〇予測困難な時代の象徴としての新型コロナウイルス感染症拡大による影響とロシアのウクライナ侵略による国際情勢の不安定化,浮き彫りになった課題と学校・教育の役割,学びの変容〇誰一人取り残さず,すべての人の可能性を引き出すための教育の実現に向けて,個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実,学習者(学修者)主体の学び等の充実を図り,日本型ウェルビーイングの概念整理を踏まえた上で,多様な個人のウェルビーイングの実現を目指す。また,共生社会の実現・地域コミュニティの再構築に向けて,個人と社会のウェルビーイングの実現をつなぐ学校や社会教育施設の役割・機能を重視する。〇少子化・人口減少の中で、持続可能な社会の発展を生み出していく人材を育むため,主体的に社会の形成に参画し,生涯にわたって学び続ける学習者としての基盤を学校教育において培うとともに,社会や時代の変化に応じて課題を発見・解 決するための学びをいつでも受けられる教育・社会環境を整備する。〇コロナ禍を契機としてデジタルが飛躍的に社会に浸透。将来の社会基盤に変化を もたらすデジタルトランスフォーメーションを教育・学習全体の中に組み込む。〇これらを通じた価値創造により,人間中心社会としての Society 5.0 の実現を目指す。
芥川龍之介が「蜘蛛の糸」を発表して百年。高二の秋の文化祭,クラスの仮装行列のテーマが 蜘蛛の糸だった。お釈迦様の極楽タワーの竹を近所から切り出し,地獄の焔と煙の絵を描いた。犍陀多に続いて蜘蛛の糸(登山部の赤いザイル)に群がる地獄の亡者だったころ。
2022年9月20日火曜日
ウェルビーイング
2022年9月19日月曜日
ホモキラリティ(1)
理学部の4回生の研究室配属で原子核の森田研を選んだのは,そのころパリティ非保存や時間反転非保存などの不思議さに興味を引かれたのと,素粒子の内山研は本格的すぎて難しそうだったというあたりだ。 原子核物理という観点で見ると,核構造や核反応の主流とはほど遠い原子核の弱い相互作用という辺境分野だったので,後々苦労したのかもしれない。
森田先生は,研究室の冷蔵庫に粘菌を飼っていた。一度チラッとみたことがあるが,ビーカーかシャーレに黄色い塊のようなものが入っていた記憶がかすかにある。タンパク質を形成するアミノ酸はほとんどすべて左旋性を持っているが,その原因として生命進化の生合成過程に光の円偏光による反応非対称性が影響しているという説がある。原子核のベータ崩壊におけるパリティ非保存に由来した電子の偏極が,円偏光の代わりの役割を果たすという話があったらしい。まあ,詳細は別にして,弱い相互作用のパリティ非保存が生命のキラリティと関係しているのではないかという問題意識だ。
そこで,なぜ粘菌を飼っているのかという説明なのだけれど,森田先生から聞いたような気もするが,右耳から左耳に話が素通りしてしまって記憶に残っていない。良く考えるとわからない話だ。粘菌の何を観察すればどんな結論が出るのだろうか。
夜,放送大学の特番をみていたら,東京理科大学の硤合憲三先生が発見した不斉自己触媒反応とホモキラリティの話をやっていた。1995年に発見された反応はある種の鉛の有機化合物を対象としたものだが,100万分の1以下の差しかない鏡像異性体の混合物から,不斉自己触媒反応を数ステップ繰り返すだけで一方の側が99.5%含まれる状態にまで到達することができるというものだ。
この反応が生命タンパク質アミノ酸の不斉合成の話に直接繋がるかどうかはわからないものの,このようは化学反応過程が存在することを最初に発見したことの意義は大きい。
なお,ホモキラリティとは,キラル分子(鏡像異性体が存在する分子)においてエナンチオマー(片側の鏡像異性体)だけが存在していることを表わす。地球上の生命のタンパク質を構成するアミノ酸においてはL体のみが,糖質ではD体のみが存在している。
ここから粘菌の話を思い出したのだった。
2022年9月18日日曜日
大気の偏光
アミノ酸の旋光性の話を考えていたとき,太陽光の大気による偏光の原因がなぜかという疑問が派生した。ミツバチが散乱光の偏光から太陽の方向を割り出して帰巣するという話を聞いたことがあったのを思い出したからだ。
これは空気分子によるレイリー散乱が,電気双極子散乱だとすれば簡単に理解できるようだ。太陽から地球に届く光は偏っていないが,太陽方向に対して90度の方向にある大気から散乱されて自分の届く光があったとする。この横方向からの光は散乱体である分子の電気双極子散乱によるものだとする。その強度は,太陽光で誘導される電気双極子の方向から測った角度(0〜π)の正弦の二乗に比例する。このため,横方向からの光では,進行方向QPに垂直な縦偏光成分(散乱前の縦偏光)だけが寄与し,QP方向に振動する電気双極子からの偏光成分(散乱前の横偏光)は寄与しないことになる。
簡単な説明図を描いてみようとしたところ,途中で挫折しかかった。どうもTikZの使い方が十分に会得できていないことに問題がある。戒めのために晒しておこう。ああ,なんと美しくないコードなのだろう。プログラミング教育が必要なわけだ…orz(\tikzmathのところでで追加の変数を定義しただけでエラーがでるという隘路に嵌まってしまった。わかったら教えてください>未来の自分へ)
\begin{tikzpicture}
%\tikzstyle{every node}=[font = \large];
\filldraw (0,0) circle(1pt) node[below right]{O};
\filldraw (8,8) circle(1pt) node[below right]{P};
\filldraw (12,4) circle(1pt) node[below right]{Q};
\draw[step=1.0, dotted] (-2,-4) grid (14,10);
\draw[cyan](-2,0)--(14,0);
\draw[cyan](0,-4)--(0,10);
\draw[cyan](-1,-1)--(10,10);
\draw[cyan](4,-4)--(12,4);
\draw[cyan](12,4)--(8,8);
%\draw (0,0) arc (180:0:1.4cm and 2cm);
\foreach \t in {1,...,19}
{
\tikzmath{
\x = 0.1*\t;
\y1 = \x; \y2 = \x + 1.5*sin(\x*90);
\z1 = \x; \z2 = \x - 1.5*sin(\x*90);
}
\draw[thick, blue] (\x,\y1)--(\x,\y2);
\draw[thick, red] (\y1,\x)--(\y2,\x);
\draw[thick, blue!30!white] (\x+2,\z1+2)--(\x+2,\z2+2);
\draw[thick, red!30!white] (\z1+2,\x+2)--(\z2+2,\x+2);
\draw[thick, blue] (\x+4,\y1+4)--(\x+4,\y2+4);
\draw[thick, red] (\y1+4,\x+4)--(\y2+4,\x+4);
\draw[thick, blue!30!white] (\x+6,\z1+6)--(\x+6,\z2+6);
\draw[thick, red!30!white] (\z1+6,\x+6)--(\z2+6,\x+6);
\draw[thick, blue] (\x+4,\y1-4)--(\x+4,\y2-4);
\draw[thick, red] (\y1+4,\x-4)--(\y2+4,\x-4);
\draw[thick, blue!30!white] (\x+6,\z1-2)--(\x+6,\z2-2);
\draw[thick, red!30!white] (\z1+6,\x-2)--(\z2+6,\x-2);
\draw[thick, blue] (\x+8,\y1)--(\x+8,\y2);
\draw[thick, red] (\y1+8,\x)--(\y2+8,\x);
\draw[thick, blue!30!white] (\x+10,\z1+2)--(\x+10,\z2+2);
\draw[thick, red!30!white] (\z1+10,\x+2)--(\z2+10,\x+2);
\draw[thick, blue!30!white] (\x+8,-\x+8)--(\x+8,-2*\x+\z2+8);
\draw[thick, blue] (\x+10,-\x+6)--(\x+10,-2*\x+\y2+6);
}
\end{tikzpicture}
2022年9月17日土曜日
三次元極座標のラプラシアン
2022年9月16日金曜日
ファクターX
