2020年11月20日金曜日

CFR(致命率)(3)

 CFR(致命率)(2)からの続き

およそ半年前に,COVID-19の致命率について書いた。その後のデータが蓄積してきたので改めて考えてみよう。前回は「致命率 = 死亡数累計(t)/新規感染数累計(t-7)」と定義して,2月から5月あたりの3ヶ月分くらいのデータを見ていた。今回は,大局的な振る舞いを比較するため,5月1日から11月19日までのアジアと欧米の主要国の「致命率」=死亡数累計(t)/新規感染数累計(t)とあらためて定義して,その時間変化と国別の比較について考察する。なお,データは,WHO Coronavirus Disease (COVID-19) Dashboard を用いた。また,通常のインフルエンザの致命率は0.1%未満のオーダーであることに注意する。

(1)アジアの場合


図1 アジアの致命率(2020.5.1-2020.11.19)

いくつかの例外を除いて,ここでのサンプル諸国の多くはCFR=1〜2%の範囲に収まっており,地域による大きな違いがないことがわかる。最初に感染が拡大した武漢とその効果が大半を占める中国ではCFR=5〜7%と高い値を示しているが,中国では随分前に感染がほぼ完全に収束しており,初期の結果がそのまま凍結されているためだ。その段階では感染者に対する適切な治療の処方策が確立していなかった。そのことは,5月ごろの日本や東京についても当てはまっており,当時は病院のリソースも不足しておりCFR=5%を越えていたのが上のグラフから見て取れる(その後,現在の日本の値CFR=1.6%あたりに収束している)。

イランでは,当初からCFR=5%くらいの値で高止まりしている。この理由ははっきりわからない。現在のイランでは新規感染数の第3波が観察されている。インドネシアはゆっくりではあるが,CFRは標準的水準に近づいている。ただし,新規感染数はあいかわらず増加中だ。インドの感染数増大ペースも当初は危機的に見えた。絶対値はあいかわらず大きいのだが,すでに第1の増大ピークは越えているし,CFRもそれほど高くない値で収束している。

台湾や韓国はほぼ一定で推移しているので,当初からそれなりの医療体制が整備されて適切な治療が行われていたように見える(これは日本と大きく違うところだ)。香港も同様だったが,政治的不安定性が原因なのだろうか,いまでは必ずしも最優等生グループには属していない。

(2)欧米の場合

図2 欧米の致命率(2020.5.1-2020.11.19)

ここでもいくつかの例外を除いてCFR=2〜3%の範囲に収まりつつある。例外はCFR=10%のメキシコであり,南米で感染トップ数のブラジルの致命率が,CFR=2.8%と落ち着いてきているのと対照的である。

ヨーロッパでは,当初急速な感染拡大で十分な対策が取れないまま死亡数が急増していたため,CFRも10〜20%という非常に高い水準にあった。この記憶が後に,日本はよくやっているという誤解につながり,不十分な対策を自己肯定してしまうという困った隘路に入る要因となった。当初の大きな山を越えると,仏・英・伊・西のCFRはみごとにアジアのレベルと同等な領域に収束してきた。CFR=1.7%のロシアだけは当初からアジア並みの水準で推移しており(当初はかなり怪しい値ではないかという指摘もあった),CFR=1.6%のドイツも他の欧州の国々に比べて低い水準で安定している。なお,現在の欧州の感染拡大によって,各国のCFRが影響されている様子はまだ今のところ観察されていない。

米国は,感染数の指数関数的増加の第三波のただ中にあるのだけれど,CFRの観点から見ると,当初の6%程度から現在の2.2%になったということであり,日本と比べてもそれほど大きいわけではない。高々日本の1.5倍程度の水準であり,感染数は2桁違うとはいうものの,感染後の状態については日本とはあまりかわらないと考えられる。

(3)その他

したがって,欧米とアジアの違いは感染数にあるといってよい。死亡数はこれに連動するが,アジアでも欧米でも収束すれば,CFR=1〜3%とその差は大きくない。なお,これは通常のインフルエンザに比べれば1桁以上大きいので,「COVID-19はインフルエンザ並みの感染症だから心配はいらない」という言説は必ずしも妥当しない。

現時点での人口1万人あたりのアジアの新規感染数累計は,イラン96人,インド67人,フィリピン41人,東京25人,インドネシア18人,日本10人,韓国6人,中国0.6人,台湾0.3人となっている。また,同様に,欧米の場合は,米国341人,スペイン310人,フランス302人,ブラジル284人,英国215人,イタリア211人,ロシア137人,ドイツ103人である。

日本の新規感染数累計の人口比は,欧米に比べれば1.5桁小さいといえるが,アジアでは必ずしもトップグループではない。東アジアが欧米に比べて感染数の人口比が1桁小さくなっている理由ははっきりせず,オーストラリアやニュージーランドも同様に感染率が小さいことから,社会文化的な要因だけで説明できるのか疑問なところがある。ネアンデルタール人の遺伝子が絡んでいるのかについても同様によくわからないし,あるいは複合要因からなる偶然なのかもしれない。

いずれにせよ,日本のCFRは他の国々と同じ水準なので,これ以上感染数が増加しないような医療と検査の体制の整備が急務であることは間違いない。GO TOの看板を掲げたまま怪しいキャッチフレーズや,効果が疑問であるマナーの押し付けで自助を促している場合ではない。あるいは,本当に必要なのは大袈裟太郎のいうようにGO TO VOTEなのかもしれない。

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