2022年10月10日月曜日

弾道ミサイルの軌道(2)


今回のモデルによるシミュレーションで,軌道を再現する加速時間は180秒=3分だったが,これを少し変えるだけで,軌道は大きく変わってしまう。つまり,ミサイル発射直後の軌道推定は困難であり,少なくとも初期加速が終る時点までの数分間は待つ必要がある。と思ったのだが,コロラド先生は燃焼時間が1分だといっていた。

そこで,各方向の加速度を0.069 km/s^2 (7G),加速時間を60 sにしたところ,vt = 4.07 km/s,vr = 3.58 km/s,v0 = 5.42 km/s(マッハ15.9)が得られた。このときの,最高高度が1160 km,到達距離が4270 km である。これでよいかと思ったが,調べてみると,そもそも推進剤の質量が全質量に対して非常に大きな割合を占めることがわかった。やり直し。


質量が変化する場合の極座標の運動方程式では,$m \ddot{\bm{r}}\ $の項に$\ \dot{m} \dot{\bm{r}}\ $が加わることになる。これを極座標にすれば,$\dot{m} (\dot{r} \bm{e}_r + r \dot{\theta} \bm{e}_\theta)\ $である。そこで,運動方程式の各成分は次の通り。
$\ddot{r} - \dfrac{h^2}{r^3} + \dfrac{\dot{m}}{m} \dot{r} = \frac{1}{m} F_r = -g \dfrac{R^2}{r^2} + \alpha H(\tau- t)$
$\dfrac{1}{r }(\dot{h} +  \dfrac{\dot{m}}{m} h) = \frac{1}{m} F_\theta = 0 + \beta H(\tau-t) $
なお,$H(x) = 1 (x>0) ; =0 (x<0)$はヘヴィサイドの階段関数である。$\alpha, \beta$は,加速開始時刻 $t=0$から加速終了時刻 $t=\tau$ まで動径方向と角度方向に加わる加速度を表わす。

出発前の弾道ミサイルの全質量を$m_0$,全質量に対する推進剤の割合を $p$とすると,加速中($0 \le t \le \tau$)の単位時間当たりの噴射質量は,$\dfrac{p m_0}{\tau}$となる。そこで,時刻 $t$における弾道ミサイルの質量は,$m(t) = m_0 - \dfrac{p m_0}{\tau} t  = m_0 (1 - p\dfrac{t}{\tau})$,$\dot{m}(t) = - m_0 \dfrac{p}{\tau}$。
したがって,$\dfrac{\dot{m}}{m} = - \dfrac{p}{\tau - p t} \quad (0 \le t \le \tau)$ であり,$t>\tau$ では $\ \dfrac{\dot{m}}{m} = 0\ $となる。

なお,最高高度は,$\dot{r}(t)=0$となる時刻 $t_p$に対応する$r(t_p)$で与えられ,到達距離は,$\int_0^T \dfrac{R h(t)}{r(t)^2}dt$で得られる。ただし,$T$は到達時間である。

準備ができたので再計算してみる。全重量に対する推進剤の比率は,p=0.75(3/4)と仮定した。加速時間 60s加速度 0.0446 km/s^2(4.6 G)で到達時間1320 sが再現される。最高高度は,t=682sのとき 1060 km。加速終了時の速度は,vt = 4.69 km/s,vr = 3.32 km/s,v0 = 5.75 km/s (マッハ16.9)である。また,到達距離は4930 kmであり,6-7%の誤差で報告値に一致した。
g = 0.0098; R = 6350; τ = 60; p = 0.75; a= 0.0446; s = Pi/4
fr[t_,τ_] := a * Sin[s] * HeavisideTheta[τ - t]
ft[t_,τ_] := a * Cos[s] * r[t] * HeavisideTheta[τ- t]
fm[t_,τ_] := -p / (τ- p * t) * HeavisideTheta[τ - t]
sol = 
 NDSolve[{r''[t] == -fm[t,τ] * r'[t] + h[t]^2/r[t]^3 - 
   g R^2/r[t]^2 + fr[t,τ], r[0] == R, r'[0] == 0, 
   h'[t] == -fm[t,τ] * h[t] + ft[t,τ], h[0] == 0},
   {r, h}, {t, 0, 1320}]
f[t_] := r[t] /. sol[[1, 1]]
d[t_] := h[t] /. sol[[1, 2]]
Plot[{6350, f[t]}, {t, 0, 1320}]
Plot[{f[t + 1] - f[t], d[t]*R/f[t]^2, d[t]/f[t]}, {t, 0, 1319}, PlotRange -> {-4, 5}]
(f[t] - R) /. FindRoot[D[f[t], t] == 0, {t, 660}]
{d[τ]/f[τ], f[τ+1] - f[τ]}
{Sqrt[(d[τ]/f[τ])^2 + (f[τ+1] - f[τ])^2], 
 Sqrt[(d[τ]/f[τ])^2 + (f[τ+1] - f[τ])^2]/.34}
{NIntegrate[R d[t]/f[t]^2 , {t, 0, τ}], 
 NIntegrate[R d[t]/f[t]^2 , {t, 0, 1320}]} 



