2022年10月13日木曜日

未来をあきらめない(1)

いや,ほとんどあきらめてるわけだけれど。だいだい,このリノベーションの時代になんで,東京オリンピック(2020)と大阪万博(2025)とカジノIRとリニア新幹線なんだ,と誰かがボヤいていたけれども,全くその通りで時代錯誤で先につながらない利権プロジェクトばかりが蠢いている。統一教会さえ完全に排除できれば,日韓トンネルの方がまだマシと思わず口走ってしまいそうになる。

ソフトイーサの開発で有名な,日本トップクラスのIT技術者である登大遊(1984-)さんが,デジタル庁 デジタル臨時行政調査会作業部会 テクノロジーベースの規制改革推進委員会(第1回)で,「テクノロジーマップ、技術カタログの在り方について」という資料を提出していた。外観はお役人が大好きなポンチ絵テクノロジー満載のコテコテ画像だったので,どうかなと思いつつ読んでみると,久々に心が洗われた。

いつの間にかIT(情報技術)という標語が,動詞も含めたパッケージとしてのDX(デジタルトランスフォーメ—ション)という無意味なカタカナ掛け声に変わってしまった。そのまったく進化しない日本型組織の強固な殻をどうやって内側から破るかという戦略が書かれている。

そこにあるのは,組織内の,(A) 技術研究的な人材(同僚制・独立責任・専門性重視・試行錯誤主義と (B) 経営事務的な人材(官僚制・指揮命令・上意下達・計画主義の特徴を捉え,IT技術イノベーションを,(A)に如何に浸透させて,それを(B)の力で展開拡散するかを具体的に検討したものだ。まさに,細胞に浸入して増殖するウイルスのイメージだ。

技術研究的な人材は,試行錯誤・ 業務革新を担い,自分の責任で頭脳を働かせることができる。一方,経営事務的な人材は,組織的な集団思考と決定に頼って仕事をし,大規模化・組織化・運用を担う。この技術研究的な人材(A)をターゲットとして,適切な情報を注入すれば,業務革新的な情報が経営事務的な人材(B)が担う組織に提供され,フィードバックを受けつつ前進できるという作戦だ。

(A) の技術研究的な人材に届く情報の例として,1990年代のコンピュータ雑誌群があげられていた。自分にとっては,1980-1990年代のそれなのだが,本質的に変わらない。登さんが指摘するように,本当に良質で大量の技術情報があふれていた。そのころは,帰宅時の書店通いで,ほとんどの主要雑誌を毎日のように立ち読みすることができた。さらに,日経バイト日経パソコンTheBASICSoftware DesignMacの雑誌を数冊,定期購読して浴びるように情報をインプットしていた時代だ。

登さんのすごいところは,アイディアをすぐに実装できるところだ。Git + GitLab + 静的 HTML 生成器という開発実例を示している。MarkDownを前提としたHTM重視なのはとてもリーズナブルなのだけれど,おじさんとしては,pdf化されたパッケージもないと安心できない。歳を取ってしまったからだろう。

これを読んで,日本の大学改革がなぜ失敗だったかがよくわかった。大学組織の(A)技術研究的な人材や環境を破壊して,(B) 経営事務的な組織論理を貫徹させようとしているからだ。一方,初中等教育のGIGAスクールの分析は難しい。(A)と(B)が縮退した組織だから。教師の二面性をどう捉えるか。

2022年10月12日水曜日

ノーベル物理学賞2022

先週発表された今年のノーベル物理学賞は,量子力学の基礎が対象だった。アスペツァイリンガーはこれまでも予想していた人が多かったので(クラウザーの代わりに日本人や他の科学者を含めるパターンだ)昨年のような意外感がなく,当たりましたという声があちこちから聞こえてきた。

NHKは,量子もつれというキーワードを看板にして,その応用面の量子情報科学という新しい分野の開拓につながる大きな貢献をしたというニュースに仕立て上げていた。あたかも,青色発光ダイオードやリチウムイオンバッテリーの話のような組立で,ちょっと違和感がある。

ノーベル財団のページに書かれた2022年のノーベル物理学賞の受賞理由は,"for experiments with entangled photons, establishing the violation of Bell inequalities and pioneering quantum information science" (量子もつれのある光子の実験によって,ベル不等式の破れを確立し,量子情報科学を開拓したことに対して)である。

重要なのは「ベル不等式の破れを確立」したところだ。もし,ベル不等式を最初に提案した,ジョン・スチュアート・ベル(1928-1990)が存命だったら,確実にノーベル賞をもらっていたはずだ。この実験は,量子力学の基礎における最重要テーマである局所実在をどう捉えるかに関わるもので,相対論でいえば,マイケルソン・モーレーの実験に相当する。

数年前,甲南大学で物理教育学会近畿支部主催の大学入試問題検討会があったとき,駿台予備校の牛尾健一さんが参加していた。帰りに岡本駅前の居酒屋でちょっと一杯ということになり,学生のころ微分形式やクリフォード代数を勉強しておけばおもしろかったはずなのにとか,1970年代当時の量子力学の教科書にはなんでベル不等式がなかったのかとか,言いたい放題の雑談をして楽しかった。

1970年代には,ベル不等式やCHSH不等式はわかっていたし,クラウザーの実験も始まっていたけれど,量子力学の観測問題とひとくくりにされたコンテンツは,教科書の外に追いやられていた。

[1]量子論とベルの不等式の破れ(東大理学部物理学科学生展示)
[4]量子の不可解な偶然−訳者解説(木村元・筒井泉)
[5]ノーベル物理学賞2022年の解説(日本物理学会)
[6]2022年ノーベル物理学賞解説(彩恵りり)
[7]ベル不等式の意味(K. Sugiyama)


2022年10月11日火曜日

弾道ミサイルの軌道(3)

弾道ミサイルの軌道(2)からの続き

10月4日の弾道ミサイルは,本来グアムを標的とする射程5,000kmの火星12型相当の中距離弾道弾なので,日本を対象とした射程1,500kmのノドン改良型とは違う。が,面倒なので,前回求めた解の推進加速度を7割程度に落とし加速角度を30°にして,日本を狙ったときの到達時間が適当な値となる解があるかを確認してみた。

g = 0.0098; R = 6350; τ = 60; p = 0.75; a = 0.032; s =  30 Degree;
fr[t_, τ_] := a*Sin[s]*HeavisideTheta[τ-t]
ft[t_, τ_] := a*Cos[s]*r[t]*HeavisideTheta[τ-t]
fm[t_, τ_] := -p/(τ - p*t)*HeavisideTheta[τ-t]
sol = NDSolve[{r''[t] == -fm[t, τ]*r'[t] + h[t]^2/r[t]^3 - 
     g R^2/r[t]^2 + fr[t, τ], r[0] == R, r'[0] == 0, 
   h'[t] == -fm[t, τ]*h[t] + ft[t, τ], h[0] == 0}, {r, 
   h}, {t, 0, 360}]
f[t_] := r[t] /. sol[[1, 1]]
d[t_] := h[t] /. sol[[1, 2]]
Plot[{6350, f[t]}, {t, 0, 360}]
Plot[{f[t + 1] - f[t], d[t]*R/f[t]^2, d[t]/f[t]}, {t, 0, 299},  PlotRange -> {-4, 7}]
(f[t] - R) /. FindRoot[D[f[t], t] == 0, {t, 200}]
 86.6527
FindRoot[D[f[t], t] == 0, {t, 300}]
  {t -> 199.993}
{d[τ]/f[τ], f[τ+1] - f[τ]}
  {4.14703, 0.971161}
{Sqrt[(d[τ]/f[τ])^2 + (f[τ+1] - f[τ])^2], 
 Sqrt[(d[τ]/f[τ])^2 + (f[τ+1] - f[τ])^2]/.34}
  {4.25923, 12.5271}
{NIntegrate[R d[t]/f[t]^2 , {t, 0, 200}], 
 NIntegrate[R d[t]/f[t]^2 , {t, 0, 360}]}
  {651.9, 1305.61}
ParametricPlot[{NIntegrate[R d[t]/f[t]^2 , {t, 0, T}],  f[T] - R}, {T, 0, 360}]



図:弾道ミサイルの軌道(横軸 水平距離 km,縦軸 高度 km)

60秒加速後の速度がマッハ 12.5となり,360秒(これは初期値として与えた)で1300 km離れた日本に到達する。最高高度は90 km弱となる。このあたりは推進加速度とその角度を調整すればなんとでもなる。いずれにせよ,カップ麺ができる3分以内に対応する必要があるのだけれど,Jアラートにインプットする情報分析や対応措置は時間内に間に合うのだろうか。

2022年10月10日月曜日

弾道ミサイルの軌道(2)


今回のモデルによるシミュレーションで,軌道を再現する加速時間は180秒=3分だったが,これを少し変えるだけで,軌道は大きく変わってしまう。つまり,ミサイル発射直後の軌道推定は困難であり,少なくとも初期加速が終る時点までの数分間は待つ必要がある。と思ったのだが,コロラド先生は燃焼時間が1分だといっていた。

そこで,各方向の加速度を0.069 km/s^2 (7G),加速時間を60 sにしたところ,vt = 4.07 km/s,vr = 3.58 km/s,v0 = 5.42 km/s(マッハ15.9)が得られた。このときの,最高高度が1160 km,到達距離が4270 km である。これでよいかと思ったが,調べてみると,そもそも推進剤の質量が全質量に対して非常に大きな割合を占めることがわかった。やり直し。


質量が変化する場合の極座標の運動方程式では,$m \ddot{\bm{r}}\ $の項に$\ \dot{m} \dot{\bm{r}}\ $が加わることになる。これを極座標にすれば,$\dot{m} (\dot{r} \bm{e}_r + r \dot{\theta} \bm{e}_\theta)\ $である。そこで,運動方程式の各成分は次の通り。
$\ddot{r} - \dfrac{h^2}{r^3} + \dfrac{\dot{m}}{m} \dot{r} = \frac{1}{m} F_r = -g \dfrac{R^2}{r^2} + \alpha H(\tau- t)$
$\dfrac{1}{r }(\dot{h} +  \dfrac{\dot{m}}{m} h) = \frac{1}{m} F_\theta = 0 + \beta H(\tau-t) $
なお,$H(x) = 1 (x>0) ; =0 (x<0)$はヘヴィサイドの階段関数である。$\alpha, \beta$は,加速開始時刻 $t=0$から加速終了時刻 $t=\tau$ まで動径方向と角度方向に加わる加速度を表わす。

出発前の弾道ミサイルの全質量を$m_0$,全質量に対する推進剤の割合を $p$とすると,加速中($0 \le t \le \tau$)の単位時間当たりの噴射質量は,$\dfrac{p m_0}{\tau}$となる。そこで,時刻 $t$における弾道ミサイルの質量は,$m(t) = m_0 - \dfrac{p m_0}{\tau} t  = m_0 (1 - p\dfrac{t}{\tau})$,$\dot{m}(t) = - m_0 \dfrac{p}{\tau}$。
したがって,$\dfrac{\dot{m}}{m} = - \dfrac{p}{\tau - p t} \quad (0 \le t \le \tau)$ であり,$t>\tau$ では $\ \dfrac{\dot{m}}{m} = 0\ $となる。