2年半前の2020年春,新型コロナ ウイルス感染症の蔓延が始まったころ,欧米諸国に比べて日本の感染者数や死亡数は圧倒的に少なかった。その原因は何かということで,あれやこれやの説があったが決定的な証拠がなくて,当初はファクターX(あるいはなぞなぞ効果 by コロラド先生)とよばれていた。
その後,優等生だったニュージーランドや韓国や台湾でも感染が急拡大してしまい,日本を含む東アジア太平洋地域の特殊性というのは,いつのまにか話題にならなくなった。
2022年夏の第7波のピークを過ぎた頃から,感染者数が過去に比べてかなり大きいにも関わらず,重症化率や致命率がそれほどでもないという理由で,様々な規制が緩和されようとしている。WHOも,コロナの終わりが視野に入ってきたと口走るようになった。
データアナリスト(マーケティングリサーチャー)の萩原雅之さんが,Our World in Dataから,日本の人口当たりの新規感染者数を世界と比較していたので,死亡数や致命率もあわせて確かめてみることにする。やはり,第6波以降の報告値は大きく変わってしまった。なんでだろう。
第1波から第4波の致命率は2〜5%もあって,行動制限も当然という状況だった。第5波には1%前後まで収まり,第6,7波にかけては0.1%のオーダーまで下がっている(たぶんそれでもインフルエンザよりは高い)。これがこのまま続くのかどうかは変異株の性質次第かもしれない。
2022年9月15日木曜日
学制百五十年
内田洋行の大久保さんが,9月5日の学制150年の式典に出席されたことをFaceBookに書いていた。この式典は地味なものだったのであまり大きなニュースにはならなかった。たぶん,みんな日本の教育の歴史的意義には関心がないのだろう。金儲けの道具として以外の側面には。
学制百五十周年記念式典次第国歌演奏開式の辞 文部科学副大臣 簗 和生式 辞 文部科学大臣 永岡 桂子教育者表彰 文部科学大臣表彰状授与(被表彰者 百五十五名)被表彰者代表 石崎 規生天皇陛下おことば祝 辞 内閣総理大臣 岸田 文雄衆議院議長 細田 博之参議院議長 尾辻 秀久最高裁判所長官 戸倉 三郎閉式の辞 文部科学副大臣 簗 和生
[1]「学制150年記念シンポジウム・記念展示」の開催について(文部科学省,9/4/2022)
[2]学制150年 −学校がはじまる−(国立国会図書館)
[3]我が国の学校制度の歴史(国立教育政策研究所)
[4]学制百五十年史(文部科学省)
[5]学制百二十年史(文部科学省)
2022年9月14日水曜日
COCOAの行方
COCOAログチェッカーからの続き
河野太郎デジタル大臣は,9月13日の記者会見で,厚生労働省が開発した新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)が近々サービス停止になると表明した。
自分がCOCOAをインストールして800日余り経過した。幸いなことにこれまで接触の報告はなかった。COCOAは当初から,そしてその途中でも散々ケチがついてしまったボロボロのシステムだった。4000万件ダウンロードされ,それなりの役目は果たす可能性はあったかもしれないが,本当に意味があったかどうかは検証されていない。
それにしても,せっかく開発した貴重なシステムをすべて水に流してしまうのか。確かに,コロナウイルス感染者の全数把握をやめた段階でMy HER-SYSが使えなくなるのであれば,連動してCOCOAからの陽性登録ができなくなるというロジックはわからなくもない。しかしながら,一端でき上がったシステムを簡単にチャラにしてしまうということに何の躊躇もないことに吃驚する。京大OCWの件と同じマインドがトップに染みついているわけだ。
デジタル庁がその管轄下に置きたがっているこの国のデータベースや情報システムの多くが利権を駆動力として立ち上がり,中抜きを重ねて一定の利益が回収できれば,伊勢神宮の式年遷宮のごとく新しく立て替えることに向かっていく。これが我が国のDXの本質のように見えてしまう自分の心は黒く染まっているのでしょうか。
P. S. なんで厚生労働省のシステムの話に,河野太郎が真っ先に口を突っ込んでいるの?
2022年9月13日火曜日
迷路
Togetterで,数学好きによる迷路の解法が紹介されていた。
(1) 迷路の道の部分をゴムで作って入口と出口を引っ張ると解が直線として現れる。
(2) 代数的方法(固有値を計算して)・・・ちょっとわかりませんでした・・・
(3) 画像編集ツールのバケツで色分けして2色の領域の間を進む。
(4) 行き止まりを順次塞いでいけば正解だけ残る(最優秀賞)。
升目データが与えられていれば(4)の計算が一番正統的だけれど,画像データだけしかない場合は(3) が最も強力だ。入口若しくは出口の両脇の壁を別の色のバケツでタッチすればよいだけ。場合によっては,中に島ができてうまくいかないことがあるかもしれない。
2022年9月12日月曜日
謹啓−?
各種世論調査の平均で反対が賛成を15ポイントあまり上回っているところに持ってきて,エリザベス女王の本物の国葬が8日前にブッキングされてしまったインケツな(by 菅野完)安倍晋三の国葬儀の参加者の方はなかなかうまらなくて,内閣府はあわててあちこちに岸田文雄名義の案内状を速達で締切日の上に手書き修正シールを貼って追加発送しているらしい。
国葬,速達で検索したら出てくるTwitterで話題の文面は「謹 啓/ 故 安 倍 晋 三 国葬儀を左記により挙行いたし/ ますので御案内申し上げます/ 敬 具」というものだった。日時は令和四年九月二十七日(火)午後二時,場所は日本武道館,差出人名義は故 安 倍 晋 三 国葬儀委員長/内閣総理大臣 岸 田 文 雄,となっている。
話題の焦点は,書簡の挨拶の頭語(謹啓)と結語(敬具)の対応関係はこれでよかったのかというものだ。前略−草々,拝啓−敬具,謹啓−謹白 が普通なのではないかと喧しい。念のために調べてみると,(1) 公用文作成の要領には見当たらない。(2) 日本郵便だとどちらでもよいようだ。(3) 佐伯市の公文書作成の手引きでは,前略・冠省−早々・草々・不一,拝啓−敬具・敬白,謹啓・恭啓−謹言・謹白,となっていた。
実際の用例を,googleで数えてみると次のようなことなので,慣例的にもあながち間違いとはいえなかった。
前略 草々 +site:go.jp +filetype:pdf 320 hits
拝啓 敬具 +site:go.jp +filetype:pdf 3740 hits
謹啓 謹白 +site:go.jp +filetype:pdf 1270 hits
謹啓 敬具 +site:go.jp +filetype:pdf 362 hits
謹啓 敬白 +site:go.jp +filetype:pdf 247 hits
謹啓 謹言 +site:go.jp +filetype:pdf 39 hits
2022年9月11日日曜日
Modern Quantum Mechanics
東北大学の堀田昌寛さんと玉川大学の中平健治さんの論争が迷走していた。
堀田さんの教科書「入門 現代の量子力学」は最近人気の1冊だ。その第2章は二準位系の量子力学,第3章は多準位系の量子力学となっていて,最小限の物理的な実験事実から,量子力学の基礎的な原理を導いて,量子情報・量子測定まで至るというものだ。
これまでの量子力学のような特殊関数にがんじがらめになっているところはばっさり削っていて,情報科学の学生等をも視野に入れた非常にモダンで野心的な内容だ。まあ,自分にとっては,岩波書店の砂川重信先生(1925-1998)の量子力学の展開のほうが正典的でカッコよくみえるのだけれど。
中平さんは,堀田さんが説明している前提だけを使った場合,二準位系の量子力学の原理から多準位系の原理を導くことは数学的にはできていないということを主張した。一方,堀田さんは,教科書の補足文書を公開して前提を説明しており,物理的に検証な可能な前提条件の組み合わせで,二準位系の量子力学の原理が三準位系の量子力学でも成立することを証明できているのだとした。
たぶん,数学者と物理学者の証明という言葉の使い方と(公理からの演繹なのか,実験的に検証できる推論ならば証明とするのか,あたり),前提条件の理解に齟齬があるような気がするけれど,まあ相変わらずのよくあるやぎさん郵便コミュニケーションの一例かもしれない。
さて,それはどちらの言い分が正しいのかよくわからないが,堀田さんの教科書ではシュテルン=ゲルラッハの実験が二準位系の量子力学構築の出発点とされている。これは,桜井純(J. J. Sakurai)(1933-1982)が残した,Modern Quantum Mechanics(Adison-Wesley 1985)で展開された方法を踏襲したものだ。
大学院生のころ,桜井の Advanced Quantum Mechanics は,西島和彦(1926-2008)のFields and Particles と並んで精読した1冊だった。一方,大坪先生がすごくいいと褒めていたModern Quantum Mechanicsの方はとうとう読まずじまいに終った。ちゃんと勉強しておけば良かった。
