元旦の夜,テレビ番組をだらだらと見ていたら,NHKのEテレの「100分de名著」シリーズの特番「100分deナショナリズム」が飛び込んできた。ヤマザキマリが安部公房の「方舟さくら丸」の話をしていて,最初はこれが方舟さくら丸の話とは気付かずにいた。とてもおもしろい切り口でぐいぐいと引き込まれた。4人のゲストが稲垣吾郎の司会の元で,このテーマにも関らず冷静に議論できているのがとてもありがたかった(ふだんの司会の伊集院光もなかなかよい仕事をしていると思う)。
さっそく,自分の本棚を確認すると,新潮文庫の方舟さくら丸を持っていた。しかし,そのイメージは全く記憶に残っていなかった。「箱男」と「密会」も単行本で持っていたはずだが,こちらのストーリーも思い出せない。これにくらべると,「第四間氷期」,「けものたちは故郷をめざす」,「砂の女」,「他人の顔」,「燃えつきた地図」の方はくっきりとした印象が残っている。初期の短編も高校時代の自習時間に図書館でよく読んでいた記憶がある。SFから入門した安部公房だが,「砂の女」と「他人の顔」は大学時代に読んだ文芸作品のベストテンに入る。
番組の方はまとめると次のようなことだった。
大澤真幸 想像の共同体 国民国家・情報技術
島田雅彦 君主論 マキャベリズム・パトリオティズム
中島岳志 昭和維新試論 超国家主義・セカイ系
ヤマザキマリ 方舟さくら丸 棄民・選民
1月5日の再放送を録画して最初からみたが,おもしろかった。
芥川龍之介が「蜘蛛の糸」を発表して百年。高二の秋の文化祭,クラスの仮装行列のテーマが 蜘蛛の糸だった。お釈迦様の極楽タワーの竹を近所から切り出し,地獄の焔と煙の絵を描いた。犍陀多に続いて蜘蛛の糸(登山部の赤いザイル)に群がる地獄の亡者だったころ。
2020年1月9日木曜日
2020年1月8日水曜日
デザインあ
1月5日の午後から滋賀県守山市の琵琶湖大橋東岸のそばにある佐川美術館に家族で訪れた。曇った冬空でときどき雨がぱらつく寒い日だったが,子どもも楽しめる「デザインあ」展は親子連れでたいへん盛況だった。その趣旨はつぎのとおり。
こどもたちのデザインマインドを育む番組 NHK Eテレ「デザインあ」。本展は「デザインあ」のコンセプトを、体験の場に発展させた展覧会です。身のまわりに意識を向け(みる)、どのような問題があるかを探り出し(考える)、よりよい状況をうみだす(つくる)という一連の思考力と感性を「デザインマインド」ととらえ、多彩な映像表現をもちいて伝えてきました。デザインあ展は、この「デザインマインド」を、見て、体験できる展覧会です。
写真:佐川美術館のエントランス(2020.1.5撮影)
2020年1月7日火曜日
修羅
「修羅(1971)」は「薔薇の葬列(1969)」に続く松本俊夫(1932-2017)の監督・脚本の映画作品であり,大学時代に劇場でみた。彼の作品では桂枝雀(1939-1999)主演の「ドグラ・マグラ(1988)」もおもしろそうだったが,残念ながらこちらはまだみていない。
「修羅」の原作は,鶴屋南北(1755-1829)の「盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」であり,中村嘉葎雄(1938-)が薩摩源吾兵衛,三条泰子(1940-)が小万の役だった。その三条泰子がとてもきれいに思えたので,帰省したとき母にいうと,なんか怪しい映画に出ている人じゃないのと切り替えされた。今,調べてもほとんどそういうことはないのだけど。
その薩摩源吾兵衛は,「盟三五大切」の元になった並木五瓶の「五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)」にも登場し,「国言詢音頭」の初右衛門に対応している。これらのもとになったのは,元文2年(1737)夏,曽根崎新地で薩摩藩の早田八右衛門という人物が,曽根崎桜風呂の菊野ら五人を切り殺したという事件だ。
ということで,大学時代に見ていた「修羅」が,文楽入門のきっかけとなった40年後の「国言詢音頭」につながっていた。
「修羅」の原作は,鶴屋南北(1755-1829)の「盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」であり,中村嘉葎雄(1938-)が薩摩源吾兵衛,三条泰子(1940-)が小万の役だった。その三条泰子がとてもきれいに思えたので,帰省したとき母にいうと,なんか怪しい映画に出ている人じゃないのと切り替えされた。今,調べてもほとんどそういうことはないのだけど。
その薩摩源吾兵衛は,「盟三五大切」の元になった並木五瓶の「五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)」にも登場し,「国言詢音頭」の初右衛門に対応している。これらのもとになったのは,元文2年(1737)夏,曽根崎新地で薩摩藩の早田八右衛門という人物が,曽根崎桜風呂の菊野ら五人を切り殺したという事件だ。
ということで,大学時代に見ていた「修羅」が,文楽入門のきっかけとなった40年後の「国言詢音頭」につながっていた。
2020年1月6日月曜日
おいど出して
令和2年初春文楽公演(開場三十五周年記念シリーズ)が1月3日から始まった。第1部の「傾城反魂香」が,竹本津駒太夫改め六代目竹本錣太夫襲名披露狂言であった。
津駒太夫は,2008年(平成20年)7月の私の初めての文楽体験(夏休み文楽公演第3部)で最初に出会った太夫だったので印象深い。演目は,国言詢音頭(くにことばくどきおんど)。大川の段が津駒太夫と鶴澤寛治,五人伐の段の中が文字久太夫・清友,切が住太夫・錦糸・豊澤龍爾(胡弓)という顔ぶれだった。津駒大夫が汗びっしょりでよだれをたらしながら熱演しているのにびっくりしてハマってしまい(最後のシーンが本水だったのもよかった),それ以来文楽劇場に通うようになった。
その津駒太夫=錣太夫の襲名披露は,傾城反魂香の冒頭に,床に竹本錣太夫,竹澤宗助,豊竹呂太夫(六代目 1947-)が並んで行われた。呂太夫が落ち着いて口上を述べた。文楽の襲名披露は歌舞伎のそれに比べて,相対的に形式張っておらず,また襲名する本人自身は自らは挨拶しないのが通例だ。
竹本錣太夫は,1949年広島生まれ,1969年に津太夫に入門して津駒太夫を名乗り,1970年に朝日座で初舞台,1988年に呂太夫(五代目 1945-2000)門下になり,ここで六代目の呂太夫=英太夫と接点を持つ。呂太夫の口上では,とてもきまじめな錣太夫のエピソードを1つ紹介していた。
当時の津駒太夫は,鶴澤寛治(六代目 1887-1974)に指導を受けていた。ある日,寛治がおいどを出してというので,津駒太夫はあわてて立ち上がってゆかたをめくろうとしたらしい。この場合のおいどは床本の終わりのほうを意味していたのを勘違いしたのだ。同席していた女義太夫の鶴澤寛八(1917-1993)にあわてて止められたとのことだ。文楽界を代表するおもしろい出来事だったとのこと。
津駒太夫は,2008年(平成20年)7月の私の初めての文楽体験(夏休み文楽公演第3部)で最初に出会った太夫だったので印象深い。演目は,国言詢音頭(くにことばくどきおんど)。大川の段が津駒太夫と鶴澤寛治,五人伐の段の中が文字久太夫・清友,切が住太夫・錦糸・豊澤龍爾(胡弓)という顔ぶれだった。津駒大夫が汗びっしょりでよだれをたらしながら熱演しているのにびっくりしてハマってしまい(最後のシーンが本水だったのもよかった),それ以来文楽劇場に通うようになった。
その津駒太夫=錣太夫の襲名披露は,傾城反魂香の冒頭に,床に竹本錣太夫,竹澤宗助,豊竹呂太夫(六代目 1947-)が並んで行われた。呂太夫が落ち着いて口上を述べた。文楽の襲名披露は歌舞伎のそれに比べて,相対的に形式張っておらず,また襲名する本人自身は自らは挨拶しないのが通例だ。
竹本錣太夫は,1949年広島生まれ,1969年に津太夫に入門して津駒太夫を名乗り,1970年に朝日座で初舞台,1988年に呂太夫(五代目 1945-2000)門下になり,ここで六代目の呂太夫=英太夫と接点を持つ。呂太夫の口上では,とてもきまじめな錣太夫のエピソードを1つ紹介していた。
当時の津駒太夫は,鶴澤寛治(六代目 1887-1974)に指導を受けていた。ある日,寛治がおいどを出してというので,津駒太夫はあわてて立ち上がってゆかたをめくろうとしたらしい。この場合のおいどは床本の終わりのほうを意味していたのを勘違いしたのだ。同席していた女義太夫の鶴澤寛八(1917-1993)にあわてて止められたとのことだ。文楽界を代表するおもしろい出来事だったとのこと。
写真:国立文楽劇場初日,鏡割り前の錣太夫の挨拶(2020.1.3撮影)
2020年1月5日日曜日
2020年1月4日土曜日
2020年1月3日金曜日
2020年1月2日木曜日