図1:軌道半径の時間変化


図2:速度vr,速度vtの大圏射影,速度vt の時間変化

推進時間 60s ,加速度 4.55G,加速角 45° で,高度 1059 km,到達距離 4933 km
推進時間 90s ,加速度 3.22G,加速角 49° で,高度 1038 km,到達距離 4813 km
推進時間120s ,加速度 2.57G,加速角 52.5° で,高度 1015 km,到達距離 4697 km
というわけで,報告値の 1-2%の範囲に収めることも可能な定性的モデルができた。

(付録)最後のパラメタでは,津軽海峡に到達する発射後420 s距離1368km,高度811kmの速度は3.9 km/s であり,30秒ほどで津軽海峡(幅130 km)を通過することになる。

2022年10月9日日曜日

弾道ミサイルの軌道(1)

Jアラートからの続き

このたびの弾道ミサイルが,大圏コースで4600kmを飛行したということは,角度にして40度強だ。また,高度1000kmというのは地球半径の15%にあたる。さすがに地表面を平面として一様重力場で考えるというのではちょっとマズイ気がする。

そこで,地球の中心を原点とする極座標系での運動方程式を考える。運動する物体の座標を$( r(t), \theta(t) )$とする。運動方程式は,$ m ( \ddot{r} - r \dot{\theta} ) = F_r, \quad \dfrac{m}{r} \dfrac{d}{dt} (r^2 \theta) = F_\theta $ となる。ここで面積速度の2倍を$h(t) = r^2 \dot{\theta}$と定義すると,$ m ( \ddot{r} - \dfrac{h^2}{r^3} ) = F_r, \quad \dfrac{m}{r} \dot{h} = F_\theta $ となる。

(1) 万有引力だけが働く場合: $F_r = \dfrac{GMm}{r^2} = mg \dfrac{R^2}{r^2}, \quad F_\theta =0 $となる。与えられた条件は,到達距離 L=4600km,到達時間 T=1320 s,最高高度 H=1000 km,平均水平速度 vt =3.55 km である。また,地表重力加速度 g=9.8 m/s^2,地球半径 R=6350 kmとする。Mathematicaのコードで調整するパラメータは,鉛直方向の初速度だけである。到達距離・時間の条件を満たすものとして vr = 4.15  km/s が得られる。このときの速度はv0 = √(vt^2+vr^2) = 5.46 km/s(マッハ16)となる。しかし,最高高度が,1300 kmとなってうまく合わない
g = 0.0098; R = 6350; vr = 4.15; vt = 3.55; h = R vt
sol = NDSolve[{r''[t] == h^2/r[t]^3 - g R^2/r[t]^2, 
      r[0] == R, r'[0] == vr}, r, {t, 0, 1320}]
f[t_] := r[t] /. sol[[1]]; f[660] - R
Plot[{6350, f[t]}, {t, 0, 1320}]

図1:初速度のみ与えたモデル(横軸: t ,縦軸: 軌道半径 r )