堀田さんの教科書を眺めていると,桜井にはどう書いてあったのか気になって本棚から引っ張り出してきた。第1章の12行目でいきなりつまづいた。Davisson-Germer-Thompson experiment とあるのだ。あれ?電子線回折ならば,J. J. Thomsonの息子の G. P. Thomson (1892-1975)がここにくるのではないか。あちこち調べたけれど,Typoのような気がする。ところが,Modern Quantum Mechanicsの第三版でも直っていないのだ。うーん・・・。
2022年9月10日土曜日
未来人災ビジョン
デジタル社会の実現に向けた重点計画からの続き
経済産業省が今年5月にまとめたのが,未来人材ビジョンだ。ブログのタイトルは,指が勝手に人災に変換してしまったものだけれど,訂正するに忍びない。
このレポートは「DXと脱炭素」の両キーワードを前提に,AIの浸透による労働市場の両極化が進み,外国人労働者にも選ばれない国になっているという認識に立っている。そこで企業ができることは何かという問題設定をしながら,企業ができることというより,社会システム特に教育システムをぶっ壊せというNHK党的なメッセージを送るものだった。
日本の経済が凋落化をはじめたのは1990年代,経済産業省(METI)がまだ通商産業省(MITI)を名乗っていた時代からだ。経済再生政策の決定打に欠ける経済官僚たちは,100校プロジェクトを嚆矢として,硬直的な日本の教育システムに手を突っ込みたくてうずうずしていた。その気持ちはよくわかる。
この未来人材ビジョンでも,あいかわらず企業がまっとうな人材育成システムや多様性を持つ雇用システムを持たないことをこれでもかとデータで示しつつ,その課題を日本の教育システムに責任転嫁しようとしている。いや,世襲が続く日本の社会システムの硬直性が問題であるのはそのとおりなので,だから新自由主義右翼利権移転集団の日本維新の会がこれだけの隆盛を保っていられるわけだ。
その社会の硬直性に穴をあけて,一瞬光が差し込んだのが,20世紀から21世紀にかけてのインターネット革命だった。しかし,社会的な同調圧力が強すぎる日本では,これが逆に作用した。フロムの自由からの逃走というキーワードを情報選択困難症候群と組み合わせて使いたくなる。参議院選挙の結果も推して知るべしだった。
2022年9月9日金曜日
デジタル社会の実現に向けた重点計画
教育データ利活用ロードマップからの続き
2022年6月7日,デジタル社会形成基本法(2021-)の第37条1項にもとづいたデジタル社会の形成に関する重点計画が,政府(デジタル庁)から「デジタル社会の実現に向けた重点計画」として国会に報告された。なんで日付は入っているのに作成主体名が書いてないのだろう。もうそれだけで,アウトのような気がする。
さて,この中には教育についての記述が4ページ弱にわたってまとめてあるので,これまでのややこしい話を概観するには都合がよい。最初に気になったのが教育を準公共分野と位置づけているところだ。おかしくないか。
現在の日本政府の見解では,政府の役割が大きな,安全保障と治安維持は公共分野であり,防災−健康・医療・介護−教育−こども−インフラ−港湾(港湾物流)−モビリティ−農林水産業−食関連産業がこの濃淡で準公共分野と位置づけられている。その定義は,国・独立行政法人,地方公共団体,民間事業者等といったさまざまな主体がサービス提供にかかわっている分野とのこと。
とにかく,公共の概念をできるだけ小さくしてしまいたいらしい。昔,高橋邦夫さんが私学も公教育を担っているのだと強調していたけれど,政府が見ているのは学校以外の教育サービスなのだろうか。それならばわざわざ重点計画に取り上げる必要はない。学校へ導入されるEdTech提供企業のことなのだろうか。それもおかしな話だ。防衛整備品を納入しているのも民間企業なのだから。
次に気になったのは,経済産業省のSTEAMライブラリー。 「SDGs の社会課題などを入口に探究的・教科横断的な学びを始めるきっかけになる,63 テーマの「動画・資料コンテンツ群」を作成し、無料で公開しているもの」らしいが,理科ねっとわーくの反省は生きているのだろうか。大金をばらまいて作成した理科デジタル教材の多くが,FLASHの滅亡とともにアクセスすらできなくなっており,鬼怒川温泉の廃虚群のような様相を呈していた。
2022年9月8日木曜日
教育データ利活用ロードマップ
2022年1月に,デジタル庁,総務省,文部科学省,経済産業省によって,教育データ利活用ロードマップがつくられた。公表時に炎上したらしく(もう忘れている),中室牧子が弁明していた。
あらためてロードマップを眺めてみると,どうもすっきりしないのだった。理念が明確でないままに,細かなことを書き込みすぎていてちょっと食傷気味となる。さらに,この大きな利権めがけて,総務省や経済産業省まで手を突っ込んできているので,これが混乱に更に拍車がかかる。
わかりやすかったのは,ロードマップの2022年迄の短期目標の部分だ。
・教育現場を対象にした調査や手続が原則オンライン化・事務等の原則デジタル化など,校務のデジタル化を進め,学校の負担を軽減
・インフラ面での阻害要因(例:ネットワーク環境)の解消
・教育データの基本項目(全国共通の主体情報)が標準化
2022年9月7日水曜日
教育ダッシュボード
教育データ標準からの続き
豊福晋平さんが,ダッシュボードという言葉をちらっと口走っていた。何のことかと調べてみた。
ダッシュボードとは,自動車は飛行機の計器盤のことであり,システムの刻々と変化する状態を一目で把握できるもののことだ。これをメタファーとしたビジネス管理ツールが登場して進化していくことになる。
それをさらに学校教育の分野に転用したものが,教育ダッシュボードである。以前は学習カルテや学習ポートフォリオというコンセプトで,個人ごとの学習記録をデジタル化して集約しよう流れがあった。
実のところ,大阪教育大学に導入された電子ポートフォリオは,学生の学びの様子を把握して指導することにはほとんど役立たなかった。それは,大学評価のための実績(エビデンス)を作文するというその一点だけで価値がある取り組みだった。いまはどうか知りませんが。
そのダッシュボードの活用例を探していて,真っ先に飛び込んで来たのが大阪市の取り組みだ。大阪市における次世代学校 支援事業の中心にあるのがダッシュボードで,校務系データと学習系データを組み合わせて分析した結果を一画面に可視化するというものだ。説明は,生活指導系の事例に重きが置かれていた。
それを真似たのが,東京都だ。東京都教育委員会と慶應義塾大学SFC研究所との教育ダッシュボード開発に伴う共同研究に関する協定が締結されている。これに関する情報が請求によって公開されていた。あらら,中室牧子じゃないか。非認知情報アンケートとあれやこれやを結びつけようとしていた。
共通するのは,成績などの定量化が可能な従来型の情報ではなく,生活態度や非学習行動など把握しにくい部分を可視化しようというものだ。まあ,保健室を訪れた回数はわかるわね。
2022年9月6日火曜日
学習eポータル
教育データ標準からの続き
教育データの標準化の具体的な活用イメージとして,文部科学省CBTシステム(MEXCBT: Computer Based Testing)を含む学習eポータル があげられている。
MEXCBTは,児童生徒がコンピュータからオンラインで問題演習ができるシステムだ。家庭からも学校からも使え,選択問題や短答式問題は自動採点される。システムの開発は文部科学省が事業者連合コンソーシアムに委託していてすでにプロトタイプが稼働している。
MEXCBT用の問題は,国や地方自治体などの公的機関が作成したものを使う。教師が指定した問題を児童生徒が解いて,その結果は自分と教師が確認できて,フィードバックする。子どもが自分で勝手に問題を選んで自由に学びを進めていくようにはできていないのかもしれない。
さて,その学習eポータルだ。日本の初等中等教育に適した共通の学習管理機能を備えたソフトウェアシステムであり,(1) 学習(学習リソース)の窓口機能,(2) 連携のハブ機能(シングルサインオン),(3) MEXCBTへのアクセス機能,の3つの機能を果たすことになる。
いまは亡きインターネットと教育(1996-2002)や教育情報ナショナルセンター(NICER: 2001-2011)の考え方をリニューアルして再現したものだ。前者は自分の個人的な取り組みを越えられなかったので仕方がないが,文部科学省が国立教育政策研究所を使って鳴り物入りで立ち上げた教育情報ナショナルセンターがあっという間につぶれてしまったのは残念だった(再立ち上げも失敗)。
そのデータは,GENES 全国学習情報データベース(学習ソフトウェア情報研究センター)と教育の情報化支援サイトNICER-DB(パナソニック教育財団検索システム研究会)に引き継がれることになっていたが,前者は廃虚と化し,後者に至ってはドメインがマイナー業者に乗っ取られてしまった。
