2021年2月28日日曜日

因果の花

今日は,シンギュラリティサロンによるオンラインシンポジウム#46で,渡辺正峰(まさたか)さんの「意識を科学のまな板にのせる―20年後の意識のアップロードに向けて―」が13:30-17:00まであった。基調講演が長引いたので,パネルディスカッションは省略されたが,視聴者からのZoomによる質問などもあって,興味深く聞いた。

渡辺正峰さんの中公新書2460「脳の意識 機械の意識 脳神経科学の挑戦」は購入して読んでいたが,おおよそそれに沿った話をされた。従来読み込めていなかった部分が整理されてありがたかった。情報側からの客観的アプローチでなく,脳神経科学側からの主観的アプローチでループを切断して意識を科学として扱うという方法論は面白かった。

そこでも,因果というキーワードがでてきたのだが,因果と相関の関係については,決定論的世界観でも確率論的世界観でも十分に自分で納得する理解ができていない。しかし,因果は日常的にはなんの問題もなく理解されている。世阿弥のいう「花」は「情報」のことではないかと昨日思いついた。そうすると「因果の花」はいったい何を意味することになるだろう。

風姿花伝の第七別紙口伝の第七段から因果の花について引用する。

一 因果の花を知ること 極めなるべし 一切みな因果なり 初心よりの芸能の数々は因なり 能を究め名を得ることは果なり しかれば稽古するところの因おろそかなれば果をはたすことも難し これをよくよく知るべし

 また時分をもおそるべし 去年盛りあらば今年の花なかるべきことを知るべし 時の間にも男時・女時とてあるべし いかにするとも能によき時あればかならず悪きことまたあるべし これ力なき因果なり 

 これを心得てさのみ大事になからん時の申楽には立会勝負にそれほど我意執を起こさず骨をも折らず勝負に負くるとも心にかけず手をたばいてすくなすくなと能をすれば見物衆もこれはいか様なるぞと思ひさめたるところに大事の申楽の日てだてを変へて得手の能をして精励をいだせばこれまら見る人の思ひのほかなる心いでくれば肝要の立会大事の勝負にさだめて勝つことあり これめづらしき大用なり このほど悪かりつる因果にまた善きなり

2021年2月27日土曜日

秘すれば花

風姿花伝からの続き

「秘すれば花なり」は,風姿花伝の第七別紙口伝の六段目にある(全十段)。以下引用。

一 秘する花を知ること 秘すれば花なり 秘せずば花なるべからずとなり この分目を知ること肝要の花なり 抑一切の事諸道芸においてその家々に秘事と申すは秘するによりて大用あるが故なり 然れば秘事といふことをあらはせばさせることにてもなきものなり これを させる事にてもなし といふ人はいまだ秘事といふことの大用知らぬが故なり

 先づこの花の口伝におきてもただ めづらしき花ぞ と皆人知るならば さてはめづらしき事あるべし と思ひまうけたらん見物衆の前にてはたとひめづらしき事をするとも見手の心にめづらしき感はあるべからず 見る人の為花ぞとも知らでこそ仕手の花にはなるべけれ されば見る人はただ 思ひの外におもしろき上手 とばかり見て これは花ぞ とも知らぬが仕手の花なり さるほどに人の心に思ひもよらぬ感をもよほす手立これ花なり

 たとへば弓矢の道の手立にも名将の案謀にて思ひの外なる手立に強敵にも勝つことあり これ負くるかたの目にはめづらしき理にばかされて破らるるにてはあらずや これ一切の諸道芸において勝負に勝つ理なり かやうの手立もこと落居して かかる謀事よ と知りぬればその後はたやすけれどもいまだ知らざりつる故に敗くるなり さるほどに秘事とて一つをばわが家に残すなり ここをもて知るべし たとへあらはさずとも かかる秘事を知れる人よ とも人には知られまじきなり 人に心を知られぬれば敵人油断せずして用心をもてば却て敵に心をつくる相なり 敵方用心をせぬときはこなたの勝つことなほたやすかるべし 人に油断をさせて勝つことを得るはめづらしき理の大用なるにてはあらずや さるほどにわが家の秘事とて人に知らせぬをもて生涯の主になる花とす 秘すれば花 秘せねば花なるべからず

問題は,その「花」は何を意味するのかということなのだけれど,これについては,この別紙口伝の第一段にある。
一 この口伝に花を知ること まづ仮令花の咲くを見て万に花とたとへ始めしことわりをわきまふべし そもそも花といふに万木千草において四季をりふしに咲くものなればその時を得て珍しきゆゑにもてあそぶなり 申楽も人の心にめづらしきと知るところすなはちおもしろき心なり 花とおもしろきとめづらしきとこれ三つは同じ心なり いづれの花か散らで残るべき 散るゆゑによりて咲くころあればめづらしきなり 能も住するところなきをまづ花と知るべし 住せずして余の風体に移ればめづらしきなり
世阿弥は,四季に咲く花がどのように認識されているかを分析した結果,「その時を得て珍しきゆゑにもて遊ぶなり」という本質を掴みだしている。そして,申楽が人の心にめづらしきと知るところすなはちおもしろき心を誘起することから,花=おもしろき=めづらしきの三位一体説が導かれる。

(注)前回の参考資料の「日本古典文学摘集 風姿花伝」には欠落があった。肝腎の「花とおもしろきとめづらしきとこれ三つは同じ心なり」が抜けていた。国立国会図書館のデジタルデータベースの花伝書はどれもまだ非公開状態だし,この国にはまともな古典のデジタル・アーカイブがないのかしら。

2021年2月26日金曜日

六十六(2)

 令制国の六十六カ国に関連するものとして,六十六部(六部)がある。よりていねいにいえば,六十六部廻国聖。人々の喜捨を受けながら六十六令制国を廻り,各地の有力社寺(一之宮,国分寺,その他)に写経した法華経を奉納する民間宗教者だ。中世からはじまり,明治政府が1871年(明治4年)に平民が六十六部と称して米銭などの施しを乞う行為を一切禁止するまで続いた。現在の御朱印の起源とも考えられているのか。

娘夫婦が以前住んでいた千葉県流山市には六部廻国の記念石塔である六部尊があった。

[1]近世六十六部廻国聖日記 ―安房国長狭郡平塚村高梨吉左衛門の記録から ―

[2]六十六部廻国とその巡礼地(小嶋博巳)

[3]「六十六部」とは何か(徳島県立博物館)

[4]御朱印の起源 ―六十六部(古今御朱印研究室)

[5]日本廻国六十六部と四国遍路 ―浄慶の納経帳から ―(稲田道彦)

[6]近世末期、御室配下の六十六部集団について (小嶋博巳)

[7]明治初年の六十六部の本山問題(小嶋博巳)

2021年2月25日木曜日

六十六(1)

風姿花伝の序には,「聖徳太子秦河勝に仰せて且は天下安全の為且は諸人快楽の為六十六番の遊宴をなして 申楽 と号せしより」 と申楽の由来が書かれており,第四神祇の節にはより詳しく記されている。それで,面霊気という妖怪も登場するくらいだ。

その六十六番という数はどこからきたのか。祇園祭の起源における鉾の数と紐付いていた令制国の数なのかと考えたくなる。しかし,聖徳太子(厩戸王)の皇太子在位は593-622年であり,令制国の確定は,大化の改新(乙巳の変)645年から大宝律令701年の間らしいので関係はないように思える。

令制国一覧によれば,壱岐と対馬を嶋として除くと以下のように六十六カ国になる。(大国; 上国; 中国; 小国の順),(畿内近国中国遠国の色分け)