2020年1月1日水曜日
2019年12月31日火曜日
2019年12月30日月曜日
2019年12月29日日曜日
鳥の地磁気コンパス
渡り鳥は正しい方角を知って長距離を渡ることができる。この鳥の能力には,地磁気を感知する感覚器が関与しているのではないかと考えられてきた。しかし,その具体的なメカニズムは不明だった。NHKのコズミックフロントをみていたら,量子力学の特集で,この話題について触れられていた。
2009年のGaugerらの論文によれば,ヨーロッパコマドリの渡りのメカニズムが調べられ,鳥の視覚における光のスペクトルが方向検知の能力と関係していることがわかった。そこで,単純な生体磁石も持つ感覚器のモデルではなくて,化学反応速度に対する磁場の影響のモデルが考えられた。鳥の目の光子吸収におけるラジカル対の生成で生ずる一重項と三重項からの生成物質が磁場の向きに依存して異なるため,地球磁場が化学信号をもたらすというものらしいが,肝腎の生成物質とその効果は特定されていないようだ。
光合成やその他の生態系における量子過程についてもまだまだおもしろい問題がたくさんありそうで,エンタングルメントがどう関るのか,興味津々というところ。
[1]Sustained quantum coherence and entanglement in the avian compass(Gauger et al. 2009)
[2]Quantum effects in biology: Bird navigation(Ritz 2011)
[3]Quantum Dynamics of the Avian Compass(Walters 2012)
[4]The Radical Pair Mechanism and the Avian Chemical Compass: Quantum Coherence and Entanglement(Zhang et al. 2015)
[5]The quantum needle of the avian magnetic compass(Hiscock et al. 2016)
[6]Quantum Mechanical Navigation: The Avian Compass(Herbert 2016)
2009年のGaugerらの論文によれば,ヨーロッパコマドリの渡りのメカニズムが調べられ,鳥の視覚における光のスペクトルが方向検知の能力と関係していることがわかった。そこで,単純な生体磁石も持つ感覚器のモデルではなくて,化学反応速度に対する磁場の影響のモデルが考えられた。鳥の目の光子吸収におけるラジカル対の生成で生ずる一重項と三重項からの生成物質が磁場の向きに依存して異なるため,地球磁場が化学信号をもたらすというものらしいが,肝腎の生成物質とその効果は特定されていないようだ。
光合成やその他の生態系における量子過程についてもまだまだおもしろい問題がたくさんありそうで,エンタングルメントがどう関るのか,興味津々というところ。
[1]Sustained quantum coherence and entanglement in the avian compass(Gauger et al. 2009)
[2]Quantum effects in biology: Bird navigation(Ritz 2011)
[3]Quantum Dynamics of the Avian Compass(Walters 2012)
[4]The Radical Pair Mechanism and the Avian Chemical Compass: Quantum Coherence and Entanglement(Zhang et al. 2015)
[5]The quantum needle of the avian magnetic compass(Hiscock et al. 2016)
[6]Quantum Mechanical Navigation: The Avian Compass(Herbert 2016)
2019年12月28日土曜日
ベテルギウス
冬の代表的な星座であるオリオン座のα星が,左上にある赤いベテルギウス(Betelgeuse,640±150光年)だ。星座のα星,β星,γ星は一般には明るさの順に名付けられている。ただ,諸般の事情で例外もあって,オリオン座で最も明るいのは右下の青白いリゲル(Rigel,860±80光年)らしい。いずれも1等星だが,全天には1等星(視等級が1.5等級より明るいもの)が21個しかないので,たいへん貴重な存在だ。
ところが,そのベテルギウスが最近2等星にランクダウンしそうとの話が伝わってきた。ベテルギウスは太陽質量の12倍(Wikipedia:en)の赤色超巨星である。約6.4年周期の変光星で明るさは0.0−1.3等級の範囲で変化するようだが,最近は1.5等級前後で低迷している。また明るくなればよいが,そうでないと楽しいことが起こるらしい。
太陽の20倍くらいの星の恒星内元素合成反応では,水素→ヘリウムの元素変換が終わりヘリウム→炭素になるあたりで赤色巨星になる。炭素→ネオンが1000年かかるが,ネオン→シリコンが1年,シリコン→鉄が2日で終了して超新星爆発する。このときネオン→シリコン反応で急激に収縮して暗くなるというので,もし現在の減光がネオン→シリコンであれば1年続いて我々が生きている間に超新星が見られるということになる,という説がtwitterで流布していた。本当かな?元素合成のシークェンスはおおむねあっているようだ。
オリオン座といえば,昔,忘年会の帰りに,オリオン座が冬空に映えるなあとおもいながら自転車をふらつかせていたら,頭から田んぼにつっこんだことを思い出す。まだ若かったので怪我もなく無事に帰宅できた。
(注)この現象は数年から10年に一度くらいの割合で発生しているようなので,心配する必要はないというか,残念であったというか・・・
[1]Stellar Evolution (Zucker,2010)
[2]CESAR Booklet ver. 2 (CESAR,2018)
[3]Plot a light curve(AAVSO米国変光星観測家協会)
[4]オリオン座のベテルギウスに異変,超新星爆発の前兆か(CNN.co.jp 2019)
[5]ベテルギウスの最期:超新星の徴候とその威力(ActiveGalactic 2010)
ところが,そのベテルギウスが最近2等星にランクダウンしそうとの話が伝わってきた。ベテルギウスは太陽質量の12倍(Wikipedia:en)の赤色超巨星である。約6.4年周期の変光星で明るさは0.0−1.3等級の範囲で変化するようだが,最近は1.5等級前後で低迷している。また明るくなればよいが,そうでないと楽しいことが起こるらしい。
太陽の20倍くらいの星の恒星内元素合成反応では,水素→ヘリウムの元素変換が終わりヘリウム→炭素になるあたりで赤色巨星になる。炭素→ネオンが1000年かかるが,ネオン→シリコンが1年,シリコン→鉄が2日で終了して超新星爆発する。このときネオン→シリコン反応で急激に収縮して暗くなるというので,もし現在の減光がネオン→シリコンであれば1年続いて我々が生きている間に超新星が見られるということになる,という説がtwitterで流布していた。本当かな?元素合成のシークェンスはおおむねあっているようだ。
オリオン座といえば,昔,忘年会の帰りに,オリオン座が冬空に映えるなあとおもいながら自転車をふらつかせていたら,頭から田んぼにつっこんだことを思い出す。まだ若かったので怪我もなく無事に帰宅できた。
(注)この現象は数年から10年に一度くらいの割合で発生しているようなので,心配する必要はないというか,残念であったというか・・・
[1]Stellar Evolution (Zucker,2010)
[2]CESAR Booklet ver. 2 (CESAR,2018)
[3]Plot a light curve(AAVSO米国変光星観測家協会)
[4]オリオン座のベテルギウスに異変,超新星爆発の前兆か(CNN.co.jp 2019)
[5]ベテルギウスの最期:超新星の徴候とその威力(ActiveGalactic 2010)
図 ベテルギウスの光度曲線(AAVSOより引用)
2019年12月27日金曜日
数値計算のリスク
精度保証付き数値計算についてのQiitaのAdvent Calendarの記事が話題になっていた。数値計算はなかなか奥が深いので困る。
[Rumpの例題]
$f(a,b) = 333.75 b^6 + a^2 (11 a^2 b^2 − b^6−121 b^4−2) + 5.5 b^8 +\dfrac{a}{2b}$
に $(a,b)=(77617.0, 33096.0)$ を代入した値は?