さて,この度の学習eポータルはその轍を踏まずに離陸することができるのだろうか。昔,芳賀さんといっしょに活動していた内田洋行の伊藤博康さんがリーダーとなって,一般社団法人ICT CONNECT 21の学習eポータルSWGが取り組んでいるので,まあ前回よりはましなのかもしれない。
学習 e ポータルの仕様は、検討と実 証を繰り返しながら、学習 e ポータル標準モデルとしてまとめられる。MEXCBT は国が開発、 運営を担うのに対し、学習 e ポータルは複数の民間企業が標準モデルに基づいて開発、提供し、小中高校などの教育機関がその中から選択して利用することを想定している。
なるほど,そういうことか。さらに,MEXCBTとの連携は必須要件だが,デジタル教科書やデジタル教材との連携は推奨となっている。しかしながら,LRS(Learning Record Store)学習履歴は必須とされているのだった。各社が開発して提供する学習eポータルはなんらかの形で認証されることになるのだろうか?
中央集権的なデータセンターモデルから,複数のポータルが統一規格のもとに連携するモデルに進化しているが,それでも話は面倒にみえる。やはり,パーソナルAIアシスタントを子ども・保護者・教師一人一人が所有して,必要な情報や協働はこのAIアシスタントが探し出して持ってくれるというシステムを目指したほうがいいのかもしれない。GIGAの次のステージだ。
[1]学習eポータル標準モデル(2022.2.22,Ver. 2.00,ICT CONNECT 21 学習 e ポータル サブワーキンググループ)[2]文部科学省CBTシステム運用支援サイト(文部科学省)
[3]子どもの学び応援サイト−学習支援コンテンツポータルサイト(文部科学省)
[4]STEAM ライブラリー(経済産業省・未来の教室プロジェクト)
[5]EdTEchライブラリー(経済産業省・未来の教室プロジェクト)
2022年9月5日月曜日
教育データ標準
GIGAスクール構想からの続き
まず復習。GIGAスクール構想とは,2019年から文部科学省が取り組んでいる施策である。GIGAはGlobal and Innovation Gateway for All の略であり,全国の児童・生徒に一人一台のコンピュータと高速ネットワークを整備しようというものである。2021年3月には,全自治体の96%以上で整備が終っており,いちおう小中学生一人一台という目的が完了したということらしい。
高等学校については,2022年度中に1学年は100%,2024年度までに高校生一人一台を実現する目標となっていて,すでに半数の府県では100%が達成されている。まあ,小中学校も含めてそれらがうまく機能しているかどうかはまた別の話。
これは25年前の100校プロジェクトを嚆矢とした学校へのインターネット導入の動きに匹敵する大きな変化には違いない。ようやくあのころの理想が具体化できる条件が整いつつあるということか。
ところで,この構想を支えるために,教育データの標準化が取り上げられている。教育データを,(1) 主体情報(児童生徒・教職員・学校の各属性等の基本情報),(2) 内容情報(学習内容の情報),(3) 活動情報(生活活動,学習活動,指導活動などの情報)に区分する。これらをすべて網羅的に扱うわけでなく,データの相互運用性を図るという観点で全国的に統一が必要なものに限り,その使用を強制せず,政策的に誘導するというものだ。
教育データ標準として,すでに次のようなものが定められている。学校コード,教育委員会コード,学習指導要領コード。学校は,位置情報(緯度・経度・標高)や時間情報(開設年月,統合年月,廃止年月)がほしいところだ。教育委員会には事務局の住所・連絡先すらない。学習指導要領コードは,NDCとの対応があれば・・・というか,知識を網羅的にコード化することはそもそも可能なのだろうか。普遍性に欠ける学習指導要領の文章を切り出してコード化するというのはどうにも気持ちが悪い話である。
[1]StuDX Style(文部科学省)GIGAスクール構想の実践事例
2022年9月4日日曜日
Stable Diffusion
画像生成AI(4)からの続き
画像生成AIで,いま一番ホットな Stable Diffusionの特徴は,オープンソースであり,誰でもが自分のローカル環境にこのAIアプリケーションを導入できるというところだ。ローカル環境構築
% git clone -b apple-silicon-mps-support https://github.com/bfirsh/stable-diffusion.git
% cd stable-diffusion
stable-diffusion % mkdir -p models/ldm/stable-diffusion-v1/
stable-diffusion % python3 -m pip install virtualenv
stable-diffusion % python3 -m virtualenv venv
stable-diffusion % source venv/bin/activate
(venv) stable-diffusion % pip install -r requirements.txt
モデルの取得
https://huggingface.co/CompVis/stable-diffusion-v-1-4-original
% mv /Downloads/sd-v1-4.ckpt stable-diffusion/models/ldm/stable-diffusion-v1/model.ckpt
見本の出力
(venv) stable-diffusion % python scripts/txt2img.py --prompt "a red juicy apple floating in outer space, like a planet" --n_samples 1 --n_iter 1 --plms(venv) stable-diffusion % mv outputs/txt2img-samples/grid-0000.png ~/Desktop/grid-0009.png
安全装置の場所
(venv) stable_diffusion % pwd
stable-diffusion/venv/lib/python3.10/site-packages/diffusers/pipelines/stable_diffusion
(venv) stable_diffusion % vi safety_checker.py
2022年9月3日土曜日
UML
中学生もUML(Unified Modeling Language,統一モデリング言語)を学ぶ時代だというのであわてて追いかけてみる。なんだか統一ばやりの今日この頃。
UMLは,1997年ごろからOMGによって管理されるようになったモデリング言語である。プログラミングの手前で,問題とする対象や過程の構造や処理フローなどを整理して可視化する機能を持っている。何種類かのダイアグラムに分類されているが,そのうちのアクティビティ図が従来のフローチャートに概ね対応する。
いろいろツールはあるようだが,PlantUMLというテキストベースでダイアグラムを作成するツールが便利そうだ。brew install graphviz と brew install plantuml で必要なソフトをインストールする。hoge.umlというUMLファイルをつくって。plantuml hoge.uml とすれば hoge.png というUML図が得られる。よくある見本は次のようなものだ。
最近のバージョンでは,モノトーン表示になっているが,skin rose とすると以前のカラリングで表示することができる。 この図を出力するためのumlファイルは次のようなものだ。
@startuml[1]PlantUML概要
skin rose
title PC入出力シーケンス
header テストシーケンス
footer ページ %page% / %lastpage%
actor ユーザ
box PC
participant USB
participant CPU
participant ディスプレイアダプタ
end box
alt キーボード
ユーザ -> USB : キー入力
else マウス
ユーザ -> USB : マウス入力
end
USB -> CPU : 入力データ
activate CPU
note over CPU : 処理中
CPU -> ディスプレイアダプタ : 表示データ
deactivate CPU
participant ディスプレイ
ディスプレイアダプタ -> ディスプレイ : 表示データ
ディスプレイ -> ユーザ : 表示
@enduml
2022年9月2日金曜日
プログラミング教育(3)