畿内(5):大和・河内; 山城・摂津; *; 和泉。

東海道(15):伊勢武蔵・上総・下総・常陸; 尾張・三河遠江・駿河・甲斐相模; 安房; 志摩・伊賀伊豆

東山道(8):近江上野・陸奥; 美濃信濃下野・出羽; *; 飛騨

北陸道(7):越前; 加賀・越中越後; 若狭能登佐渡; *。

山陰道(8):*; 丹波・但馬・因幡伯耆・出雲; 丹後石見; 隠岐

山陽道(8):播磨; 美作・備前; 備中・備後安芸・周防長門; *。

南海道(6):*; 紀伊阿波・讃岐伊予; 土佐; 淡路

西海道(11): 肥後; 筑前・筑後・豊前・豊後・肥前; 日向・大隅・薩摩; (壱岐・対馬)

2021年2月24日水曜日

風姿花伝

近鉄橿原線結崎駅まで数駅の地から

 風姿花伝 世阿弥

 夫れ申楽延年の事態その源を尋ぬるに或は仏在所よりおこり或は神代より伝はるといへども時移り代へだたりぬればその風を学ぶ力及びがたし 近頃万人のもてあそぶところは推古天皇の御宇に聖徳太子秦河勝に仰せて且は天下安全の為且は諸人快楽の為六十六番の遊宴をなして 申楽 と号せしより以来代々の人風月の景を仮りてこのあそびの中だちとせり その後かの河勝の遠孫この芸を相続ぎて春日日吉の神職たり 仍て和州江州の輩両社の神事に従うこと今に盛なり

 されば古きを学び新を賞する中にも全く風流をよこしまにすることなかれ ただ言葉賤しからずして姿幽玄ならんを 承けたる達人 とは申すべきか 先づこの道にいたらんと思はん者は非道を行ずべからず 但し歌道は風月延年のかざりなれば尤もこれを用ふべし 凡そ若年より以来見聞き及ぶところの稽古の条々大概注し置くところなり

 一 好色 博奕 大酒 三の重戎これ古人の掟なり。

 一 稽古は強かれ 靜識はなかれ

 となり

[1]日本古典文学摘集 風姿花伝

[2]文系の雑学・豆知識 風姿花伝

2021年2月23日火曜日

流体抵抗力(3)

 流体抵抗力(2)からの続き

次に,速度の1次と2次に比例する流体抵抗力が働く時の球体(半径 $a$,質量 $m$)の鉛直方向の運動を解析的に解いてみる。運動方程式は次の形を仮定する。

\begin{equation*} m \dfrac{ d^2 x }{ d t^2} = - m g - m \gamma \dfrac{ d x }{ d t } \mp m \beta \, ( \dfrac{ d x }{ d t } )^2 \end{equation*}

鉛直上方を正とした$x$軸をとると,速度の2次の項の複号は負が上昇に,正が下降に対応する。両辺を$m$でわって,$ v = \dfrac{ d x }{ d t }$ とおくと次式を得る。

\begin{equation*} \dfrac{ d v }{ d t} = - g - \gamma v  \mp  \beta \, v^2 \end{equation*}

以下では自由落下の場合を考える。このときの終端速度は,$v_T =  ( \gamma - \sqrt{\gamma^2 + 4 \beta g} ) / 2 \beta  $ となり,$v_T \lt v \le 0$ が満たされる。ここで,$ u = v - \gamma / 2 \beta $ とおいて,微分方程式を変形すると,

\begin{equation*} \dfrac{ d u }{ d t} = \beta u ^2 - \dfrac{\gamma^2 + 4 \beta g}{4 \beta} = \beta (u - \alpha )^2  \end{equation*}

ただし,$ \alpha = \dfrac{\sqrt{\gamma^2 + 4 \beta g} }{2 \beta} $ としており,自由落下時には,$ - \alpha \lt u \le -\gamma / 2\beta $ が満たされる。したがって,両辺を時間で積分すると,

\begin{equation*} \int \dfrac{ d u }{ (\alpha - u) (u + \alpha)} = - \int \beta dt  \end{equation*}

\begin{equation*} \log \dfrac{  u + \alpha }{ \alpha - u } = - \beta t + C  \end{equation*}

\begin{equation*}  \dfrac{  u + \alpha }{ \alpha - u } = A e^{- \beta t} \end{equation*}

\begin{equation*} u = \alpha \dfrac{A e^{- \beta t} - 1 }{A e^{- \beta t} + 1} \end{equation*}

\begin{equation*} v = \dfrac{\gamma}{2\beta} + \alpha \dfrac{A e^{- \beta t} - 1 }{A e^{- \beta t} + 1} \end{equation*}

初期条件として,$ t=0 $ で $ v=0 $とすれば,$A=\dfrac{2 \alpha \beta - \gamma}{2 \alpha \beta + \gamma}$ である。

なお,空気中のピンポン玉では,$\gamma = 6 \pi \eta a / m = 2.51 \times 10^{-3} \, /{\rm s} $,$\beta = \frac{1}{2}  C_{\rm D} \rho \,\pi a^2 / m = 1.23 \times 10^{-1} / {\rm m}$,$\alpha = \dfrac{\sqrt{\gamma^2+4 \beta g }}{2 \beta} = 8.93 \, {\rm m / s}$,$\dfrac{\gamma}{2 \beta} = 1.02 \times 10^{-2} \, {\rm m / s}$ などとなる。


図 鉛直投げ上げの頂点付近での加速度変化(横軸は球体の速度)



2021年2月22日月曜日

流体抵抗力(2)

 流体抵抗力(1)からの続き

藤原邦男先生の「物理学序論としての力学」の§3.4 流体中を落下する球状物体では,空気中で1cmの球体が受ける流体抵抗力は慣性力が主役を演じるとある。また,その慣性力として, $ f_{\rm I}   = \dfrac{1}{4} \rho \, \pi a^2 \, v^2 $ の形が与えられている。一方,Whiteの$C_{\rm D}$ を用いれば,流体抵抗力は $ F(v) = \dfrac{1}{2} \Bigl( \dfrac{24}{Re} + \dfrac{6}{1 + \sqrt{Re}} + 0.4 \Bigr) \rho \, \pi a^2 \,v^2 $ となる。そこで,この両者を球体の速度の関数として比較してみた。以下の図で青が$f_{\rm I}$,オレンジが $F(v)$である。



図1 $C_{\rm D}$の速度依存性(2 < $ v $ < 10)


図2 $C_{\rm D}$の速度依存性(0.1 < $ v $ < 2)


図3 $C_{\rm D}$の速度依存性(0 < $ v $ < 0.1)

このグラフを描くにあたって採用した値は次のとおりである。空気の密度 $\rho = 1.2\, {\rm kg / m}^3$,空気の粘性係数 $\eta = 1.8 \times 10^{-5}\, {\rm kg / m \cdot s } $,球の半径 $ a = 2 \times 10^{-2}\, {\rm m}$,級の断面積は $ \pi a^2 = 1.26 \, \times 10^{-3} {\rm m}^2 $,球の質量は使わないが,$m = 2.7 \times 10^{-3} {\rm kg} $,したがって,レイノルズ数は $ Re = \dfrac{\rho 2a v}{\eta} = 2.67 \times 10^3 v $。


2021年2月21日日曜日

流体抵抗力(1)

 空気中を運動する球状の物体に働く抵抗力を考える。球体の速度 $v$ における流体抵抗力を $ F(v) = \dfrac{1}{2} C_{\rm D} \, \rho A v^2 $ とする。ただし, 空気の密度を$\rho$,球の断面積を$A=\pi R^2$,抵抗係数を $C_{\rm D} $とおいた。

この抵抗係数 $C_{\rm D} $は レイノルズ数 $Re$の関数としていくつかの式で表される。一つは,F. M. White の Viscous Fluid Flow の (3-225) 式で,球体の流体抵抗力がレイノルズ数の関数として次式で与えられている。

\begin{equation*} C_{\rm D}  \approx \dfrac{24}{Re} +  \dfrac{6}{1+\sqrt{Re}} + 0.4 \quad \quad 0 \le Re \le 2 \times 10^5 \end{equation*}

