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2021年8月5日木曜日

パンケーキを毒見する

8/2(月),新たに埼玉県・千葉県・神奈川県・大阪府への緊急事態宣言が発出されるとともに,東京都と沖縄県への宣言が延長された。8/31(火)までだ。一方,同じ期間に北海道・石川県・京都府・兵庫県・福岡県には蔓延防止等重点措置が実施される。さらには,東京オリンピック閉会式で台風9号が接近する8/8(日)には,同じ期限で,福島・茨城・栃木・群馬・静岡・愛知・滋賀・熊本の8県にも蔓延防止等重点措置が追加されるようだ。

それでもオリンピックは続けるのだった。8/24(火)〜9/5(日)のパラリンピックはどうするのか。

そんなわけで,映画館が閉鎖されないうちにということで,朝から新京極三条のMOVIX京都にパンケーキを毒見する(企画制作:河村光庸,監督:内山雄人)を一人で観に行った。30-40人くらいの観客が入り結構にぎわっていた。席は前後も重ならないようにしてほしい。

主戦場と同じように,インタビューの積み重ねが基本となるドキュメンタリーだ。ただ,当事者に近い関係先からはほとんど出演が断られてしまったようで,短期間での制作はたいへんだったと思う。

途中に挿入されるアニメーションや小芝居(博打)やイメージ映像はあまり成功していない(若林良が,印象操作というまったくトンチンカンな見解を披露していたがそうではないだろう)。全体として掘り下げは物足りなかったが,それでもいくつかの新しい知見はあったので,まだ見ていなければ今のうち(下手するとテレビ放映がないかもなので)。

上西充子の国会中継解説はとてもわかりやすくてよかった。これだけで1本ドキュメンタリー映画を作ってもらいたいくらいであり,メディアリテラシーの演習になる。

石破茂村上誠一郎はあたりさわりなかったが,橋本龍太郎の秘書官だった江田憲司が,菅義偉から国会への出馬をサポート・現金付で依頼されたくだりは興味深かった。

○赤旗の編集局にカメラが入り,編集者との話や,小池晃との掛け合いがあったところは,はじめてみる映像でこれは結構貴重なのではないだろうか。

森功の部分はちょっと消化不良であり,前川喜平の話は安倍絡みで既知のことだった。

今回の映画で最も面白かったのは元朝日新聞の鮫島浩の話だった。彼が新米のときに権力者とは誰かと先輩に聞いて,その答えが,経世会,宏池会,外務省,大蔵省,米国,中国だったというもので,そこには清和会はない。彼らは基本的にずっと主流ではなかったのだ。それが,小泉政権や経世会の解体を経て2度の安倍政権とそれにつながる菅政権として権力を掌握したがために,従来の権力(及びその政策)への仕返しをしているという見立てだ。

たぶん,安倍+菅政権時代の事跡を,マスメディアと政治という背景の元に再編したほうがより面白いものになったと思う。上西充子の部分や辻田真佐憲のコメント,赤旗のくだりや最期の古賀茂明の話はそのまま活かせる。あるいは望月衣塑子の部分をより広く掬い,国谷裕子と菅の話,NHK担当課長更迭の話,などなどネタは尽きることがないだろう。


写真:(C) 2021「パンケーキを毒見する」製作委員会のポスターから引用


2021年7月30日金曜日

家族的利益共同体

 町山智浩さんの最近のツイートが現在の日本の状況を的確に表現していると思う。すなわち,「電通,自民党,テレビ,メディア,大企業は互いの子息令嬢を互いに就職させたり,結婚による血縁などで結束を深めています。こうして築かれた広告&政治&大企業&メディアの家族的利益共同体が自分たちの利益を優先させ続けた結果が今の日本です」

)「自民党デジタル改革担当大臣平井卓也がまさにその申し子やね。祖父は瀬戸内航空社長・四国電力取締役,親は西日本放送代表・四国新聞社主,電通出身の自民党世襲3世議員。四国の大企業,メディアを一手に握る平井家の御曹司」(なんJ民No.18@nanjno18)


2021年7月23日金曜日

東京オリンピック(4)

東京オリンピック(3)からの続き

東京2020への道  −「オリンピックをちゃんと開ける国1964が如何にしてオリンピック一つまともに開けない国2021に転落したかの物語」最終章のあらすじについて− 

幻の「コンパクト五輪」が 「震災復興五輪」と銘打って華々しく登場したものの, 「人類がコロナに打ち勝った証としての五輪」に名前をかえて一年延期され, 「(誰が?)コロナと戦う五輪」へと転戦転進し,ついには 「日本社会(≒自民党×電通的価値観)の恥や闇を暴くための五輪」 となった経緯を巻き戻してみる, 