Mathematicaの場合
In[1]:= f[a_, b_] := 333.75 b^6 + a^2 (11 a^2 b^2 - b^6 - 121 b^4 - 2) + 5.5 b^8 + a/(2 b)
In[2]:= f[77617.0, 33096.0]
Out[2]= -1.18059*10^21
In[3]:= g[a_, b_] := 1335/4 b^6 + a^2 (11 a^2 b^2 - b^6 - 121 b^4 - 2) + 11/2 b^8 + a/(2 b)
In[4]:= N[g[77617, 33096], 20]
Out[4]= -0.82739605994682136814
Juliaの場合
[1] function g(a::BigInt,b::BigInt)
x = 1335/4*b^6 + a^2*(11*a^2*b^2 - b^6 - 121*b^4 - 2) + 11/2*b^8 + a/(2*b)
end
[2] g(BigInt(77617), BigInt(33096))
[2] -0.8273960599468213681411650954798162919990331157843848199178148416727096930142628
[3] function g128(a::Int128,b::Int128)
x = 1335/4*b^6 + a^2*(11*a^2*b^2 - b^6 - 121*b^4 - 2) + 11/2*b^8 + a/(2*b)
end
[4] g128(Int128(77617), Int128(33096))
[4] 1.1805916207174113e21
[5] function f(a::BigFloat,b::BigFloat)
x = 1335/4*b^6 + a^2*(11*a^2*b^2 - b^6 - 121*b^4 - 2) + 11/2*b^8 + a/(2*b)
end
[6] f(BigFloat(77617), BigFloat(33096))
[6] -0.8273960599468213681411650954798162919990331157843848199178148416727096930142628
[7] function f64(a::Float64,b::Float64)
x = 1335/4*b^6 + a^2*(11*a^2*b^2 - b^6 - 121*b^4 - 2) + 11/2*b^8 + a/(2*b)
end
[8] f(Float64(77617), Float64(33096))
[8] -1.1805916207174113e21
[Rumpの例題]
$f(a,b) = 333.75 b^6 + a^2 (11 a^2 b^2 − b^6−121 b^4−2) + 5.5 b^8 +\dfrac{a}{2b}$
に $(a,b)=(77617.0, 33096.0)$ を代入した値は?
Mathematicaの場合
In[1]:= f[a_, b_] := 333.75 b^6 + a^2 (11 a^2 b^2 - b^6 - 121 b^4 - 2) + 5.5 b^8 + a/(2 b)
In[2]:= f[77617.0, 33096.0]
Out[2]= -1.18059*10^21
In[3]:= g[a_, b_] := 1335/4 b^6 + a^2 (11 a^2 b^2 - b^6 - 121 b^4 - 2) + 11/2 b^8 + a/(2 b)
In[4]:= N[g[77617, 33096], 20]
Out[4]= -0.82739605994682136814
Juliaの場合
[1] function g(a::BigInt,b::BigInt)
x = 1335/4*b^6 + a^2*(11*a^2*b^2 - b^6 - 121*b^4 - 2) + 11/2*b^8 + a/(2*b)
end
[2] g(BigInt(77617), BigInt(33096))
[2] -0.8273960599468213681411650954798162919990331157843848199178148416727096930142628
[3] function g128(a::Int128,b::Int128)
x = 1335/4*b^6 + a^2*(11*a^2*b^2 - b^6 - 121*b^4 - 2) + 11/2*b^8 + a/(2*b)
end
[4] g128(Int128(77617), Int128(33096))
[4] 1.1805916207174113e21
[5] function f(a::BigFloat,b::BigFloat)
x = 1335/4*b^6 + a^2*(11*a^2*b^2 - b^6 - 121*b^4 - 2) + 11/2*b^8 + a/(2*b)
end
[6] f(BigFloat(77617), BigFloat(33096))
[6] -0.8273960599468213681411650954798162919990331157843848199178148416727096930142628
[7] function f64(a::Float64,b::Float64)
x = 1335/4*b^6 + a^2*(11*a^2*b^2 - b^6 - 121*b^4 - 2) + 11/2*b^8 + a/(2*b)
end
[8] f(Float64(77617), Float64(33096))
[8] -1.1805916207174113e21
2019年12月26日木曜日
ならの大仏さま:かこさとし
かこさとしの絵本にはとてもお世話になった。子どもたちが小さいとき,1960年代から1980年代にかけて出版されたかこさとしの絵本のいくつかは寝る前の読み聞かせの定番だった。「だるまちゃんとてんぐちゃん 」「だるまちゃんとかみなりちゃん」「どろぼうがっこう」「からすのパンやさん」「だるまちゃんとうさぎちゃん」「だるまちゃんととらのこちゃん」などで,親子共々たいへんたのしく読むことができた。
福井県生まれ,東大工学部応用化学科出身で工学博士号を持つ加古里子には,「かわ」「海」「地球」「人間」「宇宙」などのすぐれた科学絵本もあった。しかし,これらについては図書館で借りるか本屋で立ち読みしたくらいで,買うことはなかった(なぜだろう)。ただ,「ならの大仏さま」だけは,1990年ごろに奈良県に引っ越した後に買ったのでいまも手元にある。
久しぶりに奥から引っ張り出してきて読んでみると,これはなかなかの名著であった。小学校高学年のときに読んだ日本の歴史シリーズの最初の巻で奈良の大仏の建立にいたる具体的な物語が書かれていてとてもおもしろく読んだ記憶があったが,それを思い出させるものであった。金の水銀アマルガムからくる毒性の話ものっていたのではないかと思う。非常に具体的であり,科学者の目がすみずみまでとどいているのだ。板倉聖宣のセンスと同じものがある。
福井県生まれ,東大工学部応用化学科出身で工学博士号を持つ加古里子には,「かわ」「海」「地球」「人間」「宇宙」などのすぐれた科学絵本もあった。しかし,これらについては図書館で借りるか本屋で立ち読みしたくらいで,買うことはなかった(なぜだろう)。ただ,「ならの大仏さま」だけは,1990年ごろに奈良県に引っ越した後に買ったのでいまも手元にある。
久しぶりに奥から引っ張り出してきて読んでみると,これはなかなかの名著であった。小学校高学年のときに読んだ日本の歴史シリーズの最初の巻で奈良の大仏の建立にいたる具体的な物語が書かれていてとてもおもしろく読んだ記憶があったが,それを思い出させるものであった。金の水銀アマルガムからくる毒性の話ものっていたのではないかと思う。非常に具体的であり,科学者の目がすみずみまでとどいているのだ。板倉聖宣のセンスと同じものがある。
2019年12月25日水曜日
浮力の問題(7)
浮力の問題(6)に続いて,もうひとつ別のモデルを考えてみる。
板倉さんや夏目さんの実験などでは乾いた容器に密度が水より小さな物体を押し付けた状態でまわりに流体をそそぎ,その後,手を離しても浮上しない状態が維持される。これに松川さんが噛みついた訳だった。単純な表面張力で説明できるかというと,浮力の問題(4)で示したように効果が小さすぎるように思える。そこで薄い空気層があるために浮上を妨げるということがありうるか考えてみる。
