2022年8月29日月曜日

情報検索から情報生成へ

1ヶ月半前の話題だけれど,GPT-3という大規模言語モデル(Large Language Model)に対して,自分自身に関する学術論文を書くようプロンプト入力して出力された論文が,査読にかかり出版されたらしい。

GPT-3については,2年ほど前にもこのブログで GPT-3というタイトルの記事を書いた。出版された論文は,open science のHALアーカイブにある Can GPT-3 write an academic paper on itself, with minimal human input? であり,共著者のトップに,Gpt Generative Pretrained Transformer, としてAIの名前がのっている。

論文は,GPT-3が書いた部分と,青字の注釈枠内に人間の研究者が入力したプロンプト構文とコメントが付加された複合的構造になっている。GPT-3が自分自身で書いたGPT-3を対象とする論文の結論は次のようなものだ。

Conclusion

It is clear that GPT-3 has the potential to write for an academic paper about itself. However, there are some limitations to consider. First, GPT-3 may not be able to capture all of the nuances and subtleties of human language. Second, GPT-3 may not be able to generate new ideas or perspectives that humans could bring to the table. Overall, however, GPT-3 seems like a promising tool for academic writing.

これに対して,人間の共著研究者がつけた青字枠のプロンプトとパラメータとコメントがこちら。

 Prompt: Write a conclusion section about letting GPT-3 write for an academic paper about itself.

Temperature: 0.77 / Maximum length 458 / Top P 0.9 / Frequency Penalty 0.95 / Presence Penalty 0.95 / Best of n=5 / Second prompt output chosen, first output similar but incomplete sentence.

As we did very little to train the model, the outcome was not, contrary to GPT-3s own assessment, well done. The article lacked depth, references and adequate self analysis. It did however demonstrate that with manipulation, training and specific prompts, one could write an adequate academic paper using only the predictive nature of GPT-3.

GPT-3(AI) は自分の書いた論文?を自画自賛しているが,共著研究者(人間)の評価によれば学生のレポートの域をでないものである。しかし,これができるということは,大学の学部教育レベルのレポートはすべてAIに代行させることが可能だ


大学の授業で課せられるレポートを,インターネット上のテキストの切り張りで作って提出するという事例が横行しているらしい。引用ルールに則っていれば問題ないが,場合によっては丸ごとコピーして使うケースも(卒論レベルになれば代行業者という手もあるが)。

これに対抗するために多くの大学では,テキストのコピー部分を発見するツールが導入されている。大阪教育大学でも,Turnitin Feedback Studio という剽窃チェックツールがあって,何度も利用説明会が開催されている。自分は,これはそもそも出題側の問題だと思っていて,馬鹿馬鹿しいので使ったことはない。

今後,プロンプト職人の技でAI≒機械学習システムにレポート生成・下書き作成を頼むことが容易になれば,これを人間が書いたレポートと区別することは原理的に難しいような気がする。この話題をとりあげた番組 [1] では,松田卓也先生が,英語を母語としない研究者の書く英文論文のプロトタイピングには使えるかもしれないと話していた。まあそれだけならば,DeepLを使えば済むような気もする。

いずれにせよ,インターネット空間では,情報検索から情報生成へと時代の大きな変化の流れが生じているらしい [2]。


画像:阿弥陀経の極楽の一節を入力したmemeplex.app

極樂國土 七重欄楯 七重羅網 七重行樹 皆是四寶 周帀圍繞 是故彼國 名曰極樂 有七寶池 八功德水 充滿其中 池底純以 金沙布地 四邊階道 金銀瑠璃 玻瓈合成 上有樓閣 亦以金銀瑠璃 玻瓈硨磲 赤珠碼碯 而嚴飾之 池中蓮華 大如車輪 青色青光 黄色黄光 赤色赤光 白色白光 微妙香潔 舍利弗 極樂國土 成就如是 功德莊嚴

In the land of bliss, there are seven rafters, seven nets, seven walking trees, all surrounded by the four jewels. There are seven precious pools filled with the eight virtuous waters. And there was a tower decorated with gold and silver, and glass, and silver, and glass, and aluminum, and agate, and red pearls. 
The lotus in the pond is as large as a wheel, green and blue, yellow and yellow, red and red, white and white, and of a subtle fragrance, Shakyamuni.  The Land of Ultimate Bliss is a place of great virtue


[1]GPT-3がGPT-3について論文を書いた~学術誌に投稿され現在査読中らしい(シンギュラリティサロン・オンライン)

[2]緊急対談!今AI業界に何が起きてるのか?!shi3zさんに聞いてみた! スペシャルゲスト:西川善司(shi3z & drikin のAIドリフト)

[3]MidjourneyやDreamStudioなどの画像生成AIの仕組みについて(IT navi)

[4]創るためのAI 機械と創造性のはてしない物語 (徳井直生)

2022年8月28日日曜日

画像生成AI(4)

画像生成AI(3)からの続き 

最近の,画像生成AIブームについては,note深津貴之(fladdict)さん世界変革の前夜は思ったより静か)や,ギリア清水亮さんStableDiffusionを使った新しいAI作画サービスを作りました。日本語でOK。無料です)などのIT業界の牽引者の注目を集めている。

この波がどこまで広がるかは,気になるところである。いずれにせよ,大規模言語モデルを背景としたAI系の新しい仕組みは今後されに浸透してゆくことは間違いない。これが,OSの標準機能に噛んでいけば,すべてのアプリケーションでAIの仕組みを使った機能が加わる。すなわち,新しいコンテンツの創造が,適切な対話型インターフェース(最低限のプロンプト・エンジニアリング)によって簡単に実現することになる。

(1) 祐筆:タイトルと趣旨を入れるだけで,自動的に,イラスト入りレポートやエッセイや広告コピーや文学作品を生成する機能を持つワードプロセッサ。
(2) 主計:データの要件と目的を入れるだけで,必要なデータを検索して取り込み,これを分析した結果を生成する機能を持つ表計算ソフト。
(3) 算法:入力と出力の集合の定義と関係を入れるだけで,自動的に数理モデリングの手法を選択して結果を最適な表現形態で表わして説明する統合数学ソフト。
(4) 藝術:着想を入力することで,器楽,声楽,効果音,絵画,写真,イラスト,マンガ,アニメ,立体,動画を自動生成する表現支援ソフト。
(5) 森羅:対象(自然現象,生物,鉱物・地形,人工物・商品,建築・構築物,テキスト・画像断片,人物)を撮影すると,詳細情報を説明する検索ソフト。
(6) 執事:予約や買物や連絡を代行して調整するアシスタント。
(7) 師範:自分の学びたい内容について助言するアシスタント。
このあたりが,近未来のパーソナルコンピュータ(=デジタルアシスタント)が持っている7つの基本アプリケーションのイメージになる(ディープラーニングAIや巨大言語モデルと直接関係しないものも含まれているような・・・)。256GB/8TB M7 MacHeadset Air とかで実現できていれば,すぐにも買いたいけれど,それまで生きていられるかしら。

話を戻すと,Stable Diffusionをベースにして清水さんが作った日本語アプリが Memeplex(α版)である。プロンプトの日本語は英語に変換されて Stable Diffusion 1.4に投げられ,結果は512x512の画像としてユーザごとの領域に出力される。入力の際に,画風指定,スタイル指定,作家指定が,ドロップボックスで設定できるが,もちろん,プロンプト枠に手入力しても構わない。待ち行列で順に処理されるが,その待ち行列の中身が公開されているのがおもしろい(その後これは見えなくなった)。


画像:memeplexに「西方極楽浄土 → western paradise」を入力した結果…orz


2022年8月27日土曜日

画像生成AI(3)

 画像生成AI(2)からの続き

シンギュラリティサロン・オンラインで,松田卓也先生が Stable Diffusion倫理問題を取り上げていた。もとネタは,TechCrunchの "This startup is setting a DALL-E 2-like AI free, consequences be damned" である。

Latent Diffusion Modelなどを使った画像生成AIでは,素人が簡単なフレーズの組み合わせを入れるだけで,非常に高いクオリティの絵画,写真,デザインなどの画像を生成することができる。絵画から写真への変革に匹敵する革命的な事態が生じている。

DALL-E2などでは厳密なキーワード制限によって,倫理的に問題を生じるような画像の生成を抑制している。例えば,有名人の顔写真をつかったフェイク画像,戦争や動乱あるいは人種差別などを誘導するフェイク画像,ポルノグラフィなどなどである。

もちろんAI登場以前であっても,フェイク画像生成は可能だったが,それはそれなりのIT技術が必要とする。しかし,画像生成AIの登場によってその閾値は圧倒的に下がってしまった。

しかも,Stable DiffusionをサポートしているStability.AIというスタートアップは,OpenなAI技術を開放して誰でもが自由に使えるようにすることを目的としており,その一環として,Stable Diffusionもオープンソース化されて,誰でもが自由に自分のPCにインストールできる面倒だがApple Silicon のMacBook Proでも可能らしい)。

画像生成AIが動画生成AIにまで進化した段階でさらに深刻な事態が発生しかねない。知り合いの顔写真が手に入れば簡単にフェイクポルノ動画が作れてしまうようなものだから。


画像:Stable Diffusion Demoから
( golden daibutsu todaiji nara night fire wakakusa-yama nigatsudo omizutori deer )

2022年8月26日金曜日

画像生成AI(2)

画像生成AI(1)からの続き

YouTuberのMattVideoProによれば,現時点でも20以上の画像生成AIサービスが立ち上がっている(下記リスト参照)。たぶん今年の最も重要なトレンドの一つだ。前回は,CrAIyonを試してみた。日本では,Midjouneyが流行っている。

今回登場したのが,Stable Diffusionとこれを利用したサービスのDream Studio (beta) である。その紹介はこのへんにある

1. Google Imagen/Parti (Unreleased) https://parti.research.google/
2. Open AI Dall-E 2 (Closed Beta) https://openai.com/dall-e-2/
3. Stable Diffusion (Free to use) https://huggingface.co/spaces/stabilityai/stable-diffusion
4. Simulacrabot (Closed Alpha) https://stability.ai/simulacrabot/terms-of-use
5. Midjourney (Free Trial, paid access) https://www.midjourney.com/app/
6. Shonenkov AI (Free to Use) https://t.me/shonenkovAI (JOIN MY DISCORD FOR LINK)
7. Meta Make-A-Scene (very Closed Beta) https://about.fb.com/news/2022/07/metas-new-ai-research-8. tool-turns-ideas-into-art/
9. Microsoft VQ Diffusion (Free to use) https://replicate.com/cjwbw/vq-diffusion
10. Deep AI Text to Image (Free Access) https://deepai.org/machine-learning-model/text2img
11. MindsEye beta (by multimodal.art) (Free to use) https://colab.research.google.com/drive/1cg0LZ5OfN9LAIB37Xq49as0fSJxcKtC5
12. CrAIyon (Free to use) https://www.craiyon.com/
13. Min-dalle (Free & Paid) https://replicate.com/kuprel/min-dalle
14. Dall E Flow (Free to use) https://github.com/jina-ai/dalle-flow
15. Wombo (Free & Paid) https://app.wombo.art/
16. Laion AI Erlich (Free & Paid) https://replicate.com/laion-ai/erlich
17. Latent Diffusion (Free to use) https://huggingface.co/spaces/multimodalart/latentdiffusion
18. Glid-3-xl (Free & Paid) https://replicate.com/jack000/glid-3-xl
19. Night Cafe (Free & Paid) https://creator.nightcafe.studio/explore
20. Disco Diffusion (Free & Paid) https://colab.research.google.com/github/alembics/disco-diffusion/blob/main/Disco_Diffusion.ipynb
21. Cog View 2 (Free & Paid) https://replicate.com/thudm/cogview2
22. Pixray (Free & Paid) https://replicate.com/pixray/text2image
23.Hot Pot AI (free & Paid) https://hotpot.ai/art-maker
24. Nvidia gaugan2 (Free to Use) http://gaugan.org/gaugan2/
話題のStable Diffusionをはじめ,Diffusionという言葉がよくみられるのは,これらのシステムが,Latent Diffusion Model(潜在拡散モデル)を使っているからだ。それは,与えられた画像にガウスノイズを徐々に追加して完全なノイズになるまで破壊し,ニューラルネットワークにその逆転プロセスを学習させたものだからだ。これに適当なテキストとの関連付けを行うことでノイズから画像を生成することができるらしい。

