2020年5月3日日曜日

自分で計算できる実効再生産数

新型コロナウイルス感染症専門家会議が5月1日に出した提言・状況分析における実効再生産数のグラフについてあれこれいわれている。こういう場合は自分で確かめておよその感じをつかみたい。いやいやこんな緊急事態に素人が世情を惑わせるよけいな計算をしてはいけないという声も,かつてよけいなことをしまくったその分野の素人(別の分野の専門家)から聞こえてくるのである。ここでComputational Thinkingを標榜するのであれば,計算の自由(Freedom of Computation)を宣言しておきたい。もちろんそのためには最低限データとアルゴリズムを明らかにしておく必要がある(専門家会議はそうしていない)。

①使用するデータ:日本の新規感染数の日次統計(WHOに報告されたもの)WHOのSituation Reportsのデータ(確定感染者数 Confirmed)は次のようになった。ただし,2月22日から5月1日まで(WHOが公表している日付を基準としたもの)の70点のデータである。
{12,27,12,13,7,22,24,20,9,15,14,16,33,32,59,48,33,26,54,52,55,41,64,34,15,15,44,77,46,50,43,39,65,98,96,112,194,173,87,225,206,233,303,351,383,252,351,511,579,658,743,507,390,455,482,585,628,566,390,367,378,423,469,441,353,203,191,276,236,193}

②使用するモデル:単純なSIRモデルを仮定し,感染が人口の数%を越えて拡がっていないものとし,未感染者数(感受性保持者 Susceptible $S(t)$)が全人口($N$ 定数)とほぼ等しいとする。なお,感染者(Infected $I(t)$)と未感染者の接触による1人1日当りの感染率 $\beta$は対策効果を含めて時間の関数$\beta(t)$とした。さらに,感染期間(日)を$\alpha$として,実効再生産数を$R_t=\alpha \beta(t)$で定義する。このとき,感染者数$I(t)$は次の微分方程式を満足し,$R_t$は$I(t)$とその時間微分から求まる。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\dfrac{d I(t) }{dt} = \beta(t) S(t) I(t) / N - I(t) / \alpha \approx \dfrac{ R_t - 1}{ \alpha} I(t) \\
\therefore R_t = 1 + \alpha  \dfrac{d I(t) }{dt} / I(t)
\end{aligned}
\end{equation}
③計算方法:誤差はあるけれど時間の単位を1日とする差分式に直して,エクセルで計算する。もとの新規感染数データのままではゆらぎが大きいので,5日移動平均を求めて$I(t)$とする。これから中心差分($I(t+1)-I(t-1))/2$)で1日当りの新規感染数の変化分を求める。さらに,このゆらぎを緩和するためにこの5日移動平均をもとめて$d I(t)$とする。これから②の式を用いて$R_t$を求めた。

④結果:図のとおりである。
図1 全国の新規感染数の推移(2/22-5/1)

図2 全国の実効再生産数の推移(2/24-4/29)

図2には社会的な事象を書き加えているが,WHOへの報告公表時点とは時間的なずれ(1週間〜10日)があることに注意する。→(注)12日ぐらいか(P. S. 参照)

⑤ 結論:1ヶ月前に1.5〜2.0近くまであった$R_t$が現在0.5〜1.0の範囲にまで落ちてきたことがみてとれ,これは専門家会議の結果とおおよそ近いものである。しかし,細かく見ればそのピークの位置や高さは異なっている。とくに,2月末から3月中旬までの結果は待ったく違う。そもそも出発点となる新規感染数のデータもWHOに報告されたものは,1週間の大きな周期構造を持っており,牧野さんのいうように(ちょっと意味が違うかもしれないけれど),専門家会議が確定感染者数(Confirmed)からどのように処理して新規感染数の推定値を導いているのかがはっきりしないのでもやもやが残る。

P. S. 高橋健太郎さん(@kentarotakahash)によれば,「潜伏期間+発症〜報告までの日数の平均を12日と考えてみたら、かなり納得できました。15日目あたりから一度、下降してRe=1を切りますが、2/24+15-12ですので、2月27日の休校要請の効果に見えます。その下降のピークは3月4日頃。一週間で緩んで、再び上昇が始まった。3月10日頃にRe=2を越えるピーク。」だそうだ。またさらに,「その後、Re=1.5以上の状態が続きますが、三連休の人手の反省があり、3月25日の都知事緊急記者会見を経て、3月27日頃から下降に転じる。3月31日にはRe=1を切り、専門家会議の4月1日には1を下回ったという分析と合致します。」
そして,「その後一度、上昇して、1を越えますが、4月5日頃から本格的な下降が始まる。これは緊急事態宣言が出るというムードの先取り。が、4月14日あたりから再び上昇の兆しというところでしょうか。」なるほどなのだった。


[2]新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解等その2(牧野淳一郎,2020.05.12)
[3]感染症数理モデル(北海道大学医学統計学教室のSqquential SEIRモデル)
[4]Rt-COVID-19 Japan (都道府県別新型コロナウイルスの実効再生産数)
[5]山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信
[6]A New Framework and Software to Estimate Time-Varying Reproduction Numbers During Epidemics(Cori et al.)
[7]新型コロナ対策専門家会議が判断の拠り所にしている『実効再生産数・倍加時間』の算出方法に関する考察(@makirin1230  2020.05.06)

2020年5月2日土曜日

WHOのSituation reports

WHOがCOVID-19の特設ページで毎日掲載しているSituation reportsの様式が,5月1日版から模様替えした。なんでもいいからCSVで出してほしい。日本の厚生労働省とかわらないのか。

これまでは,もとのpdfファイルから,pdftotext(コマンドラインツール)でテキストにしたものと, PDFelement6 Pro(無料版)でエクセル化したものとを組み合わせて,国・地域別データを整理した日次統計テキストファイルをつくっていた。

新しい様式ではpdftotextの出力がちょっとましな感じだったので,perlプログラミング1発+若干の手作業による修正で,上記の日次統計テキストファイルまでたどり着くことができそうだ。

いや,Johns Hopkins 大学のCSVデータを使えという話もあるかもしれないが,いちおうそこはほれ,WHOを支持しているので。

あいかわらず正規表現もまともに習得していないので泥臭いperlプログラムになった。
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# /usr/local/bin/perl
# 05/02/2020 K. Koshigiri 
# 05/07/2020 K. Koshigiri -> revised version
# extract data from WHO covid-19 reports
# https://www.who.int/emergencies/diseases/
# novel-coronavirus-2019/situation-reports/
# usage:: ./who.pl < pdf-in.txt > out.txt

while($line = <STDIN>) {
  chomp($line);
  if($line =~ /([A-Z].*)/) {
    $a=$1;
    $a =~ s/\(.*//;
    $flg='a';
  } elsif($flg eq 'a' && $line =~ /([\d\h]+)/) {
    $b=$1;
    $b =~ s/\h//;
    $flg='b';
  } elsif($flg eq 'b' && $line =~ /([\d\h]+)/) {
    $c=$1;
    $c =~ s/\h//;
    $flg='c';
  } elsif($flg eq 'c' && $line =~ /([\d\h]+)/) {
    $d=$1;
    $d =~ s/\h//;
    $flg='d';
  } elsif($flg eq 'd' && $line =~ /([\d\h]+)/) {
    $e=$1;
    $e =~ s/\h//;
    $flg='';
    print("$a\n$b\n$c\n$d\n$e\n");
  }
}
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
※WHOのデータ形式が変わったので,若干修正した(2020.5.7)。

2020年5月1日金曜日

実効再生産数

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が5月1日の発表で実効再生産数$R_t$の値を示していた。だいぶ前に東京で$R_t$=1.7という数字を出して以来,この値については沈黙していたので,あちこちから不満があがっていたためかもしれない。


図 全国の実効再生産数の値(朝日新聞から引用)

新規感染数のピークが600人を越えていないのは何故だろう。生データや簡単な移動平均では600人を越えると思う。また,推定感染者数となってため,減少期の振動構造も消えているのだろうか。

2020年4月30日木曜日

新規感染数の推移

5月6日が期限であった全国の緊急事態宣言が1ヶ月程度延長されそうであまり異論はないようにみえる。twitterで各国の新規感染数を比較しながらこの問題を検討している人がいた。自分でもやってみた。ただし時間軸は揃え,イタリア,英国,日本×5,スウェーデン×5を試しにやってみる。


 図 新規感染数の推移(3/12-4/29)(日本とスウェーデンは5倍した値)

日本のデータが信頼性に欠けているということはさんざん指摘されている。それでもなお日本は,英国の高止まりやスウェーデンの上昇傾向とは異なりイタリアのような下降線に近いようにみえてしまう。本当のところはどうなのだろうか。まだ予断を許さない。