場面設定
場面設定1の環境において,質量$m$,底面積$A$,高さ$d$の直方体Cを用意する。$H$は大気圧$P_{\rm A}$と等価な水柱の高さである。水を入れない状態の水底Bに物体Cを押さえつけ,ここから水を$h$まで満たすと物体の底面と水底Bの間に厚さ$b$の空気層が残ったとする。
初期状態では空気層の厚さは$b=b_i \ll d$であり,その面積は物体の底面積$A$と一致している。このときの張力は$T_i=0$である。空気層の気圧の初期値$P_i$は水底の水圧$P_{\rm B}$と等しいとする。
次に張力$T$で物体を持ち上げると空気層の部分に徐々に水が浸入すると同時に空気層の
厚みは増加し,$T=T_f$で最終的に離床するときの厚さは$b=b_0 \ll d$となったとする。
①:薄い空気層が存在するモデル
水の浸入する割合 $f(P)$ が,水中の空気層の圧力$P$に比例するというモデルを考える。初期状態では,$f(P_i)=f_i=0$であり水は浸入しない。圧力が減るとともに浸入の割合は線型に増加し,離床時は $f(P_f)=f_0$となるとして,次式を仮定する。
\begin{equation}
f(P) = \dfrac{P-P_i}{P_f-P_i}f_0
\end{equation}
空気層の厚さは物体の高さにくらべて十分に小さいと近似する。すなわち物体が空気層をはさんで着底してから張力$T$を加えて持ち上げる過程で,物体の上面の水圧$P_C$や物体の下面の水圧$P_B$はそれぞれ,有効水深$H+h-d$や$H+h$の水圧のままであるとする。このとき水圧の式は次のようになる。
\begin{equation}
\begin{aligned}
P_{\rm A} &= \rho g H\\
P_{\rm C} &= \rho g (H+h-d)\\
P_{\rm B} &= \rho g (H+d)\\
P_i &= P_C + m g /A\\
P_f &= \dfrac{b_i}{b_0 (1-f_0)}\ P_i = \beta / \bar{f} \cdot P_i
\end{aligned}
\end{equation}
ただし,$b_i/b_0=\beta,\ \bar{f}=1-f_0$とした。
初期状態では次の力の釣り合いの式が成り立っている。
\begin{equation}
T_i = m g + P_{\rm C} A - P_i A = 0
\end{equation}
離床状態では次の力の釣り合いの式が成り立っている。
\begin{equation}
\begin{aligned}
T_f &= m g + P_{\rm C} A - P_B A f_0 - P_f A (1-f_0)\\
&= m g + \rho g (H+h-d) A - \rho g (H+h) A f_0 \\
&- \Bigl\{ m g + \rho g (H+h-d) A \Bigr\}\beta
\end{aligned}
\end{equation}
両辺を$\rho g d A = m_0 g$で割り,$t_f = T_f/ m_0 g$と置くと,
\begin{equation}
\begin{aligned}
t_f &= \dfrac{\rho_m}{\rho} -1 + \dfrac{H+h}{d}\bar{f}
-\Bigl( \dfrac{\rho_m}{\rho} -1 + \dfrac{H+h}{d} \Bigr) \beta \\
&= \Bigl(\dfrac{\rho_m}{\rho} -1 \Bigr) (1-\beta)+
\dfrac{H+h}{d}(\bar{f} - \beta)
\end{aligned}
\end{equation}
②:数値的な評価の例
物体Cを密度$\rho_m = 0.5$で一辺が10cm の立方体とする。立方体の質量は 500 g である。
大気圧に等価な水の深さは$H$=1000cmであり,水深を$d$=100cmとする。$m_0 g$ = 1 kgwなので,次の式の単位はkgwである。離床時張力$t_f$は,空気層の体積拡大率の逆数$\beta$と浸水していない部分の比率$\bar{f}$の関数$t_f(\bar{f},\beta)$として表される。
ただし,$0 < \bar{f},\ \beta < 1$ である。
(1) $f_0=0\ (\bar{f}=1)$,離床時の浸水がない場合
\begin{equation}
\begin{aligned}
t_f(1, \beta) = -0.5 ( 1 - \beta) + 110 (1-\beta)\\
0 < \beta < 1 \quad \to \quad 109.5 > t_f > 0
\end{aligned}
\end{equation}
(2) $f_0=0.5\ (\bar{f}=0.5)$,離床時に50%は浸水している場合
\begin{equation}
\begin{aligned}
t_f(0.5, \beta) = -0.5 ( 1 - \beta) + 110 (0.5-\beta)\\
0 < \beta < 0.4977 \quad \to \quad 54.5 > t_f > 0
\end{aligned}
\end{equation}
(3) $f_0=0.9\ (\bar{f}=0.1)$,離床時に90%は浸水している場合
\begin{equation}
\begin{aligned}
t_f(0.1, \beta) = -0.5 ( 1 - \beta) + 110 (0.1-\beta)\\
0 < \beta < 0.0959 \quad \to \quad 10.5 > t_f > 0
\end{aligned}
\end{equation}
板倉さんや夏目さんの実験などでは乾いた容器に密度が水より小さな物体を押し付けた状態でまわりに流体をそそぎ,その後,手を離しても浮上しない状態が維持される。これに松川さんが噛みついた訳だった。単純な表面張力で説明できるかというと,浮力の問題(4)で示したように効果が小さすぎるように思える。そこで薄い空気層があるために浮上を妨げるということがありうるか考えてみる。
場面設定
場面設定1の環境において,質量$m$,底面積$A$,高さ$d$の直方体Cを用意する。$H$は大気圧$P_{\rm A}$と等価な水柱の高さである。水を入れない状態の水底Bに物体Cを押さえつけ,ここから水を$h$まで満たすと物体の底面と水底Bの間に厚さ$b$の空気層が残ったとする。
初期状態では空気層の厚さは$b=b_i \ll d$であり,その面積は物体の底面積$A$と一致している。このときの張力は$T_i=0$である。空気層の気圧の初期値$P_i$は水底の水圧$P_{\rm B}$と等しいとする。
次に張力$T$で物体を持ち上げると空気層の部分に徐々に水が浸入すると同時に空気層の
厚みは増加し,$T=T_f$で最終的に離床するときの厚さは$b=b_0 \ll d$となったとする。
図 水中の物体に働く圧力と力(その2)
①:薄い空気層が存在するモデル
水の浸入する割合 $f(P)$ が,水中の空気層の圧力$P$に比例するというモデルを考える。初期状態では,$f(P_i)=f_i=0$であり水は浸入しない。圧力が減るとともに浸入の割合は線型に増加し,離床時は $f(P_f)=f_0$となるとして,次式を仮定する。
\begin{equation}
f(P) = \dfrac{P-P_i}{P_f-P_i}f_0
\end{equation}
空気層の厚さは物体の高さにくらべて十分に小さいと近似する。すなわち物体が空気層をはさんで着底してから張力$T$を加えて持ち上げる過程で,物体の上面の水圧$P_C$や物体の下面の水圧$P_B$はそれぞれ,有効水深$H+h-d$や$H+h$の水圧のままであるとする。このとき水圧の式は次のようになる。
\begin{equation}
\begin{aligned}
P_{\rm A} &= \rho g H\\
P_{\rm C} &= \rho g (H+h-d)\\
P_{\rm B} &= \rho g (H+d)\\
P_i &= P_C + m g /A\\
P_f &= \dfrac{b_i}{b_0 (1-f_0)}\ P_i = \beta / \bar{f} \cdot P_i