もう一つは,エアロゾルペディアの流体抵抗力のページにあるものだ。

\begin{equation*} C_{\rm D}  = \dfrac{24}{Re} \hspace{6cm} 0 \le Re \lt 0.1 \end{equation*} \begin{equation*} C_{\rm D}  = \dfrac{24}{Re} \Big( 1 + \dfrac{3}{16}Re + \dfrac{9}{160} Re^2 \log(2 Re) \Big) \quad \quad 0.1 \lt Re \lt 2 \end{equation*} \begin{equation*} C_{\rm D}  = \dfrac{24}{Re} \Big( 1 + 0.15 Re^{0.687} \Big) \hspace{3cm} 2 \lt Re \lt 500 \end{equation*} \begin{equation*} C_{\rm D}  = 0.44 \hspace{5cm} 500 \lt Re \lt 2\times 10^5 \end{equation*}

なお,レイノルズ数は,慣性力と粘性力の比を表す無次元量であり,流体中を運動する球体の半径を$a$とすると,$Re=\dfrac{\rho 2a v}{\eta}$ ただし,$\eta$は粘性係数である。

2021年2月20日土曜日

金沢景観五十年のあゆみ

 第7回金沢の景観を考える市民会議〜みんなで描く景観のミライ〜のオンライン中継を途中からみた。金沢工業大学の水野一郎先生(谷口吉郎・吉生記念金沢建築館館長)の基調講演『「令和」の時代へ継承し,そして創出し続ける,金沢の景観』は,昭和40年頃からはじまった景観保全についての市民の取り組みの重要性をわかりやすく説明していた。例えば,ひがし茶屋街の木虫籠(きむすこ)と呼ばれる格子がそのまま保存されていることを強調されていた。他の伝統的景観を売り物にしている地域では,高山も倉敷も白川郷もすべて通りに面したところがお土産物屋の店頭になっているが,金沢ではそうでないというところが非常に貴重であるとの指摘だった。

金沢の都心部は公園と緑と文化施設で構成されている。1970年代に,兼六園の近くに新しく建てられた「旅館さいとう」が物議を醸したことがある。周辺とは違和感のある若草色の奇抜なデザインの建物で,旅館名の大胆なひらがなも気になった記憶がある。やがて,いつの間にかこれはなくなっていた。水野さんはこの事例の具体には触れなかったが,金沢では景観を壊す建物の禁止ではなく,景観を良くする建物を推奨する方向を選んだということだ。全国的にも非常に早い時期から43年にも渡って金沢都市美文化賞によって景観を良くする建物の表彰をつづけている。

歴史的・地理的な背景を持つ文化的景観を守り育てるために,金沢市は昭和43年(1968)に,全国に先駆けて「伝統.環境保存条例」を制定している。この条例制定50周年を記念して,2018年には「金沢景観五十年のあゆみ」という記念冊子が刊行されている。

写真:金沢景観五十年のあゆみ表紙(pdf版より引用)

[1]金沢旅物語(かなざわ修学旅行ガイド)


2021年2月19日金曜日

認識論的解釈

 量子力学の認識論解釈という言葉をはじめて見たのは,東北大学の堀田昌寛さんの「量子力学と時空の物理」だった。堀田さんはこの言葉は,現代的なコペンハーゲン解釈と同じだと言っているので,何か新しいことが付け加わったわけではないはずなのだけれど,どうしても認識論的解釈というワードは自分の腑に落ちてこない。

キーワードを "量子力学" "認識論的解釈" としてグーグル検索してみると,19件しか見つからず,その大半は堀田さんと科学哲学の人々なので,これが標準的な用語として普及するには至っていないのだと思う。

英語で,"quantum mechanics" "epistemic interpretation" とすると,4,430件であり,これを "Copenhagen interpretation" にすると 180,000件となる。"Many worlds interprttation" では,132,000件だった。まだ,"epistemic interpretation" は完全な市民権を獲得していないのかもしれない。なお,この "epistemic interpretation" が堀田さんの説明のように,現代的コペンハーゲン解釈と等置できるのかどうかわよくわからない。

例えば,I. A. Helland の "An epistemic interpretation and foundation of quantum theory" (arXiv:1905.06592)の概要は,次のようなことになっている。

量子力学の解釈問題は,アインシュタインとボーアの論争が始まってこのかたずっと議論されてきた。この論文では,統計的推論の理論のアイディアを使う量子論の新しい基礎の提案について述べている。このアプローチは直感的な基盤を持つといえる。すなわち,物理系の量子状態は,ある条件のもとで,次のものと1対1対応する。自然に対する具体的な質問及びこの質問にはっきりした答えを与えること。この基礎は観測者に依存する認識論的な解釈を意味するが,すべての観測者がある変数の観測結果について一致すれば客観的な世界が回復される。この論文は,認識論的過程についての著者の本の一部のサーベイを含み,同時に,その本の議論の一部の議論をより厳密化している。量子力学の解釈問題をさらに発展させるには,関心のある物理学者の協力が必要だ。


2021年2月18日木曜日

大江賢次

 鐵腕 天野皎(あきら)からの続き

大江賢次(1905.9.20-1987.2.1)は,鳥取県出身の小説家。自分と誕生日が同じで,ちょうど48歳年長だ。大江は「絶唱」の著者であり,妻のおおえひで(1912-1996)も児童文学作家だ。

なぜ,ここに辿り着いたかと云うと,ご子息の大江希望さんの「き坊のノート」がきっかけだ。そこには非常に興味深い研究ノートが22編公開されている。その中の「大臺原紀行」の作者である天野皎について が,先日の教育掛図の鐵腕 天野皎(あきら)を調べる中で見つかった。

それで,「きー坊」とは誰かを手繰っていくと,絶唱の大江賢次につながった。絶唱は映画では見ておらず,テレビの連載ドラマを見たような微かな記憶があった。が,そのイメージが舟木一夫と和泉雅子になっているので,人間の記憶はまったくあてにならないのだった。そういえば,このころに山本耕一と小林千登勢がでてくるTVメロドラマもあったような気がしたが,残念ながらこれも擬記憶のようだ。

2021年2月17日水曜日

ワクチン接種の謎

 今日から,日本でのCOVID-19のワクチン接種が始まった。米国のファイザー社とドイツのバイオンテックによるもので,医療従事者約4万人を対象とした先行接種だ。

さて,NHKの2月15日のニュースによれば,「アメリカの製薬大手・ファイザーが開発した新型コロナウイルスのワクチンについて,1つの容器(vial)で想定していた6回の接種が、用意した注射器では5回しか接種できないことが明らかになり,大阪の大手医療機器メーカーでは、6回の接種ができる特殊な注射器の増産に向けて体制の整備を急いでいます。」とのことだ。

ところで,ファイザー・バイオンテックのワクチンの容器(vial)の写真をインターネット上で確認することができる。そして,その容器には次のラベルが表示されている。


写真:ファイザー・バイオンテックのCOVID-19ワクチン容器(Wikimediaより)

Pfizer-BioNTech COVID-19
After dilution, vial contains 5 doeses at 0.3 ml.
For intramuscular use. Contains no preservative.
For use under Emergency Use Authrization.
DILUTE BEFORE USE.
Discard 6 hours after dilution
when stored at 2 to 25C(25 to 77F)
Dulution date and time:

「1つの容器で希釈後に 0.3mL × 5 回分の接種量が含まれている」とある。6回とは書いていない。たぶん通常型の注射器を前提として,接種可能な最低限の分量を書いているのだろう。NHK の報道とは異なり6回は想定されていない