なお,最高高度は,$\dot{r}(t)=0$となる時刻 $t_p$に対応する$r(t_p)$で与えられ,到達距離は,$\int_0^T \dfrac{R h(t)}{r(t)^2}dt$で得られる。ただし,$T$は到達時間である。

準備ができたので再計算してみる。全重量に対する推進剤の比率は,p=0.75(3/4)と仮定した。加速時間 60s加速度 0.0446 km/s^2(4.6 G)で到達時間1320 sが再現される。最高高度は,t=682sのとき 1060 km。加速終了時の速度は,vt = 4.69 km/s,vr = 3.32 km/s,v0 = 5.75 km/s (マッハ16.9)である。また,到達距離は4930 kmであり,6-7%の誤差で報告値に一致した。
g = 0.0098; R = 6350; τ = 60; p = 0.75; a= 0.0446; s = Pi/4
fr[t_,τ_] := a * Sin[s] * HeavisideTheta[τ - t]
ft[t_,τ_] := a * Cos[s] * r[t] * HeavisideTheta[τ- t]
fm[t_,τ_] := -p / (τ- p * t) * HeavisideTheta[τ - t]
sol = 
 NDSolve[{r''[t] == -fm[t,τ] * r'[t] + h[t]^2/r[t]^3 - 
   g R^2/r[t]^2 + fr[t,τ], r[0] == R, r'[0] == 0, 
   h'[t] == -fm[t,τ] * h[t] + ft[t,τ], h[0] == 0},
   {r, h}, {t, 0, 1320}]
f[t_] := r[t] /. sol[[1, 1]]
d[t_] := h[t] /. sol[[1, 2]]
Plot[{6350, f[t]}, {t, 0, 1320}]
Plot[{f[t + 1] - f[t], d[t]*R/f[t]^2, d[t]/f[t]}, {t, 0, 1319}, PlotRange -> {-4, 5}]
(f[t] - R) /. FindRoot[D[f[t], t] == 0, {t, 660}]
{d[τ]/f[τ], f[τ+1] - f[τ]}
{Sqrt[(d[τ]/f[τ])^2 + (f[τ+1] - f[τ])^2], 
 Sqrt[(d[τ]/f[τ])^2 + (f[τ+1] - f[τ])^2]/.34}
{NIntegrate[R d[t]/f[t]^2 , {t, 0, τ}], 
 NIntegrate[R d[t]/f[t]^2 , {t, 0, 1320}]} 



図1:軌道半径の時間変化


図2:速度vr,速度vtの大圏射影,速度vt の時間変化

推進時間 60s ,加速度 4.55G,加速角 45° で,高度 1059 km,到達距離 4933 km
推進時間 90s ,加速度 3.22G,加速角 49° で,高度 1038 km,到達距離 4813 km
推進時間120s ,加速度 2.57G,加速角 52.5° で,高度 1015 km,到達距離 4697 km
というわけで,報告値の 1-2%の範囲に収めることも可能な定性的モデルができた。

(付録)最後のパラメタでは,津軽海峡に到達する発射後420 s距離1368km,高度811kmの速度は3.9 km/s であり,30秒ほどで津軽海峡(幅130 km)を通過することになる。

2022年10月9日日曜日

弾道ミサイルの軌道(1)

Jアラートからの続き

このたびの弾道ミサイルが,大圏コースで4600kmを飛行したということは,角度にして40度強だ。また,高度1000kmというのは地球半径の15%にあたる。さすがに地表面を平面として一様重力場で考えるというのではちょっとマズイ気がする。

そこで,地球の中心を原点とする極座標系での運動方程式を考える。運動する物体の座標を$( r(t), \theta(t) )$とする。運動方程式は,$ m ( \ddot{r} - r \dot{\theta} ) = F_r, \quad \dfrac{m}{r} \dfrac{d}{dt} (r^2 \theta) = F_\theta $ となる。ここで面積速度の2倍を$h(t) = r^2 \dot{\theta}$と定義すると,$ m ( \ddot{r} - \dfrac{h^2}{r^3} ) = F_r, \quad \dfrac{m}{r} \dot{h} = F_\theta $ となる。

(1) 万有引力だけが働く場合: $F_r = \dfrac{GMm}{r^2} = mg \dfrac{R^2}{r^2}, \quad F_\theta =0 $となる。与えられた条件は,到達距離 L=4600km,到達時間 T=1320 s,最高高度 H=1000 km,平均水平速度 vt =3.55 km である。また,地表重力加速度 g=9.8 m/s^2,地球半径 R=6350 kmとする。Mathematicaのコードで調整するパラメータは,鉛直方向の初速度だけである。到達距離・時間の条件を満たすものとして vr = 4.15  km/s が得られる。このときの速度はv0 = √(vt^2+vr^2) = 5.46 km/s(マッハ16)となる。しかし,最高高度が,1300 kmとなってうまく合わない
g = 0.0098; R = 6350; vr = 4.15; vt = 3.55; h = R vt
sol = NDSolve[{r''[t] == h^2/r[t]^3 - g R^2/r[t]^2, 
      r[0] == R, r'[0] == vr}, r, {t, 0, 1320}]
f[t_] := r[t] /. sol[[1]]; f[660] - R
Plot[{6350, f[t]}, {t, 0, 1320}]

図1:初速度のみ与えたモデル(横軸: t ,縦軸: 軌道半径 r )

 (2) 初期加速度が一定時間働く場合: 加速度の値(簡単のため動径方向と角度方向は等しいと仮定),加速時間の2つをパラメタとする。先ほどのように到達距離・時間の条件を満たすようにパラメタを探すと,加速度 0.025 km/s^2 (2.5G)と加速時間 180 s の値が得られた。このときの vt = d[τ]/f[τ] = 4.38 km/s,vr = f[τ+1] - f[τ] = 2.96 km/s,v0 = 5.29 km/s(マッハ15.5)となる。また,最高高度は1020 kmとなり,この場合は全体として辻褄があうことになる。

g = 0.0098; R = 6350; τ= 180;
fr[t_,τ_] := 0.025 * HeavisideTheta[τ- t]
ft[t_,τ_] := 0.025 * r[t] * HeavisideTheta[τ- t]
sol = NDSolve[{r''[t] == h[t]^2/r[t]^3 - g R^2/r[t]^2 + fr[t,τ], r[0] == R, r'[0] == 0, h'[t] == ft[t,τ], h[0] == 0},
{r, h}, {t, 0, 1320}]
f[t_] := r[t] /. sol[[1, 1]]
d[t_] := h[t] /. sol[[1, 2]]
Plot[{6350, f[t]}, {t, 0, 1320}]

図2:初速度0から一定の加速をする場合の軌道半径(横軸: t ,縦軸: 軌道半径 r )

なお,加速終了時の射影水平速度は,vt = R d[180]/f[180]^2 = 4.16 km/s である。そこで180秒のあいだに進む水平距離は,vt τ/2 = 370kmとなる。残りは,1030km/4.16km/s = 248 s なので,計 428秒で1400 km(津軽海峡上空)に達する。

図の印象で騙されていたが,到達距離4600 kmの確認が済んでいなかった。解けているのは 角速度 $\dot{\theta} = \dfrac{h(t)}{r(t)^2}$なので,これを積分した $R \theta(T)$ が必要なのだ。下図より角速度の平均値が 0.00059だと仮定すると,370 km + 0.00059*R*1140 s = 370 + 4270 = 4640 kmとなる。1%の誤差でOKだった。


図3:初速度0から一定の加速をする場合の角速度(横軸: t ,縦軸: 角速度$\dot{\theta}$  )

最高高度は,t=679s で1050 kmとなった。加速終了時の速度は,vt = d[τ] / f[τ] = 4.69 km/s,vr = f[τ+1] - f[τ] = 3.31 km/s,v0 = √(vt^2+vr^2) = 5.74 km/s (マッハ16.9)であり,ほぼ報道結果が再現された(P. S. と思ったが・・・)。


2022年10月8日土曜日

Jアラート

Jアラートとは,全国瞬時警報システムのことである。総務省消防庁が運用しており,弾道ミサイル情報,緊急地震速報,津波警報など,対処に時間的余裕のない事態に関する情報を,携帯電話等に配信される緊急速報メール,市町村防災行政無線等により,国から住民まで瞬時に伝達するシステムだ。

10月4日の朝,NHKの7時のニュースを見ていたら,Jアラート発出にともない画面が急に変わって,北朝鮮からのミサイル発射にかかわるニュースが延々と長時間垂れ流された。午前7時27分には,北海道と東京都の諸島部(都道府県名なしの町村名表記だけ)にアラートが出され,午前7時28分には,北海道が消えて,青森県と東京都の諸島部になった。

北朝鮮から一発のミサイルが飛んでくると仮定して,NHKは東北・北海道と東京諸島部に同時に警報が出されているという事態をおかしいと考えないのか。十分に吟味されていない情報がコメントもなしにそのまま右から左へと提供されている。案の定,警戒不要の東京諸島部には誤ってJアラートが発出されていたとの説明が後日あった。

そもそも,Jアラートが発出された時刻は,丁度ミサイルが津軽海峡の約800km(国際宇宙ステーションの軌道高度400kmの2倍)上を数km/sで通過している時間だ。このタイミングでアラートを発出する必然性がほとんどないにもかかわらず(防衛省も内閣府もわかっているはずだろう),安全な場所に避難して下さいとさんざん煽っていた。いったいどういうこと。これでは,内閣支持率が下がって国会で問題が発生したときにいつも都合よくミサイルが飛んでくるとか,軍備増強・憲法改正の環境作りのための過剰宣撫といわれても仕方がない。
発射時刻・場所 7時22分,北朝鮮慈江道舞坪里
通過時刻・場所 7時29分,青森県津軽海峡
落下時刻・場所 7時44分,釜石市の東3200kmの太平洋
飛距離 4600km,到達高度 1000km,速度マッハ17
J-アラート 午前7時27分 北海道+東京都諸島部
J-アラート 午前7時29分 青森県+東京都諸島部
水平方向の平均速度vx0は,vx0 = 4600/(22*60) = 3.5 km/sなので,津軽海峡上空までは,6−7分,1360±100 kmとなる。4600-1360=3140 kmだから,残りの距離が日本から落下地点までの距離3200kmとほぼ一致する。

一方,到達高度hが1000km,飛行時間Tが 1320sである。一様重力場における斜方投射モデルを採用して,鉛直方向の初速度をvy0,有効重力加速度をg とする。h = vy0 (T/2) -g/2 (T/2)^2 = g/2 (T/2)^2 が成り立つので,g = 2h/660^2 = 0.0046 km/s^2,vy0 = 2h/660 = 3.0 km/s となる。初速度v0が v0^2=vx0^2+vy0^2 を満たすので,v0 = 4.6 km/s (マッハ13.5)だ。この単純なモデルでは,マッハ17=5.8 km/s はうまく再現できなかったし,有効重力加速度gの値がもっともらしいのかどうかも微妙である。


2022年10月7日金曜日

2022年10月6日木曜日

2022年10月5日水曜日

2022年10月4日火曜日

2022年10月3日月曜日

2022年10月2日日曜日

理科情報演習

プログラミング教育(5)からの続き

手元に,手作りの理科情報演習のテキストが2冊ある。奥付を見ると,一つは1988年4月1日発行で,大阪教育大学理学科情報教育検討委員会,もう一つは1989年4月1日発行の改訂版だ。平成元年,新しい学習指導要領の告示年か。ゆとり教育のピークで,小学校低学年の理科が廃止され生活科が新設されたころだ。