2020年4月29日水曜日

9月入学

どうやら5月6日に緊急事態宣言を解除するのは難しいとわかってきて,目くらましと先延ばしと人気取りのために9月入学を声高に叫び始める維新や国民民主や首長たち。下手すると経産官邸族に唆されてアベノマスク氏も乗ってしまうのかもしれない。やめたほうがいいような気がするけど。やっぱり入学式には桜がないといけませんね。COVID-19の次の波がきたらまた半年づつずらすのかよ。東大が失敗した大学だけシフトはありうるとは思うけれど・・・。子どもたちの学習保障はそれはそれで別に考えるほうがよいと思う。このたいへんで不確定要因が多い時期に更なる混乱を招くだけだろう。むしろ,各大学が入試問題を従来のように作れるのか,大学院入試ができるのか,などが老婆心ながら気になるところ。

2020年4月28日火曜日

東京タワーとスカイツリー

テレビで(テレビの見過ぎ),東京タワーと東京スカイツリーが同じ高さにみえる場所を探すというのがあった。その場所を結ぶ軌跡は円になっていた。そうなのか。

原点に高さ$h_1$の塔を置き,$x=a\ (a>0)$の点に高さ$h_2\ (>h_1)$の塔を置く。$x$軸上には仰角が等しくなる点が2つあり,$x/h_1 = (a-x)/h_2$と$x/h_1 = (a+x)/h_2$を満たす点であり,$x=\frac{a}{1 \pm h_2/h_1}$ で与えられる。

次に点P $(x,y)$を考えて,この点からの仰角が等しくなるための条件を求めれば,
\begin{equation}
\dfrac{x^2+y^2}{h_1^2} = \dfrac{(a-x)^2+y^2}{h_2^2}
\end{equation}
である。整理すれば以下のように円の方程式が得られる。ここで,無次元の量 $c$を $c=(h_2/h_1)^2-1$と置いた。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\bigl\{ ( h_2 / h_1 )^2 - 1 \bigr\} x^2 + 2 a x + \bigl\{ ( h_2 / h_1 )^2 - 1 \bigr\} y^2 = a^2 \\
(x + a/c)^2+y^2=a^2/c *\bigl( 1 + 1/c \bigr) = (a/c * h_2/h_1)^2
\end{aligned}
\end{equation}
中心の位置は先ほど$x$軸上に求めた2点の中点になっている。円の半径は$a/c * h_2/h_1$である。

2020年4月27日月曜日

有界な単調数列は収束する


大人の学び直し

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○実数を項とする無限数列 $\{a_n\}$ を考える。すなわち,$n \in \mathbb{N}$,$a_n \in \mathbb{R}$ である。数列 $\{a_n\}$ の全ての項を要素とする集合を $A$ とする。すなわち,$A=\{a_1, a_2, a_3, \dots \}$ である。

○集合 $X$ が 上に(下に)有界 であるとは,$\forall x \in X \rightarrow x \le (\ge) M$ となる実数 $M$ が存在することである。この $M$ を $X$ の上界(下界) とよぶ。$X$ が上にも下にも有界であれば,$X$ は 有界 であるという。

○上界(下界)$M$ が $M\in X$ であるとき,これを $X$ の 最大値(最小値) という。

○上界(下界)の集合が空集合 $\emptyset$ でないとき,上界(下界)の最小値を $X$ の上限(下限) という。空集合ならば,上限(下限)を $\infty \ (-\infty)\ $ と表すことがある。

○なお,数列 $\{a_n\}$ については,その全ての項からなる集合 $A$ についての表現を流用して,数列に対して,有界,上界(下界),最大値(最小値),上限(下限)などの用語をあてはめることにする。

○数列 $\{a_n\}$ が有界ならば,$\forall n \in \mathbb{N} \rightarrow |a_n| \le M$ と表すことができる。

○数列 $\{a_n\}$ が 単調増加(減少) であるとは,すべての$n \in \mathbb{N}$に対して,$a_n \le a_{n+1}\ ( a_n \ge a_{n+1} )\ $ が成立することである。等号を含めない場合は, 狭義単調増加(減少) であるという。単調増加と単調減少の性質を持つ数列をまとめて 単調数列 という。

数列が収束する ことは次のように表現する。各項が実数である無限数列 $\{a_n\}$ がある。この数列が実数 $\alpha$ に収束するとは,つぎの関係が成り立つことをいう。『任意の $\varepsilon > 0$ に対して,ある自然数 $N(\varepsilon)$ が存在して,$n \ge N(\varepsilon)$ をみたす 任意の自然数 $n$ について $| a_n - \alpha | < \varepsilon $をみたす』

$\forall \varepsilon > 0,\ \exists N(\varepsilon) \in \mathbb {N} \ \mathrm{s.t.}\ \forall n \in \mathbb {N} \quad [\ n \ge N(\varepsilon) \Rightarrow | a_{n} - \alpha | < \varepsilon \ ]$

○「 有界な単調数列は収束する 」を証明するための前提としては,実数に関する次の公理が必要となる。すなわち,「上に(下に)有界な実数の部分集合には最小上界(最大下界)が存在する。

○証明は次のように進む。上に(下に)有界な数列 $\{a_n\}$ があるとすると,その最小上界(最大下界)を $\alpha$ とすると,すべての $n$ に対して,$a_n \le \alpha \ (a_n \ge \alpha)\ $ が成り立つ。

最小上界より小さな数(最大下界より大きな数) $\alpha \mp \varepsilon \ ( \varepsilon > 0 )\ $を考えると,この数と $\alpha$ との間には数列 $\{a_n\}$ の部分が存在する(存在しなければ, $\alpha$ が最小上界や最大下界ではないことになるから)。つまり,$\varepsilon$ を与えると定まる自然数 $N$ が存在し,それは,$a_N > \alpha -\varepsilon \ ( a_N < \alpha + \varepsilon )\ $を満足する。

○$\{a_n\}$ は単調増加(単調減少)数列なので,$n \ge N$ となる $n$ に対して,$a_n \ge a_N > \alpha -\varepsilon \ (a_n \le a_N < \alpha + \varepsilon)\ $である。一方,$a_n \le \alpha \ ( a_n \ge \alpha )\ $ より,$a_n < \alpha + \varepsilon \ (a_n > \alpha - \varepsilon )\ $ である。

○これらより,$n \ge N$ となるすべての $n$ に対して,$ |a_n - \alpha | < \varepsilon $ が成り立つ。したがって,数列 $\{a_n\}$ は $\alpha$ に収束する。これを次式のように表して,$\alpha$ を収束する数列の 極限値 という。
$\lim_{n \to \infty} a_n = \alpha$


2020年4月26日日曜日

COVID-19雑感(2)

昨日のものを再編してみた。

○ニューヨーク州の抗体検査による既感染累計が人口の14%というのはほんとうだろうか。
 (もしそうならモデルパラメタの前提がそもそも間違っている)

○スウェーデンの試み(ロックダウンしない)は成功するのだろうか。死亡数累計が人口の0.02%を越えて増加中である。スペインの0.04%よりは小さいが,増加率が・・・

○ブラジル,ロシアなどもじわじわと増えている。


図 欧州・米州の新規感染数累計の推移(人口の10ppm時点を原点)

2020年4月25日土曜日

COVID-19雑感(1)

徒然なるままに・・・

○日本は相変わらず情緒的な対処法で乗り切ろうとしている。正確なデータがないままに。

○シンガポールの新規感染数累計は,人口比で0.2%となり湖北省の0.1%を越えた。まだ収まる様子がみえないのだけれど大丈夫かしら(それにしては死亡数累計が少ない)。

○東京は,韓国・オーストラリアを越えてまだ収束先がみえない。日本全体も上昇中。
 (残念なことに,石川県と福井県が人口比で東京についで2位と3位なのだ)

○台湾,中国,韓国,香港は,第1段階が終息している。


○通常のインフルエンザと比較して問題なしとする正論?は正しいのだろうか。

図 アジア・太平洋の新規感染数累計の推移(人口の10ppm時点を原点)

2020年4月24日金曜日

原子核の周期表

京大の萩野浩一さんと前野悦輝さんが,原子核の周期表を考案し,三次元化したモデルを「ニュークリタッチ」(元素の周期表の三次元モデル「エレメンタッチ」の仲間)と命名したとの発表が京都大学からあった。

論文のほうは,A Nuclear Periodic Table で,Foundations of Chemistry に発表される。

いやー,かつてのシェルモデルユーザとしては盲点でしたね。なかなかおもしろく,教育的な価値もあると思う。

2020年4月23日木曜日

遠隔授業のばたばた(6)

遠隔授業のばたばた(5)からの続き

今日は1回生の「科学のための数学」の初回である。昨日は主に2回生でmoodleにも慣れている集団だったが,今日はどうだろうか。

受講登録者52名の内,45名が出席チェックを通過,46名がアンケートをクリアした。
自宅が44名,寮・下宿が1名,その他(どこやねん)が1名。デスクトップPCが1名,スマホが4名,41名がノートPCである。50GB程度は速度制限なしに利用できるが2名,上記より小さいかわからないが3名,41名が自宅のネットワークなどで無制限に利用できる。まあだいたい昨日と同じ傾向だった。

