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2020年3月27日金曜日

基本再生産数と集団免疫率

感染症数理の基本的なモデルであるSIRモデルについて自分は十分理解できていなかった。奈良女子大の高須さん[1]や神戸大の牧野さん[2]や京大の門さん[3]の資料が大変わかりやすくて勉強になった。

きっかけはツイッター@nagayaさんの次のコメント
R0=2なら国民の50%、3なら66%、逆に1.5なら33%の免疫獲得で理論上は収束に向かいます(この理論値を超えて免疫獲得した分が「オーバーシュート」)。日本は自粛とクラスター追跡、検査を絞って1.2程度にして医療崩壊を避けようとしたんでしょう。無理です。長期化しますし、指数関数的に潜在します。
基本再生産数R0と集団免疫率に関係あったっけ?ということで高須さんの資料で学び直し。

SIRモデルは,感受性保持者(Susceptible,S(t))・感染者(Infected,I(t))・免疫保持者(Recovered,R(t) )からなる力学系モデルであり次の微分方程式を満たす(β,γの定義に注意 )。ここでtは時間であり,最も単純なバージョンでは集団の人数をNとしてS(t)+I(t)+R(t)=Nは保存量である。なお,β感染率(1人単位時間当りの感染数),γ感染期間である。
dSdt=βSNIdIdt=βSNIIγdRdt=Iγ
これからわかること。集団中の感受性保持者(免疫非保持者)の割合をp(t)=SNとすると,p(t)>1βγで感染拡大,p(t)<1βγで感染縮小となる。そこで,基本再生産数R0=βγと定義すると,p(0)=1の初期状態において,R0>1で感染拡大,R0<1で感染縮小となる。なお,実効再生産数Reff=R0p(t)  と定義される。

また集団免疫率π(t)=1p(t)と定義すると,感染拡大と縮小の分岐点τでは,1π(τ)=1R0である。これが@nagayaさんの示した関係式だった。

次に十分時間がたってI()=0となるときの集団免疫率π()R0の関係を求めてみよう。もとの微分方程式系の第1式と第3式から次の微分方程式が得られる。
dSdR=R0SNdSS=R0dRNlogS+C=R0RN=R0(1INp(t))=R0(π(t)i(t))
ただし,i(t)=INであり,i()=0。そこで,S(0)=Nとしてπ()=πとすると,
S(t)S(0)=eR0{π(t)i(t)}p(t)=1π(t)=eR0{π(t)i(t)}1π=eR0πR0=1πlog(1π)
図1 t=∞における集団免疫率π(横軸)と基本再生産数R0(縦軸)

分岐点におけるπ(t)R0の関係式とは異なった関係を与えていることに注意しよう。

付録:juliaにおける上記プロットのコード
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using Plots
gr()
x = 0.05:0.05:0.95
f(x) = .- 1 ./ x .* log.(1 .- x)
y = f(x)
plot(x, y, label="")
savefig("sir.png")
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追伸:
以上は簡単なSIRモデルの場合だが,湖北省(武漢以外)をおおむね説明したSIIDR2モデルにたいして,十分な時間がたったときの湖北省(武漢以外)の集団免疫率はどのように推定できるだろうか。パラメタセット,α1=5/0.80,α2=5/0.20,γ1=15/0.96,γ2=15/0.04,β=0.915,ν=0.025,λ=7,τ=7について計算すると,Recovered u5は1万人当り19程度に収束し,集団免疫率はたかだか0.2%にどどまる
図2 湖北省(武漢以外)のSIIDR2モデルよる集団免疫率の評価

[1]伝染病のモデル−大域情報学(高須夫悟)
[2]コロナウィルス(SARS-CoV-2)の(単純な) 数学モデル(牧野淳一郎)
[3]この感染は拡大か収束か:再生産数 R の物理的意味と決定(門信一郎)

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