5月18日に,「侮辱罪」の厳罰化法案が衆議院の法務委員会を通過した。
これは「刑法等の一部を改正する法律案」のことであり,その改正法案のほとんどは懲役,禁錮を拘禁刑に統合整理することに関わるものだ。そこに,ネットでの誹謗中傷に起因した自殺事件を口実とした侮辱罪の厳罰化が混入されたものになっている。
改正法案の第一条は,「刑法(明治四十年法律第四十五号)の一部を次のように改正する。第二百三十一条中「拘留又は科料」を「一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に改める。」である。
元の刑法第二百十一条は,第三十四章「名誉に対する罪」の一部である。改正法律案の第二条の後段の方で,上記下線部の「懲役若しくは禁錮」が「拘禁刑」に置き換えられる。それにしても,若しくはと又はの使い方がややこしい。
第三十四章 名誉に対する罪どう考えても,侮辱という定義の曖昧な概念のせいで,政治家やデマゴーグ達への侮辱罪だという喚き声が言論の自由を萎縮させる構図が露骨に透けて見える。維新の親玉がスラップ訴訟で批判を抑え込もうとしている現実を見れば,全く安心できないのだが,どのマスコミからも大きな批判がなくすんなりと通ってしまいそうだ。
(名誉毀き損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
(親告罪)
第二百三十二条 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2 告訴をすることができる者が天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣であるときは内閣総理大臣が、外国の君主又は大統領であるときはその国の代表者がそれぞれ代わって告訴を行う。
なお,この改正案の第二条は刑法,第三条は刑事訴訟法,第四条は刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律,第五条は刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(続き),第六条は更生保護法,第七条は更生保護法(続き),第八条は更生保護事業法,第九条は更生保護事業法(続き),第十条は少年院法,第十一条は少年鑑別院法,第十二条は少年鑑別院法(続き)となっている。
P. S. 親告罪の第二百三十二条で,上皇の取り扱いはどうなるのかと心配したところ,天皇の退位等に関する皇室典範特例法の附則で,上皇は天皇の上皇后は皇太后の例によるとされていた。
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