なお,高等学校で数Ⅲを履修していないものが,11名/46名と1/4あるので毎年のように授業の進め方が難しい。全員化学を選択しているが,物理は35名,生物は13名といったところ。

練習課題の提出でひとり手間取った。手順は次の通りである。

① スマホなどで課題を撮影した写真を PC に取り込む。
② PowerPoint に上記写真ファイルを貼る。
③ 写真を選択した状態で,書式→図の圧縮 または 図の書式設定→圧縮 を実行する。
 (最小のメールサイズにして下さい)
④この PowerPoint ファイルを koshigiri-k-0420.pptx のように名前を付けて保存。
⑤ koshigiri-k-0420.pptx を pdf ファイルとして出力し moodle の課題提出箱に提出する。

これをチャットで手取り足取り教えることになった。なかなかハードルの高い道のりである。

2020年4月22日水曜日

遠隔授業のばたばた(5)

遠隔授業のばたばた(4)からの続き

いよいよから今日から自分の最初の授業「古典力学(前期水曜2限)」が始まった。とりあえず用意したものは,moodleのページとOneDriveに置いた音声付きノート3ページ(各10分≒10MB)である。

moodleのページの段取りは以下の通りである(学生は自己登録でゲストアカウントも可にしている)。学年暦の都合で次回は今週の土曜日にやってくる。
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第1回  オリエンテーション(4/22水)

学生からの質問箱
 質問や意見はこちらにどうぞ。

第1回出席チェック
 出席チェックが終わったら受講生アンケートに進んで下さい。

受講生アンケート
 受講生アンケートが終わったらチャットルームを試して下さい。

第1回チャットルーム
 授業時間中はここでも質疑応答を受けます。

第1回の講義内容
 この中のファイルを視聴して下さい。

練習課題の提出ボックス
 練習課題を本日中に提出して下さい。
 練習課題「ノートに自分の学籍番号と名前,今日の感想(数行)を書いたものを撮影し,pdfファイルにして提出する」

第1回の課題を提出
 第1回課題は次回(4/25土)までに提出してください。
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10時半をすぎると出席チェックが増え出した。結局36名の受講者全員が出席チェックしている。チャットルームはほとんどみんな通りすぎていく。質問が2,3件あった。
アンケートは匿名であったがほぼ解答している。通信環境不明が2名,5G以下が3名,50G以下が1名,他は無制限だ。受講場所は,寮・下宿が3名で,他は自宅だ。端末はスマホが8名,タブレットが1名,デスクトップPCが1名,他はノートPCだ。高校で数Ⅲを履修していないものが6名いた。

練習課題がなかなか集まらない。授業終了の12時ごろで1/3,13時をまわったところでようやく半数だったので,moodleのアナウンスメントを使って全員にメールによるお知らせをして,困った場合は申し出るようにする。

まあ,第1回なので評判はそこそこであった。しかし準備にかなりの時間がとられてしまうのが難点である。このままいつまで続けられることだろうか。でも,授業としてはこの形態のほうが望ましいとも思えた。反転授業に大きくかじ取りすべきかもしれない。

P. S. 夕方,zoomによる全学説明会があった。オンライン授業は5月末まで延長というか,実技・実験・実習科目以外は基本オンライン授業でということだ。問題は,中国留学生,期末試験,実習などだろうか。いまのところmoodleの負荷問題は深刻化していない。

2020年4月21日火曜日

ウルフラムの物理

Stephan Wolfram の "A Class of Models with the Potential to Represent Fundamental Physics" がarxiv.orgに投稿されていた。440ページもあるぞ。
A class of models intended to be as minimal and structureless as possible is introduced. Even in cases with simple rules, rich and complex behavior is found to emerge, and striking correspondences to some important core known features of fundamental physics are seen, suggesting the possibility that the models may provide a new approach to finding a fundamental theory of physics.
可能な限り最小で構造のないモデルのクラスが紹介されている。単純なルールの場合でも,豊かで複雑な振る舞いが現れることがわかり、基礎物理学の重要な核となる既知の特徴との顕著な対応が見られ、このモデルが物理学の基礎理論を見つけるための新しいアプローチを提供する可能性を示唆している。
目次は次のとおりである。
 1. Introduction
 2. Basic Form of Models
 3. Typical Behaviors
 4. Limiting Behavior and Emergent Geometry
 5. The Updating Process for String Substitution Systems
 6. The Updating Process in Our Models
 7. Equivalence and Computation in Our Models
 8. Potential Relation to Physics
    Additional Material
    References

発売予定のハードカバー,A Project to Find the Fundamental Theory of Physics(816ページ)のドラフトかと思ったけれど,そうではなかった。WolframのA New Kind of Science から続いている思想の延長線上にある。たぶん,大学に入る前に新聞でカタストロフィーの理論をみて,わーこれはすごい!と思ったが,実際のところはそうでもなくてちょっと残念だったのに近いのではないかと予想しているのだけれど。それでもちょっとワクワクする。

[1]A Class of Models with the Potential to Represent Fundamental Physics(上記のオンラインバージョン)

2020年4月20日月曜日

遠隔授業のばたばた(4)

遠隔授業のばたばた(3)からの続き

4月20日,いよいよ今日からはじまった。ただ,こちらから観測されている範囲では大きなトラブルはない。教務システムUNIPAも学習管理システムmoodleも無事に動いているようだ。もっとも,現場は学生からの質問で大わらわ状態のようだが。

現時点でmoodleに登録されている授業で検索にかかった主なものは下記のとおり。
   1限  2限  3限  4限 5限 6限 7限  合計
月曜 14  18  23  16  5  8  4  88
火曜 13  23  18  18  3  5  6  86
水曜 10  17   0   1  0  5  4  37
木曜 10  28  26  16  4  1  4  89
金曜 13  21  19  17  6  2  3  81
合計 60 107  86  68 18 21 21 381

うーん,大丈夫なのだろうか。

2020年4月19日日曜日

遠隔授業のばたばた(3)

遠隔授業のばたばた(2)からの続き

大阪府立大学の講義動画作成法のYouTubeがなかなか参考になった。田崎晴明さん方式 にしようかどうしようか。そこで,各種方法をまとめてみると次のようになる。
  1. 講師動画&板書動画(1ファイル)(300MB/45分)
  2. 講師音声&板書動画(1ファイル)(200MB/45分)
  3. 講師音声&ノート画像(1ファイル)(100MB/45分)
  4. 講師音声,ノート画像(2ファイル)(10MB/45分)
それらの作成方法は以下のようになる。
  1. zoomの講義録画   → a
  2. zoomの画面共有録画 → b
  3. QuickTimeの録画機能 → c
  4. PowerPoint/Keynoteの録画機能 → c
  5. iOSの録音機能+手書きアプリ → d (→ c FFmpegで編集:50MB/45分)
データ容量としては d. が有利であるが2ファイルを扱う手間がやや心配。

むしろ問題は学生からの課題回収のほうである。大学からはmoodleサーバ保護の観点から,テキストなどなるべく軽いデータで課題を出させよとのお達しがきた。A4プリント1枚の解答をスマホの写真で撮れば2MB程度になるので,50人のクラスでは100MB/授業1回となる。2000クラスで15回の授業を行えば3TBとなる。うーん,なかなか微妙なラインではある。写真をpdf化することに負担もあってどうしたものか思案のしどころ。
(こんなことばかりしていて肝腎の授業ノートが1ミリも進んでいない・・・orz)

P. S. 課題の画像ファイル(2MB)は,PowerPointに貼り付けて画像圧縮(メールサイズ)にしてpdf出力すれば,100KBのオーダーに抑えることができた。

2020年4月18日土曜日

遠隔授業のばたばた(2)

遠隔授業のばたばた(1)からの続き

今日も朝からmoodle支援を2件すませた。昼からは国立情報学研究所(NII)【第4回】4月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウム(4/17オンライン開催)に大阪教育大学の尾崎君が登場するようなので,さっそくアクセスすべくCiscoのWebexやブラウザエクステンションをインストールするなどの準備を行う。

画質と音質はだいぶ落としていたけれど,内容はかなりおもしろかった。とくに尾崎君の「オンライン授業実施に向けた個別サポートデスクの実施体制の構築とその運用」は,実用的でシンプルで汎用性も高いので,喜連川先生もほめていた。

そんなわけで,昨日に続いて試行錯誤が続いている。神戸高校の杉木勝彦先生(大阪教育大学理科教育専攻物理の稲垣研出身)が,遠隔授業用の教材作成に取り組んでいる。iPadのGoodnotesで作成した静止画に,コントロールセンターで有効にした画面収録機能を使って,音声を重ねるというものである。まず,ターゲットとなるノートを開いた状態でコントロールセンターを呼び出して画面収録をオンにする。説明のお話が終わったところで録画中ボタンをタッチして終了する。これにより写真のところに収録された動画がmp4形式で保存された(毎分7.5MB程度か)。