今から2ヶ月前,2020年の12月16日頃から,この話の雲行きが怪しくなってきた。POLITICOの記事 "FDA says Pfizer vaccine vials hold extra doses, expanding supply" には次のようにある。

米国の薬剤師たちが,ファイザーが指示する5回/容器より最大40%多くの接種量(6-7回/容器)が確保できるのではないかと指摘したのだ。これは,ワクチンの不足がいわれている中では非常に大きな問題となる。一方で,ファイザーのラベルの指示は5回だったから,余分を捨てることに違和感があったのだろう(なお,米国では薬剤師がライセンスをとってワクチン接種をすることができるようだ)。

FDA(アメリカ食品薬品局)Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccineに関する資料によれば,-80℃--60℃で輸送保管されたワクチンが冷蔵庫で解凍されると,1つの容器には0.45mLのワクチンが封入されていることになる。これに0.9%の生理食塩水1.8mLを注入して希釈したものから,一人あたり0.3mLの接種を行う。1容器の中身を完全にこれを使うことができれば,7回分は確保できる。しかし,日本の従来型の注射器の構造だと5回分は最低限確保できるいうことだ。ファイザーも当初は従来型の注射器を前提とした上である程度のゆとりを持って作っていたはずだ。

その後,FDAは,5回を越える余剰分の接種は可能であるという声明を出し,いつのまにか,6回接種できるのがデフォルトであるということになってしまった。現在の,CDCの資料FDAの資料では6回と書いてあるのだ(ラベル情報は置き換えよとのこと)。そして日本は,この2ヶ月間に十分な対応ができずに現在に至っているようにみえてしまう(実際はどうかわからない)。そしてマスコミは,基本的な経緯を自力で調査せずに,上っ面の情報を右から左に流しているだけだった。それにしてもなかなか大変面倒な手順であり,現場関係者の努力には頭が下がる。

2021年2月16日火曜日

四半期GDP

 NHKの2月15日のニュースで,2020年度10-12月期のGDP成長率の速報値が報道されていた。前の四半期2020年度7-9月期と比べて,実質年率12.7%の成長ということだった。なんじゃこれ。コロナショックからの立ち直り過程なのでGDPは増えるのが当たり前だから,比較すべきは前四半期ではなくて,前年の同四半期であるべきではないか。あいかわらずNHKの報道はひどい。

と思っていたのだが,ひどいのはNHKだけではなくて,この情報源である内閣府経済社会総合研究所 国民経済計算部の2020 年 10-12 月期GDP速報(1 次速報値) ~ ポイント解説 ~でした。NHKはそれを右から左に垂れ流しているだけ。もっともWeb版では少しアレンジされているので,GDPが伸びているという印象は若干弱めてある。

そもそもGDPには季節要因の周期性もあるはずだ。データは公開されているので自分で確認してみるため,統計表一覧(2020年10-12月期 1次速報値)の実質原系列(CSV形式34kB)のデータを可視化した。


図1 四半期実質GDPの推移(✕10億円)


図2 四半期実質GDPの前年比増減率の推移

リーマンショックの2009-2010年,コロナショックの2020年を除いた時期の前四半期比増減率を平均すると,1-3月期(-2.93%),4-6月期(-2.21%),7-9月期(2.44%),10-12月期(3.62%)というはっきりとした年周期構造がみられた。少なくともこの部分を差し引いて判断する必要がある。

まあ,こんな細かな話はどうでも良くて,中国を含む先進諸国で日本だけがGDPを伸ばしていないことのほうが問題なのかも。

2021年2月15日月曜日

Lost in Math

 サビーネ・ホッセンフェルダー(1976-)の Lost in Math(2018) が,みすず書房から「数学に魅せられて,科学を見失う − 物理学と「美しさ」の罠 − (吉田三知世)」として4月に出版される予定だ。

ホッセンフェルダーは自分のユーチューブチャンネルを持っていて,これが非常にわかりやすい。それはまた今度にしておく。Lost in Math の内容がわからないまま,その目次だけを自己流意訳してイメージを掴んでみた。

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数学に惑わされた物理学

−美は如何にして理論物理を混迷させたか−

Sabine Hossenfelder (Lost in Math: How Beauty Leads Physics Astray, Basic Books, 2018)

序文

第1章 物理学の隠れたルール

私自身が物理学を理解していないことに気付いてから,友人や同僚に相談したところ,混乱しているのは自分だけではないとわかった。その理由を探してみる。

第2章 この素晴らしき世界

過去の物理学者の本をたくさん読んだところ,誰もが美しい理論に魅せられていた。しかし,それらの理論の美しさは時に悪い方向に働くことがある。ある会議で私は,物理学者が科学的方法を捨てようとしているのではないかと心配し始めた。

第3章 同業物理屋の状態

私の受けた10年間の教育を20ページにまとめ、素粒子物理学の栄光の日々を語る。

第4章 ひび割れる物理学の土台

私は,N. Arkani-Hamedに会った。そして,自然はナチュラルでなく,我々の学んだことや自分の考えてきたことはすべてクソであることを受け入れた。

第5章 理想の理論たち

科学の終点を探したが,理論物理学者の想像力は無限大であることを知る。私はオースティンに飛び,S. Weinbergに話をさせて,単に退屈を避けるためだけにどれだけのことをしているのかを悟る。

第6章 量子力学の不可解な理解力

数学と魔法の違いを考えてみた。

第7章 全てを説明する1つの式

自然の法則が美しくないとしても探究を続けている人を求める旅に出た。アリゾナではF. Wilczekが,彼のある小さな理論を教えてくれた。 それからマウイに飛び,G. Lisiの話を聞いた。そして,いくつかの醜い事実(物理学者を含む)を学んだ。

第8章 空間,最後のフロンティア

あるストリング理論家を理解することにほぼ成功した。

第9章 宇宙に存在するもの

我々が発明した新粒子は未だにほとんど発見されていない。その理由(いいわけ)を説明するための様々な方法に感心させられる。

第10章 知識は力なり

みんなが私の話を聞いてくれれば,世界はもっと良い場所になる。

謝辞

参考文献

付録A: 標準模型の粒子

付録B: ナチュラルネスの困難

付録C: あなたが助力できること

注意事項

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写真:LOST IN MATHの書影(amazonから引用)


2021年2月14日日曜日

登録チャンネル(1)

現時点で自分が登録しているユーチューブのチャンネルは約70あるが,その中で比較的よくみているものを再生回数順に並べると以下のようになる。

1. カズチャンネル     ( 8.8億回, 186万人, 2391本, 36.8万回/本
2. 瀬戸弘司        ( 8.8億回, 166万人, 2021本, 43.5万回/本
3. 吉田製作所       ( 2.5億回, 73万人, 369本, 67.8万回/本)
4. megumi sakaue     ( 1.4億回, 21万人,4142本,     3.4万回/本
5. コジコジのオタク文化情報局 (0.74億回, 25万人, 1015本,7.3万回/本)
6. 一月万冊        (0.52億回, 11万人, 4011本, 1.3万回/本)
7. ワタナベカズマサ    (0.43億回, 15万人, 986本, 4.4万回/本)
8. 散財小説ドリキン    (0.31億回, 8.5万人, 1791本, 2.3万回/本)
9. 岡ちゃんnel      (0.14億回, 4.9万人,  326本,   4.3万回/本
10. イチケン      (0.12億回, 14万人,    51本,    23.万回/本

非常に教育的な技術系のイチケンの一本あたり再生回数が意外に多いのが不思議。上位の平均10万回以上再生されているものは,ネタ系に近いフレーバーを持ったもの。1月万冊は一日あたりの公開本数が多すぎることで平均値を下げているのかもしれない。