プログラミング教育(2)からの続き
情報Ⅰ(3)コンピュータとプログラミングア(イ)アルゴリズムを表現する手段,プログラミングによってコンピュータや情報通信ネットワークを活用する方法について理解し技能を身に付けること。イ(イ)目的に応じたアルゴリズムを考え適切な方法で表現し,プログラミングによりコンピュータや情報通信ネットワークを活用するとともに,その過程を評価し改善すること。情報Ⅱ(4)情報システムとプログラミングア(ウ)情報システムを構成するプログラムを制作する方法について理解し技能を身に付けること。イ(ウ)情報システムを構成するプログラムを制作し,その過程を評価し改善すること。例えば,グループで掲示板システムを構成するプログラムを制作する学習を取り上げ,サーバ側のプログラムについて適切なプログラミング言語の選択,設計段階で作成した設計書に基づくプログラムの制作を扱う。その際,自分が制作したプログラムと他のメンバーが制作したプログラムの統合,テスト,デバッグ,制作の過程を含めた評価と改善について扱う。なお,プログラムを制作しやすくするために組み込み関数やあらかじめ用意した関数などを示し,これらを利用するようにすることも考えられる。
2022年9月1日木曜日
プログラミング教育(2)
プログラミング教育(1)からの続き
IT革命第1波が来ていた1998年告示の学習指導要領では,中学校の技術・家庭の技術分野の内容が,A 技術とものづくりとB 情報とコンピュータの2項目に整理された。つまり内容の50%がICTということだ。ところが,2007年告示では,揺り戻しが起こり,A 材料と加工に関する技術,B エネルギー変換に関する技術,C 生物育成に関する技術,D 情報に関する技術,になった。情報とコンピュータの内容は30%程度になってしまった。2016年告示の学習指導要領にもこれが引き継がれたままだ。
その直近の中学校技術・家庭学習指導要領の解説編をみると,プログラミングに関しては次の記述がある。とっても高度な内容になっている。
D 情報の技術
(2)生活や社会における問題を,ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによって解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
(3)生活や社会における問題を,計測・制御のプログラミングによって解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
計測・制御の方はこれまでもあったが,ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングってどうするのだろうか。しかも,次の補足説明が入っている。
なお,課題の解決策を構想する際には,自分の考えを整理し,よりよい発想を 生み出せるよう,アクティビティ図のような統一モデリング言語等を適切に用い ることについて指導する。
えーっ,中学生からUMLをやるんですか・・・もうフローチャートの時代は終ったのか。
具体的にはどんなプログラム言語で実施するのかを調べてみたら,ここにあった[1]。基本は,小学校でも使われているScratchだ。Scratch 1.4では,Meshというネットワーク上の端末間の情報交換の機能があるので,ネットワークを利用した双方向という条件を満たせる。後はよくわからないマイナーなプログラム言語や環境がわさわさと湧いていた。
[1]中学校技術・家庭科(技術分野)内容「D 情報の技術」研修用教材(文部科学省)[2]PIC GUI Programming Environment(鳴門教育大学 菊池章)
[3]Studuino(Artec)
[4]Scratch1.4(MIT,Meshが使える)
[5]ねそプロ(岩手県一関市立花泉中学校 奥田昌夫)
[6]なでしこ(kujirahand)
2022年8月31日水曜日
プログラミング教育(1)
これまでも小学校におけるプログラミング教育への違和感を述べてきた。
コンピューテーショナル・シンキング(4)特に,小学校学習指導要領の解説編にある下記の「プログラミング的思考」がどうにも気持ち悪いのだ。
また,子供たちが将来どのような職業に就くとしても時代を越えて普遍的に求められる「プログラミング的思考」(自分が意図する一連の活動を実現するために,どのような動きの組合せが必要であり,一つ一つの動きに対応した記号を,どのように組み合わせたらいいのか,記号の組合せをどのように改善していけば,より意図した活動に近づくのか,といったことを論理的に考えていく力)を育むため,小学校においては,児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動を計画的に実施することとしている。その際,小学校段階において学習活動としてプログラミングに取り組むねらいは,プログラミング言語を覚えたり,プログラミングの技能を習得したりといったことではなく,論理的思考力を育むとともに,プログラムの働きやよさ,情報社会がコンピュータをはじめとする情報技術によって支えられていることなどに気付き,身近な問題の解決に主体的に取り組む態度やコンピュータ等を上手に活用してよりよい社会を築いていこうとする態度などを育むこと,さらに,教科等で学ぶ知識及び技能等をより確実に身に付けさせることにある。
2022年8月30日火曜日
遠山プランから20年
自由民主党清和政策研究会の,森政権(2000-2001)と小泉政権(2001-2006)によって日本は転落への道をたどりはじめたといえるのかもしれない。安倍政権(2006-2007, 2012-2020)からの事態はこれにとどめを刺している。
遠山敦子は,小泉政権の文部科学大臣であり,初等中等教育ではゆとり教育からの脱却,高等教育ではいわゆる遠山プラン(2001)という新自由主義的大学改革プランを打ち出した。
そこでは,(1) 国立大学の再編・統合を大胆に進める。(2) 国立大学に民間的発想の経営手法を導入する。(3) 大学に第三者評価による競争原理を導入する。の三原則が示された。これによって,教員養成単科大学はおおいに振り回されて右往左往することになる。2004年には国立大学が法人化され,さらに混乱に拍車がかかった。現在もこの方向性での「改革」が継続強化されている。
この結果,日本の国立大学は疲弊の一途をたどることになる。その証拠の一例として学術論文のTop 10% 引用数の世界ランキングがある。文部科学省の科学技術・政策研究所(NISTEP)が最近まとめた科学技術指標2022では,日本がランキングの12位にまで落ち込んだことが示された。
2年ごとに報告されている科学研究のベンチマーキング2021では,2018年までの移動平均値が示されている。2003年以降,学術論文のTop 10% 引用数は着実に順位を下げ続け,今回さらにワンランクダウンしたということになる。
2022年8月29日月曜日
情報検索から情報生成へ
1ヶ月半前の話題だけれど,GPT-3という大規模言語モデル(Large Language Model)に対して,自分自身に関する学術論文を書くようプロンプト入力して出力された論文が,査読にかかり出版されたらしい。
GPT-3については,2年ほど前にもこのブログで GPT-3というタイトルの記事を書いた。出版された論文は,open science のHALアーカイブにある Can GPT-3 write an academic paper on itself, with minimal human input? であり,共著者のトップに,Gpt Generative Pretrained Transformer, としてAIの名前がのっている。
論文は,GPT-3が書いた部分と,青字の注釈枠内に人間の研究者が入力したプロンプト構文とコメントが付加された複合的構造になっている。GPT-3が自分自身で書いたGPT-3を対象とする論文の結論は次のようなものだ。
Conclusion
It is clear that GPT-3 has the potential to write for an academic paper about itself. However, there are some limitations to consider. First, GPT-3 may not be able to capture all of the nuances and subtleties of human language. Second, GPT-3 may not be able to generate new ideas or perspectives that humans could bring to the table. Overall, however, GPT-3 seems like a promising tool for academic writing.