もう少し軽くならないかと検索しまくったところ,FFmegを使って,静止画と音声ファイルから動画を作るというのがあった。四苦八苦してあれこれ試したところ次のようにするとうまくいくことがわかった。結城浩さんのおかげである。

静止画(img.jpg)と音声ファイル(snd.m4a,iPhoneのボイスメモで収録)を使って,mp4ファイルを作るには次のようにする(-pix_fmt yuv420pがミソだった)。
  ffmpeg -loop 1 -i img.jpg -i snd.m4a -ab 24k -vb 72k -c:v libx264 -pix_fmt yuv420p -shortest out.mp4
また,2つのmp4ファイルを結合するには次のようにする。
 ffmpeg -safe 0 -f concat -i mylist.txt -c copy out3.mp4
ただし,mylist.txtには結合前のファイルを並べておけば良い。
 cat mylist.txt (out?.mp4は同じコーデックで作ったファイルであること)
 file ./out1.mp4
 file ./out2.mp4

あとはコンテンツだ。熊本大学の鈴木克明さん(昔,日本文教出版の高等学校の情報の洋教科書でいろいろお世話になった。今,日本教育工学会の会長になっておられた)が上のシンポジウムで指摘していたように,無理せずにゆるゆると真の目的を見据えながらやるのがよろしいようだ。

遠隔授業のばたばた(3)に続く








2020年4月17日金曜日

米国の集団免疫率(2)

米国の集団免疫率(1)からの続き

トランプは4/17の会見で米国におけるCOVID-19の死亡数は6〜6.6万人にとどまるとした。これは勝手な想像ではなく,IHMEの最新の予測である。前回の10〜25万人から減少させたことを自分の政策の成果であるかのようにアピールしつつ,ロックダウンを解消して経済回復を誘導しようという意図に基づくものだろう。

前回のSIIDR2モデルの適用はちょうど2週間前だったので,あらためてこのモデルと上記の主張を組み合わることで米国の集団免疫率を推定してみる。前回のように1ppm到達の基準日3/10から4/17までの39日分の新規感染数累計と死亡数累計の人口比データを示す。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 
xa=[0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,
14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,
28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38]
ya=[0.014,0.021,0.030,0.038,0.051,0.051,0.051,
0.106,0.107,0.215,0.317,0.462,0.462,0.958,
1.280,1.576,1.929,2.074,2.587,3.136,3.722,
4.268,4.953,5.684,6.483,7.335,8.310,9.327,
10.13,11.03,11.99,12.93,14.00,14.96,15.92,
16.81,17.55,18.33,19.20]
za=[0.06,0.08,0.09,0.11,0.12,0.12,0.12,
0.18,0.18,0.30,0.46,0.61,0.61,1.22,
1.43,2.04,2.68,3.01,3.77,5.06,6.41,
7.28,8.65,11.7,14.6,17.8,21.3,25.4,
29.0,32.9,38.7,44.5,50.4,56.2,62.0,
66.7,71.2,78.5,85.6]/100
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 

SIIDR2の計算において次のパラメタを用いると上記の米国のデータが再現できる。
$\beta = 0.60, \nu =0.12, \lambda=28, \tau=16$, $\alpha_1=5/0.80, \alpha_2 = 5/0.20$, $\gamma_1 = 15/0.95, \gamma_2 = 15/0.06$。前回と異なり,$\gamma_2$の値は,中国や韓国などを説明した値の方にややに戻している。

 図1 米国の感染カーブ(u3=重症感染数,u4=死亡数,u6=新規感染数累計)


図2 米国の感染カーブ(同上,u5=回復(免疫獲得)数)

① 米国では重症感染数のピークを迎えている。
② 最終的な死亡数は6〜7万人程度になる。
③ 第1回目の終息が想定される2ヶ月後の集団免疫率は1〜2%のオーダーである。






2020年4月16日木曜日

遠隔授業のばたばた(1)

今,日本中の大学教員が試行錯誤の真っただ中にいるはずだ。Facebookの「新型コロナ休講で,大学教員は何をすべきかについて知恵と情報を共有するグループ」には今日現在で15,000人以上が登録している。令和元年度の学校基本調査では,大学教員の数は19万人弱なので,その8%程度に相当する。なかなか壮観だ。

私も,大阪教育大学で使われてきたmoodleの利用支援の猫の手として活動をすることになった。4月20日からインターネットを活用した授業がはじまるので待ったなしだ。通常の対面授業は5月11日(月)から再開する予定だが,今後の感染拡大の状況によっては,感染拡大防止期間を延長し,引き続きインターネットを活用した授業等を行うということなのでますます大変である。通年で3800科目あるうち前期が半分だとして1900科目,そのうち1100科目のコースがmoodle上に観測された。約6割に相当する。実験・実習・演習科目などもたくさんあるので,これらがどうなるのかは心配だ。

さて,自分が前期に担当する演習・実験以外の授業は3科目(古典力学・科学のための数学・電磁気学)だ。moodleのコースの枠組みは3回分作成したが,問題はコンテンツである。とりあえず,ギガに優しい田崎晴明さん方式でやることを想定している。写真にとって pdf化したノートと,iPhoneもしくはiPadで録音した音声データは,MicrosoftのOneDriveに置くことにする。なお,m4a音声データは,次のようにmp3に変換する予定である。

  m4aからmp3への変換
   ・Apple Music App を開く
   ・メニューバーで「ミュージック」>「環境設定」の順に選択
   ・「ファイル」タブをクリックし、「読み込み設定」をクリック
   ・「読み込み方法」の横のメニューをクリックし、曲の変換先の
    エンコード形式を選択,「OK」をクリック
   ・キーボードの「option」キーを押しながら「ファイル」>「変換」>
    「[環境設定で指定した読み込み方法]に変換」の順に選択
   ・読み込んで変換したい曲が入っているフォルダまたはディスクを選択
    変換前の形式の曲と、変換後の曲がライブラリに表示

それでもなお,板書形式が可能かどうかを模索している。
① Notabilityがよいということだったが,OneDriveに置こうとして撥ねられた。
② Goodnote5と画面記録がよいということで,画面記録アプリをさがしたところ,
 DU-Recorder(App内課金が高額),ApowerREC(機能しませんでした)があった。
③ iPadとMacを有線で結んで,Mac側のQuickTimeで録画先をiPadに指定して録画する
 方法があった。これはうまくいった。ただ,45分で200MBを越えるのでどうするか。
④ この場合でも,NotabilityよりはGoodnote5のほうがなんとなく使いやすそうである。
⑤ PC側のzoomの録画の方が便利ではないか,ということで,上記の設定をzoom側で
 保存してみたところ,終了時に録画ファイルをm4aに変換してくれた。まあまあ。
試行錯誤は続く・・・というかもうあまり時間が残されていない。

遠隔授業のばたばた(2)に続く


2020年4月15日水曜日

モビリティデータ

Appleが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止に向けた世界各地での活動を支援するため,Appleマップによるモビリティデータの傾向を示すデータ(Apple Maps Mobility Trends Reports)を提供した。

しばらく前にはgoogleも同様のデータ(COVID-19 Community Mobility Reports)を公開していた。例えば日本の時系列はpdfファイルとして提供されている。このデータを再構成して,4月5日の時点でのいくつかの国の特徴を比較したものが次の図である。
図1 グーグルモビリティトレンドからの4/5の傾向(平常時との比率)

アップルの方は,上方の種類は限定されているが,時系列のCSVデータも提供されていてありがたい。ここではその結果だけを例示してみよう。

図2 日本のモビリティトレンド(1/13-4/15)

図3 韓国のモビリティトレンド(1/13-4/15)

日本の3月下旬の緩みがはっきりと現れている。まだまだ活動制限のレベルは不十分であり,西浦博さんがあせって,重篤者85万人,死者40万人という発表を(遅すぎると思うが)したのもわからなくはない。しかし前提条件がよく理解できないのだ。例えばNHKのニュースでは,以下のような説明があったが・・・
外出自粛などの感染防止対策を何も行わなかった場合、感染が広がり始めてからおよそ60日でピークを迎えると推計しています。
その場合の重篤な患者は合計で▽15歳から64歳まででおよそ20万人、▽65歳以上で65万人の合わせておよそ85万人に上るとしています。
その場合、人工呼吸器が足りず、必要な治療が受けられなくなり、中国でも重篤患者の半数が死亡しているという研究があるということで、日本国内でも半数にあたるおよそ40万人以上が死亡すると推計しています。
いずれにせよ,相変わらず安倍政権支持率は40%の水準を維持しており,日本の政治はびくともしていない。


2020年4月14日火曜日

基準の変更と比較

アジアの状況欧州の状況,からの続き

アジア太平洋と欧州・北米の新規感染者数累計を人口で規格化したグラフを考えてきた。これを並べて比較してみる。これまでは基準を人口の1ppmを越えた時点としてこれを各国の共通の原点とした対数グラフを考えた。その基準点を人口の10ppmになった時点に変更して比べてみる。累計数がかなり増加してきたため,最近の特徴をよく観察したいと思ったので。