 (2) 初期加速度が一定時間働く場合: 加速度の値(簡単のため動径方向と角度方向は等しいと仮定),加速時間の2つをパラメタとする。先ほどのように到達距離・時間の条件を満たすようにパラメタを探すと,加速度 0.025 km/s^2 (2.5G)と加速時間 180 s の値が得られた。このときの vt = d[τ]/f[τ] = 4.38 km/s,vr = f[τ+1] - f[τ] = 2.96 km/s,v0 = 5.29 km/s(マッハ15.5)となる。また,最高高度は1020 kmとなり,この場合は全体として辻褄があうことになる。

g = 0.0098; R = 6350; τ= 180;
fr[t_,τ_] := 0.025 * HeavisideTheta[τ- t]
ft[t_,τ_] := 0.025 * r[t] * HeavisideTheta[τ- t]
sol = NDSolve[{r''[t] == h[t]^2/r[t]^3 - g R^2/r[t]^2 + fr[t,τ], r[0] == R, r'[0] == 0, h'[t] == ft[t,τ], h[0] == 0},
{r, h}, {t, 0, 1320}]
f[t_] := r[t] /. sol[[1, 1]]
d[t_] := h[t] /. sol[[1, 2]]
Plot[{6350, f[t]}, {t, 0, 1320}]

図2:初速度0から一定の加速をする場合の軌道半径(横軸: t ,縦軸: 軌道半径 r )

なお,加速終了時の射影水平速度は,vt = R d[180]/f[180]^2 = 4.16 km/s である。そこで180秒のあいだに進む水平距離は,vt τ/2 = 370kmとなる。残りは,1030km/4.16km/s = 248 s なので,計 428秒で1400 km(津軽海峡上空)に達する。

図の印象で騙されていたが,到達距離4600 kmの確認が済んでいなかった。解けているのは 角速度 $\dot{\theta} = \dfrac{h(t)}{r(t)^2}$なので,これを積分した $R \theta(T)$ が必要なのだ。下図より角速度の平均値が 0.00059だと仮定すると,370 km + 0.00059*R*1140 s = 370 + 4270 = 4640 kmとなる。1%の誤差でOKだった。


図3:初速度0から一定の加速をする場合の角速度(横軸: t ,縦軸: 角速度$\dot{\theta}$  )

最高高度は,t=679s で1050 kmとなった。加速終了時の速度は,vt = d[τ] / f[τ] = 4.69 km/s,vr = f[τ+1] - f[τ] = 3.31 km/s,v0 = √(vt^2+vr^2) = 5.74 km/s (マッハ16.9)であり,ほぼ報道結果が再現された(P. S. と思ったが・・・)。


2022年10月8日土曜日

Jアラート

Jアラートとは,全国瞬時警報システムのことである。総務省消防庁が運用しており,弾道ミサイル情報,緊急地震速報,津波警報など,対処に時間的余裕のない事態に関する情報を,携帯電話等に配信される緊急速報メール,市町村防災行政無線等により,国から住民まで瞬時に伝達するシステムだ。

10月4日の朝,NHKの7時のニュースを見ていたら,Jアラート発出にともない画面が急に変わって,北朝鮮からのミサイル発射にかかわるニュースが延々と長時間垂れ流された。午前7時27分には,北海道と東京都の諸島部(都道府県名なしの町村名表記だけ)にアラートが出され,午前7時28分には,北海道が消えて,青森県と東京都の諸島部になった。

北朝鮮から一発のミサイルが飛んでくると仮定して,NHKは東北・北海道と東京諸島部に同時に警報が出されているという事態をおかしいと考えないのか。十分に吟味されていない情報がコメントもなしにそのまま右から左へと提供されている。案の定,警戒不要の東京諸島部には誤ってJアラートが発出されていたとの説明が後日あった。

そもそも,Jアラートが発出された時刻は,丁度ミサイルが津軽海峡の約800km(国際宇宙ステーションの軌道高度400kmの2倍)上を数km/sで通過している時間だ。このタイミングでアラートを発出する必然性がほとんどないにもかかわらず(防衛省も内閣府もわかっているはずだろう),安全な場所に避難して下さいとさんざん煽っていた。いったいどういうこと。これでは,内閣支持率が下がって国会で問題が発生したときにいつも都合よくミサイルが飛んでくるとか,軍備増強・憲法改正の環境作りのための過剰宣撫といわれても仕方がない。
発射時刻・場所 7時22分,北朝鮮慈江道舞坪里
通過時刻・場所 7時29分,青森県津軽海峡
落下時刻・場所 7時44分,釜石市の東3200kmの太平洋
飛距離 4600km,到達高度 1000km,速度マッハ17
J-アラート 午前7時27分 北海道+東京都諸島部
J-アラート 午前7時29分 青森県+東京都諸島部
水平方向の平均速度vx0は,vx0 = 4600/(22*60) = 3.5 km/sなので,津軽海峡上空までは,6−7分,1360±100 kmとなる。4600-1360=3140 kmだから,残りの距離が日本から落下地点までの距離3200kmとほぼ一致する。