\end{aligned}
\end{equation}
ただし,$b_i/b_0=\beta,\ \bar{f}=1-f_0$とした。
初期状態では次の力の釣り合いの式が成り立っている。
\begin{equation}
T_i = m g + P_{\rm C} A - P_i A = 0
\end{equation}
離床状態では次の力の釣り合いの式が成り立っている。
\begin{equation}
\begin{aligned}
T_f &= m g + P_{\rm C} A - P_B A f_0 - P_f A (1-f_0)\\
&= m g + \rho g (H+h-d) A - \rho g (H+h) A f_0 \\
&- \Bigl\{ m g + \rho g (H+h-d) A \Bigr\}\beta
\end{aligned}
\end{equation}
両辺を$\rho g d A = m_0 g$で割り,$t_f = T_f/ m_0 g$と置くと,
\begin{equation}
\begin{aligned}
t_f &= \dfrac{\rho_m}{\rho} -1 + \dfrac{H+h}{d}\bar{f}
-\Bigl( \dfrac{\rho_m}{\rho} -1 + \dfrac{H+h}{d} \Bigr) \beta \\
&= \Bigl(\dfrac{\rho_m}{\rho} -1 \Bigr) (1-\beta)+
\dfrac{H+h}{d}(\bar{f} - \beta)
\end{aligned}
\end{equation}
②:数値的な評価の例
物体Cを密度$\rho_m = 0.5$で一辺が10cm の立方体とする。立方体の質量は 500 g である。
大気圧に等価な水の深さは$H$=1000cmであり,水深を$d$=100cmとする。$m_0 g$ = 1 kgwなので,次の式の単位はkgwである。離床時張力$t_f$は,空気層の体積拡大率の逆数$\beta$と浸水していない部分の比率$\bar{f}$の関数$t_f(\bar{f},\beta)$として表される。
ただし,$0 < \bar{f},\ \beta < 1$ である。
(1) $f_0=0\ (\bar{f}=1)$,離床時の浸水がない場合
\begin{equation}
\begin{aligned}
t_f(1, \beta) = -0.5 ( 1 - \beta) + 110 (1-\beta)\\
0 < \beta < 1 \quad \to \quad 109.5 > t_f > 0
\end{aligned}
\end{equation}
(2) $f_0=0.5\ (\bar{f}=0.5)$,離床時に50%は浸水している場合
\begin{equation}
\begin{aligned}
t_f(0.5, \beta) = -0.5 ( 1 - \beta) + 110 (0.5-\beta)\\
0 < \beta < 0.4977 \quad \to \quad 54.5 > t_f > 0
\end{aligned}
\end{equation}
(3) $f_0=0.9\ (\bar{f}=0.1)$,離床時に90%は浸水している場合
\begin{equation}
\begin{aligned}
t_f(0.1, \beta) = -0.5 ( 1 - \beta) + 110 (0.1-\beta)\\
0 < \beta < 0.0959 \quad \to \quad 10.5 > t_f > 0
\end{aligned}
\end{equation}
2019年12月24日火曜日
浮力の問題(6)
浮力の問題(5)から少しだけ話を進めてみよう。
最も気になっているのが,いわゆる「浮力の消失」現象の実験の説明である。浮力の問題(3)で紹介した,浜名湖観光局のアルキメデスの原理:浮力の正体の一考察では,水底に着底した物体を吊り上げる際の張力を静止摩擦力とのアナロジーで議論していた。そこで,離床の際の張力を与えることができる簡単なモデルを作ってみた。
場面設定
一様重力場における重力加速度を$g$,水の密度を$\rho$とする。大気の密度を$\rho_0$,大気の有効高さを$H_{\rm eff}$として,大気底での空気の圧力は$p_0=\rho_0 g H_{\rm eff}$となる。さらに,これに等価な水柱の高さを$H$とすると,$p_0=\rho H$と表される。底面が水平で滑らかな十分広い容器に水底からの高さ$h$まで密度$\rho$の水を満たす。水表面をA,水底面をBとする。
質量$m$,底面積$A$,高さ$d$の直方体の物体Cを用意する。Cの密度を,$\rho_m= \frac{m}{A d}$と書くことにする。Cの底面は滑らかであるが,水中で水底面と密着させた場合,$f \cdot A$の面積の部分に水がしみ込んで,水底と同じだけの水圧が鉛直上方に働く。水がしみ込む面積の底面積に対する比率$f$は,$0 \le f \le 1$を満足している。なお物体が押しのけた水の重さは$m_0 g = \rho A d g$である。
この物体が水底に接地しているときには,図のような力が働いている。$p_A=p_0=\rho g H$は,水表面Aにおける大気圧,$p_C= \rho g H + \rho g (h-d)$は物体Cの上面における水圧(大気を含む),$p_B = \rho g H + \rho g h$は水底面Bにおける水圧を表している。
物体には,水圧からくる浮力以外に重力 $m g$ と,物体Cの上面には糸からくる張力$T$,物体の底面のうち水がしみ込まない$(1-f)A$の面積の部分に加わる底面からの抗力$R$,これ以外の粘着力や表面張力などの和$X$が働いている。なお,$T,R,X$を$m_0 g$を単位として測った無次元量を$t=T/m_0 g,\ r= R/m_0 g,\ x=X/m_0 g$と表すことにする。
①:Cの釣り合い
物体Cに働く力の釣り合いの式は次のようになる。
\begin{equation}
mg + P_C A - P_B f A +X -R -T = 0
\end{equation}
物体Cの上下面の圧力から来る力の和は,
\begin{equation}
\begin{aligned}
P_C A - P_B f A &= \rho g (H+h-d) A -\rho g (H+h) f A \\
&= \rho g d A \Bigl(\dfrac{H+h}{d} - 1 - \dfrac{H+h}{d} f \Bigr)\\
&= m_0 g \Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f) - 1 \Bigr\}
\end{aligned}
\end{equation}
両辺を $m_0 g$で割った力の釣り合いの式は,
\begin{equation}
\dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f) - 1 \Bigr\} +x -r -t = 0
\end{equation}
つまり,これは抗力$r$と張力$t$の和に対しての条件式と見なすことができる。
\begin{equation}
r + t = \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f) - 1 \Bigr\} +x
\end{equation}
抗力が$r=0$となるときの張力$t_0$の値は次式で与えられる。
\begin{equation}
t_0 = \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f) - 1 \Bigr\} +x
\end{equation}
さらに張力を加えて抗力が$r=0$のときに隙間がすべて流体で満たされるとする。このときには$f=1$となり,その張力を$t_1$とすると,
\begin{equation}
t_1 = \dfrac{\rho_m}{\rho} - 1 + x
\end{equation}
あるいは,完全に離床してしまえば付加的な力も働かないので,その場合の張力を$t_2$とすると,
\begin{equation}