図1 アジア・太平洋地域の新規感染数累計対人口比の推移(100ppm)

図2 欧州・北米地域の新規感染数累計対人口比の推移(100ppm)

イランは比較のために両方のグラフに含めている。欧米はすべてイランを上回っている。グラフで示した欧米主要国の新規感染数累計は人口比ではすでに湖北省を越えているわけだ。しかし,アジアでは震源地の中国湖北省以外はすべてイランの水準を下回っている。

①欧米は同じ傾向で推移している。指数関数的増加の時定数がしだいに減りつつある
②アジアは,中国が既に収束し,韓国がこれに続いている。
③オーストラリア,香港,マレーシアも減速の兆が見える。
④台湾は一貫して低水準に押さえ込んでいる。
⑤シンガポールは当初,台湾や香港と並んだ優等生だったが,その後抑え切れていない。
⑥日本(東京)は,ほぼ一定の時定数での指数関数的な増加を続けている(新規感染数累計は1.107倍/日,死亡数累計は1.046/日の割合で増えている)。

もし,この定数が変化しなければ,緊急事態宣言の期限である5月6日には日本の新規感染数累計は6万人に達する。これは人口比で500ppmであり,韓国の200ppmや湖北省(武漢以外)の370ppmを超える水準に相当する。また,このときの死亡数は260人程度にとどまり,そのまま推移すれば,死亡数(5/6の21日後)/新規感染数累計(5/6) = 1%というリーズナブルな値が得られる(感染数と死亡数の間に21日程度の遅れがあると仮定している)。

2020年4月13日月曜日

欧米の状況



欧米の状況を見ると新規感染数累計は人口比で10ppmを越えているところがある。スペインの30ppmは湖北省(武漢以外)の10倍近い水準であり,下記の国々の新規感染数累計をはすべて湖北省(武漢以外)以上の値となっている。ただし,対数グラフ上は上に凸となっていて増加率は減少に向いつつある。


図1 人口当りの新規感染数累計(単位100ppm,基準日は1ppm達成時)


図2 人口当りの新規感染数累計の対数(単位100ppm,基準日は1ppm達成時) 

2020年4月12日日曜日

アジアの状況

新型コロナウイルス感染症の感染者数の増加が5/6には収まるように考えている人が多いのかもしれない。うまくいけば7月には一端終息に向ったようにみえる可能性もある。しかし,集団免疫が獲得できずワクチンもない現状では,緊急事態宣言レベルの制限を継続するか,断続的に緩めたり強めたりすることの繰り替えしかの二択ではないだろうか。中国以外で終息に近い状態を実現しているのは台湾だけだ。それに近いのは韓国。香港もシンガポールも完全にはおさまっていない。どこまで耐えられることか。

図1 人口当りの新規感染数累計(単位100ppm,基準日は1ppm達成時)

図2 人口当りの新規感染数累計の対数(100 ppm,基準日は1ppm達成時)

注:上記は武漢を除いた湖北省の値であり,370ppmに収束している。武漢を含めた湖北省の収束値は1150ppmであり,上記の3.1倍に相当する。湖北省の全体イメージは湖北省(武漢以外)を全体に3倍程度スケールしたものと考えられることに注意する。

2020年4月11日土曜日

zoom

よくわからないまま,zoom を使った moodle による遠隔教育の設定支援要員に駆出されることになってしまった。手元のMacbookは古いので(2.5GHz Dual Core Intel Core 5i )背景が設定できなくて悲しい。自分のコースさえまともに完成していないのに大丈夫なのかな。猫の手も借りたい逼迫した状態にあることは間違いない。


2020年4月10日金曜日

BCG

Wikipediaによれば,BCG  とは次のようなものだった。
BCGは,実験室で長期間培養を繰り返すうちにヒトに対する毒性が失われて抗原性だけが残った結核菌であり,BCGワクチンはBCGを人為的にヒトに接種して感染させることで,結核に罹患することなく結核菌に対する免疫を獲得させることを目的としたものである。
小学生の時には,毎年ツベルクリン反応を調べる注射が恒例行事だった。ツベルクリン(独: Tuberkulin)とは,結核菌感染の診断に用いられる抗源である。前腕の内側に注射して数日後にこれが赤く腫れている(陽性)か変化なし(陰性)かを透明の物差しで測って確認する。たぶん1cm以上のサイズなら陽性なのでこれでOKだ。それ未満なら陰性や疑陽性,すなわち結核菌に対する抗体がないので,BCGを注射しなければならない。したがって小学生にとってはこれはなかなかドキドキする検査なのである。

自分が小学生低学年の間は陰性が続いていて,ほぼ毎年のようにBCGを注射していたような気がする。1回くらいのBCGでは抗体ができなかったということか。で,BCGも初めのうちは今のようなスタンプ型ではなかった。それがいつの間にか(日本では1974年から)定期化され全員接種に切り替わっていた。

そのBCGが新型コロナウイルス感染症に効果があるかどうかということで議論になっている。乳児向けのBCGが不足することがないように祈るだけである。

2020年4月9日木曜日

緊急事態宣言と接触制限モデル(3)

緊急事態宣言と接触制限モデル(2)からの続き

4月7日のtwitterで牧野淳一郎さんがいうには
一応どれも現実をモデルしているはずのところで、そこまで行動抑制しないといけない割合が、西浦氏:0.2、大橋氏「0.45](R_0>1でいくとして)、佐藤氏 0.02 で3人で20倍違う時点で少なくとも2人は間違っているのは明らかであろう。
西浦氏は,緊急事態宣言と接触制限モデル(1)で取り上げた西浦博さん(北海道大学),大橋氏は,新型コロナウイルス感染症の 流行予測の大橋順さん(東京大学),佐藤氏は,COVID-19情報共有の佐藤彰洋さん(横浜国立大学)である。

上に示されている数字は行動抑制の因子であり,モデルの感染率にかける係数だと思われる。ここでは,どれが正しいかについては考察せずに,ドイツなど欧州の基本再生産数$R_0=2.5$(7日増倍率が7倍)に基づいた西浦さんの計算(我々の評価では$R_0=2.3$だったが)を,東京の現状に合わせて再計算した結果を報告する。

前回述べたように,現在の東京では,7日増倍率が2.5倍($R_0=1.65$)程度なので,西浦さんが用いている値よりかなり小さいのだ。単純なSIRモデルを用いてこれを再現するパラメタセットを探し,その場合に接触制限の効果がどうなるかを調べよう。

やり方は前回と同じなので,パラメタを示す。β=0.28,初期値はν=0.005とすれば上記の増倍率が再現できた。つまり,さきのMathematicaコードにおいて,
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 
f[n_, β_, α_, ν_, p_]:= 
NDSolve[{S'[t]==-(p+(10-p)*Tanh[2*(20-t)])/10*β/n*J[t]*S[t], 
J'[t]==(p+(10-p)*Tanh[2*(20-t)])/10*β/n*J[t]*S[t]-J[t]/α, 
R'[t]==J[t]/α, S[0]==n, J[0]==ν, R[0]==0}, {S,J,R}, {t,0,100}];
n=1400; β=0.28; ν=0.005; p=10;
sol = f[1400, β, 7, 0.005, p];
s[t_] := S[t] /. sol[[1, 1]];
i[t_] := J[t] /. sol[[1, 2]];
cft1[t_]:= (p+(10-p)*Tanh[2*(20-t)])/10*β/n*i[t]*s[t];
・・・
Plot[{cf1[t], cf2[t], cf3[t], cf4[t], cf5[t], cf6[t]},
{t, 10, 30}, PlotRange -> {0, 0.1},
GridLines -> {{19, 20, 21}, {0.005, 0.01, 0.015, 0.02, 0.025}}]
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 
などとすると計算結果は次のようになった。

図 SIRモデル+シグモイド関数制限措置による新規感染者数の変化(東京のデータ)
 (上から順に,青:制限なし,80%,60%,50%,40%,20%に制限)

増加と減少の臨界点は50%あたりにある。すなわち,数字だけでいえば大橋氏の値と近い結果が得られたのかな。大橋氏の資料に対する牧野さんのもろもろの批判にはうなずけるものもあるけれど。そう,このブログも拡散してはいけない情報の仲間である。

まとめ
新型コロナウイルス感染症専門家会議(というか西浦博さん)から出てきた接触8割削減の前提条件は,欧州並の$R_0=2.5$に対応する場合ということだった。それを現在の東京の$R_0=1.65$に対応させると,上記のように接触6割削減で新規感染数は減少させることができる。いずれにせよモデル計算の結果なので,他地域の今後の動向や安全率も勘案して,目標値として接触8割削減を掲げることは意味があるだろう。