はじめにには次のようにあった(iPhoneの音声入力は便利)

 この情報科学の発展と,コンピュータテクノロジーの発達にともなって急速に普及しだしたパーソナルコンピュータの高性能化と低価格化は,コンピューターの利用範囲の拡大に多大な影響をもたらした。パーソナルコンピューターを教育現場へ導入しようとする試みもその1つの例であり,教育現場においてパーソナルコンピュータをどのように活用するかについての研究もその進展が望まれるところである。

 最近各地で小・中・高等学校の先生などの教育関係者が中心となって,パーソナルコンピュータを教育機器として利用するための研究グループが作られ始めた,しかし,その規模は全国的に見ても十分ではない。このような時期にあたって,理学科の専門科目として「理科情報演習」を開講することは大きな意義を持つと言うことができる。情報処理を内容とした講義はすでに昭和61年度から理学科および第二部において開始されているが,この間の実践から得られた経験をもとにして「よりよいテキストを」という意図で本書は作成された。

 このテキストでは,コンピュータシステムに関する基本的な事柄が一通り学べるように心がけたつもりである。またプログラム言語としては,初学者用の汎用言語として開発されたBASICを取り上げている。利用する立場からみたコンピュータの働き,データの流れ,あるいは計算の手順などのコンピュータ利用に係わる基本的事柄は,BASICによっても十分理解し得ると考えたからである。

 さらに,目次は次のようになっていた。

第1章 コンピュータ入門・・・・・・・・・・・・・・・・・1
  第1節 コンピュータの歴史と発展
  第2節 コンピュータの現在
第2章 コンピュータの仕組み・・・・・・・・・・・・・・・13
  第1節 ハードウェアの構成
  第2節 コンピュータの取り扱うデータ
  第3節 パーソナルコンピュータにおけるデータの流れ
  第4節 ネットワークシステム
第3章 ソフトウェアの基礎・・・・・・・・・・・・・・・・35
  第1節 ソフトウェアの概念
  第2節 アプリケーションプログラムの分類
  第3節 言語処理プログラム
  第4節 パーソナルコンピュータのオペレーティングシステム
第4章 コンピュータを動かす・・・・・・・・・・・・・・・61
  第1節 FM16πを起動する
  第2節 PC−98LTを起動する
  第3節 キーボードをそっと叩く
第5章 プログラミングの基礎・・・・・・・・・・・・・・・80
  第1節 基本文法
  第2節 基本コマンド
  第3節 グラフィック
  第4節 データの型
  第5節 入出力命令
  第6節 基本演算
  第7節 基本文型
  第8節 サブルーチン
  第9節 デバッグの概念と方法
  第10節 ファイル処理
第6章 プログラムの構成・・・・・・・・・・・・・・・・109
  第1節 アルゴリズム
  第2節 プログラムの構造化
  第3節 プログラムの解析
第7章 コンピュータの可能性・・・・・・・・・・・・・・123
  第1節 教育・研究・産業とコンピュータ
  第2節 コンピュータ利用の問題点
  第3節 コンピュータの未来
練習問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・129
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・149

自分が担当したのは,第3章ソフトウェアの基礎の26ページだった。スーパーコンピュータとしてベクトル計算機がとりあげられ,第五世代コンピュータ開発プロジェクトがまだポシャっておらず,未来のコンピュータは光子計算機だと語られていた時代。



写真:理科情報演習テキスト1989年度版

2022年10月1日土曜日

プログラミング教育(4)

プログラミング教育(1)からの続き

一昨年に文部科学省が出した「小学校プログラミング教育の手引き(第3版)」をもう一度確認する。
はじめに ~ なぜ小学校にプログラミング教育を導入するのか ~

 今日、コンピュータは人々の生活の様々な場面で活用されています。家電や自動車をはじめ身近なものの多くにもコンピュータが内蔵され、人々の生活を便利で豊かなものにしています。誰にとっても、職業生活をはじめ、学校での学習や生涯学習、家庭生活や余暇生活など、あらゆる活動において、 コンピュータなどの情報機器やサービスとそれによってもたらされる情報とを適切に選択・活用して問題を解決していくことが不可欠な社会が到来しつつあります。 
 コンピュータをより適切、効果的に活用していくためには、その仕組みを知ることが重要です。コンピュータは人が命令を与えることによって動作します。端的に言えば、この命令が「プログラム」であり、命令を与えることが「プログラミング」です。プログラミングによって、コンピュータに自分が求める動作をさせることができるとともに、コンピュータの仕組みの一端をうかがい知ることができるので、コンピュータが「魔法の箱」ではなくなり、より主体的に活用することにつながります。 
 プログラミング教育は子供たちの可能性を広げることにもつながります。プログラミングの能力を開花させ、創造力を発揮して、起業する若者や特許を取得する子供も現れています。子供が秘めている可能性を発掘し、将来の社会で活躍できるきっかけとなることも期待できるのです。 
 このように、コンピュータを理解し上手に活用していく力を身に付けることは、あらゆる活動においてコンピュータ等を活用することが求められるこれからの社会を生きていく子供たちにとって、将来どのような職業に就くとしても、極めて重要なこととなっています。諸外国においても、初等教育の段階からプログラミング教育を導入する動きが見られます。 
 こうしたことから、このたびの学習指導要領改訂において、小・中・高等学校を通じてプログラミング教育を充実することとし、2020 年度から小学校においてもプログラミング教育を導入することとなりました。 
1980年代半ば,大学の研究室にPC-8801やPC-9801やSHARP MZ-2000系などが入りはじめた頃,これからの学校教育にはコンピュータが絶対必要になるということで,大阪教育大学の理学科をあげての取り組みが始まった。データステーション(後の情報処理センター)にあって全学共通に使えるパソコンはほんの数台しかなかったので,理科の教員が研究費を持ち寄って2人に一台のラップトップPCを整備することになった。

最初は,CP-M/86が搭載されたFM-16π が2人に1台+教員用の計21台,やがてMS-DOSPC-98LTが1人1台に置き換わっていった。これが物理教室の並びにある階段教室のロッカーに設置されることになる。理科情報演習という授業名を冠したテキストは,山口先生,家野先生と自分が編集作業を担当した。休日まで集まって各教員からの分担原稿を整理していた。

あるとき,このプロジェクトの音頭をとっていた,X線実験を専門とする高木義人先生が,小中学校教員向けの公開講座でコンピュータの使い方=プログラミングをやってはどうかと発案した。理科の教員に呼びかけたのだが,必ずしもよい返事が得られなかった。結局,物理教室のメンバー=加藤先生・仲田先生(高木研究室の助手)・自分だけでやろうということになった。もしかすると,山口先生や家野先生も参加していたいたかもしれない。

反対意見の代表的なものとして,福江先生の意見があった。「これからはコンピュータが当たり前のように学校にはいって活用される時代はくることは確かだ。しかし,その段階で,教員が自分でプログラミングによって授業で活用できる教材をつくるとか,データ処理をBASICで行うということはなく,様々なソフトウェアを活用したり組み合わせることが中心になるはずだ」。

いや,まったくそのとおりなのだが,その当時,学校の先生にコンピュータを体験してもらう場合,実質的には内蔵されているBASICインタープリタを使うしかなかったのである。もちろん,マルチプラン,松,jx-word太郎,dBASEなどのアプリケーションソフトは登場していたが,1本数万なので,とても台数分賄う予算はなかったのである。

そんなわけで,じりじりと太陽が照りつける夏休みの天王寺キャンパスの旧校舎の,冷房もない階段教室で汗だくになりながら,よくわからない学校の先生を相手に,BASICプログラミングを懇切丁寧に指導する3日間というのを数年続けたのだった。

それが40年近く前の話である。やがて,インターネットへの接続がはじまり,大学は柏原キャンパスに統合移転し,キャンパスネットが整備され,コンピュータ実習室も複数室もうけられ,キャンパス全域に無線LANアクセスポイントができたら,全学生BYODの時代になってしまい,学校現場でもGIGAスクール=一人一台の環境整備が進んでいる。

で,いま再びプログラミング教育というわけだ。どう考えても上の第2段落にあるプログラミングでコンピュータの仕組みを知ることが主体的活用につながるというのが正しい考えであるとは思えない一方,前回述べたように,コンピュータを創造的ツールとして使うという観点でみれば,それはそれでありうるのかとも思われる。


図:プログラミングからのパラダイム転換(人工知能研究の新潮流から引用)

2022年9月30日金曜日

2022年9月29日木曜日

2022年9月28日水曜日

2022年9月27日火曜日

2022年9月26日月曜日

2022年9月25日日曜日

ひまわりキッズ

1994年に100校プロジェクトがはじまってしばらくしたころ,理科教育メーリングリストに次のような話題を提供したことがある。

インターネットを活用した学校間コラボレーションのアイディアだ。全国の学校で,日時を定めて校庭から一斉に真上の空にデジタルカメラを向けて撮影し,その画像をつなぎ合わせて,下から見た日本列島の天気の全体像を調べようというものだ。

気象衛星ひまわりは赤道上の静止軌道から日本上空の雲の分布を撮影することができるが,逆に下から見るとこれがどう見えるかを,インターネットコラボレーションの力で確かめてみたい。名付けて「ひまわりキッズ」プロジェクト。

残念ながら,口先だけで実行力がともなわなかったので,実現には至らなかった。そうこうしているうちに内田洋行がデジタル百葉箱(現,IoT百葉箱)を売り出して,そちらに注目が集まることになる。そういえば,すでにteiten2000という渡辺先生がはじめたプロジェクトがあったからかもしれない。

ひまわりキッズで検索すれば,いまは天理市の子育てサークルなどが出てくるのであった。


写真:ひまわり8・9号のイラスト(Wikipediaから気象庁の画像を引用)

2022年9月24日土曜日

横尾先生

横尾先生といえば,森田研でお世話になった横尾由松先生。福井医科大学の転出されるまでは,毎年の研究室のハイキングには必ず参加されていた。コースの終わりに自動販売機で缶ビールを買ってグイッと飲まれる姿がなかなかよかった。

昨日,大阪教育大学でお世話になった天文学の横尾武夫先生(1939-2022)の訃報を目にした。和歌山大学観光学部長の尾久土正己さんが Facebook に投稿していた。9月14日になくなられたようだ。地学教室(天文)と物理学教室ということで,それほど接点があったわけではないが,ほとんどいつもぼやきながらニコニコ笑っていたけれど,ときどきはわけがわからないことで怒っていたのを憶えている。

1984年に福江さんが着任したときに,横尾先生に寺田町の飲み屋の2階の座敷に誘われた。木立さんは京大物理だったから理解できるのだが,なぜ私にもおまけで声をかけたのだろうか。理学科の学生を連れた一泊旅行で西はりま天文台を訪れたときは,学生が隠れて飲酒して事故になるのを防ぐために特別にOKと笑いながら説明していた。いまではできないけれどなかなかよい判断だった。

横尾先生が講座主任のときに,技術教室がからんだ人事があり,物理分野の代表だった自分のところにやってこられて,あれこれと相談したことがあった。いろいろと気配りされる先生だった。退職されるころに(理科の送別懇親会の日だったかもしれない),帰りの電車で事務官の方と三人いっしょになって,なりゆきで大和八木駅の高架下で一杯飲んでいこうということになった。横尾先生は榛原におすまいだったので,まれに一緒になることがあったのだ。

