傾城恋飛脚からの続き
初春文楽公演第三部の後半は,
壇浦兜軍記の
阿古屋琴責の段。
以前にも見ているが,勘十郎の指捌きが楽しみだ。阿古屋=呂勢太夫,重忠=織太夫,岩水=靖太夫,榛沢=小住太夫など6名の太夫が並んでいる。三味線は,清治が休演で藤蔵,これに寛太郎(ツレ)と清公(三曲)が加わる。清公は琴と三味線と胡弓の3つの楽器を弾くのでたいへんだろう。
人形は,勘十郎(阿古屋),玉志(重忠),玉佳(岩永),玉翔(榛沢)という配役。阿古屋は主遣いだけでなく左の簑紫郎,足の勘昇も顔を出すという珍しい三人出遣いだった。しかも黒子は1〜2名ついているというすごい布陣。あの豪華な衣裳で3つの楽器を操り,その度に右手は変えるなど手間がかかっている。
実際の音色と人形の手はやはり非常にうまくシンクロしているように見えた。今回気がついたのは,左遣いの簑志郎にもかなりの技術が要求されるということだ。また,琴や胡弓は清公が弾くのだが,三味線が音を重ねることで,人形との同期がよりわかりやすく表現されている。三味線のバチのアクセントがないと,かなり微妙に難しいことになりそうだ。
胡弓は三味線より一回り小さく,ヒザに挟んで押さえながら演奏していた。バイオリンやチェロなどの西洋弦楽器とは違い,弓捌きのときに楽器を回して弦を選択している。この部分とか開放弦のしぐさは,人形の左遣いの責任なのだけれども,さらに工夫の余地ありかもしれない。それでもすごいことはすごいのだ。
なお,歌舞伎で阿古屋ができるのは,
玉三郎しかいないということで,YouTubeでその映像を探してみた。人間が舞台で三つの楽器を弾き分けながら演技もするという高度な技が求められていた。岩永は
五代目勘九郎が
人形振りで演じていた。セリフはすべて太夫が出し,後ろにはダミーの黒子が二人ついていた。
勘十郎の姉の三林京子さんが観劇にきていて,舞台が跳ねると弟子の勘昇が手配したタクシーで一同は早々に引き上げて行かれた。
写真:国立文楽劇場の阿古屋人形(2023.1.12撮影)