P. S. 佐藤彰洋さんのシミュレーションに対する疑義がでてきた。ちょっと安心した。Delay Differential Equationによるモデリングは,それでもまだ自分には理解できていない。

P. P. S. 4/10に牧野淳一郎さんの解説が出てきたので問題点がよく理解できるようになった。ただ,6割削減でも新規感染数が減少に転ずるという牧野さんの解説は,7割削減が必要であるというこちらの結果とは食い違っていた。

[1]人との接触7~8割減、効果は 専門家「感染抑制できる」、全員やれば6割減でも 新型コロナ(朝日新聞)→タイトルと本文があまり整合していない記事
[3]いろいろなモデル計算(牧野淳一郎,2020.4.10)
[4]交通整理(牧野淳一郎,2020.4.12)
[5]公開質問状に対するコメント(佐藤彰洋,2020.4.13)
[6]交通整理の続き(牧野淳一郎,2020.4.12)
[7]交通整理の続きその2(牧野淳一郎,2020.4.16)



2020年4月8日水曜日

緊急事態宣言と接触制限モデル(2)

緊急事態宣言と接触制限モデル(1)からの続き

緊急事態宣言がでた翌朝(4/8)の日本経済新聞にも再び西浦さんの図が「感染拡大阻止 接触8割減が必要」という記事とともに掲載されていた。安倍晋三も同内容を専門家の見解として強調していた。

図 日本経済新聞(2020.4.8 朝刊3面)から引用

日経の記事を批判的に読み解いてみる。

①「接触8割減」は政府の専門家会議メンバーで,感染者数の予測を数理モデルで解析している北海道大学の西浦博教授がはじいた数字だ 。
→ 西村さんは新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の当初の構成員ではなかった。クラスター対策班のメンバーか。

②1人の感染者が平均で何人に感染させたかを示す「実効再生産数」は3月21〜30日の改定データで推定1.7。
→新規感染者数累計の1週間の増倍率を$k$とすると,実効再生産数$R_0$との間に,$R_0=1+5/7*\log k $の関係がある(倍加時間と基本再生産数)。東京(3/20-3/31)のデータは,平均で$k=2.3$であることから,$R_0=1.6$となった(注:$R_0=1.7$に対応するのは$k=2.7$)。

③その時点では数万人の感染者が出ていたドイツ(2.5)を下回っていたが,
→ドイツ(3/20-3/31)のデータは,平均で$k=3.9$であることから,$R_0=2.0$となった(注:$R_0=2.5$に対応するのは$k=8$,3/10以前には$k=8$を超えていたが・・・)。

④4月に入っても感染増が続き,実効再生産数は3を超えてドイツを上回った可能性があるという。
→実効再生産数がを3を超えるとは。$R_0=3$に対応するのは$k=16$である。日本でそのようなタイミングがあったのだろうか。福岡で9倍,福井で20倍くらいのタイミングは一時的に見られるが,これらはいずれも感染数が少なくて揺らぎが効いてしまう段階の話である。

⑤このままだと1日あたりの新規感染が米ニューヨークのように数千人に達する。
→仮定が④であれば正しいし,指数関数的な増大であれば常に正しい言明ではあるが,事態を強調するためにやや話を盛っている印象を受けた。

ただし,新規感染数累計について単純な指数関数型増加傾向が続くと仮定すると(接触制限の効果がない場合),直近の増倍率は東京で1.15/日,大阪で1.10/日となっているので,
 東京:4/14:3千人,4/21:8千人,4/28:2万人,5/5:5万人
 大阪:4/14:1千人,4/21:2千人,4/28:4千人,5/5:8千人
である。1日あたりの数ではなく累計であることに注意。


図 新規感染数の1週間増倍率$k$と実効再生産数$R_0$

2020年4月7日火曜日

緊急事態宣言と接触制限モデル(1)

北海道大学の西浦博さんが4月3日にマスコミで示していた図がある。対策がない状態の新規感染者数が指数関数的な増大をしているときに,人の接触を20%減らした場合と80%減らした場合の新規感染者数の変化を示した図だ。これにより彼は欧米に近い外出制限の必要性を訴えていた。残念ながら,これは専門家会議や政府の共通のコンセンサスとはならず,やがて4月7日の7都府県に対する5月6日までの緊急事態宣言につながっていく。

ここではその図がどのようにして得られたものかを,素人が持っている簡単な道具と知識で理解することを目指す。報道されたニュースや伝わってくる情報は鵜呑みにはせず,自分で考えることが必要だから。集団としては人口1400万人の東京都を想定する。日本経済新聞におけるこの内容に関する報道の文脈でも東京を対象としていることがうかがえる。東京の4月3日における新規感染者数は14人(新規感染数累計は753人)であり,人口の1ppm条件がちょうど達成された頃なので,これ以降をSIRモデルなどの単純な微分方程式系で扱うことは可能だろう。

今,探してもみあたらないのだが,西浦さんはこの報道の後に解説のための動画を公開していた。それによればしばらく前のドイツなみの再生産数を仮定し,現時点から15日目以降に制限措置を行った場合をシミュレートしているとした。なお,彼のモデルでは,計算開始から15日目が現在であり,30日目が制限措置の開始時点となる。

今から3週間前のドイツでは新規感染数累計の7日増倍率が7倍になっていた。仮に6.3倍(1日に1.3倍)を仮定すると,基本再生産数は$R_0 = 1 + 5/7 * \log 6.3 \approx 2.3$となる*。一方現在の東京では新規感染数累計の7日増倍率が2.5倍(1日に1.14倍)程度なので,基本再生産数は$R_0 = 1 + 5/7 * \log 2.5 \approx 1.65$(倍加時間と基本再生産率を参照)である。だからこのドイツ並の仮定はちょっとどうかと思うが,いちおうこれを採用する。
(*西浦さんはドイツなどの欧州の平均基本再生産数が$R_0=2.5$であると話していた)

つまり,現在100人の新規感染者数はこのまま放置すると15日後のt=30(1.3^15≒50)に5000人以上に達するという状況を西浦さんは想定していると思われる。今の東京の水準をそのままあてはめた場合は,15日後のt=30(1.14^15≒7)に東京の新規感染者数は700人程度であることに注意しよう。

SIRモデルに接触制限措置の効果を含めた微分方程式系をMathematicaで書くと次のようになる。nは集団人口(1400,以下人数の単位は1万人当りとなる),βは感染率(0.44),αは感染期間(5),νは感染数の初期値(0.0002),pは制限措置の程度(p=10→制限なし,p=9→80%に制限,p=6→20%に制限)である。なお,接触制限措置は,βにかけるシグモイド関数(幅が1日のオーダー)によってモデル化して階段関数は用いない。t=15が4月3日現在(新規感染者数=100)に対応する。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
f[n_,β_,α_,ν_,p_]:=
NDSolve[{S'[t]==-(p+(10-p)*Tanh[2*(30-t)])/10*β/n*J[t]*S[t], 
J'[t]==(p+(10-p)*Tanh[2*(30-t)])/10*β/n*J[t]*S[t]-J[t]/α, R'[t]==J[t]/α, S[0]==n,J[0]==ν,R[0]==0}, {S,J,R}, {t,0,100}]

β=0.44 sol = f[1400, β, 7, 0.0002, 10];
s[t_] := S[t] /. sol[[1, 1]];
i[t_] := J[t] /. sol[[1, 2]];
r[t_] := R[t] /. sol[[1, 3]];
cf1[t_] = (10+0*Tanh[2*(30-t)])/10*β*i[t]*s[t]/1400;

sol = f[1400, β, 7, 0.0002, 9];
s[t_] := S[t] /. sol[[1, 1]];
i[t_] := J[t] /. sol[[1, 2]];
r[t_] := R[t] /. sol[[1, 3]];
cf2[t_] = (9+1*Tanh[2*(30-t)])/10*β*i[t]*s[t]/1400;

sol = f[1400, β, 7, 0.0002, 6];
s[t_] := S[t] /. sol[[1, 1]];
i[t_] := J[t] /. sol[[1, 2]];
r[t_] := R[t] /. sol[[1, 3]];
cf3[t_] = (6+4*Tanh[2*(30-t)])/10*β*i[t]*s[t]/1400;

Plot[{cf1[t], cf2[t], cf3[t]}, {t, 15, 45}, 
PlotRange -> {0, 2}, GridLines -> 
{{29, 30, 31}, {0.1, 0.4, 0.5, 0.6, 0.7, 0.8}}]
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

計算の結果,次のグラフが得られた。西浦さんのものと概ね一致する。


図1 SIRモデル+シグモイド関数制限措置による新規感染者数の変化
 (縦軸の単位は万人,横軸の単位は日=3/20を基準とした経過日数,
青:制限なし,オレンジ:80%に制限,緑:20%に制限)


図2 上記に,60%,40%,30%に制限などの場合を加えたもの

なるほど,中途半端な制限ではだめだということか。30%に制限するあたりが増加かどうかの臨界点かもしれない。この度の緊急事態宣言はどの程度の効果があるのだろうか。


2020年4月6日月曜日

奈良コンベンションセンター

4月1日,近鉄奈良線新大宮駅から徒歩10分の大宮通りと三条通りに挟まれた区域に奈良コンベンションセンターがオープンした。近くのホテルマリオットはまだオープンしていなかったが,おしゃれな蔦屋書店は中川政七商店とコラボレーションしながら開店していた。新型コロナウイルス感染症で不要不急の外出を自粛させられている中,用事があったのと,まあ人はいないだろうという予測のもとに探索に出かけた。実際お客さんはほとんどいなかった。地下の駐車場もガラガラだった。