横尾先生のエピソードについては,福江さんの退官記念冊子寄稿文に詳しい。でもなぜ1999年?2004年ではなかったのか。もともとは還暦記念冊子に掲載した文なので,5年ずれていたということか。それにしても,福江さんのホームページには横尾先生退職のあたりの記事がみあたらない・・・


写真:地学教室メンバー1984(福江さんの寄稿文から引用...なつかしい)

追伸:定金先生が,天文月報2022年11月号にかいた追悼文を見つけた。

2022年9月23日金曜日

超歌舞伎

近所の方から行けなくなったチケットが回ってきたので,京都南座の超歌舞伎2022に行くことになった。 

わりと前の席だったが,過去の松竹座歌舞伎公演などとは客層の様子が明らかに違う。平均年齢が若く,もちろん女性優位だけれどもビジネスマン風の人もちらほらと。DWANGOやNTTがスポンサーだからなのか。しかも,みんな手には結構大きなペンシルライトなるものを持っている。後で説明があったけれど(超歌舞伎2022 Powered by NTT 大向う付オリジナルペンライトの使い方),4000円もするらしい。

音響効果(PA)の音が老人の耳にはきつすぎてたいへんだった。初音ミクの存在感はそれほどなかったが,中型や大型プラズマディスプレイ,中型スクリーンへのプロジェクション,前面半透過大スクリーンへの投射など,これでもかという方法を組み合わせていた。

中村獅童はサービス精神たっぷりだったけれども,歌舞伎だと思ってみると物足りないかもしれない。かといって,新しい実験的なメディアの挑戦だといえるかというとそうでもない。ボストン・ダイナミックスのロボットがみんなでとんぼを切るとか,劇場内をドローンウォームが飛び回って龍をつくるとかでないとインパクトに欠ける。

最後に撮影タイムというのがあって,自由に撮影できるという趣向がよかった。まあ,DWANGOの作戦にまんまと乗せられているのかもしれない。


写真:超歌舞伎2022最後の撮影タイムのようす(2022.9.23撮影)

2022年9月22日木曜日

同志社大学京田辺キャンパス(2)

同志社大学京田辺キャンパス(1)からの続き

はやいもので,あれからちょうど2年経った。同志社大学の京田辺キャンパスを訪れるのは2回目だが,来週からいよいよ非常勤の対面授業(2コマ連続…orz)が始まる。

今日は,教室のAV設備の説明を受けるため,智真館1号館2FのAV準備室前に10:00に集合の予定だった。正門を入ってすぐ左に交隣館という建物があり,最初はここが目的地かと思っていた。受付の方にきくと,この1Fは非常勤講師の控室になっており,コピー機やロッカーの使用方法など説明を聞くことができた。

目的地の講義棟である智真館1号館は同じような教室が一様に並んでいてAV準備室がどれだかわからないし誰も人が見当たらない。案内板には教室番号しか書いていない。あせってウロウロしているとようやくスタッフの方に発見された。自分の講義予定の教室は電気工事中だったので,同様の設備の教室で説明を受けた。

教卓にはカセットテープと音声入出力端子からなる,30年前の設備がきれいに保存されていてまだ使えるとここと。大阪教育大と似ているが,鍵のかかっていないボックスにAV設備がある。60人規模の教室には60インチの液晶テレビが1台だけで,天吊りプロジェクターはなかった。ワイヤレスマイクもなし。そのかわり,常勤スタッフは2名配置されているらしい。

15分ほどでていねいな説明が終ったので,理工学部の担当の先生へ挨拶にうかがったが,不在のようだった。

平端から北に大和西大寺まで15分,大和西大寺−平城−高の原−山田川−木津川台−新祝園−狛田−近鉄宮津−三山木−興戸が30分,興戸から上り坂を10-15分で京田辺キャンパス

平端から南に大和八木まで15分,大和八木−真菅−松塚−大和高田−築山−五位堂−近鉄下田−二上−関屋−大阪教育大前が30分,大阪教育大前から上り坂を10-15分で柏原キャンパス

非常に対称的なルートになっている。高の原と大和高田が対応し,新祝園と五位堂が対応する。キャンパスまで上り坂のところも同じだ。果たしてあと1年半体力が続くかな・・・


写真:同志社大学京田辺キャンパスの図書館(2022.9.22撮影)


2022年9月21日水曜日

半経験的質量公式

原子核の液滴模型にもとづくベーテ・ヴァイツゼッカーの半経験的質量公式は,原子核の結合エネルギーを質量数Aと陽子数Zの関数として与えるものだ(後期の授業開始が迫っており,準備に追われてこんなものまで引っ張り出すことに…)。

質量公式といえば,森田先生の友達だった早稲田大学の山田勝美先生を思い出す。いろいろお世話になったことも。ベータ崩壊の大局的理論から,精密な質量公式の導出へとつながる研究に進み,日本の原子核理論分野ではユニークな位置にいたような気がする。

ベーテ・ヴァイツゼッカ—の質量公式からペアリング項を除いた束縛エネルギーの表式は次のようになる。
$ B(A,Z) = a_\mathrm{V} \cdot A - a_\mathrm{O} \cdot A^{2/3} - a_\mathrm{C} \cdot  \frac{Z^2}{A^{1/3}} - a_\mathrm{S} \cdot \frac{(N - Z)^2}{A} $
順に,体積項,表面項,クーロン項,対称項となっている。

教科書にあるような,一核子当たりの束縛エネルギー$B(A)/A$のグラフを書くためには,陽子数と質量数の関係$Z(A)$が必要である。これは,$\frac{d}{dZ}B(A,Z)=0$を与える$Z^*(A)$として求まり,
$Z^*(A)=\dfrac{A}{2+ a_\mathrm{C}/(2 a_\mathrm{S}) A^{2/3}}$となる。

ここで,$a_\mathrm{V}=15.8,\ a_\mathrm{O}=17.8,\ a_\mathrm{C}=0.70, \ a_\mathrm{S}=23.3$ という経験値(単位はいずれも MeV)を代入すると,

b[a_, z_] := 
 15.6 a - 17.2 a^(2/3) - 0.70 z^2/a^(1/3) - 23.3 (a - 2 z)^2/a
sol1 = NSolve[D[b[a, z], z] == 0, z];
z[a_] := z /. sol1[[1]]
e[a_] := b[a, z[a]]/a
v[a_] := 15.6
o[a_] := v[a] - 17.2 a^(-1/3)
c[a_] := o[a] - 0.70 z[a]^2/a^(4/3)
s[a_] := c[a] - 23.3 (1 - 2 z[a]/a)^2
Plot[{v[a], o[a], c[a], s[a]}, {a, 1, 216}, PlotRange -> {0, 20}]
sol2 = NSolve[D[e[a], a] == 0, a]
z[a] /. sol2[[2]]

{{a -> 4.66671*10^7}, {a -> 61.2878}}
27.4402

この近似式では,A=61,Z=27 が核子当たり結合エネルギー最大の核種となる。実際は鉄Fe(A=56, Z=26)なので少しズレている。

当初は,自分でグラフを書くには,$A=2Z + k Z^2$という近似が簡単かなと考えていた。鉛Pb(A=208, 82)を代入すれば,$1/k=153$から$Z(A)=-153+\sqrt{153^2+153 A}$ となる。概ねよい近似ではあるが,それほどメリットはなかった。


図:ベーテ・ヴァイツゼッカ—質量公式による核子当たり結合エネルギー
(上から,体積項,−表面項,−クーロン項,−対称項)

2022年9月20日火曜日

ウェルビーイング

日本の国がどうにもこうにもうまくいかなくなって30年。経済(円・GDP)も,科学技術(製造業・大学)も,学校教育も共倒れの様相を呈している。そんなわけで,政府自民党はスローガンをウェルビーイング(GDW)に持ってきたようだ(ブータンか)。これに例の怪しさ満点の持続可能な開発目標(SDGs)と,デジタルトランスフォーメーション(DX)を組み合わせた三本の矢的な合わせ技のことを思うと何が何だか状態になる。

中央教育審議会の教育振興基本計画部会(第7回)が9月20日15:00-17:00に開催されるが,その会議資料がめずらしく事前に公開されていた。それによると,次期の教育振興基本計画のコンセプトは次のようなものである。
〇予測困難な時代の象徴としての新型コロナウイルス感染症拡大による影響とロシアのウクライナ侵略による国際情勢の不安定化,浮き彫りになった課題と学校・教育の役割,学びの変容
〇誰一人取り残さず,すべての人の可能性を引き出すための教育の実現に向けて,個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実,学習者(学修者)主体の学び等の充実を図り,日本型ウェルビーイングの概念整理を踏まえた上で,多様な個人のウェルビーイングの実現を目指す。また,共生社会の実現・地域コミュニティの再構築に向けて,個人と社会のウェルビーイングの実現をつなぐ学校や社会教育施設の役割・機能を重視する。
〇少子化・人口減少の中で、持続可能な社会の発展を生み出していく人材を育むため,主体的に社会の形成に参画し,生涯にわたって学び続ける学習者としての基盤を学校教育において培うとともに,社会や時代の変化に応じて課題を発見・解 決するための学びをいつでも受けられる教育・社会環境を整備する。
〇コロナ禍を契機としてデジタルが飛躍的に社会に浸透。将来の社会基盤に変化を もたらすデジタルトランスフォーメーションを教育・学習全体の中に組み込む。 
〇これらを通じた価値創造により,人間中心社会としての Society 5.0 の実現を目指す。
クラクラしますね。教育の目標が日本型ウェルビーイングに設定されていた。例の3本の矢がみごとに組み合わさり,経産省へのゴマ擂りキーワードSociety 5.0 に着地させている。経産官僚に支えられていた安倍官邸はもう終ったはずなのに。

ウェルビーイングで検索してみると,いつの間にかすごいことになっている。そもそも主観的な概念を政策決定の中心に据えるというのも,客観的指標の改善がほとんど不可能になっているのを認めているようなものだ。しかも内閣府はWell-beingという英語表現をそのまま使っている。まあ,2000年のITが発端だったかもしれないが,SDGs,Society 5.0,カタカナ語でも間に合わず,そのうち政策キーワードは英単語だらけになりそうだ。

ある意味,東京オリンピック2020,大阪万博2025や来週の国葬儀だけにとどまらず,電通的なマーケティング・パブリシティ第一の思想が政府全体に浸透しきっているということなのかもしれない。日本会議・統一教会の反ジェンダー・男権家族思想の自民党宗教右派への浸透に匹敵するような話である。そんなわけで,ほとんど悪びれもせずに,提灯持ち的なウェルビーイング関連論文が量産され始めており,この方向性を正当化しているのが見て取れる。


写真:Memeplex(画像生成AI)が吐き出したイメージ
(keywords-> Well Being, Sustainable Development Goals and Digital Transformation of Japan)


2022年9月19日月曜日

ホモキラリティ(1)

理学部の4回生の研究室配属で原子核の森田研を選んだのは,そのころパリティ非保存や時間反転非保存などの不思議さに興味を引かれたのと,素粒子の内山研は本格的すぎて難しそうだったというあたりだ。 原子核物理という観点で見ると,核構造や核反応の主流とはほど遠い原子核の弱い相互作用という辺境分野だったので,後々苦労したのかもしれない。