これに対して,人間の共著研究者がつけた青字枠のプロンプトとパラメータとコメントがこちら。
Prompt: Write a conclusion section about letting GPT-3 write for an academic paper about itself.
Temperature: 0.77 / Maximum length 458 / Top P 0.9 / Frequency Penalty 0.95 / Presence Penalty 0.95 / Best of n=5 / Second prompt output chosen, first output similar but incomplete sentence.
As we did very little to train the model, the outcome was not, contrary to GPT-3s own assessment, well done. The article lacked depth, references and adequate self analysis. It did however demonstrate that with manipulation, training and specific prompts, one could write an adequate academic paper using only the predictive nature of GPT-3.
GPT-3(AI) は自分の書いた論文?を自画自賛しているが,共著研究者(人間)の評価によれば学生のレポートの域をでないものである。しかし,これができるということは,大学の学部教育レベルのレポートはすべてAIに代行させることが可能だ。
大学の授業で課せられるレポートを,インターネット上のテキストの切り張りで作って提出するという事例が横行しているらしい。引用ルールに則っていれば問題ないが,場合によっては丸ごとコピーして使うケースも(卒論レベルになれば代行業者という手もあるが)。
これに対抗するために多くの大学では,テキストのコピー部分を発見するツールが導入されている。大阪教育大学でも,Turnitin Feedback Studio という剽窃チェックツールがあって,何度も利用説明会が開催されている。自分は,これはそもそも出題側の問題だと思っていて,馬鹿馬鹿しいので使ったことはない。
今後,プロンプト職人の技でAI≒機械学習システムにレポート生成・下書き作成を頼むことが容易になれば,これを人間が書いたレポートと区別することは原理的に難しいような気がする。この話題をとりあげた番組 [1] では,松田卓也先生が,英語を母語としない研究者の書く英文論文のプロトタイピングには使えるかもしれないと話していた。まあそれだけならば,DeepLを使えば済むような気もする。
いずれにせよ,インターネット空間では,情報検索から情報生成へと時代の大きな変化の流れが生じているらしい [2]。
[1]GPT-3がGPT-3について論文を書いた~学術誌に投稿され現在査読中らしい(シンギュラリティサロン・オンライン)
[2]緊急対談!今AI業界に何が起きてるのか?!shi3zさんに聞いてみた! スペシャルゲスト:西川善司(shi3z & drikin のAIドリフト)
[3]MidjourneyやDreamStudioなどの画像生成AIの仕組みについて(IT navi)
[4]創るためのAI 機械と創造性のはてしない物語 (徳井直生)
2022年8月28日日曜日
画像生成AI(4)
画像生成AI(3)からの続き
最近の,画像生成AIブームについては,noteの深津貴之(fladdict)さん(世界変革の前夜は思ったより静か)や,ギリアの清水亮さん(StableDiffusionを使った新しいAI作画サービスを作りました。日本語でOK。無料です)などのIT業界の牽引者の注目を集めている。
この波がどこまで広がるかは,気になるところである。いずれにせよ,大規模言語モデルを背景としたAI系の新しい仕組みは今後されに浸透してゆくことは間違いない。これが,OSの標準機能に噛んでいけば,すべてのアプリケーションでAIの仕組みを使った機能が加わる。すなわち,新しいコンテンツの創造が,適切な対話型インターフェース(最低限のプロンプト・エンジニアリング)によって簡単に実現することになる。
(1) 祐筆:タイトルと趣旨を入れるだけで,自動的に,イラスト入りレポートやエッセイや広告コピーや文学作品を生成する機能を持つワードプロセッサ。(2) 主計:データの要件と目的を入れるだけで,必要なデータを検索して取り込み,これを分析した結果を生成する機能を持つ表計算ソフト。
(3) 算法:入力と出力の集合の定義と関係を入れるだけで,自動的に数理モデリングの手法を選択して結果を最適な表現形態で表わして説明する統合数学ソフト。(4) 藝術:着想を入力することで,器楽,声楽,効果音,絵画,写真,イラスト,マンガ,アニメ,立体,動画を自動生成する表現支援ソフト。(5) 森羅:対象(自然現象,生物,鉱物・地形,人工物・商品,建築・構築物,テキスト・画像断片,人物)を撮影すると,詳細情報を説明する検索ソフト。
(6) 執事:予約や買物や連絡を代行して調整するアシスタント。(7) 師範:自分の学びたい内容について助言するアシスタント。
2022年8月27日土曜日
画像生成AI(3)
画像生成AI(2)からの続き
シンギュラリティサロン・オンラインで,松田卓也先生が Stable Diffusion の倫理問題を取り上げていた。もとネタは,TechCrunchの "This startup is setting a DALL-E 2-like AI free, consequences be damned" である。
Latent Diffusion Modelなどを使った画像生成AIでは,素人が簡単なフレーズの組み合わせを入れるだけで,非常に高いクオリティの絵画,写真,デザインなどの画像を生成することができる。絵画から写真への変革に匹敵する革命的な事態が生じている。
DALL-E2などでは厳密なキーワード制限によって,倫理的に問題を生じるような画像の生成を抑制している。例えば,有名人の顔写真をつかったフェイク画像,戦争や動乱あるいは人種差別などを誘導するフェイク画像,ポルノグラフィなどなどである。
もちろんAI登場以前であっても,フェイク画像生成は可能だったが,それはそれなりのIT技術が必要とする。しかし,画像生成AIの登場によってその閾値は圧倒的に下がってしまった。
しかも,Stable DiffusionをサポートしているStability.AIというスタートアップは,OpenなAI技術を開放して誰でもが自由に使えるようにすることを目的としており,その一環として,Stable Diffusionもオープンソース化されて,誰でもが自由に自分のPCにインストールできる(面倒だがApple Silicon のMacBook Proでも可能らしい)。
画像生成AIが動画生成AIにまで進化した段階でさらに深刻な事態が発生しかねない。知り合いの顔写真が手に入れば簡単にフェイクポルノ動画が作れてしまうようなものだから。
2022年8月26日金曜日
画像生成AI(2)
画像生成AI(1)からの続き
YouTuberのMattVideoProによれば,現時点でも20以上の画像生成AIサービスが立ち上がっている(下記リスト参照)。たぶん今年の最も重要なトレンドの一つだ。前回は,CrAIyonを試してみた。日本では,Midjouneyが流行っている。1. Google Imagen/Parti (Unreleased) https://parti.research.google/
2. Open AI Dall-E 2 (Closed Beta) https://openai.com/dall-e-2/
3. Stable Diffusion (Free to use) https://huggingface.co/spaces/stabilityai/stable-diffusion4. Simulacrabot (Closed Alpha) https://stability.ai/simulacrabot/terms-of-use
5. Midjourney (Free Trial, paid access) https://www.midjourney.com/app/
6. Shonenkov AI (Free to Use) https://t.me/shonenkovAI (JOIN MY DISCORD FOR LINK)
7. Meta Make-A-Scene (very Closed Beta) https://about.fb.com/news/2022/07/metas-new-ai-research-8. tool-turns-ideas-into-art/
9. Microsoft VQ Diffusion (Free to use) https://replicate.com/cjwbw/vq-diffusion