蔦屋書店がおしゃれであることは認めるけれど,本屋の価値の本質はおしゃれにあるわけではないので,あまり好きではない。見掛け倒しのために洋書を壁面に糊付けするセンスには耐えられないのだった(それはここじゃないけど)。もう一つの大問題。理工書がほとんどないのである。しかも数学と物理は妙にかけ離れた場所に存在していた。なんだかなあ。

もちろんビレッジバンガード(こちらはきらいじゃない)とか丸善などの本のアレンジだって好き嫌いはあるのだろうけれど,ジュンク堂にがっつり並んだ理工書のボリュームを見ると安心するのであった。

そんなわけで,文句をいいながらも,無人支払機を試してみるべく久しぶりに文庫本を一冊買って帰った。親切に使い方を教えていただいてありがとうございました。

2020年4月5日日曜日

ニューヨーク州の集団免疫率

米国の集団免疫率からの続き

前回に続いて,IHME(Institute for Health Metrics and Ecaluation)におけるニューヨーク州(人口1900万人)の新型コロナウイルス感染症についての予測について考える。4月4日のWHOのデータによれば,米国の新規感染数累計は24万人,死亡数累計は5800人である。ニューヨーク州ではそれぞれが10万人と2900人であることから,米国全体の40%と50%をしめている。

IHMEのニューヨーク州の予測を,我々のSIIDR2モデルで追試してみる。ニューヨーク州のデータは上記の観察から,前回求めた米国のデータyaを2.5で,zaを2.0で割ることで求める(アバウトすぎるがオーダーがわかればよいという立場なので)。時間データxaは前回と同じ基準日(3月10日)である。
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xa=[0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,
10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,
20,21,22,23,24]
ya=[0.014,0.021,0.030,0.038,0.051,0.051,0.051,0.106,0.107,0.215,
0.317,0.462,0.462,0.958,1.28,1.58,1.93,2.07,2.59,3.14,
3.72,4.27,4.95,5.68,6.48]/2.5
za=[0.06,0.08,0.09,0.11,0.12,0.12,0.12,0.18,0.18,0.30,
0.46,0.61,0.61,1.22,1.43,2.04,2.68,3.01,3.77,5.06,
6.41,7.28,8.65,11.7,14.6]/100/2.0
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SIIDR2モデル計算の下図の結果は次のパラメタで与えられる。
$\beta = 0.89, \nu = 0.01, \lambda = 21, \tau = 14, \alpha_1 = 5.0/0.80 ,\alpha_2 = 5.0/0.20, \gamma_1 = 15/0.92, \gamma_2 = 15/0.08$
$\gamma_2$は米国の場合と比べて2/3程度にとっていることに注意する。


図1 ニューヨーク州の感染カーブ(u3=重症感染数,u4=死亡数,u6=新規感染数累計)

図2 ニューヨーク州の感染カーブ(同上,u5=回復(免疫獲得)数)

IHME予測の定性的な振る舞いを再現することができたりできなかったりしている。
① 4月10日の中旬(t=30)に重症感染数はピークアウトする(図1u3のピーク位置)
 は10日ほど後にずれている。
② ピーク時の必要病床数(図1 u3のピーク値)が7.5万床→6.5万床程度。
③ 6月上旬(t=90)段階の死亡数は1.6万人に達する(図1のu4の収束値)はほぼ再現。
④ 6月上旬(t=90)にはおおむね終息している(ただしu3はテイルが長い)。
⑤ 終息後のニューヨーク州の集団免疫率は4%にになる(図2のu6の値400/1万=4%)


主観的意見:たぶん報道の様子からすると,米国の様々な感染症対策はこのIHMTのデータに基づいて立案されているのではないかと推察される。しかし,日本にはこれに対応するシミュレーションが存在しない,若しくは存在していてもオープンにされていない,若しくは存在しているがインプットデータの信頼性が著しく低いので正しく利用されていない(印象操作には用いられている)。

[1]基本再生産数と集団免疫率(2020.3.27)
[2]倍加時間と基本再生産数(2020.3.29)
[3]新規感染数累計の増倍率(2020.3.31)
[4]湖北省の集団免疫率(2020.3.28)
[5]韓国の集団免疫率(2020.4.3)

2020年4月4日土曜日

米国の集団免疫率(1)

韓国の集団免疫率からの続き

ワシントン大学にある研究所のIHME(Institute for Health Metrics and Ecaluation)では,COVID-19 Projections として,米国の新型コロナウイルス感染症についての予測を行っている。入院病床,ICU病床,人工呼吸器などの必要数がシミュレーションされている。それによればこれらは4月の中旬にピークアウトし,ピーク時の必要病床数波26万床(必要ICU病床数は4万床)である。また,7月の初旬には終息するとされている。また7月段階での死亡数は9万人以上に達する。

これは,3月27日付の論文 "Forecasting COVID-19 impact on hospital bed-days, ICU-days, ventilator- days and deaths by US state in the next 4 months"  によるものであり,Githubには彼らのGeneric curve fitting package with nonlinear mixed effects model の説明とそのコードもある

これを我々のSIIDR2モデルで追試してみる。まず米国のデータをWHOのSituation Reportsからとって人口で正規化すると1万人当りの新規感染数累計ykと死亡数累計zkが得られる。なお,新規感染数累計が人口の1ppmを超えた基準日は3/10であり,3/10から4/3までの25日分のデータを与える。
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xa=[0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,
10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,
20,21,22,23,24]
ya=[0.014,0.021,0.030,0.038,0.051,0.051,0.051,0.106,0.107,0.215,
0.317,0.462,0.462,0.958,1.28,1.58,1.93,2.07,2.59,3.14,
3.72,4.27,4.95,5.68,6.48]
za=[0.06,0.08,0.09,0.11,0.12,0.12,0.12,0.18,0.18,0.30,
0.46,0.61,0.61,1.22,1.43,2.04,2.68,3.01,3.77,5.06,
6.41,7.28,8.65,11.7,14.6]/100
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SIIDR2モデル計算の下図の結果は次のパラメタで与えられる。
$\beta = 0.72, \nu = 0.03, \lambda = 21, \tau = 14, \alpha_1 = 5.0/0.80 ,\alpha_2 = 5.0/0.20, \gamma_1 = 15/0.87, \gamma_2 = 15/0.13$
これまでの韓国や湖北省の計算では,$\gamma_1 = 15/0.96, \gamma_2 = 15/0.04$に固定していたが,それでは死亡数が再現できなかったので約3倍の値に設定していることに注意する。これによって1万人当たり(米国の人口は3.27億人なので下記を3270倍すると実人数になる)の値が得られる。

図1 米国の感染カーブ(u3=重症感染数,u4=死亡数,u6=新規感染数累計)

図2 米国の感染カーブ(同上,u5=回復(免疫獲得)数)

我々のモデルでもIHME予測の定性的な振る舞いを再現することができる。
① 4月の中旬(t=35)に重症感染数はピークアウトする(図1u3のピーク位置)。
② ピーク時の必要病床数は26万床に達する(図1 u3のピーク値)。
③ 7月上旬(t=110)段階の死亡数は9万人に達する(図1のu4の収束値)。
④ 7月上旬(t=110)には終息している。
終息後の米国の集団免疫率は1%にすぎない(図2のu6の値100/1万=1%)

[1]基本再生産数と集団免疫率(2020.3.27)
[2]倍加時間と基本再生産数(2020.3.29)
[3]新規感染数累計の増倍率(2020.3.31)
[4]湖北省の集団免疫率(2020.3.28)
[5]韓国の集団免疫率(2020.4.3)


2020年4月3日金曜日

韓国の集団免疫率

湖北省の集団免疫率からの続き

中国以外の多くの国では感染拡大が終息していないが,韓国では中国に続いて感染拡大が収まりつつあるように見える。そこで,韓国では現在どの程度の集団免疫が獲得されたかを,前回と同様にSIIDR2モデルで推定してみよう。

