2022年8月21日日曜日

エンデミック

8月19日, 新型コロナウイルスの全国の新規感染者数が過去最多の26.1万人に達した。医療現場の逼迫状態も進んでいるはずなのに,行動制限が設定されることもなく,手間のかかるHRS-SYS入力による感染者数の全数把握見直しの議論などが先行している(8月2日の専門家有志の提言)。

そういえば,菅政権から岸田政権に替わって,専門家が前面にでて説明することがなくなった。いいような悪いような。もちろん背景では,新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードが週1回の頻度で回っている。

8月18日のアドドバイザリーボードの資料で,京大の西浦博さんが,新型コロナウイルス感染症のエンデミック化についての数理モデル,SIRS(Susceptible-infectious-recovered-susceptible)について検討していた。

エンデミック(地域流行≒風土病)とは,感染症流行の第三段階である。パンデミック(汎発流行=世界流行),エピデミック(流行≒アウトブレイク)の次に来るフェーズだ。ある感染症が一定の地域に一定の罹患率又は一定の季節で日常的に繰り返し発生する状態を表わし,まさにウィズ・コロナに相当する。

SIRSモデルでは,回復者の免疫が一定の時間で切れてしまうために,再び感染可能者に戻ってしまうというものだ。つまり,SIRモデルの回復者$R(t)$のところに,$R(t)$に比例した減衰項が付け加わり,その分が感染可能者 $S(t)$に加わる。

$\dfrac{dS}{dt} = -\beta \cdot S \cdot I + \delta \cdot R $

$\dfrac{dI}{dt} = \beta \cdot S \cdot I - \gamma \cdot I $

$\dfrac{dR}{dt} = \gamma \cdot I - \delta \cdot R$

平衡状態における定常解は,$\frac{dI}{dt} =0,\frac{dR}{dt}=0,N=S+I+R$から求まる。これらから,$N-I-\frac{\gamma}{\delta} I = \frac{\gamma}{\beta N}\cdot N$となるので,

$\dfrac{I}{N}= \dfrac{1-1/R_0}{1+\gamma/\delta}$と平衡状態での全人口に対する感染者割合が求まる。ただし,$R_0=\frac{\beta N}{\gamma}$は基本再生産数である。これが,西浦さんが資料で示した下図に示されている。免疫が半年で切れるとして,全人口の1%〜2%程度が常に感染していることになる(これは,オミクロン株での免疫持続時間3〜4ヶ月と感染者割合2〜8%という英国の観測値と整合している)。



図:アドバイザリーボード西浦博さんの資料から引用

エンデミック(ウィズコロナ)を認めるということは,常に数%の感染者が存在することを容認することになる(季節性インフルエンザの10倍)が,高齢者比率の高い日本では,その死亡リスクが他国にくらべて高いことに十分注意する必要があるというのが結論だった。

仮に,オミクロン株の致命率CFRとして,0.13%(季節性インフルエンザの10〜20倍)を採用し,感染期間を13日とする。平衡状態での感染者割合が2%の場合,全人口に対する1日当たりの死亡者数割合は,0.0013/13*2%=2*10^{-6}となるので,毎日250人程度の死者が出続ける(現在までの新型コロナ感染症死者数のピーク値がずっと続くのがウィズコロナだ)。

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