2021年2月13日土曜日

ラジオの身体

 YouTubeで瀬戸弘司が「ラジオの身体」というワードで語っていた。瀬戸弘司のYouTubeは装飾過多なのでやや苦手だったのだけれど,ドリキンとの対談を見てから若干印象が変わった。瀬戸弘司は福井市出身で,藤島高校を出て東工大に進んだ劇団員だ。ユーチューバとしても2010年から活動している。ちなみに,同じ頃から活動しているユーチューバーのかずさん(カズチャンネル)も福井市在住で散財三兄弟の一角を構成している。

瀬戸弘司が,最近のYouTubeのトレンド変化を特徴づけるキーワードとして使ったのが「ラジオの身体」である。彼が舞台出身であって「舞台の身体」を持っていることに対する比較とした表現だ。ラジオの身体性は,ポッドキャストが2005年に登場してしばらく後,2010年前後に話題になりはじめ,日本のメディア研究者でいえば飯田豊や水越伸なども取り上げている。もちろん,瀬戸の着想はこれらとはまったく独立なものだと思う。

これとは別に,今年になってClubhouseが音のSNSとして流行をはじめた。Clubhouseについては様々な捉え方があるが,その中には音声メディアとしてラジオと比較したものもでてきている。インターネット空間にジャックインしながら生活するという状況を考えたときに,視覚と聴覚がどのようにその時間を専有されつつ,現実世界と切り結んでいくかというのは今後の議論の重要な鍵となるかもしれない。まあ,いきなりgoogle glassというわけには行かなかったわけだけれど。

2021年2月12日金曜日

ライブ・アンダー・ザ・スカイ

 チック・コリアが 79 歳でなくなったというニュースが飛び込んできた。MacBook Proに入っている リターン・トゥ・フォーエヴァーを聴いて追悼している。ライト・アズ・ア・フェザーもある。

1979年の7月25日(水)に大阪の万博記念公園特設屋外会場(エキスポランド側だった)で開催された,ライブ・アンダー・ザ・スカイには,チック・コリアも参加していた。調べたが,東京公演(雨の田園コロシアム)の話はみつかるが,大阪公演の情報はインターネット上にほとんどない。どういうこと。1979年はドクター2年のときで,吹田キャンパスの阪大核物理センターの大型計算機でひと仕事済ませた後の夕方,大切なチケットを手に,一人で歩いて会場に向かった記憶がある。

V. S. O. P. クインテット(ハービー・ハンコック,フレディ・ハバード,ウェイン・ショーター,ロン・カーター,トニー・ウィリアムス)と,ハービー・ハンコック=チック・コリアのデュオだったはずだ。チック・コリアのピアノも良かったが,その日一番凄かったのは,夕暮れの夏空に吸い込まれていくフレディ・ハバードのトランペットの音だった。

終演後のアンコール時の舞台でチック・コリアが踊っていたのも印象的だった。バスで千里中央・蛍池経由で帰宅した。


2021年2月11日木曜日

工業小学

 天野皎が教職を辞してまもなくの1882年に著した小学校向け教科書の一つに「工業小学(東京 晩翠書楼開板 明15.7)」がある。工業は正式には小学校の教科になっていないので,あくまでも一つの試みだと思う。国立国会図書館のライブラリでデジタル化版が公開されていのは巻一だけであり,巻二と巻三はあちこち探したけれど見つからない。

なにが書いてあるのか知りたかったので,目次と緒言と第一篇工業の総論,第二編原動力を写経してみた。漢字を簡約してカタカナをひらがなに変換しただけだが,読めない字があったので正確ではないかもしれない。それでも明治初期の小学生はこれが読めると想定されていたわけだ。この時期の教科書には句読点がないのが普通なのか。

19世紀末の日本の工業とは,蒸気力・水力などを原動力とした繊維産業と手工業(工業以前かもしれない)だけだった。いまではほとんどが伝統工芸として扱われる分野だ。自分は,1958年の小学校学習指導要領の理科に基づいた教科書で育った世代だが,これも当時の昭和中期の工業(産業)を背景としたかなり具体的な教材から成り立っていたのでどことなく親近感を覚える「工業小学」だった。

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天野皎 著  工業小学  東京 晩翠書楼開板 明15.7
工業小学目次
巻一
 第一編 工業の総論
 第二編 原動力
 第三編 工業制作及び製糸 (繭 糸 等)
 第四編 絹布 (絹 羅 錦 綺 綾 紬 甲斐絹 精好 金襴 緞子 繻子 綸子 縮緬 天鵞絨 □珀 等)
 第五編 綿糸,綿布 (雲齋 飛白 帆木綿 紋羽 唐桟 双子織 花布 寒冷紗 等)
 第六編 麻,麻布 (麻糸 幣 苧 布 飛白 亜麻布 芭蕉布 葛布 等)
 第七編 毛布 (羅紗 アルバカ フラネル 莫大小 等)
 第八編 染料,顔料,漂白剤 (青 黃 赤 紅 緑 紫 格羅爾 加爾基 等)
巻二
 第九編 製紙 (和紙 奉書 美濃紙 洋紙)
 第十編 漆器 (仮漆 ペンキ 等)
 第十一編 蒔絵
 第十二編 陶器 (七宝器 各国陶器 等)
 第十三編 玻瓈 (各色玻瓈 玻瓈器 等)
巻三
 第十四編 玉工 (硯 目鏡 玉 瑪瑙 水晶 珊瑚 金剛石 宝石 等)
 第十五編 彫工 (木偶 石像 玉石 玻瓈 木竹 金 銀 銅 骨 牙)
 第十六編 印刷 (木版 銅版 活版 鉛版 製本 等)
 第十七編 鉄工 (刃物 農具 家具 等)
 第十八編 金銀銅工 (飾屋 時計師 等)
 第十九編 建築 (家屋 橋梁 畳 建具 等)
 第二十編 家具 (桶 膳 椀 等)
 第廿一編 各種製造 (曹達 硫酸 塩 鍍金銀 鉛筆 墨汁 等)

緒言

一 本邦未だ工業書の小学に適当するものあるを見ず然れども工事たる甚浩大なるものにして且難事なれば児童の容易く之を了解すべきものにもあらず故に本書は勉めて其大要を挙ぐ決して高尚の域に渉るに非ず

一 児童の心性各種の作用其身体発育の時機に従ひ強弱一ならず故に本科の如きは其発育の能く此の難事に堪ふるに及びて之を授くべし彼米国の読本の如きも稍く高尚なる各学科を畢へて後之を教ふるの趣向なり児童の薄弱なる知力に難事を授るは猶駑馬に重荷を負はしむるに同じく却て発育を妨害するものなれば教師の尤も恐るべき処なり

一 此書は毎週一二時間位の科程にて三個年に畢るべき見込を以て編集セリ故に一巻を一年に畢へ三巻にして全備せり因て第一年より順次に児童の知力の度に従ひ強弱を量り其難易を斟酌せり是小学科程書を編する一大要訣なればなり

明治十五年三月 編 者 識

工業小学巻之一   天野皎 著

第一編 工業の総論

工業とは広き事にして今日人間の生活する所にて之を言はば衣食住とも皆工業を経ざるものなし衣は始めに糸に続き次に織り或は染め畢りに裁ち縫ひて始めて人の用となる此の用となるまでは幾許の手を経るや細かに之を数えなば指も屈するに遑まあらさるべし食といへども其食ふべきものは工を経ざるも其膳椀鍋釜箸茶碗包刀俎等に至るまで皆工業にあらざるなし又住居は言ふまでもなく悉く工業に非ざるなし