0 2021.7 五輪名誉最高顧問安倍前首相が開会式欠席逃亡
1 2021.7 開会式・閉会式演出担当小林賢太郎ホロコースト揶揄で炎上(謀略?)辞任
2 2021.7 選手村の設備(段ボールベッド,日本語表記リモコン,・・・)問題噴出
3 2021.7 イラン選手団他,バス不足で成田空港で7時間放置
4 2021.7 皇室の開会式出席は天皇だけ,皇室の観戦なし
5 2921.7 トヨタ等大企業五輪CM見送り,五輪特別顧問経済三団体首脳開会式欠席
6 2021.7 文化プログラムまぜこぜアイランドツアーの絵本作家のぶみ炎上辞任
7 2021.7 開会式・閉会式音楽担当小山田圭吾の障害者虐待問題炎上辞任
8 2021.7 サッカー学校観戦の飲料をコカ・コーラに限定する通達に苦情殺到
9 2021.7 高速道路料金加算と罰金付き五輪専用レーン運用開始
10 2021.7 バッハ会長・IOC委員,ヒロシマ・ナガサキ訪問,有観客開催要請
11 2021.7 オリンピックの選手団の空港検疫・バブル方式・プレイブック機能せず
12 2021.7 宇都宮健児らの五輪開催反対署名45万筆突破
13 2021.7 東京・神奈川・埼玉・千葉・北海道・福島での無観客開催決定
14 2021.6 ボランティア全員東京でワクチン接種は時期が遅く免疫獲得間に合わず
15 2021.6 JOC経理部長電車自殺,山下会長否定,ニュース差し替え隠蔽
16 2021.6 東京五輪のコロナ対策アプリ73億円を半額に値切って混乱→全然使えない
17 2021.5 選手村でのコンドーム16万個配布とコロナ感染対策の矛盾を糊塗
18 2021.5 組織委員会,大会会場への旭日旗の持ち込みを禁止せず
19 2021.5 パブリックビューイングすべて中止
20 2021.5 聖火リレーの騒音スポンサー車両。感染拡大で辞退・公道走行中止相次ぐ
21 2021.4 会場運営委託先の高額人件費1人1日30万円計上と中抜き,守秘義務で秘匿
22 2021.3 5者協議で海外観客の受け入れ断念を合意
23 2021.3 開会式・閉会式演出統括佐々木宏(元電通)の渡辺直美ブタ演出問題で辞任
24 2021.2 組織委員会森喜朗会長女性蔑視発言で辞任
25 2020.12 開会式演出責任者MIKIKOら野村万斎チームが簡素化を口実に解散
26 2020.8 安倍晋三,診断書なしの潰瘍性大腸炎を理由に首相の座を放棄
27 2020.3 コロナ禍,安倍首相の強い意向で東京オリンピック2020最悪の1年延期
28 2020.3 元電通専務の高橋治之が招致委員会からの9億円でロビー活動
29 2020.2 五輪開会式にアイヌ民族伝統舞踊不採用
30 2019.11 IOC,猛暑対策のためマラソンと競歩を札幌に変更
31 2019.8 お台場トライアスロン会場の下水臭水質問題改善の見込みなし
32 2019.3 JOC竹田JOC会長退任,IOC委員辞任,組織委員会副会長退任
33 2018.12 フランス金融犯罪局,JOCの竹田恆和会長の贈賄調査開始
34 2017.3 新国立競技場建設現場で過労自殺
35 2016.7 新国立競技場建設のため都営霞ヶ丘住宅解体工事強行
36 2016.1 新国立競技場は隈研吾案に決定,空調なし聖火台なし,陸上サブトラック仮設
37 2015.9 アートディレクター佐野研二郎,東京大会エンブレム盗用疑惑発覚
38 2015.7 工事費膨張を理由に新国立競技場ザハ・ハディド案など白紙撤回
39 2014.5 日本建築家協会,国立競技場解体見直し要望書提出
40 2013.12 猪瀬直樹都知事,5000万円裏金疑惑で辞職
41 2013.9 IOC総会で2020年オリンピック,NBCの都合等のため猛暑の東京で開催決定
   (震災復興五輪)をだしに。温暖でアスリートに理想的な気候と捏造説明
42 2013.9 安倍首相,福島の汚染水はアンダー・コントロールと虚偽スピーチ
43 2012.11 新国立競技場コンペでザハ・ハディド案選出
44 2012.7 猪瀬直樹都知事,国立競技場改築で世界一カネのかからない五輪発言
45 2011.9 石原慎太郎都知事,2020年五輪への立候補申請(賛成47%・反対23%)
46 2009.9 IOC総会で2016年のオリンピックの東京開催落選
47 2007.9 石原慎太郎都知事,2016年五輪への立候補申請(コンパクト五輪)

2021年6月25日金曜日

LGBT法案問題

 夫婦別姓問題からの続き

先日の国会で自民党がつぶしたLGBT法案は,「LGBT理解増進法案」なのだけれど,案文をさがしても見つからない。一方,歩み寄った野党側が当初提案していたのは「LGBT差別禁止法案」であり,こちらのほうは「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」として内容をみることができた。


[1]LGBTの現状と課題(中西絵里,参議院法務委員会調査室)

[2]性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方(自由民主党)

2021年6月24日木曜日

夫婦別姓問題

2021年6月23日に,夫婦同姓での届け出の根拠である民法750条と戸籍法74条の1が合憲であるという最高裁大法廷判決が出された。判決の主文と理由(49p)が公開されている。