森田先生は,研究室の冷蔵庫に粘菌を飼っていた。一度チラッとみたことがあるが,ビーカーかシャーレに黄色い塊のようなものが入っていた記憶がかすかにある。タンパク質を形成するアミノ酸はほとんどすべて左旋性を持っているが,その原因として生命進化の生合成過程に光の円偏光による反応非対称性が影響しているという説がある。原子核のベータ崩壊におけるパリティ非保存に由来した電子の偏極が,円偏光の代わりの役割を果たすという話があったらしい。まあ,詳細は別にして,弱い相互作用のパリティ非保存が生命のキラリティと関係しているのではないかという問題意識だ。

そこで,なぜ粘菌を飼っているのかという説明なのだけれど,森田先生から聞いたような気もするが,右耳から左耳に話が素通りしてしまって記憶に残っていない。良く考えるとわからない話だ。粘菌の何を観察すればどんな結論が出るのだろうか。


夜,放送大学の特番をみていたら,東京理科大学の硤合憲三先生が発見した不斉自己触媒反応ホモキラリティの話をやっていた。1995年に発見された反応はある種の鉛の有機化合物を対象としたものだが,100万分の1以下の差しかない鏡像異性体の混合物から,不斉自己触媒反応を数ステップ繰り返すだけで一方の側が99.5%含まれる状態にまで到達することができるというものだ。

この反応が生命タンパク質アミノ酸の不斉合成の話に直接繋がるかどうかはわからないものの,このようは化学反応過程が存在することを最初に発見したことの意義は大きい。

なお,ホモキラリティとは,キラル分子(鏡像異性体が存在する分子)においてエナンチオマー(片側の鏡像異性体)だけが存在していることを表わす。地球上の生命のタンパク質を構成するアミノ酸においてはL体のみが,糖質ではD体のみが存在している。

ここから粘菌の話を思い出したのだった。

2022年9月18日日曜日

大気の偏光

アミノ酸の旋光性の話を考えていたとき,太陽光の大気による偏光の原因がなぜかという疑問が派生した。ミツバチが散乱光の偏光から太陽の方向を割り出して帰巣するという話を聞いたことがあったのを思い出したからだ。

これは空気分子によるレイリー散乱が,電気双極子散乱だとすれば簡単に理解できるようだ。太陽から地球に届く光は偏っていないが,太陽方向に対して90度の方向にある大気から散乱されて自分の届く光があったとする。この横方向からの光は散乱体である分子の電気双極子散乱によるものだとする。その強度は,太陽光で誘導される電気双極子の方向から測った角度(0〜π)の正弦の二乗に比例する。このため,横方向からの光では,進行方向QPに垂直な縦偏光成分(散乱前の縦偏光)だけが寄与し,QP方向に振動する電気双極子からの偏光成分(散乱前の横偏光)は寄与しないことになる。

簡単な説明図を描いてみようとしたところ,途中で挫折しかかった。どうもTikZの使い方が十分に会得できていないことに問題がある。戒めのために晒しておこう。ああ,なんと美しくないコードなのだろう。プログラミング教育が必要なわけだ…orz(\tikzmathのところでで追加の変数を定義しただけでエラーがでるという隘路に嵌まってしまった。わかったら教えてください>未来の自分へ)


図:太陽光のレイリー散乱と偏光の説明用(青:縦偏光,赤:横偏光)

\begin{tikzpicture}
%\tikzstyle{every node}=[font = \large];
\filldraw (0,0) circle(1pt) node[below right]{O};
\filldraw (8,8) circle(1pt) node[below right]{P};
\filldraw (12,4) circle(1pt) node[below right]{Q};
\draw[step=1.0, dotted] (-2,-4) grid (14,10);
\draw[cyan](-2,0)--(14,0);
\draw[cyan](0,-4)--(0,10);
\draw[cyan](-1,-1)--(10,10);
\draw[cyan](4,-4)--(12,4);
\draw[cyan](12,4)--(8,8);
%\draw (0,0) arc (180:0:1.4cm and 2cm);
\foreach \t in {1,...,19}
{
\tikzmath{
\x = 0.1*\t;
\y1 = \x; \y2 = \x + 1.5*sin(\x*90);
\z1 = \x; \z2 = \x - 1.5*sin(\x*90);
}
\draw[thick, blue] (\x,\y1)--(\x,\y2);
\draw[thick, red] (\y1,\x)--(\y2,\x);
\draw[thick, blue!30!white] (\x+2,\z1+2)--(\x+2,\z2+2);
\draw[thick, red!30!white] (\z1+2,\x+2)--(\z2+2,\x+2);
\draw[thick, blue] (\x+4,\y1+4)--(\x+4,\y2+4);
\draw[thick, red] (\y1+4,\x+4)--(\y2+4,\x+4);
\draw[thick, blue!30!white] (\x+6,\z1+6)--(\x+6,\z2+6);
\draw[thick, red!30!white] (\z1+6,\x+6)--(\z2+6,\x+6);
\draw[thick, blue] (\x+4,\y1-4)--(\x+4,\y2-4);
\draw[thick, red] (\y1+4,\x-4)--(\y2+4,\x-4);
\draw[thick, blue!30!white] (\x+6,\z1-2)--(\x+6,\z2-2);
\draw[thick, red!30!white] (\z1+6,\x-2)--(\z2+6,\x-2);
\draw[thick, blue] (\x+8,\y1)--(\x+8,\y2);
\draw[thick, red] (\y1+8,\x)--(\y2+8,\x);
\draw[thick, blue!30!white] (\x+10,\z1+2)--(\x+10,\z2+2);
\draw[thick, red!30!white] (\z1+10,\x+2)--(\z2+10,\x+2);
\draw[thick, blue!30!white] (\x+8,-\x+8)--(\x+8,-2*\x+\z2+8);
\draw[thick, blue] (\x+10,-\x+6)--(\x+10,-2*\x+\y2+6);
}
\end{tikzpicture}


2022年9月17日土曜日

三次元極座標のラプラシアン

座標変換して三次元の極座標のラプラシアンを求めるのは,面倒な計算アルアルのトップにくるやつである。こんなかんじ直交曲線座標系の一般式に代入すれば,どうということもないけれど,そこに到達するまでがたいへん。

2次元極座標のラプラシアンを2回使うのがスマートだという話があったので,試してみる。

第1段階(xy平面の2次元ラプラシアンの計算)
$x = \rho \cos \phi, \  y = \rho \sin \phi \ $に対して,$\dfrac{\partial^2}{\partial x^2}+\dfrac{\partial^2}{\partial y^2} = \dfrac{\partial^2}{\partial \rho^2}+\dfrac{1}{\rho}\dfrac{ \partial}{\partial \rho}+ \dfrac{1}{\rho^2 } \dfrac{\partial^2}{\partial \phi^2}$ となる。

これは,$\nabla_{xy} = \bm{e}_x \dfrac{\partial}{\partial x} +  \bm{e}_y \dfrac{\partial}{\partial y} = \bm{e}_\rho \dfrac{\partial}{\partial \rho} +  \bm{e}_\phi \dfrac{1}{\rho} \dfrac{\partial}{\partial \phi}$ の内積$\nabla_{xy}\cdot \nabla_{xy}$を計算すれよい。

ただし,$ \bm{e}_\rho = (\cos \phi,\ \sin \phi),\  \bm{e}_\phi = (-\sin \phi,\ \cos \phi)\ $より,$\dfrac{\partial \bm{e}_\rho}{\partial \phi} = \bm{e}_\phi,\ \dfrac{\partial \bm{e}_\phi}{\partial \phi} = -\bm{e}_\rho\ $を用いる必要がある。内積の左の$\nabla_{xy}$が右の$\nabla_{xy}$の中にある基底ベクトルを微分するところから$\dfrac{1}{\rho}\dfrac{ \partial}{\partial \rho}$の項が出てくる。

第2段階(z軸を含む2次元ラプラシアンの計算)
$\rho = r \sin \theta, \  z = r \cos \theta \ $に対して,$\dfrac{\partial^2}{\partial \rho^2}+\dfrac{\partial^2}{\partial z^2} = \dfrac{\partial^2}{\partial r^2}+\dfrac{1}{r}\dfrac{ \partial}{\partial r}+ \dfrac{1}{r^2 } \dfrac{\partial^2}{\partial \theta^2}$ となる。

これも,$\nabla_{\rho z} = \bm{e}_\rho \dfrac{\partial}{\partial \rho} +  \bm{e}_z \dfrac{\partial}{\partial z} = \bm{e}_r \dfrac{\partial}{\partial r} +  \bm{e}_\theta \dfrac{1}{r} \dfrac{\partial}{\partial \theta}$ の内積$\nabla_{\rho z}\cdot \nabla_{\rho z}$を計算すればよい。

この結果,$\dfrac{\partial^2}{\partial x^2}+\dfrac{\partial^2}{\partial y^2}+\dfrac{\partial^2}{\partial z^2} =   \dfrac{\partial^2}{\partial r^2}+\dfrac{1}{r}\dfrac{ \partial}{\partial r}+ \dfrac{1}{r^2 } \dfrac{\partial^2}{\partial \theta^2}+\dfrac{1}{\rho}\dfrac{ \partial}{\partial \rho}+ \dfrac{1}{\rho^2 } \dfrac{\partial^2}{\partial \phi^2} $となる。

あとは,$\rho = r \sin \theta \ $とすればほぼOKだが,問題は,$\dfrac{\partial}{\partial \rho}$であり,ここを,$r,\ \theta$で書き直す必要がある。すなわち,二変数合成関数の偏微分の公式から,

$\dfrac{\partial}{\partial \rho} = \dfrac{\partial r}{\partial \rho} \dfrac{\partial}{\partial r} + \dfrac{\partial \theta}{\partial \rho} \dfrac{\partial}{\partial \theta}= \frac{\partial \sqrt{\rho^2 + z^2}}{\partial \rho} \dfrac{\partial}{\partial r} + \frac{\partial \tan^{-1}(\rho/z)}{\partial \rho} \dfrac{\partial}{\partial \theta} = \sin \theta \dfrac {\partial}{\partial r}  + \dfrac{\cos \theta}{r} \dfrac{\partial}{\partial \theta}$

結果をまとめると,
$\bm{\nabla}^2 = \dfrac{\partial^2}{\partial r^2}+\dfrac{2}{r}\dfrac{ \partial}{\partial r}+ \dfrac{1}{r^2 } \dfrac{\partial^2}{\partial \theta^2}+\dfrac{1}{r^2 \tan \theta}\dfrac{ \partial}{\partial \theta}+ \dfrac{1}{r^2 \sin^2\theta} \dfrac{\partial^2}{\partial \phi^2}$

2022年9月16日金曜日

ファクターX

2年半前の2020年春,新型コロナ ウイルス感染症の蔓延が始まったころ,欧米諸国に比べて日本の感染者数や死亡数は圧倒的に少なかった。その原因は何かということで,あれやこれやの説があったが決定的な証拠がなくて,当初はファクターX(あるいはなぞなぞ効果 by コロラド先生)とよばれていた。

その後,優等生だったニュージーランドや韓国や台湾でも感染が急拡大してしまい,日本を含む東アジア太平洋地域の特殊性というのは,いつのまにか話題にならなくなった。

2022年夏の第7波のピークを過ぎた頃から,感染者数が過去に比べてかなり大きいにも関わらず,重症化率や致命率がそれほどでもないという理由で,様々な規制が緩和されようとしている。WHOも,コロナの終わりが視野に入ってきたと口走るようになった。