10. Deep AI Text to Image (Free Access) https://deepai.org/machine-learning-model/text2img
11. MindsEye beta (by multimodal.art) (Free to use) https://colab.research.google.com/drive/1cg0LZ5OfN9LAIB37Xq49as0fSJxcKtC5
12. CrAIyon (Free to use) https://www.craiyon.com/
13. Min-dalle (Free & Paid) https://replicate.com/kuprel/min-dalle
14. Dall E Flow (Free to use) https://github.com/jina-ai/dalle-flow
15. Wombo (Free & Paid) https://app.wombo.art/
16. Laion AI Erlich (Free & Paid) https://replicate.com/laion-ai/erlich
17. Latent Diffusion (Free to use) https://huggingface.co/spaces/multimodalart/latentdiffusion
18. Glid-3-xl (Free & Paid) https://replicate.com/jack000/glid-3-xl
19. Night Cafe (Free & Paid) https://creator.nightcafe.studio/explore
20. Disco Diffusion (Free & Paid) https://colab.research.google.com/github/alembics/disco-diffusion/blob/main/Disco_Diffusion.ipynb
21. Cog View 2 (Free & Paid) https://replicate.com/thudm/cogview2
22. Pixray (Free & Paid) https://replicate.com/pixray/text2image
23.Hot Pot AI (free & Paid) https://hotpot.ai/art-maker
24. Nvidia gaugan2 (Free to Use) http://gaugan.org/gaugan2/
2022年8月25日木曜日
崩壊系列
放射性元素の崩壊系列は,質量数Aと原子番号Zを2軸とするダイヤグラムで表現されることが多い。一方,放射性元素の影響を特徴づけるのは,放出されるα線やβ線のエネルギーと,崩壊定数すなわち半減期である。
そこで,質量数Aと半減期 T (秒)の常用対数を2軸とするダイヤグラムで表わすとどうなるかを調べてみた。なお,複数の崩壊経路があるばあいは,分岐比の大きな方だけをたどっているが,半減期は両方の分岐を合わせたものを採用している。
放射性元素の崩壊系列は,質量数A=4n+mとして4系列に分類される。
青:4n+0:トリウム系列 232Th(141億年)→[α6β4]→208Pb(安定)42.6MeV
灰:4n+1:ネプツニウム系列 237Np(214万年)→[α8β4]→205Tl(安定)66.8MeV
赤:4n+2:ウラン系列 238U(45億年)→[α8β6]→206Pb(安定)51.7MeV
緑:4n+3:アクチニウム系列 235U(7億年)→[α7β4]→207Pb(安定)46.4MeV
a = 3.1557*10^7; d = 24*3600.; h = 3600.; m = 60.;
s = 1.; ms = 10^-3; us = 10^-6; ns = 10^-9;
c[0] = Blue; c[1] = Gray; c[2] = Red; c[3] = Green;
r[0] = {{232, 1.405*10^10 a}, {228 + 0.2, 5.75 a}, {228, 6.15 h},
{228 - 0.2, 1.9116 a}, {224, 3.6319 d}, {220, 55.6 s},
{216, 0.145 s}, {212 + 0.2, 10.64 h}, {212, 60.55 m},
{212 - 0.2, 299. ns}, {208, 10^20 a}};
r[1] = {{237, 2.144*10^6 a}, {233 + 0.2, 26.967 d},
{233 - 0.2, 1.592 *10^5 a}, {229, 7340 a}, {225 + 0.2, 14.9 d},
{225 - 0.2, 10.0 d}, {221, 4.9 m}, {217, 32.3 ms},
{213 + 0.2, 45.59 m}, {213 - 0.2, 3.65 us}, {209 + 0.2, 3.253 h},
{209 - 0.2, 1.9*10^19 a}, {205, 10^20 a}};
r[2] = {{238, 4.468*10^9 a}, {234 + 0.2, 24.10 d}, {234, 1.17 m},
{234 - 0.2, 2.455*10^5 a}, {230, 7.538*10^4 a}, {226, 1600 a},
{222, 3.8235 d}, {218, 3.098 m}, {214 + 0.2, 26.8 m}, {214, 19.9 m},
{214 - 0.2, 164.3 us}, {210 + 0.3, 1.3 m}, {210 + 0.15, 22.20 a},
{210 - 0.15, 5.012 d}, {210 - 0.3, 138.376 d}, {206, 10^20 a}};
r[3] = {{235, 7.038*10^8 a}, {231 + 0.2, 25.52 h},
{211 - 0.2, 2.14 m}, {207 + 0.2, 4.77 m}, {207 - 0.2, 10^20 a}};
Do[{q[i] =
g[i] = ListPlot[q[i], PlotStyle -> {PointSize[Large], c[i]}],
f[i] = ListPlot[q[i], Joined -> True, PlotStyle -> c[i]]},
{i, 0, 3}];
Show[Table[{g[i], f[i]}, {i, 0, 3}], PlotRange -> {{205, 240},
2022年8月24日水曜日
ファシズムの初期兆候
01. 強力かつ継続的なナショナリズム(Powerful and Continuing Nationalism)
02. 人権の蔑視(Disdain for Human Rights)
03. 団結させるための敵の設定(Identification of Enemies as a Unifying Cause)
04. 軍事の最優先(Supremacy of the Military)
05. はびこる性差別(Rampant Sexism)
06. 支配されたマスメディア(Controlled Mass Media)
07. 国家安全保障への執着(Obsession with National Security)
08. 宗教と政治の結合(Religion and Government Intertwined)09. 企業の力の保護(Corporate Power Protected)
10. 労働者の抑圧(Labor Power Suppressed)
11. 知性や芸術の蔑視(Disdain for Intellectuals and the Arts)
12. 刑罰強化への執着(Obsession with Crime and Punishment)
13. 身びいきや汚職の蔓延(Rampant Cronyism and Corruption)
14. 不正な選挙(Fraudulent Elections)
2022年8月23日火曜日
SIDRモデル(2)
SIDRモデル(1)からの続き
牧野さんの例では,感染期間/免疫消失期間が1/100 と小さくなる場合が示されていた。そこで,これに対応するケースの計算をしてみた。
R = 5; \[Gamma] = 13; \[Beta] = R/\[Gamma]; \[Alpha] = 130*10;基本再生産数と免疫消失期間を前回のそれぞれ2.5倍,10倍にしている。
sol = NDSolve[{
x'[t] == \[Beta] x[t] (1 - x[t] - y[t] - z[t]) - x[t]/\[Gamma],
y'[t] == 0.9987*x[t]/\[Gamma] - y[t]/\[Alpha],
z'[t] == 0.0013*x[t]/\[Gamma],