t_2 = \dfrac{\rho_m}{\rho} - 1
\end{equation}
ただし,これらの式において張力が0または負になるときは,物体が浮き上がる条件が
満たされていることになる。
②:真の接触面積が抗力に比例するモデル
静止摩擦力と垂直抗力の関係において,最大静止摩擦力は物体と運動面の見かけの接触面積には比例せず,垂直抗力に比例していた。これは,物体と運動面の真の接触面積が垂直抗力に比例することを含意する。そこで,これを参考にして次のようなモデルを考える。
水が底面間の隙間にしみ込む面積の比率$f$が抗力$r$の1次関数$f(r)$であると仮定し,$t=0$の場合の初期状態の$r=r_0$で$f(r_0)=f_i$,離床条件である$r=0$の場合$t=t_0$で$f(0)=f_0$($0 \le f_i < f_0 \le 1$)となるように決めることにする。
すなわち,
\begin{equation}
\begin{aligned}
t_0 &= \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f_0) - 1 \Bigr\} +x \\
r_0 &= \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f_i) - 1 \Bigr\} +x
\end{aligned}
\end{equation}
そこで,①の$f$を$f(r)=f_0 + (f_i-f_0)\frac{r}{r_0}$で置き換えればよい。
\begin{equation}
\begin{aligned}
r + t &= \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f(r)) - 1 \Bigr\} +x \\
r + t &= \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f_0 -(f_i-f_0)\dfrac{r}{r_0})
- 1 \Bigr\} +x \\
t_0 &= \Bigl\{ r_0 + \dfrac{H+h}{d}(f_i-f_0) \Bigr\} \dfrac{r}{r_0} + t
\end{aligned}
\end{equation}
これを整理すると次のような式にまとめることができる。
\begin{equation}
t = t_0\Bigl(1-\dfrac{r}{r_0}\Bigr) \quad \quad r = r_0 \Bigl( 1 - \dfrac{t}{t_0}\Bigr)
\end{equation}
③:数値的な評価の例
物体Cを密度$\rho_m = 0.5$で一辺が10cm の立方体とする。立方体の質量は 500 g である。
大気圧に等価な水の深さは$H$=1000cmであり,水深を$d$=100cmとする。$m_0 g$ = 1 kgwなので,次の式の単位はkgwである。
\begin{equation}
t_0 = \dfrac{\rho_m}{\rho} +110\cdot(1-f_0) - 1 + x
= 110\cdot(1-f_0) -0.5 + x
\end{equation}
これが水がしみ込む面積が抗力に比例するモデルにおいて物体を持ち上げるのに必要な力
をkgw単位で表現した例である。$x$として立方体の底面の周囲に働く水の表面張力を当てはめてみると,$x = 73\ {\rm dyne/cm} \cdot 40\ {\rm cm} \cdot 10^2/10^5 \ {\rm gw/dyne}\ /\ 1\ {\rm kgw} = 2.9 \times 10^{-3}$程度の寄与しかない。
最も気になっているのが,いわゆる「浮力の消失」現象の実験の説明である。浮力の問題(3)で紹介した,浜名湖観光局のアルキメデスの原理:浮力の正体の一考察では,水底に着底した物体を吊り上げる際の張力を静止摩擦力とのアナロジーで議論していた。そこで,離床の際の張力を与えることができる簡単なモデルを作ってみた。
場面設定
一様重力場における重力加速度を$g$,水の密度を$\rho$とする。大気の密度を$\rho_0$,大気の有効高さを$H_{\rm eff}$として,大気底での空気の圧力は$p_0=\rho_0 g H_{\rm eff}$となる。さらに,これに等価な水柱の高さを$H$とすると,$p_0=\rho H$と表される。底面が水平で滑らかな十分広い容器に水底からの高さ$h$まで密度$\rho$の水を満たす。水表面をA,水底面をBとする。
質量$m$,底面積$A$,高さ$d$の直方体の物体Cを用意する。Cの密度を,$\rho_m= \frac{m}{A d}$と書くことにする。Cの底面は滑らかであるが,水中で水底面と密着させた場合,$f \cdot A$の面積の部分に水がしみ込んで,水底と同じだけの水圧が鉛直上方に働く。水がしみ込む面積の底面積に対する比率$f$は,$0 \le f \le 1$を満足している。なお物体が押しのけた水の重さは$m_0 g = \rho A d g$である。
この物体が水底に接地しているときには,図のような力が働いている。$p_A=p_0=\rho g H$は,水表面Aにおける大気圧,$p_C= \rho g H + \rho g (h-d)$は物体Cの上面における水圧(大気を含む),$p_B = \rho g H + \rho g h$は水底面Bにおける水圧を表している。
物体には,水圧からくる浮力以外に重力 $m g$ と,物体Cの上面には糸からくる張力$T$,物体の底面のうち水がしみ込まない$(1-f)A$の面積の部分に加わる底面からの抗力$R$,これ以外の粘着力や表面張力などの和$X$が働いている。なお,$T,R,X$を$m_0 g$を単位として測った無次元量を$t=T/m_0 g,\ r= R/m_0 g,\ x=X/m_0 g$と表すことにする。
図 水中の物体に働く圧力と力
物体Cに働く力の釣り合いの式は次のようになる。
\begin{equation}
mg + P_C A - P_B f A +X -R -T = 0
\end{equation}
物体Cの上下面の圧力から来る力の和は,
\begin{equation}
\begin{aligned}
P_C A - P_B f A &= \rho g (H+h-d) A -\rho g (H+h) f A \\
&= \rho g d A \Bigl(\dfrac{H+h}{d} - 1 - \dfrac{H+h}{d} f \Bigr)\\
&= m_0 g \Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f) - 1 \Bigr\}
\end{aligned}
\end{equation}
両辺を $m_0 g$で割った力の釣り合いの式は,
\begin{equation}
\dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f) - 1 \Bigr\} +x -r -t = 0
\end{equation}
つまり,これは抗力$r$と張力$t$の和に対しての条件式と見なすことができる。
\begin{equation}
r + t = \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f) - 1 \Bigr\} +x
\end{equation}
抗力が$r=0$となるときの張力$t_0$の値は次式で与えられる。
\begin{equation}
t_0 = \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f) - 1 \Bigr\} +x
\end{equation}
さらに張力を加えて抗力が$r=0$のときに隙間がすべて流体で満たされるとする。このときには$f=1$となり,その張力を$t_1$とすると,
\begin{equation}
t_1 = \dfrac{\rho_m}{\rho} - 1 + x
\end{equation}
あるいは,完全に離床してしまえば付加的な力も働かないので,その場合の張力を$t_2$とすると,
\begin{equation}
t_2 = \dfrac{\rho_m}{\rho} - 1
\end{equation}