一方,到達高度hが1000km,飛行時間Tが 1320sである。一様重力場における斜方投射モデルを採用して,鉛直方向の初速度をvy0,有効重力加速度をg とする。h = vy0 (T/2) -g/2 (T/2)^2 = g/2 (T/2)^2 が成り立つので,g = 2h/660^2 = 0.0046 km/s^2,vy0 = 2h/660 = 3.0 km/s となる。初速度v0が v0^2=vx0^2+vy0^2 を満たすので,v0 = 4.6 km/s (マッハ13.5)だ。この単純なモデルでは,マッハ17=5.8 km/s はうまく再現できなかったし,有効重力加速度gの値がもっともらしいのかどうかも微妙である。


2022年10月7日金曜日

2022年10月6日木曜日

2022年10月5日水曜日

2022年10月4日火曜日

2022年10月3日月曜日

2022年10月2日日曜日

理科情報演習

プログラミング教育(5)からの続き

手元に,手作りの理科情報演習のテキストが2冊ある。奥付を見ると,一つは1988年4月1日発行で,大阪教育大学理学科情報教育検討委員会,もう一つは1989年4月1日発行の改訂版だ。平成元年,新しい学習指導要領の告示年か。ゆとり教育のピークで,小学校低学年の理科が廃止され生活科が新設されたころだ。

はじめにには次のようにあった(iPhoneの音声入力は便利)

 この情報科学の発展と,コンピュータテクノロジーの発達にともなって急速に普及しだしたパーソナルコンピュータの高性能化と低価格化は,コンピューターの利用範囲の拡大に多大な影響をもたらした。パーソナルコンピューターを教育現場へ導入しようとする試みもその1つの例であり,教育現場においてパーソナルコンピュータをどのように活用するかについての研究もその進展が望まれるところである。

 最近各地で小・中・高等学校の先生などの教育関係者が中心となって,パーソナルコンピュータを教育機器として利用するための研究グループが作られ始めた,しかし,その規模は全国的に見ても十分ではない。このような時期にあたって,理学科の専門科目として「理科情報演習」を開講することは大きな意義を持つと言うことができる。情報処理を内容とした講義はすでに昭和61年度から理学科および第二部において開始されているが,この間の実践から得られた経験をもとにして「よりよいテキストを」という意図で本書は作成された。

 このテキストでは,コンピュータシステムに関する基本的な事柄が一通り学べるように心がけたつもりである。またプログラム言語としては,初学者用の汎用言語として開発されたBASICを取り上げている。利用する立場からみたコンピュータの働き,データの流れ,あるいは計算の手順などのコンピュータ利用に係わる基本的事柄は,BASICによっても十分理解し得ると考えたからである。

 さらに,目次は次のようになっていた。

第1章 コンピュータ入門・・・・・・・・・・・・・・・・・1
  第1節 コンピュータの歴史と発展
  第2節 コンピュータの現在
第2章 コンピュータの仕組み・・・・・・・・・・・・・・・13
  第1節 ハードウェアの構成
  第2節 コンピュータの取り扱うデータ
  第3節 パーソナルコンピュータにおけるデータの流れ
  第4節 ネットワークシステム
第3章 ソフトウェアの基礎・・・・・・・・・・・・・・・・35
  第1節 ソフトウェアの概念
  第2節 アプリケーションプログラムの分類
  第3節 言語処理プログラム
  第4節 パーソナルコンピュータのオペレーティングシステム
第4章 コンピュータを動かす・・・・・・・・・・・・・・・61
  第1節 FM16πを起動する
  第2節 PC−98LTを起動する
  第3節 キーボードをそっと叩く
第5章 プログラミングの基礎・・・・・・・・・・・・・・・80
  第1節 基本文法
  第2節 基本コマンド
  第3節 グラフィック
  第4節 データの型
  第5節 入出力命令
  第6節 基本演算
  第7節 基本文型
  第8節 サブルーチン
  第9節 デバッグの概念と方法
  第10節 ファイル処理
第6章 プログラムの構成・・・・・・・・・・・・・・・・109
  第1節 アルゴリズム
  第2節 プログラムの構造化
  第3節 プログラムの解析
第7章 コンピュータの可能性・・・・・・・・・・・・・・123
  第1節 教育・研究・産業とコンピュータ
  第2節 コンピュータ利用の問題点
  第3節 コンピュータの未来
練習問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・129
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・149