理由は4項目から成り立つが,ようは平成27年にすでに判断はされていて,その後の状況からも変更する必要がないという素っ気ないものである。もちろん,この判断と夫婦の氏をどうするかという立法政策は別であり,これは国会で論ぜられ判断されるべき事柄であるとは述べている。ここまで1ページ半である。

その後,深山卓也,岡村和美,長嶺安政の補足意見が,4ページ半ある。夫婦同姓の規定が国会の裁量を超えるほど合理性に欠くと断ずることは困難というものだ。

さらに,三浦守の意見が続く。法が夫婦別姓の選択肢を設けていないことは婚姻の自由を不合理に制約する点で24条に違反する。しかし,原告の請求は棄却されるとする。なぜなら,必要な立法措置が講じられていない状況で,婚姻届は受理できないからというわけだ。10ページ強。

一方,宮崎裕子と宇賀克也及び草野耕一は原告の請求を認め,民法と戸籍法の規定は違憲だとする。前者は,26ページを費やして,人格権,人格的利益,女子差別撤廃などを根拠として,夫婦同姓を受け入れない限り当事者の婚姻の意思決定を法的に認めないとする制約に合理性があるとは言えず,不当な国家介入だとしている。また,草野耕一は,6ページにわたり,選択的夫婦別姓制度を導入することとしないことを考量している。導入しないことは個人の尊厳をないがしろにし,国会の立法裁量の範囲を超えるほどに合理性を欠くから憲法24条に違反するとしている。
日本国憲法
第二十四条
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

LBGT差別撤廃問題や夫婦別姓問題 は,日本会議などの右派が支える自民党主流派が保持する復古的政策の中心的課題なので,その牙城を切り崩すのは大変かもしれない。こうした合理性に欠ける政策に固執する限り,日本はその没落への道から逃れられない。

[1]選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について(法務省)

2021年6月20日日曜日

教育データサイエンスセンター

文部科学省:青木栄一からの続き 

2021年の10月,国立教育政策研究所の下に教育データサイエンスセンターが設置される予定だ。定員が5名のごく小規模な組織である。その目的は,(1) 全国学力・学習状況調査のCBT(Computer Based Testing)化,(2) 教育データサイエンスの普及活動,(3) 教育データ利活用に関わる検討 などとなっている。

教育ビッグデータとは,児童・生徒・学生の学習履歴や行動履歴を広範に収集分析して,個人の学習活動にフィードバックするとともに,教育行政の改善につなげよういうものである。その大きな流れにおける文部科学省側の動きの一つが教育データサイエンスセンターだろう。

これについても,青木栄一さんが「文部科学省」の中で注意を促している。すなわち,文部科学省に対する間接統治の文脈で 268pに,

「間接統治」の「旨味」は,官邸の主である首相が代替わりしても忘れられることはないだろう。むしろ経産省以外の他官庁,その他の政治主体も教育・学術・科学技術の「間接統治」を目論む流れが強まっていくだろう。総務省は学校でのICT活用の主導権を経産省から取り戻そうとするかもしれないし,財務省は効率的(安上がり)な教育政策をさらに実現するかもしれない。また,学校の抱える多種多様で大量の個人データは,マイナンバーを通じた国民管理にはうってつけである。例えば,生徒個人の成績データや問題行動データ(暴力・暴言など)を犯罪抑止に使おうとすることは十分ありえる

権力の源泉は,情報ひと(人事)とかね(予算)である。情報を持つものが権力を掌握し,ひととかねを通じて支配構造を貫徹する。ビッグデータはその情報の部分の鍵なのだ。すでに張り巡らされた監視カメラとネットを流通するデータは補足されているが,GIGAスクール構想によって学校の中にもこの神経網が張り巡らされることになる。

2021年6月19日土曜日

文部科学省:青木栄一

 中公新書2635の「文部科学省 揺らぐ日本の教育と学術」を読了した。著者の青木栄一(1973-)さんは,東北大学教育学部教授で前職は国立政策研究所の研究員(2003-2010)だ。

「文部科学省」の目次は次のようになっている。

序 章 「三流官庁」論を超えて
第1章 組織の解剖−統合は何をもたらしたか
   1 幅広い業務,最小の人員
   2 組織構成から見る文部・科技のバランス
   3 揺らぐ機関哲学
第2章 職員たちの実像
   1 文科官僚−特急券をもつ者たち
   2 キャリアパスは変化したか
   3 融合は進んだか−幹部人事と出向人事から読み解く
第3章 文科省予算はなぜ減り続けるのか
   1 67万人の教員人件費,3万校の学校施設建築費
   2 高校無償化−政治に翻弄される4000億円予算
   3 国立大学の財政−年マイナス1%の削減
第4章 世界トップレベルの学力を維持するために
   1 ゆとり教育から学力向上へ
   2 教員の多忙化−過労死ライン6割超の衝撃
   3 教育委員会は諸悪の根源か?
第5章 失われる大学の人材育成機能
   1 高大接続−誰のための入試改革か
   2 大学改革−なんのためのグローバル化か
   3 先細る日本の学術・科学技術人材
終 章 日本の教育・学術・科学技術のゆくえ
2001年に文部省と科学技術庁が統合されて発足した,定員数が最も小さな文部科学省(定員2150人)の組織,人事,予算を説明した後,その政策について初等中等教育と高等教育にそれぞれ焦点をあてて非常にバランスよく説明している。自分の見聞・体験してきた分野とほぼ重なるので非常に読みやすく,飲み込みやすかった。