データアナリスト(マーケティングリサーチャー)の萩原雅之さんが,Our World in Dataから,日本の人口当たりの新規感染者数を世界と比較していたので,死亡数や致命率もあわせて確かめてみることにする。やはり,第6波以降の報告値は大きく変わってしまった。なんでだろう。




第1,2波では世界平均の1/10ほどだったものが,第3,4,5波では。2-3分の1程度になり,なぞなぞ効果は消えたといわれた。さらに,第6波では世界平均を上回り,第7波では逆に1桁近く日本の方が大きくなってしまった。現時点では主要国中,台湾,韓国,に続き第3位になっている。





死亡数でも感染者数と同様の傾向があるが,世界平均を上回るのは第5波からである。第7波では,人口当たり死亡数は世界平均を1桁近く上回り,現時点では主要国中第1位になっている。ほとんどニュースでは取り上げられていないけれど。そして,その日本の中でもダントツなのが維新に牛耳られている大阪





第1波から第4波の致命率は2〜5%もあって,行動制限も当然という状況だった。第5波には1%前後まで収まり,第6,7波にかけては0.1%のオーダーまで下がっている(たぶんそれでもインフルエンザよりは高い)。これがこのまま続くのかどうかは変異株の性質次第かもしれない。

東京における第7波の新規感染者数のピークは8月の第1週の3.3万人/日であった。現在まで,平均3.4%/日の割合で減少している。これが続けば,9月末には5700人/日,10月末には2000人/日,11月末には700人/日とおさまるペースだ。第8波については,変異株や冬場に向かう環境変化の効果次第でどうなるかわからない(なお,全国の値は東京の7-8倍程度である)。

2022年9月15日木曜日

学制百五十年

内田洋行の大久保さんが,9月5日の学制150年の式典に出席されたことをFaceBookに書いていた。この式典は地味なものだったのであまり大きなニュースにはならなかった。たぶん,みんな日本の教育の歴史的意義には関心がないのだろう。金儲けの道具として以外の側面には。

学制百五十周年記念式典次第

国歌演奏
開式の辞  文部科学副大臣 簗  和生
式  辞  文部科学大臣  永岡 桂子
教育者表彰 文部科学大臣表彰状授与
      (被表彰者 百五十五名)
       被表彰者代表 石崎 規生
天皇陛下おことば
祝  辞  内閣総理大臣  岸田 文雄
      衆議院議長   細田 博之
      参議院議長   尾辻 秀久
      最高裁判所長官 戸倉 三郎
閉式の辞  文部科学副大臣 簗  和生
待ち時間は長かったらしいが,式自体は簡素なものですぐに終ったとのこと。国立教育政策研究所では,明治150年のときには国立教育政策研究所教育図書館明治150年記念事業を行っていたが,今回はスルーしているようだ。

P. S. 某国葬儀の場合は,午前11時35分集合で,儀場内は缶・ペットボトル等手荷物持ち込み禁止,送迎バス乗車から献花終了まで5時間程度は食事ができないらしい。

[1]「学制150年記念シンポジウム・記念展示」の開催について(文部科学省,9/4/2022)
[2]学制150年 −学校がはじまる−(国立国会図書館)
[3]我が国の学校制度の歴史(国立教育政策研究所)
[4]学制百五十年史(文部科学省)
[5]学制百二十年史(文部科学省)
[6]学制百年史学制百年史 資料編(文部科学省)

2022年9月14日水曜日

COCOAの行方

COCOAログチェッカーからの続き

河野太郎デジタル大臣は,9月13日の記者会見で,厚生労働省が開発した新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)が近々サービス停止になると表明した。

自分がCOCOAをインストールして800日余り経過した。幸いなことにこれまで接触の報告はなかった。COCOAは当初から,そしてその途中でも散々ケチがついてしまったボロボロのシステムだった。4000万件ダウンロードされ,それなりの役目は果たす可能性はあったかもしれないが,本当に意味があったかどうかは検証されていない。

それにしても,せっかく開発した貴重なシステムをすべて水に流してしまうのか。確かに,コロナウイルス感染者の全数把握をやめた段階でMy HER-SYSが使えなくなるのであれば,連動してCOCOAからの陽性登録ができなくなるというロジックはわからなくもない。しかしながら,一端でき上がったシステムを簡単にチャラにしてしまうということに何の躊躇もないことに吃驚する。京大OCWの件と同じマインドがトップに染みついているわけだ。

デジタル庁がその管轄下に置きたがっているこの国のデータベースや情報システムの多くが利権を駆動力として立ち上がり,中抜きを重ねて一定の利益が回収できれば,伊勢神宮の式年遷宮のごとく新しく立て替えることに向かっていく。これが我が国のDXの本質のように見えてしまう自分の心は黒く染まっているのでしょうか。

P. S. なんで厚生労働省のシステムの話に,河野太郎が真っ先に口を突っ込んでいるの?


図:COCOAのアイコン(App Storeから引用)



図:COCOAの業務の流れ(東京新聞 2021/2/20 から引用)


[2]接触アプリCOCOAからの教訓(楠正憲)

2022年9月13日火曜日

迷路

 Togetterで,数学好きによる迷路の解法が紹介されていた。

(1) 迷路の道の部分をゴムで作って入口と出口を引っ張ると解が直線として現れる。

(2) 代数的方法(固有値を計算して)・・・ちょっとわかりませんでした・・・

(3) 画像編集ツールのバケツで色分けして2色の領域の間を進む。

(4) 行き止まりを順次塞いでいけば正解だけ残る(最優秀賞)。

升目データが与えられていれば(4)の計算が一番正統的だけれど,画像データだけしかない場合は(3) が最も強力だ。入口若しくは出口の両脇の壁を別の色のバケツでタッチすればよいだけ。場合によっては,中に島ができてうまくいかないことがあるかもしれない。

図:迷路の塗り分けによる解法の例

2022年9月12日月曜日

謹啓−?

公用文(2)タテ型コンテンツからの続き

各種世論調査の平均で反対が賛成を15ポイントあまり上回っているところに持ってきて,エリザベス女王の本物の国葬が8日前にブッキングされてしまったインケツな(by 菅野完)安倍晋三の国葬儀の参加者の方はなかなかうまらなくて,内閣府はあわててあちこちに岸田文雄名義の案内状を速達で締切日の上に手書き修正シールを貼って追加発送しているらしい。

国葬,速達で検索したら出てくるTwitterで話題の文面は「謹 啓/ 故 安 倍 晋 三 国葬儀を左記により挙行いたし/ ますので御案内申し上げます/   敬 具」というものだった。日時は令和四年九月二十七日(火)午後二時,場所は日本武道館,差出人名義は故 安 倍 晋 三 国葬儀委員長/内閣総理大臣  岸 田 文 雄,となっている。

話題の焦点は,書簡の挨拶の頭語(謹啓)と結語(敬具)の対応関係はこれでよかったのかというものだ。前略−草々,拝啓−敬具,謹啓−謹白 が普通なのではないかと喧しい。念のために調べてみると,(1) 公用文作成の要領には見当たらない。(2) 日本郵便だとどちらでもよいようだ。(3) 佐伯市の公文書作成の手引きでは,前略・冠省−早々・草々・不一,拝啓−敬具・敬白,謹啓・恭啓−謹言・謹白,となっていた。

実際の用例を,googleで数えてみると次のようなことなので,慣例的にもあながち間違いとはいえなかった。

前略 草々 +site:go.jp +filetype:pdf 320 hits
拝啓 敬具 +site:go.jp +filetype:pdf 3740 hits
謹啓 謹白 +site:go.jp +filetype:pdf 1270 hits
謹啓 敬具 +site:go.jp +filetype:pdf 362 hits
謹啓 敬白 +site:go.jp +filetype:pdf 247 hits
謹啓 謹言 +site:go.jp +filetype:pdf 39 hits
まあ,自分も生まれてこのかた,前略-草々と拝啓-敬具をあわせても両手で数えるほどしか使ったことがないので,あまり大きなことはいえないのだけれど,あちらこちらで構造・制度疲労が進んでいるわが国のことだから何が起こっていても不思議ではない気がしたのだった。

P. S. ロンドンのウエストミンスター寺院でのエリザベス女王の国葬は9月19日,ニューヨークでの第77回国連総会一般討論は9月21日〜27日,東京の日本武道館での安倍元総理大臣国葬儀は9月27日となっている。

2022年9月11日日曜日

Modern Quantum Mechanics

東北大学の堀田昌寛さんと玉川大学の中平健治さんの論争が迷走していた。 

堀田さんの教科書「入門 現代の量子力学」は最近人気の1冊だ。その第2章は二準位系の量子力学,第3章は多準位系の量子力学となっていて,最小限の物理的な実験事実から,量子力学の基礎的な原理を導いて,量子情報・量子測定まで至るというものだ。

これまでの量子力学のような特殊関数にがんじがらめになっているところはばっさり削っていて,情報科学の学生等をも視野に入れた非常にモダンで野心的な内容だ。まあ,自分にとっては,岩波書店の砂川重信先生(1925-1998)の量子力学の展開のほうが正典的でカッコよくみえるのだけれど。

中平さんは,堀田さんが説明している前提だけを使った場合,二準位系の量子力学の原理から多準位系の原理を導くことは数学的にはできていないということを主張した。一方,堀田さんは,教科書の補足文書を公開して前提を説明しており,物理的に検証な可能な前提条件の組み合わせで,二準位系の量子力学の原理が三準位系の量子力学でも成立することを証明できているのだとした。

たぶん,数学者と物理学者の証明という言葉の使い方と(公理からの演繹なのか,実験的に検証できる推論ならば証明とするのか,あたり),前提条件の理解に齟齬があるような気がするけれど,まあ相変わらずのよくあるやぎさん郵便コミュニケーションの一例かもしれない。

さて,それはどちらの言い分が正しいのかよくわからないが,堀田さんの教科書ではシュテルン=ゲルラッハの実験が二準位系の量子力学構築の出発点とされている。これは,桜井純(J. J. Sakurai)(1933-1982)が残した,Modern Quantum Mechanics(Adison-Wesley 1985)で展開された方法を踏襲したものだ。

大学院生のころ,桜井の Advanced Quantum Mechanics は,西島和彦(1926-2008)のFields and Particles と並んで精読した1冊だった。一方,大坪先生がすごくいいと褒めていたModern Quantum Mechanicsの方はとうとう読まずじまいに終った。ちゃんと勉強しておけば良かった。

堀田さんの教科書を眺めていると,桜井にはどう書いてあったのか気になって本棚から引っ張り出してきた。第1章の12行目でいきなりつまづいた。Davisson-Germer-Thompson experiment とあるのだ。あれ?電子線回折ならば,J. J. Thomsonの息子の G. P. Thomson (1892-1975)がここにくるのではないか。あちこち調べたけれど,Typoのような気がする。ところが,Modern Quantum Mechanicsの第三版でも直っていないのだ。うーん・・・。

