式解決策に反対していました。
6.賞金獲得の遅延:
ハリソンは何度も賞金の支払いを要求しましたが、委員会は新たな条件を付け加え続けました。これにより、ハリソンは完全な賞金を受け取るのに数十年を要しました。
7.王室の介入:
最終的に、ハリソンはジョージ3世に直接訴えかけました。王の支持を得て、1773年に議会は特別法を制定し、ハリソンに残りの賞金を支払うことを決定しました。
8.晩年の苦闘:
ハリソンは80歳を過ぎてようやく正当な評価を得ましたが、その時には既に健康を害していました。彼は1776年に83歳で亡くなりました。
9.遺産と再評価:
ハリソンの業績は、当時は十分に認められませんでしたが、後世になってその重要性が再評価されました。現在では、彼は航海技術と時計製作の革新者として高く評価されています。

ハリソンの物語は、革新的なアイデアが既存の権威や制度と衝突する際の困難さを示しています。同時に、粘り強さと信念の力を表す感動的な物語でもあります。



写真:ジョン・ハリソンのH1(SEIKOから引用)

[1]経度の歴史(Wikipedia)
[2]ジョン・ハリソン(Wikipedia)
[3]クロノメーター(Wikipedia)


2024年8月16日金曜日

大仏鉄道

天理軽便鉄道からの続き

奈良市内をクルマで回ると,大仏鉄道記念公園という大仏駅の跡地を通ることがある。

大仏駅は,1898年(明治31年)に,当時の関西鉄道の加茂駅−大仏駅の終着駅として設置された。次の年には奈良駅までつながるのだが,関西鉄道が奈良鉄道を買収して木津経由路線を確立すると,1907年(明治40年)には大仏線は廃止されてしまった。

学研都市の木津や平城山あたりやをクルマで通るときにも遺構がちらほら見られる。


図:運行わずか9年の幻の鉄道(たびよみから引用)

[1]大仏鉄道研究会(WebArchive)
[4]大仏鉄道(近代化遺産ある記)

2024年8月15日木曜日

天理軽便鉄道

夕方のテレビに近所の様子が映っているとの連絡で早速チャンネルを変えた。

ファミリー公園近鉄平端駅の辺りで,リポータがモチャモチャしていた。テーマは,天理軽便鉄道の跡地めぐりだった。法隆寺の近くにある木戸池の中央には軽便鉄道の跡を示す堰堤が残っている。

天理軽便鉄道は,JRの法隆寺駅近辺から,JRの天理駅までを結んだ狭軌ガソリン車による軽便鉄道である。1915年(大正4年)に開業した。新法隆寺−安堵−額田部−二階堂−前栽−天理の駅が設けられた。1922年(大正11年)には,天理軽便鉄道は廃止されて大阪電気軌道に移管,平端駅−天理駅間が広軌電化された。残る新法隆寺駅−平端駅間は,1945年(昭和20年)に運転中止その後廃止された。

天理教の勢力拡大に伴う大正普請で,多くの人の流れが発生したが,当時は大阪湊町駅−奈良駅−丹波市(天理)駅と,2時間半もかかっていた。そこで法隆寺駅で降りて天理まで歩く信者が多かったため,この軽便鉄道の敷設に至った。ところが,いざ開通してみるとそれほど利用者は多くない。帰りはみな別コースで奈良見物などをしたものだから,採算はとれなかったようだ。

うちの最寄り駅の近鉄天理線二階堂駅はその時代からあるわけだ。


図:天理軽便鉄道の路線図(奈良県立図書情報館から引用)

[1]天理軽便鉄道(奈良県立図書情報館)
[2]天理軽便鉄道(近代化遺産ある記)
[3]天理教と軽便鉄道(田舎暮らしdeほっ)
[4]天理軽便鉄道法隆寺線(廃線探索写真集)
[5]天理軽便鉄道の廃線跡(セピア色の線路)


2024年8月14日水曜日

オリンピック

2024年パリオリンピック が終った。

なんだかんだブツブツ文句を垂れながらも,結構テレビを見ていたかもしれない。ニュースダイジェスト以外だとスケートボードとかスポーツクライミングとか卓球とか。

昔は,日本人が出ていない種目でもそれなりに中継していたような気がしたが,最近は日本人がメダルを取りそうな注目種目だけが集中的に放映されて,ゆとりのないナショナリズムとお涙頂戴物語による感動ポルノの押し売りに終始するテレビなのだった。まあ,表裏の商業主義五輪が行き着いた終着の浜辺なのである。