青木さんの専門分野は,教育行政学,地方自治論,公共政策論であり,現在の研究テーマは,官僚制のパネルデータ分析,教育と政治の関係,教員の労働時間とワークライフバランスなどであるため,第4章のゆとり教育の失敗や教員の多忙化のあたりが丁寧に分析されていた。

ただ,文部科学行政を牛耳ってきた自民党清和会の最近の極右的な傾向を反映した教科書検定の結果としての現状(従軍慰安婦記述など)や,その観点からの教員免許更新の意味,あるいは道徳教育の復活など,文科省がかかえる復古的な動きについてはほとんどスルーされているような気がした。

一方,第5章の大学の危機について。高等教育は著者の直接の専門分野ではないけれど,実体験に裏打ちされたリアリティのある記述が,直近の様々な事態までを含んで語られており,とても共感できるのであった。例えば,221ページ
まず政治家は危機を煽り改革を叫び,制度改革の機運を醸成する。いつの間にか既存制度の改革自体が目的となり,冷静な政策論議が忘れられる。企業は,こうした醸成された状況にキャッチアップし,受託を見据えた動きをする。ここに有識者が影に日向に関わっていく。
例としては,大学入試改革が,世代交代した新自由主義的傾向の強い文教族によって,民間委託の名のもとに売り払われようとしていることが挙げられている。そう,GIGAスクール構想などのEdTechの動きについてもまったく同様なのだった。そしてその端緒となる「インターネットの教育利用」に自らの手を貸していた私なのだった。

さらに,文科省の背後にいる,官邸,他省庁,政治家,財界の「間接統治」によってこうした政策(ロジスティクス軽視,前線依存)が進められていることが明らかにされていくが,これを防ぐものがいない。例えば,266ページ
不幸なことに,文科省のこうした思考と姿勢に注意を促す外部主体がいない。教職員組合は本来,文科省を叱咤激励するべき存在だが組織率が低下し弱体化してしまった。教育学者は「エビデンスの罠」に囚われてしまい迷走している。多くの教育学者はエビデンスが政治家や各省庁に都合よく使われる危険性に気づかず,エビデンス重視の流れに無批判に乗ってしまい,その結果,文科省の挙証責任ばかりが求められるようになった。教育メディアは改革の紹介記事を特集するが調査報道は不十分で,多くは「提灯記事」の域を超えない。他方,改革に対する批判の多くが感情的で,何らかの学術的知見に裏付けられたものではない。
最後に,これを打開するための著者のアイディアとして,シンクタンクの活動を呼びかけている。詳細は,本を買って読んでください。


写真:中公新書2635 文部科学省 青木栄一(amazonより書影引用)


2021年6月15日火曜日

要塞地帯法

 要塞地帯法(1899-1945)は,戦前の大日本帝国憲法(1889-1947)下に制定された法律である。衆議院を通過し,参議院で審議中の「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案土地規制法案)」との関連が指摘されている。

要は,大日本帝国時代の法律である要塞地帯法のほうが,現在提出されている基地周辺土地規制法案より,法律としての禁止事項の構成要件が明確になっているという皮肉な事態になっているということだ。政府与党参考人にまで現行法案の重大な問題点が指摘されても,カエルの面に水の自民党,公明党,日本維新の会なのであった。

この法案の源泉には,石原慎太郎−野田佳彦による尖閣列島国有化が影を落としているし,基地や原発への反対運動を弾圧するためにフルに活用されそうな勢いであり,基本的人権に対する深刻な脅威となっている。

P. S. 6/15 国会閉幕直前に参議院を通過成立。

[1]「基地周辺土地規制法」について(内藤功)

[2]取り返しのつかない土地規制法案(馬奈木厳太郎)

[3]要塞地帯法の成立と治安体制(Ⅰ)(遠藤芳信)

2021年1月11日月曜日

外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律

 論理的には,この「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」の逆過程なので,そこで主張の妥当性が判断されるのがひとつ。さらには,国際的にはどのような原則が確立されているかということだが,「国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約」についてという文書が外務省にある。この国連国家免除条約本体はこちら

報道では,かつての絶対免除主義「国及びその財産については,すべて無条件に他の国の裁判所の裁判権からの免除を認めること」が,現在でも国際的な原則であるかのような印象を与える説明がなされているが,そうでもないかもしれない。なお,条約の締約国は19カ国なので,まだ発効されていない。

2020年12月12日土曜日

ファンドマネージャー

だまされないようにと思いながら,だまされて 一月万冊を見ていると,ときどき,気になるニュースが飛び込んでくる。今回の清水有高と安富歩の話題の終わりの方に,ファンドマネージャーの課税の問題が登場した。ああ,これが大阪を国際金融都市にという大阪維新の妄言の根拠だったのか。新自由主義ブレーンのもとで,菅政権が狙っているサッチャリズムのコアとなる政策のひとつなのかもしれない。世襲血縁にまで手を突っ込もうとしているのかどうかはまだよくわからない。