このとき,適切なキーワードの集合をどうやって準備するかが,目的とする画像を完成に近づけるかの鍵となる。そこで,すぐれた技術を持つ人がプロンプト職人,その技術がプロンプト・エンジニアリングとよばれる。

プロンプト・エンジニアリングは,画像生成AIだけでなく,自然言語による質問応答や文書生成などができるAIがよってたつところの巨大言語モデル(GPTなど)の流行にも対応している。

さて,Stable Diffusionのデモを試してみたところ,今日は混雑していてだめだった。昨日確かめた例が下にある。ほとんどトライアンドエラーを繰り返していないので,そんな精緻な結果は得られていない。なお,Dream Studioにお金を払えばより短時間で制限なく利用できるはずだ。


画像:Stable Diffusion のデモに次のプロンプトを与えた結果
(cosmic giant bronze female buddha in the todaiji temple 
and bunch of deer in the nara park photorealistic)

画像の次は,音声,3Dイメージ,動画と続いていくとしたらなんということだろうか。素人がキラーAIアプリケーションを自由に使いこなせる時代の幕開けとなるのか。


2022年8月25日木曜日

崩壊系列

放射性元素崩壊系列は,質量数Aと原子番号Zを2軸とするダイヤグラムで表現されることが多い。一方,放射性元素の影響を特徴づけるのは,放出されるα線やβ線のエネルギーと,崩壊定数すなわち半減期である。

そこで,質量数Aと半減期 T (秒)の常用対数を2軸とするダイヤグラムで表わすとどうなるかを調べてみた。なお,複数の崩壊経路があるばあいは,分岐比の大きな方だけをたどっているが,半減期は両方の分岐を合わせたものを採用している。

放射性元素の崩壊系列は,質量数A=4n+mとして4系列に分類される。

青:4n+0:トリウム系列   232Th(141億年)→[α6β4]→208Pb(安定)42.6MeV

灰:4n+1:ネプツニウム系列 237Np(214万年)→[α8β4]→205Tl(安定)66.8MeV

赤:4n+2:ウラン系列    238U(45億年)→[α8β6]→206Pb(安定)51.7MeV

緑:4n+3:アクチニウム系列 235U(7億年)→[α7β4]→207Pb(安定)46.4MeV



図:崩壊系列における対数半減期と質量数(右→左へ遷移)

a = 3.1557*10^7; d = 24*3600.; h = 3600.; m = 60.;
s = 1.; ms = 10^-3; us = 10^-6; ns = 10^-9;
c[0] = Blue; c[1] = Gray; c[2] = Red; c[3] = Green;

r[0] = {{232, 1.405*10^10 a}, {228 + 0.2, 5.75 a}, {228, 6.15 h},
{228 - 0.2, 1.9116 a}, {224, 3.6319 d}, {220, 55.6 s},
{216, 0.145 s}, {212 + 0.2, 10.64 h}, {212, 60.55 m},
{212 - 0.2, 299. ns}, {208, 10^20 a}};

r[1] = {{237, 2.144*10^6 a}, {233 + 0.2, 26.967 d},
{233 - 0.2, 1.592 *10^5 a}, {229, 7340 a}, {225 + 0.2, 14.9 d},
{225 - 0.2, 10.0 d}, {221, 4.9 m}, {217, 32.3 ms},
{213 + 0.2, 45.59 m}, {213 - 0.2, 3.65 us}, {209 + 0.2, 3.253 h},
{209 - 0.2, 1.9*10^19 a}, {205, 10^20 a}};

r[2] = {{238, 4.468*10^9 a}, {234 + 0.2, 24.10 d}, {234, 1.17 m},
{234 - 0.2, 2.455*10^5 a}, {230, 7.538*10^4 a}, {226, 1600 a},
{222, 3.8235 d}, {218, 3.098 m}, {214 + 0.2, 26.8 m}, {214, 19.9 m},
{214 - 0.2, 164.3 us}, {210 + 0.3, 1.3 m}, {210 + 0.15, 22.20 a},
{210 - 0.15, 5.012 d}, {210 - 0.3, 138.376 d}, {206, 10^20 a}};

r[3] = {{235, 7.038*10^8 a}, {231 + 0.2, 25.52 h}, 
{231 - 0.2, 32760 a}, {227 + 0.2, 21.773 a}, {227 - 0.2, 18.72 d}, {223, 11.435 d}, {219, 3.96 s}, {215, 1.781 ms}, {211 + 0.2, 36.1 m},
{211 - 0.2, 2.14 m}, {207 + 0.2, 4.77 m}, {207 - 0.2, 10^20 a}};

Do[{q[i] = 
Transpose[{Transpose[r[i]][[1]], Log10[Transpose[r[i]][[2]]]}],
g[i] = ListPlot[q[i], PlotStyle -> {PointSize[Large], c[i]}],
f[i] = ListPlot[q[i], Joined -> True, PlotStyle -> c[i]]},
{i, 0, 3}];

Show[Table[{g[i], f[i]}, {i, 0, 3}], PlotRange -> {{205, 240},
{-10, 30}}, Frame -> True, GridLines -> Automatic]

グラフを作図するため,到達点の安定な同位元素の寿命として,10^20年を入れた。ネプツニウム系列の最後から2番目には,半減期が1.9×10^19年(宇宙年齢の10億倍)のビスマス209がある。2003年まではこれは最も重い安定同位元素だと認識されていた。

全体の傾向はなくて半減期はバラついているのかと思ったが,実際にはすべての系列に共通して,長寿命から大きな谷を経由して再び長寿命(安定)に向かうカーブを描いている。これは原子核構造の大域的性質に関係あるのかもしれない。知らんけど。

2022年8月24日水曜日

ファシズムの初期兆候

アメリカ・ワシントンD.C.にあるアメリカ合衆国ホロコースト記念博物館の"Early Warning Signs of Fascism"と題された展示ポスターに掲げられているファシズムの初期兆候の14項目は以下のとおりである。 
01.  強力かつ継続的なナショナリズム(Powerful and Continuing Nationalism)
02.  人権の蔑視(Disdain for Human Rights)
03.  団結させるための敵の設定(Identification of Enemies as a Unifying Cause)
04.  軍事の最優先(Supremacy of the Military)
05.  はびこる性差別(Rampant Sexism)
06.  支配されたマスメディア(Controlled Mass Media)
07.  国家安全保障への執着(Obsession with National Security)
08.  宗教と政治の結合(Religion and Government Intertwined) 
09.  企業の力の保護(Corporate Power Protected)
10.  労働者の抑圧(Labor Power Suppressed)
11.  知性や芸術の蔑視(Disdain for Intellectuals and the Arts)
12.  刑罰強化への執着(Obsession with Crime and Punishment)
13.  身びいきや汚職の蔓延(Rampant Cronyism and Corruption)
14.  不正な選挙(Fraudulent Elections)
ワシントン・マンスリーの2017年1月の記事(The 12 Early Warning Signs of Fascism)では,上記のうち04と14を除いた12項目が,トランプ政権にあてはまる兆候だとしている。安倍政権以降の自公政権+維新についても同様かもしれない。その項目の多くが統一教会,日本会議,神道政治連盟などの活動と共鳴しているように見える。

2022年8月23日火曜日

SIDRモデル(2)

 SIDRモデル(1)からの続き

牧野さんの例では,感染期間/免疫消失期間が1/100 と小さくなる場合が示されていた。そこで,これに対応するケースの計算をしてみた。

R = 5; \[Gamma] = 13; \[Beta] = R/\[Gamma]; \[Alpha] = 130*10;
sol = NDSolve[{
x'[t] == \[Beta] x[t] (1 - x[t] - y[t] - z[t]) - x[t]/\[Gamma],
y'[t] == 0.9987*x[t]/\[Gamma] - y[t]/\[Alpha],
z'[t] == 0.0013*x[t]/\[Gamma],
x[0] == 0.01, y[0] == 0, z[0] == 0}, {x, y, z}, {t, 0, 3000}];
fx[t_] := x[t] /. sol[[1, 1]]
fy[t_] := y[t] /. sol[[1, 2]]
fz[t_] := z[t] /. sol[[1, 3]]
Plot[fx[t], {t, 0, 3000}, PlotRange -> {0, 0.5}]
Plot[fz[t], {t, 0, 3000}, PlotRange -> {0, 0.01}]
基本再生産数と免疫消失期間を前回のそれぞれ2.5倍,10倍にしている。
この結果,定常状態における全人口に対する感染者割合は0.77%,一日当たり死亡数は,97人/日となる。年間死亡数は3.5万人なので,季節性インフルエンザの3.5倍程度に収まることになる。


図1:SIDRモデルにおける感染者割合の推移


図2:SIDRモデルにおける累計死亡数の推移

(注)西浦さんの公式だと,$\frac{1-1/R}{1+\alpha / \gamma}\cdot \frac{n}{\gamma} =100$人/日となるので,上記の結果とよく対応している。

2022年8月22日月曜日

SIDRモデル(1)

 エンデミックからの続き (参考:感染症の数理シミュレーション(2)

西浦博さんが紹介している既知のSIRSモデルは,年齢構造や平均余命まで考慮した精緻なモデルだが,一般ピープルがその振る舞いを試してみるには大層なので,単純なSIDRモデルを考えてみた。本質的に,牧野淳一郎さんが最近計算したモデルと等価であり,念のため死亡者数をちょっと取り出しただけだ。

図1:SIDRの概念図

$\dfrac{du_1}{dt} = -\beta \dfrac{ u_1 \cdot u_2}{n} + \dfrac{u_3}{\alpha}$
$\dfrac{du_2}{dt} = \beta \dfrac{ u_1 \cdot u_2}{n} -\dfrac{u_2}{\gamma_1} -\dfrac{u_2}{\gamma_2}$
$\dfrac{du_3}{dt} = \dfrac{u_2}{\gamma_1} -\dfrac{u_3}{\alpha}$
$\dfrac{du_4}{dt} = \dfrac{u_2}{\gamma_2}$