ただし,これらの式において張力が0または負になるときは,物体が浮き上がる条件が
満たされていることになる。
②:真の接触面積が抗力に比例するモデル
静止摩擦力と垂直抗力の関係において,最大静止摩擦力は物体と運動面の見かけの接触面積には比例せず,垂直抗力に比例していた。これは,物体と運動面の真の接触面積が垂直抗力に比例することを含意する。そこで,これを参考にして次のようなモデルを考える。
水が底面間の隙間にしみ込む面積の比率$f$が抗力$r$の1次関数$f(r)$であると仮定し,$t=0$の場合の初期状態の$r=r_0$で$f(r_0)=f_i$,離床条件である$r=0$の場合$t=t_0$で$f(0)=f_0$($0 \le f_i < f_0 \le 1$)となるように決めることにする。
すなわち,
\begin{equation}
\begin{aligned}
t_0 &= \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f_0) - 1 \Bigr\} +x \\
r_0 &= \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f_i) - 1 \Bigr\} +x
\end{aligned}
\end{equation}
そこで,①の$f$を$f(r)=f_0 + (f_i-f_0)\frac{r}{r_0}$で置き換えればよい。
\begin{equation}
\begin{aligned}
r + t &= \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f(r)) - 1 \Bigr\} +x \\
r + t &= \dfrac{\rho_m}{\rho} +\Bigl\{\dfrac{H+h}{d}(1-f_0 -(f_i-f_0)\dfrac{r}{r_0})
- 1 \Bigr\} +x \\
t_0 &= \Bigl\{ r_0 + \dfrac{H+h}{d}(f_i-f_0) \Bigr\} \dfrac{r}{r_0} + t
\end{aligned}
\end{equation}
これを整理すると次のような式にまとめることができる。
\begin{equation}
t = t_0\Bigl(1-\dfrac{r}{r_0}\Bigr) \quad \quad r = r_0 \Bigl( 1 - \dfrac{t}{t_0}\Bigr)
\end{equation}
③:数値的な評価の例
物体Cを密度$\rho_m = 0.5$で一辺が10cm の立方体とする。立方体の質量は 500 g である。
大気圧に等価な水の深さは$H$=1000cmであり,水深を$d$=100cmとする。$m_0 g$ = 1 kgwなので,次の式の単位はkgwである。
\begin{equation}
t_0 = \dfrac{\rho_m}{\rho} +110\cdot(1-f_0) - 1 + x
= 110\cdot(1-f_0) -0.5 + x
\end{equation}
これが水がしみ込む面積が抗力に比例するモデルにおいて物体を持ち上げるのに必要な力
をkgw単位で表現した例である。$x$として立方体の底面の周囲に働く水の表面張力を当てはめてみると,$x = 73\ {\rm dyne/cm} \cdot 40\ {\rm cm} \cdot 10^2/10^5 \ {\rm gw/dyne}\ /\ 1\ {\rm kgw} = 2.9 \times 10^{-3}$程度の寄与しかない。
2019年12月23日月曜日
浮力の問題(5)
浮力の問題(4)まで進んできたが,浮力についての現段階での自分の考えをまとめてみる。
(1) 浮力の定義
一様重力場中の流体Fと境界を接する物体に働く力を考える。物体の表面のうち流体と直に接する部分の面Sに作用する流体の圧力をSに渡って積分する。この積分によって得られた力を流体Fによって物体に作用する浮力とよぶ。
(浮力の向きが鉛直上方でない場合も含めて浮力とよぶことに注意)
(2) 水底に置いた物体の思考実験
底面が平な物体が流体の入れ物の水平な底面(水底面)におかれ,流体がしみ込まずに水底に真に接する部分があれば,浮力の向きが鉛直下方の場合がある。
(3) 「浮力の消失」の現象の実験
水底面に接地する物体の密度が流体より小さくても水底から浮かび上がらない現象を「浮力の消失」とよぶことがある。ただし,(1)の定義によれば浮力は消失していない。
(水銀中の分銅,水中のパラフィン底面の木片,水中の超撥水材底面の木片,底面の一部をくりぬき接地しない構造を持つ木片,の報告あり)
(4) 「浮力の消失」現象の説明
実際に観察される「浮力の消失」現象の主な原因には2つの立場がある。自分は(a)の場合もあるのではないかと考えているが明確な証拠がない。
(a) (2)の鉛直下向きの浮力が主に寄与する。
(b) 流体を排除する部分の面積は非常に小さくて(2)は無視でき,表面張力や物体底面と水底面の粘着力などが主に寄与する。
(流体の排除には完全な平面の密着が必要という考えは誤っている→超撥水材)
(表面張力説について定量的に議論している資料は見あたらない)
(5) 水中の物体の重さ
物体をのせない場合を目盛を0に合わせた水中の秤ではかることで定義する。このとき,水中の物体の重さは空気中の重さに比べて物体が排除した水の体積分だけ軽くなる。これは物体の底面積と,秤との隙間に流体がしみこまない真の接地面積との比によらない。
追伸(12/27/2019)
水中の物体の重さを測るのに,物体を吊るした糸の張力ではかるばね秤法と容器の水底に置いた秤ではかる水底秤法が考えられる。有限サイズの容器に底面積A,高さd,質量mの直方体を水中に入れて測定する。容器に物体をいれると水面の高さがδだけ高くなった。なお,水底秤は物体を入れる前に0に調整してあり,体積Adの水の質量をm_0とする。
それぞれの方法で測った水中の物体の重さをm'gとすると以下の結果が得られる。
水底秤法では m’g = (m-m_0)g + ρδA g
ばね秤法では m’g = (m-m_0)g
これを解釈するのに2つの立場がある。
(a) Graf はδ=0としているがこれはアルキメデスの原理に合わせるための恣意的な操作だ。
(b) δは容器のサイズに依存する境界効果であり本質的でない。
(Grafが十分広い容器を考えてδ=0としたのは自然な操作である)
((a)説の人々排除した水にこだわるのがよくわからない。下図ではだめなのかしら。)
追伸(12/27/2019)
水中の物体の重さを測るのに,物体を吊るした糸の張力ではかるばね秤法と容器の水底に置いた秤ではかる水底秤法が考えられる。有限サイズの容器に底面積A,高さd,質量mの直方体を水中に入れて測定する。容器に物体をいれると水面の高さがδだけ高くなった。なお,水底秤は物体を入れる前に0に調整してあり,体積Adの水の質量をm_0とする。
それぞれの方法で測った水中の物体の重さをm'gとすると以下の結果が得られる。
水底秤法では m’g = (m-m_0)g + ρδA g
ばね秤法では m’g = (m-m_0)g
これを解釈するのに2つの立場がある。
(a) Graf はδ=0としているがこれはアルキメデスの原理に合わせるための恣意的な操作だ。
(b) δは容器のサイズに依存する境界効果であり本質的でない。
(Grafが十分広い容器を考えてδ=0としたのは自然な操作である)
((a)説の人々排除した水にこだわるのがよくわからない。下図ではだめなのかしら。)
図 Graf説の説明図
P. Mohazzabi: Archimedes’ Principle Revisited
Journal of Applied Mathematics and Physics Vol.05 No.04 836-843 (2017)
https://www.scirp.org/pdf/JAMP_2017042713382000.pdf
2019年12月22日日曜日
浮力の問題(4)
浮力の問題は(3)まで進んだ。山賀さんの理科と教育のメーリングリスト(new_rikakyouiku@s-yamaga.jp)で浮力の議論が続いている。表面張力について少し考えて投稿したのでその趣旨をメモしておく。
松川さんが板倉さんを批判して表面張力説を主張しているがあまりしっくりこない。ただ,まったく関係ないわけでもないのだろう。