是を以て工業の事たる種々にして一々に之を習ふ能はざれども人として其大要を知らざる可らず工業の巧拙は其国の強弱貧富に拘はるものにして工業の盛大なる国に非ざれば商業も農業も進まず農商共に進まざれは何によりて富を致さんや国富まざれは何によりて海陸の軍備を盛大にするを得んや軍備盛大ならされは外国の侮を受け其人物は欺かはしき恥辱を承り遂には一国の滅亡に及ぶべし工業の関係大なりと云ふべし

工業は斯くまで一国の興敗存すにも係はる程のものなれば容易き事業にはあらじ故に之を習ふにも種々の術を知らざれば成る能はざるなり先第一に数学幾何化学理学画法を学ばざれば何れの工業も学ぶ能はず例へば大工の雨樋を作るに其屋根の面積を積もり其雨の量を測りて大小を定めざれば狭き屋根に大なる樋は空しき費にて広き屋根にて樋の小なる時は溢るるの患あり之を知るは数学なり又堅木細工師の種々の形ちの盆などを造るとき或は五角六角に木を截るは幾何の術に因らざれば精密ならず染工の善き色を染めんと欲するは化学なり種々の雛形を模し或は建築図等を書くは画学なり理学は何れにも広く渉るべき学科なり

工業は何事に因らず人力を省きて其品質を精良にするを第一とす故に此の力を省くに付き種々の工夫あり之を原動といふ原動とは一つの動力を生ずる所にして之を四方に移して人力を省く其種類三ツあり蒸気力水力風力是なり然れども極めて精良なる物に至りては悉く人力にあらざるなし今此の三原動より説き示すべし

第二編 原動力

原動力とは器械を運転するの本にて即ち蒸気水風は之を起すの本なり此の内広く行はるるは蒸気にして之に次くものは水なり風は其力弱けれは十分なる器械等を用うるを得ず水は何処にもあるものならず能く其水利を得ざれば之を使用する能はず若し其水利を得る時は費用少なきを以て甚利益あり蒸気は水風と異にして何処にても其気罐を装置するを得れは其費用の多きも勢ひ之を用うるもの多し又近来石炭瓦斯を以て蒸気に代ふるの発明あり

蒸気の理は甚解し難きものなれは理学器械学等にて能く研究すべし其理たるは水を沸騰して華氏の験温器の二百十二度に昇るときは変して蒸気となる此の蒸気は反発と膨張の性あるものなれは之を凝縮して其反発膨張する時に其力を追々に器械の緒部に伝ふるに過ぎず然れども其器械は大小種々あり又簡易なるものあり極めて繁雑なるものあり

水を以て器械を運転するは古へよりの発明なれとも近来は愈其器械等も精巧になりて紡績織物其外材木を截る等に用う是を水車といふ水車は車の上より水を注き掛くると車の中程に注き掛くると車の下を水の流過するとによりて其力に強弱あり又近来の発明なる渦旋水車といへるは車を平面に置き其車の外面を覆ひ其中に上ヨリ水を注き容るれは車輪に触れて之を運転する仕掛にて其力甚強し近来は追々に此の水車を用ふるものあり此水車は水源さへ高けれは水量多からすして強大の力を生すべし

風車は前にもいへる如く其力弱きを以て十分に器械を運転するの用をなさずといへども其力を多く要せざる所には之を用ゐは費用少なくして利益あるへし是を風車という右に示せる蒸気水車風車等は甚鮮し難き理あれは能く理学等にて研究すべし此の諸原動の力を量るは皆馬力と称して其力の強弱を算す

故に盛大なる器械を運転するには何れも数百馬力のものを用う若し人力にて為す時は千人二千人の職工に非ざれは為す能はざるものも蒸気又は水車等を用うれば僅か数人にて其工事を畢るべし

又人力を省くのみならす器械にて製する物は大小精粗とも一様にして其形ちに長短厚薄なく幾万を製するも差異なし且又人力にては数日を費すものも僅か一二時に成し遂くるの利あり



2021年2月10日水曜日

鐵腕 天野皎(あきら)

 牧野由里さん(美術教育)と有賀暢迪さん(科学史)が,「教育掛図《小学用博物図》の研究 ―天野皎と明治初期大阪の教育・出版文化―」という論文を出していて,有賀さんがTwitterで紹介していた。

天野皎(あきら)(1851-1897)[1]は,博物学を専攻した東京師範学校の一期生として1873年に卒業した。その後,官立の大阪師範学校(1873-1878)の教師となっている。やがて奈良五條師範や兵庫神戸師範の校長を経て,1878年には教育職を辞している。以下,1880年,大阪商法会議所の書記,1881年,大阪府御用掛・大阪測候所長,1885年,府立大阪博物場長および教育博物館長,1891年,大阪朝日新聞社編輯部,1897年,47歳で死去となっている。

天野が著した小学校の教科書や有賀さんらが議論している教育掛図(国立科学博物館で見つかった新出資料)についてはさきほどの論文に譲るとして,大阪つながりで近隣の大学の附属図書館に収集されている資料がないか調べてみた。

1982年に雄松堂書店から復刻された,明治初期教育稀覯書集成 / 唐沢富太郎編集「下等小學教授法略解 乙」と「博物小学金石篇」の2冊が,京都大学,京都教育大学,大阪大学,大阪教育大学,奈良教育大学の各附属図書館に収蔵されていた。CiNiiでは,アマノ・コウとかアマノ・キヨシになっているが違うんじゃないの。さらに,京都大学には,「商法會議所要覽(天野皎編 -- 鹿田靜七,1880)」,「入清日記その他 (鐵腕天野皎著;天野徳三編纂 -- 壺外書屋,1929)」の2冊があった。天野の号が「鐵腕」なのである。

一方,大阪教育大学には先の2冊の他に,「小學博物書天野皎譯 ;動物學第2,動物學第3 -- (天野皎,1877)」「師範學校掛圖童子訓 5巻 /井出猪之助, 天野皎輯 ; 巻之1 - 巻之5(文敬堂, 1875)」の2冊の教育書が所蔵されていた。後者は実際には,巻之2巻之4巻之5だけがあって,これらはデジタル資料として公開されている。

なお,国立国会図書館のNDLオンラインを調べると,こちらには17件の資料がみつかった

[1]「大臺原紀行」の作者である天野 皎あきらについてき坊のノート

【天野皎】(1851~1897)天野氏、名は皎、幼名祐太郎、別に鐵腕と号す、江戸の人、世々徳川幕府に仕ふ、幼より学を好みて業を長谷部甚弥に受け又書法を石川潭香に学ぶ、明治6年東京師範学校を卒業して大阪師範学校本科教師を命ぜらる、後ち奈良県五条師範学校校長・神戸師範学校校長等を歴任し、13年大阪商業会議所書記となる。14年大阪府御用掛となり大阪測候所長・大阪商業講習所長等を兼ね、明治18年「府立大阪博物場長」に専任せらる。是に於て専ら心を美術の奨励に致し、兼ねて薀蓄せる智職を以て「美術館」を創設す。又率先唱導して城南今宮村に「大阪商業倶楽部」の開設を企画する等大に浪華文化の発展に力を尽くせり。24年「大阪朝日新聞」に入りて編輯の事務に従い、25年臨時博覧会事務局監査官となり、26年閣龍世界博覧会事務の為に米国シカゴに赴き其博覧会の審査官に任ぜらる。27年日清戦役の起るや第ニ軍に従うて能く其任務に務む。30年遂に朝日新聞社を辞し、更に日本製鋼株式会社長となり、幾もなく病を獲て武庫郡住吉村の客舎に歿す。人と為り堅忍剛毅博学宏識、能く詩文を属し尤も書法に長ず。殊に美術に関する造詣深く斯道の為に貢献する所蓋し鮮少ならず、嗣子徳三嘗て職を大阪朝日新聞社に奉ぜり。著書:入清日記その他。歿年:明治30年10月16日47歳。(大阪人物誌続編より)