2022年9月10日土曜日

未来人災ビジョン

デジタル社会の実現に向けた重点計画からの続き

経済産業省が今年5月にまとめたのが,未来人材ビジョンだ。ブログのタイトルは,指が勝手に人災に変換してしまったものだけれど,訂正するに忍びない。

このレポートは「DXと脱炭素」の両キーワードを前提に,AIの浸透による労働市場の両極化が進み,外国人労働者にも選ばれない国になっているという認識に立っている。そこで企業ができることは何かという問題設定をしながら,企業ができることというより,社会システム特に教育システムをぶっ壊せというNHK党的なメッセージを送るものだった。

日本の経済が凋落化をはじめたのは1990年代,経済産業省(METI)がまだ通商産業省(MITI)を名乗っていた時代からだ。経済再生政策の決定打に欠ける経済官僚たちは,100校プロジェクトを嚆矢として,硬直的な日本の教育システムに手を突っ込みたくてうずうずしていた。その気持ちはよくわかる。

この未来人材ビジョンでも,あいかわらず企業がまっとうな人材育成システムや多様性を持つ雇用システムを持たないことをこれでもかとデータで示しつつ,その課題を日本の教育システムに責任転嫁しようとしている。いや,世襲が続く日本の社会システムの硬直性が問題であるのはそのとおりなので,だから新自由主義右翼利権移転集団の日本維新の会がこれだけの隆盛を保っていられるわけだ。

その社会の硬直性に穴をあけて,一瞬光が差し込んだのが,20世紀から21世紀にかけてのインターネット革命だった。しかし,社会的な同調圧力が強すぎる日本では,これが逆に作用した。フロムの自由からの逃走というキーワードを情報選択困難症候群と組み合わせて使いたくなる。参議院選挙の結果も推して知るべしだった。

2022年9月9日金曜日

デジタル社会の実現に向けた重点計画

教育データ利活用ロードマップからの続き 

2022年6月7日,デジタル社会形成基本法(2021-)の第37条1項にもとづいたデジタル社会の形成に関する重点計画が,政府(デジタル庁)から「デジタル社会の実現に向けた重点計画」として国会に報告された。なんで日付は入っているのに作成主体名が書いてないのだろう。もうそれだけで,アウトのような気がする。

さて,この中には教育についての記述が4ページ弱にわたってまとめてあるので,これまでのややこしい話を概観するには都合がよい。最初に気になったのが教育を準公共分野と位置づけているところだ。おかしくないか。

現在の日本政府の見解では,政府の役割が大きな,安全保障と治安維持は公共分野であり,防災−健康・医療・介護−教育−こども−インフラ−港湾(港湾物流)−モビリティ−農林水産業−食関連産業がこの濃淡で準公共分野と位置づけられている。その定義は,国・独立行政法人,地方公共団体,民間事業者等といったさまざまな主体がサービス提供にかかわっている分野とのこと。

とにかく,公共の概念をできるだけ小さくしてしまいたいらしい。昔,高橋邦夫さんが私学も公教育を担っているのだと強調していたけれど,政府が見ているのは学校以外の教育サービスなのだろうか。それならばわざわざ重点計画に取り上げる必要はない。学校へ導入されるEdTech提供企業のことなのだろうか。それもおかしな話だ。防衛整備品を納入しているのも民間企業なのだから。

次に気になったのは,経済産業省のSTEAMライブラリー。 「SDGs の社会課題などを入口に探究的・教科横断的な学びを始めるきっかけになる,63 テーマの「動画・資料コンテンツ群」を作成し、無料で公開しているもの」らしいが,理科ねっとわーくの反省は生きているのだろうか。大金をばらまいて作成した理科デジタル教材の多くが,FLASHの滅亡とともにアクセスすらできなくなっており,鬼怒川温泉の廃虚群のような様相を呈していた。

2022年9月8日木曜日

教育データ利活用ロードマップ

学習eポータル & 教育ダッシュボード からの続き

2022年1月に,デジタル庁,総務省,文部科学省,経済産業省によって,教育データ利活用ロードマップがつくられた。公表時に炎上したらしく(もう忘れている),中室牧子が弁明していた。

あらためてロードマップを眺めてみると,どうもすっきりしないのだった。理念が明確でないままに,細かなことを書き込みすぎていてちょっと食傷気味となる。さらに,この大きな利権めがけて,総務省や経済産業省まで手を突っ込んできているので,これが混乱に更に拍車がかかる。

わかりやすかったのは,ロードマップの2022年迄の短期目標の部分だ。

・教育現場を対象にした調査や手続が原則オンライン化
・事務等の原則デジタル化など,校務のデジタル化を進め,学校の負担を軽減
・インフラ面での阻害要因(例:ネットワーク環境)の解消
・教育データの基本項目(全国共通の主体情報)が標準化

ここまではよい。その後はログ収集やPDS(Personal Data Service?)が中心テーマとなって,とにかくデータを標準化して蓄積すればよいという思いが先走りすぎている。この情報の網によって個人(児童・生徒・保護者・教員)はあるいは学校はがんじがらめに搦め捕られそうだ。あるいは,どうせ中途半端なシステムができるので,心配しなくていいということか。

2022年9月7日水曜日

教育ダッシュボード

教育データ標準からの続き

豊福晋平さんが,ダッシュボードという言葉をちらっと口走っていた。何のことかと調べてみた。

ダッシュボードとは,自動車は飛行機の計器盤のことであり,システムの刻々と変化する状態を一目で把握できるもののことだ。これをメタファーとしたビジネス管理ツールが登場して進化していくことになる。

それをさらに学校教育の分野に転用したものが,教育ダッシュボードである。以前は学習カルテや学習ポートフォリオというコンセプトで,個人ごとの学習記録をデジタル化して集約しよう流れがあった。

実のところ,大阪教育大学に導入された電子ポートフォリオは,学生の学びの様子を把握して指導することにはほとんど役立たなかった。それは,大学評価のための実績(エビデンス)を作文するというその一点だけで価値がある取り組みだった。いまはどうか知りませんが。

そのダッシュボードの活用例を探していて,真っ先に飛び込んで来たのが大阪市の取り組みだ。大阪市における次世代学校 支援事業の中心にあるのがダッシュボードで,校務系データと学習系データを組み合わせて分析した結果を一画面に可視化するというものだ。説明は,生活指導系の事例に重きが置かれていた。

それを真似たのが,東京都だ。東京都教育委員会と慶應義塾大学SFC研究所との教育ダッシュボード開発に伴う共同研究に関する協定が締結されている。これに関する情報が請求によって公開されていた。あらら,中室牧子じゃないか。非認知情報アンケートとあれやこれやを結びつけようとしていた。

共通するのは,成績などの定量化が可能な従来型の情報ではなく,生活態度や非学習行動など把握しにくい部分を可視化しようというものだ。まあ,保健室を訪れた回数はわかるわね。

2022年9月6日火曜日

学習eポータル

教育データ標準からの続き

教育データの標準化の具体的な活用イメージとして,文部科学省CBTシステム(MEXCBT: Computer Based Testing)を含む学習eポータル があげられている。

MEXCBTは,児童生徒がコンピュータからオンラインで問題演習ができるシステムだ。家庭からも学校からも使え,選択問題や短答式問題は自動採点される。システムの開発は文部科学省が事業者連合コンソーシアムに委託していてすでにプロトタイプが稼働している。

MEXCBT用の問題は,国や地方自治体などの公的機関が作成したものを使う。教師が指定した問題を児童生徒が解いて,その結果は自分と教師が確認できて,フィードバックする。子どもが自分で勝手に問題を選んで自由に学びを進めていくようにはできていないのかもしれない。

さて,その学習eポータルだ。日本の初等中等教育に適した共通の学習管理機能を備えたソフトウェアシステムであり,(1) 学習(学習リソース)の窓口機能,(2) 連携のハブ機能(シングルサインオン),(3) MEXCBTへのアクセス機能,の3つの機能を果たすことになる。

いまは亡きインターネットと教育(1996-2002)や教育情報ナショナルセンター(NICER: 2001-2011)の考え方をリニューアルして再現したものだ。前者は自分の個人的な取り組みを越えられなかったので仕方がないが,文部科学省が国立教育政策研究所を使って鳴り物入りで立ち上げた教育情報ナショナルセンターがあっという間につぶれてしまったのは残念だった(再立ち上げも失敗)。

そのデータは,GENES 全国学習情報データベース(学習ソフトウェア情報研究センター)と教育の情報化支援サイトNICER-DB(パナソニック教育財団検索システム研究会)に引き継がれることになっていたが,前者は廃虚と化し,後者に至ってはドメインがマイナー業者に乗っ取られてしまった。

さて,この度の学習eポータルはその轍を踏まずに離陸することができるのだろうか。昔,芳賀さんといっしょに活動していた内田洋行の伊藤博康さんがリーダーとなって,一般社団法人ICT CONNECT 21の学習eポータルSWGが取り組んでいるので,まあ前回よりはましなのかもしれない。

学習 e ポータルの仕様は、検討と実 証を繰り返しながら、学習 e ポータル標準モデルとしてまとめられる。MEXCBT は国が開発、 運営を担うのに対し、学習 e ポータルは複数の民間企業が標準モデルに基づいて開発、提供し、小中高校などの教育機関がその中から選択して利用することを想定している

なるほど,そういうことか。さらに,MEXCBTとの連携は必須要件だが,デジタル教科書やデジタル教材との連携は推奨となっている。しかしながら,LRS(Learning Record Store)学習履歴は必須とされているのだった。各社が開発して提供する学習eポータルはなんらかの形で認証されることになるのだろうか?

中央集権的なデータセンターモデルから,複数のポータルが統一規格のもとに連携するモデルに進化しているが,それでも話は面倒にみえる。やはり,パーソナルAIアシスタントを子ども・保護者・教師一人一人が所有して,必要な情報や協働はこのAIアシスタントが探し出して持ってくれるというシステムを目指したほうがいいのかもしれない。GIGAの次のステージだ。

[1]学習eポータル標準モデル(2022.2.22,Ver. 2.00,ICT CONNECT 21 学習 e ポータル サブワーキンググループ)
[2]文部科学省CBTシステム運用支援サイト(文部科学省)
[3]子どもの学び応援サイト−学習支援コンテンツポータルサイト(文部科学省)
[4]STEAM ライブラリー(経済産業省・未来の教室プロジェクト
[5]EdTEchライブラリー(経済産業省・未来の教室プロジェクト
[6]学習eポータルまとめサイト(ICT CONNECT 21)

2022年9月5日月曜日

教育データ標準

GIGAスクール構想からの続き 

まず復習。GIGAスクール構想とは,2019年から文部科学省が取り組んでいる施策である。GIGAはGlobal and Innovation Gateway for All の略であり,全国の児童・生徒に一人一台のコンピュータと高速ネットワークを整備しようというものである。2021年3月には,全自治体の96%以上で整備が終っており,いちおう小中学生一人一台という目的が完了したということらしい。

高等学校については,2022年度中に1学年は100%,2024年度までに高校生一人一台を実現する目標となっていて,すでに半数の府県では100%が達成されている。まあ,小中学校も含めてそれらがうまく機能しているかどうかはまた別の話。

これは25年前の100校プロジェクトを嚆矢とした学校へのインターネット導入の動きに匹敵する大きな変化には違いない。ようやくあのころの理想が具体化できる条件が整いつつあるということか。

ところで,この構想を支えるために,教育データの標準化が取り上げられている。教育データを,(1) 主体情報(児童生徒・教職員・学校の各属性等の基本情報),(2) 内容情報(学習内容の情報),(3) 活動情報(生活活動,学習活動,指導活動などの情報)に区分する。これらをすべて網羅的に扱うわけでなく,データの相互運用性を図るという観点で全国的に統一が必要なものに限り,その使用を強制せず,政策的に誘導するというものだ。