例えば 5 cm × 5 cm × 5 cm の物体の周囲は 20 cm であり,この物体を接地させた状態でまわりに水を注ぐと接地面の周囲に表面張力が働く。水の表面張力の大きさは 73 dyne/cm だ。つまり 20 cm ならば 1460 dyne の表面張力が物体にほぼ下向きに(角度はわからないが)働く。つまり,1460 dyne ≒ 0.015 N ≒1.5 gwのオーダーである。効果としては小さいのではないかと思うが,実験してみないわからない。
あるいは,水銀とステンレスの分銅の場合だ。100gのステンレス製の分銅が手元にないので,アマゾンのページをにらんで,直径 2.4 cm,高さ 2.8cm くらいかと想像した。このとき,接地面の円周は 8 cm 弱である。水銀の表面張力は非常に大きく 480 dyne/cm もある。つまり,分銅の接地面の周囲に働く表面張力は,3840 dyne ≒ 0.038N ≒ 3.8 gw である。これも小さいなあ。分銅の体積は 100g ÷ 7.8 g/cm^3 ≒ 13 cm^3 なので,浮力は 13.6 g/cm^3 × 13 cm^3 = 177 gw だからどうなんだろう。
松川さんが板倉さんを批判して表面張力説を主張しているがあまりしっくりこない。ただ,まったく関係ないわけでもないのだろう。
例えば 5 cm × 5 cm × 5 cm の物体の周囲は 20 cm であり,この物体を接地させた状態でまわりに水を注ぐと接地面の周囲に表面張力が働く。水の表面張力の大きさは 73 dyne/cm だ。つまり 20 cm ならば 1460 dyne の表面張力が物体にほぼ下向きに(角度はわからないが)働く。つまり,1460 dyne ≒ 0.015 N ≒1.5 gwのオーダーである。効果としては小さいのではないかと思うが,実験してみないわからない。
あるいは,水銀とステンレスの分銅の場合だ。100gのステンレス製の分銅が手元にないので,アマゾンのページをにらんで,直径 2.4 cm,高さ 2.8cm くらいかと想像した。このとき,接地面の円周は 8 cm 弱である。水銀の表面張力は非常に大きく 480 dyne/cm もある。つまり,分銅の接地面の周囲に働く表面張力は,3840 dyne ≒ 0.038N ≒ 3.8 gw である。これも小さいなあ。分銅の体積は 100g ÷ 7.8 g/cm^3 ≒ 13 cm^3 なので,浮力は 13.6 g/cm^3 × 13 cm^3 = 177 gw だからどうなんだろう。
2019年12月21日土曜日
浮力の問題(3)
浮力の問題(2)では,皿の面に接地していることが皿面までの深さの水底の接地と同等とみなせるとした。和田さんから指摘されたとおりで,ここはやはりギャップがあった。実際の水底(水底でなくて水中の固定台上でもよいが)に置かれた物体についてはこの天秤操作ができないので,これはやはり上から吊るして張力で測定するしかない。
なお,物体の水中での重さの定義について,排除した水の重さを無視しているという指摘があった。有限サイズの容器では確かに問題になるが,物理では普通はそれは境界効果として排除し,広々とした空間で定義したいところである。
また,この定義では水底の秤とその直上の物体の間に未知の力が働いていてもこれを分離できないという説があるような気がしたが,その力が作用反作用の法則を満たす限り,秤には物体と水柱の重さの合計が加わるだけである。大気の重さを考慮しても測定対象と基準で同じとなるのでそれらは打ち消し合う。
問題と複数の解答を整理してみる。
◎超撥水材を貼り付けた軽い木片や水銀中の分銅の着底現象,海中の構築物にかかる力
などをどう考えればよいだろうか。
◎水中の物体の重さはつねにアルキメデスの原理に従うか?
・「物体上部の水柱の重さ+物体の重さ」−「物体がないときの底からの水柱の重さ」
を水柱の物体の重さとして定義すると,それは浮力と同じ大きさだけ軽くなる。
・有限サイズの容器では,排除した水の重さのために上記は成り立たない。
・あらかじめアルキメデスの原理にあうように恣意的な設定になっている。
◎水底面に置かれた物体には浮力が働くのか?
・アルキメデスの原理の公式があるので常に浮力が働く→多くの物理屋は反対
・物体と底面の間は完全には平坦にできず絶対に水がしみ込むので常に浮力が働く
・表面張力や分子間力のために浮力の消失にみえる現象が生じているだけである
・水がしみ込まない部分があり浮力はアルキメデスの原理のとおり働いていない
問題の整理はまだ不十分であった・・・orz
P. S. Mohazzabi がGrafの説をより簡単に説明していた。Limaの理論と実験がおもしろい。
[1]Archimedes, On the Floating Bodies I and selections from II
[2]アルキメデスの原理:浮力の正体の一考察(浜名湖観光局)
[3]Reconsidering Archimedes' Principle(Bierman, Kincanon 2003)
[4]Just What Did Archimedes Say About Buoyancy? (Graf 2004)
[5]Using Surface Integrals for Checking the Archimedes' Law of Buoyancy (Lima 2011)
[6]A Downward Buoyant Force Experiment (Lima, Venceslau, Brasill 2016)[7]Archimedes' Princile Revisited(Mohazzabi 2017)
なお,物体の水中での重さの定義について,排除した水の重さを無視しているという指摘があった。有限サイズの容器では確かに問題になるが,物理では普通はそれは境界効果として排除し,広々とした空間で定義したいところである。
また,この定義では水底の秤とその直上の物体の間に未知の力が働いていてもこれを分離できないという説があるような気がしたが,その力が作用反作用の法則を満たす限り,秤には物体と水柱の重さの合計が加わるだけである。大気の重さを考慮しても測定対象と基準で同じとなるのでそれらは打ち消し合う。
問題と複数の解答を整理してみる。
◎超撥水材を貼り付けた軽い木片や水銀中の分銅の着底現象,海中の構築物にかかる力
などをどう考えればよいだろうか。
◎水中の物体の重さはつねにアルキメデスの原理に従うか?
・「物体上部の水柱の重さ+物体の重さ」−「物体がないときの底からの水柱の重さ」
を水柱の物体の重さとして定義すると,それは浮力と同じ大きさだけ軽くなる。
・有限サイズの容器では,排除した水の重さのために上記は成り立たない。
・あらかじめアルキメデスの原理にあうように恣意的な設定になっている。
・アルキメデスの原理の公式があるので常に浮力が働く→多くの物理屋は反対
・物体と底面の間は完全には平坦にできず絶対に水がしみ込むので常に浮力が働く
・表面張力や分子間力のために浮力の消失にみえる現象が生じているだけである
・水がしみ込まない部分があり浮力はアルキメデスの原理のとおり働いていない
問題の整理はまだ不十分であった・・・orz
P. S. Mohazzabi がGrafの説をより簡単に説明していた。Limaの理論と実験がおもしろい。
[1]Archimedes, On the Floating Bodies I and selections from II
[2]アルキメデスの原理:浮力の正体の一考察(浜名湖観光局)
[3]Reconsidering Archimedes' Principle(Bierman, Kincanon 2003)
[4]Just What Did Archimedes Say About Buoyancy? (Graf 2004)
[5]Using Surface Integrals for Checking the Archimedes' Law of Buoyancy (Lima 2011)
[6]A Downward Buoyant Force Experiment (Lima, Venceslau, Brasill 2016)[7]Archimedes' Princile Revisited(Mohazzabi 2017)
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