2021年2月9日火曜日

たまごかけごはん

 昨日のNHKの逆転人生で,丹波にある卵かけご飯のお店をはじめた人が紹介されていた。番組中に検索してみると,いくつかそれらしい店があった。こんなとき普通はアクセスが殺到してサーバーがダウンしてしまうところだが,そんなこともなく簡単に閲覧できてしまった。

(1) 但熊卵かけご飯(兵庫県豊岡市但東町)・・・逆転人生の西垣源生さんのお店

(2) たまごかけごはん玉の助(兵庫県篠山市今田町)・・・ウェブサイトがきれい

(3) 食堂かめっち岸田吟香(岡山県美咲町)・・・発案者の生地

そんなわけで今朝の朝食は卵かけご飯になった。


写真:玉の助ホームページより引用(2021.2.10)



2021年2月8日月曜日

角運動量代数(2)

角運動量代数(1)からの続き

Mathematicaの関数には,かなり昔からClebshGordan係数が含まれていた。さすがに素粒子物理を専攻していたウルフラムだと思った。Mathematicaには次の関数が実装されている。

ClebschGordan[{j1,m1},{j2,m2},{j,m}] |jm〉から|j1m1〉|j2m2〉への分解に対する,クレプシュ・ゴルダン係数を与える。
ThreeJSymbol[{j1,m1},{j2,m2},{j3,m3}] ウィグナーの3-jシンボルの値を与える(m1+m2+m3=0)。
SixJSymbol[{j1,j2,j3},{j4,j5,j6}] ラカーの6-jシンボルの値を与える。

Juliaではどうかというと,WingerSymbols.jlというパッケージがあり,以下の関数が使える。
wigner3j(j1,j2,j3,m1,m2,m3=-m1-m2),wigner6j(j1,j2,j3,j4,j5,j6),clebschgordan(j1,m2,j2,m2,j3,m3=m1+m2), racahV(j1,m2,j2,m2,j3,m3=-m1-m2),racahW(j1,j2,J,j3,J12,J23)

いずれにせよ9-j symbolは実装されていないのだった。一方,PythonのSymPyにあるWignerSymbolsには,Wigner 3-j,6-j,9-j,Clebsch-Gordan係数,Racah係数,Gaunt係数が含まれている。Gaunt係数という名前は知らなかったが,換算行列要素の形では頻出する係数だ。それより,JuliaのWignerFamilies.jlというパッケージで,3-j Symbolの配列が計算されてグラフ化されているのが印象的だった。 

using WignerFamilies
# wigner3j for all j fixing j2=100, j3=60, m2=70, m3=-55, m1=-m2-m3
w3j = wigner3j_f(100, 60, 70, -55)
js = collect(eachindex(w3j))
plot(js, w3j.symbols)


図 f(j) = w3j(j,100,60,-15,70,55) (JuliaPackageから引用)


2021年2月7日日曜日

角運動量代数(1)

大学院への進学が決まって,森田正人先生に最初に宿題として出されたのが,Roseの「角運動量の基礎理論(みすず書房)」 を読んでおくことだった。「Clebsh-Gordan係数の一般式を導出する必要がありますか」という質問に対する答えは,「まあできれば・・・」というようなものだったので,できなくてもよいと勝手に解釈してそこはサボることにした。

当時のベータ崩壊やミューオン捕獲の角度相関係数の計算や軽い核の原子核殻模型の計算には,Racah係数やWinger Symbols(3-j係数,6-j係数,9-j係数)が不可避であり,毎日のように戯れていた。

Fortranで自作したプログラムは,整数の階乗や二項係数を予め配列に保存しておいて,COMMON文で必要な関数で呼び出すという古典的な手法を使っていた。弱い相互作用の低エネルギー過程では,原子核反応などと違って,中間状態を含めてもあまり大きな角運動量が登場しないので,それでなんとかなっていた。

1998年のL. Weiの論文,"New formula for 9-j symbols and their direct calculation" (Computers in Physics, Vol. 12, No. 6, 632-634)では,この9-j symbolを高速に計算するアルゴリズムがあるということで読んでみた。なんのことはない,自分が1980年代に作ったコードとまったく同じ方法でしかなかった。6-j symbolの積和の表式を二項係数にまで落とし込んだだけなのだ。

2021年2月6日土曜日

インターネット白書アーカイブズ

 インターネット白書は,インプレスが1996年から発行している年鑑であり,2020年度版で25周年を迎える。

「インターネット白書」は1996年の創刊以来、日本のインターネットの成長や変化を毎年まとめてきたインターネットの書籍年鑑です。内容構成にあたっては、一般財団法人インターネット協会監修のもと専門家による寄稿と、市場動向調査により構成されてきました。現在は、一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)、株式会社日本レジストリサービス(JPRS)も加わり、3団体の協力のもと、「The Internet for Everything」というキャッチフレーズを掲げて、より広範なインターネットの可能性をレポートしています。

これまでのインターネット白書の記事のデジタルデータが,インターネット白書ARCHIVESとして公開されている。1996年のVol. 1の「インターネットと教育」という項目は,南山大学の後藤邦夫先生が執筆していた。引き続き1997年のVol. 2 から2002年のVol. 7までの間,私が執筆させていただいた。それ以後は,国際大学GLOCOMの豊福晋平さんなどが2009年頃まで担当していたと思う。

やがて,インターネット白書の中で,学校教育が話題としてとりあげられることもだんだん少なくなってきた。最近(2019年度)は,電通の人がEdTech,STEM,Society 5.0 がらみで儲け話がないかというような記事を書いていた。

2021年2月5日金曜日

PDCAサイクルに回されて(2)

 PDCAサイクルに回されて(1)からの続き

Wikipediaには「PDCA」が流行っているのは日本の特殊事情であると書いてあったので,各国政府の状況と比較してみた。前回と同様,政府関係のドメインで検索される総ページ数の内,PDCAというキーワードを含んだページ数の割合を%単位で求めたものである。

  domain URL  country  google (10^4 p)   +PDCA  ratio1(%)
 1  +site:gov      米 国     115000.0  15,700   0.001
 2  +site:gc.ca   カナダ        861.0       467   0.005
 3  +site:gob.mx  メキシコ      2840.0  15,900   0.056
 4  +site:gov.br  ブラジル     8500.0  15,300   0.018
 5  +site:gov.uk  英 国     7810.0       466   0.001
 6  +site:gouv.fr  フランス    2470.0      422   0.002
 7  +site:gov.it   イタリア       645.0   1,070   0.017
 8  +site:gob.es   スペイン     500.0       542   0.011
 9  +site:gov.ru   ロシア      654.0         83   0.001
10 +site:gov.cn  中 国     2970.0    5,730   0.019
11 +site:gov.tw  台 湾     2830.0    7,490   0.026
12 +site:go.kr    韓 国     3720.0  17,100   0.046
13 +site:gov.ph  フィリピン     921.0    6,620   0.072
14 +site:go.id    インドネシア   4850.0  67,900   0.140
15 +site:gov.in  インド      2440.0    1,180   0.005
16 +site:gov.au  オーストラリア  4790.0       934   0.002
17 +site:go.jp    日 本      4830.0 125,000    0.259

やはり,日本政府は飛び抜けて「PDCA」というキーワードの使用率が高かった。英米豪はきわめて低い。インドネシアとフィリピンを除くアジア各国でも日本よりは1桁小さくなっている。なお,ここでは,前回と同様だが,googleの使用言語を英語に設定した上で,各国の中央政府(州政府を含む)のものと思われるドメインについての検索を行なっている。

政策やプロジェクトが合理的に実施評価されていればわざわざ「PDCA」という言葉を持ち出す必要がない。そうでない場合は,「PDCA」という旗を振って合理的な政策実施を進めたくなるのだろうが,科学的・合理的・客観的な分析と反省への関心・意欲・態度が身体化されていない残念な国では,角運動量保存則で逆に自分が振り回される羽目に陥る旗を振り回そうとあがくことになるのかもしれない。