自分が担当したのは,第3章ソフトウェアの基礎の26ページだった。スーパーコンピュータとしてベクトル計算機がとりあげられ,第五世代コンピュータ開発プロジェクトがまだポシャっておらず,未来のコンピュータは光子計算機だと語られていた時代。



写真:理科情報演習テキスト1989年度版

2022年10月1日土曜日

プログラミング教育(4)

プログラミング教育(1)からの続き

一昨年に文部科学省が出した「小学校プログラミング教育の手引き(第3版)」をもう一度確認する。
はじめに ~ なぜ小学校にプログラミング教育を導入するのか ~

 今日、コンピュータは人々の生活の様々な場面で活用されています。家電や自動車をはじめ身近なものの多くにもコンピュータが内蔵され、人々の生活を便利で豊かなものにしています。誰にとっても、職業生活をはじめ、学校での学習や生涯学習、家庭生活や余暇生活など、あらゆる活動において、 コンピュータなどの情報機器やサービスとそれによってもたらされる情報とを適切に選択・活用して問題を解決していくことが不可欠な社会が到来しつつあります。 
 コンピュータをより適切、効果的に活用していくためには、その仕組みを知ることが重要です。コンピュータは人が命令を与えることによって動作します。端的に言えば、この命令が「プログラム」であり、命令を与えることが「プログラミング」です。プログラミングによって、コンピュータに自分が求める動作をさせることができるとともに、コンピュータの仕組みの一端をうかがい知ることができるので、コンピュータが「魔法の箱」ではなくなり、より主体的に活用することにつながります。 
 プログラミング教育は子供たちの可能性を広げることにもつながります。プログラミングの能力を開花させ、創造力を発揮して、起業する若者や特許を取得する子供も現れています。子供が秘めている可能性を発掘し、将来の社会で活躍できるきっかけとなることも期待できるのです。 
 このように、コンピュータを理解し上手に活用していく力を身に付けることは、あらゆる活動においてコンピュータ等を活用することが求められるこれからの社会を生きていく子供たちにとって、将来どのような職業に就くとしても、極めて重要なこととなっています。諸外国においても、初等教育の段階からプログラミング教育を導入する動きが見られます。 
 こうしたことから、このたびの学習指導要領改訂において、小・中・高等学校を通じてプログラミング教育を充実することとし、2020 年度から小学校においてもプログラミング教育を導入することとなりました。 
1980年代半ば,大学の研究室にPC-8801やPC-9801やSHARP MZ-2000系などが入りはじめた頃,これからの学校教育にはコンピュータが絶対必要になるということで,大阪教育大学の理学科をあげての取り組みが始まった。データステーション(後の情報処理センター)にあって全学共通に使えるパソコンはほんの数台しかなかったので,理科の教員が研究費を持ち寄って2人に一台のラップトップPCを整備することになった。

最初は,CP-M/86が搭載されたFM-16π が2人に1台+教員用の計21台,やがてMS-DOSPC-98LTが1人1台に置き換わっていった。これが物理教室の並びにある階段教室のロッカーに設置されることになる。理科情報演習という授業名を冠したテキストは,山口先生,家野先生と自分が編集作業を担当した。休日まで集まって各教員からの分担原稿を整理していた。

あるとき,このプロジェクトの音頭をとっていた,X線実験を専門とする高木義人先生が,小中学校教員向けの公開講座でコンピュータの使い方=プログラミングをやってはどうかと発案した。理科の教員に呼びかけたのだが,必ずしもよい返事が得られなかった。結局,物理教室のメンバー=加藤先生・仲田先生(高木研究室の助手)・自分だけでやろうということになった。もしかすると,山口先生や家野先生も参加していたいたかもしれない。