ここで,$u_1+u_2+u_3+u_4=n$は定数で,全国民数である。また,$\alpha$が免疫保持期間(day),$\gamma$は感染期間(day)である。CFRを$c$とすると,$\frac{1}{\gamma}=\frac{1}{\gamma_1} + \frac{1}{\gamma_2}$が成り立ち,$\frac{1}{\gamma_1}=\frac{1-c}{\gamma},\frac{1}{\gamma_2}=\frac{c}{\gamma}$である。

微分方程式の両辺を$n$で割って,$x=\frac{u_2}{n},y=\frac{u_3}{n},z=\frac{u_4}{n}$とする。また,$s=\frac{u_1}{n}$を,$s=1-(x+y+z)$で消去すると次の3変数の微分方程式系が得られる。

$\dfrac{d x}{dt} = \beta (1-x-y-z)\ x -\dfrac{x}{\gamma}$
$\dfrac{d y}{dt} = \dfrac{(1-c)\ x}{\gamma} -\dfrac{y}{\alpha}$
$\dfrac{d z}{dt} = \dfrac{ c\ x}{\gamma}$

この式で$c=0$とすれば,牧野さんの式となる。次のMathematicaコードで検算したところ,彼の結果は再現できた。ここでは,次の値で計算してみる。$R=\beta \gamma =2,\gamma=13,\alpha=130,c=0.0013,x[0]=0.01$

R = 2; \[Gamma] = 13; \[Beta] = R/\[Gamma]; \[Alpha] = 130;
sol = NDSolve[{
x'[t] == \[Beta] x[t] (1 - x[t] - y[t] - z[t]) - x[t]/\[Gamma],
y'[t] == 0.9987 * x[t]/\[Gamma] - y[t]/\[Alpha],
z'[t] == 0.0013 * x[t]/\[Gamma],
x[0] == 0.01, y[0] == 0, z[0] == 0}, {x, y, z}, {t, 0, 1000}]
fx[t_] := x[t] /. sol[[1, 1]]
fy[t_] := y[t] /. sol[[1, 2]]
fz[t_] := z[t] /. sol[[1, 3]]
Plot[fx[t], {t, 0, 1000}, PlotRange -> {0, 0.2}]

その結果は図2のようなものであり,振動の後に平衡状態となり,感染者割合は4.5%に収束する。



図2:SIDRモデルにおける感染者割合の推移

また,400日目を過ぎると,死亡数は図3のように線形で増加するが,このときの1日あたりの死亡者割合は,4.5 x 10^-6 となり,540人/日に相当するので,年間死亡数は19万人に達する。これは季節性インフルエンザの超過死亡数(1万人)の20倍のオーダーである。



図3:SIDRモデルにおける累計死亡数の推移

2022年8月21日日曜日

エンデミック

8月19日, 新型コロナウイルスの全国の新規感染者数が過去最多の26.1万人に達した。医療現場の逼迫状態も進んでいるはずなのに,行動制限が設定されることもなく,手間のかかるHRS-SYS入力による感染者数の全数把握見直しの議論などが先行している(8月2日の専門家有志の提言)。

そういえば,菅政権から岸田政権に替わって,専門家が前面にでて説明することがなくなった。いいような悪いような。もちろん背景では,新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードが週1回の頻度で回っている。

8月18日のアドドバイザリーボードの資料で,京大の西浦博さんが,新型コロナウイルス感染症のエンデミック化についての数理モデル,SIRS(Susceptible-infectious-recovered-susceptible)について検討していた。

エンデミック(地域流行≒風土病)とは,感染症流行の第三段階である。パンデミック(汎発流行=世界流行),エピデミック(流行≒アウトブレイク)の次に来るフェーズだ。ある感染症が一定の地域に一定の罹患率又は一定の季節で日常的に繰り返し発生する状態を表わし,まさにウィズ・コロナに相当する。

SIRSモデルでは,回復者の免疫が一定の時間で切れてしまうために,再び感染可能者に戻ってしまうというものだ。つまり,SIRモデルの回復者$R(t)$のところに,$R(t)$に比例した減衰項が付け加わり,その分が感染可能者 $S(t)$に加わる。

$\dfrac{dS}{dt} = -\beta \cdot S \cdot I + \delta \cdot R $

$\dfrac{dI}{dt} = \beta \cdot S \cdot I - \gamma \cdot I $

$\dfrac{dR}{dt} = \gamma \cdot I - \delta \cdot R$

平衡状態における定常解は,$\frac{dI}{dt} =0,\frac{dR}{dt}=0,N=S+I+R$から求まる。これらから,$N-I-\frac{\gamma}{\delta} I = \frac{\gamma}{\beta N}\cdot N$となるので,

$\dfrac{I}{N}= \dfrac{1-1/R_0}{1+\gamma/\delta}$と平衡状態での全人口に対する感染者割合が求まる。ただし,$R_0=\frac{\beta N}{\gamma}$は基本再生産数である。これが,西浦さんが資料で示した下図に示されている。免疫が半年で切れるとして,全人口の1%〜2%程度が常に感染していることになる(これは,オミクロン株での免疫持続時間3〜4ヶ月と感染者割合2〜8%という英国の観測値と整合している)。



図:アドバイザリーボード西浦博さんの資料から引用

エンデミック(ウィズコロナ)を認めるということは,常に数%の感染者が存在することを容認することになる(季節性インフルエンザの10倍)が,高齢者比率の高い日本では,その死亡リスクが他国にくらべて高いことに十分注意する必要があるというのが結論だった。

仮に,オミクロン株の致命率CFRとして,0.13%(季節性インフルエンザの10〜20倍)を採用し,感染期間を13日とする。平衡状態での感染者割合が2%の場合,全人口に対する1日当たりの死亡者数割合は,0.0013/13*2%=2*10^{-6}となるので,毎日250人程度の死者が出続ける(現在までの新型コロナ感染症死者数のピーク値がずっと続くのがウィズコロナだ)。

2022年8月20日土曜日

玉川児童百科大辞典

 個人送信(2)からの続き

国立国会図書館デジタルコレクションの「個人向けデジタル資料送信サービス」の対象に,玉川大学出版部玉川児童百科大辞典があげられていた。そういえば,1冊持っていたと確認してみたら,玉川新百科1の数学の巻だった。

これは,昭和45年(1970年)9月10日に発行された学習百科シリーズの1冊だ。玉川児童百科大辞典の系列のシリーズで,対象読者は中学生や高校生だ。数学でいえばほぼ高等学校までの内容がカバーされていて,最後の現代数学の章で,記号論理学やカントールの集合論,抽象代数学などがほんの少しだけ含まれている。

この本を買ってもらったのは,高校生の時だった。本屋で見かけてどうしようと迷っていたのを憶えていたのか,ある日父親が買ってきた。小学校の時は,父には毎日のように本屋に連れていってもらって,沢山の本や図鑑を買ってもらった。やがて中学校になると,自分一人で本屋に行くようになり,主にSFやブルーバックスなどをあさっていた。

高校に入ってからは,父に本を買ってもらう機会はほとんどなくなっていたが若干の例外があった。この本とハヤカワSFシリーズ銀背のアイザック・アシモフの「銀河帝国衰亡史(記憶の中では金背になっていた)」,そして,ヴァージニア・ウルフの「灯台へ(To The Lighthouse)」(英語本)を買ってきたのが印象的だった。アシモフの方はわかるのだけれど,何故ヴァージニア・ウルフだったのかはいまでも謎だ。



写真:ハヤカワSFシリーズ「銀河帝国衰亡史」の書影
付録:玉川新百科(玉川大学出版部・誠文堂新光社)全10巻の内容
 1 数学
 2 物理1
 3 物理2
 4 化学1
 5 化学2
 6 天文・気象
 7 地球・海洋・地質・鉱物
 8 生物学
 9 動物
10 植物

2022年8月19日金曜日

LDLコレステロール(2)

 LDLコレステロール(1)からの続き

天理市立メディカルセンターの人間ドックの結果がよろしくなかったので,8月15日に血中脂質の再検査を申し込んでいた。

9時の受付で,体重を測り採血してもらう(血圧は測らなくていいのか)。50分くらい待って診察を受けた。結果は,総コレステロール(130-219 mg/dL)が 257 -> 229,HDLコレステロール(40-75 mg/dL)が 68->64,LDLコレステロール(70-139 mg/dL)が 170 ->145 だった。

朝食のトーストのバターをやめるなどの成果がでたのか。次回は来年の人間ドックでチェックすることにした。お医者さんからは,卵黄・魚卵・肉類の脂肪を減らせと指示された。食品に含まれるコレステロールの摂取と,体内でのコレステロール合成を促進する飽和脂肪酸の摂取の2つがあって,それらを両方とも控えなさいということだった。

帰ってから,コレステロールについてもう一度勉強してみた。胆石はコレステロール98-99%でできてるものなのか。コレステロールが血漿中で輸送されるときには,コレステロールにタンパク質が結合したリポタンパク質の形をとる。これは,その密度のわずかな差によって数種類に分類できる。もっとも密度が大きなものが,HDL(高密度リポタンパク質,ρ=1.063–1.210  d= 7–10 nm),その次がLDL(低密度リポタンパク質,ρ=1.019–1.063  d=19–22 nm)だ。

LDLが酸化してマクロファージに取り込まれたものが血管に沈着すると動脈硬化の原因となって,死因順位第2位の心疾患(16%)や第4位の脳血管疾患(7%)を引き起こすらしい(なお,第1位の悪性新生物の死因割合は27%)。

ところが,WikipediaのLDLの節には次のような記述があった(参考資料)。

以前は悪玉コレステロールとも呼ばれたが、現在では否定されている。最新のACC/AHAガイドラインでは家族性高コレステロール血症の患者以外ではLDLの目標値を設定するエビデンスはないとされている。

 ACC/AHAは,米国心臓病学会と米国心臓病協会のことで,その2018年ガイドラインはこれ。専門的な英文を解読するのが難しいので,日本動脈硬化学会の反論の方をみる。

今回のACC/AHA ガイドラインの特徴の一つは、脂質管理目標値を設定しないことである。LDL-Cの管理目標値を決定するに足るエビデンスは現状では十分ではないことに関しては我々も異論はなく,すでに動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版でも20-30%のLDL-C低下を目標とすることも考慮すると記載されている。

他のリスク要因がなく,単にLDLコレステロールの値が高いだけという場合は,LDLコレステロールを一定値まで下げるということに意味がないということなのか?