教育データ標準として,すでに次のようなものが定められている。学校コード,教育委員会コード,学習指導要領コード。学校は,位置情報(緯度・経度・標高)や時間情報(開設年月,統合年月,廃止年月)がほしいところだ。教育委員会には事務局の住所・連絡先すらない。学習指導要領コードは,NDCとの対応があれば・・・というか,知識を網羅的にコード化することはそもそも可能なのだろうか。普遍性に欠ける学習指導要領の文章を切り出してコード化するというのはどうにも気持ちが悪い話である。

[1]StuDX Style(文部科学省)GIGAスクール構想の実践事例

2022年9月4日日曜日

Stable Diffusion

画像生成AI(4)からの続き

画像生成AIで,いま一番ホットな Stable Diffusionの特徴は,オープンソースであり,誰でもが自分のローカル環境にこのAIアプリケーションを導入できるというところだ。

以前から,ネット上には環境構築手順がいろいろと投稿されているが,ゲーミングPCの高いGPUスペックがないと使い物にならないというのが定説だった。

MacBook M1環境での報告がないわけではなかったが,python環境のためにAacondaがどうとか(以前複数のバージョンのanacondaを入れて往生した),ややこしいことこの上なく,それも人によって説明がマチマチなので閉口していた。

この度公開された手順は大変スッキリしていて簡単だった。さっそく手元のMacBook Air M1で試してみることにする。環境構築は何の問題もなくパスした。huggingface.co からのモデルの取得には,アカウントの作成が必要で,GitHubのそれと途中で混乱してあわてたけれど,4GBのデータ取得も数分もかからなかった。

見本にしたがってリンゴの絵を出してみたところ,7分程度で完了した。途中でメモリを使い切っているという警告が出たので,あれこれのバックグラウンドで立ち上がっていたアプリは全部シャットダウンした。
ローカル環境構築
% git clone -b apple-silicon-mps-support https://github.com/bfirsh/stable-diffusion.git
% cd stable-diffusion
stable-diffusion % mkdir -p models/ldm/stable-diffusion-v1/
stable-diffusion % python3 -m pip install virtualenv
stable-diffusion % python3 -m virtualenv venv
stable-diffusion % source venv/bin/activate
(venv) stable-diffusion % pip install -r requirements.txt

モデルの取得
https://huggingface.co/CompVis/stable-diffusion-v-1-4-original
% mv /Downloads/sd-v1-4.ckpt stable-diffusion/models/ldm/stable-diffusion-v1/model.ckpt

見本の出力
(venv) stable-diffusion % python scripts/txt2img.py --prompt "a red juicy apple floating in outer space, like a planet" --n_samples 1 --n_iter 1 --plms

(venv) stable-diffusion % mv outputs/txt2img-samples/grid-0000.png ~/Desktop/grid-0009.png

安全装置の場所
(venv) stable_diffusion % pwd
stable-diffusion/venv/lib/python3.10/site-packages/diffusers/pipelines/stable_diffusion
(venv) stable_diffusion % vi safety_checker.py

プロンプトは,"a turtle and a pigeon are fighting on the sunny veranda under the blue sky"として,
1枚の画像生成に3分ほどかかる。n_samplesパラメタを増やすと異常終了し,iterationパラメタをさわると複数画像が生成された。ときどき,リックロールGive You Up)イメージがでる。


写真:ローカルにインストールしたStable Fusionの20回の出力から選んだ2点

2022年9月3日土曜日

UML

中学生もUML(Unified Modeling Language,統一モデリング言語)を学ぶ時代だというのであわてて追いかけてみる。なんだか統一ばやりの今日この頃。

UMLは,1997年ごろからOMGによって管理されるようになったモデリング言語である。プログラミングの手前で,問題とする対象や過程の構造や処理フローなどを整理して可視化する機能を持っている。何種類かのダイアグラムに分類されているが,そのうちのアクティビティ図が従来のフローチャートに概ね対応する。

いろいろツールはあるようだが,PlantUMLというテキストベースでダイアグラムを作成するツールが便利そうだ。brew install graphviz と brew install plantuml で必要なソフトをインストールする。hoge.umlというUMLファイルをつくって。plantuml hoge.uml とすれば hoge.png というUML図が得られる。よくある見本は次のようなものだ。


図:UMLのシーケンス図のサンプル

最近のバージョンでは,モノトーン表示になっているが,skin rose とすると以前のカラリングで表示することができる。 この図を出力するためのumlファイルは次のようなものだ。

@startuml

skin rose

title PC入出力シーケンス
header テストシーケンス
footer ページ %page% / %lastpage%

actor ユーザ
box PC
participant USB
participant CPU
participant ディスプレイアダプタ
end box

alt キーボード
ユーザ -> USB : キー入力
else マウス
ユーザ -> USB : マウス入力
end
USB -> CPU : 入力データ
activate CPU
note over CPU : 処理中
CPU -> ディスプレイアダプタ : 表示データ
deactivate CPU

participant ディスプレイ
ディスプレイアダプタ -> ディスプレイ : 表示データ
ディスプレイ -> ユーザ : 表示

@enduml
[1]PlantUML概要

2022年9月2日金曜日

プログラミング教育(3)

プログラミング教育(2)からの続き

高等学校に情報という教科が新設されたのは,平成10年(1998年)告示の学習指導要領からだった。これを受けて2003年度から高等学校での必履修科目の情報の授業が始まった。

そのころ,まだ大阪教育大学に在籍していた田中博之さんに誘われて,日本文教出版の教科情報の教科書編集に参画することになった。関西大学総合情報学部の水越敏行先生をトップに,新潟大学の生田孝至先生,水越先生の弟子の黒上晴夫さん(阪大オケでチェロをやっていた)などにひきいられた20名ほどのチームだった。慶応義塾幼稚舎の田邊則彦さんの引きで,看板には村井純さんも据えられた。

田中博之さんは,その後いろいろあって編集チームをやめ,大阪教育大学から早稲田大学の教職大学院に移った。1998年指導要領では,情報A(入門),情報B(理系),情報C(文系)の3つの選択科目が設定されており,関西大学の江澤義典先生,富山大学の黒田卓さんら数名による情報Bチームに配属された。情報Bチームは次の学習指導要領改訂で情報の科学チームに再編され,辰己丈夫さんなども加わって Javascript 路線を進むことになる。なお,自分も本業が忙しくなったので,2012年ごろには水越先生にお願いして抜けさせてもらった。

全く新しい科目が立ち上げられたということで,手探りで教科書づくりがすすんでいくのだが,プログラミングは教科「情報」の中心に据えないというのが共通了解事項であった。当時の大学では,コンピュータ教育=プログラミング教育という暗黙の刷り込みがあったので,なかなか大きな発想の転換であり,メディア教育を専門とする水越先生はこの点を強調していた。

そしていま,再びプログラミング教育に重点が移ってきたのだが,高等学校の学習指導要領では小学校や中学校のようなことはなく,これまでとあまり変わらないようなニュアンスになっている。2020年学習指導要領の必履修科目の情報Iと選択科目の情報IIと解説編では次の程度である。小学生,中学生,高校生に渡るプログラミング教育の積み上げについて検討された雰囲気があまり感じられないのはなぜ。
情報Ⅰ
(3)コンピュータとプログラミング
ア(イ)アルゴリズムを表現する手段,プログラミングによって
コンピュータや情報通信ネットワークを活用する方法について
理解し技能を身に付けること。
イ(イ)目的に応じたアルゴリズムを考え適切な方法で表現し,
プログラミングによりコンピュータや情報通信ネットワークを
活用するとともに,その過程を評価し改善すること。

情報Ⅱ
(4)情報システムとプログラミング
ア(ウ)情報システムを構成するプログラムを制作する方法について
理解し技能を身に付けること。
イ(ウ)情報システムを構成するプログラムを制作し,その過程を
評価し改善すること。

例えば,グループで掲示板システムを構成するプログラムを制作する学習を
取り上げ,サーバ側のプログラムについて適切なプログラミング言語の選択,
設計段階で作成した設計書に基づくプログラムの制作を扱う。その際,
自分が制作したプログラムと他のメンバーが制作したプログラムの統合,
テスト,デバッグ,制作の過程を含めた評価と改善について扱う。なお,
プログラムを制作しやすくするために組み込み関数やあらかじめ用意した
関数などを示し,これらを利用するようにすることも考えられる。

[1]高等学校学習指導要領解説 情報編(平成30年告示,文部科学省)
[2]高等学校情報科に関する特設ページ(文部科学省)
[3]プログラミング教育実践ガイド(文部科学省)
[4]高等学校普通科の教科「情報」の変遷と課題(川瀬綾子,北克一)
[5]高等学校共通教科情報科の知識体系に関する一考察(電気通信大学 赤澤紀子他)

2022年9月1日木曜日

プログラミング教育(2)

プログラミング教育(1)からの続き

IT革命第1波が来ていた1998年告示の学習指導要領では,中学校の技術・家庭の技術分野の内容が,A 技術とものづくりとB 情報とコンピュータの2項目に整理された。つまり内容の50%がICTということだ。ところが,2007年告示では,揺り戻しが起こり,A 材料と加工に関する技術,B エネルギー変換に関する技術,C 生物育成に関する技術,D 情報に関する技術,になった。情報とコンピュータの内容は30%程度になってしまった。2016年告示の学習指導要領にもこれが引き継がれたままだ。

その直近の中学校技術・家庭学習指導要領の解説編をみると,プログラミングに関しては次の記述がある。とっても高度な内容になっている。

D 情報の技術

(2)生活や社会における問題を,ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによって解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

(3)生活や社会における問題を,計測・制御のプログラミングによって解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

計測・制御の方はこれまでもあったが,ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングってどうするのだろうか。しかも,次の補足説明が入っている。

なお,課題の解決策を構想する際には,自分の考えを整理し,よりよい発想を 生み出せるよう,アクティビティ図のような統一モデリング言語等を適切に用い ることについて指導する。

えーっ,中学生からUMLをやるんですか・・・もうフローチャートの時代は終ったのか。

具体的にはどんなプログラム言語で実施するのかを調べてみたら,ここにあった[1]。基本は,小学校でも使われているScratchだ。Scratch 1.4では,Meshというネットワーク上の端末間の情報交換の機能があるので,ネットワークを利用した双方向という条件を満たせる。後はよくわからないマイナーなプログラム言語や環境がわさわさと湧いていた。

[1]中学校技術・家庭科(技術分野)内容「D 情報の技術」研修用教材(文部科学省)
[2]PIC GUI Programming Environment(鳴門教育大学 菊池章)
[3]Studuino(Artec)
[4]Scratch1.4(MIT,Meshが使える)
[5]ねそプロ岩手県一関市立花泉中学校 奥田昌夫)
[6]なでしこ(kujirahand)
[7]Leaflet(埼玉大学 谷謙二,Javascript Web地図サービスライブラリ)
[9]拡張AIブロック(TECH PARK)
[10]ピョンキー(Scratch互換,Mesh対応)
[11]ドリトルではじめるプログラミング(大阪電気通信大学兼宗研究室)
[16]中学校プログラミング教育の実態調査(日本産業技術教育学会)