反対意見の代表的なものとして,福江先生の意見があった。「これからはコンピュータが当たり前のように学校にはいって活用される時代はくることは確かだ。しかし,その段階で,教員が自分でプログラミングによって授業で活用できる教材をつくるとか,データ処理をBASICで行うということはなく,様々なソフトウェアを活用したり組み合わせることが中心になるはずだ」。

いや,まったくそのとおりなのだが,その当時,学校の先生にコンピュータを体験してもらう場合,実質的には内蔵されているBASICインタープリタを使うしかなかったのである。もちろん,マルチプラン,松,jx-word太郎,dBASEなどのアプリケーションソフトは登場していたが,1本数万なので,とても台数分賄う予算はなかったのである。

そんなわけで,じりじりと太陽が照りつける夏休みの天王寺キャンパスの旧校舎の,冷房もない階段教室で汗だくになりながら,よくわからない学校の先生を相手に,BASICプログラミングを懇切丁寧に指導する3日間というのを数年続けたのだった。

それが40年近く前の話である。やがて,インターネットへの接続がはじまり,大学は柏原キャンパスに統合移転し,キャンパスネットが整備され,コンピュータ実習室も複数室もうけられ,キャンパス全域に無線LANアクセスポイントができたら,全学生BYODの時代になってしまい,学校現場でもGIGAスクール=一人一台の環境整備が進んでいる。

で,いま再びプログラミング教育というわけだ。どう考えても上の第2段落にあるプログラミングでコンピュータの仕組みを知ることが主体的活用につながるというのが正しい考えであるとは思えない一方,前回述べたように,コンピュータを創造的ツールとして使うという観点でみれば,それはそれでありうるのかとも思われる。


図:プログラミングからのパラダイム転換(人工知能研究の新潮流から引用)

2022年9月30日金曜日

2022年9月29日木曜日

2022年9月28日水曜日

2022年9月27日火曜日

2022年9月26日月曜日

2022年9月25日日曜日

ひまわりキッズ

1994年に100校プロジェクトがはじまってしばらくしたころ,理科教育メーリングリストに次のような話題を提供したことがある。

インターネットを活用した学校間コラボレーションのアイディアだ。全国の学校で,日時を定めて校庭から一斉に真上の空にデジタルカメラを向けて撮影し,その画像をつなぎ合わせて,下から見た日本列島の天気の全体像を調べようというものだ。

気象衛星ひまわりは赤道上の静止軌道から日本上空の雲の分布を撮影することができるが,逆に下から見るとこれがどう見えるかを,インターネットコラボレーションの力で確かめてみたい。名付けて「ひまわりキッズ」プロジェクト。

残念ながら,口先だけで実行力がともなわなかったので,実現には至らなかった。そうこうしているうちに内田洋行がデジタル百葉箱(現,IoT百葉箱)を売り出して,そちらに注目が集まることになる。そういえば,すでにteiten2000という渡辺先生がはじめたプロジェクトがあったからかもしれない。

ひまわりキッズで検索すれば,いまは天理市の子育てサークルなどが出てくるのであった。


写真:ひまわり8・9号のイラスト(Wikipediaから気象庁の画像を引用)

2022年9月24日土曜日

横尾先生

横尾先生といえば,森田研でお世話になった横尾由松先生。福井医科大学の転出されるまでは,毎年の研究室のハイキングには必ず参加されていた。コースの終わりに自動販売機で缶ビールを買ってグイッと飲まれる姿がなかなかよかった。

昨日,大阪教育大学でお世話になった天文学の横尾武夫先生(1939-2022)の訃報を目にした。和歌山大学観光学部長の尾久土正己さんが Facebook に投稿していた。9月14日になくなられたようだ。地学教室(天文)と物理学教室ということで,それほど接点があったわけではないが,ほとんどいつもぼやきながらニコニコ笑っていたけれど,ときどきはわけがわからないことで怒っていたのを憶えている。