図:脂質異常症と栄養の関係(下記参考資料から引用)

[1]日本人の食事摂取基準(2020年版)

2022年8月18日木曜日

SI接頭語

1960年に国際単位系(SI)の諸規定が定まってから60年,前回のSI接頭語の追加から30年目にして,新しい接頭語が追加されることになった。

そもそもヨタY,ゼタZ,ヨクトy,ゼプトzも使ったことなかったけれど,新しく導入されるクエタQ,ロナR,クエクトq,ロントrもあまり使いそうにない。原子核物理をやっていたのでフェムトfはおなじみだけれど,量子光学に登場するアトaには縁がない。

イレギュラーなμ,daを除くと接頭語には,ラテン文字1字があてはめられる。この調子でいくと,ラテン文字ペアの記号が足りなくなるかと思ったけれど,まだ,Bb,Ii,Jj,Ll,Oo,Ss,Uu,Vv,Wwが残っているので,あと30×4=120年くらいは大丈夫かもしれない。

いやいや,すでにSI基本単位やSI組立単位で使われている記号はまずいから,s,m,K,A,N,J,W,C,V,F,T,Hも除外される(テラテスラ T T はいいのか?)。となると,30×2=60年なのかもしれない(Bb,Ii,Ll,Oo,Uuの5組)。その後は,ギリシャ文字にすればもう少し延命できる。

ギリシャ文字のうちラテン文字と区別しにくい字形のものを除くと,Γγ,Δδ,Θθ,Λλ,Ξξ,Ππ,Σσ,Φφ,Ψψ の9組が残る。さらに30×5=150年はいける。この結果,200年後には,14組の接頭語が追加されて,10^±75 までのオーダーを表現できるわけだ。

現在の12組の接頭語が26組になるというのは,単に記法が複雑化するだけで,メリットはないような気もするが,日本の(あるいは華厳経の)命数法もたいがい面倒なことになっているので,SIといい勝負だ。

接頭語        記号 10^n 制定年
クエタ (quetta)  Q   30  2022年
ロナ  (ronna )  R   27  2022年
ヨタ  (yotta )  Y   24  1991年
ゼタ  (zetta )  Z   21  1991年
エクサ (exa   )  E   18  1975年
ペタ  (peta  )  P   15  1975年
テラ  (tera  )  T   12  1960年
ギガ  (giga  )  G    9  1960年
メガ  (mega  )  M    6  1960年
キロ  (kilo  )  k    3  1960年
ヘクト (hecto )  h    2  1960年
デカ  (deca  )  da   1  1960年
-           -   0   -
デシ  (deci  )  d   -1  1960年
センチ (centi )  c   -2  1960年
ミリ  (milli )  m   -3  1960年
マイクロ(micro )  μ   -6  1960年
ナノ  (nano  )  n   -9  1960年
ピコ  (pico  )  p  -12  1960年
フェムト(femto )  f  -15  1964年
アト  (atto  )  a  -18  1964年
ゼプト (zepto )  z  -21  1991年
ヨクト (yocto )  y  -24  1991年
ロント (ronto )  r  -27  2022年
クエクト(quecto)  q  -30  2022年


2022年8月17日水曜日

国際言語学オリンピック

高校生を対象とした,国際数学オリンピックだとか 国際物理オリンピックだとか国際化学オリンピックだとか国際生物学オリンピックだとか国際地学オリンピックだとか国際天文学オリンピックだとか国際情報オリンピックだとかは聞いたことがあった。

国際言語学オリンピックは初耳だった。2021年の問題をみると,キリヴィア語と日本語の対訳から言語規則を見つけて,各言語の短文を翻訳するといったものだった。なお,キリヴィア語は,オーストラロネシア語族の大洋州諸語派に属するパプアニューギニアのトロブリアン諸島で約20,000人が使用している,ものだ。

【日本語の文とキリヴィラ語訳】(カッコ内が自分で考えた言葉の対応) 
 1.一人の男性がこれらの四匹の魚を捕まえる。
  Bibani navasi yena minasina tetala tau.
 (捕まえる 四匹の 魚 これらの 一人の 男性)

2.この白人の男性が到着した。
  Lekota dimdim mtona.
 (到着した 白人男性 この)

3.その子供が到着する。
  Bikota gwadi magudiwena.
 (到着する 子供 その)

4.この年配の女性がそれらのカヌー(複数)を見た。
  Legisi waga makesiewna namwaya miana.
 (見た カヌー それらの 年配の女性 この)

5.どの男性が二頭の豚を殺したか?
  Amtona tau lekalimati nayu bunukwa?
 (どの 男性  殺したか 二頭の 豚)

6.年配の女性達が二人の男性を世話した。
  Leyamatasi teyu tauwau nunumwaya.
 (世話する 二人の 男性 年配の女性達)

7.その賢い女性が何かをみる。
  Bigisi kwetala vivila minawena nakabitam.
 (見る 何か 女性 その  賢い)

8.何匹の犬が到着したか?
  Navila ka'ykwa lekotasi?
 (何匹の 犬が 到着したか?)

9.首長達がどのカヌーを見たか?
  Amakena waga legisesi gweguyau?
 (どの カヌー 見た? 首長達)

10.その美しい子供がこの石を見た。
  Legisi dakuna makwena gwadi magudiwena gudimanabweta.
 (見た  石  この  子供が その   美しい)

11.それらの白人の男性がいくつのものを食べたか?
  Kwevila lekamkwamsi dimdim mtosiwena?
 (いくつのもの 食べた? 白人男性 それらの)

12.賢い首長が一頭の野生の豚を殺した。
  Lekalimati natala bunukwa magasisi guyau tokabitam.
 (殺した 一頭の  豚  野生  首長 賢い)

13.何人の女性がこの男性を世話するか?
  Navila vivila biyamatasi tau mtona?
 (何人の 女性 世話する? 男性 この)
なんとなくわかったが,詰めが甘すぎた。動詞の過去形と現在形,名詞の単数形と複数形,指示代名詞の変化などに注意が行き届かなかった。脚本家の今井雅子さんが丁寧に解読していて参考になる。

2022年8月16日火曜日

光の屈折

水中の物体を空気中からみると浮き上がって見えるのは,屈折率が異なった媒質の間を光が進むときに,光路が屈折することによる典型的な現象である。

昔,理科教育メーリングリストで,水中にある物体が浮き上がって見えるときに,その像ができるのはどの位置かということが話題になった。物体を通る鉛直線ℓを含む断面でみれば,視点からみてℓより手前に結像する。一方,これを上から俯瞰してみれば,水平方向では媒質が一様なので,同じ高さにある両眼と物体を結ぶ光線の射影は曲がらない。したがって,像はℓ上に存在することになる。

これは,物体の物理的な結像位置が水平方向と鉛直方向で異なっているということで理解できる。実際の見え方は,人間がこれを脳の中でどのように処理するかに依存するのだろう。

とりあえず,「鉛直線ℓを含む断面でみれば,視点からみてℓより手前に結像する」ことを下図で確かめる。なお空気に対する水の屈折率を$n$とする。

水中の物体Pから出た光が水面に入射する角度を $\alpha$および$\ \alpha'=\alpha+\delta \alpha \ $とし,出射する角度を$\beta$および$\ \beta'=\beta+ \delta \beta \ $とする。スネルの法則から$\ n = \frac{\sin \beta}{\sin \alpha}=\frac{\sin \beta'}{\sin \alpha'}\ $なので,$\sin \beta = n \sin \alpha \ $から,$\cos \beta \cdot \delta \beta = n \cos \alpha \cdot \delta \alpha \ $であることに注意する。

Q点及びQ'点を通って虚像を結ぶ破線の式は,$y = \cot \beta ( x - d \tan \alpha)$,$y=\cot \beta' (x - d \tan \alpha') $となる。その交点が像の座標となる。$\delta \alpha$と$\delta \beta \ $を微少量として,$\tan \alpha' = \tan (\alpha + \delta \alpha) = \tan \alpha + \frac{\delta \alpha}{\cos^2 \alpha}$,および,$\cot \beta' = \cot (\beta + \delta \beta) = \cot \beta - \frac{\delta \beta}{\sin^2 \beta}\ $が成り立つ。

これから,$-\frac{\delta \beta}{\sin^2 \beta} x = \frac{\delta \alpha}{\cos^2 \alpha} d \cot \beta$であり,$ \frac{x}{d} = -\frac{\sin \beta \cos \beta}{\cos^2 \alpha } \frac{\delta \alpha}{\delta \beta} = -\frac{n \sin \alpha}{n \cos \alpha} \frac{\cos^2 \beta}{\cos^2 \alpha}\ $となる。

したがって,$\dfrac{x}{d} = - \tan \alpha \Bigl( \dfrac{1-n^2 \sin^2 \alpha}{\cos^2 \alpha} \Bigr)$

これにより,$n=1$では,$\dfrac{x}{d}= -\tan \alpha$から,点Xはℓ上になる。また,$n>1$では,$\dfrac{x}{d} \gt -\tan \alpha \ $から点Xはℓより手前に位置することになる。


図:水による光の屈折

2022年8月15日月曜日

2022年8月14日日曜日

2022年8月13日土曜日

2022年8月12日金曜日

2022年8月11日木曜日

国立大学のLMS一覧

高等教育研究センター(2)からの続き

阪大全学教育推進機構教育学習支援部の村上正行さんによれば,今回の京都大学の高等教育研究開発推進センターの廃止は,予算の問題というよりむしろ学内政治の問題に起因するらしい。そこで気になったのが競合するシステムが京大内に存在するのかということ。

京都大学の情報基盤を管理・運用しているのは,情報環境機構である。沿革によれば,2002年に大型計算機センターと総合情報メディアセンターを統合した,学術情報メディアセンターが設置された。その後,2005年に京大の5機構の1つとして,情報環境機構が設けられ,徐々に組織整備が進められた。組織図によれば,学術情報メディアセンターとは別組織だが,機構の一部はその建物を利用している。

しかし,高等教育研究開発推進センターは,情報環境機構の組織図に明示的には現れてこない。情報環境機構では,LMSのSAKAIを利用したPandAなどが運用されていて,授業資料の配付などはこの中に閉じこめられていた。そもそも,OCWやMOOCとは別方向のベクトルになっている。

なお,国立大学のLMS一覧がまとめられていたので,紹介する。大阪教育大学は,多数派の(無料で安上がりの)moodleを使っている。SAKAIを使っているのは,京大と名大,


図:国立大学が導入しているLMS(たれにゃんこさんの資料から引用)

[1]国立大学のLMSの一覧(たれにゃんこ)

2022年8月10日水曜日

画像生成AI(1)

 AI技術の応用が浸透しつつある。その一例として,自然言語処理と画像生成を組み合わせて,短文やキーワードのセットから画像(絵画,写真,デザイン)を生成するモデルがはやっている。

代表的なものが,OpenAIというイーロン・マスクがかんでいる非営利団体がつくった,DALL·E 2(ダリ)である。2021年にDALL·Eが公開され,1年後にその解像度が倍になった。凄いクオリティの絵や写真を大量に生成することができる。

かつて,AI(+ロボット)× BI(=ベーシックインカム)の時代になれば,人間は単純労働から解放されて,創造的な活動に専念できるという話があったかもしれない。現実には,創造的な活動や知的活動の方がAIに奪われてしまい,人間に残されたのは,被階級支配と低賃金単純労働だけだということになりそうだ。

