2021年2月17日水曜日

ワクチン接種の謎

 今日から,日本でのCOVID-19のワクチン接種が始まった。米国のファイザー社とドイツのバイオンテックによるもので,医療従事者約4万人を対象とした先行接種だ。

さて,NHKの2月15日のニュースによれば,「アメリカの製薬大手・ファイザーが開発した新型コロナウイルスのワクチンについて,1つの容器(vial)で想定していた6回の接種が、用意した注射器では5回しか接種できないことが明らかになり,大阪の大手医療機器メーカーでは、6回の接種ができる特殊な注射器の増産に向けて体制の整備を急いでいます。」とのことだ。

ところで,ファイザー・バイオンテックのワクチンの容器(vial)の写真をインターネット上で確認することができる。そして,その容器には次のラベルが表示されている。


写真:ファイザー・バイオンテックのCOVID-19ワクチン容器(Wikimediaより)

Pfizer-BioNTech COVID-19
After dilution, vial contains 5 doeses at 0.3 ml.
For intramuscular use. Contains no preservative.
For use under Emergency Use Authrization.
DILUTE BEFORE USE.
Discard 6 hours after dilution
when stored at 2 to 25C(25 to 77F)
Dulution date and time:

「1つの容器で希釈後に 0.3mL × 5 回分の接種量が含まれている」とある。6回とは書いていない。たぶん通常型の注射器を前提として,接種可能な最低限の分量を書いているのだろう。NHK の報道とは異なり6回は想定されていない

今から2ヶ月前,2020年の12月16日頃から,この話の雲行きが怪しくなってきた。POLITICOの記事 "FDA says Pfizer vaccine vials hold extra doses, expanding supply" には次のようにある。

米国の薬剤師たちが,ファイザーが指示する5回/容器より最大40%多くの接種量(6-7回/容器)が確保できるのではないかと指摘したのだ。これは,ワクチンの不足がいわれている中では非常に大きな問題となる。一方で,ファイザーのラベルの指示は5回だったから,余分を捨てることに違和感があったのだろう(なお,米国では薬剤師がライセンスをとってワクチン接種をすることができるようだ)。

FDA(アメリカ食品薬品局)Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccineに関する資料によれば,-80℃--60℃で輸送保管されたワクチンが冷蔵庫で解凍されると,1つの容器には0.45mLのワクチンが封入されていることになる。これに0.9%の生理食塩水1.8mLを注入して希釈したものから,一人あたり0.3mLの接種を行う。1容器の中身を完全にこれを使うことができれば,7回分は確保できる。しかし,日本の従来型の注射器の構造だと5回分は最低限確保できるいうことだ。ファイザーも当初は従来型の注射器を前提とした上である程度のゆとりを持って作っていたはずだ。

その後,FDAは,5回を越える余剰分の接種は可能であるという声明を出し,いつのまにか,6回接種できるのがデフォルトであるということになってしまった。現在の,CDCの資料FDAの資料では6回と書いてあるのだ(ラベル情報は置き換えよとのこと)。そして日本は,この2ヶ月間に十分な対応ができずに現在に至っているようにみえてしまう(実際はどうかわからない)。そしてマスコミは,基本的な経緯を自力で調査せずに,上っ面の情報を右から左に流しているだけだった。それにしてもなかなか大変面倒な手順であり,現場関係者の努力には頭が下がる。

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