1984年に福江さんが着任したときに,横尾先生に寺田町の飲み屋の2階の座敷に誘われた。木立さんは京大物理だったから理解できるのだが,なぜ私にもおまけで声をかけたのだろうか。理学科の学生を連れた一泊旅行で西はりま天文台を訪れたときは,学生が隠れて飲酒して事故になるのを防ぐために特別にOKと笑いながら説明していた。いまではできないけれどなかなかよい判断だった。

横尾先生が講座主任のときに,技術教室がからんだ人事があり,物理分野の代表だった自分のところにやってこられて,あれこれと相談したことがあった。いろいろと気配りされる先生だった。退職されるころに(理科の送別懇親会の日だったかもしれない),帰りの電車で事務官の方と三人いっしょになって,なりゆきで大和八木駅の高架下で一杯飲んでいこうということになった。横尾先生は榛原におすまいだったので,まれに一緒になることがあったのだ。

横尾先生のエピソードについては,福江さんの退官記念冊子寄稿文に詳しい。でもなぜ1999年?2004年ではなかったのか。もともとは還暦記念冊子に掲載した文なので,5年ずれていたということか。それにしても,福江さんのホームページには横尾先生退職のあたりの記事がみあたらない・・・


写真:地学教室メンバー1984(福江さんの寄稿文から引用...なつかしい)

追伸:定金先生が,天文月報2022年11月号にかいた追悼文を見つけた。

2022年9月23日金曜日

超歌舞伎

近所の方から行けなくなったチケットが回ってきたので,京都南座の超歌舞伎2022に行くことになった。 

わりと前の席だったが,過去の松竹座歌舞伎公演などとは客層の様子が明らかに違う。平均年齢が若く,もちろん女性優位だけれどもビジネスマン風の人もちらほらと。DWANGOやNTTがスポンサーだからなのか。しかも,みんな手には結構大きなペンシルライトなるものを持っている。後で説明があったけれど(超歌舞伎2022 Powered by NTT 大向う付オリジナルペンライトの使い方),4000円もするらしい。

音響効果(PA)の音が老人の耳にはきつすぎてたいへんだった。初音ミクの存在感はそれほどなかったが,中型や大型プラズマディスプレイ,中型スクリーンへのプロジェクション,前面半透過大スクリーンへの投射など,これでもかという方法を組み合わせていた。

中村獅童はサービス精神たっぷりだったけれども,歌舞伎だと思ってみると物足りないかもしれない。かといって,新しい実験的なメディアの挑戦だといえるかというとそうでもない。ボストン・ダイナミックスのロボットがみんなでとんぼを切るとか,劇場内をドローンウォームが飛び回って龍をつくるとかでないとインパクトに欠ける。

最後に撮影タイムというのがあって,自由に撮影できるという趣向がよかった。まあ,DWANGOの作戦にまんまと乗せられているのかもしれない。


写真:超歌舞伎2022最後の撮影タイムのようす(2022.9.23撮影)

2022年9月22日木曜日

同志社大学京田辺キャンパス(2)

同志社大学京田辺キャンパス(1)からの続き

はやいもので,あれからちょうど2年経った。同志社大学の京田辺キャンパスを訪れるのは2回目だが,来週からいよいよ非常勤の対面授業(2コマ連続…orz)が始まる。

今日は,教室のAV設備の説明を受けるため,智真館1号館2FのAV準備室前に10:00に集合の予定だった。正門を入ってすぐ左に交隣館という建物があり,最初はここが目的地かと思っていた。受付の方にきくと,この1Fは非常勤講師の控室になっており,コピー機やロッカーの使用方法など説明を聞くことができた。

目的地の講義棟である智真館1号館は同じような教室が一様に並んでいてAV準備室がどれだかわからないし誰も人が見当たらない。案内板には教室番号しか書いていない。あせってウロウロしているとようやくスタッフの方に発見された。自分の講義予定の教室は電気工事中だったので,同様の設備の教室で説明を受けた。

教卓にはカセットテープと音声入出力端子からなる,30年前の設備がきれいに保存されていてまだ使えるとここと。大阪教育大と似ているが,鍵のかかっていないボックスにAV設備がある。60人規模の教室には60インチの液晶テレビが1台だけで,天吊りプロジェクターはなかった。ワイヤレスマイクもなし。そのかわり,常勤スタッフは2名配置されているらしい。