x[0] == 0.01, y[0] == 0, z[0] == 0}, {x, y, z}, {t, 0, 3000}];
fx[t_] := x[t] /. sol[[1, 1]]
fy[t_] := y[t] /. sol[[1, 2]]
fz[t_] := z[t] /. sol[[1, 3]]
Plot[fx[t], {t, 0, 3000}, PlotRange -> {0, 0.5}]
Plot[fz[t], {t, 0, 3000}, PlotRange -> {0, 0.01}]
2022年8月22日月曜日
SIDRモデル(1)
エンデミックからの続き (参考:感染症の数理シミュレーション(2))
西浦博さんが紹介している既知のSIRSモデルは,年齢構造や平均余命まで考慮した精緻なモデルだが,一般ピープルがその振る舞いを試してみるには大層なので,単純なSIDRモデルを考えてみた。本質的に,牧野淳一郎さんが最近計算したモデルと等価であり,念のため死亡者数をちょっと取り出しただけだ。
R = 2; \[Gamma] = 13; \[Beta] = R/\[Gamma]; \[Alpha] = 130;
sol = NDSolve[{
x'[t] == \[Beta] x[t] (1 - x[t] - y[t] - z[t]) - x[t]/\[Gamma],
y'[t] == 0.9987 * x[t]/\[Gamma] - y[t]/\[Alpha],
z'[t] == 0.0013 * x[t]/\[Gamma],
x[0] == 0.01, y[0] == 0, z[0] == 0}, {x, y, z}, {t, 0, 1000}]
fx[t_] := x[t] /. sol[[1, 1]]
fy[t_] := y[t] /. sol[[1, 2]]
fz[t_] := z[t] /. sol[[1, 3]]
Plot[fx[t], {t, 0, 1000}, PlotRange -> {0, 0.2}]
2022年8月21日日曜日
エンデミック
8月19日, 新型コロナウイルスの全国の新規感染者数が過去最多の26.1万人に達した。医療現場の逼迫状態も進んでいるはずなのに,行動制限が設定されることもなく,手間のかかるHRS-SYS入力による感染者数の全数把握見直しの議論などが先行している(8月2日の専門家有志の提言)。
そういえば,菅政権から岸田政権に替わって,専門家が前面にでて説明することがなくなった。いいような悪いような。もちろん背景では,新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードが週1回の頻度で回っている。
8月18日のアドドバイザリーボードの資料で,京大の西浦博さんが,新型コロナウイルス感染症のエンデミック化についての数理モデル,SIRS(Susceptible-infectious-recovered-susceptible)について検討していた。
エンデミック(地域流行≒風土病)とは,感染症流行の第三段階である。パンデミック(汎発流行=世界流行),エピデミック(流行≒アウトブレイク)の次に来るフェーズだ。ある感染症が一定の地域に一定の罹患率又は一定の季節で日常的に繰り返し発生する状態を表わし,まさにウィズ・コロナに相当する。
SIRSモデルでは,回復者の免疫が一定の時間で切れてしまうために,再び感染可能者に戻ってしまうというものだ。つまり,SIRモデルの回復者$R(t)$のところに,$R(t)$に比例した減衰項が付け加わり,その分が感染可能者 $S(t)$に加わる。
$\dfrac{dS}{dt} = -\beta \cdot S \cdot I + \delta \cdot R $
$\dfrac{dI}{dt} = \beta \cdot S \cdot I - \gamma \cdot I $
$\dfrac{dR}{dt} = \gamma \cdot I - \delta \cdot R$
平衡状態における定常解は,$\frac{dI}{dt} =0,\frac{dR}{dt}=0,N=S+I+R$から求まる。これらから,$N-I-\frac{\gamma}{\delta} I = \frac{\gamma}{\beta N}\cdot N$となるので,
$\dfrac{I}{N}= \dfrac{1-1/R_0}{1+\gamma/\delta}$と平衡状態での全人口に対する感染者割合が求まる。ただし,$R_0=\frac{\beta N}{\gamma}$は基本再生産数である。これが,西浦さんが資料で示した下図に示されている。免疫が半年で切れるとして,全人口の1%〜2%程度が常に感染していることになる(これは,オミクロン株での免疫持続時間3〜4ヶ月と感染者割合2〜8%という英国の観測値と整合している)。
2022年8月20日土曜日
玉川児童百科大辞典
個人送信(2)からの続き
国立国会図書館デジタルコレクションの「個人向けデジタル資料送信サービス」の対象に,玉川大学出版部の玉川児童百科大辞典があげられていた。そういえば,1冊持っていたと確認してみたら,玉川新百科1の数学の巻だった。
これは,昭和45年(1970年)9月10日に発行された学習百科シリーズの1冊だ。玉川児童百科大辞典の系列のシリーズで,対象読者は中学生や高校生だ。数学でいえばほぼ高等学校までの内容がカバーされていて,最後の現代数学の章で,記号論理学やカントールの集合論,抽象代数学などがほんの少しだけ含まれている。
この本を買ってもらったのは,高校生の時だった。本屋で見かけてどうしようと迷っていたのを憶えていたのか,ある日父親が買ってきた。小学校の時は,父には毎日のように本屋に連れていってもらって,沢山の本や図鑑を買ってもらった。やがて中学校になると,自分一人で本屋に行くようになり,主にSFやブルーバックスなどをあさっていた。付録:玉川新百科(玉川大学出版部・誠文堂新光社)全10巻の内容
1 数学
2 物理1
3 物理2
4 化学1
5 化学2
6 天文・気象
7 地球・海洋・地質・鉱物
8 生物学
9 動物
10 植物
2022年8月19日金曜日
LDLコレステロール(2)
LDLコレステロール(1)からの続き
天理市立メディカルセンターの人間ドックの結果がよろしくなかったので,8月15日に血中脂質の再検査を申し込んでいた。
9時の受付で,体重を測り採血してもらう(血圧は測らなくていいのか)。50分くらい待って診察を受けた。結果は,総コレステロール(130-219 mg/dL)が 257 -> 229,HDLコレステロール(40-75 mg/dL)が 68->64,LDLコレステロール(70-139 mg/dL)が 170 ->145 だった。
朝食のトーストのバターをやめるなどの成果がでたのか。次回は来年の人間ドックでチェックすることにした。お医者さんからは,卵黄・魚卵・肉類の脂肪を減らせと指示された。食品に含まれるコレステロールの摂取と,体内でのコレステロール合成を促進する飽和脂肪酸の摂取の2つがあって,それらを両方とも控えなさいということだった。
帰ってから,コレステロールについてもう一度勉強してみた。胆石はコレステロール98-99%でできてるものなのか。コレステロールが血漿中で輸送されるときには,コレステロールにタンパク質が結合したリポタンパク質の形をとる。これは,その密度のわずかな差によって数種類に分類できる。もっとも密度が大きなものが,HDL(高密度リポタンパク質,ρ=1.063–1.210 d= 7–10 nm),その次がLDL(低密度リポタンパク質,ρ=1.019–1.063 d=19–22 nm)だ。
LDLが酸化してマクロファージに取り込まれたものが血管に沈着すると動脈硬化の原因となって,死因順位第2位の心疾患(16%)や第4位の脳血管疾患(7%)を引き起こすらしい(なお,第1位の悪性新生物の死因割合は27%)。
ところが,WikipediaのLDLの節には次のような記述があった(参考資料)。
以前は悪玉コレステロールとも呼ばれたが、現在では否定されている。最新のACC/AHAガイドラインでは家族性高コレステロール血症の患者以外ではLDLの目標値を設定するエビデンスはないとされている。
ACC/AHAは,米国心臓病学会と米国心臓病協会のことで,その2018年ガイドラインはこれ。専門的な英文を解読するのが難しいので,日本動脈硬化学会の反論の方をみる。
今回のACC/AHA ガイドラインの特徴の一つは、脂質管理目標値を設定しないことである。LDL-Cの管理目標値を決定するに足るエビデンスは現状では十分ではないことに関しては我々も異論はなく,すでに動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版でも20-30%のLDL-C低下を目標とすることも考慮すると記載されている。
他のリスク要因がなく,単にLDLコレステロールの値が高いだけという場合は,LDLコレステロールを一定値まで下げるということに意味がないということなのか?