まず,データはいつものようにWHOのSituation Report(South Korea)を用いる。新規感染数累計(Confirmed)と死亡数累計(Deaths)の日次統計を韓国の人口5180万人でわったものから,1万人当りの人口比データを取り出した。新規感染数累計が人口の1ppm(百万分の一)を越えた時点を基準日とすると,韓国の基準日は2020年2月19日となる。このデータを示しておく。xkが基準日からの日数(2/19〜4/2までの44日間),ykがConfirmedの人口比(/万人),zkがDeathsの人口比(/万人(zk全体を100で割っていることに注意する)。
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xk=[0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,
10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,
20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,
30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,
40,41,42,43]
yk=[0.010,0.020,0.039,0.067,0.116,0.147,0.189,0.243,0.341,0.451,
0.608,0.721,0.813,0.929,1.029,1.113,1.213,1.306,1.377,1.425,
1.450,1.497,1.519,1.540,1.561,1.576,1.590,1.606,1.606,1.624,
1.670,1.699,1.718,1.730,1.745,1.764,1.784,1.802,1.830,1.850,
1.865,1.889,1.909,1.926]
zk=[0.00,0.02,0.02,0.04,0.10,0.14,0.19,0.23,0.25,0.25,
0.33,0.35,0.42,0.54,0.62,0.68,0.81,0.85,0.97,0.98,
1.04,1.16,1.27,1.27,1.39,1.45,1.45,1.56,1.56,1.62,
1.81,1.97,2.01,2.14,2.32,2.43,2.53,2.68,2.78,2.93,
3.05,3.13,3.19,3.26]/100
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SIIDR2モデルのパラメタを次のようにとると韓国の上記データがおおむね再現できる。
$\beta=0.95, \nu=0.03, \lambda=8, \tau=5, \alpha_1=5.0/0.80, \alpha_2=5.0/0.20, \gamma_1=15.0/0.96, \gamma_2=15.0/0.04$
なお,下記の図では,u3が重症感染者,u4が死亡数累計(Deaths),u5が回復(免疫獲得)者,u6が新規感染数累計(Confirmed)を与えている。
図1 韓国の感染カーブ

もちろん他のパラメタセットの範囲でも同じ結果を与えるが,その場合でも最終的な目標値の集団免疫率の推定値は同じオーダーに収まっている。集団免疫率は集団全体に対する回復(免疫獲得)者の割合なので,現時点での図からわかるように,韓国における集団免疫率は10人/1万人〜0.1%のオーダーに過ぎない

なお,最近(25〜40日)のu6は落ち着いているとはいうものの完全な収束ではなく,直線状に増加しているようにみえるので,我々のモデルではこの定性的な振る舞いを説明できていない。これは毎日,人口の0.2%程度にあたる一定数の感染者が引き続き発生していることを意味している。

参考のため,このモデルの結果を与えている実効再生産数(パラメタセットで定まる)$R_{\rm eff} = \alpha*\beta(t)$を以下に示しておく。

図2 韓国の実効再生産数カーブ


2020年4月2日木曜日

「オーバーシュート」の見分け方

新型コロナウイルス感染症対策本部は2020年1月30日に閣議決定により内閣官房に設置された。内閣総理大臣を本部長とし,官房長官や他の国務大臣が構成員である。その後3月26日に改めて,「新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年法律第31号) 第15条第1項の規定に基づいて新型コロナウイルス感染症対策本部を設置した」とされた。

2月16日には,この対策本部のもとに,国立感染症研究所の脇田隆字所長を座長として医学・医療関係者からなる新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が設置され第1回の会合が開かれている。なお,テレビでよくみかける感染症数理が専門の北海道大学の西浦博教授は座長が出席を求める関係者だった。

3月19日開催の第8回会議における「新型コロナウイルス感染症の対策の状況分析・提言」において,第1回から第7回までまったく登場していなかった「オーバーシュート」というキーワードが突如として次の文脈で デビューした(強調は筆者)。
特に,気付かないうちに感染が市中 に拡がり,あるときに突然爆発的に患者が急増(オーバーシュート(爆発的患者急増))す ると,医療提供体制に過剰な負荷がかかり,それまで行われていた適切な医療が提供でき なくなることが懸念されます。
SNSでは理系の人々を中心に違和感ありまくりでブーイングが起こっている。
 ○オーバーシュートは指数関数的増大でなく過渡現象の振れ過ぎ部分を指すものだ。
 ○爆発的患者急増はアウトブレイクというのではなかったのか(図1)。
 ○手元の辞書にはそんな意味が載っていない。
 ○何故一般向けにわかりにくい英語の専門用語を使うのか。
 ○そもそもこれは学術専門用語ではない(日本環境感染学会用語集に存在しない)。
 ○欧米の感染症情報にもほとんど出てこないしあってもまったく意味が違う。
 ○指数関数的増大のどこからがオーバーシュートなのかわからない。

図1 outbreak(赤) と overshoot(青) の google serarch trend (30日)
上は世界全体,下は日本

それにもかかわらず,マスコミや政治家によってオーバーシュートは我が国に定着することになった。さすがにちょっと気が引けたのか,専門家会議は4月1日の専門家会議の後の会見で,オーバーシュートの定義を次のように説明することになった
副座長の尾身茂氏(地域医療機能推進機構・理事長)は「オーバーシュートは欧米で見られるように爆発的な患者数の増加を示すが,2日ないし3日のうちに累積患者数が倍増し,しかもそのスピードが継続的にみられる状態を指すと私たちは定義した」と述べた。
実は,「医療提供体制に過剰な負荷がかかり,それまで行われていた適切な医療が提供できなくなる」ことが彼らの強調したいことであって,そのためにあえて新しい用語の選択によって注意喚起したのではないかとも推察できるが,これをグダグダいっても仕方がないので, 2から3日のうちに累積患者数が倍増しという定義を受け入れた場合のオーバーシュートの見分け方について考える。

前提として,SIR的なモデルを仮定し感染期間(感染者数の崩壊定数)を$\gamma$=5日とする。累積患者数は 新規感染数累計,$J(t)=\int_{0}^{t} I(t') dt'$のことであるとして,感染者数が非常に少ない状態から指数関数的に増大する場面を設定する。すでに基本的な関係式は下記参考資料で導出しているので,ここでは結果のみ整理する。時刻$t$日の$J(t)$に対する$\tau$日後の$J(t+\tau)$の比率を$r$とおく。なお,$R_0$は基本再生産数(あるいはその時点での実効再生産数)とする(図2)。
\begin{equation}
\begin{aligned}
r &= \dfrac{J(t+\tau)}{J(t)} = \dfrac{e^{\frac{R_0-1}{\gamma}(t+\tau)}-1}{e^{\frac{R_0-1}{\gamma} t}-1} =  \dfrac{e^{\frac{R_0-1}{\gamma}\tau}-e^{-\frac{R_0-1}{\gamma} t}}{1 - e^{- \frac{R_0-1}{\gamma} t}} \approx e^{\frac{R_0-1}{\gamma}\tau}\\
R_0 &= 1 + \dfrac{\gamma}{\tau} \log r
\end{aligned}
\end{equation}
① 3日で2倍すなわち$\tau=3, r=2$とすると,$R_0$=2.15となる。
② $R_0$=2.15の場合,7日で何倍かというと,$r=e^{7 * 1.15 /5}$=5.00倍になる。
③ 東京では,7日で3倍になっているので,$R_0$=1.78となる。

図2 1週間での$J(t)$の増倍率$r$と基本再生産数$R_0$

つまり,日次報告されている新規感染数累計(Confirmed)$J(t)$が 1週間で5倍程度になる状況が続けば,いわゆる「オーバーシュート」の状態であるということになる。東京ではこれが3倍程度でありそこまでは至っていない。欧州や以前の韓国や湖北省ではオーバーシュートの状態が生じていたが,現在は収まっており$r$も減少している。北米ではオーバーシュート近傍にあるが,$r$は減少傾向にある。日本や東京ではオーバーシュート状態ではないが,$r$は増加傾向にあって予断を許さない(下記の各国の感染者比で$r$を確認)。

$r$は比率なので,報告されている感染数の把握度が不十分であっても(見逃している感染数がかなり存在しているかもしれないとしても),把握度の時間依存性が大きくない限りこの結論には影響しない。

[1]新規感染数累計の増倍率(2020.3.31)
[2]倍加時間と基本再生産数(2020.3.29)
[3]基本再生産数と集団免疫率(2020.3.27)
[4]感染症の数理シミュレーション(8)(2020.3.15)
[5]各国の感染者比(2)(2020.3.12)
[6]各国の感染者比(1)(2020.3.10)
[6]感染症の数理シミュレーション(2)(2020.2.25)
[7]感染症の数理シミュレーション(1)(2020.2.24)


2020年4月1日水曜日

インターネット授業への道

昨日,非常勤先の大阪教育大学の方針が変更された。当初,予定されていた学年暦どおりに4月8日から授業を開始するとのことであったのだが,やはりこの状況なので,通常授業は困難であると判断され,4月8日から4月19日までは休講となった。一安心。

4月20日からインターネット授業(インターネットを活用した授業),5月11日からは対面授業を含めて実施ということである。昨日はzoomによる緊急のFDが開催されて,moodleを活用したインターネット授業の典型例,実施のための体制はどうすればよいか,ということが議論された。

昨年度の大阪教育大学のmoodleの活用率は1/6程度らしいのでなかなか険しい道のりなのである。


学習院大学の田崎さんのGIGAにやさしい遠隔授業を参考にしようと思うが,あと3週間で準備できるだろうか。