2020年11月26日木曜日

日本国憲法の改正手続きに関する法律

 日本国憲法の改正手続きに関する法律の改正案の件だ。とりあえず,衆議院憲法審査会(今203国会での第3回)での採決はなさそうだとのことだったが,維新の馬場が強行採決動議を出し,幹事会での協議に持ち込まれて散会なのか。実質審議にも入ったということでまったく予断を許さない。

審議される改正案の議案と説明資料は,2018年7月の第196国会の衆議院憲法審査会に提出されている。議案そのものは,2016年の公職選挙法改正に伴う形式的な変更であるが,より本質的な問題である広告規制がまったくかからないまま,改正手続きが整ったという名目で,憲法改正プロセスが起動してしまう危険性が大きいため,野党(準与党の維新と国民民主党を除く)はブレーキをかけている。

大阪都構想で維新が使った広告費が4億円ということだから,100億も出して電通をフル稼働させれば,簡単に憲法改正が実現してしまう国なのだろう。

2020年11月24日火曜日

政治資金規正法

 総理大臣主催の公的行事である「桜を見る会」は例年4月中旬に新宿御苑で開催されている。その前夜に,ホテルニューオータニやANAインターコンチネンタルホテル東京で,安倍晋三後援会が主催して開かれた「前夜祭」の資金の流れについて,昨年5月に国会で取り上げられたが,安倍晋三は適当な言い逃れを重ねて,有耶無耶になっていた。この度,東京地検特捜部が安倍の公設秘書から聞き取りをしているということで,検察のリークによる一部の情報が報道されている。

で,仮に安倍晋三が国会の参考人として呼ばれても,捜査中ということで全く答えないまま終止するだろうが,そのテレビ画像を忌避したい自民党は,野党の要求を拒否している。ただ,その背景において菅首相チームがどのようなスタンスで関わっているのかがよくわからないため,様々な憶測が飛び交っている。

ところで,責任の尻尾切りがどのように行われるかを確かめるため,政治資金規正法をチラっと眺めてみた。現職国会議員の資金管理団体一覧によると,安倍晋三の欄には,総務大臣届け出の晋和会だけが上がっている。一方,公益財団法人の政治資金センターによる「安倍晋三自民党総裁・衆議院議員・内閣総理大臣の2014年分政治資金収支における特徴(2017.03.09)」では,6つの政治団体があがっており,このうち晋和会は安倍晋三が代表であるが,安倍晋三後援会は配川博之が代表となっている。もう,この段階で簡単に尻尾切りができてしまいそうな感触で満ち溢れていた。

追伸:書き終えておやすみしようとしたら,ホテルニューオータニの件の領収書の宛先が,安倍晋三が代表の晋和会だったという情報が飛び込んできたが,いずれにせよ会計責任者や秘書のせいにして逃げ切るのだろう。

2020年11月3日火曜日

文化功労者

 菅首相と関係の深いぐるなび(Go To イートでもおなじみ)創業者で実業家の滝久雄が「パブリックアート」というふれこみで2020年度の文化功労者に選ばれている。彼は広告代理店エヌケービー取締役会長・創業者をつとめているが,伊藤詩織さんの準強姦事件の当事者である山口敬之を事件後の資金提供のためにエヌケービーの顧問として抱えていたことがある。これは当時の官房長官であった菅の口添えによるらしい。

文化功労者に,学術や芸術にたずさわるもの以外が選ばれることがあるのかと,Wikipediaの文化功労者の一覧を眺めてみる。日本国憲法第14条により文化勲章には年金などの特権はつけられない。これを回避するために,1951年に文化功労者年金法が設けられ,文化功労者の制度が発足した。2020年までの70年間で907人が選ばれている。このうち51%の467人が学術関係,45%の406人が芸術関係,残りの34人がスポーツその他であり,まったくないわけではない。

発足時の1951年に34名,2年目の1952年に16名,1953年から1987年までは毎年10名の文化功労者が選ばれてきた。その後竹下内閣時代に13名が2年続き,1990年以降2017年まではほぼ15名で推移してきた。ほぼと書いたのは,ノーベル賞の受賞者が発表されたことで,1,2名のプラスが必要な年があったからだ。2018年に18名,2019年に20名,2020年に21名と最近急にインフレが起こったと同時に,「その他」枠の微妙な運用が始まっている。

スポーツも文化だといえばそうなのもしれない。その他のうち18名はスポーツ関係である。その最初は,1955年の平沼亮三(スポーツ振興)や1961年の三船久蔵(柔道)であった。一方,実業家で芸術関係のパトロンであった人や純粋な実業家も選ばれている。1955年に松竹の大谷竹次郎(演劇振興),1973年の田中角栄時代に鹿島守之助(経営)・・・経営も文化なのかもしれない・・・。1989年の竹下内閣で井深大(電子技術),技術者と考えれば他にも数人該当するのでここは個人的には納得(テキトー)。1995年に再び松竹の永山武臣(経営),こんどはこうきたか。まあ,歌舞伎は松竹が持っているので仕方ないかもしれない(テキトー)。