それはすでに,小松左京の「五月の晴れた日」にという短編で預言されていた。読み始めは,優雅に芸術論をたたかわす人間と機械的に動くロボットの下僕の話のように始まるが,やがて,人間というのはアンドロイドであり,ロボットのように描写されていた側が反乱を起こす人間だという種明かしがされる。そこには,人間の業とでもいうべき進歩への渇望と,それが招来する混乱を阻止すべく保守的にプログラムされたアンドロイドが対比されていた。

「五月の晴れた日」は,ハヤカワSFシリーズ(銀背)の3136「神への長い道」に収録されていた。高校時代,この短編集を米島君に貸したときに,「神への長い道」「極冠作戦」「4次元ラッキョウ」などに○をつけて渡したが,彼は「五月の晴れた日」の良さがわからないのかといったものだった。確かにそのとおりなのである(黄金分割が 1:√2 としていたのはご愛嬌)。

DALL·E 2に類似したシステムとして,GoogleのImagen,MicrosoftのNUWA-Infinity,DiscordのMidjourneyなどがある。クオリティはいまいちだけれど,DALL·E mini からスピンアウトして誰でも無料で使えるシステムがcrayonである。早速試してみた。いまのところ,256x256の解像度である。


写真:craiyonの例
(a painting of a fox sitting in a field at sunrise in the style of Claude Monet)

2022年8月9日火曜日

マックス・ボルン

オリビア・ニュートン・ジョン(1948-2022)が亡くなった。

1974年ごろに最初のヒットが出ているが,すでに洋楽ポップスを聴かなくなっていた時期だ。したがって,復習してみたけれどほとんど知らない曲だった。同世代の歌手でもメリー・ホプキン(1950-)ならば,1968年に悲しき天使がヒットしたので,ちゃんとキャッチアップしていたのだけど。

オリビア・ニュートン・ジョンが,行列力学の創始者の一人マックス・ボルン(1882-1970)の孫だというのは,有名な話だ。ボルンは,量子力学の確率解釈で良く知られているが,そもそもヴェルナー・ハイゼンベルク(1925-1976)が最初に発見した量子規則が,当時,物理学ではあまり使われていなかった行列の形で表現できることを指摘したのがボルンであり,1925年のボルン・ヨルダンや1926年のボルン・ハイゼンベルク・ヨルダンの論文で,量子力学の基本原理が確立したわけだ。

オリビア・ニュートン・ジョンはマックス・ボルンの娘イレーネの子供であるが,息子グスタフの子供にも,人類学者・音楽家のジョージナ・ボルンと,俳優のマックス・ボルン(フェリーニのサテリコンに出演)がいる。ひ孫も含めてなんだか芸能人がたくさん輩出されているのだった。


写真:目の辺りがオリビアに似ているマックス・ボルン(Wikipediaから引用)

2022年8月8日月曜日

高等教育研究センター(2)

高等教育研究センター(1)からの続き

8月4日,京都大学の高等教育研究開発推進センターの廃止のお知らせが公開された。2022年9月30日を持って廃止されたあと,コンテンツの一部は,教育学研究科高等教育学コースのHPに移管されるとあるが,ほとんどはそのまま無残にも捨てられるようだ。廃止されるセンタースタッフの所属は上記の教育学研究科に確保されている。

今後のICT活用教育関連の各プラットフォームの対応について,は,JMOOC(gacco)のうち,国際高等教育院附属データ科学イノベーション教育研究センターから提供する講義のみ継続ということで,その他は全滅なのである。

(1) 京都大学OCW

(2) MOOC(edX)

(3) SPOC(KoALA

(4) JMOOC(gacco)

(5) サポートサイト(CONNECT)

(6) 高大接続を促進するためのポータルサイト(KNOT)

確かに,あれもこれもと欲張ってゴチャゴチャしていたので,整理が必要であったかもしれない。OCW閉鎖への対応についてはアナウンスがでているが,以下の回答に関係者の無念さがにじんでいる。

京都大学のOCWは今後どうなるのですか

10月以降の状況については当センターではお答えしかねます。OCWは今世紀に入りオープンエデュケーション/教育のオープン化と呼ばれるムーブメントの中で広がってきた取り組みで,2019年にはユネスコでOER*勧告(ICTを利用した教育のオープン化に関わる教材のグローバルな普及促進に関する勧告)が全加盟国の一致でなされています。今後、国内でも教育のオープン化に関わる取り組みが広がってくると思われます。2005年の立ち上げ以降,その一端を担ってきた本学のOCWがこのような形で失われることは残念でなりません

[1] 京大OCW閉鎖の件に寄せて:これからの可能性だったものの一つ(digitalnagasaki)

2022年8月7日日曜日

2022年8月6日土曜日

2022年8月5日金曜日

2022年8月4日木曜日

2022年8月3日水曜日

イチカ

天理市デジタル地域通貨イチカ」が8月1日からスタートした。 

各戸には案内が送付されるということだったが,ようやく届いた。MilaboPrairieというアプリを使ったもので,さっそく登録してみると,愛媛県西条市と奈良県天理市が選択肢としてでてきたので,このアプリを使ったものとしては全国で1-2例目になる。

地域通貨アプリは他にもあるが,chiicaが9市町村で導入されている。regionPAYは大阪のキャンペーンで利用された例が1件あるだけで,現在は利用が停止されてる。全国の地域通貨のリストがあったが,2017年で更新が止まっていた。

天理市のデジタル地域通貨では,3000ポイント(=3000円分)が各市民に付与されて,10月31日まで有効となっている。コロナ禍に対する生活支援と地元消費喚起が目的であり,ボランティア活動や健康増進活動ともリンクさせるようだ。

なお,スマートフォンの利用が難しい高齢者などの場合は,紙のクーポン券が発行されている。


図:天理市イチカのページから引用

2022年8月2日火曜日

高等教育研究センター(1)

昨日,京大の科学哲学の伊勢田哲治(1968-)さんが,次のようにツイートしていた。
京都大学の教育に関する情報共有・情報発信をしてきた高等教育研究開発推進センターが9月末で廃止されるとのこと。組織としては廃止されるとしても業務は移管されて残るのだろうと思っていたら、OCWやMOOCやCONNECTも含めてほとんどの業務がそのまま廃止の予定だという。
えぇーっ!である。早速,京都大学高等教育研究開発推進センターのホームページを見たが何も書いていない。しかし,センター長の飯吉透さんの任期が,2022年4月から6ヶ月(普通はありえない)となっていたので多分そうなのだろう。

放送教育開発センター(1978-2003)改めメディア教育開発センター(1997-2009)の廃止,教育情報ナショナルセンター(2001-2011)の廃止につぐ,日本のICT教育システムがまったく長続きしない問題の大ヒット事案だ。

各大学の高等教育研究センターは,国立大学の教養部解体の過程で1990年代半ばに登場した。ちょうどインターネットの商用化がスタートしたころだが,当初は,ICTとの関連が強調されていたわけではない。その後,OCW/MOOC,YouTubeからコロナ禍下でのZoom/オンライン授業へと,高等教育におけるICT対応の中心的な役割も果たしてきた。本当に,この盥の水をすべて流してしまうのだろうか?
東北大学
http://www.ihe.tohoku.ac.jp
大学教育研究センター(1993-)
高等教育開発推進センター(2004-)
高度教養教育・学生支援機構(2014-)

東京大学
https://www.he.u-tokyo.ac.jp
大学総合教育研究センター(1996-)
[全学センター→学内共同教育研究施設(2019-)]

名古屋大学
https://www.cshe.nagoya-u.ac.jp
https://www.cshe.nagoya-u.ac.jp/link/jpcenter.html( 国内の高等教育研究センター)
高等教育研究センター(1998-)

京都大学
http://www.highedu.kyoto-u.ac.jp
高等教育教授システム開発センター(1994-)
高等教育研究開発推進センター(2003-)
(2022-)

大阪大学
https://www.celas.osaka-u.ac.jp
https://www.tlsc.osaka-u.ac.jp
全学共通教育機構(1994-)
大学教育実践センター(2004-)
全学教育推進機構(2012-)

2022年8月1日月曜日

変体仮名

変体仮名をmacOSで表示させるべくあれこれ調べたがうまくいかなかった。もちろんiPadOSではだめだ。

調べてみると,Unicode変体仮名フォントをインストールするだけでよいとある。Unicode10.0で規格化された変体仮名を収録したフォントが UniHentaiKana であり,IPAmj明朝フォント(Ver.004.01)の変体仮名グリフのみを取り出してUnicodeのコードポイントを与えたものだ。

UniHentaiKana-Regular.otfをインストールした結果,フォントリストには現れ,Chrome,JeditΩ,TextEdit,Memo,Pages,KeyNote,egword Universal2 などでは表示できたが,Safari,MS Word,PowerPointではうまくいかない。Safariでは,.cssファイルを,* { font-family: UniHentaiKana; },としてこれを指定したがそれでもだめだった。