(注)主要国のうちではドイツが抜けていると思われるかもしれないが,ドイツの連邦政府と地方政府がそれぞれよくわからないドメイン名をバラバラと用いているように見えたために,まとめて投網にかけることができなかった。彼の国のインターネット名前空間はいったいどういう仕組みで構成されているのだろうか。誰か教えて下さい。

2021年2月4日木曜日

PDCAサイクルに回されて(1)

最近, PDCAサイクルでググると上位に出てくるのが,PDCAはもう古いとか,時代おくれだとかいうページである。それはそれで新しいコンサルビジネスの種なのかもしれないけれど,PDCAサイクル的なものには散々振り回され,振り回してきた苦い過去の経験があるので,いずれにせよもう勘弁してほしい。

「PDCA」という言葉がはやっているのは日本だけの特殊事情らしい。そこで,中央省庁のホームページのコンテンツ総ページ数に占める「PDCA」を含むページ数の比をgoogle検索を用いて眺めてみたところ,職員数最小の文部科学省が最悪であることがわかった。次の表を見てもらいたい。

  表 各省における「PDCA」を含むページの比率(google検索 2021.2.4)

  組織名   職員数 総ページ数(万)  +PDCA      比率(%)
 1  日本政府    275,000   5110.0    121,000   0.24
 2  内閣府       14,555       26.1       6,210   2.38
 3  総務省         4,798       70.8       5,220   0.74
 4  法務省       54,614         9.8          275   0.28
 5  外務省         6,351       28.2       2,320   0.82
 6  財務省       72,417         7.9       1,400   1.77
 7  文部科学省       2,150       39.4     12,300   3.12
 8  厚生労働省     33,103     251.0     12,300   0.49
 9  農林水産省     20,471       53.5       3,840   0.72
10  経済産業省      7,982       38.2       8,120   2.13
11  国土交通省     58,680    156.0       9,620   0.62
12  環境省         3,204      44.5       3,980   0.89
13  防衛省       20,924      19.0             274   0.14

文部科学省内閣府経済産業省は「PDCA」がお好きなようである。日本のシステムが壊れていくのが最も顕著に現れている分野を担当していることによる焦りなのだろうか。しかし「PDCA」にしがみついている限り,未来は暗そうな気がする。まあ,旗振りキーワードをIT改めDXにスイッチしても,仏作って魂入れず状態を繰り返すだけかもしれませんが。

なお,google検索は,使用言語を日本語にして,キーワードを +site:xx.go.jp とした件数と,
+site:xx.go.jp "PDCA" で表示される件数を用いている。日々の変動はかなりあるので,再現性をチェックする場合は注意したほうがよいかもしれない。日本政府とあるのはxx.を除いた+site:go.jpである。内閣だけでなく,国会や裁判所等も含まれている。

2021年2月3日水曜日

clubhouse と dabel

 セカイカメラからの続き

Clubhouseという言葉がちらちら聞こえ始めたのは1月の26,7日頃だったろうか。Hさんが1月28日のFacebookで,「話題のClubhouseで、貴重な2枠の「招待」を私に使ってくれるキトクな方がいらっしゃればぜひよろしくお願いします」といってたのをみて,はじめてClubhouseがなにものかを認識した。

Clubhouseは2020年の4月からサービスを開始しているが,アメリカでブレイクしたのは2020年の12月になってからだ。日本では2021年の1月23日にベータ版の運用が開始され,招待枠2名という希少価値が鍵になって急速に拡大しているようだ。

とりあえず,仮登録して名前空間だけは確保したものの,誰か友達を探して招待枠の提供をお願いするのは,引きこもりの自分にはハードルが高すぎて放置している。TwitterやFacebookで様子をみていると,アーリーアダプターの皆様方はどんどん参入しているようだ。

この「オーディオソーシャル」というコンセプトには既視感があると思っていたが,なんのことはない,セカイカメラ井口尊仁さんのダベルじゃないか。2019年の1月にear.lyとしてスタートしたダベルの前身のベイビー(2016)やボール(2017)などもチラチラと見ていたけれど,なかなかブレイクしなかった。そして,残念ながらダベルを差し置いてClubhouseがあっという間に広まってしまった。

音の文化というと,ラジオからポッドキャストだったが,いよいよSNSに移ってきた。テキストと時間差が鍵であるインターネットは,コミュニケーションが苦手だった自分にとってはある種の支援ツールになったが,これがリアルタイム音声コミュニケーションに回帰することによって,再び住みにくい世界に戻ってしまうのかもしれない。立食パーティは苦手なのであった。

[1]トレンドの最新SNS「clubhouse」に感じる違和感(阪本明日香,2021.1.28)
[2]『声のインターネット』がもたらすフラットな世界(井口尊仁,2020.9.16)
[3]Clubhouseだけじゃない。“音声SNS戦争”の行方はいかに?(Wired,2021.1.28)
[4]「Clubhouse」はソーシャルメディアなのだろうか?(遠藤諭,2021.2.3)


図 clubhouseで予約した名前空間の点(2021.1.31)




2021年2月2日火曜日

セカイカメラ

頓智ドット株式会社井口尊仁さんが赤松正行さんとつくったセカイカメラのプレゼンテーションは衝撃的だった。自分がはじめてiPhoneを入手したのは2008年の8月11日である。その約1か月後のTechCrunch50における井口さんの英語でのプレゼンテーションは,何のきっかけでいつ頃見たのかはっきり覚えていないが,爆笑の連続だった。

1年後の2009年9月24日にiPhoneのAppStoreで,Sekai Cameraがダウンロードできるようになったときは,やったーと思ったが・・・実際に使ってみるとそこまででもなかった。それでも,世界が情報ゴミであふれるのではないかとそのころは真剣に心配していた。

結局,当時のARやSNSの状況から,残念なことにセカイカメラは1年半ほどで潰れてしまった。いつかまたなんらかの形で復活してもらいたいものだけれど。井口さんは,その後,ウェラブルデバイスのテレパシージャンパーを作ったけどこれもうまく行かなかった。そして,2014年にはDOKI DOKI Inc. をつくって声のソーシャルを目指すことになる。

clubhouseとdabelに続く

2021年2月1日月曜日

CFR(致命率)(5)

 CFR(致命率)(4)からの続き

前回採用した致命率(CFR)の近似値。「致命率*=死亡数累計(t)/新規感染数累計(t-14)」と定義し,感染報告時に対して死亡報告時には2週間(14日)の遅延があると仮定した値を採用した。今回もこの定義を用いて,最新のデータを再分析してみる。各国の値は累計の効果で収束に向かっているが,優等生だと考えられてきたドイツが増加したのが目についた。東京は日本平均よりも小さいことにも注意したい(大阪は逆に大きい)。武漢と中国は当初の混乱の後にほとんど収束へ向かったために,インフレーションの記憶が凍結された値が残っている。

アジアの致命率*:

武漢 6.6%,中国 4.9%,イラン 4.4%,インドネシア 3.3%,フィリピン 2.1%,韓国 2.0%,香港 1.9%,日本 1.8%,インド 1.5%,東京 1.0%,台湾 0.9%(2021.1.31 現在)


図1 アジアの致命率*(2020.5.1〜2021.1.31

欧米の致命率*:

メキシコ 9.7%,イタリア 3.7%,英国 3.1%,ドイツ 2.8%,フランス 2.7%,ブラジル 2.7%,スペイン 2.6%,ロシア2.1%,米国 1.9%,トルコ 1.1%(2021.1.31 現在)


図2 欧米の致命率* (2020.5.1〜2021.1.31)