そしていよいよ2018年になって,文化振興で茂木友三郎福原義春とくる。かりにここまではなんとか理解できたとしても,2019年の笹川陽平(文化振興他),渡辺美佐(文化振興),2020年の酒井政利(音楽文化振興),鈴木幸一(文化振興)そして滝久雄とイケイケになってきている。滝久雄を文化振興ではなくパブリックアート1% FOR ART)というキーワードで埋め込もうとしているのが気持ち悪い。ベネッセと吉本興業の経営者が登場する日も近い。

日本国憲法
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

文化功労者年金法
第一条 この法律は、文化の向上発達に関し特に功績顕著な者(以下「文化功労者」という。)に年金を支給し、これを顕彰することを目的とする。
第二条 文化功労者は、文部科学大臣が決定する。
2 文部科学大臣は、前項の規定により文化功労者を決定しようとするときは、候補者の選考を文化審議会に諮問し、その選考した者のうちからこれを決定しなければならない。
第三条 文化功労者には、終身、政令で定める額の年金を支給する。

文化功労者年金法施行令
第一条 文化功労者年金法第三条第一項の規定による年金(以下「年金」という。)の額は、三百五十万円とする。




2020年10月22日木曜日

ハンスト(2)

 菅野完の官邸前ハンストは20日目を迎えた。その後の記事をいくつか探してみた。10/12には「日本学術会議任命拒否問題・菅野完ハンスト11日目のスピーチ」や「日本学術会議への人事介入へ抗議する 菅野完・緊急スピーチ」があり,10/14のHARBOR BUSINESS Onlineには,藤倉善郎による「日本学術会議問題。官邸前で可視化される法治国家の崩壊」が載っている。10/19にデモクラシータイムスの池田香代子によるインタビュー「著述家菅野完さんはなぜ2週間超のハンストを続けるのか」があった。田中龍作によるBLOGOSの記事も続いている。ツイキャスの配信はここからも見えるが,ドクターストップが近いかもしれない。

追伸1:「菅野完氏 ハンストライブキャスより 初めての呼びかけと現時点での総括」(2020年10月19日)

追伸2:フランス人記者からのインタビュー「菅野完氏 外国人記者からのインタヴュー 2020年10月21日 #日本学術会議への人事介入に抗議する #ハンストの現場から」,「菅野完氏 ハンストライブキャスより 初めての呼びかけと現時点での総括(2020年10月21日)」

追伸3:「菅野完氏 ハンストライブキャスより :娘に脅迫状が来た〜官邸に勝って学術会議に負けた・・」(2020年10月24日)

追伸4:官邸前に登場した新しい戦い「本を読むことが抵抗だ」:田中龍作ジャーナル(2020年10月25日)

追伸5:日本学術会議問題、菅野完氏がハンストで伝えたメッセージ法を破った内閣総理大臣に対する「戦い」はどうあるべきなのか:論座,藤倉善郎(2020年10月28日)

[1]日本学術会議への人事介入は何が問題か三春充希:みらい選挙プロジェクト
[2]求められる為政者の度量

2020年10月19日月曜日

認証官

日本学術会議の会員6名に対する任命拒否にからみ,首相の菅義偉(1948-)と並んで 内閣官房副長官(事務)の杉田和博(1941-)の関与があったのではないかと囁かれている。警察庁の役職を歴任した杉田は,2004年に63歳で第二次小泉内閣の内閣危機管理監を退任して世界政経調査会会長として天下った。その後,2012年に71歳で第二次安倍内閣の内閣官房副長官(事務)に就任し,2020年の菅内閣の現在まで8年近くこのポストを続けて79歳に達している。

このポストは,自治省,警察庁,厚生省の事務次官経験者レベルで回しているようだ。1987年から1995年の8年7内閣にわたって石原信雄(自治省)が務めているが,それでも69歳で退任している。

2001年の第二次森内閣のときに,内閣法が改正されて内閣官房副長官は認証官となっている。認証官とは任免にあたって天皇の認証が必要な官吏である(通称であり法律用語ではない)。

日本国憲法第7条

第7条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。

 5 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。

ということで,内閣官房副長官は官吏なので国家公務員法を参照することになるが,これは,一般職ではなく特別職であるため,この法が直接適用されるわけではないので,その任免や基準についてはよくわからなかった。

内閣法には,第十二条で「内閣官房を置く」とし,第十四条で「内閣官房に、内閣官房副長官三人を置く。2 内閣官房副長官の任免は、天皇がこれを認証する」とあるだけだ。ということは,内閣官房副長官の任免は内閣の職権でおこなわれることから,内閣総理大臣が提案して閣議で決定されるということだろうと思われる。特別職として委嘱するので定年という概念はあてはまらないということか。

非常に重要なポストであるにもかかわらず,他の認証官と比べて制度が意図的に明確化されていないために,長期に渡って特定の人物が滞留する現象が起こるわけだ。

さて,元に戻れば,立教大学の中原淳が日本学術会議問題について語っているのが本質をついているような気がする。

本丸は、おそらく「大学」「メディア」「司法」。つまりは、この国の「言論」と「判断」だと思う。それらを政治のコントロールのなかに入れることが「本丸」だと思う。陰謀論のように感じられるかもしれないが、おそらく、そうだろう。。。学術会議は、その格好の「最初の餌食」だ。なぜなら、学術会議の功績は、世間からは遠い。世間からもっとも成果が見えにくいところをついて、世論を味方にして任命権の拡大解釈を行う。世論を味方にする最高の方法は「携帯電話の料金引き下げ」だ。それは、実現すれば、僕だって嬉しい(笑)。