というわけで,以下のテーブルはうまく表示されないかもしれない。

あ=安: 安𛀂 愛𛀃 阿𛀄 惡𛀅

い=以: 以𛀆 伊𛀇 意𛀈 移𛀉

う=宇: 宇𛀊𛀋 憂𛀌 有𛀍 雲𛀎

え=衣: 衣𛀑𛀒 江𛀁 盈𛀏 縁𛀐 要𛀓

お=於: 於𛀔𛀕 隠𛀖


か=加: 加𛀘 佳𛀗 可𛀙𛀚 嘉𛀛 我𛀜 歟𛀝 賀𛀞 閑𛀟 香𛀠 駕𛀡 家𛀢

き=幾: 幾𛀤𛀥 喜𛀣 支𛀦 木𛀧 祈𛀨 貴𛀩 起𛀪 期𛀻

く=久: 久𛀫𛀬 九𛀭 供𛀮 倶𛀯 具𛀰 救𛀱

け=計: 介𛀲𛀳 希𛀴 氣𛀵 計𛀶 遣𛀷 家𛀢

こ=己: 古𛀸 故𛀹 許𛀺 期𛀻 子𛂘


さ=左: 乍𛀼 佐𛀽𛀾 左𛀿 差𛁀 散𛁁 斜𛁂 沙𛁃

し=之: 之𛁄𛁅 事𛁆 四𛁇 志𛁈 新𛁉

す=寸: 受𛁊 壽𛁋 數𛁌𛁍 春𛁎𛁏 須𛁐𛁑

せ=世: 世𛁒𛁓𛁔 勢𛁕 聲𛁖

そ=曽: 所𛁗𛁘 曽𛁙𛁚 楚𛁛 蘇𛁜 處𛁝


た=太: 堂𛁞 多𛁟𛁠 當𛁡

ち=知: 千𛁢 地𛁣 智𛁤 知𛁥𛁦 致𛁧 遅𛁨

つ=州: 州𛁩𛁪 津𛁫 都𛁬 徒𛁭

て=天: 亭𛁮 低𛁯 傳𛁰 天𛁱𛁲𛁳 帝𛁴 弖𛁵 轉𛁶 而𛂎

と=止: 土𛁷 度𛁸 東𛁹 登𛁺𛁻 砥𛁼 等𛁽 徒𛁭


な=奈: 南𛁾 名𛁿 奈𛂀𛂁𛂂 菜𛂃 那𛂄𛂅 難𛂆

に=仁: 丹𛂇 二𛂈 仁𛂉 兒𛂊 爾尓𛂋𛂌 耳𛂍 而𛂎

ぬ=奴: 努𛂏 奴𛂐 怒𛂑

ね=祢: 年𛂒𛂓𛂔 根𛂕 熱𛂖 禰祢𛂗 子𛂘

の=乃: 乃𛂙 濃𛂚 能𛂛𛂜 農𛂝


は=波: 八𛂞 半𛂟 婆𛂠 波𛂡 盤𛂢𛂣 破𛂤 者𛂥𛂦 葉𛂧 頗𛂨

ひ=比: 悲𛂩 日𛂪 比𛂫 避𛂬 非𛂭 飛𛂮𛂯

ふ=不: 不𛂰 婦𛂱 布𛂲

へ=部: 倍𛂳 弊𛂴𛂵 遍𛂶 邊𛂷 邊辺𛂸 部𛂹

ほ=保: 保𛂺𛂻 報𛂼 奉𛂽 寶𛂾 本𛂿𛃀 豊𛃁


ま=末: 万𛃂 末𛃃𛃄 満𛃅𛃆 萬𛃇 麻𛃈 馬𛃖

み=美: 三𛃉 微𛃊 美𛃋𛃌𛃍 見𛃎 身𛃏

む=武: 武𛃐 無𛃑 牟𛃒 舞𛃓 无𛄝𛄞

め=女: 免𛃔 面𛃕 馬𛃖

も=毛: 母𛃗 毛𛃘𛃙𛃚 茂𛃛 裳𛃜 无𛄝𛄞


や=也: 也𛃝𛃞 屋𛃟 耶𛃠𛃡 夜𛃢

ゆ=由: 游𛃣 由𛃤𛃥 遊𛃦

よ=与: 代𛃧 余𛃨 與与𛃩𛃪𛃫 餘𛃬 夜𛃢


ら=良: 羅𛃭 良𛃮𛃯𛃰 等𛁽

り=利: 利𛃱𛃲 李𛃳 梨𛃴 理𛃵 里𛃶 離𛃷

る=留: 流𛃸 留𛃹𛃺𛃻 累𛃼 類𛃽

れ=礼: 禮𛃾𛃿 連𛄀 麗𛄁

ろ=呂: 呂𛄂𛄃 婁𛄄 樓楼𛄅 路𛄆 露𛄇


わ=和: 倭𛄈 和𛄉𛄊 王𛄋𛄌

ゐ=為: 井𛄍𛄎 居𛄏 為𛄐 遺𛄑

ゑ=恵: 恵𛄒 衞衛𛄓𛄔𛄕

を=遠: 乎𛄖𛄗 尾𛄘 越𛄚 遠𛄛𛄜 惡𛀅

ん=无: 无𛄝𛄞

より:ゟ


図:macOS上のJeditΩにおける変体仮名の表示例

2022年7月31日日曜日

手計算による第7波ピーク予測(2)

手計算による第7波ピーク予測(1)からの続き

2週間前に感染者数の予測をしたが,おおむねこの範囲で推移しているようにみえる。

今週末(7/30土)の東京の週平均新規感染者数/日は,3.17万人/日である(ピークは7/28木の4.0万人)。先週末(7/23土)の同じ値は,2.30万人/日だったので,前週に対する平均の1週間増加率は,1.37である。この増加率が2週間後に0になるとすれば,週単位でみたら,来週末8/6土には,3.7万人/日(対前週増加率は1.18)でピークアウトする

NHKが好きな名古屋工業大学の平田グループのAI予測では,8/6土に3.9万人/日ということで,まあ今回はこちらの値と一致しているが,AI予測の意味があるのかどうだか・・・。

それはそうと,ついに,日本の100万人当たりの新規感染者数/日が世界一になっている。Our World in Data の,Daily new confirmed COVID-19 cases per million people(1週間移動平均)である。日本と韓国がほぼ同様の振る舞いを見せて,ニュージーランドを追い越してしまった。



図:100万人当たりの新規感染者数/日(Our World in Data より)

2022年7月30日土曜日

ネーミングライツ(2)

ネーミングライツの元にある命名権はそもそも誰にあるのか。

自分の名前の國雄は祖父がつけたらしい。自分の子どもたちは,若干雑音があったけれど,われわれ夫婦で決めた。これからの世代はほとんど親が子の名前を決めるのだろう。だからきらきらネームが流行ったりもする。

インターネットのドメイン名空間での命名権をめぐっても昔はかなりいろいろあった。ICANN がドメイン名空間の命名規則を決めている。そのjpドメイン配下は,JPNIC(いまではJPRS)が管理している。学校向けの ed.jp ドメインができるときの騒動は,そばに関係者がいたので間近で見ていた。あれだけがんばって獲得した ed.jp だったけれど,今どれだけ使われているかというと,なんだか微妙である(地元の天理市は,http://ed.city.tenri.nara.jp だから・・・)。

天体の命名は,国際天文連合(IAU)が行う(小惑星の命名法)。新元素の場合は,発見グループだったから,素粒子もそうなのだろうか,あるいはParticle Data Groupが調停する?化合物については,国際純正・応用化学連合(IUPAC)によって,命名規則が決まっているので,問題ないのかもしれない。生物の場合は,学名に対して,国際動物命名規則,国際藻類・菌類・植物命名規則,国際原核生物命名規則などが定まっており,献名という慣行もある。これらの命名規則を管理するのは,国際生物科学連合(IUBS)になりそうだ。

ネーミングライツに話をもどせば,2010年の大阪府からはじまって横断歩道橋の命名権が各地で売り出されている。いっそのこと,国道や高速道路のインターチェンジ区間に名前を付けて売り出せばいいではないかと思ったら,現職の官僚がそれに掠る話を書いていた。

例)国道8番ラーメン号線,国道24時間テレビ号線,国道7イレブン号線などなど。

[1]ネーミングライツに関する考察(木村俊介)

2022年7月29日金曜日

ネーミングライツ(1)

公共施設などの「名前」=命名権(ネーミングライツ)を売るのが流行っている。

大阪教育大学が,エスカレータの命名権をSKY株式会社に売った。国立大学の施設では,ホールや教室などの事例が多いが,エスカレーターは全国初めてとのこと。それはそうだろう,全長120mクラスのエスカレータがあちこちの大学にあるという話は聞いたことがない。

大阪教育大学ではすでに,附属図書館のまなびのひろばが,東京書籍 Edu Studioとなっているので,2例目となる。

日本の命名権導入施設一覧によれば,かなりの数の公共施設がネーミング・ライツを売っている。大学でも同様だ。3〜5年程度の契約で,年間100万円〜あたりが相場だ。一般のスポーツ施設や公共施設と違って,当該大学の固定された学生が見るだけだ。どこまで宣伝効果があるのかはちょっと疑問だ。

でも,もしそれが成立するのならば,すべての教室や研究室に名前をつけるとか,扉に日替わりで広告を出すようにすれば,1件/1ヶ月10万円としても毎月1000万円オーダーの収入が見込まれる。そのうち大学の中は広告媒体で汚染されまくることになるかもしれない。椎名誠のアドバードの世界はこうやって現実の未来に実現するのか。

いっそのこと大学ホームページもアフィリエイトで埋めたらどうか。あるいは,通学時の関係者には大学おそろいのTシャツを着せて,そこに宣伝を入れるという手もある。附属学校園も含めれば,教職員・児童生徒学生総数が1万人なのでこちらのほうが効果的かもしれない。

あるいは,キャンパス名称を売り出したほうがよいかもしれない。柏原キャンパス改め,柏原ケニスキャンパスとか,天王寺キャンパス改め,天王寺啓林館キャンパスとか。あるいはいっそのこと,大阪教育内田洋行大学にしたらどうか。


写真:スカイエスカレーターの頂上部(撮影 2022.7.28)

P. S. 失礼しました。大阪教育大学のホームページを確認してみたところ,すでに広告枠が販売されていた。Recruit 就活スーツの選び方 とあったので,学生課とか生協による解説記事かとおもいきや,おもいきり民間企業のページにさらわれてしまった。

2022年7月28日木曜日

しかせんべい

奈良県民になって30年,奈良の名所も一通り訪れた。ときどきテレビでは,鹿せんべいを買った人が鹿に追いかけられて往生している場面が映る。これを見て,あ〜素人だぁ(こどもならしかたないけど)と即席奈良県民は余裕のよっちゃんで笑っていた。

さて,夏休みの孫たちを連れて,久しぶりに奈良公園で鹿にせんべいを与える行事が勃発した 。バーバの指示で,一束200円に値上げされてしまったせんべいを二束,乾いた寡黙な婆さんから購入した。おつりの百円玉をもらった瞬間を合図に,近くで待機していた鹿チームがどわっと押し寄せてきた。

しかも,そのうちの数頭の牡鹿はとても立派で綺麗な角を持っていて,ぐいぐいぐいと迫ってくるのだ。鹿の角切りは秋の行事であり,今は,春に生まれた仔鹿が鹿苑を出て公園デビューしたばかりの時期。発情期ではなさそうなので,そこまで危険はないのかもしれない,が,しかし鹿の角は怖い。

昔,六甲山牧場に金沢から出てきた母親を連れて行ったことがある。牛といっしょに記念撮影をしようと近づいたところ,気分を害した牛に思い切り尾てい骨を突かれてしばらく痛かった。それ以来,互いに気持ちが通じにくい偶蹄目はちょっと苦手だ。

Wikipediaの鹿せんべいの記事では,食糧が不足する冬の時期の方が危ないと書いてあるが,まったく関係ありません。自分が鹿にせんべいをやるターンだったら,その場で包みを破って,ワアキャアいいながら片づけてしまえばいいようなものの,今回はこの二束の鹿せんべい,なんとか孫のすーちゃんまでバトンを繋がなければならない。

一番大きな角の鹿に迫られ,小突かれ,服を引っ張られながら,ようやくかーかへのバトンタッチに成功した,が,鹿はそんなこと関知しないので統一教会への追及の手を緩めない。クネクネ歩きでなんとかそれをかわしながら,鹿せんべい売り場の婆さんから70mほどでようやく彼らのテリトリー境界を越え,かろうじて脱出に成功した。

教訓:鹿せんべいを甘く見てはいけません。


写真:鹿せんべい売りの乾いた婆さんと鹿に迫られるジージ(撮影:2022.7.27)

2022年7月27日水曜日

WEB5

Web3からの続き

前回はそもそものWeb3の説明を省いてしまったが,自分でもよくわからないし,調べてみてもまったくピンと来ない。なんとなくブロックチェーンのことかなと霧のかかった頭をひねるだけ。ところでTwitterでは次のような的確な説明があった。

@4niruddha:私からは今のWeb3界隈って,こんな風に見えているんですが,皆さんはどうでしょうか?

