クローニッヒ・ペニーモデルは周期性を持った1次元井戸型ポテンシャルのモデルであり,結晶のバンド構造の定性的な特徴を説明することができる。
図:クローニッヒ・ペニーモデルの設定(Wikipediaより引用)
電子の質量をmとして,1粒子の1次元シュレーディンガー方程式は,−ℏ22md2dx2ψ(x)+V(x)ψ(x)=Eψ(x)である。ポテンシャルは周期性を持ち,nを整数としてV(x+na)=V(x) であり,ブロッホの定理から波動関数は,ψ(x)=eikxφ(x) かつ φ(x+na)=φ(x)を満たす。
ポテンシャルは,つぎの形を繰り返したものになる。
領域 Ⅰ:V(x)= 0 ⋯ (0<x<a−b)
領域 Ⅱ:V(x)=−V0 ⋯ (−b<x<0)
波動関数の周期性からは,ψ(x+a)=eik(x+a)φ(x+a)=eik(x+a)φ(x)=eikaψ(x) が成り立つ。その導関数はψ′(x+a)=eikaψ′(x)となる。なお,ψ′(x)=ikeikxφ(x)+eikxφ′(x)=ikψ(x)+eikxφ′(x)である。
自由電子のエネルギーは正であり,ポテンシャルが定数であるため,どちらの領域でも解は平面波になる。p=√2mEℏ,q=√2m(E+V0)ℏとして一般解は,
領域 Ⅰ:ψI(x)=Aeipx+A′e−ipx ⋯ (0<x<a−b)
=eikx(Aei(p−k)x+A′e−i(p+k)x)
領域 Ⅱ:ψII(x)=Beiqx+B′e−iqx ⋯ (−b<x<0)
=eikx(Bei(q−k)x+B′e−i(q+k)x)
波動関数とその導関数が,領域Iと領域IIの境界で連続であるという条件を書く。
ψI(0)=ψII(0); ψ′I(0)=ψ′II(0),ψI(a−b)=eikaψII(−b); ψ′I(a−b)=eikaψ′II(−b)
A+A′=B+B′
p(A−A′)=q(B−B′)
A eip(a−b)+A′e−ip(a−b)=B e−iqb+ika+B′eiqb+ika
pA eip(a−b)−pA′e−ip(a−b)=qB e−iqb+ika−qB′eiqb+ika
ここで,α=p(a−b),β=qbと置く。
(11−1−1p−p−qqeiαe−iα−e−iβeika−eiβeikapeiα−pe−iα−qe−iβeikaqeiβeika)(AA′BB′)=0
波動関数の係数に対するこの4元連立方程式が自明でない解を持つためには,行列式が0でなければならない。この条件をつかって,2列と1列の和と差,4列と3列の和と差から等価な行列式を求めれば,次のようになる(3行目からeikaを外にくくり出した)。
eika⋅|10−100p0qcosα e−ikaisinα e−ika−cosβ−isinβip sinαp cosαiq sinβ eikaq cosβ eika|=0
これから4x4行列式の値|M|を計算する。
|M|=p q eika|−cosβ−isinβisinβcosβ|+q|isinαe−ika−cosβpcosαiqsinβeika|
−q p e−ika |cosαisinαisinαcosα|−p|−isinβcosαe−ikaqcosβeikaipsinα|
=−2pqcoska+q(−qsinαsinβ+pcosαcosβ)−p(psinαsinβ−qcosαcosβ)
=−2pqcoska+2pqcosαcosβ−(p2+q2)sinβsinβ=0
最終的に得られる関係式は,次のとおりである。
coska=cosαcosβ−p2+q22pqsinαsinβ
=cosp(a−b)cosqb−p2+q22pqsinp(a−b)sinqb
4行4列の行列式は,Mathematicaを使えば手軽に計算できるのだけれど,手計算でもなんとかなる場合があるということを学ぶ。