しかし、これを背景にした「任命権の拡大解釈」こそが今後の「すべての既成事実」となりうる。「任命」を「任命拒否することも含む」と解釈しその理由もさして述べる必要なく「俯瞰的・総合的な判断で決めました」でよいのなら、あとは「やりたい放題だ」個人的には、今回の件を「既成事実」にして、この流れが「他の領域に拡大されること」を最も憂慮する。

すなわち、拡大されるのは、大学・メディア・司法。事実、政権の「任命」する職は少なくない。たとえば、国立大学の長は、文部科学省大臣の「任命」。NHKの長を選ぶ経営委員会は、国会をへて、内閣総理大臣によって「任命」。検事総長も内閣総理大臣による「任命」。下でどんな議論をしようが、上で「拒否できる」任命権が「任命拒否も含むと解釈できる」という「既成事実」をつくったならば・・・。きっとこの件は、長く禍根を残すと思う。



2020年10月17日土曜日

従一位

 2019年の11月29日に亡くなった中曽根康弘の内閣・自民党合同葬が,10月17日午後2時からグランドプリンスホテル新高輪国際館パミールで開催される。3月15日に行われる予定だったものが,新型コロナウイルス感染症のために延期されていた。これにともなう公費支出や各省庁・学校,裁判所などへの弔意表明要請の通知に抗議が集中している。一方,これまでにも前例があるということで擁護する意見も出ているが,微妙に条件が異なるため丁寧に見る必要がある。

菅首相による新自由主義的再編の精神的シンボルとして位置づけれられるのかもしれないこの問題が,学術会議問題や対面授業問題とも共鳴・干渉して,大学へは暗黙の(むしろ明示的な)圧力となっている。

その中曽根は,没後に従一位に叙せられている。日本の位階制度をみると,第二次世界大戦後に生存者に対する叙勲は停止されていたが,1947年に位階令が改正されて復活している。

現行の位階は,正一位(しょういちい)から従八位(じゅはちい)までの16段階となっている。1960年以降に没後追賜で従一位(じゅいちい)に叙されたのは,鈴木貫太郎(1960正二位),吉田茂(1967正三位),佐藤栄作(1975従四位),中曽根康弘(2019従六位)の4人だけだ。なんだか生前の位階と比べるとインフレ気味に感じるのは気のせいか。他の内閣総理大臣らは正二位に並んでおり(注:宮澤喜一は大勲位も位階も辞退している),従二位に湯川・朝永・八木・長岡などの名前が見られる。松下幸之助・井深大・盛田昭夫は正三位(しょうさんみ)なのか。


[1]「中曽根首相「1億円合同葬」強行、しかも教育現場に弔意強要 菅政権は「前例踏襲」と説明するが、明らかに特別扱いが…」(リテラ,2020.10.17)
[2]内閣総理大臣の位階勲等(歴代内閣)
[3]美輪明宏 v s 中曽根康弘(堺からのアピール,2013.03.05)

2020年10月12日月曜日

ハンスト(1)

 菅野完が,菅政権による学術会議人事への介入に抗議して,10/2の午後から官邸前でハンストに入っている。前日あたりに,YoutubeのSEE IT NOW -LIVEで,この重大な事案にどうやって意思表示するかを語っていた。大袈裟太郎が,そのスタート時の様子を「菅野完ハンスト、密着ドキュメント」でライブ中継している。マスコミが当然のようにこれを取り上げない中,田中龍作ジャーナルが,本人にインタビューをしている。1週間目の10/9に,大竹まことゴールデンラジオ(室井佑月と青木理)が同じくオンラインインタビューを流していた。日本の大手メディアが完全に無視する中,海外メディアのARAB NEWSが "Japanese man goes on hunger strike in front of Prime Minister Suga's office" として紹介している。



P. S. 菅野完がどのような意図で抗議弾幕にエミール・ゾラの写真をいれているのかは不明(もしかしたらエミール・ゾラではないのかもしれない・・・)
P. P. S. 菅野完によれば,ドレフュス事件の故事にちなんでのゾラだとのこと。


2020年10月8日木曜日

ネイチャーの論説

 どうしてこんな世界になってしまったのか。

10月6日号のネイチャーが,"Why Nature needs to cover politics now more than ever" という論説を掲載した。政治が科学を蹂躙している例として,アメリカのトランプ大統領,ブラジルのボルソナール大統領,インドのモディ首相にならんで,日本の菅首相の学術会議の問題も取り上げられている。

その結論を引用すると次のようになる。

国が学術の独立性を尊重するという原則は、現代の研究を支える基盤の一つであり、この原則が侵食されると、研究と政策立案における質の基準と完全性に重大なリスクが生じる。政治家がこの誓約を破れば、人々の健康、環境、社会を危険にさらすことになります。