@shimy_net:Web2は情報技術屋が作ったものでWeb3は情報商材屋が作ろうとしているもの

@ito_yusaku:インターネットを検索すれば有益な情報が手に入ったのがWeb2.0の時代,インターネットで検索しても書籍を買ってもゴミのような情報しか手に入らくなった時代がWeb3

@AkioHoshi:
(1) 2014年版の延長のブロックチェーン技術文脈のWeb3
(2) 2021年版の投資文脈のWeb3
(3) 日本語圏の劣化版Web3ナラティブ
(4) ジャック・ドーシーのWeb5

@seagetch:Web3,というか分散技術は,既に社会の要請からして時代遅れだと思うんだよね…プラットフォーマーが居ない分散技術は1回ポストした情報を第3者が消すための(社会的活動を含む)コストが圧倒的に高くて,プロパガンダやフェイクがこれだけ蔓延っている時代にとても運用に耐えうると思えない

 

なお,ジャック・ドーシー(1976-)は2006年にTwitterを立ち上げた人であり,WEB5(=WEB2+WEB3)を提唱している。まあ,いずれにせよ,Building an extra decentralized web that puts you in control of your data and identityというスローガンで,政府や企業には対抗できたとしても,人間の悪意の群れにどう対応するかについては答えが出ていないような気もする。

そもそも,ティム・バーナーズ=リー(1955-)のセマンティック・ウェブはどこにいったのよ。


図:単なるスローガン(WEB5から引用)

2022年7月26日火曜日

Web3

今様の事どものめづらしきを,言ひひろめ,もてなすこそ,又うけられぬ。世にことふりたるまで知らぬ人は,心にくし。(徒然草 第78段の冒頭から)

というわけで,Web3(ウェブスリー)がバズっている。この流行り概念を解説するために,インプレスが出版した「いちばんやさしいWeb3の教本(第1章と2章が無料公開)」の内容があまりにもでたらめだったので,総スカン状態になって,ついに回収騒ぎまで発展した。

そもそものはじまりは,Web2.0(-2004-)であり,これが更にバージョンアップした概念として,Web3.0改めWeb3(小数点をつけないほうがモダンらしい)が喧伝されたということになる。このキーワードは,××2.0という表現の始まりであり,その後のSociety5.0などに続く悪癖の走りであった。

人のことはいえないもので,2006年から2008年にかけて「デジタル教材活用支援のための科学教育ポータルサイトのデザイン」で科研費を獲得した際のキャッチフレーズにWeb2.0を使わせてもらった。自分が書いた報告書によれば(記憶のかなただけれど)

科学教育におけるICT活用を推進するため,デジタル教材の学校教育現場での活用を促す「科学教育ポータルサイト」を開発する。このサイトは,Web2.0とよばれるウェブサービスの次世代技術(例えば,XMLを用いた利用者による情報分類,AJAXによるスムーズインターフェーズ,PageRank的なウェブページ評価,分散されたロングテール情報の収集,Wikipedia的な参加者信頼,RSS/ATOMによる情報通知システム,CMS/BLOGによるサイト管理の効率化)などの中から必要な技術を採用して,学校教員が利用しやすい,参加しやすい科学教育のためのポータルサイトのデザインを追求するものである。

という謳い文句だったが,Ploneベースのサイトにしたため,結局継続的に運用できなかった。


図:Web2.0のコンセプト群(Wikipediaから引用)

2022年7月25日月曜日

全固体電池

スマートフォンなどのデジタルデバイスはほとんどリチウムイオン電池(二次電池=充電池)を使っている。これは,正極と陰極および有機溶媒を用いた電解質からなっている。

今の電気自動車(EV)にもこのリチウムイオン電池が使われているが,次のような問題がある。(1) 衝突の際に発火の危険性がある。(2) 有機溶媒電解質の性質から高温での安全性の危険,低温での機能不全,温度変化による劣化などがある。 (3) 充電に時間がかかる。 (4) 有機溶媒の漏れを防ぐための密閉構造に余分の重量が生ずる。

これらの課題を解決するものとして,電解質部分が固体のイオン伝導体になっている,全固体電池の開発が進められている。なお,経済産業省がこちらへの政策誘導を急速に進めたため,日本のリチウムイオン電池の世界シェアが,2015年の40%から2020年の20%から急減したというのが,朝日新聞論座の見立てだ。

Wikipediaは仕方ないにしても,全固体電池とか固体電解質の固体→個体というミスプリントがあまりにも多いのはいったいなんなのだろうか?まあ,NHKニュースが毎日のように放送中に訂正を出す時代なので,そんなものかもしれない。

小学生のころに,単一マンガン乾電池の外側の紙を取り除くと亜鉛の負極があらわれた。これをニッパーで切り開いて,正極の炭素棒を取り出したことがある。マンガンの混じった電解質は糊状になっていた。この炭素棒を使って電気分解をするつもりだったような気もするが,そこまで至ったかどうかは記憶にない。


図:マンガン乾電池の構造(NeoMagから引用)


[1]全固体電池とは?科学の目でみる,社会が注目する本当の理由(産総研)

[2]無機固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池の開発(辰巳砂昌弘)


2022年7月24日日曜日

キリスト教会

クリスマスからの続き

まわりが真宗大谷派で囲まれつつも,キリスト教とはいろいろ縁がある。出身の若草幼稚園日本基督教団若草教会に併設されていて,卒園してからは教会の日曜学校にしばらく通っていた。

親戚にも,立教大学とか青山学院大学とか神戸女学院大学とか関係者多数ありだ。そもそも大学院の指導教官だった森田正人先生の葬儀も聖イグナチオ教会(?)だった。

さて,金沢泉丘高校に入学して,クラブに入るつもりはなくブラブラしていたのだが,1年8組理数科のアイウエオ順の座席が近かった倉橋克人君が,上出誠君と私を誘い込んで,とりあえず,E. S. S. の一日見学に行くことになった。その結果,なんだか様子がよくわからないままに,いつのまにか入部することになってしまった。同じクラスの山口雄三君も野々市中学校繋がりの高橋裕之君とともに参戦した。

テキストは,アメリカ口語教本の入門編であり,付録(?)の英語の発音練習テープがあって,それをダビングして自宅のSONYのテープレコーダーで聞いていた。そうはいっても,秋の文化祭の英語劇の練習が最も重要な活動なのだった。

藤場俊基君の消息を見た後に,E. S. S. の我々の学年の部長だった倉橋克人君はいずこかと調べてみた。たぶん,この日本基督教団の玉島教会倉敷市の牧師の倉橋克人師なのではないだろうか。そうか,うちのクラブからは宗教者が2名輩出されたということなのか。

倉橋君は,上智大学(カトリック系)に進んだはずだ。大学1年のときに米島君を訪ねて文京区の茗荷谷にあった石川県学生寮を訪れた。今と違って連絡手段が少なく,米島君とはすれ違いなってしまった。そこでたまたま居合わせた同寮の倉橋君の部屋に泊めてもらったことがある。一方,先ほどの玉島教会の資料には,同志社大学(プロテスタント系)出身の牧師が代々受け継いでいるとあった。

[1]同志社大学人文科学研究所嘱託研究員としての論文など

[2]統一協会で被害に遭われた方々と現在関わりのある方々へ(日本基督教団)

2022年7月23日土曜日

速記部と英語部

英語部と理科部からの続き

あれは中学校2年の秋だったかのかどうか,そろそろ高校受験が気になり出した頃。クラスでは,グループで手分けして高等学校の様子を聞き取りに行くという作戦が展開されていた。自分は第一志望の金沢泉丘高校のグループに手をあげたが,他は興味本位の女子生徒が中心のチーム編成となった。

野田中は,金沢大学附属,泉丘,二水という進学校を校区にかかえ,泉丘への進学者数も年間40名でトップの位置をしめていた。午後の授業が終ってから30分ほど歩いて泉丘高校にたどり着いた。職員室の戸を開けると先生はほとんどおらず,一人だけおじいさん先生がぽつんと座っていた。おそるおそる今回の訪問の目的を切り出して,話をうかがうことにする。その先生は数学の先生だったが,わけのわからない中学生の質問に親切に丁寧に答えてくれた。

1時間ほどのヒアリングが終わり,校舎を見学してから帰ろうかと古い建物を見て回ったが,夕方であたりはもうす暗くなっていた。蛍光灯がついている教室があったので覗いてみるとと十人くらいの高校生が集まっている。度胸がある女子が声をかけると,速記クラブの仲間だという。そこで聞いた内容のほうが,高校生活の具体的なイメージがわかってずっと役に立つものだった。

そうか,速記クラブというものがあるのかと,記憶の片隅にメモしつつ,自宅まで30分の暗い夜道を帰っていった。

その後,無事に金沢泉丘高校に入学したが,そのころには速記部はほぼ消滅状態だったようだ。倉橋君に誘われて入ったE. S. S. の同学年の小幡さんが,速記部の最後の2人のうちの1人であったというのは後に知ることになる。

そんなこともあって,親に頼んで早稲田速記の通信教育を受けていたのはいつごろだったろう。おもしろかったけれど,いつものように飽きっぽくて長続きせずに挫折したのだった。


図:早稲田式速記の五十音(早稲田式の歴史から引用)

2022年7月22日金曜日

英語部と理科部

教行信証からの続き

藤場俊基君は,金沢泉丘高等学校の E. S. S. で1年後輩だったが,それに関連した話。

中学生になったとき,両親が部活動は英語部に入ったらどうかと強く勧めてきた。そもそも,小学校1-2年のときに,近所にいた父親の会社の人に英語を習いに行かされたことがある。これからの子どもには英語を学ばせる必要があるだという認識が親にあったのだろう。

それをかーるく無視して,小学校のときと同様に理科部に入った。当時の野田中の理科部は,主に化学の実験をすることが多かった。というのも,化学の担当のO先生が,まったくやる気がなくて,生徒の自由活動にまかせるという完全放任主義だったので,実験という名目のいたずら好きの悪ガキが集まってきたからだ。

部活動の時間というのか放課後は,理科準備室の鍵が空いている中を,生徒が自由に出入りして適当な実験しているというカオスな状態だった。今から思えば考えられない危険きわまりない有り様だ。カラーの実験手引きカードがあって,数人ずつの友人グループが,それぞれ見様見真似で薬品を引っ張り出して試していた。ただ,理科の授業で基本的実験操作はみんな学んでいるので,それなりになんとかなったように思われた。

我々のチームが最初に取り組んだのが石鹸づくりである。肉屋で牛脂をただで手に入れ,水酸化ナトリウム溶液中で加熱してよく攪拌してから冷やし固めるのだが,なにやら怪しい塊ができただけだった。

次に取り組んだ実験が,塩化ナトリウムの結晶をつくるというもので,飽和食塩水をシャーレに入れて長時間放置したところ,1cm角の平たい結晶ができるにはできたけれど,ちょっといまいちだった。そこで,蒸留水を自前で用意しようということになった。