さて,この「平和の祭典」の間も,ガザへの攻撃や,ウクライナでの戦闘は続いたままだ。しかもロシアやベラルーシは国として排除される一方,イスラエルは国旗をかかげている。そもそも,国家間で闘われるスポーツ競技というのは戦争の昇華形態ともいえるかもしれないのだから,それが不完全に機能して,戦争と平和の重ね合わせの状態が実現しているということだろう。

今回の2024パリオリンピックの競技種目は330種目近くあるらしいが,これを競技の性格で分類してみる。(1) 時間速度)を競うもの(陸上水泳他132種目, 40%),(2) 人間同士が闘うもの(柔道他66種目,20%)(3) 技能・芸術表現を競うもの(体操他44種目,13%),(4) 球技ゲーム(卓球他33種目,10%),(5) 非球技や混合形態でポイントを競うもの(射撃他28種目,9%),(6) 長さを競うもの(跳躍・投擲 16種目,5%),(7) 重さを競うもの(ウエイトリフティング 10種目,3%)となる。

格闘技や本来軍人男性を対象としていた馬術,射撃,アーチェリーなどは昇華形態の中でもより戦争に近いイメージを喚起する。

さて,日本のメダルは金20,銀12,銅13なのだけれども,これが,(2) 人間同士が闘う格闘技系(レスリング,柔道,フェンシング)に相当偏りすぎている。金:銀:銅=3:2:1のウェートを付けて再規格化すると,(2) 格闘技系 57%,(3) 技能芸術系 27%,他は5%以下となった。

こうしてみるともう少し別のタイプの種目があってもいいかもしれない。質量を摩擦のある面で移動する競技とか,一定距離で質量を比較する投擲種目とか。綱引きもいいように思うけどなあ。あるいは,eスポーツを含む脳の戦い,四則演算の暗算とか積分計算とか,短期記憶力とか,AIに置き換えられてしまい,行き所を失った人間の脳の力を競い合う方向しか思い浮かばない。



図:格闘技のイメージがなかなか定まらないDALL-E3

2024年8月13日火曜日

注目論文数

8月9日(金),科学技術・学術政策研究所(NISTEP)科学技術指標2024を公開した。早速ニュースで取上げられていたのは,注目度の高い論文数(上位10%)の国際順位である。昨年度と同様に過去最低の13位ということだった。研究開発費や研究者数などは,世界3-5位の水準なのだけれど,それに比べて目立つので毎年取上げられることになる。

今から,6年前の定年直前の9月に,奈良学園高校で出前授業をしたことがある。タイトルは20世紀の物理学−原子核の発見がもたらしたもの−なのだが,そこで,このデータを取上げて日本の科学の水準の危機を訴えたことがある。そのときは上位10%の論文数は世界第10位だった。

上位10%の論文というのは,自然科学の各分野の論文を被引用数の大きな順に並べたものの上位10%の論文について,各国の機関別寄与割合を集計した数である。実際には,各分野の引用慣行を補正するための,分野ごとの論文数の正規化が行われている。

各国の人口と研究者数や論文数には相関があるので,報道されている論文数を人口で割ったものを求めてみた。報道されているもとの論文数では,日本は第13位だけれど,人口比をとれば,第20位にまでランクダウンする。なお,上位1%でも12位から20位にダウンする傾向は同じだった。
 
 No国名人口(万人)10%論文数人口比(/万人)
122シンガポール5801,5202.621
217スイス8702,0712.380
37オーストラリア2,6705,1511.929
414オランダ1,7402,8781.654
521スウェーデン1,0701,5651.463
63英国6,8008,8501.301
78カナダ3,9104,6541.190
86イタリア5,8706,9431.183
925ベルギー1,1701,3371.143
102米国34,18034,9951.024
115ドイツ8,3307,1370.857
1211スペイン4,7503,9910.840
139韓国5,1704,3140.834
1423台湾2,3601,5110.640
1510フランス6,4904,0830.629
1615サウジアラビア3,7502,1400.571
171中国142,52064,1380.450
1812イラン8,9803,8820.432
1924ポーランド4,0201,4910.371
2013日本12,2603,7190.303
2118トルコ8,6302,0520.238
2219エジプト11,4501,8260.159
2316ブラジル21,7602,1310.098
2420パキスタン24,5201,6960.069
254インド144,1707,1920.050

もとのデータが論文数で25位までの範囲だけが示されているので,人口比データでは上位となる国のいくらかは取りこぼしているかもしれない。例えば,上位1%データではデンマークが第4位にランクインしてポーランドがランクアウト。ロシア,イスラエル,オーストリア,アイルランド,ギリシャ,ノルウェー,フィンランド辺りは取りこぼされているかもしれない。