これが、ネイチャーのニュース特派員が、世界中の政治と研究で何が起こっているのかを見て報告するための努力を倍増させる理由です。それは、私たちの専門家の解説の著者が開発を評価し、批判し続ける理由です。

そして、本誌の編集ページでは、政治家に対して、学習と協力の精神を受け入れ、異なる視点を大切にし、科学的・学術的自治へのコミットメントを尊重するよう、引き続き呼びかけていきます。

科学と政治の関係を導いてきた慣習が脅かされており、ネイチャーは黙って見ているわけにはいきません。

ネイチャー 586, 169-170 (2020)

そして,Scienceにもとりあげられた。"Japan's new prime minister picks fight with Science Council By Dennis Normile Oct. 5, 2020" 

2020年10月3日土曜日

学術会議(1)

85万人の日本の研究者から選ばれる日本学術会議の210名の会員は,6年の任期で3年ごとに半数改選される。第25期がこの10月1日から始まったが,菅内閣は日本学術会議から推薦された105名のうち6名の任命を拒否した。これまでは,学問の自由を踏まえるという政府の国会答弁に基づき,学術会議から推薦された会員をそのまま内閣総理大臣が任命してきた。菅内閣はこの慣行を破ったうえに,その説明をまったく放棄している。

 「日本学術会議法」では,学術会議の目的や職務が以下のように規定されている。

日本学術会議法(前文があることに注意)
 日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、 わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与する ことを使命とし、ここに設立される。

第一章 設立及び目的
第一条 この法律により日本学術会議を設立し、この法律を日本学術会議法と称する。
2 日本学術会議は、内閣総理大臣の所轄とする。
3 日本学術会議に関する経費は、国庫の負担とする。
第二条 日本学術会議は、わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的とする。

第二章 職務及び権限
第三条 日本学術会議は、独立して左の職務を行う。
一 科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。
二 科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。
第四条 政府は、左の事項について、日本学術会議に諮問することができる。
一 科学に関する研究、試験等の助成、その他科学の振興を図るために政府の支出する交付
金、補助金等の予算及びその配分
二 政府所管の研究所、試験所及び委託研究費等に関する予算編成の方針
三 特に専門科学者の検討を要する重要施策
四 その他日本学術会議に諮問することを適当と認める事項
第五条 日本学術会議は、左の事項について、政府に勧告することができる。
一 科学の振興及び技術の発達に関する方策
二 科学に関する研究成果の活用に関する方策
三 科学研究者の養成に関する方策
四 科学を行政に反映させる方策
五 科学を産業及び国民生活に浸透させる方策
六 その他日本学術会議の目的の遂行に適当な事項
第六条 政府は、日本学術会議の求に応じて、資料の提出、意見の開陳又は説明をすることが できる。
第六条の二 日本学術会議は、第三条第二号の職務を達成するため、学術に関する国際団体に 加入することができる。
2 前項の規定により学術に関する国際団体に加入する場合において、政府が新たに義務を負 担することとなるときは、あらかじめ内閣総理大臣の承認を経るものとする。

参議院議員の小西洋之は,twitterで,「現時点で内閣府が認めた事実。確信犯だ」
として,以下の経緯を明らかにしている。
・H29(2017) に学術会議の軍事研究(抑制的解禁)声明
・H30(2018) に内閣府と内閣法制局で「総理が任命拒否可」の解釈を作成
・本年(2020) 8/31に105名推薦名簿を受理
・9月上旬に上記解釈を再確認
・9/16の菅政権発足後,9/24に6名除外した99名の任命起案を起草し,9/28決裁
また「仮に説明しても任命拒否は違法であり,許されない。なぜなら,日本学術会議法において,総理には推薦に対して形式的任命権しかなく実質的任命権がないからである」としている。

6名が任命されないことが新しい委員の任期がはじまる10/1の2日前に,学術会議側に伝えられたようだが,その結果,時間の猶予もなくこの事態を招くことになった。 

追伸:毎日新聞によれば,2016年の第23期の補充人事(定年70歳によるもの)の際にも「学術会議が候補として挙げ,複数人が首相官邸側から事実上拒否された」とのこと(官邸周辺に生息している日本会議人脈の影響が強く疑われる)。|

[1]国立アカデミー
[2]日本学術会議
[3]日本学術会議の設立と組織の変遷

2020年9月10日木曜日

首相動静(3)

 さっそくできあがったperl scriptで2020年1-8月,2019年,2018年,2017年と44ヶ月分の首相動静を収集してみた。ところが,2016年は空だった。そうか,時事通信は2017年度以降からしかアーカイブされていないのか。首相動静をインターネットで検索してみたところ,大手各紙に対応するものがある。2016年をキーワードに含めるとかろうじて朝日新聞のそれが一部ひっかかったがURLのエンコード方法が不明。毎日新聞の「首相日々」と読売新聞の「安倍首相の一日」は有料記事の中に埋もれてしまっている。また,日本経済新聞の「首相官邸デジタル」が「写真で見る永田町」に変わって情報量が激減。産経新聞の「安倍日誌」は,URL形式が一定ではない。なかなか難儀な話ではある。