ない知恵を絞って,アルコールランプ,三脚,石綿金網,スタンド,丸底フラスコ,冷却管などを組み合わせ,三角フラスコに蒸留水を集めるわけだ。さあ,アルコールランプに火をつけようととしたときに,生物担当の池田良幸先生がこの実験系を見つけて,大きな声で「危ない!」といって制止した。我々は,並ばされて1時間ほどこっぴどく叱られ続けた。実験系が閉鎖系になっていて,蒸気圧で爆発する危険があったのだ。知恵は全く足りていなかった。
図:誤った蒸留の実験系の例(高校化学Net参考書より引用)

池田先生はその後,ときどき様子をみて話しかけてくれるようになった。

高等学校に入って,理数科の同級生だった倉橋君に誘われて自分が,E. S. S. に入部すると報告したころには,親は既に英語部活動を勧める雰囲気ではなくなっていた。受験勉強の方が大事だということだったのか,なんなのだろう。

2022年7月21日木曜日

教行信証

親鸞(1173-1263)の著作であり,全六巻からなる「顕浄土真実教行証文類」は,浄土真宗の根本経典であり,教行信証と略称されている。

これを調べたのは,藤場俊基(1954-)師(石川県野々市市常讃寺住職)の論文に,顕浄土真実教行証文類(けんじょうどしんじつきょうぎょうしょうもんるいというキーワードがあり,何か特別な難しいことを研究しているのかと気になったからだ。よくみると教行信証のことであり(聞いたことがない固有名詞から,名前はよく目にする言葉に変わった),特殊な内容ではなくて浄土真宗のど真ん中ストライクの話だった。

そもそも,なぜ藤場俊基師かといえば,彼はたぶん金沢泉丘高等学校の1年後輩で同じE. S. S. に所属していた藤場君(たぶん)だからなのです。藤場君は白峰村の出身で,ぽっちゃりして笑顔が似合う好男子だった。ネクラで人見知りしがちの自分とは違って,大変社交的であり,英語劇では半ズボンに帽子姿で,高橋裕之君のつくった木枠のとりもちにひっかかる役をしていた。

藤場君は,文系で早稲田の政経に進んだはずだ。明石書店の略歴によれば,早稲田を出て三和銀行に勤めた後に,大谷大学の大学院博士課程に進んでおり,いまでは真宗関係の著書も数ある有名人だった。YouTubeにも講演がいくつかあり,よくよく見れば面影が少し残っているような気がする。
総序:顕浄土真実教行証文類序
教巻:顕浄土真実教文類一
行巻:顕浄土真実行文類二・・・巻末に偈頌(げじゅ)「正信念仏偈(正信偈)」
別序:顕浄土真実信文類序(類三の前)
信巻:別序+顕浄土真実信文類三
証巻:顕浄土真実証文類四
真仏土巻:顕浄土真仏土文類五
化身土巻:顕浄土方便化身土文類六(本+巻末・後序)

P. S. 正信偈は,法事(真宗大谷派)の際に,毎度唱和しているので,教行信証とは実はおなじみだったのだ。

[1]関係における意味としての「仏陀」 -「教巻」に顕れる親鸞の仏陀観と真実の教の決定-(藤場俊基)
[2]『末法灯明記』の引用と親鸞(前)(藤場俊基)

2022年7月20日水曜日

セクト

我々の世代でセクトというと, 学生運動を担った新左翼のセクトが想起されるが,このたび問題になっているのは,フランスのセクトである。このたびというのは,安倍元首相暗殺事件における「カルトと政治の関係」の件だ。「政治と金の関係」というバズワードに匹敵する微妙な用語かもしれない。

セクトとは,宗教社会学的な価値中立な用法の他に,日本語でのカルトとほぼ同義で,通俗的に犯罪や危険とともに用いられる用法があり,ここでは後者を問題にする。

人民寺院ブランチ・ダビディアン太陽寺院オウム真理教などの事件が続いた後,1995年にフランスの国民議会に「フランスのセクト」という報告書が提出された。これを受けて2001年に「反セクト法」が成立する。当初は「セクト的な団体」を対象にしたものだったが,その後「セクトの逸脱行為」を取り締まる姿勢へ転換した。

そのセクトの逸脱行為とは次のようなものである。
(1)精神的不安定化
(2)法外な金銭要求
(3)元の生活からの意図的な引き離し
(4)身体の完全性への加害
(5)児童の加入強要
(6)何らかの反社会的な言質
(7)公序への侵害
(8)多大な司法的闘争
(9)通常の経済流通経路からの逸脱
(10)公権力への浸透の企て
なるほど,統一教会の活動には十分にあてはまっている。

2022年7月19日火曜日

ライシテ

 何年か前に,フランスの学校で,イスラム系の女子生徒がスカーフを被ることを禁止されたというニュースが流れた。真面目に世界史や政治・経済・地理を勉強していないので,フランスといえばフランス革命であり自由と平等と博愛の国だと思っていた。だから,個人の宗教的な自由を制限するというこのフランスの政策が全く理解できずに吃驚した覚えがある。

それが,フランス共和国憲法の基本原則となっているライシテ(フランスにおける政教分離原則)と関係しているということが,このたびの暗殺事件におけるカルト問題から芋づる式に繋がって掘り出された。

ライシテとは,(国家の)宗教的中立性・無宗教性および(個人の)信教の自由の保障を表わしている。フランス共和国憲法(1958)の第1条(共和国の基本理念)の第1項は次のようになっている。

フランスは,不可分の,非宗教的,民主的かつ社会的な共和国である。フランスは,出自,人種あるいは宗教の区別なく,すべての市民の法の前の平等を保障する。フランスは,あらゆる信条を尊重する。フランスは,地方分権的に組織される。(岩波文庫世界憲法集第2版から引用)

一方,ライシテの具体的な中身を定める政教分離法(1905)[2] を見ると,

第1条 共和国は,良心の自由を確保する。共和国は,公の秩序のために以下に定める制限のもとでのみ,自由な礼拝を保障する。

第2条 共和国は,いかなる礼拝に対しても,公認をせず,給与を支払わず,補助金を交付しない。・・・

この原則から,スカーフ禁止に至る道は複雑である。イスラム移民の増加にともなう摩擦が,ライシテをナショナリズムの道具として持ち出すことつながった。そしてこれが政治的に利用されることによって,ブルカ禁止法のような右翼的な政策が実現してしまった [1] [3]。その理論的な根拠はつぎのようなものである。
人間は個人としては性,年齢,肌の色,職業,信仰などまちまちだが,公共空間ではすべての個人が出自や帰属に関係なく平等な存在として扱われ,すべての市民は法の前に平等である。この考え方は,「公的領域」と「私的領域」の分離という二元論に基づいており,すべての市民は,『私的領域』における 出自,人種,宗教等の差異に関係なく『公的領域』においては抽象的個人として同質であるがゆえに平等である。( [1] から要約)

このため,公的領域における過剰な宗教的プレゼンスが排除されることになるわけだ。フランスはやはりダイバーシティの国ではないような気がする。レ・ミゼラブルのジャべール警部が活躍する中央集権的な警察国家の側面がある。エッフェル塔や大統領府のまわりの小銃をもった軍/警察の威圧感にビビった記憶と共鳴する。

2022年7月18日月曜日

手計算による第7波ピーク予測(1)

新型コロナウィルスオミクロンBA.5株(BA.4はどこに行った?)による感染者数がこのところ急増している。その一方で,近鉄大和西大寺や祇園祭は人であふれているらしい。

京大の西浦博さんは過去の経験で懲りたのか,ポルトガルの分析グラフを解説するだけで,本邦の数値予測をマスコミには見せていない。KEKの野尻美保子さんも仕事先のヨーロッパで感染して忙しいらしく,以前のような感染者の重症度重み付きグラフを出していない。

名古屋工業大学のグループによるAI予測の結果が,7月8日にNHKで取り上げられていた。それによれば,東京では7月25日に18,000人のピークを迎えるという。実際には,7月15日に19,000人であり,たった1週間先もまともに推定できていなかった。感染症数理モデルの専門家をよんでこないとだめじゃないの。タイトルにAIがあればよいという発想がアウトだ。

そんなわけで,素人が,費用0円,手計算で第7波のピークを予測することにする。


図:新規感染者数の増減率の常用対数値(2021.7.7 - 2022.7.13)

NHKによる都道府県別新規感染者数の日々データから,前週値との新規感染者数の比率を増減率とする。これを1週間移動平均した値の対数値をプロットしたものが上図になる。図のピークは新規感染者数グラフの変曲点を表わし,正の値が続いている間は感染者数が増加している。第6波の増加期間は約60日であり(コロラド博士の9週間=63日ピーク説と符合),この山の増加率の常用対数値はピークを挟んでほぼ1次関数で増減している。

第7波が始まったのは約1ヶ月前の6月中旬であり,7月中旬にはすでに増加率はピークを越えてしまった。増加率の絶対値は前回より小さい(4割程度)が,開始からピークまでが30日というのは前回と同じだ。増加率の減少過程も前回同様だと仮定すれば,8月13日のお盆前まで新規感染者数は増加が続くことになる

そこで東京について,3つの場合について計算してみる。7月中旬のピーク以降,(A) 3週間で増加率の常用対数値が一様に減少して0になる。(B) 4週間で増加率の常用対数値が一様に減少して0になる。(C) 5週間で増加率の常用対数値が一様に減少して0になる。例えば,7/17 の1.4万というのは前週の新規感染者数の平均値を表わしている。

(A) では,7/17 1.4万,7/24 2.1 万,7/31 2.5万,8/7 2.6万 → 8月第1週でピークの2.6万人/日
(B) では,7/24 2.2万,7/31 2.9 万,8/ 7  3.4万,8/14 3.5万 → 8月第2週でピークの3.5万人/日
(C) では,7/24 2.2万,7/31 3.1 万,8/ 7  3.9万,8/14-21 4.4万 → 8月第3週でピークの4.4万人/日
ということになる。全国に換算する場合は7倍して,それぞれ,(A) 18万人/日,(B) 24万人/日(C) 31万人/日が第7波のピークの値ということになる。


まとめれば,使用する元データは,NHKの新規感染者数から得られた対前週増減率の7日間移動平均だけ。仮定する理論は,その対数値が幅60日の三角波になっている第6波の経験値だけ。その結果は,8月の初旬〜中旬に全国20〜30万人/日でピークとなるということ


(付録)計算方法: 7/17(東京1.4万人/日)における一日当たり新規感染者数の対前週増加率は,10^0.25=1.8倍である。そこで,(A)では,0.25/3≒0.08として,10^0.17=1.48,10^0.09=1.23,10^0.01=1.02と毎週減少する,(B)では,0.25/4≒0.06として,10^0.19=1.55,10^0.13=1.35,10^0.07=1.17,10-0.01=1.02と毎週減少する,(C)では,0.25/5≒0.05として,10^0.20=1.58,10^0.15=1.41,10^0.10=1.26,10^0.05=1.12,10^0.00=1.00と毎週減少するとして,上記の予測値を得た。