15分ほどでていねいな説明が終ったので,理工学部の担当の先生へ挨拶にうかがったが,不在のようだった。

平端から北に大和西大寺まで15分,大和西大寺−平城−高の原−山田川−木津川台−新祝園−狛田−近鉄宮津−三山木−興戸が30分,興戸から上り坂を10-15分で京田辺キャンパス

平端から南に大和八木まで15分,大和八木−真菅−松塚−大和高田−築山−五位堂−近鉄下田−二上−関屋−大阪教育大前が30分,大阪教育大前から上り坂を10-15分で柏原キャンパス

非常に対称的なルートになっている。高の原と大和高田が対応し,新祝園と五位堂が対応する。キャンパスまで上り坂のところも同じだ。果たしてあと1年半体力が続くかな・・・


写真:同志社大学京田辺キャンパスの図書館(2022.9.22撮影)


2022年9月21日水曜日

半経験的質量公式

原子核の液滴模型にもとづくベーテ・ヴァイツゼッカーの半経験的質量公式は,原子核の結合エネルギーを質量数Aと陽子数Zの関数として与えるものだ(後期の授業開始が迫っており,準備に追われてこんなものまで引っ張り出すことに…)。

質量公式といえば,森田先生の友達だった早稲田大学の山田勝美先生を思い出す。いろいろお世話になったことも。ベータ崩壊の大局的理論から,精密な質量公式の導出へとつながる研究に進み,日本の原子核理論分野ではユニークな位置にいたような気がする。

ベーテ・ヴァイツゼッカ—の質量公式からペアリング項を除いた束縛エネルギーの表式は次のようになる。
$ B(A,Z) = a_\mathrm{V} \cdot A - a_\mathrm{O} \cdot A^{2/3} - a_\mathrm{C} \cdot  \frac{Z^2}{A^{1/3}} - a_\mathrm{S} \cdot \frac{(N - Z)^2}{A} $
順に,体積項,表面項,クーロン項,対称項となっている。

教科書にあるような,一核子当たりの束縛エネルギー$B(A)/A$のグラフを書くためには,陽子数と質量数の関係$Z(A)$が必要である。これは,$\frac{d}{dZ}B(A,Z)=0$を与える$Z^*(A)$として求まり,
$Z^*(A)=\dfrac{A}{2+ a_\mathrm{C}/(2 a_\mathrm{S}) A^{2/3}}$となる。

ここで,$a_\mathrm{V}=15.8,\ a_\mathrm{O}=17.8,\ a_\mathrm{C}=0.70, \ a_\mathrm{S}=23.3$ という経験値(単位はいずれも MeV)を代入すると,

b[a_, z_] := 
 15.6 a - 17.2 a^(2/3) - 0.70 z^2/a^(1/3) - 23.3 (a - 2 z)^2/a
sol1 = NSolve[D[b[a, z], z] == 0, z];
z[a_] := z /. sol1[[1]]
e[a_] := b[a, z[a]]/a
v[a_] := 15.6
o[a_] := v[a] - 17.2 a^(-1/3)
c[a_] := o[a] - 0.70 z[a]^2/a^(4/3)
s[a_] := c[a] - 23.3 (1 - 2 z[a]/a)^2
Plot[{v[a], o[a], c[a], s[a]}, {a, 1, 216}, PlotRange -> {0, 20}]
sol2 = NSolve[D[e[a], a] == 0, a]
z[a] /. sol2[[2]]

{{a -> 4.66671*10^7}, {a -> 61.2878}}
27.4402

この近似式では,A=61,Z=27 が核子当たり結合エネルギー最大の核種となる。実際は鉄Fe(A=56, Z=26)なので少しズレている。

当初は,自分でグラフを書くには,$A=2Z + k Z^2$という近似が簡単かなと考えていた。鉛Pb(A=208, 82)を代入すれば,$1/k=153$から$Z(A)=-153+\sqrt{153^2+153 A}$ となる。概ねよい近似ではあるが,それほどメリットはなかった。


図:ベーテ・ヴァイツゼッカ—質量公式による核子当たり結合エネルギー
(上から,体積項,−表面項,−クーロン項,−対称項)